(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-16
(45)【発行日】2024-04-24
(54)【発明の名称】運動案内装置
(51)【国際特許分類】
F16C 29/06 20060101AFI20240417BHJP
F16C 33/58 20060101ALI20240417BHJP
【FI】
F16C29/06
F16C33/58
(21)【出願番号】P 2020558338
(86)(22)【出願日】2019-11-14
(86)【国際出願番号】 JP2019044721
(87)【国際公開番号】W WO2020110754
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2022-03-01
(31)【優先権主張番号】P 2018220828
(32)【優先日】2018-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018220829
(32)【優先日】2018-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】390029805
【氏名又は名称】THK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112140
【氏名又は名称】塩島 利之
(72)【発明者】
【氏名】中野 匡
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 尊間
(72)【発明者】
【氏名】福島 一
(72)【発明者】
【氏名】田村 豪
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-337455(JP,A)
【文献】特開2008-133837(JP,A)
【文献】特開2008-291932(JP,A)
【文献】特開2004-169830(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 29/06
F16C 33/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
転動体転走面を有する軌道部材と、前記軌道部材の前記転動体転走面に対向する負荷転動体転走面を有し、複数のボールを介して前記軌道部材に相対移動可能に組み付けられる移動体と、を備える運動案内装置において、
前記移動体の前記負荷転動体転走面の端部にクラウニングを形成すると共に、前記クラウニングの端部に面取り部を形成し、
前記移動体の前記負荷転動体転走面の長さ方向における前記クラウニングと前記面取り部の全長をLとし、前記ボールの直径をDaとして、
L/Da>4に設定し、
前記移動体の前記負荷転動体転走面からの前記面取り部の最大深さDを、基本動定格荷重(C)の60%以上のラジアル荷重が働いたときの前記軌道部材の前記転動体転走面、前記移動体の前記負荷転動体転走面及び前記ボールの弾性変形量以上に設定する運動案内装置。
【請求項2】
前記長さ方向における前記面取り部の長さLaを、1Da以下に設定することを特徴とする請求項1に記載の運動案内装置。
【請求項3】
前記クラウニングが、前記移動体の前記負荷転動体転走面に隣接して形成された第1傾斜面と、前記第1傾斜面に隣接して形成され、前記第1傾斜面よりも傾きが大きい第2傾斜面と、を備え、
前記長さ方向における前記第1傾斜面の長さをL
1、前記長さ方向における前記第2傾斜面の長さをL
2として、
L
1≧1Da、L
2≧1Da、かつL
1>L
2に設定することを特徴とする請求項1又は2に記載の運動案内装置。
【請求項4】
転動体転走面を有する軌道部材と、前記軌道部材の前記転動体転走面に対向する負荷転動体転走面を有し、複数の転動体を介して前記軌道部材に相対移動可能に組み付けられる移動体と、を備える運動案内装置において、
前記移動体の前記負荷転動体転走面の端部にクラウニングを形成すると共に、前記クラウニングの端部に面取り部を形成し、
前記移動体の前記負荷転動体転走面の長さ方向における前記クラウニングと前記面取り部の全長をLとし、前記転動体の直径をDaとして、
L/Da>4に設定し、
前記クラウニングが、前記移動体の前記負荷転動体転走面に隣接して形成された第1傾斜面と、前記第1傾斜面に隣接して形成され、前記第1傾斜面よりも傾きが大きい第2傾斜面と、を備え、
前記長さ方向における前記第1傾斜面の長さをL
1、前記長さ方向における前記第2傾斜面の長さをL
2として、
L
1≧1Da、L
2≧1Da、かつL
1>L
2に設定し、
前記クラウニングが、前記第2傾斜面に隣接して形成され、前記第2傾斜面よりも傾きが大きい第3傾斜面を備え、
前記長さ方向における前記第3傾斜面の長さをL
3として、
L
3≦1Daに設定する運動案内装置。
【請求項5】
転動体転走面を有する軌道部材と、前記軌道部材に複数の
ボールを介して移動可能に組み付けられる移動体と、を備え、
前記移動体は、前記軌道部材の前記転動体転走面に対向する負荷転動体転走面及びこの負荷転動体転走面と略平行な戻し路を有する移動体本体と、前記移動体本体の端部に設けられ、前記移動体本体の前記負荷転動体転走面と前記戻し路に接続される方向転換路を有する蓋部材と、を備える運動案内装置において、
前記移動体本体の前記負荷転動体転走面の端部に前記負荷転動体転走面に対して傾斜する第1傾斜面を形成し、
前記第1傾斜面の端部に前記第1傾斜面よりも傾きが大きい第2傾斜面を形成し、
前記移動体本体の前記負荷転動体転走面の長さ方向における前記第1傾斜面の長さをL
1、前記長さ方向における前記第2傾斜面の長さをL
2、前記
ボールの直径をDaとして、
L
1≧1Da、L
2≧1Da、かつL
1>L
2に設定する運動案内装置。
【請求項6】
前記第2傾斜面の端部に前記第2傾斜面よりも傾きが大きい第3傾斜面を形成し、
前記長さ方向における前記第3傾斜面の長さをL
3として、
L
3≦1Daに設定することを特徴とする請求項5に記載の運動案内装置。
【請求項7】
前記第3傾斜面と前記移動体本体の端面との間に前記第3傾斜面よりも傾きが大きい面取り部を形成し、
前記長さ方向における前記面取り部の長さをLaとして、
La≦1Daに設定することを特徴とする請求項6に記載の運動案内装置。
【請求項8】
前記移動体本体の前記負荷転動体転走面に前記第1傾斜面が形成され始めた始点から前記移動体本体の前記端面までの長さをLとして、
L/Da>4に設定することを特徴とする請求項7に記載の運動案内装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軌道部材に複数の転動体を介して移動体が相対移動可能に組み付けられる運動案内装置に関する。
【背景技術】
【0002】
運動案内装置は、転動体転走面を有する軌道部材と、軌道部材の転動体転走面に対向する負荷転動体転走面を有する移動体と、を備える。軌道部材の転動体転走面と移動体の負荷転動体転走面とによって、負荷路が構成される。軌道部材に対する移動体の相対移動に伴い、負荷路にボールが出入りする。
【0003】
負荷路へのボールの出入りを滑らかにするために、移動体の負荷転動体転走面の端部には、クラウニングが形成される(特許文献1参照)。
【0004】
従来の運動案内装置において、クラウニングの深さは、移動体と軌道部材の相互接近量(転動体の接触部分が弾性変形して移動体と軌道部材が相互に接近する量であり、軌道部材の転動体転走面、移動体の負荷転動体転走面及び転動体の弾性変形量である)以上に設定される。負荷路に入る転動体が、移動体の端部に衝突するのを防止するためである。ISOの規定を目安として、このクラウニングの深さは、基本動定格荷重(C)の50%以下の荷重が働いたときの弾性変形量とされる。
【0005】
また、従来の運動案内装置において、クラウニングの長さは、転動体の直径Daの2倍以下に設定される。クラウニングを長くすると、運動案内装置の負荷能力(すなわち剛性)が低下し、運動案内装置の寿命が短くなると考えられていたからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、発明者は、過大なモーメントが働く環境で運動案内装置を使用する場合、今まで経験したことのない現象、すなわち移動体の負荷転動体転走面の端部が早期に不調を来たし、運動案内装置ががたつくという現象が発生することを知見した。この現象は、計算寿命と実際の寿命との乖離を招く。運動案内装置が取り付けられる取付け部材の剛性が不足している場合や、運動案内装置の取付け精度が不足している場合もこの現象が発生する場合がある。
【0008】
移動体の負荷転動体転走面の端部が不調を来たすのは、軌道部材に対して移動体が左右を軸として傾き、移動体の負荷転動体転走面の端部と軌道部材の転動体転走面との間の隙間が狭くなるからである。隙間が狭くなると、クラウニングの端部にボールが衝突し、移動体の負荷転動体転走面の端部が早期に不調を来たす。また、隙間が最も狭くなった移動体の負荷転動体転走面とクラウニングとの境目でボールの負荷が高まることも、一因と考えられている。
【0009】
本発明は上記の課題を鑑みてなされたものであり、過大なモーメントが働く環境で使用しても、運動案内装置が早期にがたつくのを防止できる運動案内装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の一態様は、転動体転走面を有する軌道部材と、前記軌道部材の前記転動体転走面に対向する負荷転動体転走面を有し、複数のボールを介して前記軌道部材に相対移動可能に組み付けられる移動体と、を備える運動案内装置において、前記移動体の前記負荷転動体転走面の端部にクラウニングを形成すると共に、前記クラウニングの端部に面取り部を形成し、前記移動体の前記負荷転動体転走面の長さ方向における前記クラウニングと前記面取り部の全長をLとし、前記ボールの直径をDaとして、L/Da>4に設定し、前記移動体の前記負荷転動体転走面からの前記面取り部の最大深さDを、基本動定格荷重(C)の60%以上のラジアル荷重が働いたときの前記軌道部材の前記転動体転走面、前記移動体の前記負荷転動体転走面及び前記ボールの弾性変形量以上に設定する運動案内装置である。
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の他の態様は、転動体転走面を有する軌道部材と、前記軌道部材に複数のボールを介して移動可能に組み付けられる移動体と、を備え、前記移動体は、前記軌道部材の前記転動体転走面に対向する負荷転動体転走面及びこの負荷転動体転走面と略平行な戻し路を有する移動体本体と、前記移動体本体の端部に設けられ、前記移動体本体の前記負荷転動体転走面と前記戻し路に接続される方向転換路を有する蓋部材と、を備える運動案内装置において、前記移動体本体の前記負荷転動体転走面の端部に前記負荷転動体転走面に対して傾斜する第1傾斜面を形成し、前記第1傾斜面の端部に前記第1傾斜面よりも傾きが大きい第2傾斜面を形成し、前記移動体本体の前記負荷転動体転走面の長さ方向における前記第1傾斜面の長さをL1、前記長さ方向における前記第2傾斜面の長さをL2、前記ボールの直径をDaとして、L1≧1Da、L2≧1Da、かつL1>L2に設定する運動案内装置である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様は、クラウニングを長く、深くすると、負荷容量が低下し、運動案内装置の寿命が短くなるという従来の一般的な考えに反し、クラウニングを長くし、クラウニングの端部にボールの衝突防止用の面取り部を形成し、これにより、過大なモーメントが働くときの運動案内装置の早期のがたつきを抑えるものである。
【0013】
本発明の一態様によれば、クラウニングの端部に面取り部を形成するので、軌道部材に対して移動体が相対的に傾いても、負荷路に入るボールが移動体の端部に衝突するのを防止できる。また、クラウニングと面取り部の全長Lを長くするので、軌道部材に対して移動体が相対的に傾いたとき、負荷を受けられるボールの数を多くすることができ、各ボールに過大な負荷がかかるのを防止できる。
【0014】
本発明の他の態様によれば、L1≧1Da、L2≧1Daに設定するので、軌道部材に対して移動体が相対的に傾いたとき、移動体本体の第1傾斜面と第2傾斜面における複数のボールが負荷を受けることができ、各ボールに過大な負荷がかかるのを防止できる。また、L1>L2に設定するので、運動案内装置の負荷能力をより高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第1の実施形態の運動案内装置の斜視図である。
【
図2】本実施形態の運動案内装置の循環路の断面図である。
【
図3】本実施形態の運動案内装置の断面図(移動方向に直交する断面図)である。
【
図4】接触角方向の断面で見たクラウニングと面取り部である。
【
図5】傾斜面とボールの個数との関係を示す模式図である。
【
図6】従来の運動案内装置と本実施形態の運動案内装置とで、移動体が傾いた状態を比較した模式図である(
図6(a)(b)は従来の運動案内装置を示し、
図6(c)は本実施形態の運動案内装置を示す)。
【
図7】移動体の傾きによる影響で、負荷がかかるボールの数がどのように変化するかを説明する模式図である(
図7(a)は従来の運動案内装置を示し、
図7(b)は本実施形態の運動案内装置を示す)。
【
図8】接触角方向の断面で見たクラウニングと面取り部の他の例を示す図である。
【
図9】
図9(a)は、標準クラウニングを施した従来の運動案内装置のボールの負荷を示すグラフであり、
図9(b)は、本実施形態の運動案内装置のボールの負荷を示すグラフである。
【
図10】本発明の第2の実施形態の運動案内装置の斜視図である。
【
図11】本実施形態の運動案内装置の循環路の断面図である。
【
図12】本実施形態の運動案内装置の断面図(移動方向に直交する断面図)である。
【
図13】接触角方向の断面で見た転走面形状である。
【
図14】転走面の長さとボールの個数との関係を示す模式図である。
【
図15】従来の運動案内装置と本実施形態の運動案内装置とで、移動体が傾いた状態を比較した図である(
図15(a)(b)は従来の運動案内装置を示し、
図15(c)は本実施形態の運動案内装置を示す)。
【
図16】移動体の傾きによる影響で、負荷がかかるボールの数がどのように変化するかを説明する模式図である(
図16(a)は従来の運動案内装置を示し、
図16(b)は本実施形態の運動案内装置を示す)。
【
図17】接触角方向の断面で見た転走面形状の他の例を示す図である。
【
図18】
図18(a)は、標準クラウニングを施した従来の運動案内装置のボールの負荷を示すグラフであり、
図18(b)は、本実施形態の運動案内装置のボールの負荷を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面に基づいて、本発明の実施形態の運動案内装置を説明する。ただし、本発明の運動案内装置は、種々の形態で具体化することができ、本明細書に記載される実施形態に限定されるものではない。本実施形態は、明細書の開示を十分にすることによって、当業者が発明の範囲を十分に理解できるようにする意図をもって提供されるものである。
(第1の実施形態)
【0017】
図1は、本発明の第1の実施形態の運動案内装置の斜視図を示す。以下では、説明の便宜上、運動案内装置を水平面に配置し、軌道部材としてのレールの長さ方向から見た方向、すなわち
図1の前後、上下及び左右の各方向を用いて運動案内装置の構成を説明する。もちろん、運動案内装置の配置はこれに限られるものではない。
【0018】
運動案内装置1は、レール2と、レール2に長さ方向に相対移動可能に組み付けられる移動体3と、を備える。レール2の側面には、長手方向に沿って複数の転動体転走面としてのボール転走面2aが形成される。ボール転走面2aは、溝状である。レール2の上面には、一定のピッチでレール2を取付け部材8(
図3参照)に取り付けるための複数のボルト穴2bが形成される。
【0019】
移動体3は、移動体本体4と、移動体本体4の両端部に設けられる蓋部材5と、を備える。移動体3の内部には、ボール6の循環路7(
図2参照)が形成される。移動体3の相対移動に伴って、複数の転動体としてのボール6が循環路7を循環する。移動体本体4の上面には、移動体3を取付け部材9(
図3参照)に取り付けるための複数のねじ穴4aが形成される。
【0020】
図2は、本実施形態の運動案内装置1の循環路7の断面図を示す。移動体本体4には、レール2のボール転走面2aに対向する負荷転動体転走面としての負荷ボール転走面4bが形成されると共に、負荷ボール転走面4bと略平行に戻し路4cが形成される。負荷ボール転走面4bは、溝状である。蓋部材5には、負荷ボール転走面4bと戻し路4cに接続される方向転換路11が形成される。蓋部材5は、方向転換路11の内周側を形成する内周案内部5aと、方向転換路11の外周側を形成する外周案内部5bと、を備える。
【0021】
移動体3の負荷ボール転走面4bとレール2のボール転走面2aによって負荷路10が構成される。負荷路10、戻し路4c及び方向転換路11によってボール6の循環路7が構成される。ボール6は、方向転換路11から負荷路10に入り、負荷路10から方向転換路11に出る。ボール6間には、スペーサを介在させてもよいし、介在させなくてもよい。
【0022】
本実施形態の運動案内装置1は、過大なモーメント、特にピッチングモーメントが働く環境で使用される。この場合、
図1に示すように、レール2に対して移動体3が左右を軸として傾く。
【0023】
図3は、運動案内装置1の断面図を示す。2はレール、4は移動体本体、8,9は取付け部材、6はボールである。
図3では、移動体本体4の戻し路4cを省略している。
図4は、接触角方向の断面で見たクラウニングと面取り部である。
【0024】
一般的な取付け部材8,9は、例えば工作機械のベースであり、剛体である。しかし、取付け部材8の剛性が低い中空部材等の場合、取付け部材8の剛性が不足し、レール2が変形し、レール2が移動体3に対して傾く。運動案内装置1の取付け精度が不足している場合も同様である。すなわち、本実施形態の運動案内装置1は、過大なピッチングモーメントが働く場合だけでなく、取付け部材8,9の剛性が不足する場合や運動案内装置1の取付け精度が不足している場合にも使用できる。
【0025】
図2に示すように、移動体3の負荷ボール転走面4bの両端部には、クラウニング12が形成される。クラウニング12の両端部には、面取り部13が形成される。
図2には、負荷ボール転走面4bの一方の端部のクラウニング12と面取り部13を示すが、負荷ボール転走面4bの両端部にクラウニング12と面取り部13が形成される。クラウニング12は、負荷ボール転走面4bに対して傾斜する。面取り部13は、クラウニング12に対して傾斜していて、クラウニング12よりも傾きが大きい。
【0026】
図4に示すように、負荷ボール転走面4bの長さ方向におけるクラウニング12の長さLcと面取り部13の長さLaとの全長L(すなわちL=Lc+La)は、ボール6の直径をDaとして、L/Da>4に設定される。言い換えれば、全長Lは、ボール6の4個分の長さより大きく設定される。望ましくは、L/Da≧5に設定される。移動体3の両端部のクラウニング12と面取り部13を合算した長さ(すなわち2L)は、移動体本体4の相対移動方向の全長の例えば10~50%に設定される。
【0027】
クラウニング12は、第1傾斜面21と、第2傾斜面22と、第3傾斜面23と、を備える。第1傾斜面21は、負荷ボール転走面4bに隣接して形成されていて、負荷ボール転走面4bに対して傾斜する。第2傾斜面22は、第1傾斜面21に隣接して形成されていて、第1傾斜面21よりも傾きが大きい。第3傾斜面23は、第2傾斜面22に隣接して形成されていて、第2傾斜面22よりも傾きが大きい。面取り部13は、第3傾斜面23に隣接して形成されていて、第3傾斜面23よりも傾きが大きい。負荷ボール転走面4bと第1傾斜面21とのなす角度をθ1、負荷ボール転走面4bと第2傾斜面22とのなす角度をθ2、負荷ボール転走面4bと第3傾斜面23とのなす角度をθ3、負荷ボール転走面4bと面取り部13とのなす角度をθ4として、θ1<θ2<θ3<θ4に設定される。
【0028】
図4は、接触角方向の断面で見たクラウニング12と面取り部13を示す。
図3に示すように、接触角αは、レール2側のボール接触点と移動体3側のボール接触点を結んだ線15とラジアル荷重の作用方向16とのなす角度である。例えば接触角αが45°の場合、ボール転走面2a及び負荷ボール転走面4bとボール6とがラジアル荷重の作用方向16に対して45°傾いて接触していることを意味する。
【0029】
図4に示す面取り部13の最大深さD(負荷ボール転走面4bから面取り部13の端部までの深さ)は、基本動定格荷重(C)の60%以上(例えば60%、70%、80%、90%、100%等)のラジアル荷重が働いたときのボール転走面2a及び負荷ボール転走面4bとボール6の弾性変形量以上に設定される。また、負荷ボール転走面4bから、クラウニング12の延長線17(本実施形態では、第3傾斜面23の延長線17)と移動体本体4の端面18との交点までのクラウニング深さD
1も、基本動定格荷重(C)の60%以上のラジアル荷重が働いたときの弾性変形量以上に設定される。基本動定格荷重(C)は運動案内装置1の構造によって決定される。
【0030】
移動体3が傾いたとき、クラウニング12は負荷を受ける。クラウニング12の第1傾斜面21、第2傾斜面22、第3傾斜面23の長さL1,L2,L3は、以下のように設定される。
【0031】
第1傾斜面21は、移動体3が傾いたとき、最も負荷が大きくなる領域である。このため、第1傾斜面21の長さL
1は1Da以上に設定される。望ましくは2Da以上に設定される。
図5に示すように、長さが1Daの場合、1つのボール6が出ると同時に新たなボール6が入るので、最大でボール6が2個入ることになる。
【0032】
図4に示すように、第2傾斜面22は、第1傾斜面21ほどではないものの第1傾斜面21と同様に負荷を受ける領域である。負荷を分散するために、第2傾斜面22の長さL
2は1Da以上に設定される。ただし、L
2があまり長いと、運動案内装置1の全体の負荷能力が低下するので、L
1>L
2に設定される。本実施形態では、L
2は1~1.5Daに設定される。
【0033】
第3傾斜面23は、移動体3が傾いたときに、従来のクラウニングと同様な傾きになり、負荷を受け始める領域である。上記のように、第3傾斜面23は、第2傾斜面22よりも傾きが大きい。第3傾斜面23にボール6が2個入ると、第2傾斜面22寄りのボール6が殆ど負荷を受けるので、第3傾斜面23の長さL3は1Da以下に設定される。この実施形態では、L3<L2である。
【0034】
面取り部13は、移動体3の端部でのボール6の衝突回避を目的としている。面取り部13が長ければ長いほど負荷を受けられる有効ボール数が減るので、面取り部13の長さLaは1Da以下に設定される。この実施形態では、La<L3である。
【0035】
なお、クラウニング12に3段以上の傾斜面21,22,23を設けることが望ましいが、加工性や加工精度を考慮してクラウニング12に2段の傾斜面21,22又は2段の傾斜面21,23を設けることも可能である。
【0036】
図6は、従来の運動案内装置31と本実施形態の運動案内装置1とで、移動体3,33が傾いた状態を比較した模式図である。
図6(a)(b)は従来の運動案内装置31を示し、
図6(c)は本実施形態の運動案内装置1を示す。
【0037】
図6(a)に示すように、従来の運動案内装置31では、移動体33の内部のボール36に略均等に負荷がかかり、移動体33の端部のボール36には負荷がかからないようにクラウニング42が設計されている。
【0038】
しかし、
図6(b)に示すように、従来の運動案内装置31を過大なピッチンングモーメントが働く状態で使用すると、移動体33が左右を軸として傾く。移動体33が傾くと、移動体33の端部とレール32との間の隙間がボール36の直径よりも狭くなり、循環するボール36が移動体本体34の端部に衝突し、移動体本体34の端部が早期に不調を来たす。移動体33を強引に駆動させると、さらに隙間が狭くなる負荷ボール転走面34bとクラウニング42の境目でボール36の負荷が高まり、境目も早期に不調を来たす。
【0039】
一方、
図6(c)に示すように、本実施形態では、クラウニング12を長くし、クラウニング12の端部にボール6の衝突防止用の面取り部13を形成する。クラウニング12の端部に面取り部13を形成するので、移動体3が傾いても、負荷路10に入るボール6が移動体本体4の端部に衝突するのを防止できる。また、クラウニング12と面取り部13の全長Lを長くするので、移動体3が傾いても、負荷を受けるボール6の数を多くすることができ、各ボール6に過大な負荷がかかるのを防止できる。
【0040】
図7は、移動体3,33の傾きによる影響で、負荷がかかるボール6,36の数がどのように変化するかを説明する模式図である。
図7の2点鎖線が従来のクラウニング形状(クラウニング42)であり、実線が本実施形態のクラウニング形状(クラウニング12,面取り部13)である。2,32はレール、3,33は移動体、6,36はボールである。
【0041】
図7(a)では、過大なピッチングモーメントによってボール36が弾性変形する様子を、二点鎖線のクラニング形状をボール36の中央付近に配置することで、デフォルメして表す。従来のクラニング形状の場合、端から3つ目のボール36が最も大きな弾性変形を起こす。負荷を受けるボール36は、二点鎖線と交わるボール36であり、斜線を附した白抜きの5個のボール36が負荷を受ける。
【0042】
図7(b)は、本実施形態のクラウニング形状において、過大なピッチングモーメントがかかった様子を
図7(a)と同様に表す。最も大きな弾性変形を起こすボール6は4つ目のボール6である。負荷を受けるボール6は、実線と交わるボール6であり、斜線を附した7個のボール6が負荷を受ける。
図7(a)の場合と比較して負荷を受けるボールの数が多くなることがわかる。
【0043】
図8は、接触角方向の断面で見たクラウニング52と面取り部53の他の例を示す。この例では、第1傾斜面61と第2傾斜面62との間に円弧状のR部64を形成し、第2傾斜面62と第3傾斜面63との間に円弧状のR部65を形成し、第3傾斜面63と面取り部53との間に円弧状のR部66を形成している。R部64,65,66を形成することで、ボール6がこれらの境目をより円滑に移動する。
【0044】
以上に本実施形態の運動案内装置1の構成を説明した。本実施形態の運動案内装置1によれば、以下の効果を奏する。
【0045】
クラウニング12の端部に面取り部13を形成するので、レール2に対して移動体3が相対的に傾いても、負荷路10に入るボール6が移動体3の端部に衝突するのを防止できる。また、クラウニング12と面取り部13の全長LをL/Da>4に長くするので、レール2に対して移動体3が相対的に傾いたとき、負荷を受けられるボール6の数を多くすることができ、各ボール6に過大な負荷がかかるのを防止できる。
【0046】
面取り部13の最大深さDを、基本動定格荷重(C)の60%以上のラジアル荷重が働いたときのボール転走面2a,負荷ボール転走面4b及びボール6の弾性変形量以上に設定するので、ボール6が移動体本体4の端部に衝突するのを確実に防止できる。
【0047】
面取り部13の長さLaを1Da以下に設定するので、負荷を受けられる有効ボール数が減るのを防止できる。
【0048】
第1傾斜面21の長さL1を1Da以上、第2傾斜面22の長さL2を1Da以上、かつL1>L2に設定するので、移動体3が傾いたとき、クラウニング12において負荷を受けるボール6の数を増やすことができる。また、ボール6がクラウニング12を円滑に移動する。
【0049】
クラウニング12に第3傾斜面23を設けるので、ボール6がクラウニング12に円滑に出入りすることができる。また、第3傾斜面23の長さL3を1Da以下に設定するので、傾きが大きい第3傾斜面23にボール6が2個入って、第2傾斜面22寄りのボール6が殆どの負荷を受けるのを防止できる。
【0050】
転動体は、ボール6に限定されずに、ローラでもよい。ただし、転動体にローラを使用すると、過大なピッチングモーメントがかかったときにローラが傾く現象であるスキューが発生するおそれがある。転動体にボール6を使用すると、これを防止できる。
【0051】
なお、本発明は上記実施形態に具現化されるのに限られることはなく、本発明の要旨を変更しない範囲で他の実施形態に変更可能である。
【0052】
軌道部材に対する移動体の移動は相対的なものであり、移動体が移動しても、軌道部材が移動してもよい。
【0053】
接触角方向の断面で見た第1傾斜面、第2傾斜面、第3傾斜面、面取り部を曲線状に形成することも可能である。
【実施例1】
【0054】
基本動定格荷重の90%(0.9C)のラジアル荷重を想定し、運動案内装置1と取付け部材8,9のFEM解析を行い、移動体3の内部のボール6の負荷を計算した。
【0055】
図9(a)は、標準クラウニングを施した従来の運動案内装置31のボール36の負荷を示し、
図9(b)は、本実施形態の運動案内装置1のボール6の負荷を示す。ボール列が4つ存在するので、
図9(a)(b)では、4つのボール列それぞれの負荷が示されている。
【0056】
図9(a)に示すように、解析の結果、従来の運動案内装置31では、移動体33の端部のボール36(図中Aで示す)に負荷がかかっていて、負荷ボール転走面34bとクラウニング42の境目のボール36(図中Bで示す)の負荷が最も大きかった。この解析の結果は、過大なモーメントが働いた状態の実際の状況と一致した。
【0057】
一方、
図9(b)に示すように、本実施形態の運動案内装置1では、移動体3の端部のボール6(図中Cで示す)の負荷がゼロになり、クラウニング12におけるボール6(図中Dで示す)の最大荷重も
図9(a)と比較して約80%程度まで下げることができた。このため、計算上の走行寿命が2倍以上長くなることがわかった。
(第2の実施形態)
【0058】
図10は、本発明の第2の実施形態の運動案内装置の斜視図を示す。以下では、説明の便宜上、運動案内装置を水平面に配置し、レールの長さ方向から見た方向、すなわち
図10の前後、上下及び左右の各方向を用いて運動案内装置の構成を説明する。もちろん、運動案内装置の配置はこれに限られるものではない。
【0059】
運動案内装置1は、軌道部材としてのレール2と、レール2に転動体としての複数のボール6(
図11参照)を介して長さ方向に相対移動可能に組み付けられる移動体3と、を備える。レール2の側面には、転動体転走面としての複数のボール転走面2aが長手方向に沿って形成される。ボール転走面2aは、溝状である。レール2の上面には、レール2を取付け部材8(
図12参照)に取り付けるための複数のボルト穴2bが一定のピッチで形成される。
【0060】
移動体3は、移動体本体4と、移動体本体4の両端部に設けられる蓋部材5と、を備える。移動体3の内部には、ボール6の循環路7(
図11参照)が形成される。移動体3の相対移動に伴って、複数のボール6が循環路7を循環する。移動体本体4の上面には、移動体3を取付け部材9(
図12参照)に取り付けるための複数のねじ穴4aが形成される。
【0061】
図11は、本実施形態の運動案内装置1の循環路7の断面図を示す。移動体本体4には、レール2のボール転走面2aに対向する負荷転動体転走面としての負荷ボール転走面4bが形成されると共に、負荷ボール転走面4bと略平行に戻し路4cが形成される。負荷ボール転走面4bは、溝状である。蓋部材5には、負荷ボール転走面4bと戻し路4cに接続される方向転換路11が形成される。蓋部材5は、方向転換路11の内周側を形成する内周案内部5aと、方向転換路11の外周側を形成する外周案内部5bと、を備える。
【0062】
移動体3の負荷ボール転走面4bとレール2のボール転走面2aによって、負荷路10が構成される。負荷路10、戻し路4c及び方向転換路11によって、ボール6の循環路7が構成される。ボール6は、方向転換路11から負荷路10に入り、負荷路10から方向転換路11に出る。ボール6間には、スペーサを介在させてもよいし、介在させなくてもよい。
【0063】
本実施形態の運動案内装置1は、過大なモーメント、特にピッチングモーメントが働く環境で使用される。この場合、
図10に示すように、レール2に対して移動体3が左右を軸として傾く。
【0064】
図12は、運動案内装置1の断面図を示す。2はレール、4は移動体本体、8,9は取付け部材、6はボールである。
図12では、移動体本体4の戻し路4cを省略している。
図13は、接触角方向の断面で見た転走面形状である。
【0065】
一般的な取付け部材8,9は、例えば工作機械のベースであり、剛体である。しかし、取付け部材8の剛性が低い中空部材等の場合、取付け部材8の剛性が不足し、レール2が変形し、レール2が移動体3に対して傾く。運動案内装置1の取付け精度が不足している場合も同様である。すなわち、本実施形態の運動案内装置1は、過大なピッチングモーメントが働く場合だけでなく、取付け部材8,9の剛性が不足する場合や運動案内装置1の取付け精度が不足している場合にも使用できる。
【0066】
図11に示すように、移動体3の負荷ボール転走面4bの両端部には、第1傾斜面21、第2傾斜面22、第3傾斜面23、面取り部13が形成される。
図11には、負荷ボール転走面4bの一方の端部の第1傾斜面21、第2傾斜面22、第3傾斜面23、面取り部13を示すが、負荷ボール転走面4bの両端部にこれらが形成される。
【0067】
第1傾斜面21は、負荷ボール転走面4bに隣接して形成されていて、負荷ボール転走面4bに対して傾斜する。第2傾斜面22は、第1傾斜面21に隣接して形成されていて、第1傾斜面21よりも傾きが大きい。第3傾斜面23は、第2傾斜面22に隣接して形成されていて、第2傾斜面22よりも傾きが大きい。面取り部13は、第3傾斜面23に隣接して形成されていて、第3傾斜面23よりも傾きが大きい。負荷ボール転走面4bと第1傾斜面21とのなす角度をθ1、負荷ボール転走面4bと第2傾斜面22とのなす角度をθ2、負荷ボール転走面4bと第3傾斜面23とのなす角度をθ3、負荷ボール転走面4bと面取り部13とのなす角度をθ4として、θ1<θ2<θ3<θ4に設定される。
【0068】
図13は、接触角方向の断面で見た第1傾斜面21、第2傾斜面22、第3傾斜面23、面取り部13を示す。
図12に示すように、接触角αは、レール2側のボール接触点と移動体3側のボール接触点を結んだ線15とラジアル荷重の作用方向16とのなす角度である。例えば接触角αが45°の場合、ボール転走面2a及び負荷ボール転走面4bとボール6とがラジアル荷重の作用方向16に対して45°傾いて接触していることを意味する。
【0069】
移動体3が傾いたとき、第1傾斜面21、第2傾斜面22、第3傾斜面23は、負荷を受ける。第1傾斜面21、第2傾斜面22、第3傾斜面23の長さL1,L2,L3は、以下のように設定される。
【0070】
第1傾斜面21は、移動体3が傾いたとき、最も負荷が大きくなる領域である。このため、第1傾斜面21の長さL
1は、ボール6の直径をDaとして、1Da以上に設定される。望ましくは2Da以上に設定される。なお、
図14に示すように、長さが1Daの場合、1つのボール6が出ると同時に新たなボール6が入るので、最大でボール6が2個入ることになる。
【0071】
図13に示すように、第2傾斜面22は、第1傾斜面21ほどではないものの第1傾斜面21と同様に負荷を受ける領域である。負荷を分散するために、第2傾斜面22の長さL
2は1Da以上に設定される。ただし、L
2があまり長いと、運動案内装置1の全体の負荷能力が低下するので、L
1>L
2に設定される。本実施形態では、L
2は1~1.5Daに設定される。
【0072】
第3傾斜面23は、移動体3が傾いたときに、従来のクラウニングと同様な傾きになり、負荷を受け始める領域である。上記のように、第3傾斜面23は、傾きが大きい。第3傾斜面23にボール6が2個入ると、第2傾斜面22寄りのボール6が殆ど負荷を受けるので、第3傾斜面23の長さL3は1Da以下に設定される。本実施形態では、L2>L3に設定される。
【0073】
面取り部13は、移動体3の端部でのボール6の衝突回避を目的としている。面取り部13が長ければ長いほど負荷を受けられる有効ボール数が減るので、面取り部13の長さLaは1Da以下に設定される。本実施形態では、L3>Laに設定される。
【0074】
図13に示すように、負荷ボール転走面4bに第1傾斜面21が形成され始めた始点Sから移動体本体4の端面4dまでの長さLは、L/Da>4に設定される。望ましくは、L/Da≧5に設定される。両端部の長さLを合算した長さ(すなわち2L)は、移動体本体4の相対移動方向の全長の例えば10~50%に設定される。
【0075】
図13に示す面取り部13の最大深さD(負荷ボール転走面4bから面取り部13の端部までの深さ)は、基本動定格荷重(C)の60%以上(例えば60%、70%、80%、90%、100%等)のラジアル荷重が働いたときのボール転走面2a及び負荷ボール転走面4bとボール6の弾性変形量以上に設定される。また、負荷ボール転走面4bから、第3傾斜面23の延長線17と移動体本体4の端面4dとの交点までの深さD
1も、基本動定格荷重(C)の60%以上のラジアル荷重が働いたときの弾性変形量以上に設定される。基本動定格荷重(C)は運動案内装置1の構造によって決定される。
【0076】
なお、第1傾斜面21、第2傾斜面22、第3傾斜面23を設けることが望ましいが、加工性や加工精度を考慮して第3傾斜面23を省略することも可能である。
【0077】
図15は、従来の運動案内装置31と本実施形態の運動案内装置1とで、移動体3,33が傾いた状態を比較した模式図である。
図15(a)(b)は従来の運動案内装置31を示し、
図15(c)は本実施形態の運動案内装置1を示す。
【0078】
図15(a)に示すように、従来の運動案内装置31では、移動体33の内部のボール36に略均等に負荷がかかり、移動体33の端部のボール36には負荷がかからないようにクラウニング42が設計されている。
【0079】
しかし、
図15(b)に示すように、従来の運動案内装置31を過大なピッチンングモーメントが働く状態で使用すると、移動体33が左右を軸として傾く。移動体33が傾くと、移動体33の端部とレール32との間の隙間がボール36の直径よりも狭くなり、循環するボール36が移動体本体34の端部に衝突し、移動体本体34の端部が早期に不調を来たす。移動体33を強引に駆動させると、さらに隙間が狭くなる負荷ボール転走面34bとクラウニング42の境目でボール36の負荷が高まり、境目も早期に不調を来たす。
【0080】
一方、
図15(c)に示すように、本実施形態では、負荷ボール転走面4bの端部に第1傾斜面21、第2傾斜面22、第3傾斜面23を形成する。このため、レール2に対して移動体3が相対的に傾いたとき、第1傾斜面21、第2傾斜面22及び第3傾斜面23における複数のボール6が負荷を受けることができ、各ボール6に過大な負荷がかかるのを防止できる。また、移動体本体4の端部に衝突防止用の面取り部13を形成するので、移動体3が傾いても、負荷路10に入るボール6が移動体本体4の端部に衝突するのを防止できる。
【0081】
図16は、移動体3,33の傾きによる影響で、負荷がかかるボール6,36の数がどのように変化するかを説明する模式図である。
図16の2点鎖線が従来の転走面形状(クラウニング42)であり、実線が本実施形態の転走面形状(第1傾斜面21、第2傾斜面22、第3傾斜面23、面取り部13)である。2,32はレール、3,33は移動体、6,36はボールである。
【0082】
図16(a)では、過大なピッチングモーメントによってボール36が弾性変形する様子を、二点鎖線のクラウニング42をボール36の中央付近に配置することで、デフォルメして表す。従来の転走面形状の場合、端から3つ目のボール36が最も大きな弾性変形を起こす。負荷を受けるボール36は、二点鎖線と交わるボール36であり、斜線を附した5個のボール36が負荷を受ける。
【0083】
図16(b)は、本実施形態の転走面形状において、過大なピッチングモーメントがかかった様子を
図16(a)と同様に表す。最も大きな弾性変形を起こすボール6は4つ目のボール6である。負荷を受けるボール6は、実線と交わるボール6であり、斜線を附した7個のボール6が負荷を受ける。
図16(a)の場合と比較して負荷を受けるボールの数が多くなることがわかる。
【0084】
図17は、接触角方向の断面で見た転走面形状の他の例を示す。この例では、第1傾斜面61と第2傾斜面62との間に円弧状のR部64を形成し、第2傾斜面62と第3傾斜面63との間に円弧状のR部65を形成し、第3傾斜面63と面取り部53との間に円弧状のR部66を形成している。R部64,65,66を形成することで、ボール6がこれらの境目をより円滑に移動する。
【0085】
以上に本実施形態の運動案内装置1の構成を説明した。本実施形態の運動案内装置1によれば、以下の効果を奏する。
【0086】
移動体本体4のボール転走溝4bの端部に第1傾斜面21、第2傾斜面22を設け、L1≧1Da、L2≧1Daに設定するので、レール2に対して移動体3が相対的に傾いたとき、第1傾斜面21と第2傾斜面22における複数のボール6が負荷を受けることができ、各ボール6に過大な負荷がかかるのを防止できる。また、L1>L2に設定するので、運動案内装置1の負荷能力をより高めることができる。
【0087】
第2傾斜面22の端部に第2傾斜面22よりも傾きが大きい第3傾斜面23を形成するので、従来のクラウニングと同様にボール6が円滑に、第3傾斜面23に出入りすることができる。また、第3傾斜面23の長さL3を1Da以下に設定するので、傾きが大きい第3傾斜面23にボール6が2個入って、第2傾斜面22寄りのボール6が殆どの負荷を受けるのを防止できる。
【0088】
移動体本体4の端部に第3傾斜面23よりも傾きが大きい面取り部13を形成するので、レール2に対して移動体3が相対的に傾いたとき、負荷路10に入るボール6が移動体本体4の端部に衝突するのを防止できる。また、面取り部13の長さLaを1Da以下に設定するので、負荷を受けられる有効ボール数が減るのを防止できる。
【0089】
移動体本体4の負荷ボール転走面4bに第1傾斜面21が形成され始めた始点Sから移動体本体4の端面4dまでの長さをLとして、L/Da>4に設定するので、レール2に対して移動体3が相対的に傾いたとき、負荷を受けられるボール6の数を多くすることができ、各ボール6に過大な負荷がかかるのを防止できる。
【0090】
なお、本発明は上記実施形態に具現化されるのに限られることはなく、本発明の要旨を変更しない範囲で他の実施形態に変更可能でもある。
【0091】
転動体は、ボールに限定されずに、ローラでもよい。ただし、転動体にローラを使用すると、過大なピッチングモーメントがかかったときにローラが傾く現象であるスキューが発生するおそれがある。転動体にボールを使用すると、これを防止できる。
【0092】
軌道部材に対する移動体の移動は相対的なものであり、移動体が移動しても、軌道部材が移動してもよい。
【0093】
接触角方向の断面で見た第1傾斜面、第2傾斜面、第3傾斜面、面取り部を曲線状に形成することも可能である。
【実施例2】
【0094】
基本動定格荷重の90%(0.9C)のラジアル荷重を想定し、運動案内装置1と取付け部材8,9のFEM解析を行い、移動体3の内部のボール6の負荷を計算した。
【0095】
図18(a)は、標準クラウニングを施した従来の運動案内装置31のボール36の負荷を示し、
図18(b)は、本実施形態の運動案内装置1のボール6の負荷を示す。ボール列が4つ存在するので、
図18(a)(b)では、4つのボール列それぞれの負荷が示されている。
【0096】
図18(a)に示すように、解析の結果、従来の運動案内装置31では、移動体33の端部のボール36(図中Aで示す)に負荷がかかっていて、負荷ボール転走面34bとクラウニング42の境目のボール36(図中Bで示す)の負荷が最も大きかった。この解析の結果は、過大なモーメントが働いた状態の実際の状況と一致した。
【0097】
一方、
図18(b)に示すように、本実施形態の運動案内装置1では、移動体本体4の端部のボール6(図中Cで示す)の負荷がゼロになり、すなわち移動体本体4の端部にボール6が衝突しなくなり、ボール6(図中Dで示す)の最大荷重も
図18(a)と比較して80%程度まで下げることができた。このため、計算上の走行寿命が2倍以上長くなることがわかった。
【0098】
本明細書は、2018年11月27日出願の特願2018-220828及び2018年11月27日出願の特願2018-220829に基づく。この内容はすべてここに含めておく。
【符号の説明】
【0099】
1…運動案内装置、2…レール(軌道部材)、2a…ボール転走面(転動体転走面)、3…移動体、4…移動体本体、4b…負荷ボール転走面(負荷転動体転走面)、4c…戻し路、5…蓋部材、6…ボール(転動体)、11…方向転換路、12…クラウニング、13…面取り部、21…第1傾斜面、22…第2傾斜面、23…第3傾斜面、52…クラウニング、53…面取り部、61…第1傾斜面、62…第2傾斜面、63…第3傾斜面、S…第1傾斜面の始点