(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-16
(45)【発行日】2024-04-24
(54)【発明の名称】押込み試験装置
(51)【国際特許分類】
G01N 3/40 20060101AFI20240417BHJP
【FI】
G01N3/40 A
(21)【出願番号】P 2018047227
(22)【出願日】2018-03-14
【審査請求日】2021-03-12
【審判番号】
【審判請求日】2023-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】390041346
【氏名又は名称】新光電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100918
【氏名又は名称】大橋 公治
(72)【発明者】
【氏名】岡本 光平
(72)【発明者】
【氏名】安原 一良
【合議体】
【審判長】石井 哲
【審判官】渡戸 正義
【審判官】渡▲辺▼ 純也
(56)【参考文献】
【文献】特開平6-313752(JP,A)
【文献】特開昭53-92581(JP,A)
【文献】特開2011-117920(JP,A)
【文献】特開平10-2849(JP,A)
【文献】特開昭64-88335(JP,A)
【文献】実開昭60-154839(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N3/00-3/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体の端面から突出する圧子を備えた押込み試験装置本体と、
前記押込み試験装置本体の前記筐体が固定される可動部と、
前記可動部の移動方向を誘導する固定部と、
前記可動部又は前記可動部に固定された前記押込み試験装置本体と前記固定部との接触を検知する接触検知センサと、
を有し、前記可動部及び固定部から成るガイド部材により前記押込み試験装置本体の押込み方向がガイドされる押込み試験装置であって、
前記固定部は、被検体と接触する該固定部の端部に、
該固定部の内で最も径が大きい大径部を有し、前記大径部に、前記押込み試験装置本体の前記筐体から突出する前記圧子の挿通が可能な中心孔を備え、
前記可動部には、前記接触検知センサが接触を検知したとき、前記圧子が前記固定部の中心孔から所定量突出するように前記押込み試験装置本体の前記筐体が固定され、
前記固定部の前記大径部は、前記中心孔の周囲に立設する円筒部を有し、
前記可動部は、前記円筒部の外周面と内周面が係合する円形凹部を有し、
前記接触検知センサは、前記円形凹部の底面、若しくは、前記可動部に固定された前記押込み試験装置本体の前記筐体の端部、に設置されて、前記円筒部の先端との接触を検知し、又は、前記円筒部の先端に設置されて、前記円形凹部の底面との接触を検知し、
前記接触検知センサが接触を検知するまで前記可動部を前記固定部方向に移動したとき、前記押込み試験装置本体の前記圧子が前記被験体に接触して該被験体に押し込まれ、前記接触検知センサが接触を検知した時点の前記圧子に作用する押込み荷重から前記被検体の柔らかさが算出される押込み試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒲鉾・ハム等の食品やヒトの柔軟な組織などに圧子を押込み、それらの柔らかさを計測する押込み試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、柔軟な食品や人体組織などを被検体として、その柔らかさを計測する押込み試験装置が開示されている。
この装置は、
図7に示すように、ペンシル状の外形を有しており、その外形を形作る筐体10の内部に、被検体に押込まれる圧子50や、圧子50を被検体に押込んだ時に圧子50に作用する力を検出する力センサ30、圧子50に作用する力に基づいて、被検体の柔らかさを評価するヤング率を算出する演算部40等が収納されている。
図8は、この押込み試験装置の構成を簡略化して示している。圧子50は、先端の半球部分の一定量が筐体10の端面11から突出するように筐体10に収容されている。
【0003】
この装置を操作する操作者は、筐体10部分を把持して、筐体10の端面11が被検体に当接するまで圧子50を被検体に押込む。
このとき、筐体10の端面11が被検体に当接したときに力センサ30で検出された力(押込荷重)をF、筐体10の端面11から突出する圧子50の突出量(即ち、被検体に押込まれる圧子50の押込量)をδ、圧子50の半球面の直径をφ、被検体のヤング率をE、被検体に固有のポアソン比をνとすると、これらの間には(数1)で表される関係が存在する。
【数1】
この(数1)を用いて、力センサ30で検出された押込荷重Fから被検体のヤング率Eを求めることができる。
【0004】
この押込み試験装置は、被検体の柔らかさを、被検体が本来あるべき場所で測定すること(いわゆる“その場測定”)が可能である。
図9には、筐体10に把持部60を設けた押込み試験装置を用いて、輸送管に装着された緩衝材の柔軟性を測定する様子や、運動直後の脚の筋肉の硬さを測定する様子を示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、この押込み試験装置では、圧子50を被検体に押込む際に、その初期段階では、被検体に接触するのが筐体10から突出する圧子50のみであるため、筐体10を被検体の面に対して垂直な方向に押し進めることが難しい。
圧子50を被検体に押込むときの筐体10の進行方向が被検体面の垂直方向から傾いている場合、次のような事態が発生する。
【0007】
図10(a)は、圧子50が被検体の面に対して傾いていない状態を示し、
図10(b)は、圧子50が被検体の面に対してθだけ傾いている状態を示している。
図10(a)の場合に力センサ30で検出される荷重をFとすると、
図10(b)の場合に力センサ30で検出されるFの分力F’は、
(数2) F’=Fcosθ
となる。θの絶対値が5°以下であれば、FとF’との誤差は0.4%以下であり、実際上、問題にならない。
【0008】
しかし、この押込み試験装置では、圧子50が被検体の面に対して傾いていると、FとF’との誤差だけでなく、筐体10の端面11が被検体に当接したときの押込量が違ってくる。
図10(c)に示すように、圧子50が被検体の面に対して傾いていないとき、筐体10の端面11が被検体に当接するまでに押込まれる押込量をδとする。なお、rは、円環状の端面11の外径における半径である。
圧子50が被検体の面に対しθだけ傾いている場合、
図10(d)に示すように、筐体10の端面11が被検体に当接したときの押込量δ’は、
(数3) δ’=δ‐rsinθ
となる。
そのため、(数1)において、F及びδがF’及びδ’に代わるため、ヤング率Eの誤差が大きくなる。
【0009】
図11は、θに相当する角度を横軸に、また、ヤング率Eの誤差を縦軸に取り、圧子50の傾きとヤング率Eの誤差との関係を示している。ヤング率Eの誤差を1%以下とするためには、筐体10の傾きを0.2°以内に維持する必要があることが分かる。
【0010】
また、この押込み試験装置では、被検体への押込み試験を行ったとき、被検体の一部や被検体に付着した汚れが筐体10の端面11の開口部から筐体10内に侵入する惧れがある。こうした異物を筐体10内から取り除くには大変な手間が掛かる。また、こびり付いた異物は、測定誤差の原因にもなる。
【0011】
本発明は、こうした事情を考慮して創案したものであり、圧子を被検体の面に対して垂直に押込むことができ、また、筐体内への異物の侵入を防止することができる押込み試験装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、筐体の端面から突出する圧子を備えた押込み試験装置本体と、押込み試験装置本体の筐体に固定された可動部と、可動部の移動方向を誘導する固定部と、可動部又は可動部に固定された押込み試験装置本体と固定部との接触を検知する接触検知センサと、を有し、可動部及び固定部から成るガイド部材により押込み試験装置本体の押込み方向がガイドされる押込み試験装置であって、固定部には、被検体と接触する該固定部の端部に、押込み試験装置本体の筐体から突出する圧子の挿通が可能な中心孔を設け、可動部には、接触検知センサが接触を検知したとき、圧子が固定部の中心孔から所定量突出するように押込み試験装置本体を固定する。そして、接触検知センサが接触を検知するまで可動部を固定部方向に移動したとき、押込み試験装置本体の圧子が被験体に接触して該被験体に押し込まれ、接触検知センサが接触を検知した時点の圧子に作用する押込み荷重から被検体の柔らかさが算出される。
この押込み試験装置では、固定部の端部を被検体に接触させることで、固定部の垂線方向を被検体面に垂直に保つことができる。そのため、固定部にガイドされる可動部の移動方向、及び、可動部に固定された押込み試験装置本体の押込み方向が被検体面に垂直になる。また、押込み試験装置本体の筐体の端面は、試験時に被検体に接触しないため、筐体内への異物の侵入が防止できる。ガイド部材に付着した異物は、試験後、ガイド部材を押込み試験装置本体から取り外して水洗い等の処理を行うことで簡単に除くことができる。
【0013】
また、本発明の押込み試験装置では、固定部の端部に、固定部の内で最も径が大きい大径部を設け、この大径部に中心孔を設けることが望ましい。
大径部を被検体に接触させることで、安定した状態で固定部の垂線方向を被検体面に垂直に保つことができる。
【0014】
また、本発明の押込み試験装置では、固定部の大径部には、中心孔の周囲に円筒部を立設し、可動部には、円筒部の外周面と内周面が係合する円形凹部を形成し、接触検知センサを、円形凹部の底面に設置して円筒部の先端との接触を検知させ、又は、円筒部の先端に設置して円形凹部の底面との接触を検知させるようにしても良い。
こうすることで、接触検知センサがガイド部材で包囲され、外部に露出しない。また、被検体にも接触しない。そのため、試験時の接触検知センサの汚れが回避できる。
【0015】
また、本発明の押込み試験装置では、可動部に押込み試験装置の筐体を固定し、接触検知センサを筐体の端部に設置して固定部との接触を検知させるようにしても良い。
この場合、接触検知センサからの信号導出を、ガイド部材を経ずに行うことができるため、回路構成が簡単になる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の押込み試験装置は、押込み方向を被検体面に垂直な方向に保つことができ、また、筐体内への異物の侵入を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態に係る押込み試験装置の断面図(押込み前)
【
図2】本発明の実施形態に係る押込み試験装置の断面図(押込み後)
【
図4】
図1の押込み試験装置の第1の変形例を示す図
【
図5】
図1の押込み試験装置の第2の変形例を示す図
【
図6】
図1の押込み試験装置の第3の変形例を示す図
【
図10】押込み試験装置の傾きによる誤差の発生を説明する図
【
図11】従来の押込み試験装置を用いてヤング率を算出するときの傾きと誤差の関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の押込み試験装置は、
図1に示すように、圧子50の押込み方向をガイドするガイド部材70と結合して使用する。
押込み試験装置自体の構成は、
図7及び
図8に示すものと同様であり、力センサ30や演算部40等を収容する筐体10と、筐体10の端面11から突出する圧子50とを備えている。ただ、圧子50の筐体端面11からの突出長さは、
図7及び
図8の装置に比べて遥かに長く設定されている。
【0019】
ガイド部材70は、
図1の断面図、
図3の分解斜視図に示すように、押込み試験装置が固定される可動部71と、可動部71の移動方向を規制する固定部72と、可動部71に設置されて固定部72との接触を検知する接触検知センサ80と、を有している。
固定部72は、被検体と接触する端部に円盤状の大径部721を有している。大径部721の径は、固定部72の内で最も大きい。大径部721の中心には、圧子50の挿通を許容する中心孔722が設けられている。また、中心孔722を取り囲む位置には、円筒部723が設けられており、円筒部723の孔は、中心孔722と連通している。
【0020】
一方、可動部71は、円筒部723の外周面に対向する内周面を備えた円形凹部711を有している。円形凹部711の底面713の中心には、押込み試験装置が差し込まれる挿入孔714が形成されており、ここに押込み試験装置の筐体10が差し込まれてネジ712で固定される。
【0021】
また、可動部71の円形凹部711の底面713には、接触検知センサ80が固定されている。接触検知センサ80は、固定部72の円筒部723の端面との接触を検知する。
接触検知センサ80は、円筒部723の端面との接触が検知できるものであれば、どのようなものでも使用可能である。例えば、接触により電気抵抗値が変化する感圧ゴムや、接触により振動状態が変化する振動体、印加されている電気信号の周波数特性が接触により変化するピンタイプのセンサ等が使用できる。
【0022】
図1において、可動部71を下方に動かすと、可動部71の円形凹部711の内周面が固定部72の円筒部723の外周面にガイドされて、可動部71と可動部71に固定された押込み試験装置とが下方に移動し、
図2に示すように、接触検知センサ80が固定部72の円筒部723の端面に接触し、また、押込み試験装置の圧子50が固定部72の大径部721の中心孔722から突出する。
このときの圧子50の中心孔722からの突出量が、予め決められた突出量となるように、押込み試験装置が可動部71にネジ712で固定される。
【0023】
この押込み試験装置を操作する操作者は、ガイド部材70の固定部72を、大径部721の下面が被検体の面に接するように保持し、その状態で可動部71又は可動部71に固定された押込み試験装置の一部を掴み、接触検知センサ80が固定部72の円筒部723端面との接触を検知するまで、押し進める。
このとき、固定部72の大径部721の下面が被検体面に接することで、固定部72の円筒部723の軸方向は被検体の面に垂直となり、この円筒部723に誘導されて、可動部71及び可動部71に固定された押込み試験装置は、被検体面に垂直に進行し、圧子50が被検体面に垂直に押込まれる。
そして、接触検知センサ80が固定部72の円筒部723端面との接触を検知した時点で圧子50に作用した押込み荷重が押込み試験装置の力センサ30で検出され、その検出値を用いて被検体の柔らかさが演算部40で算出される。
【0024】
この押込み試験により圧子50に付着した異物は、試験後、ガイド部材70の可動部71を固定部72から分離して圧子50を掃除することで簡単に取り除くことができる。
また、固定部72の下面に付着した異物や中心孔722から入り込んだ異物は、分離した固定部72を水洗いして簡単に取り除くことができる。
接触検知センサ80は、試験中、ガイド部材70の可動部71及び固定部72で囲まれており、また、被検体から離れた位置にあるため、汚れる惧れがない。
【0025】
なお、ここでは、接触検知センサ80を可動部71に取り付けて、固定部72の円筒部723との接触を検知するようにしたが、
図4に示すように、接触検知センサ80を固定部72の円筒部723の端面に取り付けて、可動部71の円形凹部711との接触を検知するようにしても良い。
【0026】
また、
図5に示すように、接触検知センサ80を押込み試験装置の筐体10の端部11に設けて、固定部72の円筒部723との接触を検知するようにしても良い。この場合、接触検知センサ80からの信号導出を、押込み試験装置の筐体10内を通して行うことができる。
【0027】
また、
図6に示すように、固定部72は、大径部721を必ずしも必要としない。
また、ガイド部材70の固定部72の円筒部723と可動部71の円形凹部711の内周面との間にスライドブッシュ等を介在させて、固定部72に対する可動部71の動きを円滑にするようにしても良い。
ここで示したガイド部材の構成は、一例であり、本発明は、それに限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の押込み試験装置は、装置の清掃が容易であって、また、柔らかさを高精度に測定することができる。そのため、柔らかさの測定を必要とする食品分野、医療分野、素材を扱う分野など、幅広い分野において利用することができる。
【符号の説明】
【0029】
10 筐体
11 端面
30 力センサ
40 演算部
50 圧子
70 ガイド部材
71 可動部
72 固定部
80 接触検知センサ
501 圧子支持部
711 円形凹部
712 ネジ
713 底面
714 挿入孔
721 大径部
722 中心孔
723 円筒部