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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-16
(45)【発行日】2024-04-24
(54)【発明の名称】排水栓装置
(51)【国際特許分類】
   E03C 1/22 20060101AFI20240417BHJP
【FI】
E03C1/22 C
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020005003
(22)【出願日】2020-01-16
(65)【公開番号】P2021113398
(43)【公開日】2021-08-05
【審査請求日】2022-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】392028767
【氏名又は名称】株式会社日本アルファ
(74)【代理人】
【識別番号】100111095
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 光男
(72)【発明者】
【氏名】太田 慎一
(72)【発明者】
【氏名】北川 浩平
【審査官】油原 博
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-253419(JP,A)
【文献】特開2015-048697(JP,A)
【文献】特開2003-074102(JP,A)
【文献】実公昭48-036419(JP,Y1)
【文献】特開2016-014227(JP,A)
【文献】特開2005-133473(JP,A)
【文献】特開2016-132897(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03C 1/12-1/33
A47K 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の蓋部及び当該蓋部の裏側に設けられた被取付部を具備する栓蓋本体部、並びに、前記栓蓋本体部の裏側に設けられたパッキン部を備えてなり、当該パッキン部が所定の接触対象部と接触することによって、槽体に形成された排水口を閉状態とすることが可能な栓蓋と、
往復移動可能に構成されるとともに、前記被取付部に上端部が取付けられることで前記栓蓋が取付けられており、かつ、自身の往動に伴い前記栓蓋を上動させることが可能である一方、自身の復動に伴い前記栓蓋を下動させることが可能に構成された支持軸と、
前記支持軸に対しその復動方向に向けた引込力を付与する引込力付与部とを備え、
前記支持軸には、所定の係止部が設けられるとともに、
前記被取付部には、前記係止部が係止可能な被係止部が設けられ、
前記被取付部に前記支持軸の上端部が取付けられて前記支持軸の上端部に前記栓蓋が取付けられている状態においては、前記排水口を閉状態としたときに、前記引込力付与部から前記支持軸に付与される引込力が、前記係止部及び当該係止部に係止された前記被係止部を介して前記栓蓋に加わるように構成された排水栓装置であって、
前記被取付部から前記支持軸の上端部が外れて前記被係止部に前記係止部が係止されていない状態においても、前記支持軸が復動した状態においては、前記係止部よりも上方に前記被係止部が位置するとともに、前記パッキン部の位置が前記接触対象部におけるシール予定部位の位置と合うように前記栓蓋を配置することで、前記接触対象部へと前記パッキン部の全周を接触させて、前記栓蓋により、前記排水口を、当該排水口からの水の漏れ出しがない状態である閉状態とすることが可能に構成されていることを特徴とする排水栓装置。
【請求項2】
前記被取付部から前記支持軸の上端部が外れて前記被係止部に前記係止部が係止されていない状態で前記栓蓋により前記排水口を閉状態としているときにおいては、前記槽体に貯留された水の水圧が前記栓蓋に付与されることで、弾性変形により前記被係止部に前記係止部が係止されて、前記被取付部に前記支持軸の上端部を取付けて前記支持軸の上端部に前記栓蓋を取付けた状態とすることが可能に構成されていることを特徴とする請求項1に記載の排水栓装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、槽体の排水口を開閉するための排水栓装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、栓蓋を遠隔操作することで、槽体(例えば、浴槽や洗面ボウルなど)に形成された排水口の開閉状態を切換可能な排水栓装置が知られている。
【0003】
排水栓装置としては、円板状の蓋部、当該蓋部の裏側から突出する筒状の軸取付部及び当該蓋部の裏側に設けられたパッキン部を有してなる栓蓋と、上端部が前記軸取付部に挿通されることで前記栓蓋が取付けられた支持軸とを備え、前記支持軸の上下動により、所定の接触対象部(例えば、排水口に挿設される筒状の排水口部材や槽体自体など)に対するパッキン部の接触・非接触を切換えることで、排水口の開閉状態を切換えるものがある(例えば、特許文献1等参照)。
【0004】
また、軸取付部の内周に設けられた被係止部に対し、支持軸の上端部に設けられた係止部を係止可能とするとともに、支持軸に対し下方への引込力を付与する引込力付与部(例えば、ばね等)を設ける技術が提案されている。この技術によれば、排水口を閉状態としたときに、引込力付与部から付与される力が被係止部や係止部を介して栓蓋へと加わり、栓蓋を下方へと引き込むことができるため、接触対象部に対するパッキン部の接触圧力を増大させて、良好な止水性を得ることが可能となる。尚、栓蓋に対し引き込み力を加える構成では、通常、排水口を閉状態としたときに、支持軸の下端部がその下方の部品から浮いた状態となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-214813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、軸取付部に対する支持軸の嵌め忘れ等の使用者のミスなどにより、栓蓋から支持軸が外れた状態で、使用者が槽体に水を貯めようとする場合がある。このような場合には、排水口を閉状態とすべく支持軸を下動させた状態にしたとしても、栓蓋(軸取付部)が支持軸に干渉すること等により、パッキン部の一部が接触対象部と接触しない状態となり得る。この状態になると、槽体に対する水の供給量によっては槽体に水を溜めることができるが、水を溜めたとしても、溜められた水は短期間で排水口から漏れ出してしまい、水が無駄に消費されてしまう。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、水が無駄に消費されることをより確実に防止可能な排水栓装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記目的を解決するのに適した各手段につき、項分けして説明する。なお、必要に応じて対応する手段に特有の作用効果を付記する。
【0009】
手段1.板状の蓋部及び当該蓋部の裏側に設けられた被取付部を具備する栓蓋本体部、並びに、前記栓蓋本体部の裏側に設けられたパッキン部を備えてなり、当該パッキン部が所定の接触対象部と接触することによって、槽体に形成された排水口を閉状態とすることが可能な栓蓋と、
往復移動可能に構成されるとともに、前記被取付部に上端部が取付けられることで前記栓蓋が取付けられており、かつ、自身の往動に伴い前記栓蓋を上動させることが可能である一方、自身の復動に伴い前記栓蓋を下動させることが可能に構成された支持軸と、
前記支持軸に対しその復動方向に向けた引込力を付与する引込力付与部とを備え、
前記支持軸には、所定の係止部が設けられるとともに、
前記被取付部には、前記係止部が係止可能な被係止部が設けられ、
前記被取付部に前記支持軸の上端部が取付けられて前記支持軸の上端部に前記栓蓋が取付けられている状態においては、前記排水口を閉状態としたときに、前記引込力付与部から前記支持軸に付与される引込力が、前記係止部及び当該係止部に係止された前記被係止部を介して前記栓蓋に加わるように構成された排水栓装置であって、
前記被取付部から前記支持軸の上端部が外れて前記被係止部に前記係止部が係止されていない状態においても、前記支持軸が復動した状態においては、前記係止部よりも上方に前記被係止部が位置するとともに、前記パッキン部の位置が前記接触対象部におけるシール予定部位の位置と合うように前記栓蓋を配置することで、前記接触対象部へと前記パッキン部の全周を接触させて、前記栓蓋により、前記排水口を、当該排水口からの水の漏れ出しがない状態である閉状態とすることが可能に構成されていることを特徴とする排水栓装置。
【0010】
尚、「前記被取付部から前記支持軸の上端部が外れて前記被係止部に前記係止部が係止されていない状態においても、前記支持軸が復動した状態においては、前記係止部よりも上方に前記被係止部が位置するとともに、前記パッキン部の位置が前記接触対象部におけるシール予定部位の位置と合うように前記栓蓋を配置することで、前記接触対象部へと前記パッキン部の全周を接触させて、前記栓蓋により、前記排水口を、当該排水口からの水の漏れ出しがない状態である閉状態とすることが可能に構成されている」とあるのは、槽体に対する貯水開始時の段階から、排水口からの水の漏れ出しを全く生じさせることなく排水口を閉状態とすることができる場合のみならず、槽体に対する貯水開始時からある程度の水が槽体に溜まるまでの間には排水口から水の漏れ出しが若干(例えば10分間で数グラム程度)生じ得るものの、槽体への貯水が進み栓蓋に加わる水圧が十分に増大したときには、排水口からの水の漏れ出しがなくなって排水口が閉状態となる場合も含む。
【0011】
上記手段1によれば、支持軸の上端部に栓蓋が取付けられている状態においては、排水口を閉状態としたときに、引込力付与部から支持軸に付与される引込力が、係止部等を介して栓蓋に加わるように構成されている。従って、接触対象部に対しパッキン部を比較的大きな圧力で接触させることができ、良好な止水性を得ることができる。
【0012】
さらに、上記手段1によれば、被取付部から支持軸の上端部が外れて被係止部に係止部が係止されていない状態であっても、栓蓋により排水口を閉状態とすることが可能に構成されている。従って、使用者が支持軸の上端部から栓蓋が外れていることに気付かず槽体を使用したとしても、排水口を閉状態として、槽体に水を溜めることができる。その結果、水が無駄に消費されてしまうことをより確実に防止できるとともに、使用者にとっての使い勝手を向上させることができる。尚、この構成は、例えば、支持軸から栓蓋が外れた状態において、パッキン部の位置が接触対象部の位置と合うように栓蓋を置いたときに(尚、支持軸は復動した状態とされる)、支持軸に栓蓋(軸取付部)がほぼ干渉せずに、パッキン部の全周が接触対象部に接触可能となるように構成することで実現可能である。
【0013】
手段2.前記被取付部から前記支持軸の上端部が外れて前記被係止部に前記係止部が係止されていない状態で前記栓蓋により前記排水口を閉状態としているときにおいては、前記槽体に貯留された水の水圧が前記栓蓋に付与されることで、弾性変形により前記被係止部に前記係止部が係止されて、前記被取付部に前記支持軸の上端部を取付けて前記支持軸の上端部に前記栓蓋を取付けた状態とすることが可能に構成されていることを特徴とする手段1に記載の排水栓装置。
【0014】
上記手段2によれば、被取付部から支持軸の上端部が外れた状態で栓蓋により排水口を閉状態としているときには、槽体に貯留された水の水圧によって、支持軸の上端部に栓蓋を取付けた状態とすることが可能に構成されている。これにより、特段の対処を行わずとも、槽体に貯留された水の水圧を利用して、支持軸の上端部に栓蓋が取付けられた元の状態、すなわち、栓蓋に引込力が加わることとなる、止水性の点でより好ましい状態に自然と戻すことができる。従って、被取付部から支持軸の上端部が外れた状態から正常状態に早急に回復して、水が無駄に消費されてしまうことを一層確実に防止でき、使用者にとっての使い勝手を飛躍的に高めることができる。また、引込力付与部を用いることによる、良好な止水性をより確実に得ることが可能となる。尚、この構成は、例えば、係止部や被係止部の形状、係止部の外径や被係止部の内径、係止部及び被係止部の径差、軸取付部の構成(例えば径方向に沿った弾性変形のしやすさ等)、支持軸の配置位置、パッキン部の形状や材質(例えば硬度等の特性)などを適宜調節することで実現可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】被係止部に係止部が係止され、栓蓋に対し引込力が加わる状態において、排水口を閉状態としたときにおける排水栓装置の断面図である。
図2】支持軸や軸取付部の形状を示すための栓蓋等の拡大断面図である。
図3】軸取付部から支持軸の上端部が外れて被係止部に係止部が係止されていない状態における排水栓装置の断面図である。
図4】浴槽に貯留された水の水圧が栓蓋に付与されることで、軸取付部に支持軸の上端部が挿通されて支持軸の上端部に栓蓋が取付けられた状態となることを示すための排水栓装置の断面図である。
図5】別の実施形態における支持軸等の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、一実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1に示すように、排水栓装置1は、槽体としての浴槽100に取付けられている。浴槽100は、その底面を構成する底壁部101を備えており、当該底壁部101には、排水口102が貫通形成されている。尚、図1では、浴槽100に水が溜まっていない状態を示す。
【0017】
排水栓装置1は、排水口部材2、配管3、アタッチメント部材4、支持軸機構5及び栓蓋6を備えている。
【0018】
排水口部材2は、円筒状に形成されており、自身の中心軸と排水口102の中心軸とがほぼ一致した状態で排水口102に挿設されている。排水口部材2は、その上端部において径方向外側に突出形成された鍔部21と、当該鍔部21よりも下方の外周に形成された雄ねじ部22とを備えている。
【0019】
配管3は、円筒状をなしており、排水口部材2とともに排水口102を通過する排水の流路を構成する。配管3は、その一端部(上端部)内周に前記雄ねじ部22を螺合可能な雌ねじ部31を備えている。そして、排水口102に排水口部材2を挿通しつつ雄ねじ部22を雌ねじ部31に螺合し、鍔部21及び配管3の上端面により底壁部101を挟み込むことで、排水口部材2及び配管3が接続されるとともに、両者が浴槽100に取付けられた状態となっている。
【0020】
尚、本実施形態において、鍔部21の下面及び底壁部101の上面の間、並びに、配管3の上端面及び底壁部101の下面の間には、それぞれ弾性変形可能な材料(例えば、樹脂やゴム等)により形成された環状のシール部材7,8が配置されている。当該シール部材7,8によって、排水口部材2及び配管3と浴槽100との間からの漏水防止が図られている。
【0021】
アタッチメント部材4は、排水の流路において支持軸機構5を保持するためのものである。アタッチメント部材4は、外環部41、連結部42及び保持部43を備えている。
【0022】
外環部41は、円環状をなしており、排水口部材2や配管3に対するアタッチメント部材4の取付部として機能する。本実施形態において、外環部41は、排水口部材2の内周に設けられた段部に載置されること等により、排水口部材2に取付けられている。尚、外環部41(アタッチメント部材4)を、配管3の内側部分に取付けてもよいし、排水口部材2から配管3にかけた両者の内側部分に取付けてもよい。
【0023】
連結部42は、外環部41の内周面と保持部43の外周面とを連結する部位であって、保持部43の周方向に沿って間隔をあけた状態で複数(本実施形態では、等間隔に4つ)設けられている。排水は、各連結部42間の隙間を通って下流へと流れることとなる。尚、連結部42の数や形状については適宜変更してもよい。
【0024】
保持部43は、全体として円筒状をなしており、自身の内周において支持軸機構5を保持している。
【0025】
支持軸機構5は、栓蓋6を上下動させるためのものであり、ケース部51及び支持軸52を備えている。ケース部51は、円筒状をなしており、上下動不能な状態で保持部43により保持されている。支持軸52は、円柱状をなしており、往復移動(上下動)可能な状態でケース部51の内周に配置されている。
【0026】
加えて、支持軸52は、図示しない操作部(例えば押しボタン等)の変位による駆動力を伝達するための伝達部材9(例えば、金属製のワイヤ)の端部が接触可能に構成されている。伝達部材9は、筒状のチューブ部材10の内周において往復移動可能な状態で配置されている。尚、前記操作部を備えてなる操作装置(図示せず)には、伝達部材9を往動(前記操作部側から支持軸機構5側に移動)した状態でロックすることにより、支持軸52を往動(上動)した状態でロックするための図示しないロック機構(例えば、スラストロック機構)が設けられている。
【0027】
また、図2に示すように、支持軸52の上端部外周には、外側に向けて突出する係止部521が設けられている。係止部521は、支持軸52の周方向に沿って連続的に延びる円環状をなしている。係止部521は、後述する被係止部6121に係止されることで、後述する軸取付部612から支持軸52が抜けて支持軸52から栓蓋6が外れることを防止する等の役割を有している。
【0028】
さらに、係止部521は、上方に向かって徐々に縮径する軸側第一傾斜部521aと、下方に向かって徐々に縮径する軸側第二傾斜部521bとを備えている。軸側第一傾斜部521aは、後述する軸取付部612に対し、支持軸52の上端部を容易に挿通可能とするために設けられている。一方、軸側第二傾斜部521bは、例えば栓蓋6の清掃を行うとき等において、軸取付部612からの支持軸52の取外しを比較的容易にするために設けられている。本実施形態では、軸取付部612に対する支持軸52の挿通容易性を高めつつ、軸取付部612から支持軸52が意図せず抜けることをより確実に防止すべく、支持軸52の中心軸CLを含む断面において、軸側第一傾斜部521aの傾斜角度α1が、軸側第二傾斜部521bの傾斜角度α2よりも小さなものとされている。
【0029】
図1に戻り、支持軸52の内部には、アブソーバスプリング53が配設されている。当該アブソーバスプリング53によって、栓蓋6を踏み付けた場合など、栓蓋6へと下向きの大きな力が加わった場合に、伝達部材9やアタッチメント部材4等に過大な負荷が加わらないように構成されている。尚、図1等では、アブソーバスプリング53及び次述する戻りばね54について、これらの断面のみをそれぞれ模式的に示している。
【0030】
また、ケース部51と支持軸52との間には、支持軸52に対しその復動(下動)方向に向けた引込力を付与する戻りばね54が設けられている。本実施形態では、戻りばね54が「引込力付与部」に相当する。
【0031】
栓蓋6は、排水口102を開閉するための栓である。栓蓋6は、樹脂等からなる栓蓋本体部61と、当該栓蓋本体部61の裏側に設けられ、弾性変形可能な材料(例えばゴムや樹脂等)により形成された環状のパッキン部62とを有している。
【0032】
栓蓋本体部61は、上面が上方に向けて膨出する円板状の蓋部611と、それぞれ当該蓋部611の下面(裏面)から下方に突出する円筒状の軸取付部612及びガイド部613とを備えている。本実施形態では、軸取付部612が「被取付部」に相当する。
【0033】
軸取付部612は、円筒状をなしており、ガイド部613の内側において当該ガイド部613と同心円状に設けられている。軸取付部612は、支持軸52に対する栓蓋6の被取付部として機能する部位であり、当該軸取付部612に支持軸52の上端部が挿通されて軸取付部612へと支持軸52が取付けられることで、支持軸52に対し栓蓋6が取付けられている。そのため、栓蓋6は、支持軸52の往動(上動)に伴い上動し、支持軸52の復動(下動)に伴い下動する。
【0034】
また、本実施形態において、軸取付部612は、上下方向に延びるとともに下端にて開口する複数(本実施形態では6本)のスリットを備えている。そして、軸取付部612は、当該スリットを利用して弾性変形することで、少なくとも後述する被係止部6121の形成箇所における内径を増大可能に構成されている。支持軸52に対する栓蓋6の取付(軸取付部612に対する支持軸52の挿通)は、軸取付部612を弾性変形させて当該軸取付部612の内径を増大させつつ行われる。尚、本実施形態における軸取付部612は、前記スリットによって相互に離間した複数(本実施形態では6つ)の湾曲板状部分が円筒状に配設されてなるものである。
【0035】
さらに、軸取付部612における下端側内周には、内側に向けて突出する被係止部6121が設けられている(図2参照)。本実施形態において、被係止部6121は、複数の前記湾曲板状部分に対し、軸取付部612の周方向に沿って1つおきに形成されている。すなわち、本実施形態では、3つの前記湾曲板状部分に被係止部6121が設けられている。一方、その他の前記湾曲板状部分は、被係止部6121を備えていないが、被係止部6121の設けられた前記湾曲板状部分よりも厚肉とされている。これにより、被係止部6121の設けられた前記湾曲板状部分を比較的容易に弾性変形可能としつつ、被係止部6121の設けられていない厚肉の前記湾曲板状部分によって、軸取付部612に対する支持軸52の取付状態が安定するようになっている。
【0036】
また、被係止部6121は、上方に向かって徐々に縮径する筒側第一傾斜部6121aと、下方に向かって徐々に縮径する筒側第二傾斜部6121bとを備えている。筒側第一傾斜部6121aは、軸側第二傾斜部521bと同様に、軸取付部612に対し、支持軸52の上端部を容易に挿通可能とするために設けられている。一方、筒側第二傾斜部6121bは、軸側第一傾斜部521aと同様に、例えば栓蓋6の清掃を行うとき等において、軸取付部612からの支持軸52の取外しを比較的容易にするために設けられている。
【0037】
尚、本実施形態において、支持軸52に対する栓蓋6の取付(軸取付部612に対する支持軸52の挿通)は、次のようにして行うことができる。すなわち、保持部43の外周にガイド部613を配置することで、軸取付部612及び支持軸52を同軸状に設置するとともに、筒側第一傾斜部6121aに対し軸側第一傾斜部521aを接触させた状態とする。その上で、軸取付部612の奥に支持軸52を入り込むように栓蓋6等に力を加えることにより、軸側第一傾斜部521bが筒側第一傾斜部6121aを摺動するとともに、係止部521が被係止部6121を径方向外側に押圧していくことで、軸取付部612がその内径を増大させるようにして弾性変形していく。そして、軸取付部612における被係止部6121の形成箇所の内径が係止部521の外径よりも大きなものになると、係止部521が被係止部6121を通過する(越える)とともに、軸取付部612の弾性変形が解除される。その結果、軸取付部612に対し支持軸52が挿通されて、被係止部6121に対し係止部521が係止可能な状態となることで、支持軸52に対し栓蓋6が正常に取付られた状態(正常取付状態)となる。
【0038】
一方、本実施形態においては、清掃等の必要に応じて、支持軸52からの栓蓋6の取外し(軸取付部612からの支持軸52の引抜き)を行うことができる。支持軸52からの栓蓋6の取外しは、次のようにして行うことができる。すなわち、軸取付部612から支持軸52を引き抜く方向の力を栓蓋6等に加えることにより、軸側第二傾斜部521bが筒側第二傾斜部6121bを摺動しつつ、軸取付部612がその内径を増大させるようにして弾性変形していく。そして最終的に、被係止部6121を係止部521が通過する(越える)ことで、支持軸52から栓蓋6を取外すことができる。
【0039】
図1に戻り、ガイド部613は、保持部43の外周に配置されており、支持軸52の往復移動(上下動)に伴い保持部43の外周に沿って移動する。ガイド部613は、栓蓋6の傾きや水平方向に沿った位置ずれの発生をより確実に防止した状態で、栓蓋6の往復移動をガイドする役割を担う。
【0040】
パッキン部62は、比較的厚肉であって栓蓋本体部61に対する取付部を構成する環状の基部621と、当該基部621の外周から外側に突出する鍔状のリップ部622とを備えている。本実施形態におけるリップ部622は、特段の力が加わっていない状態において、基部621に連接する根元側部位が外側に向けて徐々に下がる形状をなし、当該根元側部位に連接する外周側部位が外側に向けて横向きに延びる形状をなしている。また、本実施形態におけるリップ部622は、比較的薄肉であって、次述する隙間63側への変位が生じやすいものとされている。
【0041】
さらに、本実施形態では、蓋部611の下面とパッキン部62(リップ部622)の上面との間に、隙間63が形成されている。隙間63は、パッキン部62の変位空間として機能するものであり、隙間63の大きさ(蓋部611の下面とパッキン部62の上面との間の距離)は例えば1.5mm以上とされている。
【0042】
本実施形態では、パッキン部62が排水口部材2と接触している場合(つまり排水口102が閉状態である場合)、前記操作部を操作(例えば、押圧)することで伝達部材9が往動し、伝達部材9によって支持軸52が戻りばね54からの力に抗して押し上げられる。そして、支持軸52が十分に上動した状態で前記操作部への操作が解除されると、支持軸52が若干だけ下降しつつ、前記ロック機構によって伝達部材9が往動した状態でロックされる。その結果、支持軸52は上動した状態でロックされ、パッキン部62(リップ部622)が排水口部材2から離間した状態となることで、排水口102が開状態とされる。
【0043】
一方、この状態で前記操作部を再度操作すると、伝達部材9が再び往動し、前記ロック機構による伝達部材9のロックが解除される。そして、前記操作部に対する操作(例えば押圧)が解除されると、戻りばね54からの付勢力によって支持軸52は下動する。その結果、パッキン部62(リップ部622)の外周全域が排水口部材2におけるシール予定部位(設計上、排水口102を閉状態とするときに、パッキン部62との接触が想定されている部位)と接触することで、排水口102が閉状態とされる(図1参照)。本実施形態では、排水口部材2が「接触対象部」を構成する。
【0044】
また、特に本実施形態では、軸取付部612に支持軸52の上端部が挿通されて当該支持軸52の上端部に栓蓋6が取付けられている状態(つまり正常取付状態)においては、排水口102を閉状態としたときに、支持軸52の下部がその下方の部品から浮いた状態となって、戻りばね54から支持軸52に付与される引込力が、係止部521及び当該係止部521に係止された被係止部6121を介して栓蓋6に加わることとなる。これにより、排水口部材2に対しパッキン部62(リップ部622)が比較的大きな圧力で接触することとなる。
【0045】
加えて、本実施形態では、図3(尚、図3では、浴槽100に水が溜まっていない状態を示す)に示すように、軸取付部612から支持軸52の上端部が外れて被係止部6121に係止部521が係止されていない状態においても、排水口部材2へとパッキン部62を接触させて、栓蓋6により排水口102を閉状態とすることが可能に構成されている。より具体的には、軸取付部612から支持軸52の上端部が外れて被係止部6121に係止部521が係止されていない状態(尚、支持軸52は下動した状態とされる)において、パッキン部62の位置が排水口部材2におけるシール予定部位の位置と合うように栓蓋6を配置した場合、パッキン部62の全周が排水口部材2に接触可能に構成されている。
【0046】
この構成は、例えば、パッキン部62及び排水口部材2(特にシール予定部位)の位置関係や、被係止部6121及び係止部521の位置関係などを調節することによって、パッキン部62の位置が排水口部材2におけるシール予定部位の位置と合うように栓蓋6を配置したときに、支持軸52(係止部521)に栓蓋6(被係止部6121)がほぼ干渉することなく、パッキン部62の全周が排水口部材2と接触するように設定することで実現可能である。ここで、「ほぼ干渉しない」とは、支持軸52(係止部521)に栓蓋6(被係止部6121)が接触していない状態のみならず、支持軸(係止部521)に対し栓蓋6(被係止部6121)が僅かに接触している状態も含む。
【0047】
また、ここでいう「排水口102を閉状態とすることが可能」とは、浴槽100に対する貯水開始時の段階から、排水口102からの水の漏れ出しを全く生じさせることなく排水口102を閉状態とすることができる場合のみならず、浴槽100に対する貯水開始時からある程度の水が浴槽100に溜まるまでの間には排水口102から水の漏れ出しが僅かに生じ得るものの、浴槽100への貯水が進んで栓蓋6に加わる水圧が十分に増大し、排水口部材2に対するパッキン部62の接触圧力が増大したときには、排水口102からの水の漏れ出しがなくなって排水口102が閉状態となる場合も含む。
【0048】
さらに、本実施形態では、ガイド部613等によって、特段の位置合わせをせずとも、支持軸52を単に復動(下動)させることで、自ずとパッキン部62の位置が排水口部材2におけるシール予定部位の位置と合うように栓蓋6を配置することができるようになっている。従って、軸取付部612から支持軸52の上端部が外れて被係止部6121に係止部521が係止されていない状態になっていたとしても、使用者は、その事実を知っていようとなかろうと、支持軸52に栓蓋6が正常に取付けられている状態(正常取付状態)と同様に、単に支持軸52を復動(下動)させるための操作を行うことで、特段の対応を行うことなく、排水口102を閉状態とすることが可能になっている。
【0049】
加えて、本実施形態では、軸取付部612から支持軸52の上端部が外れて被係止部6121に係止部521が係止されていない状態で栓蓋6により排水口102を閉状態としているときにおいては、図4(尚、図4では、浴槽100に水が溜まっている状態を示し、水圧を黒塗り矢印で示す)に示すように、浴槽100に貯留された水の水圧が栓蓋6に付与されることで、軸取付部612に支持軸52の上端部を挿通させて、支持軸52の上端部に栓蓋6が正常に取付けられた状態(正常取付状態)とすることが可能に構成されている。より具体的には、軸取付部612から支持軸52の上端部が外れて被係止部6121に係止部521が係止されていない状態(尚、支持軸52は下動した状態とされる)において、浴槽100に貯留された水の水圧が栓蓋6に付与されることで、パッキン部62(リップ部62)が変位して栓蓋6が沈み込みつつ、軸取付部612に支持軸52の上端部が挿通され、その結果、被係止部6121に対し係止部512が係止可能となる、支持軸52の上端部に栓蓋6が正常に取付けられた状態(正常取付状態)とすることが可能に構成されている。
【0050】
この構成は、例えば、軸取付部612におけるその径方向に沿った弾性変形の生じやすさ、係止部521や被係止部6121の形状(例えば軸側第一傾斜部521aの傾斜角度α1など)、係止部521の外径や被係止部6121の内径、係止部521及び被係止部6121の径差(すなわち、被係止部6121に対する係止部521の掛かり代)、パッキン部62(リップ部622)における弾性変位の生じやすさ、並びに、最大限復動(下動)させた状態における支持軸52の配置位置等を調節することで実現可能である。
【0051】
以上詳述したように、本実施形態によれば、支持軸52の上端部に栓蓋6が取付けられている状態(正常取付状態)においては、排水口102を閉状態としたときに、戻りばね54から支持軸52に付与される引込力が、係止部521等を介して栓蓋6に加わる。従って、排水口部材2に対しパッキン部62(リップ部622)を比較的大きな圧力で接触させることができ、良好な止水性を得ることができる。
【0052】
一方、軸取付部612から支持軸52の上端部が外れて被係止部6121に係止部521が係止されていない状態であっても、栓蓋6により排水口102を閉状態とすることができる。従って、使用者が支持軸52の上端部から栓蓋6が外れていることに気付かず浴槽100を使用したとしても、排水口102を閉状態として、浴槽100に水を溜めることができる。その結果、水が無駄に消費されてしまうことをより確実に防止できるとともに、使用者にとっての使い勝手を向上させることができる。
【0053】
加えて、軸取付部612から支持軸52の上端部が外れた状態で栓蓋6により排水口102を閉状態としているときには、浴槽100に貯留された水の水圧によって、支持軸52の上端部に栓蓋6を取付けた状態(正常取付状態)とすることができる。これにより、特段の対処を行わずとも、浴槽100に貯留された水の水圧を利用して、支持軸52の上端部に栓蓋6が取付けられた元の状態、すなわち、栓蓋6に対し戻りばね54による引込力が加わることとなる、止水性の点でより好ましい状態に自然と戻すことができる。従って、軸取付部612から支持軸52の上端部が外れた状態から正常状態に早急に回復して、水が無駄に消費されてしまうことを一層確実に防止でき、使用者にとっての使い勝手を飛躍的に高めることができる。また、戻りばね54を用いることによる、良好な止水性をより確実に得ることが可能となる。
【0054】
尚、上記実施形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施してもよい。勿論、以下において例示しない他の応用例、変更例も当然可能である。
【0055】
(a)上記実施形態におけるパッキン部62の形状は一例であって、パッキン部62の形状を適宜変更してもよい。
【0056】
また、上記実施形態では、隙間63を形成することでパッキン部62を変位可能としているが、例えばパッキン部62を中空状とすることで当該パッキン部62を変位可能としてもよい。
【0057】
(b)上記実施形態において、軸側第一傾斜部521aのうち、軸取付部612に対する支持軸52の挿通時に被係止部6121と接触し得る部位は、上方に向けて一定の割合で外径が減少するテーパ形状をなしているが、当該部位の形状を適宜変更してもよい。従って、例えば、支持軸52の中心軸CLを含む断面において、外形線が外側に膨出する湾曲状をなしたり、異なる傾斜角度の外形線が複数存在する傾斜状をなしたりするように軸側第一傾斜部521aを構成してもよい。
【0058】
また、例えば、図5に示すように、軸側第一傾斜部521aのうち、軸取付部612に対する支持軸52の挿通時に被係止部6121と接触し得る部位は、その上部521a1における傾斜角度がその下部521a2における傾斜角度よりも大きなものとなるように構成してもよい。このように構成することで、水圧によって軸取付部612に支持軸52の上端部を挿通して被係止部6121に係止部521を係止させる場合において、係止部521が被係止部6121を越えてはいないものの、軸取付部612に支持軸52がある程度挿通されて、パッキン部62や軸取付部612の変形(変位)による上方に向けた反力がやや大きく生じる段階では、被係止部6121に対し傾斜角度の比較的小さな前記下部521a2を接触させた状態とすることができる。そのため、軸取付部612に支持軸52がある程度挿通された段階(軸取付部612に対する支持軸52の挿通過程の最終段階)において、係止部521が被係止部6121をより越えやすくなり、水圧によって支持軸52の上端部に栓蓋6を取付けた状態(正常取付状態)とすることがより容易に、かつ、より確実に可能となる。
【0059】
(c)上記実施形態において、軸取付部612は円筒状をなしているが、例えば、軸取付部612を、内周に被係止部6121(突起)を有してなる相対向する2枚の板状部分によって構成してもよい。この場合、これら板状部分の間に支持軸52を配置することによって、被係止部6121に対し係止部5231が係止した状態で、軸取付部612へと支持軸52を取付けることができる。
【0060】
また、上記実施形態では、被取付部としての円筒状の軸取付部612に対し、支持軸52の上端部が挿通されることで、軸取付部612に支持軸52が取付けられるように構成されている。これに対し、被取付部を棒状(突起状)部分とするとともに、支持軸52の上端部を筒状とし、支持軸52の上端部内周に前記被取付部が挿通されることで、当該被取付部に対し支持軸52が取付けられるように構成してもよい。この場合、支持軸52の内周に係止部を設け、被取付部の外周に被係止部を設けることとしてもよい。尚、被取付部に対する支持軸の取付手法については、必ずしも上述した手法に限定されず、適宜変更してもよい。
【0061】
(d)上記実施形態では、排水口部材2によって接触対象部が構成されているが、排水口部材2以外の部位によって接触対象部を構成してもよい。従って、例えば、浴槽100(底壁部101)によって接触対象部を構成してもよい。
【0062】
(e)上記実施形態では、槽体として浴槽100を例示しているが、本発明の技術思想を適用可能な槽体は浴槽に限定されるものではない。従って、例えば、洗面ボウルやキッチンの流し台などの浴槽以外の槽体に対し本発明の技術思想を適用してもよい。
【符号の説明】
【0063】
1…排水栓装置、2…排水口部材(接触対象部)、6…栓蓋、52…支持軸、54…戻りばね(引込力付与部)、61…栓蓋本体部、62…パッキン部、611…蓋部、100…浴槽(槽体)、102…排水口、521…係止部、612…軸取付部(被取付部)、613…ガイド部、6121…被係止部。
図1
図2
図3
図4
図5