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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-16
(45)【発行日】2024-04-24
(54)【発明の名称】光硬化性シリコーン樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 75/045 20160101AFI20240417BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20240417BHJP
   C08L 83/07 20060101ALI20240417BHJP
   C08L 83/08 20060101ALI20240417BHJP
【FI】
C08G75/045
C08K3/013
C08L83/07
C08L83/08
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023574574
(86)(22)【出願日】2023-03-10
(86)【国際出願番号】 JP2023009383
(87)【国際公開番号】W WO2023189434
(87)【国際公開日】2023-10-05
【審査請求日】2023-12-01
(31)【優先権主張番号】P 2022057767
(32)【優先日】2022-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】306026980
【氏名又は名称】株式会社タイカ
(74)【代理人】
【識別番号】100205914
【弁理士】
【氏名又は名称】堀越 総明
(74)【代理人】
【識別番号】100162189
【弁理士】
【氏名又は名称】堀越 真弓
(72)【発明者】
【氏名】恩田 裕
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-134329(JP,A)
【文献】特開平03-227365(JP,A)
【文献】特開平02-245060(JP,A)
【文献】特開2018-058991(JP,A)
【文献】特開2020-172581(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 75/00 - 75/32
C08K 3/00 - 13/08
C08L 1/00 - 101/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メルカプトアルキル基を含有するオルガノポリシロキサン(A)と、少なくとも両末端に脂肪族不飽和基を含有する直鎖状のオルガノポリシロキサン(B)と、光重合開始剤(C)と、を含んでなる光硬化性シリコーン樹脂組成物であって、
前記オルガノポリシロキサン(A)は、両末端にメルカプトアルキル基を含有するオルガノポリシロキサン(A1)と、ケイ素原子に結合するメルカプトアルキル基を1分子当たり2個以上含有するオルガノポリシロキサン(A2)とからなり、
前記オルガノポリシロキサン(B)中の脂肪族不飽和基の個数に対する、前記オルガノポリシロキサン(A)中のメルカプトアルキル基の個数の比が、0.70以上1.00未満、かつ、
前記オルガノポリシロキサン(B)中の脂肪族不飽和基の個数に対する、前記オルガノポリシロキサン(A1)中のメルカプトアルキル基の個数の比が、0.06以上であることを特徴とする光硬化性シリコーン樹脂組成物。
【請求項2】
前記光重合開始剤(C)の含有量が、前記オルガノポリシロキサン(B)100質量部に対して0.05~50質量部であることを特徴とする請求項1に記載の光硬化性シリコーン樹脂組成物。
【請求項3】
更に、充填剤(D)を含むことを特徴とする請求項1又2に記載の光硬化性シリコーン樹脂組成物。
【請求項4】
前記充填剤(D)が、シリカ、シリコーンレジン、固形樹脂、繊維状化合物及び金属酸化物からなる群から選択される少なくとも1種の物質であることを特徴とする請求項3に記載の光硬化性シリコーン樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化性シリコーン樹脂組成物に関し、より詳しくは、設計可能な弾性率の範囲が広く、高減衰性でありながら、せん断伸びに優れた硬化物(シリコーンゲル)を形成することのできる光硬化性シリコーン樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーンゲルは、優れた耐熱性、電気絶縁性および柔軟性を有することから、電気・電子部品のシール材、センサー類などのコーティング材、ポッティング材、ダンピング材として使用されている。なかでも、昨今の生産自動化に伴い、光重合性官能基を有し、紫外線などの光により硬化してシリコーンゲルを形成するチオール-エン反応系の光硬化性シリコーン樹脂組成物が電子機器を中心に用いられている。
【0003】
そして近年においては、使用用途の多様化に伴い、硬さや減衰性能、粘度といった基本物性に加えて、優れた伸び性を併せ持つ硬化物(シリコーンゲル)を形成することができる光硬化性シリコーン樹脂組成物のニーズがシール材、コーティング材、ポッティング材、防振材、制振材、光学接着剤(OCR、OCA)などの用途で高まっている。この理由としては、シリコーンゲルの減衰性能を高めると柔軟性が増す傾向にあるため、衝撃や振動が印加された場合に、シリコーンゲルの変形が容易となり、このときに伸び性が乏しいとシリコーンゲルが破損しやすくなることから、高い減衰性能を維持しながらも、伸び性に優れることがこの種の用途において重要なためである。特に制振材用途としての利用などを想定した場合、せん断伸びが重要となり、せん断ひずみ(伸び)が100%を超える場合でも破断しない材料が求められている。このシリコーンゲルが有する基本物性の設計は、光硬化性シリコーン樹脂組成物中にシリカやレジン等の固形充填剤を含有させることで調整する手法が一般的であるが、この手法では減衰性能と伸び性との両立が困難であり、課題となっていた。そこで、特許文献1では、光硬化性シリコーン樹脂組成物の伸び性の改善のために、脂肪族不飽和基を含有する特定の直鎖状オルガノポリシロキサン(B)と、ケイ素原子に結合するメルカプトアルキル基を2個超含有するオルガノポリシロキサン(A2)と、両末端ジチオールを含有する特定のオルガノポリシロキサン(A1)とを含み、成分(B)中の脂肪族不飽和基の個数に対する、成分(A1+A2)中のチオール基の個数の比が1~3である紫外線硬化型シリコーン樹脂組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6426023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の光硬化性シリコーン樹脂組成物では、硬化物の伸び性は改善するものの、複素弾性率が高くなり過ぎたり、減衰性に劣るという課題があった。また、コーティング材、ポッティング材、ダンピング材などの用途においては、未硬化状態での粘度を調整するために、光硬化性シリコーン樹脂組成物中にシリカやレジン等の固形充填剤を含有させた場合には、硬化物の複素弾性率がさらに高くなるため、光硬化性シリコーン樹脂組成物の硬化物(シリコーンゲル)の弾性率について、設計可能な範囲が狭くなる点でも改良の余地があった。
【0006】
よって、本発明は従来技術の上述した問題点を解消するものであり、その目的は、複素弾性率の設計可能な範囲が広く、高減衰性でありながら、せん断伸びに優れた硬化物を形成することのできる光硬化性シリコーン樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の光硬化性シリコーン樹脂組成物は、メルカプトアルキル基を含有するオルガノポリシロキサン(A)と、少なくとも両末端に脂肪族不飽和基を含有する直鎖状のオルガノポリシロキサン(B)と、光重合開始剤(C)と、を含んでなる光硬化性シリコーン樹脂組成物であって、オルガノポリシロキサン(A)は、両末端にメルカプトアルキル基を含有するオルガノポリシロキサン(A1)と、ケイ素原子に結合するメルカプトアルキル基を1分子当たり2個以上含有するオルガノポリシロキサン(A2)とからなり、オルガノポリシロキサン(B)中の脂肪族不飽和基の個数に対する、オルガノポリシロキサン(A)中のメルカプトアルキル基の個数の比が、0.70以上1.00未満、かつ、オルガノポリシロキサン(B)中の脂肪族不飽和基の個数に対する、オルガノポリシロキサン(A1)中のメルカプトアルキル基の個数の比が、0.06以上であることを特徴とする。なお、本明細書中において、メルカプトアルキル基を含有するオルガノポリシロキサン(A)をオルガノポリシロキサン(A)または成分(A)、両末端にメルカプトアルキル基を含有するオルガノポリシロキサン(A1)をオルガノポリシロキサン(A1)または成分(A1)、ケイ素原子に結合するメルカプトアルキル基を1分子当たり2個以上含有するオルガノポリシロキサン(A2)をオルガノポリシロキサン(A2)または成分(A2)、少なくとも両末端に脂肪族不飽和基を含有する直鎖状のオルガノポリシロキサン(B)をオルガノポリシロキサン(B)または成分(B)、光重合開始剤(C)を成分(C)とも称する。
【0008】
本発明の光硬化性シリコーン樹脂組成物は、両末端にメルカプトアルキル基を含有するオルガノポリシロキサン(A1)と、両末端に脂肪族不飽和基を含有する直鎖状のオルガノポリシロキサン(B)とが架橋して、オルガノポリシロキサン(B)が鎖長延長されるように構成され、ケイ素原子に結合するメルカプトアルキル基を1分子中に2個以上含有するオルガノポリシロキサン(A2)と、上記の鎖長延長されたオルガノポリシロキサン分子に残存した脂肪族不飽和基とが架橋することにより、架橋点間のシロキサン鎖が長くなるように構成されている。このとき、オルガノポリシロキサン(B)中の脂肪族不飽和基の個数に対する、オルガノポリシロキサン(A)中のメルカプトアルキル基の個数の比を0.70以上1.00未満とし、かつ、オルガノポリシロキサン(B)中の脂肪族不飽和基の個数に対する、オルガノポリシロキサン(A1)中のメルカプトアルキル基の個数の比を0.06以上とすることによって、光硬化性シリコーン樹脂組成物の硬化物(シリコーンゲル)の粘弾性特性が制御されるため、複素弾性率の設計可能な範囲が広く、高減衰性でありながら、せん断伸びに優れた硬化物特性を有する光硬化性シリコーン樹脂組成物が得られる。
【0009】
また、本発明の光硬化性シリコーン樹脂組成物は、光重合開始剤(C)の含有量が、オルガノポリシロキサン(B)100質量部に対して、0.05~50質量部であることも好ましい。これにより、上記作用に基づく作用効果が良好な光硬化性シリコーン樹脂組成物を得ることができる。また、本発明の光硬化性シリコーン樹脂組成物におけるオルガノポリシロキサン(B)中の脂肪族不飽和基は、ビニル基であることも好ましい。これにより、上記作用に基づく作用効果が良好な光硬化性シリコーン樹脂組成物を得ることができる。
【0010】
また、本発明の光硬化性シリコーン樹脂組成物は、さらに充填剤(D)を含むことも好ましい。これにより上記作用効果に加えて、所望の粘弾性特性や機能性が付与された硬化物を形成することができる光硬化性シリコーン樹脂組成物を得ることができる。
【0011】
また、本発明の光硬化性シリコーン樹脂組成物は、充填剤(D)が、シリカ、シリコーンレジン、固形樹脂、繊維状化合物及び金属酸化物からなる群から選択される少なくとも1種の物質であることも好ましい。これによって、多様な粘弾性特性や機能性が付与された硬化物を形成できる光硬化性シリコーン樹脂組成物の好適な構成成分が選択される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の光硬化性シリコーン樹脂組成物は、両末端にメルカプトアルキル基を含有するオルガノポリシロキサン(A1)とケイ素原子に結合するメルカプトアルキル基を含有するオルガノポリシロキサン(A2)とからなるオルガノポリシロキサン(A)と、両末端に脂肪族不飽和基を含有する直鎖状のオルガノポリシロキサン(B)と、光重合開始剤(C)とを含んでなり、オルガノポリシロキサン(A1)によって鎖長延長されたオルガノポリシロキサン(B)が、オルガノポリシロキサン(A2)と架橋するように構成されているとともに、オルガノポリシロキサン(B)中の脂肪族不飽和基の個数に対する、オルガノポリシロキサン(A1)中のメルカプトアルキル基の個数の比と、オルガノポリシロキサン(B)中の脂肪族不飽和基の個数に対する、オルガノポリシロキサン(A)中のメルカプトアルキル基の個数の比を特定の範囲としたことによって、複素弾性率の設計可能範囲が広く、高減衰性でありながら、せん断伸びに優れた硬化物を形成することのできる光硬化性シリコーン樹脂組成物を提供することができる。これにより、せん断伸びが100%を超える場合であっても破損せずに、高減衰性を発揮するシール材、コーティング材、ポッティング材、防振材、制振材、光学接着剤(OCR、OCA)などを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の光硬化性シリコーン樹脂組成物は、メルカプトアルキル基を含有するオルガノポリシロキサン(A)と、少なくとも両末端に脂肪族不飽和基を含有する直鎖状のオルガノポリシロキサン(B)と、光重合開始剤(C)と、を含んでなる光硬化性シリコーン樹脂組成物であって、オルガノポリシロキサン(A)は、両末端にメルカプトアルキル基を含有するオルガノポリシロキサン(A1)と、ケイ素原子に結合するメルカプトアルキル基を1分子当たり2個以上含有するオルガノポリシロキサン(A2)とからなり、オルガノポリシロキサン(B)中の脂肪族不飽和基の個数に対する、オルガノポリシロキサン(A)中のメルカプトアルキル基の個数の比が0.70以上1.00未満、かつ、オルガノポリシロキサン(B)中の脂肪族不飽和基の個数に対する、オルガノポリシロキサン(A1)中のメルカプトアルキル基の個数の比が0.06以上である。以下、詳細に説明する。
【0014】
(オルガノポリシロキサン(A))
本発明の光硬化性シリコーン樹脂組成物を構成するメルカプトアルキル基を含有するオルガノポリシロキサン(A)は、両末端にメルカプトアルキル基を含有するオルガノポリシロキサン(A1)と、ケイ素原子に結合するメルカプトアルキル基を1分子当たり2個以上含有するオルガノポリシロキサン(A2)とから構成されている。
【0015】
(オルガノポリシロキサン(A1))
オルガノポリシロキサン(A)を構成するオルガノポリシロキサン(A1)は、両末端にメルカプトアルキル基を有する直鎖状のオルガノポリシロキサンであり、両末端のメルカプトアルキル基と、オルガノポリシロキサン(B)の脂肪族不飽和基とがチオール-エン反応して、オルガノポリシロキサン(B)の鎖長を延長するための鎖長延長剤として機能する成分である。具体的な好ましい例としては、以下式1の構造(式中Raは、独立して、C1~C6のアルキル基、C6~C12のアリール基又は-Si(OX)(ここで、Xは、独立して、C1~C6のアルキル基である)であり、Rbは、独立して、C1~C6のアルキル基又はC6~C12のアリール基であり、Rcは、独立して、C1~C6のアルキレン基である)で示されるオルガノポリシロキサンである。pは、3以上の整数であり、23℃におけるオルガノポリシロキサン(A1)の粘度を1~200cPとする数であることが好ましい。なお、本明細書において、本発明に係る組成物又はその構成材料が呈する粘度は、回転粘度計にて、ローターNo.2~4を使用し、30~60rpm、23℃で測定した値をいう。このオルガノポリシロキサン(A1)として具体的には、特に限定されないが、例えば、信越化学工業社製品の型番「X-22-167C」(メルカプト基当量:0.4348mmol/g)等を用いることができる。
【0016】
【化1】
【0017】
また、光硬化性シリコーン樹脂組成物の他の実施形態の例として、シリコーンゲルが高い耐熱性が求められない用途に適用される場合には、オルガノポリシロキサン(A1)はシロキサン鎖の一部を炭化水素鎖に置き換えた構造としてもよい。また、オルガノポリシロキサン(A1)の配合量の一部または全部を両末端にメルカプト基を有する直鎖炭化水素構造からなる鎖長延長剤に置き換えてもよい。
【0018】
(オルガノポリシロキサン(A2))
オルガノポリシロキサン(A)を構成するオルガノポリシロキサン(A2)は、ケイ素原子に結合するメルカプトアルキル基を1分子当たり2個以上含有するオルガノポリシロキサンであり、ケイ素原子に結合するメルカプトアルキル基と、オルガノポリシロキサン(B)の脂肪族不飽和基とがチオール-エン反応してオルガノポリシロキサン(B)を架橋させて、光硬化性シリコーン樹脂組成物を硬化させるための架橋剤成分である。オルガノポリシロキサン(A2)の主鎖の構造は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、三次元的に架橋させる観点から主鎖の側鎖にメルカプトアルキル基が置換したオルガノポリシロキサンであることが好ましい。このオルガノポリシロキサン(A2)として具体的には、特に限定されないが、例えば、信越化学工業社製品の型番「KF-2001」(メルカプト基当量:0.5263mmol/g)、Gelest社製品の型番「SMS-022」(メルカプト基当量:0.3286mmol/g)等を用いることができる。
【0019】
(オルガノポリシロキサン(B))
本発明の光硬化性シリコーン樹脂組成物を構成するオルガノポリシロキサン(B)は、少なくとも両末端に脂肪族不飽和基を含有する直鎖状オルガノポリシロキサンであり、例えば、以下式2の構造(式中Rは脂肪族不飽和基であり、R~Rは同一または異種の非置換もしくは置換の一価炭化水素基である。また、qは10以上の整数であり、好ましくは23℃におけるオルガノポリシロキサン(B)の粘度を100~25000cPとする数である)からなる直鎖状オルガノポリシロキサンから選択できる。脂肪族不飽和基としては、例えば、ビニル基、プロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基等が挙げられ、合成の容易さ等の点から、ビニル基が好ましい。R~Rの具体例としては、C1~C6のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等)又はC6~C12のアリール基(例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基等)が挙げられ、合成の容易さ等の観点から、C1~C6のアルキル基としては、メチル基が好ましく、C6~C12のアリール基としては、フェニル基が好ましい。このオルガノポリシロキサン(B)として具体的には、特に限定されないが、例えば、Gelest社製品の型番「DMS-V33」(ビニル基当量:0.0465mmol/g)、Gelest社製品の型番「DMS-V22」(ビニル基当量:0.2222mmol/g)等を用いることができる。
【0020】
【化2】
【0021】
オルガノポリシロキサン(A1)とオルガノポリシロキサン(A2)とからなるオルガノポリシロキサン(A)と、オルガノポリシロキサン(B)の配合割合は、設計調整可能な弾性率の範囲が広く、高減衰性でありながら、せん断伸びに優れた硬化物を得る観点から、オルガノポリシロキサン(B)中の脂肪族不飽和基の個数に対する、オルガノポリシロキサン(A)中のメルカプトアルキル基の個数の比が0.70以上1.00未満、かつオルガノポリシロキサン(B)中の脂肪族不飽和基の個数に対する、オルガノポリシロキサン(A1)中のメルカプトアルキル基の個数の比が、0.06以上の範囲である。オルガノポリシロキサン(B)中の脂肪族不飽和基の個数に対する、オルガノポリシロキサン(A)中のメルカプトアルキル基の個数の比が、0.70未満の場合にはチオール-エン反応による架橋が不十分となって光硬化性シリコーン樹脂組成物が硬化せず、1.00以上の場合には硬化物の弾性率が高くなり過ぎたり、良好な減衰性が得られない。そのため、オルガノポリシロキサン(B)中の脂肪族不飽和基の個数に対する、オルガノポリシロキサン(A)中のメルカプトアルキル基の個数の比は、0.70以上1.00未満が好ましく、0.70以上0.95以下がより好ましく、0.70以上0.90以下がさらに好ましい。また、オルガノポリシロキサン(B)中の脂肪族不飽和基の個数に対する、オルガノポリシロキサン(A1)中のメルカプトアルキル基の個数の比が0.06未満の場合には、硬化物の良好なせん断伸びが得られない。そのため、オルガノポリシロキサン(B)中の脂肪族不飽和基の個数に対する、オルガノポリシロキサン(A1)中のメルカプトアルキル基の個数の比は、0.06以上が好ましく、0.06以上0.5以下がより好ましく、0.1以上0.5以下がさらに好ましい。
【0022】
(光重合開始剤(C))
本発明の光硬化性シリコーン樹脂組成物を構成する光重合開始剤(C)は、紫外線照射下におけるオルガノポリシロキサン(A)中のメルカプトアルキル基とオルガノポリシロキサン(B)中の脂肪族不飽和基との架橋反応を促進させる成分であり、チオール-エン反応に作用する公知のものを使用できる。具体的には、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、キサントン、フルオレノン、ベンズアルデヒド、フルオレン、アントラキノン、トリフェニルアミン、カルバゾール、3-メチルアセトフェノン、4-クロロベンゾフェノン、4,4’-ジメトキシベンゾフェノン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、チオキサントン、ジエチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、2-クロロチオキサントン、2-メチル-1-〔4-(メチルチオ)フェニル〕-2-モルホリノ-プロパン-1-オン、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ビス-(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシド;Omnirad184、369、651、500、907、1173、TPO H(以上、BASF社製)等が挙げられ、架橋反応の促進性の観点からアセトフェノン系が好ましい。光重合開始剤(C)は単独または2種以上組み合わせて適用できる。また、光重合開始剤(C)の配合量は、紫外線によりチオール-エン反応が開始するのに有効な量とすればよく、オルガノポリシロキサン(B)100質量部に対し、0.05~50質量部が好ましく、より好ましくは0.1~5質量部である。
【0023】
(充填剤(D))
本発明の光硬化性シリコーン樹脂組成物は、さらに、硬化物の粘弾性特性やさらなる機能性付与のために充填剤(D)を含んでいてもよい。充填剤(D)としては、硬化物に対する粘弾性特性の調整作用や機能性を付与でき、チオール-エン反応を阻害しない粉末状のものであれば特に限定されず、例えば日本アエロジル社のAEROSIL(登録商標)やトクヤマ社のREOLOSIL(登録商標)、旭化成ワッカー社製WACKER HDK(登録商標)に代表されるヒュームドシリカ、トクヤマ社のTOKUSIL(登録商標)などのシリカやシリコーンレジン、アルミナ等の金属酸化物、セルロースナノファイバー等の繊維状化合物など、目的に応じて適宜選択して適用できる。
【0024】
さらに本発明の光硬化性シリコーン樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で任意の添加物を添加してもよく、例えば、顔料や導電性付与剤、難燃剤、分散剤、粘着性・接着性付与剤、重合禁止剤、耐候性を向上させる添加剤として酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤など公知のものを必要に応じて適用できる。
【0025】
粘着性・接着性付与剤としては、例えば、MQ樹脂、MDQ樹脂、MT樹脂、MDT樹脂、MDTQ樹脂、DQ樹脂、DTQ樹脂及びTQ樹脂からなる群から選ばれる1種以上のシリコーン樹脂系接着向上剤(ただし、脂肪族不飽和基及びメルカプト基を含有しない)が好ましく、流動性や光硬化性シリコーン樹脂組成物中への分散性の観点からMQ樹脂、MDQ樹脂、MDT樹脂及びMDTQ樹脂からなる群から選ばれる1種以上のシリコーン樹脂系接着向上剤がより好ましく、粘着性の付与効果と構造制御が容易な観点からMQ樹脂が更に好ましい。また、被接着物との密着性を向上させるためシランカップリング剤を添加してもよい。シランカップリング剤としては、例えば、トリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、1,3-ビス(3-メタクリロキシプロピル)テトラメチルジシロキサン、トリメトキシシリルプロピルジアリルイソシアヌレート、ビス(トリメトキシシリルプロピル)アリルイソシアヌレート、トリス(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、トリエトキシシリルプロピルジアリルイソシアヌレート、ビス(トリエトキシシリルプロピル)アリルイソシアヌレート、トリス(トリエトキシシリルプロピル)イソシアヌレート等が挙げられる。また、シランカップリング剤の他の例として、1,3-ビス(3-メタクリロキシプロピル)テトラメチルジシロキサン等の(メタ)アクリロキシ基、アルコキシ基(例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ)、アミノ基等の官能基を有するジシロキサン化合物も適用できる。このうち、密着性・接着性向上の点から、脂肪族不飽和基を含有することが好ましく、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、1,3-ビス(3-メタクリロキシプロピル)テトラメチルジシロキサンであることがより好ましい。粘着性・接着性付与剤は1種であっても、2種以上であってもよい。
【0026】
酸化防止剤としては、本発明に係る組成物の硬化物の酸化を防止して、耐候性を改善する機能を付加できるものを使用することができ、例えば、ヒンダードアミン系酸化防止剤やヒンダードフェノール系酸化防止剤等が挙げられる。ヒンダードアミン系酸化防止剤としては、公知のものを適宜選択でき、例えば、N,N′,N″,N″′-テトラキス-(4,6-ビス(ブチル-(N-メチル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)アミノ)-トリアジン-2-イル)-4,7-ジアザデカン-1,10-ジアミン、ジブチルアミン・1,3,5-トリアジン・N,N′-ビス-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル-1,6-ヘキサメチレンジアミン・N-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ブチルアミンの重縮合物、ポリ[{6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル}{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}]、コハク酸ジメチルと4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジンエタノールの重合体、[デカン二酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-1(オクチルオキシ)-4-ピペリジル)エステル、1,1-ジメチルエチルヒドロペルオキシドとオクタンの反応生成物(70%)]-ポリプロピレン(30%)、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル]ブチルマロネート、メチル1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルセバケート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケ-ト、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケ-ト、1-[2-〔3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ〕エチル]-4-〔3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ〕-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-ベンゾイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、8-アセチル-3-ドデシル-7,7,9,9-テトラメチル-1,3,8-トリアザスピロ[4.5]デカン-2,4-ジオン等が挙げられる。
【0027】
他方、ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、公知のものを適宜選択でき、例えば、ペンタエリストール-テトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、チオジエチレン-ビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、N,N′-ヘキサン-1,6-ジイルビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオアミド)、ベンゼンプロパン酸3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシC7-C9側鎖アルキルエステル、2,4-ジメチル-6-(1-メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル]ホスホネート、3,3′,3″,5,5′,5″-ヘキサン-tert-ブチル-4-a,a′,a″-(メシチレン-2,4,6-トリル)トリ-p-クレゾール、カルシウムジエチルビス[[[3,5-ビス-(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル]ホスホネート]、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6-(1H,3H,5H)-トリオン、N-フェニルベンゼンアミンと2,4,4-トリメチルペンテンとの反応生成物、2,6-ジ-tert-ブチル-4-(4,6-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2-イルアミノ)フェノール等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。上記酸化防止剤は、1種であっても、2種以上であってもよい。
【0028】
光安定剤としては、本発明に係る組成物又はその硬化物の光酸化劣化を防止する機能を付加できるものを使用することができ、例えば、ベンゾトリアゾール系、ヒンダードアミン系、ベンゾエート系化合物等が挙げられる。このうち、光安定剤としては、ヒンダードアミン系光安定剤が好ましい。中でも、第3級アミン含有ヒンダードアミン系光安定剤を用いることが、組成物の保存安定性改良のために好ましい。第3級アミン含有ヒンダードアミン系光安定剤としては、チヌビン622LD、チヌビン144、CHIMASSORC119FL(以上いずれもBASF社製);MARK LA-57、LA-62、LA-67、LA-63(以上いずれも旭電化工業株式会社製);サノールLS-765、LS-292、LS-2626、LS-1114、LS-744(以上いずれも三共株式会社製)等の光安定剤が挙げられる。また、耐光性安定剤として機能する紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリアジン系、ベンゾフェノン系又はベンゾエート系化合物等の紫外線吸収剤等が挙げられる。紫外線吸収剤としては公知のものを適宜選択でき、例えば、2,4-ジ-tert-ブチル-6-(5-クロロベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ジ-tert-ペンチルフェノール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール、メチル3-(3-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-5-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート/ポリエチレングリコール300の反応生成物、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-(直鎖及び側鎖ドデシル)-4-メチルフェノール等のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[(ヘキシル)オキシ]-フェノール等のトリアジン系紫外線吸収剤、オクタベンゾン等のベンゾフェノン系紫外線吸収剤、2,4-ジ-tert-ブチルフェニル-3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンゾエート等のベンゾエート系紫外線吸収剤等が挙げられる。上記光安定剤及び紫外線吸収剤は1種であっても、2種以上であってもよい。
【0029】
(光硬化性シリコーン樹脂組成物の物性)
本発明の光硬化性シリコーン樹脂組成物の物性のうち、組成物の粘度は、用途に応じて適宜設定できるが、塗工性やディスペンサー等による吐出性の観点から、23℃における粘度が、50~10000cPであることが好ましく、70~9000cPであることがより好ましく、100~7000cPであることが更に好ましい。
【0030】
(光硬化性シリコーン樹脂組成物の硬化物の物性)
本発明の光硬化性シリコーン樹脂組成物は、上述の構成とすることによって、オルガノポリシロキサン(B)にオルガノポリシロキサン(A1)が連結されてオルガノポリシロキサン(B)が鎖長延長された状態で、オルガノポリシロキサン(A2)と架橋することによって、架橋点間のシロキサン鎖が長くなり、硬化物のせん断伸びの向上等に寄与する。そして、オルガノポリシロキサン(B)の脂肪族不飽和基の個数に対する、オルガノポリシロキサン(A1)中のメルカプトアルキル基の個数の比を、0.06以上とし、かつ、オルガノポリシロキサン(B)の脂肪族不飽和基の個数に対する、オルガノポリシロキサン(A)中のメルカプトアルキル基の個数の比を、0.70以上1.00未満とすることにより、成分(A1)と成分(B)との連結反応、及び鎖長延長された成分(B)と成分(A2)との架橋反応が、所望の硬化物特性を実現するように行われる。これにより、複素弾性率の設計可能な範囲が広く、高減衰性でありながら、せん断伸びに優れた硬化物特性を有するシリコーンゲルを得ることができる。具体的には、硬化物の減衰性としては、粘弾性特性のtanδ(10Hz)が0.5以上であることが好ましく、精密機器用のダンピング材として用いる場合には0.5~2.0の範囲がより好ましい。また、硬化物のせん断伸びは、成分(A1)を含まない、オルガノポリシロキサン(A2)とオルガノポリシロキサン(B)とからなる組成物であって、オルガノポリシロキサン(B)中の脂肪族不飽和基の個数に対するオルガノポリシロキサン(A)中のメルカプトアルキル基の個数の比が等しい組成物からなる硬化物のせん断伸びに対して、110%以上であることが好ましく、200%以上がより好ましく、300%以上がさらに好ましい。特に、精密機器用のダンピング材として用いる場合には、tanδとせん断伸びが上記範囲であることが好ましい。
【0031】
(光硬化性シリコーン樹脂組成物の用途)
本発明の光硬化性シリコーン樹脂組成物は、光硬化した硬化物が上記の高減衰性とせん断伸び性を有することから、せん断伸びが100%を超える場合であっても破損せずに、高減衰性を発揮するシール材、コーティング材、ポッティング材、防振材、制振材、光学接着剤(OCR、OCA)として用いることができる。また、光ピックアップモジュールなどの光学装置における10Hz以上の高周波域の振動に対しても高減衰を保ちながら破断し難く、優れた制振性を備えたダンピング部材として好適である。
【0032】
本発明の光硬化性シリコーン樹脂組成物は、上記の(A)~(C)成分または(A)~(D)成分、及び必要に応じて添加される充填材やその他の種々成分等を、所定の配合割合で混合することで得られる。上記の(A)~(C)成分等または(A)~(D)成分等を、混合する順番は特に限定しない。また、(A)成分として、光重合開始剤(C)の存在下で(A1)成分と(A2)成分の一部または全部を予め反応させて鎖長延長を図ったのちに(B)成分や(D)成分を混合してもよい。混合手段としては、特に限定されず、ハンドミキサーやケミカルミキサーなどの公知の方法を適用できる。本発明の光硬化性シリコーン樹脂組成物は活性エネルギー線を照射することにより、硬化物を形成する。活性エネルギー線としては、紫外線、電子線、X線又は放射線等が挙げられるが、取り扱いのし易さの観点から、紫外線が好ましく用いられる。照射される紫外線の光源や紫外線の波長範囲は特に限定されず、例えば、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、ブラックライトランプ、マイクロウェーブ励起水銀灯、メタルハライドランプ、ナトリウムランプ、ハロゲンランプ、キセノンランプ、LED、蛍光灯、太陽光、電子線照射装置等、あらゆる公知のものを用いることができる。
【実施例
【0033】
以下、実施例及び比較例によって、本発明を更に詳細に説明する。なお本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0034】
[測定・評価方法]
実施例および比較例の各組成物について、透明PPフィルム上に硬化物の厚みが2mmとなるように光硬化性シリコーン樹脂組成物をシート状に成形し、天面及び底面の各方向から波長が365nmの紫外線を3000mJ/cmずつ照射して硬化させて、測定サンプルとした。上記シートをφ25mmに抜き成型し、レオメーター(ARES-G2、ティー・エイ・インスツルメント社製)を用いて下記(1)~(3)の測定を行った。
【0035】
(1)せん断伸び
25℃、1.0Hz、ひずみ100~1500%で、各測定サンプルのStrain Sweepテストを行い、tanδが最小値となった歪みの値をせん断伸びとした。伸び向上率(%)として、成分(A1)のみを含まない、オルガノポリシロキサン(A2)とオルガノポリシロキサン(B)とからなる組成物であって、オルガノポリシロキサン(B)中の脂肪族不飽和基の個数(Vi)に対するオルガノポリシロキサン(A)中のメルカプトアルキル基の個数(SH)の比(以下、SH/Vi比と称する)が等しい組成物を各比較例に係る組成物として調製し、この各比較例の測定サンプルのせん断伸びの値に対する各実施例の測定サンプルのせん断伸びの値の比率を求めた。伸び向上率が110%以上を合格(○)、110%未満を不合格(×)と判定した。なお、伸び向上率を求めるにおいて、後述する各実施例に対応した上記オルガノポリシロキサン(A1)のみを含まず、SH/Vi比が等しい構成の比較例は以下の通りである。実施例1、4と比較例7の場合には比較例1、実施例2の場合には比較例2、実施例3の場合には比較例3、実施例5の場合には比較例4、実施例6、9と比較例14の場合には比較例8、実施例7の場合には比較例9、実施例8の場合には比較例10、実施例10の場合には比較例11である。
【0036】
(2)減衰性(tanδ)
JIS K7244-10に準拠して、各測定サンプルの動的粘弾性測定を行い、25℃、10Hzにおけるtanδを得た。tanδが0.5以上を合格(○)、0.5未満を不合格(×)と判定した。
【0037】
(3)弾性率(複素弾性率G
JIS K7244-10に準拠して、各測定サンプルの動的粘弾性測定を行い、25℃、10Hzにおける複素弾性率Gを得た。
【0038】
[実施例1]
オルガノポリシロキサン(A1)として、信越化学工業社製品・型番:X-22-167C(メルカプト基当量:0.4348mmol/g)が0.60gと、オルガノポリシロキサン(A2)として、信越化学工業社製品・型番:KF-2001(メルカプト基当量:0.5263mmol/g、以下表において成分A2-1と称する)が0.93gと、オルガノポリシロキサン(B)として、Gelest社製品・型番:DMS-V33(ビニル基当量:0.0465mmol/g、以下表において成分B-1と称する)が18.07gと、光重合開始剤(C)として、IGM Resins B.V.社製品・型番:Omnirad1173が0.40gと、を蓋つきプラスチック容器に投入した。構成成分における、SH/Vi比は0.89、オルガノポリシロキサン(B)中の脂肪族不飽和基の個数(Vi)に対する、オルガノポリシロキサン(A1)中のメルカプトアルキル基の個数(SH(A1))の比(以下、SH(A1)/Vi比と称する)は0.31となるように配合した。この配合物を自転・公転ミキサー(製品名:あわとり練太郎(登録商標)ARE-350、株式会社シンキー社製品)を用いて、2000rpmにて3分間混練後、2200rpmにて1分間遠心脱泡して、実施例1の光硬化性シリコーン樹脂組成物を得た。この光硬化性シリコーン樹脂組成物について、上述した測定・評価方法に従い、(1)せん断伸び、(2)減衰性及び(3)弾性率の測定・評価を行った。
【0039】
[実施例2]
実施例1において、成分(A1)、成分(A2)、成分(B)、成分(C)(以下、各構成成分とも称す。)を表1に示す配合に替えて、SH/Vi比が0.70、SH(A1)/Vi比が0.31とした以外は実施例1と同様にして、実施例2の光硬化性シリコーン樹脂組成物を得た。この光硬化性シリコーン樹脂組成物について、上述した測定・評価方法に従い、(1)せん断伸び、(2)減衰性及び(3)弾性率の測定・評価を行った。
【0040】
[実施例3]
実施例1において、各構成成分を表1に示す配合に替えて、SH/Vi比が0.99、SH(A1)/Vi比が0.31とした以外は実施例1と同様にして、実施例3の光硬化性シリコーン樹脂組成物を得た。この光硬化性シリコーン樹脂組成物について、上述した測定・評価方法に従い、(1)せん断伸び、(2)減衰性及び(3)弾性率の測定・評価を行った。
【0041】
[実施例4]
実施例1において、各構成成分を表1に示す配合に替えて、SH/Vi比が0.89、SH(A1)/Vi比が0.06とした以外は実施例1と同様にして、実施例4の光硬化性シリコーン樹脂組成物を得た。この光硬化性シリコーン樹脂組成物について、上述した測定・評価方法に従い、(1)せん断伸び、(2)減衰性及び(3)弾性率の測定・評価を行った。
【0042】
[実施例5]
実施例1において、さらに充填剤(D)としてフュームドシリカ(AEROSIL社製品・型番:R972)0.40g(成分(A1)、成分(A2)、成分(B)、成分(C)の合計重量に対し2.00wt%に相当)を配合した以外は実施例1と同様にして、実施例5の光硬化性シリコーン樹脂組成物を得た。この光硬化性シリコーン樹脂組成物について、上述した測定・評価方法に従い、(1)せん断伸び、(2)減衰性及び(3)弾性率の測定・評価を行った。
【0043】
[実施例6]
実施例1において、オルガノポリシロキサン(A2)をGelest社製品・型番:SMS-022(メルカプト基当量:0.3286mmol/g、以下表において成分A2-2と称する)に、オルガノポリシロキサン(B)をGelest社製品・型番:DMS-V22(ビニル基当量:0.2222mmol/g、以下表において成分B-2と称する)に、それぞれ変更し、表2に示す配合とした。構成成分における、SH/Vi比は0.89、SH(A1)/Vi比は0.10となるように配合した。実施例1と同様にして、実施例6の光硬化性シリコーン樹脂組成物を得た。この光硬化性シリコーン樹脂組成物について、上述した測定・評価方法に従い、(1)せん断伸び、(2)減衰性及び(3)弾性率の測定・評価を行った。
【0044】
[実施例7]
実施例6において、各構成成分を表2に示す配合に替えて、SH/Vi比が0.80、SH(A1)/Vi比が0.09とした以外は実施例6と同様にして、実施例7の光硬化性シリコーン樹脂組成物を得た。この光硬化性シリコーン樹脂組成物について、上述した測定・評価方法に従い、(1)せん断伸び、(2)減衰性及び(3)弾性率の測定・評価を行った。
【0045】
[実施例8]
実施例6において、各構成成分を表2に示す配合に替えて、SH/Vi比が0.99、SH(A1)/Vi比が0.10とした以外は実施例6と同様にして、実施例8の光硬化性シリコーン樹脂組成物を得た。この光硬化性シリコーン樹脂組成物について、上述した測定・評価方法に従い、(1)せん断伸び、(2)減衰性及び(3)弾性率の測定・評価を行った。
【0046】
[実施例9]
実施例6において、各構成成分を表2に示す配合に替えて、SH/Vi比が0.89、SH(A1)/Vi比が0.06とした以外は実施例6と同様にして、実施例9の光硬化性シリコーン樹脂組成物を得た。この光硬化性シリコーン樹脂組成物について、上述した測定・評価方法に従い、(1)せん断伸び、(2)減衰性及び(3)弾性率の測定・評価を行った。
【0047】
[実施例10]
実施例6において、さらに充填剤(D)としてフュームドシリカ(AEROSIL社製品・型番:R972)0.40g(成分(A1)、成分(A2)、成分(B)、成分(C)の合計重量に対し2.04wt%に相当)を配合した以外は実施例6と同様にして、実施例10の光硬化性シリコーン樹脂組成物を得た。この光硬化性シリコーン樹脂組成物について、上述した測定・評価方法に従い、(1)せん断伸び、(2)減衰性及び(3)弾性率の測定・評価を行った。
【0048】
[比較例1]
実施例1において、各構成成分を表3に示す配合に替えて、成分(A1)を含まず、SH/Vi比が0.89、SH(A1)/Vi比が0.00とした以外は実施例1と同様にして、比較例1の光硬化性シリコーン樹脂組成物を得た。この光硬化性シリコーン樹脂組成物について、上述した測定・評価方法に従い、(1)せん断伸び、(2)減衰性及び(3)弾性率の測定・評価を行った。
【0049】
[比較例2]
比較例1において、各構成成分を表3に示す配合に替えて、SH/Vi比を0.70とした以外は比較例1と同様にして、比較例2の光硬化性シリコーン樹脂組成物を得た。この光硬化性シリコーン樹脂組成物について、上述した測定・評価方法に従い、(1)せん断伸び、(2)減衰性及び(3)弾性率の測定・評価を行った。
【0050】
[比較例3]
比較例1において、各構成成分を表3に示す配合に替えて、SH/Vi比を0.99とした以外は比較例1と同様にして、比較例3の光硬化性シリコーン樹脂組成物を得た。この光硬化性シリコーン樹脂組成物について、上述した測定・評価方法に従い、(1)せん断伸び、(2)減衰性及び(3)弾性率の測定・評価を行った。
【0051】
[比較例4]
比較例1において、さらに充填剤(D)としてフュームドシリカ(AEROSIL社製品・型番:R972)を配合し、各構成成分を表3に示す配合に替えて、SH/Vi比を0.89とした以外は比較例1と同様にして、比較例4の光硬化性シリコーン樹脂組成物を得た。この光硬化性シリコーン樹脂組成物について、上述した測定・評価方法に従い、(1)せん断伸び、(2)減衰性及び(3)弾性率の測定・評価を行った。
【0052】
[比較例5]
実施例1において、各構成成分を表3に示す配合に替えて、SH/Vi比が0.67、SH(A1)/Vi比が0.30とした以外は実施例1と同様にして、比較例5の光硬化性シリコーン樹脂組成物を得た。この光硬化性シリコーン樹脂組成物について、上述した測定・評価方法に従い、(1)せん断伸び、(2)減衰性及び(3)弾性率の測定・評価を行った。
【0053】
[比較例6]
実施例1において、各構成成分を表3に示す配合に替えて、SH/Vi比が1.05、SH(A1)/Vi比が0.31とした以外は実施例1と同様にして、比較例6の光硬化性シリコーン樹脂組成物を得た。この光硬化性シリコーン樹脂組成物について、上述した測定・評価方法に従い、(1)せん断伸び、(2)減衰性及び(3)弾性率の測定・評価を行った。
【0054】
[比較例7]
実施例1において、各構成成分を表3に示す配合に替えて、SH/Vi比が0.89、SH(A1)/Vi比が0.05とした以外は実施例1と同様にして、比較例7の光硬化性シリコーン樹脂組成物を得た。この光硬化性シリコーン樹脂組成物について、上述した測定・評価方法に従い、(1)せん断伸び、(2)減衰性及び(3)弾性率の測定・評価を行った。
【0055】
[比較例8]
実施例6において、各構成成分を表4に示す配合に替えて、成分(A1)を含まず、SH/Vi比が0.89、SH(A1)/Vi比が0.00とした以外は実施例6と同様にして、比較例8の光硬化性シリコーン樹脂組成物を得た。この光硬化性シリコーン樹脂組成物について、上述した測定・評価方法に従い、(1)せん断伸び、(2)減衰性及び(3)弾性率の測定・評価を行った。
【0056】
[比較例9]
比較例8において、各構成成分を表4に示す配合に替えて、SH/Vi比を0.80とした以外は比較例8と同様にして、比較例9の光硬化性シリコーン樹脂組成物を得た。この光硬化性シリコーン樹脂組成物について、上述した測定・評価方法に従い、(1)せん断伸び、(2)減衰性及び(3)弾性率の測定・評価を行った。
【0057】
[比較例10]
比較例8において、各構成成分を表4に示す配合に替えて、SH/Vi比を0.99とした以外は比較例8と同様にして、比較例10の光硬化性シリコーン樹脂組成物を得た。この光硬化性シリコーン樹脂組成物について、上述した測定・評価方法に従い、(1)せん断伸び、(2)減衰性及び(3)弾性率の測定・評価を行った。
【0058】
[比較例11]
比較例8において、さらに充填剤(D)としてフュームドシリカ(AEROSIL社製品・型番:R972)を配合し、各構成成分を表4に示す配合に替えて、SH/Vi比を0.89とした以外は比較例8と同様にして、比較例11の光硬化性シリコーン樹脂組成物を得た。この光硬化性シリコーン樹脂組成物について、上述した測定・評価方法に従い、(1)せん断伸び、(2)減衰性及び(3)弾性率の測定・評価を行った。
【0059】
[比較例12]
実施例6において、各構成成分を表4に示す配合に替えて、SH/Vi比が0.69、SH(A1)/Vi比が0.09とした以外は実施例6と同様にして、比較例12の光硬化性シリコーン樹脂組成物を得た。この光硬化性シリコーン樹脂組成物について、上述した測定・評価方法に従い、(1)せん断伸び、(2)減衰性及び(3)弾性率の測定・評価を行った
【0060】
[比較例13]
実施例6において、各構成成分を表4に示す配合に替えて、SH/Vi比が1.05、SH(A1)/Vi比が0.10とした以外は実施例6と同様にして、比較例13の光硬化性シリコーン樹脂組成物を得た。この光硬化性シリコーン樹脂組成物について、上述した測定・評価方法に従い、(1)せん断伸び、(2)減衰性及び(3)弾性率の測定・評価を行った。
【0061】
[比較例14]
実施例6において、各構成成分を表4に示す配合に替えて、SH/Vi比が0.89、SH(A1)/Vi比が0.05とした以外は実施例6と同様にして、比較例14の光硬化性シリコーン樹脂組成物を得た。この光硬化性シリコーン樹脂組成物について、上述した測定・評価方法に従い、(1)せん断伸び、(2)減衰性及び(3)弾性率の測定・評価を行った。
【0062】
実施例1~5の評価結果を表1に、実施例6~10の評価結果を表2にそれぞれ示した。また、比較例1~7の評価結果を表3に、比較例8~14の評価結果を表4に、それぞれ示した。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
【表3】
【0066】
【表4】
【0067】
実施例1~10の結果から、本発明の光硬化性シリコーン樹脂組成物は、少なくとも両末端に脂肪族不飽和基を含有する直鎖状のオルガノポリシロキサン(B)と、オルガノポリシロキサン(B)の鎖長延長剤として機能する両末端にメルカプトアルキル基を含有するオルガノポリシロキサン(A1)と、オルガノポリシロキサン(B)を架橋する硬化剤として機能するケイ素原子に結合するメルカプトアルキル基を含有するオルガノポリシロキサン(A2)と、光重合開始剤(C)とを含み、SH/Vi比が0.70以上1.00未満、かつSH(A1)/Vi比が0.06以上となる構成とすることによって、高減衰性でありながら、せん断伸びに優れた光硬化性シリコーン樹脂組成物が得られることが分かった。また、実施例1~5群及び実施例6~10群における複素弾性率Gの結果から、オルガノポリシロキサンポリマーだけの構成であっても硬化物の複素弾性率を幅広く設計できることが分かった。
【0068】
また、実施例5及び実施例10の結果から、充填剤(D)を含んだ構成としても、せん断伸びに優れ、高い伸び向上率を示すことが分かった。また、実施例1~5群と実施例6~10群との結果の比較から、オルガノポリシロキサン(A2)とオルガノポリシロキサン(B)の種類を変更しても本発明の効果が得られることが分かった。
【0069】
一方、実施例1~4の結果と比較例1~4の結果との比較、並びに実施例6~9の結果と比較例8~11の結果との比較から、各構成成分とSH/Vi比が同じ条件であっても、オルガノポリシロキサン(B)の鎖長延長剤として機能する両末端にメルカプトアルキル基を有するオルガノポリシロキサン(A1)を含まない場合には、せん断伸びの測定値も減衰性(tanδ)の測定値も劣っており、せん断伸びと減衰性とを両立することができないことが分かった。また、比較例の結果によれば、弾性率(G)の測定値も大きくなっており、硬化物の複素弾性率の設計可能範囲が限定されてしまうことが示された。また、比較例5、12の結果からSH/Vi比が0.70未満の場合にはチオール-エン反応による架橋が不十分となって硬化せず、比較例6、13の結果からSH/Vi比が1.00以上の場合には良好な減衰性が得られなかった。さらに、比較例7及び比較例14の結果から、SH(A1)/Vi比が0.06未満であると、せん断伸びの向上が得られなかった。これらの結果から、各構成成分の配合は、SH(A1)/Vi比が0.06以上であり、かつSH/Vi比が0.70以上1.00未満とすることが重要であることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の光硬化性シリコーン樹脂組成物は、複素弾性率の設計可能な範囲が広く、高減衰性でありながら、せん断伸びに優れている硬化物を形成するので、例えば電気・電子部品のシール材、センサー類などのコーティング材、ポッティング材、ダンピング材、画像表示装置の光学接着剤(OCR、OCA)として有用であり、特に小型電気・電子製品における狭スペース部分に適用される用途に最適である。