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特許7474115非水系二次電池用セパレータ及び非水系二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-16
(45)【発行日】2024-04-24
(54)【発明の名称】非水系二次電池用セパレータ及び非水系二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/451 20210101AFI20240417BHJP
   H01M 50/443 20210101ALI20240417BHJP
   H01M 50/434 20210101ALI20240417BHJP
   H01M 50/426 20210101ALI20240417BHJP
【FI】
H01M50/451
H01M50/443 M
H01M50/434
H01M50/426
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020093547
(22)【出願日】2020-05-28
(65)【公開番号】P2021190268
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2022-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藏谷 理佳
(72)【発明者】
【氏名】西川 聡
【審査官】小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/146155(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第104269505(CN,A)
【文献】国際公開第2016/157770(WO,A1)
【文献】特表2019-536253(JP,A)
【文献】特開2018-147656(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0221917(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第110854347(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/409-50/451
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質基材と、
前記多孔質基材の片面又は両面に設けられた、樹脂及び無機粒子を含有する耐熱性多孔質層と、を備え、
前記耐熱性多孔質層に占める前記無機粒子の質量割合が50質量%以上90質量%以下であり、
前記無機粒子が、金属硫酸塩粒子である第一の無機粒子と、金属水酸化物粒子である第二の無機粒子とを含む、
非水系二次電池用セパレータ。
【請求項2】
前記第一の無機粒子の平均一次粒径が0.01μm以上0.3μm以下である、請求項1に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項3】
前記第二の無機粒子の平均一次粒径が0.4μm以上2.0μm以下である、請求項1又は請求項2に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項4】
前記耐熱性多孔質層に占める前記無機粒子の質量割合が60質量%以上80質量%以下である、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項5】
前記耐熱性多孔質層に含まれる前記第一の無機粒子と前記第二の無機粒子との質量比(第一の無機粒子:第二の無機粒子)が90:10~10:90である、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項6】
前記耐熱性多孔質層に含まれる前記第一の無機粒子と前記第二の無機粒子との質量比(第一の無機粒子:第二の無機粒子)が80:20~40:60である、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項7】
前記樹脂が、カルボキシ基及びエステル結合を有しないポリフッ化ビニリデン系樹脂を含む、請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項8】
正極と、負極と、前記正極及び前記負極の間に配置された請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の非水系二次電池用セパレータと、を備え、リチウムイオンのドープ及び脱ドープにより起電力を得る非水系二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水系二次電池用セパレータ及び非水系二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
非水系二次電池を構成する部材の一つであるセパレータには、電池の安全性を担保するために、電池内部が高温になっても容易に破膜したり収縮したりしない耐熱性が要求される。耐熱性を高めたセパレータとして、無機粒子を含有する多孔質層を多孔質基材上に備えたセパレータが知られている。例えば、特許文献1及び2には、樹脂と無機粒子とを含有する多孔質層を多孔質基材上に備えたセパレータが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2019/146155号
【文献】特開2016-033913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
多孔質基材上に設ける多孔質層の耐熱性を向上させる方策として、多孔質層に含まれる無機粒子の含有量を多くする方策がある。ただし、無機粒子の含有量が多いと、多孔質層を形成するための塗工液の粘度が高くなったり、塗工液の粘度が経時で上昇したりすることがある。塗工液の粘度が高いと、多孔質層の形成が難しくなり、セパレータの生産性が低下する。
【0005】
本開示の実施形態は、上記状況のもとになされた。
本開示の実施形態は、耐熱性に優れ、且つ、生産性の高い非水系二次電池用セパレータを提供することを目的とし、これを達成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための具体的手段には、以下の態様が含まれる。
【0007】
<1> 多孔質基材と、
前記多孔質基材の片面又は両面に設けられた、樹脂及び無機粒子を含有する耐熱性多孔質層と、を備え、
前記耐熱性多孔質層に占める前記無機粒子の質量割合が50質量%以上90質量%以下であり、
前記無機粒子が、金属硫酸塩粒子である第一の無機粒子と、金属硫酸塩粒子以外の第二の無機粒子とを含む、
非水系二次電池用セパレータ。
<2> 前記耐熱性多孔質層に含まれる前記第一の無機粒子と前記第二の無機粒子との質量比(第一の無機粒子:第二の無機粒子)が90:10~10:90である、<1>に記載の非水系二次電池用セパレータ。
<3> 前記第一の無機粒子の平均一次粒径が0.01μm以上0.3μm以下である、<1>又は<2>に記載の非水系二次電池用セパレータ。
<4> 前記第二の無機粒子の平均一次粒径が0.4μm以上2.0μm以下である、<1>~<3>のいずれか1項に記載の非水系二次電池用セパレータ。
<5> 前記第二の無機粒子が金属水酸化物粒子である、<1>~<4>のいずれか1項に記載の非水系二次電池用セパレータ。
<6> 前記耐熱性多孔質層に含まれる前記第一の無機粒子と前記第二の無機粒子との質量比(第一の無機粒子:第二の無機粒子)が80:20~40:60である、<1>~<5>のいずれか1項に記載の非水系二次電池用セパレータ。
<7> 前記耐熱性多孔質層に占める前記無機粒子の質量割合が60質量%以上80質量%以下である、<1>~<6>のいずれか1項に記載の非水系二次電池用セパレータ。
<8> 前記樹脂が、カルボキシ基及びエステル結合を有しないポリフッ化ビニリデン系樹脂を含む、<1>~<7>のいずれか1項に記載の非水系二次電池用セパレータ。
<9> 正極と、負極と、前記正極及び前記負極の間に配置された<1>~<8>のいずれか1項に記載の非水系二次電池用セパレータと、を備え、リチウムイオンのドープ及び脱ドープにより起電力を得る非水系二次電池。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、耐熱性に優れ、且つ、生産性の高い非水系二次電池用セパレータが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本開示の実施形態について説明する。これらの説明及び実施例は実施形態を例示するものであり、実施形態の範囲を制限するものではない。
【0010】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0011】
本開示において「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0012】
本開示において組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計量を意味する。
【0013】
本開示において各成分に該当する粒子は複数種含んでいてもよい。組成物中に各成分に該当する粒子が複数種存在する場合、各成分の粒径は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の粒子の混合物についての値を意味する。
【0014】
本開示において、MD(Machine Direction)とは、長尺状に製造される多孔質基材及びセパレータにおいて長尺方向を意味し、TD(transverse direction)とは、多孔質基材及びセパレータの面方向においてMDに直交する方向を意味する。本開示において、TDを「幅方向」ともいう。
【0015】
本開示において、セパレータを構成する各層の積層関係について「上」及び「下」で表現する場合、多孔質基材に対してより近い層について「下」といい、多孔質基材に対してより遠い層について「上」という。
【0016】
本開示において耐熱性樹脂とは、融点が200℃以上の樹脂、又は、融点を有さず分解温度が200℃以上の樹脂を指す。つまり、本開示における耐熱性樹脂とは、200℃未満の温度領域で溶融及び分解を起こさない樹脂である。
【0017】
<非水系二次電池用セパレータ>
本開示の非水系二次電池用セパレータ(本開示において単に「セパレータ」ともいう。)は、多孔質基材と、多孔質基材の片面又は両面に設けられた耐熱性多孔質層とを備える。
【0018】
本開示のセパレータにおいて耐熱性多孔質層は、樹脂及び無機粒子を含有し、
耐熱性多孔質層に占める無機粒子の質量割合が50質量%以上90質量%以下であり、
無機粒子が、金属硫酸塩粒子である第一の無機粒子と、金属硫酸塩粒子以外の第二の無機粒子とを含む。
【0019】
本開示のセパレータにおいて耐熱性多孔質層に占める無機粒子の質量割合は、セパレータの耐熱性の観点から、50質量%以上であり、耐熱性多孔質層を形成するための塗工液の粘度を低く抑える観点、耐熱性多孔質層が多孔質基材から剥がれにくい観点、及び耐熱性多孔質層が電極との接着性に優れる観点から、90質量%以下である。
【0020】
本開示のセパレータにおいて耐熱性多孔質層は、金属硫酸塩粒子である第一の無機粒子と、金属硫酸塩粒子以外の第二の無機粒子とを含む。耐熱性多孔質層の耐熱性を高めるために、本実施形態においては耐熱性多孔質層に占める無機粒子の質量割合が50質量%以上であるところ、耐熱性多孔質層を形成するための塗工液の経時での粘度上昇を抑制するために、無機粒子の一部を金属硫酸塩粒子とする。ただし、無機粒子の全部が金属硫酸塩粒子であると、調製直後の塗工液の粘度が比較的高いので、無機粒子の一部を金属硫酸塩粒子以外の無機粒子とする。
【0021】
以上の各構成の作用によって、本開示のセパレータは、高温下(例えば150℃下)において収縮しにくいという耐熱性に優れ、且つ、耐熱性多孔質層の形成が容易であり生産性が高い。
【0022】
以下、本開示のセパレータが有する多孔質基材及び耐熱性多孔質層の詳細を説明する。
【0023】
[多孔質基材]
本開示において多孔質基材とは、内部に空孔ないし空隙を有する基材を意味する。このような基材としては、微多孔膜;繊維状物からなる、不織布、紙等の多孔性シート;これら微多孔膜や多孔性シートに他の多孔性の層を1層以上積層した複合多孔質シート;などが挙げられる。本開示においては、セパレータの薄膜化及び強度の観点から、微多孔膜が好ましい。微多孔膜とは、内部に多数の微細孔を有し、これら微細孔が連結された構造となっており、一方の面から他方の面へと気体あるいは液体が通過可能となった膜を意味する。
【0024】
多孔質基材の材料としては、電気絶縁性を有する材料が好ましく、有機材料又は無機材料のいずれでもよい。
【0025】
多孔質基材は、多孔質基材にシャットダウン機能を付与するため、熱可塑性樹脂を含むことが望ましい。シャットダウン機能とは、電池温度が高まった際に、構成材料が溶解して多孔質基材の孔を閉塞することによりイオンの移動を遮断し、電池の熱暴走を防止する機能をいう。熱可塑性樹脂としては、融点200℃未満の熱可塑性樹脂が好ましい。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;などが挙げられ、中でもポリオレフィンが好ましい。
【0026】
多孔質基材としては、ポリオレフィンを含む微多孔膜(本開示において「ポリオレフィン微多孔膜」という。)が好ましい。ポリオレフィン微多孔膜としては、例えば、従来の電池セパレータに適用されているポリオレフィン微多孔膜が挙げられ、この中から十分な力学特性とイオン透過性を有するものを選択することが望ましい。
【0027】
ポリオレフィン微多孔膜は、シャットダウン機能を発現する観点から、ポリエチレンを含む微多孔膜が好ましく、ポリエチレンの含有量としては、ポリオレフィン微多孔膜全体の質量に対して95質量%以上が好ましい。
【0028】
ポリオレフィン微多孔膜は、高温に曝されたときに容易に破膜しない耐熱性を備える観点から、ポリプロピレンを含む微多孔膜が好ましい。
【0029】
ポリオレフィン微多孔膜は、シャットダウン機能と、高温に曝されたときに容易に破膜しない耐熱性とを備える観点から、ポリエチレン及びポリプロピレンを含むポリオレフィン微多孔膜が好ましい。ポリエチレン及びポリプロピレンを含むポリオレフィン微多孔膜としては、ポリエチレンとポリプロピレンが1つの層において混在している微多孔膜が挙げられる。該微多孔膜においては、シャットダウン機能と耐熱性の両立という観点から、95質量%以上のポリエチレンと5質量%以下のポリプロピレンとを含むことが好ましい。また、シャットダウン機能と耐熱性の両立という観点からは、2層以上の積層構造を備え、少なくとも1層はポリエチレンを含み、少なくとも1層はポリプロピレンを含む構造のポリオレフィン微多孔膜も好ましい。
【0030】
ポリオレフィン微多孔膜に含まれるポリオレフィンとしては、重量平均分子量(Mw)が10万~500万のポリオレフィンが好ましい。ポリオレフィンのMwが10万以上であると、微多孔膜に十分な力学特性を付与できる。一方、ポリオレフィンのMwが500万以下であると、微多孔膜のシャットダウン特性が良好であるし、微多孔膜の成形がしやすい。
【0031】
ポリオレフィン微多孔膜の製造方法としては、溶融したポリオレフィン樹脂をT-ダイから押し出してシート化し、これを結晶化処理した後延伸し、次いで熱処理をして微多孔膜とする方法:流動パラフィンなどの可塑剤と一緒に溶融したポリオレフィン樹脂をT-ダイから押し出し、これを冷却してシート化し、延伸した後、可塑剤を抽出し熱処理をして微多孔膜とする方法;などが挙げられる。
【0032】
繊維状物からなる多孔性シートとしては、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;全芳香族ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルイミド等の耐熱性樹脂;セルロース;などの繊維状物からなる、不織布、紙等の多孔性シートが挙げられる。
【0033】
複合多孔質シートとしては、微多孔膜や繊維状物からなる多孔性シートに、機能層を積層したシートが挙げられる。このような複合多孔質シートは、機能層によってさらなる機能付加が可能となる観点から好ましい。機能層としては、例えば耐熱性を付与するという観点からは、耐熱性樹脂からなる多孔性の層や、耐熱性樹脂及び無機フィラーからなる多孔性の層が挙げられる。耐熱性樹脂としては、全芳香族ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリエーテルケトン及びポリエーテルイミドから選ばれる1種又は2種以上の耐熱性樹脂が挙げられる。無機フィラーとしては、アルミナ等の金属酸化物;水酸化マグネシウム等の金属水酸化物;などが挙げられる。複合化の手法としては、微多孔膜や多孔性シートに機能層を塗工する方法、微多孔膜や多孔性シートと機能層とを接着剤で接合する方法、微多孔膜や多孔性シートと機能層とを熱圧着する方法等が挙げられる。
【0034】
多孔質基材の表面には、耐熱性多孔質層を形成するための塗工液との濡れ性を向上させる目的で、多孔質基材の性質を損なわない範囲で、各種の表面処理を施してもよい。表面処理としては、コロナ処理、プラズマ処理、火炎処理、紫外線照射処理等が挙げられる。
【0035】
[多孔質基材の特性]
多孔質基材の厚さは、電池のエネルギー密度を高める観点から、25μm以下が好ましく、20μm以下がより好ましく、15μm以下が更に好ましく、セパレータの製造歩留り及び電池の製造歩留りの観点から、3μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましい。
【0036】
多孔質基材のガーレ値(JIS P8117:2009)は、イオン透過性又は電池の短絡抑制の観点から、50秒/100mL~400秒/100mLが好ましく、80秒/100mL~300秒/100mLがより好ましい。
【0037】
多孔質基材の空孔率は、適切な膜抵抗やシャットダウン機能を得る観点から、20%~60%が好ましい。多孔質基材の空孔率ε(%)は、下記の式により求める。
ε={1-Ws/(ds・t)}×100
ここに、Wsは多孔質基材の目付(g/m)、dsは多孔質基材の真密度(g/cm)、tは多孔質基材の厚さ(μm)である。目付とは、単位面積当たりの質量である。
【0038】
多孔質基材の突刺強度は、セパレータの製造歩留り及び電池の製造歩留りの観点から、160gf(1.6N)以上が好ましく、200gf(2.0N)以上がより好ましい。多孔質基材の突刺強度は、カトーテック社製KES-G5ハンディー圧縮試験器を用いて、針先端の曲率半径0.5mm、突刺速度2mm/秒の条件で突刺試験を行って測定する最大突刺強度(gf)を指す。
【0039】
多孔質基材の平均孔径は、15nm~100nmが好ましい。多孔質基材の平均孔径が15nm以上であると、イオンが移動しやすく、良好な電池性能が得やすくなる。この観点からは、多孔質基材の平均孔径は、25nm以上がより好ましく、30nm以上が更に好ましい。多孔質基材の平均孔径が100nm以下であると、多孔質基材と耐熱性多孔質層との間の剥離強度を向上でき、良好なシャットダウン機能も発現し得る。この観点からは、多孔質基材の平均孔径は、90nm以下がより好ましく、80nm以下が更に好ましい。多孔質基材の平均孔径は、パームポロメーターを用いて測定される値であり、ASTM E1294-89に従いパームポロメーター(PMI社製CFP-1500-A)を用いて測定する。
【0040】
[耐熱性多孔質層]
耐熱性多孔質層は、内部に多数の微細孔を有し、これら微細孔が連結された構造となっており、一方の面から他方の面へと気体あるいは液体が通過可能となっている層である。
【0041】
耐熱性多孔質層は、多孔質基材の片面又は両面にセパレータの最外層として設けられることが好ましく、セパレータと電極とを重ねてプレス又は熱プレスしたときに電極と接着する層であることが好ましい。
【0042】
耐熱性多孔質層は、多孔質基材の片面のみにあってもよく、多孔質基材の両面にあってもよい。耐熱性多孔質層が多孔質基材の両面にあると、電池の両極に対してセパレータの接着性が良好である。また、セパレータにカールが発生しにくく、電池製造時のハンドリング性に優れる。耐熱性多孔質層が多孔質基材の片面のみにあると、セパレータのイオン透過性がより優れる。また、セパレータ全体の厚さを抑えることができ、エネルギー密度のより高い電池を製造し得る。
【0043】
本開示のセパレータにおいて耐熱性多孔質層は、樹脂と無機粒子とを含有し、無機粒子は、金属硫酸塩粒子である第一の無機粒子と、金属硫酸塩粒子以外である第二の無機粒子とを含む。耐熱性多孔質層は、有機フィラー等のその他の成分を含んでもよい。
【0044】
[樹脂]
耐熱性多孔質層に含まれる樹脂は、電解液に安定であり、電気化学的に安定であり、無機粒子を連結する機能を有し、電極と接着し得る樹脂が好ましい。耐熱性多孔質層は、樹脂を1種のみ含んでもよく、樹脂を2種以上含んでもよい。
【0045】
耐熱性多孔質層に含まれる樹脂の種類は、制限されない。樹脂としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、アクリル系樹脂、フッ素系ゴム、スチレン-ブタジエン共重合体、ビニルニトリル化合物(アクリロニトリル、メタクリロニトリル等)の単独重合体又は共重合体、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドン、ポリエーテル(ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド等)、ポリアミド、全芳香族ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルホン、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0046】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂としては、例えば、フッ化ビニリデンの単独重合体(即ちポリフッ化ビニリデン);フッ化ビニリデンと、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニル、トリクロロエチレン等の含ハロゲン単量体と共重合体;これらの混合物;が挙げられる。ポリフッ化ビニリデン系樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0047】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂としては、耐熱性多孔質層を形成するための塗工液の粘度上昇を抑制する観点から、無機粒子が有する官能基との相互作用が起こりにくいポリフッ化ビニリデン系樹脂が好ましく、具体的には、カルボキシ基及びエステル結合を有しないポリフッ化ビニリデン系樹脂が好ましい。
【0048】
[無機粒子]
本開示のセパレータにおいて耐熱性多孔質層に占める無機粒子の質量割合は、セパレータの耐熱性の観点から、50質量%以上であり、55質量%以上がより好ましく、60質量%以上が更に好ましい。
本開示のセパレータにおいて耐熱性多孔質層に占める無機粒子の質量割合は、耐熱性多孔質層を形成するための塗工液の粘度を低く抑える観点、耐熱性多孔質層が多孔質基材から剥がれにくい観点、及び耐熱性多孔質層が電極との接着性に優れる観点から、90質量%以下であり、85質量%以下がより好ましく、80質量%以下が更に好ましい。
【0049】
無機粒子の粒子形状に限定はなく、球形、楕円形、板状、針状、不定形のいずれでもよい。無機粒子は、電池の短絡抑制の観点又は耐熱性多孔質層に緻密に充填されやすい観点から、板状又は球形の粒子、又は、凝集していない一次粒子であることが好ましい。
【0050】
無機粒子の平均一次粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察において無作為に選んだ無機粒子100個の長径を計測し、100個の長径を平均することで求める。
平均一次粒径を測定する際に用いる試料は、耐熱性多孔質層を形成する材料である無機粒子、又は、セパレータの耐熱性多孔質層から取り出した無機粒子である。
耐熱性多孔質層を形成する材料である無機粒子を測定試料にする場合は、用意した第一の無機粒子と第二の無機粒子それぞれの平均一次粒径を測定する。
セパレータの耐熱性多孔質層から取り出した無機粒子を測定試料にする場合は、平均一次粒径の粒度分布に現れるピークの位置によって平均一次粒径を判断する。
セパレータの耐熱性多孔質層から無機粒子を取り出す方法に制限はなく、例えば、セパレータから剥がした耐熱性多孔質層を、樹脂を溶解する有機溶剤に浸漬して有機溶剤で樹脂を溶解させ無機粒子を取り出す方法が挙げられる。または、セパレータから剥がした耐熱性多孔質層を800℃程度に加熱して樹脂を消失させ無機粒子を取り出してもよい。
【0051】
-第一の無機粒子(金属硫酸塩粒子)-
第一の無機粒子は、金属硫酸塩粒子である。金属硫酸塩粒子としては、例えば、硫酸バリウム(BaSO)の粒子、硫酸ストロンチウム(SrSO)の粒子、硫酸カルシウム(CaSO)の粒子、硫酸カルシウム二水和物(CaSO・2HO)の粒子、ミョウバン石(KAl(SO(OH))の粒子、ジャロサイト(KFe(SO(OH))の粒子等が挙げられる。中でも硫酸バリウム(BaSO)の粒子が好ましい。金属硫酸塩粒子は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0052】
第一の無機粒子は、平均一次粒径が0.01μm~0.3μmであることが好ましい。
第一の無機粒子の平均一次粒径は、単位体積あたりの無機粒子の表面積(比表面積)を大きくし、また、無機粒子を緻密に充填して、耐熱性多孔質層の熱収縮を抑制する観点から、0.3μm以下が好ましく、0.2μm以下がより好ましく、0.1μm以下が更に好ましい。
第一の無機粒子の平均一次粒径は、無機粒子の現実的な大きさと、耐熱性多孔質層を形成するための塗工液の粘度を低く抑える観点から、0.01μm以上が好ましく、0.03μm以上がより好ましく、0.05μm以上が更に好ましい。
第一の無機粒子は、平均一次粒径が異なる金属硫酸塩粒子を2種以上併用してもよく、それぞれの平均一次粒径が上記範囲であることが好ましい。
【0053】
-第二の無機粒子(金属硫酸塩粒子以外の無機粒子)-
第二の無機粒子は、金属硫酸塩粒子以外の無機粒子である。第二の無機粒子としては、金属水酸化物粒子、金属酸化物粒子、金属炭酸塩粒子、金属窒化物粒子、金属フッ化物粒子、粘土鉱物の粒子等が挙げられる。第二の無機粒子は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。第二の無機粒子としては、難燃性の観点から、金属水酸化物粒子が好ましい。
【0054】
金属水酸化物粒子としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化クロム、水酸化ジルコニウム、水酸化セリウム、水酸化ニッケル等の粒子が挙げられる。中でも水酸化マグネシウム(Mg(OH))の粒子が好ましい。
【0055】
金属酸化物粒子としては、例えば、酸化マグネシウム、アルミナ、ベーマイト(アルミナ1水和物)、チタニア、シリカ、ジルコニア、チタン酸バリウム、酸化亜鉛等の粒子が挙げられる。金属炭酸塩粒子としては、例えば、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム等の粒子が挙げられる。金属窒化物粒子としては、例えば、窒化マグネシウム、窒化アルミニウム、窒化カルシウム、窒化チタン等の粒子が挙げられる。金属フッ化物粒子としては、例えば、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム等の粒子が挙げられる。粘土鉱物の粒子としては、例えば、ケイ酸カルシウム、リン酸カルシウム、アパタイト、タルク等の粒子が挙げられる。
【0056】
第二の無機粒子は、平均一次粒径が0.4μm~2.0μmであることが好ましい。
第二の無機粒子の平均一次粒径は、耐熱性多孔質層を形成するための塗工液の粘度を低く抑える観点から、0.4μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましく、0.6μm以上が更に好ましい。
第二の無機粒子の平均一次粒径は、単位体積あたりの無機粒子の表面積(比表面積)を大きくし、また、無機粒子を緻密に充填して、耐熱性多孔質層の熱収縮を抑制する観点から、2.0μm以下が好ましく、1.5μm以下がより好ましく、1.0μm以下が更に好ましい。
第二の無機粒子は、平均一次粒径が異なる無機粒子を2種以上併用してもよく、それぞれの平均一次粒径が上記範囲であることが好ましい。
【0057】
第二の無機粒子の平均一次粒径/第一の無機粒子の平均一次粒径は、1超200以下が好ましく、3超100以下がより好ましく、5超50以下が更に好ましい。
【0058】
耐熱性多孔質層に含まれる第一の無機粒子と第二の無機粒子との質量比(第一の無機粒子:第二の無機粒子)は、調製直後の塗工液の粘度を低く抑えつつ、経時での粘度上昇も抑える観点から、90:10~10:90が好ましく、80:20~40:60がより好ましく、75:25~45:55が更に好ましい。
【0059】
-有機フィラー-
有機フィラーとしては、例えば、架橋ポリ(メタ)アクリル酸、架橋ポリ(メタ)アクリル酸エステル、架橋ポリシリコーン、架橋ポリスチレン、架橋ポリジビニルベンゼン、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体架橋物、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ベンゾグアナミン-ホルムアルデヒド縮合物等の架橋高分子からなる粒子;ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、アラミド、ポリアセタール等の耐熱性高分子からなる粒子;などが挙げられる。これら有機フィラーは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。本開示において「(メタ)アクリル」との表記は「アクリル」及び「メタクリル」のいずれでもよいことを意味する。
【0060】
-その他の成分-
本開示のセパレータにおいて耐熱性多孔質層は、界面活性剤等の分散剤、湿潤剤、消泡剤、pH調整剤などの添加剤を含んでいてもよい。分散剤は、耐熱性多孔質層を形成するための塗工液に、分散性、塗工性又は保存安定性を向上させる目的で添加される。湿潤剤、消泡剤、pH調整剤は、耐熱性多孔質層を形成するための塗工液に、例えば、多孔質基材とのなじみをよくする目的、塗工液へのエア噛み込みを抑制する目的、又はpH調整の目的で添加される。
【0061】
[耐熱性多孔質層の特性]
耐熱性多孔質層の厚さは、セパレータの耐熱性及び電極との接着性の観点から、片面1μm以上が好ましく、片面1.5μm以上がより好ましく、片面2.0μm以上が更に好ましく、イオン透過性及び電池のエネルギー密度の観点から、片面8μm以下が好ましく、片面7.0μm以下がより好ましく、片面6.0μm以下が更に好ましい。
【0062】
耐熱性多孔質層の厚さは、両面の合計として、2μm以上が好ましく、4μm以上がより好ましく、6μm以上が更に好ましく、16μm以下が好ましく、12μm以下がより好ましく、10μm以下が更に好ましい。
【0063】
耐熱性多孔質層が多孔質基材の両面に設けられている場合、一方の面における耐熱性多孔質層の厚さと、他方の面における耐熱性多孔質層の厚さとの差は、両面合計の厚さの25%以下であることが好ましく、低いほど好ましい。
【0064】
単位面積当たりの耐熱性多孔質層の質量は、セパレータの耐熱性及び電極との接着性の観点から、両面の合計として、2.0g/m以上が好ましく、3.0g/m以上がより好ましく、4.0g/m以上が更に好ましく、イオン透過性及び電池のエネルギー密度の観点から、両面の合計として、30.0g/m以下が好ましく、25.0g/m以下がより好ましく、20.0g/m以下が更に好ましい。
【0065】
耐熱性多孔質層が多孔質基材の両面に設けられている場合、耐熱性多孔質層の質量に係る一方の面と他方の面との差は、セパレータのカールを抑制する観点又は電池のサイクル特性を良好にする観点から、両面合計に対して25質量%以下であることが好ましい。
【0066】
耐熱性多孔質層の空孔率は、イオン透過性及び電極に対する接着性の観点から、25%以上が好ましく、30%以上がより好ましく、35%以上が更に好ましく、耐熱性多孔質層の力学的強度及び耐熱性の観点から、60%以下が好ましく、55%以下がより好ましく、50%以下が更に好ましい。耐熱性多孔質層の空孔率ε(%)は、下記の式により求める。
ε={1-(Wa/da+Wb/db+Wc/dc+…+Wn/dn)/t}×100
ここに、耐熱性多孔質層の構成材料がa、b、c、…、nであり、各構成材料の単位面積当たりの質量がWa、Wb、Wc、…、Wn(g/cm)であり、各構成材料の真密度がda、db、dc、…、dn(g/cm)であり、耐熱性多孔質層の厚さがt(cm)である。
【0067】
耐熱性多孔質層の平均孔径は、耐熱性多孔質層に電解液を含浸させた際に耐熱性多孔質層に含まれる樹脂が膨潤しても孔の閉塞が起きにくい観点から、10nm以上が好ましく、20nm以上がより好ましく、電極に対する耐熱性多孔質層の接着性の観点又は電池のサイクル特性及び負荷特性に優れる観点から、300nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましい。
【0068】
耐熱性多孔質層の平均孔径(nm)は、すべての孔が円柱状であると仮定し、以下の式により算出する。
d=4V/S
式中、dは耐熱性多孔質層の平均孔径(直径)、Vは耐熱性多孔質層1m当たりの空孔体積、Sは耐熱性多孔質層1m当たりの空孔表面積を表す。
耐熱性多孔質層1m当たりの空孔体積Vは、耐熱性多孔質層の空孔率から算出する。
耐熱性多孔質層1m当たりの空孔表面積Sは、以下の方法で求める。
まず、多孔質基材の比表面積(m/g)とセパレータの比表面積(m/g)とを、窒素ガス吸着法にBET式を適用することにより、窒素ガス吸着量から算出する。これらの比表面積(m/g)にそれぞれの目付(g/m)を乗算して、それぞれの1m当たりの空孔表面積を算出する。そして、多孔質基材1m当たりの空孔表面積をセパレータ1m当たりの空孔表面積から減算して、耐熱性多孔質層1m当たりの空孔表面積Sを算出する。目付とは、単位面積当たりの質量である。
【0069】
[セパレータの特性]
本開示のセパレータの厚さは、セパレータの機械的強度の観点から、5μm以上が好ましく、8μm以上がより好ましく、10μm以上が更に好ましく、電池のエネルギー密度の観点から、30μm以下が好ましく、25μm以下がより好ましく、20μm以下が更に好ましい。
【0070】
本開示のセパレータの突刺強度は、セパレータの機械的強度又は電池の耐短絡性の観点から、160gf(1.6N)~1000gf(9.8N)が好ましく、200gf(2.0N)~600gf(5.9N)がより好ましい。セパレータの突刺強度の測定方法は、多孔質基材の突刺強度の測定方法と同様である。
【0071】
本開示のセパレータの空孔率は、電極に対する接着性、セパレータのハンドリング性、イオン透過性又は機械的強度の観点から、30%~65%が好ましく、35%~60%がより好ましい。
【0072】
本開示のセパレータのガーレ値(JIS P8117:2009)は、機械的強度と電池の負荷特性の観点から、100秒/100mL~600秒/100mLが好ましく、120秒/100mL~500秒/100mLがより好ましい。
【0073】
本開示のセパレータは、イオン透過性の観点から、セパレータのガーレ値から多孔質基材のガーレ値を減算した値が、400秒/100mL以下が好ましく、300秒/100mL以下がより好ましく、200秒/100mL以下が更に好ましい。セパレータのガーレ値から多孔質基材のガーレ値を減算した値の下限は、特に限定されるものではないが、本開示のセパレータにおいては、好ましくは10秒/100mL以上である。
【0074】
本開示のセパレータは、150℃で1時間熱処理したときのMDの収縮率が、30%以下が好ましく、20%以下がより好ましく、15%以下が更に好ましい。
【0075】
本開示のセパレータは、150℃で1時間熱処理したときのTDの収縮率が、30%以下が好ましく、20%以下がより好ましく、15%以下が更に好ましい。
【0076】
本開示のセパレータは、150℃で1時間熱処理したときの面積収縮率が、50%以下が好ましく、40%以下がより好ましく、30%以下が更に好ましい。
【0077】
セパレータを150℃で1時間熱処理したときの面積収縮率は、以下の測定方法によって求める。
セパレータをMD180mm×TD60mmの長方形に切り出し、試験片とする。この試験片に、TDを2等分する線上で且つ一方の端から20mm及び170mmの箇所に印を付ける(それぞれ点A、点Bという。)。さらに、MDを2等分する線上で且つ一方の端から10mm及び50mmの箇所に印を付ける(それぞれ点C、点Dという。)。印を付けた試験片にクリップをつけて(クリップをつける場所は、点Aから最も近い端と点Aとの間である。)、庫内の温度を150℃に調整したオーブンの中につるし、無張力の状態で1時間熱処理を施す。AB間及びCD間の長さを熱処理の前後で測定し、下記の式により面積収縮率を算出する。
面積収縮率(%)={1-(熱処理後のABの長さ÷熱処理前のABの長さ)×(熱処理後のCDの長さ÷熱処理前のCDの長さ)}×100
【0078】
本開示のセパレータは、多孔質基材及び耐熱性多孔質層以外のその他の層をさらに有していてもよい。その他の層をさらに有する形態としては、例えば、多孔質基材の一方の面に耐熱性多孔質層を有し、多孔質基材の他方の面に電極との接着を主たる目的に設けられた接着性多孔質層を有する形態が挙げられる。
【0079】
[セパレータの製造方法]
本開示のセパレータは、例えば、多孔質基材上に耐熱性多孔質層を湿式塗工法又は乾式塗工法で形成することにより製造できる。本開示において、湿式塗工法とは、塗工層を凝固液中で固化させる方法であり、乾式塗工法とは、塗工層を乾燥させて固化させる方法である。以下に、湿式塗工法の実施形態例を説明する。
【0080】
湿式塗工法は、樹脂及び無機粒子を含有する塗工液を多孔質基材上に塗工し、凝固液に浸漬して塗工層を固化させ、凝固液から引き揚げ水洗及び乾燥を行う方法である。
【0081】
耐熱性多孔質層形成用の塗工液は、樹脂及び無機粒子を溶媒に溶解又は分散させて作製する。塗工液には、必要に応じて、樹脂及び無機粒子以外のその他の成分を溶解又は分散させる。
【0082】
塗工液の調製に用いる溶媒は、樹脂を溶解する溶媒(以下、「良溶媒」ともいう。)を含む。良溶媒としては、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等の極性アミド溶媒が挙げられる。
【0083】
塗工液の調製に用いる溶媒は、良好な多孔構造を有する多孔質層を形成する観点から、相分離を誘発させる相分離剤を含むことが好ましい。したがって、塗工液の調製に用いる溶媒は、良溶媒と相分離剤との混合溶媒であることが好ましい。相分離剤は、塗工に適切な粘度が確保できる範囲の量で良溶媒と混合することが好ましい。相分離剤としては、水、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、ブタンジオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリプロピレングリコール等が挙げられる。
【0084】
塗工液の調製に用いる溶媒としては、良好な多孔構造を形成する観点から、良溶媒と相分離剤との混合溶媒であって、良溶媒を60質量%以上含み、相分離剤を5質量%~40質量%含む混合溶媒が好ましい。
【0085】
塗工液の樹脂濃度は、良好な多孔構造を形成する観点から、3質量%~10質量%であることが好ましい。塗工液の無機粒子濃度は、良好な多孔構造を形成する観点から、2質量%~50質量%であることが好ましい。
【0086】
塗工液は、界面活性剤等の分散剤、湿潤剤、消泡剤、pH調整剤等を含有していてもよい。これらの添加剤は、非水系二次電池の使用範囲において電気化学的に安定で電池内反応を阻害しないものであれば、耐熱性多孔質層に残存するものであってもよい。
【0087】
塗工液の粘度は、多孔質基材への塗工適性の観点から、100mPa・s~2500mPa・sが好ましく、500mPa・s~2000mPa・sがより好ましい。塗工液の粘度(Pa・s)は、B型回転粘度計を用いて、温度20℃の試料を測定した粘度である。
【0088】
多孔質基材への塗工液の塗工手段としては、マイヤーバー、ダイコーター、リバースロールコーター、ロールコーター、グラビアコーター等が挙げられる。耐熱性多孔質層を多孔質基材の両面に形成する場合、塗工液を両面同時に多孔質基材へ塗工することが生産性の観点から好ましい。
【0089】
塗工層の固化は、塗工層を形成した多孔質基材を凝固液に浸漬し、塗工層において相分離を誘発しつつ樹脂を固化させることで行われる。これにより、多孔質基材と耐熱性多孔質層とからなる積層体を得る。
【0090】
凝固液は、塗工液の調製に用いた良溶媒及び相分離剤と、水とを含むことが一般的である。良溶媒と相分離剤の混合比は、塗工液の調製に用いた混合溶媒の混合比に合わせるのが生産上好ましい。凝固液中の水の含有量は40質量%~90質量%であることが、多孔構造の形成及び生産性の観点から好ましい。凝固液の温度は、例えば20℃~50℃である。
【0091】
凝固液中で塗工層を固化させた後、積層体を凝固液から引き揚げ、水洗する。水洗することによって、積層体から凝固液を除去する。さらに、乾燥することによって、積層体から水を除去する。水洗は、例えば、積層体を水浴中を搬送することによって行う。乾燥は、例えば、積層体を高温環境中を搬送すること、積層体に風をあてること、積層体をヒートロールに接触させること等によって行う。乾燥温度は40℃~80℃が好ましい。
【0092】
本開示のセパレータは、乾式塗工法でも製造し得る。乾式塗工法は、塗工液を多孔質基材に塗工し、塗工層を乾燥させて溶媒を揮発除去することにより、耐熱性多孔質層を多孔質基材上に形成する方法である。ただし、乾式塗工法は湿式塗工法に比べて多孔質層が緻密になりやすいので、良好な多孔構造を得る観点から湿式塗工法の方が好ましい。
【0093】
本開示のセパレータは、耐熱性多孔質層を独立したシートとして作製し、この耐熱性多孔質層を多孔質基材に重ねて、熱圧着や接着剤によって複合化する方法によっても製造し得る。耐熱性多孔質層を独立したシートとして作製する方法としては、上述した湿式塗工法又は乾式塗工法を適用して、剥離シート上に耐熱性多孔質層を形成する方法が挙げられる。
【0094】
<非水系二次電池>
本開示の非水系二次電池は、リチウムイオンのドープ及び脱ドープにより起電力を得る非水系二次電池であり、正極と、負極と、本開示の非水系二次電池用セパレータとを備える。ドープとは、吸蔵、担持、吸着、又は挿入を意味し、正極等の電極の活物質にリチウムイオンが入る現象を意味する。
【0095】
本開示の非水系二次電池は、例えば、負極と正極とがセパレータを介して対向した電池素子が電解液と共に外装材内に封入された構造を有する。本開示の非水系二次電池は、非水電解質二次電池、特にリチウムイオン二次電池に好適である。
【0096】
電極の活物質層は、セパレータとの接着性の観点からは、バインダ樹脂が多く含まれていることが好ましく、電池のエネルギー密度を高める観点からは、活物質が多く含まれていることが好ましく相対的にバインダ樹脂量は少ないことが好ましい。本開示のセパレータは電極との接着性に優れるので、活物質層のバインダ樹脂量を減らして活物質量を増やすことを可能にし、よって、電池のエネルギー密度を高めることができる。
【0097】
以下、本開示の非水系二次電池が備える正極、負極、電解液及び外装材の形態例を説明する。
【0098】
正極の実施形態例としては、正極活物質及びバインダ樹脂を含む活物質層が集電体上に成形された構造が挙げられる。活物質層は、さらに導電助剤を含んでもよい。正極活物質としては、例えば、リチウム含有遷移金属酸化物が挙げられ、具体的にはLiCoO、LiNiO、LiMn1/2Ni1/2、LiCo1/3Mn1/3Ni1/3、LiMn、LiFePO、LiCo1/2Ni1/2、LiAl1/4Ni3/4等が挙げられる。バインダ樹脂としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、スチレン-ブタジエン共重合体等が挙げられる。導電助剤としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛粉末等の炭素材料が挙げられる。集電体としては、例えば厚さ5μm~20μmの、アルミニウム箔、チタン箔、ステンレス箔等が挙げられる。
【0099】
本開示の非水系二次電池においては、本開示のセパレータの耐熱性多孔質層に含まれるポリフッ化ビニリデン系樹脂が耐酸化性に優れることにより、耐熱性多孔質層を非水系二次電池の正極に接触させて配置することで、正極活物質として、4.2V以上の高電圧で作動可能なLiMn1/2Ni1/2、LiCo1/3Mn1/3Ni1/3等を適用しやすい。
【0100】
負極の実施形態例としては、負極活物質及びバインダ樹脂を含む活物質層が集電体上に成形された構造が挙げられる。活物質層は、さらに導電助剤を含んでもよい。負極活物質としては、リチウムイオンを電気化学的に吸蔵し得る材料が挙げられ、具体的には例えば、炭素材料;ケイ素、スズ、アルミニウム等とリチウムとの合金;ウッド合金;などが挙げられる。バインダ樹脂としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、スチレン-ブタジエン共重合体等が挙げられる。導電助剤としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛粉末、極細炭素繊維等の炭素材料が挙げられる。集電体としては、例えば厚さ5μm~20μmの、銅箔、ニッケル箔、ステンレス箔等が挙げられる。また、上記の負極に代えて、金属リチウム箔を負極として用いてもよい。
【0101】
電解液は、リチウム塩を非水系溶媒に溶解した溶液である。リチウム塩としては、例えば、LiPF、LiBF、LiClO等が挙げられる。非水系溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ジフルオロエチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状カーボネート;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、及びそのフッ素置換体等の鎖状カーボネート;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン等の環状エステル;などが挙げられ、これらは単独で用いても混合して用いてもよい。電解液としては、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを質量比(環状カーボネート:鎖状カーボネート)20:80~40:60で混合し、リチウム塩を0.5mol/L~1.5mol/Lの範囲にて溶解した溶液が好適である。
【0102】
外装材としては、金属缶、アルミニウムラミネートフィルム製パック等が挙げられる。電池の形状は角型、円筒型、コイン型等があるが、本開示のセパレータはいずれの形状にも好適である。
【0103】
本開示の非水系二次電池は、正極と負極との間に本開示のセパレータを配置した積層体を製造した後、この積層体を用いて、例えば下記の(1)~(3)のいずれかにより製造できる。以下、セパレータに電解液を含浸させて熱プレス処理を行うことを「ウェットヒートプレス」といい、セパレータに電解液を含浸させずに熱プレス処理を行うことを「ドライヒートプレス」という。
【0104】
(1)積層体に熱プレス(ドライヒートプレス)して電極とセパレータとを接着した後、外装材(例えばアルミニウムラミネートフィルム製パック。以下同じ)に収容し、そこに電解液を注入し、外装材内を真空状態にした後、外装材の上からさらに積層体を熱プレス(ウェットヒートプレス)し、電極とセパレータとの接着と、外装材の封止とを行う。
【0105】
(2)積層体を外装材に収容し、そこに電解液を注入し、外装材内を真空状態にした後、外装材の上から積層体を熱プレス(ウェットヒートプレス)し、電極とセパレータとの接着と、外装材の封止とを行う。
【0106】
(3)積層体に熱プレス(ドライヒートプレス)して電極とセパレータとを接着した後、外装材に収容し、そこに電解液を注入し、外装材内を真空状態にした後、外装材の封止を行う。
【0107】
上記(1)~(3)の製造方法における熱プレスの条件としては、ドライヒートプレス及びウェットヒートプレスそれぞれ、プレス圧は0.1MPa~15.0MPaが好ましく、温度は60℃~100℃が好ましい。
【0108】
正極と負極との間にセパレータを配置した積層体を製造する際において、正極と負極との間にセパレータを配置する方式は、正極、セパレータ、負極をこの順に少なくとも1層ずつ積層する方式(所謂スタック方式)でもよく、正極、セパレータ、負極、セパレータをこの順に重ね、長さ方向に捲き回す方式でもよい。
【実施例
【0109】
以下に実施例を挙げて、本開示のセパレータ及び非水系二次電池をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理手順等は、本開示の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本開示のセパレータ及び非水系二次電池の範囲は、以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきではない。
【0110】
<測定方法、評価方法>
実施例及び比較例に適用した測定方法及び評価方法は、以下のとおりである。
【0111】
[多孔質基材及びセパレータの厚さ]
多孔質基材及びセパレータの厚さ(μm)は、接触式の厚み計(株式会社ミツトヨ、LITEMATIC VL-50-B)にて10cm四方内の20点を測定し、これを平均することで求めた。測定端子には球の半径10mmの球面測定子(株式会社ミツトヨ、超硬球面測定子φ10.5)を用い、測定中に約0.2Nの荷重が印加されるように調整した。
【0112】
[耐熱性多孔質層の厚さ]
耐熱性多孔質層の厚さ(μm)は、セパレータの厚さ(μm)から多孔質基材の厚さ(μm)を減算して両面合計の厚さを求め、これを2等分して片面の厚さを求めた。
【0113】
[多孔質基材の空孔率]
多孔質基材の空孔率ε(%)は、下記の式により求めた。
ε={1-Ws/(ds・t)}×100
ここに、Wsは多孔質基材の目付(g/m)、dsは多孔質基材の真密度(g/cm)、tは多孔質基材の厚さ(μm)である。
【0114】
[多孔質基材のガーレ値]
多孔質基材のガーレ値(秒/100mL)は、JIS P8117:2009に従い、ガーレ式デンソメータ(東洋精機社)を用いて測定した。
【0115】
[無機粒子の平均一次粒径]
耐熱性多孔質層を形成するための塗工液に添加する前の無機粒子を試料とした。
無機粒子の平均一次粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察において無作為に選んだ粒子100個の長径を計測し、100個の長径を平均することで求めた。
【0116】
[面積収縮率]
セパレータをMD180mm×TD60mmの長方形に切り出し、試験片とした。この試験片に、TDを2等分する線上で且つ一方の端から20mm及び170mmの箇所に印を付けた(それぞれ点A、点Bという)。さらに、MDを2等分する線上で且つ一方の端から10mm及び50mmの箇所に印を付けた(それぞれ点C、点Dという)。印を付けた試験片にクリップをつけて(クリップをつける場所は、点Aから最も近い端と点Aとの間)、庫内の温度を150℃に調整したオーブンの中につるし、無張力の状態で1時間熱処理を施した。AB間及びCD間の長さを熱処理の前後で測定し、下記の式により面積収縮率(%)を算出し、さらに試験片10枚の面積収縮率(%)を平均した。
【0117】
面積収縮率(%)={1-(熱処理後のABの長さ÷熱処理前のABの長さ)×(熱処理後のCDの長さ÷熱処理前のCDの長さ)}×100
【0118】
[塗工液の粘度]
塗工液の粘度(Pa・s)は、B型回転粘度計(ブルックフィールド社、品番RVDV+I、スピンドル:SC4-18)を用いて測定した。試料は、攪拌によって均質化された塗工液から採取し、試料の量7mL、試料の温度20℃、スピンドルの回転数10回転/minの条件で測定した。
調製直後の塗工液の粘度は、実施例1を基準値とし、ほかの実施例及び比較例それぞれの粘度を実施例1に対する百分率で示す。
【0119】
調製した塗工液を、温度25℃の恒温槽に24時間静置した。24時間後の試料を攪拌して均質化し、試料を採取して、上記の方法で粘度を測定した。実施例及び比較例それぞれ、下記の計算式によって粘度上昇率(%)を算出した。
粘度上昇率(%)=(24時間後の粘度-調製直後の粘度)÷調製直後の粘度×100
【0120】
<セパレータの作製>
[実施例1]
耐熱性多孔質層の材料として、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体(VDF-HFP共重合体。本共重合体は、カルボキシ基及びエステル結合を有しないポリフッ化ビニリデン系樹脂である。)、硫酸バリウム粒子及び水酸化マグネシウム粒子を用意した。硫酸バリウム粒子及び水酸化マグネシウム粒子の物性は表1に記載のとおりである。
【0121】
VDF-HFP共重合体を、ジメチルアセトアミド(DMAc)に溶解し、さらに硫酸バリウム粒子及び水酸化マグネシウム粒子を分散させて、塗工液(1)を得た。塗工液(1)は、VDF-HFP共重合体の濃度が5質量%であり、VDF-HFP共重合体と無機粒子との質量比(VDF-HFP共重合体:無機粒子)が20:80であり、硫酸バリウム粒子と水酸化マグネシウム粒子との質量比(硫酸バリウム粒子:水酸化マグネシウム粒子)が70:30であった。
【0122】
塗工液(1)をポリエチレン微多孔膜(厚さ12μm、空孔率40%、ガーレ値200秒/100mL)の両面に塗工した。その際、表裏の塗工量が等量になるように塗工した。これを、凝固液(水:DMAc=70:30[質量比]、液温40℃)に浸漬し塗工層を固化させ、次いで、水洗し、乾燥した。こうして、ポリエチレン微多孔膜の両面に耐熱性多孔質層が形成されたセパレータを得た。耐熱性多孔質層の厚さは片面4μmであった。
【0123】
[実施例2~12、比較例1~6]
実施例1と同様にして、但し、耐熱性多孔質層の材料及び組成を表1に記載の仕様にして各セパレータを作製した。
【0124】
実施例1~12及び比較例1~6の各セパレータの組成、物性及び評価結果を表1に示す。
【0125】
【表1】