(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-16
(45)【発行日】2024-04-24
(54)【発明の名称】電解セルの汚染検出方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
C25B 15/023 20210101AFI20240417BHJP
C02F 1/461 20230101ALI20240417BHJP
G01N 27/26 20060101ALI20240417BHJP
【FI】
C25B15/023
C02F1/461 Z
G01N27/26 391Z
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021194115
(22)【出願日】2021-11-30
【審査請求日】2022-01-31
(32)【優先日】2020-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】521022875
【氏名又は名称】ルシェルシェ 2000 インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【氏名又は名称】村上 智史
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【氏名又は名称】古賀 哲次
(72)【発明者】
【氏名】セッド ベリアー
(72)【発明者】
【氏名】ヘルムート ラデマン
(72)【発明者】
【氏名】ジル ジ.トランブレイ
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0240483(US,A1)
【文献】特表2013-525603(JP,A)
【文献】特表2014-520963(JP,A)
【文献】特開2015-021187(JP,A)
【文献】特開昭60-070195(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0208519(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第02226411(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のセルを有する電解槽のセル中の汚染及び危険な運転状況を検出するための方法であって、
前記電解槽の動作中に前記セルからのリアルタイムデータを記録し、
前記電解槽及び前記セルの過去データに基づいて合成データを生成し、ここで前記合成データは、前記電解槽の合成セル電圧、合成生成物出力流量、合成陽極液pH、供給塩水pH、又は塩素ガス中の酸素濃度を含み、
前記電解槽及び前記セルの前記過去データからセル特有の主整流器の電流密度対セル電圧の勾配(kファクタ)又はセル特有の主整流器の電流密度対セル電圧の切片(U
0)を決定し、
前記合成生成物出力流量、前記合成陽極液pH、前記供給塩水pH、前記塩素ガス中の酸素濃度と、リアルタイムの生成物出力流量、陽極液pH、供給食塩水pH、又は塩素ガス中の酸素濃度との差が、第1の閾値を超過する場合に、低速汚染及び第1の危険な運転状況を検出し、及び
前記セル特有のkファクタ又は前記セル特有のU
0が第2の閾値を超過し、かつ前記合成セル電圧及び前記リアルタイムセル電圧の差の変化率が特定の条件式を
満たす場合に、前記低速汚染より高速で起きる高速汚染及び第2の危険な運転状況を検出する、
ことを含む、電解槽のセル中の汚染及び危険な運転状況を検出するための方法。
【請求項2】
前記低速汚染又は前記高速汚染の検出は、警告を発することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記合成データは、セル特有パラメータ及び処理データに基づいた通常のセルの劣化を考慮した予測モデルを使用して決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記セル特有のkファクタ又は前記セル特有のU
0は、線形回帰モデルを使用して決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記低速の汚染は電解セルの供給電解質の低速の汚染であり、前記高速の汚染は電解セルの供給電解質の高速の汚染である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記合成セル電圧と前記リアルタイムセル電圧との前記差が第3の閾値を超過した場合に、前記特定の条件式が満たされる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記特定の条件式は以下の式で表され、
【数1】
式中、
time
windowは連続検出時間間隔であり、
r
i=1
nは単一セルにおける合成電圧とリアルタイム電圧との差であり、
nはセルの合計数であり、
μは全てのセルにおける合成電圧とリアルタイムセル電圧の差の平均であり、
δ
shortは短い第1の時間差であり、
δ
longは第1の時間差より長い第2の時間差であり、
minは全てのセルでの合成電圧とリアルタイム電圧の差の最小値であり、
maxは全てのセルでの合成電圧とリアルタイム電圧の差の最大値であり、
σ
1は前記連続検出時間間隔の期間における最大警告リミットであり、
σ
2は前記連続検出時間間隔の期間における最大範囲警告リミットであり、
σ
maxloadchangeは前記連続検出時間間隔の期間における最大許容可能な負荷変化であり、
Iはキロアンペアを単位とする主整流器の動作電流であり、
NLMINは安定動作負荷より低い低負荷から安定動作負荷への切り替えを行うための最低閾値である、
請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記方法は、前記電解槽が生産現場へ新たに配備された場合、又は既に配備されている前記電解槽の予測モデルの予測精度が第4の閾値よりも低い場合に、開始される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記過去データは、安定電流負荷における電解槽の無故障動作を表す、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記合成データを生成するためのパラメータは、ニューラルネットワーク、非線形多変量技術、又はスイッチングカルマンフィルタを使用して推定される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
1つ以上の電解槽を形成する複数の電解セルと、
前記1つ以上の電解槽に動作可能に接続された少なくとも1つの計算装置を含む故障検出システムを備え、
前記少なくとも1つの計算装置は、少なくとも1つの処理装置及び前記1つ以上の処理装置により実行可能なプログラム命令を格納した非一時的なコンピュータ可読媒体を備え、
前記プログラム命令は、
前記1つ以上の電解槽の動作中に前記セルからのリアルタイムデータを記録し、
前記1つ以上の電解槽及び前記セルの過去データに基づいて合成データを生成し、ここで前記合成データは、前記1つ以上の電解槽の合成セル電圧、合成生成物出力流量、合成陽極液pH、供給塩水pH、又は塩素ガス中の酸素濃度を含み、
前記1つ以上の電解槽及び前記セルの前記過去データからセル特有の主整流器の電流密度対セル電圧の勾配(kファクタ)又はセル特有の主整流器の電流密度対セル電圧の切片(U
0)を決定し、
前記合成生成物出力流量、前記合成陽極液pH、前記供給塩水pH、前記塩素ガス中の酸素濃度と、リアルタイムの生成物出力流量、陽極液pH、供給食塩水pH、又は塩素ガス中の酸素濃度との差が第1の閾値を超過する場合に、低速汚染及び第1の危険な運転状況を検出し、そして
前記セル特有のkファクタ又は前記セル特有のU
0が第2の閾値を超過し、かつ前記合成セル電圧及び前記リアルタイムセル電圧の差の変化率が特定の条件式を
満たす場合に、前記低速汚染より高速で起きる高速汚染及び第2の危険な運転状況を検出する、
アセンブリ。
【請求項12】
前記低速汚染又は前記高速汚染の検出は、警告を発することを含む、請求項11に記載のアセンブリ。
【請求項13】
前記合成データは、セル特有パラメータ及び処理データに基づいて通常のセルの劣化を考慮した予測モデルを使用して決定される、請求項11に記載のアセンブリ。
【請求項14】
前記セル特有のkファクタ又は前記セル特有のU
0は線形回帰モデルを使用して決定される、請求項11に記載のアセンブリ。
【請求項15】
前記低速汚染は電解セルの供給電解質の低速の汚染であり、前記高速汚染は電解セルの供給電解質の高速の汚染である、請求項11に記載のアセンブリ。
【請求項16】
前記合成セル電圧と前記リアルタイムセル電圧との前記差が第3の閾値を超過した場合に、前記特定の条件式が満たされる、請求項11に記載のアセンブリ。
【請求項17】
前記特定の条件式は以下の式で表され、
【数2】
式中、
time
windowは連続検出時間間隔であり、
r
i=1
nは単一セルにおける合成電圧とリアルタイム電圧との差であり、
nはセルの合計数であり、
μは全てのセルにおける合成電圧とリアルタイムセル電圧との差の平均であり、
δ
shortは短い第1の時間差であり、
δ
longは第1の時間差より長い、長い第2の時間差であり、
minは全てのセルでの合成電圧とリアルタイム電圧の前記差の最小値であり、
maxは全てのセルでの合成電圧とリアルタイム電圧の前記差の最大値であり、
σ
1は前記連続検出時間間隔の期間における最大警告リミットであり、
σ
2は前記連続検出時間間隔の期間における最大範囲警告リミットであり、
σ
maxloadchangeは前記連続検出時間間隔の期間における最大許容可能な負荷変化であり、
Iはキロアンペアを単位とする主整流器の動作電流であり、
NLMINは安定動作負荷より低い低負荷から安定動作負荷への切り替えを行うための最低閾値である、
請求項11に記載のアセンブリ。
【請求項18】
前記故障検出システムは、前記1つ以上の電解槽が生産現場へ新たに配備された場合、又は既に配備されている前記1つ以上の電解槽の予測モデルの予測精度が第4の閾値よりも低い場合に、稼働される、請求項11に記載のアセンブリ。
【請求項19】
前記過去データは、安定電流負荷における電解槽の無故障動作を表す、請求項11に記載のアセンブリ。
【請求項20】
前記合成データを生成するためのパラメータは、ニューラルネットワーク、非線形多変量技術、又はスイッチングカルマンフィルタを使用して推定される、請求項11に記載のアセンブリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概して、供給電解質の汚染によりセル電圧の変動、又は電気化学反応の効率に変化が起こる電気分解プロセスに関し、より具体的には、クロルアルカリ、水電解、燃料電池又はその他の任意の電解セルにおける、汚染による隔膜、セルセパレーター及び電極の被毒又は性能劣化、並びに危険な運転状況のリアルタイム検出に関する。
【背景技術】
【0002】
産業用クロルアルカリのような電気分解プロセスでは、低価な化学物質(例えばNaCl、KCl、HCl)を高価な化学物質(例えばNaOH、Cl2、KOH)へと、直流電流を流すことにより分解する。この反応は電気化学セルで起こる。工業的な環境においては反応を起こすために数個のセルが直列又は並列に接続される。この組み合わせは電解槽と呼ばれる。
【0003】
工業用電気化学セルの多くはアノード、カソード、及びセパレーターで構成される。酸化反応がアノードで起こり、還元反応がカソードで起こる。例えば、クロルアルカリ電気化学セルでは電気分解の主な生成物は塩素、水素、及び「苛性」とも呼ばれる水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムである。環境的、経済的理由から水銀電解セルが廃止された後、カチオン交換膜を用いた塩素電解は電流効率が高く電気抵抗が小さいという利点のため業界に広く普及した。産業用電気分解処理において隔膜をセパレーターとして使用することの欠点の一つは供給塩水の純度への敏感さである。供給塩水中の汚染の存在は寿命、電流効率、隔膜の電気抵抗に影響する。したがって、改善が必要である。
【発明の概要】
【0004】
広範な態様から、複数のセルを有する電解槽中のセルにおける汚染及び危険な運転状況を検出する方法が提供される。方法は、電解槽の動作中にセルからのリアルタイムデータを記録し;電解槽及びセルの過去データに基づいて合成データ(synthetic data)を生成し、ここに合成データは、電解槽の合成セル電圧、合成生成物出力流量、合成陽極液pH、供給塩水pH、又は塩素ガス中の酸素濃度を含み;セル特有kファクタ(cell-specific k-factors)又はU0を過去データ(historical data)から決定し;合成生成物出力流量(synthetic product flow output)、合成陽極液pH(synthetic anolyte pH)、供給塩水pH(feed brain pH)、塩素ガス中の酸素濃度と、リアルタイムの生成物出力流量、陽極液pH、供給塩水pH、又は塩素ガス中の酸素濃度との差が第1の閾値を超過する場合に、低速の汚染及び危険な運転状況を検出し;そして、セル特有kファクタ又はU0が第2の閾値を超過する場合、及び合成セル電圧及びリアルタイムセル電圧の差の傾向(trend)又は差の微分(derivative)が条件論理規則(conditional logic rule)に合致又は超過する場合に、高速の汚染及び危険な運転状況を検出する。
【0005】
いくつかの実施形態では、低速汚染又は高速汚染の検出により警告がトリガされる。
【0006】
いくつかの実施形態では、合成データは、セル特有パラメータ及び処理データに基づいた通常のセルの劣化を考慮した予測モデルを使用して決定される。
【0007】
いくつかの実施形態では、セル特有kファクタ又はU0は線形回帰モデルを使用して決定される。
【0008】
いくつかの実施形態では、低速汚染は電解セルの供給電解質の低速の汚染であり、高速汚染は電解セルの供給電解質の高速の汚染である。
【0009】
いくつかの実施形態では、合成セル電圧とリアルタイムセル電圧との差が第3の閾値を超過した場合に条件論理規則がトリガされる。
【0010】
いくつかの実施形態では、条件論理規則は以下を含む。
【数1】
式中、
time
windowは連続検出時間のスライド窓であり、
r
i=1
nは単一セルにおける合成電圧とリアルタイム電圧との差であり、
nはセルの合計数であり、
μは全てのセルにおける合成電圧とリアルタイムセル電圧との差の平均であり、
δ
shortは短い時間差分であり、
δ
longは長い時間差分であり、
minは全てのセルでの合成電圧とリアルタイム電圧の差の最小値であり、
maxは全てのセルでの合成電圧とリアルタイム電圧の差の最大値であり、
σ
1はスライド窓の期間における最大警告リミットであり、
σ
2はスライド窓の期間における最大範囲警告リミットであり、
σ
maxloadchangeは検出時間スライド窓の期間において最大許容可能な負荷変化(maximum allowable load change)であり、
Iはキロアンペアを単位とする主整流器の動作電流であり、
NLMINは低負荷から安定動作低負荷への切り替えを行うための最低閾値である。
【0011】
いくつかの実施形態では、電解槽が生産現場へ新たに配備された場合、又は配備された予測モデルの精度が第4の閾値よりも低い場合に、本方法がトリガされる。
【0012】
いくつかの実施形態では、過去データは安定電流負荷における電解槽の無故障動作を表す。
【0013】
いくつかの実施形態では、合成データを生成するためのパラメータはニューラルネットワーク、非線形多変量技術、又はスイッチングカルマンフィルタを使用して推定される。
【0014】
別の広範な態様から、1つ以上の電解槽を形成する複数の電解セル及び故障検出システムを備えたアセンブリが提供される。故障検出システムは1つ以上の電解槽に動作可能に接続された少なくとも1つの計算装置を備え、少なくとも1つの計算装置は、少なくとも1つの処理装置及びプログラム命令を格納した非一時的な(non-transitory)コンピュータ可読媒体を備える。プログラム命令は、1つ以上の電解槽の動作中にセルからのリアルタイムデータを記録する少なくとも1つの処理装置により実行可能であり;1つ以上の電解槽及びセルの過去データに基づいて合成データを生成し、その合成データは、1つ以上の電解槽の合成セル電圧、合成生成物出力流量、合成陽極液pH、供給塩水pH、又は塩素ガス中の酸素濃度を含み;セル特有kファクタ又はU0を過去データから決定し;合成生成物出力流量、合成陽極液pH、供給塩水pH、塩素ガス中の酸素濃度と、リアルタイム生成物出力流量、陽極液pH、供給食塩水pH、又は塩素ガス中の酸素濃度との差が第1の閾値を超過する場合に、低速の汚染及び危険な運転状況を検出し;セル特有kファクタ又はU0が第2の閾値を超過する場合、及び、合成セル電圧及びリアルタイムセル電圧の差の傾向又は差の微分が条件論理規則に合致又は超過する場合に、高速の汚染及び危険な運転状況を検出する。
【0015】
いくつかの実施形態では、低速汚染又は高速汚染の検出は警告をトリガすることを含む。
【0016】
いくつかの実施形態では、合成データは、セル特有パラメータ及び処理データに基づいた通常のセルの劣化を考慮した予測モデルを使用して決定される。
【0017】
いくつかの実施形態では、セル特有kファクタ又はU0は線形回帰モデルを使用して決定される。
【0018】
いくつかの実施形態では、低速汚染は電解セルの供給電解質の低速の汚染であり、高速汚染は電解セルの供給電解質の高速の汚染である。
【0019】
いくつかの実施形態では、合成セル電圧とリアルタイムセル電圧との差が第3の閾値を超過した場合に、条件論理規則がトリガされる。
【0020】
いくつかの実施形態では、条件論理規則は以下を含む。
【数2】
式中、
time
windowは連続検出時間のスライド窓であり、
r
i=1
nは単一セルにおける合成電圧とリアルタイム電圧との差であり、
nはセルの合計数であり、
μは全てのセルにおける合成電圧及びリアルタイムセル電圧の差の平均であり、
δ
shortは短い時間差分であり、
δ
longは長い時間差分であり、
minは全てのセルでの合成電圧とリアルタイム電圧の差の最小値であり、
maxは全てのセルでの合成電圧とリアルタイム電圧の差の最大値であり、
σ
1はスライド窓の期間における最大警告リミットであり、
σ
2はスライド窓の期間における最大範囲警告リミットであり、
σ
maxloadchangeは検出時間スライド窓の期間において最大許容可能な負荷変化であり、
Iはキロアンペアを単位とする主整流器の動作電流であり、
NLMINは低負荷から安定動作低負荷への切り替えを行うための最低閾値である。
【0021】
いくつかの実施形態では、故障検出システムは1つ以上の電解槽が生産現場へ新たに配備された場合、又は配備された予測モデルの精度が第4の閾値よりも低い場合に、トリガされる。
【0022】
いくつかの実施形態では、過去データは安定電流負荷における電解槽の無故障動作を表す。
【0023】
いくつかの実施形態では、合成データを生成するためのパラメータはニューラルネットワーク、非線形多変量技術、又はスイッチングカルマンフィルタを使用して推定される。
【0024】
本明細書内に説明するシステム、装置、及び方法の機能は、本明細書中に説明する実施形態に従って、様々な組み合わせにより用いられてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
ここで添付図面を参照する。
【
図2】
図2は複数のセルを有する電解槽のセルの汚染を検出するアセンブリのブロック図である。
【
図3】
図3A~3Bは高速汚染の例を示すグラフである。
【
図5A】
図5Aは複数のセルを有する電解槽のセルの汚染を検出する方法のフローチャートである。
【
図5B】
図5Bは低速汚染検出に使用する方法の例のフローチャートである。
【
図5C】
図5Cは高速汚染検出に使用する方法の例のフローチャートである。
【
図8】
図8は計算装置の例のブロック図である。 添付図面を通して、同様の機能には同様の参照記号が付されている。
【発明を実施するための形態】
【0026】
現代の電気分解工業処理では、電解槽中の隔膜が広く用いられるため、供給電解質の純度の要求が上昇している。供給電解質の汚染の制御が不充分であると、隔膜の電流効率の低下や電気抵抗の増加を招き、動作の安定性が損なわれる。供給電解質の汚染により電極の性能、特にコーティングの劣化とセル電圧の増加が起こり得る。隔膜及び電極のコーティングへの被害を防ぐために、Ca2+、Mg2+、Sr2+、Ba2+、Al3+、SO4
2-、SiO2、Fe3+、Ni2+、I-、F-、CO3
2-及びClO3
-は厳しいレベルにて維持されなければならない。これらの汚染の制御が不充分であると、電圧増加及び電流効率低下を伴う隔膜の物理的崩壊(ブリスター形成)又はイオン交換部位の閉塞、並びに電極及びそのコーティングへの上記の悪影響を引き起こす。
【0027】
例えば、クロルアルカリプロセスでは、要求された塩水純度を達成するために、飽和、沈殿、浄化、濾過、研磨濾過、イオン交換電解、塩素酸塩分解、及び脱塩素化を主要ステップとする処理工程が行われる。データ記録は塩水浄化とセル動作を制御するために使用される。最終的な塩水純度の評価は非連続データ記録により行われる:塩水のサンプルが定期的に採取され(4時間ごと又はそれ以上)、1日の合成値にまとめられる。この合成値は、次のNaOH含有量、NaCl含有量、塩分、苛性率、NaClO3含有量、Fe含有量、平均温度、25℃での比重、等の値について、実験室にて解析される。加えて、セル動作は、主整流器電流負荷、各セル電圧、塩素ヘッダー圧力、水素ヘッダー圧力、塩水及び陰極液流量、塩水pH、塩水及び陰極液温度、等を限定せず含む値の連続(リアルタイム)記録を使用してモニタされる。
【0028】
実際に、非連続データ記録の失敗により供給電解質の純度の質が低くなり、電解プロセスへの汚染の流入が起こることが確認されている。したがって、リアルタイムデータ記録の予測データモデリングによる保護層が提案される。保護層の応答性により、隔膜の電流効率の低下へとつながり隔膜の電気抵抗増加又は汚染物質の低速な蓄積をもたらす高速及び/又は深刻な汚染のリスクが低減する。さらに、電解質の汚染は非常に速く起こり得ることがよく知られている。隔膜及び電極は1時間以内に性能を失い、電気化学処理における全体的な電力消費が10%以上増加することが起こり得る。これらの素早く起こる出来事は本明細書に説明するリアルタイムな方法によってのみ防ぐことができる。
【0029】
本明細書では電解槽内にてその他のセルと直列で機能する電解セル内の隔膜汚染に起因した性能低下を素早く検出するための方法とシステムを記載する。これらの不純物をリアルタイムで検出する方法により、処理オペレータは汚染濃度を推奨基準以下へ下げるための対策を素早く講じることが可能になり、それにより電圧増加を部分的に逆転させ、不可逆な性能低下を最小化することができる。電解セル電圧及び苛性生成物出力流量、陽極液pH、供給塩水pH、又は塩素ガス中の酸素濃度がリアルタイムで記録される。セル特有の合成電圧及び合成生成物出力流量、合成陽極液pH、供給塩水pH、又は塩素ガス中の酸素濃度が構築される。以下により詳細に説明するように、記録及び合成データは「高速汚染」、「低速汚染」、及び危険な運転状況を検出するために使用される。本明細書内で説明する例はクロルアルカリセルを参照するが、説明される方法及びシステムは、水の電気分解、燃料電池等を限定せず含むその他の電解セルにも適用可能であることが理解されよう。
【0030】
図1はNaClを電気分解するクロルアルカリ産業で使用される例示的な隔膜セル100の模式図である。カチオン交換膜108は陽極液と陰極液の区画を仕切っている。アノード区画102は飽和塩水(NaCl)が充填されている一方、カソード区画103を希薄な苛性ソーダが通過する。クロルアルカリプラントでは、塩素(Cl
2)104が(例えばチタンTiで)コーティングされたアノード105で発生する。水酸化イオン106と隔膜108を通って移動したナトリウムイオン107の組み合わせにより苛性ソーダ(NaOH)及び水素ガス109が生成される。隔膜の選択性により水酸化イオンがカソード110からアノード105へ移動することが阻止される。カソード110は、水素(H
2)の過大な蓄積の可能性を削減するために、触媒でコーティングされたニッケルであってもよい。いくつかの実施形態では、アノード側における高温(90℃)での塩素、陽極液及び苛性溶液への露出などのクロルアルカリの厳しい状況に耐えるために、隔膜はパーフルオロポリマーからなり、パーフルオロカルボキシレート層(COO
-)がカソード側に存在する。スルホネート層は機械的強度のためにPTFEで補強されていてもよい。不純物の中にはアノード及びカソードのコーティングに影響を及ぼすものもあり、過電圧を発生させたり、隔膜に蓄積したりし、抵抗とセル電圧を増加させる。不純物により隔膜の電流効率が低下することがあり、その結果水酸イオンがアノード区画へ逆流することを阻止する能力が低下する。これは隔膜内の不純物の沈殿及び結晶化により引き起こされる物理的被害の結果であり得る。隔膜の環境は酸性の塩水(pH2~4)から苛性溶液(pH14~15)へと変化するため、不純物が沈殿する。
【0031】
図2には1つ以上の電解槽を有する電解セル室200を備えるアセンブリ210の実施例が示される。ここで1つ1つの電解槽は電気的に直列接続された複数の電解セルから成る。故障検出システム201はセル室200の電解槽へ動作可能に接続されている。故障検出システム201はデータ記録部202を通してリアルタイムデータの記録を行う。データはリアルタイムで記録され、合成データ生成部203及びモニタリング部204へ提供される。モニタリング部204は合成データを受信するために合成データ生成部203へ接続されている。モニタリング部204は結果及び/又は検出された故障/警告を表示するためのインターフェース205へ接続される。データ記録部202、合成データ生成部203、及びモニタリング部204は分離した構成要素として示されるが、これは説明のみを目的とし、これら1つ1つの部分により提供される機能は実際の実装に応じて1つ以上のソフトウエア及び/又は、ハードウエアモジュールにより表され得ることが理解されよう。
【0032】
データ記録では、電解槽の全ての動作モードにおける複数の電解セルのサンプリング電圧測定を実行する。電圧測定に加えて、セル室200の各電解槽を駆動するための電流が記録され、センサデータ測定値が受信される。センサデータ測定値は、電解槽の陰極液出力温度、苛性出口濃度、H2圧力、生成物流量、複数の電解槽により生成された苛性生成物の出力流量を限定せず含んでもよい。
【0033】
合成データ生成(synthetic data generation)は、合成セル特有電圧の計算、苛性合成生成物出力流量、合成陽極液pH、供給塩水pH、又は塩素ガス中の酸素濃度を含んでもよい。計算は、故障検出システム201とは別個に示されるが実施形態によっては一部又は全体が組み込まれてもよい較正装置(calibration device)206内に予め定義されて記憶された非線形予測モデルを使用してもよい。さらに、較正装置206により計算された単一セルのkファクタは、例えば合成データ生成部206を通して故障検出システム201へ入力されてもよい。本開示の目的上、kファクタは主整流器(main rectifier)の電流密度対セル電圧の勾配として理解される。kファクタは合成セル特有電圧の予測モデルの構築に使用されるデータから計算されてもよい。別の実施形態によれば、単一セルのU0は較正装置206により計算される。本開示の目的上、U0は主整流器の電流密度対セル電圧の切片と理解され、合成セル特有電圧の予測モデルを構築するために使用されるデータから計算されてもよい。
【0034】
インターフェース205は故障検出システム201によりトリガされた警告を表示するために使用されてもよい。これらの警告に基づき、人オペレータは、不純物レベルを推奨レベルより低くおさえるために、電解プロセスを停止するとか、及び/又は濾過プロセスを修正するなどの、汚染の影響を低減させるための対策を取ることができる。
【0035】
実施例によれば、非合成及び合成苛性生成物出力流量が閾値を上回る場合に、故障検出システム201は低速の汚染及び危険な運転状況を検出する。同様に、計算されたセル特有kファクタが閾値を上回場合、及び単一セルの合成及びリアルタイム電圧に基づいた条件論理規則が満たされる場合に、高速の汚染及び危険な運転状況が検出される。いくつかの実施形態では、合成セル電圧とリアルタイムセル電圧との差が閾値を超過した場合に条件論理規則がトリガされる。
【0036】
条件論理規則の一実施例は以下の通りである。
【数3】
式中、
time
windowは連続検出時間のスライド窓(例えば10分)であり、
r
i=1
nは残差とも呼ばれる単一のセルにおける合成電圧と記録されたリアルタイム電圧との差であり、
nはセル室内の合計セル数であり、
μはセル室内の全てのセルにおける合成電圧とリアルタイム電圧の差の平均値であり、
δ
shortは短い時間差分(例えば1分)であり、
δ
longは長い時間差分(例えば5分)であり、
minはセル室内の全てのセルでの単一セルの合成電圧とリアルタイム電圧の差の最小値であり、
maxはセル室内の全てのセルでの単一セルの合成電圧とリアルタイム電圧の差の最大値であり、
σ
1はスライド窓の期間における最大警告リミット(例えば50ミリボルト)であり、
σ
2はスライド窓の期間における最大範囲警告リミット(例えば25ミリボルト)であり、
σ
maxloadchangeは検出時間スライド窓の期間中における最大許容可能な負荷変化(例えば、キロアンペア単位で主整流器の最大動作電流の1%)であり、
Iはキロアンペアを単位とする主整流器の動作電流であり、
NLMINはセル室の低負荷から安定動作低負荷への切り替えを行うための最低閾値である。
【0037】
条件論理規則は単一セル合成電圧と単一セルリアルタイム電圧の差に基づく。単一セル合成電圧及び単一セルリアルタイム電圧の差に基づいた高速汚染検出の本質を捉えつつ上記の条件論理規則例に一定の変更が行われてもよいことが理解されるだろう。例えば、差の平均の代わりに、中央値のような他の集計値を用いてもよい。δshort、δlongの期間の最小から最大の範囲は分散(variance)で置き換えてもよい。代替の方法として、高速汚染を検出するために差の傾向を平滑化したセグメントを追跡するという方法もあり得る。セグメントは、時間t及びδshort、δlongにおける残差の微分(derivative of the residures)を構築することにより計算されてもよい。その他の変更が適用されてもよい。
【0038】
図3Aから3Bには高速汚染の非限定例が示される。
図3Aのグラフ300には動作中の電解槽内の、汚染レベルが適切に制御されている複数のセルにおける合成及び非合成電圧の差302が示される。
図3Bのグラフ301には、高速汚染が起こった場合の、動作中の電解槽内の複数のセルにおける合成及び非合成電圧の差303が示される。差303の傾向は高速汚染を検出するために上記の条件論理規則と共に使用される。図示するように、セルのグループ304は、他のセルと比較して隔膜の設計が本質的に異なるため、汚染の影響が少ない。
【0039】
図4は、計測され及び合成された、苛性生成物出力流量、合成陽極液pH、供給塩水pH、又は塩素ガス中の酸素濃度の差が時間と共に継続的に減少することにより示される、セル室の低速汚染検出の非限定例を示す。閾値402に到達したとき、低速汚染が検出される。
【0040】
図5Aには故障検出システム201の動作方法例500のフローチャートが示される。ステップ502において、電解槽の動作中におけるセル室200のセルからのリアルタイムデータが記録される。ステップ504において、合成データは電解槽及びセルの過去データに基づいて生成される。合成データ(synthetic data)は、電解槽の合成セル電圧及び合成生成物出力流量、合成陽極液pH、供給塩水pH、又は塩素ガス中の酸素濃度、すなわち、生産された苛性生成物の出力流量、陽極液pH、供給塩水pH、又は塩素ガス中の酸素濃度の測定値を含む。
【0041】
ステップ506において、セル特有kファクタ又はU0をメモリ又は較正装置206のような別の装置から読み出し、又は電解槽の過去データから計算することを含み得る手順により、セル特有kファクタ又はU0が決定される。いくつかの実施形態では、kファクタ又はU0は、それぞれ、単一セルの修正電圧に対する主整流器の電流密度の線形回帰(linear regression)の傾斜(slope)又は切片(intercept)として計算されてもよく、単一セル修正電圧(corrected voltage)は単一セル電圧測定値を電解槽の陰極液出口温度及び苛性濃度に対して線形標準化することにより計算される。
【0042】
ステップ508にて、電解槽のセルは低速汚染及び高速汚染についてモニタされる。低速汚染は、合成生成物出力流量、合成陽極液pH、供給食塩水pH、又は塩素ガス中の酸素濃度と、リアルタイム生成物出力流量、陽極液pH、供給塩水pH、又は塩素ガス中の酸素濃度との差が、閾値を超過する場合に、検出される。例えば、リアルタイム生成物出力流量及び合成生成物出力流量の差、又はリアルタイム陽極液pH及び合成陽極液pHの差、又はリアルタイム供給塩水pH及び合成供給塩水pHの差、又はリアルタイム塩素ガス中の酸素濃度及び合成塩素ガス中の酸素濃度の差が閾値を超過する場合、低速汚染が検出される。セル特有kファクタが第2の閾値を超過する場合、及び合成セル電圧とリアルタイムセル電圧の差の傾向(trend)が条件論理規則に合致する場合、高速汚染が検出される。
【0043】
方法500は、ランダム、定期的、又は事前に定義した間隔にて任意の回数繰り返されてもよい。いくつかの実施形態では、方法500は少なくとも1つの故障が検出されるまで継続的に実行される。その他の実施形態が適用されてもよい。
【0044】
低速及び高速汚染検出は、較正装置206により決定され得る特定のモデルに基づいて実行される。これらのモデルは、合成電圧、合成物出力流量、陽極液pH、供給塩水pH、又は塩素ガス中の酸素濃度のモデル、を限定せず含む。
図5Bには、較正装置206又は故障検出システム201により実行される、低速汚染検出に用いられる方法例510のフローチャートが示される。ステップ512では、苛性生成物出力流量の予測モデル構築処理を初期化する。例えば、産業用生産現場にてシステムが新たに配備されたとき、又は既存の予測モデルの正確性が閾値を下回るときに、較正がトリガされる。ある実施例によれば、予測モデルの正確性は、リアルタイムで記録された苛性生成物出力流量、陽極液pH、供給塩水pH、又は塩素ガス中の酸素濃度を、合成苛性生成物出力流量、合成陽極液pH、供給塩水pH、又は塩素ガス中の酸素濃度から減算することにより計算される。
【0045】
ステップ514にて、安定電流負荷における無故障セル室動作を示す最近記録された過去データが選択される。いくつかの実施形態によれば、選択されるデータの長さは10日から30日の動作範囲である。選択された処理データは、電解槽の主電流整流器、電解槽の陰極液出口温度、苛性出口濃度、H2圧力、生成物の流量、及び生成物出力流量を限定せず含む。
【0046】
ステップ516では、推定パラメータから成る合成生成物出力流量の数式が計算される。この数式の非限定例を以下に説明する。
【数4】
ここで、gは非線形関数、
Iは選択されたデータ中の各電解槽の主整流器電流、
Tは選択されたデータ中の各電解槽の陰極液出口温度、
NEは電解槽の数、
P
H2は選択されたデータ中の測定水素圧力、
dは後方時間遅延(backward time delay)である。代替の実施形態では、生成物出力流量メーターにより測定された生成物の流量が使用される。一実施形態によれば、関数gのパラメータはニューラルネットワークモデルを使用して推定される。代替の実施形態によれば、関数gのパラメータはスイッチングカルマンフィルタ又は非線形多変量回帰技術を使用して推定される。推定された関数gのパラメータはステップ518で記憶される。
【0047】
図5Cには、較正装置206又は故障検出システム201により実行される、高速汚染検出に用いられる方法例520が示される。ステップ522は合成単一セル電圧の非線形予測モデルを構築するデータ選択処理を実行する。
図6はステップ522で選択される動作データの非限定例を示す。いくつかの実施形態によれば、単一セルの電圧予測モデルを構築するための関連データは、72時間のような所定の時間枠の中において、電流が立ち上がり最高負荷で安定化するシーケンスの中から連続して選択される。ステップ524にて様々な推定パラメータから成る単一セルの合成関数が実行される。これらのパラメータのうち幾つかは動作固有であり、同じ動作条件で電気分解を実行する全てのセルで同一である。これらのパラメータのうち幾つかはセル特有パラメータである。合成単一電圧の数式の非限定例を以下に示す。
【数5】
ここで、fは任意の線形又は非線形関数、Iは主整流器電流、Tは陰極液出口温度、CCは苛性濃度、tはタイムスタンプ、dは後方時間遅延である。一実施形態によれば、関数fのパラメータはエンコーダー-デコーダーに基づいたニューラルネットワークモデルを使用して推定され、デコーダーはセルの電圧を予測するサブネットワークである予測器と置換される。ニューラルエンコーダーは入力ベクトルを受け取りその次元を所望の値まで減らすことを目的としたニューラルアーキテクチャの一種である。それはデコーダーと組み合わされてもよい。デコーダーはエンコーダーの出力を受信し、目的関数を最小化するように変換する。ニューラルエンコーダーは動作サイクルにおけるセルの特殊性を示す特徴を発見し、通常の劣化を発見するために使用されてもよい。予測器(predictor)は測定値の時間遅れを考慮してもよい。予測器は測定電圧を入力として使用しないが、いつも同じ動作条件を入力として使用しているにも関わらず各セルの異なる電圧を予測可能である。このことはセルごとに異なるエンコーダーの出力を入力として受け入れることで可能になる。したがって、電圧予測はセルの測定電圧により偏ることはない。ステップ524の代替の実施形態によれば、関数fのパラメータはスイッチングカルマンフィルタ又は非線形多変量回帰技術を使用して推定される。ステップ526にて関数fの推定パラメータが記憶される。
図7にはステップ524で計算され記憶されるkファクタの例が示される。一実施形態によれば、kファクタはステップ522にて選択されたデータサンプルに適用された線形回帰の傾き(slope of regression)である。線形回帰は、ステップ524にて電解槽の出口陰極液温度(℃)、苛性出口濃度(%w/w)及び電解槽の電流密度(電流をセル面積で割ったもの)に補正された、選択された単一セル電圧に対して、実行される。以下の式で実施形態における単一セル電圧の補正を説明する。
【数6】
ここで、vは選択した期間における単一セル電圧(ボルト)、ref
tempは陰極液出口温度の参照動作定数(℃)、CTは陰極液出口温度の動作補正定数、Tempは選択したデータ内における測定陰極液温度、ref
concは出口苛性濃度の動作補正定数(% w/w)、CCは出口苛性濃度補正定数、Concは選択したデータ内における測定苛性濃度、Jは電流をセル面積で割ることにより計算した電流密度(1平方メートル当たりキロアンペア)である。
【0048】
いくつかの実施形態では、方法510、520は、故障検出システム201、例えば合成データ生成部203により、全体又は一部が実行されてもよい。いくつかの実施形態では、較正装置206は合成データが基づくモデルを提供し、計算は合成データ生成部によって実行される。
【0049】
ある特定の非限定例では、故障検出方法は以下のように実施される。較正装置206が合成電圧の予測モデルを構築するために過去データを選択し、生成物出力流量、陽極液pH、供給塩水pH、又は塩素ガス中の酸素濃度の予測モデルを構築するための過去データを選択し、合成電圧の予測モデルを構築し、合成電圧のモデルを構築するためのkファクタ又はU0を過去データから計算する。合成部203は合成電圧の予測モデルを使用して合成電圧を計算し、合成生成物出力流量の予測モデルを使用して合成生成物出力流量を計算する。モニタリング部204は合成及びリアルタイム電圧の傾向に関する条件論理規則を実行し、合成及びリアルタイムの生成物出力流量、陽極液pH、供給塩水pH、又は塩素ガス中の酸素濃度の差を計算し、kファクタをモニタする。モニタリング部204は、条件論理規則が満たされる場合、及び/又は生成物出力流量差が閾値をまたぐ場合、及び/又はkファクタ又はU0の範囲が全てのセルで閾値を超える場合に、警告を発行する。
【0050】
図8は複数のセルを有する電解槽のセルの汚染を検出する方法500、510、520のうち1つ以上を実装するための計算装置800の実施例である。いくつかの実施形態では、故障検出システム及び/又は較正装置206は一つ以上の計算装置800を使用して実装される。計算装置800は処理部801及びコンピュータにより実行可能な命令802を記憶したメモリ803を備える。処理部801は、命令802が計算装置800又は他のプログラム可能な装置により実行された時に本明細書で説明された方法500、510、520で特定された関数/動作/ステップが実行されることができるように、一連のステップを実行するような任意の適切な装置を備えていてもよい。処理部801は、例えば任意の型の汎用マイクロプロセッサ又はマイクロコントローラ、デジタル信号処理(DSP)プロセッサ、CPU、集積回路、field programmable gate array (FPGA)、再構成可能プロセッサ、その他の適切にプログラムされた又はプログラム可能な論理回路、又はこれらの任意の組み合わせを備えていてもよい。
【0051】
メモリ803は任意の適切な既知の、又は機械により読み取り可能な記憶媒体を備えていてもよい。メモリ803は非限定例として電子、磁気、光学、電磁、赤外線又は半導体システム、デバイス又は装置、又は以上のうちの任意の適切な組み合わせを含む、非一時的なコンピュータ可読媒体を備えていてもよい。メモリ803は、例えばランダムアクセスメモリ(RAM)、リードオンリーメモリ(ROM)、電気光学メモリ、光磁気メモリ、消去可能プログラマブルリードオンリーメモリ(EPROM)、及び電気的に消去可能なリードオンリーメモリ(EEPROM)、強誘電体メモリ(FRAM)又は同種のもののような、装置の内部又は外部に位置する任意の型のコンピュータメモリの適切な組み合わせを含んでいてもよい。メモリ803は処理部801により実行可能で機械により読み取り可能な命令802を引き出し可能に記憶することに適した任意の記憶手段(例えば装置)を備えていてもよい。
【0052】
本明細書中に説明する技術は1つ以上の計算装置800により実質的にリアルタイムで実行可能であることに留意しなければならない。
【0053】
本明細書内に説明した複数のセルを有する電解槽のセル内の汚染を検出する方法及びシステムは、例えば計算装置800のような計算装置と通信し、又は計算装置の動作を補助するために、高レベルの手続き型又はオブジェクト指向プログラミング又はスクリプト言語、又はそれらの組み合わせにより実装することができる。あるいは、複数のセルを有する電解槽のセル内の汚染を検出する方法及びシステムは、アセンブリ又は機械言語で実装することができる。言語はコンパイル言語であってもインタプリタ型言語であってもよい。電解槽のセル内の故障を検出する方法及びシステムを実施するプログラムコードは、例えばROM、磁気ディスク、光学ディスク、フラッシュドライブ、又はその他の任意の適切な記憶媒体又は装置のような、記憶媒体又は装置上に記憶されてもよい。プログラムコードは、本明細書に記載した手順を実行するために記憶媒体又は装置がコンピュータにより読み出される時にコンピュータを構成し操作するために、多目的又は特定用途のプログラマブルコンピュータにより読み出し可能であってもよい。複数のセルを有する電解槽のセル内の汚染を検出する方法及びシステムの実施形態もまたコンピュータプログラムを記憶した非一時的なコンピュータ可読媒体により実装されると考えられる。コンピュータプログラムは、コンピュータ、又はより具体的には計算装置800の処理部801に本明細書中に説明した機能を、特定の、そして予め定義された方法で行わせる、コンピュータにより読み取り可能な命令を備えていてもよい。
【0054】
コンピュータにより実行可能な命令は、1つ以上のコンピュータ又はその他の装置により実行されるプログラムモジュールを含む多様な形態であってもよい。概してプログラムモジュールは、タスクを実行する又は特定の抽象データ型を実装するルーティン、プログラム、オブジェクト、コンポーネント、データ構造等を含む。典型的にはプログラムモジュールの機能は様々な実施形態における要求に従って連結又は分散されてもよい。
【0055】
本明細書にて説明されている実施形態は本技術の可能な実装の非限定例である。本開示を吟味すれば本明細書中に説明された実施形態に対して本技術の範囲から逸脱することなく変更を加えることができることを当業者は認識するであろう。例えば、ソフトウエアモジュールは方法500、510、520のステップを実行するために異なる方法で連結又は分離されてもよく、若しくは電解セル及び/又は電解槽から様々な測定値を得るために使用する特定の装置は様々であってもよい。さらに、本開示を考慮して当業者が更なる変更を実施することができ、その変更は本技術の範囲内となる。
以下に、本開示の非限定的な態様の例を示す。
(態様1)
複数のセルを有する電解槽のセル中の汚染及び危険な運転状況を検出するための方法であって、
前記電解槽の動作中に前記セルからのリアルタイムデータを記録し、
前記電解槽及び前記セルの過去データに基づいて合成データを生成し、ここで前記合成データは、前記電解槽の合成セル電圧、合成生成物出力流量、合成陽極液pH、供給塩水pH、又は塩素ガス中の酸素濃度を含み、
前記電解槽及び前記セルの前記過去データからセル特有kファクタ又はU
0
を決定し、
前記合成生成物出力流量、前記合成陽極液pH、前記供給塩水pH、前記塩素ガス中の酸素濃度と、リアルタイムの生成物出力流量、陽極液pH、供給食塩水pH、又は塩素ガス中の酸素濃度との差が、第1の閾値を超過する場合に、低速の汚染及び危険な運転状況を検出し、及び
前記セル特有kファクタ又は前記U
0
が第2の閾値を超過する場合、及び前記合成セル電圧及び前記リアルタイムセル電圧の差の傾き又は前記差の微分が、条件論理規則に合致又は超過する場合に、高速の汚染及び危険な運転状況を検出する、
ことを含む、電解槽のセル中の汚染及び危険な運転状況を検出するための方法。
(態様2)
前記低速汚染又は前記高速汚染の検出は、警告をトリガすることを含む、態様1に記載の方法。
(態様3)
前記合成データは、セル特有パラメータ及び処理データに基づいた通常のセルの劣化を考慮した予測モデルを使用して決定される、態様1に記載の方法。
(態様4)
前記セル特有kファクタ又は前記U
0
は、線形回帰モデルを使用して決定される、態様1に記載の方法。
(態様5)
前記低速汚染は電解セルの供給電解質の低速の汚染であり、前記高速汚染は電解セルの供給電解質の高速の汚染である、態様1に記載の方法。
(態様6)
前記合成セル電圧と前記リアルタイムセル電圧との前記差が第3の閾値を超過した場合に、前記条件論理規則がトリガされる、態様1に記載の方法。
(態様7)
前記条件論理規則は以下の式で表され、
【数7】
式中、
time
window
は連続検出時間のスライド窓であり、
r
i=1
n
は単一セルにおける合成電圧とリアルタイム電圧との差であり、
nはセルの合計数であり、
μは全てのセルにおける合成電圧とリアルタイムセル電圧の差の平均であり、
δ
short
は短い時間差分であり、
δ
long
は長い時間差分であり、
minは全てのセルでの合成電圧とリアルタイム電圧の差の最小値であり、
maxは全てのセルでの合成電圧とリアルタイム電圧の差の最大値であり、
σ
1
は前記スライド窓の期間における最大警告リミットであり、
σ
2
は前記スライド窓の期間における最大範囲警告リミットであり、
σ
maxloadchange
は前記検出時間スライド窓の期間における最大許容可能な負荷変化であり、
Iはキロアンペアを単位とする主整流器の動作電流であり、
NLMINは低負荷から安定動作低負荷への切り替えを行うための最低閾値である、
態様1に記載の方法。
(態様8)
前記方法は、前記電解槽が生産現場へ新たに配備された場合、又は配備された予測モデルの精度が第4の閾値よりも低い場合に、トリガされる、態様1に記載の方法。
(態様9)
前記過去データは、安定電流負荷における電解槽の無故障動作を表す、態様1に記載の方法。
(態様10)
前記合成データを生成するためのパラメータは、ニューラルネットワーク、非線形多変量技術、又はスイッチングカルマンフィルタを使用して推定される、態様1に記載の方法。
(態様11)
1つ以上の電解槽を形成する複数の電解セルと、
前記1つ以上の電解槽に動作可能に接続された少なくとも1つの計算装置を含む故障検出システムを備え、
前記少なくとも1つの計算装置は、少なくとも1つの処理装置及び前記1つ以上の処理装置により実行可能なプログラム命令を格納した非一時的なコンピュータ可読媒体を備え、
前記プログラム命令は、
前記1つ以上の電解槽の動作中に前記セルからのリアルタイムデータを記録し、
前記1つ以上の電解槽及び前記セルの過去データに基づいて合成データを生成し、ここで前記合成データは、前記1つ以上の電解槽の合成セル電圧、合成生成物出力流量、合成陽極液pH、供給塩水pH、又は塩素ガス中の酸素濃度を含み、
前記1つ以上の電解槽及び前記セルの前記過去データからセル特有kファクタ又はU
0
を決定し、
前記合成生成物出力流量、前記合成陽極液pH、前記供給塩水pH、前記塩素ガス中の酸素濃度と、リアルタイムの生成物出力流量、陽極液pH、供給食塩水pH、又は塩素ガス中の酸素濃度との差が第1の閾値を超過する場合に、低速の汚染及び危険な運転状況を検出し、そして
前記セル特有kファクタ又は前記U
0
が第2の閾値を超過する場合、及び前記合成セル電圧及び前記リアルタイムセル電圧の差の傾き又は前記差の微分が条件論理規則に合致又は超過する場合に、高速の汚染及び危険な運転状況を検出する、
アセンブリ
(態様12)
前記低速汚染又は前記高速汚染の検出は、警告をトリガすることを含む、態様11に記載のアセンブリ。
(態様13)
前記合成データは、セル特有パラメータ及び処理データに基づいて通常のセルの劣化を考慮した予測モデルを使用して決定される、態様11に記載のアセンブリ。
(態様14)
前記セル特有kファクタ又は前記U
0
は線形回帰モデルを使用して決定される、態様11に記載のアセンブリ。
(態様15)
前記低速汚染は電解セルの供給電解質の低速の汚染であり、前記高速汚染は電解セルの供給電解質の高速の汚染である、態様11に記載のアセンブリ。
(態様16)
前記合成セル電圧と前記リアルタイムセル電圧との前記差が第3の閾値を超過した場合に、前記条件論理規則がトリガされる、態様11に記載のアセンブリ。
(態様17)
前記条件論理規則は以下の式で表され、
【数8】
式中、
time
window
は連続検出時間のスライド窓であり、
r
i=1
n
は単一セルにおける合成電圧とリアルタイム電圧との差であり、
nはセルの合計数であり、
μは全てのセルにおける合成電圧とリアルタイムセル電圧との差の平均であり、
δ
short
は短い時間差分であり、
δ
long
は長い時間差分であり、
minは全てのセルでの合成電圧とリアルタイム電圧の前記差の最小値であり、
maxは全てのセルでの合成電圧とリアルタイム電圧の前記差の最大値であり、
σ
1
は前記スライド窓の期間における最大警告リミットであり、
σ
2
はスライド窓の期間における最大範囲警告リミットであり、
σ
maxloadchange
は前記検出時間スライド窓の期間における最大許容可能な負荷変化であり、
Iはキロアンペアを単位とする主整流器の動作電流であり、
NLMINは低負荷から安定動作低負荷への切り替えを行うための最低閾値である、
態様11に記載のアセンブリ。
(態様18)
前記故障検出システムは、前記1つ以上の電解槽が生産現場へ新たに配備された場合、又は配備された予測モデルの精度が第4の閾値よりも低い場合に、トリガされる、態様11に記載のアセンブリ。
(態様19)
前記過去データは、安定電流負荷における電解槽の無故障動作を表す、態様11に記載のアセンブリ。
(態様20)
前記合成データを生成するためのパラメータは、ニューラルネットワーク、非線形多変量技術、又はスイッチングカルマンフィルタを使用して推定される、態様11に記載のアセンブリ。