(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-16
(45)【発行日】2024-04-24
(54)【発明の名称】CO2固定化材及びCO2固定化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/50 20170101AFI20240417BHJP
B01J 20/04 20060101ALI20240417BHJP
B28B 11/24 20060101ALI20240417BHJP
C01F 11/02 20060101ALI20240417BHJP
C04B 40/02 20060101ALI20240417BHJP
【FI】
C01B32/50
B01J20/04 C
B28B11/24
C01F11/02 Z
C04B40/02
(21)【出願番号】P 2022004549
(22)【出願日】2022-01-14
【審査請求日】2022-06-10
【審判番号】
【審判請求日】2023-04-10
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【氏名又は名称】田口 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】安田 僚介
(72)【発明者】
【氏名】森 泰一郎
【合議体】
【審判長】宮澤 尚之
【審判官】増山 淳子
【審判官】後藤 政博
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-237560(JP,A)
【文献】特表2002-531365(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0112115(US,A1)
【文献】特開昭57-198753(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/34
B28B 11/24
C01B 32/50
C01F 11/02
C04B 40/02
JSTPLUS/JST7580/JSTCHINA
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
副生消石灰を50質量%以上含
み、前記副生消石灰の含水率が0.1~10質量%であるCO
2固定化材。
【請求項2】
前記副生消石灰が、カーバイドからアセチレンを発生させる際に生じたものである請求項
1に記載のCO
2固定化材。
【請求項3】
前記副生消石灰のCaO/SiO
2モル比が30~90である請求項1
又は2に記載のCO
2固定化材。
【請求項4】
さらに、二糖類を含む請求項1~
3のいずれか1項に記載のCO
2固定化材。
【請求項5】
前記副生消石灰100質量部に対して前記二糖類を0.5~10質量部含有する請求項
4に記載のCO
2固定化材。
【請求項6】
前記二糖類がトレハロースを含む請求項
4又は
5に記載のCO
2固定化材。
【請求項7】
75℃以下及び/又は50%RH以上で、請求項1~
6のいずれか1項に記載のCO
2固定化材の炭酸化処理を行うCO
2固定化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CO2固定化材及びCO2固定化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
温室効果ガス削減に向けた取り組みとして、製造時にCO2を強制的に吸収若しくは炭酸化させたコンクリート製品(以下、CO2吸収コン)が一部実用化されている。CCUS技術(Carbon dioxide Capture,Utilization and Storageの略で、二酸化炭素回収・貯留技術)の一種であるCO2吸収コンは、2019年に経済産業省が発表した「カーボンリサイクル技術ロードマップ」でも言及され、普及拡大に向けた技術開発が行われている。
【0003】
特許文献1には、製造時にCO2を強制的に吸収若しくは炭酸化させる方法が開示されている。具体的には、セメント質硬化体に二酸化炭素含有ガスを接触させて、二酸化炭素含有ガスに含まれている二酸化炭素を、上記セメント質硬化体に固定化する接触工程を含む、二酸化炭素の固定化方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の固定化方法は、二酸化炭素含有ガス中の水分量を1.5%以上とし、かつ温度を75~175℃とするものであり、CO2を固定化させるような材料についての開示や示唆はない。
【0006】
以上から、本発明は、炭酸化処理によってCO2を固定化させることができるCO2固定化材及びCO2固定化物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明者らは下記本発明に想到し当該課題を解決できることを見出した。すなわち本発明は下記のとおりである。
【0008】
[1] 副生消石灰を含むCO2固定化材。
[2] 前記副生消石灰の含水率が10質量%以下である[1]に記載のCO2固定化材。
[3] 前記副生消石灰が、カーバイドからアセチレンを発生させる際に生じたものである[1]又は[2]に記載のCO2固定化材。
[4] 前記副生消石灰のCaO/SiO2モル比が30~90である[1]~[3]のいずれかに記載のCO2固定化材。
[5] さらに、二糖類を含む[1]~[4]のいずれかに記載のCO2固定化材。
[6] 前記副生消石灰100質量部に対して前記二糖類を0.5~10質量部含有する[5]に記載のCO2固定化材。
[7] 前記二糖類がトレハロースを含む[5]又は[6]に記載のCO2固定化材。
[8] 75℃以下及び/又は50%RH以上で、[1]~[7]のいずれかに記載のCO2固定化材の炭酸化処理を行うCO2固定化物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、炭酸化処理によってCO2を固定化させることができるCO2固定化材及びCO2固定化物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[CO2固定化材]
本発明に係るCO2固定化材は、副生消石灰を含む。副生消石灰は、カーバイドからアセチレンを発生させる際に生じたもの、すなわち、カーバイドが水和した際に生じるカーバイド滓であることが好ましい。カーバイド滓を副生消石灰として利用することは、産業副産物の有効利用の観点から好適である。
なお、カーバイド滓中の水酸化カルシウムの割合は、通常、80質量%以上である。
また、副生消石灰は通常の消石灰(水酸化カルシウム)とは異なり、産業副産物の有効利用の観点やコストの観点から、有用性が高い。また、副生消石灰は水酸化カルシウムと比較して、粒子径が大きいため、コンクリート用混和材に使用する際に流動性の低下を引き起こしにくく、粉塵発生時の粒子滞留時間も短いため、実用的である。
【0011】
副生消石灰の含水率は、消石灰粒子表面と二酸化炭素含有ガスとの接触を適度に保つため、10質量%以下であることが好ましく、0.1~9.5質量%であることがより好ましく、0.8~9.2質量%であることがさらに好ましい。
当該含水率は乾燥前の試料の質量と105℃で加熱乾燥させた後の質量差から求めることができる。また、副生消石灰の含水率は105℃で加熱乾燥させた後に、必要に応じて適当量の水を加えて攪拌することにより調整することができる。
【0012】
CO2固定化材における副生消石灰の割合は、産業副産物の有効利用の観点から、50質量%以上であることが好ましく、90~100質量%であることがより好ましい。副生消石灰の割合は、示差熱-熱重量同時分析により測定して求めることができる。
【0013】
CO2固定化材(特に、副生消石灰を利用時)の平均粒径は1~100μmであることが好ましく、1~70μmであることがより好ましい。平均粒径が1~100μmであることで、粒子表面水へのCaの溶出を促し、炭酸化反応を促進することができる。平均粒径はレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置により測定して求めることができる。
【0014】
また、CO2固定化材(特に、副生消石灰を利用時)のブレーン比表面積は1,000~10,000cm2/gであることが好ましく、2,500~10,000cm2/gであることがより好ましい。比表面積が1,000~10,000cm2/gであることで、粒子と粒子表面水の接触面積が増加し、Caの溶出を促すことで、炭酸化反応を促進することができる。比表面積はJIS R 5201に記載されるブレーン空気透過装置により測定して求めることができる。
【0015】
副生消石灰のCaO/SiO2モル比は30~90であることが好ましく、50~90であることがより好ましい。モル比がモル比は30~90であることで炭酸化をより促進できる。なお、当該モル比を30~90とするには、CaO/SiO2モル比の高い副生消石灰とCaO/SiO2モル比の低い副生消石灰との割合を所望の範囲に調整することで、副生消石灰のCaO/SiO2モル比を30~90とすることができる。また、当該モル比は蛍光X線分析装置により測定することができる。
【0016】
CO2固定化材は、さらに、粒子表面水に溶出したCaとキレートを形成し、さらなる溶出を促すため、トレハロース、マルトース、ショ糖といった二糖類を含むことが好ましい。なかでも、炭酸化反応の促進効果が高い、トレハロースを含むことがより好ましい。
【0017】
二糖類(特にトレハロースを利用時)の平均粒子径は、10~500μmであることが好ましく、10~400μmであることがより好ましい。平均粒径が10~500μmであることで粒子表面の水への溶解を促進することができる。平均粒径はレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置により測定して求めることができる。
【0018】
炭酸化反応の促進効果の観点から、副生消石灰100質量部に対して二糖類を0.5~10質量部含有することが好ましく、5~10質量部含有することがより好ましい。
また、二糖類中のトレハロースの含有量は十分な炭酸化促進効果を得るために、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、100質量%であることがさらに好ましい。
【0019】
ここで、CO
2の固定化とは、材料が炭酸化されてCO
2が材料と炭酸化合物を形成することをいう。ここで、炭酸化率は下記のようにして求めることができる。
【数1】
上記式中、炭酸化による増加質量とは、炭酸化後のサンプル質量から炭酸化前のサンプル質量を引いた質量をいう。
【0020】
[CO2固定化物の製造方法]
本発明に係るCO2固定化物の製造方法は、75℃以下及び/又は50%RH以上でCO2固定化材の炭酸化処理を行う方法である。
炭酸化処理の方法は、特に限定されるものではないが、例えば、二酸化炭素含有ガス雰囲気中で75℃以下及び/又は50%RH以上となるように適宜加熱及び/又は加湿(加水)等して処理する方法等が挙げられる。
【0021】
炭酸化処理の温度は、5~75℃が好ましく、5~50℃がより好ましい。また、相対湿度は、50~100%RHが好ましく、90~100%RHがより好ましい。
【0022】
上記二酸化炭素含有ガスとしては、セメント工場及び石炭火力発電所から発生する排ガス、塗装工場における排気処理で発生する排ガス等を用いることができる。二酸化炭素含有ガス中の二酸化炭素の割合は、5~100体積%であることが好ましく、10~100体積%であることが好ましく、15~100%体積であることがさらに好ましい。二酸化炭素含有ガス中には水分(水蒸気)が含まれていてもよい。
【0023】
以上のようにして製造されたCO2固定化物は、例えば、コンクリート材料として用いることが可能である。すなわち、大気中の二酸化炭素を効果的にCO2固定化材に固定化できるだけでなく、コンクリート材料としてさらに有効利用することができる。
【実施例】
【0024】
(使用材料)
・副生消石灰:含水率を0質量%、3質量%、6質量%、7.7質量%、9質量%、12質量%、15質量%に調整したカーバイド滓(ブレーン比表面積3,380cm2/g、BET比表面積7.8cm2/g、平均粒径68μm、CaO/SiO2モル比=55)
・トレハロース(2水和物):特級、二糖、グルコース×グルコース、平均粒径370μm、還元性なし
・マルトース(1水和物):特級、二糖、グルコース×グルコース、還元性あり
・ショ糖(スクロース):1級、二糖、グルコース×フルクトース、還元性なし
・デキストリン:化学用、多糖
・水酸化カルシウム:特級、BET比表面積10cm2/g、平均粒径10μm
【0025】
[実験例1]
各ポリカップに含水率が、0、3、6、9、12、15質量%の副生消石灰(CO2固定化材)をそれぞれ25g入れ、恒温恒湿室内で20℃80%RH、二酸化炭素濃度20体積%の条件で炭酸化を行った。また、試薬の水酸化カルシウムについても、上記と同様の炭酸化を行った。
表1に示す所定期間で炭酸化させた後、105℃で24時間乾燥させた試料の質量を測定し、炭酸化前後の質量変化(炭酸化による増加質量)から下記式により炭酸化率を算出した。結果を表1に示す。
【0026】
【0027】
【0028】
表1より、いずれも炭酸化率が高いが、特に含水率が、3~9質量%の副生消石灰ではより良好な炭酸化率が示された。また、含水率が0質量%の副生消石灰は、水酸化カルシウムと同等の炭酸化率であったが、産業副産物の有効利用の観点やコストの観点から、副生消石灰の方が水酸化カルシウムよりも有用性が高いといえる。加えて、副生消石灰は試薬の水酸化カルシウムと比較して、粒子径が大きいため、コンクリート用混和材に使用する際に流動性の低下を引き起こしにくく、粉塵発生時の粒子滞留時間も短いため、実用的である。
【0029】
[実験例2]
ポリカップに含水率が、7.7質量%の副生消石灰25gと、副生消石灰100質量部に対して表2に示す所定の割合となるように各種の助剤を添加、混合してCO2固定化材とし、恒温恒湿室内で20℃80%RH、二酸化炭素濃度20体積%の条件で炭酸化を行った。
表2に示す所定期間で炭酸化させた後、105℃で乾燥させた試料の質量を測定し、炭酸化前後の質量変化から既述の式により炭酸化率を算出した。結果を表2に示す。
【0030】
【0031】
表2より、糖類を添加した場合に炭酸化の効果が大きかった。特にトレハロースを添加した場合に炭酸化の効果がより大きく、5質量部添加した条件では3日間の炭酸化で炭酸化率は73.6%となった。
【0032】
[実験例3]
恒温恒湿室内での炭酸化を20℃80%RHから、表3に示す炭酸化条件に変更し、助剤なしの副生消石灰からなるCO2固定化材の含水率を7.7質量%のものとした以外は実験例1と同様にして、炭酸化を行い、炭酸化率を算出した。結果を表3に示す。
【0033】
【0034】
表3より、炭酸化を75℃以下及び/又は50%RH以上とすることで良好な炭酸化率が得られた。
【0035】
[実験例4]
副生消石灰のCaO/SiO2モル比を、表4に示す条件に変更し、助剤なしの副生消石灰からなるCO2固定化材の含水率を7.7%とした以外は実験例1と同様にして、炭酸化を行い、炭酸化率を算出した。結果を表4に示す。
【0036】
【0037】
表4より、副生消石灰のCaO/SiO2モル比を30~90の範囲とすることで良好な炭酸化率が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は土木・建築分野等で、例えば種々のセメント系材料として、CO2固定化材を炭酸化したCO2固定化物を有効に使用することができる。