(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-16
(45)【発行日】2024-04-24
(54)【発明の名称】発電設備併設e-fuel生産システムおよび発電設備併設e-fuel生産方法
(51)【国際特許分類】
C10G 2/00 20060101AFI20240417BHJP
【FI】
C10G2/00
(21)【出願番号】P 2024503488
(86)(22)【出願日】2023-09-07
(86)【国際出願番号】 JP2023032761
【審査請求日】2024-01-25
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】306047996
【氏名又は名称】株式会社 ユーリカ エンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100089082
【氏名又は名称】小林 脩
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 信三
【審査官】森 健一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2022/138910(WO,A1)
【文献】特開2020-121944(JP,A)
【文献】特表2008-533287(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G 2/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直接空気回収(DAC)によって大気中から回収されたDAC炭酸ガスと再生可能エネルギー由来電力で水を電気分解して生成したグリーン水素ガスとが供給され、水素ガスと一酸化炭素ガスとのモル比がほぼ2:1の合成ガスを製造する合成ガス製造装置と、前記合成ガス製造装置から供給された前記合成ガスを所定の温度・圧力環境下で触媒によってFT合成反応させてFT粗油を生成するFT合成装置を備えたe-fuel生産システムであって、
前記FT粗油を精製装置で精製して製造された軽油および残渣油が燃料として供給され、前記燃料の燃焼によって過熱蒸気を生成するボイラー、および前記過熱蒸気で駆動される蒸気タービン発電機を備える発電設備と、
前記ボイラーから前記燃料の燃焼によって生じた排ガスが供給され、前記排ガスに含まれる炭酸ガスを吸収液に吸収させてCO2含有吸収液を生成する吸収塔、および前記吸収塔から前記CO2含有吸収液が供給され、前記CO2含有吸収液を前記FT合成装置から供給された排熱で加熱し前記炭酸ガスを放出させて回収炭酸ガスとして回収する再生塔を備える炭酸ガス回収装置と、
前記回収炭酸ガスを前記DAC炭酸ガスに混合して混合炭酸ガスとして前記合成ガス製造装置に供給する炭酸ガス混合装置と、を備え、
前記合成ガス製造装置は、前記混合炭酸ガスおよび前記混合炭酸ガスとで前記合成ガスを製造するのに必要な量の前記グリーン水素ガスを供給される、
発電設備併設e-fuel生産システム。
【請求項2】
前記蒸気タービン発電機の蒸気タービンは復水タービンであり、前記復水タービンから排出された低圧蒸気が復水器で凝縮水に凝縮され、前記凝縮水が前記FT合成装置から排出された排熱で加熱された後に前記ボイラーに供給されて前記過熱蒸気が生成される、
請求項1に記載の発電設備併設e-fuel生産システム。
【請求項3】
前記FT合成装置から排出された排熱をバイナリー発電設備で利用する、
請求項1または請求項2に記載の発電設備併設e-fuel生産システム。
【請求項4】
直接空気回収(DAC)によって大気中から回収されたDAC炭酸ガスと再生可能エネルギー由来電力で水を電気分解して生成したグリーン水素ガスとを合成ガス製造装置に供給して水素ガスと一酸化炭素ガスとのモル比がほぼ2:1の合成ガスを製造し、前記合成ガスを前記合成ガス製造装置からFT合成装置に供給して所定の温度・圧力環境下で触媒によってFT合成反応させてFT粗油を生成するe-fuel生産方法であって、
前記FT粗油を精製装置で精製して製造された軽油および残渣油が燃料として供給され、前記燃料の燃焼によって過熱蒸気を生成するボイラー、および前記過熱蒸気で駆動される蒸気タービン発電機を備える発電設備と、
前記ボイラーから前記燃料の燃焼によって生じた排ガスが供給され、前記排ガスに含まれる炭酸ガスを吸収液に吸収させてCO2含有吸収液を生成する吸収塔、および前記吸収塔から前記CO2含有吸収液が供給され、前記CO2含有吸収液を前記FT合成装置から供給された排熱で加熱し前記炭酸ガスを放出させて回収炭酸ガスとして回収する再生塔を備える炭酸ガス回収装置と、
前記回収炭酸ガスを前記DAC炭酸ガスに混合して混合炭酸ガスとして前記合成ガス製造装置に供給する炭酸ガス混合装置と、を設け、
前記混合炭酸ガスおよび前記混合炭酸ガスとで前記合成ガスを製造するのに必要な量の前記グリーン水素ガスを前記合成ガス製造装置に供給する、
発電設備併設e-fuel生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直接空気回収(Direct Air Capture,DAC)によって大気中から回収されたDAC炭酸ガスと、再生可能エネルギー由来電力で水を電気分解して生成したグリーン水素ガスとから合成ガスを製造し、合成ガスをFT合成反応させてFT粗油を生成するe-fuel生産に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化問題は深刻度を増しており、21世紀中に世界の平均温度の上昇を産業革命以前の2℃以下、少なくとも1.5℃以下に抑える対策が喫緊の課題となっている。そして、2021年6月に英国で開催されたG7で2050年に実質カーボンニュートラルを達成することが表明され、EUの欧州委員会は、同年7月に2035年以降に欧州域内で販売可能な乗用車を電気自動車に限定する方針を打ち出した。
ところが、2023年3月に欧州委員会とドイツ政府は、ドイツやイタリア等の自動車産業を保護するために、カーボンニュートラルな合成燃料「e-fuel」を使用する場合に限りエンジン車の新車販売を2035年以降も認めることで合意した。e-fuelは、DAC炭酸ガスとグリーン水素ガスを合成して製造された合成燃料であり、DAC炭酸ガスとグリーン水素ガスをFT合成してFT粗油を製造し、FT粗油を精製して、LPG、ナフサ、灯油、軽油、残渣油を製造する。
【0003】
e-fuelの生産には、DAC炭酸ガスが必要であるが、大気中の炭酸ガスの濃度は約400ppmと非常に薄く、所要量の炭酸ガスの約4000倍の大気を処理しなければならない。炭酸ガスを大気中から直接回収するDACプラントは、高コストで高エネルギー消費なプラントとなり、DAC炭酸ガスは極めて高単価になる。さらに、DACプラントとe-fuel生産プラントは、多量の電力を必要とするが、この電力はカーボンニュートラルであることが求められる。
特許文献1には、バイオマス発電でグリーン電力を生成し、バイオマス発電で生じた炭酸ガスと低炭素水素ガスからカーボンニュートラルメタンガスを生成し、カーボンニュートラルメタンガスから合成ガスを製造し、合成ガスをFT粗油に合成し、合成の際に生じる排熱を炭酸ガスの回收に利用する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、バイオマス発電で生じる炭酸ガスと低炭素水素ガスから合成ガスを生成し、合成ガスからFT粗油を製造する技術が記載されているが、DAC炭酸ガスとグリーン水素ガスからe-fuelを低コスト、低エネルギー消費で生産することについては記載されていない。
【0006】
本発明の目的は、合成ガス製造装置でDAC炭酸ガスとグリーン水素ガスから合成ガスを製造し、FT合成装置で合成ガスをFT合成反応させてFT粗油を生成するe-fuel生産において、FT粗油の精製で製造された軽油および残渣油をボイラーで燃焼させて生成した過熱蒸気で蒸気タービン発電機を駆動する発電設備を併設し、カーボンニュートラル、低コストかつ低エネルギー消費でe-fuelを生産可能な発電設備併設e-fuel生産システムおよび発電設備併設e-fuel生産方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、直接空気回収(DAC)によって大気中から回収されたDAC炭酸ガスと再生可能エネルギー由来電力で水を電気分解して生成したグリーン水素ガスとが供給され、水素ガスと一酸化炭素ガスとのモル比がほぼ2:1の合成ガスを製造する合成ガス製造装置と、前記合成ガス製造装置から供給された前記合成ガスを所定の温度・圧力環境下で触媒によってFT合成反応させてFT粗油を生成するFT合成装置を備えたe-fuel生産システムであって、前記FT粗油を精製装置で精製して製造された軽油および残渣油が燃料として供給され、前記燃料の燃焼によって過熱蒸気を生成するボイラー、および前記過熱蒸気で駆動される蒸気タービン発電機を備える発電設備と、前記ボイラーから前記燃料の燃焼によって生じた排ガスが供給され、前記排ガスに含まれる炭酸ガスを吸収液に吸収させてCO2含有吸収液を生成する吸収塔、および前記吸収塔から前記CO2含有吸収液が供給され、前記CO2含有吸収液を前記FT合成装置から供給された排熱で加熱し前記炭酸ガスを放出させて回収炭酸ガスとして回収する再生塔を備える炭酸ガス回収装置と、前記回収炭酸ガスを前記DAC炭酸ガスに混合して混合炭酸ガスとして前記合成ガス製造装置に供給する炭酸ガス混合装置と、を備え、前記合成ガス製造装置は、前記混合炭酸ガスおよび前記混合炭酸ガスとで前記合成ガスを製造するのに必要な量の前記グリーン水素ガスを供給される、発電設備併設e-fuel生産システムである。
また、本発明は、直接空気回収(DAC)によって大気中から回収されたDAC炭酸ガスと再生可能エネルギー由来電力で水を電気分解して生成したグリーン水素ガスとを合成ガス製造装置に供給して水素ガスと一酸化炭素ガスとのモル比がほぼ2:1の合成ガスを製造し、前記合成ガスを前記合成ガス製造装置からFT合成装置に供給して所定の温度・圧力環境下で触媒によってFT合成反応させてFT粗油を生成するe-fuel生産方法であって、前記FT粗油を精製装置で精製して製造された軽油および残渣油が燃料として供給され、前記燃料の燃焼によって過熱蒸気を生成するボイラー、および前記過熱蒸気で駆動される蒸気タービン発電機を備える発電設備と、前記ボイラーから前記燃料の燃焼によって生じた排ガスが供給され、前記排ガスに含まれる炭酸ガスを吸収液に吸収させてCO2含有吸収液を生成する吸収塔、および前記吸収塔から前記CO2含有吸収液が供給され、前記CO2含有吸収液を前記FT合成装置から供給された排熱で加熱し前記炭酸ガスを放出させて回収炭酸ガスとして回収する再生塔を備える炭酸ガス回収装置と、前記回収炭酸ガスを前記DAC炭酸ガスに混合して混合炭酸ガスとして前記合成ガス製造装置に供給する炭酸ガス混合装置と、を設け、前記混合炭酸ガスおよび前記混合炭酸ガスとで前記合成ガスを製造するのに必要な量の前記グリーン水素ガスを前記合成ガス製造装置に供給する、発電設備併設e-fuel生産方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、DAC炭酸ガスとグリーン水素ガスとから生成されたFT粗油を精製して製造された軽油および残渣油をボイラーで燃焼させて作った加熱蒸気で蒸気タービン発電機を駆動してカーボンニュートラル電力を生産することができる。ボイラーから排出された排ガスから炭酸ガスをFT合成装置から排出された排熱を利用して回収し、DAC炭酸ガスと混合して合成ガス製造装置に供給することによって、高単価のDAC炭酸ガスの使用量を低減することができる。このように、カーボンニュートラル技術を有機的に結合して、いずれの工程においてもカーボンニュートラル、低コストかつ低エネルギー消費で、e-fuelとカーボンニュートラル電力を生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態に係る発電設備併設e-fuel生産システムの全体構成を示すブロック図である。
【
図2】第2実施形態に係る発電設備併設e-fuel生産システムの全体構成を示すブロック図である。
【
図3】第2実施形態に係る発電設備併設e-fuel生産システムのマス・エネルギーバランスを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.第1実施形態の構成
第1実施形態に係る発電設備併設e-fuel生産システム1aは、
図1に示すように、DAC炭酸ガス供給装置10と、グリーン水素供給装置20と、合成ガス製造装置30と、FT合成装置40と、発電設備50と、熱交換器60と、炭酸ガス回収装置70と、炭酸ガス混合装置80を備える。
【0011】
DACプラント11は公知であり、大気中に含まれる炭酸ガスを直接空気回収技術でDAC炭酸ガスとして直接回収する。DAC炭酸ガス供給装置10は、DACプラント11で回収されたDAC炭酸ガスを設定流量で炭酸ガス混合装置80を介して合成ガス製造装置30に供給する。グリーン水素製造装置21は公知であり、再生可能エネルギー由来電力で水を電気分解してグリーン水素ガスを製造する。グリーン水素供給装置20は、グリーン水素製造装置21で製造されたグリーン水素ガスを設定流量で合成ガス製造装置30に供給する。
【0012】
合成ガス製造装置30は公知であり、一例として、逆水性ガスシフト反応触媒が充填された逆水性ガスシフト反応器31と混合器32を備える。逆水性ガスシフト反応器31は、DAC炭酸ガス供給装置10からDAC炭酸ガスを、グリーン水素供給装置20からグリーン水素ガスを、炭酸ガスと水素ガスとのモル比が1:1になる流量で供給され反応式(1)に従って逆水性ガスシフト反応させ、一酸化炭素ガスと水蒸気を生成する。混合器32は、反応器31で生成された生成物から水蒸気を除去した一酸化炭素ガスが供給され、グリーン水素供給装置20からグリーン水素ガスが供給され、両ガスを混合して一酸化炭素と水素のモル比が1:2の合成ガスを送出する。DAC炭酸ガス供給装置10からDAC炭酸ガスのみが合成ガス製造装置30に供給される場合は、グリーン水素供給装置20はDAC炭酸ガスとグリーン水素ガスとによって合成ガスを製造するのに必要な量のグリーン水素ガスを合成ガス製造装置30に供給する。
CO2+H2=CO+H2O(吸熱反応 439kcal/Nm3-CO2) (1)
【0013】
合成ガス製造装置30は、メタン化触媒が充填されたメタネーション反応器と、メタンドライリフォーミング用触媒が充填されたメタンドライリフォーミング反応器と、混合器を備えるものでもよい。メタネーション反応器は、DAC炭酸ガス供給装置10からDAC炭酸ガスが、グリーン水素供給装置20からグリーン水素ガスが、炭酸ガスと水素ガスとのモル比が1:4になる流量で供給され、反応式(2)に従ってメタネーション反応させ、メタンガスと水蒸気を生成する。
CO2+4H2=CH4+2H2O (2)
メタンドライリフォーミング反応器は、メタネーション反応器で生成された生成物から水蒸気を除去したメタンガスが、DAC炭酸ガス供給装置10からDAC炭酸ガスが、メタンガスと炭酸ガスとのモル比が1:1になる流量で供給され、反応式(3)に従ってメタンドライリフォーミング反応させ、一酸化炭素ガスと水素ガスのモル比が1:1の混合ガスを生成する。
CH4+CO2=2CO+2H2 (3)
混合器は、メタンドライリフォーミング反応器から混合ガスが供給され、グリーン水素供給装置20からグリーン水素ガスが混合ガスの半分の体積流量で供給され、両ガスを混合して一酸化炭素と水素のモル比が1:2の合成ガスを送出する。
【0014】
FT合成装置40は、触媒が充填された反応器41と反応器41内に配置された冷却管42を備える。反応器41には合成ガスが合成ガス製造装置30から供給され、合成ガスを所定温度・圧力環境下で触媒によって反応させ、FT粗油を合成する。冷却管42には熱媒体循環回路43が接続され熱媒体が循環される。FT合成装置40で合成ガスをFT粗油に合成する際に生じる反応熱は、冷却管42で熱媒体に熱移動され反応器41の内部を所定温度に維持するとともに、熱媒体循環回路43を循環する熱媒体によって熱交換器60および炭酸ガス回収装置70にFT合成装置40から排出された排熱として移送される。
【0015】
精製装置45は公知で、FT合成装置40からFT粗油が供給され、FT粗油を常圧蒸留装置でLPG、ガソリン、灯油、軽油、残渣油の各成分に蒸留してから必要な処理を施し、各種燃料等の最終製品を製造する。
【0016】
発電設備50は、ボイラー51および蒸気タービン発電機53を備える。ボイラー51は、FT粗油を精製装置45で精製して製造された軽油および残渣油が燃料として燃焼室52で燃焼され、供給された高温水を燃焼熱で加熱して過熱蒸気を生成する。軽油の一部と残渣油を混ぜて燃料にするのが好ましい。蒸気タービン発電機53は、ボイラー51から供給される過熱蒸気で復水タービン54が回転され、復水タービン54によって発電機55が駆動されて発電する。発電された電力の一部は、発電設備併設e-fuel生産システム1aで所内電力として使用され、余剰電力は、逆潮流可能に系統連系された電力グリッド59に売電される。
【0017】
復水タービン54を回転させて圧力低下した低圧蒸気は復水器56で冷却されて凝縮水になる。復水器56の冷却管57には冷却塔58が接続され、両者間で冷却水が循環される。復水タービン54から排出され復水器56に流入した低圧蒸気は冷却管57を流れる冷却水に凝縮熱を移動して凝縮水になり、凝縮熱を移動された冷却水は冷却塔58で凝縮熱を放出して冷却され冷却管57に戻される。
【0018】
復水器56から送出された凝縮水は熱交換器60に流入し加熱されてボイラー51に戻される。熱交換器60の伝熱管61はFT合成装置40の冷却管42に熱媒体循環回路43を介して接続されている。FT合成装置40で生じた反応熱は、熱媒体循環回路43を循環する熱媒体によって伝熱管61にFT合成装置40で排出された排熱として移送され、熱交換器60に流入した凝縮水を加熱して高温水にする。
【0019】
炭酸ガス回収装置70は、ボイラー51から軽油および残渣油の燃焼によって生じた排ガスが供給され、排ガスに含まれる炭酸ガスを回収炭酸ガスとして回収する。炭酸ガス回収装置70は、例えば特許第4956519号公報に記載されているように公知であり、再生吸収液に排ガスに含まれる炭酸ガスを吸収させてCO2含有吸収液にする吸収塔71と、CO2含有吸収液から炭酸ガスを分離させて再生吸収液にする再生塔72と、再生吸収液の一部を加熱して高温水蒸気を生成するリボイラー73を備える。吸収塔71は、ボイラー51の燃焼室52から排ガスが底部から供給され、再生塔72から吸収塔71に返る途中で冷却された再生吸収液が上部から供給され、下降する再生吸収液に排ガスに含まれる炭酸ガスを吸収させてCO2含有吸収液にし、炭酸ガスを回収された排ガスを上部から放出する。再生塔72は、吸収塔71から再生塔72に往く途中で加熱されたCO2含有吸収液が上部から供給され、降下するCO2含有吸収液を下部から供給される水蒸気で加熱し炭酸ガスを放出させて再生吸収液にする。再生塔72底部に滞留する再生吸収液は吸収塔71に戻される。リボイラー73の伝熱管74はFT合成装置40の冷却管42に熱媒体循環回路43を介して接続されている。再生塔72底部からリボイラー73に供給された再生吸収液の一部は、熱媒体循環回路43を循環する熱媒体によって伝熱管74に移送されたFT合成装置40の排熱で加熱され水分の一部を水蒸気にして再生塔72に戻される。
【0020】
炭酸ガス混合装置80は、DAC炭酸ガス供給装置10からDAC炭酸ガスが供給され、炭酸ガス回収装置70から回収炭酸ガスが供給され、回収炭酸ガスをDAC炭酸ガスに混合して混合炭酸ガスとして合成ガス製造装置30に供給する。混合炭酸ガスが合成ガス製造装置30に供給され場合、グリーン水素供給装置20は混合炭酸ガスとグリーン水素ガスとによって合成ガスを製造するのに必要な量のグリーン水素ガスを合成ガス製造装置30に供給する。
【0021】
2.第1実施形態の作動
合成ガス製造装置30は、混合炭酸ガスを混合装置80から供給され、供給された混合炭酸ガスとグリーン水素ガスとによって合成ガスを製造するのに必要な量のグリーン水素ガスをグリーン水素供給装置20から供給され、水素ガスと一酸化炭素ガスのモル比がほぼ2:1の合成ガスを製造し、FT合成装置40に送出する。
【0022】
FT合成装置40は、触媒が充填された反応器41に合成ガスが合成ガス製造装置30から供給され、合成ガスを所定温度・圧力環境下で触媒によって反応させ、FT粗油を生成する。触媒反応で生じる反応熱は、冷却管42を循環する熱媒体に熱移動され、反応器41の内部を所定温度に維持する。
【0023】
FT粗油は精製装置45に供給され、常圧蒸留装置でLPG、ガソリン、灯油、軽油、残渣油の各成分に蒸留された後に必要な処理を施されて最終製品になる。第1実施形態では、軽油の一部と残渣油とが混合され燃料として発電設備50のボイラー51に供給される。ボイラー51は、燃焼室52で精製装置45から供給された軽油および残渣油を燃焼させ、熱交換器60から供給された高温水を加熱して過熱蒸気を生成する。過熱蒸気で駆動される復水タービン54は発電機55を作動させる。発電機55から出力される電力の一部は、発電設備併設e-fuel生産システム1aにおいて所内電力として使用され、余剰電力は電力グリッド59に売電される。復水タービン54を回転させて圧力低下した水蒸気は復水器56に排出され、冷却管57と冷却塔58との間を循環する冷却水に潜熱を熱移動して凝縮水になり熱交換器60に送出される。熱交換器60に流入した凝縮水は、熱媒体循環回路43を介して伝熱管61に移送されたFT合成装置40の排熱で高温水に加熱されボイラー51に戻される。
【0024】
炭酸ガス回収装置70は、ボイラー51の燃焼室52から排出された排ガスが吸収塔71に供給され、再生吸収液が排ガスに含まれる炭酸ガスを吸収してCO2含有吸収液になる。再生塔72に送られたCO2含有吸収液は、熱媒体循環回路43を循環する熱媒体によってリボイラー73の伝熱管74に移送されたFT合成装置40の排熱によって加熱され、炭酸ガスを放出して再生吸収液になって吸収塔71に戻される。放出された炭酸ガスは炭酸ガス混合装置80に回収炭酸ガスとして供給される。
【0025】
炭酸ガス混合装置80は、炭酸ガス回収装置70から供給される回収炭酸ガスと、DAC炭酸ガス供給装置10から供給されるDAC炭酸ガスとを混合し混合炭酸ガスとして合成ガス製造装置30に供給する。
【0026】
3.第1実施形態の効果
第1実施形態によれば、DAC炭酸ガスとグリーン水素ガスからカーボンニュートラルなFT粗油を製造するe-fuel生産システムにおいて、FT粗油を精製して製造した軽油および残渣油を発電設備50のボイラー51の燃焼室52で燃焼させて過熱蒸気を生成し、過熱蒸気で蒸気タービン発電機53を作動させてグリーン電力を生成することができる。FT合成装置40でFT反応によって生じた反応熱がFT合成装置40から排出された排熱として熱媒体循環回路43を通って熱交換器60の伝熱管61に移送され、発電設備50の復水器57から熱交換器60に流入した凝縮水を加熱して高温水にするので、熱効率を高めることができる。さらに、FT合成装置40から排出された排熱を利用して、ボイラー51の燃焼室52から排出された排ガスから炭酸ガスを回収炭酸ガスとして回収し、DAC炭酸ガスと混合して合成ガス製造装置に供給するので、高単価のDAC炭酸ガスの使用量を抑制することができる。なお、回収炭酸ガスは、外部から供給される原料がグリーン水素ガスとDAC炭酸ガスのみである発電設備併設e-fuel生産設備1aで生成されるのでカーボンニュートラルである。このように、カーボンニュートラル技術を有機的に結合することによって、システムのいずれの工程においてもカーボンニュートラル、低コストかつ低エネルギー消費で、e-fuelおよびカーボンニュートラル電力を生産することができる。
【0027】
4.第2実施形態の構成
第2実施形態にかかる発電設備併設e-fuel生産システム1bは、第1実施形態において、FT合成装置40から排出される排熱をバイナリー発電設備90で利用する点以外は第1実施形態と同じであるので、相違点について説明し、第1実施形態と同じ構成要素には同一の参照番号を付して説明を省略する。
【0028】
バイナリー発電設備90は、媒体蒸気で回転される媒体タービンによって発電機を駆動して発電する。媒体タービンを回転させた媒体蒸気は凝縮器91で凝縮された後に蒸発器93で蒸発されて媒体蒸気になる。凝縮器91の冷却管92と冷却塔58との間で冷却水が循環される。蒸発器93の伝熱管94は熱媒体循環回路43を介してFT合成装置40の冷却管42に接続されている。
【0029】
5.第2実施形態の作動および効果
FT合成装置40で生じた反応熱は、熱媒体循環回路43を循環する熱媒体によってFT合成装置40から排出された排熱として蒸発器93の伝熱管94に移送され、凝縮器91で凝縮して蒸発器93に流入した媒体を加熱し媒体蒸気にする。媒体蒸気は媒体タービンを回転させて発電機を駆動しカーボンニュートラル電力を発電する。媒体タービンを回転させた媒体蒸気は凝縮器91に流入し冷却管92を循環する冷却水に潜熱を熱移動して凝縮し蒸発器93に送出される。
【0030】
第2実施形態では、FT合成装置40から排出された排熱でバイナリー発電設備90を作動させて発電するので、第1実施形態の効果に加え、低エネルギー消費でカーボンニュートラル電力をより多く生産することができる。
【0031】
上記実施形態では、蒸気タービン発電機53の蒸気タービンを復水タービン54としたが、背圧タービンにしてもよい。背圧タービンにした場合、復水器57は不要となり、復水器57から送出された凝縮水をFT合成装置40から排出された排熱で高温水に加熱することもなくなる。
【0032】
次に、
図3に示す第2実施形態のマス・エネルギーバランスの検討例について説明する。
A.想定条件
1.合成ガス製造法は逆水性ガスシフト反応法とし、効率100%とする。
2.炭酸ガス回収装置70での炭酸ガスの回収率は100%とする。
3.復水式蒸気タービン発電機53の発電効率は35%、バイナリー発電設備90の発電効率は8%とする。
4.残渣油の炭酸ガス排出係数は、1.5Nm3-CO2/kg-残渣油とする。
5.合成ガス製造装置30での吸熱反応熱は、439kcal/Nm3-CO2、
FT合成装置40での発熱反応熱は、1789kcal/Nm3-COとする。
B.発電設備併設e-fuel生産システムの効果
DAC炭酸ガスを流量20,625Nm3/h、回収炭酸ガスを流量9.375Nm3/hで炭酸ガス混合装置80に供給し、グリーン水素を流量90,000Nm3/hで合成ガス製造装置30に供給した場合、各装置から送出される生成物の流量は
図3に示す通りになり、発電設備併設e-fuel生産システムの生産物は次のようになる。
1.e-fuel収量は、345kl/日
2.カーボンニュートラル電力は、約36,000kW
【0033】
本発明にかかる発電設備併設e-fuel生産方法は、第1実施形態の構成に記載された発電設備併設e-fuel生産システム1aを第1実施形態の作動に記載されたように作動させることによって構成することができ、発電設備併設e-fuel生産システム1aと同様の作用効果を奏する。
【符号の説明】
【0034】
1a~1b:発電設備併設e-fuel生産システム、10:DAC炭酸ガス供給装置、11:DACプラント、20:グリーン水素供給装置、21:グリーン水素製造装置、30:合成ガス製造装置、40:FT合成装置、42:冷却管、43:熱媒体循環回路、45:精製装置、50:発電装置、51ボイラー、52:伝熱管、53:蒸気タービン発電機、54:復水タービン、55:発電機、56:復水器、57:冷却管、58:冷却塔、60:熱交換器、61:伝熱管、70:炭酸ガス回収装置、71:吸収塔、72:再生塔、73:リボイラー、80:炭酸ガス混合装置、90:バイナリー発電設備、91:凝縮器、92:冷却管、93:蒸発器、94:伝熱管。
【要約】
本発電設備併設e-fuel生産システム1aは、大気中から直接空気回収されたDAC炭酸ガスとグリーン水素ガスとが供給され、水素ガスと一酸化炭素ガスとのモル比がほぼ2:1の合成ガスを製造する合成ガス製造装置30と、合成ガスをFT合成反応させてFT粗油を生成するFT合成装置40を備える。FT粗油の精製で製造された軽油および残渣油をボイラー51で燃焼させて生成された過熱蒸気で蒸気タービン発電機53を駆動する発電設備50を併設し、発電設備から排出された排ガスから炭酸ガスを回収炭酸ガスとして回収する。合成ガス製造装置は、回収炭酸ガスとDAC炭酸ガスとを混合した混合炭酸ガスおよび混合炭酸ガスとで合成ガスを製造するのに必要な量のグリーン水素ガスを供給されて合成ガスを製造しFT合成装置に送出する。これにより、カーボンニュートラル、低コストかつ低エネルギー消費でe-fuelを製造することができる。