(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-16
(45)【発行日】2024-04-24
(54)【発明の名称】霧箱
(51)【国際特許分類】
G01T 5/04 20060101AFI20240417BHJP
【FI】
G01T5/04
(21)【出願番号】P 2024027097
(22)【出願日】2024-02-27
【審査請求日】2024-02-27
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】596013224
【氏名又は名称】株式会社関東技研
(74)【代理人】
【識別番号】110001922
【氏名又は名称】弁理士法人日峯国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野 洋伸
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 洋
(72)【発明者】
【氏名】東石 良治
【審査官】小林 幹
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-317686(JP,A)
【文献】特開平8-262146(JP,A)
【文献】特開平9-184887(JP,A)
【文献】特開2007-232416(JP,A)
【文献】特表2013-520638(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0107292(US,A1)
【文献】Yasushi Kondo,100%成功する霧箱の作り方,理工学総合研究所研究報告,30号,近畿大学理工学総合研究所,2018年02月28日,p.21-29,https://kindai.repo.nii.ac.jp/records/19949
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 5/04
F25D 1/00-9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸気で満たされた観察室と前記観察室に前記蒸気を供給するための蒸気供給装置を備える観察装置と、前記観察室内の前記蒸気を冷却して前記観察室内に過飽和蒸気層を形成するための冷却装置と、を備え、前記観察室の前記過飽和蒸気層内を通過する放射線の飛跡を観察するための霧箱において、
前記冷却装置は、冷却室と、前記冷却室の上部に設けられた冷却板と、前記冷却板に機械的に接続され前記冷却室の下方に向けて伸びると共に前記冷却室の横方向に向けて伸びる複数個の冷却プレートと、液化二酸化炭素を保持する液化二酸化炭素容器に接続するための接続装置と、を備え、
前記液化二酸化炭素から生成された生成ドライアイスと気体状二酸化炭素との混合体を、前記複数個の冷却プレートの前記横方向における一方側から導入し、導入した前記生成ドライアイスと前記気体状二酸化炭素との前記混合体を前記複数個の冷却プレートにより前記横方向における他方向に導き、前記複数個の冷却プレートの間に形成された通路に前記混合体に含まれる前記生成ドライアイスを蓄え、前記通路に蓄えられた前記生成ドライアイスにより前記冷却板を冷却し、冷却された前記冷却板により前記観察室内の前記蒸気を冷却して前記過飽和蒸気層を形成する、ことを特徴とする霧箱。
【請求項2】
請求項1に記載の霧箱において、
前記冷却装置は、前記複数個の冷却プレートの下に、密閉収納手段に収納された保冷剤を有し、前記保冷剤の下に前記保冷剤を前記複数個の冷却プレートに向けて押圧するための弾性体を設けた、ことを特徴とする霧箱。
【請求項3】
請求項1あるいは請求項2の内の一に記載の霧箱おいて、
前記複数個の冷却プレートの前記横方向における前記他方向に前記気体状二酸化炭素を排出するための排出口が設けられ、前記排出口と前記複数個の冷却プレートとの間に前記生成ドライアイスの通過を阻止するためのフィルタが設けられ、
前記フィルタにより前記生成ドライアイスの通過が阻止され、前記複数個の冷却プレートの間に形成された前記通路に前記生成ドライアイスを蓄える、ことを特徴とする霧箱。
【請求項4】
請求項1あるいは請求項2の内の一に記載の霧箱において、
前記複数個の冷却プレートの下に、前記生成ドライアイスの通過を阻止するためのフィルタが設けられ、さらに前記フィルタの下に前記気体状二酸化炭素を排出するための排出口が設けられ、
前記フィルタにより前記生成ドライアイスの通過が阻止されることにより、前記複数個の冷却プレート間に形成された前記通路に前記生成ドライアイスを蓄える、ことを特徴とする霧箱。
【請求項5】
請求項4に記載の霧箱おいて、
前記冷却室に所定量の生成ドライアイスが蓄えられた後、前記冷却室から前記気体状二酸化炭素を排出するための前記排出口の断面積を縮小し、前記冷却室から排出する前記気体状二酸化炭素の排出量を低減する、ことを特徴とする霧箱。
【請求項6】
請求項2に記載の霧箱において、
前記保冷剤は、所定温度以下で固体状となり前記所定温度より高い温度で相変化する材料であり、
前記密閉収納手段はその内部に前記保冷剤を密閉された状態で収納する袋状であり、
前記保冷剤は前記複数個の冷却プレートに向けて前記弾性体により押圧された状態で保持されている、ことを特徴とする霧箱。
【請求項7】
請求項1あるいは請求項2の内の一に記載の霧箱において、
前記観察室へ前記蒸気を供給する前記蒸気供給装置は、前記蒸気を発生するための液を保持する液供給トレイと、前記液を温めるための暖機装置と、前記液供給トレイ内に保持されている前記液を前記観察室内に導くための液吸収体と、を備え、
前記液供給トレイは前記観察装置の外に開口する液供給口を備えている、ことを特徴とする霧箱。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線などの飛跡を観測するための霧箱に関する。
【背景技術】
【0002】
霧箱は放射線などの飛跡を観測する機能を備えている。良く用いられている一般的な霧箱は、エタノールなどの液体を蒸発させて観測室内にエタノールの蒸気層を生成する。さらに生成した蒸気層の片面を冷却することにより、観測室内に過飽和蒸気層を生成する。観測対象である放射線が、過飽和蒸気層を通過すると、過飽和蒸気層内に存在している分子に作用し、分子をイオン化させる。イオン化した分子は核となり、周囲の過飽和蒸気が凝結する。放射線の飛跡に沿って、次々に分子がイオン化し、過飽和蒸気の凝結が起こり、放射線の飛跡に沿って霧が発生する。光を照射して霧の状態を観測することにより、観測対象である放射線の飛跡を観察することができる。
【0003】
放射線などの飛跡を観測するための霧箱では、例えばエタノール(エチルアルコール)などの液の蒸気を発生させて観察室内に蒸気層を生成するために、蒸気発生装置を備えている。さらに蒸気層の一部を冷却して過飽和蒸気層を生成するための冷却装置を備えている。
【0004】
上述したように、観測対象の放射線が過飽和蒸気層を通過することにより、放射線の飛跡を観察することができる。多くの放射線が過飽和蒸気層内を通過するようにすることが大切であり、このためには過飽和蒸気層を広くすることが重要となる。過飽和蒸気層の厚さを広げるには、過飽和蒸気層を生成するための冷却装置の能力を向上することが大切である。しかし単に冷却装置の能力を向上させようとすると、冷却装置自身が大型化し重くなる。しいては放射線の飛跡を観測するための霧箱全体が大型化し、運搬等も含め、取り扱いにおいていろいろな障害が生じる。従って冷却装置は小型軽量であることが好ましい。
【0005】
観察室内の蒸気を冷却するために、一部には、固体のドライアイスを使用する試みが行われている。ドライアイスは極低温の固体であり、例えばドライアイスをどのように入手して霧箱セットするか、さらにセットされたドライアイスにより観察室内の蒸気を効率よく冷却するにはどのような構造にしたらよいか等、ドライアイスを使用した霧箱において、課題がいろいろ存在する。以下に記載の特許文献1は、観察室内の蒸気を冷却するためにドライアイスを使用する霧箱を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されている霧箱では、本文献の明細書の段落〔0018〕から段落〔0021〕に記載されているように、エチルアルコール蒸気を冷却するためにドライアイス15が使用される。上記段落の記載によれば、まず観察槽本体収容箱13の断熱層14の内底部にドライアイス15を載置する。次いで、観察槽本体12をドライアイス15の上面に載せ、各伝熱用雄ねじ23の先端部をドライアイス15に食い込ませる。続いて、貯留溝27にエチルアルコール26を貯留させた後、蓋部材20を観察槽本体12の上端開口面に被せ、同観察槽本体12内を密閉する。明細書の段落〔0034〕の記載によれば、上述の構成により、観察槽本体12内の底部の冷却効率を向上させることができる、と記載している。
【0008】
特許文献1に記載の霧箱では、まず観察槽本体収容箱13の断熱層14の内底部にドライアイス15を載置し、さらに各伝熱用雄ねじ23の先端部をドライアイス15に食い込ませる作業等を行う必要がある。ドライアイス15は極低温の固形物であり、ドライアイスそのものを載置するにはいろいろな注意が必要であり、作業がたいへんである。さらに載置されたドライアイスに多数の伝熱用雄ねじ23を食い込ませる作業が必要であり、たいへんな負担を伴う。言い換えると、観測装置である霧箱の使い勝手が悪いという大きな問題を有している。
【0009】
本発明の目的は、使い勝手の良い霧箱を提供することである。なお以下にいろいろな改善や工夫がなされた実施例を多数記載した。以下の実施例では、本発明が解決しようとしている課題解決である使い勝手の改善に止まらず、個々の実施例としての効果をも合わせて奏する。例えば実施例としての効果の一例として、冷却装置の設定により観察可能となる時間を延長できる効果がある。このように実施例における効果は、本効果以外にもいろいろある。これらについては以下のそれぞれの実施例の説明の中で、実施例の作用効果として具体的に説明する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
〔第1の発明〕
上記課題を解決する第1の発明は、
蒸気で満たされた観察室と前記観察室に前記蒸気を供給するための蒸気供給装置を備える観察装置と、前記観察室内の前記蒸気を冷却して前記観察室内に過飽和蒸気層を形成するための冷却装置と、を備え、前記観察室の前記過飽和蒸気層内を通過する放射線の飛跡を観察するための霧箱において、
前記冷却装置は、冷却室と、前記冷却室の上部に設けられた冷却板と、前記冷却板に機械的に接続され前記冷却室の下方に向けて伸びると共に前記冷却室の横方向に向けて伸びる複数個の冷却プレートと、液化二酸化炭素を保持する液化二酸化炭素容器に接続するための接続装置と、を備え、
前記液化二酸化炭素から生成された生成ドライアイスと気体状二酸化炭素との混合体を、前記複数個の冷却プレートの前記横方向における一方側から導入し、導入した前記生成ドライアイスと前記気体状二酸化炭素との前記混合体を前記複数個の冷却プレートにより前記横方向における他方向に導き、前記複数個の冷却プレートの間に形成された通路に前記混合体に含まれる前記生成ドライアイスを蓄え、前記通路に蓄えられた前記生成ドライアイスにより前記冷却板を冷却し、冷却された前記冷却板により前記観察室内の前記蒸気を冷却して前記過飽和蒸気層を形成する、ことを特徴とする霧箱である。
【0011】
〔第2の発明〕
上記課題を解決する第2の発明は、第1の発明において、
前記冷却装置は、前記複数個の冷却プレートの下に、密閉収納手段に収納された保冷剤を有し、前記保冷剤の下に前記保冷剤を前記複数個の冷却プレートに向けて押圧するための弾性体を設けた、ことを特徴とする霧箱である。
【0012】
〔第3の発明〕
上記課題を解決する第3の発明は、第1の発明あるいは第2の発明の内の一の発明において、
前記複数個の冷却プレートの前記横方向における前記他方向に前記気体状二酸化炭素を排出するための排出口が設けられ、前記排出口と前記複数個の冷却プレートとの間に前記生成ドライアイスの通過を阻止するためのフィルタが設けられ、
前記フィルタにより前記生成ドライアイスの通過が阻止され、前記複数個の冷却プレートの間に形成された前記通路に前記生成ドライアイスを蓄える、ことを特徴とする霧箱である。
【0013】
〔第4の発明〕
上記課題を解決する第4の発明は、第1の発明あるいは第2の発明の内の一の発明において、
前記複数個の冷却プレートの下に、前記生成ドライアイスの通過を阻止するためのフィルタが設けられ、さらに前記フィルタの下に前記気体状二酸化炭素を排出するための排出口が設けられ、
前記フィルタにより前記生成ドライアイスの通過が阻止されることにより、前記複数個の冷却プレート間に形成された前記通路に前記生成ドライアイスを蓄える、ことを特徴とする霧箱である。
【0014】
〔第5の発明〕
上記課題を解決する第5の発明は、第4の発明において、
前記冷却室に所定量の生成ドライアイスが蓄えられた後、前記冷却室から前記気体状二酸化炭素を排出するための前記排出口の断面積を縮小し、前記冷却室から排出する前記気体状二酸化炭素の排出量を低減する、ことを特徴とする霧箱である。
【0015】
〔第6の発明〕
上記課題を解決する第6の発明は、第2の発明において、
前記保冷剤は、所定温度以下で固体状となり前記所定温度より高い温度で相変化する材料であり、
前記密閉収納手段はその内部に前記保冷剤を密閉された状態で収納する袋状であり、
前記保冷剤は前記複数個の冷却プレートに向けて前記弾性体により押圧された状態で保持されている、ことを特徴とする霧箱である。
【0016】
〔第7の発明〕
上記課題を解決する第7の発明は、第1の発明あるいは第2の発明の内の一の発明において、
前記観察室へ前記蒸気を供給する前記蒸気供給装置は、前記蒸気を発生するための液を保持する液供給トレイと、前記液を温めるための暖機装置と、前記液供給トレイ内に保持されている前記液を前記観察室内に導くための液吸収体と、を備え、
前記液供給トレイは前記観察装置の外に開口する液供給口を備えている、ことを特徴とする霧箱である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、使い勝手において優れた霧箱を作ることができる。なお以下で説明する各実施例はさらにいろいろな効果を奏する。これらの効果は実施例の効果として、各実施例の説明の中で述べる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明が適用された霧箱の一実施例を説明するための断面図である。
【
図4(a)】冷却装置への生成ドライアイスの供給方法を説明するための説明図であり、
図3のC-C断面図である。
【
図4(b)】冷却装置における生成ドライアイスの収納状態を説明するための説明図であり、
図3のC-C断面図である。
【
図5(a)】冷却装置への生成ドライアイスの他の供給方法を説明するための説明図であり、
図3のC-C断面図である。
【
図5(b)】冷却装置への生成ドライアイスの他の供給方法を説明するための説明図であり、
図5aのD-D断面図である。
【
図6(a)】冷却装置への生成ドライアイスの他の供給方法における生成ドライアイスの収納状態を説明するための説明図である。
【
図7(a)】冷却装置での生成ドライアイスによる冷却動作状態における初期の状態の説明図である。
【
図7(b)】冷却装置での生成ドライアイスによる冷却動作状態における時間が経過した状態の説明図である。
【
図8】冷却装置のさらに他の実施例の基本構成を説明する説明図である。
【
図9】
図8に記載の基本構成の具体例を説明する説明図である。
【
図10(a)】本願発明が適用された霧箱の冷却装置に関する他の実施例である。
【
図10(b)】本願発明が適用された霧箱の冷却装置に関するさらに他の実施例である。
【
図11】本願発明が適用された霧箱の観察装置に関する他の実施例である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
〔はじめに〕
以下で説明する実施例において、同一符号を付した構成はほぼ同様の構造や動作であり、ほぼ同様の作用を為し、同様の効果を奏する。同一符号を付した構成に対する構造や作用や効果を含めた説明について、説明の煩雑さを避けるために、省略することがある。特に以下の実施例で部分的に構成を変更した場合に、全てを説明すると大変煩雑となるので、変更部分に絞った説明を行い、重複する構成について動作や作用効果の説明を省略する。
【0020】
1.本発明が適用された霧箱の一実施例に関する基本構成の説明
図1は本発明が適用された一実施例の霧箱100の断面図である。放射線の飛跡を観察するための霧箱100の構成として、放射線の飛跡を観察する観察装置200と、観察装置200の観察室202内に過飽和蒸気層206を生成するための冷却装置300と、を備えている。観察装置200の観察室202には、液体を気化させることにより発生した蒸気204が満たされている。過飽和蒸気層206の厚みを確保し易い観点から、この実施例では、蒸気204としてエタノールを蒸発させることにより発生させたエタノールの蒸気を使用し、観察室202内の蒸気204は、飽和状態に近い状態のエタノールの蒸気で構成されている。
【0021】
観察室202内の蒸気204は、観察室202の下に設けられた冷却装置300で冷却され、観察室202内に過飽和蒸気層206が形成されている。この過飽和蒸気層206の内部を観測対象である放射線が横切ると、過飽和蒸気層206内に存在する窒素や酸素などの分子がイオン化される。このイオン化は飛行する放射線の移動経路に沿って発生する。発生したイオンが核となり、イオンの周囲に存在する過飽和状態の蒸気、すなわち過飽和状態のエタノール分子が集まり、霧の状態となる。LED素子などで構成される照明装置220から過飽和蒸気層206に向けて光を照射することにより、放射線の移動経路に沿って発生した霧を、放射線の飛跡とて観測することができる。
【0022】
観測対象の放射線をより多く捉えるためには、過飽和蒸気層206の厚さを広げることが好ましい。また放射線の通過により発生したイオンに対して、より多くの過飽和蒸気を集めることができれば、霧の成長が促進され、放射線の飛跡が観測し易くなる。これらの観点から本実施例では、過飽和状態をより作り易いエタノール(エチルアルコール)を液として使用し、エタノール蒸気を蒸気204として使用している。さらに上述の過飽和蒸気層206の厚さをより厚くする観点から、観察室202を冷却する冷却装置300の冷却能力をより向上させている。以下で説明するが、本実施例の冷却装置300は、液化二酸化炭素384から生成した生成ドライアイス304を使用している。このことにより、以下で説明する通り、使い勝手や安全性が向上し、さらに冷却能力を大幅に向上させることができ、観測能力が向上すると共に、連続して観測を行うことが可能な時間である観測継続時間を従来の装置に比べて長くすることを可能としている。
【0023】
1.1
図1に示す実施例における蒸気供給装置250の説明
図1に記載の蒸気供給装置250の構成を説明する。蒸気供給装置250は蒸気を発生するための液体であるエタノール253を蓄える液供給トレイ252と、エタノール253を観察室202の内部に供給するための液吸収体260を備えている。蒸気204を発生するために使用するエタノール253が液供給トレイ252に供給され、保持されている。この実施例では、保温効果を奏するために保温カバー257で液供給トレイ252や次に説明する加熱装置254を覆っているので、この実施例では保温カバー257を外してエタノール253を液供給トレイ252に供給することになる。
【0024】
液供給トレイ252に蓄えられたエタノール253は、液吸収体260により吸収されて、観察室202の内部に導かれる。液吸収体260に吸収されたエタノール253は、気化し蒸気となって観察室202の内部に充満する。エタノール253の気化量を増やし、蒸気204を飽和状態に近づけるために加熱装置254が設けられている。加熱装置254は電気を使用してエタノール253の温度を上昇させるものであっても良いし、お湯を注ぐことでエタノール253の温度を上昇させるものであっても良い。また温風を吹き付ける構成であっても良い。さらにカイロなどの発熱体であっても良い。
【0025】
以下でも説明するが、従来の霧箱に使用されている冷却装置に比べて、以下の実施例に記載の冷却装置300は、冷却持続時間を非常に長くできる、大きな効果を奏する。例えば8時間以上、さらには12時間以上持続できる可能性を備えている。このため従来の霧箱100では考えられなかった長時間、冷却装置300内の冷却のためのメンテナンスを行うことなく、観測を継続できる能力を備えている。このように、冷却装置300は冷却機能を長時間維持できるので、それに合わせて蒸気供給装置250からのエタノール253の蒸気の供給可能時間を長くすることが望ましい。
図1の蒸気供給装置250の構成は、観測の途中でエタノール253の追加を簡単に行える構成としている。さらに加熱装置254による加熱を長時間維持することが可能な構成でもある。また本実施例では、長時間加熱を持続できる加熱装置256を必要に応じて利用することが可能な構成となっている。さらに
図1の構成は、加熱装置254や加熱装置256からの熱供給状態が、断熱材で構成された保温カバー257で覆われているので、長時間維持可能であり、エタノール253の温度を長時間高い状態に維持できる機能を有している。
【0026】
加熱装置256は通気性のある袋に収納された金属の粉末を有している。使用しない状態では、通気性のある袋が気密性の袋で更に密閉された状態では発熱作用が停止されている。金属の粉末は例えば酸化性の高い鉄の粉であり、前記鉄の粉を収納するための通気性のある袋の周囲から酸素が供給されると、供給される酸素と結びつき、酸化作用を為す。この酸化作用に基づき、発熱作用をする。このような加熱装置256は例えば、カイロとして市販され一般に使用されているものでも良い。この種類の製品は、半日あるいは一日、発熱作用を持続することが可能であり、取り扱いが極めて容易で、安全性にも優れている。
【0027】
観察室202内の上部の蒸気204と、冷却装置300により冷却された観察室202内の下部の蒸気との温度差を適切な大きさにすることにより、観測に必要な過飽和蒸気層206を発生させることができる。本実施例の冷却装置300は、以下で説明するが、冷却可能に優れており、観察室202の下部の蒸気204の温度を従来の装置より低く維持することができる。この結果、観察室202の上部の蒸気の温度を従来の装置に比べて低くい温度に設定しても、観察室202の上部と下部との蒸気の温度差を十分な状態にいじすることができ、観測に適した高さを有する過飽和蒸気層206を発生させることができる。
【0028】
図1に示す観察室202内には、液体を毛細管現象により吸収する機能を有する液吸収材264が、例えば周囲に、設けられている。なお本実施例では蒸気を発生する液としてエタノールを使用しており、液吸収材264はエタノール液を吸収する機能を有する。過飽和蒸気層206のエタノール蒸気は液化し、観察室202の底に溜まる。観察室202の底に溜まったエタノール液を液吸収材264により吸収し、液吸収材264の上部に毛細管現象により移動させる。エタノール液は液吸収材264内を上昇するに従って周囲の蒸気204や空気等により温められ、温度が上昇する。その結果過飽和蒸気層206よりも高い位置において再び気化して、エタノールの蒸気となり、図で示す蒸気204として作用する。このようにしてエタノールは、蒸気204の状態から過飽和蒸気層206における過飽和蒸気となって観測に寄与し、液化した後はエタノール液となり、液吸収材264により観察室202の上部に移動して再び蒸気となる。このようにエタノールを循環させて利用することにより、観測のために観察装置200の外部から供給されるエタノールの消費量を低減することができる。ここで説明した液吸収材264を使用してエタノールの消費量を低減するする構成および考え方は、本特許出願明細書に記載している実施例の全てに適用することができる。
【0029】
1.2 蒸気供給装置250の効果
既に述べたが、冷却装置300は従来の技術に基づく冷却装置に対して冷却効率が良いだけでなく、冷却持続時間を伸ばすことができる。例えば冷却装置300を朝動作開始し連続して夕方まで、時間的に約12時間程度、連続して動作を維持することが可能である。このような新しい冷却装置300に対する新たな課題として、観察室202内の蒸気204を長時間に亘って安定して飽和に近い状態に維持することが求められる。液供給トレイ252には観察装置200の外側に開口する液供給口262が設けられており、観測状態を維持しながら、液供給口262からエタノール253を極めて簡単にしかも必要とする状態で供給することが可能であり、長時間に亘りエタノール253の蒸気204を供給し続けることが可能となる。
【0030】
さらに加熱装置256として、鉄などの金属粉を酸化させることにより発熱する発熱体を使用することにより、長時間に亘る加熱が可能でしかも操作や取り扱いが容易いである。保温カバー257は断熱性に優れた断熱材料で作られたカバーであり、保温カバー257で全体を覆う構造として、エタノール253を高い温度に保温することにより、長時間の保温が可能となる。従ってここに記載の蒸気供給装置250は、安全であり、また小型軽量化が可能である。霧箱100を教育機関で使用する場合に、安全であり、また小型であり、操作が極めて簡単であり、大変優れた効果を発揮する。なお、
図1に示す蒸気供給装置250は一例であり、蒸気供給装置250の変形例は、以下で説明する。
【0031】
1.3 観察装置200の構成および動作の説明
観察装置200は、この実施例ではその周囲が放射線の軌跡を観察するための横観察窓212で構成されており、ガラスなどの透明な材料で作られている。また上面を構成する上観察窓214もガラスなどの透明な材料で作られている。照明装置220の光を過飽和蒸気層206に照射することにより、過飽和蒸気層206を通過した放射線により発生する霧による飛跡を、横観察窓212および上観察窓214を通して観察することができる。この実施例では上観察窓214と横観察窓212の両方で観察が可能であるが、どちらか一方だけにしても良い。その場合観察窓でない方は断熱材を使用した断熱壁とすることにより、蒸気204の冷却を容易にすることができ、冷却装置300の負担を軽減できる。従来の霧箱100では、冷却装置300の冷却能力を大きくできなかったために、横観察窓212は設けず、この部分を断熱材で構成した壁にすることが多かった。もちろん本実施例でもそのようにしても良い。しかし以下に説明の冷却装置300は、冷却能力が大きいので、横観察窓212を設けることが可能であり、この実施例では、より観察し易い霧箱100を得ることができる。
【0032】
2.冷却装置300の説明
2.1 冷却装置300の基本構成の説明
本発明が適用された
図1に記載の実施例に用いられる冷却装置300の基本構成を説明する。観察室202に蒸気供給装置250から供給された蒸気204を冷却して過飽和蒸気層206を形成するために、蒸気204を冷却するための冷却板312から下方に伸びる複数の冷却プレート330が、冷却板312に機械的に接続された状態で設けられている。
【0033】
図1に示す冷却装置300のA-A断面を
図2に示す。この実施例では一例として、冷却板312は一体的に接続された状態で下方に伸びる4個の冷却プレート330を有している。この冷却プレート330は
図2に示す通り、冷却プレート3301や冷却プレート3302、冷却プレート3303、冷却プレート3304である。
【0034】
図1に示す冷却装置300のB-B断面を
図3に示す。
図2や
図3に記載の通り、冷却装置300の外周は断熱材360で形成された外壁で囲まれ、その内部に冷却室302が形成されている。冷却室302は冷却板312から下方向および横方向に伸びる複数の冷却プレート330を上述のように有している。冷却プレート330のそれぞれの間に通路3321や通路3322、通路3323、通路3324、通路3325が形成される。
【0035】
液化二酸化炭素384あるいは液化二酸化炭素384から生成された生成ドライアイス304と気体状二酸化炭素との混合体が、注入口320および導入通路322を介して冷却室302に導入される。少なくとも冷却室302内では、液化二酸化炭素384は上記混合体となっている。上記混合体は、冷却室302の内部に設けられた冷却プレート330に沿って
図3に記載の矢印3401から矢印3405に示すように、通路3321や通路3322、通路3323、通路3324、通路3325に、分かれて流れる。フィルタ324は気体状二酸化炭素を通すが生成ドライアイス304を通さない作用をするので、上記混合体を構成する生成ドライアイス304が上述の通路3321から通路3325にそれぞれ蓄積され、やがてこれらの各通路は生成ドライアイス304で埋めつくされる。冷却室302に設けられている冷却プレート3301から冷却プレート3304の両サイドに形成された通路3321から通路3325のそれぞれが、生成ドライアイス304により埋めつくされることにより、冷却プレート3301から冷却プレート3304のそれぞれが冷却され、さらに一体化されている冷却板312が冷却され、観察室202を冷却する。観察室202内の蒸気204は冷却されて上述した過飽和蒸気層206が形成される。
【0036】
2.2 生成ドライアイス304を蓄えるための動作の説明
図4(a)および
図4(b)は、
図3のC-C断面図である。
図1や
図3および
図4(a)と
図4(b)の記載において、支持装置104により支持された液化二酸化炭素容器380には、液化二酸化炭素384と気化した状態の気化二酸化炭素382とが収納されている。冷却装置300が有する接続装置390および注入口320や導入通路322を介して、液化二酸化炭素容器380からの液化二酸化炭素384が導かれ、接続装置390の内部あるいは導入通路322、あるいはその出口において、液化二酸化炭素容器380が膨張し気化する。この結果二酸化炭素が急激に冷却され、生成ドライアイス304が生成される。生成ドライアイス304の生成は、液化二酸化炭素容器380の出口である接続装置390と液化二酸化炭素容器380との接続部であっても良い。また接続装置390の内部に通路系を拡大する構造を形成し、接続装置390の内部で生成ドライアイス304を生成させても良い。さらに導入通路322の内部または導入通路322の出口に通路断面の拡張部を形成して、生成ドライアイス304を生成しても良い。なお、この実施例では、液化二酸化炭素容器380が接続装置390を介して導入通路322に接続されているが、導入通路322や注入口320を接続装置390として使用し、液化二酸化炭素容器380を注入口320に直接接続しても良い。
【0037】
生成ドライアイス304は上述の通り、気体状二酸化炭素と共に、矢印3401から矢印3405で示すように、通路3321から通路3325に分かれて流れる。上述したように、フィルタ324により生成ドライアイス304の流れが阻止され、
図4(a)に示す如く、他方側に存在するフィルタ324から一方側344の方に向かって通路が埋められていく。なお、
図4(a)や
図4(b)において、生成ドライアイス304の状態を模式的に記載しているが、これは単に図面の記載の煩雑さを避けた記載であり、実際には、冷却プレート3302に沿って形成された通路3323の下部にも生成ドライアイス304が蓄積され。生成ドライアイス304の一方側の形状は垂直ではなく、その下部が一方側344に徐々に広がった形状となって、時間経過と共にその傾斜面が一方側344の方向に移動して行く状態となって、通路3323が生成ドライアイス304により埋められてゆく。
【0038】
なお、
図4(b)は、さらに時間が経過した状態の模式図である。上述したように実際には、生成ドライアイス304の一方側には、通路3323の底部を埋めるように生成ドライアイス304が積もった状態となっている。このようにして通路3323は生成ドライアイス304で埋められる。同時に他の通路も生成ドライアイス304で埋められ、冷却室302内全体が生成ドライアイス304で埋められた状態となる。冷却室302が生成ドライアイス304で満たされると、生成ドライアイス304を蓄積する必要性が無くなるので、開閉装置238の排気口2361や排気口2362、排気口2363を開閉装置238により閉じる。なお生成ドライアイス304による冷却動作の進行につれて生成ドライアイス304が気体状二酸化炭素になるので、二酸化炭素の気体を排気するための小さな開口が形成され、排気が維持される。
【0039】
2.3
図1および
図2から
図4に記載の冷却装置300の作用効果の説明
(1)液化二酸化炭素容器380を使用することによる作用効果
本実施例では、液化二酸化炭素から生成された生成ドライアイス304を利用して冷却するので、液化二酸化炭素容器380として市販されている小型のカートリッジを使用することが可能となる。このため取り扱いが極めて容易であり、経験の浅い人でも安全に使用することができる。生成ドライアイス304を含む気体状二酸化炭素との混合体は、市販されているカートリッジを利用して極めて簡単に生成できる。さらに生成された生成ドライアイス304は、固体のドライアイスに劣らない冷却機能を発揮するので、十分な幅を有する過飽和蒸気層206を生成することができる。しかも以下に記載のごとく高い冷却効率が得られるので、従来の冷却用機械を備えた装置や固体のドライアイスを利用する冷却装置に比べ非常に長い時間、観測を継続することが可能となる。
【0040】
(2) 生成ドライアイス304を使用することによる作用効果の説明
冷却板312に一体的に接続された複数の冷却プレート330を生成ドライアイス304で冷却する構成としており、生成ドライアイス304は気体状二酸化炭素により運ばれて蓄積される。気体状二酸化炭素は、断面積の大きな通路により多く流れる状態となり、生成ドライアイス304で埋められた通路は自動的に避けられ、埋められていない通路に自動的に多くの気体状二酸化炭素が流れる傾向となる。この結果、積もる量の少ない部分に生成ドライアイス304を有する流れの多くが自動的に選択されて、生成ドライアイス304が運ばれる状態となる。この結果、冷却室302は全体的にしかも均一に近づく傾向となり、自然に均一化の方向になるように生成ドライアイス304が蓄えられる効果が得られる。
【0041】
例えば生成ドライアイス304を有する混合体が冷却室302に導入された初期の状態では、
図3において導入通路322に近い通路3323に多くの生成ドライアイス304が導かれ、通路3323に多くの生成ドライアイス304がたまる状態となる。この結果積もった生成ドライアイス304が通路3323を塞ぐ作用が徐々に強くなり、通路3323を流れる混合体の量が減少し、他の通路3322や通路3324により多くの混合体が導かれるようになる。このような現象により、ごく自然な状態で、通路3321から通路3325のそれぞれに生成ドライアイス304が蓄積し、冷却室302全体が生成ドライアイス304により埋められる。もちろんさらに加えて、通路3321から通路3325のそれぞれに流れる混合体の量をより均一化させる形状に、通路3321から通路3325の形状を変えても良い。このように形状を利用した場合であっても、さらにそれに加えて、生成ドライアイス304が全体的に、空間をより均一に埋めつくす作用をなす。従来のように固体の硬い形状のドライアイスを使用して冷却しようとした場合には、前記ドライアイスの形状や配置状態を、人為的に手を加えることが必要となる。低温のしかも硬いドライアイスを加工することは非常にたいへんな作業である。本実施例では、経験の少ない人であっても大変簡単にしかも安全に使用することが可能となる。
【0042】
図2は冷却装置300の冷却動作中における生成ドライアイス304の状態を模式的に図示した説明図である。冷却装置300を構成する冷却プレート3301は、その両サイドの通路3321や通路3322に積もった生成ドライアイス304により冷却される。同様に冷却プレート3302は通路3322と通路3323に積もった生成ドライアイス304で冷却され、冷却プレート3303は通路3323と通路3324に積もった生成ドライアイス304で冷却され、冷却プレート3304は通路3324と通路3325に積もった生成ドライアイス304で冷却される。
【0043】
冷却プレート3301の面に接する通路3321や通路3322に積もった流動性のある生成ドライアイス304の部分が気化し、冷却プレート3301の表面との間に隙間3330や隙間3331が生じる。しかし本実施例では生成ドライアイス304が流動性のあるドライアイスであるために、隙間3330や隙間3331が深くなるのが抑制される。それに加えさらにこれらの隙間の幅が広がるのも抑制される。その理由は、生成ドライアイス304は、固体の強固なドライアイスのかたまりではなく、流動性を有するからである。例えば隙間3330が深くなってくると、流動性のある生成ドライアイス304が隙間3330を埋める作用をする。同様に隙間3330の幅が広がってくると、隙間3330を形成している流動性のある生成ドライアイス304が移動し、隙間3330の拡大が抑制される。この現象は隙間3331から隙間3338のそれぞれついても同様である。このため、冷却効率の低下が抑制され、高い冷却効率が長時間に亘り維持される。
【0044】
一方、従来のドライアイスを使用した冷却装置では、硬い固体状のドライアイスが使用される。冷却機構の接触面、例えば冷却板312と従来の強固なドライアイスとの表面に隙間ができると、その隙間は広がる一方でありどんどん成長する一方である。このため冷却能力が急激に低下する。このため、硬い形状の従来のドライアイスがほとんど使用されないで冷却装置300の内部にドライアイスが残っているにもかかわらず、十分な冷却機能がなされなくなる。例えば従来は、短時間の観察の後に、従来のドライアイスのかたまりを取出し、その表面を均質に形成し直し、再度従来のドライアイスをセットし直す作業が必要であった。連続観測時間を長くすることが困難であり、それにもまして使い勝手が非常に悪く、不慣れな人は利用できない、といった問題がある。
【0045】
2.4 冷却装置300の他の実施例の説明
(1) 冷却装置300の他の実施例の構成と動作の説明
冷却装置300についての他の実施例の構成とその動作を、
図5(a)および
図5(b)を用いて説明する。
図1や
図3に記載の実施例における冷却装置300では、冷却室302の一方側の注入口320から取込まれた気体状二酸化炭素を排気するための、排気口2361から排気口2363で構成される排気口236を、冷却室302の他方側に設けていた。しかし
図1や
図3に記載の実施例における冷却装置300は、以下で説明する
図4や
図5に記載の実施例でも良く、さらにその後に説明する
図8や
図9に記載の実指令でも良い。もちろん上述の実施例の記載した冷却装置300の構成を変更あるいは上述の実施例の構成にさらに新たな構成を追加した物であっても良い。
【0046】
図5(a)および
図5(b)に記載の実施例において、冷却室302の横方向に設けた導入通路322から導入された液状二酸化炭素、あるいは気体状二酸化炭素と生成ドライアイス304との混合体は、冷却室302に導かれた状態では液状二酸化炭素はほぼ全て気体状二酸化炭素と生成ドライアイス304との混合体となり、
図5(a)に記載の矢印3401から矢印3405で示すように流れる。上記混合体を構成する気体状二酸化炭素は、冷却室302の下方に設けられたフィルタ326を介して外部に排出される。一方生成ドライアイス304はフィルタ326の全体に降り積もるあるいは吹き付けられた状態で積もり、注入口320の反対側である他方側346の位置から蓄えられて行く状態となる。これは、一方側に設けた導入通路322から勢いよく生成ドライアイス304と気体状二酸化炭素との混合体が流れ込むように、排気口237の開口を大きくし、さらに排気口2351や排気口2352の開口を大きくしているからである。
【0047】
冷却室302内を効率よく生成ドライアイス304で埋めるためには、導入通路322から生成ドライアイス304を勢いよく導入することが望ましい。すなわち生成ドライアイス304の蓄積作業の初期の状態から終了の状態まで、できるだけ気体状二酸化炭素がフィルタ326を通過し易い状態に、生成ドライアイス304の収納状態を維持することが好ましい。本実施例では、冷却室302の一方側に導入通路322が設けられ、勢いよく導入されるので、冷却室302の他方側の方に勢いよく上記混合体が流れ、他方側から順に生成ドライアイス304が蓄えられる傾向となる。従ったフィルタ326の他方側の通気が悪くなるが、一方側ではフィルタ326の気体状二酸化炭素を通過させる機能が維持される。生成ドライアイス304の蓄え量が増加しても、一方側で気体状二酸化炭素がフィルタ326を通過する機能が比較的長く維持されるので、生成ドライアイス304を冷却室302に蓄積するのに必要な時間が短くなる。
【0048】
(2) 冷却装置300の他の実施例の作用効果の説明
図5(a)および
図5(b)は、冷却室302への生成ドライアイス304の蓄勢動作における初期段階を示す。一方
図6(a)および
図6(b)は、冷却室302への生成ドライアイス304の蓄勢動作における終了に近い段階を示す。さらに
図7(a)および
図7(b)は、冷却室302への生成ドライアイス304の蓄勢作業を終え、次の放射線の観測状態に置ける冷却装置300の動作状態を説明する図である。
【0049】
冷却室302への生成ドライアイス304の蓄積作業を短時間に終わらせることにより、目的とする放射線の観察のための準備作業を早く終了させることができ、速やかに観察を開始できる。さらに冷却室302への生成ドライアイス304の蓄積作業の終了後は、液化二酸化炭素容器380の使用を停止し、液化二酸化炭素容器380切り離すことが可能となる。冷却室302に蓄積された生成ドライアイス304により冷却機能を維持できるので、液化二酸化炭素容器380内の液化二酸化炭素の浪費などを抑制できる。液化二酸化炭素容器380の取り扱いも容易となり、負担を低減できる。
【0050】
上述したように導入通路322から冷却室302に導入された気体状二酸化炭素と生成ドライアイス304との混合体を勢いよくフィルタ326を介して流すことにより、フィルタ326の面に均一となるように生成ドライアイス304を蓄えのではなく、不均一に、例えば他方側346に生成ドライアイス304を含む混合体を吹き付けるようにして、初期段階で他方側により多くの生成ドライアイス304が蓄積されるようにしている。この結果、生成ドライアイス304の蓄積量が初期段階では、他方側の蓄積量が一方側に比べに非常に多くなる。このためフィルタ326の他方側を通過する気体状二酸化炭素は減少するが、フィルタ326の一方側ではフィルタ326を通過する気体状二酸化炭素の状態を多い状態に維持することができ、生成ドライアイス304の蓄積速度の低下を抑制できる。このことは、模式的に記載した
図5(a)や
図5(b)を用いて説明したとおりである。
【0051】
図6(a)や
図6(b)に記載の状態は、冷却室302への生成ドライアイス304の蓄積作業の終了に近づいた状態を模式的に示している。この状態に置いても同様の効果が得られる。すなわち
図6(a)の記載において、矢印3401から矢印3405に示す混合体の流れが最終状態まで維持される。従って
図6(b)に記載の矢印2426や矢印2424の流れを維持し続けることが容易となる。この結果生成ドライアイス304を蓄える作用の衰えを少なくできる効果が生まれる。もちろん
図6(b)は模式的な図であり、一方側344に位置するフィルタ326の上面に実際には生成ドライアイス304が蓄積されている。しかしこの蓄積の厚さ、言い換えると蓄積の深さは、他方側346よりはるかに抑制された状態となる。このため蓄積作業の終了近くまで、スムーズな生成ドライアイス304の蓄積作業が維持され、全体としての生成ドライアイス304の蓄積作業の時間を短縮できる。
【0052】
図5(a)や
図5(b)の記載、および
図6(a)や
図6(b)の記載において、排気通路232に排出された気体状二酸化炭素を排気口2351や排気口2352を介して冷却装置300の側面から矢印2421や矢印2425で示すように排出している。冷却装置300の側面から気体状二酸化炭素を排気するのは一例であり、下面から排気しても良い。ここで排気口2351や排気口2352の開口を気体状二酸化炭素の排気量に比べて大きくしている。上述した注入口320から冷却室302に供給される気体状二酸化炭素と生成ドライアイス304の混合体の導入速度を低下させたくないためである。このことにより、上述したように冷却室302への生成ドライアイス304の蓄積時間の低下を抑制できる。例えば冷却装置300の下面から気体状二酸化炭素を排気する場合も、同様のことが言える。
【0053】
排気口2351や排気口2352として記載のように気体状二酸化炭素の排気口を複数個有している。排気される気体状二酸化炭素は非常に低温であり、一カ所のみから排気すると、一部のみを急激に冷却する恐れがある。周囲に於かれている他の機器などへの悪影響も考えられる。また大気中の水分の液化の影響も考えられる。この実施例では、排気される気体状二酸化炭素の分散を図っている。
【0054】
3.観測状態における霧箱100の説明
3.1 観測状態における冷却装置300の動作の説明
図7(a)は観測開始時の冷却装置300の状態を示す概念図である。冷却板312に一体的に固定された冷却プレート330の間の空間は生成ドライアイス304で埋められている。なお
図7(a)では冷却プレート330の内の一つである冷却プレート3302を記載している。この状態では、生成ドライアイス304は冷却プレート330を構成する冷却プレート3301から冷却プレート3304のそれぞれの表面に生成ドライアイス304が密着している。
【0055】
生成ドライアイス304により、
図1で説明した観察室202内の蒸気204が冷却され、過飽和蒸気層206が形成される。過飽和蒸気層206に照明装置220から光を照射することにより、観察目的とする放射線の飛跡を観察することが可能となる。
【0056】
冷却作用により生成ドライアイス304が気化し、気体状二酸化炭素が発生するがその量が少ないため、観測状態では排気口2351や排気口2352のような口径の排気口は不要であり、排気口328で示す如く、排気口2351や排気口2352で作られる排気口の断面積より一桁以下の断面積で十分である。この小さい断面積の排気口328から矢印329で示すように気体状二酸化炭素が排気される。
【0057】
図7(b)は、長時間継続された放射線の飛跡の観察により、生成ドライアイス304が少なくなった状態を示す概念図である。冷却板312に一体的に固定された冷却プレート3302の表面が大きく露出し、生成ドライアイス304との接触面が少なくなっている。冷却プレート3302は冷却プレート330を構成する冷却プレート3301から冷却プレート3304の代表例として示したものであり、冷却プレート3304と生成ドライアイス304との接触状態は、先に
図2を用いて説明したとおりである。冷却プレート3304と生成ドライアイス304との間に隙間が形成されるが、上述したとおり、積み重なった流動性のある生成ドライアイス304は崩れやすく、上記隙間の拡大が常に抑制される。この点は、固体の強固なドライアイスを使用しようとした場合との大きな違いである。
【0058】
3.3 観測状態における冷却装置300の作用効果の説明
図7(a)を用いて、冷却室302に生成ドライアイス304が収納された状態を上述した。生成ドライアイス304を収納した状態であっても、冷却装置300の部分の重さは、例えば固体状の硬い形状のドライアイスを収納した状態に比較し、非常に軽い。霧箱100全体の重量を抑制でき、取り扱いが容易である。また本実施例におけるフィルタ326に係る荷重が少ないことで、構造的にたいへん有利である。
【0059】
生成ドライアイス304は内部に気体状二酸化炭素を含んでいることで、冷却能力が低下するのではないかと、考える人が居るかもしれません。例えは固体状の硬い形状のドライアイスを使用した場合冷却能力が大きいように考えるかもしれません。しかし実際の硬いドライアイスの使用では、硬いドライアイスと冷却板312との熱伝達状態を良好に維持することが困難であり、
図7に示す実施例の方がはるかに良好の冷却能力を発揮する。
【0060】
図2を使用して説明した如く、生成ドライアイス304は崩れやすく、生成ドライアイス304と冷却プレート330を構成する各プレートの面との間の隙間の成長を抑制し、高い冷却効率の維持に大きな効果を発揮する。
【0061】
生成ドライアイス304は、硬いドライアイスの塊に比べ軽量であり、保持が容易である。例えば生成ドライアイス304を保持するフィルタ326への負担が少ない。排気口2373や排気口2372、排気口2371はその機能からすればつながっていても良い。この実施例では複数に分割されている。この分割によりフィルタ326の機械的な負担を低減でき、構造的にも製造し易い形状とすることが可能となる。
【0062】
冷却中の気体状二酸化炭素の排気口の開口面積を、生成ドライアイス304の収納動作の状態より小さくしているので、冷却室302の低温状態が維持し易くなる。特にこの実施例では、冷却中は注入口320を不要とすることができ、注入口320を断熱壁2442で覆うことができる。さらにフィルタ326を通して排気通路232に流れ込んできた気体状二酸化炭素を、排気通路232を形成するための断熱材で作られた通路形成体244で遮断するように、排気口2373や排気口2372、排気口2371を断熱材で塞ぐ構成としている。フィルタ326には断熱作用はないが、この構成によりフィルタ326は外界から熱的に遮断された構成となる。また開口面積の大きい排気口2351や排気口2352も断熱材360で熱的に遮断される。この構造により、生成ドライアイス304のよる冷却効率が高い状態に維持される。
【0063】
4.新たな構成を備えた霧箱100の説明
4.1 保冷剤350を備えた冷却装置300の構成および動作の説明
上述した
図5(a)や
図5(b)、
図6(a)や
図6(b)、
図7(a)や
図7(b)を用いて説明した実施例の構成において、
図8や
図9に記載の実施例では、冷却プレート330の下に保冷剤350を更に設けている。保冷剤350は一般的に蓄熱材とも言われている。保冷剤350は密閉収納手段に収納されており、低温では固体であり、温度が上昇すると相変化する。相変化が生じている状態では、温度は一定に維持される。この実施例で使用される保冷剤350は、ソフトタイプであっても良いし、ハードタイプであっても良い。ソフトタイプの保冷剤350の方が他の装置との密着性が良いが、生成ドライアイス304を使用しているので、保冷剤350と他の装置との隙間が生成ドライアイス304で埋められるので、ハードタイプの保冷剤350でも使用可能である。
【0064】
図8および
図9に記載の実施例に加え、10(a)や
図10(b)に記載の実施例でも保冷剤350を使用する。本明細書において、一般に言われている保冷剤および蓄熱材を総称して保冷剤350と記載する。一部の業界では、保冷剤はソフトタイプを意味し、蓄熱材はハードタイプを意味するとの解釈が存在するが、上述の通り、本明細書では総称して保冷剤350と記載する。また本明細書では、プラスチック等で作られたハードな入れ物を使用している保冷剤をハードタイプと記載し、袋などのソフトな入れ物を使用しているものをソフトタイプと記載する。なお、保冷剤の多くは水を主成分とし、ポリマーが混入されたものであるが、本明細書では、これに限定する物ではない。温度が高い状態で液体状態となり、温度が低い状態で固体状となり、温度の変化に基づいて相変化する物を保冷剤350として記載する。
【0065】
図8に記載の実施例では、保冷剤350の上面が冷却プレート330の下面に接しているが保冷剤350の上面と冷却プレート330の下面との間に熱伝達の良好な例えば金属板を有していても良い。なおこの場合、気体状二酸化炭素の排気を行うための考慮が必要である。本実施例では、保冷剤350の下には生成ドライアイス304の通過を阻止するためのフィルタ326が設けられている。フィルタ326を通過した気体状二酸化炭素は、排気室352の下部に設けられ、断熱材で形成されているカバー356に設けられた排気口357を介して外に排気される。
【0066】
上述したように、冷却室302に蓄積される生成ドライアイス304は接続装置390を介して液化二酸化炭素容器380から送られてくる液化二酸化炭素に基づいて生成される。液化二酸化炭素に基づき生成ドライアイス304がどこで生成されるかは、移動通路上における断面の拡大部をどこに形成するかにより定まる。観察室202の入口において少なくとも、液化二酸化炭素と生成ドライアイス304との混合体が形成されていれば、本発明の実施例は正常に動作する。
【0067】
保冷剤350は広い面積を有し、
図5(a)や
図6(a)に記載の冷却室302の大部分をカバーする広さを有している。本実施例では一個の保冷剤350を用いているが複数個の保冷剤を使用しても良い。冷却室302に蓄積される生成ドライアイス304は保冷剤350の上面に積もる状態となるが、保冷剤350が存在しないところはフィルタ326の上面に積もる状態となる。生成ドライアイス304は保冷剤350の上面形状に関係なく蓄積されるので、保冷剤350と積層された生成ドライアイス304との間が良好な状態で埋められ、高い冷却効率を維持することができる。生成ドライアイス304の温度上昇を保冷剤350で効率よく抑えることが可能となる。
【0068】
また保冷剤350の上面が冷却プレート330に接している場合には、保冷剤350で直接冷却プレート330を冷却でき、さらに隙間が有っても保冷剤350と冷却プレート330との間が積層された生成ドライアイス304で埋められるので、冷却プレート330の温度上昇を効率よく抑えることが可能となる。
【0069】
カバー356は簡単に取り外しが可能であり、カバー356と弾性体354、フィルタ326を取り外して保冷剤350を取り換えることができる。冷凍庫などの冷却装置で冷却した保冷剤350と使用済みの保冷剤350とを簡単に交換することができる。
【0070】
4.2 弾性体354を使用した冷却装置300の構成および動作の説明
図8に示す実施例では、考え方を説明するために、バネを用いた弾性体354を使用して、フィルタ326により、保冷剤350を冷却プレート330の方に押圧している。
図9に記載の冷却装置300では、弾性体354としてバネではなく断熱弾性体355を使用することにより、冷却室302にカバー356を介して熱が伝わるのを抑制できる。断熱弾性体355としては例えば樹脂で作られた弾性体とか、ゴムで作られた弾性体とかであり、金属製の弾性体より、熱の伝達を押えることができる。例えはスポンジのように内部に多数の気泡が形成されている場合により効果的に熱の移動を抑制できる。
【0071】
4.3 保冷剤350を有する冷却装置300を使用した場合の効果の説明
図8や
図9に記載の冷却装置300では、観察室202内の蒸気204を冷却するために、生成ドライアイス304に加えて保冷剤350を使用している。保冷剤350は取り扱いが容易であり、使用するに当たっての事前作業の負担を低減できる。上述したように生成ドライアイス304の使用により、冷却装置300の連続使用時間を従来の装置に比べて大幅に伸ばすことが可能となる。それに加えて本実施例では保冷剤350を使用しており、これにより連続観察可能時間を大幅に延ばすことができる。
【0072】
本実施例では、保冷剤350と他の装置、例えば冷却プレート330との接触部に、隙間が生じたとしても、この隙間に生成ドライアイス304が入り込み、隙間を埋める作用をしたり隙間の拡大を抑制したりする。この結果、保冷剤350としてソフトタイプのみならずハードタイプの保冷剤350も使用可能である。さらにソフトタイプの保冷剤350を使用する場合であっても、生成ドライアイス304を使用しない状態に比べ、上述した接触部に生じ易い隙間を生成ドライアイス304が埋める作用により、冷却効率が大幅に向上する。
【0073】
本実施例では、弾性体354あるいは断熱弾性体355により、フィルタ326を上方に押圧して、生成ドライアイス304や保冷剤350を保持している。生成ドライアイス304は固形の硬いドライアイスに比べると軽い。また保冷剤350も比較的軽い。このため弾性体354や断熱弾性体355による押圧力が小さくても、生成ドライアイス304や保冷剤350を保持できる。生成ドライアイス304の代わりに硬いドライアイスを使用した場合には、重量が増大する。また硬いドライアイスの量が多い状態と消費されて少なくなった状態との質量差が大き。弾性体354や断熱弾性体355は、質量の大きい状態において、硬いドライアイスを上方に押圧できることが求められる。このため硬いドライアイスを使用した場合には、弾性体354や断熱弾性体355に本実施例より大きな負担が加わる。さらに加えて、フィルタ326に加わる力も増大する。このため、断熱弾性体355や断熱弾性体355にはより大きな押圧の発生が求められ、フィルタ326にはより頑丈な構成であることが求められる。本実施例では、質量の小さい生成ドライアイス304を使用しているので、フィルタ326や弾性体354、断熱弾性体355の負担を少なくできる。このことは耐久性の向上にもつながる。
【0074】
同様のことがカバー356に対しても当てはまる。本実施例では、カバー356に加わる荷重が硬いドライアイスを使用した場合より少ない。カバー356は保冷剤350を交換する場合に取り外されるので、少ない力で簡単に外せることが求められる。また断熱弾性体355やフィルタ326に関しても、軽量であることが作業性の向上につながる。本実施例で生成ドライアイス304を使用することによる効果として、カバー356や断熱弾性体355、フィルタ326の取り外し作業を伴う保冷剤350の交換作業が容易となる。さらにカバー356の取り付け取り外し機構の耐久性の向上にもつながる。
【0075】
5. 保冷剤350により冷却板312を冷却する実施例の説明
5.1 構造および動作の説明
図10(a)や
図10(b)に記載の実施例では、保冷剤350で直接冷却板312を冷却し、観察室202内の蒸気204を冷却して過飽和蒸気層206を形成する構成を示している。
図10(a)に記載の実施例と
図10(b)に記載の実施例との相違点は、保冷剤350を冷却板312の方に押圧するために弾性体354を使用するか断熱弾性体355を使用するかであり、基本的な構成や作用効果は同じである。
図10(a)を用いて
図10(b)に記載の実施例も含めた基本的な構成や動作を説明する。
【0076】
実施例に記載の霧箱100の構成において、観察装置200の構成および作用効果は、
図1や
図8、
図9を使用して、既に上述したとおりである。この実施例で冷却装置300は冷却室302内に配置した保冷剤350により冷却板312を冷却し、冷却板312により観察室202内の蒸気204を冷却して過飽和蒸気層206を形成する構成を有している。保冷剤350の上面が冷却板312に接するように、弾性体354により断熱板370を介して保冷剤350を上方に押圧する。弾性体354は複数個設けられていても良く、弾性体354の下側はカバー356で指示されている。
【0077】
保冷剤350の正面が冷却板312の下面に密着することが望ましい。このためこの実施例で使用される保冷剤350は、ソフトタイプが望ましい。上述しましたが、保冷剤350は温度が上昇すると相変化する性質を備えており、相変化の生じている状態では、温度は一定に保持される。相変化により、保冷剤350は変形し易い状態となるので、弾性体354で押圧されることにより、冷却板312の下面に保冷剤350の上面が密着する。なおソフトタイプの保冷剤350は相変化して柔らかくなっても材料自身は純粋な水のように自由に移動することがないので、冷却板312との接触面で相変化により柔らかくなった材料により冷却板312との密着生が維持それ、良好に熱伝達作用が得られる。このため従来の硬いドライアイスを使用する装置と比べると、非常に高い冷却効率を維持できる。なお保冷剤の主成分は水であるがポリマーが入っているため、上述のように液体状であっても粘性を有している。
【0078】
保冷剤350の下面に断熱板370が設けられているので、弾性体354として金属製の弾性材が使用されても、保冷剤350へカバー356や弾性体354を介して熱が伝達されることが抑制される。上述の実施例と異なり、保冷剤350は相変化により気体が発生することが無いので、排気口を設ける必要が無い。
【0079】
図10(a)の実施例に対し、
図10(b)は断熱板370と弾性体354の機能を有する断熱弾性体355を使用した点で相違している。しかし保冷剤350を使用したことにより冷却板312と保冷剤350との密着生が良くなり、高い冷却効率が得られる効果は同じである。カバー356を取り外して使用済みの保冷剤350と低温に保冷しておいた保冷剤350とを交換することにより、簡単な作業で観察を開始することができる。
【0080】
5.2
図10(a)および(b)に記載する実施例の効果の説明
本実施例で使用する保冷剤350については、
図8および
図9の実施例において、記載したとおりである。保冷剤350は取り扱いが容易であり、また安全性が高い。さらにドライアイス等と異なり、冷凍庫で冷却することにより、繰り返し使用可能である。
【0081】
図10(a)および(b)の実施例では、保冷剤350を一個として記載しているが、実際の使用においては、複数個並べて配置しても良いし、場合によっては複数個重ねて使用することも妨げない。本実施例ではこのように複数個並べて使用しても、次に説明するように、冷却対象の冷却板312に対して保冷剤350の密着性が容易に維持されるので、良好に冷却効果が得られる。
【0082】
保冷剤350は上述の実施例の動作説明で触れたが、温度が上昇すると相変化が生じ固体から液体に変わる。この液体は粘性を有しており、弾性体354や断熱弾性体355により保冷剤350が冷却板312に押圧されることにより、保冷剤350の上面が広範囲に渡り冷却板312の下面に密着し、この密着状態が維持される。例えば固体のドライアイスで冷却板312の下面を冷却しようとした場合に、保冷剤350とことなり、固体ドライアイスの上面では気化の現象が起こり、固体ドライアイスの上面がでこぼこの状態となる。固体ドライアイスの下から覆圧しても、冷却板312の下面に密着させることは困難である。このため固体ドライアイスを使用する場合には、短い時間単位で、固体ドライアイスの接触面を均一な平面に整形し直すことが必要となる。保冷剤350では上述したように最良の密着状態が維持されるので、保冷剤350の冷却機能が失われるまでの長い時間連続して使用することが可能となる。
【0083】
本実施例では、カバー356と弾性体354の取り外しや取り付けが非常に簡単である。同様にカバー356や断熱弾性体355の取り外しや取り付けが非常に簡単である。従って使用済み保冷剤350を新たな冷却状態の保冷剤350に交換するのが容易であるだけでなく、極めて短時間に行える。例えば観察中に保冷剤350の交換が必要となった場合でも、中断時間は極めて短くすることができる。
【0084】
保冷剤350は他の冷却手段に比べると大変軽い。このため冷却装置300が極めて軽量であり、その結果霧箱100全体が軽量となる。持ち運びが容易である。また観察のための据え付けも容易となる。この効果は本実施例のみならず、上述した実施例の全てに当てはまる。
【0085】
霧箱100は使用に伴う持ち運びが多い装置である。持ち運びにおいては、装置の破損や故障が大きな問題となる。冷却装置300の構造が非常にシンプルであり、また微調整を必要とする程の精密さは要求されない。それは保冷剤350の柔軟性に伴う効果である。このため運搬や移動が行われても、観測特性に影響をもたらすほどの故障や劣化が生じにくい。
図1や
図8、
図9に記載の実施例においては、保冷剤350の柔軟性に加えて、生成ドライアイス304も柔軟性を有しているので、ここに記載した効果を備えている。
【0086】
6. 蒸気供給装置250に関する構成の説明および効果について
図1に記載の実施例において、蒸気供給装置250の動作を説明したが、
図1および
図11を用いて、蒸気供給装置250の動作と作用効果について説明する。なおこの説明は、
図8や
図9、
図10(a)および
図10(b)に記載の実施例においても、当てはまる。
【0087】
上述した実施例では、冷却装置300における冷却動作を従来に比べ非常に長時間継続することができる効果を有する。この結果従来の装置では見逃されてきた新たな課題が明らかになった。それは観察室202への蒸気204の供給を長時間持続可能とすることが求められることである。使用される蒸気204は、上記実施例では液体のエタノール253から作られる。
図11に記載の液供給トレイ252に蒸気204を発生させるためのエタノール253が蓄えられ、液吸収体260により毛細管現象によってエタノール253が吸収され、観察箱210の内部に導かれる。観察箱210の内部に導かれたエタノール253は観察室202で蒸発し、蒸気204となる。
【0088】
図11の実施例に記載するとおり、液供給トレイ252は断熱外周壁216の外に開口している。従ってエタノール253の供給が望ましくなった場合に、霧箱100の監察動作を停止しなくても、液供給トレイ252にエタノール253を供給することが可能となる。観察室202内の蒸気204の状態が飽和状態よりも低い状態となると、自動的に液吸収体260から蒸発するエタノール蒸気が多くなり、液供給トレイ252からの液吸収体260によるエタノールの吸収量が増加する。結果的に、観察室202内の蒸気204の濃度が適した濃度となるように、液吸収体260により、液供給トレイ252内に蓄えられたエタノール253が観察室202内に自動的に最適な状態で供給される。
【0089】
図11に記載の実施例では、上述の通り、霧箱100の動作を維持した状態で、必要に応じて液供給トレイ252へエタノール253を供給することができる。さらに液吸収体260により、霧箱100の動作を維持するのに必要なエタノール253が自動的に観察室202の内部に導かれる。従って霧箱100の動作状態が、液供給トレイ252へのエタノール253の供給動作により、変化してしまう恐れが無い。もちろん液供給トレイ252には蓋等を設けても良い。
図11に記載の考え方や構成を他の実施例にも適用できる。上述したとおり、本願発明が適用された冷却装置300では、冷却能力を従来の装置よりはるかに長く維持することが可能であり、長時間連続して霧箱100を動作させたいとのニーズに対応することができる。このニーズの達成のために、
図11に記載の構成や考え方が大きな役割を果たす。
【0090】
図1では観察室202の上から観察できるように観察室202の上に上観察窓214が設けられていると共に観察室202の周囲が観察可能となるように透明な横観察窓212で観察室202が覆われている。また
図11の実施例では、観察室202の上から観察できるように観察室202の上に上観察窓214が設けられ、観察室202の外周が断熱外周壁216で覆われている。液吸収体260が上観察窓214や断熱外周壁216を貫通して設けられることにより、エタノール253が貫通した液吸収体260を介して観察室202の内部に導かれる。
図1の装置では、加熱装置254によりエタノール253が温められるので観察室202内に飽和状態に近い多くの蒸気204が供給される。
図11においても、図示を省略しているが、エタノール253が温められ、また観察室202内で液吸収体260吸収されたエタノール253が温められ、観察室202内に飽和状態に近い蒸気204が供給される。
【0091】
図1に記載の蒸気供給装置250では、必要に応じて保温カバー257を開放することにより、液供給口262にエタノール253を追加供給することができる。
図11に記載の液供給トレイ252には記載を省略しているが保温カバーが設けられており、保温カバーを開放することにより、エタノール253を追加することができる。このような構造により、冷却作用を極めて長い時間継続できる上述の実施例において、観察時間の経過に伴ってエタノール253を簡単に追加でき、観察装置200の動作を長時間継続することができる。
【0092】
7. 上述した実施例の特徴および作用効果について
7.1 上述した実施例の特徴について
〔第1の特徴〕
第1の特徴は、
蒸気204で満たされた観察室202と観察室202に蒸気204を供給するための蒸気供給装置250を備える観察装置200と、観察室202の蒸気204を冷却して観察室202内に過飽和蒸気層206を形成するための冷却装置300と、を備え、観察室202の過飽和蒸気層206内を通過する放射線の飛跡を観察するための霧箱100において、
冷却装置300は、冷却室302と、冷却室302の上部に設けられた冷却板312と、冷却板312に機械的に接続され冷却室302の下方に向けて伸びると共に冷却室302の横方向に伸びる複数個の冷却プレート330と、液化二酸化炭素384を保持する液化二酸化炭素容器380に接続するための接続装置290と、を備え、
液化二酸化炭素384から生成された生成ドライアイス304と気体状二酸化炭素との混合体を、複数個の冷却プレート330の前記横方向における一方側344から導入し、導入した生成ドライアイス304と前記気体状二酸化炭素との前記混合体を前記複数個の冷却プレート330により前記横方向における他方側346に導き、複数個の冷却プレート330の間に形成された通路332に導かれた前記混合体を構成する生成ドライアイス304を蓄え、前記通路に蓄えた前記生成ドライアイス304により前記冷却板312を冷却し、冷却された冷却板312により観察室202の蒸気204を冷却して過飽和蒸気層206を形成する、ことを特徴とする。
【0093】
〔第2の特徴〕
第2の特徴は、霧箱100に関する第1の特徴に加えて、
前記冷却装置300は、複数個の冷却プレート330の下に、密閉収納手段により収納された保冷剤350を設け、保冷剤350の下に保冷剤350を前記冷却プレート(330)に向けて押圧するための弾性体を設けた、ことを特徴とする。
【0094】
〔第3の特徴〕
第3の特徴は、第1の特徴あるいは第2の特徴の内の一の特徴とうる霧箱100において、
複数個の冷却プレート330の前記横方向における他方側346に前記気体状二酸化炭素を排出するための排気口236が設けられ、排気口236と複数個の冷却プレート330との間に生成ドライアイス304の通過を阻止するためのフィルタ324が設けられ、
前記フィルタ324により生成ドライアイス304の通過が阻止され、複数個の冷却プレート330の間に形成された通路332に生成ドライアイス304を蓄えられる、ことを特徴とする。
【0095】
〔第4の特徴〕
上記課題を解決する第4の特徴は、第1の特徴あるいは第2の特徴の内の一の特徴を備える霧箱100において、
複数個の冷却プレート330の下に、生成ドライアイス304の通過を阻止するためのフィルタ324が設けられ、さらにフィルタ324の下に前記気体状二酸化炭素を排出するための排気口236が設けられ、
前記フィルタ324により生成ドライアイス304の通過が阻止され、これにより、複数個の冷却プレート330間に形成された通路332に生成ドライアイス304を蓄える、ことを特徴とする。
【0096】
〔第5の特徴〕
第5の特徴は、第4の特徴を備える霧箱100において、
冷却室302に所定量の生成ドライアイス304が蓄えられた後、冷却室302から前記気体状二酸化炭素を排出するための排気口328の断面積を縮小し、冷却室302から排出する前記気体状二酸化炭素の排出量を低減させる、ことを特徴とする。
【0097】
〔第6の特徴〕
第6の特徴は、第2の特徴を備える霧箱100において、
前記保冷剤350は、所定温度以下で固体状となり前記所定温度より高い温度で相変化する材料であり、
前記密閉収納手段はその内部に前記保冷剤350を密閉された状態で収納する袋状であり、
前記保冷剤350は前記複数個の冷却プレート330に向けて前記弾性体354により押圧された状態で保持されている、ことを特徴とする。
【0098】
〔第7の特徴〕
第7の特徴は、第1の特徴あるいは第2の特徴の内の一の特徴を備える霧箱100において、
前記観察室202へ蒸気204を供給する蒸気供給装置250は、蒸気204を発生するための液を保持する液供給トレイ252と、前記液供給トレイ252に保持された前記液を温めるための加熱装置254と、液供給トレイ252に保持されている液を観察室202内に導くための液吸収体260と、を備え、
前記液供給トレイ252は前記観察装置200の外に開口する液供給口262を備えている、ことを特徴とする。
【0099】
7.2 上記特徴が奏する効果について
第1の特徴が奏する効果は本願発明の効果の欄に記載のとおりである。さらに具体的な実施例に関しては具体的な効果を、例えば上述した項目2.3
図1および
図2から
図4に記載の冷却装置300の作用効果の説明の欄に記載している。
【0100】
第2の特徴が奏する効果は、例えば上述した項目4.3 保冷剤350を有する冷却装置300を使用した場合の効果の説明の欄に記載しています。さらに上述した項目5.2
図10(a)および(b)に記載する実施例の効果の説明の欄にも記載している。
【0101】
第3の特徴が奏する効果は、例えば上述した項目2.3
図1および
図2から
図4に記載の冷却装置300の作用効果の説明の欄に記載している。
【0102】
第4の特徴が奏する効果は、例えば上述した項目2.4 冷却装置300の他の実施例の説明の欄の(2) 冷却装置300の他の実施例の作用効果の説明の欄に記載している。
【0103】
第5の特徴が奏する効果は、例えば上述した項目3.3 観測状態における冷却装置300の作用効果の説明の欄に記載している。
【0104】
第6の特徴が奏する効果は、例えば上述した項目4.3 保冷剤350を有する冷却装置300を使用した場合の効果の説明の欄に記載している。
【0105】
第7の特徴が奏する効果は、例えば上述した項目1.2 蒸気供給装置250の効果の欄、および項目6.蒸気供給装置250に関する構成の説明および効果についての欄に記載している。
【符号の説明】
【0106】
100・・・霧箱、104・・・支持装置、200・・・観察装置、202・・・観察室、204・・・蒸気、206・・・過飽和蒸気層、208・・・液、210・・・観察箱、212・・・横観察窓、214・・・上観察窓、220・・・照明装置、232・・・排気通路、234・・・排気通路、2351・・・排気口、2352・・・排気口、236・・・排気口、2361・・・排気口、2362・・・排気口、2363・・・排気口、237・・・排気口、2371・・・排気口、2372・・・排気口、2373・・・排気口、238・・・開閉装置、2421・・・矢印、矢印、2424・・・矢印、2425・・・矢印、2426・・・矢印、244・・・通路形成体、2441・・・断熱壁、2442・・・断熱壁、250・・・蒸気供給装置、252・・・液供給トレイ、253・・・エタノール、254・・・加熱装置、256・・・加熱装置、257・・・保温カバー、260・・・液吸収体、262・・・液供給口、300・・・冷却装置、302・・・冷却室、304・・・生成ドライアイス、312・・・冷却板、320・・・注入口、322・・・導入通路、324・・・フィルタ、326・・・フィルタ、328・・・排気口、329・・・矢印、330・・・冷却プレート、3301・・・冷却プレート、3302・・・冷却プレート、3303・・・冷却プレート、3304・・・冷却プレート、332・・・通路、3321・・・通路、3322・・・通路、3323・・・通路、3324・・・通路、3325・・・通路、3330・・・隙間、3331・・・隙間、3338・・・隙間、3401・・・矢印、3405・・・矢印、344・・・一方側、346・・・他方側、350・・・保冷剤、352・・・排気室、354・・・弾性体、355・・・断熱弾性体、356・・・カバー、357・・・排気口、360・・・断熱材、370・・・断熱板、380・・・液化二酸化炭素容器、382・・・気化二酸化炭素、384・・・液化二酸化炭素、390・・・接続装置。
【要約】
使い勝手に優れた、放射線を観察するための霧箱を提供することである。
【課題】
【解決手段】
観察室202に蒸気供給装置250から蒸気204を供給し、供給された観察室202内の蒸気204を冷却して過飽和蒸気層206を形成し、過飽和蒸気層206を通過する放射線の飛跡を観察する霧箱100において、観察室202内の蒸気204を冷却するための複数の冷却プレート330を有する冷却板312を備えた冷却箱310を設け、冷却箱310内に液化二酸化炭素280から生成された生成ドライアイス304と気体状二酸化炭素との混合体を導入して、複数の冷却プレート330により形成される通路332に、生成ドライアイス304を蓄積し、蓄積した生成ドライアイス304により冷却板312を介して観察室202内の蒸気204を冷却するようにした霧箱100。
【選択図】
図1