(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-16
(45)【発行日】2024-04-24
(54)【発明の名称】光モジュール
(51)【国際特許分類】
H01S 5/042 20060101AFI20240417BHJP
H01S 5/022 20210101ALI20240417BHJP
H01S 5/40 20060101ALI20240417BHJP
【FI】
H01S5/042 630
H01S5/022
H01S5/40
(21)【出願番号】P 2020086200
(22)【出願日】2020-05-15
【審査請求日】2023-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】519283819
【氏名又は名称】CIG Photonics Japan株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加賀谷 修
【審査官】百瀬 正之
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-199905(JP,A)
【文献】特開2007-286454(JP,A)
【文献】特開平10-051069(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0128290(US,A1)
【文献】特開2018-074057(JP,A)
【文献】特開2020-035945(JP,A)
【文献】特開2009-152472(JP,A)
【文献】特開2010-219716(JP,A)
【文献】特開2011-103418(JP,A)
【文献】特開2019-134056(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00-5/50
H01L 21/447-21/449
H01L 21/60-21/607
G02F 1/00-1/125
G02F 1/21-7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ半導体レーザ部及び光変調器部を備えた複数の半導体素子と、
前記複数の半導体素子を配置する搭載面を備えたチップキャリアと、
前記チップキャリアに前記光変調器部ごとに設けられ当該光変調器部へ駆動信号を伝送する伝送線路と、
前記搭載面に前記伝送線路ごとに配置され、前記駆動信号を終端する抵抗素子と、
前記搭載面に形成され、前記半導体レーザ部及び前記光変調器部それぞれの一方電極が接続される第一の導電性パタンと、
前記搭載面に前記半導体レーザ部ごとに配置され、直流電圧を供給される当該半導体レーザ部の他方電極にボンディングワイヤを介して一方電極を接続され、且つ当該半導体レーザ部が接続された前記第一の導電性パタンに他方電極を接続されたチップコンデンサと、
前記搭載面上にて前記第一の導電性パタンとは分離して形成され、前記抵抗素子の一方電極が直接、又は直流遮断コンデンサを介して接続される第二の導電性パタンと、
前記チップキャリアの前記搭載面とは反対側の面、又は前記チップキャリアの内層に設けられ、前記チップキャリアに形成された
第一の導電性バイアホールを介して前記第一の導電性パタン
と接続され、前記チップキャリアに形成された第二の導電性バイアホールを介して前記第二の導電性パタンと接続される第三の導電性パタンと、
を有
し、
分離して形成された前記第一の導電性パタン及び前記第二の導電性パタンは、前記第三の導電性パタンを介して互いに電気的に接続されていることを特徴とする光モジュール。
【請求項2】
前記伝送線路は、ボンディングワイヤにより前記光変調器部及び前記抵抗素子それぞれの他方電極に接続される信号線導体と、当該信号線導体に並行する接地導体とを含んで成る導波路であって、当該伝送線路の少なくとも一部にて、当該伝送線路に対応する前記半導体素子及び前記チップコンデンサが接続された前記第一の導電性パタンと、前記第三の導電性パタンとを前記接地導体に用いたグラウンデッドコプレーナ導波路をなし、
前記第一の導電性パタン上にて、前記半導体素子及び前記チップコンデンサは、対応する前記伝送線路の前記信号線導体に隣接する位置に配置されること、
を特徴とする請求項1に記載の光モジュール。
【請求項3】
前記搭載面上に第一の方向に沿ってn個(nは2以上の整数である。)の前記半導体素子が列をなし、
前記各伝送線路は前記第一の方向に直交する第二の方向に延在し、
前記列の端からj番目(jはn以下の任意の自然数である。)の前記半導体素子に対応して設けられる前記第一の導電性パタン、前記第二の導電性パタン及び前記信号線導体をそれぞれ、j番目の第一の導電性パタン、第二の導電性パタン及び信号線導体として、
前記j番目の第二の導電性パタンは、前記j番目の半導体素子に対して前記j番目の信号線導体とは反対側に配置され、
前記列の前記端からk番目(kはn-1以下の任意の自然数である。)の前記半導体素子に対応して設けられる前記第一の導電性パタン、前記第二の導電性パタン及び前記信号線導体をそれぞれ、k番目の第一の導電性パタン、第二の導電性パタン及び信号線導体として、
前記伝送線路は、前記k番
目の信号線導体の両側に前記接地導体として、前記k番目及びk+1番目の第一の導電性パタンが配置された区間と、前記k番目の第一の導電性パタン及び前記k+1番目の第二の導電性パタンが配置された区間とを有すること、
を特徴とする請求項2に記載の光モジュール。
【請求項4】
前記複数の半導体素子は、前記搭載面上にて、第一の方向に沿って列をなし、且つ当該第一の方向に交差する第二の方向における前記チップキャリアの一方端部に配置され、
前記伝送線路の入力端子は前記チップキャリアの前記第二の方向における他方端部に配置されること、
を特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1つに記載の光モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザ部及び光変調器部を備えた半導体素子が搭載面に配置されたチップキャリアを有する光モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ伝送用の光送受信機(光トランシーバ)は近年のブロードバンドネットワークの普及と共に高速化、小型・低コスト化が図られ、高速化に関しては現在ではビットレートが100ギガビット/秒[Gbit/s]のものが広く用いられるようになってきている。小型・低コスト化に関してはCFP MSA(Centum gigabit Form factor Pluggable Multi-Source Agreement)規格からCFP2,CFP4,QSFP28(各MSA規格)へとケース体積の縮小化・部品数の削減化が進んでいる。
【0003】
これらの光トランシーバには送信部に光変調器集積半導体レーザを用いる場合が多い。光変調器集積半導体レーザは半導体レーザダイオードからなる半導体レーザ部と光吸収型変調器(Electroabsorption modulator)からなる光変調器部とを1チップに集積した半導体素子である。高周波動作特性による選別や、TEC(thermoelectric coolers:熱電冷却素子)に搭載する都合により、光変調器集積半導体レーザはチップキャリアと呼ばれる小型の、主にセラミックからなる基板に搭載する。
【0004】
本技術分野の背景技術として下記特許文献1及び下記特許文献2がある。これらの文献では、光変調器部を駆動する変調信号が、本来、直流での動作が求められる半導体レーザ部の電位を変動する課題に関して述べられている。特に半導体レーザ部の利得が高い周波数領域、すなわち緩和振動周波数付近での電位変動の抑圧に関して述べられている。
【0005】
また別の背景技術として下記特許文献3がある。この文献では複数個のチップキャリアを並列に近接配置した場合、光変調器部を駆動する変調信号が隣接する他の光変調器部の電位を変動する課題に関して述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5475404号公報
【文献】特開2019-134056号公報
【文献】特開2017-199905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
伝送速度が100Gbit/s級の光トランシーバにおいては、小型化に対応するため、送信部に、4個の半導体レーザや光マルチプレクサを含む光学系などを集積した1個の光サブアセンブリ(Optical SubAssembly:OSA)を用いる場合が多い。低コスト化には当該光サブアセンブリにおいてチップキャリアを1個とし、その表面に4個の光変調器集積半導体レーザ、及びそれらの光変調器部を駆動する変調信号を伝送する4個の伝送線路を集積配置するのが好ましい。さらにチップキャリアの面積を縮小することができれば、小型化と低コスト化の両面で好ましい。一方、さらに伝送速度を倍増する手法として、4値のPAM(Pulse Amplitude Modulation:パルス振幅変調)方式が主流になりつつある。PAM4方式では従来の2値(NRZまたはPAM2)に比べ、電圧識別範囲が1/3以下となるため、従来より波形品位を良くすること、すなわちノイズやジッタを低減することが求められた。
【0008】
小型化したチップキャリアの表面に4個の光変調器集積半導体レーザと、半導体レーザ部の電位の変動を抑える4個のデカップリング容量(コンデンサ)と、光変調器部を駆動する変調信号を伝える4個の伝送線路とを配置した場合、光変調器集積半導体レーザ及びデカップリング容量が伝送線路に近接する。変調信号により伝送線路の近傍に生ずる磁界は、半導体レーザ部とデカップリング容量との間のループ経路に起電力を生じる。その起電力は両者が近接するほど増加し、半導体レーザ部の電位の変動が大きくなる。当該変動は半導体レーザ部の出力光におけるノイズやジッタとなり、光変調器部の出力光信号の波形品位の劣化が生じる。我々の検討によると、光変調器集積半導体レーザ及びデカップリング容量が伝送線路に近接する影響に比較して、従来用いられていたチップキャリア構造では、半導体レーザ部の電位の変動がさらに増大するという課題を見出した。
【0009】
本発明の目的は光変調器集積半導体レーザを搭載したチップキャリアを有する光モジュールにおいて、光変調器部を駆動する変調信号に起因する半導体レーザ部の電位変動を抑制し、小型化と波形品位の向上を両立した光モジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明に係る光モジュールは、それぞれ半導体レーザ部及び光変調器部を備えた複数の半導体素子と、前記複数の半導体素子を配置する搭載面を備えたチップキャリアと、前記チップキャリアに前記光変調器部ごとに設けられ当該光変調器部へ駆動信号を伝送する伝送線路と、前記搭載面に前記伝送線路ごとに配置され、前記駆動信号を終端する抵抗素子と、前記搭載面に形成され、前記半導体レーザ部及び前記光変調器部それぞれの一方電極が接続される第一の導電性パタンと、前記搭載面に前記半導体レーザ部ごとに配置され、直流電圧を供給される当該半導体レーザ部の他方電極にボンディングワイヤを介して一方電極を接続され、且つ当該半導体レーザ部が接続された前記第一の導電性パタンに他方電極を接続されたチップコンデンサと、前記搭載面上にて前記第一の導電性パタンとは分離して形成され、前記抵抗素子の一方電極が直接、又は直流遮断コンデンサを介して接続される第二の導電性パタンと、前記チップキャリアの前記搭載面とは反対側の面、又は前記チップキャリアの内層に設けられ、前記チップキャリアに形成された導電性バイアホールを介して前記第一の導電性パタン及び前記第二の導電性パタンと接続される第三の導電性パタンと、を有する。
【0011】
(2)上記(1)に記載の光モジュールにおいて、前記伝送線路は、ボンディングワイヤにより前記光変調器部及び前記抵抗素子それぞれの他方電極に接続される信号線導体と、当該信号線導体に並行する接地導体とを含んで成る導波路であって、当該伝送線路の少なくとも一部にて、当該伝送線路に対応する前記半導体素子及び前記チップコンデンサが接続された前記第一の導電性パタンと、前記第三の導電性パタンとを前記接地導体に用いたグラウンデッドコプレーナ導波路をなし、前記第一の導電性パタン上にて、前記半導体素子及び前記チップコンデンサは、対応する前記伝送線路の前記信号線導体に隣接する位置に配置される構成とすることができる。
【0012】
(3)上記(2)に記載の光モジュールにおいて、前記搭載面上に第一の方向に沿ってn個(nは2以上の整数である。)の前記半導体素子が列をなし、前記各伝送線路は前記第一の方向に直交する第二の方向に延在し、前記列の端からj番目(jはn以下の任意の自然数である。)の前記半導体素子に対応して設けられる前記第一の導電性パタン、前記第二の導電性パタン及び前記信号線導体をそれぞれ、j番目の第一の導電性パタン、第二の導電性パタン及び信号線導体として、前記j番目の第二の導電性パタンは、前記j番目の半導体素子に対して前記j番目の信号線導体とは反対側に配置され、前記伝送線路は、前記k番目(kはn-1以下の任意の自然数である。)の信号線導体の両側に前記接地導体として、前記k番目及びk+1番目の第一の導電性パタンが配置された区間と、前記k番目の第一の導電性パタン及び前記k+1番目の第二の導電性パタンが配置された区間とを有する構成とすることができる。
【0013】
(4)上記(1)~(3)に記載の光モジュールにおいて、前記複数の半導体素子は、前記搭載面上にて、第一の方向に沿って列をなし、且つ当該第一の方向に交差する第二の方向における前記チップキャリアの一方端部に配置され、前記伝送線路の入力端子は前記チップキャリアの前記第二の方向における他方端部に配置される構成とすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば光変調器集積半導体レーザを搭載したチップキャリアを有する光モジュールにおいて、光変調器部を駆動する変調信号に起因する半導体レーザ部の電位変動を抑制し、小型化と低コスト化を両立した光モジュールを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態に係る光トランシーバの概略の外観図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る光伝送装置の構成を示す模式図である。
【
図3】第一の実施形態に係るチップキャリアの概略の上面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係るTOSAに関する概略の回路図である。
【
図5】従来技術を用いたチップキャリアの上面図である。
【
図6】チップキャリアにおける伝送線路の入力端子から半導体レーザ部までのトランスファーインピーダンスの周波数特性を示すグラフである。
【
図7】チップキャリアにおける伝送線路の入力端子から半導体レーザ部までのトランスファーインピーダンスの、半導体レーザ部とデカップリング容量との中心間距離に対する依存性を示すグラフである。
【
図8】第二の実施形態に係るチップキャリアの概略の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態(以下実施形態という)について、図面に基づいて説明する。下記実施形態にて例えば、光送信機能を有するOSAや、当該OSAを内蔵した光トランシーバが、本発明の光モジュールに当たる。なお、実施形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、以下に示す図は、あくまで、実施形態の実施例を説明するものであって、図における大きさと本実施形態記載の縮尺は必ずしも一致するものではない。
【0017】
[第一の実施形態]
図1は本発明の実施形態に係る光トランシーバ10の外観の一例を示す斜視図である。この例では光トランシーバ10はケース12と、プルタブ14と、スライダ16とを含む部品で外形が構成される。
【0018】
図2は光トランシーバ10が装着された光伝送装置18の構成を示す模式的な上面図である。光伝送装置18に複数の光トランシーバ10が、電気コネクタ20によりそれぞれ装着されている。
【0019】
ここで、説明の便宜のため、XYZ直交座標系を、
図2において横方向右向きをX軸の正の向き、縦方向上向きをY軸の正の向きとし、紙面から手前に向かう向きをZ軸の正の向きとして右手系に定義する。また、XY面を水平面、Z軸を垂直方向とする。ちなみに、
図2にて光トランシーバ10は、
図1に示した細長いケース12の長手方向をX軸に平行にして装着されている。
【0020】
光伝送装置18は例えば大容量のルータやスイッチである。光伝送装置18は例えば交換機の機能を有しており、基地局などに配置される。光伝送装置18は、光トランシーバ10より受信用のデータ(受信用の電気信号)を取得し、回路基板22に搭載されるドライバIC(集積回路)24などを用いて、どこへ何のデータを送信するかを判断し、送信用のデータ(送信用の電気信号)を生成し、該当する光トランシーバ10へ当該データを伝達する。
【0021】
光トランシーバ10は、プリント基板26と、フレキシブル基板28と、光信号と電気信号との変換を行うための光サブアセンブリ(OSA)30とを備えている。また、OSA30には、光信号の入出力のために光ファイバ32が接続されている。
【0022】
OSA30は具体的には、光送信機能を有する光送信サブアセンブリ(Transmitter Optical SubAssembly:TOSA)、光受信機能を有する光受信サブアセンブリ(Receiver Optical SubAssembly:ROSA)及び光送受信機能を有する双方向サブアセンブリ(Bi-directional Optical SubAssembly:BOSA)のいずれかである。本実施形態では、光トランシーバ10はOSA30として、TOSA30aとROSA30bとを備えている。
【0023】
プリント基板26は柔軟性の無いリジッド基板であり、一方、フレキシブル基板28は可撓性を有し、両端をプリント基板26とOSA30とに接続される。つまり、フレキシブル基板28に形成される配線の一方端はOSA30の端子に電気的に接続され、当該配線の他方端はプリント基板26の端子に電気的に接続され、当該配線によりプリント基板26とOSA30との間で電気信号が伝達される。例えば、プリント基板26から電気信号がフレキシブル基板28を介してTOSA30aへ伝送され、一方、ROSA30bから電気信号がフレキシブル基板28を介してプリント基板26へ伝送される。
【0024】
OSA30は筐体である外装ケース内に、半導体光素子が搭載されたチップキャリアなどを収納する。光トランシーバ10がX方向の一方端に電気コネクタ20を備え、他方端に光ファイバ32を接続される構成であるのに対応して、OSAはX方向の一方端に、フレキシブル基板28に接続される端子を有し、他方端に光ファイバコネクタを有する。
【0025】
例えば、本実施形態において、光トランシーバ10は100Gbit/sといった高速の信号伝送を可能とする。そのためにOSA30は複数の半導体光素子を内蔵する。例えば、本実施形態では、OSA30は4個の半導体光素子を内蔵する。
【0026】
ちなみに、半導体光素子は、光信号又は電気信号のうち一方から他方へ変換する光変換素子である。具体的には、TOSA30aは電気信号を光信号へ変換する光変換素子として、光変調器集積半導体レーザを備え、ROSA30bは光信号を電気信号へ変換する光変換素子としてフォトダイオードなどの受光素子を備える。
【0027】
図3はTOSA30aに内蔵されるチップキャリア40の概略の上面図であり、チップキャリア40の搭載面、及びその上に配置される素子や導電性パタンの一例を示している。
【0028】
チップキャリア40は主に、誘電体からなるキャリア基板41と、その上面(表面)及び下面(裏面)に配置した導電性パタンとから構成される。ここで、キャリア基板41の上面が半導体光素子などを配置する搭載面であり、搭載面には金属などの導電膜により、ストリップ導体42、導電性パタン43~45、表層電極46が形成されている。また、キャリア基板41の下面にも導電性パタン(不図示)が形成され、これを以下、導電性パタン47とする。導電性パタン47は基本的に、搭載面に形成された導電性パタン43~45に対向する下面領域に形成され、例えば、下面のほぼ全体に形成される。搭載面には、光変調器集積半導体レーザ50、チップコンデンサ51、抵抗素子52が配置される。
【0029】
キャリア基板41は例えば窒化アルミニウム(AlN)で作られる。窒化アルミニウムは他の誘電体に比較し熱伝導率に優れるため、例えばペルチェ素子上にチップキャリア40を搭載して光変調器集積半導体レーザ50を精密に温度制御するのに好適である。
【0030】
半導体光素子である光変調器集積半導体レーザ50は上述したようにTOSA30aに複数内蔵され、本実施形態ではその個数は4個であり、TOSA30aには基本的に同じ回路が並列に4レーン設けられる。光変調器集積半導体レーザ50はそれぞれ半導体レーザ部50a及び光変調器部50bを備える。チップキャリア40には、光変調器部50bごとに設けられ当該光変調器部50bへ駆動信号を伝送する伝送線路が形成される。
【0031】
光変調器集積半導体レーザ50は例えばn-InP基板を用いて構成される。半導体レーザ部50aは分布帰還型(Distributed Feedback:DFB)レーザであり、光変調器部50bは電界吸収型(Electro Absorption:EA)変調器である。半導体レーザ部50a及び光変調器部50bの電極は例えば、光変調器集積半導体レーザ50の上面と下面に配される。半導体レーザ部50aの上面電極は直流電源VLDに接続される。光変調器部50bの上面電極は駆動信号源DRVに接続される。具体的には、光変調器部50bの上面電極は、伝送線路を構成するストリップ導体42にボンディングワイヤ53により接続される。また、半導体レーザ部50a及び光変調器部50bそれぞれの下面電極は基準電位(接地電位)に接続される。
【0032】
導電性パタン43は第一の導電性パタンであり、光変調器集積半導体レーザ50ごとに設けられ、当該光変調器集積半導体レーザ50の半導体レーザ部50a及び光変調器部50bそれぞれの一方電極が接続される。具体的には、導電性パタン43の上に光変調器集積半導体レーザ50が配置され、半導体レーザ部50a及び光変調器部50bの下面電極が導電性パタン43に接続される。
【0033】
チップコンデンサ51は光変調器集積半導体レーザ50ごとに設けられ、その一方電極は、当該光変調器集積半導体レーザ50の半導体レーザ部50aの他方電極にボンディングワイヤ54を介して接続される。また、チップコンデンサ51の他方電極は、当該半導体レーザ部50aが接続された導電性パタン43に接続される。チップコンデンサ51は半導体レーザ部50aへ供給する直流電圧の変動を抑制するために設けられており、当該機能により、デカップリング容量(Decoupling capacitor)と呼ばれる。チップコンデンサ51は上面と下面に電極を持つものが直列インダクタンス値を小さくする上で好ましく、この構成では、チップコンデンサ51は導電性パタン43の上に配置され、チップコンデンサ51の下面電極が導電性パタン43に接続され、上面電極がボンディングワイヤ54により半導体レーザ部50aの上面電極に接続される。チップコンデンサ51の容量値は例えば0.1マイクロファラッド[μF]とすることができる。
【0034】
抵抗素子52は光変調器集積半導体レーザ50ごとに設けられ、当該光変調器集積半導体レーザ50に対応する伝送線路の駆動信号を終端する終端抵抗である。抵抗素子52は例えば厚膜抵抗で構成され、その一方電極は導電性パタン44に接続され、他方電極は表層電極46に接続される。抵抗素子52の抵抗値は50オーム[Ω]にする。
【0035】
導電性パタン44は第二の導電性パタンであり、第一の導電性パタンである導電性パタン43とは搭載面上にて分離して形成される。導電性パタン44も光変調器集積半導体レーザ50ごとに設けられ、導電性パタン44には、当該光変調器集積半導体レーザ50に対応して設けられる抵抗素子52の一方電極が直接に接続される。
【0036】
導電性パタン47は第三の導電性パタンであり、基準電位(接地電位)に接続される。また、導電性パタン47は、チップキャリア40に形成された導電性バイアホール55を介して導電性パタン43及び導電性パタン44と接続される。つまり、各導電性パタン43及び各導電性パタン44はチップキャリア40の搭載面上では互いに分離して形成されている一方、導電性バイアホール55及び導電性パタン47を介して互いに電気的に接続され、接地導体となる。なお、導電性バイアホール55の材料としては例えばタングステンを用いることができる。
【0037】
ストリップ導体42は伝送線路の信号線導体であり、伝送線路ごとに設けられる。ストリップ導体42には駆動信号源DRVから駆動信号が供給される。上述したように、光変調器部50bの上面電極はボンディングワイヤ53を介してストリップ導体42に接続され駆動信号を入力される。さらに、抵抗素子52が接続される表層電極46と光変調器部50bの上面電極との間がボンディングワイヤ56で接続され、抵抗素子52がストリップ導体42に電気的に接続される。これにより、抵抗素子52は伝送線路の信号線導体と接地導体との間に接続され、伝送線路の終端抵抗として機能する。
【0038】
伝送線路はストリップ導体42と、当該ストリップ導体42に並行する接地導体とを含んで成る導波路である。具体的には、当該導波路は、誘電体であるキャリア基板41と、その上面に設けられたストリップ導体42と、当該上面の接地導体である導電性パタン43や導電性パタン44と、下面の接地導体である導電性パタン47とで構成され得る。特に、伝送線路はその少なくとも一部にて、当該伝送線路に対応する光変調器集積半導体レーザ50及びチップコンデンサ51が接続された導電性パタン43と、導電性パタン47とを接地導体に用いたグラウンデッドコプレーナ導波路(Grounded Coplanar Waveguide:G-CPW)の構造を有し、当該導電性パタン43上にて、光変調器集積半導体レーザ50及びチップコンデンサ51は、対応する伝送線路のストリップ導体42に隣接する位置に配置される。この点についてはさらに後述する。
【0039】
図4は
図3のチップキャリア40を含むTOSA30aに関する概略の回路図である。この回路図は光トランシーバ10の送信部の一部であり、TOSA30aの4レーンの回路のうちの1レーン分を簡略して記述したものである。駆動信号源DRVは例えば、光トランシーバ10のプリント基板26に配置される。駆動信号源DRVが出力する駆動信号は、プリント基板26及びフレキシブル基板28上の伝送線路60により、TOSA30aの端子に供給され、さらにTOSA30a内の伝送線路61によりチップキャリア40の伝送線路62に伝えられる。ちなみに、伝送線路61と伝送線路62との間はボンディングワイヤ63などにより接続される。
【0040】
ここで、伝送線路62が上述したストリップ導体42を信号線導体として構成される伝送線路であり、駆動信号は当該伝送線路からボンディングワイヤ53を介して光変調器部50bに入力される。また、ストリップ導体42はボンディングワイヤ53,56を介して抵抗素子52に接続される。なお、抵抗素子52のストリップ導体42に接続される側と反対側の端子は、上述した第二の導電性パタンである導電性パタン44に接続され接地される。一方、光変調器部50bは第一の導電性パタンである導電性パタン43に接続され接地される。伝送線路62を伝送された駆動信号は終端抵抗である抵抗素子52で吸収され、これにより、波形品位の劣化につながる不要な反射波の発生が抑えられる。
【0041】
直流電源VLDはプリント基板26からフレキシブル基板28を介してTOSA30a内の配線64に供給される。当該配線64は例えば、ボンディングワイヤ65によりチップコンデンサ51の上面電極に接続され、当該上面電極はボンディングワイヤ54により半導体レーザ部50aに接続され、これにより、半導体レーザ部50aに直流電流が供給される。キャリア基板41上にデカップリング容量としてチップコンデンサ51を配置することで、外部の電圧変動に起因する半導体レーザ部50aの両端の電位変動を抑える。
【0042】
この回路により、半導体レーザ部50aは直流電圧を供給されて強度が一定のレーザ光を発生し、光変調器部50bは駆動信号に応じて、半導体レーザ部50aからのレーザ光を強度変調する。
【0043】
なお、半導体レーザ部50a及びチップコンデンサ51は、光変調器部50bと同じく、第一の導電性パタンである導電性パタン43に接続され接地される。つまり、
図4では、半導体レーザ部50a及び光変調器部50bが接続される接地記号と、チップコンデンサ51が接続される接地記号とを別々に描いているが、これらは共通の導電性パタン43によってつながっていることに留意する。
【0044】
さて、再び
図3を参照しつつ、チップキャリア40におけるレイアウトについて説明する。チップキャリア40にて4個の光変調器集積半導体レーザ50は互いに光軸を平行にして配置される。本実施形態では各光変調器集積半導体レーザ50の光軸はX軸に平行に設定されている。また、複数の光変調器集積半導体レーザ50の配置に関しては、各光変調器集積半導体レーザ50が他の光変調器集積半導体レーザ50から出射する光信号に対して障害物とならないことが求められる。そのためには例えば、複数の光変調器集積半導体レーザ50を光軸に交差する方向に配列すればよい。本実施形態では、4個の光変調器集積半導体レーザ50はY方向に一列に配置される。
【0045】
光変調器集積半導体レーザ50がY方向(第一の方向)に4個並んで配置されるのに対応して、チップキャリア40における伝送線路(
図4の伝送線路62)も4つY方向に並んで設けられる。
【0046】
本実施形態では、キャリア基板41は水平面にてX方向の辺とY方向の辺とからなる矩形である。4個の光変調器集積半導体レーザ50は搭載面上にて、Y方向に沿って列をなし、且つY方向に交差する第二の方向におけるチップキャリア40の一方端部に配置される。本実施形態では、第二の方向はX方向とし、光変調器集積半導体レーザ50はX方向におけるチップキャリア40の一方端部、つまり
図3にてキャリア基板41の下側の辺に沿った部分に配置される。一方、伝送線路の入力端子はチップキャリア40の第二の方向における他方端部、つまり
図3にてキャリア基板41の上側の辺に沿った部分に配置される。なお、
図3には4つの伝送線路のうちの1つについて、入力端子を記号A,B,Cで示している。入力端子Bはストリップ導体42の端子であり、
図4の伝送線路61からボンディングワイヤ63を付して駆動信号を入力される。一方、入力端子A,Cはストリップ導体42の両脇の導電性パタン43に設けられる。
【0047】
ちなみに、
図3の上側はTOSA30aのフレキシブル基板28との接続端子側であり、下側は光ファイバ32に接続される光ファイバコネクタ側である。光変調器集積半導体レーザ50は、
図3に示すように光変調器部50bがチップキャリア40の一方端部側である下側となり半導体レーザ部50aが他方端部側である上側となる向きに配置され、光変調器集積半導体レーザ50は
図3にて下向きにレーザ光を出射する。
【0048】
ストリップ導体42はX方向に延在し、当該ストリップ導体42の両脇のうち一方側に、当該ストリップ導体42に接続される光変調器集積半導体レーザ50が配置される導電性パタン43が配置される。例えば、当該導電性パタン43はストリップ導体42の一方端から他方端まで渡って、当該ストリップ導体42との間に比較的小さな所定幅の隙間を設けて配置される。
【0049】
導電性パタン43は、X方向に関し光変調器集積半導体レーザ50が配置される部分の辺りにてY方向の寸法が、X方向の他の部分より小さくなる形状にされる。これにより光変調器集積半導体レーザ50に隣接して導電性パタン43が配置されない領域が設けられ、当該領域に抵抗素子52とそれに関連する導電性パタン44及び表層電極46を配置することができる。
【0050】
具体的には、光変調器集積半導体レーザ50の個数をnで表し(本実施形態ではn=4)、
図3にてY方向に並ぶ光変調器集積半導体レーザ50の列の右端からj番目(jはn以下の任意の自然数である。)の光変調器集積半導体レーザ50に対応して設けられる導電性パタン43、導電性パタン44及びストリップ導体42をそれぞれ、j番目の導電性パタン43、導電性パタン44及びストリップ導体42とすると、j番目の導電性パタン43は
図3にて光変調器集積半導体レーザ50の右側の部分を切り欠いた形状となっており、この光変調器集積半導体レーザ50の位置での導電性パタン43のY方向の寸法はそれより上の部分のY方向の寸法より小さくなっている。そして、このj番目の光変調器集積半導体レーザ50の右側に空いたスペースにj番目の導電性パタン44が配置される。つまり、j番目の導電性パタン44はj番目の光変調器集積半導体レーザ50に対してj番目のストリップ導体42とは反対側に配置される。
【0051】
各jについて導電性パタン43,44をこの配置とすることで、伝送線路は、k番目(kはn-1以下の任意の自然数である。)のストリップ導体42の両側に接地導体として、k番目及びk+1番目の導電性パタン43が配置された第一の区間と、k番目の導電性パタン43及びk+1番目の導電性パタン44が配置された第二の区間とを有する。具体的には、
図3にて、導電性パタン43のY方向の寸法が大きい上側の部分が第一の区間であり、導電性パタン43のY方向の寸法が小さい下側の部分が第二の区間である。
【0052】
この第一の区間では伝送線路は、ストリップ導体42の両脇に近接した導電性パタン43と、下面の導電性パタン47とを接地導体に備え、少なくとも当該区間にて伝送線路はG-CPW構造になっている。また、導電性パタン44は導電性パタン43と同様、接地導体として機能するので、伝送線路の第二の区間についてもG-CPW構造であると見做し得る。
【0053】
なお、n番目の伝送線路については、ストリップ導体42に対してn番目の導電性パタン43とは反対側に導電性パタン45が配置され、これは導電性バイアホール55を介して導電性パタン47に接続され、n番目の導電性パタン43及び導電性パタン47と共に当該伝送線路の接地導体として機能する。特に導電性パタン45には光変調器集積半導体レーザ50やチップコンデンサ51は配置されないものの、n番目の伝送線路に対する入力端子Cが設けられる点において第一の導電性パタン43と基本的に同じであり、当該伝送線路もG-CPW構造になっている。
【0054】
上述したように光変調器集積半導体レーザ50に隣接する領域に抵抗素子52に関係する構造が配置されるが、基本的にそれらのうち表層電極46が光変調器部50bの上面電極に最も近い位置に配置され、これによりボンディングワイヤ56の短縮を図ることができる。本実施形態では、抵抗素子52の両端の電極を結ぶ方向、すなわち抵抗素子52の表層電極46との接続箇所から導電性パタン44との接続箇所への向かう方向はストリップ導体42の延伸方向に対して垂直、つまりY方向である。
【0055】
なお、
図3に示す構成では、抵抗素子52の一方の電極を導電性パタン44に直接接続しているが、抵抗素子52の当該電極と導電性パタン44との間に直流遮断コンデンサを挿入してもよい。その構成では、光変調器部50bに印加するバイアス電圧により抵抗素子52に生じていた直流電流を遮断することができ、光モジュールの消費電力を低減できるという効果が得られる。直流遮断コンデンサは例えば容量値0.1μFのチップコンデンサとすることができる。
【0056】
また、
図3に示す構成では、キャリア基板41の上面の導電性パタン43(第一の導電性パタン)及び導電性パタン44(第二の導電性パタン)それぞれと下面の導電性パタン47(第三の導電性パタン)とは導電性バイアホール55を介して接続される構成としているが、キャリア基板41の側面にも導電性パタンを設け、当該側面の導電性パタンと導電性バイアホール55の両方を介して、上面の導電性パタン43,44と下面の導電性パタン47とを接続してもよい。
【0057】
さて、上述したように、半導体レーザ部50aに印加される電圧の変動を抑制するためにチップコンデンサ51を設けている。当該電圧変動は例えば、直流電源VLDから供給される電圧自体に起因して生じ得るが、それとは別の要因でも生じ得る。
図4の破線で示すループ66、すなわち半導体レーザ部50aとボンディングワイヤ54とチップコンデンサ51と接地導体である導電性パタン43とが作るループの内側に、近接する伝送線路62などに起因する磁界が重なる。伝送線路62は
図3に示したようにグラウンデッドコプレーナ導波路構造であり、チップキャリア40の上部近傍にて、変調信号である駆動信号に応じて変動する磁界を発生し、これによるループ66の誘導起電力が半導体レーザ部50aに印加される電圧の変動要因となる。
【0058】
この点に関し、本実施形態では半導体レーザ部50aとチップコンデンサ51との中心間距離Dを実装上問題が生じない範囲にて短縮している。例えばDを0.57ミリメートル[mm]としている。これにより上記ループの面積を最小限に抑え、伝送線路による磁界が上記ループに及ぼす影響を少なくして変調信号に起因する半導体レーザ部50aの電位変動を抑制することができる。さらに本実施形態ではキャリア基板41の上面の接地導体を導電性パタン43と導電性パタン44とに分離することで、駆動信号により抵抗素子52に生じた電流が上面の導電性パタンを通って上記ループの接地導体に流れることを阻止している。これにより抵抗素子52に生じた電流による磁界が上記ループに及ぼす影響が抑えられ、変調信号に起因する半導体レーザ部50aの電位変動を抑制することができる。
【0059】
なお、ボンディングワイヤ54のループ形状は不必要に高く持ち上げるべきではなく、低ループ、つまりループ高さを低くすることが上述のループ66の面積を最小限に抑える上で好適である。
【0060】
また、上記実施形態では、半導体レーザ部50aとチップコンデンサ51との中心間距離Dを実装上問題が生じない範囲で短縮しているが、このことは変調信号に起因する半導体レーザ部50aの電位変動を抑制に有効である以外に、ボンディングワイヤ54のインダクタンスや、半導体レーザ部50a及びチップコンデンサ51が接地される導電性パタン43のインダクタンスの低減になるため、インダクタンス値が支配的となる高周波数領域における半導体レーザ部50aの両端子間のインプットインピーダンスZ11の低減にも有効である。これにより、外部の電圧源VLDにより供給される直流電流にノイズが重畳した場合の半導体レーザ部50aの両端子間の電圧の変動を抑制する、すなわちバイアス電流Ibiasの変動を抑圧し、半導体レーザ部50aの出力光の強度を一定にする効果がある。
【0061】
次に本実施形態の効果について
図5~
図7を用いて説明する。
図5は従来技術を用いたチップキャリア70の上面図である。従来のチップキャリア70では、抵抗素子52の一方の電極は、チップキャリア70の搭載面の第一の導電性パタン43Cに直接接続されている。つまり、本実施形態のチップキャリア40では抵抗素子52の接地導体は第二の導電性パタン44であり、半導体レーザ部50a及びチップコンデンサ51の接地導体である第一の導電性パタン43とは搭載面上で分離しているのに対し、
図5の従来のチップキャリア70では、抵抗素子52の接地導体と半導体レーザ部50a及びチップコンデンサ51の接地導体とは搭載面上で分離されていない。また、
図5では半導体レーザ部50aとチップコンデンサ51との中心間距離Dが0.86mmである例を示している。
【0062】
図6はチップキャリアにおける伝送線路の入力端子から半導体レーザ部50aまでのトランスファーインピーダンス(Z21)の周波数特性を示すグラフである。当該グラフは横軸を周波数、縦軸をトランスファーインピーダンス値とした両対数グラフであり、
図5の従来のチップキャリア70について三次元電磁界解析ツールを用いて算出した結果である。このグラフが示すように、周波数の増加と共にトランスファーインピーダンス値も増加する。また、従来のチップキャリア70についての
図6の結果では、周波数が10倍になるとトランスファーインピーダンス値はほぼ10倍に増加し、周波数が1ギガヘルツ[GHz]のときZ21は0.33Ωとなる。これは例えば、伝送線路の入力端子における駆動信号の周波数1GHzにおける電流成分が10ミリアンペア[mA]であれば、半導体レーザ部50aの両端に3.3ミリボルト[mV]の振幅の不要ノイズが生じることを意味する。そしてその影響は周波数の上昇と共に大きくなり、従来技術においては半導体レーザ部50aの出力の波形品位を劣化させていた。
【0063】
図7はチップキャリアにおける伝送線路の入力端子から半導体レーザ部50aまでのトランスファーインピーダンスZ21の、半導体レーザ部50aとデカップリング容量であるチップコンデンサ51との中心間距離Dに対する依存性を示すグラフである。当該グラフは三次元電磁界解析ツールによる計算結果であり、横軸を中心間距離D、縦軸をZ21とし、周波数1GHzにおけるZ21の値を、中心間距離Dを変化させてプロットしている。グラフ80は
図5の従来のチップキャリア70についての結果であり、グラフ81は本実施形態のチップキャリア40についての結果である。
【0064】
また、
図7には比較例となる解析結果としてグラフ82を示している。この解析は、G-CPWの伝送線路とそれに近接配置された半導体レーザ部50aとボンディングワイヤ54とチップコンデンサ51と接地導体とが作るループ(
図4のループ66)だけからなる構造について計算したものである。なお、この解析では、伝送線路の入力端子の反対側には理想的な終端構造を配置している。グラフ82の結果では、トランスファーインピーダンスZ21は距離Dにほぼ比例して変化している。すなわち、ループ66の面積を小さくするに従い、その面積にほぼ比例してZ21を小さくすることができることを示している。また
図3の構成と同様にDを0.86mmとした場合、周波数1GHzにてZ21の値は0.17Ωを示している。
【0065】
一方、
図5の従来構造を用いたチップキャリア70においては、Z21の値は距離Dにほぼ比例して変化するものの、上述の比較例、すなわち伝送線路(G-CPW)からの影響だけの実験結果と比べて、Z21はおよそ2倍の値を示している。我々はこの点について、駆動信号によりボンディングワイヤ53を介して光変調器部50bに伝送された電流成分がボンディングワイヤ56を介して抵抗素子52から導電性パタン43Cに流れることで、当該電流成分に起因する磁界が上述のループに重畳し、これがトランスファーインピーダンスZ21の値の増加の要因になっているものと考察した。
【0066】
そこで本実施形態のチップキャリア40では、抵抗素子52の接地導体として、ループ66の接地導体である第一の導電性パタン43とは分離した第二の導電性パタン44を配置して、上述の駆動信号に伴う電流成分の搭載面上における抵抗素子52以降の電流経路を遮断した構造とした。これにより
図7のグラフ81に示すようにトランスファーインピーダンスZ21の増加を解消できた。
【0067】
さらに、グラフ81は、比較例である、伝送線路(G-CPW)からの影響だけの実験結果と比べて、Z21をより低く抑えられるという結果を示している。このことは、本実施形態のチップキャリア40においては、トランスファーインピーダンスZ21の増加についての上述の考察に係る要因を排除するだけではなく、さらに伝送線路(G-CPW)からの影響を、完全にではないが相殺する効果を有することを示している。その相殺効果は半導体レーザ部50aとデカップリング容量であるチップコンデンサ51との中心間距離Dを小さくするほど顕著となっている。例えば、本実施形態で距離Dを0.57mmとすることで、周波数1GHzにおけるZ21の値を0.05Ωと低減することができ、伝送線路(G-CPW)からの影響だけの場合の0.11Ωに比べて半分以下にすることができる。
【0068】
以上述べたように、本実施形態によれば光変調器集積半導体レーザ50を搭載するチップキャリア40又は、それを備える光モジュール(TOSA30aや光トランシーバ10)において、光変調器部50bを駆動する変調信号に起因する半導体レーザ部50aの電位変動を抑制することが可能となり、小型化と低コスト化を両立したチップキャリア及び光モジュールを実現することができる。
【0069】
なお、上述の実施形態では、チップキャリア40は複数の光変調器集積半導体レーザ50を搭載するとし、その例として4個搭載する例を説明した。しかし、その数は4個に限定されず、例えば,チップキャリア40は2個の光変調器集積半導体レーザ1を搭載したものであってもよい。また、チップキャリア40に搭載される光変調器集積半導体レーザ50の個数は複数でなくてもよい、つまり1個の光変調器集積半導体レーザ50を搭載したチップキャリアであっても、本発明を適用して、光変調器部50bを駆動する変調信号に起因する半導体レーザ部50aの電位変動を抑制する効果を得ることができる。
【0070】
また、上述の実施形態において、第三の導電性パタン47はキャリア基板41の裏面に配置するとしたが、導電性パタン47の位置は裏面に限られず、例えばキャリア基板41の内部の層としても良い。
【0071】
[第二の実施形態]
図8は第二の実施形態に係るチップキャリア40Bの概略の上面図であり、チップキャリア40Bの搭載面、及びその上に配置される素子や導電性パタンの一例を示している。以下、本実施形態について、第一の実施形態との共通点については説明を省略し、基本的に相違点のみについて説明する。
【0072】
第一の実施形態の
図1及び
図2は第二の実施形態について援用され、チップキャリア40Bは第一の実施形態のチップキャリア40と同様、光トランシーバ10のTOSA30aに内蔵される。本実施形態のチップキャリア40Bと第一の実施形態のチップキャリア40との主な違いは、抵抗素子52の両端の電極を結ぶ方向にある。すなわち、抵抗素子52の表層電極46との接続箇所から第二の導電性パタン44との接続箇所への向かう方向は、第一の実施形態ではY方向であったが、本実施形態では、X方向、つまり伝送線路のストリップ導体42の延伸方向に対して平行にしている。なお、このレイアウトの違いに対応して、第二の導電性パタン44の形状は第一の実施形態と第二の実施形態とで異なり得るので、
図8では第二の導電性パタンについて符号“44B”を付している。
【0073】
本実施形態では、駆動信号により抵抗素子52に生じた電流の方向が上記第一の実施形態とは変化するものの、第一の導電性パタン43と第二の導電性パタン44Bとを分離することで、その電流が搭載面上の導電性パタンを通って上述したループ66の接地導体に流れることを阻止している。これにより抵抗素子52に生じた電流による磁界がループ66に及ぼす影響が抑えられ、第一の実施形態と同様に変調信号に起因する半導体レーザ部50aの電位変動を抑制することができる。
【0074】
なお、
図8に示す構成では、抵抗素子52の一方の電極を導電性パタン44Bに直接接続しているが、第一の実施形態で述べたのと同様、抵抗素子52の当該電極と導電性パタン44Bとの間に直流遮断コンデンサを挿入してもよい。その構成により、光変調器部50bに印加するバイアス電圧により抵抗素子52に生じていた直流電流を遮断することができ、光モジュールの消費電力を低減できるという効果が得られる。
【符号の説明】
【0075】
10 光トランシーバ、12 ケース、14 プルタブ、16 スライダ、18 光伝送装置、20 電気コネクタ、22 回路基板、24 ドライバIC、26 プリント基板、28 フレキシブル基板、30 光サブアセンブリ(OSA)、30a TOSA、30b ROSA、32 光ファイバ、40,40B チップキャリア、41 キャリア基板、42 ストリップ導体、43~45,47,43C,44B 導電性パタン、46 表層電極、50 光変調器集積半導体レーザ、50a 半導体レーザ部、50b 光変調器部、51 チップコンデンサ、52 抵抗素子、53,54,56,63,65 ボンディングワイヤ、55 導電性バイアホール、60~62 伝送線路、64 配線、66 ループ、70 チップキャリア。