(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-16
(45)【発行日】2024-04-24
(54)【発明の名称】水性インクジェット印刷用白板紙、及びそれを使用した段ボール
(51)【国際特許分類】
B41M 5/00 20060101AFI20240417BHJP
B65D 65/42 20060101ALI20240417BHJP
【FI】
B41M5/00 132
B41M5/00 110
B41M5/00 134
B65D65/42 A
(21)【出願番号】P 2019213243
(22)【出願日】2019-11-26
【審査請求日】2022-08-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000115980
【氏名又は名称】レンゴー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100117400
【氏名又は名称】北川 政徳
(74)【代理人】
【識別番号】100161746
【氏名又は名称】地代 信幸
(74)【代理人】
【識別番号】100166796
【氏名又は名称】岡本 雅至
(72)【発明者】
【氏名】島田 真典
(72)【発明者】
【氏名】新谷 栄一
(72)【発明者】
【氏名】寺田 幹雄
【審査官】高草木 綾音
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/098220(WO,A1)
【文献】特開2001-088434(JP,A)
【文献】特表2017-515754(JP,A)
【文献】特開2009-012277(JP,A)
【文献】特開2017-019252(JP,A)
【文献】特開2018-154118(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/00- 5/52
B65D 65/00-65/46
B41J 2/01
B41J 2/165-2/215
C09D 11/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性インクジェット印刷適性を付与する前処理剤を塗工された白板紙であって、
前記前処理剤が無機の多価金属塩と樹脂とを含み、
前記樹脂は、
(メタ)アクリル酸若しくはそのエステルの単独重合体又は共重合体を含み、
前記無機の多価金属塩(固形分)の塗工量が、0.05g/m
2以上0.25g/m
2以下であり、
前記樹脂(固形分)の塗工量が、0.01g/m
2以上0.12g/m
2以下であることを特徴とする水性インクジェット印刷用白板紙。
【請求項2】
前記無機の多価金属塩が、カルシウム塩またはマグネシウム塩である請求項1に記載の水性インクジェット印刷用白板紙。
【請求項3】
前記前処理剤からなる層の上面にインクジェット印刷が施された、請求項1又は2に記載の水性インクジェット印刷用白板紙の表面にワニスが塗工された水性インクジェット印刷済白板紙。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の白板紙は、コート白ボールである、水性インクジェット印刷用白板紙又は水性インクジェット印刷済白板紙。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の水性インクジェット印刷済白板紙を使用した段ボール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、水性インクジェット印刷用の白板紙、水性インクジェット印刷済の白板紙、及びこの水性インクジェット印刷済の白板紙を使用した段ボールに関する。
【背景技術】
【0002】
高級商品のブランドや訴求力を高める目的で、コート白ボール等の白板紙を用いた箱や段ボールからなる外装箱の表面に、プレプリントでのフレキソ印刷やグラビア印刷、枚葉でのオフセット印刷等を施すことが近年、増加している。
一方、インクジェット方式による写真画像を含めた美粧印刷は、これまで以上に包装物の訴求力や、外装箱に付与された印刷情報の視認性を高めることが期待できる。
【0003】
このインクジェット方式は、非常に微細なノズルからインク液滴を紙等の記録媒体に吐出して文字や画像を形成させる方式である。この方式は、小型化、高速化、カラー化が容易であると共に、記録媒体に対して非接触印刷が可能であるので、家庭用途以外に、オフィス用途、商業印刷用途や包装資材用途にまで適用可能である。
【0004】
ところで、インクジェット方式に用いられるインクとしては、水性の染料インクや顔料インクが広く用いられている。しかし、記録媒体として、普通紙や白板紙等の一般的に使用されている紙や板紙等を用いると、これらの水性インクが、インク液滴の着弾位置の周囲に広がり、フェザリングと呼ばれるにじみが生じて、印刷パターンが不鮮明になったり、文字や画像の再現性が損なわれたりするおそれがある。
【0005】
このため、包装資材用途にインクジェット印刷を適用しようとするとインクジェット専用のにじみ防止の施された白板紙が必要となるが、このインクジェット専用の白板紙は、入手困難な上、紙種増加によって在庫管理が煩雑化することから、効率的でない。このため、従来からプレプリントでのフレキソ印刷やグラビア印刷、枚葉でのオフセット印刷等に使用されている一般的な白板紙に水性インクジェット印刷を行うことが好ましい。
【0006】
コート紙等の記録媒体に水性の染料インクや顔料インクでインクジェット印刷を行う際に印刷面のにじみの発生を抑制する方法として、多価の無機金属塩を含む前処理剤を記録媒体に付着させて前処理を行う方法が知られている(特許文献1~3)。
【0007】
しかし、これらの方法は記録目的の印刷物を対象としており、包装容器に使用される白板紙に適用した場合、段ボールを製造する過程や物流過程での取扱いで印刷面の汚損やコスレが起こるおそれがある。
これに対し、通常のフレキソ印刷の場合と同様、段ボール原紙にインクジェット印刷を施した後、印刷面にワニスを塗布して耐熱耐摩擦性を向上させることが検討されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平5-202328号公報
【文献】特開平9-207424号公報
【文献】特許第5968571号公報
【文献】特開2009-12277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
包装容器に使用される白板紙には、通常、フレキソ印刷やグラビア印刷、オフセット印刷等が施されているが、これら従来の印刷方法の代わりに水性インクジェット印刷を施すためには、白板紙が水性インクジェット印刷適性に乏しいことから、前記のようにインクのにじみ防止が必要となる。
【0010】
一方、段ボールの表ライナとして、あらかじめフレキソ印刷やグラビア印刷が施された板紙等を用いる場合、段ボールを製造する際にコルゲータで印刷済みの板紙等が片面段ボールと貼合される過程において、印刷面が熱盤と接触して摩擦を受けることにより印刷面が摩耗して品質低下を招いたり、段ボール箱が物流過程で擦れて印刷面が汚損したりすることがある。そのため、印刷方法に係わらず、一般的に板紙の印刷面に塗膜形成成分が設けられている。これにより、板紙等へのインク密着性や、耐熱耐摩擦性、耐水耐摩擦性が不足するのを補う。この塗膜形成成分としては、従来から塗膜物性や美粧性に優れたワニス等が使用されている。
【0011】
しかし、前記の前処理剤を塗工した上に水性インクジェット印刷を行い、さらに印刷面の上にワニス等を塗工した場合、段ボールの表ライナとして重要な塗膜物性の一つである耐熱耐摩擦性や耐水耐摩擦性が著しく低下する場合がある。耐熱耐摩擦性が低下すると、コルゲータの熱盤上にインキやワニスの成分である顔料や樹脂等が付着して汚れを生じさせ、次に製造する段ボールに汚れが転移して不良品を発生させるおそれがあるため、コルゲータの運転を停止して清掃する必要が生じる。また、耐水耐摩擦性が低下すると、段ボール箱が水濡れしたり、高湿度の環境下で取り扱われたりする可能性が高い物流過程で、段ボール箱同士や周囲の壁等と擦れて印刷面が汚損するおそれがある。
【0012】
このため、ワニスの塗膜物性を阻害せずに、水性インクジェット印刷適性がある前処理剤を塗工する必要がある。
そこでこの発明では、水性インクジェット印刷を施しても、印刷面のにじみの発生を抑制することができ、かつ、その後の加工適性としての耐熱耐摩擦性や、物流過程での適性である耐水耐摩擦性を付与するためにワニス等を塗工しても、それらの適性を保持することを可能にする、前処理剤が塗工された白板紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明は、特定の前処理剤を所定量用いることにより、前記の課題を解決したものであり、その要旨は、下記の[1]~[6]に存する。
[1]水性インクジェット印刷適性を付与する前処理剤を塗工された白板紙であって、前記前処理剤が無機の多価金属塩と樹脂とを含み、前記無機の多価金属塩(固形分)の塗工量が、0.05g/m2以上0.25g/m2以下であり、前記樹脂(固形分)の塗工量が、0.01g/m2以上0.12g/m2以下であることを特徴とする水性インクジェット印刷用白板紙。
[2]前記無機の多価金属塩が、カルシウム塩またはマグネシウム塩である[1]に記載の水性インクジェット印刷用白板紙。
[3]前記樹脂が、(メタ)アクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、フッ素系樹脂、エチレン-酢酸ビニル-塩化ビニル共重合体又はこれらの樹脂の複数からなる複合樹脂である[1]又は[2]に記載の水性インクジェット印刷用白板紙。
【0014】
[4]前記前処理剤からなる層の上面にインクジェット印刷が施された、[1]~[3]のいずれか1項に記載の水性インクジェット印刷用白板紙の表面にワニスが塗工された水性インクジェット印刷済白板紙。
[5][1]~[4]のいずれか1項に記載の白板紙は、コート白ボールである、水性インクジェット印刷用白板紙又は水性インクジェット印刷済白板紙。
[6][4]又は[5]に記載の水性インクジェット印刷済白板紙を使用した段ボール。
【発明の効果】
【0015】
この発明に係る白板紙は、特定範囲内の固形分量を有する所定の無機の多価金属塩と樹脂を含む前処理剤を、白板紙に所定範囲内の量を塗工するので、水性インクジェット印刷を施しても、印刷面に濃度ムラや色間のにじみが発生することを抑制することができる。また、その後の耐熱耐摩擦性等の加工適性を付与するためワニス等を塗工しても、その加工適性を保持することができる。なお、ワニス等を塗工するので、インク密着性や耐水耐摩擦性等も十分に確保できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本願発明について説明する。
本願発明にかかる白板紙は、水性インクジェット印刷適性を付与する前処理剤を塗工された水性インクジェット印刷用の白板紙である。
【0017】
<白板紙>
前記白板紙は、板紙であって、片面又は両面が白いものをいう。この白板紙の例としては、高級白板紙、特殊白板紙、一般マニラ等のマニラボール、コート白ボール、ノーコート白ボール等のコートボール(白ボール)等があげられる。また、この白板紙は、段ボールのライナとしても用いることができる。
【0018】
前記白板紙は求められる美粧性によって選択され、包装容器によく用いられるコート白ボールの場合、白い面のISO白色度は一般的なライナ原紙が20%以上であるのに対し、70%以上である。
なお、ISO白色度は、ISO2470によるものであり、JIS P 8148:2001に記載の測定方法により測定することができる。
【0019】
<前処理剤>
前記前処理剤は、無機の多価金属塩(以下、「無機多価金属塩」と称する。)と樹脂とを含む。
[無機多価金属塩]
この無機多価金属塩とは、価数が少なくとも2価以上の金属の無機塩をいう。この無機多価金属塩を用いることで、水性インクジェット印刷用インクの色材が染料の場合はそれと結合して水不溶性の複合体を形成し、また色材が顔料の場合は塩析によってその分散状態を破壊して凝集させることで、インクのにじみを抑制することができる。この無機多価金属塩としては、例えば、カルシウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩の内、1種以上を含有することが好ましい。
これらのなかでも、インク中の色材との相互作用が大きく、にじみやムラを抑制する効果が高くなる点から、カルシウム塩、マグネシウム塩より選択される塩が好ましい。
なお、多価金属塩の金属イオンと対をなす陰イオンとしては、塩化物イオン、硫化物イオン、硝酸イオン等の一般的な無機イオンを用いることができる。
【0020】
[樹脂]
前記樹脂は、前記前処理剤及びインクジェット印刷により印刷された印刷部分の耐水耐摩擦性を向上させるために用いられる。このような樹脂としては、(メタ)アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、フッ素系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコーン樹脂や、これらの樹脂を構成する単量体を含む複数の異なる単量体を共重合した共重合樹脂、又はこれらの樹脂の複数からなる複合樹脂をあげることができる。
【0021】
前記(メタ)アクリル系樹脂としては、(メタ)アクリル酸又はそのエステルの単独重合体や共重合体をあげることができる。この(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル等があげられる。
なお、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル又はメタクリル」の意である。
【0022】
前記スチレン系樹脂としては、ポリスチレン等があげられる。前記ポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等があげられる。前記塩化ビニル系樹脂の例としては、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等があげられる。前記フッ素系樹脂としては、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素置換ビニル化合物の単独重合体や共重合体があげられる。前記ウレタン系樹脂としては、ポリウレタン等があげられる。前記シリコーン樹脂としては、ポリシロキサン等があげられる。
【0023】
また、これらの樹脂を構成する単量体を含む複数の異なる単量体を共重合した共重合樹脂としては、(メタ)アクリル酸エステル-スチレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル-塩化ビニル共重合体等があげられる。
これらの中でも、耐水性に加え、耐溶剤性にも優れる点で、(メタ)アクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、フッ素系樹脂、エチレン-酢酸ビニル-塩化ビニル共重合体又はこれらの樹脂の複数からなる複合樹脂を含むものが好ましい。
【0024】
この前処理剤に含有される樹脂は、少なくとも一部が水性樹脂エマルジョンとして含有すると、一般に連続相である水性溶媒に無機多価金属塩が溶解するため、前処理剤が製造し易く、また被印刷基材としての白板紙への塗工が容易になるので好ましい。
なお、水性樹脂エマルジョンとは、連続相がメタノール、エタノール等の水溶性の有機溶媒や水等の水性溶媒であり、分散粒子が樹脂微粒子である水性分散液を意味する。
その他、必要に応じて、増粘剤、防錆剤、消泡剤、濡れ剤等の助剤を添加しても良い。
【0025】
[前処理剤の製造と混合割合]
前記前処理剤は、前記の無機多価金属塩と樹脂を混合分散させることにより得られる。樹脂として水性樹脂エマルジョンを用いると、混合分散はより行いやすくなる。
前記前処理剤中の無機多価金属塩(固形分)の含有割合は、3質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましい。3質量%より少ないと、水性インクジェット印刷適性が不十分になるという問題点を生じるおそれがある。一方、含有割合の上限は、10質量%が好ましく、7質量%がより好ましい。10質量%より多いと、塗膜物性、特に耐水耐摩擦性が悪化するという問題点を生じるおそれがある。
【0026】
また、前記前処理剤中の樹脂(固形分)の含有割合は、1質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましい。1質量%より少ないと、耐熱耐摩擦性、耐水耐摩擦性が不十分になるという問題点を生じるおそれがある。一方、含有割合の上限は、5質量%が好ましく、3質量%がより好ましい。5質量%より多いと、ワニス塗工後の耐熱耐摩擦性が悪化するという問題点を生じるおそれがある。
【0027】
<水性インクジェット印刷用白板紙の製造>
前記水性インクジェット印刷用白板紙は、前記の白板紙の表面に前記前処理剤を塗工することにより製造することができる。
前記の白板紙の表面に前記前処理剤を塗工する方法としては、スプレー方式や刷毛による直接塗工、コーター方式、グラビア方式、フレキソ方式等の転写による塗工等があげられるが、これらに限定するものではない。
【0028】
前記無機多価金属塩(固形分)の前記白板紙への塗工量は、0.05g/m2以上が好ましく、0.07g/m2以上がより好ましい。0.05g/m2より少ないと、水性インクジェット印刷適性が不十分になるという問題点を生じるおそれがある。一方、塗工量の上限は、0.25g/m2が好ましく、0.20g/m2がより好ましい。0.25g/m2より多いと、塗膜物性、特に耐水耐摩擦性が悪化するという問題点を生じるおそれがある。
【0029】
また、前記樹脂(固形分)の前記白板紙への塗工量は、0.01/m2以上が好ましく、0.04g/m2以上がより好ましい。0.01g/m2より少ないと、塗膜物性、特に耐水耐摩擦性が不十分になるという問題点を生じるおそれがある。一方、塗工量の上限は、0.12g/m2が好ましく、0.11g/m2がより好ましい。0.12g/m2より多いと、ワニス塗工後の耐熱耐摩擦性が悪化するという問題点を生じるおそれがある。
【0030】
前記前処理剤を塗工した後、60~180℃で2~10秒間乾燥することにより、水性インクジェット印刷用白板紙が得られる。
【0031】
<水性インクジェット印刷>
前記前処理剤を塗工した水性インクジェット印刷用白板紙の表面、具体的には、前処理剤が付着した面に水性インクジェットインキにより、インクジェット印刷を行った後、60~180℃で2~10分秒間乾燥させる。
<ワニスの塗工>
水性インクジェット印刷用白板紙の印刷面、具体的には、インクジェット印刷がされた前記前処理剤が付着した面の白板紙の表面にワニスを塗工した後、60~180℃で2~10秒間乾燥させる。これにより、水性インクジェット印刷済白板紙を製造することができる。
【0032】
[水性インクジェットインキ]
前記水性インクジェットインキは、水に顔料や染料等の色材を分散又は溶解させたもので、インクジェット印刷が可能なインキであり、その種類は特に限定されない。
【0033】
[ワニス]
前記ワニスとは、一般的にニスと称されるものであり、成分としてカゼインやシェラックなどの天然樹脂や(メタ)アクリル系樹脂、あるいは(メタ)アクリル酸またはマレイン酸、及びそれらのエステルと共重合したスチレン系樹脂、又はこれらの樹脂の複数からなる複合樹脂を含有する。
このワニスの塗工方法は、前記の前処理剤の塗工方法と同様の塗工方法を採用することができる。
このワニス(固形分)の塗工量は、2g/m2以上が好ましく、2.5g/m2以上がより好ましい。2g/m2より少ないと、十分な塗膜物性を得られないという問題点を生じるおそれがある。一方、塗工量の上限は、8g/m2が好ましく、6g/m2がより好ましい。8g/m2より多いと、それ以上の塗膜物性の向上がない上に、乾燥に時間が要したり、乾燥不十分でブロッキングしたりするという問題点を生じるおそれがある。
【0034】
[用途]
このようにして得られた水性インクジェット印刷が施されたコート白ボール等の白板紙(水性インクジェット印刷済白板紙)は、外表面をインクジェット印刷された包装箱として使用することができ、また、このコート白ボール等の白板紙を、段ボールの表ライナとして用い、コルゲータで貼合することにより、外表面をインクジェット印刷された段ボールとすることができる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例を用いて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
まず、本実施例で使用した原材料及び評価方法を示す。
【0036】
<原材料>
[白板紙]
・コート白ボール…レンゴー(株)製:CRC230(坪量:230g/m2)
[樹脂]
樹脂としては、下記の水性樹脂エマルジョンを用いた。
・ビニブラン…日信化学工業(株)製:ビニブラン2687、アクリル樹脂エマルジョン、固形分30質量%
・S-830…住化ケムテックス(株)製:スミカフレックスS-830、エチレン-酢酸ビニル-塩化ビニル共重合樹脂エマルジョン、固形分50質量%
・F-101…JSR(株)製:SIFCLEAR F-101、フッ化ビニリデン系樹脂と架橋型変性アクリル樹脂の複合樹脂エマルジョン、固形分47質量%
【0037】
[無機金属塩]
・塩化カルシウム…キシダ化学(株)製:試薬、塩化カルシウム二水和物
・硫酸マグネシウム…富士フィルム和光純薬(株)製:試薬、硫酸マグネシウム無水物
・塩化ナトリウム…キシダ化学(株)製:試薬、塩化ナトリウム
[ワニス]
・ワニス…樹脂成分として、BASF社製:ジョンクリルPDX-7667(スチレン?アクリル樹脂エマルジョン、固形分45%)を78部、耐摩擦剤成分として、三井化学(株)製:ケミパールW400(低分子ポリエチレン、固形分40%)を4部、溶剤として、KHネオケム(株)ブチセノール30(トリエチレングリコールモノブチルエーテル、有効成分97%)を5部、水として精製水を13部混合したものを用いた。
【0038】
<評価方法>
[IJ(インクジェット)適性]
水性インクジェットインキ(ヒューレットパッカード社製、品番178XL4、シアン・マゼンダ・イエロー・ブラック)により、インクジェットプリンター(ヒューレットパッカード社製、型番Photosmart5520)を用いて印刷を行い、得られた試験サンプルの印刷パターンに色間のにじみがないかについて、目視により、下記の基準にしたがって判定した。
◎…色間のにじみがない。
○…色間のにじみが軽微である。
△…明らかに色間のにじみがみられる。
×…全くにじみが抑制されていない。
【0039】
[耐熱耐摩擦性]
180℃に加熱した熱板に試験サンプルの印刷面が接するように置き、上部から200gの荷重をかけながら、1分間に60往復摺動する試験を1分間行い、試験後の印刷面の、削れや汚れの発生状況を、目視により、下記の基準にしたがって判定した。
◎…削れや汚れが軽微である。
○…汚れや削れがやや多いが、許容範囲である。
△…明らかに汚れが多い、または削れが目立つ。
×…広範囲の削れや汚れが発生している。
【0040】
[耐水耐摩擦性]
学振型摩擦試験機(日本T.M.C.(株)製:板紙の耐摩耗強さ試験機)を使用し、500gの荷重に水で濡らした綿布をとりつけ、印刷面に接するように置き、2往復摺動した後、印刷面の色のはがれを、目視により、下記の基準にしたがって判定した。
◎…印刷面の色はがれが軽微である。
○…印刷面の色はがれがやや多いが、許容範囲である。
△…明らかに印刷面の色はがれがみられる。
×…印刷面の色はがれが顕著である。
【0041】
[総合評価]
前記の3種類の評価から、下記の基準で総合評価を行った。
◎…何れの評価も〇以上である。
〇…IJ適性は〇以上で、他二つの評価の何れかに△がある。
△…IJ適性は〇以上で、他二つの評価の何れかに×がある。
×…IJ適性が×である。
【0042】
(実施例1)
水94部に無機金属塩として塩化カルシウム3質量部、水性樹脂エマルジョンとしてビニブラン3質量部(いずれも固形分換算値)を加え、撹拌して前処理剤を得た。コート白ボール(10cm×25cm)に、フレキソプルーファ(ゴム版による転写塗工方式、RK Print-Coat Instruments Ltd.製:フレキシプルーフ100、アニロックスセル容積は12.5cc)を用いて、前記の前処理剤を塗工した後、100℃の乾燥機に5秒間入れて乾燥した。
次いで、前処理剤が塗工された白色面に水性インクジェット印刷を施して、再度100℃の乾燥機で5秒間乾燥し、その後、ワニスをハンドプルーファ(パマルコ(株)製:ハンドプルーファ、アニロックス線数150線)で印刷面に塗工して試験サンプルを得た。
得られた試験サンプルを用いて前記の評価を行った。その結果を表1に示す。
なお、前処理剤の湿潤状態での塗工量は2.0g/m2(固形分として、無機多価金属塩:0.06g/m2、樹脂:0.06g/m2)であり、ワニスの湿潤状態での塗工量は8.0g/m2(固形分として2.9g/m2)であった。
【0043】
(実施例2~7、参考例1、比較例3~6)
表1に記載の無機金属塩及び水性樹脂エマルジョンを用いた以外は、実施例1と同様に
して試験サンプルを得た。得られた試験サンプルを用いて前記の評価を行った。その結果を表1及び表2に示す。
【0044】
(比較例1~2、7)
コート白ボールそのものを用いた場合(比較例1)と、コート白ボールにワニスを塗工した場合(比較例2)、前処理剤に無機塩を含有するが、水性樹脂エマルジョンを添加しなかった場合(比較例7)について、前記の評価を行った。その結果を表2に示す。
なお、比較例2及び7のワニス塗工は実施例1と同様に行った。また、ワニスの塗工量は、実施例1と同様である。
【0045】
【0046】
【0047】
(結果)
前処理剤に、無機塩として、多価の塩である塩化カルシウム又は硫酸マグネシウムを、水性樹脂エマルジョンの樹脂として、アクリル系樹脂、エチレン-酢酸ビニル-塩化ビニル共重合体、フッ素系樹脂を含む複合樹脂を用いた場合(実施例1~7、参考例1)は、IJ適性、耐熱耐摩擦性、耐水耐摩擦性のバランスの指標である総合評価はいずれも良好であることが明らかとなった。
また、実施例1~3と比較例2~4から見て、前処理剤の無機塩として塩化カルシウムを用いたとき、無機塩を使用しないか(比較例2)、塗工量が少ないと(比較例3)、IJ適性は不良のままだが、塗工量を増加させると(実施例1、3、2)、IJ適性は向上した。しかし、耐熱耐摩擦性と耐水耐摩擦性は低下する傾向があり、塗工量が多くなると(比較例4)、耐熱耐摩擦性と耐水耐摩擦性の両方とも悪化することが分かった。
さらに、実施例3、5、6と比較例5,7から見て、前処理剤の樹脂としてアクリル系樹脂を用いたとき、何れもIJ適性は良好なまま保持されたが、樹脂を使用しないと(比較例7)、耐熱耐摩擦性は良好なものの、耐水耐摩擦性は不良だった。しかし、樹脂の塗工量を増加させると(実施例5、3、6)、耐水耐摩擦性は向上するものの、耐熱耐摩擦性は低下する傾向を有し、塗工量が多くなると(比較例5)、耐熱耐摩擦性が悪化することが分かった。
【0048】
一方、前処理剤もワニスも用いない場合(比較例1)、IJ適性、耐熱耐摩擦性、耐水耐摩擦性のいずれも不良で、ワニスだけを用いた場合(比較例2)、IJ適性は不良のままだが、耐熱耐摩擦性と耐水耐摩擦性は向上することが明らかとなった。
また、前処理剤を用いるものの、無機塩として、多価でない塩化ナトリウムを用いた場合(比較例6)は、IJ適性が悪化することが分かった。