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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-16
(45)【発行日】2024-04-24
(54)【発明の名称】パラコート配合物
(51)【国際特許分類】
   A01N 43/40 20060101AFI20240417BHJP
   A01P 13/00 20060101ALI20240417BHJP
   A01N 25/04 20060101ALI20240417BHJP
   A01N 43/54 20060101ALI20240417BHJP
   A01N 37/22 20060101ALI20240417BHJP
【FI】
A01N43/40 102
A01P13/00
A01N25/04 102
A01N43/54 F
A01N37/22
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021527876
(86)(22)【出願日】2019-11-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-24
(86)【国際出願番号】 EP2019081615
(87)【国際公開番号】W WO2020104359
(87)【国際公開日】2020-05-28
【審査請求日】2022-11-17
(31)【優先権主張番号】16/194,624
(32)【優先日】2018-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520222106
【氏名又は名称】シンジェンタ クロップ プロテクション アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100196405
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 邦光
(72)【発明者】
【氏名】ネルソン ジュニア キングズレー ホートン
(72)【発明者】
【氏名】トーヴィー イアン デヴィッド
(72)【発明者】
【氏名】トムソン ナイル レイ
(72)【発明者】
【氏名】ラムゼイ ガイ
【審査官】前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-328907(JP,A)
【文献】特開昭61-078704(JP,A)
【文献】特表2003-532651(JP,A)
【文献】特表2000-508626(JP,A)
【文献】国際公開第1991/000010(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 43/
A01P 13/
A01N 25/
A01N 37/
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)50~360g/lの濃度のパラコートと、少なくとも1種のポリビニルアルコール又はポリビニルアルコール誘導体とを含む水性連続相;
(b)重質芳香族炭化水素溶剤を含む分散油相;
(c)前記分散油相中に溶解されたブタフェナシル及びS-メトラクロールから選択される少なくとも1種の除草性有効成分;
(d)高分子ソルビタンエステル界面活性剤;並びに
(e)高分子エトキシル化ソルビタンエステル界面活性剤
を含む除草性エマルジョンであって、
成分(d)及び(e)は、成分(a)と(b)との界面に位置している、除草性エマルジョン。
【請求項2】
前記少なくとも1種の除草性有効成分はブタフェナシルである、請求項1に記載の除草性エマルジョン。
【請求項3】
パラコート対成分(c)の質量比が400:1~100:10である、請求項2に記載の除草性エマルジョン。
【請求項4】
前記分散油相は、光散乱による計測で1μm以下の中位径を有する小滴として存在する、請求項1~3のいずれか一項に記載の除草性エマルジョン。
【請求項5】
前記少なくとも1種の除草性有効成分はS-メトラクロールである、請求項1に記載の除草性エマルジョン。
【請求項6】
パラコート対成分(c)の質量比が300:500~50:150である、請求項5に記載の除草性エマルジョン。
【請求項7】
前記分散油相は、光散乱による計測で2μm以下の中位径を有する小滴として存在する、請求項1、5又は6のいずれか一項に記載の除草性エマルジョン。
【請求項8】
前記高分子エトキシル化ソルビタンエステル(e)が、平均値で4~20個のエチレンオキシド基を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の除草性エマルジョン。
【請求項9】
望ましくない植生を防除するための、請求項1~8のいずれか一項に記載の除草性エマルジョンの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラコートと、少なくとも1種のポリビニルアルコール又はポリビニルアルコール誘導体とを含む水性連続相、分散油相、殺有害生物性有効成分、並びに、ソルビタンエステル及びエトキシル化ソルビタンエステルから選択される少なくとも2種の高分子界面活性剤を含む殺有害生物性エマルジョンに関する。本発明はまた、望ましくない植生を防除するための殺有害生物性エマルジョンの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
パラコートは、広葉雑草及びイネ科植物の防除に用いられる非選択的で、非残留性の接触型除草剤であり、植物細胞膜の成長を阻害する。パラコートは通例、パラコートジクロリド塩の形態で用いられる。
【0003】
ブタフェナシルは、プロトポルフィリノーゲン作用機構の阻害を介した広葉雑草及びイネ科植物の防除に用いられるピリミジンジオン系除草剤であり、例えば国際公開第91/00278号に記載されている。ブタフェナシルは、コムギに係るイネ科植物及び広葉雑草の発芽前防除のためのLogran(登録商標)B-Power(商標)(トリアスルフロン及びブタフェナシルのプレミックス)、並びに、穀類作物を播種する前におけるイネ科植物及び広葉雑草のノックダウン防除のためのTouchdown(登録商標)BPower(商標)(グリホサート及びブタフェナシルのプレミックス)といった製品において補完成分として導入されている。
【0004】
S-メトラクロールは、ジベレリン経路の阻害を介した広葉雑草及びイネ科植物の防除に用いられるクロロアセトアニリド系除草剤であり、例えばThe Pesticide Manual,sixteenth edition,entry 596,page 776に記載されている。
【0005】
補完成分としてのブタフェナシル及びS-メトラクロールの使用を、パラコートを含む配合物に適用することが好ましいであろう。しかしながら、パラコートは強力な電解質であるため、高いイオン強度を有しており、これにより、特に界面活性剤との親和性に関連する複雑さといった、配合の最中における問題が度々もたらされる。
【0006】
過去においては、パラコート溶液中に油を配合する困難を克服するために、多様な乳化剤系が提案され、及び、使用されている。水中油型(EW)配合物のための一般的な乳化剤系はパラコートでは作用せず、例えばリン酸エステル、脂肪族アルコールエトキシレート又はプロポキシレート、ドデシルベンゼンスルホン酸カルシウム、ブロック-コポリマー、高分子両性及びノニオン性のものを、パラコート及び他の油と組み合わせて安定なエマルジョンをもたらすことは可能ではなかった。
【0007】
本発明者らはここで、予想外、且つ、意外なことに、ポリビニルアルコール-アセテートコポリマー、高分子ソルビタンエステル界面活性剤及び高分子エトキシル化ソルビタンエステル界面活性剤を含む乳化剤パッケージを使用することでパラコート溶液中における安定なエマルジョンを達成した。
【0008】
ポリビニルアルコール-アセテートコポリマー、高分子ソルビタンエステル及び高分子エトキシル化ソルビタンエステルを含有する乳化剤組成物は既に公知である。しかしながら、前記乳化剤組成物をパラコートなどの高荷電種に適用することは知られていない。
【0009】
殺有害生物組成物を配合する際の課題の一つは、界面活性剤などの追加の配合成分との有効成分の親和性である。これは、有効成分が高荷電である場合には特に難題である。乳化剤であるポリビニルアルコールを荷電有効成分であるグリホサート及びグルホシネートとの水中油型エマルジョンとして配合した際に、ポリビニルアルコールが溶液から析出することが見出された。従って、ポリビニルアルコールをパラコートと配合した場合に、ポリビニルアルコールがパラコートジクロリド溶液中に容易に溶解することはきわめて意外であった。
【0010】
このような配合アプローチは、パラコート及び追加の殺有害生物性有効成分を、乳化剤パッケージを伴って単一の配合物で提供するものであり、これは、標的に直接添加され得、又は、従来の噴霧タンク中において希釈され、その後標的に噴霧され得る。噴霧タンクで適用される場合、吹付け前に、他の従来の補助剤を噴霧タンクに添加し得る。市販されているタンク混合補助剤の例としては、Nimbus(商標)系鉱油及びノニオン性湿潤剤Activator 90(商標)が挙げられる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の実施形態においては:
(a)50~360g/lの濃度のパラコートと、少なくとも1種のポリビニルアルコール又はポリビニルアルコール誘導体とを含む水性連続相;
(b)重質芳香族溶剤を含む分散油相;
(c)分散油相中に溶解されたブタフェナシル及びS-メタロクロールから選択される少なくとも1種の殺有害生物性有効成分;
(d)高分子ソルビタンエステル界面活性剤;並びに
(e)高分子エトキシル化ソルビタンエステル界面活性剤
を含む殺有害生物性エマルジョンが提供されており、
ここで、成分(d)及び(e)は、成分(a)と(b)との界面に位置している。
【0012】
この種のエマルジョンに係る不利益はオストワルド熟成を受けやすいことであり、これにより、分散相の小滴間における連続相を介した拡散によって、小滴の中位径が経時的に大きくなってしまう。この小滴径の増加は、密度差によって引き起こされる分散相の分離速度を増加させてしまう。最終的には、この熟成により、例えば、再度の均質化が必要とされるため、又は、標的への適用前において噴霧タンク中での分散を維持するためには小滴が大きすぎるため、又は、標的に適用される際における有効成分の均一な分散をもたらすには小滴が大きすぎるために、この生成物は使用に不適となってしまう場合がある。
【0013】
本発明の第2の実施形態においては、望ましくない植生の殺有害生物性エマルジョンの使用が提供されている。
【0014】
本発明の第3の実施形態においては、配合成分の1種がオストワルド熟成阻害剤としても作用する、第1の実施形態に係る殺有害生物性エマルジョンが提供されている。
【発明を実施するための形態】
【0015】
殺有害生物性有効成分
パラコートは、50~360g/l、好ましくは100~360g/l、より好ましくは150~360g/l、さらにより好ましくは150~300g/lの濃度で存在し得る。好ましくは、成分(c)がブタフェナシルである場合、パラコートは250g/lの濃度で存在し得る。好ましくは、成分(c)がS-メトラクロールである場合、パラコートは160g/lの濃度で存在し得る。
【0016】
成分(c)がブタフェナシルである場合、成分(c)は、0.5~20g/l、好ましくは1~15g/l、より好ましくは1~10g/l、及び、より好ましくは3~10g/lの濃度で存在し得る。もっとも好ましくは、成分(c)は5.55g/lの濃度で存在し得る。
【0017】
成分(c)がS-メトラクロールである場合、成分(c)は、150~500g/l、好ましくは200~300g/l、より好ましくは220~260g/lの濃度で存在し得る。もっとも好ましくは、成分(c)は240g/lの濃度で存在し得る。
【0018】
成分(c)がブタフェナシルである場合、パラコート対成分(c)の質量比は、好ましくは400:1~100:10、より好ましくは300:1~200:10、より好ましくは260:8~240:4であり、及び、もっとも好ましくは、成分(c)がブタフェナシルである場合、パラコート対成分(c)の質量比は250:5.55である。
【0019】
成分(c)がS-メトラクロールである場合、パラコート対成分(c)の質量比は、好ましくは300:500~50:150、より好ましくは200:300~100:200であり、及び、もっとも好ましくは、成分(c)がS-メトラクロールである場合、パラコート対成分(c)の質量比は160:240である。
【0020】
ポリビニルアルコール又はポリビニルアルコール誘導体
ポリビニルアルコール又はポリビニルアルコール誘導体は、ポリビニルアルコール-アセテートコポリマーの形態であり得、及び、10~250g/lの濃度で存在し得る。
【0021】
成分(c)がブタフェナシルである場合、ポリビニルアルコール-アセテートコポリマーは、10~100g/l、好ましくは10~50g/l、より好ましくは15~40g/l、さらにより好ましくは20~40g/l、及び、より好ましくは30~40g/lの濃度で存在し得る。もっとも好ましくは、成分(c)がブタフェナシルである場合、ポリビニルアルコール-アセテートコポリマーは37.5g/lの濃度で存在し得る。
【0022】
成分(c)がS-メトラクロールである場合、ポリビニルアルコール-アセテートコポリマーは、100~250g/l、好ましくは100~200g/l、より好ましくは150~200g/lの濃度で存在し得る。もっとも好ましくは、成分(c)がS-メトラクロールである場合、ポリビニルアルコール-アセテートコポリマーは165~170g/lの濃度で存在し得る。
【0023】
好ましい実施形態において、ポリビニルアルコール-アセテートコポリマーは、25,000~150,000、好ましくは25,000~110,000、及び、より好ましくは30,000~102,000の分子量を有する。
【0024】
一組の実施形態において、ポリビニルアルコール-アセテートコポリマーは、70,000~150,000、好ましくは80,000~120,000、及び、より好ましくは95,000~105,000の分子量を有する。
【0025】
他の組の実施形態において、ポリビニルアルコール-アセテートコポリマーは、25,000~50,000、好ましくは25,000~35,000、及び、より好ましくは28,000~32,000の分子量を有する。
【0026】
特に好ましい実施形態において、ポリビニルアルコール-アセテートコポリマーは粘膜付着性水溶性親水コロイドであるMowiol(登録商標)4-88であり、これは、98%のポリビニルアルコールを含み、例えばSigma-Aldrich,UKから入手可能である。
【0027】
第2の特に好ましい実施形態において、ポリビニルアルコール-アセテートコポリマーは、例えばSekisui,USAから入手可能であるSELVOL(商標)523である。
【0028】
上記の分子量を有するポリビニルアルコール-アセテートコポリマーを利用することのさらなる利点の一つは、コポリマーが配合増粘剤としても作用し、従って、キサンタンなどの従来の増粘剤を配合物に添加することが不要であることである。これは、キサンタンなどの従来の増粘剤はパラコートの希釈を妨げるために、パラコートの配合に際して特に重要である。
【0029】
高分子ソルビタンエステル(d)
高分子ソルビタンエステル(d)は、モノラウレートエステル、モノパルミテートエステル、モノステアレートエステル又はモノオレエートエステルの形態で存在し得る。好ましくは、(d)は、モノラウレートエステル又はモノパルミテートエステルとして存在する。成分(c)がブタフェナシルである場合、高分子ソルビタンエステル(d)はモノパルミテートエステルとして存在する。
【0030】
好ましくは、成分(c)がS-メトラクロールである場合、高分子ソルビタンエステル(d)はモノラウレートエステルとして存在する。
【0031】
好ましい一実施形態において、高分子ソルビタンエステル(d)は、例えばCroda,UKから入手可能である、SPAN(商標)20及びSPAN(商標)40から選択される。好ましくは、成分(c)がブタフェナシルである場合、高分子ソルビタンエステル(d)はSPAN(商標)40である。好ましくは、成分(c)がS-メトラクロールである場合、高分子ソルビタンエステル(d)はSPAN(商標)20である。
【0032】
高分子エトキシル化ソルビタンエステル(e)
高分子エトキシル化ソルビタンエステル(e)は、モノラウレートエステル、モノパルミテートエステル、モノステアレートエステル又はモノオレエートエステルの形態で存在し得る。好ましくは、(e)は、モノラウレートエステル又はモノパルミテートエステルとして存在する。成分(c)がブタフェナシルである場合、高分子エトキシル化ソルビタンエステル(e)はモノパルミテートエステルとして存在する。好ましくは、成分(c)がS-メトラクロールである場合、高分子エトキシル化ソルビタンエステル(e)はモノラウレートエステルとして存在する。
【0033】
高分子エトキシル化ソルビタンエステル(e)は、平均値で4~20個のエチレンオキシド基、好ましくは8~20個のエチレンオキシド基を含有し得る。特に高分子エトキシル化ソルビタンエステル(e)は、平均値で4、8、12、16又は20個のエチレンオキシド基を含有し得る。好ましくは、成分(c)がブタフェナシルである場合、高分子エトキシル化ソルビタンエステル(e)は、平均値で20個のエチレンオキシド基を含有する。好ましくは、成分(c)がS-メトラクロールである場合、高分子エトキシル化ソルビタンエステル(e)は、平均値で8個のエチレンオキシド基を含有する。
【0034】
好ましい一実施形態において、高分子エトキシル化ソルビタンエステル(e)は、例えばCroda,UKから入手される、TWEEN(商標)20、TWEEN(商標)22及びTWEEN(商標)40から選択される。好ましくは、成分(c)がブタフェナシルである場合、高分子エトキシル化ソルビタンエステル(e)はTWEEN(商標)40である。好ましくは、成分(c)がS-メトラクロールである場合、高分子エトキシル化ソルビタンエステル(e)はTWEEN(商標)22である。
【0035】
分散油相(b)
分散油相(b)は、重質芳香族炭化水素溶剤を含む。重質芳香族炭化水素溶剤は、典型的には、重質芳香族炭化水素の混合物である。好ましくは、重質芳香族炭化水素溶剤は、アルキル基により置換されたナフタレンの混合物を含み、ここで、前記アルキル基は合計で1~4個の炭素原子を含有する。
【0036】
より好ましくは、アルキル基により置換されたナフタレンは、重質芳香族炭化水素溶剤の質量基準で、重質芳香族炭化水素溶剤の50%~100質量%、好ましくは65%~99%、及び、より好ましくは75%~97%で存在し得る。一実施形態においては、重質芳香族炭化水素溶剤は、ナフタレン(すなわち、無置換ナフタレン)を低含有量で有し;及び、重質芳香族炭化水素溶剤の質量基準で、好ましくは0%~2%又は0%~1%のナフタレンを含み、より好ましくは0.01%~1%のナフタレン、及び、さらにより好ましくは0.05%~0.7%のナフタレンを、重質芳香族炭化水素溶剤の質量基準で含み;これは、典型的には「低ナフタレン」重質芳香族炭化水素溶剤と呼ばれる。
【0037】
好ましい一実施形態において、重質芳香族炭化水素溶剤は、例えばExxon,Europeから入手可能であるSolvesso(商標)200 NDを含む。Solvesso(商標)200 NDは、典型的には、(無置換)ナフタレン(ND=低ナフタレン)を低い割合(例えば約0.5%)で含み、また、他の(例えば高級)芳香族炭化水素を様々な割合で含み、特に、典型的には、アルキル基により置換されたナフタレンを含み、ここで、前記アルキル基は合計で1~4個の炭素原子を含有する。
【0038】
好ましい代替的な実施形態において、重質芳香族炭化水素溶剤は、例えばExxon,USAから入手可能であるAromatic(商標)200 NDを含む。Aromatic(商標)200 NDは、典型的には、(無置換)ナフタレン(ND=低ナフタレン)を低い割合(例えば約0.1%~0.3%)で含み、また、他の(例えば高級)芳香族炭化水素を様々な割合で含み、特に、典型的には、アルキル基により置換されたナフタレンを含み、ここで、前記アルキル基は合計で1~4個の炭素原子を含有する。
【0039】
分散油相(b)はさらに、パラフィン系溶剤又はアルコール溶剤を含んでいてもよい。パラフィン系溶剤は典型的には、イソパラフィン系溶剤である。好ましい一実施形態において、パラフィン系溶剤は、例えばExxon,Europeから入手可能であるISOPAR(商標)Mである。
【0040】
パラフィン系溶剤は、1~50g/l、好ましくは10~40g/l、より好ましくは15~30g/l、及び、より好ましくは20~25g/lの濃度で存在し得る。特定の好ましい実施形態において、パラフィン系溶剤は22g/lの濃度で存在し得る。
【0041】
アルコール溶剤は、好ましくは、配合物においてアラート剤(alerting agent)としても用いられるシス-3-ヘキセノールである。アルコール溶剤は、0.01~5g/l、好ましくは0.05~2.5g/l、より好ましくは0.5~2.5g/l、及び、より好ましくは0.8~1.5g/lの濃度で存在し得る。
【0042】
本明細書において用いられるところ、「アラート剤(alerting agent)」という用語は、その物質を接種すべきではないことを使用者に警告するために用いられる嗅覚剤(olfactory agent)又は抑止剤(stanching agent)を指す。
【0043】
本発明の殺有害生物性エマルジョンはまた、例えばSAG1572といったシリコーン消泡剤エマルジョンなどの1種以上の消泡剤エマルジョンを含んでいてもよい。
【0044】
本発明の殺有害生物性エマルジョンは、トリアリールメタン染料などの染料をさらに含んでいてもよい。
【0045】
本発明の殺有害生物性エマルジョンはまた、ピリジン又はピリミジン化合物などのさらなるアラート剤(alerting agent)又は抑止剤(stanching agent)を含んでいてもよい。
【0046】
粒径
成分(c)がブタフェナシルである場合、分散油相は小滴又は粒子として存在し、前記粒子は、光散乱による計測で、1μm以下、好ましくは500nm以下、さらにより好ましくは300nm以下の中位径(Dv(50))を有する。
【0047】
成分(c)がS-メトラクロールである場合、分散油相は小滴又は粒子として存在し、前記粒子は、光散乱による計測で、2μm以下、好ましくは1.75μm以下、さらにより好ましくは1.5μm以下の中位径(Dv(95))を有する。
【0048】
パラメータDv(50)は、粒径分布における点であって、それ以下においては、サンプル中における材料の総体積の50%が「含まれる」ことを示し、すなわち、サンプル質量の50%が、Dvの値未満の直径を有する粒子により構成されていることを示す。
【0049】
パラメータDv(95)は、粒径分布における点であって、それ以下においては、サンプル中における材料の総体積の95%が「含まれる」ことを示し、すなわち、サンプル質量の95%が、Dvの値未満の直径を有する粒子により構成されていることを示す。
【0050】
オストワルド熟成阻害剤
本発明において用いられるオストワルド熟成阻害剤は、分散油相中に可溶性若しくは混和性であり、又は、これら自体が、少なくとも1種の実質的に不水溶性の殺有害生物性有効成分を含有する分散油相とされる。好適なオストワルド熟成阻害剤としては、液体炭化水素溶剤などのオストワルド熟成阻害剤溶剤が挙げられる。本発明の特に好ましいオストワルド熟成阻害剤は、ISOPAR(商標)Mである。
【0051】
好ましくは、組成物における合計農薬濃度は、5%~50質量%、より好ましくは15%~45%である。成分(c)がブタフェナシルである場合、組成物における合計農薬濃度は、好ましくは15%~30質量%、より好ましくは20%~30%である。成分(c)がS-メトラクロールである場合、組成物における合計農薬濃度は、好ましくは30%~50質量%、より好ましくは35%~45質量%である。
【0052】
以下の実施例は、本発明を例示するためのものである。本発明の範囲を逸脱することなく詳細の変更を行うことが可能であることが認識されるであろう。
【実施例
【0053】
配合例1:パラコート、ブタフェナシル、ポリビニルアルコール-アセテートコポリマー、SPAN(商標)40、TWEEN(商標)40、ISOPAR(商標)M、及びSOLVESSO(商標)200を含有する水中油型エマルジョン(EW)。
(i)油相の調製
SOLVESSO(商標)200 ND及びISOPAR(商標)Mを一緒に添加し、穏やかに撹拌した。DOWANOL(商標)PnB(プロピレングリコールn-ブチルエーテルを、疎水性配合成分を溶媒和又はカップリングするために度々用いた)を必要に応じて添加してもよく、続いて、TWEEN(商標)40を添加してもよい。得られた混合物を約40℃に加熱し、続いて、ブタフェナシルを添加し、すべてのブタフェナシルが溶解するまで混合物を撹拌した。SPAN(商標)40を添加し、得られた混合物をすべてのSPAN(商標)40が溶解するまで撹拌して、固体の物質が存在していない清透~わずかに濁った油として油相を得た。
【0054】
(ii)水性相の調製
予め形成しておいたMowiol(登録商標)4-88水溶液を、Mowiol(登録商標)4-88溶液がパラコート中に確実に溶解するよう十分に混合しながら、パラコートジクロリドの溶液に加えた。次いで、染料、ピリジン塩基及びNaOH溶液を添加して、固体物質が存在しない茶色の溶液を得た。
【0055】
(iii)エマルジョンの調製
高せん断混合しながら、中流量で油相を水性相に加えた。すべての油相を加えた後、得られた混合物を高せん断ミキサを用いてさらに15分間撹拌した。流体状の濃い緑色のエマルジョンが形成された。
【0056】
配合例1に従って調製した配合物の例を以下の表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
配合例2:パラコート、ブタフェナシル、ポリビニルアルコール-アセテートコポリマー、SPAN(商標)20、TWEEN(商標)22、ISOPAR(商標)M及びSOLVESSO(商標)200を含有する水中油型エマルジョン(EW)。
(i)油相の調製
SOLVESSO(商標)200 ND及びISOPAR(商標)Mを一緒に加え、穏やかに撹拌した。DOWANOL(商標)PnBを必要に応じて添加し、続いて、TWEEN(商標)22を添加する。得られた混合物を約40℃に加熱し、続いて、ブタフェナシルを添加し、すべてのブタフェナシルが溶解するまで混合物を撹拌した。SPAN(商標)20を添加し、得られた混合物を、すべてのSPAN(商標)40が溶解するまで撹拌して、固体物質が存在しない清透~わずかに濁った油として油相を得た。
【0059】
(ii)水性相の調製
予め形成しておいたMowiol(登録商標)4-88水溶液を、Mowiol(登録商標)4-88溶液が確実にパラコート中に溶解するよう十分に混合しながらパラコートジクロリド溶液に加えた。次いで、染料、ピリジン塩基及びNaOHを添加して、固体物質が存在しない茶色の溶液を得た。
【0060】
(iii)エマルジョンの調製
高せん断混合しながら、中流量で油相を水性相に加えた。すべての油相を加えた後、得られた混合物を高せん断ミキサを用いてさらに15分間撹拌して、流体の濃い緑色のエマルジョンを得た。
【0061】
配合例2に従って調製した配合物の例を以下の表2に示す。
【0062】
【表2】
【0063】
表3は、完全な乳化剤パッケージ(Mowiol(登録商標)4-88/SPAN(商標)40/TWEEN(商標)40)を用いなかった配合物を示す。これらの事例においては、エマルジョン濃縮物は形成されなかった。
【0064】
【表3】
【0065】
パラコート及びブタフェナシルの配合物について、粒径及び相分離の観点における物理的安定性を広範囲の温度域にわたって調べた。その結果を以下の表4に示す。パラコート及びブタフェナシルの他の混合物において、水性媒体中のブタフェナシルの再結晶に起因するブタフェナシル結晶成長が観察されたために、ブタフェナシルの結晶成長もまた調べた。結果は、本発明の配合物がブタフェナシル結晶成長を促進させないことを明確に示す。
【0066】
本発明の配合物の粘度もまた評価した。10%w/w超の芳香族炭化水素を含有するいずれかの配合物は、40℃で20.5mm2/秒を超える粘度を有していなければならない(OECD 114試験法)。
【0067】
【表4】
【0068】
配合例3:パラコート、S-メタロクロール、ポリビニルアルコール-アセテートコポリマー、SPAN(商標)20、TWEEN(商標)22、SELVOL(商標)523及びAROMATIC(商標)200を含有する水中油型エマルジョン(EW)。
(i)油相の調製
1つの容器において、AROMATIC(商標)200 ND、TWEEN(商標)22、S-メトラクロール及びSPAN(商標)20を一緒に混合した。
【0069】
(ii)水性相の調製
SELVOL(商標)523、シス-3-ヘキセノール、シリコーン消泡剤(SAG 1572)及び染料を、SELVOL(商標)523溶液がパラコート中に確実に溶解するよう十分に混合しながら、パラコートジクロリドの水溶液に加えた。
【0070】
(iii)エマルジョンの調製
高せん断混合しながら低流量で油相を水性相に加えた。すべての油相を加えた後、得られた混合物を高せん断でさらに10分間撹拌して、これら2つの相を完全に混合させた。
【0071】
配合例3に従って調製した配合物の例を、以下の表5に示す。
【0072】
【表5】
【0073】
以下の表6~8は、上記に表5において列挙されている範囲のさらなる例示的組成物を提供する。
【0074】
【表6】
【0075】
【表7】
【0076】
【表8】
【0077】
パラコート及びS-メトラクロールを含む例示的配合物を、広範囲の温度域及び期間にわたって、しょう液、pH、粘度及び粒径における変化についてテストした。この研究の結果を以下の表9に示す。
【0078】
【表9】
【0079】
表9は、配合物の顕著な分離(表9において表題「しょう液」下に記録)は見られなかったことを示す。いくつかのサンプルについては、特に高い温度で、クリーム分離層が見られたが、これはすぐに配合物中に混合し戻された。
【0080】
ポリビニルアルコール-アセテートコポリマー(Mowiol(登録商標)4-88)とのグルホシネート/グリホサート不相溶性
表10は、ポリビニルアルコール-アセテートコポリマーが沈殿しないポリビニルアルコール-アセテートコポリマー(Mowiol(登録商標)4-88)対グルホシネート及び水の最大の比を詳細に示す。これらの比を超えると、ポリビニルアルコール-アセテートコポリマーは沈殿し、グルホシネートは、Mowiol(登録商標)4-88/SPAN(商標)40及びTWEEN(商標)40系を用いては商業的に受け入れられる濃度で水中油型エマルジョン(EW)として配合することはできない。
【0081】
【表10】
【0082】
表11は、ポリビニルアルコール-アセテートコポリマーが沈殿しないポリビニルアルコール-アセテートコポリマー(Mowiol(登録商標)4-88)対グリホサート及び水の最大の比を詳細に示す。これらの比を超えると、ポリビニルアルコール-アセテートコポリマーは沈殿し、グリホサートは、Mowiol(登録商標)4-88/SPAN(商標)40及びTWEEN(商標)40系を用いては商業的に受け入れられる濃度でEWとして配合することはできない。
【0083】
【表11】
本発明のまた別の態様は、以下のとおりであってもよい。
〔1〕
(a)50~360g/lの濃度のパラコートと、少なくとも1種のポリビニルアルコール又はポリビニルアルコール誘導体とを含む水性連続相;
(b)重質芳香族炭化水素溶剤を含む分散油相;
(c)前記分散油相中に溶解されたブタフェナシル及びS-メタロクロールから選択される少なくとも1種の殺有害生物性有効成分;
(d)高分子ソルビタンエステル界面活性剤;並びに
(e)高分子エトキシル化ソルビタンエステル界面活性剤
を含む殺有害生物性エマルジョンであって、
成分(d)及び(e)は、成分(a)と(b)との界面に位置している、殺有害生物性エマルジョン。
〔2〕前記少なくとも1種の殺有害生物性有効成分はブタフェナシルである、前記〔1〕に記載の殺有害生物性エマルジョン。
〔3〕パラコート対成分(c)の質量比が400:1~100:10である、前記〔2〕に記載の殺有害生物性エマルジョン。
〔4〕前記分散油相は、光散乱による計測で1μm以下の中位径を有する小滴として存在する、前記〔1〕~〔3〕のいずれか一項に記載の殺有害生物性エマルジョン。
〔5〕前記少なくとも1種の殺有害生物性有効成分はS-メタロクロールである、前記〔1〕に記載の殺有害生物性エマルジョン。
〔6〕パラコート対成分(c)の質量比が300:500~50:150である、前記〔5〕に記載の殺有害生物性エマルジョン。
〔7〕前記分散油相は、光散乱による計測で2μm以下の中位径を有する小滴として存在する、前記〔1〕、〔5〕又は〔6〕のいずれか一項に記載の殺有害生物性エマルジョン。
〔8〕前記高分子エトキシル化ソルビタンエステル(e)が、平均値で4~20個のエチレンオキシド基を有する、前記〔1〕~〔7〕のいずれか一項に記載の殺有害生物性エマルジョン。
〔9〕望ましくない植生を防除するための、前記〔1〕~〔8〕のいずれか一項に記載の殺有害生物性エマルジョンの使用。