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特許7474077レーザー溶接用のマルテンサイト系ステンレス鋼
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-16
(45)【発行日】2024-04-24
(54)【発明の名称】レーザー溶接用のマルテンサイト系ステンレス鋼
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240417BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20240417BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20240417BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/58
C22C38/60
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020040805
(22)【出願日】2020-03-10
(65)【公開番号】P2021143354
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2022-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】503378420
【氏名又は名称】日鉄ステンレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】高野 光司
(72)【発明者】
【氏名】東城 雅之
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-312772(JP,A)
【文献】特開2002-155341(JP,A)
【文献】特表2017-507244(JP,A)
【文献】特開平11-043719(JP,A)
【文献】特開平08-218154(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106319343(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.15~0.60%、
Si:0.1%超、0.6以下
Mn:0.1~5.0%、
S:0.01%未満
P:0.05%以下、
Ni:0.2~5.0%、
Cr:10.7~16.0%、
N:0.02~0.15%、
Al:0.002~1.0%を含有し、
Mo:0.05~3.0%、
W:0.05~3.0%
の内、1種類以上を含有し、
V:0.01%超、1.0%以下
Nb:0.01~0.45%
の内、1種類以上を含有し、
残部Feおよび不純物からなる化学成分を有し、
(a)式で表されるD値が0以上、10未満であり、
(b)式で表されるM値が0.3~5.5であることを特徴とするレーザー溶接用のマルテンサイト系ステンレス鋼。
D=(Cr+0.5Si+2.5Al)-(25C+18N+Ni+0.1Mn)+(1.2Mo+2W+3V+3Nb)-6 ・・・・・・・・・・(a)
M=Mo+W+10(V+Nb) ・・・・・・・・・・・・(b)
上記式で、元素記号は当該元素の含有量(質量%)を意味する。
【請求項2】
前記Feの一部に変えて、更に質量%で、
Cu:3.0%以下、
Co:3.0%以下、
B:0.01%以下、
Sn:0.3%以下、
Sb:0.3%以下の内、1種類以上を含有することを特徴とする請求項1に記載のレーザー溶接用のマルテンサイト系ステンレス鋼。
【請求項3】
前記Feの一部に変えて、更に質量%で、
Ti:0.45%以下、
Ta:0.45%以下の内、1種類以上を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のレーザー溶接用のマルテンサイト系ステンレス鋼。
【請求項4】
前記Feの一部に変えて、更に質量%で、
Mg:0.01%以下、
Ca:0.01%未満
Hf:0.01%以下、
REM:0.05%以下の内、1種類以上を含有することを特徴とする請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のレーザー溶接用のマルテンサイト系ステンレス鋼。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー溶接される高硬度・高耐食性材に関して、溶接割れがなく高硬度・高耐食性を具備した、レーザー溶接用のマルテンサイト系ステンレス鋼に関するものである。
【背景技術】
【0002】
500Hv以上の高硬度・高耐食性マルテンサイト系ステンレス鋼は、耐摩耗性,疲労強度、耐食性等、優れた耐久性特性からインフラや自動車等の塩化物や粗悪燃料が存在する厳しい腐食環境で使用される部品で幅広く使用されるようになってきた。これまで冷間成形や熱間成型で部品に使用されてきたが、近年、溶接部品でも適用が検討されている。特に、近年では鋼部品の部品加工において生産性が高いレーザー溶接が多用されるようになっており、高硬度・高耐食性マルテンサイト系ステンレス鋼においてもレーザー溶接のニーズが高い。しかしながら、溶接割れを回避しながら、溶接部および溶接HAZ部の耐食性と高硬度を維持することが難しい。
【0003】
マルテンサイト系ステンレス鋼のレーザー溶接について、溶接部の欠陥低減および靭性向上を目的にレーザー溶接方法の適正化および溶接後の切削の技術が提案されている(特許文献1)。しかしながら、溶接部の耐久性に関する技術の開示がない。
【0004】
マルテンサイト系ステンレス鋼のレーザー溶接部の耐食性について、約13%Crマルテンサイト系ステンレス鋼のC含有量を0.05%以下としてレーザー溶接条件を最適化することにより、レーザー溶接にて溶接割れなく、溶接部の耐食性を確保できることが開示されている(特許文献2,3)。しかしながら、C量が低く、500Hv以上の高硬度状態での耐食性確保を予見できない。
【0005】
一方、マルテンサイト系ステンレス鋼の成分調整と共にδフェライトを抑制して界面に析出するCr炭化物の析出を抑制する組織制御により高硬度と高耐食性を両立できることを提案している(特許文献4)。しかしながら、レーザー溶接にてδフェライトを抑制すると溶接割れが発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第3797105号公報
【文献】特許第3033483号公報
【文献】特許第3064851号公報
【文献】特許第3340225号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、上記の背景技術に記載の公知の技術または組み合わせでは、塩化物や酸が存在する厳しい腐食環境下で使用されるレーザー溶接された500Hv以上の高硬度マルテンサイト系ステンレス鋼製部品において、溶接割れを抑制して高硬度と耐食性を両立することができないことを知見した。
【0008】
本発明の解決すべき課題は、塩化物や粗悪燃料が存在する腐食環境の厳しい環境下で使用されるマルテンサイト系ステンレス鋼製部品において、レーザー溶接で溶接割れなく所定形状の部品に加工でき、溶接部近傍を含めて高硬度と高耐食性を付与して耐久性を改善することのできる、レーザー溶接用のマルテンサイト系ステンレス鋼を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決するために500Hv以上の高硬度が得られるマルテンサイト系ステンレス鋼において種々検討した結果、レーザー溶接時にδフェライトが所定量生成するように成分調整することで高硬度材でもレーザー溶接時に割れなく接合が可能になり、且つ、Mo,W,Nb,V量を適量含有させることで溶接HAZ部の軟化を抑制して高硬度を確保し、溶接部のCr炭窒化物の析出を抑制してレーザー溶接部近傍の高耐食性を著しく向上する知見を得た。すわなち、レーザー溶接部において、耐溶接割れ、500Hv以上の高硬度、耐塩化物環境下での耐食性の全てを満足するものである。
【0010】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであり、その要旨とするところは以下の通りである。
(1)質量%で、
C:0.15~0.60%、
Si:0.1~3.0%、
Mn:0.1~5.0%、
S:0.01%以下、
P:0.05%以下、
Ni:0.1~5.0%、
Cr:10.5~16.0%、
N:0.01~0.15%、
Al:0.002~1.0%を含有し、
Mo:0.05~3.0%、
W:0.05~3.0%
の内、1種類以上を含有し、
V:0.01~1.0%、
Nb:0.01~0.45%
の内、1種類以上を含有し、
残部Feおよび不純物からなる化学成分を有し、
(a)式で表されるD値が0~10であり、
(b)式で表されるM値が0.3~5.5であることを特徴とするレーザー溶接用のマルテンサイト系ステンレス鋼。
D=(Cr+0.5Si+2.5Al)-(25C+18N+Ni+0.1Mn)+(1.2Mo+2W+3V+3Nb)-6 ・・・・・・・・・(a)
M=Mo+W+10(V+Nb) ・・・・・・・・・・・(b)
上記式で、元素記号は当該元素の含有量(質量%)を意味する。
(2)前記Feの一部に変えて、更に質量%で、
Cu:3.0%以下、
Co:3.0%以下
B:0.01%以下、
Sn:0.3%以下、
Sb:0.3%以下の内、1種類以上を含有することを特徴とする前記(1)に記載のレーザー溶接用のマルテンサイト系ステンレス鋼。
(3)前記Feの一部に変えて、更に質量%で、
Ti:0.45%以下、
Ta:0.45%以下の内、1種類以上を含有することを特徴とする前記(1)または(2)に記載のレーザー溶接用のマルテンサイト系ステンレス鋼。
(4)前記Feの一部に変えて、更に質量%で、
Mg:0.01%以下、
Ca:0.01%以下、
Hf:0.01%以下、
REM:0.05%以下の内、1種類以上を含有することを特徴とする前記(1)~(3)に記載のレーザー溶接用のマルテンサイト系ステンレス鋼。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、マルテンサイト系ステンレス鋼において、金属組織と析出物の制御のために適正な成分調整を施すことで、レーザー溶接時の溶接割れを抑制し、溶接部近傍の高硬度と高耐食性を大幅に改善でき、レーザー溶接で加工される耐久性部品に好適な材料を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の各要件について説明する。なお、以下の説明における(%)は特に断りのない限り、質量(%)である。
【0013】
《鋼の必須成分組成》
公知で開示されている低C系のマルテンサイト系ステンレス鋼では工業的に耐摩耗性や耐疲労強度を確保できない。本発明では、一般的に耐摩耗性や耐疲労強度に有効な500Hv以上の部品が対象であり、焼入れ状態で少なくとも500Hv以上を発揮する高硬度マルテンサイト系ステンレス鋼がベースとなる。
【0014】
Cは、母材の焼入れ後、またはレーザー溶接部や溶接HAZ部の硬さを500Hv以上にするため0.15%以上含有させる。しかしながら、0.60%を超えて添加すると粗大なCr炭化物が生成して、溶接割れ性や耐食性を劣化させる。そのため、0.60%以下に限定する。好ましくは、0.20%超、0.50%以下である。
【0015】
Nは、レーザー溶接HAZ部の軟化を抑制して耐食性を確保するために0.01%以上含有させる。しかしながら、0.15%を超えて含有させるとブローホールのために溶接割れ(溶接欠陥)が生じる。そのため、0.15%以下に限定する。好ましくは、0.02~0.12%の範囲である。
【0016】
Siは、レーザー溶接部の溶融部での脱酸を促進して溶接割れ(溶接欠陥)を抑制するために0.1%以上含有させる。しかしながら、3.0%を超えて含有させると脆化して溶接割れ(溶接欠陥)が生じる。そのため、3.0%以下に限定する。好ましくは、0.2~2.0%の範囲である。
【0017】
Mnは、レーザー溶接部の溶融部での脱酸を促進して溶接割れ(溶接欠陥)を抑制するために0.1%以上含有させる。しかしながら、5.0%を超えて添加すると残留オーステナイトが生成して溶接部の高硬度500Hv以上を確保できなくなる。そのため、5.0%以下に限定する。好ましくは、0.2~3.0%である。
【0018】
Sは、溶接割れを助長し、耐食性を劣化させる元素であるため、含有量を0.01%以下に限定する。好ましくは、0.007%以下である。
【0019】
Pは、粒界偏析して溶接割れ性を助長する元素であるため、含有量を0.05%以下に限定する。好ましくは、0.035%以下である。
【0020】
Niは、マルテンサイト系ステンレス鋼の靭性を向上させて、溶接割れを抑制するため0.1%以上含有させる。しかしながら、5.0%を超えて添加すると残留オーステナイトが生成して溶接部の高硬度500Hv以上を確保できなくなる。そのため、5.0%以下に限定する。好ましくは、0.2~3.0%である。
【0021】
Crは、ステンレス鋼の耐食性の機能を得るための基本元素であり、10.5%以上を含有させる。しかしながら、16.0%を超えて含有させると、溶接部の高硬度500Hv以上を確保できなくなる。そのため、16.0%以下に限定する。好ましくは、11.0~15.0%である。
【0022】
Alは、レーザー溶接部の溶融部の脱酸を促進して溶接割れ(溶接欠陥)を抑制するために0.002%以上含有させる。しかしながら、1.0%を超えて含有させると粗大介在物生成のために溶接割れ(溶接欠陥)が生じる。そのため、1.0%以下に限定する。好ましくは0.005~0.2の範囲である。
【0023】
Mo、Wは、耐食性を向上させる元素であり、また、レーザー溶接後のCr炭窒化物の生成を抑制して耐食性を確保するために、Mo、Wの1種類以上をそれぞれ0.05%以上含有させる。しかしながら、3.0%を超えて含有させると靭性が劣化して溶接割れを助長させる。そのため、3.0%以下に限定する。
【0024】
V,Nbは、レーザー溶接後のCr炭窒化物の生成を抑制して耐食性を確保するために、V,Nbの1種類以上をそれぞれ0.01%以上含有させる。しかしながら、Vは1.0%を超えて、Nbは0.45%を含有させると粗大析出部が生成して溶接割れを助長させる。そのため、Vは1.0%以下、Nbは0.45%以下に限定する。
【0025】
前記(a)式で表されるD値は、レーザー溶接時の溶融・急冷凝固部のδフェライト生成量に影響を及ぼし、P、S等の不純物をトラップするδフェライトを生成させて溶接割れを防止するために0以上とする。しかしながら、10を超えると溶接部の高硬度500Hv以上を確保できなくなる。そのため、10以下に限定する。好ましくは2.0~7.0の範囲である。
【0026】
前記(b)式で表されるM値は、レーザー溶接時のCr炭窒化物の生成量に影響を及ぼす。Cr炭窒化物の生成を抑制して耐食性を確保するためにM値を0.3以上とする。しかしながら、4.0を超えると靭性が劣化して溶接割れを助長させる。そのため、5.5以下に限定する。好ましくは、0.5~4.0の範囲である。
【0027】
《選択的含有成分》
本発明のステンレス鋼は、上述してきた元素以外は、Feおよび不純物からなる化学成分から構成される。さらに、前記成分組成に加え、Feの一部に替えて、選択的に以下に示す元素を含有しても良い。
【0028】
Cuは、製品の耐食性を向上させるため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、3.0%を超えて含有させても、その効果は飽和し、残留オーステナイトが生成して溶接部の500Hv以上の高硬度が確保できなくなるばかりか、溶接割れが劣化する。そのため、含有量は3.0%以下とする。好ましくは、1.5%以下である。
【0029】
Coは、製品の靭性や耐食性を向上させるため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、それぞれ3.0%を超えて含有させても、その効果は飽和し、残留オーステナイトやフェライトが生成して溶接部の500Hv以上の高硬度を確保できなくなる。そのため、含有量は3.0%以下とする。好ましくは、2.0%以下である。
【0030】
Bは、製品および溶接部の靭性を向上させるため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、0.01%を超えて含有させても、その効果は飽和するし、逆に粗大なボライドを生成して溶接割れを助長し、耐食性を劣化させるため、含有量は0.01%以下とする。好ましくは、0.006%以下である。
【0031】
Sn,Sbは、製品の耐食性を向上させるため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、それぞれ0.3%を超えて含有させても、その効果は飽和するし、溶接割れを助長するため、含有量は0.3%以下とする。好ましくは、0.1%以下である。
【0032】
Tiは、靭性や耐食性を向上させるため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、0.45%を超えて含有させても、その効果は飽和するし、逆に粗大な炭窒化物を生成して溶接割れを助長するため、含有量は0.45%以下とする。好ましくは、0.3%以下である。
【0033】
Taは、製品の靭性や耐食性を向上させるため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、0.45%を超えて含有させても、その効果は飽和するし、逆に粗大な炭窒化物を生成して溶接割れを助長するため、含有量は0.45%以下とする。好ましくは0.3%以下、より好ましくは、0.1%以下である。
【0034】
Mg,Ca,Hfは、脱酸生成物の熱力学的な安定度を増加して軟化焼鈍時の軟質化に効果があるため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、それぞれ0.01%を超えて添加しても、その効果は飽和するし、逆に粗大な酸化物を生成して溶接割れを助長するため、含有量を0.01%以下とする。好ましくは、0.005%以下である。
【0035】
REMは、脱酸生成物の熱力学的な安定度を増加して軟化焼鈍時の軟質化に効果があるため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、0.05%を超えて添加しても、その効果は飽和するし、逆に粗大な酸化物を生成して溶接割れを助長するため、含有量を0.05%以下とする。好ましくは、0.005%以下である。REM(希土類元素)は、一般的な定義に従い、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)の2元素と、ランタン(La)からルテチウム(Lu)までの15元素(ランタノイド)の総称を指す。単独で含有させてもよいし、混合物であってもよい。
【0036】
本発明のステンレス鋼が含有する不純物について、代表的な不純物としては、Zn,Bi,Pb,Ge,Se,Ag,Se,Te等が挙げられ、通常、鉄鋼の製造プロセスで不純物として、0.1%程度の範囲で混入する。
不純物である酸素は鋼中で主に介在物として存在するが、通常の精錬で製造されるステンレス鋼の酸素含有レベルは0.001~0.015%である。
また、任意添加元素について、代表的なものを上記(2)~(5)で規定しているが、本明細書中に記載されていない元素であっても、本発明の効果を損なわない範囲で含有させることができる。
【0037】
以上説明した本発明によれば、レーザー溶接で接合・加工される高硬度部品用として、レーザー溶接時の割れを防止し、溶接部の高硬度と耐食性を両立できるマルテンサイト系ステンレス鋼を提供できる。
なお、本発明でマルテンサイト系ステンレス鋼とは、焼入れ時のマルテンサイト変態により硬化する鋼であり、本発明においては、例えば、1050℃から空冷で焼入れした時に金属組織の7割以上がマルテンサイト組織を示し、500Hv以上に硬化する鋼であることを意味する。
【実施例
【0038】
50kgの真空溶解炉にて表1に示す化学組成の鋼を1600℃で溶解した後、鋳型に鋳造した。その後、1200℃加熱後に3mm厚の板に熱間圧延して750℃―3hの軟化焼鈍を施し、2mm厚に冷間圧延を行い、40×40×2mm厚の試験片を切り出して表層#500研磨で仕上げ、レーザー溶接を実施した。レーザー溶接は、2枚の試験片の40mm片を突合せて接触面にファイバーレーザ(スポット径0.6mm,2.0kW,Arシールド)を1m/minの条件で照射して40mm長さを接合した。その後、溶接割れの有無、硬さ,耐食性を評価した。表2に評価結果について示す。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
【表3】
【0042】
【表4】
【0043】
【表5】
【0044】
溶接割れの評価は、拡大鏡で溶接部近傍を観察して割れ長さを測定して評価した。割れ長さの総長が1mm未満の場合を〇、0.5mm未満の場合を◎とし、1mm以上の場合を×として判断した。
【0045】
溶接部近傍の硬さの評価は、溶接長手方向に垂直断面を検査面として埋め込み研磨し、溶融部、溶接HAZ部(溶融ラインから0.2,0.4mm,0.6mm部)のHv硬さ(荷重200g)を測定した。溶接HAZ部の硬さは3測定箇所の平均値とした。
【0046】
耐食性の評価は、レーザー溶接部の表層を#500研磨してJIS Z 2371の塩水噴霧試験を48h実施して発銹状況で評価した。無発銹の場合を◎、点錆発銹の場合を〇、流れ錆発銹の場合を×として評価した。
【0047】
粗大な酸化物の評価について、前記の埋込み研磨した検査面を光学顕微鏡にて観察し、長径が20μm以上の粗大な酸化物がある場合、表2の備考欄に「粗大酸化物」と記載した。
【0048】
表2の本発明例1~34は、いずれも溶接部の硬さが500Hv以上の高硬度を示し、優れた耐溶接割れ性,耐食性を示す。
【0049】
一方、比較例1~37は、本発明の成分範囲から外れており、500Hv以上の高硬度特性、溶接割れ性,耐食性の全てを満足することができない。
【産業上の利用可能性】
【0050】
以上の各実施例から明らかなように、本発明により、レーザー溶接時の耐溶接割れ性とレーザー溶接部の500Hv以上の高硬度特性、耐食性に優れるレーザー溶接に好適なマルテンサイト系ステンレス鋼を提供することができ、腐食の厳しい環境下で使用される高硬度部品の耐久性を大幅に向上することができ、産業上極めて有用である。