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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-16
(45)【発行日】2024-04-24
(54)【発明の名称】接着シート、及び接着シートの使用方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/30 20180101AFI20240417BHJP
   C09J 7/22 20180101ALI20240417BHJP
   C09J 201/10 20060101ALI20240417BHJP
   C09J 201/02 20060101ALI20240417BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20240417BHJP
   B32B 7/027 20190101ALI20240417BHJP
【FI】
C09J7/30
C09J7/22
C09J201/10
C09J201/02
B32B27/00 D
B32B27/00 C
B32B7/027
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020062909
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2021161195
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-01-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100158481
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 俊秀
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】上村 和恵
【審査官】藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-14004(JP,A)
【文献】特開2009-242792(JP,A)
【文献】特開2009-199069(JP,A)
【文献】特開2008-45078(JP,A)
【文献】特開2010-100831(JP,A)
【文献】特開2018-72519(JP,A)
【文献】国際公開第2014/157620(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第3310137(EP,A1)
【文献】特開2020-38595(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00- 43/00
C09J 1/00- 5/10
C09J 7/00- 7/50
C09J 9/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂(S)を含む樹脂層、及び当該樹脂層の少なくとも一方の表面(α)上に積層された、分子接着剤を含む分子接着剤層を有する接着シートであって、
前記樹脂層の厚さが、230μm以下であり、
前記樹脂層の表面(α)が、表面改質用物品の接触及び加圧による表面処理(W1)、並びに、エキシマ照射処理(W2)の少なくとも一方が施されて表面改質されており、
前記分子接着剤が、アミノ基、アジド基、メルカプト基、イソシアネート基、ウレイド基及びエポキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の反応性基(Zα)と、シラノール基、及び加水分解反応によりシラノール基を生成させる基からなる群から選ばれる少なくとも1種の反応性基(Zβ)とを有し、
樹脂(S)は、前記分子接着剤の反応性基(Zα)と化学結合を形成し得る反応性部分構造(Zγ)を有し、
被着体に圧着後に、湿熱処理又は温水処理の少なくとも一方の処理を行った際、前記処理前の接着力(F )と、前記処理後の接着力(F )との比〔F /F 〕が0~0.70となる、接着シート。
【請求項2】
表面処理(W1)が、JIS H0400:1998で定義されたサテン仕上げ、梨地仕上げ、ヘヤライン仕上げ、マット仕上げ、ゆず肌仕上げ、及びオレンジピール仕上げの少なくとも1つが施された表面(β)を有する表面改質物品を用いて、当該表面改質物品の表面(β)を、前記樹脂層の表面(α)に対して接触及び加圧することによって行われる、請求項1に記載の接着シート。
【請求項3】
前記被着体が、ガラス、無機酸化物、及びシリコーン樹脂から選ばれる1種以上を含む、請求項1又は2に記載の接着シート。
【請求項4】
前記湿熱処理が、前記被着体に圧着された前記接着シートを、40℃以上、相対湿度80%以上の高温高湿環境下に晒す処理であり、
前記温水処理が、前記被着体に圧着された前記接着シートを40℃以上の温水に浸漬する処理である、請求項1~のいずれか一項に記載の接着シート。
【請求項5】
前記接着シートを剥離した後の前記被着体の表面に、目視及び触診で確認可能な前記接着シートの残渣物が存在しない、請求項1~のいずれか一項に記載の接着シート。
【請求項6】
前記樹脂層の23℃におけるヤング率が、1.0×10Pa以上である、請求項1~のいずれか一項に記載の接着シート。
【請求項7】
前記分子接着剤層は、前記分子接着剤が有する反応性基(Zα)と前記樹脂(S)が有する反応性部分構造(Zγ)との化学結合により、前記分子接着剤が、前記樹脂層に化学的に固定されてなる、請求項1~のいずれか一項に記載の接着シート。
【請求項8】
樹脂(S)が、炭素-炭素単結合、炭素-炭素二重結合、及び炭素-水素単結合からなる群から選択される少なくとも1種の反応性部分構造(Zγ’)を有する樹脂(S’)である、請求項1~のいずれか一項に記載の接着シート。
【請求項9】
樹脂(S)が、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アルデヒド基、及びアミド基からなる群より選ばれる少なくとも1種の反応性部分構造(Zγ”)を有する樹脂(S”)である、請求項1~のいずれか一項に記載の接着シート。
【請求項10】
樹脂(S)が、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、芳香族ポリエーテル系樹脂、及び液晶ポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の接着シート。
【請求項11】
前記分子接着剤が、下記一般式(1)で表される化合物である、請求項1~10のいずれか一項に記載の接着シート。
-A-Si(X)(Y)3-a (1)
〔前記一般式(1)中、Rは、アミノ基、アジド基、メルカプト基、イソシアネート基、ウレイド基及びエポキシ基からなる群から選ばれる反応性基(Zα)、又は、反応性基(Zα)を1以上有する1価の基(ただし、当該1価の基は、反応性基(Zα)そのものである場合を除く。)である。
Aは、2価の有機基である。
Xは、それぞれ独立に、ヒドロキシ基、炭素数1~10のアルコキシ基又はハロゲン原子であり、Yは、それぞれ独立に、炭素数1~20の炭化水素基である。aは、1~3の整数である。〕
【請求項12】
前記被着体と圧着する前記分子接着剤の表面側に、さらに保護フィルムを有する、請求項1~11のいずれか一項に記載の接着シート。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の接着シートを使用する方法であって、
下記操作(1)~(2)を有する、接着シートの使用方法。
・操作(1):前記接着シートを前記被着体に圧着する操作。
・操作(2):前記被着体に圧着された前記接着シートに対して、湿熱処理又は温水処理の少なくとも一方の処理を行った後、前記被着体から前記接着シートを剥離する操作。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着シート、及び当該接着シートの使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2種以上の反応性基を有する化合物は、それぞれの反応性基の特性を利用して、2種以上の化学結合を形成し得ることから、分子接着剤として有用である。
分子接着剤を用いた例としては、特許文献1には、2つの基板の間に、エントロピー弾性分子接着層を形成してなる積層体であって、該エントロピー弾性分子接着層が、エントロピー弾性体層及び分子接着剤層からなることを特徴とするものが記載されている。
このような積層体を製造する際の分子接着剤の使用方法としては、2つの層を接着する直前に、一方の層の表面に分子接着剤を塗布して分子接着剤層を形成した後、分子接着剤層ともう一つの層を重ねて接着させるという方法や、基材上に分子接着剤層を形成した接着シートを得た後、得られた接着シートを被着体に貼着するという方法が考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】WO2009/154083号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1等に記載された接着シートについては、様々な用途で使用されることを想定した特性が要求されている。
つまり、広範囲の用途に適用し得る各種特性を有する接着シートが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、特定の反応性基及び構造を有する樹脂を含み、所定の厚さに調製した樹脂層と、特定の反応性基を有する分子接着剤を含む分子接着剤層とを有する接着シートであって、被着体に圧着後に、所定の処理によって剥離となる接着シートを提供する。
【0006】
すなわち、本発明は、具体的には、以下の[1]~[14]を提供する。
[1]樹脂(S)を含む樹脂層、及び当該樹脂層の少なくとも一方の表面(α)上に積層された、分子接着剤を含む分子接着剤層を有する接着シートであって、
前記樹脂層の厚さが、230μm以下であり、
前記樹脂層の表面(α)が、表面改質用物品の接触及び加圧による表面処理(W1)、並びに、エキシマ照射処理(W2)の少なくとも一方が施されて表面改質されており、
前記分子接着剤が、アミノ基、アジド基、メルカプト基、イソシアネート基、ウレイド基及びエポキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の反応性基(Zα)と、シラノール基、及び加水分解反応によりシラノール基を生成させる基からなる群から選ばれる少なくとも1種の反応性基(Zβ)とを有し、
樹脂(S)は、前記分子接着剤の反応性基(Zα)と化学結合を形成し得る反応性部分構造(Zγ)を有し、
被着体に圧着後に、湿熱処理又は温水処理の少なくとも一方の処理によって剥離可能となる、接着シート。
[2]表面処理(W1)が、JIS H0400:1998で定義されたサテン仕上げ、梨地仕上げ、ヘヤライン仕上げ、マット仕上げ、ゆず肌仕上げ、及びオレンジピール仕上げの少なくとも1つが施された表面(β)を有する表面改質物品を用いて、当該表面改質物品の表面(β)を、前記樹脂層の表面(α)に対して接触及び加圧することによって行われる、上記[1]に記載の接着シート。
[3]前記被着体が、ガラス、無機酸化物、及びシリコーン樹脂から選ばれる1種以上を含む、上記[1]又は[2]に記載の接着シート。
[4]前記接着シートを前記被着体に圧着後において、前記処理前の接着力(F)と、前記処理後の接着力(F)との比〔F/F〕が、0~0.70である、上記[1]~[3]のいずれか一項に記載の接着シート。
[5]前記湿熱処理が、前記被着体に圧着された前記接着シートを、40℃以上、相対湿度80%以上の高温高湿環境下に晒す処理であり、
前記温水処理が、前記被着体に圧着された前記接着シートを40℃以上の温水に浸漬する処理である、上記[1]~[4]のいずれか一項に記載の接着シート。
[6]前記接着シートを剥離した後の前記被着体の表面に、目視及び触診で確認可能な前記接着シートの残渣物が存在しない、上記[1]~[5]のいずれか一項に記載の接着シート。
[7]前記樹脂層の23℃におけるヤング率が、1.0×10Pa以上である、上記[1]~[6]のいずれか一項に記載の接着シート。
[8]前記分子接着剤層は、前記分子接着剤が有する反応性基(Zα)と前記樹脂(S)が有する反応性部分構造(Zγ)との化学結合により、前記分子接着剤が、前記樹脂層に化学的に固定されてなる、上記[1]~[7]のいずれか一項に記載の接着シート。
[9]樹脂(S)が、炭素-炭素単結合、炭素-炭素二重結合、及び炭素-水素単結合からなる群から選択される少なくとも1種の反応性部分構造(Zγ’)を有する樹脂(S’)である、上記[1]~[8]のいずれか一項に記載の接着シート。
[10]樹脂(S)が、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アルデヒド基、及びアミド基からなる群より選ばれる少なくとも1種の反応性部分構造(Zγ”)を有する樹脂(S”)である、上記[1]~[9]のいずれか一項に記載の接着シート。
[11]樹脂(S)が、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、芳香族ポリエーテル系樹脂、及び液晶ポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、上記[1]~[10]のいずれか一項に記載の接着シート。
[12]前記分子接着剤が、下記一般式(1)で表される化合物である、上記[1]~[11]のいずれか一項に記載の接着シート。
-A-Si(X)(Y)3-a (1)
〔前記一般式(1)中、Rは、アミノ基、アジド基、メルカプト基、イソシアネート基、ウレイド基及びエポキシ基からなる群から選ばれる反応性基(Zα)、又は、反応性基(Zα)を1以上有する1価の基(ただし、当該1価の基は、反応性基(Zα)そのものである場合を除く。)である。
Aは、2価の有機基である。
Xは、それぞれ独立に、ヒドロキシ基、炭素数1~10のアルコキシ基又はハロゲン原子であり、Yは、それぞれ独立に、炭素数1~20の炭化水素基である。aは、1~3の整数である。〕
[13]前記被着体と圧着する前記分子接着剤の表面側に、さらに保護フィルムを有する、上記[1]~[12]のいずれか一項に記載の接着シート。
[14]上記[1]~[13]のいずれか一項に記載の接着シートを使用する方法であって、
下記操作(1)~(2)を有する、接着シートの使用方法。
・操作(1):前記接着シートを前記被着体に圧着する操作。
・操作(2):前記被着体に圧着された前記接着シートに対して、湿熱処理又は温水処理の少なくとも一方の処理を行った後、前記被着体から前記接着シートを剥離する操作。
【発明の効果】
【0007】
本発明の好適な一態様の接着シートは、被着体との優れた接着力を有する一方で、被着体から除去する際には、所定の処理によって、容易に剥離可能とすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
〔接着シートの構成〕
本発明の接着シートは、樹脂(S)を含む樹脂層、及び当該樹脂層の少なくとも一方の表面(α)上に積層された、分子接着剤を含む分子接着剤層を有し、
前記樹脂層の厚さが、230μm以下であり、
前記樹脂層の表面(α)が、表面改質用物品の接触及び加圧による表面処理(W1)、及び、エキシマ照射処理(W2)の少なくとも一方が施されて表面改質されており、
前記分子接着剤が、アミノ基、アジド基、メルカプト基、イソシアネート基、ウレイド基及びエポキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の反応性基(Zα)と、シラノール基、及び加水分解反応によりシラノール基を生成させる基からなる群から選ばれる少なくとも1種の反応性基(Zβ)とを有し、
樹脂(S)は、前記分子接着剤の反応性基(Zα)と化学結合を形成し得る反応性部分構造(Zγ)を有し、
被着体に圧着後に、湿熱処理又は温水処理の少なくとも一方の処理によって剥離可能となる、接着シートである。
【0009】
なお、本明細書において、「分子接着剤を含む分子接着剤層」の「分子接着剤を含む」とは、「分子接着剤及び/又は分子接着剤由来の化合物(例えば、反応を経て、反応性基の構造が変化した化合物)を含む」を意味するものである。
また、本明細書において、「樹脂(S)は、前記分子接着剤の反応性基(Zα)と化学結合を形成し得る反応性部分構造(Zγ)を有する」とは、樹脂層上に分子接着剤層が形成される前の状態を表したものである。分子接着剤層が形成された後の樹脂層においては、樹脂(S)は、反応性部分構造(Zγ)及び/又は反応性部分構造(Zγ)由来の構造を有する。
【0010】
ところで、接着シートを用いて被着体に接着した後に、当初の目的を終えて、接着シートを除去し、被着体から剥離したい場合がある。
ところが、特許文献1等に記載された接着シートは、強度な接着力を有するが、被着体に圧着後、除去しようとしても被着体から剥離させることが極めて難しい。また、当該接着シートを被着体から剥離できたとしても、被着体の表面を破壊されてしまうことや、被着体の表面に接着シートが一部残存してしまうといった弊害も生じ易い。
一方で、本発明の接着シートは、被着体に圧着後には、優れた接着力が発揮される一方で、湿熱処理又は温水処理の少なくとも一方の処理によって剥離可能となるように設計されており、上記の問題を解決し得るものである。
【0011】
ところで、本発明の一態様の接着シートは、樹脂層及び分子接着剤層を少なくとも有するものであればよいが、当該樹脂層及び当該分子接着剤層以外の他の層を有していてもよい。
本発明の一態様の接着シートとしては、例えば、以下の層構造を有するものが挙げられる。
(1)樹脂層/分子接着剤層
(2)樹脂層/分子接着剤層/保護フィルム
(3)支持体/樹脂層/分子接着剤層/保護フィルム
(4)分子接着剤層/樹脂層/分子接着剤層/保護フィルム
(5)保護フィルム/分子接着剤層/樹脂層/分子接着剤層/保護フィルム
(6)分子接着剤層/樹脂層/支持体/樹脂層/分子接着剤層/保護フィルム
(7)保護フィルム/分子接着剤層/樹脂層/支持体/樹脂層/分子接着剤層/保護フィルム
【0012】
以下、本発明の一態様の接着シートが有する各層の構成について詳述すると共に、当該接着シートの圧着方法及び剥離可能とするための処理についても説明する。
【0013】
<樹脂層>
本発明の接着シートを構成する樹脂層は、樹脂(S)を含有する層である。
本発明の接着シートにおいて、樹脂層は、分子接着剤を固定する役割を担う。
なお、本明細書において、まだ他の層が積層されていない状態(樹脂フィルム等の原材料の状態)であっても、接着シートの製造方法等を説明する中で、それを「樹脂層」と表すことがある。
【0014】
樹脂(S)は、前記分子接着剤の反応性基(Zα)と化学結合を形成し得る反応性部分構造(Zγ)を有する。
樹脂(S)が反応性部分構造(Zγ)を有することで、分子接着剤の反応性基(Zα)との化学結合により、分子接着剤が前記樹脂層に化学的に固定され、分子接着剤層を効率良く形成することができる。また、樹脂層と分子接着剤層との優れた層間密着性を発現することができる。
【0015】
樹脂(S)が有する反応性部分構造(Zγ)としては、例えば、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アルデヒド基、アミノ基、炭素-炭素単結合、炭素-炭素二重結合、炭素-水素単結合等が挙げられる。これらは、分子接着剤中の反応性基(Zα)に合わせて適宜選択することができる。
例えば、前記分子接着剤が有する反応性基(Zα)が、アミノ基、メルカプト基、イソシアネート基、ウレイド基及びエポキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1種である場合、反応性部分構造(Zγ)としては、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アルデヒド基、及びアミノ基からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく用いられる。
また、前記分子接着剤が有する反応性基(Zα)が、アジド基である場合、反応性部分構造(Zγ)としては、炭素-炭素単結合、炭素-炭素二重結合、及び炭素-水素単結合からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく用いられる。
【0016】
樹脂(S)としては、前記分子接着剤が有する反応性基(Zα)と化学結合を形成する反応性部分構造(Zγ)を有する樹脂であれば特に限定されない。
樹脂(S)としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ-4-メチル-1-ペンテン、シクロオレフィンポリマー(COP)等のポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート-テトラメチルシクロブチレンジオール共重合体、ポリエチレンテレフタレート-シクロヘキサンジメタノール共重合体、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート-イソフタレート共重合体(PCTA)等のポリエステル系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体等のビニル系樹脂;ポリスチレン;アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリスルホン系樹脂;芳香族ポリエーテル、芳香族ポリエーテルケトン、芳香族ポリエーテルスルホン、芳香族ポリエーテルイミド、芳香族ポリエーテルニトリル、芳香族ポリエーテルピリジン等の芳香族ポリエーテル系樹脂;ポリフェニレンスルフィド系樹脂;ポリイミド系樹脂;ポリアミド系樹脂;アクリル系樹脂;シクロオレフィン系樹脂;フッ素系樹脂;ウレタン系樹脂;等から選ばれる樹脂のうち、反応性部分構造(Zγ)を有する樹脂、もしくは反応性部分構造(Zγ)が導入された樹脂が挙げられる。
樹脂(S)は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0017】
なお、本発明の一態様において、樹脂(S)は、液晶配向性を付与する共役性の直線状原子団(メソゲン)がポリマーの主鎖や側鎖に導入された、反応性部分構造(Zγ)を有する、主鎖型又は側鎖型の液晶ポリマーであってもよい。
なお、主鎖型の液晶ポリマーとしては、例えば、屈曲性を付与するスペーサ部でメソゲン基を結合した構造を有するネマチック配向性のポリエステル系液晶ポリマー、ディスコティックポリマー、コレステリックポリマー等が挙げられる。
側鎖型の液晶ポリマーとしては、例えば、ポリシロキサン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、及びポリマロネート等を主鎖骨格とし、側鎖として、共役性の原子団からなるスペーサ部を介してネマチック配向付与性のパラ置換環状化合物単位からなるメソゲン部を有するポリマー等が挙げられる。
【0018】
本発明の一態様において、樹脂(S)としては、被着体との接着性により優れると共に、被着体から除去する際には、所定の処理によって容易に剥離可能となる接着シートとする観点から、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、芳香族ポリエーテル系樹脂、及び液晶ポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、ポリオレフィン系樹脂及びポリエステル系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことがより好ましい。
【0019】
本発明の一態様において、樹脂(S)が、反応性部分構造(Zγ)として、炭素-炭素単結合、炭素-炭素二重結合、及び炭素-水素単結合から選ばれる少なくとも1種の反応性部分構造(Zγ’)として有する樹脂(S’)であることが好ましい。
樹脂(S’)としては、樹脂フィルムをそのまま樹脂層として用いることができる。
また、樹脂(S’)を適当な有機溶媒で希釈して塗布液を調製し、これを、支持体、工程シート、剥離シート等の表面に塗布し、得られた塗膜に対して乾燥処理や硬化処理を施すことにより、樹脂層を形成することもできる。
【0020】
また、本発明の一態様において、樹脂(S)が、反応性部分構造(Zγ)として、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アルデヒド基、及びアミノ基から選ばれる少なくとも1種の反応性部分構造(Zγ”)を有する樹脂(S”)であることが好ましい。
なお、樹脂(S”)中のこれらの反応性部分構造(Zr”)は、公知の方法により導入することができる。
例えば、重合反応を行う際に、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アルデヒド基、アミノ基等の官能基を有する単量体を使用したり、重合反応を行って得られた重合体に、無水マレイン酸変性等の変性処理を施したりすることにより、反応性部分構造(Zγ”)を導入することができる。
【0021】
また、樹脂(S”)の前駆体である前駆体樹脂を含有する層(s1)に対して、表面処理を施すことにより、その層(s1)の表面に存在する前駆体樹脂を、樹脂(S”)としてもよい。
当該表面処理としては、ヒドロキシ基やカルボキシ基を生じさせるものであれば、特に限定されず、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、紫外線照射処理、電子線照射処理、オゾン処理、酸処理、及び塩基処理等から選ばれる1種以上の処理が挙げられる。
これらの表面処理は、公知の方法に従って行うことができる。
【0022】
つまり、樹脂層に含まれる樹脂(S)が、上記の樹脂(S”)である場合、例えば、以下の(a)~(d)のいずれかの方法により、樹脂層を形成することができる。
(a)樹脂(S”)の前駆体である前駆体樹脂を含有する層(s1)として樹脂フィルムや樹脂シートを用い、層(s1)の表面に対して、前述の表面処理を施すことにより、前駆体樹脂を樹脂(S”)とし、樹脂(S”)を含む樹脂層を形成する。
(b)樹脂(S”)の前駆体である前駆体樹脂を適当な有機溶媒で希釈して塗布液を調製し、これを、支持体、工程シート、剥離シート等の表面に塗布し、得られた塗膜に対して乾燥処理又は硬化処理を施すことにより、層(s1)を形成する。次いで、この層(s1)の表面に対して、前述の表面処理を施すことにより、前駆体樹脂を樹脂(S”)とし、樹脂(S”)を含む樹脂層を形成する。
(c)樹脂(S”)を含む樹脂フィルムや樹脂シートをそのまま樹脂層として用いる。
(d)樹脂(S”)を適当な有機溶媒で希釈して塗布液を調製し、これを、支持体、工程シート、剥離シート等の表面に塗布し、得られた塗膜に対して乾燥処理又は硬化処理を施すことにより、樹脂層を形成する。
【0023】
なお、樹脂層は、本発明の効果を損なわない範囲で、樹脂(S)以外の成分を含有していてもよい。
樹脂(S)以外の成分としては、分子接着剤層との密着性を阻害しない成分及び含有量であれば適切なものを使用してもよい。そのようなものとして紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、着色剤等が挙げられる。
【0024】
樹脂層中の樹脂(S)の含有量は、当該樹脂層の全質量(100質量%)を基準として、好ましくは20~100質量%、より好ましくは30~100質量%、更に好ましくは50~100質量%、より更に好ましくは70~100質量%、特に好ましくは80~100質量%である。
なお、本明細書では、樹脂層中の樹脂(S)の含有量は、樹脂層の形成材料として、樹脂(S)を含む塗布液を用いる場合には、当該塗布液の有効成分の全量に対する樹脂(S)の含有量とみなすこともできる。
また、本明細書において、「有効成分」とは、塗布液等の溶液から、希釈溶媒を除いた成分を意味する。
【0025】
ここで、本発明の接着シートが有する樹脂層は、以下の要件(I)及び(II)を満たすように調整されている。
・要件(I):分子接着剤層が積層された側の樹脂層の表面(α)が、表面改質用物品の接触及び加圧による表面処理(W1)、並びに、エキシマ照射処理(W2)の少なくとも一方が施されて表面改質がなされている。
・要件(II):樹脂層の厚さが230μm以下である。
上記要件(I)及び(II)を満たすように樹脂層を調整することで、被着体との優れた接着力を効果的に発現させることができる一方で、被着体から除去する際には、湿熱処理や温水処理等の所定の処理によって、容易に剥離可能とすることができる。
【0026】
つまり、要件(I)で規定された処理(W1)及び(W2)の少なくとも一方の処理を樹脂層の表面(α)に対して施し、樹脂層の表面(α)に適切なダメージを与えることで、湿熱処理や温水処理によって、表面(α)のダメージを受けた部分に水蒸気や水が浸入し易くなり、その結果、容易に剥離可能とすることができる。
なお、上記要件(I)において、樹脂層の表面(α)は、処理(W1)のみが施された表面改質された表面であってもよく、処理(W2)のみが施された表面改質された表面であってもよく、処理(W1)及び(W2)の双方が施された表面改質された表面であってもよい。
【0027】
なお、要件(I)に記載の表面改質用物品の接触及び加圧による表面処理(W1)としては、JIS H0400:1998で定義されたサテン仕上げ、梨地仕上げ、ヘヤライン仕上げ、マット仕上げ、ゆず肌仕上げ、及びオレンジピール仕上げの少なくとも1つが施された表面(β)を有する表面改質物品を用いて、当該表面改質物品の表面(β)を、前記樹脂層の表面(α)に対して接触及び加圧することによって行われることが好ましい。
そして、上記表面改質物品としては、梨地仕上げがなされた表面(β)を有する梨地ロールが好ましい。当該梨地ロールの表面(β)の十点平均粗さ(Rzjis)は、好ましくは5~100μm、より好ましくは10~80μm、更に好ましくは12~50μm、より更に好ましくは15~40μmである。なお、十点平均粗さ(Rzjis)は、JIS B0031:2003に準拠して測定された値を意味する。
【0028】
また、要件(I)の記載のエキシマ照射処理(W2)としては、特に制限は無いが、一般的なエキシマ照射装置を用いて、樹脂層の表面(α)に対して、エキシマレーザーを照射して行うことができる。
処理(W2)で照射するエキシマレーザーとしては、種々のものを用いることができるが、エキシマレーザーに用いられる放電用ガスとしては、例えば、Xe(発光波長:172nm)、Ar(発光波長:126nm)、Kr(発光波長:146nm)、F(発光波長:157nm)、ArBr(発光波長:165nm)、ArF(発光波長:193nm)、KrCl(発光波長:222nm)、XeI(発光波長:253nm)、XeCl(発光波長:308nm)、XeBr(発光波長:283nm)、KrBr(発光波長:207nm)等が挙げられる。これらの中でも、表面(α)のダメージを効率的に与え得るという観点から、エキシマレーザーに用いられる放電用ガスは、Xe、Ar、又はKrが好ましく、Xeがより好ましい。
【0029】
エキシマレーザーの波長は、好ましくは100~350nm、より好ましくは110~200nm、更に好ましくは120~180nmである。
エキシマレーザーの照射時間は、適宜調整することができるが、好ましくは1~300秒、より好ましくは1~180秒、更に好ましくは1~60秒である。
エキシマレーザーの樹脂層の表面(α)に対する照射距離としては、適宜調整することができるが、好ましくは0.1~10mm、より好ましくは0.5~5mmである。
【0030】
また、本発明の粘着シートでは、要件(II)のとおり、樹脂層の厚さを230μm以下としている。このように樹脂層の厚さを230μm以下とすることで、圧着した被着体から除去する際に、湿熱処理や温水処理によって、樹脂層の表面(α)のダメージ部分に水蒸気や水が浸入しにくくなってしまう現象を抑制することができる。つまり、要件(II)を満たすように樹脂層の厚さを制限することで、湿熱処理や温水処理の処理によって、被着体から容易に剥離可能な粘着シートとなり得る。
【0031】
上記観点から、要件(II)で規定する樹脂層の厚さは、230μm以下であるが、好ましくは210μm以下、より好ましくは200μm以下、更に好ましくは190μm以下、より更に好ましくは180μm以下である。
また、比較的表面が粗い被着体に対しても、密着性が良好で、優れた接着力が発現し得る粘着シートとする観点から、要件(II)で規定する樹脂層の厚さは、好ましくは2μm以上、より好ましくは5μm以上、更に好ましくは10μm以上、より更に好ましくは15μm以上、特に好ましくは20μm以上である。
つまり、要件(II)で規定する樹脂層の厚さは、好ましくは2~230μm、より好ましくは5~210μm、更に好ましくは10~200μm、より更に好ましくは15~190μm、特に好ましくは20~180μmである。
なお、本明細書において、樹脂層の厚さは、実施例に記載の方法に基づき測定した値を意味する。
【0032】
本発明の一態様の接着シートにおいて、樹脂層の23℃におけるヤング率は、被着体との接着性により優れると共に、被着体から除去する際には、所定の処理によって容易に剥離可能となる接着シートとする観点から、好ましくは1.0×10Pa以上、より好ましくは1.0×10Pa以上、更に好ましくは1.0×10Pa以上、より更に好ましくは5.0×10Pa以上であり、また、好ましくは1.0×1012Pa以下、より好ましくは1.0×1011Pa以下、更に好ましくは1.0×1010Pa以下である。
なお、本明細書において、樹脂(S)のヤング率は、実施例に記載の方法に基づき測定した値を意味する。
【0033】
<分子接着剤層>
本発明の接着シートを構成する分子接着剤層は、分子接着剤を含有する層である。
そして、分子接着剤は、アミノ基、アジド基、メルカプト基、イソシアネート基、ウレイド基及びエポキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の反応性基(Zα)と、シラノール基、及び加水分解反応によりシラノール基を生成させる基からなる群から選ばれる少なくとも1種の反応性基(Zβ)とを有する。
【0034】
本発明の接着シートにおいて、分子接着剤層の一方の表面は、前記樹脂層と固定された面であり、他方の表面は、被着体と接着される面である。
本発明の一態様において、分子接着剤層は、分子接着剤が有する反応性基(Zα)と、樹脂層中の樹脂(S)が有する反応性部分構造(Zγ)との化学結合により、分子接着剤が、樹脂層に化学的に固定されてなることが好ましい。この場合、樹脂層と分子接着剤層との優れた層間密着性を発現することができる。
なお、当該化学結合としては、共有結合、水素結合、イオン結合、分子間力等が挙げられるが、共有結合が好ましい。
【0035】
一方で、分子接着剤が有する反応性基(Zβ)となり得る、加水分解反応によりシラノール基を生成させる基としては、例えば、Si-Xで表される部分構造を有する基が挙げられる。
としては、加水分解反応で遊離する基であればよく、例えば、ヒドロキシ基メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基等の炭素数1~10のアルコキシ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;が挙げられる。
【0036】
分子接着剤中の反応性基(Zβ)は、主に、本発明の接着シートを被着体に接着する際に、被着体との間で化学結合を形成する際に利用される。したがって、本発明の接着シートは、これらの基との反応性が高い基を表面に有する被着体に対して好ましく用いられる。
具体的には、当該被着体は、ガラス、無機酸化物、及びシリコーン樹脂から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。なお、好適な被着体の態様の詳細は、後述のとおりである。
【0037】
分子接着剤としては、下記一般式(1)で示される化合物が好ましい。
-A-Si(X)(Y)3-a (1)
上記一般式(1)中、Rは、反応性基(Zα)、又は、反応性基(Zα)を1以上有する1価の基(ただし、当該1価の基は、反応性基(Zα)そのものである場合を除く。)を表す。
Aは2価の有機基を表す。Xは、それぞれ独立に、ヒドロキシ基、炭素数1~10のアルコキシ基又はハロゲン原子を表す。Yは、それぞれ独立に、炭素数1~20の炭化水素基を表す。aは、1~3の整数を表す。
【0038】
として選択し得る、「反応性基(Zα)を1以上有する1価の基」としては、例えば、下記式(2)~(4)のいずれかで表される基が挙げられる。
【0039】
【化1】
【0040】
式(2)~(4)中、*は、Aとの結合位置を表す。
式(2)中、Rは、炭素数1~10の2価の炭化水素基を表し、炭素数2~6の2価の炭化水素基であることが好ましい。
として選択し得る、2価の炭化水素基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基等の炭素数1~10(好ましくは炭素数2~6)のアルキレン基;o-フェニレン基、m-フェニレン基、p-フェニレン基、メチルフェニレン基、ジメチルフェニレン基、トリメチルフェニレン基、エチルフェニレン基、ジエチルフェニレン基、ナフチレン基等の炭素数6~10(好ましくは炭素数6)のアリーレン基;が挙げられる。
【0041】
式(2)中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1~20の炭化水素基を表し、炭素数1~10の炭化水素基であることが好ましい。
及びRとして選択し得る、当該炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等の炭素数1~20(好ましくは炭素数1~10)のアルキル基;ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、イソプロペニル基、3-ブテニル基、4-ペンテニル基、5-ヘキセニル基等の炭素数2~20(好ましくは炭素数2~10)のアルケニル基;エチニル基、プロパルギル基、ブチニル基等の炭素数2~20(好ましくは炭素数2~10)のアルキニル基;フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、ビフェニル基、トリフェニル基等の炭素数6~20(好ましくは炭素数6~10)のアリール基;等が挙げられる。
【0042】
式(4)中のZは、単結合、又は、-N(R)-で表される2価の基を表す。
は、水素原子、又は炭素数1~20の炭化水素基を表す。Rとして選択し得る、当該炭化水素基としては、上述のR及びRとして選択し得る炭化水素基と同じものが挙げられ、好適な態様も同じである。
式(4)中のR及びRは、それぞれ独立に、反応性基(Zα)又は前記式(2)で示される基を表す。
【0043】
前記一般式(1)中のAとして選択し得る、2価の有機基としては、例えば、置換基を有していてもよい炭素数1~20のアルキレン基、置換基を有していてもよい炭素数2~20のアルケニレン基、置換基を有していてもよい炭素数2~20のアルキニレン基、置換基を有していてもよい炭素数6~20のアリーレン基;等が挙げられる。
【0044】
Aとして選択し得る、炭素数1~20のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基等が挙げられる。
Aとして選択し得る、炭素数2~20のアルケニレン基としては、例えば、ビニレン基、プロペニレン基、ブテニレン基、ペンテニレン基等が挙げられる。
Aとして選択し得る、炭素数2~20のアルキニレン基としては、例えば、エチニレン基、プロピニレン基等が挙げられる。
Aとして選択し得る、炭素数6~20のアリーレン基としては、o-フェニレン基、m-フェニレン基、p-フェニレン基、2,6-ナフチレン基、1,5-ナフチレン基等が挙げられる。
【0045】
また、上述の前記アルキレン基、前記アルケニレン基、及び前記アルキニレン基が有していてもよい置換基としては、例えば、フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1~6(好ましくは炭素数1~3)のアルコキシ基;メチルチオ基、エチルチオ基等の炭素数1~6(好ましくは炭素数1~3)のアルキルチオ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の炭素数2~7(好ましくは炭素数2~4)のアルコキシカルボニル基;等が挙げられる。
【0046】
前記アリーレン基の置換基としては、例えば、シアノ基;ニトロ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基等の炭素数1~6(好ましくは炭素数1~3)のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1~6(好ましくは炭素数1~3)のアルコキシ基;メチルチオ基、エチルチオ基等の炭素数1~6(好ましくは炭素数1~3)のアルキルチオ基;等が挙げられる。
これらの置換基は、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基及びアリーレン基等の基において任意の位置に結合していてよく、同一若しくは相異なって複数個が結合していてもよい。
【0047】
前記一般式(1)中のXとして選択し得る、炭素数1~10のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基等が挙げられる。
Xとして選択し得る、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。
Yとして選択し得る、炭素数1~20の炭化水素基としては、R及びRとして選択し得る炭化水素基と同じものが挙げられ、好適な態様も同じである。
【0048】
前記一般式(1)中のRがアミノ基である分子接着剤としては、例えば、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルジメトキシメチルシラン、3-アミノプロピルジエトキシメチルシラン、[3-(N,N-ジメチルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン、[3-(フェニルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン、トリメチル[3-(トリエトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロリド、トリメチル[3-(トリメトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロリド等が挙げられる。
【0049】
前記一般式(1)中のRがアジド基である分子接着剤としては、例えば、(11-アジドウンデシル)トリメトキシシラン、(11-アジドウンデシル)トリエトキシシラン等が挙げられる。
【0050】
前記一般式(1)中のRがメルカプト基である分子接着剤としては、例えば、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン等が挙げられる。
【0051】
前記一般式(1)中のRがイソシアネート基である分子接着剤としては、例えば、3-(トリメトキシシリル)プロピルイソシアネート、3-(トリエトキシシリル)プロピルイソシアネート等が挙げられる。
【0052】
前記一般式(1)中のRがウレイド基である分子接着剤としては、例えば、3-ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0053】
前記一般式(1)中のRがエポキシ基である分子接着剤としては、例えば、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等が挙げられる。
なお、Rがエポキシ基である分子接着剤には、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のように、上記式(3)で表される反応性基(Zα)を有する化合物も含まれる。
【0054】
前記一般式(1)中のRが反応性基(Zα)を1以上有する1価の基である分子接着剤としては、例えば、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、3-[2-(2-アミノエチルアミノ)エチルアミノ]プロピルトリメトキシシラン、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルトリエトキシシラン、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルジメトキシメチルシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、及び下記式(5)~(13)で表される化合物等が挙げられる。
【0055】
【化2】
【0056】
これらの化合物の中で、前記一般式(1)で表される化合物としては、Rが前記式(4)で示される基である化合物が好ましく、前記式(5)~(13)で表される化合物がより好ましく、前記式(5)~(10)で表される化合物が更に好ましい。
これらの化合物においては、Rにトリアジン環を有する。トリアジン環を有する分子接着剤は、樹脂層上により効率よく固定される傾向があり、形成される分子接着剤層は、樹脂層との層間密着性にも優れる。
【0057】
これらの分子接着剤は、シランカップリング剤として公知の化合物を用いることができる。また、Rが式(4)で示される基である化合物は、WO2012/046651号、WO2012/043631号、WO2013/186941号等に記載の方法に従って合成することができる。
【0058】
本発明に一態様で用いる分子接着剤は、当該分子接着剤が有する反応性基(Zα)と、樹脂(S)の反応性部分構造(Zγ)との組み合わせを考慮して、適宜選択することができる。
【0059】
例えば、分子接着剤が、反応性基(Zα)としてアジド基を有するものである場合、後述のとおり、光の照射によってアジド基は活性化される。この場合、反応中間体であるナイトレンは、炭素-炭素単結合、炭素-炭素二重結合、及び炭素-水素単結合と反応し得る。そのため、反応性基(Zα)として、アジド基を有する分子接着剤を用いる場合、樹脂(S)は、炭素-炭素単結合、炭素-炭素二重結合、及び炭素-水素単結合から選ばれる少なくとも1種の反応性部分構造(Zγ’)を有する樹脂(S’)を含むことが好ましい。
【0060】
また、反応性基(Zα)が、アミノ基、メルカプト基、イソシアネート基、ウレイド基及びエポキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1種を有する分子接着剤を用いる場合、樹脂層は、反応性部分構造(Zγ)として、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アルデヒド基、及びアミノ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の反応性部分構造(Zγ”)を有する樹脂(S”)を含むことが好ましい。
本発明の一態様において、分子接着剤が有する反応性基(Zα)と、樹脂(S)が有する反応性部分構造(Zγ)の好ましい組み合わせ〔反応性基(Zα)/反応性部分構造(Zγ)〕としては、(アミノ基/ヒドロキシ基)、(アミノ基/カルボキシ基)、(イソシアネート基/ヒドロキシ基)、(イソシアネート基/カルボキシ基)、(ヒドロキシ基/カルボキシ基)等が挙げられる。
【0061】
本発明の一態様において、分子接着剤層の形成方法は特に限定されない。
例えば、分子接着剤を含有する分子接着剤溶液を調製し、この溶液を用いて公知の方法により、予め形成した樹脂層の表面上に、当該溶液を接触させ、分子接着剤層を形成することができる。
【0062】
分子接着剤溶液を調製する際に用いる溶媒は、分子接着剤の種類に応じて適宜選択される。
本発明の一態様で用いる溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール等のアルコール系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;塩化メチレン等の含ハロゲン化合物系溶媒;ブタン、ヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒;テトラヒドロフラン、ブチルエーテル等のエーテル系溶媒;ベンゼン、トルエン等の芳香族化合物系溶媒;N,N-ジメチルホルムアミド、メチルピロリドン等のアミド系溶媒;水;等が挙げられる。
これらの溶媒は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0063】
分子接着剤溶液中の分子接着剤の濃度は、好ましくは0.005~10.000mmol/L、より好ましくは0.050~5.000mmol/L、更に好ましくは0.100~4.000mmol/L、より更に好ましくは0.150~3.000mmol/Lである。
分子接着剤の濃度を0.005mmol/L以上であれば、分子接着剤を樹脂層の表面上に、適当な割合で接触させて効率的に形成することができる。また10.000mmol/L以下であれば、分子接着剤溶液の意図しない反応を抑制することができ、溶液の安定性に優れる。
【0064】
分子接着剤層の形成方法としては、例えば、浸漬法、塗布法、噴霧法等が挙げられるが、生産性の観点から、塗布法が好ましい。
塗布方法としては、例えば、スピンコート法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ディップコート法、カーテンコート法、ダイコート法、グラビアコート法等が挙げられるが、バーコート法、ディップコート法、又はグラビアコート法が好ましい。
【0065】
塗布方法を選択した場合は、自然乾燥や乾燥機構への投入による乾燥処理が必要となるが、乾燥機構への投入による乾燥処理を行うことが生産性の向上の観点から好ましい。
当該乾燥機構としては、例えば、エアーオーブンといったバッチ式の乾燥機構、並びにヒートロール、ホットエアースルー機構(開放式の乾燥炉内を被乾燥体が移動、通過しながら、送風を受けつつ加熱・乾燥される設備等)といった連続式の乾燥機構等が挙げられる。
なお、これら乾燥機構の一部としても用いることができる装置、例えば、高周波加熱、オイルヒーター等の熱媒循環式ヒーター、及び遠赤外線式ヒーター等のヒーター自体も乾燥機構として用いることができる。
これらの中でも、生産性の向上の観点から、ホットエアースルー機構が好ましい。
当該乾燥機構で調整される乾燥温度は、通常20~250℃、好ましくは50~200℃、より好ましくは65~150℃、更に好ましくは80~120℃である。
乾燥時間は、通常1秒間~120分間、好ましくは5秒間~10分間、より好ましくは10秒間~5分間、更に好ましくは20秒間~3分間である。
【0066】
分子接着剤層においては、分子接着剤の反応性基(Zα)と樹脂(S)の反応性部分構造(Zγ)との化学結合により、分子接着剤が樹脂層に固定されていると考えられる。
したがって、分子接着剤層を形成する際は、通常、分子接着剤を樹脂層に固定する処理(以下、固定処理ということがある。)が行われる。固定処理は、分子接着剤の反応性基(Zα)の特性に応じて適宜選択することができる。通常は、分子接着剤を樹脂層上に塗布することにより化学結合が生成し、加熱することにより化学結合の生成が促進するため、生産性の向上の観点から、加熱処理を行うことが好ましい。
加熱温度は、通常40~250℃、好ましくは60~200℃、より好ましくは80~120℃である。
加熱時間は、通常1秒間~120分間、好ましくは1分間~60分間、より好ましくは1分間~30分間である。
加熱方法としては、特に限定されず上述の乾燥機構と同様の機構及び装置を用いることができる。
【0067】
なお、本発明の一態様で用いる分子接着剤が、反応性基(Zα)として、アジド基のような光反応性を有する基である場合、固定処理としては光照射処理を行うことが好ましい。光照射処理にて照射する光としては、紫外線が好ましい。
この場合、(Zα)と(Zγ)との反応性を向上させる観点から、乾燥処理の後に、固定処理として、光照射処理を行うことが好ましい。
紫外線の照射は、水銀ランプ、メタルハライドランプ、紫外線LED、無電極ランプ等の光源を使用した紫外線照射装置を用いて行うことができる。
【0068】
分子接着剤層の形成時において、塗布、浸漬、噴霧等の樹脂層との接触処理、乾燥処理、及び固定処理は、複数回繰り返し行ってもよい。
【0069】
分子接着剤層は、本発明の効果を損なわない範囲で、分子接着剤以外の成分を含有していてもよい。分子接着剤以外の成分としては、触媒等が挙げられる。
【0070】
分子接着剤層中の分子接着剤の含有量は、接着性に優れた接着シートとする観点から、当該分子接着剤層の全質量(100質量%)を基準として、好ましくは50~100質量%、より好ましくは70~100質量%、更に好ましくは90~100質量%、より更に好ましくは95~100質量%である。
なお、本明細書では、分子接着剤層中の分子接着剤の含有量は、分子接着剤層の形成材料として、分子接着剤を含む分子接着剤溶液を用いる場合には、当該分子接着剤溶液の有効成分の全量に対する分子接着剤の含有量とみなすこともできる。
【0071】
本発明の一態様の接着シートにおいて、分子接着剤層の厚さは、好ましくは200nm以下、より好ましくは150nm以下、更に好ましくは100nm以下、より更に好ましくは50nm以下であり、また、好ましくは1nm以上である。
なお、本明細書において、分子接着剤層の厚さは、実施例に記載の方法に基づき測定した値を意味する。
【0072】
<支持体>
本発明の一態様の接着シートは、さらに支持体を有していてもよい。
当該支持体は、接着シートの自己支持性を補うものであり、支持体を有する接着シートとすることで、取扱性がより良好となる。
なお、本発明の一態様の接着シートにおいて、樹脂層がある程度の厚さを有する場合は、樹脂層は支持体としての機能も有するため、支持体を設けなくてもよい。
【0073】
支持体としては、例えば、上質紙、アート紙、コート紙、クラフト紙、グラシン紙等の紙基材;これらの紙基材にポリエチレン等の熱可塑性樹脂をラミネートして得られるラミネート基材;ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリウレタンフィルム、エチレン酢酸ビニルフィルム、アイオノマー樹脂フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリイミドフィルム、フッ素樹脂フィルム等の樹脂フィルム基材;アルミニウム、銅、銀、金、鉄、及びこれらを2種以上含む合金からなる金属膜;等が挙げられる。
なお、支持体は、単層であってもよく、2層以上を積層してなる複層であってもよい。
【0074】
これらの中でも、本発明の一態様で用いる支持体は、湿熱処理又は温水処理によってより剥離し易い粘着シートとする観点から、紙基材、樹脂フィルム又はラミネート基材が好ましく、樹脂フィルムがより好ましい。
【0075】
本発明の一態様の接着シートにおいて、支持体の厚さは、好ましくは1~1000μm、より好ましくは5~800μm、更に好ましくは10~500μm、より更に好ましくは20~300μmである。
【0076】
<保護フィルム>
本発明の一態様の接着シートは、さらに保護フィルムを有していてもよい。
保護フィルムは、分子接着剤層の被着体と圧着される表面に積層され、接着シートの製造後、使用されるまでの間、分子接着剤層を保護する役割を有する。
【0077】
このような樹脂フィルムとしては、炭化水素系樹脂フィルムが好ましい。
当該炭化水素系樹脂フィルムを構成する炭化水素系樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(4-メチル-1-ペンテン)等のポリオレフィン;シクロブタン構造、シクロペンタン構造、シクロヘキサン構造、シクロヘプタン構造、ノルボルネン環構造等の炭素数4~10の脂環構造を有するポリシクロオレフィン;等が挙げられる。
【0078】
本発明の一態様の接着シートにおいて、保護フィルムの厚さは、好ましくは1~100μm、より好ましくは5~60μm、特に好ましくは10~45μmである。
【0079】
<接着シートの製造方法>
本発明の一態様の接着シートの製造方法は、特に限定されないが、上記方法に従って、樹脂層上に分子接着剤層を形成し、次いで、形成された分子接着剤層上に保護フィルムを重ねることにより製造することが好ましい。
【0080】
〔接着シートの使用方法〕
本発明の一態様の接着シートは、被着体に圧着して、当該被着体と接着される。そして、被着体に圧着後に、湿熱処理又は温水処理の少なくとも一方の処理によって剥離可能となる。
そのため、本発明の一態様の接着シートの使用方法としては、下記操作(1)~(2)を有することが好ましい。
・操作(1):前記接着シートを前記被着体に圧着する操作。
・操作(2):前記被着体に圧着された前記接着シートに対して、湿熱処理又は温水処理の少なくとも一方の処理を行った後、前記被着体から前記接着シートを剥離する操作。
以下、本発明の接着シートの使用方法に沿って、当該接着シートの特性について説明する。
【0081】
<操作(1)>
本発明の一態様の接着シートの接着対象となる被着体としては、特に限定はされない。
ただし、接着シートの分子接着剤層と被着体との間の接着は、通常、分子接着剤が有する反応性基(Zβ)が、被着体を構成する化合物中の官能基と反応し、化学結合が形成することにより行われる。
そのため、本発明の一態様の接着シートは、分子接着剤層中の分子接着剤が有する反応性基(Zβ)と反応性を有する基が表面に有する被着体に対して、特に強固な接着力を発現することができる。
【0082】
具体的に好適な被着体としては、ガラス、無機酸化物、及びシリコーン樹脂から選ばれる1種以上を含むものが挙げられる。
なお、被着体の表面に、分子接着剤が有する反応性基(Zβ)と反応性を有する基が存在しない場合であっても、被着体の表面に対して、表面処理を施して、反応性基(Zβ)との反応性を有する基を導入することで、本発明の一態様の接着シートとの強固な接着性を発現させることもできる。
【0083】
圧着する際の圧力は、通常0.1~3.0MPa、好ましくは0.5~1.5MPaである。
【0084】
本発明の一態様において、圧着後における、接着シートと被着体との接着力(F)は、好ましくは10N/25mm以上、より好ましくは20N/25mm以上、更に好ましくは25N/25mm以上、より更に好ましくは40N/25mm以上である。
なお、本明細書において、接着シートと被着体との接着力は、JIS Z0237:2000に準拠した引き剥がし角度180°により測定した値であって、具体的には実施例に記載の方法に基づき測定した値を意味する。
【0085】
<操作(2)>
本発明の一態様の接着シートは、前記被着体に圧着後、湿熱処理又は温水処理の少なくとも一方の処理によって剥離可能となる。
なお、本発明の一態様において、湿熱処理及び温水処理の双方を行ってもよく、湿熱処理又は温水処理の一方のみを行ってもよい。
湿熱処理又は温水処理のどちらを行うか、もしくは双方の処理を行うかの判断は、接着シートに用いている樹脂層の樹脂(S)及び分子接着剤層の分子接着剤の種類に応じて選択される他、被着体の種類や大きさ、作業性等も考慮して選択することができる。
【0086】
前記湿熱処理は、前記被着体に圧着された前記接着シートを、40℃以上(好ましくは40~100℃、より好ましくは50~90℃、更に好ましくは60~80℃)、相対湿度80%以上(好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上)の高温高湿環境下に晒す処理であることが好ましい。
上記の接着シートを高温高湿環境下に晒す方法としては、例えば、当該高温高湿環境下に調整した密閉された空間内に当該接着シートを静置する方法、水蒸気のスチームを当該接着シートに照射して当該高温高湿環境下とする方法等が挙げられる。
【0087】
なお、湿熱処理又は温水処理の処理時間としては、具体的な湿熱処理又は温水処理の態様に応じて適宜設定することができるが、被着体から接着シートの剥離をより確実に行う観点から、好ましくは2秒以上、より好ましくは10秒以上、より好ましくは1分以上、更に好ましくは1時間以上、より更に好ましくは6時間以上、特に好ましくは12時間以上であり、また、好ましくは14日以内、より好ましくは10日以内、より更に好ましくは7日以内である。
【0088】
また、前記温水処理は、前記被着体に圧着された前記接着シートを、40℃以上(好ましくは60℃以上、より好ましくは70℃以上、更に好ましくは80℃以上)の温水に浸漬する処理であることが好ましい。
温水処理での浸漬時間としては、被着体からの接着シートの剥離をより確実に行う観点から、好ましくは1秒以上である。また、作業効率の観点から浸漬時間は、短い方が好ましく、具体的には、好ましくは24時間以下、より好ましくは9時間以下、更に好ましくは6時間以下である。
【0089】
本発明の一態様において、前記接着シートを前記被着体に圧着後において、前記処理前の接着力(F)と、前記処理後の接着力(F)との比〔F/F〕は、好ましくは0~0.70、より好ましくは0~0.50、更に好ましくは0~0.20、より更に好ましくは0~0.10、特に好ましくは0~0.05である。
【0090】
また、前記処理後の接着力(F)としては、好ましくは0~9.0N/25mm、より好ましくは0~7.0N/25mm、更に好ましくは0~3.0N/25mm、より更に好ましくは0~1.5N/25mm、特に好ましくは0~1.0N/25mmである。
なお、本明細書において、例えば、前記温水処理の途中で接着シートが被着体から剥離してしまい、そもそも測定ができない場合は、前記処理後の接着力(F)は「0N/25mm」とみなすものとする。
【0091】
なお、本発明の一態様の接着シートは、被着体に圧着後に、前記処理により剥離可能とすることができると共に、剥離する際には、被着体を破壊することなく容易に剥離することができ、剥離後の被着体の表面は、接着シートの一部が残存するといった弊害を回避し得る。
【0092】
そのため、本発明の好適な一態様の接着シートは、貼付した当該接着シートを剥離した後の被着体の表面には、目視及び触診で確認可能な前記接着シートの残渣物が存在しないことが好ましい。
上記の「触診」による判断は、剥離後の被着体の表面に対して、JIS Z0237:1991に準拠して測定した「プローブタック値」の値を基に判断する。つまり、当該プローブタック値が50mN/5mmΦ未満であれば、「タックが無い」として、接着シートの残渣物が存在しないと判断する。
上記の「目視」及び「触診」による具体的な判断方法については、後述の実施例に記載のとおりである。
【実施例
【0093】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は、以下の実施例になんら限定されるものではない。
各例中の部及び%は、特に断りのない限り、質量基準である。
【0094】
また、以下の実施例及び比較例の記載における、各種物性値の測定法は、以下のとおりである。
(1)樹脂層の厚さ
JIS K7130に準拠し、定圧厚さ測定器(株式会社テクロック製、製品名「PG-02」)を使用して測定した。
(2)樹脂層のヤング率
動的粘弾性測定装置(ティー・エイ・インスツルメンツ社製、製品名「DMA Q800」)を用いて測定した。
(3)接着力
測定対象となるサンプルを23℃、50%RH(相対湿度)の環境下24時間静置後、JIS Z0237:1991に基づき、180°引き剥がし法により、引っ張り速度300mm/分にて測定した。
【0095】
〔製造例1-1〕
WO2012/046651号に記載の方法に従って、6-(3-トリエトキシシリルプロピル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジアジド(前記式(10)で示される化合物、以下「PTES」ともいう)を濃度0.26mmol/Lで含有するエタノール溶液からなる分子接着剤溶液(1)を得た。
【0096】
〔製造例1-2〕
製造例1と同様にして、PTESを濃度0.78mmol/Lで含有するエタノール溶液からなる分子接着剤溶液(2)を得た。
【0097】
〔製造例1-3〕
3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシランを濃度2.25mmol/Lで含有するエタノール溶液からなる分子接着剤溶液(3)を得た。
【0098】
〔製造例1-4〕
3-[2-(2-アミノエチルアミノ)エチルアミノ]プロピルトリメトキシシランを濃度1.88mmol/Lで含有するエタノール溶液からなる分子接着剤溶液(4)を得た。
【0099】
以下の製造例2-1等で使用した、JIS H0400:1998で定義された梨地仕上げが施された表面(β)を有する梨地ロールの詳細を以下に示す。
・表面(β)の十点平均粗さ(Rzjis):25.4μm(JIS B0031:2003に準拠して測定した値、基準高さ=2.5mm)
・梨地ロールの材質:アルミニウム製硬質70-μメッキ仕上げ
・梨地ロールの直径:120mm
・梨地ロールの重さ:5kg
〔製造例2-1〕
無延伸ポリプロピレンシート(東洋紡株式会社製、製品名「P1011」、厚さ50μm)の一方の表面に対して、上記の梨地ロールを接触及び加圧して10往復し、表面改質を施した表面(α)を有する厚さ50μmの樹脂フィルム(1)を得た。
【0100】
〔製造例2-2〕
無延伸ポリプロピレンシート(株式会社プライムポリマー製、製品名「F-730NV」のホモポリプロピレンを、厚さ180μmのシートとしたもの)の一方の表面に対して、エキシマ照射機(浜松ホトニクス株式会社製、製品名「FLAT EXCIMER EX-mini」)を用いて、波長172nmのエキシマレーザー(放電用ガス:Xe)を、照射距離1mm、照射時間5秒間にて照射し、表面改質を施した表面(α)を有する厚さ180μmの樹脂フィルム(2)を得た。
【0101】
〔製造例2-3〕
無延伸ポリプロピレンシート(MRF7g/10min、溶融粘度167℃のホモポリプロピレンを、厚さ180μmのシートとしたもの)の一方の表面に対して、製造例2-2と同じ条件にて、波長172nmのエキシマレーザー(放電用ガス:Xe)を照射し、表面改質を施した表面(α)を有する厚さ180μmの樹脂フィルム(3)を得た。
【0102】
〔製造例2-4〕
シクロオレフィンポリマーを成形してなる無延伸樹脂フィルム(日本ゼオン株式会社製、製品名「ゼオノア ZF16」、厚さ40μm)の一方の表面に対して、上記の梨地ロールを接触及び加圧して5往復し、表面改質を施した表面(α)を有する厚さ40μmの樹脂フィルム(4)を得た。
【0103】
〔製造例2-5〕
ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート-イソフタレート共重合体(PCTA)を成形してなる無延伸樹脂フィルム(イーストマンケミカル社製ポリエステル、製品名「AN007」を厚さ77μmにシート化したもの)の一方の表面に対して、上記の梨地ロールを接触及び加圧して5往復し、表面改質を施した表面(α)を有する厚さ77μmの樹脂フィルム(5)を得た。
【0104】
なお、以下の比較例1~2では、無延伸ポリプロピレンシート(東洋紡株式会社製、製品名「P1011」、厚さ50μm)を、表面改質を施さずに、樹脂フィルム(1a)として用いた。
【0105】
〔実施例1~8、比較例1〕
表1に示す種類の樹脂フィルムの表面改質を施した表面(α)に、表1に種類の分子接着剤溶液をディッピング法にて5秒間浸漬塗布し、得られた塗膜を100℃で30秒乾燥させた。
次いで、紫外線照射装置(ヘレウス株式会社製、製品名「ライトハンマー 10 MARK II」、光源:水銀ランプ)を用いて、乾燥後の塗膜に紫外線を照射することにより固定処理を行い、分子接着剤層を形成した。
なお、紫外線照射条件は、照度84mW/cm、光量29mJ/cmとし、当該照度及び光量は照度・光量計(EIT社製、製品名「UV Power Puck II」)を用いてUVCの領域の照度及び光量を測定した。
そして、形成した分子接着剤層の表出している表面上に、保護フィルムとして、ポリオレフィン系フィルム(三井化学東セロ株式会社製、製品名「オピュラン」、厚さ25μm)を積層し、接着シートを作製した。
【0106】
作製した接着シートを用いて、以下の測定及び評価を行った。これらの結果を表1に示す。
【0107】
〔処理前後の接着力の測定〕
(1)試験サンプルの作製
被着体としてガラス板(日本板硝子株式会社製、製品名「ソーダライムガラス」)を使用した。
実施例及び比較例で作製した接着シートに、0.5MPaの圧力を面方向にかけて3日間静置した。静置した接着シートを縦25mm×横300mmの大きさに切断し、保護フィルムを取り除き、露出した分子接着剤層の表面を、被着体であるガラスと接触させ、120℃、0.85MPaで10分間プレスし、試験サンプルを作製した。
(2)処理前の接着力の測定
上記(1)で作製した試験サンプルについて、上述の接着力の測定方法に基づき、処理前の接着力Fを測定した。
(3)湿熱処理後の接着力F1Aの測定
上記(1)で作製した試験サンプルを、60℃、相対湿度90%の密閉された空間内に入れ、7日間静置した。
静置後の試験サンプルについて、上述の接着力の測定方法に基づき、湿熱処理後の接着力F1Aを測定した。また、湿熱処理前後での接着力の比〔F1A/F〕も算出した。
(4)温水処理後の接着力F1Bの測定
上記(1)で作製した試験サンプルを、80℃の温水に当該試験サンプルがすべて浸漬するように投入した状態で、6時間静置した。
静置後の試験サンプルについて、上述の接着力の測定方法に基づき、温水処理後の接着力F1Bを測定した。また、温水処理前後での接着力の比〔F1B/F〕も算出した。
なお、温水処理の途中ですでに被着体から接着シートが剥離してしまった場合は、温水処理後の接着力F1Bは「0N/25mm」とした。
【0108】
〔剥離後の被着体の表面の残渣物の有無の評価〕
上記「処理前後の接着力の測定」の(3)及び(4)の測定後の、湿熱処理及び温水処理を行って接着シートを剥離したそれぞれの被着体の表面を目視で観察すると共に、上述の測定方法に基づき、当該被着体の表面のプローブタック値を測定した。そして、以下の基準に基づき、剥離後の被着体の表面の残渣物の有無を評価した。
・A:目視による観察において、当該表面には残渣物の存在は確認されず、また、当該被着体の表面のプローブタック値が50mN/5mmΦ未満であった。
・B:目視による観察において、当該表面には残渣物の存在は確認されなかったが、当該被着体の表面のプローブタック値は50mN/5mmΦ以上であった。もしくは、目視による観察において、当該表面には残渣物の存在は確認されたが、当該被着体の表面のプローブタック値は50mN/5mmΦ未満であった。
・C:目視による観察において、当該表面には残渣物の存在は確認され、また、当該被着体の表面のプローブタック値は50mN/5mmΦ以上であった。
【0109】
【表1】
【0110】
実施例1~8で作製した接着シートは、処理前は被着体との優れた接着力を有する一方で、温熱処理及び温水処理を行うことで、被着体から容易に剥離することができる結果となった。一方で、比較例1の接着シートは、温熱処理及び温水処理を行っても、接着力は低下せずに、被着体からの剥離は困難であった。