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  • 特許-モータ制御装置及びモータ制御方法 図1
  • 特許-モータ制御装置及びモータ制御方法 図2A
  • 特許-モータ制御装置及びモータ制御方法 図2B
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  • 特許-モータ制御装置及びモータ制御方法 図9B
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-16
(45)【発行日】2024-04-24
(54)【発明の名称】モータ制御装置及びモータ制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 23/06 20160101AFI20240417BHJP
【FI】
H02P23/06
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020185899
(22)【出願日】2020-11-06
(65)【公開番号】P2022075237
(43)【公開日】2022-05-18
【審査請求日】2023-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000144027
【氏名又は名称】株式会社ミツバ
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】岡田 宏昭
(72)【発明者】
【氏名】ペスカドール マドリッド ビクター
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/171836(WO,A1)
【文献】特開平10-337072(JP,A)
【文献】特開2020-39200(JP,A)
【文献】特開2019-134550(JP,A)
【文献】特開2001-292592(JP,A)
【文献】特開2001-268961(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 23/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブラシレスモータに接続されるブリッジ回路にゲート信号を印加するゲート駆動出力部と、
電源から前記ブリッジ回路に供給される電源を平滑化するコンデンサと、
を有するモータ制御装置であって、
前記電源と前記ブリッジ回路との間に接続されるコンタクタと、
前記コンタクタがオフとなったことを検出するコンタクタ開検出部と、
前記ブラシレスモータに備えられたコイルのインダクタンスの変化が基準値以内であるロータの回転角度を相毎に記憶する記憶部と、
ロータの回転角度を検出するロータ位置検出部と、
回生動作中にコンタクタがオフとなったことが検出されると、前記記憶部を参照し、前記検出された回転角度に基づいて前記インダクタンスの変化が基準値以内である相のコイルに対し前記コンデンサから放電する指令を、前記ゲート駆動出力部に出力する指令出力部と、
前記コンデンサから放電する期間が終了すると前記コンタクタをオンにするコンタクタ制御部と
を有するモータ制御装置。
【請求項2】
前記コンタクタ開検出部は、
電源電流が基準電流値であって、かつ、前記コンデンサの電圧が基準電圧以上になった場合に、コンタクタがオフとなったことを検出する
請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記コンタクタ制御部は、
前記コンデンサの電圧が前記電源の電圧まで低下したか否かを判定し、
前記コンデンサの電圧が前記電源の電圧まで低下したと判定された場合に、前記コンデンサから放電する期間が終了したと判定し、前記コンタクタをオンにする
請求項1または請求項2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記コンタクタ開検出部は、前記コンデンサの電圧と前記電源の電圧との電圧差が所定の判定基準電圧よりも大きい場合に、前記コンタクタがオフになったことを検出する
請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
電源をブリッジ回路に供給してブラシレスモータを駆動するモータ制御方法であって、
前記電源とブリッジ回路との間にはコンタクタが挿入されるとともに、前記電源から前記ブリッジ回路に供給される電源を平滑化するコンデンサが設けられており、
前記コンタクタがオフとなったことを検出する工程と、
前記ブラシレスモータのロータの回転角度を検出する工程と、
回生動作中に前記コンタクタがオフとなったことが検出されると、前記検出されたロータの回転角度に基づいて、インダクタンスの変化が基準値以内である相のコイルに対し、前記コンデンサの電荷を放電させる工程と、
前記コンデンサから放電する期間が終了すると前記コンタクタをオンにする工程と、
を含むモータ制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御装置及びモータ制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
EV(Electric Vehicle)システムでは、例えば特許文献1に示されているように、バッテリとモータの駆動回路との間に、コンタクタが挿入されている。モータが回生動作中、コンタクタは閉状態(オン状態)となっており、モータの回生電流により、バッテリが充電されていく。
【0003】
図9A及び図9Bは、EVのモータ制御装置の概要を示すブロック図である。図9A及び図9Bにおいて、バッテリ501と駆動回路502との間には、コンタクタ503が挿入される。駆動回路502はブリッジ回路を基本構成とするインバータであり、駆動電流によりモータ505を駆動している。コンデンサ504は平滑コンデンサである。
【0004】
モータ505を回生動作させると、モータ505が発電機として機能する。この場合、通常、図9Aに示すように、コンタクタ503は閉状態になっている。したがって、モータ505からの回生電流がバッテリ501に送られ、バッテリ501が充電されていく。
【0005】
ところが、コンタクタコイル駆動電圧の変動、コンタクタコイル駆動ハーネスの接触不良、機械的衝撃などにより、モータ作動中にコンタクタ503が開状態(オフ状態)になることがある。回生動作中にコンタクタ503が開状態になると、図9Bに示すように、モータ505からの回生電流をバッテリ501に送る経路が遮断され、バッテリ501が充電されなくなる。また、回生動作中にコンタクタ503が開状態になると、モータ505からの回生電流によりコンデンサ504の電圧が上昇していく。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6296169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
回生動作中にコンタクタ503が開状態となった場合、コンデンサ504の電圧が上昇するため、電子部品を保護するための過電圧保護機能が必要となる。EVシステムとしては、このような状況が発生した場合、回生ブレーキが失陥するため、早急に機能復帰が望まれる。しかしながら、過電圧状態でコンタクタ503を閉動作(オン動作)させると、コンデンサ504からバッテリ501へ突入電流が流れるため、コンタクタ接点やバッテリを痛めてしまう恐れがある。また、コンタクタコイルの電源にコンデンサの電荷を利用する場合、コンタクタコイルの最大許容電圧を超過してしまう恐れがある。
【0008】
上述の課題を鑑み、本発明は、回生動作中にコンタクタが開状態となった場合に、速やかにコンデンサ電荷を放電し、回生動作を復帰させることができるモータ制御装置及びモータ制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係るモータ制御装置は、ブラシレスモータに接続されるブリッジ回路にゲート信号を印加するゲート駆動出力部と、電源から前記ブリッジ回路に供給される電源を平滑化するコンデンサと、を有するモータ制御装置であって、前記電源と前記ブリッジ回路との間に接続されるコンタクタと、前記コンタクタがオフとなったことを検出するコンタクタ開検出部と、前記ブラシレスモータに備えられたコイルのインダクタンスの変化が基準値以内であるロータの回転角度を相毎に記憶する記憶部と、ロータの回転角度を検出するロータ位置検出部と、回生動作中にコンタクタがオフとなったことが検出されると、前記記憶部を参照し、前記検出された回転角度に基づいて前記インダクタンスの変化が基準値以内である相のコイルに対し前記コンデンサから放電する指令を、前記ゲート駆動出力部に出力する指令出力部と、前記コンデンサから放電する期間が終了すると前記コンタクタをオンにするコンタクタ制御部とを有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、回生動作中にコンタクタが開状態になり、コンデンサ電圧が上昇した場合に、各相のモータコイルの中でインダクタンスの変化が小となる相のコイルを用いてコンデンサの電荷を放電させることで、コンデンサの電荷を素早く放電し、回生動作を復帰させることができる。これにより、回生ブレーキ機能の失陥を最小限に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第1の実施形態に係るモータ制御装置の構成図である。
図2A】本発明の第1の実施形態に係るモータ制御装置でのコンデンサの放電制御の説明図である。
図2B】本発明の第1の実施形態に係るモータ制御装置でのコンデンサの放電制御の説明図である。
図2C】本発明の第1の実施形態に係るモータ制御装置でのコンデンサの放電制御の説明図である。
図3】SRモータのインダクタンスの変化の一例を示すグラフである。
図4】本発明の第1の実施形態に係るモータ制御装置での回生駆動制御を示すフローチャートである。
図5】本発明の第1の実施形態に係るモータ制御装置でのコンデンサ電圧及び電源電流の時間変化を示すグラフである。
図6】本発明の第2の実施形態に係るモータ制御装置の構成図である。
図7】本発明の第2の実施形態における過電圧検出のフローチャートである。
図8】本発明の第2の実施形態での過電圧検出の説明図である。
図9A】EVのモータ制御装置の概要を示すブロック図である。
図9B】EVのモータ制御装置の概要を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
<第1の実施形態>
図1は、本発明の第1の実施形態に係るモータ制御装置1の構成図である。図1において、モータ10は、EV(Electric Vehicle)で車両を駆動するモータである。モータ10としては、SR(Switched reluctance)モータが用いられる。SRモータは、ブラシレスであり、凸極型のロータと、3相のモータコイル11u、11v、11wとを備えている。
【0013】
モータ10の各相のモータコイル11u、11v、11wには、駆動回路30を構成するハーフブリッジ回路から、各相のPWM(Pulse Width Modulation)駆動信号が供給される。各相のモータコイル11u、11v、11wに流れる電流は、電流センサ13u、13v、13wで検出される。また、モータ10には、ロータの回転位置を検出するための回転センサ12が取り付けられている。
【0014】
バッテリ20は、モータ10を駆動するための電源である。バッテリ20としては、鉛蓄電池、ニッケル・カドミウム電池、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池等、充電可能な二次電池が用いられる。
【0015】
駆動回路30はインバータであり、バッテリ20から送られてきた直流電源からU相、V相、W相の3相の駆動電流を生成し、モータ10の各相のモータコイル11u、11v、11wに供給して、モータ10を駆動する。駆動回路30は、MOSトランジスタ31u、31v、31wと、MOSトランジスタ32u、32v、32wと、ダイオード33u、33v、33wと、ダイオード34u、34v、34wとから構成される。
【0016】
MOSトランジスタ31u及び32u、ダイオード33u及び34uは、U相のモータコイル11uに駆動信号を供給するハーフブリッジ回路を構成している。MOSトランジスタ31v及び32v、ダイオード33v及び34vは、V相のモータコイル11vに駆動信号を供給するハーフブリッジ回路を構成している。MOSトランジスタ31w及び32w、ダイオード33w及び34wは、W相のモータコイル11wに駆動信号を供給するハーフブリッジ回路を構成している。
【0017】
バッテリ20の正極から駆動回路30に電源を供給するハイサイド電源ライン21a、21b中には、コンタクタ23が挿入される。電圧センサ61は、バッテリ20側のハイサイド電源ライン21aとローサイド電源ライン22との間のバッテリ電圧を検出している。電圧センサ62は、駆動回路30側のハイサイド電源ライン21bとローサイド電源ライン22との間のコンデンサ電圧を検出している。また、電流センサ63は、ハイサイド電源ライン21bに流れる電源電流を検出している。
【0018】
ハイサイド電源ライン21bとローサイド電源ライン22との間に、コンデンサ25が接続される。コンデンサ25は、バッテリ20から駆動回路30に供給される電源を平滑化する。
【0019】
また、ハイサイド電源ライン21aとローサイド電源ライン22との間に、MOSトランジスタ27及びMOSトランジスタ28が直列に接続される。MOSトランジスタ27及びMOSトランジスタ28の接続点は、抵抗29を介して、ハイサイド電源ライン21bに接続される。MOSトランジスタ27及びMOSトランジスタ28は、コンデンサ25のプリチャージ及びディスチャージを行う。
【0020】
制御回路40は、CPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro Processor Unit)、メモリ等からなり、各部の制御を行う。制御回路40は、電圧検出部401、電流検出部402、ロータ位置検出部403、各相コイル電流検出部404、モータ駆動制御部405、ゲート駆動出力部406、起動・停止認識処理部407、プリチャージ・ディスチャージ制御部408、コンタクタ開検出部409、コンタクタ制御部410、ディスチャージ指令出力部411、及びディスチャージタイミング記憶部412からなる。
【0021】
電圧検出部401は、電圧センサ61及び62の検出信号から、バッテリ電圧及びコンデンサ電圧を検出する。電流検出部402は、電流センサ63の検出信号から、電源電流を検出する。ロータ位置検出部403は、回転センサ12の検出信号から、モータ10のロータの回転角度を検出する。各相コイル電流検出部404は、電流センサ13u、13v、13wの検出信号から、各相のモータコイル11u、11v、11wを流れる電流を検出する。
【0022】
モータ駆動制御部405には、駆動指令、停止指令、回生指令が入力される。モータ駆動制御部405は、駆動指令を入力すると、モータ10を駆動するための制御信号を生成して、ゲート駆動出力部406に出力する。このときには、モータ10は力行動作となる。また、モータ駆動制御部405は、停止指令を入力すると、モータ10を停止するための制御信号を生成して、ゲート駆動出力部406に出力する。このときには、モータ10は惰性回転した後、停止する。モータ駆動制御部405は、回生指令を入力すると、モータ10に回生動作を行わせるための制御信号を生成して、ゲート駆動出力部406に出力する。この場合、モータ10は、回生動作となる。
【0023】
ゲート駆動出力部406は、モータ駆動制御部405からの制御信号から、駆動回路30のMOSトランジスタ31u、31v、31w及びMOSトランジスタ32u、32v、32wへのゲート信号を生成する。これにより、モータ10の各相のモータコイル11u、11v、11wに駆動電流が供給され、モータ10が回転される。
【0024】
起動・停止認識処理部407は、起動スイッチの状態から起動及び停止を認識する。起動・停止認識処理部407は、起動及び停止を認識すると、プリチャージ・ディスチャージ制御部408に制御信号を出力し、MOSトランジスタ27及び28を制御して、コンデンサ25をプリチャージ及びディスチャージする。
【0025】
プリチャージ・ディスチャージ制御部408は、MOSトランジスタ27及び28のゲートにゲート信号を供給して、コンデンサ25の充放電を制御する。コンタクタ23が開状態の間に、MOSトランジスタ27がオンし、MOSトランジスタ28がオフのときには、抵抗29を介してコンデンサ25がプリチャージされる。MOSトランジスタ28がオンし、MOSトランジスタ27がオフのときには、コンデンサ25の電荷が抵抗29を介してディスチャージされる。
【0026】
コンタクタ開検出部409は、電圧検出部401の検出出力と、電流検出部402の検出出力に基づいて、コンタクタ23が開(オフ)状態にあるか、閉(オン)状態にあるかを検出する。より具体的には、コンタクタ開検出部409は、電流センサ63から取得される電源電流が基準電流(0A)であって、かつ、電圧センサ62から得られるコンデンサ25の電圧が基準電圧以上になった場合に、コンタクタ23が開状態になったことを検出する。すなわち、コンタクタ23が閉状態において回生動作が行われると、回生電流がバッテリ20に流れるため、電源電流はマイナスとなる。また、このときには、コンデンサ25の電圧は基準電圧以下になる。コンタクタ23が開状態で回生動作が行われると、回生電流がバッテリ20に流れないため、電源電流は基準電流(0A)となる。また、コンデンサ25に回生電流が流れ込むため、コンデンサ25の電圧は基準電圧以上になる。
【0027】
コンタクタ制御部410は、電圧検出部401の検出出力と、プリチャージ・ディスチャージ制御部408、コンタクタ開検出部409の検出出力に基づいて、コンタクタ23の開閉を制御する。
【0028】
ディスチャージ指令出力部411は、モータ10を回生動作中に、コンタクタ23が開状態を検出した場合に、コンデンサ25の電荷をモータコイル11u、11v、11wにより放電させる制御を行う。後に説明するように、本実施形態では、ディスチャージ指令出力部411は、ロータの回転角に対応して、各相のモータコイル11u、11v、11wの中でトルク最小となる相のコイルに放電路を形成して、コンデンサ25の電荷が放電されるように、各相のMOSトランジスタ31u、31v、31w及びMOSトランジスタ32u、32v、32wを制御する。
【0029】
ディスチャージタイミング記憶部412は、ロータの回転角に対応して、各相のモータコイル11u、11v、11wの中でトルク最小となる相のタイミングデータを記憶している。ディスチャージ指令出力部411は、コンデンサ25の電荷をディスチャージさせる制御を行う際に、ディスチャージタイミング記憶部412に記憶されているタイミングデータを用いて、各相のモータコイル11u、11v、11wの中でトルクが最小となる相のコイルに放電経路を形成する。
【0030】
次に、本発明の第1の実施形態に係るモータ制御装置1の動作について説明する。本発明の第1の実施形態に係るモータ制御装置1は、EVで車両を駆動するのに用いられる。EVのモータ10では、バッテリ20からの電源をモータ10に供給してロータを回転させる力行動作と、ロータの回転により生じるモータ10の回生電流によりバッテリ20を充電させる回生動作とが行われる。
【0031】
ここで、モータ10が回生動作を行っている間に、コンタクタ23が開状態になっていると、モータ10の回生電流はバッテリ20に送られなくなる。この場合には、モータ10の回生電流は、ハイサイド電源ライン21bからコンデンサ25に送られ、コンデンサ25の充電電流となる。これにより、コンデンサ25の電圧が上昇していく。コンデンサ25の電圧が上昇し、過電圧状態とならないよう、回生制御を停止するため、回生機能が失陥する。
【0032】
回生ブレーキの機能を復帰させるために、直ちにコンタクタ23を閉動作させると、ハイサイド電源ライン21aとハイサイド電源ライン21bとの間に電圧差が生じているため、コンデンサ25からバッテリ20へ突入電流が流れる。これにより、コンタクタ23の接点やバッテリ20を破壊してしまう恐れがある。
【0033】
また、コンデンサ25の電圧が上昇したら、MOSトランジスタ28をオンして、コンデンサ25の電荷を放電することが考えられる。しかしながら、この場合、抵抗29を介してコンデンサ25の電荷が放電されるため、抵抗29の抵抗値の設定によっては、放電に時間がかかり、速やかにコンデンサ25の電圧を低下できない。
【0034】
そこで、本実施形態では、モータ10が回生動作中に、コンタクタ23の開状態を検出した場合に、ロータの回転角に対応して、各相のモータコイル11u、11v、11wの中でトルク最小となる相のコイルに放電路を形成して、コンデンサ25の電荷が放電されるように、各相のMOSトランジスタ31u、31v、31w及びMOSトランジスタ32u、32v、32wを制御している。このことについて、以下に説明する。
【0035】
図2A図2B、及び図2Cは、本発明の第1の実施形態に係るモータ制御装置でのコンデンサの放電制御の説明図である。
【0036】
図2Aから図2Cに示すように、各モータコイル11u、11v、11wは、駆動回路30を構成するハーフブリッジ回路に接続される。すなわち、MOSトランジスタ31u及び32u、ダイオード33u及び34uは、U相のモータコイル11uに駆動信号を供給するハーフブリッジ回路を構成している。MOSトランジスタ31uとダイオード34uとの接続点と、ダイオード33uとMOSトランジスタ32uとの接続点との間に、u相のモータコイル11uが接続される。
【0037】
MOSトランジスタ31v及び32v、ダイオード33v及び34vは、V相のモータコイル11vに駆動信号を供給するハーフブリッジ回路を構成している。MOSトランジスタ31vとダイオード34vとの接続点と、ダイオード33vとMOSトランジスタ32vとの接続点との間に、V相のモータコイル11vが接続される。
【0038】
MOSトランジスタ31w及び32w、ダイオード33w及び34wは、W相のモータコイル11wに駆動信号を供給するハーフブリッジ回路を構成している。MOSトランジスタ31wとダイオード34wとの接続点と、ダイオード33wとMOSトランジスタ32wとの接続点との間に、W相のモータコイル11wが接続される。
【0039】
ここで、図2Aに示すように、U相のMOSトランジスタ31u及びMOSトランジスタ32uをオンさせると、コンデンサ25の電荷は、MOSトランジスタ31u、モータコイル11u、MOSトランジスタ32uを介して流れ、コンデンサ25の電荷を放電させることができる。また、図2Bに示すように、V相のMOSトランジスタ31v及びMOSトランジスタ32vをオンさせると、コンデンサ25の電荷は、MOSトランジスタ31v、モータコイル11v、MOSトランジスタ32vを介して流れ、コンデンサ25の電荷を放電させることができる。また、図2Cに示すように、W相のMOSトランジスタ31w及びMOSトランジスタ32wをオンさせると、コンデンサ25の電荷は、MOSトランジスタ31w、モータコイル11w、MOSトランジスタ32wを介して流れ、コンデンサ25の電荷を放電させることができる。
【0040】
モータコイル11u、11v、11w中の何れの相にコンデンサ25の放電経路を形成するかは、モータの回転に対する影響を考慮して決定される。本実施形態では、ロータの回転角に対応して、各相のモータコイル11u、11v、11wの中でトルク最小となる相のコイルがコンデンサ25の放電経路となるように、各相のMOSトランジスタを駆動している。
【0041】
つまり、SRモータのトルクは、以下の式で求められる。
【0042】
【数1】
【0043】
上式から、インダクタンスの変化量(dL/dθ)が最小となる相が、トルクが最小となる相のコイルとなる。
【0044】
図3は、SRモータのインダクタンスの変化の一例を示すグラフである。図3において、横軸はロータの回転角を示し、縦軸はインダクタンスを示す。
【0045】
図3において、LuがU相のインダクタンスの変化を示し、LvがV相のインダクタンスの変化を示し、LwがW相のインダクタンスの変化を示す。SRモータのトルクが上式で示されることから、U、V、Wの各相のインダクタンスの中で、その変化量が最小になる相においてトルクが最小となる。
【0046】
図3のグラフによると、期間T1では、U相のインダクタンスの変化を示す曲線Luの傾きが最も小さい。よって、期間T1のタイミングでは、各相のモータコイル11u、11b、11wの中でトルク最小となる相のコイルはU相のモータコイル11uである。この場合、図2Aに示したように、U相のMOSトランジスタ31u及びMOSトランジスタ32uがオンされ、モータコイル11uを通じて、コンデンサ25の電荷が放電される。
【0047】
期間T2では、V相のインダクタンスの変化を示す曲線Lvの傾きが最も小さい。よって、期間T2のタイミングでは、各相のモータコイル11u、11v、11wの中でトルク最小となる相のコイルはV相のモータコイル11vである。この場合、図2Bに示したように、V相のMOSトランジスタ31v及びMOSトランジスタ32vがオンされ、モータコイル11vを通じて、コンデンサ25の電荷が放電される。
【0048】
期間T3では、W相のインダクタンスの変化を示す曲線Lwの傾きが最も小さい。よって、期間T3のタイミングでは、各相のモータコイル11u、11v、11wの中でトルク最小となる相のコイルはW相のモータコイル11wである。この場合、図2Cに示したように、W相のMOSトランジスタ31w及びMOSトランジスタ32wがオンされ、モータコイル11wを通じて、コンデンサ25の電荷が放電される。
【0049】
ディスチャージタイミング記憶部412には、図3に示すグラフを基に、ロータの回転角に対応して、トルクが最小となる相のコイルを示すタイミングデータが記憶される。ディスチャージ指令出力部411は、ディスチャージタイミング記憶部412のデータを基に、各相のモータコイル11u、11v、11wの中で、そのタイミングで、トルクが最小となる相のコイルを判定する。ゲート駆動出力部406は、モータコイル11u、11v、11wのうち、判定された相のコイルがコンデンサ25の放電経路となるように、MOSトランジスタ31u、31v、31w及びMOSトランジスタ32u、32v、32wにゲート信号を出力する。
【0050】
図4は、本発明の第1の実施形態に係るモータ制御装置での回生駆動制御を示すフローチャートである。
【0051】
(ステップS1)コンタクタ開検出部409は、コンタクタ23が開状態か否かを判定し、コンタクタ23が開状態でなければ(ステップS1:No)、処理をステップS2に進める。前述したように、コンタクタ開検出部409は、電流センサ63から取得される電源電流が基準電流(0A)であって、かつ、電圧センサ62から得られるコンデンサ25の電圧が基準電圧以上になった場合に、コンタクタ23が開状態になったと判定する。
【0052】
(ステップS2)モータ駆動制御部405は、モータ10の回転により発電を行い、回生動作を行う。
【0053】
(ステップS3)モータ駆動制御部405は、回生駆動を停止させ、処理をステップS4に進める。
【0054】
(ステップS4)コンタクタ開検出部409はディスチャージ指令出力部411に、モータコイルによるディスチャージを行うように、指令を出力する。モータコイルによるディスチャージ処理は、前述したように、ディスチャージタイミング記憶部412のデータから、各相のモータコイル11u、11v、11wの中でトルクが最小となる相のコイルを判定し、各相のモータコイル11u、11v,11wを用いて、コンデンサ25を放電させる処理である。
【0055】
(ステップS5)ディスチャージ指令出力部411は、コンデンサ25の電圧が電源電圧と同程度になるまで、モータコイルによるディスチャージ処理を行う。そして、この間、コンタクタ制御部410は、コンデンサ25の電圧とバッテリ20の電圧とを検出し、コンデンサ25の電圧がバッテリ20の電圧とコンデンサ25の電圧が電源電圧と同程度になったか否かを判定し、コンデンサ25の電圧がバッテリ20の電圧と同程度になったら、処理をステップS6に進める。
【0056】
(ステップS6)ディスチャージ指令出力部411は、コンデンサ25の電圧がバッテリ20の電圧と同程度になったと判定すると、モータコイルによるコンデンサ25のディスチャージを停止して、処理をステップS7に進める。
【0057】
(ステップS7)コンタクタ制御部410は、コンデンサ25の電圧がバッテリ20の電圧と同程度になったと判定すると、コンタクタ23を閉状態として、処理をステップS8に進める。コンタクタ23を閉状態とすると、モータ10からの回生電流は、ハイサイド電源ライン21b、コンタクタ23、ハイサイド電源ライン21bを通じてバッテリ20に流れ、バッテリ20が充電可能となる。
【0058】
(ステップS8)モータ駆動制御部405は回生動作を再開し、モータ10からの回生電流をコンタクタ23を通じてバッテリ20に送り、バッテリ20を充電させる。
【0059】
図5は、本発明の第1の実施形態に係るモータ制御装置1でのコンデンサ電圧及び電源電流の時間変化を示すグラフである。
【0060】
図5において、時点t10以前では、コンタクタ23が閉状態となっていて、回生動作が行われている。コンタクタ23が閉状態となっているときには、ハイサイド電源ライン21aとハイサイド電源ライン21bとはコンタクタ23を介して接続されているので、コンデンサ25の電圧は電源電圧と等しくなっている。また。コンタクタ23が閉状態において回生動作が行われるため、回生電流がバッテリ20に流れ、電源電流は0A以下のマイナス電流となる。
【0061】
時点t10でコンタクタ23が開状態で回生動作になると、ハイサイド電源ライン21aとハイサイド電源ライン21bとは分断され、コンデンサ25の電圧は時間とともに上昇していく。また、コンタクタ23が開状態となっている間では、バッテリ20に回生電流は流れないので、電源電流は0Aになっている。
【0062】
時点t11で、コンデンサ25の電圧が過電圧と認識されると、コンデンサ25の電圧が電源電圧と同等になるまで、各相のモータコイル11u、11v,11wを用いて、コンデンサ25の電荷が放電される。これにより、コンデンサ25の電圧は下降していく。
【0063】
時点t12でコンデンサ25の電圧が電源電圧と等しくなると、コンタクタ23が閉状態になる。コンタクタ23が閉状態になることから、ハイサイド電源ライン21aとハイサイド電源ライン21bとが繋がり、コンデンサ25の電圧は電源電圧に維持される。コンタクタ23が閉状態になり回生制御が再開すると、バッテリ20に回線電流が流れるため、電源電流は0A以下のマイナス電流となる。
【0064】
以上説明したように、本実施形態では、モータ10が回生動作を行っている間に、コンタクタ23が開状態で過電圧になると、各相のモータコイル11u、11v、11wを通じて、コンデンサ25の電荷が放電される。各相のモータコイル11u、11v、11wを通じてコンデンサ25の電荷を放電した場合、コンデンサ25の電荷を素早く放電できる。また、本実施形態では、モータコイル11u、11v、11wのうち、トルクが最小となる相のコイルを用いて、コンデンサ25の電荷を放電させている。このため、モータ10の回転に影響を与えずに、コンデンサ25の電荷を放電できる。
【0065】
<第2の実施形態>
前述の第1実施形態においては、コンタクタ開検出部409は、電源電流が0Aであり、かつ、コンデンサ25の電圧が上昇していることが検出された場合に、コンタクタ23が開であることを検出したが、電源電流を参照するのではなく、バッテリ20の電圧やコンデンサ25電圧を参照するようにしてもよい。更に、バッテリ20の電圧とコンデンサ25の電圧との電圧差を用いて、コンタクタ23が開状態で過電圧になったことを検出してもよい。
【0066】
一般的に、コンデンサ25の電圧を検出する期間は短期間ではない場合が多く、また、検出結果を得る経路の途中にフィルタ回路等の部品を経由する場合もあり得る。このような場合には、検出するまでの時間がある程度必要な場合もある。バッテリ20の電圧とコンデンサ25の電圧との電圧差を用いた場合、電圧差を検出した時点では、コンデンサ25の電圧が過電圧の閾値以上まで上昇していなかったとしても、バッテリ20の電圧とコンデンサ25の電圧との差がある程度生じていることが検出された場合には、コンタクタ23が開状態で過電圧と判断できるので、コンデンサ25の電圧が過電圧の閾値以上まで上昇したことを検出することを待つまでの時間よりも前のタイミングで、コンタクタ23の開状態を検出することができる。
【0067】
図6は、本発明の第2の実施形態に係るモータ制御装置1aの構成図である。この第2の実施形態では、電圧差判定部450が設けられる。電圧差判定部450は、バッテリ20の電圧とコンデンサ25の電圧との電圧差を検出している。コンタクタ開検出部409は、バッテリ20の電圧とコンデンサ25の電圧との電圧差を用いて、コンタクタ23が開状態で過電圧になったことを検出している。
【0068】
また、この第2の実施形態では、コンタクタ23のコイルに供給する電源をハイサイド電源ラインとは別系統の制御電源50から供給することで、コンタクタ23のコイルの最大許容電圧が超過することを回避している。
【0069】
図7は、本発明の第3の実施形態での検出処理を示すフローチャートである。
(ステップS101)電圧差判定部450は、電圧センサ61の検出出力と、電圧センサ62の検出出力とから、バッテリ20の電圧Vbatと、コンデンサ25の電圧Vcapとを取得する。
【0070】
(ステップS102)電圧差判定部450は、コンデンサ25の電圧Vcapとバッテリ20の電圧Vbatとの電圧差(Vcap-Vbat)が所定の判定基準電圧Vaより大きいか否かを判定し、電圧差(Vcap-Vbat)が所定の判定基準電圧Vaより大きい場合には(ステップS102:Yes)、ディスチャージ指令出力部411にモータコイルによるディスチャージを行う指令を出力して、処理をステップS104に進める。電圧差(Vcap-Vbat)が所定の判定基準電圧Vaより大きくない場合には(ステップS102:No)、ステップS103に処理を進める。
【0071】
(ステップS103)電圧差(Vcap-Vbat)が所定の判定基準電圧Vaより大きくない場合には、通常動作を行う。
【0072】
(ステップS104)電圧差(Vcap-Vbat)が所定の判定基準電圧Vaより大きい場合には、ディスチャージ指令出力部411は、モータコイルによるディスチャージ処理を行う。モータコイルによるディスチャージ処理は、ディスチャージタイミング記憶部412のデータから、各相のモータコイル11u、11v、11wの中でトルク最小となる相のコイルを判定し、コンデンサ25の電圧が電源電圧と同等になるまで、各相のモータコイル11u、11v,11wを用いて、コンデンサ25の電荷を放電させる処理である。
【0073】
図8は、本発明の第3の実施形態での過電圧検出の説明図である。図8において、過電圧閾値をVthとする。コンデンサ25の電圧から過電圧を検出した場合、コンデンサ25の電圧Vcapが過電圧閾値をVth超える時点T102が過電圧の検出タイミングとなる。これに対して、この実施形態では、コンデンサ25の電圧Vcapとバッテリ20の電圧Vbatとの電圧差(Vcap-Vbat)が所定の判定基準電圧Vaより大きくなる時点T101が過電圧の検出タイミングとなる。
【0074】
このように、コンデンサ25の電圧Vcapとバッテリ20の電圧Vbatとの電圧差(Vcap-Vbat)を検出することで、過電圧の検出タイミングを速くすることができる。
【0075】
なお、電圧差(Vcap-Vbat)が所定の判定基準電圧Vaより大きい場合には、駆動回路30の動作を停止して、エラーを表示しても良い。
【0076】
上述した実施形態におけるモータ制御装置1の全部または一部をコンピュータで実現するようにしてもよい。その場合、この機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよく、FPGA等のプログラマブルロジックデバイスを用いて実現されるものであってもよい。
【0077】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【符号の説明】
【0078】
10…モータ、11u、11v、11w…モータコイル、20…バッテリ、23…コンタクタ、25…コンデンサ、30…駆動回路、40…制御回路、403…ロータ位置検出部、405…モータ駆動制御部、406…ゲート駆動出力部、407…起動・停止認識処理部、408…プリチャージ・ディスチャージ制御部、409…コンタクタ開検出部、410…コンタクタ制御部、411…ディスチャージ指令出力部、412…ディスチャージタイミング記憶部
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B