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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-16
(45)【発行日】2024-04-24
(54)【発明の名称】獣毛製品製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/15 20060101AFI20240417BHJP
   D06M 101/10 20060101ALN20240417BHJP
【FI】
D06M15/15
D06M101:10
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020067804
(22)【出願日】2020-04-03
(65)【公開番号】P2021161584
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000196129
【氏名又は名称】西川株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100182006
【弁理士】
【氏名又は名称】湯本 譲司
(72)【発明者】
【氏名】松下 恒久
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-013273(JP,A)
【文献】国際公開第2005/095439(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/038814(WO,A1)
【文献】特開2001-322998(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 13/00 - 15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
選別された結果得られた羽毛の残滓を用意する工程と、
前記残滓を粉体化する工程と、
前記粉体化する工程において粉体化された前記残滓を液体と共に撹拌して前記残滓を液体化する工程と、
前記液体化する工程において液体化された前記残滓を水及び獣毛生地と共に加熱して前記獣毛生地に前記残滓を練り込む工程と、
前記残滓が練り込まれた前記獣毛生地を乾燥する工程と、
を備え
前記残滓を練り込む工程では、前記獣毛生地に対する前記羽毛の前記残滓の練り込みを、前記獣毛生地の染色工程を行う染色機によって行う、
獣毛製品製造方法。
【請求項2】
前記残滓を粉体化する工程では、前記残滓に苛性ソーダを混ぜて前記羽毛を分解し、前記残滓を粉体化して羽毛パウダーを得て、
前記残滓を液体化する工程では、酵素入りの前記液体と共に前記羽毛パウダーを泡立て器で撹拌することによって羽毛液を得て、
前記残滓を練り込む工程では、前記羽毛液を水及び前記獣毛生地と共に加熱する、
請求項1に記載の獣毛製品製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、獣毛製品製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2016-169455号公報には、獣毛製品の製造方法が記載されている。この獣毛製品の製造方法は、所定の化合物によって構成された溶液にカシミヤ、ウール、アンゴラ、モヘア及びアルパカのいずれかを含む被処理製品を浸漬する処理工程と、水洗い工程と、乾燥工程とを備える。この獣毛製品の製造方法では、上記の処理工程において、獣毛繊維のアミノ酸のタンパク質のアミノ基に対して当該溶液の化合物が反応することにより、獣毛繊維が立ち易くなり滑らかで柔らかな毛皮の風合いを出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-169455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述した獣毛製品の製造方法では、獣毛製品を柔らかな風合いとするために所定の化合物によって構成された特殊な溶液を用意する必要がある。従って、柔らかな風合いを出すためにコストがかかっているという現状がある。
【0005】
本開示は、柔らかな風合いを出すと共に、柔らかな風合いを出すためのコストを低減させることができる獣毛製品製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述した課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、前述した特殊な溶液に代えて羽毛の残滓を活用できることを見出した。これまで、羽毛は、羽毛布団等の製造のときに選別機によって選別されることがあり、選別の結果、良質な羽毛のみが羽毛製品に用いられ、良質でない羽毛の残滓は廃棄されているという現状があった。本発明者らは、羽毛の残滓を用いて獣毛製品の柔らかな風合いを出せることを見出した。本発明の一側面は、かかる知見に基づいてなされたものである。
【0007】
本開示に係る獣毛製品製造方法は、選別された結果得られた羽毛の残滓を用意する工程と、残滓を粉体化する工程と、粉体化する工程において粉体化された残滓を液体と共に撹拌して残滓を液体化する工程と、液体化する工程において液体化された残滓を水及び獣毛生地と共に加熱して獣毛生地に残滓を練り込む工程と、残滓が練り込まれた獣毛生地を乾燥する工程と、を備え、残滓を練り込む工程では、獣毛生地に対する羽毛の残滓の練り込みを、獣毛生地の染色工程を行う染色機によって行う
残滓を粉体化する工程では、残滓に苛性ソーダを混ぜて羽毛を分解し、残滓を粉体化して羽毛パウダーを得てもよい。残滓を液体化する工程では、酵素入りの液体と共に羽毛パウダーを泡立て器で撹拌することによって羽毛液を得てもよい。残滓を練り込む工程では、羽毛液を水及び獣毛生地と共に加熱してもよい。
【0008】
この獣毛製品製造方法では、羽毛の選別の結果得られた羽毛の残滓を粉体化し、粉体化した残滓を液体と共に撹拌して当該羽毛の残滓を液体化する。そして、液体化された羽毛の残滓が獣毛生地に練り込まれる。このように獣毛生地に羽毛の残滓が練り込まれることにより、羽毛に含まれるケラチンタンパク質が獣毛生地に入り込み、獣毛生地のスケールに同質の当該ケラチンタンパク質が付着する。獣毛生地のスケールに羽毛のケラチンタンパク質が付着すると、獣毛生地のスケールが立ち上がることにより、獣毛生地に柔らかな風合いを出すことができる。従って、羽毛の残滓を獣毛生地に練り込むことによって柔らかな風合いを出すことができるので、前述した溶液等の柔軟剤を不要とすることができる。従って、羽毛の残滓を廃棄せずに、羽毛の残滓を柔軟剤に代えて使用できるので、羽毛の残滓を有効活用できると共にコストの低減に寄与する。また、この獣毛製品製造方法では、羽毛の残滓を粉体化し、粉体化した羽毛の残滓を液体化して獣毛生地に練り込む。従って、獣毛生地に対して満遍なく液体化した羽毛を浸透させることができる。更に、液体化した羽毛の残滓は、水及び獣毛生地と共に加熱されて獣毛生地に練り込まれることにより、獣毛生地により確実且つ十分に羽毛のケラチンタンパク質をしみこませることができる。その結果、より柔らかな風合いを備えた獣毛製品を製造することができる。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、柔らかな風合いを出すと共に、柔らかな風合いを出すためのコストを低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】(a)は、羽毛の残滓を模式的に示す図である。(b)は、獣毛製品を模式的に示す図である。
図2図2は、実施形態に係る獣毛製品製造方法の各工程の例を示すフローチャートである。
図3図3は、粉体化された羽毛の残滓が袋に収容された状態を示す図である。
図4図4は、液体化された羽毛の残滓が撹拌された状態を示す図である。
図5図5は、獣毛生地に液体化された羽毛の残滓を練り込む染色機を模式的に示す斜視図である。
図6図6は、獣毛生地を起毛する起毛機を模式的に示す斜視図である。
図7図7(a)は、実施例に係る獣毛生地を50倍に拡大した顕微鏡写真を示す。図7(b)は、比較例に係る獣毛生地を50倍に拡大した顕微鏡写真を示す。
図8図8(a)は、実施例に係る獣毛生地を500倍に拡大した顕微鏡写真を示す。図8(b)は、比較例に係る獣毛生地を500倍に拡大した顕微鏡写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下では、図面を参照しながら本開示に係る獣毛製品製造方法の実施形態について説明する。図面の説明において、同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、図面は、理解の容易のため、一部を簡略化又は誇張して描いている場合があり、寸法比率等は図面に記載のものに限定されない。
【0012】
本開示において、「獣毛」は、動物の毛を示しており、例えば、カシミヤ、ウール(羊毛)、アルパカ、アンゴラ、モヘヤ、キャメル(ラクダ)及びこれらの混紡を含む。「獣毛生地」は、獣毛によって形成された生地を示しており、例えば、獣毛によって形成された織り生地(織物)、及び、獣毛によって形成された編み生地(編物)を含んでいる。「獣毛製品」は、獣毛によって製造されたものを示しており、例えば、マフラー、コート、セーター、ジャージ、帽子、手袋、ソックス、コート、ジャケット、パンツ、パジャマ、スカーフ、毛布、タオル、タオルケット、ニット及びガーゼを含む。
【0013】
本開示に係る獣毛製品は、羽毛の残滓を含んで製造される。「残滓」とは、あるものからその一部を選別した後に残された残部のものを示している。本開示においては、羽毛の残滓が粉体化されて、その後液体化される。「粉体化」とは、あるものを粉状(パウダー状)にすることを示している。「液体化」とは、あるものを液状にすることを示している。本開示において、獣毛生地には羽毛の残滓が練り込まれる。「残滓を練り込む」とは、粉体化及び液体化された羽毛の残滓を獣毛生地にしみこませることを示している。
【0014】
図1(a)は、羽毛の残滓Fを模式的に示す図である。図1(b)は、羽毛の残滓Fを含んで製造される獣毛製品1を示している。獣毛製品1は、例示的なカシミヤのマフラーである。本実施形態では、獣毛製品1が羽毛の残滓Fを用いて製造される例について説明する。
【0015】
羽毛は、例えば、鳥(グース又はダック等)の綿毛であるダウン及びフェザーを含んでいる。羽毛は選別機に投入されて選別され、選別機では良質な羽毛のみが抽出される。選別機は、例えば、羽毛を収容する複数の区画を有し、羽毛にエアが吹きつけられて最も遠くの区画に飛んだ羽毛が良質な羽毛として抽出される。
【0016】
抽出される羽毛は、例えば、良質なダウンであって、羽毛布団等の羽毛製品に充填されて使用に供される。一方、選別機から抽出されずに残された羽毛の残滓Fは、選別機において最も遠くまで飛ばなかった羽毛を示している。羽毛の残滓Fは、例えば、フェザー、ファイバ-及び(未熟な)ダウンの少なくともいずれかを含んでいる。
【0017】
次に、本実施形態に係る獣毛製品の製造方法について、図2に示されるフローチャートを参照しながら説明する。図2に示されるフローチャートは、獣毛製品1の製造方法の一例を示しており、羽毛の残滓Fを細かくして獣毛生地に練り込むことによって獣毛製品1を完成させる。すなわち、獣毛製品1は、羽毛パウダーP(図3参照)入りの獣毛製品である。
【0018】
まず、羽毛の残滓Fの用意及び残滓Fの洗浄を行う(羽毛の残滓を用意する工程、ステップS1)。このとき、前述した選別機において羽毛の抽出後に残存した羽毛の残滓F(フェザー、ファイバー及びダウン)を回収する。例えば、回収した羽毛の残滓Fを洗浄機に投入して羽毛から不純物を除去して羽毛の洗浄を行う。
【0019】
次に、羽毛の残滓Fを粉体化する(羽毛の残滓を粉体化する工程、ステップS2)。例えば、図1(a)及び図3に示されるように、羽毛の残滓Fに苛性ソーダを混ぜて羽毛を分解し、粉体化して羽毛パウダーP(羽毛残滓パウダー)を得てもよい。また、酵素による羽毛の微細化によって羽毛を粉体化してもよい。
【0020】
上記のように、羽毛の残滓Fからは微細粉としての羽毛パウダーPが得られる。羽毛パウダーPの粉の直径(粒径)は、例えば、0.002μm以上且つ1.000μm以下で親水性を持たせたものである。なお、羽毛パウダーPは、例えば、羽毛の残滓Fが破砕機で破砕されることによって得られるものであってもよい。そして、羽毛パウダーPを洗浄してもよい。
【0021】
続いて、羽毛パウダーPを液体化する(残滓を液体化する工程、ステップS3)。具体的には、羽毛パウダーPの重量が後述する染色機D(図5参照)に投入される獣毛生地の重量の0.1%以上且つ10%以下(又は、3%以上且つ5%)となるように羽毛パウダーPを計量し、計量した羽毛パウダーPを液体化する。
【0022】
図3及び図4に示されるように、羽毛パウダーPを所定の液体と共に撹拌して羽毛の残滓Fを液体化して羽毛液Lを得る。羽毛液Lは、例えば、酵素入りの液体(一例として、水であってもよい)と共に羽毛パウダーPが泡立て器Mで撹拌されることによって得られる。上記の酵素は、例えば、羽毛パウダーPを溶解して液体化する酵素であって、羽毛の残滓Fを羽毛液Lとすることによって獣毛生地に対する羽毛成分のなじみを良好にすることができる。
【0023】
そして、図4及び図5に示されるように、羽毛液Lを、例えば、染色機Dに投入する(ステップS4)。このとき、例えば、染色機Dの蓋D1を開けてバケツBに入れた羽毛液LをバケツBを傾けることによって染色機Dの内部に入れる。染色機Dの内部には水が収容されており、染色機Dの内部の水に羽毛液Lを混入させる。
【0024】
次に、染色機Dの内部の水及び羽毛液Lを加熱すると共に染色機Dの内部に獣毛生地を入れる。そして、獣毛生地を水及び羽毛液Lと共に染色機Dの中で撹拌することによって、羽毛液Lを獣毛生地に練り込む(残滓を練り込む工程、ステップS5)。獣毛生地への羽毛液Lの練り込みは、獣毛生地の染色工程と共に行ってもよいし、獣毛生地の染色工程とは別に行ってもよい。獣毛生地に対する染色をより効果的に行う観点では、獣毛生地への羽毛液Lの練り込みは、染色工程とは別に行った方が好ましい。
【0025】
獣毛生地の染色工程は、獣毛生地への羽毛液Lの練り込みよりも前に行われてもよい。この場合、練り込む工程よりも前の段階で、染料と共に獣毛生地を染色機Dに入れて染色機Dによって獣毛生地の染色を行う。また、獣毛生地の染色工程は、獣毛生地への羽毛液Lの練り込みよりも後に行われてもよい。この場合、練り込む工程よりも後の段階で、染料と共に獣毛生地を染色機Dに入れて染色機Dによって獣毛生地の染色を行う。このように、獣毛生地への染色のタイミングは適宜変更可能である。なお、獣毛生地の種類によっては、染色工程を省略することも可能である。
【0026】
ステップS5では、獣毛生地を羽毛液L入りの水に浸してもよい。獣毛生地の毛のキューティクルを広げるために染色機Dの内部の温度を60℃以上に昇温してもよい。このとき、獣毛生地に対する羽毛液Lのケラチンの浸透性を高めるために水及び羽毛液Lを(例えば苛性ソーダを染色機Dの内部に入れて)アルカリ化してもよい。
【0027】
獣毛製品への羽毛液Lの練り込みは、例えば、60℃以上且つ110℃以下の温度で20分以上且つ40分以下加熱を行いながら染色機Dの内部で獣毛製品、羽毛液L及び水を撹拌することによって行われる。このとき、羽毛のエッセンス(羽毛成分)が含まれた羽毛液Lが獣毛生地に練り込まれることにより、羽毛成分入りの獣毛製品が得られる。
【0028】
獣毛製品を羽毛液L及び水と共に一定時間(例えば20分以上且つ40分以下)加熱して獣毛製品に羽毛成分を練り込んだ後には、獣毛製品を脱水し、その後獣毛製品を乾燥させる(ステップS6、ステップS7)。このとき、例えば、獣毛製品を高所に吊り上げて獣毛製品に温風を吹き付けた状態とする。また、獣毛製品をテンターに入れて獣毛製品を引っ張りながら獣毛製品を加熱してもよい。
【0029】
獣毛製品を乾燥させた後には、例えば、獣毛製品を起毛する(ステップS8)。図6に示されるように、獣毛製品1は、例えば、起毛機Rに通されて起毛される。起毛機Rは、例えば、表面に複数の針が突出するローラR1を備える針布起毛機であって、ローラR1の表面に獣毛製品1が当てられることによって獣毛製品1が起毛する。
【0030】
獣毛製品1は、ローラR1の表面に複数回当てられて起毛されることにより、毛羽立って柔らかくなる。上記のように、獣毛製品1の起毛を行った後には、例えば、遊び毛のカットが行われる。そして、裁断を行って1枚1枚の獣毛製品1に分断し、その後、縫製及び検品を行って一連の工程を完了する。
【0031】
次に、本実施形態に係る獣毛製品製造方法から得られる作用効果について詳細に説明する。この獣毛製品製造方法では、羽毛の選別の結果得られた羽毛の残滓Fを粉体化し、粉体化した残滓Fを液体と共に撹拌して羽毛の残滓Fを液体化する。そして、液体化された羽毛の残滓Fが獣毛生地に練り込まれる。
【0032】
このように獣毛生地に羽毛の残滓Fが練り込まれることにより、羽毛に含まれるケラチンタンパク質が獣毛生地に入り込み、獣毛生地の毛のスケールに同質の当該ケラチンタンパク質が付着する(同質重合する)。獣毛生地のスケールに羽毛のケラチンタンパク質が付着することにより、獣毛生地に柔らかな風合い、及び嵩高性を出すことができる。
【0033】
従って、羽毛の残滓Fを獣毛生地に練り込むことによって柔らかな風合いを出すことができるので、化学薬品からなる柔軟剤を不要とすることができる。従って、羽毛の残滓Fを廃棄せずに、羽毛の残滓Fを柔軟剤に代えて使用できるので、羽毛の残滓Fを有効活用できると共にコストの低減に寄与する。更に、羽毛の残滓Fを廃棄せずに残滓Fを利活用することにより、環境への負荷を低減することができる。このように、羽毛の残滓Fを利活用することにより、環境に配慮した製品の製造が可能となる。
【0034】
また、この獣毛製品製造方法では、羽毛の残滓Fを粉体化し、粉体化した羽毛の羽毛パウダーPを液体化して羽毛液Lとした状態で獣毛生地に練り込む。従って、獣毛生地に対して満遍なく液体化した羽毛を浸透させることができる。更に、液体化した羽毛の残滓Fは、水及び獣毛生地と共に加熱されて獣毛生地に練り込まれることにより、獣毛生地により確実且つ十分に羽毛のケラチンタンパク質を混ぜ込むことができる。その結果、より柔らかな風合いを備えた獣毛製品1を製造することができる。
【0035】
本実施形態では、羽毛を羽毛パウダーPとし、羽毛パウダーPを液体化した結果得られた羽毛液Lを獣毛製品に練り込んでいる。羽毛液Lに含まれるケラチンタンパク質は、獣毛生地に対して親和性を持つ界面活性剤として機能する。獣毛生地もケラチンタンパク質を含んでおり、羽毛のケラチンタンパク質は獣毛生地のケラチンタンパク質との親和性が高い。
【0036】
従って、羽毛の残滓Fに含まれるケラチンタンパク質の微細粉(例えば羽毛パウダーP)が界面活性剤の作用に伴って生じるファンデルワールス力によって獣毛生地の毛に付着する。そして、当該微細粉が獣毛生地の毛の毛先まで届き、獣毛生地の毛が立ち上がって獣毛生地が空気を含むことにより、獣毛生地が柔らかくなる効果が得られる。
【0037】
図7(a)は、羽毛の残滓Fが練り込まれた本実施形態の実施例に係る獣毛生地の50倍の顕微鏡写真を示しており、図7(b)は、羽毛成分を含まない比較例に係る獣毛生地の50倍の顕微鏡写真を示している。図7(a)の獣毛生地は、羽毛パウダーPの重量が獣毛生地の重量の3%であって、25分加熱を行いながら染色機Dの内部で羽毛成分を練り込ませたものである。図7(a)及び図7(b)に示されるように、羽毛成分を含まない比較例の獣毛生地では繊維が固まっている箇所があって空気が通りづらい箇所があるのに対し、羽毛成分を含む図7(a)の獣毛生地では繊維がばらけていて繊維間に空気が通りやすく多くの空気を含んでいることが分かる。従って、羽毛成分が練り込まれた獣毛生地では比較例よりもふんわりとした風合いを得られる。
【0038】
図8(a)は、図7(a)のものと同一の羽毛成分を含んだ獣毛生地の500倍の顕微鏡写真を示しており、図8(b)は、図7(b)のものと同一の羽毛成分を含まない獣毛生地の500倍の顕微鏡写真を示している。図8(a)の実施例に係る獣毛生地では、図8(b)の比較例に係る獣毛生地と比較して、獣毛生地の毛のスケールがよく立ち上がっていることが分かる。このように羽毛成分入りの獣毛生地では、羽毛成分なしの獣毛生地と比較して多くのスケールが立ち上がっているので、柔らかな風合いを出すことができる。従って、羽毛成分入りの(羽毛パウダーPの羽毛成分を含む)柔らかい且つ滑らかな獣毛製品1が得られると共に、羽毛の残滓Fを獣毛製品1の製造において有効活用することができる。
【0039】
本実施形態に係る獣毛製品製造方法では、獣毛製品に対する羽毛の残滓Fの練り込みを染色機Dによって行う。従って、繊維製品に染色を行う染色機Dを獣毛製品への羽毛の残滓Fの練り込みに有効利用することができる。
【0040】
以上、本開示に係る獣毛製品製造方法の実施形態について説明した。しかしながら、本開示に係る獣毛製品製造方法は、前述の実施形態に限られず適宜変更可能である。すなわち、本開示に係る獣毛製品製造方法の各工程の内容、種類、数及び順序は、前述した実施形態の例に限られず適宜変更可能である。
【0041】
例えば、前述の実施形態では、獣毛製品を乾燥させた後に獣毛製品を起毛する例について説明した。しかしながら、獣毛製品の種類によっては(例えば、獣毛製品がガーゼ又はニットの場合には)、起毛の工程を省略することができる。なお、獣毛製品に対して起毛を行うと、羽毛成分が若干除去される懸念があるので、より柔らかい風合いを出すという観点では、起毛の工程を有しない方が好ましい。
【0042】
また、前述の実施形態では、染色機Dに羽毛液Lと獣毛生地を入れて獣毛生地に対する羽毛成分の練り込みを行う例について説明した。しかしながら、染色機D以外のものを用いて羽毛成分の練り込みを行ってもよい。例えば、洗濯機に羽毛液Lと獣毛生地を入れて獣毛生地に対する羽毛成分の練り込みを行うことも可能である。
【符号の説明】
【0043】
1…獣毛製品、B…バケツ、D…染色機、D1…蓋、F…残滓、L…羽毛液、M…泡立て器、P…羽毛パウダー、R…起毛機、R1…ローラ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8