(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-16
(45)【発行日】2024-04-24
(54)【発明の名称】ショベル
(51)【国際特許分類】
E02F 9/24 20060101AFI20240417BHJP
E02F 9/20 20060101ALI20240417BHJP
【FI】
E02F9/24 B
E02F9/20 N
(21)【出願番号】P 2019057341
(22)【出願日】2019-03-25
【審査請求日】2022-01-19
【審判番号】
【審判請求日】2023-04-17
(73)【特許権者】
【識別番号】502246528
【氏名又は名称】住友建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 誠
【合議体】
【審判長】有家 秀郎
【審判官】居島 一仁
【審判官】西田 秀彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-172963(JP,A)
【文献】特開2012-21362(JP,A)
【文献】特開2018-131890(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F9/00-9/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクチュエータと、
前記アクチュエータを操作する操作装置と、
キャビンにおけるオペレータの周辺の状態、又はオペレータ自身の状態に起因する、オペレータの安全性が相対的に低下している
第1の状
態、及びショベルが相対的に安定性の低い姿勢にあ
る、又は、ショベルが相対的に安定性の低い姿勢になる可能性がある
第2の状
態の双方が成立している場合に、
前記操作装置を用いた前記アクチュエータの操作を制限
し、前記第1の状態及び前記第2の状態の少なくとも一方が成立しない場合に、前記操作装置を用いた前記アクチュエータの操作を制限しない制御装置と、を備える、
ショベル。
【請求項2】
前記第1の状態には、オペレータがシートベルトを未装着である状態、オペレータが操縦席に着座していない状態、キャビンのドアが開いている状態、又はキャビンの窓が開いている状態の少なくとも一つが含まれる、
請求項1に記載のショベル。
【請求項3】
前記第1の状態には、オペレータの覚醒度が相対的に低下している状態、オペレータの意識が相対的に低下している状態、外部刺激に対するオペレータの反応が相対的に低下している状態、及びオペレータが体調不良である状態の少なくとも一つを含まれる、
請求項1又は2に記載のショベル。
【請求項4】
ショベルが相対的に安定性の低い姿勢にある
前記第2の状態には、下部走行体の一部が浮き上がった状態、エンドアタッチメントが相対的に高い位置にある状態、エンドアタッチメントがショベルの機体から水平方向で相対的に離れている状態、下部走行体の進行方向と上部旋回体のアタッチメントの向きとの間の相対角度が相対的に大きい状態、及び、ショベルが相対的に傾斜角の大きい傾斜地にいる状態の少なくとも一つが含まれる、
請求項1乃至3の何れか一項に記載のショベル。
【請求項5】
前記制御装置は、上部旋回体の傾斜状態、ブーム及びアームの姿勢状態、並びに前記操作装置を用いた前記アクチュエータの操作状態に基づき、ショベルが相対的に安定性の低い姿勢にある
前記第2の状態にあるか否かを判断する、
請求項1乃至4の何れか一項に記載のショベル。
【請求項6】
前記制御装置によって、前記操作装置を用いた前記アクチュエータの操作が制限されていることをオペレータに通知する通知手段を更に備える、
請求項1乃至5の何れか一項に記載のショベル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ショベルに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、ショベルに関する各種の安全機能が提案されている(特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-264113号公報
【文献】特開2017-145626号公報
【文献】特開2012-21362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、誤操作の防止を目的として、シートリクライニング角度が所定範囲外の場合に操作を無効にするだけである。そのため、例えば、窓やドア等が開放されている場合、ショベルの姿勢によっては、オペレータがキャビンの外に放り出されてしまう可能性がある。また、特許文献2では、シートベルトが未装着の場合やドアが開放されている場合等に警告を発するだけである。そのため、オペレータが警告に気付かなかったり、警告を無視してしまったりすると、ショベルの姿勢によっては、シートベルトの未装着やドアの開放に起因してオペレータがキャビンの外に放り出されてしまう可能性がある。また、特許文献3では、オペレータが安全な操作を行っている場合やショベルが安全な動作を行っている場合であっても、一律に、シートベルトの未装着によってショベルの操作が無効とされてしまう。そのため、作業効率の低下やオペレータの違和感等を招く可能性がある。よって、オペレータの安全性と、ショベルの作業効率やオペレータの違和感等との双方を考慮して、より適切にオペレータの安全性が確保されることが望ましい。
【0005】
そこで、上記課題に鑑み、より適切にオペレータの安全性を確保することが可能なショベルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の一実施形態では、
アクチュエータと、
前記アクチュエータを操作する操作装置と、
キャビンにおけるオペレータの周辺の状態、又はオペレータ自身の状態に起因する、オペレータの安全性が相対的に低下している第1の状態、及びショベルが相対的に安定性の低い姿勢にある、又は、ショベルが相対的に安定性の低い姿勢になる可能性がある第2の状態の双方が成立している場合に、前記操作装置を用いた前記アクチュエータの操作を制限し、前記第1の状態及び前記第2の状態の少なくとも一方が成立しない場合に、前記操作装置を用いた前記アクチュエータの操作を制限しない制御装置と、を備える、
ショベルが提供される。
【発明の効果】
【0007】
上述の実施形態によれば、より適切にオペレータの安全性を確保することが可能なショベルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】一実施形態に係るショベルの一例を示す側面図である。
【
図2】ショベルの構成の一例を概略的に示すブロック図である。
【
図3】ショベルの安全機能に関する構成の一例を示す機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。
【0010】
[ショベルの概要]
【0011】
まず、
図1を参照して、本実施形態に係るショベル100の概要について説明をする。
【0012】
図1は、本実施形態に係るショベル100の一例を示す側面図である。
【0013】
図1に示すように、本実施形態に係るショベル100は、下部走行体1と、旋回機構2を介して旋回自在に下部走行体1に搭載される上部旋回体3と、アタッチメントを構成するブーム4、アーム5、及びバケット6と、オペレータが搭乗するキャビン10を備える。以下、ショベル100の前方は、ショベル100を上部旋回体3の旋回軸に沿って真上から平面視(以下、単に「平面視」と称する)で見たときに、上部旋回体3に対するアタッチメントの延出方向に対応する。また、ショベル100の左方及び右方は、それぞれ、キャビン10内のオペレータから見た左方及び右方に対応する。
【0014】
下部走行体1は、例えば、左右一対のクローラを含み、それぞれのクローラが走行油圧モータ1A,1B(
図2参照)で油圧駆動されることにより、ショベル100を走行させる。
【0015】
上部旋回体3は、旋回機構2が旋回油圧モータ2Aで油圧駆動されることにより、下部走行体1に対して旋回する。
【0016】
ブーム4は、上部旋回体3の前部中央に俯仰可能に枢着され、ブーム4の先端には、アーム5が上下回動可能に枢着され、アーム5の先端には、バケット6が上下回動可能に枢着される。
【0017】
バケット6(エンドアタッチメントの一例)は、ショベル100の作業内容に応じて、適宜交換可能な態様で、アーム5の先端に取り付けられている。そのため、バケット6は、例えば、大型バケット、法面用バケット、浚渫用バケット等の異なる種類のバケットに交換されてもよい。また、バケット6は、例えば、攪拌機、ブレーカ等の異なる種類のエンドアタッチメントに交換されてもよい。
【0018】
ブーム4、アーム5、及びバケット6は、それぞれ、油圧アクチュエータとしてのブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9により油圧駆動される。
【0019】
キャビン10は、オペレータが搭乗する操縦室であり、上部旋回体3の前部左側に搭載される。
【0020】
[ショベルの構成]
次に、
図1に加えて、
図2を参照して、ショベル100の具体的な構成について説明する。
【0021】
図2は、本実施形態に係るショベル100の構成の一例を示すブロック図である。
【0022】
尚、図中において、機械的動力ラインは二重線、高圧油圧ラインは実線、パイロットラインは破線、電気駆動・制御ラインは点線でそれぞれ示される。
【0023】
<ショベルの油圧駆動系>
本実施形態に係るショベル100の油圧駆動系は、上述の如く、下部走行体1(左右のクローラ)、上部旋回体3、ブーム4、アーム5、及びバケット6のそれぞれを油圧駆動する走行油圧モータ1A,1B、旋回油圧モータ2A、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、バケットシリンダ9、及び油圧シリンダ12c等の油圧アクチュエータを含む。また、本実施形態に係るショベル100の油圧駆動系は、エンジン11と、レギュレータ13と、メインポンプ14と、コントロールバルブ17を含む。
【0024】
エンジン11は、油圧駆動系におけるメイン動力源であり、例えば、軽油を燃料とするディーゼルエンジンである。エンジン11は、例えば、上部旋回体3の後部に搭載され、後述するコントローラ30による直接或いは間接的な制御下で、予め設定される目標回転数で一定回転し、メインポンプ14及びパイロットポンプ15を駆動する。
【0025】
レギュレータ13は、コントローラ30の制御下で、メインポンプ14の吐出量を制御(調節)する。例えば、レギュレータ13は、コントローラ30からの制御指令に応じて、メインポンプ14の斜板の角度(以下、「傾転角」)を調節する。
【0026】
メインポンプ14は、例えば、エンジン11と同様、上部旋回体3の後部に搭載され、高圧油圧ラインを通じてコントロールバルブ17に作動油を供給する。メインポンプ14は、上述の如く、エンジン11により駆動される。メインポンプ14は、例えば、可変容量式油圧ポンプであり、上述の如く、コントローラ30の制御下で、レギュレータ13により斜板の傾転角が調節されることによりピストンのストローク長が調整され、吐出流量(吐出圧)が制御される。
【0027】
コントロールバルブ17は、例えば、上部旋回体3の中央部に搭載され、オペレータの操作装置26に対する操作内容に応じて、油圧アクチュエータの制御を行う油圧制御装置である。コントロールバルブ17は、上述の如く、高圧油圧ラインを介してメインポンプ14と接続され、メインポンプ14から供給される作動油を、操作装置26の操作内容に応じて、油圧アクチュエータ(走行油圧モータ1A,1B、旋回油圧モータ2A、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、バケットシリンダ9、及び油圧シリンダ12c等)に選択的に供給する。具体的には、コントロールバルブ17は、メインポンプ14から油圧アクチュエータのそれぞれに供給される作動油の流量と流れる方向を制御する複数の制御弁(方向切換弁とも称する)を含む。
【0028】
<ショベルの操作系>
本実施形態に係るショベル100の油圧駆動系に関する操作系は、パイロットポンプ15と、操作装置26と、ソレノイドバルブ25Vを含む。
【0029】
パイロットポンプ15は、例えば、エンジン11と同様、上部旋回体3の後部に搭載され、パイロットライン25を介して各種油圧機器にパイロット圧を供給する。パイロットポンプ15は、例えば、固定容量式油圧ポンプであり、上述の如く、エンジン11により駆動される。
【0030】
操作装置26は、キャビン10の操縦席付近に設けられ、オペレータが各種被駆動要素(下部走行体1、上部旋回体3、ブーム4、アーム5、バケット6等)の操作を行うための操作入力手段である。換言すれば、操作装置26は、オペレータがそれぞれの被駆動要素を駆動する油圧アクチュエータ(即ち、走行油圧モータ1A,1B、旋回油圧モータ2A、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、バケットシリンダ9等)の操作を行うための操作入力手段である。操作装置26は、例えば、ブーム4(ブームシリンダ7)、アーム5(アームシリンダ8)、バケット6(バケットシリンダ9)、及び上部旋回体3(旋回油圧モータ2A)のそれぞれを操作するレバー装置を含む。また、操作装置26は、例えば、下部走行体1の左右のクローラ(走行油圧モータ1A,1B)のそれぞれを操作するペダル装置或いはレバー装置を含む。
【0031】
例えば、操作装置26は、油圧パイロット式である。具体的には、操作装置26は、パイロットライン25を通じてパイロットポンプ15から供給される作動油を利用して、操作内容に応じたパイロット圧をその二次側のパイロットライン27に出力する。パイロットライン27は、コントロールバルブ17に接続される。これにより、コントロールバルブ17には、操作装置26における各種被駆動要素(即ち、各種被駆動要素を駆動する油圧アクチュエータ)に関する操作内容に応じたパイロット圧が入力される。そのため、コントロールバルブ17は、オペレータ等の操作装置26に対する操作内容に応じて、それぞれの油圧アクチュエータを駆動することができる。
【0032】
尚、操作装置26は、電気式であってもよい。この場合、操作装置26は、操作内容に応じた電気信号を出力し、当該電気信号は、コントローラ30に取り込まれる。そして、コントローラ30は、電気信号の内容、つまり、操作装置26に対する操作内容に応じた制御指令(以下、「操作指令」)を比例弁に出力する。比例弁は、パイロットポンプ15とコントロールバルブ17とを接続するパイロットラインに設けられる。これにより、比例弁からコントロールバルブ17に操作装置26に対する操作内容に応じたパイロット圧が入力され、コントロールバルブ17は、オペレータ等の操作装置26に対する操作内容に応じて、それぞれの油圧アクチュエータを駆動することができる。また、コントロールバルブ17に内蔵される制御弁(方向切換弁)が電磁ソレノイド式である場合、操作装置26から出力される電気信号が直接的にコントロールバルブ17、つまり、電磁ソレノイド式の制御弁に入力される態様であってもよい。
【0033】
ソレノイドバルブ25Vは、パイロットライン25に設けられ、コントローラ30からの制御指令に応じて、パイロットライン25を絞ったり、遮断したりする。つまり、コントローラ30は、ソレノイドバルブ25Vを制御し、パイロットライン25の連通状態を制限したり、パイロットライン25を非連通状態にしたりすることができる。
【0034】
<ショベルの制御系>
本実施形態に係るショベル100の制御系は、コントローラ30と、圧力センサ29と、シートベルト装着センサ40と、ドア開閉センサ42と、傾斜センサ44と、ブーム角度センサ46と、アーム角度センサ48と、表示装置50を含む。
【0035】
コントローラ30(制御装置の一例)は、ショベル100に関する各種制御を行う。コントローラ30は、その機能が任意のハードウェア、或いは、ハードウェア及びソフトウェアの組み合わせにより実現されてよい。例えば、コントローラ30は、CPU(Central Processing Unit)と、RAM(Random Access Memory)等のメモリ装置と、ROM(Read Only Memory)等の不揮発性の補助記憶装置と、インターフェース装置等を含むマイクロコンピュータを中心に構成される。コントローラ30は、例えば、補助記憶装置にインストールされる一以上のプログラムをCPU上で実行することにより各種機能を実現する。
【0036】
圧力センサ29は、操作装置26の二次側(パイロットライン27)のパイロット圧、即ち、操作装置26におけるそれぞれの油圧アクチュエータの操作状態に対応するパイロット圧を検出する。圧力センサ29による操作装置26の各種油圧アクチュエータに関する操作状態に対応するパイロット圧の検出信号は、コントローラ30に取り込まれる。
【0037】
尚、操作装置26が電気式である場合、圧力センサ29は省略されてよい。コントローラ30は、操作装置26から入力される電気信号に基づき、その操作内容を把握することができるからである。
【0038】
シートベルト装着センサ40は、キャビン10内の着座したオペレータのシートベルトの装着状態、具体的には、シートベルトの装着の有無を検出する。シートベルト装着センサ40は、例えば、シートベルトのバックルに内蔵され、シートベルトがバックルに結合されている場合と結合されていない場合との間でON/OFFされるスイッチであってよい。シートベルト装着センサ40の検出信号は、コントローラ30に取り込まれる。
【0039】
ドア開閉センサ42は、キャビン10のドアの開閉状態を検出する。ドア開閉センサ42は、例えば、キャビンのドア開口に設けられ、ドアの開閉に応じてON/OFFされるスイッチであってよい。ドア開閉センサ42の検出信号は、コントローラ30に取り込まれる。
【0040】
傾斜センサ44は、ショベル100の機体(下部走行体1或いは上部旋回体3)に搭載され、機体の傾斜状態(例えば、上部旋回体3の前後軸方向及び左右軸方向の傾斜)を検出する。傾斜センサ44は、例えば、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を用いて、上部旋回体3の前後軸方向及び左右軸方向沿いの重力加速度成分を測定することにより、機体の傾斜状態を検出してよい。
【0041】
ブーム角度センサ46は、ブーム4の回動軸回りの姿勢角度(以下、「ブーム角度」)を検出する。ブーム角度センサ46は、例えば、ロータリエンコーダ、加速度センサ、角速度センサ、六軸センサ、IMU(Inertial Measurement Unit)等を含んでよい。以下、アーム角度センサ48についても同様である。ブーム角度センサ46の検出信号は、コントローラ30に取り込まれる。
【0042】
アーム角度センサ48は、アーム5の回動軸回りの姿勢角度(以下、「アーム角度」)を検出する。アーム角度センサ48の検出信号は、コントローラ30に取り込まれる。
【0043】
表示装置50は、キャビン10内の着座したオペレータから視認し易い場所に設けられ、各種情報画像を表示する。表示装置50は、例えば、液晶ディスプレイや有機EL(Electroluminescence)ディスプレイである。
【0044】
[安全機能に関する制御処理]
次に、
図3を参照して、コントローラ30によるショベル100の安全機能に関する制御処理について説明する。
【0045】
図3は、ショベル100の安全機能に関する構成の一例を示す機能ブロック図である。
【0046】
コントローラ30は、不安定状態判定部301と、不安全状態判定部302と、指令出力部303と、通知部304を含む。
【0047】
不安定状態判定部301は、ショベル100が不安定な状態にあるか否かを判定する。ショベル100の不安定な状態には、例えば、ショベル100が相対的に安定性の低い姿勢にある状態(以下、「ショベル100の不安定姿勢状態」)が含まれる。また、ショベル100の不安定な状態には、例えば、ショベル100が不安定姿勢状態になる可能性がある状態が含まれる。
【0048】
ショベル100の不安定姿勢状態には、例えば、ショベル100の被駆動要素の動作に応じて、下部走行体1の一部が浮き上がる状態が含まれる。下部走行体1が浮き上がると、車体が傾斜し、キャビン10内のオペレータがキャビン10の外部に放出されてしまう可能性があるからである。具体的には、ショベル100の不安定姿勢状態には、バケット6が地面に当接している状態で、更に、ブーム4を下げる方向に動作させたり、アーム5を閉じる方向に動作させたりすることにより、下部走行体1の前部が浮き上がるジャッキアップ状態が含まれてよい。また、ショベル100の不安定姿勢状態には、アタッチメント等の動作に応じて車体に作用する、車体を前方或いは後方に転倒させようとする転倒モーメントの作用で、下部走行体1の前部或いは後部が浮き上がる状態が含まれてよい。
【0049】
また、ショベル100の不安定姿勢状態には、例えば、ブーム4が相対的に高く上げられ、且つ、アーム5が相対的に大きく開かれている状態、つまり、アタッチメントの先端部(バケット6)が相対的に高い位置にある状態が含まれる。バケット6が相対的に高い位置にある場合、アタッチメント等の動作や外力の作用等の何等かの要因で、前方に転倒させようとする転倒モーメントが車体に作用したときに、バケット6を地面に当接させて、車体の前方への転倒を抑制することができないからである。
【0050】
また、ショベル100の不安定姿勢状態には、例えば、アタッチメントの先端部(バケット6)がショベル100の機体(下部走行体1及び上部旋回体3)から水平方向で相対的に離れた位置にある状態が含まれる。バケット6が機体から水平方向で相対的に離れている場合、アタッチメントの重心位置が機体から水平方向で相対的に離れることになり、アタッチメントの重量によって機体に作用する転倒モーメントが相対的に大きくなるからである。
【0051】
また、ショベル100の不安定姿勢状態には、例えば、下部走行体1の進行方向と上部旋回体3のアタッチメントの向き(つまり、上部旋回体3の前方向)との間の相対角度(旋回角度)が相対的に大きい状態(例えば、90度付近にある状態)が含まれる。下部走行体1は、進行方向よりも幅方向の接地長さが短い。そのため、アタッチメントの向きが進行方向から大きく離れると、アタッチメント等の動作や外力の作用等の何等かの要因で、機体を転倒させようとする転倒モーメントが車体に作用したときに、転倒し易くなってしまうからである。
【0052】
また、ショベル100の不安定姿勢状態には、例えば、ショベル100がトラックへの積み込みをしている状態が含まれる。
【0053】
また、ショベル100の不安定姿勢状態には、例えば、ショベル100が相対的に傾斜角の大きい傾斜地にいる状態が含まれる。
【0054】
ショベル100が不安定姿勢状態になる可能性がある状態には、例えば、オペレータが、操作装置26を用いて、ショベル100が不安定姿勢状態になるような操作を行っている状態が含まれる。具体的には、ショベル100が不安定姿勢状態になる可能性がある状態には、アタッチメントの重心位置が水平方向で機体から相対的に離れた位置に向かうような操作を行っている状態が含まれてよい。また、ショベル100が不安定姿勢状態になる可能性がある状態には、ショベル100の機体(下部走行体1)の前部或いは後部が地面から浮き上がり、機体が傾斜してしまうような操作(例えば、停止中のブーム4を急に上げる操作等)が含まれてよい。
【0055】
不安定状態判定部301は、不安定姿勢判定部301Aと、不安定操作判定部301Bと、判定結果出力部301Cを含む。
【0056】
不安定姿勢判定部301Aは、ショベル100が不安定姿勢状態にあるか否かを判定する。
【0057】
不安定姿勢判定部301Aは、例えば、傾斜センサ44により検出される傾斜角が所定の閾値を超えている場合に、ショベル100が不安定姿勢状態にあると判定する。つまり、不安定姿勢判定部301Aは、機体(上部旋回体3)現在の姿勢状態に基づき、ショベル100が不安定姿勢状態にあるか否かを判定してよい。
【0058】
また、不安定姿勢判定部301Aは、例えば、ブーム角度センサ46及びアーム角度センサ48の検出信号に基づき、アタッチメントの現在の姿勢状態を把握し、アタッチメントの現在の姿勢状態に基づき、ショベル100が不安定姿勢状態にあるか否かを判定する。具体的には、不安定姿勢判定部301Aは、ブーム角度センサ46及びアーム角度センサ48の検出信号から把握されるアタッチメントの姿勢状態から、バケット6が相対的に高い位置にある場合、ショベル100が不安定姿勢状態にあると判定してよい。また、不安定姿勢判定部301Aは、ブーム角度センサ46及びアーム角度センサ48の検出信号から把握されるアタッチメントの姿勢状態から、バケット6が下部走行体1の接地面より下方にある場合、ショベル100が不安定状態(ジャッキアップ状態)にあると判定してよい。
【0059】
尚、ショベル100には、自機の周囲の三次元空間の状況に関する情報(例えば、周囲の物体の有無やその位置等に関する情報)を取得可能な装置(以下、「周囲情報取得装置」)が搭載されてもよい。周囲情報取得装置には、例えば、撮像装置、LIDAR(Light Detection and Ranging)、レーダ、超音波センサ、赤外線センサ等が含まれてよい。この場合、不安定姿勢判定部301Aは、周囲情報取得装置により取得されるショベル100の周囲の三次元空間の状況に関する情報に基づき、ショベル100から見た相対的な周囲の状況を把握し、ショベル100が不安定姿勢状態にあるか否かを判定してもよい。
【0060】
不安定操作判定部301Bは、操作装置26を通じて、ショベル100が不安定姿勢状態になるような操作が行われているか否かを判定する。つまり、不安定操作判定部301Bは、ショベル100が不安定姿勢状態になる可能性がある状態であるか否かを判定する。
【0061】
不安定操作判定部301Bは、例えば、ブーム角度センサ46、及びアーム角度センサからアタッチメントの現在の姿勢状態を把握する。そして、不安定操作判定部301Bは、ショベル100の現在の姿勢状態と、圧力センサ29の検出信号から把握される操作装置26の操作内容とに基づき、ショベル100が不安定姿勢状態になるような操作が行われているか否かを判定する。具体的には、不安定操作判定部301Bは、バケット6が接地している状態で、更に、ブーム4を下げる方向の操作やアーム5を閉じる方向の操作が行われている場合、ショベル100が不安定姿勢状態(ジャッキアップ状態)になるような操作が行われていると判定してよい。
【0062】
尚、不安定操作判定部301Bは、上述の周囲情報取得装置により取得される情報を利用してもよい。つまり、不安定操作判定部301Bは、ショベル100から見た相対的な周囲の状況を把握し、ショベル100が不安定姿勢状態になるような操作が行われているか否か、つまり、ショベル100が不安定姿勢状態になる可能性があるか否かを判定してもよい。
【0063】
判定結果出力部301Cは、不安定状態判定部301の判定結果、つまり、ショベル100が不安定な状態にあるか否かの判定結果を出力する。
【0064】
判定結果出力部301Cは、例えば、ショベル100の不安定姿勢状態、及び、ショベル100の不安定姿勢状態になる可能性がある状態の少なくとも一方が成立しているか否かを出力する。つまり、判定結果出力部301Cは、不安定姿勢判定部301A及び不安定操作判定部301Bの判定結果の論理和を、判定結果として出力する。
【0065】
不安全状態判定部302は、キャビン10内のオペレータが相対的に安全性の低下した不安全な状態(以下、「不安全状態」)にあるか否かを判定する。
【0066】
不安全状態判定部302は、例えば、シートベルト装着センサ40の検出信号からシートベルトの装着状態を判断し、シートベルトが装着されていない場合、キャビン10内のオペレータが不安全状態であると判定する。例えば、ショベル100が不安定な状態になり、機体が傾斜すると、シートベルトが装着されていない状態のオペレータは、キャビン10の外部に放り出されてしまう可能性があるからである。
【0067】
また、不安全状態判定部302は、例えば、ドア開閉センサ42の検出信号からドアの開閉状態を判断し、ドアが開いている場合、キャビン10内のオペレータが不安全状態であると判定する。例えば、ショベル100が不安定な状態になり、機体が傾斜すると、開放されている状態のドアからオペレータがキャビン10の外部に放り出され易くなってしまうからである。
【0068】
尚、ショベル100には、キャビン10の開閉可能な窓の開閉状態を検出するセンサ(以下、「窓開閉センサ」)が設けられてもよい。キャビン10の開閉可能な窓には、例えば、相対的に開口(面積)が大きい、キャビン10の前面の窓(以下、「フロントウィンドウ」)が含まれる。また、キャビン10の開閉可能な窓には、例えば、相対的に開口(面積)が小さい、キャビン10の左側面のドアの上部に設置される窓(以下、「サイドウィンドウ」)が含まれる。この場合、不安全状態判定部302は、窓開閉センサの検出信号から窓の開閉状態を判断し、窓が開いている場合、キャビン10内のオペレータが不安全状態であると判定してよい。例えば、ショベル100が不安定な状態になり、機体が傾斜すると、開放されている状態の窓からオペレータがキャビン10の外部に放り出され易くなってしまうからである。また、不安全状態判定部302は、キャビン10の全ての窓を対象として、キャビン10内のオペレータが不安全状態であるか否かを判定してよい。また、不安全状態判定部302は、キャビン10の一部の窓を対象として、キャビン10内のオペレータが不安全状態であるか否かを判定してもよい。開口の大きい窓(例えば、フロントウィンドウ)からオペレータがキャビン10の外部に放出される可能性はある程度想定されうる。これに対して、開口の小さい窓(例えば、サイドウィンドウ)からオペレータがキャビン10の外部に放出される可能性は非常に低く、このような窓は、対象から除外されても問題が無いケースもありうるからである。また、ショベル100には、キャビン10の室内の三次元空間の状況に関する情報を取得する装置(以下、「室内情報取得装置」)が搭載されてよい。室内状況取得装置には、例えば、撮像装置、LIDAR、レーダ、超音波センサ、赤外線センサ等が含まれてよい。この場合、不安全状態判定部302は、室内情報取得装置により取得されるキャビン10の室内の状況に関する情報に基づき、シートベルトの装着状態、ドアや窓の開閉状態を把握し、オペレータが不安全状態にあるか否かを判定してもよい。また、不安全状態判定部302は、オペレータの状態(例えば、覚醒状態、意識状態、外部刺激に対する反応状態、体調等)を把握することにより、キャビン10内のオペレータが不安全状態にあるか否かを判定してもよい。この場合、不安全状態判定部302は、キャビン10の室内に搭載される撮像装置や視線センサの出力情報、オペレータが予め装着する生体センサ(例えば、脳波センサ、心拍センサ等)の出力情報等に基づき、既知の方法を用いてオペレータの状態を把握してよい。不安全状態判定部302は、例えば、オペレータの覚醒度が相対的に低下している状態である場合に、オペレータが不安全状態であると判定する。また、不安全状態判定部302は、例えば、オペレータの意識が相対的に低下している状態である場合に、オペレータが不安全状態であると判定する。また、不安全状態判定部302は、例えば、オペレータの外部刺激に対する反応が相対的に低下している状態である場合に、オペレータが不安全状態であると判定する。また、不安全状態判定部302は、例えば、オペレータが体調不良の状態である場合に、オペレータが不安全状態であると判定する。
【0069】
指令出力部303は、ショベル100の不安定状態、及びオペレータの不安全状態の双方が成立している場合に、ソレノイドバルブ25Vにパイロットライン25の連通状態を制限するための制御指令(以下、「制限指令」)を出力する。つまり、指令出力部303は、不安定状態判定部301及び不安全状態判定部302の判定結果の論理積に基づき、ソレノイドバルブ25Vに制限指令を出力する。制限指令は、パイロットライン25を非連通状態にし、操作装置26の操作を無効にする態様で制限するための制御指令であってよい。制限指令は、パイロットライン25を通じて操作装置26に作用するパイロット圧を抑制し、油圧アクチュエータの動作速度を相対的に遅くする態様で、操作装置26の操作を制限するための制御指令であってもよい。これにより、ショベル100が不安定姿勢状態にある、或いは、不安定姿勢状態になる可能性があり、且つ、オペレータの安全性が相対的に低下している場合に、ショベル100の動作を制限することができる。そのため、ショベル100の機体が大きく傾斜し、オペレータがキャビン10の外部に放り出されてしまうような事態を抑制することができる。また、ショベル100の不安定状態及びオペレータの不安全状態の双方の条件が成立しない限り、ショベル100の動作が制限されないため、ショベル100の動作制限によるショベル100の作業効率の低下を抑制することができる。また、ショベル100が不安定状態でもないのに、シートベルトの未装着等により、ショベル100の動作が制限され、オペレータが違和感や煩わしさを覚えてしまうような事態を抑制することができる。つまり、オペレータの安全性と、ショベル100の作業効率やオペレータの違和感等との双方を考慮して、より適切にオペレータの安全性を確保することができる。
【0070】
尚、電気式の操作装置26が採用される場合、指令出力部303は、操作装置26から入力される電気信号に応じて、コントローラ30内の比例弁に操作指令を出力する機能部に対して制限指令を出力する。これにより、コントローラ30は、操作装置26から入力される電気信号に対して、通常よりもショベル100の動作を遅くするように、操作指令を比例弁に出力したり、操作装置26の操作を無効にしたりすることができる。
【0071】
通知部304は、指令出力部303から制限指令が出力され、ショベル100の動作が制限されている場合に、表示装置50(通知手段の一例)を通じて、操作装置26を用いた油圧アクチュエータの操作が制限されていることをオペレータに通知する。また、通知部304は、操作装置26を用いた油圧アクチュエータの操作が制限されている理由をオペレータに通知してもよい。この場合、通知部304は、不安定状態判定部301及び不安全状態判定部302の判定結果を参照し、表示装置50を通じて、操作装置26を用いた油圧アクチュエータの操作が制限されている理由をオペレータに通知してよい。
【0072】
尚、通知部304は、表示装置50に代えて、或いは、加えて、スピーカ等の音声出力装置を通じて、操作装置26を用いた油圧アクチュエータの操作が制限されていること等をオペレータに通知してもよい。
【0073】
[変形・変更]
以上、本発明を実施するための形態について詳述したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0074】
例えば、上述した実施形態において、ショベル100は、下部走行体1、上部旋回体3、ブーム4、アーム5、バケット6等の被駆動要素の一部又は全部を電動アクチュエータ(アクチュエータの一例)で駆動する構成であってもよい。この場合、ショベル100は、エンジン11に代えて、或いは、加えて、他の動力源(例えば、バッテリ等の蓄電装置や燃料電池等)を搭載してよい。つまり、上述した実施形態で開示される構成等は、ハイブリッドショベルや電動ショベル等に適用されてもよい。
【符号の説明】
【0075】
1 下部走行体
1A,1B 走行油圧モータ(アクチュエータ)
2A 旋回油圧モータ(アクチュエータ)
3 上部旋回体
4 ブーム
5 アーム
6 バケット
7 ブームシリンダ(アクチュエータ)
8 アームシリンダ(アクチュエータ)
9 バケットシリンダ(アクチュエータ)
25V ソレノイドバルブ
26 操作装置
30 コントローラ(制御装置)
40 シートベルト装着センサ
42 ドア開閉センサ
44 傾斜センサ
46 ブーム角度センサ
48 アーム角度センサ
100 ショベル