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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-16
(45)【発行日】2024-04-24
(54)【発明の名称】架橋ヒドロゲルの動的濾過の方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 61/26 20060101AFI20240417BHJP
   B01D 69/06 20060101ALI20240417BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20240417BHJP
   B01D 71/02 20060101ALI20240417BHJP
   B01D 71/06 20060101ALI20240417BHJP
   A61L 27/20 20060101ALI20240417BHJP
【FI】
B01D61/26
B01D69/06
B01D69/00
B01D71/02
B01D71/06
A61L27/20
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021505428
(86)(22)【出願日】2019-08-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-12-09
(86)【国際出願番号】 EP2019071096
(87)【国際公開番号】W WO2020030629
(87)【国際公開日】2020-02-13
【審査請求日】2022-05-09
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2018/071328
(32)【優先日】2018-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】511202045
【氏名又は名称】メルツ ファルマ ゲーエムベーハー ウント コンパニー カーゲーアーアー
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】弁理士法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フェイル,マイケル
(72)【発明者】
【氏名】ケスラー,ヴォルフガング
(72)【発明者】
【氏名】コンラッド,マニエル
(72)【発明者】
【氏名】ニェムチャク,ビョルン
(72)【発明者】
【氏名】ヴコヴィック,パトリック
【審査官】高橋 成典
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-529762(JP,A)
【文献】ロシア国特許出願公開第02582702(RU,A)
【文献】特開昭60-194960(JP,A)
【文献】特表2007-519779(JP,A)
【文献】特表2015-526537(JP,A)
【文献】国際公開第2005/112888(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 61/00 - 71/82
A61L 17/00 - 33/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学架橋剤によって架橋された構造を有する生体高分子系ヒドロゲルの動的濾過の方法であって、
5nm~2μmの孔径を有する1~10枚の回転式の半透性中空フィルターディスクを有する処理チャンバ、該処理チャンバに接続されるゲル貯蔵器及び緩衝液貯蔵器を備えた動的濾過装置を使用し、
下記のステップi)及びステップii)を含み、
ステップi)前記ゲル貯蔵器に0.5~6バールの過圧を適用して前記生体高分子系ヒドロゲルを前記処理チャンバに移送し、回転速度が20 1/分~500 1/分の前記半透性中空フィルターディスクを用いることにより、前記生体高分子系ヒドロゲルを10~70mg/gの濃度まで濃縮するか、または、前記処理チャンバに10~70mg/gの濃度の前記生体高分子系ヒドロゲルをポンプで直接移送するステップ
ステップii)前記緩衝液貯蔵器に0.5~6バールの過圧を適用して緩衝液を前記処理チャンバに移送し、濾液が生成するのと同じ速度で前記処理チャンバに緩衝液を加えつつ、回転速度が20 1/分~500 1/分の前記半透性中空フィルターディスクを用いることにより透析濾過を行い、未反応の化学架橋剤及びその分解生成物を減らすステップ、
前記生体高分子系ヒドロゲルがヒアルロン酸、ヘパロサン、それらの塩若しくは誘導体、又はそれらの組み合わせから作られ、
前記化学架橋剤が1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE)である、方法。
【請求項2】
前記方法が、非架橋ポリマー及び水を含む混合物を前記生体高分子系ヒドロゲルに添加するステップを更に含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記非架橋ポリマーが非架橋ヒアルロン酸である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記半透性中空フィルターディスクが、30nm~600nmの孔径を有する、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記半透性中空フィルターディスクが、80nm~300nmの孔径を有する、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記半透性中空フィルターディスクが、5nm~60nmの孔径を有する、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記半透性中空フィルターディスクがセラミック、金属、またはポリマー材料で作られる、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記生体高分子系ヒドロゲルがヒアルロン酸から作られており、ステップii)における前記透析濾過が、20 1/分~500 1/分の範囲内の回転速度、および0.5~3バールの範囲内の圧力を適用することによって実施され、ステップii)における前記透析濾過が、10~70mg/gの範囲の前記生体高分子系ヒドロゲルの濃度で実施される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
透析濾過中または透析濾過後に麻酔剤が前記生体高分子系ヒドロゲルに添加される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
透析濾過中または透析濾過後にリドカインが前記生体高分子系ヒドロゲルに添加される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
ステップii)における前記透析濾過が、60℃~70℃の範囲の温度で、2~4時間実施される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
ステップii)における前記透析濾過及び前記ステップi)が、60℃~70℃の範囲の温度で、2~4時間の時間実施される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記生体高分子系ヒドロゲルが、2~30分の保持時間の間、121℃~135℃で前記動的濾過装置内で滅菌される、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記ステップi)及び前記ステップii)が、10時間未満で行われる、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記ステップi)及び前記ステップii)が、5時間未満で行われる、請求項14記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋生体高分子ベースのヒドロゲルを動的濾過して、ゲルから不要な分子を除去する方法に関する。特に、本発明は、回転式および半透性のフィルターディスクを備えた動的濾過構造を使用するヒアルロン酸ヒドロゲルの動的濾過に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒアルロン酸は体に自然なポリマーであり、整形外科や眼科などの医学のさまざまな分野で用いられている。今日、ヒアルロン酸は美容医学や形成外科でますます使用されている。ヒアルロン酸の用途が幅広いのは、特に水の結合能力が非常に高いためである。水性媒体中では、低濃度のヒアルロン酸であっても、粘弾性ゲルが形成され、これは生分解性であり、有利な特性を有する。
【0003】
純粋なヒアルロン酸は、人体内で比較的速く分解される。このため、ヒアルロン酸分子は互いに化学的に架橋していることが多く、それによって分解が大幅に減少し、約6~12ヶ月の期間は望ましい効果が維持される。したがって、架橋ヒアルロン酸ゲルは、とりわけ、しわの治療、上唇および下唇の輪郭づけおよび量の増加、頬および顎の輪郭の改善、ならびに鼻の矯正などのために美容医学で頻繁に使用される。
【0004】
既知のヒアルロン酸ゲルは、大まかに2つの異なるタイプ、すなわち単相ゲルと二相ゲルに分類することができる。単相ヒアルロン酸ゲルは単相で構成され、非粒子状である。そのような単相ゲルの調製は、例えば、WO2008/068297、US8,450,475、US8,455,465、US7,741,476、およびUS8,052,990に開示されている。知られている市販の単相ヒアルロン酸ゲルは、例えば、Juvederm(登録商標)、Teosyal(登録商標)、Glytone Professional(登録商標)、ならびにBelotero(登録商標)、Esthelis(登録商標)、Fortelis(登録商標)Extra、およびModelis(登録商標)Shapeとして知られる単相二重架橋ヒアルロン酸ゲルである。
【0005】
二相ヒアルロン酸ゲルは、液相に分散している架橋ヒアルロン酸材料を含む。そのようなゲルは粒子状であり、例えば、EP0466300に記載されているように作ることができる。市販の二相ゲルは、例えば、Hylaform(登録商標)、Restylane(登録商標)、およびPerlane(登録商標)である。
【0006】
架橋ヒアルロン酸ゲルの作製は、多段階プロセスによって行われ、WO2005/085329により詳細に記載されている。
【0007】
ヒアルロン酸などの多糖に基づくゲルを作製する方法は、WO2014/064633、US2013/210760、US2013/203696、WO2010/115081、WO2012/062775、WO2013/185934、WO2009/077399、およびWO2008/034176にさらに開示されている。
【0008】
ヒアルロン酸ゲルを透析するための従来の方法は、しばしば比較的長い手作業時間と労力を必要とする。これは、品質と再現性が低下し、製造時間とコストが増加するため、これまでのところ不利である。さらに、微生物汚染のリスクは、透析ステップの処理時間とともに増加する。
【0009】
多くの場合、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE)が、ヒアルロン酸ヒドロゲルの架橋剤として使用されている。しかしながら、BDDEは有毒であることがあり、不要な分子が少ないヒドロゲルを製造する必要がある。
【0010】
発明の目的
本発明は、架橋生体高分子ベースのヒドロゲルの製造中に生成される不要な分子を除去するための改善された方法を提供するという目的に基づいている。
【発明の概要】
【0011】
本発明は、不要な分子を除去する半透性フィルターディスク(複数可)を備えた動的濾過装置を使用して、架橋生体高分子ベースのヒドロゲルを動的濾過する方法に関し、i)20 1/分~500 1/分の範囲内の回転速度、および0.5~6バールの範囲内の過圧を適用することによって、所定の濃度までゲルを濃縮するか、または動的濾過装置の処理チャンバ内へゲルを直接ポンプ注入するステップと、ii)20 1/分~500 1/分の範囲内の回転速度と、0.5~6バールの範囲内の過圧を適用することによって、不要な分子を減らすために透析濾過を行うステップと、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に従って処理されたゲル(「DCFゲル」;貯蔵弾性率(G’)200Pa)と標準的な方法に従って処理されたゲル(「標準ゲル」;貯蔵弾性率(G’)216Pa)との間の周波数掃引比較。 1(点線)=DCFゲル:G’ 2(実線):標準ゲル:G’ 3(点線)=DCFゲル:G’’ 4(実線):標準ゲル:G’’ 5(点線)=DCFゲル:複素粘度 6(実線)=標準ゲル:複素粘度
図2】本発明に従って処理されたゲル(「DCFゲル」;貯蔵弾性率(G’)241Pa)と標準的な方法に従って処理されたゲル(「標準ゲル」);貯蔵弾性率(G’)249Pa)との間の振幅掃引比較。クロスオーバーポイント=フローポイント 1(点線)=DCFゲル:G’ 2(実線):標準ゲル:G’ 3(点線)=DCFゲル:G’’ 4(実線):標準ゲル:G’’
図3】: 1:DCFゲル:G’ 2:DCFゲルG’’ 3:DCFゲル:複素粘度
図4】実施例3/試行4によるゲルの周波数掃引 三角▲の実線:損失弾性率G’’ 四角■の実線:貯蔵弾性率G’ 円●の実線:複素粘度[η*]
図5】実施例3/試行4によるゲルの振幅掃引 三角▲の実線:損失弾性率G’’ 四角■の実線:貯蔵弾性率G’ クロスオーバーポイントG’’=G’:剪断応力440Pa;貯蔵弾性率54Pa
図6】実施例3/試行5によるゲルの周波数掃引 三角▲の実線:損失弾性率G’’ 四角■の実線:貯蔵弾性率G’ 円●の実線:複素粘度[η*]
図7】実施例3/試行5によるゲルの振幅掃引 三角▲の実線:損失弾性率G’’ 四角■の実線:貯蔵弾性率G’ クロスオーバーポイントG’’=G’:剪断応力350Pa;貯蔵弾性率98Pa
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、本発明の以下の詳細な説明およびそこに含まれる実施例を参照することにより、より容易に理解することができる。
【0014】
本明細書で使用される「動的濾過装置」という用語は、中空シャフト上で可動に配置された板またはディスクの形状の中空フィルター要素を使用する手段を指す。要素の相対運動により、濾過される媒体に乱流が発生し、それによってフィルター要素の表面が清掃される。このようなフィルター装置は、例えば、WO00/47312に記載されている。回転式フィルター要素により、オーバーフロー速度を膜間圧(TMP)から分離することができる。動的濾過モジュールの遠心力と剪断力の組み合わせにより、カバー層の蓄積の制御が改善される。この技術を使用することにより、目詰まり層の形成が減少する。さらに、相対運動により、濾過機内の保持液の混合が保証される。このような動的濾過装置は、さまざまな企業、例えば、Andritz AG(本社Graz Austria)から入手できる。動的濾過装置の重要な要素は膜ディスクである。その直径、ディスクの数、および配置は、目的のスケールによって異なり得る。
【0015】
本発明によれば、動的濾過の方法は、様々な架橋生体高分子ベースのヒドロゲル(以下、「ヒドロゲル(複数可)」とも呼ばれる)に適用することができる。架橋生体高分子ベースのヒドロゲルの製造方法は当技術分野で周知であり、例えば、架橋ヒアルロン酸ゲルの作製は、WO2005/085329A1に記載されている。多糖に基づくゲルを作製するさらなる方法は、WO2014/064633、US2013/210760、US2013/203696、WO2010/115081、WO2012/062775、WO2013/185934、WO2009/077399、およびWO2008/034176に開示されている。
【0016】
一態様では、本発明は、架橋生体高分子ベースのヒドロゲルの動的濾過の方法に関し、
a)半透性フィルターディスク(複数可)を備えた動的濾過装置に架橋生体高分子ベースのヒドロゲルを移し、ゲルを透析濾過するステップであって、
i)20 1/分~500 1/分の範囲内の回転速度および0.5~6バールの範囲内の過圧を適用することによって所定の濃度までゲルを濃縮するか、または動的濾過装置の処理チャンバにゲルを直接ポンプで送るステップと、
ii)20 1/分~500 1/分の範囲内の回転速度、および0.5~6バールの範囲内の過圧を適用することによって、不要な分子を低減するために透析濾過を行うステップと、を含む、透析濾過するステップと、
b)任意選択で、非架橋ポリマー、特に非架橋ヒアルロン酸および水を含む混合物をゲルに加えるステップと、を含む。
【0017】
本明細書で使用される場合、「透析濾過」という用語は、濾液が生成されるのと同じ速度で保持液に水または新しい緩衝液を加えることによって、保持液(試料)内に元からある緩衝液塩または他の低分子量種を洗い流すことを伴う、連続透析濾過(定量透析濾過とも呼ばれる)を意味するように使用される。
【0018】
本明細書で使用される「不要な分子」という用語は、非反応性または非結合のポリマー架橋剤分子(例えば、BDDE)およびそれらの分解生成物を指す。
【0019】
驚くべきことに、本発明による方法は、回転式フィルターディスクから生じる剪断応力にもかかわらず、ゲルの構造的安定性が維持されている間、ゲルから不要な分子を顕著に除去することが見出された。さらに、驚くべきことに、本発明による方法を実施するために必要な処理時間および必要な緩衝液が、従来の透析と比較して顕著に削減されたことが見出された。本発明による方法のさらなる利点は、従来のクロスフロー濾過と比較して流束速度が増加し(2~10倍)、保持液をより高濃度に濃縮することができることである。これらの利点は、架橋された高粘度のヒドロゲルから不要な分子を除去するための改善された方法につながる。
【0020】
生体高分子ベースのヒドロゲルは、生分解性ポリマー、例えば、ヒアルロン酸、ヘパロサン、アルギネート、ペクチン、ジェランガム、コンドロイチン硫酸、ケラタン、ケラタン硫酸、ヘパリン、ヘパリン硫酸、セルロース、キトサン、カラギーナン、キサンタン、またはそれらの塩もしくは誘導体、またはそれらの組み合わせから作られる。「ヒアルロン酸」という用語は、「ヒアルロナン」という用語と同義的に使用される。
【0021】
以下では、本発明をヒアルロン酸ヒドロゲルを用いて説明するが、これは、本開示が決してヒアルロン酸ヒドロゲルに限定されることを意味するものではない。むしろ、ヒアルロン酸ヒドロゲル、特に上記の例示的なポリマーのうちの1つから作られるヒドロゲルの代わりに、任意の生体高分子ベースのヒドロゲルを使用することができる。
【0022】
生体高分子ベースのヒドロゲルは、化学架橋剤によって架橋されており、ヒドロゲルは、使用された化学架橋剤の余剰分を含んでいる。余剰の化学架橋剤は、本発明による方法によりヒドロゲルから除去される。さらに、他の不要な分子もまた、本発明による方法によってヒドロゲルから除去され得る。
【0023】
「架橋剤」という用語は、生体高分子ベースのヒドロゲルの1つ以上の官能基と反応し、同じ官能基、例えば、ヒドロキシル基と架橋することができる、少なくとも2つの基を有するすべての化合物を含む。架橋のための架橋剤の適切な基は、カルボキシル基、エポキシド基、ハロゲン基、ビニル基、イソシアネート基、または保護されたイソシアネート基から選択され得る。架橋剤として使用できる例示的な化合物は、例えば、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE)、ポリビニルシラン(PVS)、PEGベースの架橋剤、ジビニルスルホン(DVS)である。特定の実施形態では、本発明による方法は、ヒドロゲルから未結合または過剰の1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE)および/または他の不要な分子を除去する。
【0024】
好ましくは、架橋生体高分子ベースのヒドロゲル(特にヒアルロン酸で作られたヒドロゲル)は、10~70mg/g、好ましくは20~50mg/gの範囲の初期濃度を呈する。本発明に関して、ヒドロゲルの濃度は、ヒドロゲルの総量(gで表される)に基づく架橋生体高分子の量(mgで表される)を意味する。典型的には、初期濃度は、ステップa)で動的濾過装置に移され、任意選択で、ステップi)で濃縮または処理チャンバに直接ポンプ注入されるヒドロゲルの濃度である。
【0025】
本発明の別の実施形態では、ヒドロゲルは、例えば、充填を容易にするために、動的濾過装置に移される前に(例えば、透析濾過に適用される緩衝溶液を使用して)希釈され、好ましくは、透析濾過の前に任意選択のステップi)で濃縮され得る。好ましくは、ヒドロゲルは、任意選択のステップi)において、3~30mg/g、好ましくは5~20mg/g、より好ましくは5~10mg/gの範囲のヒドロゲルの濃度から開始して濃縮される。
【0026】
好ましくは、ヒドロゲルは、任意選択のステップi)において、所望の濃度に到達し、最大で70mg/gの最大濃度に到達するまで濃縮される。特に、任意選択の濃縮ステップi)の後のヒドロゲルの濃度は、10~70mg/g、好ましくは20~50mg/g、より好ましくは20~35mg/gの範囲である。
【0027】
好ましくは、ステップii)における透析濾過は、10~70mg/g、好ましくは20~50mg/g、より好ましくは20~35mg/g、また好ましくは23~70mg/gの範囲のヒドロゲルの濃度で行われる。典型的には、ヒドロゲル(特にヒアルロン酸で作られたヒドロゲル)の濃度は、透析濾過ステップii)の間、ほぼ同じレベルに維持される。
【0028】
好ましくは、ステップii)における透析濾過は、ヒドロゲル中の不要な分子(BDDEなど)の量が定量限界を下回るまで行われる。例えば、ステップii)における透析濾過は、1~8時間、好ましくは2~6時間の期間行われる。
【0029】
好ましくは、ステップii)における透析濾過は、緩衝溶液、好ましくはリン酸緩衝溶液、例えば、NaHPOおよびNaHPOなどのリン酸ナトリウムベースの緩衝溶液を使用して行われる。特に、ステップii)における透析濾過は、6~8、好ましくは6.5~7.5の範囲のpH値を有する緩衝溶液を使用して行われる。
【0030】
好ましくは、ヒドロゲルは、ステップi)において、70 1/分~500 1/分、好ましくは70 1/分~300 1/分、より好ましくは100 1/分~300 1/分の範囲の回転速度を適用することによって濃縮される。好ましくは、ヒドロゲルは、ステップi)において、1~3バールの範囲の過圧によって濃縮される。
【0031】
好ましくは、ステップii)における透析濾過は、70 1/分~500 1/分、好ましくは70 1/分~300 1/分、より好ましくは100 1/分~300 1/分の範囲の回転速度を適用することによって実施される。好ましくは、ステップii)における透析濾過は、1~3バールの範囲の過圧を適用することによって実施される。
【0032】
特定の実施形態では、本発明による方法で使用される動的濾過装置は、5nm~2μmの孔径、より詳細には30nm~600nmの孔径、より詳細には80nm~300nmの孔径、特に、5nm~60nmの孔径を呈する半透性フィルターディスク(複数可)を備えている。
【0033】
特定の実施形態では、本発明による方法で使用される動的濾過装置は、1枚以上の半透性フィルターディスクを備えている。好ましい実施形態では、動的濾過装置は、1~10枚、好ましくは4~6枚の半透性フィルターディスク(複数可)を備えている。半透性フィルターディスクは、同じ寸法または異なる寸法を呈する場合がある。驚くべきことに、ヒドロゲルの粘度および架橋構造に悪影響を与えることなく、半透性フィルターディスク(複数可)の数を最大10枚、または好ましくは最大6枚まで増やすことができることが見出された。通常、剪断力は、ディスクの数が増え、回転速度が上がると増加する。
【0034】
特定の実施形態では、動的濾過装置は、セラミック、金属、またはポリマー材料で作られた半透性フィルターディスク(複数可)を備えている。
【0035】
特定の実施形態では、生体高分子ベースのヒドロゲルはヒアルロン酸で作られており、ゲルは、約20 1/分~150 1/分の範囲内の回転速度および約0.5~2バールの範囲内の圧力を適用して、10~30mg/gの最終濃度まで濃縮され、透析濾過は、20 1/分~150 1/分の範囲内の回転速度および0.5~2バールの範囲内の圧力を適用することによって実施される。
【0036】
好ましい実施形態では、生体高分子ベースのヒドロゲルはヒアルロン酸で作られており、ステップii)における透析濾過は、20 1/分~500 1/分、好ましくは70~300 1/分の範囲内の回転速度、および0.5~3バール、好ましくは1~3バールの範囲内の圧力を適用することによって実施され、ステップii)の透析濾過は、10~70mg/g、好ましくは20~50mg/g、より好ましくは20~35mg/gの範囲のヒドロゲルの濃度で行われる。
【0037】
好ましい実施形態では、生体高分子ベースのヒドロゲルはヒアルロン酸で作られており、ゲルはステップ(i)で動的濾過装置の処理チャンバに直接ポンプで送られ(すなわち、任意選択の濃縮ステップなし)、ステップii)における透析濾過は70 1/分~500 1/分、好ましくは70~300 1/分の範囲内の回転速度、および1~3バールの範囲内の圧力を適用することによって実施され、ステップii)における透析濾過は、10~70mg/g、好ましくは20~35mg/gの範囲のヒドロゲルの濃度で行われ、動的濾過装置は、1~10枚、好ましくは4~6枚の半透性フィルターディスク(複数可)を備えている。
【0038】
ヒドロゲルの透析濾過中または透析濾過後に、さらなる物質、例えば、塩、緩衝物質、ビタミン(例えば、ビタミンE、C、B6)、抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸またはその誘導体、酸化亜鉛)、ポリオール(例えば、グリセロール、マンニトール)、リン酸三カルシウム粒子(例えば、αリン酸三カルシウムおよびβリン酸三カルシウムならびにヒドロキシアパタイト粒子)、薬剤(例えば、麻酔薬、抗炎症剤、刺激低減剤、血管収縮剤または血管拡張剤、抗凝固剤、湿度提供物質、免疫抑制剤、抗生物質など)、ならびに成長因子、ペプチド、またはタンパク質(例えば、ニューロトキシン)が、ゲルに添加され得る。特に、リドカインなどの麻酔薬が、ゲルに添加され得る。好ましくは、リドカインは、組成物の総重量に対して0.05~5.0重量%、0.1~2.0重量%、0.1~1.0重量%、0.1~0.5重量%、0.1~0.4重量%、0.2~0.4重量%、または0.2~0.3重量%の濃度でゲル中に含まれる。
【0039】
好ましくは、ステップi)における任意選択の濃縮および/またはステップii)における透析濾過は、15℃~80℃、好ましくは20℃~70℃の範囲の温度で実施される。
【0040】
好ましい実施形態では、ステップii)における透析濾過および任意選択の濃縮ステップi)は、60℃~70℃の範囲の温度で、好ましくは60℃~70℃の範囲の温度で、2~4時間(例えば、3.5時間)の期間実施される。ヒドロゲルの粘度が低下するため、特に60℃~70℃の範囲の温度が有利である。
【0041】
特定の実施形態では、ステップa)において、ゲルは、不要な分子を低減するためにさらに熱処理を受けており、最大4時間、60℃が適用される。
【0042】
動的濾過装置は、装置および/または通路を蒸気でリンスするための滅菌手段、好ましくは純粋な蒸気、滅菌流体、特に洗浄液、好ましくは濾過水、および/または滅菌された/粒子を含まない空気を含み得る。滅菌手段は、滅菌流体を含む供給ユニット、および滅菌流体のための貯蔵ユニットを含み得る。
【0043】
特定の実施形態では、ゲルは、動的濾過装置内において121℃~135℃で約2~30分の保持時間で滅菌される。
【0044】
特定の実施形態では、本発明による方法は、10時間未満、特に5時間未満で行われる。
【0045】
本発明による方法は、
i)真空(20~200ミリバール)下で気泡を除去するためにゲルを脱気するステップ、
ii)ゲルをシリンジに充填するステップ、
iii)オートクレーブ内で熱によりシリンジ内のゲルを滅菌するステップ、をさらに含み得る。
【0046】
別の態様では、本発明は、本発明による方法によって得られる架橋生体高分子ベースのヒドロゲルに関する。
【0047】
別の態様では、本発明は、審美的用途、特に軟組織増強のための、本発明による方法によって得られた架橋生体高分子ベースのヒドロゲルの使用に関する。
【実施例
【0048】
以下に、本発明による方法をより詳細に説明する。
【0049】
実施例1:ゲルの希釈ステップ、濃縮ステップ、および透析濾過ステップを含む方法
BDDE(例えば、WO2005/085329を参照)で架橋され、24mg/gの初期濃度を呈するヒアルロン酸ヒドロゲルを、Na2HPO4・2H2O:0,994g/L;NaH2PO4・2H2O:0.51g/L;マンニトール:42g/L、および注入用水を含む緩衝液を使用して、1:4~1:8の範囲で希釈した。希釈したゲルを容器に移し、パイプまたはチューブを介して動的濾過装置の入口に接続した。動的濾過装置は、1枚のフィルターディスク(0,034m2のフィルター面積、直径152mm、孔径7nm)、ゲル貯蔵器としての1つの容器、および緩衝液貯蔵器としての第2の容器を有する、Krauss Maffei動的クロスフローフィルターDCF152/S(Andritz AG)で構成された。両方の容器は、チューブとボールバルブを介してDCF152/Sの入口ポートに接続され、さまざまな処理ステップでそれぞれの媒体を選択した。DCF152/Sのハウジングのダブルジャケットを冷蔵サーキュレーターに接続し、ダブルジャケット内の温度を設定温度20℃に維持した。DCF152/Sの濾液を容器に集め、天秤上に置いて濾液の量を測定した。次のステップが適用された。
i)希釈したゲルを含む閉じられたゲル容器に、圧力(1.5バール)を加えてゲルを濃縮し、DCF152/Sの入口ポートへの道を開き、フィルターディスクと中空シャフトを介して濾液を除去するステップ(WO00/47312を参照)。フィルターディスクは150rpmで回転させた。ゲル中のヒアルロン酸の濃度が24mg/gになるまでゲルを濃縮した。
ii)緩衝液を含む閉じられた緩衝液容器に圧力(1.5バール)を加え、NaHPO・2HO:0,994g/L;NaHPO・2HO:0.51g/L;マンニトール:42g/L、および注入用水を含む緩衝溶液で透析濾過を行い、DCF 152/Sの入口ポートへの道を開き、フィルターディスクおよび中空シャフトを介して濾液を除去するステップ(WO00/47312を参照)。緩衝溶液にはリドカイン(0,27~0.33w/w%)が含まれている場合がある。別の方法として、リドカインは透析濾過後に添加され得る。フィルターディスクは150rpmで回転させた。BDDEが定量限界未満になるまでゲルを濾過した。
【0050】
BDDEの量は、以下の方法に従って測定された。
1.試料調製:
a.HAの酵素分解
HAは、ヒアルロニダーゼ溶液を添加し、その後粘度が低下するまでわずかに振盪させながら1~4時間インキュベートすることにより分解した。
b.BDDEの抽出
BDDEは、酢酸エチル(5%v/v)を添加し、400rpmで20分間軌道振盪させることにより、分解した試料(aで説明)から抽出した。溶液を5000rpmで10分間遠心分離させて、有機相と水相を分離した。BDDEを含む有機相をGCバイアルに移した。
2.ガスクロマトグラフ測定
a.5μLの試料(1bで説明)をGC(スプリットインジェクター、スプリット比1:5、250℃)に注入し、100℃-40℃/分-280℃の温度傾斜を使用して、および280℃で30秒間の最終保持によって、DB-1カラム(AgilentDB-1、30m、内径0.25mm、0.25μmフィルム)で分離した。検出器は、FIDを使用した。
b.データ評価は、欧州薬局方第2.2.46章に準拠した内部標準法によって実施された。
実施例1による一つの実験の結果を以下の表1に示す。
【表1】
【0051】
ゲルの構造安定性は、2つの異なるゲルの比較を示す図1からわかるように、本発明による方法の間維持された。一方のゲルは本発明に従って処理され(「DCFゲル」)、他方のゲルは標準的な方法で処理された(「標準ゲル」)。
【0052】
実線は、標準的な方法に従って生成された透析後のゲルのG’、G’’、およびηの特徴的な進行を表し、点線は、本発明に従って処理されたゲルの特徴的な進行を表す。
【0053】
ゲルの特性評価に一般的に使用される周波数試験で示された曲線の進行に関して、有意差がなかったことは明らかである。本発明によるゲルに関連する曲線は、ゲルのHA濃度がわずかに低いため、標準ゲルに関連する曲線よりもわずかに低い。ゲルの構造的安定性に関して、G’およびG’’の平行な増加(G’>G’’)は、ゲルが本発明による方法の間、その架橋構造を維持したことを明確に示している。
【0054】
さらに、図2は、両方のゲル(「DCFゲル」と標準ゲル」、上記参照)のフローポイントが同一であることを示し、これはさらに、本発明に従って処理されたゲルの構造安定性が維持されたことを示している。
【0055】
実施例2:ゲルを希釈するステップなしでゲルを透析濾過する方法
BDDE(例えば、WO2005/085329を参照)で架橋され、32~35mg/gの濃度を呈するヒアルロン酸ヒドロゲルが、動的濾過装置の処理チャンバに直接ポンプで送られた。ゲルには226.8ppmの非結合BDDEが含まれていた。動的濾過装置は、1枚のフィルターディスク(0,034mのフィルター面積、直径152mm、孔径5nm)、ゲル貯蔵器としての1つの容器、および緩衝液貯蔵器としての第2の容器を有するKrauss Maffei動的クロスフローフィルターDCF 152/S(Andritz AG)で構成された。両方の容器は、チューブとボールバルブを介してDCF 152/Sの入口ポートに接続され、さまざまな処理ステップでそれぞれの媒体を選択するようにした。DCF 152/Sのハウジングのダブルジャケットを冷蔵サーキュレーターに接続し、ダブルジャケット内の温度を設定温度20℃に維持した。DCF 152/Sの濾液を容器に集め、天秤上に置いて濾液の量を測定した。次のステップが適用された。
i)緩衝液を含む閉じられた緩衝液容器に圧力(1.5バール)を加え、NaHPO・2HO:5,96g/L;NaHPO・2HO:2,57g/L;NaCl:2,29g/L、および注入用水を含む緩衝溶液で透析濾過を行い、DCF152/Sの入口ポートへの道を開き、フィルターディスクおよび中空シャフトを介して濾液を除去するステップ(WO00/47312を参照)。緩衝溶液には、リドカイン(0,27~0.33w/w%)が含まれている場合がある。別の方法として、リドカインは透析濾過後に添加され得る。フィルターディスクを150rpm(1/分)で回転させた。未結合のBDDEが定量限界(LOQ)未満になるまで、ゲルを濾過した。BDDEの量は、上で説明したように測定された(実施例1を参照)。動的濾過処理は2時間1分以内に実施された。
さらなる実験の結果を次の表2に示す。
【表2】
【0056】
ゲルの構造的安定性が本発明による方法の間維持されたという事実のさらなる例を、図3に見ることができる。実施例2による方法が適用された後、ゲルの特性評価に一般的に使用される周波数試験を活用して、ゲルを分析した。使用した周波数範囲は0.1~10Hzであった。G’およびG’’(G’>G’’)の平行な増加は、ゲル(「DCFゲル」)が実施例2による方法の間、その架橋構造を維持したことを明確に示している。
【0057】
実施例3:ゲルを希釈するステップなしでゲルを透析濾過し、6枚のフィルターディスクを備えた動的濾過装置を使用する方法
実施例3は、上記の実施例2に従って実施されたが、使用された動的濾過装置は、(実施例1および実施例2のように1枚ではなく)6枚のフィルターディスク(フィルター面積0,034m、直径152mm、孔径5nm)を有するKrauss Maffei動的クロスフローフィルターDCF 152/S(Andritz AG)である点が異なる。BDDE(例えば、WO2005/085329を参照)で架橋され、66mg/gの濃度を呈するヒアルロン酸ヒドロゲルを、実施例1および実施例2に記載の緩衝溶液を使用してファクター1:2で希釈した。約33mg/gの濃度を有するヒアルロン酸ヒドロゲルを、動的濾過装置の処理チャンバに直接ポンプで送った。ゲルには226.8ppmの非結合BDDEが含まれていた。
【0058】
透析濾過は、実施例2に記載されているように実施され、異なる処理条件が表3に示されている。透析濾過は、BDDEが定量限界未満になるまで、通常は濾液の体積が濾過装置のチャンバの体積の7倍になるまで実施された。
【表3】
LOQ:定量限界
ゲルのBDDE:最初のBDDE含量
DCFのBDDE:濾過後のヒドロゲルの最終のBDDE含量
【0059】
ゲルの構造安定性は、図4(試行4)および図5(試行5)に示すように、実施例3による試行4および試行5によるDCF方法の間維持された。実施例3による方法が適用された後、ゲルは、ゲルの特性評価に一般的に使用される周波数試験を活用して分析された。使用した周波数範囲は0.1~10Hzであった。G’およびG’’の平行な増加(G’>G’’)は、実施例3(試行4および試行5)による方法の間、ゲルがそれらの架橋構造を維持したことを明確に示している。
【0060】
驚くべきことに、実施例2と比較して、フィルターディスクの数および回転速度が増加した場合、ヒドロゲルの構造が悪影響を受けない(すなわち、架橋構造が維持される)ことが見出された。典型的には、剪断力は、ディスクの数が増え、回転速度が上がると増加する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7