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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-16
(45)【発行日】2024-04-24
(54)【発明の名称】高度不飽和脂肪酸含有水溶性製剤
(51)【国際特許分類】
   C11B 5/00 20060101AFI20240417BHJP
   C11C 3/00 20060101ALI20240417BHJP
   A23D 9/00 20060101ALI20240417BHJP
   A61K 8/36 20060101ALI20240417BHJP
   A61K 8/92 20060101ALI20240417BHJP
   A61K 8/67 20060101ALI20240417BHJP
   A61K 8/37 20060101ALI20240417BHJP
   A61K 8/34 20060101ALI20240417BHJP
   A61K 8/35 20060101ALI20240417BHJP
   A61K 8/49 20060101ALI20240417BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20240417BHJP
   A23L 33/115 20160101ALN20240417BHJP
【FI】
C11B5/00
C11C3/00
A23D9/00 518
A61K8/36
A61K8/92
A61K8/67
A61K8/37
A61K8/34
A61K8/35
A61K8/49
A61Q19/00
A23L33/115
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020132805
(22)【出願日】2020-08-05
(65)【公開番号】P2022029516
(43)【公開日】2022-02-18
【審査請求日】2023-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】592007612
【氏名又は名称】横浜油脂工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井口 敦博
(72)【発明者】
【氏名】松原 健浩
(72)【発明者】
【氏名】染矢 慶太
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-154576(JP,A)
【文献】特開平09-272892(JP,A)
【文献】国際公開第2004/048496(WO,A1)
【文献】特開平09-111237(JP,A)
【文献】特開平06-298642(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11B 1/00- 15/00
C11C 1/00- 5/02
A23D 7/00- 9/06
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00- 99/00
A23L 5/40- 33/29
C09K15/00- 15/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)高度不飽和脂肪酸又は高度不飽和脂肪酸を含有する油脂と、
(B)(b1)フェノール性水素を有する油溶性のラジカル捕捉型酸化防止剤及び(b2)酸化-還元型を示す油溶性の酸化防止剤と、
(C)(c1)フェノール性水素を有する水溶性のラジカル捕捉型酸化防止剤及び/又は(c2)酸化-還元型を示す水溶性の酸化防止剤(但し、アスコルビン酸、エリソルビン酸を除く。)とを含有する高度不飽和脂肪酸含有水溶性製剤であって、
(A)の含有量が10質量%~40質量%、(B)及び(C)の合計含有量が0.01質量%~10質量%であり、(B)/(C)の比率が0.67~5であり、((b1)+(c1))/((b2)+(c2))の比率が0.2~5であり、
(c2)が、アスコルビン酸金属塩、エリソルビン酸金属塩のうちの1種又は2種以上であることを特徴とする高度不飽和脂肪酸含有水溶性製剤。
【請求項2】
(b1)が、トコフェロール、没食子酸脂肪酸エステル、BHA、BHTのうちの1種又は2種以上である請求項1に記載の高度不飽和脂肪酸含有水溶性製剤。
【請求項3】
(b2)が、アスコルビン酸脂肪酸エステル、ユビキノンのうちの1種又は2種以上である請求項1又は2に記載の高度不飽和脂肪酸含有水溶性製剤。
【請求項4】
(c1)が、茶カテキン、アントシアニン、クロロゲン酸のうちの1種又は2種以上である請求項1~3のいずれか1項に記載の高度不飽和脂肪酸含有水溶性製剤。
【請求項5】
(A)の高度不飽和脂肪酸が、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)、α-リノレン酸のいずれかを含む請求項1~のいずれか1項に記載の高度不飽和脂肪酸含有水溶性製剤。
【請求項6】
前記製剤の形態が乳液である請求項1~のいずれか1項に記載の高度不飽和脂肪酸含有水溶性製剤。
【請求項7】
前記製剤の形態が粉体である請求項1~のいずれか1項に記載の高度不飽和脂肪酸含有水溶性製剤。
【請求項8】
(C)が(c1)フェノール性水素を有する水溶性のラジカル捕捉型酸化防止剤及び(c2)酸化-還元型を示す水溶性の酸化防止剤(但し、アスコルビン酸、エリソルビン酸を除く。)を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の高度不飽和脂肪酸含有水溶性製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高度不飽和脂肪酸、又は高度不飽和脂肪酸を含有する油脂類を酸化に対して安定的に水溶化し、水を含む加工食品等に添加、配合することができる高度不飽和脂肪酸含有水溶性製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)、アラキドン酸(ARA)、α-リノレン酸、γ-リノレン酸等の高度不飽和脂肪酸は動脈硬化予防や脳機能の活性化等の生体調節機能に関する報告が数多く有り、その生理機能が注目されている。これらの高度不飽和脂肪酸は遊離脂肪酸の形態のみならずアルキルエステル、トリアシルグリセロール、リン脂質、糖脂質等種々の油脂形態で生体中に存在するが、一般的には魚油やシソ油、アマニ油等の植物油といったトリアシルグリセロールの形態の油脂として供給される。一方、飲料をはじめとする加工食品には多量の水分が含まれるため、油脂類はそのままの状態での配合は難しく、乳化・分散等の製剤加工が必要で、加工された油脂含有製剤は乳液や粉末等の製剤形態が存在する。
【0003】
一方、高度不飽和脂肪酸は不飽和結合が多いため酸化に対して不安定であり、製剤加工や保存中に酸化変性を受け、臭気劣化や着色等の品質低下が発生するとう問題を有する。一般的に油脂の酸化防止にはトコフェロールやアスコルビン酸、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)やブチルヒドロキシトルエン(BHT)といった酸化防止剤の利用が一般的ではあるが、不飽和結合が多い高度不飽和脂肪酸含有油脂への単純な添加では十分な効果を得ることができず、さらに乳化物等の極性が異なる化合物の製剤の系では、均一系とは異なる酸化防止作用を示すことも報告されている(非特許文献1)。
【0004】
高度不飽和脂肪酸を含む水溶化製剤の安定化には、これまで種々の方法が報告されており、例えば油脂と魚介エキスにトコフェロール、リン脂質、アスコルビン酸等を添加しポリグリセリン脂肪酸エステル等の乳化剤で乳化する方法(特許文献1)、水相中にアスコルビン酸、エリソルビン酸等の水溶性抗酸化剤を添加し、油相中にゴマ油、アスコルビン酸エステル、トコフェロール等の油溶性抗酸化剤含有成分を添加し乳化する方法(特許文献2)、アスコルビン酸、カテキン等の酸化防止剤と多価アルコールを添加し、HLB10以上のポリグリセリン脂肪酸エステルと蔗糖脂肪酸エステル、レシチンを用いて乳化物を得る方法(特許文献3)、モノグリセリドを含む高度不飽和脂肪酸にトコフェロールやリン脂質を加え、さらにカゼインや大豆タンパク等を加えた乳化物を乾燥させることで得られた粉体(特許文献4)、高度不飽和脂肪酸含有油脂にミセル状カゼインと水溶性酸化防止剤、油溶性酸化防止剤、トレハロース等の糖類とともに乳化剤を用いて乳化後、乾燥させて粉体を得る方法(特許文献5)、ゴマの抗酸化成分をアスコルビン酸又はアスコルビン酸エステルとともに配合する方法(特許文献6)などが開示されているが、いずれも抗酸化成分の種類や配合量のバランスの面で酸化安定性が十分とは言えない。
【0005】
一方、ゼラチン架橋酵素を用いて高度不飽和脂肪酸をマイクロカプセル化して安定な粉体を得る技術も開示されているが(特許文献7)、架橋化されたマイクロカプセルは水に不溶なため、水分が多い食品へ応用することは難しいという課題を有する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】W. Porte et al, J. Agric. Food Chem., 37, 615 (1989)
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平5-86395号公報
【文献】特開平6-298642号公報
【文献】特開平7-227227号公報
【文献】特開平6-172782号公報
【文献】特開2019-41721号公報
【文献】国際公開第2004/048496号
【文献】特開2019-68744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、水溶性を示さず、さらに酸化安定性が低い高度不飽和脂肪酸又は高度不飽和脂肪酸を含有する油脂を安定的に水溶化し、水を含む加工食品等に対して安定的に配合しうる高度不飽和脂肪酸含有水溶性製剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、(A)高度不飽和脂肪酸又は高度不飽和脂肪酸を含有する油脂、(B)(b1)フェノール性水素を有する油溶性のラジカル捕捉型酸化防止剤及び/又は(b2)酸化-還元型を示す油溶性の酸化防止剤、(C)(c1)フェノール性水素を有する水溶性のラジカル捕捉型酸化防止剤及び/又は(c2)酸化-還元型を示す水溶性の酸化防止剤を含有し、水に対して良好な溶解性を示す乳液もしくは粉体製剤であって、(A)の含有量が5質量%~60質量%、(B)及び(C)の合計含有量が0.01質量%~10質量%であり、(B)/(C)の比率が0.2~5であり、((b1)+(c1))/((b2)+(c2))の比率が0.2~5とすることで、高度不飽和脂肪酸又は高度不飽和脂肪酸を含有する油脂を水を含む加工食品等に対して安定的配合しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は以下のとおりである。
[1] (A)高度不飽和脂肪酸又は高度不飽和脂肪酸を含有する油脂と、
(B)(b1)フェノール性水素を有する油溶性のラジカル捕捉型酸化防止剤及び/又は(b2)酸化-還元型を示す油溶性の酸化防止剤と、
(C)(c1)フェノール性水素を有する水溶性のラジカル捕捉型酸化防止剤及び/又は(c2)酸化-還元型を示す水溶性の酸化防止剤(但し、アスコルビン酸、エリソルビン酸を除く。)とを含有する高度不飽和脂肪酸含有水溶性製剤であって、
(A)の含有量が5質量%~60質量%、(B)及び(C)の合計含有量が0.01質量%~10質量%であり、(B)/(C)の比率が0.2~5であり、((b1)+(c1))/((b2)+(c2))の比率が0.2~5であることを特徴とする高度不飽和脂肪酸含有水溶性製剤。
[2] (b1)が、トコフェロール、没食子酸脂肪酸エステル、BHA、BHTのうちの1種又は2種以上である前記[1]記載の高度不飽和脂肪酸含有水溶性製剤。
[3] (b2)が、アスコルビン酸脂肪酸エステル、ユビキノンのうちの1種又は2種以上である前記[1]又は[2]記載の高度不飽和脂肪酸含有水溶性製剤。
[4] (c1)が、茶カテキン、アントシアニン、クロロゲン酸のうちの1種又は2種以上である前記[1]~[3]のいずれかに記載の高度不飽和脂肪酸含有水溶性製剤。
[5] (c2)が、アスコルビン酸金属塩、エリソルビン酸金属塩のうちの1種又は2種以上である前記[1]~[4]のいずれかに記載の高度不飽和脂肪酸含有水溶性製剤。
[6] (A)の高度不飽和脂肪酸が、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)、α-リノレン酸のいずれかを含む前記[1]~[5]のいずれかに記載の高度不飽和脂肪酸含有水溶性製剤。
[7] 前記製剤の形態が乳液である前記[1]~[6]のいずれかに記載の高度不飽和脂肪酸含有水溶性製剤。
[8] 前記製剤の形態が粉体である前記[1]~[6]のいずれかに記載の高度不飽和脂肪酸含有水溶性製剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、従来の高度不飽和脂肪酸含有水溶性製剤化技術と比較して酸化安定性や水を含む加工食品中での配合安定性に優れており、水を含む加工食品分野において高度不飽和脂肪酸又は高度不飽和脂肪酸を含有する油脂を効果的に添加、配合しうることを特徴とする新規技術である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に用いられる(A)高度不飽和脂肪酸又は高度不飽和脂肪酸を含有する油脂は、食品又は食品添加物として用いられるものであればその種類に特に限定はないが、例えば高度不飽和脂肪酸としては、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)、アラキドン酸(ARA)、α-リノレン酸、γ-リノレン、エイコサテトラエン酸(ETA)、エイコサトリエン酸(ETE)、リノール酸、ステアリドン酸(SDA)などが挙げられ、油脂としては、トリアシルグリセロール、リン脂質、糖脂質などが挙げられ、これらを1種又は2種以上用いることができる。なお、高度不飽和脂肪酸とは、不飽和結合を2つ以上持つ脂肪酸をいう。
【0013】
本発明の高度不飽和脂肪酸含有水溶性製剤における上記(A)高度不飽和脂肪酸又は高度不飽和脂肪酸を含有する油脂の含有量は、本発明の高度不飽和脂肪酸含有水溶性製剤全体に対して、5質量%~60質量%、好ましくは7質量%~50質量%、さらに好ましくは10質量%~40質量%である。配合量が5質量%未満であると多くの配合量が必要となり経済性に問題が生じ、また60質量%を超える場合は分離や油浮き等の製剤の安定性に問題が生じ好ましくない。
【0014】
本発明に用いられる(b1)フェノール性水素を有する油溶性のラジカル捕捉型酸化防止剤は、食品又は食品添加物として用いられるものであればその種類に特に限定はなく、例えばトコフェロール類、没食子酸エステル類、BHA(ブチルヒドロキシアニソール)、BHT(ジブチルヒドロキシトルエン)、油溶性カテキン等が挙げられ、これらを1種又は2種以上用いることができる。
【0015】
本発明に用いられる(b2)酸化-還元型を示す油溶性の酸化防止剤は、食品又は食品添加物として用いられるものであればその種類に特に限定はなく、ユビキノン類、アスコルビン酸エステル類等が挙げられ、これらを1種又は2種以上用いることができる。
【0016】
本発明に用いられる(c1)フェノール性水素を有する水溶性のラジカル捕捉型酸化防止剤は、食品又は食品添加物として用いられるものであればその種類に特に限定はなく、アントシアニン類、茶抽出物、コーヒー抽出物等の水溶性ポリフェノール類が挙げられ、これらを1種又は2種以上用いることができる。
【0017】
本発明に用いられる(c2)酸化-還元型を示す水溶性の酸化防止剤は、食品又は食品添加物として用いられるものであればその種類に特に限定はなく、アスコルビン酸類及びその塩類、エリソルビン酸類及びその塩類等、特にアスコルビン酸金属塩、エリソルビン酸金属塩が挙げられ、これらを1種又は2種以上用いることができる。但し、アスコルビン酸、エリソルビン酸は、過酸化物価を上昇させることになるため、上記酸化防止剤から除くことが好ましい。
【0018】
上記(b1)と(b2)の合計を(B)、同じく(c1)と(c2)の合計を(C)とするとき、本発明に用いられる酸化防止剤の合計量である(B)及び(C)の合計量は、本発明の高度不飽和脂肪酸含有水溶性製剤全体に対して、好ましくは0.01質量%~10質量%であり、より好ましくは0.03質量%~8質量%、さらに好ましくは0.05質量%~6質量%である。配合量が0.01質量%未満であると酸化防止効果が十分ではなく、また10質量%を超える場合は製剤全体のバランスが崩れ分離の発生や着色等の不具合が生じ好ましくない。
【0019】
本発明に用いられる(B)と(C)の比率である(B)/(C)は、好ましくは0.2~5であり、より好ましくは0.3~4であり、さらに好ましくは0.4~3である。前記比率が0.2未満又は5を超えると十分な酸化防止効果が得られず好ましくない。
【0020】
本発明に用いられる((b1)+(c1))/((b2)+(c2))の比率は、好ましくは0.2~5であり、より好ましくは0.3~4であり、さらに好ましくは0.4~3である。前記比率が0.2未満又は5を超えると十分な酸化防止効果が得られず好ましくない。
【0021】
本発明の高度不飽和脂肪酸含有水溶性製剤には、本発明の効果を損なわない限り、公知の食品中に用いられる乳化剤を用いることができる。例えばポリグリセリンエステル類、モノグリセリンエステル類、シュガーエステル類、ソルビタンエステル類、レシチン類、増粘多糖類などが挙げられ、これらは単独あるいは2 種以上を組み合わせて添加することができる。
【0022】
本発明の高度不飽和脂肪酸含有水溶性製剤には、本発明の効果を損なわない限り、公知の食品又は食品添加物原料を配合することができる。例えば、基剤成分として、油分、水分、アルコール類、ワックス類、賦形剤として、糖類、多糖類、デンプン類、添加成分として、有機酸類、無機塩類、防腐剤、香料、キレート剤、比重調整剤、粘度調整剤等を配合することができる。
【0023】
本発明の高度不飽和脂肪酸含有水溶性製剤の製造のために用いる機械類は特に限定されるものではなく、ミキサー、アジテーター、ディスパーサー、ホモミキサー、ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、ボールミル、コロイドミル、遊星型ミル、湿式OBミル、回転式粉砕機、混練機、ニーダー、スプレードライヤー、真空乾燥機、フリーズドライヤー、振動篩等の機械を単独又は組み合わせて使用することができる。
【0024】
本発明の高度不飽和脂肪酸含有水溶性製剤の形態としては、本発明の効果を損なわない限り特に限定されず、通常の調製法では液状製剤の形態をとることが多いが、賦形剤を混合し、噴霧乾燥や真空乾燥、凍結乾燥等の処理を行い紛体化して利用することもできる。
【実施例
【0025】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0026】
本実施例、比較例では、DHA含有油脂として、DHAアルガルオイル(BASF社製)、EPA含有油脂として、EPA(マルハニチロ社製)、α-リノレン酸含有油脂として、アマニ油(日清製油社製)、トコフェロールとして、イーミックス70(三菱ケミカルフーズ社製)、没食子酸プロピル(富士化学工業社製)、BHA、BHT(以上、日揮ユニバーサル社製)、アスコルビン酸パルミテート、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸、エリソルビン酸ナトリウム、コエンザイムQ10(以上、渡辺ケミカル社製)、茶カテキン、ブルーベリー抽出物、コーヒー抽出物(以上、常盤植物化学社製)を用い、トコフェロールに関しては原料のトコフェロール濃度と原料油脂中の含有濃度を換算して添加し、表中の添加量は換算合計添加量で表した。
【0027】
[調製例1:高度不飽和脂肪酸含有乳液の調製(実施例1~5、比較例1~3)]
40質量%のグリセリン(坂本薬品社製)、5質量%のサンソフトQ-17S(太陽化学社製)を80℃に加熱後、ホモミキサーを用いて6000rpmにて5分間均一化処理し、40℃に冷却後、5質量%のココナードMT(花王社製)と表1記載の(A)の高度不飽和脂肪酸含有油脂と(B)の酸化防止剤を添加した。なお、脂肪酸エステルの前記酸化防止剤は少量のエタノールに溶解し、その他の前記酸化防止剤はココナードMTに溶解して添加した。その後ホモミキサーを用いて40℃で6000rpmにて10分間均一化処理し、さらに(C)の酸化防止剤と残部の水を添加して40℃にてホモミキサーで6000rpm、10分間均一化処理を行い、実施例1~5、比較例1~3の乳液を得た。
【0028】
[調製例2:高度不飽和脂肪酸含有粉体の調製(実施例6~8、比較例4、5)]
表2に記載の(A)の高度不飽和脂肪酸含有油脂と少量のエタノールに溶解した(B)の酸化防止剤と10質量%のトレハロースと(C)の酸化防止剤、残部の還元麦芽糖水飴(渡辺ケミカル社製)を加え、ニーダーを用いて4時間以上混練し、その後60℃にて3日間減圧乾燥し、回転粉砕機にて粉砕し30メッシュの篩にて分別して実施例6~8、比較例4、5の粉体を得た。
【0029】
[調製例3:高度不飽和脂肪酸含有粉体の調製(実施例9~10、参考例1、比較例6)]
12質量%のアラビックコールSS(三栄薬品貿易社製)、9質量%のパインデックス#2(松谷化学社製)と表2に記載の(A)の高度不飽和脂肪酸含有油脂と酸化防止剤を除いた残部の水を80℃に加熱後、ホモミキサーを用いて6000rpmにて5分間均一化処理し、40℃に冷却後、表2記載の(C)の酸化防止剤と(A)の高度不飽和脂肪酸含有油脂と(B)の酸化防止剤の混合物を添加し、ホモミキサーで7000rpm、30分間均一化処理を行った。得られた乳化物を55℃に加温しながら30mL/minの送液量で入り口温度145℃、アトマイザー回転数30000rpmのスプレードライヤーにフィードし、さらに30メッシュの篩にて分別して実施例9~10、参考例1、比較例6の粉体を得た。
【0030】
[水溶性評価]
実施例及び比較例の1%水溶液の溶解性を確認し以下の基準で判定した。
◎:希釈後速やかに均一に溶解
○:希釈後撹拌が必要であるが均一に溶解
△:撹拌によって一部は溶解するが溶け残りや沈殿が存在
×:溶解しない
【0031】
[過酸化物価評価]
製剤から油分を抽出後、基準油脂分析法の電位差滴定法に準じ、888 Titrando(メトローム社製)にて過酸化物価(POV)を測定し、所定のPOVに到達する日数を確認した。
【0032】
【表1】
【0033】
表1から明らかなように、実施例1~5は極めて良好な水溶性を示すと共に、比較例1~3と比べてPOVが10に到達する日数が明らかに延長された。
【0034】
【表2】
【0035】
表2から明らかなように、調製例2で得られた実施例6~8の粉体は極めて良好な水溶性を示すと共に、比較例4、5と比べてPOVが30に到達する日数が明らかに延長された。また、調製例3で得られた実施例9~10、参考例1の粉体は良好な水溶性を示すと共に、比較例6と比べてPOVが30に到達する日数が明らかに延長された。