(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-16
(45)【発行日】2024-04-24
(54)【発明の名称】硬化性組成物
(51)【国際特許分類】
C08F 22/40 20060101AFI20240417BHJP
C08L 35/00 20060101ALI20240417BHJP
C08K 5/14 20060101ALI20240417BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20240417BHJP
B32B 27/26 20060101ALI20240417BHJP
C09J 135/00 20060101ALI20240417BHJP
C09D 135/00 20060101ALI20240417BHJP
H01L 23/29 20060101ALI20240417BHJP
H01L 23/31 20060101ALI20240417BHJP
【FI】
C08F22/40
C08L35/00
C08K5/14
B32B27/00 A
B32B27/26
C09J135/00
C09D135/00
H01L23/30 R
(21)【出願番号】P 2019229221
(22)【出願日】2019-12-19
【審査請求日】2022-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 大祐
【審査官】佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】特開昭64-040525(JP,A)
【文献】特開2010-018791(JP,A)
【文献】国際公開第2018/107929(WO,A1)
【文献】特開平04-261411(JP,A)
【文献】特開平03-088810(JP,A)
【文献】特開2018-016679(JP,A)
【文献】特開昭60-252627(JP,A)
【文献】国際公開第2019/244694(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/244693(WO,A1)
【文献】Polymer Preprints,1988年,29,346-348
【文献】Materials Research Society Symposium Proceedings,1991年,189,421-430
【文献】Polymer,1989年,30,978-985
【文献】Polymer,1992年,33,5094-5097
【文献】Polyimides: Mater. Chem. Charact.,1989年,213-227
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 22/00-22/40
C08L 35/00-35/08
C08K 3/00-13/08
B32B 27/00-27/42
B32B 15/00-15/20
C09J
C09D
H01L 23/29、23/31
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される硬化性化合物と、下記ラジカル重合開始剤を含み、
前記ラジカル重合開始剤の含有量が、前記硬化性化合物の0.5~5.0重量%である硬化性組成物。
【化1】
[式中、R
1-D
1-基、及びR
2-D
2-基は、同一又は異なって、下記式(rd-1-1)又は(rd-2-1)で表される基を示す。
【化2】
Lは、ベンゾフェノン由来の構造と、ハイドロキノン、レゾルシノール、2,6-ナフタレンジオール、2,7-ナフタレンジオール、4,4'-ジヒドロキシビフェニル、4,4'-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4'-ジヒドロキシベンゾフェノン、4,4'-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4'-ジヒドロキシジフェニルスルフォン、及びビスフェノールAから選択される少なくとも1種の化合物由来の構造とを含む繰り返し単位を有する2価の基を示す]
ラジカル重合開始剤:半減期1分の分解温度が
100~200℃である過酸エステル
【請求項2】
ラジカル重合開始剤が、半減期1分の分解温度が150~200℃である過酸エステルである、請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項3】
式(1)中のLが下記式(L-1-1)又は(L-1-2)で表される2価の基である、請求項1又は2に記載の硬化性組成物。
【化3】
(式中、m1、m2は、丸括弧内に示される繰り返し単位の数を示し、2~50の数である)
【請求項4】
式(1)で表される化合物全量における、ベンゾフェノン由来の構造単位の占める割合が5重量%以上である、請求項1~3の何れか1項に記載の硬化性組成物。
【請求項5】
式(1)で表される化合物全量における、ハイドロキノン、レゾルシノール、2,6-ナフタレンジオール、2,7-ナフタレンジオール、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフォン、及びビスフェノールA由来の構造単位の占める割合が5重量%以上である、請求項1~4の何れか1項に記載の硬化性組成物。
【請求項6】
請求項1~5の何れか1項に記載の硬化性組成物の硬化物。
【請求項7】
請求項1~5の何れか1項に記載の硬化性組成物の半硬化物。
【請求項8】
請求項1~5の何れか1項に記載の硬化性組成物の硬化物又は半硬化物を含む構造物。
【請求項9】
請求項1~5の何れか1項に記載の硬化性組成物の硬化物又は半硬化物と基板とが積層された構成を有する積層体。
【請求項10】
請求項1~5の何れか1項に記載の硬化性組成物を基板上に載置し、加熱処理を施すことで、前記硬化性組成物の硬化物又は半硬化物と基板とが積層された構成を有する積層体を得る、積層体の製造方法。
【請求項11】
プラスチック製の支持体上に、前記硬化性組成物の溶融物を塗布し、固化して、前記硬化性化合物を含む薄膜を得、得られた薄膜を、前記支持体から剥離して基板上に積層し、加熱処理を施す、請求項10に記載の積層体の製造方法。
【請求項12】
請求項1~5の何れか1項に記載の硬化性組成物の硬化物又は半硬化物と繊維とを含む複合材。
【請求項13】
請求項1~5の何れか1項に記載の硬化性組成物を含む接着剤。
【請求項14】
請求項1~5の何れか1項に記載の硬化性組成物を含む塗料。
【請求項15】
請求項1~5の何れか1項に記載の硬化性組成物を含む封止剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性組成物、及びその硬化物又は半硬化物を含む構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジニアリングプラスチックは耐熱性や機械特性を向上させたプラスチックであり、各種部品の小型化、軽量化、高性能化、高信頼性化に必須の材料として重用されている。しかし、エンジニアリングプラスチックは溶融温度が高く、溶剤溶解性が低いため加工性に乏しいことが問題であった。
【0003】
例えば、特許文献1等に記載のポリイミドは、卓越した耐熱性と強度特性を有するが、難溶解性であり、且つ難融解性であるため、溶融成形を行ったり、複合材のマトリックス樹脂として使用することは困難であった。
【0004】
スーパーエンジニアリングプラスチックとも呼ばれるポリエーテルエーテルケトン(PEEK)は、連続使用温度が260℃で、耐熱性、難燃性、及び電気特性に優れた性能を有する熱可塑性樹脂であるが、融点が343℃であるためとりわけ融解し難く、溶剤にも溶解し難いため、加工性に劣る点が問題であった(例えば、特許文献2)。
【0005】
そのため、加工性に優れ、超耐熱性を有する硬化物を形成することができる硬化性化合物が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2000-219741号公報
【文献】特公昭60-32642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、加工性に優れ、硬化することにより、超耐熱性と可とう性を有する硬化物を形成することができる硬化性組成物を提供することにある。
本発明の他の目的は、加工性に優れ、低温加熱でも硬化して、超耐熱性と可とう性を有する硬化物を形成することができる硬化性組成物を提供することにある。
本発明の他の目的は、加工性及び保存安定性に優れ、低温加熱でも硬化して、超耐熱性と可とう性を有する硬化物を形成することができる硬化性組成物を提供することにある。
本発明の他の目的は、超耐熱性と可とう性を有する硬化物又はその半硬化物を提供することにある。
本発明の他の目的は超耐熱性と可とう性を有する硬化物又はその半硬化物を含む構造物を提供することにある。
本発明の他の目的は、超耐熱性と可とう性を有する硬化物又はその半硬化物と基板とが積層された構成を有する積層体を提供することにある。
本発明の他の目的は、超耐熱性と可とう性を有する硬化物又はその半硬化物と基板とが積層された構成を有する積層体の製造方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、超耐熱性と可とう性を有する硬化物又はその半硬化物と繊維とを含む複合材を提供することにある。
本発明の他の目的は、加工性に優れ、超耐熱性と可とう性が求められる環境下で使用可能な接着剤、封止剤、又は塗料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、下記式(1)で表される硬化性化合物にラジカル重合開始剤を配合して得られる硬化性組成物により上記課題を解決できることを見いだした。本発明はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0009】
すなわち、本発明は、下記式(1)で表される硬化性化合物と、ラジカル重合開始剤を含む硬化性組成物を提供する。
【化1】
[式中、R
1、R
2は、同一又は異なって、硬化性官能基を示し、D
1、D
2は、同一又は異なって、単結合又は連結基を示す。Lは、下記式(I)で表される構造と下記式(II)で表される構造とを含む繰り返し単位を有する2価の基を示す。
【化2】
(式中、Ar
1~Ar
3は、同一又は異なって、アリーレン基、又は2個以上のアリーレン基が単結合若しくは連結基を介して結合した基を示す。Xは-CO-、-S-、又は-SO
2-を示し、Yは、同一又は異なって、-S-、-SO
2-、-O-、-CO-、-COO-、又は-CONH-を示す。nは0以上の整数を示す)]
【0010】
本発明は、また、ラジカル重合開始剤が過酸化物又は過酸エステルである前記硬化性組成物を提供する。
【0011】
本発明は、また、式(1)中のR1、R2が、同一又は異なって、環状イミド構造を有する硬化性官能基である前記硬化性組成物を提供する。
【0012】
本発明は、また、式(1)中のR
1、R
2が、同一又は異なって、下記式(r-1)~(r-6)で表される基から選択される基である前記硬化性組成物を提供する。
【化3】
(式中の窒素原子から伸びる結合手は、D
1又はD
2と結合する)
【0013】
本発明は、また、式(1)中のD
1、D
2が、同一又は異なって、下記式(d-1)~(d-4)
【化4】
で表される構造を含む基から選択される基である前記硬化性組成物を提供する。
【0014】
本発明は、また、式(I)、及び式(II)中のAr1~Ar3が、同一又は異なって、炭素数6~14のアリーレン基、又は炭素数6~14のアリーレン基の2個以上が、単結合、炭素数1~5の直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基、又は炭素数1~5の直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基の水素原子の1個以上がハロゲン原子で置換された基を介して結合した基である前記硬化性組成物を提供する。
【0015】
本発明は、また、式(I)で表される構造が、ベンゾフェノン由来の構造である前記硬化性組成物を提供する。
【0016】
本発明は、また、式(1)で表される化合物全量における、ベンゾフェノン由来の構造単位の占める割合が5重量%以上である前記硬化性組成物を提供する。
【0017】
本発明は、また、式(II)で表される構造が、ハイドロキノン、レゾルシノール、2,6-ナフタレンジオール、2,7-ナフタレンジオール、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフォン、及びビスフェノールAから選択される少なくとも1種の化合物由来の構造である前記硬化性組成物を提供する。
【0018】
本発明は、また、式(1)で表される化合物全量における、ハイドロキノン、レゾルシノール、2,6-ナフタレンジオール、2,7-ナフタレンジオール、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフォン、及びビスフェノールA由来の構造単位の占める割合が5重量%以上である前記硬化性組成物を提供する。
【0019】
本発明は、また、前記硬化性組成物の硬化物を提供する。
【0020】
本発明は、また、前記硬化性組成物の半硬化物を提供する。
【0021】
本発明は、また、前記硬化性組成物の硬化物又は半硬化物を含む構造物を提供する。
【0022】
本発明は、また、前記硬化性組成物の硬化物又は半硬化物と基板とが積層された構成を有する積層体を提供する。
【0023】
本発明は、また、前記硬化性組成物を基板上に載置し、加熱処理を施すことで、前記硬化性組成物の硬化物又は半硬化物と基板とが積層された構成を有する積層体を得る、積層体の製造方法を提供する。
【0024】
本発明は、また、プラスチック製の支持体上に、前記硬化性組成物の溶融物を塗布し、固化して、前記硬化性化合物を含む薄膜を得、得られた薄膜を、前記支持体から剥離して基板上に積層し、加熱処理を施す、前記積層体の製造方法を提供する。
【0025】
本発明は、また、前記硬化性組成物の硬化物又は半硬化物と繊維とを含む複合材を提供する。
【0026】
本発明は、また、前記硬化性組成物を含む接着剤を提供する。
【0027】
本発明は、また、前記硬化性組成物を含む塗料を提供する。
【0028】
本発明は、また、前記硬化性組成物を含む封止剤を提供する。
【発明の効果】
【0029】
本発明の硬化性組成物は、良好な溶剤溶解性を有し、且つ溶融温度が低い硬化性化合物を含有する。そのため、加工性に優れる。若しくは、易成形性を有する。また、本発明の硬化性組成物は、前記硬化性化合物と共にラジカル重合開始剤を含有する。そのため、ラジカル重合開始剤を含有しない場合に比べて、保存安定性を保持しつつ、硬化開始温度を低温化する効果が得られる。
【0030】
そして、本発明の硬化性組成物は、低温でも硬化反応を進行させ、完了することができ、これにより、可とう性に優れ、耐クラック性を有する硬化物を形成することができる。また、得られる硬化物は超耐熱性、難燃性、及び良好な誘電特性(低い比誘電率及び誘電正接)を有する。
【0031】
本発明の硬化性組成物は上記特性を有するため、接着剤、封止剤、塗料、サイジング剤等として好適に使用することができる。
また、本発明の硬化性組成物の硬化物若しくは硬化物は、超耐熱性及び良好な誘電特性が求められる分野(例えば、電子情報機器、家電、自動車、精密機械、航空機、宇宙産業用機器等)において好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】調製例で得られたジアミン(1)の
1H-NMRスペクトル(DMSO-d
6)を示す図である。
【
図2】調製例で得られたジアミン(1)のFTIRスペクトルを示す図である。
【
図3】調製例で得られた硬化性化合物Aの
1H-NMRスペクトル(CDCl
3)を示す図である。
【
図4】調製例で得られた硬化性化合物AのFTIRスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
[硬化性組成物]
本発明の硬化性組成物は、硬化性化合物とラジカル重合開始剤を少なくとも含有する。
【0034】
(硬化性化合物)
前記硬化性化合物は、下記式(1)で表される。
【化5】
【0035】
式(1)中、R
1、R
2は、同一又は異なって、硬化性官能基を示し、D
1、D
2は、同一又は異なって、単結合又は連結基を示す。Lは、下記式(I)で表される構造と下記式(II)で表される構造とを含む繰り返し単位を有する2価の基を示す。
【化6】
(式中、Ar
1~Ar
3は、同一又は異なって、アリーレン基、又は2個以上のアリーレン基が単結合若しくは連結基を介して結合した基を示す。Xは-CO-、-S-、又は-SO
2-を示し、Yは、同一又は異なって、-S-、-SO
2-、-O-、-CO-、-COO-、又は-CONH-を示す。nは0以上の整数を示す)
【0036】
式中、R
1、R
2は硬化性官能基を示す。R
1、R
2は、それぞれ同一であっても、異なっていてもよい。R
1、R
2における硬化性官能基としては、例えば、下記式(r)で表される基等の、環状イミド構造を有する硬化性官能基が好ましい。
【化7】
(式中の窒素原子から伸びる結合手は、D
1又はD
2と結合する)
【0037】
上記式(r)中、QはC又はCHを示す。式中の2個のQは単結合又は二重結合を介して結合する。n’は0以上の整数(例えば0~3の整数、好ましくは0又は1)である。R3~R6は、同一又は異なって、水素原子、飽和又は不飽和脂肪族炭化水素基(好ましくは、炭素数1~10のアルキル基、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数2~10のアルキニル基)、芳香族炭化水素基(好ましくは、フェニル基、ナフチル基等の炭素数6~10のアリール基)、又は前記飽和又は不飽和脂肪族炭化水素基と芳香族炭化水素基から選択される2個以上の基が結合した基を示す。R3~R6から選択される2つの基は、互いに結合して、隣接する炭素原子と共に環を形成していてもよい。
【0038】
R3~R6から選択される2つの基が互いに結合して、隣接する炭素原子と共に形成していてもよい環としては、例えば、炭素数3~20の脂環、及び炭素数6~14の芳香環を挙げることができる。前記炭素数3~20の脂環には、例えば、シクロプロパン環、シクロブタン環、シクロペンタン環、シクロヘキサン環等の3~20員(好ましくは3~15員、特に好ましくは5~8員)程度のシクロアルカン環;シクロペンテン環、シクロへキセン環等の3~20員(好ましくは3~15員、特に好ましくは5~8員)程度のシクロアルケン環;パーヒドロナフタレン環、ノルボルナン環、ノルボルネン環、アダマンタン環、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン環、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン環等の橋かけ環式炭化水素基等が含まれる。前記炭素数6~14の芳香環には、ベンゼン環、ナフタレン環等が含まれる。
【0039】
前記環状イミド構造を有する硬化性官能基としては、なかでも、環状不飽和イミド構造を有する硬化性官能基、又はアリールエチニル基を備えた環状イミド構造を有する硬化性官能基が好ましく、特に好ましくは下記式(r-1)~(r-6)で表される基から選択される基であり、とりわけ好ましくは下記式(r-1)又は(r-5)で表される基である。
【化8】
(式中の窒素原子から伸びる結合手は、式(1)中のD
1又はD
2と結合する)
【0040】
前記式(r-1)~(r-6)で表される基には1種又は2種以上の置換基が結合していてもよい。前記置換基としては、例えば、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、及びハロゲン原子等が挙げられる。
【0041】
前記炭素数1~6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基を挙げることができる。
【0042】
前記炭素数1~6のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基、t-ブチルオキシ基等の直鎖状又は分岐鎖状アルコキシ基を挙げることができる。
【0043】
式(1)中、D1、D2は、同一又は異なって、単結合又は連結基を示す。前記連結基としては、例えば、2価の炭化水素基、2価の複素環式基、カルボニル基、エーテル結合、エステル結合、カーボネート結合、アミド結合、イミド結合、及びこれらが複数個連結した基等が挙げられる。
【0044】
前記2価の炭化水素基には、2価の脂肪族炭化水素基、2価の脂環式炭化水素基、及び2価の芳香族炭化水素基が含まれる。
【0045】
前記2価の脂肪族炭化水素基としては、例えば、炭素数1~18の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基、及び炭素数2~18の直鎖状又は分岐鎖状のアルケニレン基等が挙げられる。炭素数1~18の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、メチルメチレン基、ジメチルメチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基等が挙げられる。炭素数2~18の直鎖状又は分岐鎖状のアルケニレン基としては、例えば、ビニレン基、1-メチルビニレン基、プロペニレン基、1-ブテニレン基、2-ブテニレン基等が挙げられる。
【0046】
前記2価の脂環式炭化水素基としては、炭素数3~18の2価の脂環式炭化水素基等が挙げられ、例えば、1,2-シクロペンチレン基、1,3-シクロペンチレン基、シクロペンチリデン基、1,2-シクロヘキシレン基、1,3-シクロヘキシレン基、1,4-シクロヘキシレン基、シクロヘキシリデン基等のシクロアルキレン基(シクロアルキリデン基を含む)等が挙げられる。
【0047】
前記2価の芳香族炭化水素基としては、例えば、炭素数6~14のアリーレン基等が挙げられ、例えば、1,4-フェニレン基、1,3-フェニレン基、4,4’-ビフェニレン基、3,3’-ビフェニレン基、2,6-ナフタレンジイル基、2,7-ナフタレンジイル基、1,8-ナフタレンジイル基、アントラセンジイル基等が挙げられる。
【0048】
前記2価の複素環式基を構成する複素環には、芳香族性複素環及び非芳香族性複素環が含まれる。このような複素環としては、環を構成する原子に炭素原子と少なくとも1種のヘテロ原子(例えば、酸素原子、イオウ原子、窒素原子等)を有する3~10員環(好ましくは4~6員環)、及びこれらの縮合環を挙げることができる。具体的には、ヘテロ原子として酸素原子を含む複素環(例えば、オキシラン環等の3員環;オキセタン環等の4員環;フラン環、テトラヒドロフラン環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、γ-ブチロラクトン環等の5員環;4-オキソ-4H-ピラン環、テトラヒドロピラン環、モルホリン環等の6員環;ベンゾフラン環、イソベンゾフラン環、4-オキソ-4H-クロメン環、クロマン環、イソクロマン環等の縮合環;3-オキサトリシクロ[4.3.1.14,8]ウンデカン-2-オン環、3-オキサトリシクロ[4.2.1.04,8]ノナン-2-オン環等の橋かけ環)、ヘテロ原子としてイオウ原子を含む複素環(例えば、チオフェン環、チアゾール環、イソチアゾール環、チアジアゾール環等の5員環;4-オキソ-4H-チオピラン環等の6員環;ベンゾチオフェン環等の縮合環等)、ヘテロ原子として窒素原子を含む複素環(例えば、ピロール環、ピロリジン環、ピラゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環等の5員環;イソシアヌル環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピペリジン環、ピペラジン環等の6員環;インドール環、インドリン環、キノリン環、アクリジン環、ナフチリジン環、キナゾリン環、プリン環等の縮合環等)等が挙げられる。2価の複素環式基は上記複素環の構造式から2個の水素原子を除いた基である。
【0049】
前記D
1、D
2としては、なかでも、特に優れた耐熱性を有する硬化物が得られる点で、2価の芳香族炭化水素基を含むことが好ましい。前記2価の芳香族炭化水素基としては、炭素数6~14の2価の芳香族炭化水素基が好ましく、より好ましくは下記式(d-1)~(d-4)で表される基から選択される基であり、とりわけ好ましくは下記式(d-1)で表される基(1,2-フェニレン基、1,3-フェニレン基、又は1,4-フェニレン基)である。
【化9】
【0050】
また、前記D1、D2は、前記2価の芳香族炭化水素基と共に、カルボニル基、エーテル結合、エステル結合、カーボネート結合、アミド結合、及びイミド結合からなる群より選択される少なくとも1つの基が連結した基が好ましく、とりわけ前記2価の芳香族炭化水素基にエーテル結合が連結した基が好ましい。
【0051】
従って、式(1)中のR
1-D
1-基、及びR
2-D
2-基としては、同一又は異なって、下記式(rd-1)又は(rd-2)で表される基を含む基が好ましく、特に、下記式(rd-1-1)又は(rd-2-1)で表される基が好ましい。
【化10】
(式中のフェニレン基又は酸素原子から伸びる結合手は、式(1)中のLと結合する)
【0052】
式(1)中のLは、上記式(I)で表される構造と上記式(II)で表される構造とを含む繰り返し単位を有する2価の基を示す。式(I)、及び式(II)中のAr1~Ar3は、同一又は異なって、アリーレン基、又は2個以上のアリーレン基が単結合若しくは連結基を介して結合した基を示す。Xは-CO-、-S-、又は-SO2-を示し、Yは、同一又は異なって、-S-、-SO2-、-O-、-CO-、-COO-、又は-CONH-を示す。nは0以上の整数を示し、例えば0~5の整数、好ましくは1~5の整数、特に好ましくは1~3の整数である。
【0053】
前記アリーレン基は、芳香環(=芳香族炭化水素環)の構造式から2個の水素原子を除いた基である。そして、前記芳香環としては、例えば、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン等の炭素数6~14の芳香環が挙げられる。前記芳香環としては、なかでも、ベンゼン、ナフタレン等の炭素数6~10の芳香環が好ましく、前記アリーレン基としては、なかでも、炭素数6~10のアリーレン基が好ましい。
【0054】
前記連結基としては、例えば、炭素数1~5の2価の炭化水素基や、炭素数1~5の2価の炭化水素基の水素原子の1個以上がハロゲン原子で置換された基等が挙げられる。
【0055】
前記炭素数1~5の2価の炭化水素基には、例えば、メチレン基、メチルメチレン基、ジメチルメチレン基、ジメチレン基、トリメチレン基等の炭素数1~5の直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基;ビニレン基、1-メチルビニレン基、プロペニレン基等の炭素数2~5の直鎖状又は分岐鎖状アルケニレン基;エチニレン基、プロピニレン基、1-メチルプロピニレン等の炭素数2~5の直鎖状又は分岐鎖状アルキニレン基等が含まれる。本発明においては、なかでも、炭素数1~5の直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基が好ましく、特に炭素数1~5の分岐鎖状アルキレン基が好ましい。
【0056】
従って、前記Ar1~Ar3としては、同一又は異なって、炭素数6~14のアリーレン基、又は炭素数6~14のアリーレン基の2個以上が、単結合、炭素数1~5の直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基、又は炭素数1~5の直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基の水素原子の1個以上がハロゲン原子で置換された基を介して結合した基であることが好ましく、特に、炭素数6~14のアリーレン基、又は炭素数6~14のアリーレン基の2個以上が、単結合、炭素数1~5の分岐鎖状アルキレン基、又は炭素数1~5の分岐鎖状アルキレン基の水素原子の1個以上がハロゲン原子で置換された基を介して結合した基であることが好ましい。
【0057】
前記Ar
1~Ar
3としては、とりわけ、同一又は異なって、下記式(a-1)~(a-5)で表される基から選択される基が好ましい。尚、下記式中の結合手の付き位置は、特に制限されない。
【化11】
【0058】
式(I)中のAr1、Ar2としては、なかでも、炭素数6~14のアリーレン基が好ましく、特に、上記式(a-1)又は(a-2)で表される基が好ましい。また、式(I)中のXとしては、なかでも、-CO-又は-SO2-が好ましい。式(I)で表される構造としては、とりわけ、ベンゾフェノン由来の構造を含むことが好ましい。
【0059】
式(1)で表される化合物全量における、芳香環由来の構造の割合は、例えば50重量%以上、好ましくは60重量%以上、特に好ましくは65重量%以上である。尚、芳香環由来の構造の割合の上限値は、例えば90重量%、好ましくは80重量%である。
【0060】
式(1)で表される化合物全量における、ベンゾフェノン由来の構造単位の占める割合は、例えば5重量%以上、好ましくは10~62重量%、特に好ましくは15~60重量%である。
【0061】
式(II)中のAr3としては、なかでも、上記式(a-1)、(a-4)、及び(a-5)で表される基から選択される基が好ましい。また、Yとしては、なかでも、-S-、-O-、又は-SO2-が好ましい。式(II)で表される構造としては、特に、ハイドロキノン、レゾルシノール、2,6-ナフタレンジオール、2,7-ナフタレンジオール、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフォン、及びビスフェノールAから選択される少なくとも1種の化合物由来の構造を含むことが好ましく、とりわけ、ハイドロキノン、レゾルシノール、及びビスフェノールAから選択される少なくとも1種の化合物由来の構造を含むことが好ましい。
【0062】
式(1)で表される化合物全量における、ハイドロキノン、レゾルシノール、2,6-ナフタレンジオール、2,7-ナフタレンジオール、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフォン、及びビスフェノールA由来の構造単位の占める割合は、例えば5重量%以上、好ましくは10~55重量%、特に好ましくは15~53重量%である。
【0063】
また、式(1)で表される化合物全量における、ハイドロキノン、レゾルシノール、及びビスフェノールA由来の構造単位の占める割合は、例えば5重量%以上、好ましくは10~55重量%、特に好ましくは15~53重量%である。
【0064】
式(1)中のLとしては、なかでも、耐熱性に特に優れた硬化物が得られる点で、下記式(L-1)で表される2価の基が好ましい。
【化12】
【0065】
上記式(L-1)中のmは、分子鎖(=上記式(L-1)で表される2価の基)中に含まれる丸括弧内に示される繰り返し単位の数、すなわち、平均重合度であり、例えば2~50、好ましくは3~40、より好ましくは4~30、特に好ましくは5~20、最も好ましくは5~10である。mが2未満である場合は、得られる硬化物の強度や耐熱性が不十分となる傾向がある。一方、mが50超である場合は、溶融温度が高くなる傾向がある。また、溶剤溶解性が低下する傾向もある。尚、mの値は、GPC測定やNMRのスペクトル解析により求めることができる。また、上記式(L-1)中のn”は0以上の整数を示し、Ar1~Ar3は上記に同じ。尚、上記式(L-1)中の複数のAr1は同じ基を示す。Ar2、Ar3についても同様である。
【0066】
式(1)中のLとしては、とりわけ、下記式(L-1-1)又は(L-1-2)で表される2価の基であることが好ましい。
【化13】
【0067】
上記式中のm1、m2は、分子鎖(=上記式(L-1-1)又は(L-1-2)で表される2価の基)中に含まれる丸括弧内に示される繰り返し単位の数、すなわち、平均重合度であり、例えば2~50、好ましくは3~40、より好ましくは4~30、特に好ましくは5~20、最も好ましくは5~10である。尚、m1、m2の値は、GPC測定やNMRのスペクトル解析により求めることができる。
【0068】
また、式(1)で表される化合物のうち、式(1)中のLが上記式(L-1-1)又は(L-1-2)で表される2価の基であり、式中のm1、m2が5~10である化合物は、300℃以下(250℃程度)で溶融するため、PEEK等に比べて低温で溶融成形することができ、加工性に特に優れる。
【0069】
一方、分子鎖の平均重合度が上記範囲を下回ると、得られる硬化物がもろくなり機械特性が低下する傾向がある。また、分子鎖の平均重合度が上記範囲を上回ると、溶剤への溶解性が低下したり、溶融粘度が高くなる等により、加工性が低下する傾向がある。
【0070】
式(1)で表される化合物の数平均分子量(Mn)は、例えば1000~15000、好ましくは1000~14000、特に好ましくは1100~12000、最も好ましくは1200~10000である。そのため、溶剤への溶解性は高く、溶融粘度は低く、成形加工が容易であるとともに、得られる硬化物(若しくは、硬化後の成形体)が高い靱性を発現する。数平均分子量が上記範囲を下回ると、得られる硬化物の靱性が低下する傾向がある。一方、数平均分子量が上記範囲を上回ると、溶剤溶解性が低下したり、溶融粘度が高くなりすぎて、加工性が低下する傾向がある。尚、Mnはゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)測定(溶剤:クロロホルム、標準ポリスチレン換算)に付して求められる。
【0071】
式(1)で表される化合物は良好な溶剤溶解性を有する。前記溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン;ホルムアミド、アセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド;塩化メチレン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、クロロベンゼン、ブロモベンゼン、ジクロロベンゼン、ベンゾトリフルオライド、ヘキサフルオロ-2-プロパノール等のハロゲン化炭化水素;ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジエチルスルホキシド、ベンジルフェニルスルホキシド等のスルホキシド;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル;酢酸エチル等のエステル;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;及びこれらの2種以上の混合液等が挙げられる。なかでも、エーテル、ケトン、アミド、ハロゲン化炭化水素、及びスルホキシドから選択される少なくとも1種の溶剤(とりわけ、エーテル、アミド、ハロゲン化炭化水素、及びスルホキシドから選択される少なくとも1種の溶剤)に対して優れた溶解性を示す。
【0072】
式(1)で表される化合物の溶剤に対する溶解度は、25℃において溶剤100gに対して1g以上であり、好ましくは5g以上、特に好ましくは10g以上である。
【0073】
式(1)で表される化合物のガラス転移温度(Tg)は、例えば280℃以下、好ましくは80~280℃、より好ましくは80~250℃、特に好ましくは100~200℃である。式(1)で表される化合物は溶融温度が低いため、式(1)で表される化合物を含む本発明の硬化性組成物は加工性に優れる。式(1)で表される化合物のTgが上記範囲を上回ると、溶融する際に高温で加熱することが必要となり、硬化性組成物の加工性が低下する傾向がある。尚、TgはDSC法で測定することができる。
【0074】
式(1)で表される化合物の発熱ピーク温度は、硬化性官能基の種類に依存するが、例えば170~450℃、好ましくは200~430℃、特に好ましくは220~420℃である。例えば、式(1)で表される化合物であって、R1,R2が上記式(r-5)で表される基である場合、発熱ピーク温度は250℃程度である。尚、発熱ピーク温度は、DSC測定により求められる。
【0075】
式(1)で表される化合物は加熱処理(加熱温度は、例えば250℃~350℃)を施すことにより硬化物を形成することができる。
【0076】
本発明の硬化性組成物は、式(1)で表される化合物を1種を単独で含有してもよいし、2種以上を組み合わせて含有していてもよい。本発明の硬化性組成物全量(若しくは、本発明の硬化性組成物における不揮発分全量)における式(1)で表される化合物の含有量(2種以上含有する場合は、その総量)は、例えば30重量%以上、好ましくは50重量%以上、特に好ましくは70重量%以上、最も好ましくは90重量%以上である。
【0077】
(式(1)で表される化合物の製造方法)
上記式(1)で表される化合物は、例えば、Polymer 1989 p978 に記載されている合成法を利用して製造することができる。下記に、上記式(1)で表される化合物の製造方法の一例を示すが、本発明はこの製造方法によって製造されるものに限定されない。
【0078】
下記式(1a)で表される化合物は、例えば下記工程[1]~[3]を経て製造することができる。下記式中、Ar1~Ar3、X、Y、n、R3~R6、Q、n’は上記に同じ。Dは連結基を示し、Zはハロゲン原子を示す。mは繰り返し単位の平均重合度であり、例えば3~50、好ましくは4~30、特に好ましくは5~20である。上記式(1)で表される化合物のうち、下記式(1a)で表される化合物以外の化合物も、下記方法に準じて製造することができる。
工程[1]:反応基質である下記式(2)で表される化合物と下記式(3)で表される化合物とを、塩基の存在下で反応させることにより、下記式(4)で表される化合物を得る。
工程[2]:下記式(4)で表される化合物に、アミノアルコール(下記式(5)で表される化合物)を反応させることにより、下記式(6)で表されるジアミンを得る。
工程[3]:下記式(6)で表されるジアミンに環状酸無水物(下記式(7)で表される化合物)を反応させることにより下記式(1a)で表される化合物を得る。
【0079】
【0080】
(工程[1])
上記式(2)で表される化合物としては、例えば、ベンゾフェノン、2-ナフチルフェニルケトン、及びビス(2-ナフチル)ケトン等のハロゲン化物、及びこれらの誘導体等が挙げられる。
【0081】
上記式(3)で表される化合物としては、例えば、ハイドロキノン、レゾルシノール、2,6-ナフタレンジオール、2,7-ナフタレンジオール、1,5-ナフタレンジオール、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフォン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、2,5-ジヒドロキシビフェニル、及びこれらの誘導体などが挙げられる。
【0082】
上記誘導体としては、例えば、上記式(2)で表される化合物や式(3)で表される化合物の芳香族炭化水素基に置換基が結合した化合物などが挙げられる。前記置換基としては、例えば、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、及びハロゲン原子等が挙げられる。
【0083】
式(2)で表される化合物と式(3)で表される化合物の使用量としては、通常、式(3)で表される化合物1モルに対して、式(2)で表される化合物を1モル以上であり、所望の化合物(1)における分子鎖の平均重合度に応じて、式(2)で表される化合物の使用量を調整することが望ましい。例えば、平均重合度5の場合、式(3)で表される化合物1モルに対して、式(2)で表される化合物を1.2モル程度(例えば1.18~1.22モル)、平均重合度10の場合は、式(2)で表される化合物を1.1モル程度(例えば1.08~1.12モル)、平均重合度20の場合は、式(2)で表される化合物を1.05モル程度(例えば1.04~1.06モル)使用することが好ましい。
【0084】
式(2)で表される化合物としては、少なくともベンゾフェノンのハロゲン化物を使用することが好ましく、式(2)で表される化合物の総使用量(100モル%)におけるベンゾフェノンのハロゲン化物の使用量は、例えば10モル%以上、好ましくは30モル%以上、特に好ましくは50モル%以上、最も好ましくは80モル%以上である。尚、上限は100モル%である。
【0085】
式(3)で表される化合物としては、ハイドロキノン、レゾルシノール、2,6-ナフタレンジオール、2,7-ナフタレンジオール、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフォン、及びビスフェノールAから選択される少なくとも1種(とりわけ、ハイドロキノン、レゾルシノール、及びビスフェノールAから選択される少なくとも1種)の化合物を使用することが好ましく、前記化合物の使用量の合計は、式(3)で表される化合物の総使用量(100モル%)の、例えば10モル%以上、好ましくは30モル%以上、特に好ましくは50モル%以上、最も好ましくは80モル%以上である。尚、上限は100モル%である。
【0086】
前記式(2)で表される化合物と式(3)で表される化合物の反応は、塩基(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム等の無機塩基;ピリジン、トリエチルアミン等の有機塩基から選択される少なくとも1種)の存在下で行われる。塩基の使用量は塩基の種類によって適宜調整することができる。例えば、水酸化カルシウム等の二酸塩基の使用量は、式(3)で表される化合物1モルに対して1.0~2.0モル程度である。
【0087】
また、この反応は溶剤の存在下で行うことができる。前記溶剤としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン、テトラヒドロフラン、トルエン等の有機溶剤、或いはこれらの2種以上の混合溶剤を用いることができる。
【0088】
前記溶剤の使用量としては、反応基質の合計(重量)に対して、例えば5~20重量倍程度である。溶剤の使用量が上記範囲を上回ると反応基質の濃度が低くなり、反応速度が低下する傾向がある。
【0089】
反応雰囲気としては反応を阻害しない限り特に限定されず、例えば、空気雰囲気、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気等の何れであってもよい。
【0090】
反応温度は、例えば100~200℃程度である。反応時間は、例えば5~24時間程度である。また、この反応はバッチ式、セミバッチ式、連続式等の何れの方法でも行うことができる。
【0091】
この反応終了後、得られた反応生成物は、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、吸着、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。
【0092】
(工程[2])
上記式(5)で表される化合物としては、例えば、4-アミノフェノール、2-アミノ-6-ヒドロキシナフタレン、及びこれらの位置異性体や誘導体等が挙げられる。
【0093】
上記式(5)で表される化合物の使用量は、所望の硬化性化合物における分子鎖の平均重合度に応じて適宜調整することができる。例えば、平均重合度5の場合、式(3)で表される化合物1モルに対して、0.4~0.6モル程度となる量、平均重合度10の場合、式(3)で表される化合物1モルに対して、0.2~0.4モル程度となる量、平均重合度20の場合、式(3)で表される化合物1モルに対して、0.1~0.15モル程度となる量である。
【0094】
この反応は進行に伴いハロゲン化水素が生成するため、生成したハロゲン化水素をトラップする塩基の存在下で反応を行うことが、反応の進行を促進する効果が得られる点で好ましい。前記塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム等の無機塩基;ピリジン、トリエチルアミン等の有機塩基を挙げることができる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0095】
前記塩基の使用量は塩基の種類によって適宜調整することができる。例えば、水酸化ナトリウム等の一酸塩基の使用量は、上記式(5)で表される化合物1モルに対して1.0~3.0モル程度である。
【0096】
また、この反応は溶剤の存在下で行うことができる。溶剤としては、工程[1]において使用されるものと同様のものを使用することができる。
【0097】
反応温度は、例えば100~200℃程度である。反応時間は、例えば1~15時間程度である。また、この反応はバッチ式、セミバッチ式、連続式等の何れの方法でも行うことができる。
【0098】
この反応終了後、得られた反応生成物は、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、吸着、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。
【0099】
(工程[3])
前記環状酸無水物(上記式(7)で表される化合物)としては、例えば、無水マレイン酸、2-フェニル無水マレイン酸、4-フェニルエチニル-無水フタル酸、4-(1-ナフチルエチニル)-無水フタル酸、ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボン酸無水物、及びこれらの誘導体等が挙げられる。
【0100】
前記環状酸無水物の使用量は、所望の硬化性化合物における分子鎖の平均重合度に応じて適宜調整することができる。例えば、平均重合度5の場合、式(3)で表される化合物1モルに対して、0.4~0.8モル程度となる量、平均重合度10の場合、式(3)で表される化合物1モルに対して、0.2~0.4モル程度となる量、平均重合度20の場合、式(3)で表される化合物1モルに対して、0.1~0.15モル程度となる量である。
【0101】
この反応は溶剤の存在下で行うことができる。溶剤としては、工程[1]において使用されるものと同様のものを使用することができる。
【0102】
この反応は、室温(1~30℃)で行うことが好ましい。反応時間は、例えば1~30時間程度である。また、この反応はバッチ式、セミバッチ式、連続式等の何れの方法でも行うことができる。
【0103】
また、この反応は、水と共沸する溶剤(例えば、トルエン等)を用いた共沸や、脱水剤(例えば、無水酢酸等)の使用により、副生する生成水を除去することが、反応の進行を促進する点で好ましい。また、脱水剤による生成水の除去は、塩基性触媒(例えば、トリエチルアミン等)の存在下で行うことが好ましい。
【0104】
この反応終了後、得られた反応生成物は、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、吸着、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。
【0105】
(ラジカル重合開始剤)
前記ラジカル重合開始剤は、加熱処理を施すことによりフリーラジカルを発生して、硬化性化合物の重合反応を促進する化合物であり、熱ラジカル重合開始剤である。本発明の硬化性組成物は上記硬化性組成物と共にラジカル重合開始剤を含有するため、保存安定性を維持しつつ、硬化開始温度を低温化し、硬化反応の進行速度を緩める効果が得られる。
【0106】
前記ラジカル重合開始剤には、例えば、過酸化物、過カルボン酸、過酸エステル、ケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、ジアシルパーオキサイド、パーオキシカーボネート等のパーオキサイド基またはヒドロパーオキサイド基含有化合物;ジフェニルブタン等のビベンジル化合物;アゾ化合物;オキシムエステル化合物;ベンゾイン化合物;アセトフェノン誘導体等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0107】
前記ラジカル重合開始剤としては、なかでも、可とう性を有し、耐クラック性に優れた硬化物を形成することができる点で、パーオキサイド基またはヒドロパーオキサイド基含有化合物が好ましく、特に過酸化物及び/又は過酸エステルを使用することが、可とう性を有し、耐クラック性に優れた硬化物を形成することができると共に、ラジカル発生時にガスを発生しにくいため、硬化物中にボイドが発生するのを抑制することができる点で好ましい。
【0108】
前記ラジカル重合開始剤としては、とりわけ、過酸エステルを使用することが好ましい。過酸エステルは、上記硬化性化合物(なかでも、式(1)で表される化合物)に対する溶解性に優れるためである。また、更に、ラジカル重合開始剤として過酸エステルを含有する硬化性組成物は、可とう性を有し、耐クラック性に優れ、ボイドの発生が抑制された硬化物を形成するためである。
【0109】
前記過酸化物としては、例えば、下記式(i-1)で表される化合物が挙げられる。
【化15】
(式中、R
11は1価の炭化水素基、R
12は2価の炭化水素基、R
13は水素原子又はt価の炭化水素基を示す。R
11とR
12、又はR
11とR
13は互いに連結して、隣接する-O-O-基と共に環を形成していてもよい。sは0以上の整数を示し、tは1以上の整数を示す)
【0110】
前記R11における1価の炭化水素基には、1価の脂肪族炭化水素基、1価の脂環式炭化水素基、及び1価の芳香族炭化水素基、及びこれらから選択される2個以上の基が連結して成る1価の基が含まれる。
【0111】
前記R11における1価の炭化水素基としては、例えば、炭素数1~5の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、炭素数2~5の直鎖状又は分岐鎖状のアルケニル基、炭素数2~5の直鎖状又は分岐鎖状のアルキニル基、炭素数3~6のシクロアルキル基、炭素数6~14のアリール基、及びこれらから選択される2個以上の基が連結してなる1価の基等(例えば、C7-15アラルキル基)が挙げられる。
【0112】
前記R12における2価の炭化水素基には、2価の脂肪族炭化水素基、2価の脂環式炭化水素基、及び2価の芳香族炭化水素基、及びこれらから選択される2個以上の基が連結して成る2価の基が含まれる。
【0113】
前記R12における2価の炭化水素基としては、例えば、炭素数1~5の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基、炭素数2~5の直鎖状又は分岐鎖状のアルケニレン基、炭素数2~5の直鎖状又は分岐鎖状のアルキニレン基、炭素数3~6のシクロアルキレン基、炭素数6~14のアリーレン基、及びこれらから選択される2個以上の基が連結してなる2価の基等が挙げられる。
【0114】
前記R13におけるt価の炭化水素基としては、上記1価の炭化水素基の構造式から、(t-1)個の水素原子を除いた基が挙げられる。
【0115】
前記R11、R12、R13における炭化水素基は、置換基を有していても良く、置換基としては、例えば水酸基等が挙げられる。
【0116】
前記sは0以上の整数を示し、例えば0~3の整数、好ましくは0~1の整数である。
【0117】
前記tは1以上の整数を示し、例えば1~3の整数、好ましくは1~2の整数である。
【0118】
前記過酸化物としては、なかでも、式(i-1)で表される化合物であって、式中のR11、R12、及びR13の少なくとも1つがアラルキル基である化合物が好ましく、とりわけ、R11及びR13がアラルキル基である化合物が好ましい。
【0119】
前記過酸化物としては、なかでも、式(i-1)で表される化合物であって、式中のs=0であり、t=1である化合物が好ましい。
【0120】
前記過酸化物としては、とりわけ、下記式(i-1-1)で表される化合物が好ましい。
【化16】
(式中、R
14、R
15は、同一又は異なって、アラルキル基を示す)
【0121】
前記過酸化物の半減期1分の分解温度(若しくは、1分の半減期を得るための分解温度)は、例えば300℃以下である。なかでも、硬化性組成物の硬化開始温度を低温化する効果に優れ、可とう性に優れる硬化物が得られる点において、好ましくは250℃以下、特に好ましくは200℃以下である。半減期1分の分解温度の下限値は、例えば100℃、好ましくは140℃、特に好ましくは150℃である。
【0122】
上記式中のR14、R15におけるアラルキル基としては、例えばフェニルイソプロピル基等のC7-15アラルキル基が挙げられる。
【0123】
前記過酸エステルとしては、例えば、下記式(i-2)で表される化合物が挙げられる。
【化17】
(式中、R
16は1価の炭化水素基、又は1価の炭化水素基の2個以上が連結基を介して結合した1価の基を示し、R
17はu価の炭化水素基、又は2個以上の炭化水素基が連結基を介して結合したu価の基を示を示す。uは1以上の整数を示す)
【0124】
前記R16における1価の炭化水素基としては、R11における1価の炭化水素基と同様の例が挙げられる。
【0125】
前記uは1以上の整数を示し、例えば1~3の整数、好ましくは1~2の整数である。
【0126】
前記R17におけるu価の炭化水素基としては、上記1価の炭化水素基の構造式から、(u-1)個の水素原子を除いた基が挙げられる。
【0127】
前記連結基としては、エーテル結合(-O-)、カルボニル基等が挙げられる。
【0128】
前記過酸エステルとしては、なかでも、式(i-2)で表される化合物であって、式中のR16が1価の脂肪族炭化水素基であり、R17がu価の芳香族炭化水素基である化合物が好ましい。
【0129】
前記過酸エステルとしては、なかでも、式(i-2)で表される化合物であって、式中のu=1である化合物が好ましい。
【0130】
前記過酸エステルの半減期1分の分解温度(若しくは、1分の半減期を得るための分解温度)は、例えば300℃以下である。なかでも、硬化性組成物の硬化開始温度を低温化する効果に優れ、可とう性に優れる硬化物が得られる点において、好ましくは250℃以下、特に好ましくは200℃以下である。半減期1分の分解温度の下限値は、例えば100℃、好ましくは140℃、特に好ましくは150℃である。
【0131】
本発明の硬化性組成物において、前記ラジカル重合開始剤の含有量は、上記硬化性化合物(特に、上記式(1)で表される化合物)の、例えば0.1~30.0重量%、好ましくは0.2~5.0重量%、特に好ましくは0.3~3.0重量%、最も好ましくは0.4~2.0重量%である。
【0132】
ラジカル重合開始剤が過酸化物である場合、ラジカル重合開始剤の含有量は、上記硬化性化合物(特に、上記式(1)で表される化合物)の、例えば0.1~30.0重量%、好ましくは0.2~5.0重量%、特に好ましくは0.3~4.0重量%、最も好ましくは0.4~3.0重量%、とりわけ好ましくは0.5~2.0重量%である。
【0133】
ラジカル重合開始剤が過酸エステルである場合、ラジカル重合開始剤の含有量は、上記硬化性化合物(特に、上記式(1)で表される化合物)の、例えば0.1~30.0重量%、好ましくは0.2~5.0重量%、特に好ましくは0.4~4.0重量%、最も好ましくは0.5~2.0重量%である。
【0134】
前記ラジカル重合開始剤の含有量が過少であると、硬化開始温度を低温化する効果が乏しい。また、硬化反応が完了せずに停止して、可とう性に優れた硬化物を得ることが困難となる傾向がある。一方、前記ラジカル重合開始剤の含有量が過剰であると、得られる硬化物の耐熱性や可とう性が低下する傾向がある。
【0135】
(他の成分)
本発明の硬化性組成物は、式(1)で表される化合物とラジカル重合開始剤以外にも、必要に応じて他の成分を含有していても良い。他の成分としては、例えば、硬化剤、触媒、フィラー、有機樹脂(シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂など)、溶剤、安定化剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐光安定剤、熱安定化剤など)、難燃剤(リン系難燃剤、ハロゲン系難燃剤、無機系難燃剤など)、難燃助剤、補強材、核剤、カップリング剤、滑剤、ワックス、可塑剤、離型剤、耐衝撃性改良剤、色相改良剤、流動性改良剤、着色剤(染料、顔料など)、分散剤、消泡剤、脱泡剤、抗菌剤、防腐剤、粘度調整剤、増粘剤等が挙げられる。これらは、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0136】
前記溶剤は、例えば、ケトン、アミド、ハロゲン化炭化水素、スルホキシド、エーテル、エステル、ニトリル、芳香族炭化水素、及びこれらの2種以上の混合液が好ましく、特に、エーテル、ケトン、アミド、ハロゲン化炭化水素、及びスルホキシドから選択される少なくとも1種の溶剤が好ましく、とりわけ、エーテル、アミド、ハロゲン化炭化水素、及びスルホキシドから選択される少なくとも1種の溶剤が好ましい。
【0137】
前記フィラーには有機フィラー及び無機フィラーが含まれる。前記フィラーの原料としては、例えば、炭素材(例えば、カーボンブラック、人造黒鉛、膨張黒鉛、天然黒鉛、コークス、カーボンナノチューブ、ダイヤモンドなど)、炭素化合物(炭化ケイ素、炭化フッ素、炭化ホウ素、炭化タングステン、炭化チタンなど)、窒素化合物(窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化チタン、窒化炭素、窒化ケイ素など)、鉱物またはセラミックス類(タルク、マイカ、ゼオライト、フェライト、トルマリン、ケイソウ土、焼成珪藻土、カオリン、セリサイト、ベントナイト、スメクタイト、クレー、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉、ガラスフレーク、ミルドファイバー、ワラストナイトなど)、金属単体または合金(例えば、金属シリコン、鉄、銅、マグネシウム、アルミニウム、金、銀、白金、亜鉛、マンガン、ステンレスなど)、金属酸化物(例えば、シリカ、アルミナ、ジルコニア、マグネシア、酸化亜鉛、酸化ベリリウムなど)、金属水酸化物(例えば、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなど)、炭酸塩(例えば、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウムなど)などが挙げられる。
【0138】
前記フィラーの含有量は、上記硬化性組成物全量の、例えば0.1~50重量%、又は例えば0.1~50体積%の範囲であり、用途に応じて適宜調整することができる。
【0139】
本発明の硬化性組成物は、硬化性化合物として上記式(1)で表される化合物を少なくとも含有する。また、上記式(1)で表される化合物以外の硬化性化合物も含有していても良いが、硬化性組成物に含まれる硬化性化合物全量(100重量%)における上記式(1)で表される化合物の占める割合は、例えば70重量%以上、好ましくは80重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。尚、上限は100重量%である。従って、上記式(1)で表される化合物以外の硬化性化合物の含有量は、硬化性組成物に含まれる硬化性化合物全量(100重量%)の、例えば30重量%以下、好ましくは20重量%以下、特に好ましくは10重量%以下である。
【0140】
他の成分(特に、他の不揮発性成分)の含有量(2種以上含有する場合はその総量)は、上記硬化性組成物全量の、例えば50重量%以下、好ましくは40重量%以下、更に好ましくは30重量%以下、特に好ましくは20重量%以下、最も好ましくは10重量%以下、とりわけ好ましくは5重量%以下である。
【0141】
また、他の成分(特に、他の不揮発性成分)の含有量(2種以上含有する場合はその総量)は、上記硬化性組成物に含まれる不揮発分全量の、例えば50重量%以下、好ましくは40重量%以下、更に好ましくは30重量%以下、特に好ましくは20重量%以下、最も好ましくは10重量%以下、とりわけ好ましくは5重量%以下である。
【0142】
本発明の硬化性組成物は、上記式(1)で表される化合物を含有するが、上記式(1)で表される化合物が溶融温度が低く、溶剤溶解性に優れるため、加工性に優れる。また、低温で加熱しても、硬化反応を進行させ、完了することができる。そのため、可とう性に優れた硬化物を形成することができる。
【0143】
また、本発明の硬化性組成物の硬化物は、超耐熱性、難燃性、及び良好な誘電特性(低い比誘電率及び誘電正接)を有する。
【0144】
また、本発明の硬化性組成物は、加熱温度及び加熱時間を調整して、硬化反応を完了させず途中で停止させることにより、半硬化物(Bステージ)を形成することができる。
【0145】
本発明の硬化性組成物は上記特性を有するため、例えば、電子情報機器、家電、自動車、精密機械、航空機、宇宙産業用機器、エネルギー分野(油田掘削パイプ/チューブ、燃料容器)等の過酷な環境温度条件下で使用される複合材(繊維強化プラスチック、プリプレグ等)の成形材料(例えば、サイジング剤)や、遮蔽材料、伝導材料(例えば、熱伝導材料等)、絶縁材料、接着剤(例えば、耐熱性接着剤等)などの機能材料として好適に使用することができる。その他、封止剤、塗料、コーティング剤、インク、シーラント、レジスト、造形材、形成材[スラストワッシャー、オイルフィルター、シール、ベアリング、ギア、シリンダーヘッドカバー、ベアリングリテーナー、インテークマニホールド、ペダル等の自動車部品;基材、電気絶縁材(絶縁膜等)、積層板、電子ペーパー、タッチパネル、太陽電池基板、光導波路、導光板、ホログラフィックメモリ、シリコンウェハキャリアー、ICチップトレイ、電解コンデンサトレイ、絶縁フィルム等の半導体・液晶製造装置部品;レンズ等の光学部品;ポンプ、バルブ、シール等のコンプレッサー部品;航空機のキャビン内装部品;滅菌器具、カラム、配管等の医療器具部品や食品・飲料製造設備部品;パーソナルコンピューター、携帯電話などに使用されるような筐体、パーソナルコンピューターの内部でキーボードを支持する部材であるキーボード支持体に代表されるような電気・電子機器用部材等の形成材]等として好ましく使用できる。
【0146】
本発明の硬化性組成物は、特に、従来の樹脂材料では対応することが困難であった、高耐熱・高耐電圧の半導体装置(パワー半導体等)において半導体素子を被覆する封止剤として好ましく使用することができる。
【0147】
また、本発明の硬化性組成物は、接着剤[例えば、高耐熱・高耐電圧の半導体装置(パワー半導体等)において、半導体を積層する用途に使用する耐熱性接着剤等]として好ましく使用することができる。
【0148】
また、本発明の硬化性組成物は、塗料(若しくは、粉体塗料)[例えば、高耐熱・高耐電圧の半導体装置(パワー半導体等)の塗料(若しくは、粉体塗料)]として好ましく使用することができる。
【0149】
[硬化物、半硬化物]
本発明の硬化物(或いは、半硬化物)は、上記硬化性組成物の硬化物(或いは、半硬化物)である。
【0150】
本発明の硬化物(或いは、半硬化物)は、上記硬化性組成物に加熱処理を施すことによって製造することができる。上記硬化性組成物はラジカル重合開始剤を含有するため、ラジカル重合開始剤を含有しない場合に比べて、硬化開始温度を低温化することができ、加熱処理温度は、例えば260℃以下、好ましくは240℃以下(好ましくは200~240℃)である。
【0151】
前記加熱処理は、温度を一定に保持した状態で行ってもよく、温度を段階的に変更して行ってもよい。加熱処理温度は、加熱時間に応じて適宜調整することができ、例えば、加熱時間の短縮を所望する場合は加熱温度を高めに設定することが好ましい。
【0152】
上記硬化性組成物の硬化は、常圧下で行うこともできるし、減圧下又は加圧下で行うこともできる。
【0153】
本発明の硬化性組成物は、硬化性化合物として式(1)で表される化合物を含有するが、式(1)で表される化合物は芳香環由来の構造の割合が高いため、高温で加熱しても分解することなく硬化物(詳細には、超耐熱性を有する硬化物)を形成することができ、高温で短時間加熱することにより優れた作業性で効率よく硬化物を形成することができる。また、加熱手段は特に制限されることがなく、公知乃至慣用の手段を利用することができる。
【0154】
そして、上記硬化性組成物を、加熱温度及び加熱時間を調整して硬化反応を完了させず途中で停止させることにより、半硬化物(Bステージ)を製造することができる。前記半硬化物の硬化度は、例えば85%以下(例えば10~85%、特に好ましくは15~75%、更に好ましくは20~70%)である。
【0155】
尚、半硬化物の硬化度は、硬化性組成物の発熱量、及びその半硬化物の発熱量をDSCにより測定し、以下の式から算出できる。
硬化度(%)=[1-(半硬化物の発熱量/硬化性組成物の発熱量)]×100
【0156】
本発明の半硬化物は加熱により一時的に流動性を発現し、段差に追従させることができる。また、加熱処理を施すことにより耐熱性に優れた硬化物を形成することができる。
【0157】
また、本発明の硬化物は、例えば、5%重量減少温度(Td5)が300℃以上であり、320℃で30分の加熱処理に付した後の窒素原子含有量は、例えば2.8~0.1重量%である。
【0158】
本発明の硬化物の、昇温速度10℃/分(窒素中)で測定される5%重量減少温度(Td5)は、例えば300℃以上、好ましくは400℃以上、特に好ましくは450℃以上、最も好ましくは500℃以上である。5%重量減少温度(Td5)の上限は、例えば600℃、好ましくは550℃、特に好ましくは530℃である。
【0159】
本発明の硬化物の、昇温速度10℃/分(窒素中)で測定される10%重量減少温度(Td10)は、例えば300℃以上、好ましくは400℃以上、特に好ましくは480℃以上、最も好ましくは500℃以上である。10%重量減少温度(Td10)の上限は、例えば600℃、好ましくは550℃である。尚、10%重量減少温度は、TG/DTA(示差熱・熱重量同時測定)により測定できる。
【0160】
また、本発明の硬化物を320℃で30分の加熱処理に付した後の窒素原子含有量は、例えば2.8~0.1重量%、好ましくは2.5~0.15重量%、より好ましくは2.0~0.20重量%、特に好ましくは1.8~0.40重量%、最も好ましくは1.5~0.70重量%である。そのため、本発明の硬化物は靱性や耐熱性に優れる。一方、窒素原子含有量が上記範囲を下回ると、硬化物の靱性や耐熱性が低下する傾向がある。
【0161】
前記加熱処理に付した後の硬化物中の窒素原子含有量は、例えばCHN元素分析により求めることができる。
【0162】
前記硬化物には、硬化性化合物の架橋構造体以外にも添加物を含有する場合があるが、硬化物を320℃で30分の加熱処理に付すと、320℃未満に分解点や沸点を有する添加物は分解されて消失し、硬化性化合物の架橋構造体のみが残存する。そのため、加熱処理後の硬化物中の窒素原子含有量は、硬化性化合物の架橋構造体に含まれる窒素原子含有量と推定できる。なお、熱履歴の観点から硬化処理を加熱処理とすることもできる。
【0163】
また、本発明の硬化物は、IRスペクトルの1620~1750cm-1の領域にピークを有する。前記ピークは、「-C(=O)-N-C(=O)-」ユニットに由来する。
【0164】
更にまた、本発明の硬化物は難燃性に優れ、厚み0.15mmの硬化物の、UL94Vに準拠した方法による燃えにくさはV-1グレード、すなわち、下記1~5の条件を具備する。
(1)燃焼持続時間は30秒以下
(2)5個の試料の燃焼持続時間の合計が250秒以下
(3)2回目の接炎後の赤熱持続時間が60秒以下
(4)固定用クランプ部まで燃えない
(5)燃焼する粒子を落下させて、下に敷いた綿を燃やすことがない
【0165】
また、本発明の硬化物は絶縁性に優れ、比誘電率は、例えば6以下(例えば1~6)、好ましくは5以下(例えば1~5)、特に好ましくは4以下(例えば1~4)である。誘電正接は、例えば0.05以下(例えば0.0001~0.05)、好ましくは0.0001~0.03、特に好ましくは0.0001~0.015である。
【0166】
尚、前記「比誘電率」及び「誘電正接」は、JIS-C2138に準拠して測定周波数1MHz、測定温度23℃で測定される値、または、ASTM D2520に準拠して周波数1GHz、23℃で測定される値である。
【0167】
[構造物]
本発明の構造物は、上記硬化物又は半硬化物を含む構造物である。前記構造物の形状は特に制限が無いが、例えば、粒子状又は平面状である。本発明の構造物は、上記硬化性組成物を射出成形、トランスファー成形、コンプレッション成形、押出成形等の成形法に付すことにより製造することができる。
【0168】
本発明の構造物は耐熱性及び難燃性に優れる。また、比誘電率及び誘電正接が低い。そのため、住宅・建築、スポーツ用具、自動車、航空・宇宙産業分野において、鉄やアルミニウムなどの金属に替わる材料として好適に使用できる。また、高層建築物、地下街、劇場、車輌などの消防法により難燃化が義務づけられている場所に設置する構造物としても好適に使用できる。特に平面状の構造物は、電気デバイスの層間絶縁膜として好適に使用できる。
【0169】
[積層体]
本発明の積層体は、上記硬化性組成物の硬化物又は半硬化物と基板とが積層された構成を有する。本発明の積層体には、硬化性組成物の硬化物又は半硬化物/基板、及び基板/硬化性組成物の硬化物又は半硬化物/基板の構成が含まれる。
【0170】
本発明の積層体は、例えば上記硬化性組成物を基板上に塗布して、加熱処理を施すことによって製造することができる。
本発明の積層体は、また、上記硬化性組成物を支持体上に塗布し、加熱処理を施して半硬化させて得られた半硬化物を支持体から剥離し、それを基板上に載置して、更に加熱処理を施す方法でも製造することができる。
【0171】
前記基板の素材としては、例えば、半導体材料(例えば、セラミック、SiC、窒化ガリウム等)、紙、塗工紙、プラスチックフィルム、木材、布、不織布、金属(例えば、ステンレス鋼、アルミ合金、銅)等が挙げられる。
【0172】
本発明の硬化性組成物は、加熱温度が低くても硬化反応を完了することができるので、プラスチック製の支持体(例えば、ポリイミド又はフッ素樹脂製の支持体)を使用することができ、例えばプラスチック製ベルトを備えたベルトコンベアにおける前記ベルトを支持体として利用すれば、ベルトコンベアを含む製造ライン上にて前記積層体を連続的に製造することができる。
【0173】
また、上記硬化性組成物は硬化収縮が小さく、形状安定性に優れる。そのため、上記硬化性組成物を支持体等に均一に塗布すれば、表面が平滑な薄膜が得られ、この薄膜を硬化すれば、表面平滑性に優れた硬化物又は半硬化物を形成することができる。そのため、前記硬化物又は半硬化物は、可とう性や形状追従性が低い基板の表面にも良好に密着して、基板と強固に接着することができる。
【0174】
本発明の積層体が、硬化物/基板又は基板/硬化物/基板の構成を有する場合、硬化物と基板の密着性に優れる。前記基板と硬化物との引張りせん断力(JIS K6850(1999)準拠)は、例えば1MPa以上、好ましくは5MPa以上、特に好ましくは10MPa以上である。尚、引張りせん断力は、引張リ試験機(オリエンテック社製、テンシロンUCT-5T)を使用して、引張り速度300mm/分、剥離角度180°で測定できる。
【0175】
本発明の積層体は、また、基板が、耐熱性、難燃性、及び絶縁性に優れた硬化物を介して積層された構成を有する。そのため、本発明の積層体は、例えば電子回路基板等として好適に使用できる。
【0176】
[複合材]
本発明の複合材は、上記硬化性組成物の硬化物又は半硬化物と繊維とを含む。複合材の形状としては、繊維状やシート状など特に制限がない。
【0177】
前記繊維としては、例えば、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。前記繊維は、糸状であっても、又シート状に加工されたもの(織布又は不織布)であってもよい。
【0178】
本発明の複合材は、例えば、上記硬化性組成物を繊維に含浸させ、加熱処理を施すことにより、含浸させた硬化性組成物を硬化若しくは半硬化させることにより製造することができる。含浸させた硬化性組成物を半硬化させて得られる複合材は、プリプレグ等の中間加工品として好適に使用できる。
【0179】
本発明の複合材は、繊維の空隙に、硬化性組成物に含まれる式(1)で表される化合物が入り込んで架橋構造体を形成した構成を有し、軽量で高強度であり、更に耐熱性、難燃性、及び絶縁性に優れる。そのため、住宅・建築、スポーツ用具、自動車、航空・宇宙産業分野において、鉄やアルミニウムなどの金属に替わる材料として好適に使用できる。その他、例えば、消防用被服(防火衣、活動服、救助服・耐熱服)材料;高層建築物、地下街、劇場、車輌などの消防法により難燃化が義務づけられている場所に設置するカーテンや敷物材料;2次電池用セパレーター、燃料電池用セパレーター等のセパレーター;産業用フィルター、車載用フィルター、医療用フィルター等のフィルター;宇宙材料等として好適に使用することができる。
【実施例】
【0180】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0181】
尚、測定は下記条件で行った。
<NMR測定>
測定装置:BRUKER 400MHz/54mm又はBRUKER AVANCE600MHz
測定溶剤:重DMSO、重クロロホルム、又は重クロロホルム/ペンタフルオロフェノール(PFP)=2/1(wt/wt)の混合液
化学シフト:TMSを規準とした
<GPC測定>
装置:ポンプ「LC-20AD」((株)島津製作所製)
検出器:RID-10A((株)島津製作所製)又はTDA-301およびUV2501(Viscotek製)
溶剤:THF又はクロロホルム
カラム:shodex GPC K-806L×1本+shodex GPC K-803×1本+shodex GPC K-801×2本
流速:1.0mL/min
温度:40℃
試料濃度:0.1%(wt/vol)
標準ポリスチレン換算
<DSC測定>
装置:TA Q20
昇温速度:10℃/min
雰囲気:窒素雰囲気
<TG/DTA測定>
装置:NETZSCH TG209F3
昇温速度:10℃/min
雰囲気:窒素雰囲気
<IR測定>
装置:Perkin Elmer Spectrum RX1(ATR法)
【0182】
調製例1
ジアミン(1)の調製
撹拌装置、窒素導入管、およびディーンスターク装置を備えた500mL(三ツ口)フラスコに、4,4’-ジフルオロベンゾフェノン27.50g、ビスフェノールA23.98g、無水炭酸カリウム(K2CO3)21.77g、N-メチル-2-ピロリドン220mL、およびトルエン110mLを入れ、窒素雰囲気下で撹拌しながら加熱し、130~140℃で4時間トルエンを還流させた。その後、さらに加熱して170~180℃でトルエンを留去した。さらに、170~180℃で10時間撹拌を継続した後、室温に戻した。
【0183】
得られた生成物が入ったフラスコに、4-アミノフェノール5.04g、無水炭酸カリウム6.39g、N-メチル-2-ピロリドン30mL、及びトルエン150mLを添加し、再び窒素雰囲気下で撹拌しながら加熱し、130~140℃で3時間トルエンを還流させた。その後、加熱して170~180℃でトルエンを留去し、さらに170~180℃を保持しつつ4時間撹拌を継続した。その後、室温まで冷却し、反応液を3000mLのメタノールに添加、ろ過することで粉末状固体を得た。この粉末状固体をメタノールおよび水で繰返し洗浄した後、100℃で8時間減圧乾燥して、粉末状固体を得た(ジアミン(1)、下記式で表される化合物、収率:95%)。得られた粉末状固体をGPC測定(溶剤THF、標準ポリスチレン換算)に付して求めた数平均分子量は2920、重量平均分子量は5100、及び平均重合度(m-2)は6.2であった。得られたジアミン(1)の
1H-NMRスペクトルを
図1に、FTIRスペクトルを
図2に示す。
【0184】
【0185】
硬化性化合物Aの調製
撹拌装置、窒素導入管および乾燥管を備えた1000mL(三ツ口)フラスコに、無水マレイン酸を5.88g、N-メチル-2-ピロリドンを50mL、トルエンを200mL入れ、窒素置換した。そこへ、得られたジアミン(1)48.57gを330mLのNMPに溶解させた溶液を添加し、窒素雰囲気下、室温で24時間撹拌した。その後、パラトルエンスルホン酸一水和物0.761gを添加し、140℃に加熱して、8時間攪拌を継続し、トルエンを還流して水分を除去した。反応液を室温に戻した後、反応液を3000mLのメタノールに添加、ろ過することで粉末状固体を得た。この粉末状固体をメタノールおよび水で繰返し洗浄した後、100℃で8時間減圧乾燥して、粉末状固体(硬化性化合物A、下記式(A)で表される化合物、芳香環由来の構造の割合:71重量%、収率:90%)を得た。硬化性化合物Aの
1H-NMRスペクトルを
図3に、FTIRスペクトルを
図4に示す。
1H-NMR(CDCl
3)δ:1.71(s), 6.87(s), 7.02(m), 7.09(m), 7.17(d,J=8.8Hz),7.26(m), 7.37(d,J=8.8Hz), 7.80(m)
【0186】
【0187】
また、硬化性化合物Aの200℃における粘度をレオメーターにより測定したところ、14Pa・sであった。
【0188】
更に、得られた硬化性化合物Aの数平均分子量と、重量平均分子量をGPC測定(溶剤THF、標準ポリスチレン換算)によって求めた。その結果、数平均分子量(Mn)3160、重量平均分子量(Mw)5190であった。
【0189】
更にまた、得られた硬化性化合物AのTgをDSC測定により求めた。その結果、131℃であった。
【0190】
また、硬化性化合物Aの溶剤溶解性を以下の方法で測定した。
硬化性化合物Aを、下記表に示す溶剤(100g)と混合し、25℃で24時間撹拌し、溶剤への溶解性を下記基準で評価した。また、参考例としてPEEK(市販PEEKパウダー、ポリエーテルエーテルケトン、VICTREX151G、融点343℃、Tg147℃)の溶解性を同様の方法で評価した。
評価基準
○(良好):完全に溶解した
×(不良):少なくとも一部が溶解せずに残存した
【0191】
結果を下記表にまとめて示す。
【表1】
溶剤 NMP:N-メチル-2-ピロリドン
DMSO:ジメチルスルホキシド
THF:テトラヒドロフラン
【0192】
実施例1
下記表に記載の通り、調製例で得られた硬化性化合物A50重量部とトルエン50重量部とを混合し、室温で8時間攪拌して完全に硬化性化合物Aを溶解させた。そこへ、ラジカル重合開始剤としてt-ブチルパーオキシベンゾエート(商品名「パーブチルZ」、日本油脂(株)製)0.5重量部を配合し、更にマイカを硬化性組成物Aに対して20体積%(41重量%)となる割合で配合して、撹拌し、硬化性組成物を得た。
【0193】
実施例2~8(実施例4~8は参考例とする)
ラジカル重合開始剤の種類及び含有量を下記表に記載の通りに変更した以外は実施例1と同様にして、硬化性組成物を得た。
【0194】
比較例1
ラジカル重合開始剤を添加しなかった以外は実施例1と同様にして硬化性組成物を得た。
【0195】
比較例2
硬化性化合物としてPEEK(市販PEEKパウダー、ポリエーテルエーテルケトン、VICTREX151G、融点343℃、Tg147℃、PEEKのホモポリマーから成る硬化物のTd5559℃)を使用した以外は実施例1と同様にした。その結果、PEEKは140℃で5分加熱撹拌しても溶剤に溶けず、均一な硬化性組成物を形成することはできなかった。
【0196】
実施例1~8及び比較例1で得られた硬化性組成物について、以下の評価を行った。
【0197】
[保存安定性]
得られた硬化性組成物を、25℃、50R%H条件下にて、12時間静置して、静置後の組成物の増粘度[=(静置後組成物の粘度/静置前組成物の粘度)×100]を算出し、下記基準により保存安定性を評価した。
保存安定性の評価基準
○:増粘度10%未満
△:増粘度10%以上、50%未満
×:増粘度50%以上
【0198】
尚、組成物の粘度は、粘度(Pa・s)は、レオメーター(商品名「PHYSICA UDS200」、Anton Paar社製)を用いて、温度25℃、回転速度20/秒で測定した。
【0199】
[硬化物の熱重量減少分析]
得られた硬化性組成物をガラス板上に厚さ0.5mm程度で均一になるように載せ、マッフル炉で加熱(25℃から371℃まで10℃/minで昇温し、その後、371℃で2時間保持)して、前記硬化性組成物を硬化させ、硬化物を得た。
【0200】
TG/DTAを使用して、得られた硬化物の熱重量減少分析を行い、5%重量減少温度(Td5)及び10%重量減少温度(Td10)を求めた。
【0201】
[窒素原子含有量]
上記[硬化物の熱重量減少分析]と同様の方法で得られた硬化物をCHN元素分析に付して、窒素原子含有量を求めた。尚、標準試料にはアンチピリンを使用した。
【0202】
[可とう性]
得られた硬化性組成物を、銅箔(厚み:18μm)上に均一に広げ、これを一次乾燥(60℃の乾燥機中で2時間乾燥)に付して塗膜(厚み:50μm)を得た。得られた塗膜を熱硬化(200℃、若しくは240℃の乾燥機中、真空で1時間)させて、硬化物/銅箔の積層体を得た。
【0203】
得られた積層体(縦×横×厚み=100mm×100mm×50μm)について、屈曲試験機(商品名「マンドレル屈曲試験機」、(株)東洋精機製作所製)を使用し、直径3mmと直径5mmのマンドレルを使用して、JIS K5600-5-1(耐屈曲性(円筒形マンドレル))に準拠した方法により可とう性試験を行った。そして、以下の基準により可とう性を評価した。
可とう性の評価基準
○:直径3mm、直径5mmともに積層体に割れが発生しなかった。
△:直径5mmでは積層体に割れが発生しなかったが、直径3mmでは積層体に割れが発生した。
×:直径5mmでも積層体に割れが生じた
【0204】
【0205】
ラジカル重合開始剤:
・t-ブチルパーオキシベンゾエート:過酸エステル、半減期1分の分解温度166℃、商品名「パーブチルZ」、日本油脂(株)製
・ジクミルパーオキシド:過酸化物、半減期1分の分解温度175℃、商品名「パークミルD」、日本油脂(株)製
・2,3-ジメチル-2,3-ジフェニルブタン:半減期1分の分解温度285℃、商品名「ノフマーBC」、日本油脂(株)製
【0206】
実施例で得られた硬化性組成物は硬化性に優れ、240℃で熱硬化して得られた硬化物は可とう性に優れていた。
また、実施例で得られた硬化性組成物は、前記の通り優れた硬化性を有するが、保存安定性をも有していた。
更に、ラジカル重合開始剤として過酸エステルまたは過酸化物を含有する硬化性組成物は、硬化温度の低温化効果に特に優れ、200℃で加熱することでも、可とう性に優れた硬化物を形成することができた。
一方、ラジカル重合開始剤を使用しなかった比較例1の硬化性組成物は、保存安定性を有するが、硬化性の点で劣り、200℃又は240℃で加熱して得られた硬化物は可とう性を有しなかった。