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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-16
(45)【発行日】2024-04-24
(54)【発明の名称】中皮腫の診断補助方法及び診断用キット
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6886 20180101AFI20240417BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20240417BHJP
【FI】
C12Q1/6886 Z ZNA
C12N15/11 Z
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019202767
(22)【出願日】2019-11-07
(65)【公開番号】P2021073893
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】506087705
【氏名又は名称】学校法人産業医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100199923
【弁理士】
【氏名又は名称】嶽小原 幸
(72)【発明者】
【氏名】和泉 弘人
【審査官】中野 あい
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/139810(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/004436(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/171048(WO,A1)
【文献】Frontiers in Oncology,vol.8, Article 650,2018年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00-1/70
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
胸膜中皮細胞が中皮腫細胞であるか決定するためのキットであって、hsa-miR-193a-5pを特異的に検出し得る核酸プローブ及び/又は核酸プライマー、hsa-miR-551b-5pを特異的に検出し得る核酸プローブ及び/又は核酸プライマー、hsa-miR-195-3pを特異的に検出し得る核酸プローブ及び/又は核酸プライマー、hsa-miR-3122を特異的に検出し得る核酸プローブ及び/又は核酸プライマー、hsa-miR-3180-5pを特異的に検出し得る核酸プローブ及び/又は核酸プライマー並びにhsa-miR-4771を特異的に検出し得る核酸プローブ及び/又は核酸プライマーからなる群から選択される1以上の核酸プローブ及び/又は核酸プライマーを含み、該核酸プローブ及び/又は核酸プライマーの少なくとも1つはhsa-miR-193a-5pを特異的に検出し得る核酸プローブ及び/又は核酸プライマーであり、該中皮細胞の培養上清から得られたエクソソーム中の前記miRNAを検出するのに使用される、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中皮腫の診断を補助する方法及び診断用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
中皮腫(悪性中皮腫)は、胸腔や腹腔の表面を覆う中皮由来の腫瘍である。中皮腫は、その発生部位によって胸膜中皮腫、腹膜中皮腫、心膜中皮腫等に分類される。胸膜中皮腫の原因は、アスベスト(石綿)の吸入であることが多い。アスベストは、耐熱性、耐摩耗性等に優れ、かつ加工が容易で安価であるため、日本では1970年代から1990年代に建材、摩擦材、断熱材等をはじめ、様々な用途に用いられていた。通常、胸膜中皮腫はアスベスト暴露から約20~40年後に発症するため、胸膜中皮腫の患者は今後増加すると考えられている。
【0003】
胸膜中皮腫の患者の多くは、初期段階での自覚症状が無いため、胸膜中皮腫を早期に発見することは難しい。胸膜中皮腫が疑われる患者には胸水が貯留することが多いため、胸水を用いた検査が行われる。しかし、胸水から胸膜中皮腫細胞が検出されることは少なく、その場合は、腫瘍マーカーであるヒアルロン酸やCYFRが検査されるが、これらの腫瘍マーカーは、胸膜中皮腫との因果関係が明確ではなく、特異性が高いとはいえない。
【0004】
近年、バイオマーカーとしてのmiRNA(マイクロRNA)の利用が研究されている。胸膜中皮腫に関しても、患者由来の血液や組織から得られたmiRNAの解析が多数報告されている(非特許文献1~5)。しかしながら、hsa-miR-193a-5p、hsa-miR-551b-5p、hsa-miR-195-3p、hsa-miR-3122、hsa-miR-3180-5p及びhsa-miR-4771の6種のmiRNAが中皮腫の診断マーカーとなり得ることは、これまで全く知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Birnie K. A. et al., Oncotarget 8(44): 78193-78207, 2017 (PMID:29100460)
【文献】Martinez-Rivera V. et al., International Journal of Molecular Sciences 19(2), 2018 (PMID:29462963)
【文献】Bruno R. et al., Journal of Thoracic Disease 10(Suppl 2):S342-S352, 2018 (PMID:29507804)
【文献】Rossini M. et al., Frontiers in Oncology 8:91, 2018 (PMID:29666782)
【文献】Lo. Russo G. et al., Frontiers in Oncology 8:650, 2018 (PMID:30622932)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、確度の高い新規中皮腫マーカーを同定し、該マーカーを指標として、早期かつ正確に中皮腫を診断する手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、マイクロアレイを用いた網羅的解析により、悪性胸膜中皮腫(以下、「MPM」ともいう。)細胞から分泌されたエクソソームでは検出されるが、正常胸膜中皮細胞内及び正常胸膜中皮細胞から分泌されたエクソソームでは検出されない6種の特定のmiRNAを見出した。さらに、定量的RT-PCR解析により、MPM細胞由来エクソソームと正常胸膜中皮細胞由来エクソソームとの間で、内包されるこれらのmiRNAレベルを比較した結果、当該miRNAレベルは、MPM細胞由来エクソソーム中で著明に上昇していることを確認し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1] 被験者から得られた、エクソソームを含む生体試料中の特定のmiRNAのレベルを測定することを含む、中皮腫の診断を補助する方法であって、該特定のmiRNAは、hsa-miR-193a-5p、hsa-miR-551b-5p、hsa-miR-195-3p、hsa-miR-3122、hsa-miR-3180-5p及びhsa-miR-4771からなる群から選択される少なくとも1つである、方法。
[2] miRNAが、hsa-miR-193a-5p、hsa-miR-551b-5p、hsa-miR-195-3p及びhsa-miR-3122からなる群から選択される少なくとも1つである、[1]に記載の方法。
[3] miRNAが、hsa-miR-193a-5p及び/又はhsa-miR-551b-5pである、[1]に記載の方法。
[4] 生体試料が体液である、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5] 体液が、血液、血清、血漿、胸水又は腹水である、請求項[4]に記載の方法。
[6] 中皮腫の診断用キットであって、hsa-miR-193a-5pを特異的に検出し得る核酸プローブ及び/又は核酸プライマー、hsa-miR-551b-5pを特異的に検出し得る核酸プローブ及び/又は核酸プライマー、hsa-miR-195-3pを特異的に検出し得る核酸プローブ及び/又は核酸プライマー、hsa-miR-3122を特異的に検出し得る核酸プローブ及び/又は核酸プライマー、hsa-miR-3180-5pを特異的に検出し得る核酸プローブ及び/又は核酸プライマー及びhsa-miR-4771を特異的に検出し得る核酸プローブ及び/又は核酸プライマーからなる群から選択される少なくとも1つの核酸プローブ及び/又は核酸プライマーを含む、キット。
[7] 中皮腫の診断及び治療方法であって、
(1)被験者から得られた、エクソソームを含む生体試料中の特定のmiRNAのレベルを測定すること、
(2)前記測定により該特定のmiRNAのレベルが、対照値と比較して高値であった場合に、該被験者は中皮腫に罹患している又は将来罹患する可能性が高いと判断すること、及び
(3)中皮腫に罹患している又は将来罹患する可能性が高いと判断された被験者に抗中皮腫療法を実施すること、
を含み、該特定のmiRNAは、hsa-miR-193a-5p、hsa-miR-551b-5p、hsa-miR-195-3p、hsa-miR-3122、hsa-miR-3180-5p及びhsa-miR-4771からなる群から選択される少なくとも1つである、方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、早期かつ正確に中皮腫の診断を可能にする検査方法、及びそのためのキットが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、FBSに由来するエクソソームの解析結果を示す。(A)220 nmフィルター及び50 nmフィルターに1 mLのFBSを連続して通した。2 mL PBSを逆流させることによって50 nmフィルターで捕捉された粒子を回収し、DLSで粒子サイズを解析した。(縦軸:強度(%)、横軸:粒径(d.nm))(B)50 nmフィルターを通過した溶液(フロースルー)をPBSで10倍希釈し、DLSで解析した。(縦軸:強度(%)、横軸:粒径(d.nm))(C)PBSを逆流させることによって回収された、50 nmフィルターで捕捉された粒子をTEMで観察した。(スケールバー:100nm)(D)FBS由来エクソソームを含む又は含まない培地を用いて、PC3細胞を増殖させた。24時間ごとに細胞数を求めた。独立した試験を3回行い、0時間の細胞数を1とした。(縦軸:相対細胞数、横軸:時間(hr)、●:FBS由来エクソソームを含む培地、■:FBS由来エクソソームを含まない培地、▲:FBSを含まない培地)
図2図2は、細胞培養液中のエクソソームの解析結果を示す。(A)220 nmフィルター及び50 nmフィルターに30 mLの培養上清を連続して通した。2 mL PBSを逆流させることによって50 nmフィルターで捕捉された粒子を回収し、DLSで粒子サイズを解析した。(縦軸:強度(%)、横軸:粒径(d.nm))(B)50 nmフィルターで捕捉された粒子をCHAPSバッファーで溶解し、SDS-PAGEに供し、EpCAM特異的抗体でEpCAMの発現を検出した。(C)50 nmフィルターで捕捉された粒子をフェノールベースの溶液で溶解し、スピンカラムを用いてマイクロRNAを精製した。Bioanalyzer 2100によりEukaryote Total RNA Nano Series IIで全RNAを解析した(縦軸:蛍光単位、横軸:ヌクレオチド数)。
図3図3は、MeT-5A細胞及び6種類のMPM細胞から得られたエクソソーム中のマイクロRNA(Exo-microRNA)の比較を示す。(A)共通して又は特異的に発現したマイクロRNAの数をベン図に示す。(B)Exo-microRNAの発現レベル上位20をヒートマップに示す。
図4図4は、6種類のMPM細胞株及びMeT-5A細胞におけるhsa-miR-4728-5pの発現をqRT-PCRにより解析した結果を示す。6種類のMPM細胞株及びMeT-5A細胞について、(A)エクソソームにおけるhsa-miR-4728-5pの発現、及び(C)細胞内におけるhsa-miR-4728-5pの発現を測定し、U6で補正した。(B)hsa-miR-4728-5pを過剰発現するMeT-5A細胞(MeT-4728-5p細胞)及びベクターのみを導入したMeT-5A細胞(MeT-ctrl細胞)を樹立した。これらの細胞におけるhsa-miR-4728-5pの発現を測定し、U6で補正した。いずれも独立した試験を2回行い、MeT-5A細胞由来エクソソーム(A)、MeT-5A細胞(C)及びMeT-ctrl細胞(B)における発現レベルをそれぞれ1として、相対量で示した。
図5図5は、6種類のMPM細胞株及びMeT-5A細胞におけるhsa-miR-193a-5p及びhsa-miR-551b-5pの発現をqRT-PCR分析により解析した結果を示す。6種類のMPM細胞株及びMeT-5A細胞について、(A)エクソソームにおけるmiR-193a-5p及びmiR-551b-5pの発現、並びに(B)細胞内におけるmiR-193a-5p及びmiR-551b-5pの発現を測定し、U6で補正した。いずれも独立した試験を2回行い、MeT-5A細胞由来エクソソーム(A)及びMeT-5A細胞(B)における発現レベルをそれぞれ1として、相対量で示したに設定した。
図6図6は、6種類のMPM細胞株及びMeT-5A細胞の各細胞から分泌されたエクソソームにおけるhsa-miR-195(上)及びhsa-miR-3122(下)のレベルをqRT-PCR分析により解析した結果を示す。
図7図7は、hsa-miR-193a-5p及びhsa-miR-551b-5pを過剰発現する細胞株の評価を示す。(A)hsa-miR-193a-5pを過剰発現するMeT-5A細胞(MeT-193a-5p細胞)、又はhsa-miR-551b-5pを過剰発現するMeT-5A細胞(MeT-551b-5p細胞)を樹立した。各細胞及びMeT-ctrl細胞におけるhsa-miR-193a-5p又はhsa-miR-551b-5pの発現を測定し、U6で補正した。独立した試験を2回行い、MeT-ctrl細胞を1に設定した。(B)MeT-193a-5p細胞及びMeT-551b-5p細胞で共通して又は特異的に抑制されたmRNAの数をベン図に示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1. 中皮腫の診断を補助する方法
本発明は、中皮腫の診断を補助する方法(以下、「本発明の診断補助方法」と称する場合がある。)を提供する。当該方法は、具体的には、被験者から得られた、エクソソームを含む生体試料中の特定のmiRNAのレベルを測定することを含む。当該特定のmiRNAは、hsa-miR-193a-5p、hsa-miR-551b-5p、hsa-miR-195-3p、hsa-miR-3122、hsa-miR-3180-5p及びhsa-miR-4771からなる群から選択される少なくとも1つである。これら6種のmiRNA(以下、「本発明のマーカーmiRNA」ともいう。)は、中皮腫細胞から分泌されるエクソソームから高レベルで検出されるが、正常細胞内や正常細胞から分泌されるエクソソームからは実質的に検出されない。ここで「実質的に検出されない」とは、少なくともマイクロアレイ解析レベルでは、検出限界以下であることを意味する。一方、後述の表2に列挙されるhsa-miR-193a-5p、hsa-miR-551b-5p以外のmiRNAは、中皮腫細胞から分泌されるエクソソームから高レベルで検出されるが、正常細胞から分泌されるエクソソームからは実質的に検出されない。これらのmiRNAは、正常な中皮細胞内では発現が認められるが、被験者から採取した生体試料に中皮腫細胞又は中皮細胞が含まれない限り、本発明のマーカーmiRNAと同様に、中皮腫の診断マーカーとして用いることができる。
【0012】
本発明の診断補助方法において、「中皮腫の診断を補助する」とは、被験者が中皮腫に罹患している又は将来罹患する可能性が高いか否かの判断のための指標となる情報を提供することをいい、医療行為である、中皮腫に罹患している又は将来罹患する可能性が高いか否かを判断する工程自体を含まないことを意味する。
【0013】
本発明の診断補助方法において、中皮腫は、悪性の中皮腫を意味し、胸膜中皮腫(MPM)、腹膜中皮腫、心膜中皮腫及び精巣鞘膜中皮腫を含む。患者数の多さという点から、中皮腫は胸膜中皮腫及び腹膜中皮腫が好ましく、胸膜中皮腫がより好ましい。
【0014】
本発明の診断補助方法において、被験者は、ヒトであれば特に限定されない。被験者としては、例えば、中皮腫に罹患していることが疑われるヒト(例、アスベストへの曝露経験があるヒト、胸水や腹水の貯留が認められるヒト等)などが挙げられる。
【0015】
本発明の診断補助方法において、生体試料は、被験者から得られたものであって、エクソソームを含むものであれば特に限定されず、例えば、体液、組織もしくは細胞の培養上清等が挙げられる。体液としては、例えば、血液、血漿、血清、胸水、腹水、心嚢液、リンパ液、尿及び唾液等が挙げられる。好ましくは、血液、血漿、血清、胸水、腹水等である。組織としては、例えば、胸膜、腹膜、心膜、精巣鞘膜、肺及び横隔膜等の中皮腫が発生する組織が挙げられ、細胞としては、それらの組織から得られる細胞集団が挙げられる。被験者への侵襲が少ない点から、生体試料は体液が好ましい。組織もしくは細胞の培養上清を用いる場合、これらの組織もしくは細胞は、自体公知の適切な条件下で培養することができる。好ましい一実施態様においては、該組織もしくは細胞は、血清(例、ウシ胎仔血清(FBS)等)を含む培地中で培養されるが、血清には原料動物由来のエクソソームが含まれるため、予めエクソソームが除去された血清を使用すべきである。エクソソームが除去された血清の調製は、例えば、後述の実施例に記載されるとおり、エクソソームの粒子径よりも小さい孔径を有するフィルターに血清を通し、通過液を得ることにより行うことができる。
【0016】
本発明の診断補助方法においては、生体試料からエクソソームを単離した後で内包されるmiRNAを測定してもよいし、そのまま生体試料中のエクソソームを溶解して内包されるmiRNAの測定に供することもできる。エクソソームは、公知の方法によって生体試料から得ることができる。そのような方法としては、例えば、遠心法、密度勾配遠心法、超遠心法、ポリマー沈殿法、サイズ排除クロマトグラフィーを用いた分離法及びアフィニティを利用した分離法等が挙げられる。また、市販のキットを添付のプロトコールに従って用いることによって、生体試料からエクソソームを得てもよい。市販のキットとしては、例えば、ExoQuick(System Biosciences)、EVSecond (GL Sciences)、Total Exosome Isolation Kit(Invitrogen)及びCD9 Exo-Flow capture kit(System Biosciences)等が挙げられる。
【0017】
あるいは、後述の実施例に示すとおり、孔径が異なる2種類以上のフィルターを用いて、生体試料からエクソソームを得ることができる。即ち、孔径がエクソソームの粒径よりも大きいフィルター(例えば、孔径が220 nmのフィルター)、及び孔径がエクソソームの粒径よりも小さいフィルター(例えば、孔径が50 nmのフィルター)に連続して生体試料を通す。エクソソームは、孔径がエクソソームの粒径よりも小さいフィルターを通ることができずに捕捉されるため、緩衝液等を逆流させることによって当該フィルターで捕捉されたエクソソームを得ることができる。
【0018】
本発明の診断補助方法において、測定対象となるmiRNAは、hsa-miR-193a-5p、hsa-miR-551b-5p、hsa-miR-195-3p、hsa-miR-3122、hsa-miR-3180-5p及びhsa-miR-4771からなる群から選択される少なくとも1つである。
当該miRNAは既に公知の分子であり、その配列情報はmiRBase(http://www.mirbase.org/)等のデータベースから入手可能である。hsa-miR-193a-5pはAccession No. MIMAT0004614として、hsa-miR-551b-5pはAccession No. MIMAT0004794として、hsa-miR-195-3pはAccession No. MIMAT0004615として、hsa-miR-3122はAccession No. MIMAT0014984として、hsa-miR-3180-5pはAccession No. MIMAT0015057として、hsa-miR-4771はAccession No. MIMAT0019925として、それぞれmiRBaseに登録されている。本明細書中、hsa-miR-193a-5pのヌクレオチド配列は配列番号1、hsa-miR-551b-5pのヌクレオチド配列は配列番号2、hsa-miR-195-3pのヌクレオチド配列は配列番号3、hsa-miR-3122のヌクレオチド配列は配列番号4、hsa-miR-3180-5pのヌクレオチド配列は配列番号5、hsa-miR-4771のヌクレオチド配列は配列番号6で表される。
【0019】
hsa-miR-193a-5p、hsa-miR-551b-5p、hsa-miR-195-3p、hsa-miR-3122、hsa-miR-3180-5p及びhsa-miR-4771の各miRNAは、天然で生じる多型、突然変異等による変異(ヌクレオチドの置換、欠失、挿入又は付加)を含んでもよく、従って、本発明の診断補助方法においては、そのような変異を含むmiRNAの発現レベルが測定されてもよい。
【0020】
miRNAの発現レベルは、各miRNA又はその相補的核酸(cRNA又はcDNA)を特異的に検出し得る核酸プローブ又は核酸プライマーを用いて、ハイブリダイゼーション、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)等の自体公知の方法により測定することが出来る。そのような測定方法としては、例えば、miRNAアレイ、ノーザンブロッティング、定量PCR(リアルタイムPCR等)等を挙げることができる。
【0021】
miRNAの発現レベルの測定は、被験者から得られた生体試料中のエクソソームに由来するmiRNAを対象として行う。miRNAを抽出する方法は、被験者から得られた生体試料中のエクソソームから、miRNAを含むRNA(例えば、total RNA)を抽出する方法である限り特に限定されず、例えば、市販の試薬(例えば、ISOGEN(Nippongene)、QIAZOL(Qiagen))やキット(例えば、NucleoSpin miRNA Plasma Kit(Macherey-Nagel)、フェノールベース試薬Tripure Isolation Reagent(Roche Applied Science)、液体試料用フェノールベース試薬ISOGEN-LS(ニッポンジーン)、miRNeasy Mini Kit(Qiagen)、RNeasy MinElute Cleanup Kit(Qiagen)等)を添付のプロトコールに従って用いることによって、miRNAを含むRNAを抽出することができる。あるいは、被験者から得られた生体試料から、エクソソームに内包されるmiRNAを含む全RNAを抽出してもよい。例えば、Plasma/Serum Exosome Purification and RNA Isolation(Norgen Biotek Corp.)等の市販の試薬やキットを用いて、エクソソーム中のmiRNAを含む全RNAを抽出することができる。
【0022】
また、被験者から得られた生体試料からエクソソーム中のmiRNAを含む全RNAを抽出した後、更にmiRNAを単離してもよい。miRNAの単離は、自体公知の方法により行なうことができ、例えば、市販の試薬やキット(例えば、RNeasy Mini Column(Qiagen)、High Pure miRNA Isolation Kit(Roche Applied Science)等)を添付のプロトコールに従って用いることによって実施することができる。ここで「miRNAの単離」とは、miRNA以外の成分を除去する操作がなされていることを意味する。
【0023】
miRNAの発現レベルの測定においては、上記miRNAの抽出及び単離に起因する試料間のばらつきを補正するために、適切な内部標準でmiRNAの発現レベルを補正することが好ましい。内部標準は、被験者由来の試料に天然に含まれいれば特に限定されない。例えば、後述する実施例の通り、U6を内部標準とすることができる。
【0024】
本明細書において、核酸プローブが「miRNA又はその相補的核酸を特異的に検出し得る」とは、核酸プローブがmiRNA又はその相補的核酸に対して、当該miRNA又はその相補的核酸以外の核酸に対するよりも高いアフィニティーを有することにより、適切なハイブリダイゼーション条件下で当該miRNA又はその相補的核酸にはハイブリダイズするが、その他の核酸へはハイブリダイズしないことを意味する。
【0025】
このようなハイブリダイゼーションの条件は、当業者であれば適宜選択することができる。ハイブリダイゼーションの条件として、例えば低ストリンジェントな条件が挙げられる。低ストリンジェントな条件とは、ハイブリダイゼーション後の洗浄において、例えば42℃、5×SSC、0.1%SDSの条件であり、好ましくは50℃、2×SSC、0.1%SDSの条件である。より好ましいハイブリダイゼーションの条件としては、高ストリンジェントな条件が挙げられる。高ストリンジェントな条件とは、例えば65℃、0.1×SSC、0.1%SDSである。但し、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する要素としては、温度や塩濃度等の複数の要素があり、当業者はこれらの要素を適宜選択することで、同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0026】
miRNA又はその相補的核酸を特異的に検出し得る核酸プローブとしては、例えば、当該miRNAのヌクレオチド配列の一部又は全部に相補的な約10塩基以上(例えば、10~24塩基、好ましくは15~24塩基)の連続したヌクレオチド配列又はその相補配列を含み、当該miRNA又はその相補的核酸にハイブリダイズすることが可能なポリヌクレオチドを挙げることができる。そのような核酸プローブは、本明細書に記載されたヌクレオチド配列の情報等に基づいて、自体公知の方法により適宜設計することができる。あるいは、市販の核酸プローブを用いることもできる。例えば、配列番号1~6で表される各ヌクレオチド配列からなるmiRNA又はその相補的核酸は、それぞれThermoFisher Scientific社から提供されるhsa-miR-193a-5p(Assay ID: 002281)、hsa-miR-551b-5p(Assay ID: 002346)、hsa-miR-195-3p(Assay ID: 002107)、hsa-miR-3122(Assay ID: 243913_mat)、hsa-miR-3180-5p(Assay ID: 245615_mat)及びhsa-miR-4771(Assay ID: 464907_mat)定量キットに含まれる核酸プローブを用いて検出することができる。
【0027】
本明細書において、核酸プライマーが「miRNA又はその相補的核酸を特異的に検出し得る」とは、核酸プライマーが、適切なPCR反応条件下において、当該miRNA又はその相補的核酸を鋳型として、その全部又は一部の領域をPCR増幅するが、当該miRNA又はその相補的核酸以外の核酸を鋳型として、その全部又は一部の領域をPCR増幅しないことを意味する。
【0028】
miRNAを特異的に検出し得る核酸プライマーは、当該miRNA又はその相補的核酸のヌクレオチド配列の一部又は全部の領域を特異的に増幅し得るように設計されたものであればいかなるものであってもよい。PCRによるmiRNAの定量は、通常、ポリ(A)ポリメラーゼにより3'末端にポリ(A)配列を付加し、オリゴ(dT)プライマーを用いた逆転写反応によりcDNAを合成した後、当該cDNAを定量することにより行なう。この場合、各miRNAの相補的核酸(cDNA)のヌクレオチド配列の一部にハイブリダイズする、約10塩基以上(例えば、10~24塩基、好ましくは15~24塩基)のヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド(フォワードプライマー)と、このハイブリダイゼーション部位より3’側の当該cDNA配列の相補配列の一部にハイブリダイズする、約10塩基以上(例えば、10~24塩基、好ましくは15~24塩基)のヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド(リバースプライマー)との組み合わせにより、各miRNA又はその相補的核酸のヌクレオチド配列の一部又は全部の領域を特異的に増幅し得る。フォワードプライマー及びリバースプライマーは、各miRNA又はその相補的核酸のヌクレオチド配列、前記逆転写反応の際に使用するプライマーの配列等の情報に基づき、自体公知の方法により適宜設計することができる。あるいは、市販の核酸プライマーを用いることもできる。例えば、配列番号:1~6で表される各ヌクレオチド配列からなるmiRNAの相補的核酸の特異的な増幅には、それぞれThermoFisher Scientific社から提供されるhsa-miR-193a-5p(Assay ID: 002281)、hsa-miR-551b-5p(Assay ID: 002346)、hsa-miR-195-3p(Assay ID: 002107)、hsa-miR-3122(Assay ID: 243913_mat)、hsa-miR-3180-5p(Assay ID: 245615_mat)及びhsa-miR-4771(Assay ID: 464907_mat)定量キットに含まれるプライマーセットを用いることができる。
【0029】
核酸プローブ及び核酸プライマーは、特異的検出に支障を生じない範囲で付加的配列(検出対象のポリヌクレオチドと相補的でないヌクレオチド配列)を含んでいてもよい。
【0030】
また、核酸プローブ及び核酸プライマーは、適当な標識剤、例えば、放射性同位元素(例:125I、131I、H、14C、32P、33P、35S等)、酵素(例:β-ガラクトシダーゼ、β-グルコシダーゼ、アルカリホスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素等)、蛍光物質(例:フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネート等)、発光物質(例:ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニン等)、ビオチン等で標識されていてもよい。あるいは、蛍光物質(例:FAM、VIC等)の近傍に該蛍光物質の発する蛍光エネルギーを吸収するクエンチャー(消光物質)がさらに結合されていてもよい。かかる実施態様においては、検出反応の際に蛍光物質とクエンチャーとが分離して蛍光が検出される。
【0031】
核酸プローブ及び核酸プライマーは、DNAであってもRNAであってもよく、またDNA/RNAキメラであってもよいが、好ましくはDNAである。また核酸プローブ及び核酸プライマーは、一本鎖であっても二本鎖であってもよいが、通常一本鎖である。なお、本発明において、核酸プローブ及び核酸プライマーがRNAである場合は、核酸プローブ及び核酸プライマーの塩基配列のうち、チミン(T)はウラシル(U)と読み替えてもよい。
【0032】
核酸プローブ及び核酸プライマーは、人工的な修飾を有する核酸の誘導体であってもよい。人工的な修飾を有する核酸の誘導体としては、例えば、ホスホロチオエート型、ボラノフォスフェート型DNA/RNA等のリン酸骨格を修飾したもの;2'-OMe修飾RNA、2'-F修飾RNA等の2'修飾ヌクレオチド;LNA(Locked Nucleic Acid)やENA(2'-O,4'-C-Ethylene-bridged nucleic acids)等のヌクレオチドの糖分子を架橋した修飾ヌクレオチド;PNA(ペプチド核酸)、モルフォリノヌクレオチド等の基本骨格が異なる修飾ヌクレオチド;5-フルオロウリジン、5-プロピルウリジン等の塩基修飾型ヌクレオチド等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0033】
上記核酸プローブ及び核酸プライマーは、例えば、本明細書に記載されたヌクレオチド配列の情報に基づいて、DNA/RNA自動合成機を用いて常法に従って合成することができる。
【0034】
測定対象のmiRNA又はその相補的核酸を特異的に検出し得る核酸プローブを、適切な支持体の上に結合して、核酸アレイとして提供してもよい。支持体としては、当該分野で通常用いられている支持体であれば特に限定されず、例えば、メンブレン(例えば、ナイロン膜)、ビーズ、ガラス、プラスチック、金属等が挙げられる。
【0035】
前記のとおり、本発明のマーカーmiRNAは、中皮腫細胞(例、MPM細胞)から分泌されたエクソソームでは検出されるが、少なくともマイクロアレイ解析レベルでは、正常細胞内及び正常細胞から分泌されたエクソソームでは検出されない。したがって、miRNAの測定手段として上記核酸アレイを用いる場合、被験者から得られた生体試料から本発明のマーカーmiRNAが検出された場合、該被験者は中皮腫に罹患しているか将来罹患する可能性が高いと判断することができる。miRNAの測定手段として、定量的リアルタイムPCR等の検出感度の高い方法を用いる場合には、被験者から得られた生体試料中の本発明のマーカーmiRNAのレベルが、予め設定されたカットオフ値以上、例えば、健常者群から得られた対応する生体試料中の該miRNAのレベルの平均値+3SD以上、好ましくは平均値+5SD以上であった場合、該被験者は中皮腫に罹患している又は将来罹患する可能性が高いと判断することができる。
【0036】
2. 中皮腫の診断及び治療方法
また、本発明は、中皮腫の診断及び治療方法を提供する。前記のとおり、本発明の診断補助方法により得られた情報に基づいて、中皮腫に罹患している又は将来罹患する可能性が高いと判断された被験者に対して、抗中皮腫療法を実施することができる。抗中皮腫療法としては、外科手術、放射線療法、抗中皮腫薬(化学療法剤、その他の抗がん剤)投与、遺伝子治療、あるいはそれらの併用療法等が挙げられる。抗中皮腫薬としては、中皮腫の治療及び/又は予防作用を有する薬剤であれば特に制限はないが、化学療法剤としては、例えば、シスプラチン、ペメトレキセド、カルボプラチン、ゲムシタビン、ビノレルビン等が挙げられる。好ましくは、ペメトレキセド、シスプラチン、カルボプラチン及びそれらの組み合せが挙げられる。化学療法剤以外の抗がん剤としては、例えば、ベバシズマブ等の抗VEGF抗体薬、免疫チェックポイント阻害薬等を挙げることができる。これらの抗中皮腫薬の投与方法・投与量は、臨床上で通常使用されている用法・用量に従うことができる。
【0037】
3. 中皮腫の診断用キット
本発明は、hsa-miR-193a-5p、hsa-miR-551b-5p、hsa-miR-195-3p、hsa-miR-3122、hsa-miR-3180-5p及びhsa-miR-4771からなる群から選択される少なくとも1つのmiRNAを特異的に検出し得る核酸プローブ及び/又は核酸プライマーを含む、中皮腫の診断用キットを提供する。以下、「本発明のキット」と称する場合がある。本発明のキットを用いれば、本発明の診断補助方法を容易に実施することが可能となる。
【0038】
本発明のキットにおいて、中皮腫は、「1. 中皮腫の診断を補助する方法」に記載のとおりである。
【0039】
本発明のキットにおいて、核酸プローブ及び核酸プライマーは、「1. 中皮腫の診断を補助する方法」に記載のとおりである。本発明のキットに含まれる核酸プローブ及び核酸プライマーは、hsa-miR-193a-5pを特異的に検出し得る核酸プローブ及び/又は核酸プライマー、hsa-miR-551b-5pを特異的に検出し得る核酸プローブ及び/又は核酸プライマー、hsa-miR-195-3pを特異的に検出し得る核酸プローブ及び/又は核酸プライマー、hsa-miR-3122を特異的に検出し得る核酸プローブ及び/又は核酸プライマー、hsa-miR-3180-5pを特異的に検出し得る核酸プローブ及び/又は核酸プライマー及びhsa-miR-4771を特異的に検出し得る核酸プローブ及び/又は核酸プライマーからなる群から選択される少なくとも1つの核酸プローブ及び/又は核酸プライマーであり、好ましくは、hsa-miR-193a-5pを特異的に検出し得る核酸プローブ及び/又は核酸プライマー、hsa-miR-551b-5pを特異的に検出し得る核酸プローブ及び/又は核酸プライマー、hsa-miR-195-3pを特異的に検出し得る核酸プローブ及び/又は核酸プライマー及びhsa-miR-3122を特異的に検出し得る核酸プローブ及び/又は核酸プライマーからなる群から選択される少なくとも1つの核酸プローブ及び/又は核酸プライマーであり、より好ましくは、hsa-miR-193a-5pを特異的に検出し得る核酸プローブ及び/又は核酸プライマー、並びに/あるいはhsa-miR-551b-5pを特異的に検出し得る核酸プローブ及び/又は核酸プライマーである。
【0040】
本発明のキットは、測定対象の各miRNA又はその相補的核酸を特異的に検出し得る核酸プローブを、適切な支持体の上に結合して、核酸アレイとして提供してもよい。支持体としては、当該分野で通常用いられている支持体であれば特に限定されず、例えば、メンブレン(例えば、ナイロン膜)、ビーズ、ガラス、プラスチック、金属等が挙げられる。
【0041】
本発明のキットに含まれる各構成要素は、各々別個に(或いは可能であれば混合した状態で)水又は適当な緩衝液(例:TEバッファー、PBS等)中に適当な濃度となるように溶解されるか、或いは凍結乾燥された状態で、適切な容器中に収容される。
【0042】
本発明のキットは、miRNAの発現レベルの測定方法に応じて、当該方法の実施に必要な他の成分を構成として更に含んでもよい。本発明のキットにより、例えば、miRNAアレイ、ノーザンブロッティング、定量PCR(リアルタイムPCR等)等によりmiRNAの発現レベルを測定することにより、中皮腫の診断を補助することができる。リアルタイムPCRを測定に用いる場合には、本発明のキットは、10×PCR反応緩衝液、10×MgCl2水溶液、10×dNTPs水溶液、Taq DNAポリメラーゼ(5 U/μL)、逆転写酵素等を更に含むことができる。miRNAアレイやノーザンブロッティングを測定に用いる場合には、本発明の検査試薬は、ブロッティング緩衝液、標識化試薬、ブロッティング膜等を更に含むことができる。
【0043】
以下に実施例等を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例等により限定されるものではない。
【実施例
【0044】
材料及び方法
細胞培養
理研細胞バンク(つくば、日本)より、悪性胸膜中皮腫(MPM)細胞株であるACC-MESO1及びACC-MESO4を入手した。ATCC(American Type Culture Collection、マナッサス、バージニア、米国)より、MPM細胞株であるMSTO-211H及び非悪性中皮細胞株であるMeT-5A細胞を購入した。MPM細胞株であるL324、N407及びK921は、産業医科大学 第2外科で樹立されたものを用いた。ヒト前立腺癌PC3細胞に関しては、Koi, C.らの論文(Oncotarget、2017、8、106429-106442)に記載のとおりである。GlutaMAXサプリメント(Invitrogen、カールスバッド、カリフォルニア、米国)、10% 非働化ウシ胎児血清(FBS)及び1%(v / w)ペニシリン/ストレプトマイシンを添加したRPMI-1640培地、199培地及びDMEMを用いて、MPM、MeT-5A及びPC3細胞をそれぞれ5% CO2雰囲気中、37℃で維持した。
【0045】
エクソソームの分離及び除去
通常のFBSを50 nmフィルター(SFPES013022N、Membrane Solutions Ltd、米国)に通してエクソソームを除き、エクソソームを含まないFBS(エクソソームフリーFBS)を調製した。維持培地を含む10 cmディッシュにおいて細胞が80%コンフルエントに達したら、細胞を回収し、エクソソームフリーFBSが入った培地を含む10 cmディッシュ3枚に播種した。48時間後、培養上清を回収し、220 nmフィルター(SF16008、TISCH Scientific、米国)及び50 nmフィルターに連続して通した。PBSを逆流させることによって、50 nmフィルターで捕捉された粒子を一部回収した。50 nmフィルターで捕捉された粒子と、50 nmフィルターを通過し粒子とを、動的光散乱法(DLS、Zetasizer、Malvern Panalytical、英国)及び透過型電子顕微鏡(TEM、JEOL 1200EX; JEOL、東京、日本)で解析した。さらに、以下に示すとおり、50 nmフィルターで捕捉された粒子をRNA抽出およびタンパク質抽出に用いた。
【0046】
動的光散乱法(DLS)による解析
Morimoto, Y.らの論文(J Nanopart Res.、2015、17、442)に記載のように、製造業者の説明書に従ってDLS(Zetasizer)により、50 nmフィルターで捕捉された粒子のサイズを測定した。
【0047】
透過型電子顕微鏡(TEM)による解析
Exosome-TEM-easyキット(101 Bio、Mountain View、California、米国)により、50 nmフィルターで捕捉された粒子を用いてサンプルを調製し、TEM(JEOL 1200EX)で観察した。
【0048】
細胞増殖アッセイ
ヒト前立腺癌PC3細胞(1,000細胞)を12ウェルプレートに播種した。翌日、細胞数を測定した(0時間)。PBSで他の細胞を2回洗浄し、FBSを含まない培地、通常のFBSを含む培地、又はエクソソームフリーFBSを含む培地のいずれかに加えた。24時間ごとに細胞を回収し、製造業者の説明書に従ってLUNA-FL(Logos Biosystems、韓国)で細胞数を計算した。試験は3回行った。
【0049】
タンパク質抽出及びウエスタンスタンブロット解析
維持培地を含む10 cmディッシュで増殖したMeT-5A細胞が50%コンフルエントに達したら、PBSで細胞を2回洗浄し、エクソソームフリーFBSを含む培地に加えた。48時間後、培養上清を回収し、220 nmフィルター及び50 nmフィルターに連続して通した。ネガティブコントロールとしてエクソソームフリーFBSを含む新鮮な培地を同様にフィルターに通した。50 nmフィルターで捕捉されたタンパク質を、1 mM PMSFを含む1 mLのCHAPS溶解バッファー(Dojindo、熊本、日本)で溶出した。Amicon Ultra 10 kDa(Merck Millipore、バーリントン、マサチューセッツ、アメリカ)を用いて、体積が30 μL未満になるまで各フロースルーを濃縮した。全てのサンプルをドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)に供し、二フッ化ポリビニリデン(PVDF)膜に転写した。一次抗体として抗EpCAM抗体(1:1000、Santa Cruz Biotechnology、テキサス州ダラス、米国))、二次抗体として西洋ワサビペルオキシダーゼと結合した抗マウスIgG抗体)を用いて、抗体反応を行った。Koi, C.らの論文(Oncotarget、2017、8、106429-106442)に記載のように、LAS 4000 Mini及びMulti Gaugeソフトウェアバージョン3.0(富士フィルム、東京、日本)によって、シグナル強度を得た。
【0050】
RNA抽出
1 mLのISOGEN(Nippongene、東京、日本)によって、50 nmフィルターで捕捉されたエクソソームを溶出した。溶出液を200 μLのクロロホルムと混合し、遠心分離した(12,000 xg、15分)。500 μLの上清を用いて、製造業者の説明書に従ってNucleoSpin miRNA Plasma Kit(Macherey-Nagel、Germany)により、全RNAを精製した。100 μLのH2OでRNAの全量を溶出後、10 μLの3.0 M酢酸カリウム、100 μLのイソプロパノール及び1 μLのPellet PaintでRNAを沈殿させた。ペレットを洗浄及び乾燥後、マイクロアレイ又は定量リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(qRT-PCR)に用いるために、RNAをそれぞれ2μL又は10μLのH2Oで溶解した。Agilent 2100 Bioanalyzer(Agilent Technologies、サンタクララ、カリフォルニア、米国)のEukaryote Total RNA Nano Series IIを用いてマイクロRNA精製の検証を行った。
また、細胞内のマイクロRNAを含む全RNAに関しては、製造業者の指示に従ってmiRNeasy Mini Kit(Qiagen、Hilden、ドイツ)を用いて得た。
【0051】
マイクロアレイ
2,565プローブセットを含むHuman miRNA Oligo chip-4 plex(TORAY、東京、日本)及び24,460プローブセットを含むHuman Oligo chip 25k(TORAY、東京、日本)でのマイクロアレイ解析は、製造業者のプロトコールに従って、3D-Geneアレイシステム(TORAY、東京、日本)により、以下のとおり行った。マイクロRNAアレイのために、30 mLの培養液から得られた2 μLのRNA溶液、又は細胞から得られた250 ngの全RNAを、Human miRNA Oligoチップとハイブリダイズした。また、mRNAアレイのために、細胞から得られた1 μgの全RNAをHuman Oligo chip 25kとハイブリダイズした。
【0052】
プラスミドの構築及びレンチウイルスシステムによる発現
マイクロRNA発現プラスミドの構築のために、オリゴヌクレオチドの二本鎖を合成し(表1;hsa-miR-4728-5p: 配列番号7、hsa-miR-193a-5p: 配列番号8、hsa-miR-551b-5p: 配列番号9)、pSIH1-H1-GFP-T2A-Puroベクター(System Biosciences、Palo Alto、California、United States)のBamHI-EcoRI部位に連結した。製造業者のプロトコルに従ってSystem BiosciencesのレンチウイルスパッケージングシステムからマイクロRNAのレンチウイルスを含む発現カセットを入手した。 MeT-5A細胞を感染させた後、5μg/ mLのピューロマイシンによってマイクロRNAを発現する細胞を選択した。90%を超える細胞が緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現していることを確認後、これらの細胞を解析に用いた。
【0053】
【表1】
【0054】
定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(qRT-PCR)
10 μLのH2OでエクソソームのRNAのペレットを溶解し、各プローブ用に1 μLのRNAを用いた。TaqMan MicroRNA Reverse Transcription Kit(米国マサチューセッツ州ウォルサム)を用いて、StepOne PlusリアルタイムPCRシステム(米国マサチューセッツ州ウォルサム)でマイクロRNAのcDNAを合成した。特別に設計されたTaqManプローブを用いてqRT-PCRを行った。ヒトマイクロRNAの解析及びqRT-PCRを用いた遺伝子発現に用いるプライマー配列は、miR-4728-5p、ThermoFisher Scientific、461811_mat; miR-193a-5p、ThermoFisher Scientific、002281; miR-551b-5p、ThermoFisher Scientific、002346; U6、ThermoFisher Scientific、001973から提供された。
以下の条件、変性は95℃で20秒間保持、増幅は40サイクル(95℃で30秒間の変性、60℃で30秒間のアニーリング及び伸長)、でPCRを行った。内部標準としてU6を用いた。各microRNAのCt値をU6で正規化し、ΔΔCt法を用いて相対発現量を求めた。各試験において、全てのサンプルを重複して試験した。
【0055】
統計
GraphPad Prosm7.0(GraphPad Inc.、サンディエゴ、カリフォルニア、米国)を用いて、統計解析を行った。スチューデントt検定で結果を比較し、平均値±標準偏差としてデータを表した。統計的有意性をP <0.05と定義した。
【0056】
結果
メンブレンフィルターで捕捉されたエクソソームの評価
一般的に、細胞培養培地は、ウシ胎児血清(FBS)を基本培地に添加することにより用いられる。FBSにはウシ由来エクソソームが含まれているため、細胞由来のエクソソームを解析するためにはウシ由来エクソソームを除去する必要がある。したがって、220 nmフィルター及び50 nmフィルターにFBSを連続して通過させた後、PBSを逆流させることによって50 nmフィルターで捕捉された粒子を回収し、動的光散乱法(DLS)及び透過型電子顕微鏡(TEM)で解析した。50 nmフィルターで捕捉された粒子の粒径は平均約170 nmであり(図1A)、これらの粒子は50 nmフィルターを通過した溶液で検出されなかった(図1B)。TEMでの解析より、50 nmフィルターで捕捉された粒子の形状は球状であった(図1C)。これらの結果から、50 nmフィルターによりエクソソームの捕捉が可能であること、フロースルーにはエクソソームが含まれていないことが示唆された。
次に、50 nmフィルターを通過させたFBS(エクソソームフリーFBS)を含む培地(エクソソームフリー培地)がヒト前立腺癌PC3細胞の増殖に与える影響を調べた。その結果、エクソソームフリー培地を用いると、細胞増殖が増加した(図1D)。この結果から、ウシ由来エクソソームは細胞増殖を抑制する効果を有することが示唆され、培養細胞の解析にエクソソームフリーFBSを用いても問題はないと考えられた。したがって本実施例では、エクソソームを単離する際、エクソソームフリー培地で細胞を培養し、細胞から分泌されたエクソソームを50 nmフィルターで捕捉した。
【0057】
培養細胞から分泌されたエクソソームの解析
エクソソームフリーFBSを含む培地でMeT-5A細胞を48時間培養し、培養液中の粒子を50 nmフィルターで捕捉した。DLSで測定した粒径は約170 nmであった(図2A)。50 nmフィルターで捕捉された粒子をCHAPS又はフェノールベースのバッファーで溶解し、タンパク質又はRNAをそれぞれ得た。
粒子には、濃縮されたエクソソームのマーカーであるEpCAMタンパク質及びマイクロRNAが含まれていた(図2B及び2C)。FBS(図1)及び細胞培養液(図2)から得られた粒子サイズ、形状、特定のタンパク質発現及びmicroRNAの包含より、50 nmフィルターで捕捉された粒子はエクソソームであることが示唆された。同様の方法により、MPM細胞のエクソソーム中のマイクロRNA(Exo-microRNA)を得て、マイクロアレイ解析を行った。
【0058】
Exo-microRNAのマイクロアレイ解析
3D-Geneマイクロアレイシステムを用いて、MeT-5A細胞及び6種類のMPM細胞から得られたExo-microRNAの発現プロファイルを解析した。チップには、ヒト細胞由来の2,565のプローブセットが含まれ、各マイクロRNAで検出されたシグナルを、検出シグナル強度の中央値を25にするグローバルノーマライゼーションにより正規化した。マイクロアレイの結果、6種類全てのMPM細胞で502種類のExo-microRNAが検出され、MeT-5A細胞で390種類のExo-microRNAが検出された。11種類のExo-microRNAがMeT-5A細胞で検出され、MPM細胞では検出されなかった(図3A)。また、123種類のExo-microRNAがMPM細胞で検出され、MeT-5A細胞では検出されなかった。これら123種類のExo-microRNAはMPMのマーカーである可能性がある。6種のMPM細胞におけるシグナルの平均値を用いて、これら123種類のExo-microRNAをランキングした。表2に、上位20種類のバリアントを降順で示した。また、図3Bに、これらのExo-microRNAのレベルをヒートマップで示した。全てのExo-microRNAの中でhsa-miR-4728-5pの発現値が最も高かった。
【0059】
【表2】
【0060】
MeT-5A細胞におけるhsa-miR-4728-5pのターゲットの検索
定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(qRT-PCR)によって、MPM細胞及びMeT-5A細胞のエクソソームにおけるhsa-miR-4728-5pの発現を調べた。MPM細胞のエクソソームにおける発現レベルは、MeT-5A細胞のエクソソームにおける発現レベルより5~17倍高かった(図4A)。次に、正常細胞に対するhsa-miR-4728-5pの標的遺伝子を調べるために、当該microRNAを過剰発現するMeT-5A細胞(MeT-4728-5p細胞)及びmicroRNAフリーの細胞(MeT-ctrl細胞)を樹立した。hsa-miR-4728-5pがMeT-4728-5p細胞で過剰発現していることを確認し(図4B)、MeT-4728-5p細胞及びMeT-ctrl細胞から得られたmRNAを用いてマイクロアレイ解析を行った。その結果、以下の2つの条件:
(1)グローバルノーマライゼーション後の遺伝子発現レベルが、MeT-ctrl細胞で100を超える
(2)MeT-4728-5p細胞における遺伝子発現レベルが、MeT-ctrl細胞に対して0.5未満に減少した
を満たした遺伝子は、EIF4H及びTMEM87Aのみであった。hsa-miR-4728-5pによって発現が抑制されるmRNAがほとんどなかったため、各細胞におけるhsa-miR-4728-5pの細胞内発現をqRT-PCRで解析した。予想に反して、その発現はMeT-5A細胞で最も高かった(図4C)。これらのデータは、MeT-5A細胞はhsa-miR-4728-5pを産生するが、細胞外に分泌せず、細胞内で既にhsa-miR-4728-5pが機能していることを示唆する。
【0061】
MPM細胞特異性の高いmiRNAの探索
上記のように、MPM細胞のExo-microRNAで最も高い発現を示したhsa-miR-4728-5pは、MeT-5A細胞内でも高度に発現した。そこで、前記123種類のExo-microRNA(図3A)の中から、マイクロアレイ解析において、MeT-5A細胞内でも検出されなかった6種類のExo-microRNAを選択した(表3)。
【0062】
【表3】
【0063】
これらの中でも特に高い発現を示したhsa-miR-193a-5p及びhsa-miR-551b-5pについて、定量的リアルタイムPCRを用いて、MPM細胞及びMeT-5A細胞の各細胞から分泌されたエクソソーム(図5A)、並びにこれらの細胞の細胞内(図5B)における発現レベルを調べた。その結果、hsa-miR-193a-5p及びhsa-miR-551b-5pは、試験したすべてのMPM細胞エクソソーム中に相当レベルで含まれていたのに対し、MeT-5A細胞エクソソーム中にはほとんど含まれていないことが確認された(図5A)。一方、細胞内におけるhsa-miR-193a-5p及びhsa-miR-551b-5pの発現については、MPM細胞とMeT-5A細胞との間で相関は認められなかった(図5B)。
【0064】
hsa-miR-195及びhas-miR-3122についても、上記と同様に、定量的リアルタイムPCRを用いて、MPM細胞及びMeT-5A細胞の各細胞から分泌されたエクソソーム中のmiRNAレベルを測定した。その結果、いずれのmiRNAも、試験したすべてのMPM細胞エクソソーム中に相当レベルで含まれていたのに対し、MeT-5A細胞エクソソーム中にはほとんど含まれていないことが確認された(図6)。
【0065】
次に、hsa-miR-193a-5p又はhsa-miR-551b-5pを過剰発現するMeT-5A細胞を樹立し(それぞれ、MeT-193a-5p細胞、MeT-551b-5p細胞)、遺伝子発現への影響を調べた(図7A)。その結果、以下の2つの条件:
(1)グローバルノーマライゼーション後の遺伝子発現レベルが、MeT-ctrl細胞で100を超える
(2)MeT-193a-5p細胞又はMeT-551b-5p細胞における遺伝子発現レベルが、MeT-ctrl細胞に対して0.2未満に減少した
を満たすmRNAが、MeT-193a-5p細胞で288種類、MeT-551b-5p細胞で146種類検出された。興味深いことに、122種類のmRNAの発現が、hsa-miR-193a-5p及びhsa-miR-551b-5pにより、共通して抑制された(図7B)。GeneCoDis3ソフトウェア(http://genecodis.cnb.csic.es/)でこれらの遺伝子の機能を解析したところ、複数の遺伝子が関与するいくつかのパスウェイが明らかとなった(表4)。
【0066】
【表4】
【0067】
MPM細胞は正常な中皮細胞の接着能力を低下させるため、細胞間の結合及び細胞と細胞外マトリックスとの間の結合(Focal adhesion、Adherens junction、Tight junction)に関与する遺伝子群に注目した。これらの細胞間の空間に侵入することは、悪性転換にとって重要だからである。各遺伝子の概要を表5に示す。
【0068】
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明によれば、被験者から得られた、エクソソームを含む生体試料中の特定のmiRNAのレベルを測定することによって、該被験者が中皮腫に罹患している又は将来罹患する可能性が高いか否かを、簡便かつ確度よく判定することができる。従って、本発明は、初期段階で自覚症状が無く早期発見がは難しいとされる、胸膜中皮腫をはじめとする中皮腫の早期診断及び早期治療を可能にする点できわめて有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
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