(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-16
(45)【発行日】2024-04-24
(54)【発明の名称】拭き取り用シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
A47L 13/17 20060101AFI20240417BHJP
A47K 7/00 20060101ALI20240417BHJP
D06M 17/00 20060101ALI20240417BHJP
【FI】
A47L13/17 A
A47K7/00 E
A47K7/00 J
D06M17/00 H
(21)【出願番号】P 2019158117
(22)【出願日】2019-08-30
【審査請求日】2021-04-02
【審判番号】
【審判請求日】2023-03-31
(73)【特許権者】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】山下 晶子
【合議体】
【審判長】村上 聡
【審判官】柿崎 拓
【審判官】伊藤 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-151070(JP,A)
【文献】特開2012-197544(JP,A)
【文献】特開2002-496(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47L13/17
A47K7/00
D06M17/00
B32B5/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.5~2.0%のセルロースナノファイバー溶液
を不織布
の縁部の全周に塗布する塗布ステップと、
セルロースナノファイバー溶液が塗布された不織布の塗布面と別の不織布とが接触するように重ね合わせる重ね合わせステップと、
重ね合わされた不織布を熱乾燥させて接着する乾燥ステップと、
薬液を含浸させる薬液含浸ステップと、
を有し、
前記重ね合わせられる不織
布は、スパンレース不織布
同士であり、
前記スパンレース不織布は、レーヨン繊維を含むことを特徴とする拭き取り用シートの製造方法。
【請求項2】
前記塗布ステップは、スプレーにより塗布することを特徴とする請求項
1に記載の拭き取り用シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、拭き取り用シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
拭き取り用シートを多層構造にする方法には、原料である不織布同士を熱融着する方法や(特許文献1参照)、ホットメルト接着剤で接着する方法などがある(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-060044号公報
【文献】特開2018-104846号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、不織布同士を熱融着する場合、加工する前に不織布製造設備で作製する必要がある。また、ホットメルト接着剤で接着する場合、特有の臭いが生じる、接着面が固くなる等の問題がある。
【0005】
本発明の目的は、製造が容易で且つ接着面が柔らかい多層構造の拭き取り用シートの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、拭き取り用シートの製造方法であって、
0.5~2.0%のセルロースナノファイバー溶液を不織布の縁部の全周に塗布する塗布ステップと、
セルロースナノファイバー溶液が塗布された不織布の塗布面と別の不織布とが接触するように重ね合わせる重ね合わせステップと、
重ね合わされた不織布を熱乾燥させて接着する乾燥ステップと、
薬液を含浸させる薬液含浸ステップと、
を有し、
前記重ね合わせられる不織布は、スパンレース不織布同士であり、
前記スパンレース不織布は、レーヨン繊維を含むことを特徴とする。
【0012】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の拭き取り用シートの製造方法において、
前記塗布ステップは、スプレーにより塗布することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、製造が容易で且つ接着面が柔らかい多層構造の拭き取り用シートの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態に係る拭き取り用シートの製造方法の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[拭き取り用シート]
本発明に係る拭き取り用シートPは、例えば不織布等のシート状の繊維集合基材の片面に対して、精製水にセルロースナノファイバー(以下、CNF)を添加した溶液を塗布し、塗布面に別の不織布を重ね合わせ、熱乾燥することで接着させ、多層構造にしたものである。
拭き取り用シートPは、例えば、
図1(a)に示すように、不織布の縁部の全周の塗布部1と、それ以外の非塗布部2と、を備える。
塗布部1は、CNF溶液が塗布されており、親水性及び吸湿性が非塗布部2よりも高くなっている。
非塗布部2は、CNF溶液が塗布されていない部分であり、塗布部1に比べて親水性及び吸湿性が低くなっている。
また、拭き取り用シートPは、
図1(b)に示すように、全面にCNF溶液が塗布され、塗布部1のみを備えるようにしてもよい。
【0016】
拭き取り用シートPは、製品形態では、複数枚積層された積層体の状態として、開閉蓋により密閉可能とされたシート取出口を有する密閉容器や袋等の包装手段内に収容することができる。
使用に際しては、拭き取り用シートPを容器又は袋内に直に入れたもの、あるいは拭き取り用シートPを直に入れた袋を容器内に入れたものから、使用者が取出口を開けて内部のシートを引き出して使用する。
かかる拭き取り用シートPは、例えば、身体拭きシート、床等の清掃用シートなど、広範な用途に用いられる。
【0017】
[繊維集合基材]
繊維集合基材としては、所定の繊維を繊維素材として、例えば、スパンレース、エアスルー、エアレイド、ポイントボンド、スパンボンド、ニードルパンチ等の周知の技術により製造される不織布を用いることができる。
所定の繊維としては、天然、再生、合成を問わず用いることができるが、例えば、レーヨン、リヨセル、テンセル、コットン等のセルロース系繊維、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール等のポリオレフィン系繊維、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル繊維、ナイロン等のポリアミド系繊維が挙げられる。これらは単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
本発明では少なくとも親水性繊維を含有するものが好ましい。拭き取り用シートPは、親水性繊維を含んだ不織布のほうが親水性繊維を含まない不織布と比べて、汚れの拭き取り効果が高いためである。
【0018】
(親水性繊維)
親水性繊維としては、綿、パルプなどの天然繊維、レーヨン、キュプラなどの再生繊維などを使用することができる。これらの繊維の中でも特にはレーヨンが好適である。レーヨンは、吸水性に富み、取り扱いが容易であると共に、一定長の繊維を安価に入手することができる。かかる親水性繊維は、基材中に40~70質量%の含有比で配合するのがより望ましい。親水性繊維の含有量が40質量%未満である場合には、十分な柔軟性と保水性を与えることが出来ず、70質量%を超える場合には、湿潤時強度が低すぎて破れなどが生じ易くなるとともに、容器からポップアップ式で取り出す際に伸びが生じ過ぎるようになる。
【0019】
(目付け)
本発明の拭き取り用シートPの場合、シートの目付け量は20~80g/m2、特に30~60g/m2程度であるのが好ましい。シートの目付け量が20g/m2未満では汚れの保持能力が乏しくなり、80g/m2を超えると柔軟性が乏しくなる。
【0020】
[CNF]
CNFは、水分を保持する特性を有し、安全性が高く、且つその水溶液はチキソ性を有する素材であって、パルプ繊維を解繊して得られる微細なセルロース繊維であり、一般的に繊維幅がナノサイズ(1nm以上、1000nm以下)のセルロース微細繊維を含むセルロース繊維をいうが、平均繊維幅は、100nm以下の微細繊維が好ましい。平均繊維幅の算出は、例えば、一定数の数平均、メジアン、モード径(最頻値)などを用いる。
【0021】
(CNFに使用可能なパルプ繊維)
CNFとして使用可能なパルプ繊維としては、例えば、広葉樹パルプ(LBKP)、針葉樹パルプ(NBKP)等の化学パルプ、晒サーモメカニカルパルプ(BTMP)、ストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、サーモグランドパルプ(TGP)、グランドパルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、リファイナーメカニカルパルプ(RMP)等の機械パルプ、茶古紙、クラフト封筒古紙、雑誌古紙、新聞古紙、チラシ古紙、オフィス古紙、段ボール古紙、上白古紙、ケント古紙、模造古紙、地券古紙、更紙古紙等から製造される古紙パルプ、古紙パルプを脱墨処理した脱墨パルプ(DIP)などが挙げられる。これらは、本発明の効果を損なわない限り、単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
(解繊方法)
CNFの製造に用いられる解繊方法としては、例えば、高圧ホモジナイザー法、マイクロフリュイダイザー法、グラインダー磨砕法、ビーズミル凍結粉砕法、超音波解繊法等の機械的手法が挙げられるが、これらの方法に限定されるものではない。
なお、上記解繊方法などにより機械的処理のみ施した(変性させていない)CNF、即ち、官能基未修飾のCNFは、リン酸基やカルボキシメチル基などの官能基修飾されたものに対し、熱安定性が高いため、より幅広い用途に使用可能であるが、リン酸基やカルボキシメチル基などの官能基修飾されたCNFを本発明に使用することも可能である。
また、例えば、パルプ繊維に対して機械的手法の解繊処理を施したものに、カルボキシメチル化等の化学的処理を施しても良いし、酵素処理を施してもよい。化学的処理を施したCNFとしては、例えば、TEMPO酸化CNF、リン酸エステル化CNF、亜リン酸エステル化CNF等の、直径が3~4nmとなるiCNF(individualized CNF) (シングルナノセルロース)が挙げられる。
また、化学的処理や酵素処理のみを施したCNFや、化学的処理や酵素処理を施したCNFに、機械的手法の解繊処理を施したCNFでもよい。
【0023】
[CMC]
なお、CNFの溶液中での凝集を防止するために、水溶性高分子であるカルボキシメチルセルロース(以下、CMC)を添加してもよい。
CNFを水系溶媒に添加した場合、CNFのミクロフィブリル繊維同士が結合して凝集してしまうところ、CMCを添加してCNFとCMCを共存させることで、CNFのOH基と、CMCのOH基とが水素結合し、分子鎖の静電相互作用と立体障害効果によって、CNFの凝集が防止され、CNFを溶液中に均一に分散させることができる。
【0024】
なお、CMCは、セルロースを原料として得られ、緩やかな生分解性を有し、且つ使用後の焼却廃棄が可能であるため、環境に極めてやさしい素材であることから好ましく使用されるが、CNFの溶液中での凝集を防止できるものであれば、CMC以外の水溶性高分子を用いることとしても良い。
【0025】
また、CMCを添加する場合には、溶液全体を100.000質量%としたときに、水を93.000~99.790質量%、CNFを0.002~0.020質量%、及びCMCを0.100~1.000質量%の割合で含有していることが好ましい。
【0026】
また、溶液は、繊維集合基材の乾燥重量に対して100~500質量%の範囲内で含浸させることができるが、200~350質量%で含浸させることが好ましい。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0028】
[サンプル作成]
まず、スパンレース法により製造した、秤量70g/m2で11cm×11cmのスパンレース不織布(繊維配合;レーヨン:PET=50:50)と、スパンボンド法により製造した、秤量30g/m2で11cm×11cmのスパンボンド不織布(繊維配合;ナイロン)と、を準備した。
次いで、実施例1―33及び比較例1―22の条件で、一方の不織布の片面のみに液体を塗布し、他方の不織布を一方の不織布の液体塗布面に貼り合わせた。その後、実施例1―4及び比較例1―8は、恒温槽で72時間静置して熱乾燥させ、拭き取り用シートPを作成した。実施例1B、5-33、及び比較例2B、9-22は、恒温槽で24時間静置して熱乾燥させ、拭き取り用シートPを作成した。
実施例1―33及び比較例1―22の条件は以下の通りである。
【0029】
(実施例1)
図1(a)に示すように、不織布の縁部の全周に、マイクロピペット(ニチペット EXII00-NPX2-1000)で各辺につき濃度2.0%の機械処理CNF溶液を1gずつ、計4g塗布した。
また、貼り合わせた不織布は、2枚ともスパンレース不織布であり、恒温槽の温度は60℃である。
【0030】
(実施例2)
貼り合わせた不織布は、スパンレース不織布とスパンボンド不織布である。
他の条件は実施例1と同じである。
【0031】
(実施例3-4)
図1(b)に示すように、スプレーで不織布の全面に計4g塗布した。
他の条件は実施例1-2と同じである。
【0032】
(実施例5-7)
塗布した液体は、それぞれ0.5%、1.0%、1.5%の機械処理CNF溶液である。
他の条件は実施例1と同じである。
【0033】
(実施例8-11)
恒温槽の温度は50℃である。
他の条件は実施例5-7、1とそれぞれ同じである。
【0034】
(実施例12-15)
恒温槽の温度は40℃である。
他の条件は実施例5-7、1とそれぞれ同じである。
【0035】
(実施例16-19)
塗布した液体は、それぞれ0.5%、1.0%、1.5%、2.0%の酵素処理CNF溶液である。
他の条件は実施例1と同じである。
【0036】
(実施例20-23)
恒温槽の温度は50℃である。
他の条件は実施例16-19とそれぞれ同じである。
【0037】
(比較例24-27)
恒温槽の温度は40℃である。
他の条件は実施例16-19とそれぞれ同じである。
【0038】
(実施例28-29)
塗布した液体は、それぞれ0.5%、1.0%のTEMPO酸化CNF溶液である。
他の条件は実施例1と同じである。
【0039】
(実施例30-31)
恒温槽の温度は50℃である。
他の条件は実施例28-29とそれぞれ同じである。
【0040】
(実施例32-33)
恒温槽の温度は40℃である。
他の条件は実施例28-29とそれぞれ同じである。
【0041】
(比較例1)
貼り合わせた不織布は、2枚ともスパンボンド不織布である。
他の条件は実施例1と同じである。
【0042】
(比較例2-4)
塗布した液体は、濃度2.0%のCMC溶液である。
他の条件は実施例1-2、比較例1とそれぞれ同じである。
【0043】
(比較例5)
図1(b)に示すように、スプレーで不織布の全面に計4g塗布した。
他の条件は比較例1と同じである。
【0044】
(比較例6-8)
図1(b)に示すように、スプレーで不織布の全面に計4g塗布した。
他の条件は比較例2-4とそれぞれ同じである。
【0045】
(比較例9)
塗布した液体は精製水である。
他の条件は実施例1と同じである。
【0046】
(比較例10-12)
塗布した液体は、それぞれ0.5%、1.0%、1,5%のCMC溶液である。
他の条件は実施例1と同じである。
【0047】
(比較例13-17)
恒温槽の温度は50℃である。
他の条件は比較例9-12、2とそれぞれ同じである。
【0048】
(比較例18-22)
恒温槽の温度は40℃である。
他の条件は比較例9-12、2とそれぞれ同じである。
【0049】
上記実施例及び比較例のシートを用いて、以下の試験1-6を行った。
【0050】
[試験1.部分塗布と全面塗布の比較及び最適な不織布の組み合わせ]
実施例1-4及び比較例1-8につき、以下の試験を行った。
【0051】
[評価方法]
実施例1-4及び比較例1-8に対応するサンプルを25mm幅にカットしたものを試験片とする。
引張試験機(A&D社製のTENSIRON RTG1210)を用いて、接着させた試験片の両端を引張試験機のチャックで挟み、チャック間距離50mm、速度500mm/minの条件で、各接着箇所のシート材同士の接着が剥がれるときの最大荷重点を測定する。このような試験を各実施例及び各比較例を用いて3回ずつ行い、接着強度の平均値を算出した。
【0052】
試験の結果を表I、表IIに示す。
【0053】
【0054】
【0055】
[評価]
表Iの実施例1-2と比較例1、表IIの実施例3-4と比較例5をそれぞれ比較すると、接着する不織布は、少なくとも一方がスパンレース不織布である方が接着強度は高くなることがわかる。
これは、今回使用したスパンレース不織布はレーヨン50%・PET50%の不織布であり、CNFと分子構造が似たレーヨン繊維が、水素結合により強く結合するため、接着強度が高くなったと考えられる。一方、今回使用したスパンボンド不織布はナイロン100%であり、レーヨンよりもCNFとの水素結合の数が少なくなるため、接着強度が低くなったと考えられる。
【0056】
また、表Iの実施例1-2と表IIの実施例3-4を比較すると、同じ量のCNF溶液で同じ製法の不織布を接着する場合、CNF溶液は縁部の全周に塗布した方が接着強度は高くなることがわかる。
また、表Iの実施例1-2と比較例2-3、表IIの実施例3-4と比較例6-7をそれぞれ比較すると、CMC溶液ではなく、CNF溶液を塗布して熱乾燥すると接着強度が高くなることがわかる。
【0057】
[試験2.機械処理CNF溶液の濃度・乾燥温度と接着強度の検討]
次に、実施例1B、5-15に対応するサンプルにつき、試験1と同様の試験を行った結果を表IIIに示す。
【0058】
【0059】
[評価]
表IIIの実施例1B、5―15をそれぞれ比較すると、機械処理CNF溶液においては、濃度が高いほうが接着強度は高くなることがわかった。
また、機械処理CNF溶液においては、恒温槽の温度が60℃になるように乾燥させたときが最も接着強度が高くなることがわかった。
また、実施例1と実施例1Bを比較すると、60℃の恒温槽で72時間熱乾燥すると熱劣化してしまい、24時間熱乾燥した場合よりも接着強度が下がっていた。
【0060】
[試験3.酵素処理CNF溶液の濃度・乾燥温度と接着強度の検討]
次に、実施例16-27に対応するサンプルにつき、試験1と同様の試験を行った結果を表IVに示す。
【0061】
【0062】
[評価]
表IVの実施例16-27をそれぞれ比較すると、酵素処理CNF溶液においても、濃度が高いほうが接着強度は高くなることがわかった。
また、酵素処理CNF溶液においては、濃度が1.5~2.0%の間では恒温槽の温度が60℃になるように乾燥させたときが最も接着強度が高くなることがわかった。
【0063】
[試験4.TEMPO酸化CNFの濃度・乾燥温度と接着強度の検討]
次に、実施例28-33に対応するサンプルにつき、試験1と同様の試験を行った結果を表Vに示す。
【0064】
【0065】
[評価]
表Vの実施例28-33をそれぞれ比較すると、TEMPO酸化CNF溶液においては、濃度の高低によって接着強度はあまり変わらないことがわかった。
また、TEMPO酸化CNFにおいても、恒温槽の温度が60℃になるように乾燥させたときが最も接着強度が高くなることがわかった。
【0066】
[試験5.CNFを含有しない液体を塗布した場合の接着強度の検討]
次に、比較例2B、9-22に対応するサンプルにつき、試験1と同様の試験を行った結果を表VIに示す。
【0067】
【0068】
[評価]
表VIの比較例2B、9-22から、CNFを含有しない液体を塗布した場合は、熱乾燥を行っても接着強度をほとんど持たないことがわかる。
【0069】
以上、試験1-5から、不織布にCNF溶液を塗布し、熱乾燥することで接着強度が高くなることがわかる。
また、試験2-4より、CNF溶液は濃度が0.5%~2.0%の間であるなら、いずれの解繊方法であっても十分な接着強度を付与することができることがわかる。その中でも、機械処理CNF溶液、酵素処理CNF溶液は濃度2.0%、TEMPO酸化CNF溶液は濃度1.0%のものを塗布すると、最も強い接着強度を付与することができることがわかる。
【0070】
[実施形態の効果]
拭き取り用シートPの製造工程においては、隣り合う不織布の接着部にCNF溶液が塗布され、隣り合う不織布のうち少なくとも一方にスパンレース不織布を使用し、不織布を重ね合わせた後に熱乾燥することで、多層構造の拭き取り用シートPを形成することができる。
【0071】
[試験6.不織布の柔らかさの検討]
実施例1-2及び比較例23-24に対応するサンプルにつき、以下の試験を行った。
比較例23は、実施例1におけるCNF塗布を熱シールに代えたものである。すなわち、貼り合わせた不織布は、2枚ともスパンレース不織布であり、実施例1において、
図1(a)に示すように、不織布の縁部の全周に、マイクロピペット(ニチペット EXII00-NPX2-1000)で各辺につき濃度2.0%の機械処理CNF溶液を1gずつ、計4g塗布した部分を、熱シーラーによって約200℃の熱を短時間加えることに代え、2枚の不織布を熱融着により貼り合わせたものである。比較例24は、不織布をスパンレース不織布とスパンボンド不織布に代えた以外は、比較例23と同じである。
【0072】
(柔らかさの官能評価)
実施例1-2及び比較例23-24の試験紙を10名の被験者に比較させた後、柔らかさにつき評価を行った。
試験結果は、10人中7人以上がCNFを塗布していない不織布と同等以上の柔らかさと回答した場合を〇、10人中7人以上がCNFを塗布していない不織布と比べて固いと回答した場合を×、それ以外を△とした。
【0073】
試験の結果を表VIIに示す。
【0074】
【0075】
[評価]
表VIIの実施例1-2と比較例23-24をそれぞれ比較すると、CNF塗布においては、不織布の柔らかさを維持していたが、熱融着においては、不織布の柔らかさは維持できていないことがわかった。
【0076】
すなわち、CNF溶液を塗布し、熱乾燥するだけで不織布同士の接着ができ、CNF溶液は無臭であり、接着面も凝固しないため、多層構造の拭き取り用シートPは、製造が容易で且つ接着面が柔らかいものである。
【0077】
また、CNFは親水性、吸湿性を備えるため、拭き取り用シートPがウェットシートである場合は、水溶性の薬液を素早く均一に含浸することができる。
【0078】
また、CNFは親水性、吸湿性を備えるため、拭き取り用シートPがウェットシートである場合は、薬液を塗布部1に保持することができ、拭き取る際は清掃面に薬液を徐々に放出することができるようになる。
【0079】
[試験7.不織布の拭き取りやすさの検討]
実施例1及び比較例23のサンプルに、基材の乾燥重量に対して200%の重量の薬液1を含浸し、実施例34及び比較例25のサンプルを得た。
薬液1は、(1)精製水にヒアルロン酸ナトリウム水溶液を溶解して、溶液Aを作製し、(2)プロプレングリコールにメチルパラベン、エチルパラベン及びプロピルパラベンを溶解して、溶液Bを作製し、(3)溶液Aと溶液Bを混合し、(4)その混合液に、塩化セチルピリジニウムを添加し、(5)アロエエキス水溶液を添加し、(6)クエン酸ナトリウムを添加することによって、製造した。
【0080】
表VIIIに、薬液1を構成する成分の種類と、その成分の配合比を示す。
【0081】
【0082】
(拭き取りやすさの官能評価)
実施例34及び比較例25のサンプルを10名の被験者に比較させた後、拭き取りやすさにつき評価を行った。
試験結果は、10人中7人以上がCNFを塗布していない不織布よりも拭き取りやすいと回答した場合を〇、10人中7人以上がCNFを塗布した不織布よりも拭き取りにくいと回答した場合を×、それ以外を△とした。
【0083】
試験の結果を表IXに示す。
【0084】
【0085】
[評価]
表IXの実施例34と比較例25を比較すると、CNF塗布においては、不織布の拭き取りやすさを維持していたが、熱融着においては、不織布の拭き取りやすさは維持できていないことがわかった。
【0086】
以上、本発明を実施形態に基づいて具体的に説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で変更可能である。
例えば、上記実施の形態においては、拭き取り用シートPは身体拭きや清掃等に用いられるものとして説明したが、その用途はこれに限定されるものではない。また、用途に応じて、溶液に添加される成分が変更されるのは勿論である。
【0087】
また、不織布へのCNFの塗布方法としては、実施例に示したように縁部の全周に塗布した方が接着強度は高まるが、全面に塗布しても十分な強度が得られ、また、CNFによる薬液の保持性や吸湿性は高めることができ、拭き取り用シートPがウェットシートである場合は、薬液をより素早く含浸することができるため、用途に応じて変更可能である。
【0088】
また、本発明における不織布は、製法や組成、目付に特に制限は持たない。また、拭き取り用シートPが乾性であるか湿性であるかも限定されるものではない。
【0089】
また、不織布へのCNF溶液の塗布方法としては、均一に塗布することができる点などから、スプレー塗布であることが好ましいが、ディスペンサ等による液適状の塗布や、ロールに溶液を一度塗布し、シート面に接触させて塗布するロール塗布、フレキソ印刷機やグラビア印刷機等を用いたロール転写等、本発明の効果を損なわない限り、他の方法でも構わない。
【0090】
また、不織布の熱乾燥方法としては、ヤンキードラム等の加熱ロールの表面に直接不織布を接触させて乾燥させる方法等、本発明の効果を損なわない限り、他の方法を単独で、また必要に応じて組み合わせて使用しても構わない。
また、熱乾燥を行う際の恒温槽の温度も、60℃に設定するのが最も強い接着強度が得られるという点で好適であるが、40℃又は50℃に設定した場合でも十分な接着強度を得ることができるため、これに限られない。
【0091】
また、上記実施例においては、拭き取り用シートPは2層構造であり、CNF溶液は接着する不織布の片面に直接塗布する方法を例示したが、これに限られず、中間層として吸収材や不織布を設け、その両面にCNF溶液を塗布し、不織布を接着する3層構造のものとしても構わない。このようにすることで、より拭き取り用シートPに厚みを持たせることができるようになる。また、吸収材を中間層として設けた場合、拭き取り用シートPがウェットシートである場合は、薬液の吸湿性をより高めることができるようになる。
【0092】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、本発明の範囲は、上述の実施の形態に限定するものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲とその均等の範囲を含む。
【符号の説明】
【0093】
P 拭き取り用シート
1 塗布部
2 非塗布部