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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-16
(45)【発行日】2024-04-24
(54)【発明の名称】樹脂シート、多層体、および、カード
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20240417BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20240417BHJP
   B42D 25/305 20140101ALI20240417BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20240417BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20240417BHJP
   C08L 69/00 20060101ALI20240417BHJP
【FI】
C08J5/18 CFD
B32B27/36 102
B42D25/305 100
C08K3/04
C08K3/22
C08L69/00
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2021143936
(22)【出願日】2021-09-03
(62)【分割の表示】P 2020137704の分割
【原出願日】2020-08-18
(65)【公開番号】P2022034561
(43)【公開日】2022-03-03
【審査請求日】2021-10-07
【審判番号】
【審判請求日】2022-08-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】597003516
【氏名又は名称】MGCフィルシート株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】武田 聖英
(72)【発明者】
【氏名】大野 翔太朗
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 守
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健太郎
【合議体】
【審判長】植前 充司
【審判官】加藤 友也
【審判官】天野 宏樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-176566(JP,A)
【文献】特開2011-22565(JP,A)
【文献】国際公開第2012/056971(WO,A1)
【文献】特表2012-506328(JP,A)
【文献】特表2012-516790(JP,A)
【文献】特開2020-66182(JP,A)
【文献】国際公開第2018/074480(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/176533(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/099344(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J5/18
B32B27/36
B42D25/305
C08K3/00-3/22
C08L69/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂50~80質量部、および、酸化チタン20~50質量部と、前記酸化チタン以外の他の着色剤を含む樹脂組成物から形成された樹脂シートであって、
前記酸化チタンを前記樹脂組成物中に25~50質量%の割合で含み、かつ前記他の着色剤を前記樹脂組成物中に5~150質量ppmの割合で含む、前記樹脂シートの厚みが20~200μmであり、かつ前記樹脂シートの全光線透過率が0~20%である、樹脂シート。
【請求項2】
前記ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量が20,000~35,000である、請求項1に記載の樹脂シート。
【請求項3】
前記他の着色剤が波長450~650nmの範囲に極大吸収を有する着色剤を含む、請求項1または2に記載の樹脂シート。
【請求項4】
前記他の着色剤がカーボンブラックを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂シート。
【請求項5】
前記他の着色剤が染料を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の樹脂シート。
【請求項6】
さらに、酸化防止剤を、前記樹脂組成物中、0.01~0.2質量%の割合で含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の樹脂シート。
【請求項7】
前記樹脂シートのシート面1m2中に顕微鏡観察により長辺と短辺の長さを平均して得られる大きさ0.5mm以上の異物の個数が0~10個である、請求項1~6のいずれか1項に記載の樹脂シート。
【請求項8】
さらに、帯電防止剤を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の樹脂シート。
【請求項9】
前記樹脂シートの全光線透過率をT%、厚みをtμmとした際にT*tが200~750である、請求項1~のいずれか1項に記載の樹脂シート。
【請求項10】
前記樹脂シートの少なくとも一方の面の表面粗さRaが0.4~3.0μmである、請求項1~のいずれか1項に記載の樹脂シート。
【請求項11】
前記樹脂シートの第一の面の表面粗さRaが0.4~3.0μmであり、第二の面の表面粗さが、第一の面の表面粗さよりも、0.1~2.5μm小さい、請求項1~10のいずれか1項に記載の樹脂シート。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の樹脂シートを有する、多層体。
【請求項13】
請求項1~11のいずれか1項に記載の樹脂シートを少なくとも2枚含み、前記多層体の断面方向において、前記樹脂シートの内2枚が、前記断面の厚さ方向に垂直な方向の中心面を基準として対称となるように位置している、請求項12に記載の多層体。
【請求項14】
前記多層体を構成する中間層シートの内少なくとも1つは請求項1~11のいずれか1項に記載の樹脂シートであり、そのシート面内において少なくとも1つ以上の開口部を有する、請求項12または13に記載の多層体。
【請求項15】
前記多層体は、請求項1~11のいずれか1項に記載の樹脂シート、透明樹脂シート、請求項1~11のいずれか1項に記載の樹脂シートの順に積層している構造を有する、請求項1214のいずれか1項に記載の多層体。
【請求項16】
前記多層体の両面の表面粗さRaが、それぞれ、0.1~3.5μmである、請求項1215のいずれか1項に記載の多層体。
【請求項17】
前記多層体の総厚みが、0.2~2.0mmである、請求項1216のいずれか1項に記載の多層体。
【請求項18】
前記多層体の少なくとも1層がレーザー発色剤を含む、請求項1217のいずれか1項に記載の多層体。
【請求項19】
さらに、紫外光または赤外光を照射することによって、可視光を発光する着色剤を含む層を有する、請求項1218のいずれか1項に記載の多層体。
【請求項20】
さらに紫外光または赤外光を照射することによって、前記可視光を発光する着色剤と異なる波長の可視光を発光する着色剤を含む層を有する、請求項19に記載の多層体。
【請求項21】
請求項1~11のいずれか1項に記載の樹脂シート、または、請求項1220のいずれか1項に記載の多層体を含むカード。
【請求項22】
セキュリティカードである、請求項21に記載のカード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂シート、多層体、および、カードに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、IDカード、e-パスポート、および、非接触型ICカード等のセキュリティカードにおいて、樹脂シートや樹脂シートを含む多層体を用いたカードが使用され始めている。
ここで、セキュリティカードの層構成の一例として、図1に示す多層体が知られている。図1(A)、(B)において、それぞれ、10は多層体を、11はオーバーレイ層(透明樹脂シート)を、12・13はホワイトコア層を示している。多層体10は、さらに、レーザーマーキング層などを含む場合もある。また、ホワイトコア層12・13の層中または層間には、通常、ICチップやアンテナなどが組み込まれる。そして、遮蔽性を有するホワイトコア層12・13を用いることによって、ICチップやアンテナ等がカードの外側から見えない構成とすることができる。これらの各層(図1(A))は、例えば、熱プレスにより、接合されて多層体となる(図1(B))。このようなセキュリティカードについては、例えば、特許文献1に記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2018/163889号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、クリアウィンドウを有するセキュリティカードも検討されている。図2は、クリアウィンドウを有するセキュリティカード(多層体)の一例を示すものである。図2(A)~(C)において、それぞれ、20はセキュリティカード(多層体)を、21はオーバーレイ層(透明樹脂シート)を、22はホワイトコア層を、23は透明樹脂シートを、24はクリアウィンドウを示している。ここで、クリアウィンドウ24は、セキュリティカードに、例えば、偽造防止や意匠性のために設けられるものであり、カードのカード面の一部に導入される透明な窓部である。クリアウィンドウ24を有する多層体を製造する方法としては、各層を積層する際に、ホワイトコア層22に開口部(ホワイトコア層が存在しない領域)25を設けて配置し(図2(A))、熱プレスして各層を接合する方法がある。そうすると、熱プレスの際に、オーバーレイ層(透明樹脂シート)21や透明樹脂シート23の透明樹脂の一部が前記開口部25に流入し(図2(B))、クリアウィンドウ24が形成される(図2(C))。この方法でクリアウィンドウを製造する場合、開口部25に十分に透明樹脂を充填させるために、ホワイトコア層22を薄くする必要性がある。しかしながら、ホワイトコア層22を薄くすると、ホワイトコア層22が本来的に求められる光遮蔽性が劣ることが分かった。特に、クリアウィンドウ24を設けるには、ホワイトコア層22に隣接する層(図2の符号23の層)をホワイトコア層とすることができず、透明樹脂シート23とする必要がある。すなわち、ホワイトコア層22の光遮蔽性が劣ると、セキュリティカード(多層体)の内部に組み込まれるICチップやアンテナも透けてしまう。そのため、クリアウィンドウ成形性と遮蔽性に優れた樹脂シートが求められる。
本発明は、かかる課題を解決することを目的とするものであって、光遮蔽能に優れ、クリアウィンドウ成形性に優れた樹脂シート、ならびに、これを用いた多層体、および、カードを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題のもと、本発明者が検討を行った結果、下記手段により、上記課題は解決された。
<1>ポリカーボネート樹脂50~80質量部、および、酸化チタン20~50質量部を含む樹脂組成物から形成された樹脂シートであって、
前記樹脂シートの厚みが20~200μmである、樹脂シート。
<2>前記ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量が20,000~35,000である、<1>に記載の樹脂シート。
<3>さらに、前記酸化チタン以外の他の着色剤を、前記樹脂組成物中、5~150質量ppmの割合で含む、<1>または<2>に記載の樹脂シート。
<4>前記他の着色剤が波長450~650nmの範囲に極大吸収を有する着色剤を含む、<3>に記載の樹脂シート。
<5>前記他の着色剤がカーボンブラックを含む、<3>に記載の樹脂シート。
<6>前記他の着色剤が染料を含む、<3>または<4>に記載の樹脂シート。
<7>さらに、酸化防止剤を、前記樹脂組成物中、0.01~0.2質量%の割合で含む、<1>~<6>のいずれか1つに記載の樹脂シート。
<8>前記樹脂シートのシート面1m2中に顕微鏡観察により長辺と短辺の長さを平均して得られる大きさ0.5mm以上の異物の個数が0~10個である、<1>~<7>のいずれか1つに記載の樹脂シート。
<9>さらに、帯電防止剤を含む、<1>~<8>のいずれか1つに記載の樹脂シート。
<10>前記樹脂シートの全光線透過率が0~20%である、<1>~<9>のいずれか1つに記載の樹脂シート。
<11>前記樹脂シートの全光線透過率をT%、厚みをtμmとした際にT*tが200~750である、<1>~<10>のいずれか1つに記載の樹脂シート。
<12>前記樹脂シートの少なくとも一方の面の表面粗さRaが0.4~3.0μmである、<1>~<11>のいずれか1つに記載の樹脂シート。
<13>前記樹脂シートの第一の面の表面粗さRaが0.4~3.0μmであり、第二の面の表面粗さが、第一の面の表面粗さよりも、0.1~2.5μm小さい、<1>~<12>のいずれか1つに記載の樹脂シート。
<14><1>~<13>のいずれか1つに記載の樹脂シートを有する、多層体。
<15><1>~<13>のいずれか1つに記載の樹脂シートを少なくとも2枚含み、前記多層体の断面方向において、前記樹脂シートの内2枚が、前記断面の厚さ方向に垂直な方向の中心面を基準として対称となるように位置している、<14>に記載の多層体。
<16>前記多層体を構成する中間層シートの内少なくとも1つは<1>~<13>のいずれか1つに記載の樹脂シートであり、そのシート面内において少なくとも1つ以上の開口部を有する、<14>または<15>に記載の多層体。
<17>前記多層体は、<1>~<13>のいずれか1つに記載の樹脂シート、透明樹脂シート、<1>~<13>のいずれか1つに記載の樹脂シートの順に積層している構造を有する、<14>~<16>のいずれか1つに記載の多層体。
<18>前記多層体の両面の表面粗さRaが、それぞれ、0.1~3.5μmである、<14>~<17>のいずれか1つに記載の多層体。
<19>前記多層体の総厚みが、0.2~2.0mmである、<14>~<18>のいずれか1つに記載の多層体。
<20>前記多層体の少なくとも1層がレーザー発色剤を含む、<14>~<19>のいずれか1つに記載の多層体。
<21>さらに、紫外光または赤外光を照射することによって、可視光を発光する着色剤を含む層を有する、<14>~<20>のいずれか1つに記載の多層体。
<22>さらに紫外光または赤外光を照射することによって、前記可視光を発光する着色剤と異なる波長の可視光を発光する着色剤を含む層を有する、<21>に記載の多層体。
<23><1>~<13>のいずれか1つに記載の樹脂シート、または、<14>~<22>のいずれか1つに記載の多層体を含むカード。
<24>セキュリティカードである、<23>に記載のカード。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、光遮蔽能に優れ、クリアウィンドウ成形性に優れた樹脂シート、ならびに、これを用いた多層体、および、カードを提供可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】従来のセキュリティカードの層構成の一例を示す概略図である。
図2】クリアウィンドウを有するセキュリティカード(多層体)の層構成の一例を示す概略図である。
図3】クリアウィンドウを有するセキュリティカード(多層体)の層構成を説明するための概略図である。
図4】実施例で作製したクリアウィンドウ(開口部)を有する多層体のサイズを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は本実施形態のみに限定されない。
なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
本明細書において、各種物性値および特性値は、特に述べない限り、23℃におけるものとする。
本明細書における「シート」および「多層体」は、長さと幅に対して、厚さが薄く、概ね、平らな成形体をいい、「フィルム」も含む趣旨である。また、本明細書における「シート」は、単層であっても多層であってもよいが、単層が好ましい。
なお、本明細書における「質量部」とは成分の相対量を示し、「質量%」とは成分の絶対量を示す。
【0009】
本実施形態の樹脂シートは、ポリカーボネート樹脂50~80質量部、および、酸化チタン20~50質量部を含む樹脂組成物から形成された樹脂シートであって、樹脂シートの厚みが20μm~200μmであることを特徴とする。
このように、酸化チタンを多く配合し、かつ、樹脂シートの厚みを薄くすることにより、遮蔽性とクリアウィンドウ成形性に優れた樹脂シートが得られる。この結果、クリアウィンドウを有するセキュリティカードのホワイトコア層に用いても、セキュリティカードの内部に含まれるICチップ等を効果的に隠蔽できる。
【0010】
<樹脂組成物>
本実施形態において、樹脂シートは、所定の樹脂組成物から形成される。かかる樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂50~80質量部、および、酸化チタン20~50質量部を含み、他の成分を含んでいてもよい。
以下、これらの成分について説明する。
【0011】
<<ポリカーボネート樹脂>>
本実施形態では、ポリカーボネート樹脂を用いる。ポリカーボネート樹脂は樹脂シートの基質としての役割を果たす。
ポリカーボネート樹脂は、分子主鎖中に炭酸エステル結合を含む-[O-R-OCO]-構成単位(Rは、炭化水素基(例えば、脂肪族基、芳香族基、または脂肪族基と芳香族基の双方を含むもの、さらに直鎖構造あるいは分岐構造を持つもの))を含むものであれば、特に限定されるものではなく、種々のポリカーボネート樹脂を用いることができる。
【0012】
本実施形態においては、芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましく、ビスフェノール型ポリカーボネート樹脂がより好ましい。ビスフェノール型ポリカーボネート樹脂とは、ポリカーボネート樹脂を構成する構成単位の80モル%以上、好ましくは90モル%以上が、ビスフェノール(好ましくはビスフェノールA)および/またはその誘導体由来のカーボネート構成単位であることをいう。
ビスフェノール型ポリカーボネート樹脂は、ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂であることが好ましい。
【0013】
ポリカーボネート樹脂の分子量は、特に定めるものではないが、通常、溶媒としてメチレンクロライドを用い、温度25℃で測定された溶液粘度より換算した粘度平均分子量で、20,000以上であることが好ましい。また、前記粘度平均分子量は、好ましくは35,000以下、より好ましくは32,000以下、さらに好ましくは29,000以下、一層好ましくは25,000以下であり、23,000以下であってもよい。このようなポリカーボネート樹脂を用いることにより、溶融押出時の樹脂組成物の原料の均一分散を促進させることができ、白スジの発生を効果的に抑制することができる。より具体的には、粘度平均分子量を上記下限値以上とすることにより、溶融混練時の粘度が向上し、押出機内部における樹脂組成物の原料の均一分散性が向上する傾向にあり、原料の混練不良に起因する異物が発生しにくくなる傾向にある。また、粘度平均分子量を上記上限以下とすることにより、成形加工性が向上する傾向にある。
なお、本実施形態においては、粘度平均分子量の異なる2種以上のポリカーボネート樹脂を混合して用いてもよく、この場合には、粘度平均分子量が上記の好適な範囲外であるポリカーボネートを混合してもよい。
ここで、粘度平均分子量[Mv]とは、溶媒としてメチレンクロライドを使用し、ウベローデ粘度計を用いて温度25℃での極限粘度[η](単位dL/g)を求め、Schnellの粘度式、すなわち、η=1.23×10-4Mv0.83から算出される値を意味する。また、極限粘度[η]とは、各溶液濃度[C](g/dL)での比粘度[ηsp]を測定し、下記式により算出した値である。
【数1】
【0014】
その他、ポリカーボネート樹脂の詳細は、本実施形態の趣旨を逸脱しない限り、特開2012-144604号公報の段落0011~0020の記載、特開2019-002023号公報の段落0014~0035の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0015】
本実施形態で用いる樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂を、樹脂組成物中、50~80質量%の割合で含むことが好ましく、55~75質量%の割合で含むことがより好ましい。
本実施形態で用いる樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0016】
<<酸化チタン>>
次に、本実施形態で用いる酸化チタンについて説明する。酸化チタンを含むことにより、遮蔽性に優れた樹脂シートを提供可能になる。
本実施形態で用いる酸化チタンは、樹脂シートに配合されうる酸化チタンを広く採用することができる。
本実施形態においては、酸化チタンはルチル型の酸化チタンであることが好ましい。ルチル型酸化チタンを使用することにより、ポリカーボネート樹脂の分解を抑制することができる。また、酸化チタンは、その表面が表面処理剤で処理されていることが好ましい。すなわち、酸化チタンの表面に表面処理剤から形成された層(特に、有機物層)を有することが好ましい。このような構成とすることにより、ポリカーボネート樹脂中で酸化チタンが分散しやすくなり、より外観に優れた樹脂シートが得られる。加えて、溶融押出時のポリカーボネート樹脂の分解を効果的に抑制することができる。表面処理剤は、高分子が例示され、シロキサン化合物が好ましく、特に水素メチルシロキサンやジメチルシロキサンなどが好ましい。表面処理剤は酸化チタン表面に物理的に吸着していてもよく、化学的に結合していてもよい。
さらに、酸化チタンは、酸化チタンと表面処理剤から形成された層の間に、酸化物層を有していてもよい。酸化物層は、粒子状の形状を保持することや樹脂の分解抑制などに寄与する。酸化物層としては、アルミナ層、シリカ層、ジルコニア層などが例示される。酸化物層としては1種の層のみでもよく、複数の層を有していてもよい。
本実施形態で用いる酸化チタンは、粒子状であることが好ましい。
【0017】
酸化チタンの平均一次粒子径は、100nm以上であることが好ましく、150nm以上であることがより好ましく、180nm以上であることがさらに好ましく、220nm以上であってもよい。また、酸化チタンの平均一次粒子径は、500nm以下であることが好ましく、400nm以下であることがより好ましく、350nm以下であることがさらに好ましく、300nm以下、260nm以下であってもよい。酸化チタンの平均一次粒子径をこのような範囲とすることにより、遮蔽性能がより向上する傾向にある。
酸化チタンの平均一次粒子径は後述する実施例の記載に従って測定される。
【0018】
本実施形態で用いる樹脂組成物は、樹脂組成物中、酸化チタンを20~50質量%の割合で含むことが好ましく、25~45質量%の割合で含むことがより好ましい。
本実施形態の樹脂組成物は、酸化チタンについて、1種のみ用いてもよいし、2種以上用いてもよい。2種以上用いる場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0019】
次に、本実施形態で用いる樹脂組成物におけるポリカーボネート樹脂と酸化チタンのブレンド比率について説明する。本実施形態で用いる樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂50~80質量部、および、酸化チタン20~50質量部を含み、ポリカーボネート樹脂55~75質量部、および、酸化チタン25~45質量部を含むことが好ましい。酸化チタンの割合を前記下限値以上とすることにより、得られる樹脂シートの遮蔽性がより向上する傾向にある。酸化チタンの割合を前記上限値以下とすることにより、得られる樹脂シートの白スジの発生を効果的に抑制し、また、フィルム成形性がより向上する傾向にある。
【0020】
<<他の着色剤>>
本実施形態で用いる樹脂組成物は、また、酸化チタン以外の他の着色剤を含んでいてもよい。他の着色剤を添加することにより、樹脂組成物に多少の色味を持たせることができ、樹脂シートの外観(意匠性)が向上する傾向にある。また、光遮蔽性能をより向上させることも可能になる。
前記他の着色剤としては、無機顔料、有機顔料、有機染料等が挙げられる。
無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、カドミウムレッド、カドミウムイエロー等の硫化物系顔料;群青などの珪酸塩系顔料;亜鉛華、弁柄、酸化クロム、鉄黒、チタンイエロー、亜鉛-鉄系ブラウン、チタンコバルト系グリーン、コバルトグリーン、コバルトブルー、銅-クロム系ブラック、銅-鉄系ブラック等の酸化物系顔料;黄鉛、モリブデートオレンジ等のクロム酸系顔料;紺青などのフェロシアン系顔料などが挙げられる。
有機顔料および有機染料としては、例えば、銅フタロシアニンブルー、銅フタロシアニングリーン等のフタロシアニン系染料または顔料;ニッケルアゾイエロー等のアゾ系染料または顔料;チオインジゴ系、ペリノン系、ペリレン系、キナクリドン系、ジオキサジン系、イソインドリノン系、キノフタロン系などの縮合多環染料または顔料;アンスラキノン系、複素環系、メチル系の染料または顔料などが挙げられる。
【0021】
前記他の着色剤の具体例としては、波長450~650nmの範囲に極大吸収を有する着色剤が挙げられる。ヒトが鋭敏に知覚することが可能な波長である550nm付近の光を効果的に吸収する波長450~650nmの範囲に極大吸収を有する着色剤を配合することにより、樹脂シートの遮蔽性を向上させることができる。
さらに、前記他の着色剤が染料である態様も挙げられる。染料としては、前記波長450~650nmの範囲に極大吸収を有する着色剤が例示される。
また、前記他の着色剤の具体例として、上述のカーボンブラックも挙げられる。カーボンブラックを配合することにより、樹脂シートの光遮蔽性能をより向上させることができる。
【0022】
本実施形態の樹脂組成物が、他の着色剤を含む場合、その含有量は、樹脂組成物中、5質量ppm以上であることが好ましく、7質量ppm以上であることがより好ましく、10質量ppm以上であることがさらに好ましく、15質量ppm以上であることが一層好ましく、20質量ppm以上であってもよい。前記他の着色剤の含有量の上限値は、150質量ppm以下であることが好ましく、120質量ppm以下であることがより好ましく、100質量ppm以下であることがさらに好ましく、80質量ppm以下であることが一層好ましい。このような範囲とすることにより、得られる樹脂シートの外観がより向上し、また、光遮蔽性能がより向上する傾向にある。
本実施形態の樹脂組成物は、他の着色剤を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0023】
<<各種添加剤>>
本実施形態で用いる樹脂組成物は、また、各種添加剤を含んでいてもよい。
本実施形態の樹脂組成物は、酸化防止剤を含むことが好ましい。本実施形態の樹脂組成物は、酸化防止剤を、前記樹脂組成物中、0.01~0.2質量%の割合で含むことが好ましく、0.02~0.1質量%の割合で含むことがより好ましい。酸化防止剤を含むことにより、加工時の熱分解を抑制し、色調変化や溶融粘度の低下を防止できる傾向にある。酸化防止剤としては、その種類等特に定めるものではないが、ホスファイト、ホスホナイトが例示され、ホスファイトが好ましい。酸化防止剤は、特開2018-090677号公報の段落0059~0061の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0024】
本実施形態で用いる樹脂組成物は、また、帯電防止剤を含むことが好ましい。本実施形態で用いる樹脂組成物は、帯電防止剤を前記樹脂組成物中、0.01~1.5質量%の割合で含むことが好ましく、0.1~0.8質量%の割合で含むことがより好ましい。このような範囲で用いることにより、塵芥の付着防止性や搬送性がより向上する傾向にある。
帯電防止剤としては、その種類等特に定めるものではないが、ホスホニウム塩化合物が例示される。帯電防止剤の具体例としては、特開2016-108424号公報および国際公開第2020/122055号に記載のホスホニウム塩化合物が例示され、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0025】
本実施形態で用いる樹脂組成物は、上記以外の他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、熱安定剤、難燃剤、難燃助剤、紫外線吸収剤、および、離型剤からなる群から選択された少なくとも1種の添加剤などである。また、所望の諸物性を著しく損なわない限り、蛍光増白剤、防曇剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤、抗ウィルス剤等を添加してもよい。
本実施形態で用いる樹脂組成物における上記他の成分の含有量は、含有する場合、樹脂組成物の質量を基準として、例えば0.001質量%以上であり、また、例えば、5.0質量%以下であり、好ましくは3.0質量%以下、より好ましくは1.0質量%以下である。
【0026】
<樹脂シートの物性>
本実施形態の樹脂シートは、上述の通り、樹脂組成物から形成された樹脂シートであって、その厚みが20~200μmである。前記下限値以上とすることにより樹脂シートの光遮蔽性能がより向上する傾向にある。前記上限値以下とすることにより、クリアウィンドウ構造を含む多層シートの成形性がより向上する。
本実施形態の樹脂シートにおいては、その厚み下限値は、25μm以上であることが好ましい。また、前記厚さの上限値は、180μm以下であることが好ましく、150μm以下であることがより好ましく、120μm以下であることがさらに好ましく、100μm以下であることが一層好ましく、80μm以下であることがより一層好ましく、70μm以下、60μm以下であってもよい。
【0027】
本実施形態の樹脂シートは、異物が少ないことが好ましい。具体的には、樹脂シートのシート面1m2中に顕微鏡観察により長辺と短辺の長さを平均して得られる大きさ0.5mm以上の異物の個数が0~10個であることが好ましく、0~5個であることがより好ましく、0~3個であることがさらに好ましい。本実施形態においては、樹脂シートの光遮蔽性を高めるために酸化チタンを高濃度で含有させる必要がある。一方で、上述の通り、酸化チタンを高濃度で含有しかつ極薄の樹脂シートとすると、樹脂シートに、シートの巻取り方向に細長い遮蔽性能が低い領域があり、部分的に明るいスジ状に見える白スジと呼ばれる外観不良が発生する場合がある。本実施形態においては、樹脂シートに含まれる異物のうち、0.5mm以上の径を有する異物数を上記範囲以下とすることにより、白スジの発生をより効果的に抑制することが可能になる。
【0028】
大きさ0.5mm以上の粒子径を有する異物の個数を低減させるための手段としては、粘度平均分子量が20,000~35,000(特に25,000以下、さらには23,000以下)であるポリカーボネート樹脂を用いることが挙げられる。また、酸化チタンを粉砕処理することや表面処理することが挙げられる。さらに、溶融混練時の押出条件(溶融温度、スクリュー構成、スクリュー回転数、吐出量)を適切な範囲にすることも好ましい。
異物の個数の測定は、後述する実施例に記載の方法に従う。
【0029】
本実施形態の樹脂シートは、光遮蔽性に優れていることが好ましい。具体的には、全光線透過率Tは、20%以下であることが好ましく、15%以下であることが好ましく、12%以下であることがより好ましく、10%以下であることがさらに好ましい。全光線透過率の下限値は0%であることが好ましく、1%以上であってもよい。全光線透過率Tの測定は、後述する実施例に記載の方法に従う。
本実施形態の樹脂シートは、また、樹脂シートの全光線透過率をT%、厚みをtμmとした際にT*tが200以上であることが好ましく、210以上であることがより好ましく、220以上であることがさらに好ましく、230以上であることが一層好ましく、240以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、光遮蔽性と成形性がバランスよく向上する傾向にある。また、上限値については、750以下であることが好ましく、740以下であることがより好ましく、730以下であることがさらに好ましく、720以下であることが一層好ましく、710以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、光遮蔽性と成形性がよりバランスよく向上する傾向にある。
【0030】
本実施形態の樹脂組成物は、少なくとも一方の面の表面粗さRaが0.4μm以上であることが好ましく、0.5μm以上であることがより好ましく、0.7μm以上であることがさらに好ましく、さらには、0.9μm以上、1.1μm以上であってもよい。前記下限値以上とすることにより、シートの搬送性やラミネーション性がより優れる傾向にある。また、前記少なくとも一方の面の表面粗さRaの上限値は、3.0μm以下であることが好ましく、2.5μm以下であることがより好ましく、さらには、2.0μm以下、1.8μm以下、1.5μm以下であってもよい。前記上限値以下とすることにより、印刷鮮鋭性がより向上する傾向にある。
さらに、本実施形態においては、樹脂シートの一方の面の表面粗さRaが上記範囲(0.4μm~3.0μm)であり、他方の面の表面粗さが0.4μm~1.9μmであることが好ましい。このような構成とすることにより、樹脂シートの搬送性やラミネーション性がより効果的に発揮される。
また、本実施形態の樹脂シートは、第一の面の表面粗さRaが上記範囲(0.4μm~3.0μm)であり、第二の面の表面粗さが、第一の面の表面粗さよりも、0.1~2.5μm(好ましくは0.1~0.5μm、より好ましくは0.15~0.35μm)小さいことが好ましい。このような構成とすることにより、シートの搬送性やラミネーション性がさらに向上する傾向にある。
表面粗さRaは、後述する実施例の記載に従って測定される。
【0031】
<樹脂シートの製造方法>
本実施形態の樹脂シートの製造方法は、樹脂組成物をシート状に加工する公知の方法を採用できる。具体的には、押出成形、溶液キャスト成形が例示され、押出成形が好ましい。押出成形の例としては、本実施形態の樹脂組成物のペレット、フレークあるいは粉末を押出機に投入し、溶融、混練後、Tダイ等から押出し、得られる半溶融状のシートをロールで挟圧しながら、冷却、固化してシートを形成する方法が挙げられる。
【0032】
<多層体>
本実施形態の多層体は、本実施形態の樹脂シートを有する。特に、本実施形態の多層体は中間層シートの内少なくとも1つは本実施形態の樹脂シートであり、そのシート面内において少なくとも1つ以上の開口部を有することが好ましい。このような開口部は、例えば、セキュリティカードのクリアウィンドウとして用いることができる。そして、本実施形態の樹脂シートは、極薄で光遮蔽性能に優れているため、クリアウィンドウを有する多層体であっても、十分な光遮蔽性能を達成できる。
本実施形態の多層体は、好ましくは、本実施形態の樹脂シートを少なくとも2枚含み、多層体の断面方向において、樹脂シートの内2枚が、断面の厚さ方向に垂直な方向の中心面を基準として対称となるように位置していることが好ましい。特に、本実施形態の多層体は断面の厚さ方向において、本実施形態の樹脂シートが存在しない開口部を有する態様において、樹脂シートの内2枚が、断面の厚さ方向に垂直な方向の中心面を基準として対称となるように位置していることが好ましい。このような多層体の一例が、図3に示す構成である。図3(A)は多層体の断面方向(厚さ方向)から見た図であり、(B)は多層体の面(樹脂シートのシート面)方向から見た図である。図3において、30は多層体を、31はオーバーレイ層(透明樹脂シート)を、32はホワイトコア層(本実施形態の樹脂シート)を、33はクリアウィンドウ(開口部)を、34は透明コア層(透明樹脂シート)を示している。そして、図3(A)において点線で示される線A-Aが、多層体の断面の厚さ方向に垂直な方向の中心面の位置に相当する。図3に示す多層体は、多層体の断面方向において、ホワイトコア層(本実施形態の樹脂シート)が存在しない領域がクリアウィンドウ(開口部)33を有している。そして、ホワイトコア層(本実施形態の樹脂シート)32およびクリアウィンドウ(開口部)33が中心面(図3の点線A-Aで示される線を通る面)を基準として対称となるように位置している。
また、図3に示す多層体は、図3(A)に示す多層体の断面方向から見ると、ホワイトコア層32のみが白くなっており、図(B)に示す多層体の面方向から見ると、ホワイトコア層32によって、クリアウィンドウ33以外の部分は、全体が白く見える。
図3に示す多層体は、クリアウィンドウ33は、オーバーレイ層31、ホワイトコア層32、透明コア層34、ホワイトコア層32、オーバーレイ層31を重ねて、熱プレスすることによって製造できる。すなわち、クリアウィンドウは、熱プレスしたときに、オーバーレイ層31や透明コア層34からホワイトコア層32の間の部分(開口部)に透明樹脂シートの一部が入り込む(充填される)ことによって形成される。もちろん、本実施形態の多層体は、本実施形態の趣旨を逸脱しない範囲で、他の方法で製造してもよい。
【0033】
一方、オーバーレイ層31や透明コア層34を構成する透明樹脂シートは、熱可塑性樹脂を含む組成物から形成されるものであり、例えば、本実施形態の樹脂組成物を形成するための樹脂組成物から酸化チタンを除いたものが例示される。従って、透明樹脂シートの一例は、ポリカーボネート樹脂シートである。
また、図3に示す多層体は、本実施形態の樹脂シート(ホワイトコア層)32、透明コア層(透明樹脂シート)34、本実施形態の樹脂シート(ホワイトコア層)32の順に(好ましくは連続して)積層している構造を有するが、これ以外の態様を排除するものではない。
さらには、本実施形態の多層体は、図3に示した層構成に限定されるものではない。従って、図3に示す多層体も、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、他の層を含んでいてもよいことは言うまでもない。
【0034】
本実施形態の多層体は、例えば、少なくとも1層がレーザー発色剤を含むことも好ましい。レーザー発色剤を含む層は、レーザーマーキング層として好ましく用いられる。このようなレーザー発色剤を含む層は、本実施形態の樹脂シートよりも外側に設けることが好ましい。すなわち、図3における、ホワイトコア層32よりも表面側に設ける態様が挙げられる。レーザー発色剤は、黒色着色剤が好ましく、カーボンブラックがより好ましい。また、金属酸化物系レーザーマーキング剤も用いることができる。レーザーマーキング層の詳細は、特開2020-75487号公報の記載を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0035】
また、本実施形態の多層体は、紫外光または赤外光を照射することによって、可視光を発光する着色剤を含む層を有することも例示される。このような層を設けることにより、真贋判定可能なセキュリティカードとして用いることができる。すなわち、所定の光を照射したときに発光するカードのみを真のカードと認定することができる。
本実施形態においては、さらに、紫外光または赤外光を照射することによって、前記可視光を発光する着色剤と異なる波長の可視光を発光する着色剤を含む層を有する構成であってもよい。この場合、前記可視光を発光する着色剤を含む層と、前記可視光を発光する着色剤と異なる波長の可視光を発光する着色剤を含む層は、異なる層であってもよいし、同じ層であってもよい。すなわち、本実施形態には、可視光を発光する着色剤であって、互いに異なる波長の可視光を発光する着色剤を2種以上同一の層に含む態様も含まれる。
本実施形態の多層体において、可視光を発光する着色剤を含む層は、本実施形態の樹脂シートよりも外側に設けることが好ましい。すなわち、図3における、ホワイトコア層32よりも表面側に設ける態様が挙げられる。
可視光を発光する着色剤を含む層については、特開2020-75487号公報の記載を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0036】
本実施形態の多層体は、表面粗さRaが、それぞれ、0.1μm以上であることが好ましく、0.5μm以上であることがより好ましい。前記下限値以上とすることにより、多層体の搬送性やラミネーション性がより向上する傾向にある。また、前記多層体の両面の表面粗さRaの上限は、それぞれ、3.5μm以下であることが好ましく、3.2μm以下であることがより好ましい。前記上限値以下とすることにより、印刷鮮明性がより向上する傾向にある。
【0037】
本実施形態の多層体の厚さは、用途に応じて適宜定めることができるが、総厚みが0.2mm以上であることが好ましく、0.3mm以上であることがより好ましい。前記下限値以上とすることにより、ICチップやアンテナを導入しやすい傾向にある。また、前記総厚みの上限は、2.0mm以下であることが好ましく、1.0mm以下であることがより好ましい。前記上限値以下とすることにより、カード収納性がより向上する傾向にある。
【0038】
本実施形態の多層体の製造方法は、上述した、各構成層を熱プレスの他、本実施形態の趣旨を逸脱しない範囲内において、接着剤等によって、各層の間の接着性を高めてもよい。また、各層を共押出して、シート状にすることもできる。
【0039】
<用途>
次に、本実施形態の樹脂シートおよび多層体の用途について述べる。本実施形態の樹脂シートおよび/または多層体は、これらを含むカードとして好ましく用いられる。カードは、セキュリティカードであることが好ましい。本実施形態におけるセキュリティカードとは、身分証明カード(IDカード)、パスポート、運転免許証、バンクカード、クレジットカード、保険証、他の身分証明カードが例示される。
【0040】
また、本実施形態においては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、特開2016-108424号公報の段落0048~0059の記載、特開2015-168728号公報の段落0075~0088の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【実施例
【0041】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
実施例で用いた測定機器等が廃番等により入手困難な場合、他の同等の性能を有する機器を用いて測定することができる。
【0042】
1.原料
<ポリカーボネート樹脂>
S-3000F:ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂、ユーピロン(登録商標)、粘度平均分子量Mv21,000、三菱エンジニアリングプラスチックス社製
【0043】
<酸化チタン>
PFC317:酸化チタン粒子の表面にシリカ処理、アルミナ処理およびシロキサン処理が前記順になされたルチル型酸化チタン、石原産業社製、平均一次粒子径0.24μm(240nm)
PFC310:酸化チタン粒子の表面にシリカ処理、アルミナ処理およびシロキサン処理が、前記順になされたルチル型酸化チタン、石原産業社製、平均一次粒子径0.20μm(200nm)
<<平均一次粒子径の測定方法>>
酸化チタンを、スパッタリング装置を用いてスパッタリング処理を実施した。ターゲットは、Ptとし、コーティング時間は30秒とした。上記スパッタリング処理を行った酸化チタンについて、電界放出型走査電子顕微鏡を用いて観察、撮影した。観察に際し、加速電圧:5kV、観察倍率:3万5000倍の条件で行った。得られた画像について画像解析ソフトウェアを用いて、酸化チタンの長径、短径の合計を測定し、これらの和を2で割った数値を粒子径として求めた。50個以上の粒子について粒子径を測定し、その平均値を算出した。
測定は、3人の専門家が同様の測定をそれぞれ実施し、得られた平均値を平均一次粒子径として求めた。
スパッタリング装置は、E-1030、日立ハイテク社製を用いた。電界放出型走査電子顕微鏡は、FE-SEM(SU8220、日立ハイテク社製)を用いた。画像解析ソフトウェアは、WinROOF2013(三谷商事社製)を用いた。
【0044】
<酸化防止剤>
AS2112:ADEKA社製、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト
S-9228PC:Dover Chemical社製、Doverphos S-9228PC、ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト
【0045】
<帯電防止剤>
トリヘキシルテトラデシルホスホニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド:MERCK社製、CAS番号 460092-03-9
【0046】
<他の着色剤>
カーボンブラックM280:キャボットコーポレーション社製、MONARCH280
染料1:Macrolex BlueRR、波長450~650nmの範囲に極大吸収を有する着色剤
染料2:Macrolex Violet3R、波長450~650nmの範囲に極大吸収を有する着色剤
【0047】
2.実施例1~12および比較例1、2
<樹脂ペレットの製造>
下記表2~4に示す組成(各表において含有量は質量部で示した)となるように、各成分をタンブラーにてブレンドし、二軸押出機(日本製鋼所製、TEX30α)の根元から投入し、シリンダー温度280℃にて溶融混練を行い、実施例および比較例のペレットを製造した。
<樹脂シートの製造>
得られたペレットを用いて、以下の方法で樹脂シートを製造した。
ペレットをバレル直径32mm、スクリューのL/D(長さ/直径)=31.5の二軸押出機からなるTダイ溶融フィルム成形押出機を用い、吐出量20kg/h、スクリュー回転数200rpmで、かつ、幅300mmの樹脂シートを成形した。シリンダー・Tダイ温度は260℃とし、押出された溶融シートを、直径250mmで十点平均粗さRzjis(JIS B0601:2013)が21μmであるシリコンゴム製の第一冷却ロールと、十点平均粗さRzjis(JIS B0601:2013)が18μmであるエンボス加工した直径250mmの金属製第二冷却ロールでニップした。次に、エンボス柄が表面に賦形されたシートを、さらに表面が鏡面の金属製第三冷却ロールにシートを通して、引取ロールで引き取りながら表2~4に示す厚み(平均厚み)の樹脂シートを成形した。この時、第一冷却ロールの温度を50℃、第二冷却ロールの温度を120℃、第三冷却ロールの温度を120℃に設定した。
【0048】
<ラミネート用シートの製造>
三菱エンジニアリングプラスチックス社製ポリカーボネート樹脂ペレットであるE-2000を用いて、上記樹脂シートの製造と同様の方法で平均厚み200μmのラミネート用シートを作製した。
以下、得られたラミネート用シートの十点平均粗さRzjis(JIS B0601:2013)が18μmであるエンボス加工した直径250mmの金属製第二冷却ロールに面していた面を面Aとする。
【0049】
<異物数>
シート面のサイズが1m2である樹脂シートを切り出し、樹脂シートのシート面の垂直方向60cmの距離からS-Lightを照射し、S-Lightを照射している面と反対の面を目視で観察した。異物を顕微鏡にて測長し、長辺と短辺の長さを平均して得られる大きさ0.5mm以上の異物の数を求めた。5人の専門家が評価し、その平均値(小数第一位を四捨五入)とした。
S-Lightの照射は、日本技術センター社製のものを用いて行った。顕微鏡はカシオ社製ECLIPSE LV100NDを用いた。
【0050】
<樹脂シートの表面粗さ(Ra)>
得られた樹脂シート表面の任意の3位置に対しISO 4287:1997に準拠して、表面粗さ(測定条件:λc0.8、λs2.5)を測定し、表面粗さ(Ra)を3位置の平均により算出した。単位は、μmで示した。
測定に際し、ミツトヨ社製 小型表面粗さ測定機 サーフテストSJ-210を使用した。
【0051】
<遮蔽性能>
<<全光線透過率の測定>>
ISO-13468-1に準拠して、全光線透過率を測定した(測定条件:D65光源、10°視野)。
測定に際し、村上色彩技術研究所社製 ヘーズメーターHM-150を使用した。
全光線透過率の単位は%で示した。
【0052】
<<T*t>>
全光線透過率(T)(単位:%)と樹脂シートの厚み(t)(単位:μm)の積である値(T*t)を求めた。この値を200~750の範囲に調整することによりクリアウィンドウ構造の成形性と光遮蔽性能が両立した良好な多層体を得ることができる。
【0053】
<クリアウィンドウの寸法変化率>
各実施例および比較例で得られた樹脂シートを図4に示すように打ち抜き、横25mm×縦15mmの長方形の開口部を有するシートを作製した。このシートの両面に150mm×110mmの長方形にカットしたラミネート用シートを、面A側が樹脂シートに接するように、ラミネート用シートを積層させ、表1に示す条件でラミネートを行った。
ラミネートにはOASYS社製 卓上カードラミネーターOLA6Eを使用した。
ラミネート後のクリアウィンドウ縦幅の最小値(L)(単位:mm)から、ラミネート前後でのクリアウィンドウ縦幅の寸法変化率(100(15-L)/15)(単位:%)を求めた。
クリアウィンドウを作製する際、ホワイトコア層が薄いとラミネート用シートの透明樹脂成分の一部が開口部に流れ込み良好な外観となる。反対に、ホワイトコア層が厚いと、流れ込むのに十分なラミネート用シート(透明樹脂成分)がないため、クリアウィンドウ内に気泡が発生したり、表面に凹みが発生したりする。また、開口部を埋めるためにホワイトコア層自体が流れ込んでしまい、クリアウィンドウが小さくなることがある。クリアウィンドウの寸法変化が小さいことにより、外観に優れたクリアウィンドウが得られることを示している。
【0054】
<ラミネーション性能>
各実施例および比較例で得られた樹脂シート、ならびに、ラミネート用シートを150mm×110mmの長方形に打ち抜いた。
打ち抜いたラミネート用シートの面A側が各実施例または比較例で得られた樹脂シートに接するように、樹脂シートの両面に積層させ、表1に示す条件で加温および加圧してラミネートを行い、多層体を得た。
なお、面A(多層体の内側)のRaは、0.99μmであった。
厚み0.75mmの鏡面SAS板で上下を挟みラミネートした際の多層体表面のRaは0.32μmであり、さらに鏡面SAS板と樹脂シートの間にAhlstrom-Munksjo社製 離型紙Optilamを挟んでラミネートした際の多層体表面のRaは2.17μmであった。
ラミネートにはOASYS社製 卓上カードラミネーターOLA6Eを使用した。
【表1】
得られた多層体のラミネーション性について、以下の通り評価した。5人の専門家が評価し、多数決とした。
A:目視で気泡や接着不良などの外観不良が観測されなかった
B:上記A以外。例えば、目視で気泡や接着不良などの外観不良が観測された等
【0055】
<白スジ>
シート面のサイズが1m2である樹脂シートを切り出し、日本技術センター社製 S-Lightを樹脂シートのシート面の垂直方向60cmの距離から照射し、照射している面と反対の面を目視で観察し、最長部分が2mm以上の線状の外観不良を白スジとし、白スジの個数を求めた。
5人の専門家が評価し、その平均値(小数第一位を四捨五入)とした。
【0056】
<表面抵抗率>
実施例11の樹脂組成物の帯電防止性は、以下のように評価した。
測定対象の樹脂シートを、温度23℃相対湿度50%の条件下に24時間以上放置したのち、抵抗率計を用いて、直流電圧1000Vを300秒間印加して表面抵抗率(単位:Ω/sq.)を5か所測定し、その平均値を算出した。
実施例11の樹脂シートの表面の表面抵抗率は1.3×1013Ω/sq.、裏面の表面抵抗率は、1.0×1013Ω/sq.であった。
表面抵抗率は、ハイレスタUP MCP-HT450(三菱ケミカルアナリテック社製)でURSプローブを用いて測定した。
【0057】
【表2】
【0058】
【表3】
【0059】
【表4】
【符号の説明】
【0060】
10、20、30 多層体(セキュリティカード)
11、21、31 オーバーレイ層(透明樹脂シート)
12、22、32 ホワイトコア層
13 コア層
23 透明樹脂シート
24 クリアウィンドウ
25 開口部(ホワイトコア層が存在しない領域)
33 クリアウィンドウ(開口部)
34 透明コア層(透明樹脂シート)
図1
図2
図3
図4