(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-16
(45)【発行日】2024-04-24
(54)【発明の名称】吸音構造体
(51)【国際特許分類】
G10K 11/16 20060101AFI20240417BHJP
B60R 13/08 20060101ALI20240417BHJP
【FI】
G10K11/16 140
B60R13/08
(21)【出願番号】P 2020207658
(22)【出願日】2020-12-15
【審査請求日】2023-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中野 幸人
(72)【発明者】
【氏名】西垣 英一
(72)【発明者】
【氏名】富田 直
(72)【発明者】
【氏名】西村 拓也
(72)【発明者】
【氏名】瀬木 真琴
【審査官】毛利 太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/043489(WO,A1)
【文献】特開2007-223606(JP,A)
【文献】特開2020-050038(JP,A)
【文献】特開2020-052139(JP,A)
【文献】国際公開第1998/018657(WO,A1)
【文献】特表2007-509816(JP,A)
【文献】特開2003-293326(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0130854(US,A1)
【文献】特開昭60-236600(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/00 - 11/36
H04R 1/00 - 31/00
B60R 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部を有する箱状部材と前記開口部を閉塞するように配置された蓋材とを備えており、
前記箱状部材の内側には、前記箱状部材と前記蓋材とによって囲まれた副気室空間が形成されており、
前記箱状部材の前記開口部に対向する面には、前記箱状部材の内側と外側とが連通するように直径2mm以下の連通孔が形成されており、
前記箱状部材がセルロース系繊維材料からなるものであり、
前記蓋材の曲げ剛性が
13.8~150Nmである、
ことを特徴とする吸音構造体。
【請求項2】
前記箱状部材が、セルロース系繊維が積層されて一体化したものであることを特徴とする請求項1に記載の吸音構造体。
【請求項3】
1つの前記箱状部材と1つの前記蓋材とが1つの前記副気室空間を形成していることを特徴とする請求項1又は2に記載の吸音構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸音構造体に関し、より詳しくは、ヘルムホルツ共鳴を利用した吸音構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、騒音対策として、ヘルムホルツ共鳴を利用した吸音構造体が、車両や建築物等の各種構造体に設置されている。
【0003】
例えば、特開2020-50038号公報(特許文献1)には、中空の凸部と、前記凸部の内外を連通する連通部とを備える吸遮音部材が開示されており、この吸遮音部材において、前記凸部は、複数のセルロース系繊維が積層状態で一体化されている素材で構成されているとともに、前記セルロース系繊維が所定の厚みで積層されている一般部位と、前記一般部位よりも多量の前記セルロース系繊維が積層されている肉厚部位とを一体で有し、前記肉厚部位によって前記連通部の外径が形成されているとともに、前記連通部には、前記肉厚部位を厚み方向に貫通して前記凸部の内外を連通する通路部が設けられていることが記載されている。
【0004】
また、特開2020-52139号公報(特許文献2)には、吸遮音部材と、前記吸遮音部材と第一の音源の間に設けられた第一区画部材と、前記記吸遮音部材と第二の音源の間に設けられた第二画部材とを備えた吸遮音構造が開示されており、この吸遮音構造におい、前記吸遮音部材は、前記第一区画部材と前記第二画部材とを交互に当接するように曲げ形成されている板状部材であって、両区画部材の間の隙を埋めるように突出している中空の凸部を複数有し、前記第一区画部材と前記第二画部材との間には、前記第一区画部材で閉塞された前記凸部内の第一空間部と、隣り合う凸部同士の間に設けられ且つ前記第二画部材で閉塞された第二空間部とが形成されており、前記第一空間部と前記第二空間部は、前記凸部の一部で形成され且つ前記凸部の内外を連通する連通部にてつながっており、前記連通部の第二空間部側の開口は、前記第一区画部材と前記第二画部材の間に配置する前記凸部の側壁部に設けられていることが記載されている。
【0005】
しかしながら、ヘルムホルツ共鳴を利用した従来の吸音構造体においては、音圧ピークを分割することはできるものの、減衰させることができず、十分な吸音効果が得られない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2020-50038号公報
【文献】特開2020-52139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、音圧ピークを減衰させることができ、優れた吸音効果を発揮することが可能な吸音構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、開口部を有する箱状部材と前記開口部を閉塞するように配置された蓋材とを備える吸音構造体において、前記箱状部材の前記開口部に対向する面に所定の大きさの連通孔を形成し、前記箱状部材をセルロース系繊維材料により形成し、前記蓋材として所定の曲げ剛性を有する素材を用いることによって、音圧ピークを減衰させることが可能となり、優れた吸音効果が発揮されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の吸音構造体は、開口部を有する箱状部材と前記開口部を閉塞するように配置された蓋材とを備えており、前記箱状部材の内側には、前記箱状部材と前記蓋材とによって囲まれた副気室空間が形成されており、前記箱状部材の前記開口部に対向する面には、前記箱状部材の内側と外側とが連通するように直径2mm以下の連通孔が形成されており、前記箱状部材がセルロース系繊維材料からなるものであり、前記蓋材の曲げ剛性が13.8~150Nmである、ことを特徴とするものである。
【0010】
本発明の吸音構造体においては、前記箱状部材が、セルロース系繊維が積層されて一体化したものであることが好ましく、また、1つの前記箱状部材と1つの前記蓋材とが1つの前記副気室空間を形成していることは好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、音圧ピークを減衰させることができ、優れた吸音効果を発揮することが可能な吸音構造体を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の吸音構造体の好適な一実施態様を模式的に示す斜視図である。
【
図2】本発明の吸音構造体の好適な一実施態様を模式的に示す断面図である。
【
図3】曲げ剛性が小さい蓋材を用いた吸音構造体を模式的に示す断面図である。
【
図4】実施例1で作製した吸音構造体を示す写真である。
【
図5】吸音試験に使用した吸音構造体の蓋材裏面を示す写真である。
【
図6】吸音試験時に吸音構造体を装着した自動車の車室内天井を示す写真である。
【
図7】実施例1で作製した吸音構造体を装着した場合の各周波数における音圧パワースペクトル密度を示すグラフである。
【
図8】
比較例1で作製した吸音構造体を装着した場合の各周波数における音圧パワースペクトル密度を示すグラフである。
【
図9】実施例
2で作製した吸音構造体を装着した場合の各周波数における音圧パワースペクトル密度を示すグラフである。
【
図10】比較例
2で作製した吸音構造体を装着した場合の各周波数における音圧パワースペクトル密度を示すグラフである。
【
図11】比較例
3で作製した吸音構造体を装着した場合の各周波数における音圧パワースペクトル密度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明するが、本発明は前記図面に限定されるものではない。なお、以下の説明及び図面中、同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する場合もある。
【0014】
図1に、本発明の吸音構造体の好適な一実施態様を示す。本発明の吸音構造体10は、開口部を有する箱状部材11と前記開口部を閉塞するように配置された蓋材12とを備えるものである。
【0015】
〔箱状部材〕
本発明に用いられる箱状部材11は、4つの側壁部と1つの天井壁部とから形成されており、底面が開口部であり、内部が空洞である。前記箱状部材11の形状としては特に制限はなく、例えば、
図1に示すような四角錐台のほか、立方体や直方体であってもよい。
【0016】
また、本発明に用いられる箱状部材は、セルロース系繊維材料からなるものである(すなわち、前記側壁部及び前記天井壁部がセルロース系繊維材料からなるものである)ことが必要であり、セルロース系繊維が積層されて一体化したもの(例えば、パルプモールド成形品)であることが好ましい。このようなセルロース系繊維材料からなる箱状部材を用いることによって、箱状部材の内壁と空気との間の摩擦抵抗が大きくなるため、音圧ピークの減衰量が増大して吸音性能が向上するとともに、吸音構造体を軽量化することが可能となる。
【0017】
さらに、本発明に用いられる箱状部材11においては、
図1に示すように、前記開口部に対向する面13(すなわち、前記天井壁部)に、箱状部材11の内側と外側とが連通するように連通孔14が形成されていることが必要である。このような連通孔14は、前記開口部に対向する面13(すなわち、前記天井壁部)の中央部に形成されていることが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0018】
また、本発明に用いられる箱状部材においては、前記連通孔の直径が2mm以下であることが必要である。連通孔の直径を前記範囲内とすることによって、音圧ピークが十分に減衰され、優れた吸音効果が発揮される。一方、連通孔の直径が前記上限を超えると、音圧ピークは分割するものの、減衰せず、吸音効果が得られない。さらに、前記連通孔の直径としては、音圧ピークの減衰量が増大し、吸音効果が向上するという観点から、1.5mm以下が好ましく、1.2mm以下がより好ましく、1.0mm以下が特に好ましい。また、前記連通孔の直径の下限としては特に制限はないが、生産時の歩留りが向上するという観点から、0.1mm以上が好ましく、0.5mm以上がより好ましく、0.8mm以上が特に好ましい。
【0019】
前記箱状部材を構成する前記側壁部及び前記天井壁部の厚さとしては特に制限はないが、吸音構造体の強度を確保するという観点から、1.0~3.0mmが好ましく、1.5~2.5mmがより好ましい。
【0020】
〔蓋材〕
本発明に用いられる蓋材は、5.0~150Nmの範囲内の曲げ剛性を有する板状部材である。前記範囲内の曲げ剛性を有する蓋材を用いることによって、音圧ピークが十分に減衰され、優れた吸音効果が発揮される。一方、蓋材の曲げ剛性が前記下限未満になると、音圧ピークが減衰せず、吸音効果が得られない。また、蓋材の曲げ剛性としては、10~120Nmが好ましく、50~100Nmがより好ましい。なお、蓋材の曲げ剛性は、蓋材に使用した材料のヤング率E及びポアソン比ν、蓋材の厚さtを用いて、下記式:
D=Et3/[12(1-ν2)]
により求めることができる。
【0021】
前記蓋材に使用する材料としては特に制限はなく、例えば、鋼(ヤング率E=206GPa、ポアソン比ν=0.29)、セルロース(ヤング率E=20GPa、ポアソン比ν=0.19)、ナイロン(ヤング率E=5.9GPa、ポアソン比ν=0.38)等が挙げられる。
【0022】
また、前記蓋材の厚さとしては、蓋材の材料が鋼の場合には0.7~2mmが好ましく、0.9~1.4mmがより好ましく、セルロースの場合には1.5~20mmが好ましく、1.9~5.0mmがより好ましく、ナイロンの場合には2.1~20mmが好ましく、2.5~10mmがより好ましい。蓋材の厚さが前記範囲内にあると、蓋材の曲げ剛性が所定の範囲内となる。一方、蓋材の厚さが前記下限未満になると、蓋材の曲げ剛性が所定の範囲より小さくなり、音圧ピークが減衰せず、吸音効果が得られない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、吸音構造体の取扱性が低下する傾向にある。
【0023】
さらに、前記蓋材の密度としては、蓋材の材料が鋼の場合には7300~7900kg/m3が好ましく、セルロースの場合には1200~1700kg/m3が好ましく、ナイロンの場合には1100~1400kg/m3が好ましい。蓋材の密度が前記範囲内にあると、ヘルムホルツ共鳴による吸音効果が十分に発現する。一方、蓋材の密度が前記下限未満になると、蓋材の曲げ剛性が低下して吸音効果が低下する傾向にある。
【0024】
〔吸音構造体〕
図1に示すように、本発明の吸音構造体10は、前記箱状部材11と前記蓋材12とを備えるものである。また、本発明の吸音構造体10においては、
図2に示すように、前記箱状部材11の内側に、前記箱状部材11と前記蓋材12とによって囲まれた副気室空間21が形成されている。特に、本発明の吸音構造体10においては、1つの前記箱状部材11と1つの前記蓋材12とが1つの副気室空間21を形成している。このような副気室空間の容積としては3700~30000mm
3が好ましい。
【0025】
本発明の吸音構造体10においては、曲げ剛性が大きい蓋材12を用いているため、
図2に示すように、副気室空間21が変形しにくく、副気室空間21内の空気がバネとしての役割を有し、質量としての役割を有する連通孔14内の空気が振動することによって、バネ-マス1自由度振動系を形成し、下記式:
f=(c/2π)(S/V(L+ha))
1/2
〔式中、fは固有振動数、aは連通孔の半径、Sは連通孔の断面積(=πa
2)、Lは連通孔の長さ(=前記天井壁部の厚さ)、Vは副気室空間の容積、cは音速、hは開口端補正係数(0.6~2.0)を表す、〕
で表される固有振動数fで副気室空間21内が共鳴し、吸音構造体10を設置した空間の共鳴時の音圧が低減され、吸音効果が得られる。
【0026】
一方、曲げ剛性が小さい蓋材を用いた場合には、
図3に示すように、副気室空間21が変形するため、連通孔14内の空気の振動に対する復元力が得られず、副気室空間21内の空気がバネとして作用しない。このため、副気室空間21内では共鳴が起こらず、吸音構造体10を設置した空間の音圧が低減されず、吸音効果が得られない。
【0027】
また、本発明の吸音構造体においては、上述したように、前記式で表される固有振動数fで副気室空間内が共鳴するため、連通孔の半径a、連通孔の長さL、副気室空間の容積Vを適宜調整することによって、任意の周波数の騒音を低減することができる。特に、本発明の吸音構造体においては、一般的な吸音材により吸音することが困難な低周波(20~1000Hz)の騒音を低減することが可能である。
【0028】
本発明の吸音構造体においては、1つの吸音構造体に1つの副気室空間が形成されているため、吸音が必要な場所に必要な数の吸音構造体を最適に設置することができ、ロバストな効果と効率的な配置によって吸音効果を得ることが可能である。
【0029】
本発明の吸音構造体は、吸音器として独立している(すなわち、他の構造体に組込まれていない)ため、自動車や建築物等の様々な構造体の任意の位置(例えば、自動車の車室内の天井部(特に、天井外板と内装材との間)や建築物の室内の天井部(天井の裏側)等)に公知の固定(接着)手段によって設置することができる。このため、本発明の吸音構造体においては、前記蓋材の裏面に両面テープやシール材層、接着剤層、面ファスナー等が設けられていてもよい。
【0030】
また、本発明の吸音構造体は、サイズが小さく、軽量であるため、自動車内装材の隙間等の小スペースにも設置することが可能である。
【0031】
さらに、本発明の吸音構造体は、吸音器として独立しているため、例えば、自動車の内装材組立時に取付けたり、或いは、自動車の内装材を取外して(すなわち、後付けで)取付けることも可能である。
【実施例】
【0032】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、蓋材の合成は下記式に基づいて算出した。
【0033】
<蓋材の曲げ剛性>
D=Et3/[12(1-ν2)]
式中、Eはヤング率を表し、セルロース繊維材料ではE=20GPaであり、ナイロンではE=5.9GPaであり、νはポアソン比を表し、セルロース繊維材料ではν=0.19であり、ナイロンではν=0.38であり、tは蓋材の厚さを表す。
【0034】
(実施例1)
図1に示すような、連通孔14を有する箱状部材11と蓋材12とからなる吸音構造体10を作製した。具体的には、先ず、所定量の古紙パルプを水に投入してスラリーを調製し、このスラリーを用いてパルプモールド成形により、箱状部材11(L
1=70mm、D
1=25mm、L
2=65mm、D
2=20mm、側壁部及び天井壁部の厚さ=2.0mm)を作製した。また、
図1に示すように、箱状部材11の開口部に対向する面13(すなわち、天井壁部)の中央部には直径0.97mmの連通孔14を形成した。
【0035】
次に、このようにして作製した箱状部材11に、蓋材12としてナイロン製固定板(厚さ=5mm、曲げ剛性:71.8Nm)を、箱状部材11の開口部を閉塞するように接着し、
図4に示す吸音構造体を作製した。
【0036】
(比較例1)
蓋材としてナイロン製固定板(厚さ=2.1mm、曲げ剛性:5.3Nm)を用いた以外は実施例1と同様にして吸音構造体を作製した。
【0037】
(実施例2)
蓋材としてセルロース製固定板(厚さ=2.0mm、曲げ剛性:13.8Nm)を用いた以外は実施例1と同様にして吸音構造体を作製した。
【0038】
(比較例2)
蓋材としてセルロース製固定板(厚さ=1.4mm、曲げ剛性:4.7Nm)を用いた以外は実施例1と同様にして吸音構造体を作製した。
【0039】
(比較例3)
連通孔14の直径を2.2mmに変更した以外は実施例1と同様にして吸音構造体を作製した。
【0040】
〔吸音試験〕
図5に示すように、作製した吸音構造体の蓋材裏面51に面ファスナー(マジックテープ(登録商標))のフック側52を接着した。この面ファスナーのフックを利用して、
図6に示すように、96個の吸音構造体10を自動車(5人乗りハッチバック)の車室内天井のファブリック製内装材に装着した。
【0041】
自動車を時速30km(スピードメーターの読取り値)の一定速度で直進させ、走行中、1秒間の音圧計測を連続して5回実施した(計測中の走行距離:約42m)。具体的には、自動車走行時の車室内の音圧を、
図6に示すように左前席のヘッドレストの右側に取付けたマイクロホン61を用いて計測し、得られた計測信号を、ラゲッジルームに搭載した多チャンネルFFTアナライザを用いて、表1に示すサンプリング周波数で表1に示す上限周波数までサンプリングし、得られたデータを、窓関数としてハニングウィンドウを用いて解析した。この走行試験を3回実施し、合計15回の音圧計測データを平均した。
図7~
図11は、実施例1~
2及び比較例1~
3で作製した吸音構造体を装着した場合の各周波数における音圧パワースペクトル密度(合計15回の音圧計測の平均値)を示すグラフである。なお、各グラフには吸音構造体を装着しなかった場合の結果も示した。
【0042】
図7及び図9に示したように、連通孔の直径が0.97mm、蓋材の曲げ剛性が所定の範囲内にある吸音構造体を装着した場合(実施例1~
2)には、周波数230Hz付近の音圧ピークを減衰でき、吸音効果が得られることが確認された。また、蓋材の曲げ剛性が71.8Nmの場合(実施例1)には、周波数が約230Hzの音圧ピークを分割できることも確認された。
【0043】
一方、
図10に示したように、蓋材の曲げ剛性が所定の範囲より小さい吸音構造体を装着した場合(比較例
2)には、いずれの周波数においても音圧ピークの減衰が見られず、吸音効果が得られなかった。
【0044】
また、
図11に示したように、連通孔の直径が2.2mmの吸音構造体を装着した場合(比較例
3)には、周波数が385Hz付近の音圧ピークを分割することはできたが、減衰することはできなかった。
【0045】
図7~
図11に示した結果に基づいて、周波数が230Hz付近(実施例1~
2及び比較例
1~2)又は385Hz付近(比較例
3)の音圧パワースペクトル密度の減衰量(単位:dB)及び音響エネルギーの減衰量(単位:%)を求めた。それらの結果を表1に示す。
【0046】
【0047】
表1に示したように、連通孔の直径及び蓋材の曲げ剛性が所定の範囲内にある吸音構造体を装着した場合(実施例1~2)には、蓋材の曲げ剛性が所定の範囲より小さい吸音構造体を装着した場合(比較例2)並びに連通孔の直径が所定の範囲より大きい吸音構造体を装着した場合(比較例3)に比べて、吸音対象周波数における、音圧パワースペクトル密度の減衰量及び音響エネルギーの減衰量が大きく、連通孔の直径及び蓋材の曲げ剛性を所定の範囲内とすることによって、吸音効果に優れた吸音構造体が得られることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
以上説明したように、本発明によれば、音圧ピークを減衰させることができ、優れた吸音効果を発揮することが可能な吸音構造体を得ることが可能となる。したがって、本発明の吸音構造体は、自動車の車室内や建築物の室内の騒音等を低減するための吸音器等として有用である。
【符号の説明】
【0049】
10:吸音構造体
11:箱状部材
12:蓋材
13:箱状部材11の開口部に対向する面
14:連通孔
21:副気室空間
41:接着剤
51:蓋材12の裏面
52:面ファスナー(マジックテープ(登録商標))のフック側
61:マイクロホン