(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-16
(45)【発行日】2024-04-24
(54)【発明の名称】リンパ球に形質導入を行うための方法及び組成物、並びにその制御された増加
(51)【国際特許分類】
C12N 7/01 20060101AFI20240417BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20240417BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240417BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20240417BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240417BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20240417BHJP
C12N 15/867 20060101ALI20240417BHJP
【FI】
C12N7/01
C12N5/0783 ZNA
C12N5/10
C12N15/12
C12N15/13
C12N15/62 Z
C12N15/867 Z
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022062818
(22)【出願日】2022-04-05
(62)【分割の表示】P 2018568183の分割
【原出願日】2017-03-19
【審査請求日】2022-05-02
(32)【優先日】2016-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2016-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2017-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518332745
【氏名又は名称】エクスマ バイオテック コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【氏名又は名称】武居 良太郎
(72)【発明者】
【氏名】グレゴリー イアン フロスト
(72)【発明者】
【氏名】ジェイムズ ジョセフ オナッファー
(72)【発明者】
【氏名】ギアベ エイチ.グイビンガ
(72)【発明者】
【氏名】アニルバン クンドゥ
【審査官】吉門 沙央里
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-513394(JP,A)
【文献】国際公開第2014/138306(WO,A1)
【文献】特表2015-503907(JP,A)
【文献】H. Yang, et al.,Pharmaceutical Research,2009年,Vol.26, No.6,p.1432-1445
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複製不能組換レトロウイルスであって、
A.その表面に活性化要素を含み、ここで前記活性化要素は膜付着配列に融合され、ここで前記活性化要素はT細胞
に結合する能力を有すると共に、前記組換レトロウイルス内のポリヌクレオチドによってはコードされない要素であり、
B.1又は2以上の転写単位を含むポリヌクレオチドを含み、ここで前記1又は2以上の転写単位の各々は、T細胞
内で活性である1又は2以上のプロモーターに作動式に連結され、ここで前記1又は2以上の転写単位は、リンパ増殖性要素を含む第1の改変シグナル伝達ポリペプチドをコードし、ここで前記リンパ増殖性要素は、サイトカイン受容体ポリペプチド、又はシグナル伝達ドメインを含むその断片を含み、ここで前記リンパ増殖性要素は、T
細胞の増殖及び/又は生存を促進する、複製不能組換レトロウイルス。
【請求項2】
CD3に結合する能力を有するポリペプチド
を含む、請求項1の複製不能組換レトロウイルス。
【請求項3】
前記サイトカイン受容体ポリペプチドが、Jak経路を活性化する能力を有するシグナル伝達ドメインを含む、請求項1の複製不能組換レトロウイルス。
【請求項4】
前記のJak経路を活性化する能力を有するシグナル伝達ドメインが、Stat経路を活性化する、請求項3の複製不能組換レトロウイルス。
【請求項5】
前記Stat経路が、Stat1経路、Stat3経路、Stat4経路、又はStat5経路である、請求項4の複製不能組換レトロウイルス。
【請求項6】
前記サイトカイン受容体ポリペプチドが、IL-7受容体、IL-12受容体、IL-15受容体、IL-21受容体、IL-23受容体、IL-27受容体、又はその断片に由来する細胞内シグナル伝達ドメインを含む、請求項1の複製不能組換レトロウイルス。
【請求項7】
前記サイトカイン受容体ポリペプチドが、IL-7受容体に由来する細胞内シグナル伝達ドメインを含む、請求項6の複製不能組換レトロウイルス。
【請求項8】
前記IL-7受容体が、IL-7Rα鎖である、請求項7の複製不能組換レトロウイルス。
【請求項9】
前記サイトカイン受容体ポリペプチドが、IL-12受容体に由来する細胞内シグナル伝達ドメインを含み、ここで前記IL-12受容体が、IL-12R-β1鎖である、請求項6の複製不能組換レトロウイルス。
【請求項10】
前記サイトカイン受容体ポリペプチドが、IL-12受容体に由来する細胞内シグナル伝達ドメインを含み、ここで前記IL-12受容体が、前記IL-12R-β2鎖である、請求項6の複製不能組換レトロウイルス。
【請求項11】
前記サイトカイン受容体ポリペプチドが、IL-15受容体に由来する細胞内シグナル伝達ドメインを含み、ここで前記IL-15受容体が、IL-15Rα鎖である、請求項6の複製不能組換レトロウイルス。
【請求項12】
前記サイトカイン受容体ポリペプチドが、IL-15受容体に由来する細胞内シグナル伝達ドメインを含み、ここで前記IL-15受容体が、IL-2/IL-15Rβ鎖である、請求項6の複製不能組換レトロウイルス。
【請求項13】
前記サイトカイン受容体ポリペプチドが、共通γ鎖の細胞内シグナル伝達ドメインを含む、請求項6の複製不能組換レトロウイルス。
【請求項14】
前記サイトカイン受容体ポリペプチドが、構成的に活性である、請求項1の複製不能組換レトロウイルス。
【請求項15】
前記サイトカイン受容体ポリペプチドが、IL-7Rα変異体である、請求項1の複製不能組換レトロウイルス。
【請求項16】
前記IL-7Rα変異体が、配列番号229のアミノ酸229~292を含むと共に、配列番号229のアミノ酸243に、PPCLが挿入されてなる、請求項15の複製不能組換レトロウイルス。
【請求項17】
前記第1の改変シグナル伝達ポリペプチドが、認識又は排出ドメインと融合されてなる、請求項1の複製不能組換レトロウイルス。
【請求項18】
前記のCD3に結合する能力を有するポリペプチドが、抗CD3
scFvである、請求項1の複製不能組換レトロウイルス。
【請求項19】
前記
複製不能組換レトロウイルスが
更にその表面に、CD28に結合する能力を有するポリペプチドを含み、ここで前記のCD28に結合する能力を有するポリペプチドが、CD80、CD86、抗CD28抗体、又は、CD28に結合してAktを活性化する能力を保持するCD80若しくはCD86の断片である、請求項2の複製不能組換レトロウイルス。
【請求項20】
前記の1又は2以上の転写単位を含むポリヌクレオチドが、抗原特異的標的化領域、膜貫通ドメイン、及び細胞内活性化ドメインを含む第2の改変シグナル伝達ポリペプチドをコードする、請求項1の複製不能組換レトロウイルス。
【請求項21】
前記抗原特異的標的化領域が、単一鎖抗体を含む、請求項20の複製不能組換レトロウイルス。
【請求項22】
前記単一鎖抗体が、scFvである、請求項21の複製不能組換レトロウイルス。
【請求項23】
前記ポリヌクレオチドが、更にイントロンを含み、ここで前記イントロンが、shRNA又は1又は2以上のmiRNAをコードする、請求項1の複製不能組換レトロウイルス。
【請求項24】
前記イントロンが、EF1αイントロンである、請求項23の複製不能組換レトロウイルス。
【請求項25】
前記第1の改変シグナル伝達ポリペプチドが、前記複製不能組換レトロウイルスのゲノム内において、前記複製不能組換レトロウイルスのシス作用型RNAパッケージング要素に対して逆向きにコードされている、請求項1の複製不能組換レトロウイルス。
【請求項26】
前記のT細胞内で活性であるプロモーターが、T細胞特異的プロモーターである、請求項1の複製不能組換レトロウイルス。
【請求項27】
前記1又は2以上の転写単位のうち少なくとも1つのプロモーターが、EF1αプロモーター、MSCVプロモーター、又はCD3ζプロモーターである、請求項1の複製不能組換レトロウイルス。
【請求項28】
前記複製不能組換レトロウイルスが更に、前記複製不能組換レトロウイルスの表面に、膜結合サイトカインを含む、請求項1の複製不能組換レトロウイルス。
【請求項29】
前記膜結合サイトカインが、IL-7とDAFとの融合ポリペプチドを含み、ここで前記融合ポリペプチドが、配列番号107のアミノ酸配列を含む、請求項28の複製不能組換レトロウイルス。
【請求項30】
T細胞
を遺伝子的に改変する方法であって、
前記T細胞
をエクスビボで複製不能組換レトロウイルスと接触させ、形質導入反応混合物を形成することを含み、
ここで前記T細胞は末梢血単核球(PBMC)であり、
ここで前記複製不能組換レトロウイルスはその表面に活性化要素を含み、ここで前記活性化要素は膜付着配列と融合されてなり、ここで前記活性化要素はT細胞
に結合する能力を有すると共に、前記組換レトロウイルス内のポリヌクレオチドによってはコードされない要素であり、
ここで、前記T細胞
をエクスビボで前記複製不能組換レトロウイルスと接触させる時間が、15分間以上14時間以内であり、ここで前記方法は事前のエクスビボでの刺激を必要とせずに実施され、ここで前記の接触により前記T細胞
の前記複製不能組換レトロウイルスに対する膜融合が容易化されて、遺伝子的に改変されたT細胞
が産生される、方法。
【請求項31】
前記活性化要素が、
CD3に結合する能力を有するポリペプチド
を含む、請求項30の方法。
【請求項32】
前記複製不能組換レトロウイルスが更に、1又は2以上の転写単位を含み、ここで前記1又は2以上の転写単位の各々は、T細胞
内で活性である1又は2以上のプロモーターに作動式に連結され、ここで前記1又は2以上の転写単位は、リンパ増殖性要素を含む第1の改変シグナル伝達ポリペプチドをコードし、ここで前記リンパ増殖性要素は、サイトカイン受容体ポリペプチド、又はシグナル伝達ドメインを含むその断片を含み、ここで前記リンパ増殖性要素は、T
細胞の増殖及び/又は生存を促進する、請求項30の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、米国仮出願第62/390,093号(2016年3月19日出願)、米国仮出願第62/360,041号(2016年7月8日出願)、及び、米国仮出願第62/467,039号(2017年3月3日出願)に基づく優先権の利益を主張する。これらの出願は、その全体が引用により本開示に組み込まれる。
【0002】
配列表
本願はここにおいて、本願と同時提出の電子形式の配列表の内容を、引用により組み込む。電子形式の配列表はテキスト(.txt)ファイル(名称「F1_001_Sequence_listing.txt」、2017年3月16日作成、ファイルサイズ230KB)として提供され、その全体が引用により本開示に組み込まれる。
【0003】
本開示は免疫学の分野に関し、より具体的には、Tリンパ球又は他の免疫細胞の遺伝子改変と、レトロウイルスの作製方法及び遺伝子発現の制御方法とに関する。
【背景技術】
【0004】
対象(例えば患者)から単離されたリンパ球をインビトロで活性化し、遺伝子操作することにより、組み込まれた遺伝的プログラムに基づき、他の細胞及び環境と関連付けるよう再指令する合成タンパク質を発現させることが可能である。斯かる合成タンパク質の例として、キメラ抗原受容体(CAR)が挙げられる。現在使用されているCARとしては、細胞外認識ドメイン(例えば抗原結合ドメイン)、膜貫通ドメイン、及び、複製不能レトロウイルスによりコードされる1又は2以上の細胞内シグナル伝達ドメインの融合体が挙げられる。
【0005】
レトロウイルスは非分裂細胞への感染には有効性を示すものの、静止CD4及びCD8リンパ球はこれらのベクターによる遺伝子形質導入に対して不応性である。斯かる困難性を克服するために、通常はこれらの細胞を予めインビトロで刺激試薬を用いて活性化し、CAR遺伝子ベクターによる遺伝子改変が生じるようにする。刺激及び形質導入の後、得られた遺伝子操作細胞をインビトロで増幅してから、リンパ球枯渇患者に再導入する。インビボで抗原と遭遇すると、免疫細胞内において、CARの細胞内シグナル伝達部分が活性化関連応答及び細胞溶解性分子の放出を誘発し、腫瘍細胞死を誘導する。
【0006】
こうした現行の方法では、T細胞を患者に再注入する前に、体外で煩雑なT細胞の操作及び増幅T細胞の作製が必要になると共に、T細胞の生着を促進するために、リンパ球枯渇化学療法によってサイトカインを除去し、競合する受容体を枯渇させる必要がある。また、斯かるCAR治療剤は、いったん体内に導入してしまうと、その増殖速度をインビボで制御することはできず、また、腫瘍外でも発現されているような標的に対しては安全に標的化することができない。結果として、現在のCAR治療剤の注入は、通常エクスビボで12~28日間増殖させた細胞を1×105~1×108細胞/kgの用量で用い、これを腫瘍外標的毒性(off tumor on target toxicity)が一般に許容されるような標的、例えば腫瘍標的に対して標的化する。このように比較的長時間エクスビボで増殖させることにより、細胞の生存性や増殖不能の問題が生じると共に、サンプルの同一性に加えて規模拡大性(scalability)の問題もある。従って、より安全且つより有効で規模の拡大も可能なT細胞又はNK細胞治療が、強く求められていた。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
一側面によれば、本開示では、対象のリンパ球を遺伝子操作し、増加させるための方法であって、
A.対象の静止T細胞及び/又はNK細胞を、事前のエクスビボでの刺激を行うことなく、エクスビボで組換レトロウイルスと接触させ、ここで前記組換レトロウイルスが
i.T細胞及び/又はNK細胞に結合し、斯かる細胞への組換レトロウイルスの膜融合を促進することが可能なシュードタイピング要素を、その表面に含むと共に、
ii.T細胞及び/又はNK細胞内で活性なプロモーターに作動式に連結された、1又は2以上の転写単位を含むポリヌクレオチドを含み、ここで前記1又は2以上の転写単位は、インビボ制御要素により制御される第1の改変シグナル伝達ポリペプチドをコードし、ここで前記第1の改変シグナル伝達ポリペプチドは、リンパ増殖性要素を含み、
ここで前記接触により、前記組換レトロウイルスによる前記静止T細胞及び/又はNK細胞の少なくとも一部の形質導入が促進されて、遺伝子操作T細胞及び/又はNK細胞が産生され、
B.前記遺伝子操作T細胞及び/又はNK細胞を、前記対象に導入し、
C.前記遺伝子操作T細胞及び/又はNK細胞を、インビボにおいて、前記インビボ制御要素に結合して前記第1の改変シグナル伝達ポリペプチドの発現に作用する化合物に暴露することにより、インビボでのリンパ球の増加、生着、及び/又は、持続性を促進及び/又は増強し、これにより前記対象のリンパ球を遺伝子操作し、増加させることを含む方法が提供される。例示的な態様によれば、エクスビボで刺激を行うことなく形質導入が実施される。
【0008】
上記側面において、また、リンパ球を遺伝子操作し、増加させる方法及び細胞治療を行う方法の任意の側面において、最も広い側面で規定されていない場合には、一部の態様において、前記ポリヌクレオチドが更に、抗原特異的標的化領域(ASTR)、膜貫通ドメイン、及び細胞内活性化ドメインを含む第1のキメラ抗原受容体を含む第2の改変シグナル伝達ポリペプチドをコードする転写単位を含む。
【0009】
他の側面において、本開示では、対象に養子細胞治療を実施する方法であって、
A.前記対象から血液を採取し、
B.前記対象の血液に由来する静止T細胞及び/又はNK細胞を、エクスビボで組換レトロウイルスと接触させ、ここで前記組換レトロウイルスは、
i.T細胞及び/又はNK細胞に結合し、斯かる細胞への組換レトロウイルスの膜融合を促進することが可能なシュードタイピング要素を、その表面に含むと共に、
ii.T細胞及び/又はNK細胞内で活性なプロモーターに作動式に連結された、1又は2以上の転写単位を含むポリヌクレオチドを含み、ここで前記1又は2以上の転写単位は、インビボ制御要素により発現が制御される、リンパ増殖性要素を含む第1の改変シグナル伝達ポリペプチドと、抗原特異的標的化領域(ASTR)、膜貫通ドメイン、及び細胞内活性化ドメインを含むキメラ抗原受容体を含む第2の改変シグナル伝達ポリペプチドとをコードし、
ここで前記接触の結果、前記静止T細胞及び/又はNK細胞の少なくとも一部が遺伝子操作され、
C.前記遺伝子操作T細胞及び/又はNK細胞を、前記対象に再導入し、ここで前記対象内で、前記遺伝子操作T細胞及び/又はNK細胞のインビボでの増加、生着及び/又は維持が達成されると共に、前記方法の前記血液の採取から前記遺伝子操作T細胞及び/又はNK細胞の再導入までの工程が、24時間以内で実施され、これにより前記対象に養子細胞治療が実施されることを含む方法が提供される。
【0010】
他の側面によれば、本開示では、対象に養子細胞治療を実施する方法であって、
A.対象から血液を採取し、
B.静止T細胞及び/又は静止NK細胞を含む末梢血単核細胞(PBMC)を単離し、
C.前記対象の静止T細胞及び/又は静止NK細胞を、エクスビボで組換レトロウイルスと接触させ、ここで前記組換レトロウイルスは、その表面に、静止T細胞及び/又はNK細胞に結合し、当該細胞に対する組換レトロウイルスの膜融合を促進することが可能なシュードタイピング要素を含み、ここで前記接触によって、前記組換レトロウイルスによる前記静止T細胞及び/又はNK細胞の形質導入が促進されて、遺伝子操作T細胞及び/又はNK細胞が産生され、
D.前記対象からの血液採取後24時間以内に、前記遺伝子操作細胞を前記対象に再導入することにより、前記対象において養子細胞治療を実施することを含む方法が提供される。
【0011】
他の側面によれば、本開示では、対象の静止リンパ球に形質導入を行う方法であって、対象の静止T細胞及び/又は静止NK細胞を、エクスビボで組換レトロウイルスに接触させ、ここで前記組換レトロウイルスは、その表面に、静止T細胞及び/又は静止NK細胞に結合し、当該細胞に対する組換レトロウイルスの膜融合を促進することが可能なシュードタイピング要素を含み、ここで前記接触によって、前記組換レトロウイルスによる前記静止T細胞及び/又はNK細胞の形質導入が促進されて、遺伝子操作T細胞及び/又はNK細胞が産生されることを含む方法が提供される。この側面の例示的な態様によれば、本方法の結果として、前記静止T細胞及び/又はNK細胞の少なくとも10、20、又は25%、或いはT細胞及び/又はNK細胞の10%~70%又は20%~50%が形質導入される。
【0012】
他の側面によれば、本開示では、単離血液由来の静止T細胞及び/又は静止NK細胞に形質導入を行う方法であって、
A.対象から血液を採取し、
B.静止T細胞及び/又は静止NK細胞を含む末梢血単核細胞(PBMC)を単離し、
C.前記対象の静止T細胞及び/又は静止NK細胞を、エクスビボで組換レトロウイルスと接触させ、ここで前記組換レトロウイルスは、その表面に、静止T細胞及び/又は静止NK細胞に結合し、当該細胞に対する組換レトロウイルスの膜融合を促進することが可能なシュードタイピング要素を含み、ここで前記接触によって、前記静止T細胞及び/又は静止NK細胞の少なくとも5%について、前記組換レトロウイルスによる形質導入が促進されて、遺伝子操作T細胞及び/又はNK細胞が産生されることにより、静止T細胞及び/又はNK細胞への形質導入が行われることを含む方法が提供される。
【0013】
一側面によれば、本開示では、組換レトロウイルスであって、
A.T細胞及び/又はNK細胞に結合し、当該細胞に対する組換レトロウイルスの膜融合を促進することが可能な1又は2以上のシュードタイピング要素、
B.T細胞及び/又はNK細胞内で活性なプロモーターに作動式に連結された、1又は2以上の転写単位を含むポリヌクレオチド(ここで前記1又は2以上の転写単位は、抗原特異的標的化領域、膜貫通ドメイン、及び細胞内活性化ドメインを含むキメラ抗原受容体を含む、第1の改変シグナル伝達ポリペプチドと、リンパ増殖性要素を含む第2の改変シグナル伝達ポリペプチドとをコードする)(但し、前記第1の改変シグナル伝達ポリペプチド及び/又は前記第2の改変シグナル伝達ポリペプチドの発現は、インビボ制御要素によって制御される)、並びに、
C.前記レトロウイルスの表面に存在する活性化要素(但し、前記活性化要素は、T細胞及び/又はNK細胞に結合可能であるが、前記組換レトロウイルス内のポリヌクレオチドによってコードされるものではない)
を含む組換レトロウイルスが提供される。
【0014】
他の側面において、本開示では、組換レトロウイルスであって、
A.当該ウイルスの表面に存在し、T細胞及び/又はNK細胞に結合して、斯かる細胞への組換レトロウイルスの膜融合を促進することが可能な、麻疹ウイルスFポリペプチド及び/又は麻疹ウイルスHポリペプチドの細胞質ドメイン欠失変異体を含むシュードタイピング要素、
B.T細胞及び/又はNK細胞内で活性なプロモーターに作動式に連結された、1又は2以上の転写単位を含むポリヌクレオチド(ここで前記1又は2以上の転写単位は、抗原特異的標的化領域、膜貫通ドメイン、及び細胞内活性化ドメインを含むキメラ抗原受容体を含む、第1の改変シグナル伝達ポリペプチドと、構成的に活性なIL-7受容体変異体を含む、第2の改変シグナル伝達ポリペプチドとをコードする)(但し、前記IL-7受容体変異体の発現は、ヌクレオシド類似体抗ウイルス薬に結合するリボスイッチによって制御される)、並びに、
C.組換レトロウイルスの表面で発現され、T細胞及び/又はNK細胞に対する結合能力を有する、CD3に結合可能なポリペプチド及びCD28に結合可能なポリペプチド(但し、前記ポリペプチドは、前記組換レトロウイルス内のポリヌクレオチドによってコードされるものではない)
を含む組換レトロウイルスが提供される。この側面の例示的な態様によれば、前記ヌクレオシド類似体抗ウイルス薬が前記リボスイッチに結合することで、前記IL-7受容体変異体の発現が増加する。
【0015】
本開示にて提供される方法又は組成物の側面の何れかにおいて、最も広い側面で既に規定されていない場合には、前記1又は2以上の組換レトロウイルスは更に、静止T細胞及び/又は静止NK細胞を活性化する能力を有する活性化要素を、その表面に含む。
【0016】
本開示においてT細胞及び/又はNK細胞、或いは、静止T細胞又は静止NK細胞を要件とする方法又は組成物の側面の何れにおいても、一部の例示的な態様によれば、前記細胞はT細胞である。
【0017】
本開示にて提供される方法及び組成物の何れかにおいて、前記組換レトロウイルスは、通常は複製欠損である。即ち、本ウイルスは複製能力を有さない。例示的な態様によれば、前記レトロウイルスはレンチウイルス、例えば複製欠損HIVレンチウイルスである。
【0018】
本開示における、リンパ球を遺伝子操作し、増加させる方法、又は、養子細胞治療を実施する方法、又は類似の方法に関する側面の何れかの例示的な態様によれば、10~75%、又は10~70%、又は10~60%、又は10~50%、又は10~25%、又は20~75%、又は20~50%、又は少なくとも10%、20%、又は25%の静止T細胞が形質導入され、0~75%のNK細胞が形質導入される。他の態様によれば、5~80%、又は10~80%、又は10~70%、又は10~60%、又は10~50%、又は10~25%、又は10~20%、又は20~50%の静止NK細胞が形質導入される。
【0019】
本開示における、リンパ球を遺伝子操作し、増加させる方法、又は、養子細胞治療を実施する方法、又は類似の方法に関する側面、或いは、本開示にて提供される何れかの組成物の何れかの例示的な態様によれば、最も広い側面で明示的に規定されていない場合には、前記第2の改変シグナル伝達ポリペプチドの発現が前記インビボ制御要素によって制御される。
【0020】
本開示における、リンパ球を遺伝子操作し、増加させる方法、又は、細胞治療を実施する方法、又は類似の方法に関する側面の何れかの例示的な態様によれば、前記方法の最も広い側面で明示的に規定されていない場合には、前記接触の時間は、下限が15、30又は45分間又は1、2、3、4、5、6、7、又は8時間、上限が6、8、10、12、18、24、36、48、及び72時間の範囲で実施することができる。例えば、例示的な態様によれば、前記接触は2~24時間、又は4~12時間、又は4~8時間に亘って実施される。
【0021】
本開示における、リンパ球を遺伝子操作し、増加させる方法、又は、養子細胞治療を実施する方法、又は類似の方法に関する側面の何れかの例示的な態様によれば、最も広い側面で明示的に規定されていない場合には、前記方法が更に、インビボにおいて前記インビボ制御要素に結合して、前記第1の改変シグナル伝達ポリペプチド(及び任意により前記第2の改変シグナル伝達ポリペプチド)の発現に作用し、リンパ球の増加、生着、及び/又は、持続性を促進する化合物に、インビボにおいて前記遺伝子操作T細胞及び/又はNK細胞を暴露することを含んでいてもよい。
【0022】
本開示における、リンパ球を遺伝子操作し、増加させる方法、又は、養子細胞治療を実施する方法、又は類似の方法に関する側面の何れかの例示的な態様によれば、最も広い側面で明示的に規定されていない場合には、前記遺伝子操作T細胞及び/又はNK細胞が、前記対象への導入又は再導入以前にエクスビボで生じる細胞分裂は、8、7、6、5、4、3回以内である。
【0023】
本開示における、リンパ球を遺伝子操作し、増加させる方法、又は、細胞治療を実施する方法、又は類似の方法に関する側面の何れかの例示的な態様によれば、最も広い側面で明示的に規定されていない場合には、遺伝子操作T細胞及び/又はNK細胞のインビボでの増加、生着、及び/又は、持続性は、前記インビボ制御要素に結合する化合物の存在又は不在に依存し、また、例示的な態様によれば、前記インビボ制御要素に結合する化合物の存在に依存する。
【0024】
本開示における、リンパ球を遺伝子操作し、増加させる方法、又は、養子細胞治療を実施する方法、又は類似の方法に関する側面の何れかの例示的な態様によれば、最も広い側面で明示的に規定されていない場合には、前記接触の実施前の7、14、又は21日間以内、前記接触の間、及び/又は、前記遺伝子操作T細胞及び/又はNK細胞の前記対象への導入後の7、14、又は21日間以内に亘って、前記対象がリンパ枯渇剤に露出されない。他の態様によれば、前記接触の間、前記対象がリンパ枯渇剤に露出されない。
【0025】
本開示における、リンパ球を遺伝子操作し、増加させる方法、又は、細胞治療を実施する方法、又は類似の方法に関する側面の何れかの例示的な態様によれば、最も広い側面で明示的に規定されていない場合には、前記静止T細胞及び/又は静止NK細胞が、15分間から12時間に亘って、前記組換レトロウイルスと接触される。
【0026】
本開示における、リンパ球を遺伝子操作し、増加させる方法、又は、養子細胞治療を実施する方法、又は類似の方法に関する側面の何れかの例示的な態様によれば、最も広い側面で明示的に規定されていない場合には、前記方法は更に、前記接触後且つ前記導入前に、前記T細胞及び/又はNK細胞から前記組換レトロウイルスを分離する工程を含む。本開示における、リンパ球を遺伝子操作し、増加させる方法、又は、細胞治療を実施する方法、又は類似の方法に関する側面の何れかの例示的な態様によれば、最も広い側面で明示的に規定されていない場合には、前記暴露工程が、前記接触前又は接触時、及び/又は、前記遺伝子操作T細胞及び/又はNK細胞の前記対象への導入後に、一回用量の前記化合物を前記対象に投与することを含む。
【0027】
本開示における、リンパ球を遺伝子操作し、増加させる方法、又は、養子細胞治療を実施する方法、又は類似の方法に関する側面の何れかの例示的な態様によれば、最も広い側面で明示的に規定されていない場合には、前記方法が、前記T細胞及び/又はNK細胞をエクスビボで前記組換レトロウイルスと接触させる前に、前記T細胞及び/又はNK細胞を含む血液を前記対象から採取することを含み、ここで前記導入が再導入である。例えば、20~250mLの血液が前記対象から抜き取られる。
【0028】
本開示における、リンパ球を遺伝子操作し、増加させる方法、又は、細胞治療を実施する方法、又は類似の方法に関する側面の何れかの例示的な態様によれば、最も広い側面で明示的に規定されていない場合には、前記対象から血液を採取する時点と、前記遺伝子操作T細胞及び/又はNK細胞を前記対象に再導入する時点との間で経過する時間が、8、12、24、又は48時間を超えない。
【0029】
本開示における、リンパ球を遺伝子操作し、増加させる方法、又は、細胞治療を実施する方法、又は類似の方法に関する側面の何れかの例示的な態様によれば、最も広い側面で明示的に規定されていない場合には、前記対象から血液を採取する時点と、前記遺伝子操作T細胞及び/又はNK細胞を前記対象に再導入する時点との間で経過する時間の下限が4又は8時間であり、上限が12、24、36、又は48時間の範囲である。
【0030】
本開示における、リンパ球を遺伝子操作し、増加させる方法、又は、養子細胞治療を実施する方法、又は類似の方法に関する側面の何れかの例示的な態様によれば、最も広い側面で明示的に規定されていない場合には、血液の採取後且つ再導入前の全工程が閉鎖系で実施され、処理全体に亘ってヒトが前記閉鎖系を監視する。他の態様によれば、血液の採取後且つ再導入前の工程が閉鎖系で実施され、前記閉鎖系が前記対象のいる部屋である。
【0031】
本開示にて提供される、1又は2以上の改変シグナル伝達ポリペプチドを含む方法及び組成物の何れかの例示的な態様によれば、最も広い側面で規定されていない場合には、前記改変シグナル伝達ポリペプチドの一つが、抗原特異的標的化領域(ASTR)と、前記ASTRを前記リンパ増殖性要素に連結する膜貫通ドメインとを更に含む。この改変シグナル伝達ポリペプチドのASTRが第1の腫瘍抗原と結合しうると共に、存在する場合には、前記第2の改変シグナル伝達ポリペプチドのASTRが第2の腫瘍抗原と結合しうる。例示的な態様によれば、前記第1の改変シグナル伝達ポリペプチド及び/又は前記第2の改変シグナル伝達ポリペプチドが、更に共刺激ドメインを含む。更に、前記第1の改変シグナル伝達ポリペプチド及び/又は前記第2の改変シグナル伝達ポリペプチドが、更に柄部を含む。更に、前記第1の改変シグナル伝達ポリペプチドが更に、細胞内活性化ドメインを含む。前記第1の改変シグナル伝達ポリペプチド及び/又は前記第2の改変シグナル伝達ポリペプチドの細胞内活性化ドメインは、CD3ζに由来するものであってもよい。
【0032】
本開示にて提供されるリンパ増殖性要素を含む方法及び組成物の何れかの例示的な態様によれば、前記リンパ増殖性要素が、T細胞生存モチーフを含んでいてもよい。前記T細胞生存モチーフが、IL-7受容体、IL-15受容体、又はCD28の全体又は機能断片を含んでいてもよい。他の態様によれば、前記リンパ増殖性要素が、サイトカイン又はサイトカイン受容体ポリペプチド、又はシグナル伝達ドメインを含むその断片を含んでいてもよい。例えば、前記リンパ増殖性要素が、同種のインターロイキン受容体ポリペプチドにリンカーを介して共有結合されているインターロイキンポリペプチドを含んでいてもよい。或いは、前記リンパ増殖性要素が、IL-7受容体の細胞内シグナル伝達ドメイン、IL-12受容体の細胞内シグナル伝達ドメイン、IL-23の細胞内シグナル伝達ドメイン、IL-27の細胞内シグナル伝達ドメイン、IL-15受容体の細胞内シグナル伝達ドメイン、IL-21受容体の細胞内シグナル伝達ドメイン、又は形質転換成長因子β(TGFβ)デコイ受容体の細胞内シグナル伝達ドメインであってもよい。他の例示的な態様によれば、前記リンパ増殖性要素が構成的に活性である。更に、前記リンパ増殖性要素が、変異型IL-7受容体又はその断片を含んでいてもよく、斯かる変異型IL-7受容体又はその断片が更に、構成的に活性な変異型IL-7受容体又は構成的に活性なその断片を含んでいてもよい。
【0033】
本開示にて提供される1又は2以上の組換レトロウイルスを含む方法及び組成物の何れかの例示的な態様によれば、最も広い側面で明示的に規定されていない場合には、前記組換レトロウイルスがその表面に、
A.CD3に結合可能な膜結合性ポリペプチド;及び/又は
B.CD28に結合可能な膜結合性ポリペプチド
を含む活性化要素を含んでいてもよい。
【0034】
更に、前記CD3に結合可能な膜結合性ポリペプチドが、異種GPIアンカー付着配列と融合されていてもよいCD3に結合可能なポリペプチドであってもよく、前記CD28に結合可能な膜結合性ポリペプチドが、異種GPIアンカー付着配列と融合されていてもよいCD28に結合可能なポリペプチドであってもよい。ある態様によれば、前記CD28に結合可能な膜結合性ポリペプチドが、CD80、CD86、又はAktのCD28媒介活性化を誘導しうるその機能断片、例えば 前記CD80の細胞外ドメインである。
【0035】
本開示にて提供される組換レトロウイルスを含む方法及び組成物の何れかの例示的な態様によれば、前記のCD3に結合可能な膜結合性ポリペプチドが、CD14 GPIアンカー付着配列に結合した抗CD3scFvであってもよく、前記CD28に結合可能な膜結合性ポリペプチドが、CD16B GPIアンカー付着配列に結合したCD80又はその細胞外ドメインであってもよい。本開示にて提供される組換レトロウイルスを含む方法及び組成物の何れかの例示的な態様によれば、前記組換レトロウイルスがその表面に、CD14 GPIアンカー付着配列に結合した抗CD3scFv、GPIアンカー付着配列に結合したCD80又はその細胞外ドメイン、CD16B、及びGPIアンカー付着配列を含むIL-7又はその活性断片とDAFとの融合ポリペプチドを含んでいてもよい。本開示にて提供される組換レトロウイルスを含む方法及び組成物の何れかの例示的な態様によれば、前記のIL-7又はその活性断片とDAFとの融合体、前記抗CD3scFV、及び前記CD80、又はその細胞外ドメインが、各々DAFシグナル配列を含む。
【0036】
本開示にて提供される1又は2以上の組換レトロウイルスを含む方法及び組成物の何れかの例示的な態様によれば、最も広い側面で明示的に規定されていない場合には、前記組換レトロウイルスがその表面に、膜結合サイトカインを含んでいてもよい。前記膜結合サイトカインが、IL-7、IL-15又はその活性断片であってもよい。他の態様によれば、前記膜結合サイトカインが、IL-7又はその活性断片とDAFとの融合ポリペプチドである。例えば、前記融合ポリペプチドが、DAFシグナル配列(配列番号107のヌクレオチド1~31)、シグナル配列を欠くIL-7(配列番号107のヌクレオチド32~187)、及びそのGPIアンカー付着配列を含むDAFの断片(配列番号107のヌクレオチド188~527)を含んでいてもよい。
【0037】
本開示にて提供される方法及び組成物の側面の何れかの例示的な態様によれば、前記シュードタイピング要素が、1又は2以上の異種エンベロープタンパク質を含んでいてもよい。他の例によれば、前記シュードタイピング要素が、T細胞によって認識される1又は2以上のウイルスポリペプチドを含んでいてもよい。前記1又は2以上のシュードタイピング要素が、麻疹ウイルスFポリペプチド、麻疹ウイルスHポリペプチド、及び/又は、その断片を含んでいてもよい。前記1又は2以上のシュードタイピング要素が、麻疹ウイルスFポリペプチド及び/又は麻疹ウイルスHポリペプチドの細胞質ドメイン欠失変異体であってもよい。
【0038】
本開示にて提供されるインビボ制御要素を含む方法及び組成物の何れかの例示的な態様によれば、前記インビボ制御要素は、前記リンパ増殖性要素である。ここで前記リンパ増殖性要素は、前記T細胞及び/又はNK細胞の増殖を促進する活性が、前記化合物の不在下では不活性であり、或いは活性が低減されてなる。また、前記化合物は、前記リンパ増殖性要素に結合し、前記リンパ増殖性要素の活性を誘導する分子シャペロンである。
【0039】
本開示にて提供されるインビボ制御要素を含む方法及び組成物の何れかの例示的な態様によれば、前記インビボ制御要素が、リボスイッチを含むポリヌクレオチドであってもよい。前記リボスイッチが、ヌクレオシド類似体に結合可能であってもよく、前記インビボ制御要素に結合する化合物が、ヌクレオシド類似体である。前記ヌクレオシド類似体が、抗ウイルス剤であってもよい。前記抗ウイルス剤が、アシクロビル又はペンシクロビルであってもよい。
【0040】
本開示にて提供される、ASTRを含む改変シグナル伝達ポリペプチドを含む方法及び組成物の何れかの例示的な態様によれば、前記改変シグナル伝達ポリペプチドの一方又は両方のASTRが、腫瘍関連抗原に結合しうる。ある例示的な態様によれば、前記第2の改変されたポリペプチドの抗原特異的標的化領域が、微小環境制限抗原特異的標的化領域である。
【0041】
本開示にて提供される1又は2以上の組換レトロウイルスを含む方法及び組成物の何れかの例示的な態様によれば、最も広い側面で明示的に規定されていない場合には、前記組換レトロウイルスは、モノクローナル抗体承認済生物製剤のための認識ドメインをコードしうる。ある態様によれば、前記認識ドメインが、前記キメラ抗原受容体と同じ転写産物から発現されると共に、前記認識ドメインが、リボソームスキッピング及び/又は切断シグナルによって前記キメラ抗原受容体から隔てられてなる。前記リボソームスキッピング及び/又は切断シグナルが、2A-1であってもよい。前記認識ドメインが、EGFR又はそのエピトープを認識する抗体によって認識されるポリペプチドを含んでいてもよい。本開示にて提供される他の制御機構のように、前記認識ドメインが、EGFR抗体によって認識されるEGFR変異体であり、形質導入T細胞及び/又はNK細胞の表面に発現されていてもよい。関連する態様によれば、前記認識ドメインが、EGFR又はそのエピトープを認識する抗体によって認識されるポリペプチドを含んでいてもよい。
【0042】
本開示にて提供されるリンパ増殖性要素を含む方法又は組成物の何れにおいても、前記リンパ増殖性要素が、STAT5経路を刺激し、又はSOCS経路を阻害するmiRNA又はshRNAであってもよい。例えば、前記miRNA又はshRNAが、ABCG1、SOCS、TGFbR2、SMAD2、cCBL、及びPD1からなる群より選択されるタンパク質をコードする核酸に結合するmiRNAである。本開示にて提供される組換レトロウイルス又は形質導入細胞、又はこれを含む方法の何れかについての例示的な態様によれば、斯かる組換レトロウイルス又は形質導入細胞は、miRNA又はshRNAを、例えばイントロン内にコードしていてもよく、ある態様によれば、1、2、3、又は4の態様では、以下の標的内因性T細胞発現遺伝子のうち1又は2以上をコードする核酸に結合する:PD-1;CTLA4;TCR α;TCR β;CD3ζ;SOCS;SMAD2;miR-155;IFN γ;cCBL;TRAIL2;PP2A;又はABCG1。例えば、一の態様によれば、以下のmiRNAの組み合わせが、組換レトロウイルス又は形質導入細胞のゲノム内に含まれていてもよい:TCR α、CD3ζ、IFN γ、及びPD-1;他の態様では、SOCS 1、IFN γ、TCR α、及びCD3ζ。
【0043】
本開示にて提供される方法及び組成物の何れかの例示的な態様によれば、前記組換レトロウイルス、哺乳類細胞、及び/又は、パッケージング細胞が、Vpxポリペプチドを含んでいてもよい。前記Vpxポリペプチドは、例えば融合ポリペプチドであってもよく、ある例では、特にパッケージング細胞内では、膜結合Vpxポリペプチドであってもよい。
【0044】
本開示にて提供される方法又は組成物の何れにおいても、前記1又は2以上のシュードタイピング要素が、水疱性口内炎ウイルス(VSV-G)エンベロープタンパク質、ネコ内因性ウイルス(RD114)エンベロープタンパク質、オンコレトロウイルス両種指向性エンベロープタンパク質、又はオンコレトロウイルス同種志向性エンベロープタンパク質又はその機能断片を含んでいてもよい。
【0045】
他の側面によれば、本開示では、遺伝子操作されたT細胞及び/又はNK細胞であって、
a.リンパ増殖性要素を含む第1の改変シグナル伝達ポリペプチド、及び、
b.抗原特異的標的化領域(ASTR)、膜貫通ドメイン、及び細胞内活性化ドメインを含むキメラ抗原受容体を含む第2の改変シグナル伝達ポリペプチド
を含む細胞が提供される。
【0046】
本開示にて提供される哺乳類パッケージング細胞を含む方法(例えば、組換レトロウイルスパッケージング系の側面や、組換レトロウイルスを作製する方法等)の何れかにおいて、前記パッケージ可能なRNAゲノムは、プロモーターに作動式に連結されたポリヌクレオチドによってコードされ、ここで前記プロモーターが、構成的に活性であるか、或いは前記第1のトランス活性化因子又は前記第2のトランス活性化因子により誘導されうる。前記パッケージ可能なRNAゲノムが、プロモーターに作動式に連結されたポリヌクレオチドによりコードされていてもよく、ここで前記プロモーターは、前記第2のトランス活性化因子によって誘導されてもよい。本開示において前記第1及び/又は第2の改変シグナル伝達ポリペプチドの発現を誘導するのに使用されるプロモーターは、通常は標的細胞、例えばリンパ球、PBL、T細胞、及び/又はNK細胞等において活性であるが、例示的な態様によれば、前記パッケージング細胞株では活性を有さない。前記第2のトランス活性化因子は、前記標的細胞に結合してこれを活性化する能力を有する活性化要素の発現を制御しうる。本開示にて提供される哺乳類パッケージング細胞を含む方法(例えば、組換レトロウイルスパッケージング系の側面や、組換レトロウイルスを作製する方法等、例えば、ある態様ではパッケージ可能なRNAゲノム)の何れかにおいて、前記パッケージ可能なRNAゲノムの発現が、前記第2のトランス活性化因子によって制御されてもよい。
【0047】
更に、前記パッケージ可能なRNAゲノムが、5’側から3’側に向かって、
1.)5’側末端反復配列(長末端リピート)又はその活性断片、
2.)レトロウイルスシス作用型RNAパッケージング要素をコードする核酸配列、
3.)第1の標的ポリペプチドをコードする核酸配列、
4.)前記標的細胞内で活性なプロモーター、及び
5.)3’側末端反復配列(長末端リピート)又はその活性断片
を含んでいてもよい。
【0048】
ある態様によれば、前記の第1の標的ポリペプチドをコードする核酸配列が、パッケージング及びアセンブリのためのレトロウイルス成分をコードするRNAとは逆向きに配置される。
【0049】
本開示にて提供される、哺乳類パッケージング細胞を含む方法(例えば、組換レトロウイルスパッケージング系の側面や、組換レトロウイルスを作製する方法等)の何れかにおいて、前記第1の標的ポリペプチドが、第1の改変シグナル伝達ポリペプチドを含み、ここで前記第1の改変シグナル伝達ポリペプチドは、リンパ増殖性要素を含む。前記パッケージ可能なRNAゲノムが更に、第2の標的ポリペプチドをコードする核酸配列を含んでいてもよい。前記第2の標的ポリペプチドが、
1.)第1の抗原特異的標的化領域、
2.)第1の膜貫通ドメイン、及び、
3.)第1の細胞内活性化ドメイン
を含むキメラ抗原受容体を含む、第2の改変シグナル伝達ポリペプチドを含んでいてもよい。
【0050】
本開示にて提供される、哺乳類パッケージング細胞を含む方法(例えば、組換レトロウイルスパッケージング系の側面や、組換レトロウイルスを作製する方法等)の何れかにおいて、前記哺乳類細胞、例えば前記パッケージング細胞が、Vpxをコードする核酸配列を、例えば前記第2の転写単位上に、或いは任意の第3の転写単位上に、或いは前記第1の誘導型プロモーターに作動式に連結された更なる転写単位上に含んでいてもよい。パッケージング細胞等の前記哺乳類細胞は、293細胞であってもよい。
【0051】
本開示にて提供される、哺乳類パッケージング細胞を含む方法(例えば、組換レトロウイルスパッケージング系の側面や、組換レトロウイルスを作製する方法等)の何れかにおいて、第1のリガンドがラパマイシンであってもよく、第2のリガンドがテトラサイクリン又はドキソルビシンであってもよい。或いは、前記第1のリガンドがテトラサイクリン又はドキソルビシンであってもよく、前記第2のリガンドがラパマイシンであってもよい。
【0052】
ある側面によれば、本開示では、本開示にて提供される組換レトロウイルスの何れかによって形質導入された細胞が提供される。前記細胞は、例えばリンパ球、例えばT細胞又はNK細胞であってもよい。例示的な態様によれば、前記細胞はヒト細胞である。
【0053】
一側面によれば、本開示では、対象の遺伝子操作T細胞及び/又はNK細胞を増加させる方法であって、
a.)前記対象から得られた単離された静止T細胞及び/又は静止NK細胞を、本開示に示す態様の何れかの組換レトロウイルスと接触させ、
b.)前記遺伝子操作T細胞及び/又はNK細胞を、前記対象に導入し、
c.)有効量のアシクロビル、アシクロビルプロドラッグ、ペンシクロビル、又はペンシクロビルプロドラッグを、前記対象に提供し、ここで前記対象において、アシクロビル、アシクロビルプロドラッグ、ペンシクロビル、又はペンシクロビルプロドラッグの投与に伴い、前記遺伝子操作T細胞及び/又はNK細胞が増加し、こうして前記対象の前記遺伝子操作T細胞及び/又はNK細胞が増加される
ことを含む方法が提供される。
【0054】
他の側面において、本開示では、対象において遺伝子操作T細胞及び/又はNK細胞の増加、生着、及び/又は、持続を停止する方法であって、
a.)前記対象から得られた単離された無活動(quiescent)T細胞及び/又はNK細胞を、本開示に示す態様の何れかの組換レトロウイルスと接触させ、
b.)前記遺伝子操作T細胞及び/又はNK細胞を前記対象に導入し、
c.)有効量のアシクロビル、アシクロビルプロドラッグ、ペンシクロビル、又はペンシクロビルプロドラッグを前記対象に投与することにより、前記対象において前記遺伝子操作T細胞及び/又はNK細胞を増加させ、ここでアシクロビル、アシクロビルプロドラッグ、ペンシクロビル、又はペンシクロビルプロドラッグの投与に伴い、前記対象において前記遺伝子操作T細胞及び/又はNK細胞が増加し、こうして前記対象における前記遺伝子操作T細胞及び/又はNK細胞が増加し、
d.)アシクロビル、アシクロビルプロドラッグ、ペンシクロビル、又はペンシクロビルプロドラッグの投与を停止し、ここでアシクロビル、アシクロビルプロドラッグ、ペンシクロビル、又はペンシクロビルプロドラッグの投与の停止に伴い、前記対象において前記遺伝子操作T細胞及び/又はNK細胞が増殖を停止し、これにより前記対象における前記遺伝子操作T細胞及び/又はNK細胞の増加、増加、及び/又は、持続が制御される
ことを含む方法が提供される。
【0055】
他の側面において、本開示では、対象において癌を治療する方法であって、
a.前記対象から得られた単離された無活動(quiescent)T細胞及び/又はNK細胞を、本開示に示す態様の何れかに係る組換ベクターと接触させ、
b.前記遺伝子操作T細胞及び/又はNK細胞を、前記対象に導入し、
c.有効量のアシクロビル、アシクロビルプロドラッグ、ペンシクロビル、又はペンシクロビルプロドラッグを前記対象に投与することにより、前記対象において前記遺伝子操作T細胞及び/又はNK細胞を増加させ、ここでアシクロビル、アシクロビルプロドラッグ、ペンシクロビル、又はペンシクロビルプロドラッグの投与に伴い、前記対象において前記遺伝子操作T細胞及び/又はNK細胞が増加し、ここで前記対象において、前記遺伝子操作T細胞及び/又はNK細胞内の前記キメラ抗原受容体が、癌細胞に結合することにより、前記対象の癌が治療される
ことを含む方法が提供される。
【0056】
他の側面において、本開示では、T細胞及び/又はNK細胞内で活性なプロモーターに作動式に連結された1又は2以上の転写単位を含む組換ポリヌクレオチドを含む形質導入T細胞及び/又はNK細胞であって、ここで前記1又は2以上の転写単位は、インビボ制御要素により制御される第1の改変シグナル伝達ポリペプチドをコードし、ここで前記第1の改変シグナル伝達ポリペプチドが、構成的に活性なIL-7受容体変異体を含み、ここで前記インビボ制御要素は、インビボで化合物に結合する能力を有し、及び/又は、結合するように設計され、及び/又は、結合するように構成されてなる、形質導入T細胞及び/又はNK細胞が提供される。
【0057】
他の側面において、本開示では、哺乳類細胞を含むレトロウイルスパッケージング系であって、前記哺乳類細胞が、
A.構成型プロモーターから発現されて、第1のリガンド及び第1の誘導型プロモーターと結合する能力を有し、これと作動式に連結された核酸配列の発現に対し、前記第1のリガンドの不在時と比較して、前記第1のリガンドの存在時において影響を及ぼす、第1のトランス活性化因子、
B.第2のリガンド及び第2の誘導型プロモーターと結合する能力を有し、これと作動式に連結された核酸配列の発現に対し、前記第2のリガンドの不在時と比較して、前記第2のリガンドの存在時において影響を及ぼす、第2のトランス活性化因子、並びに、
C.レトロウイルス粒子のためのパッケージ可能なRNAゲノムを含み、
ここで前記第1のトランス活性化因子が、前記第2のトランス活性化因子及びレトロウイルスREVタンパク質の発現を制御し、ここで前記第2のトランス活性化因子が、gagポリペプチド、polポリペプチド、及び、標的細胞に結合して当該細胞への膜融合を促進する能力を有する1又は2以上のシュードタイピング要素の発現を制御し、ここで前記レトロウイルスタンパク質がレトロウイルスから誘導される、含むレトロウイルスパッケージング系が提供される。この側面のある態様は、本開示にて提供される他の側面について規定される要素の態様の何れかを含んでいてもよい。
【0058】
他の側面において、本開示では、組換レトロウイルスを作製する方法であって、前記方法が、
A.パッケージング細胞の集団を培養することにより、第1のトランス活性化因子を蓄積させ、ここで前記パッケージング細胞が、第1の構成型プロモーターにより発現される第1のトランス活性化因子を含み、ここで前記第1のトランス活性化因子が、第1のリガンド及び第1の誘導型プロモーターと結合する能力を有すると共に、これと作動式に連結された核酸配列の発現に対し、前記第1のリガンドの不在時と比較して、前記第1のリガンドの存在時において影響を及ぼし、且つ、ここで第2のトランス活性化因子及びレトロウイルスREVタンパク質の発現が、前記第1のトランス活性化因子によって制御され、
B.蓄積された第1のトランス活性化因子を含む前記パッケージング細胞集団を、前記第1のリガンドの存在下でインキュベートすることにより、前記第2のトランス活性化因子及び前記レトロウイルスREVタンパク質を蓄積させ、ここで前記第2のトランス活性化因子が、第2のリガンド及び第2の誘導型プロモーターと結合する能力を有し、これと作動式に連結された核酸配列の発現に対し、前記第2のリガンドの不在時と比較して、前記第2のリガンドの存在時において影響を及ぼし、
C.蓄積された第2のトランス活性化因子及びレトロウイルスREVタンパク質を含む前記パッケージング細胞集団を、前記第2のリガンドの存在下でインキュベートすることにより、gagポリペプチド、polポリペプチド、及び1又は2以上のシュードタイピング要素の発現を誘導し、これにより前記組換レトロウイルスを作製する
ことを含み、
ここでパッケージ可能なRNAゲノムが、第3のプロモーターに作動式に連結されたポリヌクレオチドによってコードされ、ここで前記第3のプロモーターが、構成的に活性であるか、或いは前記第1のトランス活性化因子又は前記第2のトランス活性化因子により誘導されうると共に、前記1又は2以上のシュードタイピング要素が、標的細胞に結合し、及び/又は、当該細胞への組換レトロウイルスの膜融合を促進する能力を有する、方法が提供される。
【0059】
本開示にて提供される組換レトロウイルスを作製するためのレトロウイルスパッケージング系及び方法の側面のある態様によれば、前記哺乳類細胞が更に、標的細胞に結合して当該細胞を活性化することが可能な活性化要素を含み、前記第1のトランス活性化因子が、前記活性化要素の発現を制御する。前記活性化要素は、前記レトロウイルスの表面に存在し、ここで前記活性化要素が、CD3に結合可能な膜結合性ポリペプチド、及び/又は、CD28に結合可能な膜結合性ポリペプチドを含んでいてもよい。前記CD3に結合可能な膜結合性ポリペプチドが、異種GPIアンカー付着配列に融合された、CD3に結合可能なポリペプチドであり、前記CD28に結合可能な膜結合性ポリペプチドが、異種GPIアンカー付着配列に融合された、CD28に結合可能なポリペプチドである。ある態様によれば、前記CD28に結合可能な膜結合性ポリペプチドが、CD80、CD86、又はAktのCD28媒介活性化を誘導しうるその機能断片、例えばCD80の細胞外ドメインを含む。他の態様によれば、CD3に結合可能な膜結合性ポリペプチドは、CD14 GPIアンカー付着配列に結合した抗CD3scFvであり、前記CD28に結合可能な膜結合性ポリペプチドは、CD16B GPIアンカー付着配列に結合したCD80、又はその細胞外断片である。
【0060】
本開示にて提供されるレトロウイルスパッケージング系及び組換レトロウイルスを作製する方法の側面のある態様によれば、前記哺乳類細胞が更に、膜結合サイトカインを含み、前記第1のトランス活性化因子が、前記膜結合サイトカインの発現を制御する。前記膜結合サイトカインは、例えばIL-7、IL-15又はその活性断片であってもよい。ある態様によれば、前記膜結合サイトカインが、IL-7又はその活性断片とDAFとの融合ポリペプチドであってもよい。例えば、前記融合ポリペプチドが、DAFシグナル配列と、シグナル配列を欠くIL-7、更にそれに続くDAFの残基36~525を含んでいてもよい。
【0061】
本開示にて提供されるレトロウイルスパッケージング系及び組換レトロウイルスを作製する方法の側面のある態様によれば、前記哺乳類細胞が、その細胞膜に結合した状態で、CD14 GPIアンカー付着配列に結合した抗CD3scFvと、CD16B GPIアンカー付着配列に結合したCD80又はその細胞外断片とを含む活性化要素、並びに、GPIアンカー付着配列を含むIL-7又はその活性断片とDAFとの融合ポリペプチドを含む膜結合サイトカインを含む。ここで前記第1のトランス活性化因子が、前記の活性化要素及び膜結合サイトカインの各々の発現を制御する。ある態様によれば、前記のIL-7又はその活性断片とDAFとの融合体、前記抗CD3scFV、及び前記CD80、又はその細胞外断片が各々、DAFシグナル配列を含む。
【0062】
本開示にて提供されるレトロウイルスパッケージング系及び組換レトロウイルスを作製する方法の側面のある態様によれば、前記哺乳類細胞が更に、Vpxポリペプチドを含む。これらの態様又は他の態様によれば、前記1又は2以上のシュードタイピング要素が、T細胞によって認識される1又は2以上のウイルスポリペプチドを含む。前記1又は2以上のシュードタイピング要素が、麻疹ウイルスFポリペプチド、麻疹ウイルスHポリペプチド、及び/又は、その断片を含んでいてもよい。一部の例示的な態様によれば、前記1又は2以上のシュードタイピング要素は、麻疹ウイルスFポリペプチド及び/又は麻疹ウイルスHポリペプチドの細胞質ドメイン欠失変異体である。
【0063】
本開示にて提供されるレトロウイルスパッケージング系及び組換レトロウイルスを作製する方法の側面のある態様によれば、前記パッケージ可能なRNAゲノムが、第3のプロモーターに作動式に連結されたポリヌクレオチドによってコードされ、ここで前記第3のプロモーターが、構成的に活性であるか、或いは前記第1のトランス活性化因子又は前記第2のトランス活性化因子により誘導されうる。例示的な態様によれば、前記パッケージ可能なRNAゲノムが、第3のプロモーターに作動式に連結されたポリヌクレオチドによってコードされ、ここで前記第3のプロモーターが、前記第2のトランス活性化因子によって誘導されうる。
【0064】
本開示にて提供されるレトロウイルスパッケージング系及び組換レトロウイルスを作製する方法の側面のある態様によれば、前記パッケージ可能なRNAゲノムが更に、5’側から3’側に向かって、
a)5’側末端反復配列(長末端リピート)又はその活性断片、
b)レトロウイルスシス作用型RNAパッケージング要素をコードする核酸配列、
c)第1の標的ポリペプチド、及び任意により第2の標的ポリペプチドをコードする核酸配列、
d)前記第1の標的ポリペプチド及び前記任意の第2のポリペプチドと作動式に連結された、前記標的細胞内では活性であるが前記パッケージング細胞株内では不活性な第4のプロモーター、並びに、
e)3’側末端反復配列(長末端リピート)又はその活性断片
を含む。
【0065】
本開示にて提供される、直前に記載のコンストラクトを含むレトロウイルスパッケージング系及び組換レトロウイルスを作製する方法の側面のある態様によれば、前記第3のプロモーターは、前記第4のプロモーターにより促進される転写又は発現とは逆方向の転写又は発現を誘導する。
【0066】
本開示にて提供されるレトロウイルスパッケージング系及び組換レトロウイルスを作製する方法の側面のある態様によれば、前記パッケージ可能なRNAゲノムが、本開示に示す態様の何れかの組換レトロウイルスをコードし、ここで前記第1の標的ポリペプチド及び前記第2の標的ポリペプチドが、それぞれ前記第1の改変シグナル伝達ポリペプチド及び前記第2の改変シグナル伝達ポリペプチドである。ある態様によれば、例えば、前記パッケージ可能なRNAゲノムが更に、前記第1の改変シグナル伝達ポリペプチド又は前記第2の改変シグナル伝達ポリペプチドをコードする核酸と作動式に連結されたインビボ制御要素を含む。例示的な態様によれば、前記インビボ制御要素がリボスイッチである。例示的な態様によれば、前記リボスイッチが化合物に結合しうると共に、前記インビボ制御要素に結合する化合物がヌクレオシド類似体である。また、前記ヌクレオシド類似体が抗ウイルス薬、例えばアシクロビル又はペンシクロビルであってもよい。
【0067】
本開示にて提供されるレトロウイルスパッケージング系及び組換レトロウイルスを作製する方法の側面のある態様によれば、前記パッケージ可能なRNAゲノムが更に、miRNA又はshRNAをコードするポリヌクレオチドを含むイントロンを含む。前記イントロンが、前記第4のプロモーターの下流に隣接して存在していてもよい。
【0068】
本開示にて提供されるレトロウイルスパッケージング系及び組換レトロウイルスを作製する方法の側面のある態様によれば、前記標的細胞がT細胞及び/又はNK細胞であってもよい。
【0069】
本開示にて提供されるレトロウイルスパッケージング系及び組換レトロウイルスを作製する方法の側面のある態様によれば、前記1又は2以上のシュードタイピング要素が、水疱性口内炎ウイルス(VSV-G)エンベロープタンパク質、ネコ内因性ウイルス(RD114)エンベロープタンパク質、オンコレトロウイルス両種指向性エンベロープタンパク質、又はオンコレトロウイルス同種志向性エンベロープタンパク質又はその機能断片を含む。
【0070】
本開示にて提供されるレトロウイルスパッケージング系及び組換レトロウイルスを作製する方法の側面のある態様によれば、前記パッケージ可能なRNAゲノムのサイズは、11,000KB以下、又は10,000KB以下である。本開示にて提供されるレトロウイルスパッケージング系及び組換レトロウイルスを作製する方法の側面のある態様によれば、前記第1の標的ポリペプチドが、第1の改変シグナル伝達ポリペプチドを含み、ここで前記第1の改変シグナル伝達ポリペプチドは、リンパ増殖性要素を含み、前記第2の標的ポリペプチドが、CARを含む第2の改変シグナル伝達ポリペプチドを含む。
【0071】
一側面によれば、本開示では、標的ポリヌクレオチドの発現を制御するための単離ポリヌクレオチドであって、前記単離ポリヌクレオチドが、プロモーター及びリボスイッチに作動式に連結された標的ポリヌクレオチドをコードするポリヌクレオチドを含み、前記リボスイッチが、
a.)ヌクレオシド類似体抗ウイルス薬に結合可能であると共に、グアニン又は2’-デオキシグアノシンへの結合が、前記ヌクレオシド類似体抗ウイルス薬への結合と比較して制限されてなるアプタマードメイン、及び、
b.)前記標的ポリヌクレオチドの発現を制御することが可能な機能スイッチングドメインを含み、
前記ヌクレオシド類似体に前記アプタマードメインが結合すると、前記機能スイッチングドメインの発現制御活性が誘導又は抑制されることにより、前記標的ポリヌクレオチドの発現が制御される、単離ポリヌクレオチドが提供される。
【0072】
本開示にて提供されるインビボ制御要素を含む方法及び組成物の何れかの例示的な態様によればが、リボスイッチを含むポリヌクレオチドであってもよい。前記リボスイッチが、ヌクレオシド類似体に結合可能であってもよく、前記インビボ制御要素に結合する化合物は、ヌクレオシド類似体である。前記ヌクレオシド類似体が、抗ウイルス剤であってもよい。前記抗ウイルス剤が、アシクロビル又はペンシクロビルであってもよい。前記リボスイッチは、ペンシクロビルよりもアシクロビルに対して優先的に結合してもよく、アシクロビルよりもペンシクロビルに対して優先的に結合してもよい。前記リボスイッチは、37℃を超える温度で、37.5℃、38℃、38.5℃、又は39℃で、例えば39℃超で、前記ヌクレオシド類似体抗ウイルス薬への結合が低減されてもよい。前記リボスイッチの長さは、下限が35、40、45、及び50ヌクレオチド、上限が60、65、70、75、80、85、90、95、及び100ヌクレオチドであってもよく、例えば45~80ヌクレオチドであってもよい。本開示にて提供されるリボスイッチを含む方法及び組成物の何れかの例示的な態様によれば、前記リボスイッチによって制御される前記標的ポリヌクレオチドが、miRNA、shRNA、及び/又は、ポリペプチドをコードする領域を含んでいてもよい。前記標的ポリヌクレオチドは、リンパ増殖性要素をコードしていてもよい。前記標的ポリヌクレオチドが、プロモーターに作動式に連結されていてもよい。前記標的ポリヌクレオチドが、ポリペプチドをコードする領域を含んでいてもよく、前記ポリペプチドが、抗原特異的標的化領域、膜貫通ドメイン、及び細胞内活性化ドメインを含むキメラ抗原受容体を含んでいてもよい。本開示にて提供されるリボスイッチを含む方法及び組成物の何れかの例示的な態様によれば、前記機能スイッチングドメインは、例えば内部リボソーム侵入部位、ウイルス遺伝子コンストラクト内のmRNA前駆体スプライスドナーのアクセス可能性、翻訳、転写の終了、転写産物分解、miRNA発現、又はshRNA発現を制御することにより、前記標的ポリヌクレオチドの発現を制御するものであってもよい。前記リボスイッチが、リボザイムを含んでいてもよい。本開示にて提供されるリボスイッチを含む方法及び組成物の何れかの例示的な態様によれば、前記単離ポリヌクレオチドが、分子クローニングベクター又は発現ベクターであってもよい。本開示にて提供されるリボスイッチを含む方法及び組成物の何れかの例示的な態様によれば、前記単離ポリヌクレオチドが、レトロウイルスゲノム内に、或いは哺乳類の染色体又はその断片内に組み込まれていてもよい。
【0073】
本開示にて提供される他の側面は、対象のリンパ球を遺伝子操作し、増加させるための方法であって、
A.前記対象から血液を採取し、
B.前記対象の血液由来のT細胞及び/又はNK細胞を、エクスビボで組換レトロウイルスと接触させ、ここで前記組換レトロウイルスが、
i.T細胞及び/又はNK細胞に結合し、斯かる細胞への組換レトロウイルスの膜融合を促進することが可能な、麻疹ウイルスFポリペプチド及び/又は麻疹ウイルスHポリペプチドの細胞質ドメイン欠失変異体を含むシュードタイピング要素を、その表面に含むと共に、
ii.組換レトロウイルスの表面で発現されると共に、T細胞及び/又はNK細胞に結合する能力を有する、CD3に結合可能なポリペプチド及びCD28に結合可能なポリペプチド(但し、前記ポリペプチドは、前記組換レトロウイルス内のポリヌクレオチドによってコードされるものではない)を含み、更に、
iii.T細胞及び/又はNK細胞内で活性なプロモーターに作動式に連結された、1又は2以上の転写単位を含むポリヌクレオチドを含み、
ここで前記1又は2以上の転写単位は、構成的に活性なIL-7受容体変異体及び抗原特異的標的化領域(ASTR)を含む第1の改変シグナル伝達ポリペプチド、膜貫通ドメイン、並びに細胞内活性化ドメインを含むキメラ抗原受容体を含む第2の改変シグナル伝達ポリペプチドをコードし、
ここで前記IL-7受容体変異体の発現は、ヌクレオシド類似体抗ウイルス薬に結合するリボスイッチによって制御され、ここで前記ヌクレオシド類似体抗ウイルス薬が前記リボスイッチに結合することで、前記IL-7受容体変異体の発現が増加し、
ここで前記接触の結果、前記静止T細胞及び/又はNK細胞の少なくとも一部が遺伝子操作され、
C.前記遺伝子操作T細胞及び/又はNK細胞を、前記対象に再導入し、
D.前記遺伝子操作T細胞及び/又はNK細胞を、インビボで前記ヌクレオシド類似体抗ウイルス薬に暴露することにより、前記T細胞及び/又はNK細胞の増加を促進し、ここで前記方法の前記血液の採取から前記遺伝子操作T細胞及び/又はNK細胞の再導入までの工程が、24時間以内で実施され、及び/又は、事前のエクスビボでの刺激を要さずに実施され、これにより前記対象のリンパ球を遺伝子操作し、増加させる
ことを含む方法である。
【0074】
この方法の側面の例示的な態様によれば、前記レトロウイルスはレンチウイルスである。他の例示的な態様によれば、前記組換レトロウイルスは、T細胞を遺伝子的に修飾する。他の例示的な態様によれば、前記CD3に結合可能なポリペプチド、及び、前記CD28に結合可能なポリペプチドが各々、異種GPIアンカー付着配列に連結されてなる。ある例によれば、前記CD3に結合可能なポリペプチドが、抗CD3scFvFc又は抗CD3scFvであってもよく、前記CD28に結合可能なポリペプチドが、CD80であってもよい。前記抗CD3scFvFc又は抗CD3scFv及びCD80は更に各々、DAFシグナル配列に連結されていてもよい。他の例示的な態様によれば、前記組換レトロウイルスが、更にその表面に、DAFと共有結合されたサイトカインを含む融合ポリペプチドを含む。ある例によれば、前記サイトカインが、IL-7又はIL-15であってもよく、前記融合ポリペプチドが、DAFシグナル配列、シグナル配列を欠くIL-7、及び、GPIアンカー付着配列を含むDAFの断片を含んでいてもよい。
【0075】
直前に記載のこの方法の側面の他の例示的な態様によれば、前記リボスイッチが更に、前記キメラ抗原受容体の発現を制御すると共に、その制御が、前記リボスイッチのヌクレオシド類似体抗ウイルス薬への結合により制御される。ある例によれば、前記ヌクレオシド類似体抗ウイルス薬は、アシクロビル及び/又はペンシクロビルである。他の態様によれば、前記構成的に活性なIL-7が、miRNA又はshRNAによって置換されていてもよい。ある例によれば、前記miRNA又はshRNAが、核酸によりイントロン内でコードされていてもよい。
【0076】
本開示で提供される他の側面は、組換レトロウイルスであって、
A.T細胞及び/又はNK細胞に結合し、斯かる細胞への組換レトロウイルスの膜融合を促進することが可能な、麻疹ウイルスFポリペプチド及び/又は麻疹ウイルスHポリペプチドの細胞質ドメイン欠失変異体を含むシュードタイピング要素を、その表面に含むと共に、
B.T細胞及び/又はNK細胞内で活性なプロモーターに作動式に連結された、1又は2以上の転写単位を含むポリヌクレオチド(ここで前記1又は2以上の転写単位は、抗原特異的標的化領域、膜貫通ドメイン、及び細胞内活性化ドメインを含むキメラ抗原受容体を含む、第1の改変シグナル伝達ポリペプチドと、構成的に活性なIL-7受容体変異体を含む、第2の改変シグナル伝達ポリペプチドとをコードする)(ここで前記IL-7受容体変異体の発現は、ヌクレオシド類似体抗ウイルス薬に結合するリボスイッチによって制御され、ここで前記ヌクレオシド類似体抗ウイルス薬が前記リボスイッチに結合することで、前記IL-7受容体変異体の発現が増加する)、並びに、
C.CD3に結合可能なポリペプチド及びCD28に結合可能なポリペプチド(ここで前記ポリペプチドは、組換レトロウイルスの表面で発現されると共に、T細胞及び/又はNK細胞に結合可能であるが、前記組換レトロウイルス内のポリヌクレオチドによってコードされるものではない)
を含む組換レトロウイルスである。
【0077】
直前に記載の組換レトロウイルスの側面の例示的な態様によれば、前記レトロウイルスはレンチウイルスである。前記方法の他の例示的な態様によれば、前記CD3に結合可能なポリペプチド、及び、前記CD28に結合可能なポリペプチドが各々、異種GPIアンカー付着配列に連結されてなる。ある例によれば、前記CD3に結合可能なポリペプチドが、抗CD3scFvFc又は抗CD3scFvであってもよく、前記CD28に結合可能なポリペプチドが、CD80であってもよい。前記抗CD3scFvFc又は抗CD3scFv及びCD80は更に各々、DAFシグナル配列に連結されていてもよい。他の例示的な態様によれば、前記組換レトロウイルスが、更にその表面に、DAFと共有結合されたサイトカインを含む融合ポリペプチドを含む。ある例によれば、前記サイトカインが、IL-7又はIL-15であってもよく、前記融合ポリペプチドが、DAFシグナル配列、シグナル配列を欠くIL-7、及び、GPIアンカー付着配列を含むDAFの断片を含んでいてもよい。
【0078】
他の直前に記載の組換レトロウイルスの側面の例示的な態様によれば、前記リボスイッチが更に、前記キメラ抗原受容体の発現を制御すると共に、その制御が、前記リボスイッチの前記ヌクレオシド類似体抗ウイルス薬への結合により制御される。ある例によれば、前記ヌクレオシド類似体抗ウイルス薬が、アシクロビル及び/又はペンシクロビルである。他の態様によれば、前記構成的に活性なIL-7が、miRNA又はshRNAによって置換されていてもよい。前記miRNA又はshRNAが、核酸によりイントロン内でコードされていてもよい。
【0079】
本開示において提供される他の側面は、組換レトロウイルスを作製する方法であって、
A.パッケージング細胞の集団を培養することにより、第1のトランス活性化因子を蓄積させ、ここで前記パッケージング細胞が、構成型プロモーターから発現される前記第1のトランス活性化因子を含み、ここで前記第1のトランス活性化因子が、第1のリガンド及び第1の誘導型プロモーターと結合する能力を有すると共に、これと作動式に連結された核酸配列の発現に対し、前記第1のリガンドの不在時と比較して、前記第1のリガンドの存在時において影響を及ぼし、且つ、ここで第2のトランス活性化因子及びレトロウイルスREVタンパク質の発現が、前記第1のトランス活性化因子によって制御され、
B.蓄積された第1のトランス活性化因子を含む前記パッケージング細胞集団を、前記第1のリガンドの存在下でインキュベートすることにより、前記第2のトランス活性化因子及び前記レトロウイルスREVタンパク質並びに活性化要素を、通常はその表面に蓄積させ、ここでCD3に結合可能なポリペプチド及びCD28に結合可能なポリペプチドを含み、ここで前記第2のトランス活性化因子が、第2のリガンド及び第2の誘導型プロモーターと結合する能力を有し、これと作動式に連結された核酸配列の発現に対し、前記第2のリガンドの不在時と比較して、前記第2のリガンドの存在時において影響を及ぼし、
C.蓄積された第2のトランス活性化因子及びレトロウイルスREVタンパク質を含む前記パッケージング細胞集団を、前記第2のリガンドの存在下でインキュベートすることにより、gagポリペプチド、polポリペプチド、及び、T細胞及び/又はNK細胞に結合し、当該細胞に対する組換レトロウイルスの膜融合を促進する能力を有するシュードタイピング要素の発現を誘導し、ここで前記シュードタイピング要素が、麻疹ウイルスFポリペプチド及び/又は麻疹ウイルスHポリペプチドの細胞質ドメイン欠失変異体を含み、
ここでパッケージ可能なRNAゲノムが、第3のプロモーターに作動式に連結されたポリヌクレオチドによってコードされ、ここで前記プロモーターが、前記第2のトランス活性化因子によって誘導されうるものであり、
ここで前記パッケージ可能なRNAゲノムが、5’側から3’側に向かって、
i.5’側末端反復配列(長末端リピート)又はその活性断片、
ii.レトロウイルスシス作用型RNAパッケージング要素をコードする核酸配列、
iii.切断シグナルで隔てられた、キメラ抗原受容体を含む第1の改変シグナル伝達ポリペプチドと、構成的に活性なIL-7受容体変異体を含む第2の改変シグナル伝達ポリペプチドとをコードする核酸配列、
iv.T細胞及び/又はNK細胞内で活性な第4のプロモーター、並びに
v.3’側末端反復配列(長末端リピート)又はその活性断片
を含み、
ここで前記パッケージ可能なRNAゲノムが更に、ヌクレオシド類似体抗ウイルス薬に結合するリボスイッチを含み、ここで前記リボスイッチが前記ヌクレオシド類似体抗ウイルス薬に結合することで、前記リボスイッチ前記IL-7受容体変異体の発現が増加し、これにより前記組換レトロウイルスが作製される
ことを含む、方法である。
【0080】
前記方法の例示的な態様によれば、前記リボスイッチが更に、前記キメラ抗原受容体の発現を制御すると共に、その制御が、前記リボスイッチの前記ヌクレオシド類似体抗ウイルス薬への結合により制御される。他の例示的な態様によれば、前記ヌクレオシド類似体抗ウイルス薬が、アシクロビル及び/又はペンシクロビルである。他の例示的な態様によれば、前記パッケージ可能なRNAゲノムが更に、認識ドメインを含み、ここで前記認識ドメインが、EGFR又はそのエピトープを認識する抗体によって認識されるポリペプチドを含む。他の例示的な態様によれば、前記第1のリガンドがラパマイシンであり、前記第2のリガンドがテトラサイクリン又はドキソルビシンであるか、或いは前記第1のリガンドがテトラサイクリン又はドキソルビシンであり、前記第2のリガンドがラパマイシンである。他の例示的な態様によれば、前記パッケージング細胞が更に、Vpxをコードする核酸配列を、前記第2の転写単位上、又は任意の第3の転写単位上に、或いは前記第1の誘導型プロモーターに作動式に連結された更なる転写単位上に含む。他の例示的な態様によれば、前記CD3に結合可能なポリペプチド、及び、前記CD28に結合可能なポリペプチドが各々、異種GPIアンカー付着配列に連結されてなる。ある例によれば、前記CD3に結合可能なポリペプチドが、抗CD3scFvFc又は抗CD3scFv、又は抗CD3scFvであってもよく、前記CD28に結合可能なポリペプチドが、CD80であってもよい。前記抗CD3scFvFc又は抗CD3scFv及びCD80は更に各々、DAFシグナル配列に連結されていてもよい。他の例示的な態様によれば、DAFと共有結合されたサイトカインを含む融合ポリペプチドの発現も誘導される。ある例によれば、前記サイトカインがIL-7又はIL-15であってもよく、前記融合ポリペプチドが、DAFシグナル配列、シグナル配列を欠くIL-7、及び、GPIアンカー付着配列を含むDAFの断片を含んでいてもよい。他の例示的な態様によれば、前記リボスイッチが更に、前記キメラ抗原受容体の発現を制御すると共に、その制御が、前記リボスイッチの前記ヌクレオシド類似体抗ウイルス薬への結合により制御される。ある例によれば、前記ヌクレオシド類似体抗ウイルス薬が、アシクロビル及び/又はペンシクロビルである。他の態様によれば、前記構成的に活性なIL-7が、miRNA又はshRNAによって置換されていてもよい。前記miRNA又はshRNAが、核酸によりイントロン内でコードされていてもよい。例示的な態様によれば、作製されるレトロウイルスは、レンチウイルスである。
【0081】
他の側面によれば、本開示では、遺伝子操作されたリンパ球であって、
A.構成的に活性なIL-7受容体変異体を含む第1の改変シグナル伝達ポリペプチド、並びに
B.抗原特異的標的化領域(ASTR)、膜貫通ドメイン、及び細胞内活性化ドメインを含むキメラ抗原受容体を含む第2の改変シグナル伝達ポリペプチド
を含むリンパ球が提供される。
【0082】
上記の遺伝子操作されたリンパ球の側面の例示的な態様によれば、前記遺伝子操作されたリンパ球は、T細胞及び/又はNK細胞である。ある態様によれば、前記リンパ球がT細胞である。他の例示的な態様によれば、前記第1の改変シグナル伝達ポリペプチド及び/又は前記第2の改変シグナル伝達ポリペプチドの発現が、ヌクレオシド類似体抗ウイルス薬に結合するリボスイッチによって制御され、ここで前記ヌクレオシド類似体抗ウイルス薬が前記リボスイッチに結合することで、前記IL-7受容体変異体の発現が増加する。他の態様によれば、前記構成的に活性なIL-7受容体は、miRNA又はshRNAによって置換されていてもよい。前記miRNA又はshRNAは更に、核酸によりイントロン内でコードされていてもよい。
【0083】
他の側面によれば、本開示では、遺伝子操作されたT細胞及び/又はNK細胞であって、
A.リンパ増殖性要素を含む第1の改変シグナル伝達ポリペプチド、並びに、
B.抗原特異的標的化領域(ASTR)、膜貫通ドメイン、及び細胞内活性化ドメインを含むキメラ抗原受容体を含む第2の改変シグナル伝達ポリペプチド
を含むT細胞及び/又はNK細胞が提供される。
【0084】
前記遺伝子操作されたT細胞及び/又はNK細胞の側面の例示的な態様によれば、前記リンパ増殖性要素は、構成的に活性であると共に、ある例によれば、構成的に活性な変異型IL-7受容体又はその断片である。他の例示的な態様によれば、前記第1の改変シグナル伝達ポリペプチド及び/又は前記第2の改変シグナル伝達ポリペプチドの発現が、インビボ制御要素によって制御される。ある例によれば、前記インビボ制御要素が、リボスイッチを含むポリヌクレオチドである。ある例によれば、前記リボスイッチがヌクレオシド類似体に結合可能であり、前記ヌクレオシド類似体が存在する場合には、前記第1の改変シグナル伝達ポリペプチド及び/又は前記第2の改変されたポリペプチドが発現される。他の例示的な態様によれば、前記遺伝子操作されたT細胞及び/又はNK細胞は、活性化要素、シュードタイピング要素、及び/又は、膜結合サイトカインを、その表面に有する。ある例によれば、前記活性化要素が、CD3に結合可能な膜結合性ポリペプチド、及び/又は、CD28に結合可能な膜結合性ポリペプチドを含む。ある態様によれば、前記活性化要素が、異種GPIアンカー付着配列に連結された抗CD3scFv、及び/又は、異種GPIアンカー付着配列に連結されたCD80を含む。例示的な態様によれば、前記シュードタイピング要素が、麻疹ウイルスFポリペプチド、麻疹ウイルスHポリペプチド、及び/又は、麻疹ウイルスFポリペプチド及び/又は麻疹ウイルスHポリペプチドの細胞質ドメイン欠失変異体を含む。他の態様によれば、前記膜結合サイトカインが、DAF又はGPIアンカー付着配列を含むその断片に連結されたIL-7又はその断片を含む融合ポリペプチドを含む。
【0085】
一側面によれば、本開示では、対象のリンパ球を遺伝子操作し、増加させるための方法であって、
A.対象の静止T細胞及び/又はNK細胞を、通常は事前のエクスビボでの刺激を要することなく、エクスビボで組換レトロウイルスと接触させ、ここで前記組換レトロウイルスが、
i.T細胞及び/又はNK細胞に結合し、斯かる細胞への組換レトロウイルスの膜融合を促進することが可能なシュードタイピング要素を、その表面に含むと共に、
ii.T細胞及び/又はNK細胞内で活性なプロモーターに作動式に連結された、1又は2以上の転写単位を含むポリヌクレオチド(ここで前記1又は2以上の転写単位は、インビボ制御要素により制御される、リンパ増殖性要素を含む第1の改変シグナル伝達ポリペプチドをコードすると共に、任意によりインビボ制御要素によって制御されてもよい、第2の改変シグナル伝達ポリペプチドを任意によりコードし、ここで前記第2の改変シグナル伝達ポリペプチドが、細胞内活性化ドメインを含むと共に、任意によりCARの他の構成成分をコードし、
ここで前記接触により、前記組換レトロウイルスによる前記静止T細胞及び/又はNK細胞の少なくとも一部の形質導入が促進されて、遺伝子操作T細胞及び/又はNK細胞が産生され、
B.前記遺伝子操作T細胞及び/又はNK細胞を、前記対象に導入し、
前記遺伝子操作T細胞及び/又はNK細胞をインビボで、前記インビボ制御要素として機能する化合物に暴露することにより、前記第1の改変シグナル伝達ポリペプチドの発現に作用させると共に、インビボでリンパ球の増加、生着、及び/又は、持続性を促進し、これにより前記対象のリンパ球を遺伝子操作し、増加させる
ことを含む方法が提供される。
【0086】
例示的な態様によれば、エクスビボで刺激せずに、前記形質導入が実施される。例示的な態様によれば、前記化合物は、分子シャペロン、例えば小分子シャペロンである。例示的な態様によれば、前記リンパ増殖性要素に前記分子シャペロンが結合することで、前記リンパ増殖性要素の増殖活性が増強される。前記分子シャペロンの前記対象への投与は、前記対象からの血液の採取前、前記接触の間、及び/又は、前記T細胞及び/又はNK細胞の前記対象への導入後に行うことができる。当然ながら、前記化合物がインビボ制御要素である側面においては、斯かる化合物は通常、リンパ増殖性要素及び/又はCARの構成成分に結合する能力を有し、前記方法の実施時には実際に斯かるリンパ増殖性要素又はCAR構成成分に結合する。本開示にて提供される、組換レトロウイルスによるT細胞及び/又はNK細胞のトランスフェクションを含む方法に関連する他の態様及び教示は、分子シャペロン態様を含むこの側面にも同様に適用される。
【0087】
他の側面において、本開示では、微小環境制限抗原特異的標的化領域を選択する方法であって、
a.ポリペプチドディスプレイライブラリーのポリペプチドを、通常の生理的条件下での結合アッセイと、異常な条件下での結合アッセイとに供し、
b.結合活性 前記生理的条件と比較して、前記異常な条件で、結合活性に増加を生じるポリペプチドを選択することにより、前記微小環境制限抗原特異的標的化領域を選択する
ことにより、前記ポリペプチドディスプレイライブラリーのパニングを行うことを含む方法が提供される。
【0088】
他の側面において、本開示では、微小環境制限抗原特異的標的化領域を単離する方法であって、
a)ポリペプチドライブラリーを、異常な条件下で、固体支持体に結合した標的抗原と接触させ、ここで、前記標的抗原に結合するポリペプチドを発現するクローンは、前記標的抗原を介して前記固体支持体に結合したまま維持され、
b)前記固体支持体を、結合したポリペプチドと共に、生理的条件下でインキュベートし、
c)前記生理的条件下で前記固体支持体から溶出するクローンを採取することにより、前記微小環境制限抗原特異的標的化領域を単離する
ことにより、前記ポリペプチドライブラリーのパニングを行うことを含む方法が提供される。
【0089】
他の側面において、本開示では、標的抗原に結合するキメラ抗原受容体であって、
a)ポリペプチドライブラリーのパニングにより選択されると共に、通常の生理的環境と比べ、異常な条件下において、結合アッセイによる活性が上昇する、少なくとも1つの微小環境制限抗原特異的標的化領域、
b)膜貫通ドメイン、及び、
c)細胞内活性化ドメイン
を含むキメラ抗原受容体が提供される。
【0090】
他の側面において、本開示では、標的抗原に結合するキメラ抗原受容体であって、
a)通常の生理的環境と比べ、異常な条件において、前記標的抗原に対する結合の上昇を示す微小環境制限抗原特異的標的化領域であって、前記標的に結合する微小環境制限抗原特異的標的化領域、
b)膜貫通ドメイン、及び
c)細胞内活性化ドメイン
を含むキメラ抗原受容体が提供される。
【0091】
本開示にて提供される、微小環境制限抗原特異的標的化領域(ASTR)を含む方法及び組成物の何れかの例示的な態様によれば、前記ASTRは、前記通常の条件と比較して、前記異常な条件では、前記アッセイにおける前記標的抗原への結合親和性が、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、又は100%増加する者であってもよい。前記異常な条件は、例えば低酸素、酸性pH、高濃度の乳酸、高濃度のヒアルロナン、高濃度のアルブミン、高濃度のアデノシン、高濃度のR-2-ヒドロキシグルタレート(glutarate)、高濃度のPAD酵素、高圧、高酸化、及び低栄養素利用可能性であってもよい。前記微小環境制限ASTRは、pH7.4と比べ、pH6.7において、抗原結合が増加するものであってもよい。前記微小環境制限ASTRは、対応する生理的条件下と比べ、腫瘍環境下及び/又はインビトロ腫瘍代替アッセイ条件下において、抗原結合が増加するものであってもよい。前記標的は、4-1BB、ST4、腺癌抗原、α-フェトプロテイン、AXL、BAFF、B-リンパ腫細胞、C242抗原、CA-125、炭酸脱水酵素9(CA-IX)、C-MET、CCR4、CD152、CD19、CD20、CD200、CD22、CD221、CD23(IgE受容体)、CD28、CD30(TNFRSF8)、CD33、CD4、CD40、CD44 v6、CD51、CD52、CD56、CD74、CD80、CEA、CNT0888、CTLA-4、DRS、EGFR、EpCAM、CD3、FAP、フィブロネクチン エクストラドメイン-B、葉酸受容体1、GD2、GD3 ガングリオシド、糖タンパク質75、GPNMB、HER2/neu、HGF、ヒト拡散因子(scatter factor)受容体キナーゼ、IGF-1受容体、IGF-I、IgG1、Ll-CAM、IL-13、IL-6、インシュリン様成長因子I受容体、インテグリン nSP1、インテグリン nvP3、MORAb-009、MS4A1、MUC1、ムチン CanAg、N-グリコリルノイラミン酸、NPC-1C、PDGF-R a、PDL192、ホスファチジルセリン、前立腺癌細胞、RANKL、RON、ROR1、ROR2 SCH 900105、SDC1、SLAMF7、TAG-72、テネイシン(tenascin)C、TGF-β2、TGF-P、TRAIL-R1、TRAIL-R2、腫瘍抗原CTAA16.88、VEGF-A、VEGFR-1、VEGFR2、及びビメンチン。前記ASTRが、であってもよい抗体、抗原、リガンド、リガンドの受容体結合ドメイン、受容体、受容体のリガンド結合ドメイン、又はアフィボディ(affibody)であってもよい。前記ASTRは、全長抗体、単鎖抗体、Fab断片、Fab’断片、(Fab’)2断片、Fv断片、及び、二価単鎖抗体又は二重特異性抗体(diabody)であってもよい。前記ASTRが、抗体由来の重鎖及び軽鎖を含んでいてもよい。前記抗体が、単鎖可変断片であってもよい。ある態様によれば、前記重鎖及び軽鎖が、リンカーにより隔てられていてもよい。この場合、前記リンカーの長さは6~100アミノ酸長である。ある態様によれば、前記重鎖が、前記キメラ抗原受容体上で軽鎖のN末端に位置するものであってもよい。ある態様によれば、前記軽鎖が、前記キメラ抗原受容体上で重鎖のN末端に位置するものであってもよい。
【0092】
ポリペプチドディスプレイライブラリーを含む方法の何れかの例示的な態様によれば、前記ポリペプチドディスプレイライブラリーが、ファージディスプレイライブラリー又は酵母ディスプレイライブラリーであってもよい。前記ポリペプチドディスプレイライブラリーが、抗体ディスプレイライブラリーであってもよい。前記抗体ディスプレイライブラリーが、ヒト又はヒト化抗体ディスプレイライブラリーであってもよい。前記抗体ディスプレイライブラリーが、ナイーブライブラリーであってもよい。前記方法が、採取したファージを細菌細胞に感染させて、精製されたファージディスプレイライブラリーを生成すると共に、前のサイクルで得られた斯かる精製ファージディスプレイライブラリーを用いて、前記接触、インキュベート、及び採取を1~1000サイクル繰り返すことを含んでいてもよい。
【0093】
本開示にて提供される、微小環境制限ASTRの単離又は選択を含む方法の何れかの例示的な態様によれば、前記方法が、前記微小環境制限抗原特異的標的化領域をコードするポリヌクレオチドのヌクレオチド配列を決定することにより、前記微小環境制限ASTRのポリペプチド配列を決定することを含んでいてもよい。前記方法が、前記微小環境制限ASTR、膜貫通ドメイン、及び細胞内活性化ドメインを含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを作成することにより、微小環境制限生物製剤キメラ抗原受容体を作製することを含んでいてもよい。前記ライブラリーが、単鎖抗体ライブラリーであってもよい。
【0094】
前記の微小環境制限ASTRを単離する方法が、前記パニングを1~1000回繰り返されることを含んでいてもよい。前記の微小環境制限ASTRを単離する方法が、パニングの各ラウンドの間において、単離された微小環境制限抗原特異的標的化領域をコードするポリヌクレオチドを変異させることなく実施されるものであってもよい。前記の微小環境制限ASTRを単離する方法が、パニングの各ラウンドの間において、抗原特異的標的化領域をコードするポリヌクレオチド又はそれを含む宿主生物の培養、高忠実度増幅、及び/又は、希釈により実施されるものであってもよい。前記方法が、繰り返しの前に、前記選択及び/又は単離された微小環境制限抗原特異的標的化領域に対して突然変異誘発を行うことを含んでいてもよい。前記方法が、パニングの1又は2以上のラウンドの後に、長リード(long read)DNA配列決定により、前記選択及び/又は単離された微小環境制限抗原特異的標的化領域、及び/又は、それをコードするポリヌクレオチドの配列を決定することを含んでいてもよい。前記方法が、前記単離された微小環境制限ASTRの増幅の前後に、その配列を決定することを含んでいてもよい。前記の微小環境制限ASTRを単離する方法が、前記パニングを繰り返すことなく実施されるものであってもよい。前記の微小環境制限ASTRを単離する方法が、前記微小環境制限ASTRの単離後に、前記単離された微小環境制限ASTRをコードするポリヌクレオチドに突然変異導入を行うことなく実施されるものであってもよい。
【0095】
本開示にて提供される、微小環境制限ASTRを有するキメラ抗原受容体を含む組成物の何れかの例示的な態様によれば、前記微小環境制限ASTRが、抗体ライブラリーのパニングにより同定されてもよい。ある態様によれば、前記微小環境制限ASTRは、ファージディスプレイ又は酵母ディスプレイライブラリーのパニングにより同定される。ある態様によれば、前記キメラ抗原受容体は、二重特異的ASTRを含む。
【0096】
本開示において、他の側面に関して提供されるのは、T細胞及び/又はNK細胞内で活性なプロモーターに作動式に連結された1又は2以上の転写単位を含む組換ポリヌクレオチドを含む形質導入T細胞及び/又はNK細胞であって、ここで前記1又は2以上の転写単位が、インビボ制御要素により制御される第1の改変シグナル伝達ポリペプチドをコードし、ここで前記第1の改変シグナル伝達ポリペプチドが、構成的に活性なIL-7受容体変異体を含み、ここで前記インビボ制御要素は、インビボで化合物に結合する能力を有し、又は、インビボで化合物に結合するように構成される。
【0097】
本開示において、他の側面に関して提供されるのは、T細胞及び/又はNK細胞内で活性なプロモーターに作動式に連結された1又は2以上の転写単位を含む組換ポリヌクレオチドを含む組換レトロウイルスであって、ここで前記1又は2以上の転写単位は、インビボ制御要素により制御される第1の改変シグナル伝達ポリペプチドをコードし、ここで前記第1の改変シグナル伝達ポリペプチドが、構成的に活性なIL-7受容体変異体を含み、ここで前記インビボ制御要素は、インビボで化合物に結合する能力を有し、又は、インビボで化合物に結合するように構成される組換レトロウイルスである。
【0098】
本開示において、他の側面に関して提供されるのは、T細胞及び/又はNK細胞に対して形質導入を行う方法であって、T細胞及び/又はNK細胞内で活性なプロモーターに作動式に連結された1又は2以上の転写単位を含む組換ポリヌクレオチドを含む組換レトロウイルスに、T細胞及び/又はNK細胞を接触させ、ここで前記1又は2以上の転写単位は、インビボ制御要素により制御される第1の改変シグナル伝達ポリペプチドをコードし、ここで前記第1の改変シグナル伝達ポリペプチドが、構成的に活性なIL-7受容体変異体を含み、ここで前記インビボ制御要素は、形質導入条件下で、インビボで化合物に結合する能力を有し、これにより、前記T細胞及び/又はNK細胞に対して形質導入を行うことを含む方法である。
【0099】
先行する段落において提供された、形質導入T細胞及び/又はNK細胞の側面、組換レトロウイルスの側面、及び、方法の側面の例示的な態様によれば、前記組換ポリヌクレオチドが更に、抗原特異的標的化領域(ASTR)、膜貫通ドメイン、及び細胞内活性化ドメインを含む第1のキメラ抗原受容体を含む第2の改変シグナル伝達ポリペプチドをコードする転写単位を含む。他の例示的な態様によれば、前記リンパ増殖性要素が、変異型IL-7受容体又はその断片を含む。他の例示的な態様によれば、前記インビボ制御要素が、リボスイッチを含むポリヌクレオチドである。ある例によれば、前記リボスイッチがヌクレオシド類似体に結合可能であり、前記インビボ制御要素に結合する化合物がヌクレオシド類似体である。ある例によれば、前記ヌクレオシド類似体は抗ウイルス剤、例えばアシクロビル又はペンシクロビルである。ある態様によれば、前記抗ウイルス剤はアシクロビルである。他の例示的な態様によれば、前記の構成的に活性なIL-7受容体変異体は、EGFR又はそのエピトープに連結される。他の例示的な態様によれば、前記構成的に活性なIL-7受容体変異体は、eTagを含む。他の例示的な態様によれば、前記構成的に活性なIL-7受容体変異体が、PPCL挿入物を含む。他の例示的な態様によれば、前記構成的に活性なIL-7受容体変異体が、野生型ヒトIL-8受容体の位置243に相当する位置に、PPCL挿入物を含む。他の例示的な態様によれば、前記形質導入T細胞又はNK細胞は、形質導入T細胞である。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【
図1】
図1は、パッケージング細胞(100)と、前記パッケージング細胞(100)により産生される組換レトロウイルス(200)とを含む例示組成物の概略を示す図である。
図1において、本発明の諸側面をコードすることが可能な種々のベクター(組換ポリヌクレオチド(110)と呼ぶ)は、組換レトロウイルス(200)内にパッケージ化され、斯かる組換レトロウイルス(200)は、そのゲノム内に、リンパ増殖性要素を含む第1の改変シグナル伝達ポリペプチドを含むと共に、ある態様によれば、キメラ抗原受容体、即ちCARである第2の改変シグナル伝達ポリペプチドを更に含む。前記組換レトロウイルスは、その膜上に、前記レトロウイルスが標的細胞に結合してこれと融合するのを可能にするシュードタイピング要素(非限定的な態様によれば、麻疹ウイルスヘマグルチニン(H)ポリペプチド及び麻疹ウイルス融合(F)ポリペプチド、又はその細胞質ドメイン欠失変異体)(240);静止T細胞に結合してこれを活性化する能力を有する活性化要素(非限定的な態様によれば、CD28に結合可能なポリペプチド及びCD3に結合可能なポリペプチドを有する活性化要素)(それぞれ210及び220);並びに膜結合サイトカイン(非限定的な態様によれば、IL-7・DAF融合ポリペプチド)(230)を発現する。符号(250)、(260)、(270)、(280)、及び(290)を付した部分は、それぞれSrc-FLAG-Vpx、HIV gagマトリックス、HIV gagカプシド、RNA、及びHIVpolである。
【0101】
【
図2】
図2は、パッケージング細胞によって産生された(200)組換レトロウイルスと、前記組換レトロウイルス(200)によってトランスフェクトされた静止T細胞(300)とを含む、例示組成物の概略を示す図である。前記レトロウイルスの表面に存在するこれらの要素は、静止T細胞の表面の受容体及び/又はリガンドに結合する。前記シュードタイピング要素は、前記レトロウイルスの前記T細胞への結合及び融合を容易にするために、結合性ポリペプチド及び融合性ポリペプチド(非限定的な態様では、麻疹ウイルスヘマグルチニン(H)ポリペプチド及び麻疹ウイルス融合(F)ポリペプチド)、又はその細胞質ドメイン欠失変異体)を含んでいてもよい。非限定的な態様では、前記レトロウイルスはその表面に、前記T細胞・受容体複合体及び任意により共受容体(320)と結合することにより、前記静止T細胞を活性化する能力を有する活性化要素(非限定的な態様では、CD28に結合可能なポリペプチド及びCD3に結合可能なポリペプチドを有する活性化要素)を含む。更に、前記レトロウイルスの表面に存在する膜結合サイトカイン(非限定的な態様では、IL-7・DAF融合ポリペプチド)は、前記静止T細胞の表面のIL-7Rα(310)に結合する。前記レトロウイルスは前記T細胞と融合し、前記リンパ増殖性要素(例示的な態様によれば、構成的に活性なIL-7Rα)を含む前記第1の改変シグナル伝達ポリペプチド(370)をコードするポリヌクレオチドは、サイトゾル内で逆転写されてから核に移行し、前記活性化T細胞のDNA内に組み込まれる。ある態様によれば、前記ウイルスと共にパッケージされたSrc-FLAG-Vpx(250)は、前記静止T細胞のサイトゾルに侵入して、SAMHD1(350)の分解を促進する結果、逆転写に利用可能な細胞質dNTPのプールを増大させる。ある態様によれば、前記ポリヌクレオチドは更に、CARを含む第2の改変シグナル伝達ポリペプチド(360)をコードしていてもよい。ある態様によれば、前記リンパ増殖性要素は、その発現を制御するインビボ制御要素にある化合物が結合すると発現される(非限定的な例によれば、前記インビボ制御要素は、ヌクレオシド類似体に結合するリボスイッチである)。ある態様によれば、前記CARの発現は、前記インビボ制御要素によっても制御される。一部(330)はSLAM及びCD46である。一部(340)はCD3である。
【0102】
【
図3A-B】
図3A~3Eは、ベクター系の概略を示す図である。
図3Aは、NFκB p65アクチベータードメイン(p65 AD)に連結されたFRBドメインと、3つのFKBPリピートに連結された、構成的に発現されるZFHD1 DNA結合ドメインとをコードするポリヌクレオチド配列を含むコンストラクトを示す。
図3Aに示すコンストラクトは、更に、ラパマイシン誘導型ZFHD1/p65 ADプロモーターの下、HIV1 REV及びVpxをSrcFlagVpx融合体として含む。
図3Bは、前記ZFHD1/p65 ADプロモーターの制御下、artTA配列をコードするポリヌクレオチドを含むコンストラクトを示す。
図3Cは、loxP部位に挟まれたピューロマイシン耐性遺伝子と、lox2272部位に挟まれた細胞外MYCタグとをコードするポリヌクレオチドを含むコンストラクトを示す。何れの選択可能マーカーも、FRT部位に挟まれたBiTREプロモーターの制御下に置かれる。
図3Dは、TREプロモーターの制御下にある、loxP部位に挟まれたRFPをコードすると共に、前記TREプロモーターとRFPの5’側loxP部位との間に単一のFRT部位をコードするポリヌクレオチドを含むコンストラクトを示す。
図3Eは、TREプロモーターの制御下にある、loxP部位に挟まれたGFPをコードすると共に、前記TREプロモーターとGFPの5’側loxP部位との間に単一のFRT部位をコードするポリヌクレオチドを含むコンストラクトを示す。
図3C~3Eのコンストラクトは、他のポリヌクレオチド配列が前記パッケージング細胞株のゲノム内に挿入される際のランディングパッド(landing pads)として機能する。
【0103】
【
図4A-B】
図4A~4Cは、コンストラクトの概略を示す図である。
図4Aは、CD14 GPIアンカー付着部位を有する抗CD3(クローン UCHT1)scFvFc、CD16B GPIアンカー付着部位を有し、CD28に結合可能なCD80細胞外ドメイン(ECD)、及び、HEK293Sゲノム内への組み込みのためにトランスポゾン配列で挟まれたポリヌクレオチド領域を有する、崩壊促進因子(DAF)に連結されたIL-7をコードする、3シストロン性ポリヌクレオチドを含むコンストラクトを示す。
図4Bは、BiTREプロモーターと、gag及びpolポリペプチドを一方向にコードするポリヌクレオチド領域と、麻疹ウイルスFΔx及びHΔyタンパク質を逆方向にコードするポリヌクレオチド領域とを有するポリヌクレオチドを含むコンストラクトを示す。
図4Cは、CAR及びリンパ増殖性要素IL7Rα-insPPCLを、HEK293S細胞内では活性でないCD3Zプロモーターの制御下でコードするポリヌクレオチド配列を含むコンストラクトを示す。ここで前記のCARとIL7Rα-insPPCLとは、T2Aリボゾーム性スキップ配列をコードするポリヌクレオチド配列によって隔てられてなり、前記IL7Rα-insPPCLは、アシクロビルリボスイッチ制御性のリボザイムを有する。前記CAR含有コンストラクトは更に、cPPT/CTS、RRE配列、及び、HIV-1 Psi(Ψ)をコードするポリヌクレオチド配列を含む。ゲノムに組み込まれるべき前記CAR含有コンストラクトのポリヌクレオチド配列は、その全体がFRT部位に挟まれてなる。
【0104】
【
図5】
図5A~5Cは、選択的リボスイッチ制御用のヌクレオシド類似体である、アシクロビル(
図5A)、ペンシクロビル(
図5B)、及び2’-デオキシグアノシン(
図5C)の分子構造を示す。
【0105】
【
図6】
図6は、メソプラズマ・フローラム(Mesoplasma florum)I-A型デオキシグアノシンリボスイッチ制御領域、及び関連する遺伝子産物を示す。前記配列は、M.フローラムL1ゲノムDNA(AE017263.1)nt624396~nt625670の逆相補的配列であり、これはM.フローラム W37ゲノムDNA(CP006778.1)nt636277~nt637550と同一である。初回スクリーニングのために使用されたデオキシグアノシン結合アプタマー配列を太字下線で示す。下流遺伝子産物(クラスIbのリボヌクレオチドレダクターゼ(好気性)、βサブユニット)を大文字で示す。
【0106】
【
図7】
図7は、指向進化戦略のために標的化されたM.フローラムI-A型デオキシグアノシンリボスイッチアプタマー領域を示す。白長円内のヌクレオチドはランダム化の対象とした。縞長円内のヌクレオチドは挿入/欠失及びランダム化の対象とした。
【0107】
【
図8】
図8A及び8Bは、M.フローラムI-A型デオキシグアノシンリボスイッチアプタマーのスクリーニングライブラリーを示す。
図8Aにおいて、実線ボックス内のヌクレオチドはランダム化の標的とした配列領域であり、点線ボックス内のヌクレオチドは挿入/欠失及びランダム化の標的とした配列領域である。
図8Bは、変異(「ランダムヌクレオチド」(「N」))及び欠失/挿入により生成された配列候補を示す。
【0108】
【
図9】
図9は、PCR増幅を可能とするべく付加された追加の塩基対及びライブラリースクリーニングのためのインビトロ転写用T7プロモーター付加のための追加の塩基対に対する逆相補配列として合成された、M.フローラムI-A型デオキシグアノシンリボスイッチアプタマーのオリゴライブラリーを示す。対応するT7プロモーター増幅プライマー及び逆増幅プライマーも示す。
【0109】
【
図10】
図10は、枯草菌(Bacillus subtilis)グアノシンxptリボスイッチ制御領域及び関連遺伝子産物を示す。前記配列は、B.スブチリス亜種スブチリス6051-HGWゲノムDNA(CP003329.1)nt2319439~nt2320353の逆相補配列である。初回スクリーニングに使用されたグアノシン結合アプタマー配列を太字下線で示す。下流遺伝子産物(キサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼxpt)を大文字で示す。
【0110】
【
図11】
図11は、指向進化戦略の標的としたB.スブチリス グアノシンxptリボスイッチアプタマー領域を示す。白長円内のヌクレオチドはランダム化の標的とした。縞長円内のヌクレオチドは挿入/欠失及びランダム化の標的とした。
【0111】
【
図12】
図12A及び12Bは、B.スブチリスグアノシンxptリボスイッチアプタマーのスクリーニングライブラリーを示す。
図12Aにおいて、実線のボックス内のヌクレオチドはランダム化の標的とした配列領域であり、点線ボックス内のヌクレオチドは挿入/欠失及びランダム化の標的とした配列領域である。
図12Bは、変異(ランダムヌクレオチド(“N”))及び欠失/挿入により生成された配列候補を示す。
【0112】
【
図13】
図13は、PCR増幅を可能とするべく付加された追加の塩基対及びライブラリースクリーニング用インビトロ転写のためのT7プロモーター付加物に対する逆相補鎖として合成された、B.スブチリスグアノシンxptリボスイッチアプタマー オリゴライブラリーを示す。対応するT7プロモーター増幅プライマー及び逆増幅プライマーも併せて示す。
【0113】
【
図14】
図14は選択ライブラリーの構成を示す。前記ライブラリーは、既知のグアノシン及びデオキシグアノシン結合RNA(Pikovskaya, 2013)に基づいて構築した。
【0114】
【
図15】
図15は、酸化グラフェン(GrO)アプタマー選択を示す図である。工程(1)では、RNAが転写及び精製された。工程(2)では、精製されたRNAを溶出させた。工程(3)では、アプタマーを反標的(counter-target)及び緩衝剤とインキュベートした。工程(4)では、反標的又は緩衝剤成分と結合した配列を酸化グラフェンで除去した。工程(5)では、遠心分離によって上清内の非特異的反応性種を分画し、次いで廃棄した。更に5分間ずつ二度洗浄し、残渣の反標的結合配列及び緩衝剤結合配列を除去した。工程(6)では、アシクロビルの1×選択緩衝剤中溶液を陽性選択用GrO結合ライブラリーに加え、陽性標的との相互作用を通じてGrOからアプタマー配列候補を脱着させた。工程(7)では、最後の遠心分離工程により、上清内の前記標的結合配列を、GrOに依然として吸着されている非反応性配列から分離した。工程(8)では、選択された配列を逆転写し、得られたライブラリーをPCRで増幅し、次いで転写することにより、次回選択ラウンド用のライブラリーを調製した。
【0115】
【
図16】
図16は、酸化グラフェン平行評価を示す図である。平行評価を経た濃縮ライブラリーを等量ずつ4つに分割した。次に、ライブラリー試料を酸化グラフェンに加えてインキュベートし、前記ライブラリーを酸化グラフェンに担持させた。5分間ずつ2回洗浄し、非結合材料を除去した。陽性(アシクロビル)及び特別標的(ペンシクロビル)試料については、各標的を個別に1×選択緩衝剤で1μMに希釈して調製した。反標的については、陽性標的を10μMの各反標的の溶液で置換した。陰性試料については、陽性標的を等体積のヌクレアーゼを含まない水で置換した。その後、各試料を対応する酸化グラフェン調製物に加えてインキュベートした。インキュベーション後、試料を遠心分離して上清を除去し、NanoDrop-1000分光光度計(Thermo Fisher Scientific;Wilmington, DE)を用いた読み取りによって、ライブラリーが回収されていることを確認した。残存するライブラリー試料を変性PAGEにより分析した。Gel-Starによる染色/脱染後にゲルの画像を撮影した。予想されるライブラリーサイズに対応するバンドを回収し、平行評価の追跡ラウンドに供した。陰性、半標的、及び特別標的試料については、担持前のインキュベーション時に半標的を陽性標的アシクロビルで置換した。前記第2の平行評価から回収した材料を配列決定及び分析に供した。
【0116】
【
図17】
図17は、アシクロビルに対する7つのアプタマー候補を示す。各アプタマーの自由エネルギーは、37℃、1M Na
+の条件で、Quikfold 3.0(Zuker 2003)により計算した。配列は専用アルゴリズムを用いて同定した。各配列の下線で示す領域はPCRプライマーのアニーリング領域である。
【0117】
【
図18】
図18は、ペンシクロビルに対する7つのアプタマー候補を示す。各アプタマーの自由エネルギーは、37℃、1M Na
+の条件で、Quikfold 3.0(Zuker 2003)により計算した。配列は専用アルゴリズムを用いて同定した。各配列の下線で示す領域はPCRプライマーのアニーリング領域である。
【0118】
【
図19】
図19Aは、PBMC中での発現時のリンパ増殖/生存活性の試験に用いたIL7Rα変異体の概略図である。
図19Bは、IL-2の存在及び不在下でのPBMCの%生存率を示す棒グラフである。
【0119】
【
図20】
図20は、VSV-G又は切断型のMV(Ed)F及びHポリペプチドを有する偽型のレンチウイルスを用いて形質導入された陰性選択且つ未刺激のT細胞について、形質導入効率をMOIに対してプロットしたグラフを示す。明確化のために記号を入れ違いに配置している。
【0120】
【
図21】
図21は、EF-1αプロモーターイントロン内のCD3ζを標的化するmiRNAが、CD3複合体の発現をノックダウンできることを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0121】
定義
本開示で使用する場合、「キメラ抗原受容体」又は「CAR」又は「CARs」という語は、例えばT細胞、NK細胞、マクロファージ、幹細胞等の細胞に抗原特異性を移植する、改変された受容体を意味する。本発明のCARは、少なくとも1つの抗原特異的標的化領域(ASTR)及び細胞内活性化ドメイン(IAD)を含む。更に、柄部、膜貫通ドメイン(TM)、及び1又は2以上の共刺激ドメイン(CSD)を含んでいてもよい。他の態様によれば、前記CARは二重特異的CAR、即ち二つの異なる抗原又はエピトープに対して特異を有するCARである。前記ASTRが標的抗原に特異的に結合した後、前記IADは細胞内シグナル伝達を活性化する。例えば、前記IADは、T細胞の特異性及び反応性の対象を、MHCに制限されることなく、選択された標的に設定しなおし、抗体の抗原結合特性を活用することができる。MHCに制限されない抗原認識によって、CARを発現するT細胞に、抗原処理とは独立に抗原を認識する能力を付与し、これにより腫瘍回避の主要な機序を迂回することが可能となる。更にCARは、T細胞で発現された場合に、内因性T細胞受容体(TCR)のα及びβ鎖と二量体を形成しないという点でも有利である。
【0122】
本開示で使用する場合、「微小環境」という語は、組織又は身体の部分又は領域であって、斯かる組織の他の領域又は身体の領域と比べて、定常的又は一時的に、物理的又は化学的な相違を有する部分又は領域を意味する。例えば、「腫瘍微小環境」とは、本開示で使用する場合、腫瘍がその中に存在する環境であって、腫瘍内の非細胞領域及び腫瘍性組織のすぐ外部の領域であるが、癌細胞自身の細胞内区画には属さない環境を意味する。斯かる腫瘍微小環境とは、悪性経過が生存し、及び/又は、膨張し、及び/又は、拡大するための構造的及び/又は機能的な環境を形成する条件を含む、任意且つ全ての腫瘍環境の条件を意味しうる。例えば、腫瘍微小環境は、例えば、これらに制限されるものではないが、圧力、温度、pH、イオン強度、浸透圧、オスモル濃度、酸化的ストレス、1又は2以上の溶質の濃度、電解質の濃度、グルコースの濃度、ヒアルロナンの濃度、乳酸又は乳酸塩の濃度、アルブミンの濃度、アデノシンのレベル、R-2-ヒドロキシグルタレート(glutarate)のレベル、ピルビン酸の濃度、酸素の濃度、及び/又は、酸化剤、還元剤、若しくは共因子の存在、並びに当業者であれば理解しうる他の条件等の種々の条件における改変を含んでいてもよい。
【0123】
本開示では相互交換可能に使用されるが、「ポリヌクレオチド」及び「核酸」という語は、リボヌクレオチド又はデオキシリボヌクレオチド何れかのヌクレオチドの任意の長さの多量体型を意味する。即ち、この語は、これらに限定されるものではないが、一本鎖、二本鎖、又は多重鎖のDNA又はRNA、ゲノムDNA、cDNA、DNA-RNAハイブリッド、或いは、プリン及びピリミジン塩基、又は他の天然塩基、化学的若しくは生化学的に改変された非天然塩基、又は誘導型のヌクレオチド塩基を含むポリマーを含む。
【0124】
本開示で使用する場合、「抗体」という語は、ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体を含み、また、無傷抗体と、抗原に対する特異結合を保持する抗体断片とを含む。斯かる抗体断片は、これらに限定されるものではないが、抗原結合(Fab)断片、Fab’断片、F(ab’)2断片、Fv断片、Fab’-SH断片、(Fab’)2Fv断片、Fd断片、組換IgG(rIgG)断片、単鎖抗体断片、例えば単鎖可変断片(scFv)、二価scFv、三価scFv、及び単一ドメイン抗体断片(例えばsdAb、sdFv、ナノボディ等)であってもよい。この語は、遺伝子改変及び/又はその他の改変を受けた形態の免疫グロブリン、例えばイントラボディ(intrabodies)、ペプチボディ(peptibodies)、キメラ抗体、単鎖抗体、完全ヒト抗体、ヒト化抗体、融合タンパク質、例えば抗体の抗原特異的標的化領域と非抗体タンパク質との融合体、ヘテロコンジュゲート抗体、多重特異的抗体、例えば二重特異的抗体、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、タンデム・ジscFv、タンデム・トリscFv等を含む。別途記載しない限り、「抗体」という語は、その機能的抗体断片をも含むと解すべきである。また、この語は、無傷又は全長の抗体、例えば任意のクラス若しくはサブクラスの抗体、例えばIgG及びそのサブクラス、IgM、IgE、IgA、及びIgD等を含む。
【0125】
本開示で使用する場合、「抗体断片」という語は、無傷抗体の一部、例えば無傷抗体の抗原結合又は可変領域を含む。抗体断片の例としては、Fab、Fab’、F(ab’)2、及びFv断片;ダイアボディ;直鎖抗体(Zapata et al., Protein Eng. 8(10): 1057-1062 (1995));単鎖抗体分子;並びに抗体断片から形成される多重特異的抗体が挙げられる。抗体をパパインで消化すると、各々単一の抗原結合部位を有する2つの「Fab」断片と呼ばれる相同な抗原結合断片と、容易に結晶化する能力を反映して「Fc」断片と呼ばれる残部とが得られる。一方、ペプシン処置により得られるF(ab’)2断片は、2つの抗原結合部位を有し、抗原を架橋する能力を維持する。
【0126】
本開示では相互交換可能に使用されるが、「単鎖Fv」、「scFv」、又は「sFv」抗体断片という語は、単一のポリペプチド鎖に存在する抗体のVH及びVLドメインを含む。ある態様によれば、Fvポリペプチドは更に、VHドメインとVLドメインとの間のポリペプチドリンカー又はスペーサを含み、これによりsFvは抗原結合時に所望の構造をとることが可能となる。sFvの概説としては、Pluckthun in The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, vol. 113, Rosenburg and Moore eds., Springer-Verlag, New York, pp. 269-315 (1994)を参照のこと。
【0127】
本開示で使用する場合、「天然」VH及びVLドメインとは、宿主から単離されたVH及びVLドメインであって、特定の条件、例えば米国特許第8709755B2号及び国際特許公報第WO/2016/033331A1号等に記載の条件下で生成されるscFv形態において、その親和性を改変するための更なる分子進化を受けていないものを意味する。
【0128】
本開示で使用する場合、「親和性」(affinity)という語は、二剤の可逆的結合の平衡定数を意味し、解離定数(Kd)として表される。ある抗体の親和性は、これと無関係のアミノ酸配列を有する抗体に対する親和性と比較して、例えば少なくとも1倍以上、少なくとも2倍以上、少なくとも3倍以上、少なくとも4倍以上、少なくとも5倍以上、少なくとも6倍以上、少なくとも7倍以上、少なくとも8倍以上、少なくとも9倍以上、少なくとも10倍以上、少なくとも20倍以上、少なくとも30倍以上、少なくとも40倍以上、少なくとも50倍以上、少なくとも60倍以上、少なくとも70倍以上、少なくとも80倍以上、少なくとも90倍以上、少なくとも100倍以上、又は少なくとも1000倍以上、又はそれよりも大きい値であってもよい。抗体の標的タンパク質に対する親和性は、例えば約100ナノモル(nM)~約0.1nM、約100nM~約1ピコモル(pM)、又は約100nM~約1フェムトモル(fM)、またはそれ以上であってもよい。本開示で使用する場合、「結合力」(avidity)という語は、二以上の剤の複合体が希釈後の解離に対して示す抵抗性を意味する。「免疫反応性」及び「優先的結合」という語は、本開示では抗体及び/又は抗原結合断片に関して相互交換可能に使用される。
【0129】
本開示で使用する場合、「結合」(binding)という語は、例えば共有結合、静電結合、疎水結合、イオン結合、及び/又は、例えば塩橋と水橋との間の相互作用による水素結合等、各種の相互作用による2つの分子間の直接的な会合を意味する。非特異結合とは、親和性が約10-7M未満の結合、例えば親和性10-6M、10-5M、10-4M等の結合を意味する。
【0130】
本開示で使用する場合、「細胞表面発現系」又は「細胞表面提示系」という用語は、細胞の表面におけるタンパク質又はその部分の提示又は発現を意味する。通常は、所望のタンパク質が細胞表面タンパク質と融合されたものを発現する細胞が生成される。例えば、タンパク質は膜貫通ドメインとの融合タンパク質として発現される。
【0131】
本開示で使用する場合、「要素」という語は、ポリペプチド、例えばポリペプチドの融合体、ポリペプチドの部分領域、及びその機能的変異体又はその断片、並びにポリヌクレオチド、例えばマイクロRNA及びshRNA、及びその機能的変異体又はその断片を含む。
【0132】
本開示で使用する場合、「領域」という語は、ポリペプチド又はポリヌクレオチドの部分を意味する。
【0133】
本開示で使用する場合、「ドメイン」とは、機能的及び/又は構造的特性を有するポリペプチド又はポリヌクレオチドの領域のことである。
【0134】
本開示で使用する場合、「柄部」及び「柄部ドメイン」という語は、構造的柔軟性を提供すると共にポリペプチド領域に隣接してこれを隔離する、柔軟なポリペプチドコネクター領域を意味する。これらは天然又は合成ポリペプチからなっていてもよい。柄部は、免疫グロブリン(例えばIgGl)のヒンジ又はヒンジ領域に由来するものであってもよい。これは一般に、ヒトIgGlのGlu216からPro230まで広がるものとして定義される(Burton (1985) Molec. Immunol., 22:161-206)。他のIgGアイソタイプのヒンジ領域については、重鎖内ジスルフィド(S-S)結合を形成する最初及び最後のシステイン残基を同じ位置に配置することで、IgG1配列とアラインすることができる。柄部は天然のものでも非天然のものでもよく、例えばこれらに制限されるものではないが、米国特許第5,677,425号に開示される改変ヒンジ領域を含んでいてもよい。柄部は、任意のクラス又はサブクラスの抗体に由来する完全ヒンジ領域を含んでいてもよい。柄部は、構造的柔軟性を提供すると共にポリペプチド領域に隣接してこれを隔離する、CD8、CD28、又は他の受容体に由来する領域を含んでいてもよい。
【0135】
本開示で使用する場合、「単離された」という語は、物質がその元の環境(例えば、天然であれば天然環境)から取り出されることを意味する。例えば、生存する動物内に存在する天然ポリヌクレオチド又はポリペプチドは単離されていないが、天然の系において共存する物質の一部又は全部から分離された同一のポリヌクレオチド又はポリペプチドは、単離されたものである。斯かるポリヌクレオチドはベクターの一部であってもよく、及び/又は、斯かるポリヌクレオチド又はポリペプチドは組成物の一部であってもよい。斯かるベクター又は組成物はその天然環境の一部ではないという点で、斯かるポリヌクレオチド又はポリペプチドは単離されたものである。
【0136】
本開示で使用する場合、「ポリペプチド」は、ペプチド結合により連結されたアミノ酸残基鎖を指す。ポリペプチドは固定された構造に折り畳まれたものではなく、また、翻訳後修飾も受けていない。「タンパク質」は、ポリペプチドが固定された構造に折り畳まれたものである。本開示では「ポリペプチド」及び「タンパク質」は相互交換可能に使用される。
【0137】
本開示で使用する場合、ポリペプチドは、ポリペプチドの天然環境に混在する成分、例えば前記ポリペプチドの診断又は治療用途と干渉しうる物質、例えば酵素、ホルモン、及び他のタンパク質様及び非タンパク質様溶質等が除去されて、「精製された」ものであってもよい。ポリペプチドは、(1)ローリー法で決定される抗体の重量で90%以上、95%以上、又は98%以上、例えば99%超まで精製されていてもよく、(2)スピニングカップ・シークエネーターを用いてN末端又は内部アミノ酸配列の少なくとも15残基を得るのに十分な程度まで精製されていてもよく、又は(3)還元または非還元条件下、クマシーブルー又はシルバー染色を用いて、ナトリウムドデシル硫酸塩ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)により均質であるとされる程度まで精製されていてもよい。
【0138】
本開示で使用する場合、「免疫細胞」という語は、通常は骨髄で産生される造血幹細胞(HSC)から誘導される白色血液細胞(白血球)を含む。「免疫細胞」は、例えばリンパ球(T細胞、B細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞)及びミエロイド由来細胞(好中球、好酸球、好塩基球、単球、マクロファージ、樹状細胞)を含む。
【0139】
本開示で使用する場合、「T細胞」は、CD3を発現するあらゆる種類の免疫細胞、例えばT-ヘルパー細胞(CD4+細胞)、細胞毒性T細胞(CD8+細胞)、T-制御性細胞(Treg)、及びγ-ΔT細胞を含む。
【0140】
本開示で使用する場合、「細胞毒性細胞」は、CD8+T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、NK-T細胞、γδT細胞、CD4+細胞の亜集団、及び好中球を含む。これらは細胞毒性応答を媒介しうる細胞である。
【0141】
本開示で使用する場合、「幹細胞」という語は、一般に、多能性(pluripotent)又は多能性(multipotent)幹細胞を含む。「幹細胞」は、例えば、胚性幹細胞(ES);間葉性幹細胞(MSC);人工多能性(pluripotent)幹細胞(iPS);及び予定性(committed)前駆細胞(造血性幹細胞(HSC);骨髄由来細胞等)を含む。
【0142】
本開示で使用する場合、「処置」(treatment)、「処置する」(treating)等の語は、所望の薬理学的及び/又は生理学的作用を得ることを意味する。この作用は、疾患又はその症状を完全に又は部分的に回避するという点で予防的なものであってもよく、及び/又は、疾患及び/又はその疾患に関連する副作用を部分的又は完全に治癒するという点で治療的なものであってもよい。本開示で使用する場合、「処置」とは、ヒト等の哺乳類におけるある疾患の任意の処置を包含し、(a)その疾患の素因を有するがまだその疾患を有すると診断されていない対象において、その疾患が発症するのを回避すること;(b)その疾患を抑制する、即ちその発症を防止すること;及び(c)その疾患を緩和する、即ち、その疾患の退行を生じさせること、を含む。
【0143】
本開示では相互交換可能に使用されるが、「個人」、「対象」、「宿主」、及び「患者」という語は、哺乳類を意味する。例としては、これらに制限されるものではないが、ヒト、マウス(例えばラット、マウス等)、ウサギ目(例えばウサギ等)、非ヒト霊長目、ヒト、イヌ科、ネコ科、有蹄目(例えばウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ等)等が挙げられる。
【0144】
本開示で使用する場合、「治療有効量」又は「効果量」という語は、哺乳類又は他の対象に投与した場合に、疾患に対して前記の処置を発揮するのに十分な剤の量、又は、二剤の合計量を意味する。「治療有効量」は、剤、処置の対象となる疾患及びその重症度、年齢、体重等に応じて異なる。
【0145】
本開示で使用する場合、「進化」又は「進化させる」という語は、1又は2以上の突然変異生成法を用いて、異なるポリペプチドをコードする異なるポリヌクレオチドを生成することを意味する。ここで得られるポリペプチドは、それ自身が改善された生物学的分子であるか、及び/又は、他の改善された生物学的分子の生成に寄与する。「生理的」又は「通常の」又は「通常の生理的」条件とは、例えば、これらに制限されるものではないが、圧力、温度、pH、イオン強度、浸透圧、オスモル濃度、酸化的ストレス、1又は2以上の溶質の濃度、電解質の濃度、グルコースの濃度、ヒアルロナンの濃度、乳酸又は乳酸塩の濃度、アルブミンの濃度、アデノシンのレベル、R-2-ヒドロキシグルタレート(glutarate)のレベル、ピルビン酸の濃度、酸素の濃度、及び/又は、酸化剤、還元剤、若しくは共因子の存在、並びに、対象の投与部位において、又は対象の作用部位の組織又は器官において、通常の範囲内にあると考えられる他の条件等のことである。
【0146】
本開示で使用する場合、「遺伝子操作細胞」には、外因性核酸を含む細胞が含まれる。ここで前記の外因性核酸は、前記細胞のゲノムに組み込まれているか否かを問わない。
【0147】
本開示で使用する場合、「ポリペプチド」とは、タンパク質分子の一部又は全部を含むと共に、翻訳後修飾又は他の修飾を含んでいてもよい。
【0148】
本開示で使用する場合、シュードタイピング要素とは、1又は2以上のポリペプチドを含み、前記標的宿主細胞を特定してこれに結合する「結合性ポリペプチド」、通常は糖タンパク質を含んでいてもよく、並びに、前記レトロウイルスと標的宿主細胞膜との融合を媒介することにより、レトロウイルスゲノムの前記標的宿主細胞への侵入を可能にする、1又は2以上の「融合性ポリペプチド」を含んでいてもよい。本開示で使用する場合、「結合性ポリペプチド」は、「T細胞及び/又はNK細胞結合性ポリペプチド」又は「標的結合要素」と呼ぶ場合もあり、「融合性ポリペプチド」は、「融合性要素」と呼ぶ場合もある。
【0149】
「静止」リンパ球、例えば静止T細胞等は、細胞周期のG0期にあり、Ki-67等の活性化マーカーを発現しないリンパ球を意味する。静止リンパ球は、特異的抗原と未だ遭遇していないナイーブT細胞と、過去に抗原と遭遇して変化した記憶T細胞の双方を含んでいてもよい。「静止」リンパ球は「無活動」(quiescent)リンパ球と呼ぶ場合もある。
【0150】
本開示で使用する場合、「白血球枯渇」(lymphodepletion)には、白血球枯渇剤の投与等により、対象のリンパ球の数を減少させる方法が含まれる。また、白血球枯渇は、身体の一部又は全身の分割放射線療法により達成してもよい。白血球枯渇剤は、哺乳類に投与された場合に、当該哺乳類の機能的リンパ球の数を減少させることが可能な化合物又は組成物であってもよい。斯かる剤の一例は、1又は2以上の化学治療剤である。斯かる剤及び用量は既知であり、処置の対象に応じて担当の医師が適宜選択すればよい。白血球枯渇剤の例としては、これらに限定されるものではないが、フルダラビン、シクロホスファミド、クラドリビン、デニロイキン・ジフチトクス、又はこれらの組み合わせが挙げられる。
【0151】
当然ながら、本開示並びに本開示にて提供される側面及び態様は、開示される具体例に限定されるものではなく、もちろん変更してもよい。また、これも当然ながら、本開示で使用される用語法は、具体例及び態様を開示することを目的とするに過ぎず、限定を意図するものではない。本開示の範囲を決定するのは、あくまでも添付の特許請求の範囲である。
【0152】
数値範囲を供する場合、当然ながら、斯かる範囲の上限と下限との間に介在する各価(文脈上明らかに他のことが意味されるのでない限り、下限の単位の10分の1の有効数字で)や、前記明示範囲内の他の任意の明示された値及び介在する値も、本開示の中に含まれる。これらの部分範囲の上限及び下限は、斯かる部分範囲に独立に含まれていてもよく、これらの値も本発明に含まれるが、前記明示範囲から個別に除外される場合にはその対象となる。前記明示範囲が上下限の一方又は両方を除外する場合には、これらの一方又は両方を除外した範囲に含まれる範囲も本発明に含まれる。ある範囲について複数の低い値及び複数の高い値が与えられている場合、当業者であれば認識するように、選択された範囲には、前記高い値未満の任意の低い値が含まれる。本開示における見出しは何れも読者の便宜のためであって、限定のためではない。
【0153】
別途定義しない限り、本開示で使用される全ての技術的及び化学的用語は、本発明雅俗する分野の当業者が通常理解する意味と同一の意味を有する。本開示に記載のものと類似又は同一の方法及び材料も本発明の実施及び試験に使用することができるが、本開示では好ましい方法及び材料を記載する。本開示において何らかの方法及び/又は材料との関連で引用する公報は、当該方法及び/又は材料を開示及び記載するものとして、何れも援用により本開示に組み込まれる。
【0154】
留意すべきこととして、本開示及び添付の特許請求の範囲で使用する場合、単数形「一つの」(a, an)及び「前記」(the)は、文脈上明らかに他のことが意味されるのでない限り、複数を包含するものとする。即ち、例えば「一つのキメラ抗原受容体」(a chimeric antigen receptor)は、斯かるキメラ抗原受容体及び当業者に公知のその等価物が複数存在する場合を含む、等々。更に留意すべきこととして、何らかの任意の要素を含まないものとして請求項を記載する場合がある。即ち、本記載は、請求項に列記する要素との関係で「単独の」(solely)や「のみ」(only)等の排他的な用語法を使用したり、否定的表現を使用したりすることを予告するものである。
【0155】
本発明の複数の特徴を明確化のために複数の個別の態様として記載している場合でも、これらの特徴を組み合わせて単一の態様として提示することも可能である。これとは逆に、本発明の種々の特徴を簡便のために単一の態様として記載している場合でも、これらの特徴を個別に、又は適切な部分集合の組み合わせとして提示することも可能である。本発明に属する態様の全ての組み合わせが本発明に包含され、且つ、各々の組み合わせが個別且つ明示的に開示されているかのように本開示に示されるものとする。更に、種々の態様及びその要素の全ての部分集合の組み合わせも本発明に包含され、且つ、各々の部分集合の組み合わせが個別且つ明示的に開示されているかのように本開示に示されるものとする。
【0156】
詳細な説明
本開示は、これらの従来技術の課題を克服するために、リンパ球を遺伝子的に改変するための方法及び組成物、並びに、養子細胞治療を実施するための方法であって、T細胞及び/又はNK細胞を形質導入することを含む方法を提供する。本形質導入は、エクスビボで遙かに短い時間、例えば24、12、又は8時間以下しか要さず、また、ある態様によれば、事前のエクスビボでの刺激も不要である。これらの方法は、対象由来の血液を閉鎖系でエクスビボ処理するのに適しており、対象と同一の部屋で実施されるものであってもよく、及び/又は、ある態様によれば、前記方法の実施の全ての時点で、対象の視界の範囲内で、対象の血液又はその単離血液細胞に対して実施されるものであってもよい。より具体的に、本開示の側面及び態様は、現在の養子細胞治療に伴う課題を解決するために、静止T細胞及び/又は静止NK細胞を形質導入する方法であって、通常は組換レトロウイルスの静止T細胞及び/又は静止NK細胞への結合及び融合を促進し、惹いては前記組換レトロウイルスによる前記静止T細胞及び/又はNK細胞の遺伝子改変を促進するシュードタイピング要素を使用する方法を提供する。更に、本開示にて提供される方法は、本分野の課題を克服するべく、例示的な態様によれば、キメラ抗原受容体と、その発現がインビボ制御要素により制御されるリンパ増殖性要素とを用いる。ここで、前記対象を前記インビボ制御要素に結合する化合物に暴露し、或いは斯かる暴露を終了することにより、前記遺伝子操作T細胞及び/又はNK細胞の増加がインビボで促進される。
【0157】
本開示に記載されるこれらの改良やその他の改良の結果として、一側面によれば、本開示では対象の、例えば疾患又は障害を有する患者の、静止T細胞及び/又は静止NK細胞を改変する方法が提供される。本方法では、前記対象由来の血液を採集し、静止T細胞及び/又はNK細胞を組換レトロウイルスと接触させて遺伝子操作し、前記遺伝子操作細胞を通常は従来の方法よりも短い時間で、例えば24時間以内で、また、ある非限定的な態様によれば12時間以内で、及び/又は、遺伝子操作T細胞及び/又はNK細胞の集団をエクスビボで増加させることなく、例えば前記遺伝子操作静止T細胞及び/又はNK細胞がエクスビボで4回を超える細胞分裂を生じないうちに、前記対象に再導入する。即ち、本開示にて提供される方法は、現在のCAR治療よりも遙かに短い時間で実施することができるため、エクスビボ工程の時間全体に亘って対象が診察室にいることも可能となる。これにより、閉鎖系でのエクスビボ工程の効率が改善され、患者試料の汚染や混合の可能性が低減されると共に、臨床実験室でより簡便に実施することが可能となる。
【0158】
従って、
図1及び2は、本開示にて提供される方法において使用される例示組成物の概略図である。
図1はパッケージング細胞(100)及び斯かるパッケージング細胞(200)によって産生された組換レトロウイルスの図である。前記パッケージング細胞(100)は、そのゲノム内に組み込まれた組換ポリヌクレオチド(110)を含み、斯かる組換ポリヌクレオチドは、レトロウイルスタンパク質及び種々の異なる膜結合性ポリペプチドを、トランス活性化因子により調節される誘導型プロモーターの制御下で発現する組換転写要素を含む。ここで、トランス活性化因子は、リガンドに結合し、リガンドにより活性化される。これらのトランス活性化因子、誘導型プロモーター、及びリガンドは、前記組換レトロウイルスの膜に組み込まれる細胞膜結合性ポリペプチドと、前記レトロウイルスのパッケージング及びアセンブリに必要なレトロウイルス成分の、連続的な発現及び蓄積を誘導するのに使用される。
【0159】
以下に詳細に説明する種々のポリヌクレオチドが連続的に誘導発現される結果、
図1に示す例示的なパッケージング細胞(100)が産生される。例示的な方法では、この細胞を用いて組換レトロウイルスを産生し、これを本開示にて提供される静止T細胞及び/又はNK細胞のトランスフェクションを行う方法(
図2の(300))に使用してもよい。非限定的な例示態様によれば、前記パッケージング細胞(100)は、そのゲノム内に、パッケージ可能なレトロウイルスRNAゲノムをコードする核酸を含む。斯かるレトロウイルスRNAゲノムは、レトロウイルスのパッケージング及びアセンブリに必要なレトロウイルスゲノムの要素の少なくとも一部(非限定的な例として、レトロウイルスpsi要素、レトロウイルスgagポリペプチド、及びレトロウイルスpolポリペプチド)を含む。
【0160】
前記パッケージング細胞の細胞膜に組み込まれ、又は関連付けられた膜結合性ポリペプチドの一部は、前記レトロウイルスに組み込まれ、又は関連付けられるが、前記レトロウイルスゲノムによりコードされるものではない。例えば、前記パッケージング細胞及びこれから形成される組換レトロウイルスは、レトロウイルスVpxポリペプチド(250)(これは、非限定的な例によれば、膜関連融合タンパク質、例えばSrc-FLAG-Vpxポリペプチド等として発現されてもよい);結合性ポリペプチド及び融合性ポリペプチドを含みうるシュードタイピング要素(240)(これは、非限定的な態様によれば、麻疹ウイルスヘマグルチニン(H)ポリペプチド及び麻疹ウイルス融合(F)ポリペプチド、又はその細胞質ドメイン欠失変異体を含む)を含むと共に;任意により1又は2以上の活性化要素(210、220)(これは、非限定的な態様によれば、CD3に結合可能な膜結合性ポリペプチド及びCD28に結合可能な膜結合性ポリペプチドを含む);及び/又は、任意により膜結合サイトカイン(230)(これは、非限定的な態様によれば、DAF又はその断片に連結されたIL-7である)を含んでいてもよい融合ポリペプチドである。これら膜結合性ポリペプチドの他の種々の具体的な種類も、本開示にて提供される。
【0161】
前記パッケージング細胞による前記転写要素の連続的な発現の結果として、組換レトロウイルスが産生される。前記パッケージング細胞のゲノムの内部に存在し、通常は当該ゲノム内に組み込まれ、前記組換レトロウイルスのゲノムとなるRNAレトロウイルスゲノムには、レトロウイルスの産生、感染、及び宿主細胞(通常は静止T細胞及び/又はNK細胞である)ゲノムへの組み込みに必要なレトロウイルス成分(非限定的な例として、レトロウイルスGag及びPolポリヌクレオチドが挙げられる)が含まれる。更に、前記レトロウイルスゲノムは、本開示にて提供される1又は通常は2つの改変シグナル伝達ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む。斯かる改変シグナル伝達ポリペプチドの一つは、通常はリンパ増殖性要素(非限定的な例によれば、構成型インターロイキン7受容体変異体)をコードし、他の改変シグナル伝達ポリペプチドは、通常はキメラ抗原受容体をコードする。
【0162】
続いて、前記組換レトロウイルス(200)を用いて、本開示にて提供される方法により、静止T細胞及び/又は静止NK細胞(300)に形質導入を行う。
図2に示すように、前記静止T細胞及び/又はNK細胞(300)が前記組換レトロウイルス(200)と接触すると、上で論じた前記レトロウイルス表面に存在する膜ポリペプチドが、前記静止T細胞及び/又はNK細胞(300)の表面の受容体及び/又はリガンドに結合する。例えば、前記シュードタイピング要素(これは、上に示したように、静止T細胞及び/又は静止NK細胞の表面の分子に結合する結合性ポリペプチドと、融合性ポリペプチドとを含んでいてもよい)が、前記レトロウイルス(200)の前記T細胞及び/又はNK細胞膜への結合及び融合を促進する。活性化要素(210、220)は、前記T細胞受容体複合体に関与し、前記静止T細胞及び/又はNK細胞(300)を活性化する。斯かるプロセスは、その後の接触又はインキュベーションに伴い、時間をかけて進行する。更に、前記膜結合サイトカイン(230)が前記レトロウイルスの表面に存在し、前記静止T細胞及び/又はNK細胞(300)の表面のサイトカイン受容体(310)に結合することにより、更に結合及び活性化を促進する。即ち、理論に束縛されるものではないが、本開示にて提供される例示的な態様によれば、これらの組換レトロウイルス(200)の構成成分のうち1又は2以上による結果として、前記レトロウイルス(200)に存在しない要素によるエクスビボでの刺激又は活性化は必要とされない。ひいてはこれにより、本開示にて提供されるこれらの例示的な方法に要するエクスビボでの時間を削減することが可能となる。
【0163】
前記T細胞及び/又はNK細胞(200)に結合すると、前記レトロウイルスは続いて前記T細胞及び/又はNK細胞(300)と融合し、前記レトロウイルスに含まれるポリペプチド及び核酸が前記T細胞及び/又はNK細胞(300)に侵入する。上に示したように、前記レトロウイルスにおけるこれらのポリペプチドの一つはVpxポリペプチド(250)である。Vpxポリペプチド(250)は、細胞質内の遊離dNTPを分解するSAMHD1制限因子(350)に結合して、その分解を促進する。即ち、VpxがSAMHD1を分解すると、細胞質内の遊離dNTP濃度が上昇し、逆転写活性が増加して、前記レトロウイルスゲノムの逆転写及び前記T細胞及び/又はNK細胞ゲノム内への組み込みが促進される。
【0164】
前記レトロウイルスゲノムの前記T細胞及び/又はNK細胞(200)への組み込みの後、前記T細胞及び/又はNK細胞ゲノムは、をコードする核酸を含む前記リンパ増殖性要素をコードするシグナル伝達ポリペプチド(370)と、任意により前記CARをコードするシグナル伝達ポリペプチド(360)とを含むことになる。前記リンパ増殖性要素の発現、及び任意により前記CARの発現は、インビボ制御要素の制御により行われる。T細胞及び/又はNK細胞(300)に形質導入を行った対象に対して、前記インビボ制御要素に結合する化合物を投与し、斯かる化合物に暴露させると、前記リンパ増殖性要素の発現により、更には任意により前記CARの発現及びその標的細胞への結合の結果として、前記T細胞及び/又はNK細胞の増殖(300)がインビボで促進される。即ち、本開示の組換レトロウイルスにより形質導入されたT細胞及び/又はNK細胞は、増殖を誘導し、及び/又は、細胞死を阻害する1又は2以上のシグナルを有する。これにより、例示的な態様によれば、従来の方法では必要とされてきた、形質導入T細胞及び/又はNK細胞を対象に戻す前に宿主のリンパを枯渇させる作業を回避することができる。これにより、例示的な態様によれば、形質導入T細胞及び/又はNK細胞を対象に再導入する前に必要な処置の期間を短縮することができる。即ち、例示的な態様によれば、対象からの血液を採集してから、対象へ血液を再導入するまでに要する時間は、36時間以内、24時間、12時間、又はある例によれば8時間以内である。これは、従来法のCAR-Tプロセスを根本から変更するものである。更に、前記インビボ制御要素により、本開示にて提供される安全機序の一つも提供される。例えば、前記化合物の投与を中止することにより、前記リンパ増殖性要素及び任意により前記CARの発現を下方制御し、更には停止することができ、惹いては前記形質導入T細胞及び/又はNK細胞並びにその子孫に対する増殖及び/又は生存シグナルを終了させることができる。
【0165】
養子細胞治療を実施するための方法
特定の側面によれば、本開示では、対象に養子細胞治療を実施するための方法が提供される。一例によれば、前記方法は、
A.対象から血液を採取し、
B.静止T細胞及び/又は静止NK細胞を含む末梢血単核細胞(PBMC)を単離し、
C.前記対象の静止T細胞及び/又は静止NK細胞を、エクスビボで組換レトロウイルスと接触させ、ここで前記組換レトロウイルスは、その表面に、静止T細胞及び/又はNK細胞に結合し、当該細胞に対する組換レトロウイルスの膜融合を促進することが可能なシュードタイピング要素を含み、ここで前記接触によって、前記組換レトロウイルスによる前記静止T細胞及び/又はNK細胞の形質導入が促進されて、遺伝子操作T細胞及び/又はNK細胞が産生され、
D.前記対象から血液を採取してから36、24、12、又は8時間以内に、前記遺伝子操作細胞を前記対象に再導入することにより、前記対象において養子細胞治療を実施する
ことを含んでいてもよい。
【0166】
本開示にて提供される一部の側面によれば、類似の工程を有する方法は、対象のリンパ球を遺伝子操作し、増加させるための方法と呼ばれる。当業者には明らかなように、養子細胞治療を実施するための方法及び組成物に関する本開示での議論は、対象のリンパ球を遺伝子操作し、増加させるための方法にも適用される。
【0167】
通常は、本開示の養子細胞治療方法は、自家移植により実施される。自家移植では、細胞治療を受けるべき対象、又は斯かる対象由来の試料から、細胞を単離し、及び/又は、他の方法により調製する。即ち、ある側面によれば、前記細胞 は、処置を必要とする対象、例えば患者に由来すると共に、単離及び処理の後、同一の対象に投与される。本開示に開示される方法及び組成物のある態様によれば、疾患又は障害を有する対象は医療施設に入り、そこで既知の方法、例えば静脈穿刺を用いて、前記対象の血液が採取される。ある態様によれば、対象から採取される血液の体積は、下限が10、15、20、25、30、35、40、50、75、又は100mL以上、上限が200、250、300、350、400、500、750、1000、2000、又は2500mL以下の範囲である。ある態様によれば、10~400mLが前記対象から採取される。ある態様によれば、20~250mLの血液が前記対象から採取される。ある態様によれば、血液は新鮮な状態で処理される。本発明に開示される態様の何れかによれば、新鮮な血液は、対象から採取されてから15、30、45、60、90、120、150、又は180分間以内の血液であってもよい。ある態様によれば、血液は保存されることなく、本開示にて提供される方法にて処理される。
【0168】
前記T細胞及び/又はNK細胞と前記組換レトロウイルスとの接触により、通常は前記T細胞及び/又はNK細胞の前記組換レトロウイルスによる形質導入が促進される。本開示を通じて、形質導入T細胞及び/又はNK細胞は、エクスビボで形質導入された細胞の子孫であって、エクスビボでの形質導入の際に前記細胞内に導入された核酸又はポリヌクレオチドの少なくとも一部を保持する細胞を含む。形質導入細胞を「再導入する」(reintroducing)旨を規定する本開示の方法において、当然ながら斯かる細胞は、対象の血液から採取された段階では、通常は形質導入された状態ではない。本開示に示す側面の何れかにおいて、対象は例えば動物、哺乳類であってもよく、例示的な態様によればヒトであってもよい。
【0169】
理論に束縛されるものではないが、非限定的な例示の方法によれば、例えば構成的に活性なIL7変異体等、前記T細胞又はNK細胞のゲノムに組み込まれうるリンパ増殖性要素をコードするポリヌクレオチドを、静止T細胞及び/又はNK細胞にエクスビボで送達すると、宿主に対するリンパ球枯渇処理を要することなく、インビボで増加させることが可能な駆動要素を、細胞に付与することが可能となる。即ち、例示的な態様によれば、前記対象がリンパ枯渇剤に露出されない期間は、前記接触前の1、2、3、4、5、6、7、10、14、21、若しくは28日、又は1、2、3、若しくは6ヶ月間、前記接触の間、及び/又は、前記遺伝子操作T細胞及び/又はNK細胞の前記対象への再導入後の1、2、3、4、5、6、7、10、14、21、若しくは28日間、又は、1、2、3、若しくは6ヶ月間である。更に、非限定的な例示の態様によれば、本開示にて提供される方法は、組換レトロウイルスを対象の静止T細胞及び/又は静止NK細胞に接触させる工程の間、及び/又は、エクスビボでの方法の全体を通じて、前記対象をリンパ枯渇剤に暴露することなく実施されるものであってもよい。
【0170】
それゆえ、対象において遺伝子操作T細胞及び/又はNK細胞を増加させるインビボの方法は、本開示の一部態様の特徴である。例示的な態様によれば、斯かる方法は、エクスビボでの増幅を含まず、或いは実質的に増幅を含まない。
【0171】
対象からの血液の採取から、エクスビボでのT細胞及び/又はNK細胞の形質導入を経て、同対象への血液の再導入に至る方法/プロセス全体が、本開示の非限定的な例示の態様によれば、48時間未満、36時間未満、24時間未満、12時間未満、11時間未満、10時間未満、9時間未満、8時間未満、7時間未満、6時間未満、5時間未満、4時間未満、3時間未満、又は2時間未満の期間内に実施される。他の態様によれば、対象からの血液の採取から、エクスビボでのT細胞及び/又はNK細胞の形質導入を経て、同対象への血液の再導入に至る方法/プロセス全体が、本開示の非限定的な例示の態様によれば、1時間~12時間、又は2時間~8時間、又は4時間~12時間、又は4時間~24時間、又は8時間~24時間、又は8時間~36時間、又は8時間~48時間、又は12時間~24時間、又は12時間~36時間、又は12時間~48時間、或いは、下限が15、30、60、90、120、180、及び240分間以上、上限が120、180、及び240、300、360、420、及び480分間以内の期間内に実施される。他の態様によれば、対象からの血液の採取から、エクスビボでのT細胞及び/又はNK細胞の形質導入を経て、同対象への血液の再導入に至る方法/プロセス全体が、下限が1、2、3、4、6、8、10、及び12時間以上、上限が8、9、10、11、12、18、24、36、又は48時間以内の期間内に実施される。ある態様によれば、接触を生じさせる期間の後、前記遺伝子操作T細胞及び/又はNK細胞が前記組換レトロウイルスから分離される。
【0172】
本開示にて提供される養子細胞治療のための方法、並びにこれに関連する、静止T細胞及び/又は静止NK細胞をインビボで増加させる前にエクスビボで改変するための方法は、従来法よりも遙かに短い時間で実施可能であるために、患者の管理及び安全並びに製剤の製造可能性を根本的に改善することが可能となる。従って、斯かるプロセスを治療目的でインビボで実施する場合に、これを認可する責任を有する規制当局の観点からも、斯かるプロセスは好適であると期待できる。例えば、非限定的な例によれば、前記対象は、遺伝子操作T細胞及び/又はNK細胞を患者に再導入するまでの間、試料の処理時を通じて、その血液又は試料を処理する機器と同じ同一の建物(例えば点滴診療所)又は部屋にいることが可能となる。非限定的な例示の態様によれば、前記対象は、対象からの採血後、エクスビボでのT細胞及び/又はNK細胞の形質導入を経て、対象への血液の再導入までの全方法/プロセスを通じて、処理中の血液又は試料と同じ箇所に、及び/又は、そこから100、50、25、又は12フィート、或いは手の届く距離にいることができる。他の非限定的な例示的な態様によれば、対象からの採血後、エクスビボでのT細胞及び/又はNK細胞の形質導入を経て、対象への血液の再導入までの全方法/プロセスを通じて、或いは継続的に、対象が覚醒していることができ、及び/又は、処理中の対象の血液又は細胞を少なくとも一人が監視していればよいこととなる。本開示にて提供される改善ゆえに、養子細胞治療のための、及び/又は、静止T細胞及び/又はNK細胞を形質導入するための方法/プロセス全体が、対象からの採血後、エクスビボでのT細胞及び/又はNK細胞の形質導入を経て、対象への血液の再導入まで、ヒトによる継続的な監視の下で実施されるものであってもよい。他の非限定的な例示的な態様によれば、対象からの採血後、エクスビボでのT細胞及び/又はNK細胞の形質導入を経て、対象への血液の再導入まで、全方法/プロセスを通じて、血液細胞が無人の部屋でインキュベートされることはない。他の非限定的な例示的な態様によれば、対象からの採血後、エクスビボでのT細胞及び/又はNK細胞の形質導入を経て、対象への血液の再導入までの全方法/プロセスが、前記対象のすぐ側で、及び/又は、前記対象と同一の部屋で、及び/又は、前記対象のベッドや椅子の隣で実施される。これにより、試料の素性の取り違えを防止できると共に、数日又は数週間も斯かる長期間の高価なインキュベーションも防止できる。更に、本開示にて提供される方法は、前記対象に再導入される血液試料及びその構成成分が、使い捨ての単回使用の構成要素としか接触しないような、閉鎖型・自動型の血液処理系にも容易に適用可能である。
【0173】
本開示にて提供される養子細胞治療を実施するための方法は、通常は静止T細胞及び/又はNK細胞を形質導入する方法を含む。斯かる方法は、それ自体、本開示の個別の側面を構成する。当業者であれば理解するように、本開示にて提供されるT細胞及び/又はNK細胞の形質導入の詳細は、斯かる工程を含む任意の側面にも適用可能である。従って、特定の側面によれば、本開示では、T細胞及び/又はNK細胞、通常は静止T細胞及び/又は静止NK細胞に対して形質導入を行う方法であって、前記静止T細胞及び/又は静止NK細胞を組換レトロウイルスと接触させ、ここで前記組換レトロウイルスは、通常はその表面に、前記静止T細胞及び/又はNK細胞に結合し、当該細胞に対する組換レトロウイルスの膜融合を促進する能力を有するシュードタイピング要素を含み、ここで前記接触(及び接触条件下でのインキュベーション)により、前記静止T細胞及び/又はNK細胞の前記組換レトロウイルスによる形質導入が促進されることにより、前記遺伝子操作されたT細胞及び/又はNK細胞が産生されることを含む方法が提供される。斯かる方法の更なる態様は、レトロウイルス、リンパ増殖性要素、CAR、シュードタイピング要素、リボスイッチ、活性化要素、膜結合サイトカイン、miRNA、及び/又は、本開示に示す他の要素の態様の何れかを含んでいてもよい。T細胞及び/又はNK細胞に形質導入をするための斯かる方法は、インビトロで実施されるものでもよく、エクスビボで実施されるものでもよい。
【0174】
養子細胞治療のための方法、及び、エクスビボでの静止T細胞及び/又は静止NK細胞の形質導入を含む、本開示にて提供される任意の方法において、前記細胞を組換レトロウイルスに接触させる前に、通常は血液細胞から好中球/顆粒球を分離する。ある態様によれば、例えばT細胞及び/又はNK細胞等の末梢血リンパ球(PBL)を含む末梢血単核細胞(PBMC)を、例えばアフェレーシス及び/又は密度勾配遠心分離等を用いて、血液試料の他の構成成分から分離する。ある態様によれば、PBMC及び/又はT細胞及び/又はNK細胞が処理され、組換レトロウイルスと接触され、形質導入され、又はトランスフェクトされる前に、好中球が除去される。処置の対象との関係において、前記細胞は同種及び/又は自家であってもよい。
【0175】
非限定的な例として、ある態様によれば、PBMCはSepax又はSepax 2細胞処理系(BioSafe)を用いて単離される。ある態様によれば、PBMCはCliniMACS Prodigy Cell Processor(Miltenyi Biotec)を用いて単離される。ある態様によれば、自動型アフェレーシスセパレーターが用いられる。これは、前記対象から血液を採取し、得られた血液から特定の細胞型(例えばPBMC等)を選り分け、残余を対象に戻す装置である。密度勾配遠心分離は、アフェレーシス後に実施されてもよい。ある態様によれば、PBMCは白血球除去(leukoreduction)フィルターデバイスを用いて単離される。ある態様によれば、その後に電磁ビーズ活性化細胞選別法を用いて、細胞表現型(即ち陽性選択)に基づき、特定の細胞集団をPBMC、例えばPBL又はそのサブセット等を精製する。他の精製方法を使用することも可能である。例としては、細胞動員時にT細胞が遭遇する環境を模した基質を用い、T細胞を接着及び遊走させる基質接着法や、不所望の細胞を標的とした抗体複合体を用いて、不所望の細胞を標的化して除去する陰性選択が挙げられる。ある態様によれば、赤血球ロゼット形成(red blood cell rosetting)を用いて細胞を精製してもよい。
【0176】
本開示における関連する側面の何れかの例示的な態様によれば、PBLはT細胞及び/又はNK細胞を含む。本開示の特定の態様、例えばリンパ球を改変する方法や養子細胞治療を実施する方法において、本開示の組換レトロウイルスと接触されるT細胞及び/又はNK細胞は、主に静止T細胞である。ある態様によれば、前記T細胞及び/又はNK細胞は、その95~100%が静止細胞(Ki-67-)からなる。ある態様によれば、組換えレトロウイルスと接触される前記T細胞及び/又はNK細胞のうち静止細胞の割合は、下限が90、91、92、93、94、及び95%以上、上限が96、97、98、99、又は100%以下である。ある態様によれば、前記T細胞及び/又はNK細胞は、ナイーブ細胞を含む。
【0177】
本開示に開示される方法及び組成物のある態様によれば、T細胞及び/又はNK細胞をエクスビボで組換レトロウイルスと接触させ、対象への再導入時に前記対象において標的化された免疫応答を誘発するように、T細胞及び/又はNK細胞を遺伝子的に改変する。接触期間中、前記組換レトロウイルスはT細胞及び/又はNK細胞を識別してこれに結合することで、前記レトロウイルスと宿主細胞膜とが融合し始める。続いて、形質導入のプロセスにより、前記組換レトロウイルスの遺伝物質が前記T細胞及び/又はNK細胞に侵入し、宿主細胞DNAに組み込まれる。レンチウイルスによる形質導入の方法は既知である。斯かる方法例は、例えばWang et al. (2012) J. Immunother. 35(9): 689-701; Cooper et al. (2003) Blood. 101:1637-1644; Verhoeyen et al. (2009) Methods Mol Biol. 506: 97-114; and Cavalieri et al. (2003) Blood. 102(2): 497-505等に記載されている。
【0178】
本開示にて提供される方法の多くは、T細胞及び/又はNK細胞の形質導入を含む。T細胞及び/又はNK細胞をエクスビボでレンチウイルス等のレトロウイルスにより形質導入する方法は、本技術分野で公知である。例示的な態様によれば、本開示にて提供される方法は、エクスビボでの刺激や活性化を要しない。即ち、従来法に共通して必要であったこの工程を、本発明では回避することができる。但し、エクスビボでの刺激分子、例えば抗CD3及び/又は抗CD28ビーズが、前記形質導入時に存在していてもよい。しかし、本開示にて提供される方法の例によれば、エクスビボでの刺激は不要である。特定の例示的な方法によれば、感染多重度(MOI)が3~10、ある態様によればMOI単位5~10のレンチウイルス等のレトロウイルスを使用することができる。
【0179】
前記形質導入反応が、本開示で議論するような閉鎖系、例えばSepax系等であってもよい。ここで、前記形質導入反応を、斯かる系を設定した使い捨て袋の中で実施してもよい。前記対象から採取した血液試料に由来するPBMC等の血液細胞を、前記接触工程(即ち前記形質導入反応)の間は通常は存在しない好中球等の顆粒球からの単離及び/又は精製後すぐに、本開示に示す組換レトロウイルスと袋の中で接触させてもよい。
【0180】
前記レトロウイルスを、単離されたPBMCを入れた袋に投入することにより、PBMCと接触させてもよい。前記対象からの採血後、PBMC等の血液細胞を形質導入反応用袋に投入するまでの時間は、例えば30分間~4時間、30分間~2時間、又は約1時間である。培地や、前記対象に由来するヒト血清アルブミン、ヒトAB+血清、及び/又は、血清等の添加剤を、前記形質導入反応混合物に加えてもよい。培地は通常は存在する。例としては、本技術分野で公知のエクスビボ処理用の培地(非限定的な例として、X-VIVO 15(Lonza)又はCTS培地(Thermo Fisher Scientific)等)が挙げられる。補助用のサイトカインを前記形質導入反応混合物に加えてもよい。例としてはIL2、IL7、又はIL15、或いはHSAに含まれるものが挙げられる。
【0181】
前記形質導入反応混合物は、23~39℃の間で、例示的な態様では37℃でインキュベートすることができる。ある態様によれば、融合/形質導入を早めるために、前記形質導入反応を37~39℃で実施することができる。前記形質導入反応にdGTPを加えても良い。前記形質導入反応混合物は、1~12時間、ある態様によれば6~12時間インキュベートすることができる。形質導入後、前記形質導入T細胞及び/又はNK細胞を前記対象に再注射する前に、前記形質導入反応混合物から前記細胞を洗浄することができる。前記形質導入細胞を前記対象に再注射する前に、斯かる系、例えばSepax機器を用いて、例えば10~50mLの洗浄溶液により、細胞を洗浄することができる。ある態様によれば、PBMC及び/又はT細胞及び/又はNK細胞を処理し、組換レトロウイルスと接触させ、形質導入し、又はトランスフェクトする前に、好中球が除去される。
【0182】
養子細胞治療を実施する例示的な態様によれば、血液を対象から採集して血液袋に入れ、血液袋を細胞処理系、例えばSepax細胞処理系に連結する。前記細胞処理系を用いて単離されたPBMCを、袋に採取し、T細胞及び/又はNK細胞を形質導入するのに十分な条件で前記組換レトロウイルスと接触させ、インキュベートする。インキュベーション後、PBMC及び組換レトロウイルスの混合物を含む袋を細胞処理系に連結し、PBMCを洗浄する。洗浄されたPBMCを袋に採取し、前記対象に再注入する。ある態様によれば、血液の採取から形質導入T及び/又はNK細胞の再注入までの方法全体が、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、15、18、又は24時間内に実施される。例示的な態様によれば、方法全体が12時間以内に実施される。
【0183】
ある態様によれば、前記組換レトロウイルスのための標的細胞はPBLである。ある態様によれば、前記標的細胞はT細胞及び/又はNK細胞である。ある態様によれば、前記T細胞は、ヘルパーT細胞及び/又はキラーT細胞である。
【0184】
ある態様によれば、本開示にて提供される組換レトロウイルスは、その表面に、T細胞及び/又はNK細胞に結合して組換レトロウイルスの膜融合を促進するシュードタイピング要素を有する。他の態様によれば、前記組換レトロウイルスは、その表面に、静止T細胞及び/又はNK細胞に結合する活性化要素を有する。更に他の態様によれば、前記組換レトロウイルスは、その表面に膜結合サイトカインを有する。ある態様によれば、前記組換レトロウイルスは、1又は2以上の改変シグナル伝達ポリペプチドをコードする1又は2以上の転写単位を有するポリヌクレオチドを含み、そのうち1又は2以上はリンパ増殖性要素を含む。他の態様によれば、2つのシグナル伝達ポリペプチドを用いる場合、一方はリンパ増殖性要素を含み、他方は通常は抗原特異的標的化領域(ASTR)、膜貫通ドメイン、及び細胞内活性化ドメインを含むキメラ抗原受容体(CAR)を含む。本開示に示すように、通常は本開示にて提供される組換レトロウイルスの表面と関連付けられた活性化要素は、静止T細胞及び/又はNK細胞と接触することができ、且つ、十分な時間に亘って、且つ静止T細胞及び/又はNK細胞を活性化するのに適切な条件で、接触される。当然ながら、斯かる活性化は、本開示の方法の接触工程の間に亘って生じる。更に、これも当然ではあるが、本開示の方法において、T細胞及び/又はNK細胞に結合するシュードタイピング要素が組換レトロウイルスの表面に存在するある態様によれば、前記シュードタイピング要素の結合によって、活性化が誘導されてもよい。これらの態様において、活性化要素は任意である。
【0185】
シュードタイピング要素、活性化要素、膜結合サイトカイン、改変シグナル伝達ポリペプチド、リンパ増殖性要素、及びCARに関する更なる詳細は、本開示の他の箇所にて提示される。
【0186】
本開示に開示される方法及び組成物のある態様によれば、血液から採取された総リンパ球の5~90%が形質導入される。ある態様によれば、形質導入されるリンパ球の%は、下限が5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、及び60%、上限が50、55、60、65、70、75、80、85、及び90%の間である。ある態様によれば、形質導入されるリンパ球の%は、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、又は少なくとも60%である。
【0187】
本開示に開示される方法及び組成物のある態様によれば、前記遺伝子操作T細胞及び/又はNK細胞は、更なるエクスビボでの操作、例えばT細胞及び/又はNK細胞の刺激及び/又は活性化等を行うことなく、前記対象に戻し導入され、再導入される、又は再注入される。従来技術の方法によれば、前記遺伝子操作T細胞及び/又はNK細胞を前記対象に導入する前に、T細胞及び/又はNK細胞の刺激/活性化のため、又は、遺伝子操作T細胞及び/又はNK細胞の増加のために、エクスビボでの操作が用いられる。従来技術の方法によれば、これは通常は数日から数週間かかるため、初回採血から数日~数週間後に、対象に血液点滴のために再来院してもらう必要がある。本開示に開示される方法及び組成物のある態様によれば、T細胞及び/又はNK細胞を前記組換レトロウイルスに接触させる前に、当該T細胞及び/又はNK細胞は、抗CD3/抗CD28固体支持体、例えば抗CD3/抗CD28被覆ビーズ等への暴露によるエクスビボでの刺激を受けない。それゆえ、本開示では、エクスビボでの増幅を含まない方法が提供される。他の態様によれば、遺伝子操作T細胞及び/又はNK細胞は、エクスビボで増幅されず、又は少数の細胞分裂(例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10回の細胞分裂)分しか増幅されず、代わりにインビボで、即ち前記対象内でのみ、或いは主に前記対象内で増幅される。ある態様によれば、前記細胞の更なる増加を可能とするために、更なる培地を加えることはない。ある態様によれば、PBLを前記組換レトロウイルスと接触させている間、PBLの細胞産生は生じない。例示的な態様によれば、PBLがエクスビボにある間、PBLの細胞産生は生じない。従前の養子細胞治療の方法では、遺伝子操作T細胞及び/又はNK細胞の再点滴の前に、対象にリンパ球枯渇を実施しない。ある態様によれば、採血の前に、患者又は対象にリンパ球枯渇を実施しない。ある態様によれば、遺伝子操作T細胞及び/又はNK細胞の再点滴の前に、患者又は対象にリンパ球枯渇を実施しない。
【0188】
本発明に開示される態様の何れかによれば、対象に再導入されるT細胞及び/又はNK細胞の数は、下限が1×103、2.5×103、5×103、1×104、2.5×104、5×104、1×105、2.5×105、5×105、1×106、2.5×106、5×106、及び1×107細胞/kg、上限が5×104、1×105、2.5×105、5×105、1×106、2.5×106、5×106、1×107、2.5×107、5×107、及び1×108細胞/kgの範囲である。例示的な態様によれば、対象に再導入されるT細胞及び/又はNK細胞の数は、下限が1×104、2.5×104、5×104、及び1×105細胞/kg、上限が2.5×104、5×104、1×105、2.5×105、5×105、及び1×106細胞/kgの範囲である。ある態様によれば、対象に再導入されるPBLの数は、下限が5×105未満、1×106、2.5×106、5×106、1×107、2.5×107、5×107、及び1×108細胞、上限が2.5×106、5×106、1×107、2.5×107、5×107、1×108、2.5×108、5×108、及び1×109細胞の範囲であってもよい。ある態様によれば、70kgの対象又は患者への再点滴に使用できるT細胞及び/又はNK細胞の数は、7×105~2.5×108細胞である。他の態様によれば、形質導入に使用できるT細胞及び/又はNK細胞の数は、約7×106±10%である。
【0189】
本開示に示す方法によれば、採血から遺伝子操作T細胞及び/又はNK細胞の再点滴までの養子細胞治療手順全体を、従前の方法よりも短い時間で実施することができ、有利である。ある態様によれば、養子細胞治療手順全体が、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、15、18、又は24時間未満の時間で実施されるものであってもよい。例示的な態様によれば、養子細胞治療手順全体が、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、又は12時間未満の時間で実施されるものであってもよい。ある態様によれば、養子細胞治療手順全体が、下限が1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、又は15時間、上限が1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、15、18、又は24時間の範囲で実施されるものであってもよい。
【0190】
本開示にて提供されるある態様によれば、対象から血液試料を採集し、T細胞及び/又はNK細胞を組換レトロウイルスと接触させ、及び/又は、遺伝子操作T細胞及び/又はNK細胞を前記対象に導入する工程は、閉鎖系で行われる。閉鎖系は、汚染に対して概ね或いは完全に閉鎖されている培養プロセスである。本発明の利点の一つは、本開示ではCAR治療を閉鎖系で行う方法が提供されるという点である。前記細胞処理手順の安全性及び取締管理における最大のリスクの一つは、従来の開放細胞培養系に見られるような環境への頻繁な暴露による汚染のリスクである。特に抗生物質の不在下において斯かるリスクを軽減するため、使い捨て(単回使用)器具の使用に焦点を当てた市販のプロセスが開発されてきた。しかし、たとえ無菌条件下でこうした器具を使用しても、成長培地をサンプルし、或いは追加の成長培地を加えるために、フラスコを開放することに伴う汚染のリスクは常に存在する。斯かる課題を克服するために、本開示では閉鎖系プロセス、即ち、製品が外部環境に暴露されないように設計され、そのように操作可能なプロセスが提供される。外部環境は通常は無菌ではないから、これは重要である。材料の移送は無菌連結部又は管溶接を通じて行う。期待交換用の通気は、環境暴露を避けるために、気体透過性膜等の他の追加部品を用いて、0.2μmのフィルターを通じて行われる。
【0191】
ある態様によれば、前記閉鎖系は、前記対象のインビボ循環系に連結されたエクスビボ循環系を含む。これにより、血液が採取されると、前記対象に再導入される前に、エクスビボ循環系で循環される。ある態様によれば、エクスビボ循環系は、PBLを単離するための系又は装置、及び/又は、T細胞及び/又はNK細胞を単離するための系又は装置を、前記細胞を前記組換レトロウイルスに暴露させるための系又は装置との組み合わせで含む。ある態様によれば、前記閉鎖系は、前記T細胞及び/又はNK細胞を外気に暴露することはない。
【0192】
斯かる閉鎖系の方法は、市販のデバイスを用いて実施してもよい。例えば、前記方法を、閉鎖系でのT細胞産生に適合したデバイスで実施してもよい。斯かるデバイスは、G-Rex(登録商標)、WAVE Bioreactor(登録商標)、OriGen PermaLife(登録商標)バッグ、及びVueLife(登録商標)バッグを含む。
【0193】
本開示に開示される方法及び組成物のある態様によれば、遺伝子操作T細胞及び/又はNK細胞は対象内で、本開示にて提示されるインビボ制御要素に結合する化合物に暴露される。ここで、前記インビボ制御要素は、前記組換レトロウイルスにより導入される遺伝物質の一部である。ある態様によれば、前記インビボ制御要素がリボスイッチであってもよく、前記化合物が前記リボスイッチの前記アプタマードメインに結合してもよい。ある態様によれば、前記インビボ制御要素が、分子シャペロンであってもよい。本発明に開示される態様の何れかによれば、前記化合物が、ヌクレオシド類似体であってもよい。ある態様によれば、前記ヌクレオシド類似体が、でヌクレオシド類似体抗ウイルス薬あってもよい。ここで抗ウイルス薬とは、米国食品医薬品局により抗ウイルス治療用に承認された化合物、又は、米国で抗ウイルス臨床試験に供された化合物である。例示的な態様によれば、前記化合物が、アシクロビル又はペンシクロビルであってもよい。ある態様によれば、前記化合物が、ファムシクロビル(ペンシクロビルの経口プロドラッグ)又はバラシクロビル(アシクロビルの経口プロドラッグ)であってもよい。前記化合物が前記インビボ制御要素に結合すると、導入された遺伝物質の発現に影響を与え、惹いては遺伝子操作T細胞及び/又はNK細胞の増幅に影響を与える。
【0194】
ある態様によれば、前記ヌクレオシド類似体抗ウイルス薬又はプロドラッグ、例えばアシクロビル、バラシクロビル、ペンシクロビル、又はファムシクロビルは、前記対象の血液からのPBLの単離の前、単離と同時、及び/又は、単離の後に、また、T細胞及び/又はNK細胞を組換レトロウイルスと接触させる前に、前記対象に投与される。ある態様によれば、前記ヌクレオシド類似体抗ウイルス薬又はプロドラッグは、血液からのPBLの単離の前、又は、T細胞及び/又はNK細胞の組換レトロウイルスとの接触の前、下限が5、10、15、30、及び60分間、上限が1.5、2、3、4、5、6、8、12、又は24時間の範囲の時間内に、前記対象に投与される。他の態様によれば、前記ヌクレオシド類似体抗ウイルス薬又はプロドラッグは、本開示にて提供される方法による血液からのPBLの単離、並びに、T細胞及び/又はNK細胞の組換レトロウイルスとの接触の後、下限が1.5、2、3、4、5、6、8、12、又は24時間、上限が1/2、1、2、3、4、5、6、7、10、14、21、又は28日間の範囲の時間内に、前記対象に投与される。ある態様によれば、前記ヌクレオシド類似体抗ウイルス薬又はプロドラッグは、本開示にて提供される方法による血液からのPBLの単離、並びに、T細胞及び/又はNK細胞の組換レトロウイルスとの接触の後、少なくとも1.5、2、3、4、5、6、8、12、又は24時間、又は少なくとも2、3、4、5、6、7、10、14、21、又は28日間に亘って、前記対象に投与される。ある態様によれば、前記ヌクレオシド類似体抗ウイルス薬又はプロドラッグは、PBLの前記対象への再注入後、少なくとも1、2、3、4、5、7、10、14、21、28、30、60、90、又は120日間、或いは、5、6、9、12、24、36、48、60、72、84、96、120ヶ月に亘って、或いは無期限の間だ、前記対象に投与される。本発明に開示される態様の何れかによれば、前記ヌクレオシド類似体抗ウイルス薬又はプロドラッグは、PBLの再点滴の前、及び/又は、PBLの再点滴の間、及び/又は、PBLの再注入の後に投与されてもよい。
【0195】
ある態様によれば、前記インビボ制御要素に結合する化合物は、毎日1回、2回、3回、又は4回、前記対象に投与される。ある態様によれば、一日用量の前記化合物が1週間、2週間、4週間、3ヶ月、6ヶ月、1年に亘って、或いは対象の疾患、例えば癌が無くなるまで、又は無期限に亘って投与される。例示的な態様によれば、斯かる薬物は、ヌクレオシド類似体に結合するヌクレオシド類似体抗ウイルス薬、例えばリボスイッチである。斯かる薬物の更なる詳細は、本開示にて提供される。
【0196】
小分子薬物と生物製剤の何れについても、薬物を送達する方法は本技術分野で公知であり、斯かる方法を本開示にて提供される方法において使用してもよい。任意の斯かる方法を、本発明の方法に使用するための薬物又は候補化合物又は抗体に使用することができる。一般的な投与経路の例としては、非侵襲的経口(口を介した経路)、局所(皮膚)、経粘膜(経鼻、口腔内/舌下、経膣、眼内、及び直腸内)、並びに吸入経路が挙げられる。多くのタンパク質及びペプチド薬物、例えばモノクローナル抗体等は、注射又はナノニードルアレイにより送達する必要がある。例えば、多くの免疫接種はタンパク質薬物の送達に基づいており、注射で投与されることが多い。
【0197】
改変シグナル伝達ポリペプチド
ある態様によれば、T細胞及び/又はNK細胞への接触に用いられる組換レトロウイルスは、1又は2以上の改変シグナル伝達ポリペプチドをコードする1又は2以上の転写単位を有するポリヌクレオチドを有し、そのうち1又は2以上はリンパ増殖性要素を含む。ある態様によれば、シグナル伝達ポリペプチドは、以下の何れかの組み合わせを含む:細胞外抗原結合ドメイン(又は抗原特異的標的化領域若しくはASTR)、柄部、膜貫通ドメイン、細胞内活性化ドメイン、リンパ増殖性要素、調節ドメイン(例えば共刺激ドメイン)、及びT細胞生存モチーフ。例示的な態様によれば、改変シグナル伝達ポリペプチドの少なくとも1つ、2つ、又は全てがCARである。ある態様によれば、2つのシグナル伝達ポリペプチドを用いる場合、一方がリンパ増殖性要素をコードし、他方が、抗原特異的標的化領域(ASTR)、膜貫通ドメイン、及び細胞内活性化ドメインを含むキメラ抗原受容体(CAR)をコードする。他の態様によれば、CARが、抗原特異的標的化領域に連結されたリンパ増殖性要素を含んでいてもよい。他の態様によれば、前記リンパ増殖性要素が構成的に活性なインターロイキン受容体、例えばIL-7Rαの既知の変異体である場合、結合はリガンドの存在に依存しないので、抗原特異的標的化領域は必要とされない。当業者であれば斯かる系を再構成して、前記リンパ増殖性要素及び前記CARを個別のポリヌクレオチドに、類似又は非類似の制御要素と共に配置し、本開示に開示される方法及び組成物に供することが可能である。当業者であれば理解するように、斯かる改変ポリペプチドを、組換ポリペプチドと呼ぶことも可能である。
【0198】
抗原特異的標的化領域
ある態様によれば、改変シグナル伝達ポリペプチドは、特異結合対の部分を含む。これは通常はASTRであるが、本開示では抗原結合ドメインと呼ぶ場合もある。特異結合対としては、これらに限定されるものではないが、抗原抗体結合対、リガンド受容体結合対等が挙げられる。即ち、本開示の改変シグナル伝達ポリペプチドに適した特異結合対の部分は、抗体、抗原、リガンド、リガンドの受容体結合ドメイン、受容体、受容体のリガンド結合ドメイン、及びアフィボディ(affibody)であるASTRを含む。
【0199】
本開示の改変シグナル伝達ポリペプチドにおける使用に適したASTRは、任意の抗原結合性ポリペプチドであってもよい。ある態様によれば、前記ASTRは、抗体、例えば全長抗体、単鎖抗体、Fab断片、Fab’断片、(Fab’)2断片、Fv断片、及び、二価単鎖抗体又は二重特異性抗体(diabody)である。
【0200】
ある態様によれば、前記ASTRは、単鎖Fv(scFv)である。ある態様によれば、前記重鎖は、前記改変シグナル伝達ポリペプチドにおける前記軽鎖のN末端側に位置する。他の態様によれば、前記軽鎖は、前記改変シグナル伝達ポリペプチドにおける前記重鎖のN末端側に位置する。本開示の態様の何れかによれば、本開示においてより詳細に論じるように、前記重鎖及び軽鎖が、リンカーにより隔てられていてもよい。本開示の態様の何れかによれば、前記重鎖又は軽鎖が、前記改変シグナル伝達ポリペプチドのN末端側に存在してもよく、通常は 他のドメイン、例えばシグナル配列又はペプチドのC末端側にある。
【0201】
他の抗体系認識ドメイン(cAb VHH(ラクダ科抗体可変ドメイン)及びそのヒト化版、IgNAR VH(サメ抗体可変ドメイン)及びそのヒト化版、sdAb VH(単一ドメイン抗体可変ドメイン)及びラクダ科化(camelized)抗体可変ドメインも、前記改変シグナル伝達ポリペプチドと共に、本開示の改変シグナル伝達ポリペプチドを用いた方法における使用に適している。ある例によれば、T細胞受容体(TCR)系認識ドメイン、例えば単鎖TCR(scTv、VαVβを含む単鎖二ドメインTCR)も、使用に適している。
【0202】
ある態様によれば、前記ASTRが多重特異的抗体、例えば二重特異的抗体であってもよい。多重特異的抗体は、少なくとも2つの異なる部位に対する結合特異性を有する。ある態様によれば、斯かる結合特異性の一方は、ある標的抗原に対するものであり、他方は他の標的抗原に対するものである。ある態様によれば、二重特異的抗体は、ta標的抗原の2つの異なるエピトープに結合してもよい。また、二重特異的抗体を用いて、標的抗原を発現する細胞に細胞毒性剤を局在化させてもよい。二重特異的抗体は、全長抗体として調製してもよく、抗体断片として調製してもよい。
【0203】
本開示の改変シグナル伝達ポリペプチドにおける使用に適したASTRは、種々の抗原結合特異性を有していてもよい。ある例によれば、前記抗原結合ドメインは、標的細胞により発現(合成)される抗原に存在するエピトープに特異的である。一例によれば、前記標的細胞は、癌細胞関連抗原である。癌細胞関連抗原としては、例えば、乳癌細胞、B細胞リンパ腫、ホジキンリンパ腫細胞、卵巣癌細胞、前立腺癌細胞、中皮腫、肺癌細胞(例えば小細胞性肺癌細胞)、非ホジキンB-細胞リンパ腫(B-NHL)細胞、卵巣癌細胞、前立腺癌細胞、中皮腫細胞、肺癌細胞(例えば、小細胞 肺癌細胞)、メラノーマ細胞、慢性 リンパ球性白血病細胞、急性リンパ球性白血病細胞、神経芽細胞腫細胞、グリオーマ、膠芽腫、髄芽腫、大腸癌細胞等に関連する抗原が挙げられる。癌細胞関連抗原は、非癌性細胞が発現するものであってもよい。
【0204】
改変シグナル伝達ポリペプチドのASTRが結合可能な抗原の非限定的な例としては、例えば、CD19、CD20、CD38、CD30、ERBB2、CA125、MUC-1、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、CD44 表面接着分子、メソテリン、癌胎児性抗原(CEA)、上皮成長因子受容体(EGFR)、EGFRvIII、血管内皮成長因子受容体-2(VEGFR2)、高分子メラノーマ関連抗原(HMW-MAA)、MAGE-Al、IL-13R-a2、GD2、Axl、Ror2等が挙げられる。
【0205】
ある例によれば、改変シグナル伝達ポリペプチドでの使用に適した特異結合対の要素は、受容体のリガンドであるASTRである。リガンドとしては、これらに限定されるものではないが、サイトカイン(例えばIL-13等);成長因子(例えばヘレグリン(heregulin);血管内皮成長因子(VEGF)等);インテグリン結合ペプチド(例えば配列Arg-Gly-Aspを含むペプチド)等が挙げられる。
【0206】
改変シグナル伝達ポリペプチドにおける特異結合対の要素がリガンドである場合、前記改変シグナル伝達ポリペプチドは、前記特異結合対の第2の要素の存在下で活性化されるものであってもよく、ここで特異結合対の第2の要素は、前記リガンドの受容体である。例えば前記リガンドがVEGFである場合、特異結合対の第2の要素が、可溶性VEGF受容体等のVEGF受容体であってもよい。
【0207】
前記のように、ある例によれば、改変シグナル伝達ポリペプチドに含まれる特異結合対の要素は、例えばリガンド受容体、共受容体等の受容体であるASTRである。前記受容体は、受容体のリガンド結合断片であってもよい。適切な受容体としては、これらに限定されるものではないが、成長因子受容体(例えばVEGF受容体);キラー細胞レクチン様受容体サブファミリーK、メンバー1(NKG2D)ポリペプチド(MICA、MICB、及びULB6の受容体);サイトカイン受容体(例えばIL-13受容体;IL-2受容体等);CD27;天然細胞毒性受容体(NCR)(例えばNKP30(NCR3/CD337)ポリペプチド(受容体 for HLA-B関連転写産物3(BAT3)及びB7-H6)等)等が挙げられる。
【0208】
柄部
ある態様によれば、前記改変シグナル伝達ポリペプチドは、柄部を含む。斯かる柄部は、前記改変シグナル伝達ポリペプチドの細胞外に存在するASTRと膜貫通ドメインとの間の部分に存在する。ある例によれば、前記柄部は、野生型CD8柄部領域(TTTPAPRPPTPAPTIASQPLSLRPEACRPAAGGAVHTRGLDFA)(配列番号79)と少なくとも85、90、95、96、97、98、99、又は100%同一性を有し、野生型CD28柄部領域(FCKIEVMYPPPYLDNEKSNGTIIHVKGKHLCPSPLFPGPSKP)(配列番号80)と少なくとも85、90、95、96、97、98、99、又は100%同一性を有し、又は、野生型免疫グロブリン重鎖柄部領域と少なくとも85、90、95、96、97、98、99、又は100%同一性を有する。改変シグナル伝達ポリペプチドにおいて、斯かる柄部を使用することにより、前記抗原特異的標的化領域、通常は改変シグナル伝達ポリペプチド全体の、標的抗原に対する高い結合性を維持することが可能となる。
【0209】
前記柄部領域は、約4アミノ酸~約50アミノ酸、例えば、約4aa~約10aa、約10aa~約15aa、約15aa~約20aa、約20aa~約25aa、約25aa~約30aa、約30aa~約40aa、又は約40aa~約50aaの長さを有していてもよい。
【0210】
ある例によれば、改変シグナル伝達ポリペプチドの柄部は、少なくとも1つのシステインを含む。例えば、ある例によれば、前記柄部が、前記配列Cys-Pro-Pro-Cys(配列番号62)を含んでいてもよい。存在する場合、第1の改変シグナル伝達ポリペプチドの柄部のシステインは、第2の改変シグナル伝達ポリペプチドの柄部とのジスルフィド結合に利用可能であってもよい。
【0211】
柄部は、本技術分野で公知の免疫グロブリンのヒンジ領域のアミノ酸配列を含んでいてもよい。例えばTan et al. (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:162; and Huck et al. (1986) Nucl. Acids Res. 14:1779を参照のこと。非限定的な例として、免疫グロブリンのヒンジ領域が、以下のアミノ酸配列の何れかのうち少なくとも10、15、20、又は全てのアミノ酸に対して、少なくとも50、60、70、75、80、85、90、95、96、97、98、99又は100%の配列同一性を有するドメインを含んでいてもよい。DKTHT(配列番号63);CPPC(配列番号62);CPEPKSCDTPPPCPR(配列番号64)(例えばGlaser et al. (2005) J. Biol. Chem. 280:41494参照);ELKTPLGDTTHT(配列番号65);KSCDKTHTCP(配列番号66);KCCVDCP(配列番号67);KYGPPCP(配列番号68);EPKSCDKTHTCPPCP(配列番号69)(ヒトIgG1ヒンジ);ERKCCVECPPCP(配列番号70)(ヒトIgG2ヒンジ);ELKTPLGDTTHTCPRCP(配列番号71)(ヒトIgG3ヒンジ);SPNMVPHAHHAQ(配列番号72)(ヒトIgG4ヒンジ)等。前記柄部が、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、又はIgG4のヒンジ領域のアミノ酸配列を有するヒンジ領域を含んでいてもよい。前記柄部が、野生型(天然)ヒンジ領域と比べて、1又は2以上のアミノ酸の置換及び/又は挿入及び/又は欠失を含んでいてもよい。例えば、ヒトIgG1ヒンジのHis229が、Tyrで置換されていてもよい。この場合、前記柄部は、配列EPKSCDKTYTCPPCPを含む(例えばYan et al. (2012) J. Biol. Chem. 287:5891参照)。前記柄部が、ヒトCD8由来のアミノ酸配列を含んでいてもよい。例えば、前記柄部が、アミノ酸配列TTTPAPRPPTPAPTIASQPLSLRPEACRPAAGGAVHTRGLDFACD(配列番号73)、又はその変異体を含んでいてもよい。
【0212】
膜貫通ドメイン
本開示の改変シグナル伝達ポリペプチドは、真核細胞膜に挿入される膜貫通ドメインを含んでいてもよい。斯かる膜貫通ドメインは、前記ASTRと前記共刺激ドメイントの間に介挿されていてもよい。前記膜貫通ドメインは、前記柄部と前記共刺激ドメイントの間に介挿されていてもよい。この場合、前記キメラ抗原受容体は、アミノ末端(N末端)側からカルボキシル末端(C末端)側に向かって、ASTR;柄部;膜貫通ドメイン、及び活性化ドメインを含むことになる。
【0213】
ポリペプチドを真核(例えば哺乳類)細胞の細胞膜へ挿入させることが可能な膜貫通(TM)ドメインは、本開示に示す側面及び態様における使用に適している。本開示にて提供される側面又は態様の何れかに適したTMドメインの非限定的な例としては、以下の何れかのTMドメインの少なくとも10、15、20、又は全てのアミノ酸と少なくとも50、60、70、75、80、85、90、95、96、97、98、99又は100%の配列同一性を有するドメインが挙げられる。a)CD* α(IYIWAPLAGTCGVLLLSLVITLYC(配列番号46));b)CD8 β(LGLLVAGVLVLLVSLGVAIHLCC(配列番号47));c)CD4(ALIVLGGVAGLLLFIGLGIFFCVRC(配列番号48));d)CD3Z(LCYLLDGILFIYGVILTALFLRV(配列番号49);e)CD28(FWVLVVVGGVLACYSLLVTVAFIIFWV(配列番号50));f)CD134(OX40):(VAAILGLGLVLGLLGPLAILLALYLL(配列番号51));g)CD7(ALPAALAVISFLLGLGLGVACVLA(配列番号52))、h)CD8 TTTPAPRPPTPAPTIASQPLSLRPEACRPAAGGAVHTRGLDFACDIYIWAPLAGTCGVLLLSLVITLYC(配列番号75)、及びi)CD28 IEVMYPPPYLDNEKSNGTIIHVKGKHLCPSPLFPGPSKPFWVLVVVGGVLACYSLLVTVAFIIFWV(配列番号76)。
【0214】
非限定的な例として、本発明の一側面の膜貫通ドメインは、前記配列番号46膜貫通ドメイン、前記CD8β膜貫通ドメイン、前記CD4膜貫通ドメイン、前記CD3ζ膜貫通ドメイン、前記CD28膜貫通ドメイン、前記CD134膜貫通ドメイン、又は前記CD7膜貫通ドメインに対し、少なくとも80、90、又は95%の配列同一性を有していてもよい。
【0215】
細胞内活性化ドメイン
本開示の改変シグナル伝達ポリペプチドにおける使用に適した細胞内活性化ドメインは、活性化されると、通常は1又は2以上のサイトカインの産生;細胞死の増加;及び/又は、CD8+T細胞、CD4+T細胞、ナチュラルキラーT細胞、γδT細胞、及び/又は、好中球の増殖促進を誘導する。本開示では、活性化を行うドメイン(activating domain)を活性化ドメイン(activation domain)と言う場合もある。
【0216】
ある態様によれば、前記細胞内活性化ドメインは、以下に説明するITAMモチーフを少なくとも1つ(例えば1、2、3、4、5、6等)含む。ある態様によれば、前記細胞内活性化ドメインは、DAP10/CD28型シグナル伝達鎖を含む。ある態様によれば、前記細胞内活性化ドメインは、膜結合改変シグナル伝達ポリペプチドに共有結合されておらず、代わりに細胞質内に拡散している。非限定的な例として、本発明の一側面の細胞内活性化ドメインは、以下に説明するCD3Z、CD3D、CD3E、CD3G、CD79A、DAP12、FCERlG、DAP10/CD28、又はZAP70ドメインに対して、少なくとも80%、90%、又は95%の配列同一性を有していてもよい。
【0217】
本開示の改変シグナル伝達ポリペプチドにおける使用に適した細胞内活性化ドメインとしては、免疫受容体チロシン系活性化モチーフ(ITAM)含有細胞内シグナル伝達ポリペプチドが挙げられる。ITAMモチーフはYX1X2L/Iで表される。ここでX1及びX2は各々独立に任意のアミノ酸である。ある例によれば、改変シグナル伝達ポリペプチドの細胞内活性化ドメインは、1、2、3、4、又は5つのITAMモチーフを含む。ある例によれば、細胞内活性化ドメイン内にITAMモチーフは2度反復して登場し、第1及び第2のITAMモチーフは6~8のアミノ酸により互いに隔てられている。例えば、(YX1X2L/I)(X3)n(YX1X2L/I)となる。ここでnは6~8の整数であり、6~8個のX3は各々、任意のアミノ酸であってよい。ある例によれば、改変シグナル伝達ポリペプチドの細胞内活性化ドメインは、3つのITAMモチーフを含む。
【0218】
適切な細胞内活性化ドメインは、ITAMモチーフを含むポリペプチドに由来するITAMモチーフ含有部分であってもよい。例えば、適切な細胞内活性化ドメインは、任意のITAMモチーフ含有タンパク質由来のITAMモチーフ含有ドメインであってもよい。即ち、適切な細胞内活性化ドメインは、その元となる完全タンパク質の全長配列を含む必要はない。適切なITAMモチーフ含有ポリペプチドの例としては、これらに限定されるものではないが、CD3Z(CD3ζ);CD3D(CD3Δ);CD3E(CD3ε);CD3G(CD3γ);CD79A(抗原受容体複合体関連タンパク質α鎖);DAP12;及びFCERlG(Fcε受容体Iγ鎖)等が挙げられる。
【0219】
ある例によれば、前記細胞内活性化ドメインは、T細胞表面糖タンパク質CD3ζ鎖(別名CD3Z、T細胞受容体T3ζ鎖、CD247、CD3-ZETA、CD3H、CD3Q、T3Z、TCRZ等)に由来する。例えば、適切な細胞内活性化ドメインは、以下のアミノ酸配列(2アイソフォーム)のうち少なくとも10、15、20、又は全てのアミノ酸に対し、或いは、以下のアミノ酸配列の何れかに由来する約100アミノ酸~約110アミノ酸(aa)、約110aa~約115aa、約115aa~約120aa、約120aa~約130aa、約130aa~約140aa、約140aa~約150aa、又は約150aa~約160aaの連続した配列に対して、少なくとも50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の配列同一性を有するドメインを含んでいてもよい。
【表A】
式中ITAMモチーフを太字下線で示す。
【0220】
同様に、適切な細胞内活性化ドメインポリペプチドは、全長CD3ζアミノ酸配列のITAMモチーフ含有部分を含んでいてもよい。即ち、適切な細胞内活性化ドメインは、以下の配列のうち少なくとも10、15、20、又は全てのアミノ酸に対し、或いは、以下のアミノ酸配列の何れかに由来する約100アミノ酸~約110アミノ酸(aa)、約110aa~約115aa、約115aa~約120aa、約120aa~約130aa、約130aa~約140aa、約140aa~約150aa、又は約150aa~約160aaの連続した配列に対し、少なくとも50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の配列同一性を有するドメインを含んでいてもよい。
【表B】
式中ITAMモチーフを太字下線で示す。
【0221】
ある例によれば、前記細胞内活性化ドメインが、T細胞表面糖タンパク質CD3Δ鎖(別名CD3D;CD3-DELTA;T3D;CD3抗原、Δサブユニット;CD3Δ;CD3d抗原、Δポリペプチド(TiT
3複合体);OKT3、Δ鎖;T細胞受容体T3Δ鎖;T細胞表面糖タンパク質CD3Δ鎖等)に由来する。即ち、適切な細胞内活性化ドメインは、以下の配列のうち少なくとも10、15、20、又は全てのアミノ酸に対し、或いは、以下のアミノ酸配列の何れかに由来する約100アミノ酸~約110アミノ酸(aa)、約110aa~約115aa、約115aa~約120aa、約120aa~約130aa、約130aa~約140aa、約140aa~約150aa、又は約150aa~約160aaの連続した配列に対し、少なくとも50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の配列同一性を有するドメインを含んでいてもよい。
【表C】
式中ITAMモチーフを太字下線で示す。
【0222】
同様に、適切な細胞内活性化ドメインポリペプチドは、全長CD3Δアミノ酸配列のITAMモチーフ含有部分を含んでいてもよい。即ち、適切な細胞内活性化ドメインは、以下の配列の少なくとも10、15、20、又は全てのアミノ酸に対し、少なくとも50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の配列同一性を有するドメインを含んでいてもよい。
【表D】
式中ITAMモチーフを太字下線で示す。
【0223】
ある例によれば、前記細胞内活性化ドメインは、T細胞表面糖タンパク質CD3ε鎖(別名CD3e、T細胞表面抗原T3/Leu-4ε鎖、T細胞表面糖タンパク質CD3ε鎖、AI504783、CD3、CD3ε、T3e等)に由来する。即ち、適切な細胞内活性化ドメインは、以下の配列のうち少なくとも10、15、20、又は全てのアミノ酸に対し、或いは、以下のアミノ酸配列に由来する約100アミノ酸~約110アミノ酸(aa)、約110aa~約115aa、約115aa~約120aa、約120aa~約130aa、約130aa~約140aa、約140aa~約150aa、又は約150aa~約160aa連続した配列に対し、少なくとも50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の配列同一性を有するドメインを含んでいてもよい。
【表E】
式中ITAMモチーフを太字下線で示す。
【0224】
同様に、適切な細胞内活性化ドメインポリペプチドは、全長CD3εアミノ酸配列のITAMモチーフ含有部分を含んでいてもよい。即ち、適切な細胞内活性化ドメインは、以下の配列のうち少なくとも10、15、20、又は全てのアミノ酸に対し、少なくとも50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の配列同一性を有するドメインを含んでいてもよい。
【表F】
式中ITAMモチーフを太字下線で示す。
【0225】
ある例によれば、前記細胞内活性化ドメインは、T細胞表面糖タンパク質CD3γ鎖(別名CD3G、T細胞受容体T3γ鎖、CD3-GAMMA、T3G、γポリペプチド(TiT3複合体)等)に由来する。即ち、適切な細胞内活性化ドメインは、以下の配列のうち少なくとも10、15、20、又は全てのアミノ酸に対し、或いは、以下のアミノ酸配列に由来する約100アミノ酸~約110アミノ酸(aa)、約110aa~約115aa、約115aa~約120aa、約120aa~約130aa、約130aa~約140aa、約140aa~約150aa、又は約150aa~約160aaの連続した配列に対し、少なくとも50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の配列同一性を有するドメインを含んでいてもよい。
【表G】
式中ITAMモチーフを太字下線で示す。
【0226】
同様に、適切な細胞内活性化ドメインポリペプチドは、全長CD3γアミノ酸配列のITAMモチーフ含有部分を含んでいてもよい。即ち、適切な細胞内活性化ドメインは、以下の配列のうち少なくとも10、15、20、又は全てのアミノ酸に対し、少なくとも50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の配列同一性を有するドメインを含んでいてもよい。
【表H】
式中ITAMモチーフを太字下線で示す。
【0227】
ある例によれば、前記細胞内活性化ドメインは、CD79A(別名B-細胞抗原受容体複合体関連タンパク質α鎖;CD79a抗原(免疫グロブリン関連α);MB-1膜糖タンパク質;Ig-α;膜結合免疫グロブリン関連タンパク質;表面IgM関連タンパク質等)に由来する。即ち、適切な細胞内活性化ドメインは、以下の配列のうち少なくとも10、15、20、又は全てのアミノ酸に対して、或いは、以下の何れかのアミノ酸配列に由来する約100アミノ酸~約110アミノ酸(aa)、約110aa~約115aa、約115aa~約120aa、約120aa~約130aa、約130aa~約140aa、約140aa~約150aa、又は約150aa~約160aaの連続した配列に対して、少なくとも50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の配列同一性を有するドメインを含んでいてもよい。
【表I】
式中ITAMモチーフを太字下線で示す。
【0228】
同様に、適切な細胞内活性化ドメインポリペプチドは、全長CD79Aアミノ酸配列のITAMモチーフ含有部分を含んでいてもよい。即ち、適切な細胞内活性化ドメインは、以下の配列のうち少なくとも10、15、20、又は全てのアミノ酸に対し、少なくとも50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の配列同一性を有するドメインを含んでいてもよい。
【表J】
式中ITAMモチーフを太字下線で示す。
【0229】
ある例によれば、前記細胞内活性化ドメインは、DAP12(別名TYROBP;TYROタンパク質チロシンキナーゼ結合タンパク質;KARAP;PLOSL;DNAX-活性化タンパク質12;KAR関連タンパク質;TYROタンパク質チロシンキナーゼ結合タンパク質;キラー活性化受容体関連タンパク質;キラー活性化受容体関連タンパク質等)に由来する。例えば、適切な細胞内活性化ドメインは、以下の配列のうち少なくとも10、15、20、又は全てのアミノ酸に対して、或いは、以下のアミノ酸配列の何れかに由来する約100アミノ酸~約110アミノ酸(aa)、約110aa~約115aa、約115aa~約120aa、約120aa~約130aa、約130aa~約140aa、約140aa~約150aa、又は約150aa~約160aaの連続した配列に対して、少なくとも50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の配列同一性を有するドメインを含んでいてもよい(4アイソフォーム)。
【表K】
式中ITAMモチーフを太字下線で示す。
【0230】
同様に、適切な細胞内活性化ドメインポリペプチドは、全長DAP12アミノ酸配列のITAMモチーフ含有部分を含んでいてもよい。即ち、適切な細胞内活性化ドメインは、以下の配列のうち少なくとも10、15、20、又は全てのアミノ酸に対し、少なくとも50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の配列同一性を有するドメインを含んでいてもよい。
【表L】
式中ITAMモチーフを太字下線で示す。
【0231】
ある例によれば、前記細胞内活性化ドメインは、FCERlG(別名FCRG;Fcε受容体Iγ鎖;Fc受容体γ-鎖;fc-εRI-γ;fcRγ;fceRIγ;高親和性免疫グロブリンε受容体サブユニットγ;免疫グロブリンE受容体、高親和性、γ鎖等)に由来する。例えば、適切な細胞内活性化ドメインは、以下の配列のうち少なくとも10、15、20、又は全てのアミノ酸に対して、或いは、以下のアミノ酸配列に由来する約50アミノ酸~約60アミノ酸(aa)、約60aa~約70aa、約70aa~約80aa、又は約80aa~約88aaの連続した配列に対して、少なくとも50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の配列同一性を有するドメインを含んでいてもよい。
【表M】
式中ITAMモチーフを太字下線で示す。
【0232】
同様に、適切な細胞内活性化ドメインポリペプチドは、全長FCER1Gアミノ酸配列のITAMモチーフ含有部分を含んでいてもよい。即ち、適切な細胞内活性化ドメインは、以下の配列のうち少なくとも10、15、20、又は全てのアミノ酸に対し、少なくとも50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の配列同一性を有するドメインを含んでいてもよい。
【表N】
式中ITAMモチーフを太字下線で示す。
【0233】
本開示の改変シグナル伝達ポリペプチドにおける使用に適した細胞内活性化ドメインは、DAP10/CD28型シグナル伝達鎖を含む。DAP10シグナル伝達鎖の例としては、以下のアミノ酸配列が挙げられる。
【表O】
ある態様によれば、適切な細胞内活性化ドメインは、以下の配列のうち少なくとも10、15、20、又は全てのアミノ酸に対し、少なくとも50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の配列同一性を有するドメインを含む。
【表P】
【0234】
CD28シグナル伝達鎖の例としては、以下のアミノ酸配列が挙げられる。
【表Q】
ある態様によれば、適切な細胞内ドメインは、以下の配列のうち少なくとも10、15、20、又は全てのアミノ酸に対し、少なくとも50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の配列同一性を有するドメインを含む。
【表R】
【0235】
本開示の改変シグナル伝達ポリペプチドにおける使用に適した細胞内活性化ドメインは、ZAP70ポリペプチドを含む。例えば、適切な細胞内活性化ドメインは、以下の配列のうち少なくとも10、15、20、又は全てのアミノ酸に対して、或いは、以下のアミノ酸配列に由来する約300アミノ酸~約400アミノ酸、約400アミノ酸~約500アミノ酸、又は約500アミノ酸~619アミノ酸の連続した配列に対して、少なくとも50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の配列同一性を有するドメインを含んでいてもよい。
【表S】
【0236】
リンパ増殖性要素
末梢Tリンパ球数は、細胞が継続的に追加されるにもかかわらず、成人期を通じて顕著に安定なレベルで維持される。これは、胸腺からの遊出と、抗原遭遇に対する増殖、更には抗原抹消後の抗原特異的エフェクターの除去に菌する細胞の消失による(Marrak, P. et al. 2000. Nat Immunol 1:107-111; Freitas, A.A. et al. 2000. Annu Rev Immunol 18:83-111)。末梢T細胞区画のサイズは、増殖及び生存の双方に影響を及ぼす多重の因子により調節される。しかし、リンパ球減少環境では、末梢T細胞区画のサイズを維持する「急性恒常性増殖」機序により、Tリンパ球は同種の抗原とは独立に分裂する。T細胞をインビトロで増幅し、リンパ球枯渇対象に導入する養子細胞治療では、対象又は患者におけるリンパ球減少の条件が確立されてきた。その結果、移送されたT細胞の生着及び抗腫瘍機能が増強される。しかし、免疫機能不全や死を含む重篤な副作用を引き起こす可能性があることから、対象の白血球枯渇は望ましくない。
【0237】
研究の示すところによれば、白血球枯渇は、恒常性サイトカインにとって細胞の廃棄場として機能する内因性リンパ球を除去することにより、サイトカインを開放して養子導入細胞の生存及び増殖の誘導に向かわせる。一部のサイトカイン、例えばIL-7及びIL-15等は、T細胞の抗原に依存しない増殖を媒介することが知られており、これにより非リンパ球減少環境の恒常性増殖を誘発する能力を有する。しかし、これらのサイトカイン及びその受容体は、恒常的にリンパ増殖性障害を防止する固有の制御機構を有する。
【0238】
本開示にて提供される側面の多くは、リンパ増殖性要素又はそれをコードする核酸を、通常は改変シグナル伝達ポリペプチドの一部として含む。本開示の例示的な態様によれば、通常は前記静止T細胞及び/又は静止NK細胞を、前記リンパ増殖性要素を改変シグナル伝達ポリペプチドの一部としてコードするゲノムを有するレトロウイルスで形質導入することにより、リンパ増殖性要素を静止T細胞及び/又は静止NK細胞に導入する。前記リンパ増殖性要素が、サイトカインであってもよく、更なる例示的な態様によれば、サイトカイン受容体又はそのシグナル伝達ドメインを含む断片であって、STAT3経路、STAT4経路、又は更なる例示的な態様によれば、Jak/STAT5経路を活性化するものであってもよい。即ち、リンパ増殖性要素は、非限定的な例によれば、サイトカイン受容体又はそのシグナル伝達ドメインを含む活性断片、例えばインターロイキン受容体又はそのシグナル伝達ドメインを含む活性断片であって、STAT5を活性化するものであってもよい。即ち、リンパ増殖性要素は、T細胞及び/又はNK細胞の増殖を誘導するポリペプチドである。例示的なリンパ増殖性要素は、STAT5を活性化することにより、増殖を誘導する。即ち、斯かるリンパ増殖性要素の断片は、例示的な態様によればSTAT5を活性化することにより、T細胞及び/又はNK細胞の増殖を誘導する能力を保持する。
【0239】
本開示にて提示される方法及び組成物のあるものによれば、対象のリンパ枯渇を要することなく、リンパ増殖性要素を用いて、遺伝子操作T細胞の増殖又は増加をインビボで促進する。即ち、対象の静止T細胞及び/又はNK細胞に通常は形質導入することにより、斯かるT細胞及び/又はNK細胞にリンパ増殖性要素を挿入することを含む、本開示にて提供される方法の非限定的な例示的な態様は、前記方法の実施前、実施時、又は実施後に前記対象のリンパ球を枯渇させることなく、或いは、斯かる方法の実施前の対象からの採血前、採血中、及び/又は採血後に前記対象のリンパ球を枯渇させることなく、或いは、前記対象由来のT細胞又はNK細胞のエクスビボでの遺伝子改変前、改変時、及び/又は改変後に前記対象のリンパ球を枯渇させることなく、或いは、前記遺伝子操作T細胞及び/又はNK細胞の前記対象への再導入前、再導入時、及び/又は再導入後に前記対象のリンパ球を枯渇させることなく、実施されるものであってもよい。T細胞の増殖をインビボで促進する因子は、サイトカイン及びその受容体を含む。ここで受容体は通常、リガンド結合ドメイン及びシグナル伝達ドメインを含む。ある態様によれば、本開示に開示される方法及び組成物において使用される前記リンパ増殖性要素は、サイトカイン及び/又はサイトカイン受容体である。前記サイトカインがインターロイキンであってもよく、前記サイトカイン受容体がインターロイキン受容体であってもよい。前記リンパ増殖性要素が、サイトカインの機能断片、及び/又は、サイトカイン受容体の機能断片、例えばそのシグナル伝達ドメイン等であってもよい。ここで前記断片は、例えばSTAT5を活性化することにより、T細胞の増殖を促進する能力を有する。
【0240】
ある態様によれば、本開示の方法及び組成物におけるサイトカインリンパ増殖性要素は、以下のうち1又は2以上を含む。インターロイキン-7(IL-7)又はその受容体(IL-7R)、又はそのシグナル伝達ドメイン;インターロイキン-12(IL-12)又はその受容体(IL-12R)、又はそのシグナル伝達ドメイン;インターロイキン-23(IL-23)又はIL-12Rβ1及びIL-23Rからなるその受容体、又はそのシグナル伝達ドメイン;インターロイキン-27(IL-27)又はその受容体(IL-27R)、又はそのシグナル伝達ドメイン;インターロイキン-15(IL-15)又はその受容体(IL-15R)、又はそのシグナル伝達ドメイン;インターロイキン-21(IL-21)又はその受容体(IL-21R)、又はそのシグナル伝達ドメイン;又は形質転換成長因子β(TGFβ)又はその受容体(TGFβR)又はそのシグナル伝達ドメイン;又はTGFβデコイ受容体(TGF-β顕性陰性受容体II(DNRII))。ある態様によれば、前記リンパ増殖性要素が、前記IL-12R又はTGFβデコイ受容体(TGF-β顕性陰性受容体II(DNRII))である。
【0241】
IL-7は前記IL-7受容体に結合する。この受容体は、IL-7Rα及び共通のγ鎖受容体からなるヘテロダイマーである。結合の結果、胸腺内でのT細胞成長及び末梢内での生存に重要なシグナルのカスケードが作動する。IL-7のIL-7受容体への結合により、Jak/STAT5経路が活性化されることが知られている。
【0242】
IL-12は、ナイーブT細胞のTh1細胞への分化に関与し(Hsieh CS et al. 1993. Science. 260(5107):547-9)T細胞刺激因子として知られている。IL-12はIL-12受容体に結合する。この受容体は、IL-12R-β1及びIL-12R-β2によって形成されるヘテロダイマー受容体である。IL12はSTAT4を活性化することによって作用するが、T細胞ではSTAT5も同様に活性化することが知られている(Ahn, H., et al. 1998. J. Immun. 161:5893-5900)。IL-12ファミリーは、サイトカインIL-12、IL-23、及びIL-27からなる。IL-23の受容体は、IL-12R β1及びIL-23Rからなる。IL-27は2つの独立の遺伝子、即ちEpstein-Barrウイルス誘導性遺伝子3(EBI3)及びIL-27p28からなるヘテロダイマーサイトカインである。IL-27はIL-27受容体と相互作用する。
【0243】
IL-15は、構造及び機能がIL-2に類似するT及びNK細胞刺激因子である。何れのサイトカインもT細胞の増殖を誘導する。また、これらに共通の機能は、両受容体とも前記IL-2/IL-15Rβ及び共通のγ鎖を使用することによるものと考えられる。IL-15のシグナル伝達経路は、IL-15Rα受容体への結合から始まり、その後は細胞表面にIL-15Rβγc複合体を有する周囲の細胞への提示が行われる。結合により、IL-15βサブユニットはJanusキナーゼ1(Jak1)及びγcサブユニットJanusキナーゼ3(Jak3)を活性化する。これにより、STAT3及びSTAT5のリン酸化及び活性化が生じる。
【0244】
IL-21は、活性化ヒトCD4+ T細胞及びNK T細胞で発現され、IL-21の発現は、Tヘルパー細胞のTh2及びTh17サブセットにおいて上方調節される。IL-21受容体(IL-21R)は、T、B及びNK細胞の表面で発現され、IL-2R又はIL-15等の他のI型サイトカインの受容体と構造上類似している。IL-21Rは、IL-21と結合するには、共通のγ鎖(γc)との二量体形成が必要である。IL-21と結合する際、前記IL-21受容体はJak/STAT経路を通じて機能し、STAT1、STAT3、及びSTAT5を活性化する。
【0245】
TGFβデコイ受容体s(TGF-β顕性陰性受容体II(DNRII))は、TGFβ結合の天然受容体と競合することにより、TGFβシグナル伝達を阻害する。TGFβ-DNRIIは、RIIの細胞外TGFβ結合ドメイン及び膜貫通ドメインを含むキナーゼ失活切断型のRIIである。TGFβ-DNRIIはリガンドに結合するが、RIをリン酸化及び活性化せず、それによりSmadリン酸化を減衰又は消失させることもない。
【0246】
IL-7Rαの機能獲得変異は、B及びT細胞急性リンパ芽球性白血病(B-ALL及びT-ALL)の対象において確認されている(Zenatti PP, et al. 2011. Nat Genet 43:932-939; Snochat, C. et al. 2011. J Exp Med 208:901-908; McElroy, C.A. et al. 2012. PNAS 109(7):2503-2508)。斯かる変異は、IL-7Rα TMDのN末端領域に挿入及び欠失を含み、前記配列の殆ど全てが余分なCys残基とS165からC165への変異とを含んでいる。斯かるシステインの結果として、受容体の構成型活性化が生じる。T-all群の斯かる変異の一部は、JAK1を活性化していた。これらの機能獲得型IL-7R変異体を、本開示にて提供される側面の何れかにおいて、リンパ増殖性要素として使用してもよい。
【0247】
従って、ある態様によれば、前記リンパ増殖性要素が、変異型IL-7受容体である。他の態様によれば、変異型IL-7受容体が構成的に活性であり、前記サイトカインリガンドの不在下でJAK-STAT5経路を活性化する。更に他の態様によれば、変異型IL-7受容体が、237~254の位置に、システイン残基を含む1~10のアミノ酸の挿入を含み、これによりSTAT5経路を構成的に活性化する能力が付与される。ある態様によれば、変異型IL-7受容体は、IL-7Rα-insPPCL(配列番号82で表される)である。
【0248】
ある態様によれば、前記リンパ増殖性要素は、キメラサイトカイン受容体である。例としては、これらに制限されるものではないが、通常は対応する活性化された野生型サイトカイン受容体と同一のSTAT経路、例えばSTAT3、STAT4、及び例示的な態様によれば、STAT5等を構成的に活性化する、その受容体に繋留されたサイトカイン等が挙げられる。ある態様によれば、キメラサイトカイン受容体は、その同族受容体又はその断片にリンカーを介して繋留又は共有結合された、インターロイキン又はその断片である。ある態様によれば、キメラサイトカイン受容体は、IL-7Rαに繋留されたIL-7である。他の態様によれば、キメラサイトカイン受容体は、IL-7Rαのドメイン、例えばIL-7Rαの細胞外ドメイン及び/又は膜貫通ドメインに繋留されたIL-7である。ある態様によれば、リンパ増殖性要素は、サイトカインに繋留されていないサイトカイン受容体であり、本開示にて提供される実際の例示的な態様によれば、リンパ増殖性要素は、サイトカインに繋留されていない構成的に活性なサイトカイン受容体である。これらのキメラIL-7受容体は、通常は発現されるとSTAT5を構成的に活性化する。
【0249】
ある態様によれば、前記リンパ増殖性要素は、サイトカイン又はサイトカイン受容体ではなく、STAT5経路を刺激するmiRNAである。斯かるmiRNAは、通常はSOCS経路における負の調節因子を分解することにより、STAT5の活性化を増強する。ある態様によれば、前記miRNAは、増殖に影響を与えるタンパク質であり、例としては、これらに制限されるものではないが、ABCG1、SOCS1、TGFbR2、SMAD2、cCBL、及びPD1等が挙げられる。本開示に示す例示的な態様によれば、斯かるmiRNAは、パッケージング細胞及び/又は組換レトロウイルスゲノムのイントロン内に存在するものであってもよく、その発現は通常、T細胞及び/又はNK細胞内で活性なプロモーターにより誘導される。理論に束縛されるものではないが、転写単位がイントロンを含むことで、発現の増強及び/又は転写産物の安定性に繋がると考えられる。それゆえ、レトロウイルスゲノムのイントロン内にmiRNAを配置する能力は、レトロウイルス、例えばレンチウイルスゲノム等のサイズ制限の下で、最大の活性を得るという従来技術の課題を克服する利点を、本開示の教示に付与することになる。ある態様によれば、本開示にて提供される方法を用いて、各々ABCG1、SOCS1、TGFbR2、SMAD2、cCBL、及びPD1のうち1又は2以上をコードする核酸に結合する1又は2以上のmiRNAを含む、1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10のmiRNA、例示的な態様によれば2~5、例えば4つのmiRNAを、前記組換レトロウイルスゲノムに含有させ、標的細胞に対して、例えばT細胞及び/又はNK細胞に対して送達することができる。実際に、本開示にて提供される1、2、3、又は4のmiRNAを単一のイントロン、例えばEF1aイントロン内に入れて送達してもよい。
【0250】
ABCG1は、胸腺細胞及び末梢リンパ球の増殖に対して負の制御を行う、ATP結合カセットトランスポーターである(Armstrong et al. 2010. J Immunol 184(1):173-183)。
【0251】
SOCS1は、サイトカインシグナル伝達の負の調節因子であるSOCS(サイトカインシグナル伝達抑制因子)ファミリーであり、Jak/Stat経路、例えばSTAT5等を抑制する。SOCS1は、JAB(Janusキナーゼ結合タンパク質)、SSI-1(Stat誘導性Stat阻害剤1)、及びTIP3(Tec相互作用タンパク質)とも呼ばれる。
【0252】
TGFbR2は、セリン/トレオニンタンパク質キナーゼファミリーの一員であり、TGF-βに結合して、タンパク質をリン酸化する複合体を形成し、その後に核内に侵入して、増殖関連遺伝子の転写を調節する。
【0253】
SMAD2は、形質転換成長因子(TGF)-βのシグナルを媒介し、複数の細胞過程、例えば細胞増殖、アポトーシス、分化等を制御する。
【0254】
cCBLは、ZAP-70の脱リン酸化及び不活性化により、TCRの内部移行を介して、TCRシグナル伝達を阻害するE3ユビキチンリガーゼである。
【0255】
PD1(CD279)は、T細胞及びProB細胞で発現される細胞表面受容体である。PD-1は、PD-L1及びPD-L2という2つのリガンドに結合する。PD-1を通じたシグナル伝達は、細胞の活性化を阻害する機能を有する。
【0256】
本開示に開示される方法及び組成物の一部によれば、前記リンパ増殖性要素の発現は、ある化合物のインビボ制御要素に対する結合によって誘導され、更には(本開示の別の個所で論じるように)斯かる結合に依存する場合もある。非限定的な態様では、この要素はリボスィッチである。ある態様によれば、前記リンパ増殖性要素は、T細胞及び/又はNK細胞で活性なプロモーターから発現される。本開示にて提供される方法及び組成物に関して、当業者であれば理解するように、T細胞及び/又はNK細胞内で活性な既知のプロモーターを用いて、第1の改変シグナル伝達ポリペプチド又は第2の改変シグナル伝達ポリペプチド、又はその構成成分を発現してもよい。例示的な態様によれば、斯かるプロモーターは、パッケージング細胞株、例えば本開示に示すパッケージング系では、活性を有さない。ある態様によれば、斯かるプロモーターは、EF1aプロモーター又はマウス幹細胞ウイルス(MSCV)プロモーターである(Jones et al., Human Gene Therapy (2009) 20: 630-40)。例示的な態様によれば、斯かるプロモーターは、T細胞特異的CD3ζプロモーターである。
【0257】
ある態様によれば、前記リンパ増殖性要素は、微小環境に制限されている。例えば、前記リンパ増殖性要素は、異常条件と生理的条件とで、対応するサイトカインに対する結合が異なる変異型受容体であってもよい。例えば、通常の生理的環境よりも腫瘍環境下でより強くIL7に結合するIL-7Rを用いてもよい。
【0258】
ある態様によれば、前記リンパ増殖性要素が、認識又は排出ドメインに連結されていてもよい。斯かる認識又は排出ドメインを本開示でより詳細に説明する。斯かる融合は、特に切断型又は他の変異型のリンパ増殖性要素を使用する場合に、レトロウイルスゲノムに必要とされるポリヌクレオチドが少なくて済むという利点を有する。斯かる利点は、より多くの機能的要素をコードする核酸をレトロウイルスゲノムに含められることに繋がるため、本開示にて提供される例示的な態様においては重要である。他の態様によれば、前記リンパ増殖性要素は、共刺激ドメイン及び/又は細胞内活性化ドメインに連結される。本開示に示すリンパ増殖性要素は、キメラ抗原受容体(CAR)又は細胞内活性化ドメイン、或いはその共刺激ドメインではない。しかし、ある態様によれば、リンパ増殖性要素が、抗原特異的標的化領域(ASTR)に連結され、前記ASTRの抗原に対する結合により活性化されてもよい。更に他の態様によれば、改変シグナル伝達ポリペプチドは、ASTR、細胞内活性化ドメイン(例えばCD3ζシグナル伝達ドメイン)、共刺激ドメイン、及びリンパ増殖性ドメインを含んでいてもよい。共刺激ドメイン、細胞内活性化ドメイン、ASTR、及び他のCARドメインに関する更なる詳細は、本開示の別の箇所で論じる。
【0259】
本開示の例示的な態様によれば、T細胞及び/又はNK細胞生存要素が、静止T細胞及び/又は静止NK細胞に導入される。この導入は、通常は前記静止T細胞及び/又は静止NK細胞に対して、前記T細胞及び/又はNK細胞生存要素を改変シグナル伝達ポリペプチドの一部としてコードするゲノムを有するレトロウイルスを形質導入することにより行う。ある態様によれば、リンパ増殖性要素が、T細胞及び/又はNK細胞生存要素でもある。上で論じたように、前記リンパ増殖性要素の一部は、増殖を促進するのみならず、細胞生存も促進する。ある態様によれば、前記T細胞及び/又はNK生存モチーフは、リンパ増殖性要素ではない。例えば、前記T細胞及び/又はNK細胞生存モチーフが、CD28 T細胞生存モチーフ又はCD137細胞生存モチーフであってもよい。斯かるT細胞生存モチーフが、例えばscFV等のASTRを含む改変シグナル伝達ポリペプチドに見いだされるものであってもよい。例示的な態様によれば、前記T細胞生存モチーフは、CD8a膜貫通ドメイン又はCD28膜貫通ドメインを介してscFvに連結されたCD28 T細胞生存モチーフ又はCD137モチーフであってもよい。ある態様によれば、前記細胞内シグナル伝達ドメインは、免疫受容体チロシン系活性化モチーフ(ITAM)を含むポリペプチド配列を含む。ある態様によれば、前記ポリペプチド配列は、CD3ζシグナル伝達ドメインである。
【0260】
調節ドメイン
調節ドメインは、前記改変シグナル伝達ポリペプチド内の前記細胞内活性化ドメインの作用を変更しうる。例えば、活性化ドメインの下流作用を促進又は阻害したり、応答の性質を変更したりする。本開示の改変シグナル伝達ポリペプチドにおける使用に適した調節ドメインには、共刺激ドメインが含まれる。前記改変シグナル伝達ポリペプチドに含有させるのに適したに適した調節ドメインは、約30アミノ酸~約70アミノ酸(aa)の長さを有していてもよい。例えば、調節ドメインは、約30aa~約35aa、約35aa~約40aa、約40aa~約45aa、約45aa~約50aa、約50aa~約55aa、約55aa~約60aa、約60aa~約65aa、又は約65aa~約70aaの長さを有していてもよい。他の場合では、調節ドメインは、約70aa~約100aa、約100aa~約200aa、又は200aa超の長さを有していてもよい。
【0261】
共刺激ドメインは通常、活性化ドメインに対する応答の性質を強化及び/又は改変する。本開示の改変シグナル伝達ポリペプチドにおける使用に適した共刺激ドメインは、通常は受容体に由来するポリペプチドである。ある態様によれば、共刺激ドメインはホモ二量体を形成する。対象共刺激ドメインは、膜貫通タンパク質の細胞内部分であってもよい(即ち、前記共刺激ドメインは、膜貫通タンパク質に由来するものであってもよい)。適切な共刺激ポリペプチドの非限定的な例としては、これらに限定されるものではないが、4-lBB(CD137)、CD27、CD28、Lck結合を欠失したCD28(ICΔ)、ICOS、OX40、BTLA、CD27、CD30、GITR、及びHVEMが挙げられる。例えば、本発明の一側面の共刺激ドメインは、4-lBB(CD137)、CD27、CD28、Lck結合を欠失したCD28(ICΔ)、ICOS、OX40、BTLA、CD27、CD30、GITR、又はHVEMの共刺激ドメインに対して、少なくとも80%、90%、又は95%の配列同一性を有していてもよい。例えば、本発明の一側面の共刺激ドメインは、適切な共刺激ポリペプチドの共刺激ドメインに対して、少なくとも80%、90%、又は95%の配列同一性を有していてもよい。斯かる適切な共刺激ポリペプチドの非限定的な例としては、これらに限定されるものではないが、4-lBB(CD137)、CD27、CD28、Lck結合を欠失したCD28(ICΔ)、ICOS、OX40、BTLA、CD27、CD30、GITR、及びHVEMが挙げられる。例えば、本発明の一側面の共刺激ドメインは、4-lBB(CD137)、CD27、CD28、Lck結合を欠失したCD28(ICΔ)、ICOS、OX40、BTLA、CD27、CD30、GITR、又はHVEMの共刺激ドメインに対して、少なくとも80%、90%、又は95%の配列同一性を有していてもよい。
【0262】
改変シグナル伝達ポリペプチドへの内包に適した共刺激ドメインは、約30アミノ酸~約70アミノ酸(aa)の長さを有していてもよい。例えば、共刺激ドメインは、約30aa~約35aa、約35aa~約40aa、約40aa~約45aa、約45aa~約50aa、約50aa~約55aa、約55aa~約60aa、約60aa~約65aa、又は約65aa~約70aaの長さを有していてもよい。他の場合では、前記共刺激ドメインは、約70aa~約100aa、約100aa~約200aa、又は200aa超の長さを有していてもよい。
【0263】
ある例によれば、前記共刺激ドメインは、膜貫通タンパク質CD137(別名TNFRSF9;CD137;4-lBB;CDwl37;ILA;等)の細胞内部分に由来する。例えば、適切な共刺激ドメインは、以下のアミノ酸配列:KRGRKKLLYIFKQPFMRPVQTTQEEDGCSCRFPEEEEGGCEL(配列番号1)に由来する少なくとも10、15、20、又は全てのアミノ酸に対して、少なくとも50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の配列同一性を有するドメインを含んでいてもよい。これらの態様の一部によれば、前記共刺激ドメインの長さは、約30aa~約35aa、約35aa~約40aa、約40aa~約45aa、約45aa~約50aa、約50aa~約55aa、約55aa~約60aa、約60aa~約65aa、又は約65aa~約70aaである。
【0264】
ある例によれば、前記共刺激ドメインは、膜貫通タンパク質CD28(別名Tp44)の細胞内部分に由来する。例えば、適切な共刺激ドメインは、以下のアミノ酸配列:RSKRSRLLHSDYMNMTPRRPGPTRKHYQPYAPPRDFAAYRS(配列番号2)の少なくとも10、15、20、又は全てのアミノ酸に対して、少なくとも50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の配列同一性を有するドメインを含んでいてもよい。これらの態様の一部によれば、前記共刺激ドメインの長さは、約30aa~約35aa、約35aa~約40aa、約40aa~約45aa、約45aa~約50aa、約50aa~約55aa、約55aa~約60aa、約60aa~約65aa、又は約65aa~約70aaである。
【0265】
ある例によれば、前記共刺激ドメインは、膜貫通タンパク質Lck結合を欠失したCD28(ICΔ)の細胞内部分に由来する。例えば、適切な共刺激ドメインは、以下のアミノ酸配列:RSKRSRLLHSDYMNMTPRRPGPTRKHYQAYAAARDFAAYRS(配列番号3)に由来する少なくとも10、15、20、又は全てのアミノ酸に対して、少なくとも50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の配列同一性を有するドメインを含んでいてもよい。これらの態様の一部によれば、前記共刺激ドメインの長さは、約30aa~約35aa、約35aa~約40aa、約40aa~約45aa、約45aa~約50aa、約50aa~約55aa、約55aa~約60aa、約60aa~約65aa、又は約65aa~約70aaである。
【0266】
ある例によれば、前記共刺激ドメインは、膜貫通タンパク質ICOS(別名AILIM、CD278、及びCVIDl)の細胞内部分に由来する。例えば、適切な共刺激ドメインは、以下のアミノ酸配列:TKKKYSSSVHDPNGEYMFMRAVNTAKKSRLTDVTL(配列番号4)に由来する少なくとも10、15、20、又は全てのアミノ酸に対して、少なくとも50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の配列同一性を有するドメインを含んでいてもよい。これらの態様の一部によれば、前記共刺激ドメインの長さは、約30aa~約35aa、約35aa~約40aa、約40aa~約45aa、約45aa~約50aa、約50aa~約55aa、約55aa~約60aa、約60aa~約65aa、又は約65aa~約70aaである。
【0267】
ある例によれば、前記共刺激ドメインは、膜貫通タンパク質OX40(別名TNFRSF4、RP5-902P8.3、ACT35、CD134、OX-40、TXGPlL)の細胞内部分に由来する。例えば、適切な共刺激ドメインは、以下のアミノ酸配列:RRDQRLPPDAHKPPGGGSFRTPIQEEQADAHSTLAKI(配列番号5)に由来する少なくとも10、15、20、又は全てのアミノ酸に対して、少なくとも50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の配列同一性を有するドメインを含んでいてもよい。これらの態様の一部によれば、前記共刺激ドメインの長さは、約30aa~約35aa、約35aa~約40aa、約40aa~約45aa、約45aa~約50aa、約50aa~約55aa、約55aa~約60aa、約60aa~約65aa、又は約65aa~約70aaである。
【0268】
ある例によれば、前記共刺激ドメインは、膜貫通タンパク質CD27(別名S152、T14、TNFRSF7、及びTp55)の細胞内部分に由来する。例えば、適切な共刺激ドメインは、以下のアミノ酸配列:HQRRKYRSNKGESPVEPAEPCRYSCPREEEGSTIPIQEDYRKPEPACSP(配列番号6)に由来する少なくとも10、15、20、又は全てのアミノ酸に対して、少なくとも50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の配列同一性を有するドメインを含んでいてもよい。これらの態様の一部によれば、前記共刺激ドメインの長さは、約30aa~約35aa、約35aa~約40aa、約40aa~約45aa、約45aa~約50aaである。
【0269】
ある例によれば、前記共刺激ドメインは、膜貫通タンパク質BTLA(別名BTLAl及びCD272)の細胞内部分に由来する。例えば、適切な共刺激ドメインは、以下のアミノ酸配列:CCLRRHQGKQNELSDTAGREINLVDAHLKSEQTEASTRQNSQVLLSETGIYDNDPDLCFRMQEGSEVYSNPCLEENKPGIVYASLNHSVIGPNSRLARNVKEAPTEYASICVRS(配列番号7)に由来する少なくとも10、15、20、又は全てのアミノ酸に対して、少なくとも50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の配列同一性を有するドメインを含んでいてもよい。
【0270】
ある例によれば、前記共刺激ドメインは、膜貫通タンパク質CD30(別名TNFRSF8、DlS166E、及びKi-1)の細胞内部分に由来する。例えば、適切な共刺激ドメインは、以下のアミノ酸配列:RRACRKRIRQKLHLCYPVQTSQPKLELVDSRPRRSSTQLRSGASVTEPVAEERGLMSQPLMETCHSVGAAYLESLPLQDASPAGGPSSPRDLPEPRVSTEHTNNKIEKIYIMKADTVIVGTVKAELPEGRGLAGPAEPELEEELEADHTPHYPEQETEPPLGSCSDVMLSVEEEGKEDPLPTAASGK(配列番号8)に由来する約100アミノ酸~約110アミノ酸(aa)、約110aa~約115aa、約115aa~約120aa、約120aa~約130aa、約130aa~約140aa、約140aa~約150aa、約150aa~約160aa、又は約160aa~約185aaに対して、少なくとも50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の配列同一性を有するドメインを含んでいてもよい。
【0271】
ある例によれば、前記共刺激ドメインは、の細胞内部分に由来する 膜貫通タンパク質GITR(別名TNFRSF18、RP5-902P8.2、AITR、CD357、及びGITR-D)。例えば、適切な共刺激ドメインは、以下のアミノ酸配列:HIWQLRSQCMWPRETQLLLEVPPSTEDARSCQFPEEERGERSAEEKGRLGDLWV(配列番号9)に由来する少なくとも10、15、20、又は全てのアミノ酸に対して、少なくとも50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の配列同一性を有するドメインを含んでいてもよい。これらの態様の一部によれば、前記共刺激ドメインの長さは、約30aa~約35aa、約35aa~約40aa、約40aa~約45aa、約45aa~約50aa、約50aa~約55aa、約55aa~約60aa、約60aa~約65aa、又は約65aa~約70aaである。
【0272】
ある例によれば、前記共刺激ドメインは、膜貫通タンパク質HVEM(別名TNFRSF14、RP3-395M20.6、ATAR、CD270、HVEA、HVEM、LIGHTR、及びTR2)の細胞内部分に由来する。例えば、適切な共刺激ドメインは、以下のアミノ酸配列:CVKRRKPRGDVVKVIVSVQRKRQEAEGEATVIEALQAPPDVTTVAVEETIPSFTGRSPNH(配列番号10)に由来する少なくとも10、15、20、又は全てのアミノ酸に対して、少なくとも50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の配列同一性を有するドメインを含んでいてもよい。これらの態様の一部によれば、前記第1及び第2のポリペプチドの共刺激ドメインの長さは、約30aa~約35aa、約35aa~約40aa、約40aa~約45aa、約45aa~約50aa、約50aa~約55aa、約55aa~約60aa、約60aa~約65aa、又は約65aa~約70aaである。
【0273】
リンカー
ある例によれば、前記改変シグナル伝達ポリペプチドは、2つの隣接するドメインの間にリンカーを含む。例えば、膜貫通ドメインと第1の共刺激ドメインとの間にリンカーが存在してもよい。他の例として、ASTRが抗体であってもよく、リンカーが、その重鎖と軽鎖との間に存在してもよい。他の例として、前記ASTRと膜貫通ドメインと共刺激ドメインとの間にリンカーが存在してもよい。他の例として、第2のポリペプチドの共刺激ドメインと細胞内活性化ドメインとの間にリンカーが存在してもよい。他の例として、ASTRと細胞内シグナル伝達ドメインとの間にリンカーが存在してもよい。
【0274】
リンカーペプチドは種々のアミノ酸配列を有していてもよい。タンパク質がスペーサペプチドにより連結されていてもよい。斯かるスペーサは通常、柔軟な性質を有するが、他の化学的結合も除外されるものではない。リンカーはペプチドでもよく、その長さは約1~約100アミノ酸長、又は約1~約25アミノ酸長であってもよい。これらのリンカーを、リンカーをコードする合成のオリゴヌクレオチドを用いて生成し、タンパク質を連結してもよい。ある程度の柔軟性を有するペプチドリンカーを使用してもよい。連結ペプチドは事実上任意のアミノ酸配列を有することができるが、ここで留意すべきは、適切なリンカーは、結果として概ね柔軟なペプチドに繋がるような配列を有するという点である。小型アミノ酸、例えばグリシンやアラニンを用いることで、柔軟なペプチドを製造することができる。斯かる配列の作成は、当業者であれば定型的な作業で行うことができる。
【0275】
適切なリンカーは容易に選択可能であり、その長さは適切な範囲で種々任意の長さとすることができる。例えば、1アミノ酸(例えばGly)~20アミノ酸、2アミノ酸~15アミノ酸、3アミノ酸~12アミノ酸、例えば4アミノ酸~10アミノ酸、5アミノ酸~9アミノ酸、6アミノ酸~8アミノ酸、又は7アミノ酸~8アミノ酸、例えば1、2、3、4、5、6、又は7アミノ酸とすることができる。
【0276】
柔軟なリンカーの例としては、グリシンポリマー(G)n、グリシン-セリンポリマー(例えば(GS)n、GSGGSn、GGGSn、及びGGGGSn、ここでnは1以上の整数である。)、グリシン-アラニンポリマー、アラニン-セリンポリマー、及び本技術分野で公知の他の柔軟なリンカー等が挙げられる。興味深いのはグリシン及びグリシン・セリンポリマーである。これらのアミノ酸は何れも比較的構造性が弱く、複数の構成成分間で中立なテザーとして機能しうるからである。特に興味深いのはグリシンポリマーである。グリシンはアラニンよりも更に容易にφ-ψ空間にアクセスできる上に、より長い側鎖を有する残基よりも制限が少ないからである(Scheraga, Rev. Computational Chem. 11173-142 (1992)参照)。柔軟なリンカーの例としては、これらに限定されるものではないが、GGGGSGGGGSGGGGS(配列番号53)、GGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGS(配列番号54)、GGGGSGGGSGGGGS(配列番号55)、GGSG(配列番号56)、GGSGG(配列番号57)、GSGSG(配列番号58)、GSGGG(配列番号59)、GGGSG(配列番号60)、GSSSG(配列番号61)等が挙げられる。通常の当業者であれば理解するように、上述の何れかの要素にコンジュゲートされたペプチドの構成は、全体又は部分的に柔軟なリンカーを含んでいてもよい。すなわち、リンカーは、柔軟なリンカーに加えて、柔軟性が劣る構造を有する1又は2以上の部分を含みうる。
【0277】
キメラ抗原受容体
本発明の側面の一部によれば、改変シグナル伝達ポリペプチドは、キメラ抗原受容体(CAR)又はCARをコードするポリヌクレオチドである(簡便のためキメラ抗原受容体を「CAR」と呼ぶ)。ある態様によれば、本開示のCARは、:a)少なくとも1つの抗原特異的標的化領域(ASTR);b)膜貫通ドメイン、及びc)細胞内活性化ドメインを含む。例示的な態様によれば、CARの抗原特異的標的化領域は、前記標的抗原に対する抗体のscFv部分である。
【0278】
本開示のCARは、哺乳類細胞等の真核細胞の細胞膜に存在するものであってもよい。ここで、適切な哺乳類細胞としては、これらに限定されるものではないが、細胞毒性細胞、Tリンパ球、幹細胞、幹細胞の子孫、前駆細胞、前駆細胞の子孫、並びに、NK細胞、NK-T細胞、及びマクロファージが挙げられる。本開示のCARは、真核細胞の細胞膜に存在する場合、特定の条件下でASTRに結合する1又は2以上の標的抗原の存在下で活性である。標的抗原は、特異結合対の第2の要素である。前記特異結合対の標的抗原は、例えば可溶性(例えば細胞に結合していない)因子;標的細胞等の細胞表面に存在する因子;固体表面に存在する因子;脂質二重膜に存在する因子;等であってもよい。ASTRが抗体であり、特異結合対の第2の要素が抗原である場合、斯かる抗原は、例えば可溶性(例えば細胞に結合していない)抗原;標的細胞等の細胞表面に存在する抗原;固体表面に存在する抗原;脂質二重膜に存在する抗原;等であってもよい。
【0279】
ある例によれば、本開示のCARは、真核細胞の細胞膜に存在すると共に、1又は2以上の標的抗原によって活性化されると、前記細胞の少なくとも1つの核酸の発現を増加させる。例えば、ある例によれば、本開示のCARは、真核細胞の細胞膜に存在すると共に、1又は2以上の標的抗原によって活性化されると、前記細胞の少なくとも1つの核酸の発現を、前記1又は2以上の標的抗原の不在下における前記核酸の転写レベルと比較して、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約75%、少なくとも約2倍、少なくとも約2.5倍、少なくとも約5倍、少なくとも約10倍、又は10倍超増加させうる。
【0280】
一例として、前記本開示のCARは、免疫受容体チロシン系活性化モチーフ(ITAM)含有細胞内シグナル伝達ポリペプチドを含んでいてもよい。
【0281】
本開示のCARは、真核細胞の細胞膜に存在すると共に、1又は2以上の標的抗原によって活性化されると、ある例によれば、前記細胞による1又は2以上のサイトカインの産生を増加させる。例えば、本開示のCARは、真核細胞の細胞膜に存在すると共に、1又は2以上の標的抗原によって活性化されると、前記細胞による1又は2以上のサイトカインの産生を、前記1又は2以上の標的抗原の不在下で前記細胞により産生されるサイトカイン量と比較して、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約75%、少なくとも約2倍、少なくとも約2.5倍、少なくとも約5倍、少なくとも約10倍、又は10倍超増加させうる。産生量を増加させうるサイトカインとしては、これらに限定されるものではないが、インターフェロンγ(IFN-γ)、腫瘍壊死因子-α(TNF-a)、IL-2、IL-15、IL-12、IL-4、IL-5、IL-10;ケモカイン;成長因子;等が挙げられる。
【0282】
ある例によれば、本開示のCARは、真核細胞の細胞膜に存在すると共に、1又は2以上の標的抗原によって活性化されると、前記細胞内の核酸の転写を増加させうると共に、前記細胞によるサイトカインの産生をも増加させうる。
【0283】
ある例によれば、本開示のCARは、真核細胞の細胞膜に存在すると共に、1又は2以上の標的抗原によって活性化されると、前記CARの前記第1のポリペプチドの前記抗原結合ドメインが結合する抗原を細胞表面に発現する標的細胞に対する前記細胞の細胞毒性活性を増加させる。例えば、前記真核細胞が細胞毒性細胞(例えばNK細胞又は細胞毒性Tリンパ球等)である場合、本開示のCARは、前記細胞の細胞膜に存在すると共に、1又は2以上の標的抗原によって活性化される場合、1又は2以上の標的抗原を細胞表面に発現する標的細胞に対する前記細胞の細胞毒性活性を増加させる。例えば、前記真核細胞がNK細胞又はTリンパ球である場合、本開示のCARは、前記細胞の細胞膜に存在すると共に、1又は2以上の標的抗原によって活性化されると、前記細胞の細胞毒性活性を、前記1又は2以上の標的抗原の不在下における前記細胞の細胞毒性活性と比較して、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約75%、少なくとも約2倍、少なくとも約2.5倍、少なくとも約5倍、少なくとも約10倍、又は10倍以上増加させうる。
【0284】
ある例によれば、本開示のCARは、真核細胞の細胞膜に存在すると共に、1又は2以上の標的抗原によって活性化されると、他のCAR活性化関連事象、例えば増殖や増加を引き起こしうる(何れも細胞分裂又は抗アポトーシス応答の増加による)。
【0285】
ある例によれば、本開示のCARは、真核細胞の細胞膜に存在すると共に、1又は2以上の標的抗原によって活性化されると、他のCAR活性化関連事象、例えば細胞内シグナル伝達調節、細胞分化、又は細胞死等を引き起こしうる。
【0286】
本開示のCARは、真核細胞膜内に、第1及び第2のポリペプチドが互いに共有結合で連結されていない状態で存在してもよい。本開示のCARは、真核細胞膜内に、膜内の他のポリペプチドと共有結合されていない状態で、単一のヘテロダイマーとして存在してもよい。或いは、第1の本開示のCARが、第2の本開示のCARと、共有結合又は非共有結合で連結されたヘテロダイマーとして、真核細胞膜内に存在してもよい。ある例によれば、前記第1及び第2のCARは、第1のCARの第1のポリペプチド及び第2のCARの第1のポリペプチドの双方の柄部に存在するシステイン環で形成されるジスルフィド結合を介して共有結合されていてもよい。
【0287】
ある例によれば、本開示のCARが真核細胞膜内に存在し、ここで前記CARの第1のポリペプチドが抗体断片を含み、前記CARの第2のポリペプチドがサイトカイン受容体に由来するドメインを形質導入するシグナルを含んでいてもよい。これにより、二量体形成時に、前記CARがヘテロダイマー化シグナル伝達抗体(signalobody)CAR、例えば少なくとも2つの独立のポリペプチドからなるシグナル伝達抗体(signalobody)を構成することになる。ここで「シグナル伝達抗体」(signalobody)とは、本技術分野で公知のように、抗体断片とシグナル伝達サイトカイン受容体に由来するドメインとから構成される単一のキメラマクロ分子である。特定の例によれば、本開示のヘテロダイマー化シグナル伝達抗体(signalobody)CARは、真核細胞の細胞膜に存在する場合、二量体化剤(dimerizer)により二量体を形成すると共に、オリゴマー化抗原等の抗原により活性化されて、ヘテロダイマー化シグナル伝達抗体(signalobody)CARのオリゴマー化を誘導してもよい。斯かるヘテロダイマー化シグナル伝達抗体(signalobody)CARのリガンド誘導性オリゴマー化は、シグナル伝達を活性化(例えば増加)又は長期化(例えば維持)しうる。例えば、ヘテロダイマー化シグナル伝達抗体(signalobody)CARのリガンド誘導性オリゴマー化により、細胞応答を誘発するシグナルが発せられてもよい。ある例によれば、複数のヘテロダイマー化シグナル伝達抗体(signalobody)CARを組み合わせて用いることで、所望の細胞応答を誘発することができる。
【0288】
ある態様によれば、本開示のCARは、微小環境に制限されている。この特性は通常、前記CARのASTRドメインが微小環境に制限された性質を有する結果である。即ち、本開示のCARは、微小環境下では、通常の生理的環境条件下と比べて、1又は2以上の標的抗原に対する結合親和性が低められていてもよく、また、例示的な態様によれば、斯かる結合親和性が高められていてもよい。
【0289】
配列の組換え
特定の例によれば、部位特異的組換え技術を用いることにより、改変シグナル伝達ポリペプチド(本開示では組換ポリペプチドという場合もある)の配列を、細胞内において再編成又は削除してもよい。ある態様によれば、特定の改変シグナル伝達ポリペプチドに対する細胞活性化関連応答を、部位特異的組換えにより改変してもよい。例えば、第1の活性化関連応答を誘発する改変シグナル伝達ポリペプチドの第1の細胞内活性化ドメインを、第2の活性化関連応答を誘発する第2の細胞内活性化ドメインと交換してもよい。当業者には明らかなように、細胞内において部位特異的組換えを用い、改変シグナル伝達ポリペプチドの任意のドメイン又は配列を、本開示に示す任意の他のドメイン又は配列と交換してもよい。これも当業者には明らかなように、部位特異的組換え技術を用いることにより、改変シグナル伝達ポリペプチドの任意のドメイン又は配列を、細胞内で削除してもよい。斯かる配列及びドメインの交換や切除は、本技術分野では公知である。例えば、Tone et al. (2013) Biotechnology and Bioengineering, 3219-3226に記載のシグナル伝達抗体(signalobody)のドメインスイッチングを参照。本文献の開示は援用により本開示に組み込まれる。インビボで部位特異的組換えを実施する際の機序及び必要条件も、本技術分野では公知である。例えば、Grindley et al. (2006) Annual Review of Biochemistry, 567-605及びTropp (2012) Molecular Biology (Jones & Bartlett Publishers, Sudbury, MA) を参照。これらの文献の開示は援用により本開示に組み込まれる。
【0290】
ある態様によれば、前記改変シグナル伝達ポリペプチドは、上で論じた複数の異なるドメインの全てを連結し、融合タンパク質とすることにより生成される。前記改変シグナル伝達ポリペプチドは通常、本開示にて議論する前記改変シグナル伝達ポリペプチドの複数の異なるドメインをそれぞれコードするポリヌクレオチド配列を含む転写単位により生成される。ある態様によれば、標的細胞上の抗原を認識してこれに結合する機能を有する本発明のASTRは、微小環境に制限されている。
【0291】
本発明におけるASTRとして、少なくともその標的抗原への結合ドメインに全部又は一部を使用するのに適した野生型又は天然のタンパク質は、タンパク質ライブラリーを生成し、斯かるライブラリーから前記標的抗原に対して所望の結合親和性を有するタンパク質をスクリーニングすることにより、見出すことができる。野生型タンパク質は、cDNAライブラリーをスクリーニングすることにより見出すことができる。cDNAライブラリーは、宿主細胞の集団に挿入されたクローン化cDNA(相補性DNA)断片の組み合わせであり、これらは組合せとして、生物のトランスクリプトームのある部分を構成する。cDNAは完全に転写されたmRNAから製造されるため、生物において発現されているタンパク質のコーディング配列を含む。cDNAライブラリーの情報は、前記ライブラリーから前記標的抗原に対して所望の結合親和性を有するタンパク質をスクリーニングすることにより、所望の特性を有するタンパク質を発見するための強力且つ有用なツールとなる。
【0292】
組み合わせ
ある態様によれば、前記組換レトロウイルスにより提供されるポリヌクレオチドは、1又は2以上の改変シグナル伝達ポリペプチドの特定の組み合わせをコードする、1又は2以上の転写単位を有する。本開示にて提供される方法及び組成物の一部によれば、遺伝子操作T細胞は、前記組換レトロウイルスによるT細胞の形質導入後、1又は2以上の改変シグナル伝達ポリペプチドの組み合わせを有する。当然ながら、第1のポリペプチド、第2のポリペプチド、第3のポリペプチド等の呼称は便宜上のものであり、「第1のポリペプチド」上の要素と「第2のポリペプチド」上の要素は、単に便宜上第1及び第2と呼ばれるにすぎない異なるポリペプチド上にあることを意味するに過ぎず、通常は更なる要素や工程がこれら個々のポリペプチドに加えられる。ある態様によれば、前記第1の改変シグナル伝達ポリペプチドは、抗原に結合する能力を有する細胞外抗原結合ドメインと、細胞内シグナル伝達ドメインとを含む。他の態様によれば、前記第1の改変シグナル伝達ポリペプチドは、更にT細胞生存モチーフ及び/又は膜貫通ドメインを含む。ある態様によれば、前記第1の改変シグナル伝達ポリペプチドは共刺激ドメインを含まないのに対し、他の態様では、前記第1の改変シグナル伝達ポリペプチドは共刺激ドメインを含む。
【0293】
ある態様によれば、第2の改変シグナル伝達ポリペプチドは、リンパ増殖性遺伝子産物と、任意により細胞外抗原結合ドメインとを含む。ある態様によれば、前記第2の改変シグナル伝達ポリペプチドは、T細胞生存モチーフ、細胞内シグナル伝達ドメイン、及び1又は2以上の共刺激ドメインのうち、1又は2以上を含む。他の態様によれば、2つの改変シグナル伝達ポリペプチドを用いる場合、少なくとも1つはCARである。
【0294】
一の態様によれば、前記1又は2以上の改変シグナル伝達ポリペプチドは、T細胞特異的プロモーター又は汎用プロモーターの下、同一の転写産物下で発現される。斯かる転写産物において、前記改変シグナル伝達ポリペプチドをコードする複数の核酸は、1又は2以上の内部リボゾーム性侵入部位(IRE)又は1又は2以上のプロテアーゼ切断ペプチドをコードする核酸により隔てられてなる。
【0295】
ある態様によれば、前記ポリヌクレオチドは、2つの改変シグナル伝達ポリペプチドをコードする。ここで前記第1の改変シグナル伝達ポリペプチドは、第1の抗原に結合する能力を有する第1の細胞外抗原結合ドメインと、第1の細胞内シグナル伝達ドメインとを含むが、共刺激ドメインは含まない。前記第2のポリペプチドは、VEGFに結合する能力を有する第2の細胞外抗原結合ドメインと、第2の細胞内シグナル伝達ドメイン、例えば共刺激分子のシグナル伝達ドメイン等とを含む。ある態様によれば、前記第1の抗原は、PSCA、PSMA、又はBCMAである。ある態様によれば、前記第1の細胞外抗原結合ドメインは、抗体又はその断片(例えばscFv等)、例えばPSCA、PSMA、又はBCMAに特異的な抗体又はその断片を含む。ある態様によれば、VEGFに結合する第2の細胞外抗原結合ドメインは、VEGFの受容体、即ちVEGFRである。ある態様によれば、VEGFRはVEGFR1、VEGFR2、又はVEGFR3である。ある態様によれば、VEGFRはVEGFR2である。
【0296】
ある態様によれば、前記ポリヌクレオチドは、2つの改変シグナル伝達ポリペプチドをコードし、ここで前記第1の改変シグナル伝達ポリペプチドは、細胞外腫瘍抗原結合ドメインとCD3ζシグナル伝達ドメインとを含み、前記第2の改変シグナル伝達ポリペプチドは、抗原結合ドメイン(その抗原は血管新生又は脈管形成因子である)と、1又は2以上の共刺激分子シグナル伝達ドメインとを含む。ここでいう血管新生因子は、例えばVEGFであってもよい。前記1又は2以上の共刺激分子シグナル伝達モチーフは、例えばCD27、CD28、OX40、ICOS、及び4-1BBの各々に由来する共刺激シグナル伝達ドメインを含んでいてもよい。
【0297】
ある態様によれば、前記ポリヌクレオチドは、2つの改変シグナル伝達ポリペプチドをコードし、ここで前記第1の改変シグナル伝達ポリペプチドは、細胞外腫瘍抗原結合ドメイン及びCD3ζシグナル伝達ドメインを含み、前記第2のポリペプチドは、VEGFに結合する能力を有する抗原結合ドメインと、CD27、CD28、OX40、ICOS、及び4-1BBの各々に由来する共刺激シグナル伝達ドメインを含む。更なる態様によれば、前記の第1のシグナル伝達ポリペプチド又は第2のシグナル伝達ポリペプチドが、更にT細胞生存モチーフを含む。ある態様によれば、前記T細胞生存モチーフは、IL-7受容体(IL-7R)の細胞内シグナル伝達ドメイン、IL-12受容体の細胞内シグナル伝達ドメイン、IL-15受容体の細胞内シグナル伝達ドメイン、IL-21受容体の細胞内シグナル伝達ドメイン、又は、形質転換成長因子β(TGFβ)受容体若しくはTGFβ デコイ受容体(TGF-β顕性陰性受容体II(DNRII))の細胞内シグナル伝達ドメインであり、或いはこれらのドメインに由来する。
【0298】
ある態様によれば、前記ポリヌクレオチドは、2つの改変シグナル伝達ポリペプチドをコードし、ここで前記第1の改変シグナル伝達ポリペプチドは、細胞外腫瘍抗原結合ドメイン及びCD3ζシグナル伝達ドメインを含み、前記第2の改変シグナル伝達ポリペプチドは、VEGFに結合する能力を有する抗原結合ドメインと、IL-7受容体細胞内T細胞生存モチーフと、CD27、CD28、OX40、ICOS、及び4-1BBの各々に由来する共刺激シグナル伝達ドメインとを含む。
【0299】
ある態様によれば、3つ以上のシグナル伝達ポリペプチドが前記ポリヌクレオチドによりコードされる。ある態様によれば、前記改変シグナル伝達ポリペプチドのただ一つのみが、腫瘍関連抗原又は腫瘍特異的抗原に結合する抗原結合ドメインを含む。残る前記改変シグナル伝達ポリペプチドは各々、腫瘍関連抗原又は腫瘍特異的抗原以外の抗原に結合する抗原結合ドメインを含む。他の態様によれば、前記改変シグナル伝達ポリペプチドのうち2つ以上が、1又は2以上の腫瘍関連抗原又は腫瘍特異的抗原に結合する抗原結合ドメインを含み、前記改変シグナル伝達ポリペプチドのうち少なくとも1つが、腫瘍関連抗原又は腫瘍特異的抗原に結合しない抗原結合ドメインを含む。
【0300】
ある態様によれば、腫瘍関連抗原又は腫瘍特異的抗原は、Her2、前立腺幹細胞抗原(PSCA)、PSMA(前立腺特異的膜抗原)、B細胞成熟抗原(BCMA)、α-フェトプロテイン(AFP)、癌胎児性抗原(CEA)、癌抗原-125(CA-125)、CA19-9、カルレチニン、MUC-1、上皮膜タンパク質(EMA)、上皮腫瘍抗原(ETA)、チロシナーゼ、メラノーマ関連抗原(MAGE)、CD34、CD45、CD99、CD117、クロモグラニン、サイトケラチン、デスミン、グリア線維酸性タンパク質(GFAP)、肉眼的嚢胞性疾患液性タンパク質(GCDFP-15)、HMB-45抗原、タンパク質メラン-A(Tリンパ球によって認識されるメラノーマ抗原;MART-1)、myo-D1、筋肉特異的アクチン(MSA)、神経フィラメント、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)、胎盤アルカリ性ホスファターゼ、シナプトフィジン、チログロブリン、甲状腺転写因子-1、ピルビン酸キナーゼイソ酵素M2型の二量体形態(腫瘍M2-PK)、CD19、CD22、CD27、CD30、CD70、GD2(ガングリオシドG2)、EphA2、CSPG4、CD138、FAP(線維芽細胞活性化タンパク質)、CD171、κ、λ、5T4、αvβ6インテグリン、インテグリンανβ3(CD61)、ガラクチン、K-Ras(V-Ki-ras2カーステンラット肉腫ウイルス発癌遺伝子)、Ral-B、B7-H3、B7-H6、CAIX、CD20、CD33、CD44、CD44v6、CD44v7/8、CD123、EGFR、EGP2、EGP40、EpCAM、胎児性AchR、FRα、GD3、HLA-A1+MAGE1、HLA-A1+NY-ESO-1、IL-11Rα、IL-13Rα2、ルイス-Y、Muc16、NCAM、NKG2Dリガンド、NY-ESO-1、PRAME、ROR1、サバイビン、TAG72、TEM、VEGFR2、EGFRvIII(上皮成長因子変異体III)、精子タンパク質17(Sp17)、メソテリン、PAP(前立腺酸ホスファターゼ)、プロステイン(prostein)、TARP(T細胞受容体γ代替リーディングフレームタンパク質)、Trp-p8、STEAP1(前立腺1の6回膜貫通上皮抗原)、異常rasタンパク質、又は異常p53タンパク質である。
【0301】
ある態様によれば、前記第1の改変シグナル伝達ポリペプチドは、第1の抗原に結合する第1の細胞外抗原結合ドメインと、第1の細胞内シグナル伝達ドメインとを含み、第2の改変シグナル伝達ポリペプチドは、を含む 第2の抗原に結合する第2の細胞外抗原結合ドメイン、又は前記第2の抗原に結合する受容体と、第2の細胞内シグナル伝達ドメインとを含み、ここで前記第2の改変シグナル伝達ポリペプチドは、共刺激ドメインを含まない。ある態様によれば、前記第1の抗原結合ドメイン及び前記第2の抗原結合ドメインは独立に、受容体の抗原結合部分又は抗体の抗原結合部分である。ある態様によれば、前記第1の抗原結合ドメイン又は前記第2の抗原結合ドメインの一方又は両方が、scFv抗体断片である。ある態様によれば、前記第1の改変シグナル伝達ポリペプチド及び/又は前記第2の改変シグナル伝達ポリペプチドが、更に膜貫通ドメインを含む。ある態様によれば、前記第1の改変シグナル伝達ポリペプチド又は前記第2の改変シグナル伝達ポリペプチドが、T細胞生存モチーフ、例えば本開示に記載のT細胞生存モチーフの何れかを含む。
【0302】
他の態様によれば、前記第1の改変シグナル伝達ポリペプチドは、HER2に結合する第1の細胞外抗原結合ドメインを含み、前記第2の改変シグナル伝達ポリペプチドは、MUC-1に結合する第2の細胞外抗原結合ドメインを含む。
【0303】
他の態様によれば、前記第2の改変シグナル伝達ポリペプチドの第2の細胞外抗原結合ドメインは、インターロイキンに結合する。
【0304】
他の態様によれば、前記第2の改変シグナル伝達ポリペプチドの第2の細胞外抗原結合ドメインは、損傷関連分子パターン分子(DAMP;別名アラーミン)に結合する。他の態様によれば、DAMPは、ヒートショックタンパク質、クロマチン関連タンパク質高移動度群スクエア1(HMGB1)、S100A8(別名MRP8、又はカルグラニュリンA)、S100A9(別名MRP14、又はカルグラニュリンB)、血清アミロイドA(SAA)、デオキシリボ核酸、アデノシン三リン酸、尿酸、又はヘパリン硫酸である。
【0305】
ある態様によれば、前記第2の抗原は、腫瘍細胞が提示する抗原に結合する抗体の抗原である。
【0306】
ある態様によれば、前記第2の改変シグナル伝達ポリペプチドを介したシグナル伝達活性化は、抗原によるものではなく、低酸素症と関連する。ある態様によれば、低酸素症は、低酸素症誘導因子-1α(HIF-1α)、HIF-1β、HIF-2α、HIF-2β、HIF-3α、又はHIF-3βの活性化によって誘導される。
【0307】
ある態様によれば、前記1又は2以上の改変シグナル伝達ポリペプチドの発現は、本開示にてより詳細に説明ルウインビボ制御要素によって制御される。
【0308】
追加の配列
CAR等の改変シグナル伝達ポリペプチドは、1又は2以上の追加のポリペプチドドメインを含んでいてもよい。斯かるドメインとしては、これらに限定されるものではないが、シグナル配列;エピトープタグ;親和性ドメイン;及び検出可能なシグナルを生成するポリペプチド等が挙げられる。本開示にて提供される側面又は態様の何れかにおける追加のドメインの非限定的な例としては、以下に説明するようなシグナル配列、エピトープタグ、親和性ドメイン、又は検出可能なシグナルを生成するポリペプチドの何れかと、少なくとも50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の配列同一性を有するドメインが挙げられる。
【0309】
対象CARにおける、例えば対象CARの第1のポリペプチドにおける使用に適したシグナル配列としては、例えば、任意の真核生物シグナル配列が挙げられる。これには、天然シグナル配列、合成(例えば人工)シグナル配列等が含まれる。ある態様によれば、斯かるシグナル配列は、CD8シグナル配列MALPVTALLLPLALLLHAARP(配列番号74)であってもよい。
【0310】
適切なエピトープタグとしては、これらに限定されるものではないが、ヘマグルチニン(HA;例えば、YPYDVPDYA;配列番号37);FLAG(例えばDYKDDDDK;配列番号38);c-myc(例えば、EQKLISEEDL;配列番号39)等が挙げられる。
【0311】
親和性ドメインとしては、同定や精製に有用な、例えば固体支持体に固定化された、結合パートナーと相互作用しうるペプチド配列が挙げられる。単一のアミノ酸(例えばヒスチジン)が多数連続してなる配列をコードするDNA配列を、発現されるタンパク質と連結すると、ニッケルセファロース等の樹脂カラムに対する高親和性結合により、組換タンパク質を一段階で精製することが可能となる。親和性ドメインの例としては、His5(HHHHH;配列番号40)、HisX6(HHHHHH;配列番号41)、c-myc(EQKLISEEDL;配列番号39)、Flag(DYKDDDDK;配列番号38)、Strepタグ(WSHPQFEK;配列番号42)、ヘマグルチニン、例えばHAタグ(YPYDVPDYA;配列番号37)、GST、チオレドキシン、セルロース結合ドメイン、RYIRS(配列番号43)、Phe-His-His-Thr(配列番号44)、キチン結合ドメイン、S-ペプチド、T7ペプチド、SH2ドメイン、C末端RNAタグ、WEAAAREACCRECCARA(配列番号45)、金属結合ドメイン、例えば亜鉛結合ドメイン若しくはカルシウム結合ドメイン、例えばカルシウム結合タンパク質由来のもの、例えばカルモジュリン、トロポニンC、カルシニューリンB、ミオシン軽鎖、リカバリン、S-モデュリン(modulin)、ビジニン、VILIP、ニューロカルシン、ヒポカルシン、フリクエニン、カルトラクチン、カルパイン大型サブユニット、S100タンパク質、パルブアルブミン、カルビンディンD9K、カルビンディンD28K、及びカルレチニン、インテイン類、ビオチン、ストレプトアビジン、MyoD、Id、ロイシンジッパー配列、及びマルトース結合タンパク質等が挙げられる。
【0312】
適切な検出可能なシグナル産生タンパク質としては、例えば蛍光タンパク質;検出可能なシグナルを産物として生成する反応を触媒する酵素;等が挙げられる。
【0313】
適切な蛍光タンパク質としては、これらに限定されるものではないが、緑色蛍光タンパク質(GFP)又はその変異体、GFPの青色蛍光変異体(BFP)、GFPのシアン色蛍光変異体(CFP)、GFPの黄色蛍光変異体(YFP)、高感度GFP(EGFP)、高感度CFP(ECFP)、高感度YFP(EYFP)、GFPS65T、エメラルド、トパーズ(TYFP)、ヴィーナス、シトリン(citrine)、mシトリン、GFPuv、不安定化EGFP(dEGFP)、不安定化ECFP(dECFP)、不安定化EYFP(dEYFP)、mCFPm、セルレアン(Cerulean)、T-サファイア、CyPet、YPet、mKO、HcRed、t-HcRed、DsRed、DsRed2、DsRed-モノマー、J-Red、ダイマー2、t-ダイマー2(12)、mRFPl、ポシロポリン(pocilloporin)、ウミシイタケ(Renilla)GFP、モンスターGFP、paGFP、カエデ(Kaede)タンパク質、及びキンドリングタンパク質、フィコビリンタンパク質、及びフィコビリンタンパク質コンジュゲート、例えばB-フィコエリトリン、R-フィコエリトリン、及びアロフィコシアニン等が挙げられる。他の蛍光タンパク質の例としては、mHoneydew、mBanana、mOrange、dTomato、tdTomato、mTangerine、mStrawberry、mCherry、mGrapel、mRaspberry、mGrape2、mPlum(Shaner et al. (2005) Nat. Methods 2:905-909)等が挙げられる。花虫類(Anthozoan)種由来の種々の蛍光及び色素タンパク質、例えばMatz et al. (1999) Nature Biotechnol. 17:969-973に記載のものも使用に適している。
【0314】
適切な酵素としては、これらに限定されるものではないが、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリ性ホスファターゼ(AP)、β-ガラクトシダーゼ(GAL)、グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ、β-N-アセチルグルコサミニダーゼ、β-グルクロニダーゼ、インベルターゼ、キサンチンオキシダーゼ、ホタルルシフェラーゼ、グルコースオキシダーゼ(GO)等が挙げられる。
【0315】
認識及び/又は排出ドメイン
本開示にて提供される組換レトロウイルスの何れかは、認識又は排出ドメインをコードする核酸を、本開示にて提供される改変シグナル伝達ポリペプチドの何れかをコードする核酸の一部として、或いは斯かる核酸とは別に、含んでいてもよい。即ち、本開示にて提供される改変シグナル伝達ポリペプチドの何れかは、認識又は排出ドメインを含んでいてもよい。例えば、本開示に示すCARの何れかは、認識又は排出ドメインを含んでいてもよい。更に、認識又は排出ドメインが、本開示に示すリンパ増殖性要素の何れかと一緒に発現されてもよく、更には斯かる増殖性要素の何れかと融合していてもよい。前記認識又は排出ドメインは、前記T細胞及び/又はNK細胞では発現されるが、前記レトロウイルスでは発現されない。
【0316】
ある態様によれば、前記認識又は排出ドメインは、単純ヘルペスウイルス由来酵素チミジンキナーゼ(HSV-tk)又は誘導型カスパーゼ9に由来するものであってもよい。ある態様によれば、前記認識又は排出ドメインは、改変された内因性細胞表面分子、例えば米国特許8,802,374号に開示のもの等を含んでいてもよい。斯かる改変された内因性細胞表面分子は、例えば任意の細胞表面関連受容体、リガンド、糖タンパク質、細胞接着分子、抗原、インテグリン、又は表面抗原分類(cluster of differentiation:CD)等が改変されたものであってもよい。ある態様によれば、斯かる改変された内因性細胞表面分子は、切断型チロシンキナーゼ受容体である。一側面によれば、斯かる切断型チロシンキナーゼ受容体は、上皮成長因子受容体(EGFR)ファミリーの一員(例えば、ErbB1、ERBB2、ErbB3、ErbB4等)である。ある態様によれば、前記認識ドメインは、EGFRメンバーの細胞外ドメインを認識する抗体によって認識されるポリペプチドであってもよい。ある態様によれば、前記認識ドメインは、例えばEGFRファミリーメンバーの少なくとも20の連続するアミノ酸、又は、例えばEGFRファミリーメンバーの20~50の連続するアミノ酸であってもよい。EGFRメンバーの細胞外ドメインを認識する抗体によって認識され、適切な条件下で当該抗体と結合するポリペプチドの例として、例えば配列番号78のポリペプチドが挙げられる。斯かる細胞外EGFRエピトープを、本開示ではeTagと呼ぶ場合もある。例示的な態様によれば、斯かるエピトープは、市販の抗EGFRモノクローナル抗体によって認識される。
【0317】
上皮成長因子受容体、別名EGFR、ErbB1、及びHER1は、細胞外リガンドの上皮成長因子ファミリーメンバーの細胞表面受容体である。特定の癌において、EGFR活性が変化することが示唆されてきた。ある態様によれば、ヒト上皮成長因子受容体(EGFR)を含むEGFRポリペプチドをコードする遺伝子は、膜遠位EGF結合ドメイン及び細胞質シグナル伝達尾部を含むポリペプチドをコードする核酸配列を除去することで構築されるが、抗EGFR抗体によって認識される細胞外膜近位エピトープは維持する。好ましくは、前記抗体は、既知の市販の抗EGFRモノクローナル抗体、例えばセツキシマブ、マツズマブ、ネシツムマブ、又はパニツムマブ等である。
【0318】
他の報告によれば、ビオチン化セツキシマブを抗ビオチンマイクロビーズと組み合わせて免疫磁気選択法に用いることで、レンチウイルスによりEGFRt含有コンストラクトを形質導入されたT細胞を、前記細胞調製物に対する観察可能な毒性を生じることなく、集団の僅か2%から、純度90%以上まで首尾よく濃縮することができた。他の報告によれば、この不活性EGFR分子の構成型発現は、協調的に発現されたキメラ抗原受容体(CAR)、CD19Rによって誘導されるT細胞表現型又はエフェクター機能に影響を及ぼさない。更に、他の報告によれば、フローサイトメトリー分析を用いて、EGFRをマウスにおけるT細胞生着のインビボでの追跡マーカーとして、首尾よく用いることができた。更に、EGFRは、Erbitux(登録商標)媒介型抗体依存細胞毒性(ADCC)経路を通じて、自殺遺伝子として作用しうることが示された。本開示の発明者等は、レンチウイルスベクターを用いて、eTagをPBMCで発現させることに成功すると共に、セツキシマブに暴露されたPBMCによるeTagのインビトロでの発現が、PBMCの有効な排出機序を提供することを見出した。即ち、EGFRは、非免疫原性選択ツール、追跡マーカー、及び、免疫治療の可能性を有する形質導入T細胞の自殺遺伝子として使用することができる。また、EGFR核酸は、本技術分野で周知の手法によって検出しうる。
【0319】
本開示にて提供されるある態様によれば、EGFRは、CARを含む単一のポリペプチドの一部として、或いは、リンパ増殖性要素を含む単一のポリペプチドの一部として発現される。ある態様によれば、EGFR認識ドメインをコードするアミノ酸配列は、前記キメラ抗原受容体をコードするアミノ酸配列と、切断シグナル及び/又はリボゾーム性スキップ配列によって隔てられていてもよい。前記リボゾーム性スキップ及び/又は切断シグナルは、本技術分野で公知の任意のリボゾーム性スキップ及び/又は切断シグナルであってもよい。理論に束縛されるものではないが、前記リボゾーム性スキップ配列は、例えばアミノ酸配列GSGEGRGSLLTCGDVEENPGP(配列番号77)を有する2A-1であってもよい。理論に束縛されるものではないが、切断シグナル及びリボゾーム性スキップ配列の他の例としては、FMDV 2A(F2A);ウマ鼻炎Aウイルス2A(略称E2A);ブタテッショウウイルス-1 2A(P2A);及びThosea asignaウイルス2A(T2A)が挙げられる。ある態様によれば、前記認識ドメインをコードするポリヌクレオチド配列は、前記CAR又はリンパ増殖性要素と同一の転写産物内に存在してもよいが、前記CAR又はリンパ増殖性要素をコードするポリヌクレオチド配列からは、内部リボソーム侵入部位によって隔てられていてもよい。
【0320】
他の態様によれば、本開示において実験的に例証されるように、認識ドメインが、リンパ増殖性要素に融合された融合ポリペプチドの一部として発現されてもよい。斯かるコンストラクトは、特に本開示にて提供される他の「スペース削減」要素と組み合わせることで、個別のポリペプチドを用いる場合と比較して、使用するRNAゲノムのゲノムスペースが少なくて済むという利点を提供する。例示的な一態様によれば、本開示の実験で立証されるように、eTagは、IL7R・変異体と融合された融合ポリペプチドとして発現される。
【0321】
シュードタイピング要素
本開示にて提供される方法及び組成物の多くは、シュードタイピング要素を含む。異種エンベロープ糖タンパク質によるレトロウイルスのシュードタイピングは、通常はウイルスの指向性を改変し、宿主細胞の形質導入を促進する。本開示で使用する場合、シュードタイピング要素は、前記標的宿主細胞を同定してこれに結合する1又は2以上のポリペプチド(通常は糖タンパク質)を含む結合性ポリペプチドと、レトロウイルス及び標的宿主細胞膜の融合を媒介する1又は2以上の「融合性ポリペプチド」とを含むことにより、レトロウイルスゲノムの標的宿主細胞への侵入を可能とする。本開示にて提供されるある態様によれば、シュードタイピング要素はポリペプチド/タンパク質として、或いは斯かるポリペプチド/タンパク質をコードする核酸配列として提供される。
【0322】
ある態様によれば、前記シュードタイピング要素は、ネコ内因性ウイルス(RD114)エンベロープタンパク質、オンコレトロウイルス両種指向性エンベロープタンパク質、オンコレトロウイルス同種志向性エンベロープタンパク質、水疱性口内炎ウイルス(VSV-G)エンベロープタンパク質、及び/又は、パラミクソウイルス麻疹エンベロープタンパク質H及びFである。
【0323】
ある態様によれば、前記シュードタイピング要素は、異なるタンパク質に由来する結合性ポリペプチド及び融合性ポリペプチドを含む。例えば、本開示の方法及び組成物の組換レトロウイルスは、麻疹ウイルス(MV)の融合(F)及びヘマグルチニン(H)ポリペプチドを有する偽型である。非限定的な例として、MVの臨床野生型株や、Edmonston株(MV-Edm)等のワクチン株、又はその断片等であってもよい。理論に束縛されるものではないが、ヘマグルチニン(H)及び融合(F)ポリペプチドは何れも、宿主細胞への侵入に関与していると考えられる。ここで、Hタンパク質はMVを標的細胞の受容体CD46、SLAM、及びネクチン4に結合させ、Fポリペプチドは前記レトロウイルス及び宿主細胞膜の融合を媒介する。特に前記標的細胞がT細胞及び/又はNK細胞である例示的な態様によれば、結合性ポリペプチドは麻疹ウイルスHポリペプチドであり、融合性ポリペプチドは麻疹ウイルスFポリペプチドである。
【0324】
ある研究によれば、切断型F及びHポリペプチドを有する偽型のレンチウイルス粒子は、力価及び形質導入効率が顕著に上昇していた(Funke et al. 2008. Molecular Therapy. 16(8):1427-1436; Frecha et al. 2008. Blood. 112(13):4843-4852)。特に、F細胞質の尾部30残基が切断された変異体(通称MV(Ed)-FΔ30(配列番号105))が、最も高い力価を有していた。H変異体の場合、18又は19残基を除去した(MV(Ed)-HΔ18(配列番号106)又はMV(Ed)-HΔ19)場合に、最適な切断型が得られたが、24残基を切断した変異体も、除去した残基をアラニンで置換したか否かにかかわらず(MV(Ed)-HΔ24(配列番号235)及びMV(Ed)-HΔ24+A)、最適な力価を有していた。
【0325】
これらの形質導入T細胞及び/又はNK細胞を標的とするものを含む態様によれば、本開示の方法及び組成物の組換レトロウイルスは、麻疹ウイルス融合(F)及びヘマグルチニン(H)ポリペプチドの変異又は改変型を有する偽型であり、例によれば、麻疹ウイルスF及びHポリペプチドの細胞質ドメイン欠失変異体を有する偽型である。ある態様によれば、変異型F及びHポリペプチドは、その細胞質部分が切断された、即ちアミノ酸残基(或いは、斯かるタンパク質をコードする対応する核酸分子のコーディング核酸)が除去された「切断型H」又は「切断型F」ポリペプチドである。「HΔY」及び「FΔX」は、それぞれ斯かる切断型H及びFポリペプチドを指す。ここで「Y」は、細胞質ドメインのアミノ末端から除去された1~34残基を指し、「X」は、細胞質ドメインのカルボキシ末端から除去された1~35残基を指す。更なる態様によれば、「切断型Fポリペプチド」は、FΔ24又はFΔ30であり、及び/又は、「切断型Hタンパク質」は、HΔ14、HΔ15、HΔ16、HΔ17、HΔ18、HΔ19、HΔ20、HΔ21+A、HΔ24、及びHΔ24+4Aからなる群より選択され、より好ましくはHΔ18又はHΔ24である。例示的な態様によれば、切断型FポリペプチドはMV(Ed)-FΔ30であり、切断型HポリペプチドはMV(Ed)-HΔ18である。
【0326】
ある態様によれば、融合性ポリペプチドは、単一のポリペプチドとして発現される複数の要素を含む。ある態様によれば、前記の結合性ポリペプチドと融合性ポリペプチドとは、同一の転写産物から翻訳されるが、個別のリボソーム結合部位から翻訳される。他の態様によれば、前記の結合性ポリペプチド及び融合性ポリペプチドは、切断ペプチド部位(これは、理論に束縛されるものではないが、文献で共通に述べられているように、翻訳後に切断される)又はリボゾーム性スキップ配列によって隔てられている。ある態様によれば、前記の結合性ポリペプチド及び融合性ポリペプチドが、個別のリボソーム結合部位から翻訳される結果、結合性ポリペプチドと比べて融合性ポリペプチドの量の方が多くなる。ある態様によれば、融合性ポリペプチドの結合性ポリペプチドに対する比は、少なくとも2:1、少なくとも3:1、少なくとも4:1、少なくとも5:1、少なくとも6:1、少なくとも7:1、又は少なくとも8:1である。ある態様によれば、融合性ポリペプチドの結合性ポリペプチドに対する比は、下限が1.5:1、2:1、又は3:1であり、上限が3:1、4:1、5:1、6:1、7:1、8:1。9:1又は10:1である範囲に含まれる。
【0327】
活性化要素
本開示の方法及び組成物の側面の多くは、活性化要素、又は、活性化要素をコードする核酸を含む。Tレンチウイルス(LV)による静止T細胞の形質導入に伴う制限は、進入前及び進入後の一連の障壁及び細胞制限因子によるものと考えられる(Strebel et al 2009. BMC Medicine 7:48)。斯かる制限の一つは、エンベロープ偽型LV粒子には、潜在的な受容体を認識して細胞膜との融合を媒介する能力が欠けている、という点である。しかし、特定の条件下であれば、主にT細胞受容体(TCR)CD3複合体及びCD28の共刺激に基づき(Korin & Zack. 1998. Journal of Virology. 72:3161-8, Maurice et al. 2002. Blood 99:2342-50)、更にはサイトカインへの暴露を介して(Cavalieri et al 2003)、静止T細胞のHIV-1系レンチウイルスベクターによる形質導入が可能である。
【0328】
Tリンパ球等の免疫系細胞は、受容体又は受容体複合体を介し、特異的抗原を認識してこれと相互作用する。斯かる受容体又は受容体複合体は、抗原を認識し、又は抗原と相互作用することにより、その細胞を活性化して身体内の数を増加させる。斯かる受容体の例としては、抗原特異的Tリンパ球受容体複合体(TCR/CD3)が挙げられる。前記T細胞受容体(TCR)は、Tリンパ球の表面で発現される。その構成成分の一つであるCD3は、リガンドによるTCR占有後の細胞内シグナル伝達に関与する。抗原CD3複合体(TCR/CD3)のTリンパ球受容体は、主要組織適合性複合体(MHC)タンパク質が提示した抗原性ペプチドを認識する。MHC及びペプチドの複合体は、抗原提示細胞及び他のTリンパ球標的の表面で発現される。TCR/CD3複合体が刺激される結果、Tリンパ球が活性化され、惹いては抗原特異的免疫応答が引き起こされる。TCR/CD3複合体は、免疫系のエフェクター機能及び調節において中心的な役割を担っている。
【0329】
Tリンパ球が完全に活性となるには、第2の共刺激シグナルも必要である。斯かるシグナルがないと、Tリンパ球はTCRに結合した抗原に反応せず、或いは反応不顕性となってしまう。斯かる共刺激シグナルは、例えばTリンパ球タンパク質であるCD28によって提供され、これは抗原産生細胞のCD80及びCD86と相互作用する。別のTリンパ球タンパク質であるICOS(誘導型共刺激因子)は、ICOSリガンドに結合すると共刺激シグナルを発する。
【0330】
T細胞受容体(TCR)CD3複合体の活性化及びCD28による共刺激は、抗CD3及び抗CD28で被覆された固体表面(ビーズ等)へのエクスビボでの暴露によっても生じる。本開示に開示される方法及び組成物のある態様によれば、抗CD3及び抗CD28で被覆された固体表面へのエクスビボでの暴露によって、静止T細胞が活性化される。
【0331】
本開示にて提供される方法及び組成物の一部の例示的な態様によれば、CD3及び/又はCD28に結合する能力を有するポリペプチドは、本開示の組換レトロウイルスに開示される方法及び組成物の表面に、「活性化要素」として提示される。これも本発明の側面となる。CD3及び/又はCD28に結合するポリペプチドは、その静止T細胞を活性化する能力ゆえに「活性化要素」と呼ばれる。
【0332】
ある態様によれば、前記活性化要素は、CD3に結合可能なポリペプチドである。ある態様によれば、前記CD3に結合可能なポリペプチドは、CD3に結合する能力を保持する抗CD3抗体又はその断片である。例示的な態様によれば、前記抗CD3抗体又はその断片は、単鎖抗CD3抗体であり、例えば、これらに制限されるものではないが、抗CD3scFvである。他の例示的な態様によれば、前記CD3に結合可能なポリペプチドは、抗CD3scFvFcである。
【0333】
抗ヒトCD3モノクローナル抗体及び抗体断片としては、多数のものが入手可能であり、本発明に使用することができる。例としては、これらに制限されるものではないが、UCHT1、OKT-3、HIT3A、TRX4、X35-3、VIT3、BMA030(BW264/56)、CLB-T3/3、CRIS7、YTH12.5、F111409、CLB-T3.4.2、TR-66、WT31、WT32、SPv-T3b、11D8、XIII-141、XIII46、XIII-87、12F6、T3/RW2~8C8、T3/RW24B6、OKT3D、M-T301、SMC2、及びF101.01等が挙げられる。
【0334】
ある態様によれば、前記活性化要素は、CD28に結合可能なポリペプチドである。ある態様によれば、前記CD28に結合可能なポリペプチドは、CD28に結合する能力を保持する抗CD28抗体又はその断片である。他の態様によれば、前記CD28に結合可能なポリペプチドは、CD80、CD86、又は、CD28に結合してAktのCD28媒介活性化を誘導する能力を有するその機能断片、例えばCD80の外部断片である。例示的な態様によれば、前記抗CD28抗体又はその断片は、単鎖抗CD28抗体であり、例えば、これらに制限されるものではないが、抗CD28 scFvである。他の例示的な態様によれば、前記CD28に結合可能なポリペプチドは、CD80又はCD80断片、例えばCD80の外部断片である。
【0335】
抗CD28抗体は、本技術分野で公知であり、非限定的な例として、モノクローナル抗体9.3、IgG2a抗体(Dr. Jeffery Ledbetter, Bristol Myers Squibb Corporation, Seattle, Wash.)、モノクローナル抗体KOLT-2、IgG1抗体、15E8、IgG1抗体、248.23.2、IgM抗体、及びEX5.3D10、IgG2a抗体等が挙げられる。
【0336】
例示的な態様によれば、活性化要素は2つのポリペプチド、即ち、CD3に結合可能なポリペプチドとCD28に結合可能なポリペプチドとを含む。
【0337】
ある態様によれば、前記CD3又はCD28に結合可能なポリペプチドは、抗体、単鎖モノクローナル抗体又は抗体断片、例えば単鎖抗体断片である。即ち、前記抗体断片は、例えば、単鎖断片可変領域(scFv)、抗体の抗体結合(Fab)断片、単鎖抗原結合断片(scFab)、システインを有さない単鎖抗原結合断片(scFabΔC)、断片可変領域(Fv)、抗原に隣接するエピトープに特異的なコンストラクト(CRAb)、又は、単一ドメイン抗体(VH又はVL)等であってもよい。
【0338】
ある態様によれば、活性化要素は、異種シグナル配列及び/又は異種膜付着配列に融合される。これらの配列は何れも、活性化要素を膜に誘導する作用を有する。異種シグナル配列により、前記活性化要素は小胞体に標的化され、小胞体において、異種膜付着配列により1又は数個の脂肪酸が共有結合により付加される(別名翻訳後脂質修飾)。これにより、異種膜付着配列に融合された活性化要素は、細胞膜の脂質ラフトにアンカーされる。ある態様によれば、翻訳後脂質修飾は、ミリストイル化、パルミトイル化、又はGPIアンカレッジを介して生じる。ミリストイル化は、炭素数14の飽和脂肪酸であるミリスチン酸を、真核細胞又はウイルスのタンパク質のN末端グリシンに共有結合で連結する翻訳後タンパク質修飾である。パルミトイル化は、C16のアシル鎖をタンパク質のシステイン残基に対して、また、頻度はより劣るもののセリン及びトレオニン残基に対して、共有結合により連結する翻訳後タンパク質修飾である。GPIアンカレッジは、翻訳後修飾の際に、グリコシルホスファチジルイノシトール又はGPIを、タンパク質のC末端に付着させることを意味する。
【0339】
ある態様によれば、異種膜付着配列は、GPIアンカー付着配列である。異種GPIアンカー付着配列は、任意の既知のGPI-アンカー化タンパク質に由来するものであってもよい(概説として、Ferguson MAJ, Kinoshita T, Hart GW. Glycosylphosphatidylinositol Anchors. In: Varki A, Cummings RD, Esko JD, et al., editors. Essentials of Glycobiology. 2nd edition. Cold Spring Harbor (NY): Cold Spring Harbor Laboratory Press; 2009. Chapter 11)。ある態様によれば、異種GPIアンカー付着配列は、CD14、CD16、CD48、CD55(DAF)、CD59、CD80、及びCD87に由来するGPIアンカー付着配列である。ある態様によれば、異種GPIアンカー付着配列は、CD16に由来する。例示的な態様によれば、異種GPIアンカー付着配列は、Fc受容体FcγRIIIb(CD16b)又は分解促進因子(DAF)、他の既知の補体崩壊促進因子又はCD55に由来する。
【0340】
ある態様によれば、活性化要素の一方又は両方が、前記活性化要素の発現を細胞膜に誘導する異種シグナル配列を含む。パッケージング細胞株で活性な任意のシグナル配列を使用することができる。ある態様によれば、シグナル配列はDAFシグナル配列である。例示的な態様によれば、活性化要素は、DAFシグナル配列とはそのN末端で連結され、GPIアンカー付着配列とはそのC末端で連結される。
【0341】
例示的な態様によれば、前記活性化要素は、CD14に由来するGPIアンカー付着配列と融合された抗CD3scFvFcと、CD16bに由来するGPIアンカー付着配列と融合されたCD80とを含み、何れも本開示にて提供される組換レトロウイルスの表面で発現される。ある態様によれば、抗CD3scFvFcは、DAFシグナル配列とはそのN末端で連結され、CD14に由来するGPIアンカー付着配列とはそのC末端で連結される。また、CD80は、DAFシグナル配列とはそのN末端で連結され、CD16bに由来するGPIアンカー付着配列とはそのC末端で連結される。そして何れも、本開示にて提供される組換レトロウイルスの表面で発現される。ある態様によれば、DAFシグナル配列は、DAFタンパク質のアミノ酸残基1~30を含む。
【0342】
膜結合サイトカイン
本開示にて提供される方法及び組成物の側面の一部態様は、膜結合サイトカイン、又は、膜結合サイトカインをコードするポリヌクレオチドを含む。サイトカインは、常にではないが通常は、分泌タンパク質である。天然に分泌されるサイトカインは、膜結合型となるように改変された融合タンパク質であってもよい。本開示に示す方法及び組成物には、膜結合サイトカイン融合ポリペプチドが含まれ、これらも本発明の一側面となる。ある態様によれば、組換レトロウイルスはその表面に、T細胞及び/又はNK細胞に結合してその増殖及び/又は生存を促進する能力を有する、膜結合サイトカイン融合ポリペプチドを有する。膜結合性ポリペプチドは通常は、組換レトロウイルスの膜に組み込まれており、斯かる組換レトロウイルスによって細胞を形質導入すると、これらのレトロウイルス及び宿主細胞膜が融合する結果、前記ポリペプチドが前記形質導入細胞の膜に結合される。
【0343】
ある態様によれば、前記サイトカイン融合ポリペプチドは、IL-7、IL-15又はその活性断片を含む。前記膜結合サイトカイン融合ポリペプチドは、通常は異種シグナル配列及び/又は異種膜付着配列と融合されたサイトカインである。ある態様によれば、異種膜付着配列は、GPIアンカー付着配列である。異種GPIアンカー付着配列は、任意の既知のGPI-アンカー化タンパク質に由来するものであってもよい(概説として、Ferguson MAJ, Kinoshita T, Hart GW. Glycosylphosphatidylinositol Anchors. In: Varki A, Cummings RD, Esko JD, et al., editors. Essentials of Glycobiology. 2nd edition. Cold Spring Harbor (NY): Cold Spring Harbor Laboratory Press; 2009. Chapter 11)。ある態様によれば、異種GPIアンカー付着配列は、CD14、CD16、CD48、CD55(DAF)、CD59、CD80、及びCD87に由来するGPIアンカー付着配列である。ある態様によれば、異種GPIアンカー付着配列は、CD16に由来する。例示的な態様によれば、異種GPIアンカー付着配列は、Fc受容体FcγRIIIb(CD16b)に由来する。ある態様によれば、GPIアンカーは、DAFのGPIアンカーである。
【0344】
例示的な態様によれば、前記膜結合サイトカインは、サイトカインがDAFに融合された融合ポリペプチドである。DAFは、パッケージング細胞から出芽したレトロウイルスの膜に組み込まれた脂質ラフトに集積することが知られている。従って、理論に束縛されるものではないが、DAF融合タンパク質は、組換レトロウイルス膜の一部となるパッケージング細胞の膜の一部に対して、優先的に標的化される。
【0345】
非限定的な例示の態様によれば、前記サイトカイン融合ポリペプチドは、DAFに融合されたIL-7又はその活性断片である。非限定的な具体的例示態様によれば、融合サイトカインポリペプチドは、DAFシグナル配列(DAFの残基1~31)、シグナル配列を欠くIL-7、及び、DAFの残基36~525をこの順に含む。
【0346】
インビボ制御要素
リボスイッチ
本開示にて提供される方法及び組成物の一部は、1又は2以上のリボスイッチ、或いは、1又は2以上のリボスイッチを含むポリヌクレオチドを含む。これらも本開示の個別の側面を構成する。リボスイッチは、遺伝子発現を制御するための細菌に共通の特徴であり、生物学的機能のRNA制御を達成する手段である。リボスイッチは、mRNAの5’-非翻訳領域等に存在するポリヌクレオチドであって、リボスイッチ活性を誘導または抑制する小分子リガンドの結合を通じて、遺伝子発現の調節制御を可能とする。通常は、リボスイッチは斯かる小分子リガンドの生成に関与する遺伝子産物を制御することにより、フィードバックループを構成する。リボスイッチは通常はシス的に作用するが、トランス作用を有するリボスイッチも同定されている。天然のリボスイッチは2つのドメインからなる。三次元折り畳みRNA構造を介してリガンドに結合するアプタマードメインと、リガンドの不在又は存在に基づいてリボスイッチの活性を誘導又は抑制する機能スイッチングドメインである。即ち、リボスイッチによって、2種類のリガンド感受性の立体構造が達成され、これらがそれぞれオン及びオフの状態を表すことになる(Garst et al., 2011)。機能スイッチングドメインは、内部リボソーム侵入部位、レトロウイルス遺伝子コンストラクトのmRNA前駆体スプライスドナーアクセス可能性、翻訳、転写の終了、転写産物分解、miRNA発現、又はshRNA発現を制御することにより、ポリヌクレオチドの発現に対して影響を及ぼす(Dambach and Winkler 2009)。アプタマードメイン及び機能スイッチングドメインをモジュラー要素として用いることにより、ランダムRNAライブラリーのスクリーニングにより同定される天然アプタマー、変異/進化させた天然アプタマー、又は完全合成アプタマーとして、遺伝子発現を制御する合成RNAデバイスを構成することができる(McKeague et al 2016)。
【0347】
プリンリボスイッチファミリーは、最大のファミリーの一つであり、500を超える配列が見つかっている(Mandal et al 2003;米国特許公開第2008/0269258号;及び国際公開第2006055351号)。プリンリボスイッチは何れも、3つの保存された螺旋要素/幹構造(P1、P2、P3)の間にループ/連結要素(J1-2、L2、J2-3、L3、J3-1)が介在する、類似した構造を有する。リボスイッチのプリンファミリーのアプタマードメインは、天然でも、種々のプリン化合物、例えばアデニン、グアニン、アデノシン、グアノシン、デオキシアデノシン、デオキシグアノシン(
図5)等により、配列の多様性に応じて多様な親和性/調節性を有する(Kim et al. 2007)。
【0348】
一側面によれば、本開示では、プロモーター及びリボスイッチに作動式に連結された標的ポリヌクレオチドをコードするポリヌクレオチドを含む、標的ポリヌクレオチドの発現を制御するための単離ポリヌクレオチドが提供される。ここで、前記リボスイッチは、a.)ヌクレオシド類似体抗ウイルス薬に結合可能であると共に、グアニン又は2’-デオキシグアノシンへの結合が、前記ヌクレオシド類似体抗ウイルス薬への結合と比較して制限されてなるアプタマードメインと、b.)前記標的ポリヌクレオチドの発現を制御することが可能な機能スイッチングドメインとを含み、ここで前記ヌクレオシド類似体に前記アプタマードメインが結合すると、前記機能スイッチングドメインの発現制御活性が誘導又は抑制されることにより、前記標的遺伝子の発現が制御される。ある態様によれば、前記標的ポリヌクレオチドは、ポリペプチドエンコーディング領域、miRNA、又はshRNAであってもよい。非限定的な例によれば、前記リボスイッチは、インビボ活性を有する(例えば疾患の治療に有効な)ポリペプチドをコードする核酸、miRNA、又はshRNAに、作動式に連結されてなる。例えば、斯かる非限定的な例によれば、前記リボスイッチは、キメラ抗原受容体をコードする核酸に、作動式に連結されてなる。本開示にて提供される非限定的な例によれば、前記標的ポリヌクレオチドは、本開示の種々の他の側面に含まれる1又は2以上の改変シグナル伝達ポリペプチドをコードする。これらの非限定的な例によれば、前記のリボスイッチ及び1又は2以上の改変シグナル伝達ポリペプチドをコードする標的ポリヌクレオチドは、パッケージング細胞、組換レトロウイルス、T細胞及び/又はNK細胞のゲノムに見出されるものであってもよい。
【0349】
ある態様によれば、前記アプタマードメインの長さは、例えば下限が30、35、40、45、50、55、60、65、及び70ヌクレオチド、上限が35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、及び100ヌクレオチドの範囲、例えば45~80ヌクレオチド長さ、45~60ヌクレオチド長、又は45~58ヌクレオチド長であってもよい。例示的な態様によれば、前記ヌクレオシド類似体抗ウイルス薬は、医薬リガンドであるアシクロビル(別名アシクログアノシン)又はペンシクロビルである(
図5)。ある態様によれば、前記アプタマードメインは、前記ヌクレオシド類似体抗ウイルス薬に対する結合親和性が、ヌクレオシド又はヌクレオチドに対する結合親和性と比較して、例えば少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、30、40、50、60、70、80、90、又は100倍であってもよい。
【0350】
前記インビボ制御要素は、インビボにおいて、形質導入T細胞の増加を促進する。ある態様によれば、増加は制御要素の存在に依存する。しかし、他の態様によれば、形質導入T細胞の増加が、少なくとも部分的に他の因子により誘導されてもよい。斯かる他の因子としては、例えば前記対象におけるインターロイキンの存在や、組換T細胞のCARのASTRがそのリガンドに結合すること等が挙げられる。
【0351】
ある態様によれば、血液からのPBLの単離前、単離中、及び/又は、単離後に、且つ、ヌクレオシド類似体抗ウイルス薬に結合し、1又は2以上の標的ポリヌクレオチドの発現を制御するインビボ制御要素(非限定的な例としてはリボスイッチが挙げられる)を含む組換レトロウイルスにT細胞及び/又はNK細胞を接触させる前に、ヌクレオシド類似体抗ウイルス薬、例えばアシクロビル又はペンシクロビル等が対象に投与される。1又は2以上のポリペプチドをコードしうる1又は2以上の標的ポリヌクレオチドは、非限定的な例によれば、1又は2以上の改変シグナル伝達ポリペプチドであり、その少なくとも1つが、リンパ増殖性要素をコードする。ある態様によれば、前記ヌクレオシド類似体抗ウイルス薬、例えばアシクロビル又はペンシクロビル等は、血液からのPBLの単離、又は、T細胞及び/又はNK細胞の組換レトロウイルスとの接触に先立ち、下限が5、10、15、30、及び60分間、及び、上限が1.5、2、3、4、5、6、8、12、24、48、又は72時間の範囲内の時間だけ早く、前記対象に投与される。ある態様によれば、前記ヌクレオシド類似体抗ウイルス薬、例えばアシクロビル又はペンシクロビル等は、血液からのPBLの単離後、又は、本開示にて提供される方法によるT細胞及び/又はNK細胞の組換レトロウイルスとの接触後、下限が1.5、2、3、4、5、6、8、12、又は24時間、上限が1/2、1、2、3、4、5、6、7、10、14、21、又は28日間の範囲内の時間だけ遅く、前記対象に投与される。ある態様によれば、前記ヌクレオシド類似体抗ウイルス薬、例えばアシクロビル又はペンシクロビル等は、血液からのPBLの単離後、又は、本開示にて提供される方法によるT細胞及び/又はNK細胞の組換レトロウイルスとの接触後、少なくとも1.5、2、3、4、5、6、8、12、又は24時間、又は少なくとも2、3、4、5、6、7、10、14、21、又は28日間だけ遅く、前記対象に投与される。ある態様によれば、前記ヌクレオシド類似体抗ウイルス薬、例えばアシクロビル又はペンシクロビル等は、PBLの前記対象への再注入後、少なくとも1、2、3、4、5、7、10、14、21、28、30、60、90、又は120日間、又は5、6、9、12、24、36、48、60、72、84、96、120ヶ月だけ遅れて、又は無期限に遅れて、前記対象に投与される。本発明に開示される態様の何れかによれば、前記ヌクレオシド類似体抗ウイルス薬は、PBLの再点滴前及び/又は再点滴中及び/又は再点滴に投与してもよい。ある態様によれば、前記ヌクレオシド類似体抗ウイルス薬は、前記標的ポリヌクレオチドが関連する疾患の症状を対象が示さなくなるまで、或いは斯かる疾患に罹患しなくなるまで、対象に投与される。
【0352】
ある態様によれば、前記アプタマードメインは、アシクロビル或いは他の抗ウイルス剤よりも、ペンシクロビルに対して優先的に結合してもよい。これにより、リボスイッチに影響を及ぼすことなく、同時に抗ウイルス治療を用いることが可能となる。ある態様によれば、前記アプタマードメインのペンシクロビルに対する結合親和性は、前記アプタマードメインのアシクロビル又は他の抗ウイルス剤に対する結合と比較して、例えば少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、30、40、50、60、70、80、90、又は100倍超であってもよい。ある態様によれば、前記アプタマードメインは、ペンシクロビル或いは他の抗ウイルス剤よりも、アシクロビルに対して優先的に結合してもよい。これにより、リボスイッチに影響を及ぼすことなく、同時に抗ウイルス治療を用いることが可能となる。ある態様によれば、前記アプタマードメインのアシクロビルに対する結合親和性は、前記アプタマードメインのペンシクロビル又は他の抗ウイルス剤に対する結合と比較して、例えば少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、30、40、50、60、70、80、90、又は100倍超であってもよい。ある態様によれば、ペンシクロビル(ファムシクロビル)及びアシクロビル(バラシクロビル)の経口プロドラッグを、対象に投与してもよい。
【0353】
ある態様によれば、単離ポリヌクレオチドのアプタマードメインは、配列番号87~93の何れかの配列に対して、少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有し、或いは配列が同一であると共に、前記ヌクレオシド類似体抗ウイルス薬への結合と比較して、アシクロビルへの結合能力を維持すると共に、グアニン又は2’-デオキシグアノシンへの結合能力が低減されてなる。ここで前記アプタマードメインが、アシクロビルと結合すると前記機能スイッチングドメインの発現制御活性を誘発又は抑制する能力を保持する。ある態様によれば、単離ポリヌクレオチドのアプタマードメインは、配列番号94~100のアプタマードメインに対して、少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有し、或いは配列が同一であると共に、前記ヌクレオシド類似体抗ウイルス薬への結合と比較して、ペンシクロビルへの結合能力を維持すると共に、グアニン又は2’-デオキシグアノシンへの結合能力が低減されてなる。ここで前記アプタマードメインが、ペンシクロビルと結合すると前記機能スイッチングドメインの発現制御活性を誘発又は抑制する能力を保持する。ある態様によれば、単離ポリヌクレオチドの一部領域又はリボスイッチの一部領域が、配列番号87~100の何れかの配列に対して、少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有し、或いは配列が同一である。
【0354】
ある態様によれば、単離ポリヌクレオチドのアプタマードメインの一部領域を含むDNA配列は、配列番号108~221の何れかの配列に対して、少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有し、或いは配列が同一である。ある態様によれば、単離ポリヌクレオチドの一領域は、配列番号108~221の何れかの配列に対して、少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有し、或いは配列が同一である。
【0355】
ある態様によれば、単離ポリヌクレオチドのアプタマードメインの一部領域を含むDNA配列は、配列番号108に対して、少なくとも80%、85%、90%、91%、91.84%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有し、或いは配列が同一である。ある態様によれば、単離ポリヌクレオチドのアプタマードメインの一部領域を含むDNA配列は、配列番号147に対して、少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、95.83%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有し、或いは配列が同一である。ある態様によれば、単離ポリヌクレオチドのアプタマードメインの一部領域を含むDNA配列は、配列番号164に対して、少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、93.88%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有し、或いは配列が同一である。ある態様によれば、単離ポリヌクレオチドのアプタマードメインの一部領域を含むDNA配列は、配列番号183に対して、少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、95.83%96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有し、或いは配列が同一である。ある態様によれば、単離ポリヌクレオチドのアプタマードメインの一部領域を含むDNA配列は、配列番号198に対して、少なくとも80%、85%、90%、91%、91.84%、92%、93%、94%、95%、95.83%96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有し、或いは配列が同一である。
【0356】
ある態様によれば、単離ポリヌクレオチドの一部領域は、配列番号222~226の何れかのコンセンサス配列を含んでいてもよい。ある態様によれば、単離ポリヌクレオチドの一部領域は、配列番号222~226の何れかの配列に対して、少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、95.83%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有し、或いは配列が同一である。
【0357】
本発明に開示される態様の何れかによれば、前記単離ポリヌクレオチドは、アシクロビル及び/又はペンシクロビルへの結合能力を保持する。本発明に開示される態様の何れかによれば、単離ポリヌクレオチドが、配列番号87~100又は配列番号108~221の何れかの配列の逆相補的配列であってもよい。本発明に開示される態様の何れかによれば、単離ポリヌクレオチドが、配列番号108~221のDNA配列又は配列番号108~221に対して相補的なDNA配列の転写産物又はRNA型であってもよい。本発明に開示される態様の何れかによれば、単離ポリヌクレオチドが、配列番号87~100の何れかのRNA配列の逆転写産物又はDNA型、又は、配列番号87~100の何れかのRNA配列の逆転写物に対して相補的なDNA鎖であってもよい。
【0358】
本開示にて提供されるある態様によれば、リボスイッチ骨格を変異解析又は分子進化に用いてもよい。変異解析又は分子進化用に選択されるリボスイッチは、例えば細菌等の任意の既知の生物に由来するものであってもよい。ある態様によれば、メソプラズマ・フローラム(Mesoplasma florum)由来のI-A型デオキシグアノシンリボスイッチを、分子進化に用いてもよい。ある態様によれば、誘導されたアプタマードメインが、メソプラズマ・フローラム(Mesoplasma florum)のI-A型デオキシグアノシンリボスイッチ由来のアプタマードメイン(配列番号237)に対して、少なくとも50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、又は95%の配列同一性を有していてもよい。他の態様によれば、枯草菌(Bacillus subtilis)由来のxptリボスイッチを用いてもよい。ある態様によれば、誘導されたアプタマードメインが、枯草菌(Bacillus subtilis)のxptリボスイッチ由来のアプタマードメイン(配列番号243)に対して、少なくとも50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、又は95%の配列同一性を有していてもよい。
【0359】
アプタマードメインをモジュラー要素として用い、RNA転写産物に影響を与える機能スイッチングドメインと組み合わせてもよい。本発明に開示される態様の何れかによれば、前記リボスイッチは、内部リボゾーム性侵入部位(IRES)、mRNA前駆体スプライスドナーアクセス可能性、翻訳、転写の終了、転写産物分解、miRNA発現、又はshRNA発現のうち何れかの活性を制御することにより、RNA転写産物に影響を及ぼすことができる。ある態様によれば、機能スイッチングドメインは、抗IRESのIRESに対する結合を制御することができる(例えばOgawa, RNA (2011), 17:478-488参照。本文献の開示はその全体が引用により本開示に組み込まれる)。本発明に開示される態様の何れかによれば、小分子リガンドの存在又は不在により、リボスイッチのRNA転写産物に対する作用が引き起こされてもよい。ある態様によれば、前記リボスイッチが、リボザイムを含んでいてもよい。リボザイムを有するリボスイッチは、小分子リガンドの存在下で、標的ポリヌクレオチドの転写産物分解を抑制又は促進することができる。ある態様によれば、前記リボザイムは、ピストル型リボザイム、ハンマーヘッド型リボザイム、捻れ型リボザイム、ハチェット型リボザイム、又はHDV(デルタ肝炎ウイルス)リボザイムであってもよい。
【0360】
本発明に開示される態様の何れかによれば、前記リボスイッチの標的ポリヌクレオチドに対する相対位置は、一般的なリボスイッチについて周知のように、種々の任意の位置で。ある態様によれば、前記リボスイッチは、mRNA前駆体スプライスドナーアクセス可能性を制御可能であり、前記標的ポリヌクレオチドの前に位置する。ある態様によれば、前記リボスイッチは、ポリ(A)尾部の含有を制御可能であり、前記標的ポリヌクレオチドの後に位置する。ある態様によれば、前記リボスイッチは、抗IRESを制御可能であり、IRESの上流に位置する。非限定的な例示の態様によれば、本開示にて提供されるリボスイッチが、本開示にて提供される1又は2以上の改変シグナル伝達ポリペプチドをコードする核酸に対して、任意の位置に存在していてもよい。
【0361】
ある態様によれば、前記リボスイッチが、37.5℃、38℃、38.5℃、39℃、39.5℃、又は40℃を超える温度で不安定化し、リガンドに対する反応性を喪失してもよい。ある態様によれば、分子進化を用いることにより、37.5℃、38℃、38.5℃、39℃、39.5℃、又は40℃を超える温度で不安定化するリボスイッチを選択してもよい。
【0362】
ある態様によれば、前記標的ポリヌクレオチドは、miRNA、shRNA、及び/又は、ポリペプチドをコードしうると共に、標的ポリヌクレオチドが、プロモーターに作動式に連結されてなる。ある態様によれば、前記標的ポリヌクレオチドは、リンパ増殖性要素をコードしうる。ある態様によれば、前記標的ポリヌクレオチドが、miRNA又はshRNAであってもよい。ある態様によれば、前記miRNA又はshRNAは、STAT5経路を増強してもよく、或いはSOCS経路を抑制してもよい。ある態様によれば、前記miRNA又はshRNAは、SOCS1、SMAD2、TGFb、又はPD-1の転写産物を標的とするものでもよい。ある態様によれば、前記miRNAは、miR-155である。ある態様によれば、前記標的ポリヌクレオチドはポリペプチドをコードし、前記ポリペプチドは、抗原特異的標的化領域、膜貫通ドメイン、及び細胞内活性化ドメインを含むCARを含んでいてもよい。
【0363】
他の側面において、本開示では、プロモーター及びリボスイッチに作動式に連結された標的ポリヌクレオチドをコードするポリヌクレオチドを含む、標的ポリヌクレオチドの発現を制御するための単離ポリヌクレオチドが提供される。ここで前記リボスイッチは、a.)前記アプタマードメインのグアニン又は2’-デオキシグアノシンに対する結合よりも、少なくとも2倍の高い結合親和性を以てヌクレオシド類似体抗ウイルス薬に結合可能なアプタマードメインと、b.)前記標的ポリヌクレオチドの発現を制御することが可能な機能スイッチングドメインを含み、ここで前記ヌクレオシド類似体に前記アプタマードメインが結合すると、前記機能スイッチングドメインの発現制御活性が誘導又は抑制される。ある態様によれば、前記アプタマードメインは、前記アプタマードメインのグアニン又は2’-デオキシグアノシンに対する結合よりも、少なくとも3、4、5、6、7、8、9、10、20、30、40、50、60、70、80、90、又は100倍の高い結合親和性を以て、前記ヌクレオシド類似体抗ウイルス薬に結合する。ある態様によれば、前記アプタマードメインの長さは、下限が30、35、40、45、50、55、60、65、及び70ヌクレオチド長、上限が35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、及び100ヌクレオチド長の範囲、例えば45~80ヌクレオチド長又は45~58ヌクレオチド長であってもよい。例示的な態様によれば、前記ヌクレオシド類似体抗ウイルス薬は、医薬リガンドであるアシクロビル(別名アシクログアノシン)又はペンシクロビルであってもよい。ある態様によれば、前記アプタマードメインは、ヌクレオシド又はヌクレオチドに対する結合親和性よりも、例えば少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、30、40、50、60、70、80、90、又は100倍の高い結合親和性を以て、前記ヌクレオシド類似体抗ウイルス薬に結合してもよい。ある態様によれば、前記アプタマードメインが前記ヌクレオシド類似体へ結合することにより、前記リボスイッチの活性が誘導される。
【0364】
ある態様によれば、前記アプタマードメインが、ペンシクロビルに対して特異性を有し、アシクロビル或いは他の抗ウイルス剤に対して反応性を欠いていてもよい。それにより、前記リボスイッチに影響を与えることなく、同時に抗ウイルス治療を行うことが可能となる。ある態様によれば、前記アプタマードメインは、前記アプタマードメインがアシクロビル又は他の抗ウイルス剤に結合する場合と比べて、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、30、40、50、60、70、80、90、又は100倍の大きな結合親和性を以て、ペンシクロビルに結合可能である。ある態様によれば、前記アプタマードメインが、アシクロビルに対して特異性を有し、ペンシクロビル或いは他の抗ウイルス剤に対して反応性を欠いていてもよい。それにより、前記リボスイッチに影響を与えることなく、同時に抗ウイルス治療を行うことが可能となる。ある態様によれば、前記アプタマードメインは、前記アプタマードメインがペンシクロビル又は他の抗ウイルス剤に結合する場合と比べて、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、30、40、50、60、70、80、90、又は100倍の大きな結合親和性を以て、アシクロビルに結合可能である。ある態様によれば、ペンシクロビル(ファムシクロビル)及びアシクロビル(バラシクロビル)の経口プロドラッグを、対象に投与してもよい。ある態様によれば、こうして誘導されるアプタマードメインが、メソプラズマ・フローラム(Mesoplasma florum)のI-A型デオキシグアノシンリボスイッチ由来のアプタマードメインに対して、少なくとも50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、又は95%の配列同一性を有していてもよい。ある態様によれば、こうして誘導されるアプタマードメインが、枯草菌(Bacillus subtilis)のxptリボスイッチ由来のアプタマードメインに対して、少なくとも50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、又は95%の配列同一性を有していてもよい。本発明に開示される態様の何れかによれば、前記リボスイッチは、内部リボゾーム性侵入部位、レトロウイルス遺伝子コンストラクトのmRNA前駆体スプライスドナーアクセス可能性、翻訳、転写の終了、転写産物分解、miRNA発現、又はshRNA発現のうち何れかの活性を制御することにより、RNA転写産物に影響を及ぼすことができる。ある態様によれば、前記機能スイッチングドメインは、抗IRESのIRESに対する結合を制御することができる。本発明に開示される態様の何れかによれば、小分子リガンドの存在又は不在により、前記リボスイッチのRNA転写産物に対する作用が誘導されてもよい。ある態様によれば、前記リボスイッチが、リボザイムを含んでいてもよい。リボザイムを有するリボスイッチは、小分子リガンドの存在下で、所望の遺伝子の転写産物分解を抑制又は促進することができる。ある態様によれば、前記リボザイムが、ピストル型リボザイム、ハンマーヘッド型リボザイム、捻れ型リボザイム、ハチェット型リボザイム、又はthe HDV(デルタ肝炎ウイルス)リボザイムであってもよい。ある態様によれば、前記リボスイッチが、37.5℃、38℃、38.5℃、39℃、39.5℃、又は40℃を超える温度で不安定化し、リガンドに対する反応性を喪失してもよい。ある態様によれば、分子進化を用いて、37.5℃、38℃、38.5℃、39℃、39.5℃、又は40℃を超える温度で不安定化するリボスイッチを選択してもよい。ある態様によれば、前記標的ポリヌクレオチドは、miRNA、shRNA、及び/又は、ポリペプチドをコードしうる、ここで前記標的ポリヌクレオチドが、プロモーターに作動式に連結されてなる。ある態様によれば、前記標的ポリヌクレオチドは、リンパ増殖性要素をコードしうる。ある態様によれば、前記標的ポリヌクレオチドが、miRNAであってもよく、任意により、前記miRNAがSTAT5経路を刺激し、又はSOCS経路を抑制してもよい。ある態様によれば、前記miRNAは、SOCS1、SHP、SMAD2、TGFb、又はPD-1に由来する転写産物を標的とすることができる。これらの態様において、前記miRNAが、miR-155であってもよい。ある態様によれば、前記標的ポリヌクレオチドが、ポリペプチドをコードすると共に、前記ポリペプチドが、抗原特異的標的化領域、膜貫通ドメイン、及び細胞内活性化ドメインを含むCARを含んでいてもよい。CARの更なる態様については、本開示の別の箇所で論じる。
【0365】
ある態様によれば、アプタマーの進化が、ランダム化された天然のプリン又はグアニンアプタマーライブラリーから、SELEX(指数関数的濃縮によるリガンドの体系的進化)法を用いたアプタマー選択により実施されるものであってもよい。例としては、これらに制限されるものではないが、選択プロセス及びスクリーニングに酸化グラフェンを用いる方法が挙げられる。他の態様によれば、ランダム突然変異生成法、例えばエラープローン(error prone)PCRを用いて、アプタマーコンストラクト又はリボスイッチコンストラクトを進化させてもよい。ここで、アプタマーは、インビトロでのスクリーニングにより、或いは哺乳類細胞において、本開示に記載の任意のリボスイッチ活性に組み込まれる。他の態様によれば、ヌクレオチドのランダムライブラリーを用いて、リボスイッチを進化させてもよい。本発明に開示される態様の何れかによれば、リボスイッチは、斯かるライブラリーをインビトロでスクリーニングすることにより、或いは哺乳類細胞において同定される。
【0366】
ある態様によれば、こうして進化又は誘導されたアプタマードメインは、天然のリガンドの類似体に対する結合性が増加すると共に、天然のリガンドに対する結合性が減少していてもよい。ある態様によれば、前記アプタマードメインは、天然のリガンドの類似体に対する結合性が増加すると共に、天然のリガンドに対する結合性が減少するように構成されていてもよい。ある態様によれば、前記アプタマードメインは、プリンリボスイッチファミリーに由来するものであってもよい。ある態様によれば、天然のリガンドが、ヌクレオシド又はヌクレオチドであってもよく、類似体が、ヌクレオシド類似体又はヌクレオチド類似体であってもよい。ある態様によれば、前記ヌクレオシド類似体は、抗ウイルス薬である。例示的な態様によれば、前記アプタマードメインは、2’-デオキシグアノシン及びグアニンリボスイッチ骨格に由来するものであってもよく、こうして誘導されるアプタマードメインは、野生型リボスイッチと比較して、2’-デオキシグアノシン及びグアニンに対する結合性が弱められていてもよい。
【0367】
ある態様によれば、前記リボスイッチは、レトロウイルス遺伝子コンストラクトのmRNA前駆体スプライスドナーアクセス可能性を制御しうる。ここで、前記レトロウイルスコンストラクトは、汎用プロモーター又はT細胞特異的プロモーターの下、前記CAR遺伝子又は他の所望の遺伝子を逆鎖から誘導する。他の態様によれば、前記リボスイッチは、前記レトロウイルス遺伝子コンストラクトにおいて、IRESを制御しうる。ここで、前記レトロウイルスコンストラクトは、CAR遺伝子又は他の所望の遺伝子の翻訳を誘導する。他の態様によれば、前記リボスイッチは、RNA、miRNA、又は遺伝子転写産物の転写終了を制御することができ、又は、転写産物の翻訳を制御することができる。他の態様によれば、前記ヌクレオシド類似体リボスイッチは、リボザイムと共に組み込まれて、前記ヌクレオシド類似体の存在下、前記CAR遺伝子又は他の所望の遺伝子の転写産物分解を抑制又は促進してもよい。
【0368】
ある態様によれば、プロモーター及びヌクレオシド類似体抗ウイルス薬に結合するリボスイッチに作動式に連結された標的ポリヌクレオチドをコードするポリヌクレオチドを含む、前記標的ポリヌクレオチドの発現を制御するための単離ポリヌクレオチドは、分子クローニングベクターである。斯かる分子クローニングベクターは、本技術分野で公知の任意の種類の分子クローニングベクターであってよい。非限定的な例として、ベクターは、プラスミド、ウイルス、又はレトロウイルスであってもよく、これらは何れも発現ベクターであってもよい。斯かる発現ベクターは、本開示にて提供される上記の任意の標的ポリヌクレオチドをコードしうる。1又は2以上の制限部位及び/又は多重クローニング部位が、分子クローニングベクターに、本開示にて提供されるリボスイッチの5’側又は3’側に組み込まれていてもよい。それにより、前記リボスイッチは、制限部位及び/又は多重クローニング部位に挿入された標的ポリヌクレオチドに対して、作動式に連結されることになる。
【0369】
分子シャペロン
一側面によれば、本開示では、対象のリンパ球を遺伝子操作し、増加させるための方法であって、
A.対象の静止T細胞及び/又はNK細胞を、エクスビボで、通常は事前のエクスビボでの刺激を要さず、組換レトロウイルスと接触させ、ここで当該組換レトロウイルスは、
i.T細胞及び/又はNK細胞に結合し、斯かる細胞への組換レトロウイルスの膜融合を促進することが可能なシュードタイピング要素を、その表面に含むと共に、
ii.T細胞及び/又はNK細胞内で活性なプロモーターに作動式に連結された、1又は2以上の転写単位を含むポリヌクレオチドを含み、ここで前記1又は2以上の転写単位は、インビボ制御要素により制御される第1の改変シグナル伝達ポリペプチドをコードし、ここで前記第1の改変シグナル伝達ポリペプチドは、リンパ増殖性要素及び/又はキメラ抗原受容体を含み、
ここで前記接触により、前記組換レトロウイルスによる前記静止T細胞及び/又はNK細胞の少なくとも一部の形質導入が促進されて、遺伝子操作T細胞及び/又はNK細胞が産生され、
B.前記遺伝子操作T細胞及び/又はNK細胞を、前記対象に導入し、
C.前記遺伝子操作T細胞及び/又はNK細胞を、前記インビボ制御要素として機能する化合物にインビボで暴露することにより、前記第1の改変シグナル伝達ポリペプチドの発現を誘発すると共に、前記リンパ球の増加をインビボで促進し、これにより前記対象のリンパ球を遺伝子操作し、増加させる
ことを含む方法が提供される。
【0370】
例示的な態様によれば、エクスビボでの刺激を行うことなく、前記形質導入が実施される。例示的な態様によれば、前記化合物は、分子シャペロン、例えば小分子の分子シャペロンである。例示的な態様によれば、前記分子シャペロンが前記リンパ増殖性要素及び/又はCAR構成成分に結合することで、前記リンパ増殖性要素及び/又はCARの増殖活性が上昇する。血液を採取する前、接触の間、及び/又は、T細胞及び/又はNK細胞を対象に導入した後に、前記分子シャペロンは、前記対象に投与することができる。この側面の一部態様には、対象から血液を採取することが含まれる。これらの態様において、前記導入は、再導入前に採取及び遺伝子操作された細胞の再導入である。例示的な態様によれば、本プロセス全体が、本開示に記載の他の側面と同様、従来技術の方法よりも短いプロセスである。例えば、本プロセス全体が、48時間未満、24時間未満、又は12時間未満に完了してもよい。他の態様によれば、本プロセス全体を、下限が2、4、6、又は8時間、及び、上限が12、24、36、又は48時間の範囲内の時間で、完了することができる。
【0371】
従って、本開示にて提供される方法及び組成物のある態様によれば、前記インビボ制御要素は、分子シャペロンである。本開示に記載の他のインビボ制御要素、例えばリボスイッチは、通常は本開示に記載の第1又は第2の改変シグナル伝達ポリペプチドのリンパ増殖性要素又は他の構成成分の発現に影響を与える化合物に結合するところ、斯かるインビボ制御要素を用いた他の態様と比較して、分子シャペロンは、インビボ制御要素であると同時に、それ自体が直接、本開示に記載の第1又は第2の改変シグナル伝達ポリペプチドのリンパ増殖性要素又は他の構成成分に対して、通常は結合することにより、影響を与える化合物である。分子シャペロンの投与を含む、本開示の方法の斯かる態様の例によれば、リンパ増殖性要素、膜結合サイトカイン、及び/又は、CAR構成成分は、低活性又は不活性なリンパ増殖性要素、膜結合サイトカイン、及び/又は、CAR構成成分であってもよい。この場合、これらが分子シャペロンと結合することで、その活性が上昇する。即ち、分子シャペロンが結合する標的は、通常は標的ポリペプチドである。ある態様によれば、示されるように、前記ポリペプチドが、分子シャペロン(例示的な態様によれば小分子の分子シャペロン)の結合によってその活性が影響を受ける、第1及び/又は第2の改変シグナル伝達ポリペプチド、又はそのポリペプチド構成成分であってもよい。ある態様によれば、前記ポリペプチドは、分子シャペロン(好ましくは小分子の分子シャペロン)によってその活性が調節される(例示的な態様によれば、上方調節される)リンパ増殖性要素を含んでいてもよい。本開示にて提供される方法による分子シャペロンは、変異型リンパ増殖性要素、及び/又は、不活性なCAR構成成分に結合することにより、それを活性化する化合物であってもよい。
【0372】
他の態様によれば、リンパ増殖性要素又は他のシグナル伝達ドメインは、小分子合成シャペロンの存在下のみで細胞膜への移行を許容するように変異されてなる。他の態様によれば、斯かるシャペロンは増強剤(potentiator)として、前記リンパ増殖性要素又は他のシグナル伝達ドメイン又はタンパク質の安定性及び半減期を増強する。
【0373】
当然ながら、本発明の側面及び態様は、本開示において詳細に提供される工程及び組成物の多くと同一の工程及び組成物を含む。従って、これも当然ながら、これら共通の要素に関する本明細書全体の教示が、分子シャペロンをインビボ制御要素として用いる側面及び態様にも適用される。斯かるインビボ制御要素は通常、本開示にて提供される他のインビボ制御要素、例えばリボスイッチ(これは例えば、通常は薬物等のリボスイッチに結合する分子を利用する)等に加えて、或いはこれら他のインビボ制御要素の代わりに、リンパ増殖性要素又は他の標的分子に直接結合する。
【0374】
ある態様によれば、斯かる分子シャペロンは、標的の細胞内局在性、例えば、標的タンパク質(例えばリンパ増殖性要素及び/又はCAR構成成分等)の適切な折り畳み及び小胞体から細胞膜への移行、又はその表面における半減期を制御しうる化合物である。他の態様によれば、斯かる分子シャペロンは、機能不全な標的の機能的立体構造形成を促進しうる、即ち増強剤として作用しうる。天然変異型タンパク質に対するシャペロン又は増強剤として機能する分子の例としては、ルマカフトール及びアイバカフトールが挙げられる。これらタンパク質は、変異型CFTR塩素チャネル変異体、例えばG551D又はF508del等に対して作用する。アイバカフトールは、G551D又はF508del変異型イオンチャンネルの活性を促進するのに対して、ルマカフトールは変異型塩素チャネルの安定化及びその後のアイバカフトールによる増強作用を促進する。斯かるシャペロン依存型タンパク質は例えば、天然の機能的タンパク質から、分子シャペロンの存在下のみで機能活性を呈する分子をスクリーニングすることにより生成されてもよい。即ち、斯かるタンパク質は、シャペロンが存在する場合のみ活性である。斯かる特異的シャペロン活性に基づきスクリーニング可能な分子の例としては、通常のヒトタンパク質に対して活性を示さない小分子の抗ウイルス薬又は抗感染薬が挙げられる。従って、一の態様によれば、本開示の方法に使用される分子シャペロンは、通常のヒトタンパク質に対して活性を示さない小分子の抗ウイルス又は抗感染化合物である。
【0375】
ある態様によれば、遺伝子操作されたリンパ球を斯かる分子シャペロンに暴露してもよく、及び/又は、対象に斯かる分子シャペロンを投与してもよい。ある態様によれば、前記化合物は、血液からのPBLの単離前、単離中、及び/又は単離後、且つ、T細胞及び/又はNK細胞の組換レトロウイルスとの接触前に、対象に投与される。斯かる態様において、前記組換レトロウイルスは、分子シャペロン化合物に結合してこれにより調節される、低活性又は不活性なリンパ増殖性要素及び/又はCAR構成成分を含む。
【0376】
養子細胞治療の方法の一部の場合も含め、本開示にて提供される、リンパ球を改変し、増加させる態様の何れかによれば、下限が5、10、15、30、及び60分間、及び、上限が1.5、2、3、4、5、6、8、12、又は24時間の範囲の時間に亘って、血液からのPBLの単離前、又は、T細胞及び/又はNK細胞の組換レトロウイルスとの接触前に、前記化合物を対象に投与してもよい。ある態様によれば、下限が1.5、2、3、4、5、6、8、12、又は24時間、及び、上限が1/2、1、2、3、4、5、6、7、10、14、21、又は28日間の範囲の時間に亘って、血液からのPBLの単離後、又は、本開示にて提供される方法によるT細胞及び/又はNK細胞の組換レトロウイルスとの接触後、前記化合物を対象に投与する。ある態様によれば、少なくとも1.5、2、3、4、5、6、8、12、又は24時間、又は少なくとも2、3、4、5、6、7、10、14、21、又は28日間に亘って、血液からのPBLの単離後、又は、本開示にて提供される方法によるT細胞及び/又はNK細胞の組換レトロウイルスとの接触後、前記化合物を対象に投与する。ある態様によれば、PBLの前記対象への再注入後、少なくとも1、2、3、4、5、7、10、14、21、28、30、60、90、又は120日間、又は、5、6、9、12、24、36、48、60、72、84、96、120ヶ月の時間を置いて、又は、無期限の時間をおいて、前記化合物を対象に投与する。本発明に開示される態様の何れかによれば、PBLの再点滴前及び/又は再点滴中及び/又は再注入後に、前記化合物を投与してもよい。
【0377】
本開示に記載の態様の何れかにおいて、分子シャペロンは、化合物と結合してこれにより調節及び/又は活性化されるインビボ制御要素の中には存在しない。分子シャペロンは、インビボ制御要素であって、リンパ増殖性要素及び/又はCARの機能要素の活性を調節する化合物、好ましくは小分子化合物である。
【0378】
組換レトロウイルスを作成するためのパッケージング細胞系/方法
一側面によれば、本開示では、哺乳類細胞を含むレトロウイルスパッケージング系であって、哺乳類細胞が:a)構成型プロモーターから発現されて、第1のリガンド及び第1の誘導型プロモーターと結合する能力を有し、これと作動式に連結された核酸配列の発現に対し、前記第1のリガンドの存在時には、前記第1のリガンドの不在時と比較して、影響を及ぼす、第1のトランス活性化因子;b第2のリガンド及び第2の誘導型プロモーターと結合することができ、これと作動式に連結された核酸配列の発現に対し、第2のリガンドの存在下で、第2のリガンドの不在下と比較して影響を及ぼす、第2のトランス活性化因子;並びに、c)レトロウイルス粒子のためのパッケージ可能なRNAゲノムを含む、レトロウイルスパッケージング系が提供される。ここで、前記第1のトランス活性化因子が、前記第2のトランス活性化因子の発現を制御し、ここで前記第2のトランス活性化因子が、ウイルスパッケージングに含まれるレトロウイルスポリペプチドの発現、及び任意により、他のポリペプチドの発現を制御する。レトロウイルスポリペプチドの例としては、gagポリペプチド、polポリペプチド、及び/又は、シュードタイピング要素が挙げられる。他のポリペプチドとしては、前記組換レトロウイルスに包含又は提示されるペプチドであって、パッケージング細胞株、例えばHEK-293等に対して毒性を有すると考えられるペプチドが挙げられる。特定の側面によれば、前記第2のトランス活性化因子自体が、パッケージング細胞株に対して細胞毒性を有する。本開示にて詳細に論じるように、シュードタイピング要素は、通常は標的細胞の細胞膜に結合し、細胞膜への融合を促進する。即ち、理論に束縛されるものではないが、当該系は、レトロウイルスが産生され、収穫される時間に近い後の時間まで、前記哺乳類細胞の増殖又は生存を阻害しない、又は実質的に阻害しない、又は阻害しないと考えられる特定のポリペプチド/タンパク質、例えば非毒性タンパク質等を蓄積させる能力を提供すると共に、斯かる哺乳類細胞の集団を数日又は無期限に培養し、且つ、レトロウイルス産物には望ましいが、前記哺乳類細胞の生存及び/又は増殖を阻害する、又は阻害しうる、又は阻害するとの報告があるポリペプチド、例えば毒性ポリペプチド等の誘導を制御する。前記パッケージ可能なRNAゲノムは、通常は、プロモーター(本開示では便宜上第3のプロモーターと呼ぶ場合もある)に作動式に連結されたポリヌクレオチドによりコードされ、ここで前記第3のプロモーターは、通常は前記第1のトランス活性化因子又は前記第2のトランス活性化因子により誘導される。例示的な態様によれば、前記パッケージ可能なRNAゲノムが、第3のプロモーターに作動式に連結されたポリヌクレオチドによってコードされ、ここで前記第3のプロモーターが、前記第2のトランス活性化因子によって誘導されうる。それゆえ、前記レトロウイルスの収穫時期に近い後の時点で、前記パッケージ可能なRNAゲノムが産生されてもよい。
【0379】
当業者には当然ではあるが、前記レトロウイルスパッケージング系には、多数の異なるトランス活性化因子、リガンド、及び誘導型プロモーターを使用することができる。斯かる誘導型プロモーターとしては、多数の生物、例えば真核生物や原核生物から単離されたプロモーターや、これらの生物に由来するプロモーターを用いることができる。第1の生物に由来する誘導型プロモーターを第2の生物に用いる場合、例えば第1の生物が原核生物で第2の生物が真核生物である場合や、第1の生物が真核生物で第2の生物が原核生物である場合等、斯かるプロモーターの修飾は本技術分野で周知である。斯かる誘導型プロモーターの例や、斯かる誘導型プロモーターに基づくが追加の制御タンパク質も含む系の例としては、これらに限定されるものではないが、アルコール調節性プロモーター(例えばアルコールデヒドロゲナーゼI(alcA)遺伝子プロモーター、アルコールトランス活性化因子タンパク質(AlcR)に反応性のプロモーター等)、テトラサイクリン調節性プロモーター(例えばTetアクチベーター、TetON、TetOFF等のプロモーター系)、ステロイド調節性プロモーター(例えば、ラット糖質コルチコイド受容体プロモーター系、ヒトエストロゲン受容体プロモーター系、レチノイドプロモーター系、甲状腺プロモーター系、エクジソンプロモーター系、ミフェプリストンプロモーター系等)、金属調節性プロモーター(例えば、メタロチオネインプロモーター系等)、病因関連調節性プロモーター(例えばサリチル酸調節性プロモーター、エチレン調節性プロモーター、ベンゾチアジアゾール調節性プロモーター等)、温度調節性プロモーター(例えばヒートショック誘導型プロモーター(例えば、HSP-70、HSP-90、ダイズヒートショックプロモーター等)、光調節性プロモーター、合成誘導型プロモーター等が挙げられる。ある態様によれば、ミフェプリストン調節性系を用いてもよい。ある態様によれば、自己調節性フィードバックループを有するミフェプリストン誘導型系を用いてもよい。ある態様によれば、GAL4制御性融合タンパク質は、トランスポゾン末端リピート並びにlox及びFRT部位を含む単一のコンストラクトから発現される。ある態様によれば、GAL4調節性融合タンパク質が、逆tetトランス活性化因子(rtTA)及びBiTREの発現を制御する。ある態様によれば、lox及びFRT部位を有する他のコンストラクトが、GAL4上流活性化配列(UAS)と、mCherry等のレポーターを駆動するE1b TATAボックスプロモーターとを含む。ある態様によれば、GAL4制御性融合タンパク質の発現を制御するプロモーターと、標的ポリヌクレオチドの発現を制御するプロモーターとの双方において、GAL4制御性融合タンパク質が、GAL4上流活性化配列(UAS)に結合する。ある態様によれば、ミフェプリストン、ドキシサイクリン、及びピューロマイシンが、パッケージング細胞株の誘導及び選択に用いられる。
【0380】
ある態様によれば、トランス活性化因子の一方又は両方が、二以上のポリペプチドに分割されていてもよい。ある態様によれば、これら二以上のポリペプチドは、DNA結合ドメインと、転写を刺激しうる活性化ドメインとを、個別のポリペプチド上に含んでいてもよい。この「活性化ドメイン」は、例えばCD3に結合するポリペプチド等の「活性化要素」と混同してはならない。後者は、本開示にて詳細に論じるように、T細胞及び/又はNK細胞を活性化する能力を有し、通常は斯かるT細胞及び/又はNK細胞と接触することによりこれを活性化するものである。前記の個別のポリペプチドは更に、リガンドの付加により二量体を形成可能なポリペプチドとの融合体を含んでいてもよい。ある態様によれば、活性化ドメインは、p65活性化ドメイン又はその機能断片であってもよい。本開示に記載のパッケージング系の例示的な態様によれば、DNA結合ドメインは、ZFHD1又はその機能断片由来のDNA結合ドメインであってもよい。ある態様によれば、一方のポリペプチドが、FKBP、又はその機能的変異体、及び/又はその断片、又は複数のFKBPと融合されていてもよく、他方のポリペプチドが、mTORのFRBドメイン、又はその機能的変異体、及び/又はその断片と融合されていてもよく、リガンドが、ラパマイシン又は機能的ラパログ(rapalog)であってもよい。ある態様によれば、FRBは、変異K2095P、T2098L、及び/又は、W2101Fを含む。ある態様によれば、前記の個別のポリペプチドは、FKBP又はその機能断片と、カルシニューリンA又はその機能断片とであってもよく、前記の二量体化剤が、FK506であってもよい。ある態様によれば、前記の個別のポリペプチドが、FKBP又はその機能断片と、CyP-Fas又はその機能断片とであってもよく、前記の二量体化剤が、FKCsAであってもよい。ある態様によれば、前記の個別のポリペプチドが、GAI又はその機能断片と、GID1又はその機能断片とであってもよく、前記の二量体化剤が、ジベレリンであってもよい。ある態様によれば、前記の個別のポリペプチドが、Snapタグと、Haloタグ又はその機能断片とであってもよく、前記の二量体化剤が、HaXSであってもよい。ある態様によれば、前記の個別のポリペプチドは、同一のポリペプチドを含んでいてもよい。例えば、前記のDNA結合ドメイン及び活性化ドメインが、FKBP又はGyrBとの融合タンパク質として発現されてもよく、前記の二量体化剤が、それぞれFK1012又はクーママイシンであってもよい。ある態様によれば、誘導型プロモーターが、DNA結合ドメインが通常結合するDNA配列であってもよい。ある態様によれば、誘導型プロモーターが、前記DNA結合ドメインが通常結合するDNA配列とは異なっていてもよい。ある態様によれば、何れかのトランス活性化因子が、rtTAであってもよく、リガンドが、テトラサイクリン又はドキシサイクリンであってもよく、誘導型プロモーターが、TREであってもよい。例示的な態様によれば、第1のトランス活性化因子が、FRBに融合されたp65活性化ドメインと、3つのFKBPポリペプチドに融合されたZFHD1 DNA結合ドメインとであり、第1のリガンドがラパマイシンであってもよい。更なる例示的な態様によれば、第2のトランス活性化因子が、rtTAであってもよく、第2のリガンドが、テトラサイクリン又はドキシサイクリンであってもよく、誘導型プロモーターが、TREであってもよい。
【0381】
ある態様によれば、前記第1のトランス活性化因子は、コンセンサス配列を含む転写産物の核外輸送を制御する、例えばHIVRev等の要素の発現を制御しうると共に、前記コンセンサス配列が、Rev応答要素であってもよい。例示的な態様によれば、前記標的細胞がT細胞である。
【0382】
ある態様によれば、前記シュードタイピング要素は、レトロウイルスエンベロープポリペプチドである。前記シュードタイピング要素は通常、本開示においてより詳細に論じるような、標的細胞に結合して標的細胞とウイルス膜との膜融合を促進するための、結合性ポリペプチド及び融合性ポリペプチドを含む。ある態様によれば、前記シュードタイピング要素は、ネコ内因性ウイルス(RD114)エンベロープタンパク質、オンコレトロウイルス両種指向性エンベロープタンパク質、オンコレトロウイルス同種志向性エンベロープタンパク質、及び/又は、水疱性口内炎ウイルス(VSV-G)エンベロープタンパク質である。例示的な態様によれば、前記シュードタイピング要素は、本開示にてさらに詳細に論じるように、異なるタンパク質に由来する結合性ポリペプチド及び融合性ポリペプチドを含む。例えば、例示的な態様、特に前記標的細胞がT細胞及び/又はNK細胞である態様によれば、結合性ポリペプチドは、麻疹ウイルス(例えば麻疹ウイルスのEdmonston株等)のヘマグルチニン(H)ポリペプチド、又はその細胞質ドメイン欠失変異体であり、融合性ポリペプチドは麻疹ウイルス(例えば麻疹ウイルスのEdmonston株等)の融合(F)ポリペプチド、又はその細胞質ドメイン欠失変異体である。ある態様によれば、融合性ポリペプチドは、単一のポリペプチドとして発現される複数の要素を含んでいてもよい。ある態様によれば、結合性ポリペプチド及び融合性ポリペプチドが、同一の転写産物の異なるリボソーム結合部位から翻訳されてもよく、或いは翻訳後の単一のポリペプチドが、本開示の別の箇所で論じるペプチド切断シグナル又はリボゾーム性スキップ配列を用いて、結合性ポリペプチドと融合性ポリペプチドとに切断されてもよい。結合性ポリペプチドが麻疹ウイルスHポリペプチド又はその細胞質ドメイン欠失体であり、融合性ポリペプチドが麻疹ウイルスFポリペプチド又はその細胞質ドメイン欠失体である一部の態様によれば、F及びHポリペプチドが異なるリボソーム結合部位から翻訳される結果、Hポリペプチドの量と比較してFポリペプチドの量が多くなる。ある態様によれば、Fポリペプチド(又はその細胞質ドメイン欠失体)のHポリペプチド(又はその細胞質ドメイン欠失体)に対する比は、少なくとも2:1、少なくとも3:1、少なくとも4:1、少なくとも5:1、少なくとも6:1、少なくとも7:1、又は少なくとも8:1である。
【0383】
ある態様によれば、前記第1のトランス活性化因子は、標的細胞(例えばT細胞)に結合して当該細胞を活性化することが可能な活性化要素の発現を制御しうる。本開示に示す活性化要素の何れかが発現されてもよい。例えば、これらの態様において、前記活性化要素は、a.)CD3に結合してCD3を活性化することが可能な膜結合性ポリペプチド、及び/又は、b.)膜結合CD28に結合してこれを活性化することが可能なポリペプチドを含んでいてもよい。ある態様によれば、前記膜結合CD28に結合してこれを活性化することが可能なポリペプチドは、CD80、CD86又はその機能断片、例えばCD80の細胞外ドメインである。
【0384】
ある態様によれば、前記第2のトランス活性化因子は、1又は2以上の標的ポリペプチド(非限定的な例としては、本開示に示す任意の改変シグナル伝達ポリペプチド)をコードするRNAの発現を制御しうる。留意すべき点として、前記レトロウイルスパッケージング系に関する側面、及び、組換レトロウイルスの作製方法に関する側面は、T細胞及び/又はNK細胞の形質導入のための組換レトロウイルスの作製に限定されず、組換レトロウイルスにより形質導入されうる任意の細胞型に適用可能であると考えられる。一部の例示的な態様によれば、斯かるRNAは、例えばgagやpol等のレトロウイルス成分を、逆向きに夫君いている(例えば逆鎖において逆向きにコードする)。例えば、斯かるRNAは、5’側から3’側に向かって、以下を含んでいてもよい:5’側末端反復配列(長末端リピート)又はその活性な切断断片;レトロウイルスシス作用型RNAパッケージング要素をコードする核酸配列;第1の標的ポリペプチド及び任意により第2の標的ポリペプチドをコードする核酸配列(斯かる標的ポリペプチドの例として、これらに制限されるものではないが、改変シグナル伝達ポリペプチドが挙げられる。これは、プロモーターにより誘導されてもよい。ある態様によれば、これはあくまでも便宜上「第4の」プロモーターと呼ばれる。);標的細胞で活性なプロモーター;3’側末端反復配列(長末端リピート)又はその活性な切断断片。ある態様によれば、斯かるRNAは、中央ポリプリン路(cPPT)/中央終了配列(CTS)要素を含んでいてもよい。ある態様によれば、前記レトロウイルスシス作用型RNAパッケージング要素は、HIVPsiであってもよい。ある態様によれば、前記レトロウイルスシス作用型RNAパッケージング要素が、Rev応答要素であってもよい。例示的な態様によれば、前記改変シグナル伝達ポリペプチドは、本開示に示す1又は2以上の改変シグナル伝達ポリペプチドである。
【0385】
当然ながら、プロモーターの番号、例えば第1、第2、第3、第4等のプロモーターとは、あくまでも便宜上の番号である。あるプロモーターを「第4の」プロモーターと呼んでも、これは(斯かる他のプロモーターが明示的に述べられている場合を除き)更に追加のプロモーター、例えば第1、第2、又は第3のプロモーターが存在することを含意するものではない。
【0386】
ある態様によれば、前記改変シグナル伝達ポリペプチドは、第1のリンパ増殖性要素を含んでいてもよい。適切なリンパ増殖性要素は、本開示の他の箇所に開示されている。非限定的な例として、前記リンパ増殖性要素は、本開示に示すeTag等の認識ドメインとの融合体として発現されてもよい。ある態様によれば、前記パッケージ可能なRNAゲノムが更に、本開示にて提供される何れかのCARの態様をコードするキメラ抗原受容体を含む、第2の改変されたポリペプチドをコードする核酸配列を含んでいてもよい。例えば、前記第2の改変されたポリペプチドは、第1の抗原特異的標的化領域、第1の膜貫通ドメイン、及び第1の細胞内活性化ドメインを含んでいてもよい。抗原特異的標的化領域、膜貫通ドメイン、及び細胞内活性化ドメインの例は、本開示の別の箇所で論じる。前記標的細胞がT細胞であるある態様によれば、本開示の別の箇所で論じるように、標的細胞で活性なプロモーターは、T細胞でも活性である。
【0387】
ある態様によれば、前記パッケージ可能なRNAゲノムが更に、本開示の他の箇所にて論じるようなリボスイッチを含んでいてもよい。ある態様によれば、改変シグナル伝達ポリペプチドをコードする核酸配列が、逆向きであってもよい。更なる態様によれば、前記パッケージ可能なRNAゲノムが更に、リボスイッチを含んでいてもよく、任意により、前記リボスイッチが、逆向きであってもよい。本発明に開示される態様の何れかによれば、前記の任意の要素を含むポリヌクレオチドは、プライマー結合部位を含んでいてもよい。例示的な態様によれば、転写遮断薬又はポリA配列が、非調節性転写を防止又は低減する遺伝子の近くに配置されてもよい。本発明に開示される態様の何れかによれば、Vpxをコードする核酸配列が、第2の転写単位に存在してもよく、又は任意の第3の転写単位に存在してもよく、又は前記第1の誘導型プロモーターに作動式に連結された更なる転写単位に存在してもよい。
【0388】
他の側面において、本開示では、組換レトロウイルスを作製する方法であって、パッケージング細胞の集団を培養することにより、第1のトランス活性化因子を蓄積させ、ここで前記パッケージング細胞は、構成型プロモーターから発現される前記第1のトランス活性化因子を含み、ここで前記第1のトランス活性化因子が、第1のリガンド及び第1の誘導型プロモーターと結合する能力を有すると共に、これと作動式に連結された核酸配列の発現に対し、前記第1のリガンドの不在時と比較して、前記第1のリガンドの存在時において影響を及ぼし、且つ、ここで第2のトランス活性化因子の発現が、前記第1のトランス活性化因子により調節され;蓄積された第1のトランス活性化因子を含む前記パッケージング細胞集団を、前記第1のリガンドの存在下でインキュベートすることにより、前記第2のトランス活性化因子を蓄積させ、ここで前記第2のトランス活性化因子が、第2のリガンド及び第2の誘導型プロモーターと結合する能力を有すると共に、これと作動式に連結された核酸配列の発現に対し、前記第2のリガンドの不在時と比較して、前記第2のリガンドの存在時において影響を及ぼし;蓄積された第2のトランス活性化因子を含む前記パッケージング細胞集団を、前記第2のリガンドの存在下でインキュベートすることにより、ウイルスパッケージングに含まれるレトロウイルスポリペプチド(例えばgagポリペプチド、polポリペプチド、及び/又は、シュードタイピング要素等)の発現(更に任意により、前記組換レトロウイルスにより内包又は提示される哺乳類細胞の増殖又は生存を阻害すると考えられる他のポリペプチドの発現)を誘導することにより、前記組換レトロウイルスを作製することを含む方法が提供される。例示的な態様によれば、パッケージ可能なRNAゲノムは、プロモーターに作動式に連結されたポリヌクレオチド(便宜上適宜「第3の」プロモーターと呼ぶ。)によってコードされる。ここで前記第3のプロモーターは、構成的に活性であってもよく、前記第1のトランス活性化因子、又は例示的な態様によれば、前記第2のトランス活性化因子によって誘導されてもよい。これにより、前記組換レトロウイルスが作製される。前記シュードタイピング要素は通常、標的細胞の細胞膜に結合して、標的細胞膜と組換レトロウイルス膜との融合を促進する能力を有する。前記シュードタイピング要素は、本技術分野で公知の任意のエンベロープタンパク質であってもよい。ある態様によれば、エンベロープタンパク質は、水疱性口内炎ウイルス(VSV-G)エンベロープタンパク質、ネコ内因性ウイルス(RD114)エンベロープタンパク質、オンコレトロウイルス両種指向性エンベロープタンパク質、及び/又は、オンコレトロウイルス同種志向性エンベロープタンパク質であってもよい。当業者には当然ではあるが、前記の組換レトロウイルスの作製方法には、多数の異なるトランス活性化因子、リガンド、及び誘導型プロモーターを用いることができる。適切なトランス活性化因子、リガンド、及び誘導型プロモーターについては、上記を含め、本開示の別の箇所で論じる。更に、当業者にはこれも当然ではあるが、本開示にて提供されるレトロウイルスパッケージング系の側面に関連する本開示の上記の教示は、組換レトロウイルスの作製方法の側面にも同様に適用され、その逆も同様である。
【0389】
ある態様によれば、前記第1のトランス活性化因子は、コンセンサス配列を含む転写産物の核外輸送を制御する要素の発現、例えばHIVRev等を制御しうると共に、コンセンサス配列が、Rev応答要素(RRE)であってもよい。例示的な態様によれば、前記標的細胞は、通常はT細胞である。ある態様によれば、HIVRRE、及び、HIVRevをコードするポリヌクレオチド領域がそれぞれ、HIV-2 RRE、及び、HIV-2 Revをコードするポリヌクレオチド領域によって置換されていてもよい。ある態様によれば、HIVRRE、及び、HIVRevをコードするポリヌクレオチド領域がそれぞれ、SIV RRE、及び、SIV Revをコードするポリヌクレオチド領域によって置換されていてもよい。ある態様によれば、HIVRRE、及び、HIVRevをコードするポリヌクレオチド領域がそれぞれ、RemRE、及び、βレトロウイルス Remをコードするポリヌクレオチド領域によって置換されていてもよい。ある態様によれば、HIVRRE、及び、HIVRevをコードするポリヌクレオチド領域がそれぞれ、ΔレトロウイルスRexRRE、及び、ΔレトロウイルスRexをコードするポリヌクレオチド領域によって置換されていてもよい。ある態様によれば、Rev様タンパク質は必要ではなく、RREがシス作用型RNA要素、例えば構成型輸送要素(CTE)等によって置換されていてもよい。
【0390】
ある態様によれば、前記シュードタイピング要素は、ウイルスエンベロープタンパク質である。前記シュードタイピング要素は通常は、標的細胞に結合に結合してウイルスと標的細胞膜との膜融合を促進するように、結合性ポリペプチド及び融合性ポリペプチドを含む。ある態様によれば、前記シュードタイピング要素が、ネコ内因性ウイルス(RD114)エンベロープタンパク質、オンコレトロウイルス両種指向性エンベロープタンパク質、オンコレトロウイルス同種志向性エンベロープタンパク質、及び/又は、水疱性口内炎ウイルス(VSV-G)エンベロープタンパク質であってもよい。例示的な態様によれば、前記シュードタイピング要素は、本開示にてさらに詳細に論じるように、異なるタンパク質に由来する結合性ポリペプチド及び融合性ポリペプチドを含む。例えば、特に前記標的細胞がT細胞及び/又はNK細胞である例示的な態様によれば、結合性ポリペプチドが、麻疹ウイルスHポリペプチドの細胞質ドメイン欠失変異体であってもよく、融合性ポリペプチドが、麻疹ウイルスFポリペプチドの細胞質ドメイン欠失変異体であってもよい。ある態様によれば、融合性ポリペプチドは、単一のポリペプチドとして発現される複数の要素を含んでいてもよい。ある態様によれば、前記の結合性ポリペプチド及び融合性ポリペプチドが、同一の転写産物の異なるリボソーム結合部位から翻訳されてもよく、或いは本開示の別の箇所で論じるように、翻訳後の単一のポリペプチドが、ペプチド切断シグナル又はリボゾーム性スキップ配列を用いて、結合性ポリペプチドと融合性ポリペプチドとに切断されてもよい。ある態様によれば、前記の結合性ポリペプチド及び融合性ポリペプチドが、異なるリボソーム結合部位から翻訳される結果、融合性ポリペプチドの量は、結合性ポリペプチドと比較して多くなる。ある態様によれば、融合性ポリペプチドの結合性ポリペプチドに対する比は、少なくとも2:1、少なくとも3:1、少なくとも4:1、少なくとも5:1、少なくとも6:1、少なくとも7:1、又は少なくとも8:1である。
【0391】
ある態様によれば、前記第1のトランス活性化因子は、標的細胞(例えばT細胞)に結合して当該細胞を活性化することが可能な活性化要素の発現を制御しうる。これらの態様において、前記活性化要素は、a.)CD3に結合してCD3を活性化することが可能な膜結合性ポリペプチド、及び/又は、b.)膜結合CD28に結合してこれを活性化することが可能なポリペプチドを含んでいてもよい。ある態様によれば、前記膜結合CD28に結合してこれを活性化することが可能なポリペプチドは、CD80、CD86、又はその機能断片である。ある態様によれば、前記組換レトロウイルスは、前記活性化要素をレトロウイルス膜上に含み、前記レトロウイルスRNAをヌクレオカプシド内に含み、これにより組換レトロウイルスを作製してもよい。
【0392】
ある態様によれば、前記第2のトランス活性化因子は、5’側から3’側に向かって以下を含むRNAの発現を制御しうる:5’側末端反復配列(長末端リピート)又はその活性な切断断片;レトロウイルスシス作用型RNAパッケージング要素をコードする核酸配列;第1の標的ポリペプチド(及び任意の第2の標的ポリペプチド:非限定的な例として、1又は2の改変シグナル伝達ポリペプチド)をコードする核酸配列;標的細胞で活性なプロモーター;及び、3’側末端反復配列(長末端リピート)又はその活性な切断断片。ある態様によれば、斯かるRNAは、cPPT/CTS要素を含んでいてもよい。ある態様によれば、斯かるRNAは、プライマー結合部位を含んでいてもよい。ある態様によれば、前記レトロウイルスシス作用型RNAパッケージング要素は、HIVPsiであってもよい。ある態様によれば、前記レトロウイルスシス作用型RNAパッケージング要素は、Rev応答要素であってもよい。本発明に開示される態様の何れかによれば、当業者であれば理解するように、RNA上のレトロウイルス成分(例えばRRE及びPsi等)は、任意の位置に存在していてもよい。例示的な態様によれば、前記改変シグナル伝達ポリペプチドは、本開示に示す1又は2以上の改変シグナル伝達ポリペプチドである。
【0393】
ある態様によれば、前記改変シグナル伝達ポリペプチドは、第1のリンパ増殖性要素を含んでいてもよい。適切なリンパ増殖性要素は、本開示の他の箇所に記載される。ある例示的な態様によれば、前記リンパ増殖性要素が、認識ドメイン(例えばeTag等)に融合されたIL-7受容体変異体であってもよい。ある態様によれば、前記パッケージ可能なRNAゲノムが更に、本開示にて提供される任意のCARの態様をコードする、キメラ抗原受容体を含む第2の改変されたポリペプチドをコードする核酸配列を含んでいてもよい。例えば、前記第2の改変されたポリペプチドは、第1の抗原特異的標的化領域、第1の膜貫通ドメイン、及び第1の細胞内活性化ドメインを含んでいてもよい。抗原特異的標的化領域、膜貫通ドメイン、及び細胞内活性化ドメインの例については、本開示の別の箇所で論じる。前記標的細胞がT細胞であるある態様によれば、本開示の別の箇所で論じるように、標的細胞で活性なプロモーターは、T細胞で活性である。
【0394】
ある態様によれば、前記パッケージ可能なRNAゲノムが更に、本開示の他の箇所にて論じるようなリボスイッチを含んでいてもよい。ある態様によれば、前記改変シグナル伝達ポリペプチドをコードする核酸配列が、逆向きであってもよい。更なる態様によれば、前記パッケージ可能なRNAゲノムが更に、リボスイッチを含んでいてもよく、任意により、前記リボスイッチが逆向きであってもよい。本発明に開示される態様の何れかによれば、前記の要素の何れかを含むポリヌクレオチドは、プライマー結合部位を含んでいてもよい。例示的な態様によれば、転写遮断薬又はポリA配列が、非調節性転写を防止又は低減する遺伝子の近傍に位置していてもよい。本発明に開示される態様の何れかによれば、Vpxをコードする核酸配列が、前記第2の転写単位に存在していてもよく、又は任意の第3の転写単位に存在していてもよく、又は前記第1の誘導型プロモーターに作動式に連結された更なる転写単位に存在していてもよい。
【0395】
レトロウイルスを作製するパッケージング系又は方法の側面のある態様によれば、コードされるRNAは、イントロンを含んでいてもよく、斯かるイントロンは、例えば前記標的ポリペプチドを発現するためのプロモーターと同一のプロモーターによって転写されてもよい。一部の例示的な態様によれば、斯かるイントロンは、1、2、3、又は4つのmiRNAをコードしうる。レトロウイルスを作製するパッケージング系又は方法の側面に関する、これら及び他の態様によれば、前記パッケージ可能なRNAゲノムは11,000KB以下であり、ある例によれば10,000KB以下のサイズである。
【0396】
ある態様によれば、前記第1のトランス活性化因子は、1又は2以上の非毒性ポリペプチドの発現に作用しうる。ある態様によれば、前記第2のトランス活性化因子は、1又は2以上の毒性ポリペプチドの発現に作用しうる。例えば、前記第1のトランス活性化因子は、前記レトロウイルスタンパク質Rev及びVpxの発現を誘導しうると共に、更に前記パッケージング細胞の細胞膜に輸送されるポリペプチドも誘導しうる。また、前記第2のトランス活性化因子は、前記レトロウイルスタンパク質GAG、POL、MV(Ed)-FΔ30、及び、MV(Ed)-HΔ18又はMV(Ed)-HΔ24の何れかの発現を誘導しうると共に、レンチウイルスゲノムの発現も誘導しうる。ある態様によれば、前記第1のトランス活性化因子が、1又は2以上の毒性ポリペプチドの発現を誘導しうる、及び/又は、前記第2のトランス活性化因子が、1又は2以上の非毒性ポリペプチドの発現を誘導しうる。
【0397】
他の側面において、本開示では、下記を含む哺乳類パッケージング細胞が提供される。a.)前記哺乳類パッケージング細胞のゲノム内に含まれ、第1のトランス活性化因子をコードする核酸配列を含む、第1の転写単位。ここで前記第1の転写単位は、構成型プロモーターに作動式に連結されてなり、ここで前記トランス活性化因子は、第1の誘導型プロモーターに結合すると共に、第1のリガンドの不在下と比較し、第1のリガンドの存在下で、これと作動式に連結された核酸配列の発現に作用する能力を有し、ここで前記第1のトランス活性化因子は、前記第1のリガンドに結合する能力を有する。b.)前記哺乳類パッケージング細胞のゲノム内に含まれ、レトロウイルスREVタンパク質をコードする核酸配列と、第2のトランス活性化因子をコードする核酸配列とを含む、第2の転写単位、及び任意の第3の転写単位。ここで第2のトランス活性化因子は、第2の誘導型プロモーターに結合すると共に、第2のリガンドの不在下と比較し、第2のリガンドの存在下で、これと作動式に連結された核酸配列の発現に作用する能力を有し、ここで前記第2のトランス活性化因子は、前記第2のリガンドに結合する能力を有し、ここで前記第2の転写単位、及び任意の前記第3の転写単位は、前記第1の誘導型プロモーターに作動式に連結されてなる。c.)前記哺乳類パッケージング細胞のゲノム内に含まれ、レトロウイルスGagポリペプチド及びレトロウイルスpolポリペプチド、並びに、結合性ポリペプチド及び融合性ポリペプチドをコードする核酸配列を含む、第4の転写単位、及び任意の第5の転写単位。ここで結合性ポリペプチド及び融合性ポリペプチドは、標的細胞に結合して、標的細胞膜とレトロウイルス膜との融合を促進する能力を有し、ここで前記第4の転写単位、及び任意の前記第5の転写単位は、前記第2の誘導型プロモーターに作動式に連結されてなる。d)前記哺乳類パッケージング細胞のゲノム内に含まれる、第6の転写単位。ここで第6の転写単位は、5’側から3’側に向かって、5’LTR又はその活性な切断断片、レトロウイルスシス作用型RNAパッケージング要素をコードする核酸配列、cPPT/CTS要素、改変シグナル伝達ポリペプチドをコードする核酸配列の逆相補鎖、イントロン、標的細胞で活性なプロモーター、及び3’LTR又はその活性な切断断片を含み、ここで前記第6の転写単位は、前記第2の誘導型プロモーターに作動式に連結されてなる。
【0398】
他の側面において、本開示では、組換レトロウイルスを作製する方法であって、以下を含む方法が提供される。1.)パッケージング細胞の集団を培養することにより、第1のトランス活性化因子を蓄積させる。ここで前記パッケージング細胞は、以下を含む。a.)前記哺乳類パッケージング細胞のゲノム内に含まれ、第1のトランス活性化因子をコードする核酸配列を含む、第1の転写単位。ここで前記第1の転写単位は、構成型プロモーターに作動式に連結されてなり、ここで前記トランス活性化因子は、第1の誘導型プロモーターに結合すると共に、第1のリガンドの不在下と比較し、第1のリガンドの存在下で、これと作動式に連結された核酸配列の発現に作用する能力を有し、ここで前記第1のトランス活性化因子は、前記第1のリガンドに結合する能力を有する。b.)前記哺乳類パッケージング細胞のゲノム内に含まれ、レトロウイルスREVタンパク質をコードする核酸配列と第2のトランス活性化因子をコードする核酸配列とを含む、第2の転写単位、及び任意の第3の転写単位。ここで、第2のトランス活性化因子は、第2の誘導型プロモーターに結合すると共に、第2のリガンドの存在下で、第2のリガンドの不在下と比較して、これと作動式に連結された核酸配列の発現に作用する能力を有し、ここで前記第2のトランス活性化因子は、前記第2のリガンドに結合する能力を有し、ここで前記第2の転写単位、及び任意の前記第3の転写単位は、前記第1の誘導型プロモーターに作動式に連結されてなる。c.)前記哺乳類パッケージング細胞のゲノム内に含まれ、レトロウイルスGagポリペプチド及びレトロウイルスpolポリペプチドをコードする核酸配列、及び結合性ポリペプチド及び融合性ポリペプチドを含む、第4の転写単位、及び任意の第5の転写単位。ここで結合性ポリペプチド及び融合性ポリペプチドは、標的細胞に結合すると共に、レトロウイルス膜と標的細胞膜との融合を促進する能力を有し、ここで前記第4の転写単位、及び任意の前記第5の転写単位は、前記第2の誘導型プロモーターに作動式に連結されてなる。d.)前記哺乳類パッケージング細胞のゲノム内に含まれる第6の転写単位。ここで第6の転写単位は、5’側から3’側に向かって、5’LTR又はその活性な切断断片、プライマー結合部位(PBS)、レトロウイルスシス作用型RNAパッケージング要素をコードする核酸配列、cPPT/CTS要素、改変シグナル伝達ポリペプチドをコードする核酸配列の逆相補鎖、イントロン、標的細胞標的細胞で活性なプロモーター、3’LTR又はその活性な切断断片を含み、ここで第5の転写単位は、前記第2の誘導型プロモーターに作動式に連結されてなる。2.)前記第1のトランス活性化因子を含む前記パッケージング細胞集団を、前記第1のリガンドの存在下でインキュベートすることにより、前記第2のトランス活性化因子及び前記レトロウイルスREVタンパク質を蓄積させる。3.)前記第2のトランス活性化因子及び前記レトロウイルスREVタンパク質を含む前記パッケージング細胞集団を、前記第2のリガンドの存在下でインキュベートすることにより、前記レトロウイルスGagポリペプチド、前記レトロウイルスpolポリペプチド、前記結合性ポリペプチド、前記融合性ポリペプチド、及びレトロウイルスRNAの発現を誘導する。ここでレトロウイルスRNAは、5’側から3’側に向かって、5’LTR又はその活性断片、前記PBS、前記レトロウイルスシス作用型RNAパッケージング要素、前記改変シグナル伝達ポリペプチドをコードする核酸配列の逆相補鎖、前記標的細胞プロモーター、及び3’LTR又はその活性な切断断片を含み、ここで組換レトロウイルスは、前記パッケージング細胞で形成されて当該細胞から放出され、ここで前記組換レトロウイルスは、前記結合性ポリペプチド及び/又は前記融合性ポリペプチドをレトロウイルス膜上に含むと共に、前記レトロウイルスRNAをヌクレオカプシド内に含み、これにより組換レトロウイルスが作製される。
【0399】
本開示にて提供される一側面によれば、前記レトロウイルスパッケージング系は、以下を含む哺乳類細胞を含んでいてもよい。1.)第1のトランス活性化因子 構成型プロモーターから発現されて、第1のリガンド及び第1の誘導型プロモーターと結合する能力を有し、これと作動式に連結された核酸配列の発現に対し、前記第1のリガンドの不在時と比較して、前記第1のリガンドの存在時において影響を及ぼす。2.)第2のリガンド及び第2の誘導型プロモーターと結合すると共に、第2のリガンドの存在下で、第2のリガンドの不在下と比較して、これと作動式に連結された核酸配列の発現を変更する能力を有する、第2のトランス活性化因子。3.)レトロウイルス粒子のためのパッケージ可能なRNAゲノム。ここで前記第1のトランス活性化因子が、前記第2のトランス活性化因子、HIV REV、IL7 GPI DAF、及び活性化要素の発現を制御すると共に、ここで前記第2のトランス活性化因子が、gagポリペプチド、polポリペプチド、レトロウイルスシス作用型RNAパッケージング要素、及び1又は2以上のエンベロープポリペプチドの発現を制御する。例示的な態様によれば、前記第1のトランス活性化因子が、p65活性化ドメインに融合されたFRBドメインと、ZFHD1 DNA結合ドメインに融合された1又は2以上のFKBPドメインとであってもよく、前記第1のリガンドが、ラパマイシンであってもよく、前記第1の誘導型プロモーターが、1又は2以上のZFHD1結合部位であってもよい。例示的な態様によれば、前記第2のトランス活性化因子が、rtTAタンパク質であってもよく、前記第2のリガンドが、テトラサイクリン又はドキシサイクリンであってもよく、前記第2の誘導型プロモーターが、TREプロモーター又は双方向型TREプロモーターであってもよい。例示的な態様によれば、前記レトロウイルスシス作用型RNAパッケージング要素は、HIVPsiであってもよい。例示的な態様によれば、前記1又は2以上のエンベロープタンパク質は、麻疹ウイルスのF及びHポリペプチドの細胞質ドメイン欠失変異体を含む。例示的な態様によれば、転写遮断薬又はポリA配列が、非調節性転写を防止又は低減する遺伝子の近傍に位置していてもよい。ある態様によれば、リボスイッチを有するラパマイシン-ドキシサイクリン誘導型レンチウイルスゲノムを用いてもよい(配列番号83)。ある態様によれば、ラパマイシン-ドキシサイクリン誘導型Gag POL ENVを用いてもよい(配列番号84)。ある態様によれば、ラパマイシン誘導型TETアクチベーターを用いてもよい(配列番号85)。ある態様によれば、ラパマイシンインデューサー誘導型REV srcVpxを用いてもよい(配列番号86)。
【0400】
本開示の一部の側面は、T細胞及び/又はNK細胞の形質導入用のレンチウイルス等のレトロウイルスの作製において、パッケージング細胞として使用される細胞であるか、細胞を含む。例によれば、斯かる細胞は、哺乳類細胞である。本発明に係るウイルス(例えば再指示型(redirected)レトロウイルス)のインビトロでの産生のためには、多種多様な細胞の中から任意の細胞を選択することができる。通常は真核細胞、特に哺乳類細胞、例えばヒト、サル、イヌ、ネコ、ウマ、及び齧歯類等の細胞が使用される。ある例によれば、前記細胞はヒト細胞である。更なる例示的な態様によれば、前記細胞は無限に再生可能であり、従って不死である。本発明において有利に使用しうる細胞の例としては、NIH 3T3細胞、COS細胞、Madin-Darbyイヌ腎臓細胞、ヒト胚性293T細胞、及び斯かる細胞に由来する任意の細胞、例えば293T細胞に由来するgpnlslacZ φNX細胞等が挙げられる。トランスフェクション容易な細胞、例えばヒト胚性腎臓293T細胞等も使用できる。ここで「トランスフェクション容易な」(highly transfectable)とは、少なくとも約50%、より好ましくは少なくとも約70%、最も好ましくは少なくとも約80%の細胞が、導入されたDNAの遺伝子を発現しうることを意味する。
【0401】
適切な哺乳類細胞としては、初代細胞及び不死化細胞株が挙げられる。適切な哺乳類細胞株としては、ヒト細胞株、非ヒト霊長目細胞株、齧歯類(例えばマウス、ラット等)細胞株等が挙げられる。適切な哺乳類細胞株としては、これらに限定されるものではないが、HeLa細胞(例えば米国培養細胞系統保存機関(ATCC)番号CCL-2)、CHO細胞(例えばATCC番号CRL9618、CCL61、CRL9096)、293細胞(例えばATCC番号CRL-1573)、Vero細胞、NIH 3T3細胞(例えば、ATCC番号CRL-1658)、Huh-7細胞、BHK細胞(例えばATCC番号CCLlO)、PC12細胞(ATCC番号CRL1721)、COS細胞、COS-7細胞(ATCC番号CRL1651)、RATl細胞、マウスL細胞(ATCC番号CCLI.3)、ヒト胚性腎臓(HEK)細胞(ATCC番号CRL1573)、HLHepG2細胞、Hut-78、Jurkat、HL-60、NK細胞株(例えば、NKL、NK92、及びYTS)等が挙げられる。
【0402】
本発明に開示される態様の何れかによれば、組換レトロウイルスを作製する方法は、哺乳類パッケージング細胞をコンフルエンスの50%、60%、70%、80%、90%、又は95%まで、或いはピーク細胞密度の25%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、又は95%まで、或いはピーク細胞密度まで増殖させ、続いて得られた細胞を分割又は希釈することを含んでいてもよい。ある態様によれば、攪拌型タンク反応器を用いて、前記細胞を培養してもよい。ある態様によれば、当業者に公知の方法を用いて、前記細胞を少なくとも約1:2、1:3、1:4、1:5、1:6、1:7、1:8、1:9、1:10、1:12、1:15、又は1:20の比率で分割してもよい。ある態様によれば、前記細胞をピーク細胞密度の25%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、又は95%に希釈してもよい。ある態様によれば、細胞の分割又は希釈後、第1のリガンドを加える前に、細胞を1、2、3、4、5、6、7、8、10、又は16時間、或いは1、2、3、4、5、6、又は7日間培養してもよい。ある態様によれば、細胞を第1のリガンドの存在下で、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、21、又は28日間培養してもよい。例示的な態様によればが、第1のリガンドは、例えばラパマイシン又はラパログ(rapalog)である。ある態様によれば、第2のリガンドを加えて、細胞を少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、21、又は28日間培養してもよい。例示的な態様によれば、第2のリガンドは、例えばテトラサイクリン又はドキシサイクリンである。その培養条件は使用する細胞及びリガンドに依存し、その方法は本技術分野で公知である。HEK293S細胞の培養及び誘導条件の具体的な例を実施例8に記す。
【0403】
本開示に示すように、組換レトロウイルスは、遺伝子送達のための共通ツールである(Miller, Nature (1992) 357:455-460)。組換レトロウイルスは、再配置されていない核酸配列を、広範な齧歯類、霊長目、及びヒト体細胞に送達する能力を有することから、遺伝子を細胞に輸送するのに非常に適している。ある態様によれば、前記組換レトロウイルスは、αレトロウイルス属、βレトロウイルス属、γレトロウイルス属、δレトロウイルス属、εレトロウイルス属、レンチウイルス属、又はスプマウイルス属に由来するものであってもよい。本開示に示す方法での使用に適したレトロウイルスは多数存在する。例えば、マウス白血病ウイルス(MLV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、ウマ感染性貧血ウイルス(EIAV)、マウス乳腺腫瘍ウイルス(MMTV)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)、藤波肉腫ウイルス(FuSV)、モロニーマウス白血病ウイルス(Mo-MLV)、FBRマウス骨肉腫ウイルス(FBR MSV)、モロニーマウス肉腫ウイルス(Mo-MSV)、エーベルソンマウス白血病ウイルス(A-MLV)、トリ骨髄腫症ウイルス29(MC29)、及びトリ赤芽球症ウイルス(AEV)等を用いることができる。レトロウイルスの詳細なリストは、例えばCoffin et al.(“Retroviruses” 1997 Cold Spring Harbor Laboratory Press Eds: J M Coffin, S M Hughes, H E Varmus pp 758-763)を参照。一部のレトロウイルスのゲノム構造の詳細は公知である。例として、HIVの詳細は、NCBI Genbankから入手可能である(ゲノム受入番号AF033819)。
【0404】
例示的な態様によれば、前記組換レトロウイルスは、レンチウイルス属に由来するものであってもよい。ある態様によれば、前記組換レトロウイルスは、HIV、SIV、又はFIVに由来するものであってもよい。更なる例示的な態様によれば、前記組換レトロウイルスは、レンチウイルス属のヒト免疫不全ウイルス(HIV)に由来するものであってもよい。レンチウイルスは、共通のレトロウイルス遺伝子であるgag、pol、及びenvに加えて、制御機能又は構造機能を有する他の遺伝子を含む複合型レトロウイルスである。レンチウイルスはその複雑さゆえに、潜伏感染過程のように、生活環の改変が可能である。典型的なレンチウイルスとしては、AIDSの病原因子であるヒト免疫不全ウイルス(HIV)が挙げられる。インビボでは、HIVは滅多に分裂しない最終分化細胞、例えばリンパ球やマクロファージ等に感染可能である。
【0405】
例示的な態様によれば、本開示にて提供される組換レトロウイルスは、Vpxポリペプチドを含む。Vpxポリペプチドは、パッケージング細胞株において、Vpxをコードする核酸をそのゲノムに導入した後、例えばレトロウイルス膜に組み込まれた細胞膜結合タンパク質として発現されてもよい(Durand et al., J. Virol. (2013) 87: 234-242)。レトロウイルス膜結合Vpxを、ウイルスプロテアーゼのためのプロセシング配列と共にコンストラクトとしてもよい。それにより、ウイルス粒子に組み込まれた遊離Vpxが放出される。こうした機能性を有するVpx融合体の例としては、Src-FLAG-Vpxが挙げられる。これは、c-Srcの最初の11アミノ酸の膜標的化ドメイン(MGSSKSKPKDP)(配列番号227)、それに続くウイルスプロテアーゼ切断ドメインKARVLAEA(配列番号228)、及び、それに続くFlagタグ化Vpxを含む。
【0406】
理論に束縛されるものではないが、Vpxポリペプチドは、制限因子SAMHD1を分解して、逆転写プロセスの効率を刺激することにより、静止細胞の形質導入を促進する。従って、Vpxが組換レトロウイルス内に存在する、本開示にて提供される方法を用いて、T細胞及び/又はNK細胞を形質導入すると、Vpxを含む組換レトロウイルスによる細胞の形質導入時に、Vpxが静止T細胞又は静止NK細胞の細胞質内に放出されると考えられる。その後、VpxがSAMHD1を分解することで、遊離dNTPの増加を招き、惹いては前記レトロウイルスゲノムの逆転写が刺激される。
【0407】
レトロウイルスゲノム サイズ
本開示にて提供される方法及び組成物において、前記組換レトロウイルスゲノム(非限定的な例によればレンチウイルスゲノム等)は、ウイルス粒子内に封入できるポリヌクレオチドの数に制限がある。本開示にて提供されるある態様によれば、前記ポリヌクレオチドエンコーディング領域によりコードされるポリペプチドが、機能活性を保持する短縮体又は他の欠失体であってもよい。こうしたポリヌクレオチドエンコーディング領域をコードするヌクレオチド数は、野生型ポリペプチドのポリヌクレオチドエンコーディング領域をコードするヌクレオチド数よりも少なくなる。ある態様によれば、ポリヌクレオチドエンコーディング領域によりコードされるポリペプチドが、単一のプロモーターにより発現可能な融合ポリペプチドであってもよい。ある態様によれば、単一の融合ポリペプチド及び単一のプロモーターから二以上の機能的ポリペプチドを生成するように、前記融合ポリペプチドは切断シグナルを有していてもよい。更に、最初のエクスビボでの形質導入の後には必要でない一部の機能は、前記レトロウイルスゲノムには含まれず、パッケージング細胞膜を介して前記ウイルス又はレトロウイルスの表面に設けられる。本開示では、これら種々の方策を用いて、レトロウイルスと共に封入される機能的要素を最大化する。
【0408】
ある態様によれば、封入される組換レトロウイルスゲノムのサイズが、下限が1,000、2,000、3,000、4,000、5,000、6,000、7,000、及び8,000ヌクレオチド、及び、上限が2,000、3,000、4,000、5,000、6,000、7,000、8,000、9,000、10,000、及び11,000ヌクレオチドの範囲内としてもよい。封入されるレトロウイルスゲノムは、本開示にて詳細に論じるような、第1及び第2の遺伝子改変(engineering)シグナル伝達ポリペプチドをコードする1又は2以上のポリヌクレオチド領域を含む。ある態様によれば、封入されるべき組換レトロウイルスゲノムが、5,000、6,000、7,000、8,000、9,000、10,000、又は11,000ヌクレオチド未満であってもよい。本開示の別の箇所で論ずる機能のうち、封入可能なものとしては、レトロウイルスのアセンブリ及びパッケージングに必要なレトロウイルス配列、例えばレトロウイルスrev、gag、及びpolコーディング領域、並びに5’LTR及び3’LTR又はその活性な切断断片、レトロウイルスシス作用型RNAパッケージング要素をコードする核酸配列、及びcPPT/CTS要素等が挙げられる。更に、例示的な態様によれば、本開示に記載の組換ウイルス又はレトロウイルスは、以下に挙げるレトロウイルスの機能領域のうち1又は2以上、或いは全てを含んでいてもよく、ある態様によればこれらを逆向きに含んでいてもよい:第1及び第2の遺伝子改変(engineering)シグナル伝達ポリペプチドをコードする、1又は2以上のポリヌクレオチド領域(その少なくとも1つは、リンパ増殖性要素を含むと共に、更にASTRを含んでいてもよい。);第2の改変シグナル伝達ポリペプチド(キメラ抗原受容体を含んでいてもよい。);インビボ制御要素、例えばリボスイッチ等(これは通常、前記の第1及び/又は第2の遺伝子改変(engineering)シグナル伝達ポリペプチドの発現を制御する);認識ドメイン、イントロン、標的細胞で活性なプロモーター、例えばT細胞、2A切断シグナル、及び/又は、IRES。
【0409】
組換レトロウイルス
本開示にて提供される方法及び組成物、例えば、T細胞及び/又はNK細胞を形質導入して遺伝子操作T細胞及び/又はNK細胞を作製するための方法及び組成物に関して、組換レトロウイルスが開示されている。これらの組換レトロウイルス自体が本発明の側面である。ある態様によれば、前記組換レトロウイルスは複製不能である。これは即ち、レトロウイルスがパッケージング細胞を離れると、もはや複製できないことを意味する。ある態様によれば、前記組換レトロウイルスは、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルス、ポックスウイルス、アビポックスウイルス、インフルエンザウイルス、水疱性口内炎ウイルス(VSV)、又はシンドビスウイルスであってもよい。本開示に示す方法をどのように改変して、異なるレトロウイルスに使用するかは、当業者には明らかであろう。例えば、ある態様によれば、HIVRRE、及び、HIVRevをコードするポリヌクレオチド領域を、N末端RGGボックスRNA結合モチーフ及びICP27をコードするポリヌクレオチド領域によって置換してもよい。ある態様によれば、HIVRevをコードするポリヌクレオチド領域を、アデノウイルスE1B 55-kDa及びE4 Orf6をコードする1又は2以上のポリヌクレオチド領域によって置換していてもよい。
【0410】
即ち、ある態様によれば、本開示では、以下を含む組換レトロウイルスが提供される。(i)T細胞及び/又はNK細胞に結合し、斯かる細胞への組換レトロウイルスの膜融合を促進する能力を有するシュードタイピング要素。(ii)T細胞及び/又はNK細胞内で活性なプロモーターに作動式に連結された、1又は2以上の転写単位を有するポリヌクレオチド。ここで前記1又は2以上の転写単位は、キメラ抗原受容体抗原特異的標的化領域、膜貫通ドメイン、及び細胞内活性化ドメインを含む第1の改変シグナル伝達ポリペプチドと、リンパ増殖性要素を含む第2の改変シグナル伝達ポリペプチドとをコードする。ここで前記第1の改変シグナル伝達ポリペプチド及び/又は前記第2の改変シグナル伝達ポリペプチドの発現は、インビボ制御要素によって制御される。(iii)前記レトロウイルスの表面に存在する活性化要素。ここで前記活性化要素は、T細胞及び/又はNK細胞に結合可能であるが、前記組換レトロウイルス内のポリヌクレオチドによってコードされるものではない。ある態様によれば、T細胞及び/又はNK細胞において活性であっても、パッケージング細胞株内では活性ではない。本発明に開示される態様の何れかによれば、前記の第1及び第2の改変シグナル伝達ポリペプチドのうち一方は、キメラ抗原受容体を有していてもよく、他方の改変シグナル伝達ポリペプチドは、リンパ増殖性要素を有していてもよい。
【0411】
遺伝子操作T細胞及びNK細胞
本開示に記載の方法及び組成物の態様によれば、遺伝子操作されたリンパ球が産生されるが、これらも本発明の別個の側面である。ある態様によれば、遺伝子操作リンパ球とは、リンパ増殖性要素を含む第1の改変シグナル伝達ポリペプチド、及び/又は、キメラ抗原受容体を含む第2の改変シグナル伝達ポリペプチドを発現するように遺伝子操作されたリンパ球、例えばT細胞及び/又はNK細胞である。これは、抗原特異的標的化領域(ASTR)、膜貫通ドメイン、及び細胞内活性化ドメインを含む。
【0412】
本開示に開示される方法及び組成物によれば、前記改変シグナル伝達ポリペプチドの一方又は両方の発現が、通常はインビボ制御要素によって制御され、ある態様によれば、前記インビボ制御要素が、リボスイッチを含むポリヌクレオチドである。ある態様によれば、前記リボスイッチがヌクレオシド類似体に結合可能であり、前記ヌクレオシド類似体が存在する場合には、前記改変シグナル伝達ポリペプチドの一方又は両方が発現される。
【0413】
本開示に示す遺伝子操作リンパ球の表面には、ポリペプチドが発現されていてもよい。例としては、活性化要素として機能する1又は2以上のポリペプチド、シュードタイピング要素として機能する1又は2以上のポリペプチド、及び/又は、サイトカインを含む1又は2以上の融合ポリペプチド等が挙げられる。ある態様によれば、斯かる遺伝子操作リンパ球は、その表面に活性化要素を有する。斯かる活性化要素は、CD3に結合可能な膜結合性ポリペプチド、及び/又は、CD28に結合可能な膜結合性ポリペプチドを有していてもよい。ある態様によれば、前記活性化要素は、抗CD3scFvFc 異種GPIアンカー付着配列に連結された、及び/又は、異種GPIアンカー付着配列に連結されたCD80である。ある態様によれば、斯かる遺伝子操作リンパ球は、その表面にシュードタイピング要素を有する。ある態様によれば、斯かる遺伝子操作リンパ球は、その表面に融合ポリペプチドを有し、斯かる融合ポリペプチドは、DAFに共有結合されているサイトカインである。ある態様によれば、前記サイトカインがIL-7又はIL-15である。例示的な態様によれば、前記サイトカインはIL-7である。ある態様によれば、前記サイトカインは、そのシグナル配列を欠失している。例示的な態様によれば、前記サイトカインは、そのシグナル配列の後のDAFに挿入される。
【0414】
核酸
本開示では、本開示のポリペプチドをコードする核酸を提供する。ある態様によれば、核酸はDNA、例えば組換発現ベクターである。ある態様によれば、核酸はRNA、例えばインビトロ合成RNAである。
【0415】
ある例によれば、核酸によって、本開示のポリペプチドの産生、例えば哺乳類細胞における産生が提供される。他の場合では、対象となる核酸によって、本開示のポリペプチドをコードする核酸の増幅が提供される。
【0416】
本開示のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列が、例えばプロモーターやエンハンサー等の転写制御要素に、作動式に連結されていてもよい。
【0417】
適切なプロモーター及びエンハンサー要素は本技術分野で公知である。細菌細胞内での発現に適したプロモーターとしては、これらに限定されるものではないが、lacl、lacZ、T3、T7、gpt、λP及びtrc等が挙げられる。真核細胞での発現に適したプロモーターとしては、これらに限定されるものではないが、軽鎖及び/又は重鎖免疫グロブリン遺伝子プロモーター及びエンハンサー要素;サイトメガロウイルス前初期プロモーター;単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼプロモーター;初期及び後期SV40プロモーター;レトロウイルスの側末端反復配列(長末端リピート)に存在するプロモーター;マウスメタロチオネイン-Iプロモーター;及び本分野で既知の種々の組織特異的プロモーター等が挙げられる。
【0418】
適切な可逆的プロモーター、例えば可逆的誘導型プロモーター等も、本技術分野で公知である。斯かる可逆的プロモーターとしては、多様な生物、例えば真核生物や原核生物から単離され、又はこれらの生物に由来するものを使用できる。第1の生物に由来する可逆的プロモーターを第2の生物で使用する場合、例えば第1の生物が原核生物で第2の生物が真核生物の場合や、第1の生物が真核生物で第2の生物が原核生物の場合等における、プロモーターの修飾法は本技術分野で周知である。斯かる可逆的プロモーター、並びに斯かる可逆的プロモーターに基づくが追加の制御タンパク質を含む系としては、これらに限定されるものではないが、アルコール調節性プロモーター(例えば、アルコールデヒドロゲナーゼI(alcA)遺伝子プロモーター、アルコールトランス活性化因子タンパク質(AlcR)に対して反応性を有するプロモーター等)、テトラサイクリン調節性プロモーター(例えばTetアクチベーター、TetON、TetOFF等を含むプロモーター系)、ステロイド調節性プロモーター(例えばラット糖質コルチコイド受容体プロモーター系、ヒトエストロゲン受容体プロモーター系、レチノイドプロモーター系、甲状腺プロモーター系、エクジソンプロモーター系、ミフェプリストンプロモーター系等)、金属調節性プロモーター(例えばメタロチオネインプロモーター系等)、病因関連調節性プロモーター(例えばサリチル酸調節性プロモーター、エチレン調節性プロモーター、ベンゾチアジアゾール調節性プロモーター等)、温度調節性プロモーター(例えばヒートショック誘導型プロモーター(例えば、HSP-70、HSP-90、ダイズヒートショックプロモーター等)、光調節性プロモーター、合成誘導型プロモーター等)等が挙げられる。
【0419】
ある例によれば、適切なプロモーターを含む遺伝子座、コンストラクト、又はトランス遺伝子は、誘導型系による誘導を介して不可逆的にスイッチされる。不可逆的スイッチの誘導に適した系は本技術分野で周知である。例としては、不可逆的スイッチの誘導は、Cre-lox媒介組換え法を利用して達成可能である(例えば、Fuhrmann-Benzakein, et al., PNAS (2000) 28:e99を参照。本文献の開示は引用により本開示に組み込まれる。)。本技術分野で既知のリコンビナーゼ、エンドヌクレアーゼ、リガーゼ、組換え部位等の任意の組み合わせを用いて、不可逆的にスイッチ可能なプロモーターを作製することができる。本開示の別の箇所に記載された、部位特異的組換えを行うための方法、機序、及び条件を利用して、不可逆的にスイッチされるプロモーターを作製することができる。斯かる知見は、本技術分野で周知である。例えば、Grindley et al. (2006) Annual Review of Biochemistry, 567-605や、Tropp (2012) Molecular Biology (Jones & Bartlett Publishers, Sudbury, MA)を参照のこと。これらの文献の開示は援用により本開示に組み込まれる。
【0420】
ある例によれば、プロモーターは、CD8細胞特異的プロモーター、CD4細胞特異的プロモーター、好中球特異的プロモーター、又はNK特異的プロモーターである。例えば、CD4遺伝子プロモーターを用いてもよい。例えば、Salmon et al. (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:7739、及び、Marodon et al. (2003) Blood 101:3416等を参照のこと。他の例として、CD8遺伝子プロモーターを用いてもよい。Neri(p46)プロモーターを用いて、NK細胞特異的発現を達成してもよい。例えば、Eckelhart et al. (2011) Blood 117:1565を参照のこと。
【0421】
ある態様によれば、酵母細胞における発現に適したプロモーターとしては、例えば構成型プロモーター、例えばADHlプロモーター、PGKlプロモーター、ENOプロモーター、PYKlプロモーター等;又は調節可能なプロモーター、例えばGALIプロモーター、GALlOプロモーター、ADH2プロモーター、PH05プロモーター、CUPlプロモーター、GAL7プロモーター、MET25プロモーター、MET3プロモーター、CYClプロモーター、HIS3プロモーター、ADHlプロモーター、PGKプロモーター、GAPDHプロモーター、ADClプロモーター、TRPlプロモーター、URA3プロモーター、LEU2プロモーター、ENOプロモーター、TPlプロモーター、及びAOXl(例えばPichiaで使用する場合)等が挙げられる。適切なベクター及びプロモーターの選択は、十分に当業者レベルの範囲内である。
【0422】
原核宿主細胞における発現に適したプロモーターとしては、これらに限定されるものではないが、バクテリオファージT7RNAポリメラーゼプロモーター;trpプロモーター;lacオペロンプロモーター;ハイブリッドプロモーター、例えば、lac/tacハイブリッドプロモーター、tac/trcハイブリッドプロモーター、trp/lacプロモーター、T7/lacプロモーター;trcプロモーター;tacプロモーター等;araBADプロモーター;インビボ調節性プロモーター、例えばssaGプロモーター、又は関連するプロモーター(例えば米国特許公開第2004/0131637号参照)、pagCプロモーター(Pulkkinen and Miller, J. Bacterial., 1991: 173(1): 86-93; Alpuche-Aranda et al., PNAS, 1992; 89(21): 10079-83)、nirBプロモーター(Harborne et al. (1992) Mal. Micro. 6:2805-2813)、その他(例えば、Dunstan et al. (1999) Infect. Immun. 67:5133-5141; McKelvie et al. (2004) Vaccine 22:3243-3255; and Chatfield et al. (1992) Biotechnol. 10:888-892参照);シグマ70プロモーター、例えばコンセンサスシグマ70プロモーター(例えばGenbank受入番号AX798980、AX798961、及びAX798183参照);静止期プロモーター、例えばdpsプロモーター、spvプロモーター等;病原性島SPI-2に由来するプロモーター(例えば国際公開第96/17951号参照);actAプロモーター(例えばShetron-Rama et al. (2002) Infect. Immun. 70:1087-1096参照);rpsMプロモーター(例えばValdivia and Falkow (1996). Mal. Microbial. 22:367参照);tetプロモーター(例えばHillen,W. and Wissmann, A. (1989) In Saenger, W. and Heinemann, U. (eds), Topics in Molecular and Structural Biology, Protein-Nucleic Acid Interaction. Macmillan, London, UK, Vol. 10, pp. 143-162参照);SP6プロモーター(例えばMelton et al. (1984) Nucl. Acids Res. 12:7035参照)等が挙げられる。原核生物(例えば大腸菌)における発現に適した強力なプロモーターとしては、これらに限定されるものではないが、Trc、Tac、T5、T7、及びPΛ等が挙げられる。細菌宿主細胞における使用に適したオペレーターの非限定的な例としては、ラクトースプロモーターオペレーター(Laciリプレッサータンパク質は、ラクトースに接触すると立体構造が変化し、これによりオペレーターへの結合を回避する。)、トリプトファンプロモーターオペレーター(TrpRリプレッサータンパク質は、トリプトファンと複合体化すると、オペレーターに結合する立体構造を取る;トリプトファンの不在下では、TrpRリプレッサータンパク質は、オペレーターに結合しない立体構造を取る)、及びtacプロモーターオペレーター(例えばdeBoer et al. (1983) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 80:21-25参照)等が挙げられる。
【0423】
本開示のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列が、発現ベクター及び/又はクローニングベクター内に存在していてもよい。2つの独立したポリペプチドをコードするヌクレオチド配列が、同一のベクターにクローン化されていてもよく、個別のベクターにクローン化されていてもよい。発現ベクターは、選択可能なマーカー、複製起点、及び、ベクターの複製及び/又は維持を提供する他の特徴要素を含んでいてもよい。適切な発現ベクターとしては、プラスミド、ウイルスベクター等が挙げられる。
【0424】
当業者には多数の適切なベクター及びプロモーターが知られている。対象となる組換コンストラクトの作製用に多数が市販されている。例として、以下の細菌ベクターが挙げられる。pBs、PhageScript、PsiXl74、pBluescript SK、pBs KS、pNH8a、pNH16a、pNH18a、pNH46a(Stratagene, La Jolla, CA, USA);pTrc99A、pKK223-3、pKK233-3、pDR540、及びpRIT5(Pharmacia, Uppsala, Sweden)。例として、以下の真核ベクターも挙げられる。pWLneo、pSV2cat、pOG44、PXRl、pSG(Stratagene)、pSVK3、pBPV、pMSG、及びpSVL(Pharmacia)。
【0425】
発現ベクターは通常、異種タンパク質をコードする核酸配列の挿入を可能とするべく、適切な制限部位をプロモーター配列近傍に有する。発現宿主内で作動可能な選択可能なマーカーが存在していてもよい。適切な発現ベクターとしては、これらに限定されるものではないが、ウイルスベクター(例えばワクシニアウイルス;ポリオウイルス;アデノウイルスに基づくウイルスベクター(例えばLi et al., Invest Opthalmol Vis Sci 35:2543 2549, 1994; Borras et al., Gene Ther 6:515 524, 1999; Li and Davidson, PNAS 92:7700 7704, 1995; Sakamoto et al., H Gene Ther 5:1088 1097, 1999; 国際公開第94/12649号、国際公開第93/03769号;国際公開第93/19191号;国際公開第94/28938号;国際公開第95/11984号、及び国際公開第95/00655号参照);アデノ関連ウイルス(例えばAli et al., Hum Gene Ther 9:81 86, 1998, Flannery et al., PNAS 94:6916 6921, 1997; Bennett et al., Invest Opthalmol Vis Sci 38:2857 2863, 1997; Jomary et al., Gene Ther 4:683 690, 1997, Rolling et al., Hum Gene Ther 10:641 648, 1999; Ali et al., Hum Mol Genet 5:591 594, 1996;Srivastava、国際公開第93/09239号、Samulski et al., J. Vir. (1989) 63:3822-3828; Mendelson et al., Virol. (1988) 166:154-165; and Flotte et al., PNAS (1993) 90: 10613-10617参照);SV40;単純ヘルペスウイルス;γレトロウイルス;ヒト免疫不全ウイルス(例えばMiyoshi et al., PNAS 94:10319 23, 1997; Takahashi et al., J Virol 73:7812 7816, 1999参照);レトロウイルスベクター(例えば、マウス白血病ウイルス、脾臓壊死ウイルス、並びに他のレトロウイルス、例えばラウス肉腫ウイルス、ハーベイ肉腫ウイルス、トリ白血症ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、骨髄増殖性肉腫ウイルス、及び乳腺腫瘍ウイルス等に由来するベクター)等が挙げられる。
【0426】
前記のように、ある態様によれば、本開示のポリペプチドをコードする核酸は、ある態様によればRNA、例えばインビトロで合成されたRNAである。RNAのインビトロ合成の方法は、本技術分野で公知である。既知の方法を用いて、本開示のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むRNAを合成することができる。RNAを宿主細胞に導入する方法は、本技術分野で公知である。例えばZhao et al. (2010) Cancer Res. 15:9053参照。本開示のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むRNAの宿主細胞への導入は、インビトロ又はエクスビボで行ってもよく、インビボで行ってもよい。例えば、インビトロ又はエクスビボで、宿主細胞(例えばNK細胞、細胞毒性Tリンパ球等)を、本開示のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むRNAと共に、電気穿孔することができる。
【0427】
細胞
本開示は、標的哺乳類細胞を遺伝子改変する組換レトロウイルスを産生する哺乳類細胞株、及び、前記標的哺乳類細胞自体を産生する標的哺乳類細胞を提供する。
【0428】
適切な哺乳類細胞としては、初代細胞及び不死化細胞株が挙げられる。適切な哺乳類細胞株としては、ヒト細胞株、非ヒト霊長目細胞株、齧歯類(例えばマウス、ラット等)細胞株等が挙げられる。適切な哺乳類細胞株としては、これらに限定されるものではないが、HeLa細胞(例えば、米国培養細胞系統保存機関(ATCC)番号CCL-2)、CHO細胞(例えば、ATCC番号CRL9618、CCL61、CRL9096)、293細胞(例えば、ATCC番号CRL-1573)、Vero細胞、NIH 3T3細胞(例えば、ATCC番号CRL-1658)、Huh-7細胞、BHK細胞(例えば、ATCC番号CCLlO)、PC12細胞(ATCC番号CRL1721)、COS細胞、COS-7細胞(ATCC番号CRL1651)、RATl細胞、マウスL細胞(ATCC番号CCLI.3)、ヒト胚性腎臓(HEK)細胞(ATCC番号CRL1573)、HLHepG2細胞、Hut-78、Jurkat、HL-60、NK細胞株(例えばNKL、NK92、及びYTS)等が挙げられる。
【0429】
ある例によれば、前記細胞は不死化細胞株ではなく、個人又はエクスビボ細胞から得られる細胞(例えば初代細胞等)である。例えば、ある例によれば、前記細胞は、個人から得られる免疫細胞である。他の例として、前記細胞は、個人から得られる幹細胞又は前駆細胞である。
【0430】
免疫細胞を活性化する方法
本開示は、免疫細胞をインビトロ、インビボ、又はエクスビボで活性化する方法を提供する。前記方法は通常、微小環境制限本開示のCARを発現するように遺伝子操作された免疫細胞を、(インビトロ、インビボ、又はエクスビボで)1又は2以上の標的抗原と接触させることを含む。前記微小環境制限CARは、1又は2以上の標的抗原の存在下で、免疫細胞を活性化することにより、活性化された免疫細胞を産生する。免疫細胞としては、例えば、細胞毒性Tリンパ球、NK細胞、CD4+ T細胞、T制御性(Treg)細胞、γδT細胞、NK-T細胞、好中球等が挙げられる。
【0431】
遺伝子操作された免疫細胞(例えばTリンパ球、NK細胞等)を、1又は2以上の標的抗原と接触させることで、免疫細胞によるサイトカインの産生量を、前記1又は2以上の標的抗原の不在下で前記免疫細胞により産生されるサイトカイン量と比較して、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約75%、少なくとも約2倍、少なくとも約2.5倍、少なくとも約5倍、少なくとも約10倍、又は10倍超、増加させることができる。産生量を増加させる対象となるサイトカインは、これらに限定されるものではないが、例えばIL-2及びIFN-γが挙げられる。
【0432】
遺伝子操作された細胞毒性細胞(例えば細胞毒性Tリンパ球等)をAARと接触させることで、細胞毒性細胞の細胞毒性活性を、前記1又は2以上の標的抗原の不在下における細胞毒性細胞の細胞毒性活性と比較して、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約75%、少なくとも約2倍、少なくとも約2.5倍、少なくとも約5倍、少なくとも約10倍、又は10倍超、増加させることができる。
【0433】
遺伝子操作された細胞毒性細胞(例えば細胞毒性Tリンパ球等)を、1又は2以上の標的抗原と接触させることで、細胞毒性細胞の細胞毒性活性を、前記1又は2以上の標的抗原の不在下における細胞毒性細胞の細胞毒性活性と比較して、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約75%、少なくとも約2倍、少なくとも約2.5倍、少なくとも約5倍、少なくとも約10倍、又は10倍超、増加させることができる。
【0434】
他の態様によれば、例えば宿主免疫細胞によっては、遺伝子操作された宿主細胞を抗原と接触させることで、細胞増殖、細胞生存、細胞死等を増加又は減少させることができる。
【0435】
微小環境制限抗原特異的標的化領域を作製する方法
ある態様によれば、CARの抗原結合ドメイン(本開示では別称「抗原特異的標的領域」又は「ASTR」ともいう)は、その同種の抗原と構成的に結合する。他の態様によれば、前記ASTRは微小環境に制限されており、本開示にてより詳細に説明するような、例えば腫瘍微小環境内に存在するような特定の異常な条件下で優先的に、或いは斯かる条件下でのみ、同種の抗原に対して結合することができる。腫瘍微小環境の異常な条件下で優先的又は排他的に結合する微小環境制限ASTRは、通常の生理的条件での同抗原への結合が低減するので、オン標的・オフ腫瘍(on-target off-tumor)作用を低減でき、状況によっては免疫アッセイによる検出レベル未満とすることができる、特定の側面によれば、本開示にて提供されるCARは、標的タンパク質に特異的に結合する微小環境制限ASTRを含み、ここで前記ASTRは、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含むscFv断片である。
【0436】
本開示に示す側面のある例示的な態様、例えば本開示に示す方法、細胞、細胞系列、レトロウイルス、ポリヌクレオチド、又はベクター等は、微小環境制限抗原特異的標的化領域を含むCARを含む。
【0437】
従って、一側面によれば、本開示では、標的抗原に結合するキメラ抗原受容体であって:
a)通常の生理的環境と比べ、異常な条件において、前記標的抗原に対する結合の上昇を示す微小環境制限抗原特異的標的化領域であって、前記標的に結合する微小環境制限抗原特異的標的化領域、
b)膜貫通ドメイン、及び
c)細胞内活性化ドメイン
を含むキメラ抗原受容体が提供される。
【0438】
他の側面において、本開示では、標的抗原に結合するキメラ抗原受容体であって、
a)ポリペプチドライブラリーのパニングにより選択されると共に、通常の生理的環境と比べ、異常な条件において、標的抗原結合アッセイによる活性が上昇する、少なくとも1つの微小環境制限抗原特異的標的化領域、
b)膜貫通ドメイン、及び
c)細胞内活性化ドメイン
を含むキメラ抗原受容体が提供される。
【0439】
本開示に示す任意の側面の一部態様によれば、任意のキメラ抗原受容体が、微小環境に制限されており、それによって、通常の生理的環境と比べ、異常な条件において、結合活性の増加を示すように構成されていてもよい。本開示に示す任意の側面の例示的な態様によれば、前記微小環境制限ASTRは、初回ポリペプチドライブラリーのメンバーに突然変異導入/進化を施すことなく、及び/又は、スクリーニングの任意の繰り返しラウンド時又はラウンド間に突然変異導入を行うことなく、初回ポリペプチドライブラリーから同定される。膜貫通ドメイン及び細胞内活性化ドメインの例としては、CARとの関連で本開示に示した任意のドメインが挙げられる。
【0440】
一側面によれば、本開示では、ポリペプチドディスプレイライブラリーのパニングを行うことを含む、微小環境制限ASTRを選択する方法であって、前記パニングが、
a.前記ポリペプチドディスプレイライブラリーのポリペプチドを、通常の生理的条件下での標的抗原結合アッセイ、及び、異常な条件下での標的抗原結合アッセイに供し、
b.前記生理的条件と比較して、前記異常な条件で標的抗原結合活性の上昇を示すポリペプチドを選択することにより、前記微小環境制限抗原特異的標的化領域を選択する
ことにより行われる方法が提供される。
【0441】
他の側面において、本開示では、ポリペプチドライブラリーのパニングを行うことを含む、微小環境制限ASTR単離する方法であって、前記パニングが、
前記ポリペプチドライブラリーを、異常な条件下で、固体支持体に結合した標的抗原に接触させ、ここで、前記標的抗原に結合するポリペプチドを発現するクローンは、前記標的抗原を介して前記固体支持体に結合したまま維持され、
前記固体支持体を、結合したポリペプチドと共に、生理的条件下でインキュベートし、
前記生理的条件下で前記固体支持体から溶出するクローンを採取することにより、前記微小環境制限抗原特異的標的化領域を単離する
ことにより行われる方法が提供される。
【0442】
本開示に示す任意の側面の例示的な態様では、前記微小環境制限抗原特異的標的化領域が、初回ポリペプチドライブラリーのメンバーのメンバーに突然変異導入/進化を施すことなく、及び/又は、スクリーニングの任意の繰り返しラウンド時又はラウンド間に突然変異導入を行うことなく、初回ポリペプチドライブラリーから同定される。
【0443】
通常の生理的条件としては、温度、pH、浸透圧、オスモル濃度、酸化的ストレス、及び電解質濃度の条件であって、対象の投与部位又は作用部位の組織又は器官において通常の範囲と考えられる条件が挙げられる。異常な条件とは、これらの条件において、通常許容される範囲から逸脱している条件である。一側面によれば、微小環境制限抗原特異的標的化領域(即ちポリペプチド)は、通常の条件では実質的に不活性であるが、通常ではない条件下では活性であり、通常の条件のレベルと同等又はより優れたレベルである。例えば、一側面によれば、前記微小環境制限抗原特異的標的化領域は、身体温度では実質的に不活性であるが、より低い温度では活性である。他の側面において、前記微小環境制限抗原特異的標的化領域は、前記通常の条件下では、可逆的又は不可逆的に不活性化されてなる。更なる側面によれば、前記微小環境制限抗原特異的標的化領域は、治療タンパク質である。他の側面によれば、前記微小環境制限抗原特異的標的化領域は、薬物又は治療剤として使用される。更に他の側面によれば、前記微小環境制限抗原特異的標的化領域は、肺通過後の血液のように酸素の豊富な血液や、腎臓の血液のように低pH環境の血液では、概ね活性である。
【0444】
ある態様によれば、単一ラウンドの選択によって、微小環境制限抗原特異的標的化領域が選択される。ある態様によれば、異常な条件下で抗原に結合し、生理的条件下では抗原に結合しない遊離ポリペプチド、又は斯かる特性を有する試験ポリペプチドを発現する細胞、又は斯かる特性を有する試験ポリペプチドで被覆されたファージを、初回又は以前のラウンドで同定した後、スクリーニング又はパニングを繰り返す。ある方法によれば、収集されたファージを用いて、細胞に感染させてもよい。ここで、収集されたファージを増幅するために、細胞にヘルパーファージを感染させてもよい。細胞表面のポリペプチドを試験する他の方法によれば、収集された細胞を培養して、前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを増幅することにより、前記前記細胞により発現されるポリペプチドを「増幅」してもよい。ある態様によれば、同定されたポリペプチドをコードするポリヌクレオチドをラウンド間で変異させるプロセスを経ることなく、同定されたポリペプチドを発現する細胞を培養することにより、増幅を行ってもよい。即ち、従前のラウンドで採集されたポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む細胞を増幅することで、斯かるポリペプチドを濃縮する。
【0445】
斯かるパニング又はスクリーニングは、一回のみ実施してもよく、1~1000回繰り返してもよい。例示的な態様によれば、パニングを1~20回、又は2~10回、又は2~5回繰り返す。
【0446】
他の方法によれば、パニングのラウンド間に1又は2以上の変異/進化ラウンドを実施することにより、所期の抗原(即ち標的抗原)に対する微小環境制限ASTRを実施する。ある方法によれば、例えばポリペプチド又はタンパク質ライブラリーを生成し、得られたポリペプチド又はタンパク質ライブラリーから、標的抗原に対して所望の結合親和性を示すポリペプチド又はタンパク質をスクリーニングすることにより、野生型タンパク質を同定する。野生型タンパク質が抗体である態様によれば、ポリクローナル又はモノクローナル抗体ライブラリー、例えばファージディスプレイ抗体ライブラリー、例えばファージディスプレイヒト化抗体ライブラリー等を生成し、斯かるライブラリーをスクリーニングすることにより、野生型抗体を発見することができる。
【0447】
野生型タンパク質を、又は野生型タンパク質をコードする核酸配列を、突然変異生成プロセスに供することにより、変異ポリペプチドの集団を生成し、続いて任意により、この変異ポリペプチドの集団から、通常の生理的環境と比較して、腫瘍環境下及び/又はインビトロ腫瘍代替アッセイ条件下で、活性が増強した(例えば標的抗原に対する結合親和性が増加した)変異ASTRを同定することにより、進化させたASTRを生成することができる。斯かる方法の例は、国際公開第2016/033331号(“CONDITIONALLY ACTIVE CHIMERIC ANTIGEN RECEPTORS FOR MODIFIED T CELLS”)又は米国特許第8,709,755号に記載されている。なお、これらの文献は何れも、引用によりその全体が本開示に組み込まれる。微小環境制限抗体を生成する係る方法は、その全体が引用により本開示に組み込まれる。
【0448】
他の態様によれば、微小環境制限抗原特異的ポリペプチド(即ち標的化領域、例えば抗体等)の同定は、例えば初回ポリペプチドライブラリーを生理的条件下に対し異常条件下にてスクリーニングし、生理的条件下ではなく異常条件下のみで優先的又は排他的に結合する試験ポリペプチドを、初回ポリペプチドライブラリーから得ることにより行うことができる。ある例では、このように初回ポリペプチドライブラリースクリーニングにより初回ポリペプチドライブラリーから同定及び単離された微小環境制限抗原特異的ポリペプチド(即ち標的化領域、例えば抗体等)は、生理的条件下ではなく異常条件下のみで、優先的又は排他的にその同種の抗原に結合する。斯かる例では、変異又は進化のラウンドは全く実施されない。従って、例示的な態様に係る方法は、スクリーニングのラウンド間(例えばパニングのラウンド間)に、単離された微小環境制限抗原特異的標的化領域をコードするポリヌクレオチドを変異させることなく実施され、或いは、生理的条件下に対し異常条件下にて、前記微小環境制限抗原特異的ポリペプチド(即ち標的化領域、例えば抗体等)を同定するための単一の結合アッセイを実施することにより行われる。斯かる方法は、スクリーニング及び/又はパニングのラウンド間に、変異/進化を行うことなく、抗原特異的標的化領域をコードするポリヌクレオチド又はそれを含む宿主生物を、培養、高忠実度増幅、及び/又は、希釈することにより、実施されるものであってもよい。更に、前記方法は、斯かるスクリーニング及び/又はパニングを繰り返すことなく実施されるものであってもよく、また、前記微小環境制限抗原特異的ポリペプチド(即ち標的領域、例えば抗体等)の単離後、単離された微小環境制限抗原特異的標的化領域をコードするポリヌクレオチドに突然変異導入/進化を行うことなく実施されるものであってもよい。
【0449】
本開示にて提供される方法において、同種の結合パートナーに対するポリペプチドの結合を検出するためのアッセイとしては、細胞に基づくアッセイ、そしてとりわけ、細胞表面ディスプレイ系、例えば哺乳類細胞表面ディスプレイ系等を用いたアッセイが挙げられる。斯かる方法の例によれば、ポリペプチド又は変異ポリペプチドのライブラリー(例えば改変されたポリペプチドのライブラリー等)をコードする核酸を、細胞(例えば哺乳類細胞)内での発現に適したベクターに導入する。続いて、斯かるベクターで細胞をトランスフェクトし、得られた細胞により前記ポリペプチドを発現させる。表面にポリペプチドを発現する細胞のライブラリーを、可溶性又は表面結合性の同種の結合パートナーを含む溶液と接触させてもよい。結合活性の検出は、斯かる表面への細胞の結合を検出可能なアッセイを用いて行ってもよい。また、斯かるポリペプチド又はポリペプチドの機能活性を評価することにより、活性を評価してもよい。本開示にて提供される方法には、当業者に既知の任意の細胞に基づくアッセイを使用できる。例としては、細胞増殖アッセイ、細胞死アッセイ、フローサイトメトリー、細胞分離技術、蛍光活性化細胞選別(FACS)、位相差顕微鏡法、蛍光顕微鏡法、受容体結合アッセイ、細胞シグナル伝達アッセイ、免疫細胞化学、及びレポーター遺伝子アッセイ等が挙げられる。ある例では、斯かるアッセイは、蛍光活性化細胞選別(FACS)アッセイである。
【0450】
斯かるポリペプチド又はタンパク質は、哺乳類細胞により、分泌性可溶性分子、細胞表面分子、又は細胞内抗体として発現されてもよい。ある方法の例によれば、前記細胞の大部分又は全てが細胞表面に係止されたタンパク質ライブラリーのメンバーを提示するような条件下で、細胞をタンパク質ライブラリーによりトランスフェクトすることができる。任意により、トランスフェクトされた哺乳類細胞の大部分において、ゲノムにただ一つのみのプラスミドが組み込まれるような発現系を用いてもよい。即ち、トランスフェクトされた細胞の大部分(即ち、少なくとも約70%、又は約80%、又は約90%)が、1つのポリペプチドの1又は2以上の分子を発現する。その検証は例えば、個々のトランスフェクト細胞を単離及び培養し、次いでその配列を増幅及び配列決定して、単一の配列が含まれているか否かを決定することにより行うことができる。
【0451】
本開示にて提供される方法のある例では、前記ポリペプチドは、哺乳類細胞の表面に提示された抗体である。本開示に記載の任意の抗体、例えば全長、二価、機能的抗体、例えばIgG抗体を、哺乳類細胞の表面で発現させることができる。前記抗体は、断片、例えばFab断片又はscFv断片であってもよい。抗体は、例えばscFv-Fc等のFc領域を含む断片であってもよく、或いは2つの重鎖と2つの軽鎖とを含む全長抗体であってもよい。当業者であれば、適切な抗体断片を選択することができる。例えば、哺乳類細胞により産生されるScFv-Fcs及び全長抗体は、scFv’sやFab断片と比較して、幾つかの利点を有しうる。
【0452】
本開示にて提供される結合アッセイにおいて使用可能な固体支持体としては、リガンド、受容体又は抗原等のポリペプチドの結合パートナーに固定可能な任意の担体が挙げられる。通常はハイスループットスクリーニングを容易にするために、固体支持体に同種の結合パートナーを固定する。本開示にて提供される方法による固体支持体として使用可能な担体としては、これらに限定されるものではないが、ガラス、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、デキストラン、ナイロン、アミロース、天然及び改変セルロース、ポリアクリルアミド、アガロース、並びに磁気固体支持体、例えば固体支持体、例えばマグネタイト等が挙げられる。固体支持体が、1又は2以上のビーズ又は粒子、マイクロスフェア、或いは試験管、プレート、フィルター膜等の表面、更には本技術分野で公知の他の固体支持体であってもよい。固体支持体系の例としては、これらに限定されるものではないが、扁平に形成された表面、例えばガラス、ケイ素、金属、ナイロン、セルロース、プラスチック等の表面、又は複合材料、例えばマルチウェルプレートや膜等の表面が挙げられる。或いは、ビーズの形態、例えばシリカゲル、制御された多孔ガラス、磁気ビーズ、又はセルロースビーズ等であってもよい。更には、斯かる方法を懸濁液に適用し、或いはカラムの形態で使用してもよい。ある態様によれば、前記微小環境制限抗原特異的ポリペプチド(即ち標的領域、例えば抗体等)が、固定化標的を用いたファージディスプレイ又は酵母表面ディスプレイ(Colby et al., "Engineering Antibody Affinity by Yeast Surface Display," Meth. Enzym. 388, 26 (2004))抗体(例えばヒト化抗体)ライブラリーの抗原のバイオパニングにより同定及び単離される。例えば、本開示の方法において、ファージディスプレイ又は酵母表面ディスプレイを用いて、天然ヒト化抗体ライブラリー又は合成ヒト化抗体ライブラリーをパニングしてもよい。ある態様によれば、初回ファージディスプレイプロセスにおいて、ファージクローンを哺乳類ベクターに移送し、哺乳類細胞表面スクリーニング法に用いてもよい(例えばYoon et al., BMC Biotechnology 12:62; 1472-6750 (2012)参照)。ファージディスプレイにより微小環境制限抗原特異的標的領域を単離する方法の例を実施例2に示す。
【0453】
本開示にて提供される方法を用いて同定される微小環境制限ASTRとしては、抗体、抗原、リガンド、リガンドの受容体結合ドメイン、受容体、受容体のリガンド結合ドメイン、又はアフィボディ(affibody)等が挙げられる。微小環境制限ASTRが抗体である態様の場合、全長抗体、単鎖抗体、Fab断片、Fab’断片、(Fab’)2断片、Fv断片、及び、二価単鎖抗体又は二重特異性抗体(diabody)の何れであってもよい。ここで前記抗原特異的標的化領域は、抗体由来の重鎖及び軽鎖を含む。ある態様によれば、前記微小環境制限ASTRは、単鎖可変断片である。斯かる単鎖可変断片は、重鎖及び軽鎖がリンカーにより隔てられていてもよい。斯かるリンカーは、例えば6~100アミノ酸長である。ある態様によれば、キメラ抗原受容体上で重鎖が軽鎖のN末端側に位置する。他の態様によれば、軽鎖が重鎖のN末端側に位置する。微小環境制限ASTRが、二重特異的ASTRであってもよい。
【0454】
本開示にて提供される方法を用いて同定される微小環境制限ASTRは、通常はポリペプチドであり、より具体的にはポリペプチド抗体である。例示的な態様によれば、単鎖抗体である。これらのポリペプチドは、通常の条件下と比較して、異常な条件下でより高い又は低い親和性で、その同種の抗原に対して結合しうる。例示的な態様によれば、通常の条件下よりも異常な条件下で、より高い親和性で結合しうる。ある態様によれば、これらのポリペプチドは、生理的(即ち通常の)条件下よりも異常な条件下で、10%、20%、25%、50%、75%、90%、95%、又は99%高い親和性を以て、その同種の抗原に対して結合しうる。ある態様によれば、本開示にて提供される方法で同定されるASTRは、通常の生理的条件では、例えば陰性対照抗体等の陰性対照を用いて得られるバックグラウンドレベルを超える検出可能なレベルでは、その同種の抗原に対して結合しない。
【0455】
本開示にて提供される方法を用いて単離される微小環境制限ASTRをコードするヌクレオチド配列は、微小環境制限抗原特異的標的を発現する採集された細胞のヌクレオチドの配列決定により決定することができる。斯かるヌクレオチド配列情報を用いて、微小環境制限抗原特異的標的化領域、膜貫通ドメイン、及び細胞内活性化ドメインを含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを作製することにより、微小環境制限生物製剤キメラ抗原受容体(MRB-CAR)を作製することができる。微小環境制限抗原特異的標的化領域をCARコンストラクト発現系にクローン化し、これを用いてゲノム内にCARを含む組換レンチウイルスを生成し、この組換レンチウイルスを用いてT細胞を形質導入し、生理学的条件と比較して腫瘍選択的環境下で死亡する標的細胞を発現するCAR媒介腫瘍抗原の試験に用いてもよい。
【0456】
条件付き活性のための条件
本開示にて提供される方法によれば、1又は2以上のポリペプチド(例えば単鎖抗体等)の活性を、2つの異なる条件群の下で、2つの異なる生理環境(例えば疾患の微小環境と非疾患の微小環境の通常の生理条件)を模倣する1又は2以上の条件下で、スクリーニング又は試験する。斯かる条件は通常、インビトロにて模倣又は再現可能な条件である。ある条件群は、疾患に関連する微小環境を模倣する1又は2以上の条件を含んでいてもよい。疾患は細胞内及び細胞外の恒常性を変更しうる。例えば、疾患の微小環境は、腫瘍微小環境又は癌微小環境における1又は2以上の条件を模倣しうる。通常は、2つの条件群の下での活性の1又は2以上の差異は、分子の条件付き活性に繋がりうる。即ち、前記第1の条件群(例えば腫瘍微小環境の条件を模倣する条件)下で、前記第2の条件群(例えば通常又は非疾患の環境の条件を模倣する条件)下よりも大きな活性を示す分子は、微小環境に制限されている候補分子として同定される。
【0457】
例えば本開示に記載の、或いは当業者に既知の2つの生理環境下で、異なる1又は2以上のパラメーターを変更することで、2つの条件群を選択することができる。斯かる条件では、これらに制限されるものではないが、化学的条件、生物学的条件、又は物理的条件が挙げられる。2つの条件群の間で変更しうるパラメーターとしては、例えば圧力、温度、pH、イオン強度、浸透圧、オスモル濃度、酸化的ストレス、濁度、光暴露(例えばUV、赤外線、又は可視光線等)、1又は2以上の溶質の濃度、例えば電解質、グルコースの濃度、ヒアルロナンの濃度、乳酸又は乳酸塩の濃度、アルブミンの濃度、アデノシンのレベル、R-2-ヒドロキシグルタレート(glutarate)のレベル、ピルビン酸の濃度、酸素の濃度、及び/又は、酸化剤、還元剤、若しくは共因子の存在等から選択される、1又は2以上の条件が挙げられる。較正溶液の電解質及び緩衝系を変更することで、生理的条件、例えばpH、緩衝能力、イオン環境、温度、グルコース濃度、及びイオン強度等を、模倣すべき生物学的環境に合わせて調整することができる。通常の生理環境を模倣する条件群を、本開示に記載の1又は2以上の条件において、疾患の微小環境(例えば腫瘍微小環境等)を模倣する条件群とは異なるものとして選択することができる。
【0458】
例えば、以下に論じるように、腫瘍微小環境の種々のパラメーターは、非腫瘍微小環境と比較して異なる。斯かるパラメーターとしては、これらに制限されるものではないが、酸素濃度、圧力、共因子の存在、pH、ヒアルロナン濃度、乳酸濃度、アルブミン濃度、アデノシンのレベル、R-2-ヒドロキシグルタレート(glutarate)のレベル、ピルビン酸濃度等が挙げられる。これらのパラメーターの何れかを、非腫瘍又は通常の環境下で存在する条件と比較して、腫瘍又は癌の環境下で存在する1又は2以上の条件を模倣するように、インビトロで再現してもよい。模倣可能な通常の生理条件としては、身体の任意の場所(例えば消化管、皮膚、血管系、血液、及び細胞外マトリックス等)の健常組織又は非疾患組織に見いだされる環境が挙げられる。通常は、本開示に記載のアッセイにおいて、タンパク質の活性を評価するのに使用される緩衝剤を選択することにより、生理条件をインビトロで模倣してもよい。例えば、前記アッセイで活性を評価するのに使用されるアッセイ緩衝剤の差異により、疾患の微小環境(例えば腫瘍微小環境等)及び非疾患環境の1又は2以上の条件を模倣してもよい。それゆえ、微小環境制限ポリペプチドを同定する本開示の方法では、アッセイ緩衝剤の1又は2以上の成分又は特徴を、第1の条件下での活性を試験する第1のアッセイと第2の条件下での活性を試験する第2のアッセイとで変更し、或いは異なるように設定する。例えば、本開示にて議論するように、腫瘍微小環境の種々のパラメーターが、非腫瘍環境と比較して異なる。斯かるパラメーターとしては、これらに制限されるものではないが、酸素、圧力、共因子の存在、pH、ヒアルロナン濃度(例えばより高い又はより低いヒアルロナン濃度)、乳酸塩濃度(例えばより高い又はより低い乳酸塩濃度)、アルブミン濃度(例えばより高い又はより低いアルブミン濃度)、アデノシンのレベル(例えばより高い又はより低いアデノシンレベル)、R-2-ヒドロキシグルタレート(glutarate)のレベル(例えばより高い又はより低いR-2-ヒドロキシグルタレート(glutarate)レベル)、及び、ピルビン酸濃度(例えばより高い又はより低いピルビン酸濃度)等が挙げられる。より具体的に、腫瘍微小環境の条件としては、非腫瘍微小環境と比較して、例えばより低いpH、より高いヒアルロナン濃度、より高い乳酸及びピルビン酸濃度、より高いアルブミン濃度、より高いアデノシンレベル、より高いR-2-ヒドロキシグルタレート(glutarate)レベル、低酸素症、より低いグルコース濃度、及び僅かに高い温度等が挙げられる。例えば、微小環境制限ASTRは、通常の身体温度では実質的に不活性であるが、腫瘍微小環境のより高い温度では活性である。更に他の側面によれば、前記微小環境制限抗体は、通常の酸素豊富血液中では活性に劣るが、腫瘍内に存在するより酸素の少ない環境下ではより活性に優れる。更に他の側面によれば、前記微小環境制限抗体は、通常の生理的pH7.2~7.8では活性に劣るが、腫瘍微小環境に存在する酸性pH5.8~7.0又は6.0~6.8ではより活性に優れる。例えば、前記微小環境制限抗体はpH7.4よりもpH6.7ではより活性に優れる。当業者に既知の腫瘍微小環境の条件の中で、条件により活性なASTRが異なる結合親和性を示すような、本発明で使用可能な条件は他にも存在する。これらインビボの腫瘍条件を模したインビトロアッセイ条件を、本開示ではインビトロ腫瘍代替アッセイ条件と呼ぶ。
【0459】
特定のアッセイ緩衝剤を選択することで、これらの条件のうち任意の1又は2以上をインビトロで模倣することができる。疾患の微小環境を模倣するアッセイ緩衝剤の組成は、疾患の微小環境下において変更されていることが既知又は本開示に記載の1又は2以上の条件を除いて、通常の環境を模倣するアッセイ緩衝剤の組成と同じとなるように選択することができる。更に、2つの異なる条件群の下で1又は2以上のポリペプチドの活性をスクリーニング又は同定する際に、通常はインビボの微小環境を模倣する緩衝剤条件に関する条件のみを、前記アッセイで変更する。前記アッセイの他の条件、例えば時間、温度、及びインキュベーション条件等は、両条件群で同一とすることができる。通常は、疾患の微小環境を模倣する条件群と、通常の微小環境を模倣する条件群とで、同一の基準緩衝剤を用いるが、1又は2以上のパラメーターにおいて、緩衝剤組成の設計を異なるものとしてもよい。斯かるパラメーターとしては、例えばpH、酸素、圧力、共因子の存在、pH、ヒアルロナン濃度(例えばより高い又はより低いヒアルロナン濃度)、乳酸塩濃度(例えばより高い又はより低い乳酸塩濃度)、アルブミン濃度(例えばより高い又はより低いヒアルロナン濃度)、及び/又は、ピルビン酸濃度(例えばより高い又はより低いピルビン酸濃度)等が挙げられる。疾患の微小環境を模倣する条件群と、通常の微小環境を模倣する条件群とにおいて、当業者に既知の任意の基準緩衝剤を用いることができる。
【0460】
微小環境制限細胞を生成する方法
本開示は、微小環境制限細胞を生成する方法を提供する。斯かる方法は通常、本開示の微小環境制限CARをコードするヌクレオチド配列を含む発現ベクター(例えばプラスミド又はレトロウイルス等)又はRNA(例えばインビトロで転写されたRNA等)を用いて、哺乳類細胞を遺伝子的に改変することを含む。斯かる遺伝子操作細胞は、1又は2以上の標的抗原の存在下、微小環境に制限されていてもよい。斯かる遺伝子改変は、インビボ、インビトロ、又はエクスビボで実施することができる。前記細胞は、免疫細胞(例えばTリンパ球、T-ヘルパー細胞、又はNK細胞等)、幹細胞、前駆細胞等であってもよい。
【0461】
ある例によれば、斯かる遺伝子改変は、エクスビボで実施される。例えば、Tリンパ球、幹細胞、T-ヘルパー細胞、又はNK細胞を、個人から取得し、次いで、個人から取得した斯かる細胞を、本開示のCARを発現するように遺伝子操作する。斯かる遺伝子操作された細胞は、1又は2以上の標的抗原の存在下で微小環境に制限することが可能である。ある例によれば、斯かる遺伝子操作細胞を、エクスビボで活性化する。他の場合では、斯かる遺伝子操作細胞を個人(例えば前記細胞を取得した個人)に導入し、次いで斯かる遺伝子操作細胞をインビボで活性化する。例えば、斯かる個人の細胞表面に1又は2以上の標的抗原が存在する場合には、前記抗原を投与する必要は無い。斯かる遺伝子操作細胞が個人の細胞表面に存在する抗原と接触することで、遺伝子操作細胞が活性化される。例えば、遺伝子操作細胞がTリンパ球である場合、斯かる遺伝子操作された細胞は、前記CARが表面に結合する1又は2以上の標的抗原を発現する細胞に対して、細胞毒性を発揮する。
【0462】
腫瘍微小環境感受性CAR-T標的結合を一時的に低減する方法
本開示では、血管及び組織pHを薬理学的に修飾することにより、腫瘍微小環境感受性CAR-T標的結合を一時的に減少させる方法が提供される。CAR-T細胞のscFvを微小環境的に制御することにより、オン標的オフ腫瘍(on-target off-tumor)毒性に対する追加のレベルの保護を提供し、惹いては腫瘍限局環境条件がT細胞の関与を可能とすることが必要となる。一部のモノクローナル抗体治療においては魅力的であるが、養子細胞治療はそのCAR-T標的を一時的に許容する局所環境を生じる場合がある。例えば、局所組織にて活性化されるCAR-T細胞は、CARコンストラクト内に存在する細胞質ドメインによっては、更に局所pHを低下させる場合がある。他の例では、サイトカイン放出性症候群や、養子細胞治療に関連する他の罹患状態により、結果として血液の重炭酸緩衝能力が低下し、乳酸アシドーシスを生じる場合がある。静脈内注入により投与される養子細胞治療は、結果として一時的な肺での捕捉を招くことが知られている。一部の細胞治療では、注入速度の調節には溶存酸素の継続的な監視が欠かせない(Fischer et al. Stem Cells Dev. 2009 Jun; 18(5): 683-691)。肺捕捉の程度は細胞サイズ、活性化状態、細胞用量、及び注入速度に依存する。Cruz et al(Cytotherapy. 2010 Oct; 12(6): 743-749)は、300を超えるT細胞注入からの知見として、用量を低減し、注入速度を低下させれば、肺捕捉を低減できると報告している。しかし、特定の強力なCAR-T細胞を用いた場合、肺内皮に低レベルで存在するHer2等の標的でさえも(Morgan et al. Mol Ther. 2010 Apr; 18(4): 843-851)、注入後の肺における初回の高いCAR-T細胞濃度、及びこれら組織におけるこれらのT細胞標的の存在ゆえに。制御できないような即時の毒性を引き起こし、結果として患者の急速な悪化を招く可能性がある。他の場合では、他のオフ標的(off target)組織(例えば胆管等)におけるT細胞標的の存在が、制御不能なオン標的オフ腫瘍(on-target off-tumor)毒性を招く可能性があり(Lamers Mol Ther. 2013 Apr;21(4):904-12)、その結果、他の剤(例えばステロイドや細胞排出エピトープ等)を利用できる前に、重篤な器官毒性を招くおそれがある。静脈及び動脈血漿はアシドーシスに対する強力な緩衝能力を有するのに対し、養子細胞治療を受ける癌患者には、呼吸性アシドーシス、ショック・代謝性アシドーシス、及び虚血性アシドーシスの条件が生じる可能性がある。
【0463】
ある態様によれば、特定の条件において血管pHを一時的に上昇させることにより、微小環境において制御されるscFvの抗原に対する親和性を低下させる方法が提供される。血液pHが0.4Uシフトすると、特定のscFvの親和性が10分の一以下に低下する。ある態様によれば、治療時のpHの制御を、IV又は経口投与経路を通じて達成してもよい。ある態様によれば、結合親和性の不活性化を、重炭酸により達成してもよい。他の態様によれば、トリス-ヒドロキシルメチルアミノメタン(別名トロメタミン、トロメタモル、及びTHAM)及びカルビカルブ(Carbicarb)(登録商標)(及び重炭酸ナトリウム及び炭酸ナトリウムの等モル高張液)を用いて、オン標的オフ腫瘍(on-target off-tumor)毒性を軽減するのに十分なレベルまで血液pHを上昇させてもよい。更に他の態様によれば、小分子プロトンポンプ阻害剤を用いて、オン標的オフ腫瘍(on-target off-tumor)毒性を軽減するのに十分なレベルまで血液pHを上昇させることもできる。プロトンポンプ阻害剤としては、これらに限定されるものではないが、エソメプラゾール(Nexium)、エソメプラゾール及びナプロキセン(Vimovo)、ランソプラゾール(Prevacid)、オメプラゾール(Prilosec及びZegerid)、及びラベプラゾール(Aciphex)が挙げられる。プロトンポンプ阻害剤を長期間投与することにより、抗原結合ドメインの同種抗原に対する結合親和性を、数日、数週間、数か月、又は数年に亘って有効に改変することができる。他の態様によれば、トランスポーター及びポンプの転写、翻訳、膜発現、及び安定性を制御して血液pH及び/又は組織pHを改変することによっても、抗原結合ドメインの同種抗原に対する親和性を改変することができる。pHを改変するための斯かるトランスポーター及びポンプの例としては、これらに限定されるものではないが、プロトンポンプ、ナトリウムプロトン交換輸送体ファミリー(NHE)、重炭酸トランスポーターファミリー(BCT)、及びモノカルボン酸トランスポーターファミリーのメンバーが挙げられる。ある態様によれば、pH制御scFvを発現するCAR-T細胞の患者への注入前又は注入と同時に、重炭酸、THAM、又はカリカルブ(Caricarb)(登録商標)を投与してもよい。斯かる処置によって、CAR-T細胞の注入による一時的な肺捕捉により生じうる急性の細胞毒性を軽減することができる。
【0464】
更なる態様
ある態様によれば、本開示にて提供される方法は、T細胞及び/又はNK細胞内で発現される1又は2以上の内因性遺伝子の発現を防止することを含む。本開示にて提供される方法は、斯かる方法に使用可能なmiRNA又はshRNAを発現する組換レトロウイルスを作製できることを明らかにする。実際に、本開示にて提供される方法は、斯かるmiRNA又はshRNAが、イントロン(例えばEf1aイントロン等)内にコードされてもよいことを明らかにする。これは、パッケージ可能なレトロウイルスゲノムに含有可能な機能的要素を最大化できるという、本発明の方法による教示の利点を利用して、従来の教示による欠点を克服すると共に、斯かる組換レトロウイルスの養子T細胞治療における有効性を最大化するものである。
【0465】
ある態様によれば、本開示にて提供される方法を用いることで、以下の標的内因性T細胞発現遺伝子のうち1又は2以上をコードする核酸に結合するmiRNAを、1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10個、例示的な態様によれば2~5個、例えば4個、組換レトロウイルスゲノム内に含有させて、T細胞及び/又はNK細胞に送達することができる。実際に、本開示にて提供されるように、1、2、3、又は4個のmiRNAを、単一のイントロン(例えばEF1aイントロン)内に入れて送達してもよい。T細胞で発現される標的内因性遺伝子としては、例えば以下が挙げられる(その不活性化により期待される非限定的な利点を括弧書きで付記する)。PD-1(不活性化防止);CTLA4(不活性化防止);TCRa(安全性・自己免疫防止);TCRb(安全性・自己免疫防止);CD3Z(安全性・自己免疫防止);SOCS(不活性化防止);SMAD2(不活性化防止);miR-155(活性化促進);IFNγ(CRS低減);cCBL(シグナル伝達延長);TRAIL2(致死防止);PP2A(シグナル伝達延長);ABCG1(コレステロールのクリアランスの制限によるコレステロールマイクロドメイン濃度増加)。
【0466】
ある態様によれば、類似の有用性が期待される標的遺伝子に対するmiRNAを組み合わせてもよい。他の態様によれば、相補的な有用性を有する標的遺伝子に対するmiRNAを組み合わせてもよい。ある態様によれば、斯かる組み合わせには、例えばCD3Z、PD1、SOCS1、及び/又は、IFNγが含まれてもよい。
【0467】
処置方法
本開示は、CARを用いた種々の処置方法を提供する。本開示のCARは、Tリンパ球又はNK細胞に存在する場合、標的細胞に対する細胞毒性を媒介することができる。本開示のCARは、標的細胞に存在する抗原に結合することにより、前記CARを産生するように遺伝子操作されたTリンパ球又はNK細胞による標的細胞の駆除を媒介することができる。前記CARのASTRが標的細胞の表面に存在する抗原に結合する。
【0468】
本開示は、標的細胞を死滅させ、又は標的細胞の成長を抑制する方法であって、対象CARを産生するように遺伝子操作された細胞毒性免疫エフェクター細胞(例えば細胞毒性T細胞、又はNK細胞等)に標的細胞を接触させることにより、斯かるTリンパ球又はNK細胞に標的細胞の表面に存在する抗原を認識させ、前記標的細胞を死滅させることを媒介することを含む方法を提供する。
【0469】
本開示は、疾患又は障害を有する個人の疾患又は障害を治療する方法であって、a.CARをコードするポリヌクレオチド配列を含む発現ベクターを、前記対象から得られた末梢血細胞に導入して、遺伝子改変された細胞毒性細胞を作製し、b.得られた遺伝子改変細胞毒性細胞を前記対象に投与することを含む方法を提供する。
【0470】
処置に適した対象
本開示に提示される方法及び組成物を用いた処置に適した対象は種々存在する。適切な対象としては、任意の個人(例えばヒト又は非ヒト動物)であって、疾患又は障害を有する個人、疾患又は障害を有すると診断された個人、疾患又は障害を発症するリスクを有する個人、疾患又は障害を過去に有していた経験があり、再発のリスクを有する個人、疾患又は障害の治療剤による治療を受けたが斯かる処置に応答しなかった個人、又は、疾患又は障害の治療剤による治療を受け、斯かる処置に初回は応答したが、その後再発した個人等が挙げられる。
【0471】
免疫調節方法による処置に適した対象としては、自己免疫障害を有する個人、器官又は組織移植の受容者である個人、免疫不全の個人、及び、病原体に感染している個人等が挙げられる。
【0472】
例示的な態様の例として、以下に非限定的な実施例をあげるが、これらはあくまでも例示を目的とするものであり、本開示の範囲及び趣旨を何ら限定するものではない。また、本開示にて記載又は請求される何れの発明も、本開示に記載の1又は2以上の特徴のあらゆる変形、組合せ、及び配列を包含すると解される。また、具体的な除外が本開示に明示的に記載されていない場合でも、任意の1又は2以上の特徴を請求項から明確に除外することができる。また、当業者が別途理解する場合を除き、ある方法に使用されるある試薬の開示は、本開示に示す具体的な方法又は本技術分野で公知の他の方法の何れかに従う、斯かる試薬を用いた方法と同義である(また、そのためのサポートを提供する)ことを意図しているものと解される。更に、当業者が別途理解する場合を除き、明細書及び/又は請求項がある方法を開示する場合、斯かる方法には、本開示に示す任意の1又は2以上の試薬を用いることができる。
【実施例】
【0473】
実施例1.ヌクレオシド類似体抗ウイルス薬に特異的に応答するリボスイッチの作製
本実施例は、グアノシン及びデオキシグアノシンに結合する天然構造的リボスイッチに基づくライブラリーのスクリーニング法を提供する。これらのリボスイッチを骨格として使用することで、リガンドヌクレオシド類似体に特異的に結合するアプタマーの選択用の偏向ライブラリーを構築する。従前、等温滴定熱量計を用いて、これらの天然リボスイッチがその天然のリガンドに結合することが示された。追加の試験により、デオキシグアノシンスイッチは、ヌクレオシド類似体であるアシクロビル及びペンシクロビルとも弱い相互作用を生じることが示された結果、この配列は新たなライブラリーへと再設計された。斯かるリボスイッチの単一鎖領域を標的として変異させ、アシクロビル又はペンシクロビルに対して特異的に応答する変異配列を選択した。
【0474】
材料
選択成分となるグアニン、グアノシン、デオキシグアノシン、アシクロビル、及びペンシクロビルはSigma-Aldrich(St. Louis, MO)から入手した。アシクロビルは初回標的であり、ペンシクロビルは特に興味ある被分析物として後のラウンドに使用され、グアニン、グアノシン、及びデオキシグアノシンは反標的として使用した。分画培地として使用する酸化グラフェン(GrO)はAngstron Materials(Dayton, OH)から購入した。HEPES(pH7.3)及びMgCl2はAmersco LLC.(Solon, OH)から購入した。KClはTeknova(Hollister, CA)から購入した。選択緩衝剤は5×濃度(1×は50mM HEPES、100mM KCl、20mM MgCl2、pH7.3)で調製した。予備分析及びアプタマースクリーニングのために、標的、反標的、及びオリゴはヌクレアーゼを含まない水で再構成した。何れの標的についても、保存期間の最大化のため、アリコートは-20℃で調製及び保存した。
【0475】
アプタマーライブラリーの生成
初回アプタマーライブラリーテンプレートは、IBA GmbH(Gottingen, Germany)により、
図14に示す配列の逆相補鎖として合成された。
図14において、四角内のヌクレオチドは、既知の配列を一本鎖にしたものであり、原標的の類似体に対してよりよく結合するように、「変異」を導入してある。実線四角内のヌクレオチドは、置換変異を許容したヌクレオチドであり、点線四角内のヌクレオチドは、置換変異及び挿入又は欠失を許容したヌクレオチドである。プライマーは、IDT(Coralville, IA)により一本鎖DNAとして合成された。T7プライマー(配列番号240)をライブラリーテンプレート配列と組合せ、チタンTaq DNAポリメラーゼ(Clontech; Mountain View, CA)によるプライマー伸長に供した。プライマー伸長された材料を、Ampliscribe T7高収率転写キット(Epicentre; Madison, WI)を用いた転写に供し、続いて8M尿素を用いた10%変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)で精製してから選択に使用した。選択時には、逆プライマー(配列番号241)を用いて、SuperScript IV逆転写酵素(Invitrogen; Carlsbad, CA)によりライブラリーを逆転写し、チタンTaq DNAポリメラーゼ(Clontech; Mountain View, CA)を用いて増幅した。配列番号248のアプタマーは、-3~-1のJ2-3ループ変異を有すると共に、~2.25×10
10の多様性を有する。配列番号250のアプタマーは、0(native)~+5のJ2-3ループ変異を有すると共に、~9.38×10
14の多様性を有する。2つのオリゴヌクレオチド(配列番号249及び250)を1:4160の比で混合し、混合後のライブラリープールで等モルの多様性を得た結果、最終的な多様性は~9.38×10
13となった。
【0476】
ライブラリースクリーニング
酸化グラフェン-リガンドの体系的進化を用いて、指数関数的濃縮(GO-SELEX)アプローチにより、ライブラリースクリーニングを実施した(
図15)(Park et al., 2012)。π-π相互作用により酸化グラフェンに一本鎖核酸への高親和性を付与する利点を利用した(Zeng et al., 2015)。その目標は、1×選択緩衝剤又は反標的(グアニン、グアノシン、及びデオキシグアノシン)とは相互作用しないが、陽性標的アシクロビルに結合する配列を選択することである。
【0477】
各ラウンドにおいて、所与の量のライブラリーに対し、1×選択緩衝剤内で再び折り畳みを生じさせた(90℃で5分間の変性、4℃で5分間、続いて室温)。次に、再折り畳みライブラリーに反標的を加え、37℃で30分間インキュベートした。例外として、ラウンド1及び2では、反標的を加える時間を短くし(<1分間)、ライブラリーがGrOに付着するのを促進した。前記ライブラリーと反標的及び緩衝成分とを相互作用させた後、37℃で10分間のインキュベーションを行い、結合していないライブラリーをGrOに付着させた(ラウンド開始時のライブラリーの質量と等量~100倍量)。続いて、溶液を7,000×gで遠心分離し、GrOを沈殿させた。反標的に結合した配列及び/又は緩衝剤を含む上清を除去した。続いて、沈殿物を200μLの1×選択緩衝剤で2度洗浄し、7,000×gで遠心分離し、各洗浄後に上清を除去した。次に、陽性標的含有溶液を加え、表1に示す条件で、37℃で最大~60分間かけて、GrOからライブラリーを溶出させると共に、ライブラリーとの結合について実質的に前記標的を酸化グラフェンと競合させた。前記標的により強く結合した配列は、酸化グラフェンから脱着し、インキュベーションの終了時にも前記標的に結合したまま維持される。最後の遠心分離工程によって、酸化グラフェンに結合したままの非反応性ライブラリーから、遊離材料が分離されて上清内に移行する。
【0478】
陽性選択の後、回収されたRNAを、8M尿素を含む10%変性PAGEを用いて精製し、次いで分光光度計の読み取りを用いて定量し(表1)、SuperScript IVで逆転写し、PCR with チタンTaq DNAポリメラーゼを用いたPCRで増幅した。増幅産物をRNAに転写し、次ラウンドの選択に供した。
【0479】
選択時には三段階のストリンジェンシーを用いた(表1)。前述のように、最初の2ラウンドの選択では反標的に対するスクリーニングを含めず、ライブラリーのGrOへの付着を最大化した。更に、大過剰量のアシクロビルを用いて陽性インキュベーションを行い、ライブラリーの回収を最大化した。即ち、低ストリンジェンシーを指定した。ライブラリーの回収を達成した後に、中ストリンジェンシー条件として、反標的インキュベーションを導入した。また、これら3つのラウンドの間、アシクロビルのライブラリーに対する比率を低減し、標的への結合についてライブラリーの競合を増加させた。10%以上の回収が達成された後、最終ラウンドでは高ストリンジェンシーの選択を実施した。反標的/ライブラリー比は高いまま維持し、陽性標的/ライブラリー比は1:1にすると共に、陽性インキュベーション時間を短縮し、より早く結合する配列を選択した。2ラウンド超の高ストリンジェンシー条件の後にライブラリーの回収率が10%超であることが示されたら、平行評価を実施した。
【表1】
表1.選択及び評価条件。各ラウンドの選択又はインキュベーションに用いた条件と共に、各ラウンドで回収された試料と導入したライブラリーとの比率を回収率として示す。選択過程を通じてライブラリーの濃縮率を監視した。*反標的を、延長されたインキュベーションではなく、付着のために使用。†プールされた反標的と共に付着前インキュベーションを実施。‡陽性標的であるアシクロビルと共に付着前インキュベーションを実施。これは交差反応を生じる種の回収率を最小化するために行った。この表では以下の略称を用いた。“X-Targets”は反標的;“(+) Targets”はアシクロビル又はペンシクロビル;“(+) Incubation Time (min)”は時間;“Library: (+) Targets”溶液はGrO上でインキュベートした。G0は第0世代、以下同様;R1は第1ラウンド、以下同様。平行評価(並行の1及び並行の2)では、以下と共にインキュベーションを実施した:(-) 1×選択緩衝剤のみ、(X) 反標的を加えた1×選択緩衝剤、(+) アシクロビルを加えた1×選択緩衝剤、及び、(P) ペンシクロビルを加えた1×選択緩衝剤。
【0480】
これら2つの平行評価では、評価対象ライブラリーを4つの等量の部分に分け、前述のような調製及び再折り畳みに供した(
図16)。各条件について、50pモルのライブラリーを1×選択緩衝剤と混合し、再折り畳みを生じさせ(90℃で5分間、4℃で5分間)、続いて1×選択緩衝剤中、200μLの10μMの反標的と混合し、37℃で30分間インキュベートした。続いてこれらの試料を、試料中のライブラリーの質量と等量~100倍量の酸化グラフェンに付着させ、37℃で10分間インキュベートした。その後、以前と同様に200μLの1×選択緩衝剤で洗浄した。酸化グラフェンに付着した試料を200μLの適切な評価条件(第1の平行評価では、1×選択緩衝剤のみ、10μMのプールされた反標的、1μMのペンシクロビル、1μMのアシクロビル、又は、第2の平行評価では、0.5μM アシクロビル;表1ではこれらの条件をそれぞれ:(-);(X);(P);(+);及び(+)と記す。)と共に、1×選択緩衝剤中、37℃で30分間インキュベートした。最終の遠心分離工程によって、脱着した反応性ライブラリーを非反応性の酸化グラフェン結合ライブラリーから分離した。この反応性ライブラリーを、分光光度計の読み取りを用いて定量し(表1)、8M尿素を含む10%変性PAGEを用いて検証し、第2の平行評価に供した。陽性試料の付着前インキュベーションには反標的を用いて、他の試料の前インキュベーションの各々については陽性標的アシクロビルを用いて、追跡評価を行った。これは、所与の試料中で交差反応を示す配列の発生を最小化するために行った(即ち、陽性試料中での反標的に対する反応性、陰性、反標的、又はペンシクロビル試料中でのアシクロビルに対する反応性)。第2の平行評価から回収された材料を、分光光度計の読み取りを用いて定量し(表1)、8M尿素を含む10%変性PAGEを用いて検証し、逆転写による配列決定、次いでPCRによる二本鎖DNAの生成に供した。
【0481】
配列決定
初回ライブラリーを10ラウンド超のGrO系選択及び平行評価に供した(表1)。GO-SELEXプロセスは、着目する所与の標的に結合する配列を選択し、非標的化合物又は緩衝成分に結合する配列を除去する多重ラウンドの選択を通じて、配列を濃縮するものである。その結果、配列決定される集団は、多コピーの潜在的なアプタマー候補を含むと期待される。
【0482】
単一末端リード技術を用いた並行評価の後、Illumina MiSeqシステム(San Diego, CA)を用いて、アプタマーライブラリーの配列決定を行った。ディープシークエンシング及びそれに続くデータ分析により、従来のSELEXと比較してスクリーニングラウンドの数を低減した。従来のSELEXでは、多数のスクリーニングラウンドが必要であったため、スクリーニングプロセスにより誤りや偏向が生じる場合があった(Schutze et al., 2011)。以下の5つの試料を配列決定した:アシクロビルに反応した最終世代のライブラリー、反標的に反応した最終世代のライブラリー、1×選択緩衝剤(陰性条件)に反応した最終世代のライブラリー、アシクロビルに反応した最後から2番目の世代のライブラリー、及び、興味対象となる追加の標的であるペンシクロビルに反応した最終世代のライブラリーである。これらのデータ群から、アプタマー候補を同定するために、95%の相同性を以て配列ファミリーを構築した(変異、欠失、及び挿入を考慮した配列類似性)。アシクロビルに反応したライブラリー由来の生配列は1,711,535個(うち124,600個は独自配列)、ペンシクロビルに反応したライブラリー由来の生配列は2,074,832個(うち110,149個は独自配列)であった。
【0483】
アプタマー候補の選択
配列ファミリーの構築は主に配列類似性に基づいて行った。即ち、ある配列の陽性標的集団内における頻度は考慮したが、類似の配列間のばらつきの度合いをより重視し、95%の相同性を最低条件とした(即ち、ファミリーに属するのに全体配列に亘って100%一致することは要求せず、最大2塩基のミスマッチ、挿入、又は欠失が存在してもよい)。ここから予想できるように、最もメンバー数の多いファミリーがアプタマー候補として上位にランクされる。ファミリーを構築した後、所与の集団内におけるファミリーの相対的な位置づけを考慮してもよい。即ち、陰性及び反標的集団に頻繁に表れるファミリーは、緩衝剤又は反標的成分との結合において非特異的相互作用を生じる度合いが高いことから、候補としては弱いと判断される。更に、濃縮率が高いファミリー(即ち最後の陽性集団と最後から2番目の陽性集団との間の比が大きいファミリー)は、濃縮率はある候補の集団内の他の成員との比較における結合親和性に関連付けられていることから(Levay et al., 2015; Wang et al., 2014)、候補として優先される。これらの条件の下、アシクロビル(表2)及びペンシクロビルとの結合について、幾つかの候補ファミリーが強力な候補であると考えられた。
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
【表2-4】
【表2-5】
【表2-6】
【表2-7】
表2.アシクロビル結合RNAリボスイッチの非ステム領域に対応するDNA配列。スクリーニングにおいて7つのファミリーが同定された。それらは582、769、795、935、946、961、及び996ファミリーで、各ファミリーは1~39配列を有する。各ファミリー内の各配列の%同一性を、そのファミリーで最も多くみられる配列と比較した(582-1、769-1、795-1、935-1、946-1、961-1、及び996-1)。また、各ファミリー内の各配列の%同一性を、野生型配列とも比較した。
【0484】
陽性標的アシクロビルからは、7つの強力な候補が得られた(配列番号87~93;ステム領域を含むRNA配列)。それらは、582-1(配列番号108)、769-1(配列番号147)、795-1(配列番号164)、935-1(配列番号183)、946-1(配列番号198)、961-1(配列番号220)、及び996-1(配列番号221)に対応する。各々をF1Aと示す(
図17)。これらの配列は各ファミリーで最も多くみられる配列である(各ファミリーの全メンバーのDNA配列は:582(配列番号108~146);769(配列番号147~163);795(配列番号164~182);935(配列番号183~197);946(配列番号198~219);961(配列番号220);及び996(配列番号221)である)。コンセンサス配列は、全ての可能な置換又はギャップを、各ファミリーの各ヌクレオチドの位置に示す(配列番号222~226)。デオキシグアノシンに結合することが知られているRNAに基づき、ライブラリーからアプタマーを同定することが目的であるから、強力な候補の反標的集団内における存在は最小限である必要があった。候補F1A-795、F1A-935、及びF1A-946は反標的集団に検出されず、斯かる基準を最もよく満たしていた。F1A-996及びF1A-961は反標的集団に僅かに存在しており、この点では次善の候補と考えられた。更に、候補は陰性集団にも最小限しか存在しないことが求められる。これらの配列アシクロビルの影響なしにGrOから脱着し、偽陽性を示しうるからである。F1A-935及びF1A-946は陰性集団にも存在せず、この基準に照らしても理想的であった。候補F1A-769は最小限ではあるが陰性集団内に存在した。候補F1A-961、F1A-795、及びF1A-996はより劣る結果であった。最後に考慮すべき条件は濃縮率であるが、F1A-935、F1A-946、及びF1A-769は充分であった。候補F1A-582は最も高い濃縮率を示したことから、他の基準では劣っていたものの、候補に加えた。これら4つの候補と比較して、残る候補は劣ってはいたものの、許容しうる特性を有していた。
【0485】
追加の標的ペンシクロビルにより、7つの強力な候補が得られた(配列番号94~100)。これらはF1Pと命名された(
図18)。前回と同様、その目的はデオキシグアノシンに結合することが知られているRNAに基づき、ライブラリーからアプタマーを同定することであり、ラウンド10の後のアシクロビルへの結合性に基づくライブラリー濃縮からは逸脱していた。強力な候補は、交差反応性が最小であるために、アシクロビル及び反標的集団の両方において存在が最少である必要があった。候補F1P-923は第1の基準を満たしており、候補F1P-710は第2の基準を満たしており、候補F1P-584は両方の基準をある程度満たしていた。候補F1P-584も、アシクロビルに対する以前の世代の応答と比較すると、陰性条件に対するペンシクロビルへの偏向性(favorability)が中程度に優れており、濃縮性も中程度であった。残りの候補は、アシクロビルに対するペンシクロビルの偏向性が最小限、或いは、反標的に対するペンシクロビルの偏向性が最小限であった(それぞれ、F1P-837及びF1P-932;F1P-991及びF1P-718)。これら4つの候補は、偽陽性の可能性を最小化する陰性条件に対して、ペンシクロビルに幾分の偏向性を示したが、斯かる候補がペンシクロビル類似体と比較してペンシクロビルに選択性を示さない場合には、この基準はそれほど重要ではない。考慮すべき最後の条件である濃縮率について、F1P-923、F1P-932、及びF1P-584は十分に優れていた。
【0486】
選択されたアプタマーを、定性的PAGEによる評価に供した。個別に合成及び転写されたアプタマーを、生理的Mg++(0.5mM)下で、酸化グラフェン(GrO)上での選択に供し、アシクロビル(+)又は反標的(x)の何れかで溶出させた。各試料について特異的に溶出されたアプタマー画分を、PAGEでの分析に供した。
【0487】
100pモルの各アプタマー候補(試行回数/レーン当たり)を1×改変選択緩衝剤(50mM HEPES、100mM KCl、0.5mM MgCl2、pH7.3)に再懸濁し、再び折り畳みを生じさせ(90℃で5分、続いて4℃で5分)、続いて200pモル(それぞれ)のプールされた反標的又は標的と共に37℃で30分間インキュベートした。最終ライブラリー濃度は0.5μMであり、標的/反標的濃度は1μMであった(インキュベーション体積は200μlであった)。
【0488】
標的/反標的インキュベーション後、250μgのGrO(Angstron Materials; Dayton, OH)を加えて、結合していない候補を吸収させた(37℃で10分間のインキュベーション)。
【0489】
試料を7,000×gで5分間の遠心分離に供した。上清を回収し、40mM EDTAを加えた2×ホルムアミドを用いて変性させ、8M尿素を含む10% 変性PAGE(提供者: American Bioanalysis; カタログ番号AB13021-01000. AB13022-01000)で泳動した。泳動緩衝剤は1×TBEとした(提供者: Amresco/VWR; カタログ番号0658-20L、DI水を用いて希釈)。DNA勾配は20/100DNA勾配とした(IDT)。ゲルの染色はGel Star (Lonza, 50535)を用いて行い、青色光トランスイルミネーターを用いて画像化した。
【0490】
この定性的PAGE評価では、候補F1A-769、F1A-795、F1A-946、及びF1A-996が選択的な陽性応答を示したと考えられた(アシクロビル標的存在下でのGrOからアプタマーが良好に溶出し、それと比較して反標的存在下での溶出はより低く、或いは最低限であった)。
【0491】
結論
12ラウンドの反復スクリーニング及び平行評価の後に、アシクロビルについての強力な候補が同定された。2 ラウンドのスクリーニング及び平行評価の後に、ペンシクロビルについての適切な候補が同定された。
【0492】
実施例2:条件付scFvの単離
潜在的スプライス部位の偏向性(liabilities)を除去し、オーバーラップオリゴ合成により腫瘍抗原特異的scFvを合成し、アシクロビル反応性要素及び霊長目CD3ζプロモーターを含むCARシャトルコンストラクトにクローン化した。初回プロトタイプとして、CD8-αシグナルペプチド、柄部、及び膜貫通ドメインを有するEPCAM又はERBB2scFvの抗ECDを用いた。米国特許番号8,709,755号及びPCT出願国際公開第2016/033331A1号に記載の方法、或いは許容及び非許容条件下でのヒトファージライブラリーからの直接選択により、固体腫瘍微小環境制限CAR産物を産生した。簡単に述べると、Creative Biolabs (Shirley, NY)から入手したヒトVH×VLライブラリーを、以下の腫瘍許容条件下でパニングに供した:100μg/mlのヒアルロナン、100kDaの画分(Lifecore BioMedical, Chaska, MN)、20mg/mlの組換HSA(Cyagen, Santa Clara, CA)、25mMの重炭酸ナトリウム緩衝剤中200ng/mlの組換ヒトVEGF、2μM アデノシン、10mM 乳酸ナトリウム、pH6.7、その後にビオチン化ヒトIgGを結合したストレプトアビジン電磁ビーズ(ThermoFisher、Carlsbad, CA)でクリアランス。ビオチン化標的受容体ECDのEPCAM及びERBB2をコンジュゲートしたビーズに対し、37℃で許容条件下で結合させ、続いて許容条件下で段階洗浄する。生理条件(1μg/mlヒアルロナン、20mg/mlHSA、25mM 重炭酸、1mM 乳酸ナトリウム pH7.2)でファージを放出させ、次いで強固な変異体を酸で溶出させ、1M トリスで急速に中和する。ファージを展開し、ゲノムDNAを分離して、長リード(long read)配列決定を用いたVH×VL鎖のディープシークエンシング分析に供する(PacBio, Menlo Park, CA)。パニングを繰り返して濃縮してもよい。ファージ培養プロセス時に標的に対する濃縮に対して優先的なリードの増幅を示すVH×VL配列は、更なる分析から除外する。腫瘍許容条件下で濃縮されるが、生理条件下で放出される標的に選択的に結合するファージを選択し、更なる特性決定のために前記CARコンストラクト発現系にクローン化し、レンチウイルスを生成し、T細胞に形質導入して、生理条件と比較して腫瘍選択的環境下で標的細胞の死滅作用を発現するCAR媒介腫瘍抗原の試験に供する。
【0493】
実施例3:微小環境制限scFvを用いたMRB-CARの生成
腫瘍微小環境に対する選択性の低いVH及びVL配列を、国際公開第2016/033331A1号に記載の進化に供することにより、微小環境制限ASTRを得た。通常の組織と比較してpHの低い腫瘍環境下で活性が上昇する、2つの腫瘍抗原Axl又はRor2の何れかに結合するキメラ抗原受容体(CAR)(斯かる微小環境制限生物製剤を、本開示ではMRB-CARと呼ぶ場合もある)を作製するべく、前記微小環境制限単鎖抗体の重鎖及び軽鎖を、他のCARドメインと共にレンチウイルス発現ベクターに導入し、MRB-CARを作製した。これらのCARは、アミノからカルボキシ末端にかけて、種々の組み合わせのモジュールを含んでいた。例えば、CD8シグナルペプチド(P1)(配列番号74);微小環境制限抗Ror2及び抗Axl VH及びVLの組み合わせ;CD8(配列番号75)又はCD28(配列番号76)由来の柄部及び膜貫通ドメイン(P5);CD137(配列番号1)又はICΔ(配列番号3)由来の共刺激ドメイン(P6);CD3Z(配列番号13)由来の活性化ドメイン(P7);2A-1リボゾーム性スキップ配列(配列番号77)(P8);及び例示のeTAG(配列番号78)(P9)。
【0494】
候補CARを発現する組換レンチウイルス粒子によってパンT細胞を形質導入し、トランスフェクト細胞の%を決定するべく、FACSを用いてeTagを発現する細胞の%を決定した。パンT細胞は、候補CARをコードする組換レンチウイルス粒子によって首尾よく形質導入されており、これらの形質導入T細胞のアッセイによれば、pH7.4と比較してpH6.7において条件付き活性を示した。
【0495】
Axl又はRor2の何れかを発現する標的細胞に対する候補CARの細胞毒性活性をpH7.4(生理的pH)又はpH6.7(pH代替腫瘍アッセイ条件)下で分析した。候補CARの多くは、pH7.4よりもpH6.7でより有効に標的細胞を溶解した。
【0496】
実施例4.リガンド誘導型リボスイッチの構成
デオキシグアノシンリボスイッチアプタマー及びグアニンリボスイッチアプタマー(Pikovskaya, 2014;Kim, 2007)、又は他のプリンリボスイッチアプタマーを、オリゴヌクレオチドとして合成する。一例によれば、メソプラズマ・フローラム(Mesoplasma florum)由来のデオキシグアノシンIAリボスイッチ(
図6の下線及び太字;
図7)を選択し、進化させてアシクロビル反応性リボスイッチを生成する。他の例では、枯草菌(Bacillus subtilis)由来のグアニンxptリボスイッチ(
図10の下線及び太字;
図11)を選択し、進化させてアシクロビル反応性リボスイッチを生成する。これら2つの例の各々について、P2、P3、J1-2、及びJ2-3部分内の標的となる配列位置を別のヌクレオチドとすることで、ランダムRNAライブラリーが生成される(
図7及び11)。飽和突然変異生成では、
図8A~8B及び
図9(M.フローラムIA)並びに
図12A~12B及び13(B.スブチリスxpt)に示すように、各部分の各標的配列位置に、他の3種の核酸、又は塩基の欠失、又は各標的配列位置に対し+1の位置に4ヌクレオチドの塩基の挿入を許容する。プライマー伸長及び試薬調製に続いてRNA転写を行う。得られたRNAライブラリーを、グアニン、グアノシン、及びデオキシグアノシンの存在下、酸化グラフェンとの陰性選択、続いてアシクロビル又はペンシクロビルとの陽性選択に供する。陰性及び陽性選択プロセスの間、ヒト細胞の生理学的マグネシウムレベル(0.5mM~1.2mM)を用い、温度は37℃に維持する。回収されたアプタマーを逆転写し、PCRで増幅した上で、転写、続いて少なくとも8回の連続ラウンドの選択によるスクリーニングを行う。並行のアプローチとして、アプタマーを40℃で追加の陰性スクリーニングに供する。得られた陽性プールを次世代配列決定及び分析に供する。個々のアプタマーを合成し、その親和性を、35~40℃で、ヒト細胞の生理学的マグネシウムレベルで、等温滴定熱量測定により評価する。陽性アシクロビル及びペンシクロビル特異的アプタマーの選択後、アプタマーをリボザイムハンマーヘッド及びピストルリボザイムと連結する。陽性アシクロビル選択によるアプタマーを、ピストルリボザイムと連結し、アシクロビル調節性リボザイムに評価に供する(Harris KA RNA. 2015 Nov;21(11):1852-8. doi: 10.1261/rna)。変異体をアシクロビルの存在下且つペンシクロビルの不在下で、ゲルシフト系PAGE精製に供する。更に、アシクログアノシン選択によるリボスイッチを、CAR/IL-7コンストラクトの上流のスプライスアクセプターに対し、ループ内の3’側に配置する。スプライス部位の位置は、アシクロビルの不在下ではリボスイッチ複合体の中に束縛されているが、アシクロビルの存在下ではアクセス可能となり、機能的CAR転写産物を生成する。
【0497】
実施例5.インビボ増幅ドメインの構成
T細胞リンパ芽球性白血病(243InsPPCL(配列番号82);246InsKCH(配列番号101);241InsFSCGP(配列番号102);244InsCHL(配列番号103);及び244InsPPVCSVT(配列番号104)(何れもShochat et al 2011, J. Exp. Med. Vol. 208 No. 5 901-908による)に由来する一連の構成的に活性なIL7受容体(IL7R)膜貫通変異体を、オーバーラップオリゴヌクレオチド合成(DNA2.0, Newark, California)により合成する。合成された構成的に活性なIL7R膜貫通変異体を、構成的に発現するレンチウイルスベクター骨格の中に、2Aリボゾーム性スキップ配列の直後に挿入し、その後に、CD8A柄部(配列番号79)及びリーダーペプチド(配列番号74)を含む抗CD19 CD3ζ発現カセットを配置する。HEK293パッケージング細胞をIL7R膜貫通変異レンチウイルスベクターでトランスフェクトし、得られたレンチウイルスパッケージングコンストラクトを培養し、ウイルス上清を本技術分野で公知の方法により回収する。CD3/CD28により刺激されたT細胞を、前記ウイルス上清により形質導入し、IL2欠損AIM V、CTS OpTmizer T細胞増加SFM、又はX-VIVO15培地で4週間培養する。毎週、同一のドナー由来の凍結PBMCを補充する。増幅された、IL7R変異体を発現する形質導入T細胞を、FACS選別によりクローン化し、配列決定RT-PCR産物によりIL7Rコンストラクトの配列を同定する。243InsPPCL変異体(PPCL)(配列番号82)を選択して更なる進化に供し、条件付の活性なCARを生成する。
【0498】
実施例6.CAR-T活性化及び増幅のための補助成分のスクリーニング
一連のタンパク質コーディングドメイン(ABCG1、SOCS1、SMAD2、TGFBR2、cCBL、及びPD1)及びmiRNA配列を、CD3-プロモーター誘導性CARカセットの逆鎖の合成イントロンに組み込むべくコンストラクト化する。CD3-プロモーター誘導性CARカセット及びタンパク質コーディングドメイン又はmiRNA配列を含む各コンストラクトは、ディープシークエンシング用の独自のバーコードを含み、Gibsonアセンブリ及びその後の大腸菌への形質転換及びライブラリー増幅を用いて構築される。ウイルスストックを作製し、これを用いて、AIM V、CTS OpTmizer T細胞増幅SFM、又はX-VIVO15培地(IL2を含まないもの)の中で、CD3/CD28刺激T細胞に形質導入し、4週間培養すると共に、DNAを逐次サンプリングして増幅及びディープシークエンシングに供し、コードの同定を行う。また、斯かるライブラリーをPACBio全長配列決定に供し、ライブラリーの多様性を決定すると共に、バーコード成分をデコードする。前記miRNA配列及びタンパク質コーディングドメインを、CAR CD3ζドメインの相乗的活性化について評価する。
【0499】
実施例7.選択的T細胞組み込み及びPBMCからの発現のためのレトロウイルスパッケージング及び標的静止T細胞への形質導入系の構築
一過性トランスフェクションによる高力価レンチウイルスベクターの産生は可能ではあるが、この方法は複製可能レトロウイルス(RCR)を生成するリスクがあり、臨床用途に拡張することはできない。本例では、誘導型プロモーター及びそのレギュレーターをコードする複数のコンストラクトをHEK293懸濁可能細胞(HEK293S)に同時に導入し、前記ウイルス成分、CAR遺伝子、及びその制御性成分を安定に産生させることにより、安定なレトロウイルスパッケージング細胞株を生成する。2つの独立の誘導型系を用いて、遺伝子の発現を時間的に制御してもよい。一つの系は、2つの転写因子によるラパマイシン又はラパログ(rapalog)誘導性の二量体形成に基づく。一方の転写因子は、ZFHD1 DNA結合ドメインに連結されたFKPBタンパク質の三コピーからなり、他方の転写因子は、p65活性化ドメインに連結されたFRBタンパク質からなる。ラパマイシン又はラパログ(rapalog)は、転写因子と二量体を形成し、ZFHD1/p65 ADを構成する。これにより、12xZFHD1結合部位における遺伝子転写を活性化する。
【0500】
図3A~3Eに示す一連のベクターは、HEK293Sゲノムへの組み込みのためのフランキングトランスポゾン配列を用いて作製される。これらの配列は、いったん細胞のゲノム内に取り込まれると、Cre及び/又はflpリコンビナーゼを用いたその後の組み込みのための、制御性要素並びにlox及び/又はFRT部位として機能する。本開示ではこれらをランディングパッド(landing pads)と称する。最初の5つのコンストラクトは、ピューロマイシン抵抗性、GFP、RFP、及び細胞外MYCタグをコードするポリヌクレオチド配列を含む。細胞外MYCタグは、N末端PLss(ウシプロラクチンシグナルペプチド)を介して細胞膜に標的化され、血小板由来成長因子受容体(PDGFR)C末端膜貫通アンカードメインを介して細胞膜にアンカーされる。また、最初の5つのコンストラクトは、構成型最小CMV及び最小IL-2プロモーター、ラパマイシン調節性ZFHD1系プロモーター、テトラサイクリン反応性要素(TRE)プロモーター、又は双方向TRE(BiTRE)プロモーターを含んでいてもよい。
図3Aのコンストラクトは、NFκB p65アクチベータードメイン(p65 AD)に融合されたFRBドメインと、構成的に発現される3つのFKBPリピートに融合されたZFHD1 DNA結合ドメインとをコードするポリヌクレオチド配列を含む。また、
図3Aのコンストラクトは、ラパマイシン誘導型ZFHD1/p65 ADプロモーターの制御下に、HIV1 REV及びHSV VP65ドメインSrcFlagVpxを含む。
図3Bのコンストラクトは、前記ZFHD1/p65 ADプロモーターの制御下に、rtTA配列をコードするポリヌクレオチドを含む。
図3Cのコンストラクトは、loxP部位に挟まれたピューロマイシン耐性遺伝子及びlox2272部位に挟まれた細胞外MYCタグをコードするポリヌクレオチドを含む。これらの選択可能なマーカーは何れも、FRT部位に挟まれたBiTREプロモーターの制御下にある。
図3Dのコンストラクトは、TREプロモーターの制御下に、loxP部位に挟まれたGFPをコードするポリヌクレオチドを含む。また、
図3Dのコンストラクトは、TREプロモーターとGFPの5’側loxP部位との間に、単一のFRT部位を含む。
図3Eのコンストラクトは、前記ZFHD1/p65 ADプロモーターの制御下に、loxP部位に挟まれたRFPをコードするポリヌクレオチドを含む。また、
図3Eのコンストラクトは、前記ZFHD1/p65 ADプロモーターとRFPの5’側loxP部位との間に、単一のFRT部位を含む。
図3C~3Eのコンストラクトは、他のポリヌクレオチド配列がパッケージング細胞株のゲノム内に挿入されるためのランディングパッド(landing pads)として機能する。挿入されるポリヌクレオチド配列をlox部位に挟み、Creリコンビナーゼ及びこれらのloxP部位を用いてゲノムに挿入してもよい。これにより、斯かる配列の挿入と同時に、ピューロマイシン抵抗性、前記細胞外MYCタグ、GFP、及びRFPをコードするゲノム領域が除去されることになる。或いは、前記ポリヌクレオチド配列をFRT部位に挟み、flpリコンビナーゼ及びこれらのFRT部位を用いてゲノムに挿入してから、ピューロマイシン抵抗性、前記細胞外MYCタグ、GFP、及びRFP前記をコードするポリヌクレオチド配列のCreリコンビナーゼを用いた除去を行ってもよい。
【0501】
ランディングパッド(landing pads)がゲノムに組み込まれたパッケージング細胞株を生成するために、HEK293S細胞を、等モル濃度の5つのプラスミド(
図3A~3E)と、5μgのインビトロ転写ピギーバックトランスポーゼースmRNA、又は、5μgのピギーバックトランスポーゼースを発現するためのプロモーターを含むプラスミドとで共トランスフェクトする。斯かる共トランスフェクトは、PEIの共存下、PEIに対するDNAの比率が(w/w)2:1又は3:1となるよう、或いは、2~5μgのピギーバックトランスポーゼースタンパク質の共存下で、陽イオン性ペプチド混合物を用いて行う。トランスフェクトされた細胞をピューロマイシンで選択する。この選択は、100nmのラパマイシン及び1ug/mLのドキシサイクリンの存在下で2~5日間培養し、続いて蛍光活性化細胞選別により、GFP及びRFPを発現する細胞を収集することにより行う。選別した細胞を、ピューロマイシン、ラパマイシン、及びドキシサイクリンの不在下で5日間培養し、GFP及びRFPを発現する細胞を除去すると共に、mycビーズを用いてmyc陽性細胞を除去する。陰性選別細胞由来の個々のクローンから、ラパマイシン及びドキシサイクリンによるGFP及びRFP誘導をスクリーニングし、単一の細胞をクローン化する。クローン由来のDNAを収穫し、組み込み分析のために配列決定を行う。ラパマイシン及びドキシサイクリンの不在下において制限されたバックグラウンドの発現を示すと共に、ラパマイシン及びドキシサイクリンの存在下でGFP及びRFPにより強力な誘導型発現が見られたクローンを、増幅して保存する。
【0502】
図3A~3Eのコンストラクトがゲノムに組み込まれたHEK293S細胞を、コンストラクトでトランスフェクトする。本コンストラクトは、DAFシグナル配列/抗CD3scFvFc(UCHT1)/CD14 GPIアンカー付着部位(配列番号252)、CD28/CD16B GPIアンカー付着部位に結合しうるDAFシグナル配列/CD80細胞外ドメイン(配列番号253)、及びDAFシグナル配列/IL-7/DAF(配列番号107)、並びにHEK293Sゲノムへの組み込みのための、前記ポリヌクレオチド領域を挟み込むトランスポゾン配列をコードする3シストロン性ポリヌクレオチドを含む(
図4A)。トランスフェクション後、細胞をラパマイシン及びドキシサイクリンの不在下で2日間培養し、構成的に赤色を呈するコロニーを選択する。次に陽性コロニーを、Creリコンビナーゼを発現するコンストラクトで一過的にトランスフェクトし、残存するゲノムDNA及びRFP エンコーディング領域を除去する。BiTREプロモーター並びにgag及びpolポリペプチドをコードするポリヌクレオチド領域を一方向に含み、麻疹ウイルスF及びHタンパク質をコードするポリヌクレオチド領域を逆方向に含むポリヌクレオチドを含む他のコンストラクト(
図4B)を同時にトランスフェクトする。斯かるコンストラクトがCreリコンビナーゼによりゲノムに組み込まれ、
図4Bに示す組み込み配列を生成する。得られたコロニーのタンパク質発現を、ドキシサイクリン及びラパマイシンの存在下で評価し、ディープシークエンシングによりゲノム組み込みを分析する。残りのTRE反応性GFP部位はレンチウイルスゲノム挿入のために維持される。
【0503】
実施例8.レンチウイルスベクター及びレトロウイルスパッケージングの生成
実施例7で生成されたレトロウイルスパッケージング安定細胞株を、Flpリコンビナーゼを発現するためのコンストラクト(
図4C)、及び、CAR及びリンパ増殖性要素 IL7Rα-insPPCLをコードするポリヌクレオチド配列を、HEK293S細胞では活性でないCD3Zプロモーターの制御下に含むコンストラクトでトランスフェクトする。ここで、前記CAR及びIL7Rα-insPPCLは、T2Aリボゾーム性スキップ配列をコードするポリヌクレオチド配列によって隔離され、前記IL7Rα-insPPCLは、アシクロビルリボスイッチ制御性のリボザイムを有する。前記CAR含有コンストラクトは更に、cPPT/CTS及びRRE配列と、HIV-1 Psiをコードするポリヌクレオチド配列とを含む。ゲノムに組み込まれるべきCAR含有コンストラクトのポリヌクレオチド配列全体をFRT部位で挟み込む。CAR含有コンストラクトが首尾よく組み込まれると、GFPの構成型発現が生じる。GFPはその後、Creリコンビナーゼを発現するためのコンストラクトを用いた一過性トランスフェクションにより除去される。HEK293S系列を血清不含有培地で培養する。攪拌型タンク反応器中でピーク細胞密度まで増殖させた後、細胞をピーク細胞密度の~70%まで希釈し、100nMのラパマイシンで2日間処理して、早期遺伝子REV、Vpx、並びにCD3scFv CD16B GPI、CD28 scFv CD16B GPI、及びIL-7 SD GPI DAFの発現を誘導する。続いて1ug/mLのドキシサイクリンを培地に加え、構造的要素の発現を誘導する。構造的要素としてはGag Pol、MV(Ed)-FΔ30、MV(Ed)-HΔ18、及び治療標的を含むレンチウイルスゲノム等がある。ウイルス産生レベルをパッケージング配列のqPCR及びp24 ELISAで評価する。ウイルスの収穫は、細胞の深層濾過、TFFカートリッジを用いた濃縮/透析濾過、及びそれに続くバイアル化のための瞬間冷凍によって行う。
【0504】
実施例9.末梢血単核細胞(PBMC)の単離、形質導入、及び増幅
以下の例は、閉鎖系を用いたインビボでの増幅前のPBMCのエクスビボ処理を示す。一例として、対象から30~200mLのヒト血液を採取し、クエン酸デキストロース溶液(ACD)を抗凝血剤として加え、採血袋に入れる。或いは、血液をバキュテナーチューブ、シリンジ、又は同等品に採取し、空の採血袋又はIV袋に入れる。全血を、NeatCellキット(カタログ番号CS-900.2, Omniamed)を用い、製造者の指示に従って、Sepax 2細胞処理系(BioSafe)で処理する。末梢血単核細胞(PBMC)は培養袋又はシリンジに採取する。アリコートを無菌的に取得して細胞計数に供し、生存細胞数を決定する。PBMCをG-Rex100MCS 気体透過性細胞培養系デバイス(Wilson Wolf)に、最終濃度0.1~1.0×106生存細胞/mlとなるように、X-VIVO 15(カタログ番号08-879H, Lonza)又はCTS OpTmizer細胞増加SFM(カタログ番号A1048501, Thermo Fisher Scientific)培地中、10~300IU/ml IL-2(カタログ番号202-IL-010, R&D Sysyems)で、最終体積が最大200mLとなるように移送する。更に、IL-2に対して、CTS免疫細胞SR(カタログ番号A2596101, Thermo Fisher Scientific)を培地に加えてもよい。閉鎖型G-Rex気体透過性細胞培養系デバイスを、レトロネクチン(カタログ番号CH-296, Takara)、又は類似のフィブロネクチン由来同等物を用いて、製造者の指示に従ってあらかじめ被覆してもよい。
【0505】
末梢血から単離されたPBMCをPALL PBMCフィルターに付加し、フィルターにより10mLのAIM V(Thermo Fisher Scientific)又はX-VIVO15培地を用いて一回洗浄し、続いて10~60mLの(実施例8で調製された)レンチウイルスストックを用い、5mL/hrで37℃で灌流する。次にPBMCを、AIM V、CTS OpTmizer T細胞増加SFM、又は組換ヒトDNase(Pulmozyme, Genentech)を含むX-VIVO15培地で再び洗浄し、続いてDNaseを含まない乳酸加リンガー液(カタログ番号L7500, Braun)で洗浄する。その後、PBMCをフィルターを通じてシリンジに逆灌流する。続いて、細胞(細胞の標的レベルは5×105~1×106細胞/kg)を対象に静脈内注入により再注入する。
【0506】
レトロウイルスゲノムに含まれるリボスイッチに応じて、ヌクレオシド類似体抗ウイルス薬又はヌクレオシド類似体抗ウイルスプロドラッグ(アシクロビル、バラシクロビル、ペンシクロビル、又はファムシクロビル)を対象に投与する。例えば、対象に治療有効量、例えば500mgのヌクレオシド類似体抗ウイルス薬又はプロドラッグを、経口で三回/日投与することができる。前記ヌクレオシド類似体抗ウイルス薬又はプロドラッグによる処置は、好ましくは再点滴の前、例えば2時間前に始める。また、再点滴の時点、又は再点滴の後二時間をおいて始めることもできる。斯かる処置は、少なくとも1、2、3、4、5、7、10、14、21、28、30、60、90、120日間、或いは5、6、9、12、24、36、又は48ヶ月、或いはそれ以上継続することができる。斯かる処置は、前記ヌクレオシド類似体抗ウイルス薬又はプロドラッグの投与を、一日一回、二回、三回、又は四回行うことを含んでいてもよい。再点滴及び処置を開始した後、2、5、7、11、13、18、28、及び56日目の再点滴後に、血液計数を通じて感染細胞の数を決定し、qPCRを用いてウイルスゲノムを低領する。熱又はサイトカイン放出症候群を発症する対象については、ヌクレオシド類似体抗ウイルス薬又はプロドラッグの用量又は頻度を低減又は停止してもよい。18日目までに感染T細胞が10,000~100,000まで増えなければ、ヌクレオシド類似体抗ウイルス薬又はプロドラッグの用量又は頻度を増加させてもよい。対象の臨床応答をFDG PETイメージング及びシリアルCTスキャンにより測定してもよい。寛解が長期継続している場合や、総末梢T細胞数の30%を超える過剰なT細胞の増加が生じた場合には、ヌクレオシド類似体抗ウイルス薬又はプロドラッグの経口投与量を低減又は停止してもよい。
【0507】
実施例10.血管又は組織pHを上げるための治療介入
抗原結合ドメインの同種抗原に対する結合を低減するために、IVボーラス又はIV点滴によりNaHCO3を投与する。標準的な投与量は、初回用量が1mg/体重kg、その後は10分間毎に0.5mg/kgである。50ミリリットルのNaHCO3をボーラス投与することで、血清pHが約0.1pH単位上昇する。pHが7.0の場合、pHを7.40に修正するには、NaHCO3の50mEqアンプルが4本必要となる。
【0508】
実施例11.PBMC中におけるIL-7受容体リンパ増殖/生存要素の活性の検証
抗原に依存しないT細胞の生存を媒介するIL-7Rα変異体の能力を検証するために、30mLのヒト血液を、抗凝血剤であるクエン酸デキストロース(ACD)と共に、バキュテナーチューブに採取した。全血をFicoll-Pacque
(登録商標)(General Electric)を用いて、製造者の指示に従って密度勾配遠心分離することにより、末梢血単核細胞(PBMC)を得た。PBMCの複数のアリコートを無菌的に12ウェル組織培養プレートのウェルに移送し、X-Vivo
(登録商標)15培地(Lonza)を用いて、最終濃度を生存細胞50万個/mL、最終体積を1mLに調整した。一部の試料には組換ヒトインターロイキン-2(IL-2)(Novoprotein)を濃度100IU/mlで加えた。活性化用抗CD3Ab(OKT3, Novoprotein)を濃度50ng/mlで加え、PBMCをウイルス形質導入用に活性化した。プレートを標準加湿組織培養インキュベーター内で、37℃及び5%二酸化炭素の環境下で一晩インキュベートした。一晩のインキュベーション後、所望の試験コンストラクト(
図19A)を含むレンチウイルス粒子調製物を個々のウェルに対し、感染多重度(MOI)が5となるように加えた。プレートを標準加湿組織培養インキュベーター内で、37℃及び5%二酸化炭素の環境下で一晩インキュベートした。一晩のインキュベーションの後、12ウェルプレートの各ウェルの内容物を採集し、遠心分離してペレットを得た。試料をD-PBS + 2%ヒト血清アルブミン(HSA)で一回洗浄し、X-Vivo15
(登録商標)培地に再懸濁し、G-Rex
(登録商標)6ウェル気体透過性細胞培養デバイスのウェルに移送した(Wilson Wolf)。追加のX-Vivo
(登録商標)15培地を加えて、各ウェルの最終体積を30mlに調整した。各コンストラクトのマッチング対照試料をG-Rex
(登録商標)6ウェル気体透過性細胞培養デバイス(Wilson Wolf)に移送し、一部の対照試料については追加の培地を加えて、最終体積を30ml、100IU/ml IL-2とした。G-Rex
(登録商標)デバイスを標準加湿組織培養インキュベーター内で、37℃及び5%二酸化炭素の環境下で7日間インキュベートした。培養中2~3日毎に、IL-2を含む対照試料に新鮮なIL-2を加えた。IL-2を含まないマッチング用試験試料には補充しなかった。7日目に、試料を除去して細胞数を計数し、増幅時の生存率を求めた(Countess, Thermo Fisher)。
【0509】
図19Aは試験されたIL7Rαコンストラクトの概略図である。これらのコンストラクトを組換レンチウイルスゲノムに挿入した。得られた組換レトロウイルスを用いてPBMCに形質導入した。
図19Aは、野生型IL7Rα(配列番号229)の概略図である。野生型IL7Rαは、シグナル配列(SS)、細胞外ドメイン(ECD)、膜貫通ドメイン(TM)、及び細胞内ドメイン(ICD)からなる。「1」はフィブロネクチンIII型ドメインの位置を示し、「2」はWSXWS モチーフの位置を示し、「3」はボックス1の位置を示し、「4」はタンパク質キナーゼC(PKC)リン酸化部位の位置を示し、「5」はボックス2の位置を示す。
【0510】
変異体「A」は、InsPPCLを位置243に有する(Shochat et al 2011, J. Exp. Med. Vol. 208 No. 5 901-908)が、S185C変異を有しないIL-7Rαで、GFPポリペプチド、GSGリンカー、及び(そのN末端に融合された)P2Aリボゾーム性スキップ配列を有する転写産物において発現されていた。変異体「B」は、GFPポリペプチド、GSGリンカー、及び(そのN末端に融合された)P2Aリボゾーム性スキップ配列を有すると共に、Mycタグをシグナル配列と細胞外ドメインとの間に有するIL-7RαInsPPCLである。変異体「C」は変異体「B」と類似しているが、その細胞内ドメインは位置292で切断されていた。変異体「D」は変異体「A」類似しているが、その細胞内ドメインは位置292で切断されていた。変異体「E」は、N末端が切断されることにより、シグナル配列及び細胞外ドメインの大部分(残基1~228)が存在しないIL-7RαInsPPCL変異体である。また、変異体「E」は、アミノ末端から順にGFPポリペプチド、GSGリンカー、P2Aリボゾーム性スキップ配列、及び(そのN末端に融合された)eTagを有する。アミノ酸残基の番号付けはIL7Rα(NCBI GI番号002176.2)に基づく。トリパンブルー色素排除を用いて、IL-2の存在下又は不在下における各変異体を含むT細胞の生存率を調べた。
【0511】
図19Bに示すように、PBMCはインビトロでの生存にIL-2を必要とする。
図19Bに示すように、トランスフェクトされていないPBMCの生存率は、IL-2の存在下で約80%、IL-2の不在下では0%であった。IL-7RαInsPPCLの全長を有するPBMC(
図19AのIL-7Rα変異体A及びB)の生存率は、IL-2の不在下でも20%を超えており、構成的に活性なIL-7RαInsPPCL受容体の発現により、これらの細胞が生存活性を有していることが示唆された。更に、細胞内ドメイン(ICD)が切断されたIL-7RαInsPPCL変異体を発現するT細胞(
図19AのIL-7Rα 変異体C及びD)は、野生型IL-7受容体と比較して生存率が向上していた。最後に、
図19Bに示すN末端IL-7受容体変異体(
図19AのIL-7Rα変異体E)は、これらの細胞において生存活性を示した。従って、この例は、IL-7受容体がPBMCで発現されると生存活性を発揮することを示している。
【0512】
実施例12.新たに単離された未刺激のヒトT細胞のMeVppによる形質導入効率
293T細胞(Lenti-X 293T, Clontech)をレンチウイルス発現ベクターで一過性トランスフェクションすることによりレンチウイルスを産生させた。斯かる細胞を、Freestyle 293発現培地(ThermoFisher Scientific)中での段階的成長による懸濁培養に適合させた。懸濁液中の細胞を125mLエルレンマイアーフラスコに1×106細胞/mL(30mL)となるように播種し、直ぐに弱酸に溶解させたPEI(Polysciences)によるトランスフェクトに供した。
【0513】
プラスミドDNAを30mLの細胞に対し1.5mLのOptimem培地で希釈した。VSV-G偽粒子については、総DNA(培養体積1μg/mL)は4種のプラスミドを以下のモル比で混合したものであった。2×ゲノムプラスミド、1×Rev含有プラスミド、1×VSVg含有プラスミド、及び1×Gagpol含有プラスミド。MV(Ed)-FΔ30/HΔ18偽粒子については、総DNA(培養体積1μg/mL)は以下の5種のプラスミドを以下のモル比で混合したものであった。2×ゲノムプラスミド、1×Rev含有プラスミド、(2/3、3分の2)×MV(Ed)-FΔ30含有プラスミド、(1/3、3分の1)×MV(Ed)-HΔ18含有プラスミド、及び1×Gagpol含有プラスミド。MV(Ed)-FΔ30/HΔ24偽粒子については、総DNA(培養体積1μg/mL)は以下の5種のプラスミドを以下のモル比で混合したものであった。2×ゲノムプラスミド、1×Rev含有プラスミド、(2/3、3分の2)×MV(Ed)-FΔ30含有プラスミド、(1/3、3分の1)×MV(Ed)-HΔ24含有プラスミド、及び1×Gagpol含有プラスミド。これとは別に、PEIを1.5mLのOptimemで2μg/mLとなるように希釈した(培養体積、DNAに対し2:1の比)。室温で5分間インキュベーションした後、2つの溶液をよく混合し、室温で更に20分間インキュベートした。最終体積(3mL)を細胞に加えた。その後、斯かる細胞を37℃、120rpm、及び5~8%のCO2下、48時間インキュベートした。
【0514】
48時間後、1,000gで10分間の遠心分離により、上清を回収した。上清を新鮮な試験管に静かに移し、PEG(PEG-IT, System Biosciences)溶液中1/4体積の上清を加えた。4℃で一晩のインキュベーションによりレンチウイルス偽型を沈殿させ、続いて4℃下、1,500gで20分間の遠心分離に供した。上清を除去し、ウイルスを1:100体積のPBSに再懸濁させた。形質導入から48時間後、ウイルスを段階的希釈し、CD46及びSLAMを発現するRaji細胞におけるGFP発現に基づき、フローサイトメトリーによりその力価を滴定した。
【0515】
まず、San Diego Blood Bank, CAにより採集及び配布された新鮮な血液の軟膜から、濃縮末梢血T細胞を単離した。簡潔に呼べると、Ficoll-Paque PLUS(登録商標)(GE Healthcare Life Sciences)を用いたPBMCのSepMate(登録商標)(Stell Cell(登録商標))系勾配密度分離を製造者の指示に従って実施した。次いで、未使用T-cell Dynabeads(登録商標)キット(Invitrogen)を用い、製造者の指示に従って、新たに単離された総PBMCから、未使用のT細胞を陰性選択によって更に濃縮した。単離後、2.6E5に濃縮され、新たに単離された未刺激の末梢血Tリンパ球に対し、異なるベクターを用い、種々の感染多重度(MOI)で、それぞれ二組の試料に対して同様に形質導入した。形質導入は37℃で、最終的に96ウェルプレートフォーマットにより、100uLのRPMI-2%HIFCS中で14h行った。ベクターと14hのインキュベーション後、細胞をPBS-2%HIFCSで三回洗浄し、最終的にRPMI-10%HIFCS中0.5E6/mLの細胞密度で、37℃で3日目までインキュベートした。
【0516】
VSV-Gpp又はMeVppとの形質導入から3日後、1E5の細胞を採集し、フローサイトメトリーによってCD3+細胞集団におけるGFPの発現を分析した。
図20は、陰性選択T細胞及び未刺激のT細胞について、MOIに対する形質導入効率のプロットを示す。視認性を高めるためにマークは入れ違いとしてある。MOIが1の場合、MV(Ed)-FΔ30/MV(Ed)-HΔ18偽粒子(~70-80%)を用いると、VSV-Gpp(~0-5%)と比較して、未刺激のT細胞はより効率的に形質導入された。また、MOIが5(~70-80%)のMV(Ed)-FΔ30/MV(Ed)-HΔ24シュードタイピング粒子を用いた場合、MOIが6(~5-10%)のVSV-Gppと比較して、未刺激のT細胞がより効率的に形質導入された。新たに単離された未刺激のヒトT細胞を偽型のレンチベクターにより形質導入した場合、その形質導入効率は、切断型MeV-エンベロープポリペプチドをシュードタイピングに用いた場合の方が、VSV-Gを用いた場合よりもはるかに高かった。
【0517】
実施例13.EF-1αプロモーターイントロンに挿入されたmiRNAの機能性の実証
各々miR-155フレームワークを含む4つの分離したgblocks(登録商標)遺伝子断片を設計した。各gblock(登録商標)について、前記CD3ζmRNA転写産物を標的とした独自のmiRNAを用い、miR-155標的配列を置換した。各gblock(登録商標)には40bpの重畳配列を含め、これら4つのgblocks(登録商標)の単鎖への組み立て及びEF-1αプロモーターイントロンへの組み込みが容易となるように設計した。これらのgblocks(登録商標)をGibson(登録商標) Assembly ultra(NEBuilder, New England Biolabs, Inc.)の実施用に、市販キットを用いて組み立てた。
【0518】
EF-1αプロモーター及びイントロンA(配列番号255)は、レンチウイルスベクター骨格に含まれるGFP及びeTagの発現を誘導するトランス遺伝子発現カセットの一部とした(GFP及びセツキシマブによって認識される例示的なeTagを有するレンチウイルスベクター骨格を、本開示ではF02と称する。)。配列番号255における各gblock
(登録商標)のヌクレオチド位置及びその対応する構成成分を表3に示す。4つのmiRNAがレンチウイルスベクター骨格内で適切に組み立てられたことを、EF-1αプロモーターの全配列決定により確認した。
【表3】
表3.配列番号255における特徴的なヌクレオチドの位置
【0519】
懸濁HEK293細胞に対する以下の4つのプラスミドを用いた一過性共トランスフェクションによって、CD3ζを標的とした4つのmiRNAを含むレンチウイルスを産生した:CD3ζ mRNA転写産物を標的とする4つのmiRNAを含むプラスミド、VSV-Gを含むプラスミド、REVを含むプラスミド、及びGAG-POLを含むプラスミド。48時間後にウイルス上清を採集し、24時間かけてPEG沈殿させた。上清を遠心分離し、ペレット化したウイルスをIL-2を含まない完全PBMC成長培地に再懸濁した。ウイルス力価は48時間のJurkat細胞の形質導入により計算した。
【0520】
形質導入のために、PBMCを0日の時点で解凍し、100U/mLのhrIL-2と共に24時間インキュベートした。1日目に、CD3/CD28をコンジュゲートしたビーズを用いてPBMCを活性化した。2日目に、活性化されたPBMCを、miRNAを含むレンチウイルスにより、MOIが10で形質導入された。細胞を11日目まで増殖させ、新鮮なhrIL-2を二日毎に追加した。7、9、及び11日目に、100万個の細胞をFACS分析用に採集した。
【0521】
細胞のCD3ε表面発現を調べるため、PEにコンジュゲートされたOKT-3抗体(Biolegend)を用いて染色した。GFP陽性集団(形質導入細胞)内のPEの平均蛍光強度(MF)に基づいて発現レベルを決定した。形質導入細胞の発現レベルを、野生型(F02)ウイルスとCD3z miRNAを含むF02ウイルスとの間で比較した。
図21は、CD3ζを標的化したmiRNAEF-1αプロモーターイントロンが、CD3複合体の発現をノックダウンできることを示している。
【0522】
開示された態様、例、及び実験は、開示の範囲を限定することを意図するものでも、以下実験が実施した唯一且つ全ての実験であることを示すものでもない。使用する数値(例えば量、温度等)の正確さには万全を期したが、若干の実験誤差及び偏差が存在するはずである。記載された方法を実施する際には、実験が意図する基本的な側面を変更することなく、変更を加えてもよいと解すべきである。
【0523】
当業者であれば、本開示の範囲及び主旨の範囲内で、多くの改変や他の態様に想到するであろう。実際に、記載された材料、方法、図、実験、例、及び態様には、本開示の基本的な側面を変更することなく、当業者であれば改変を加えることが可能である。開示された任意の態様を、他の開示された任意の態様と組み合わせて用いてもよい。
【0524】
場合によっては、具体的な態様を参照しながら説明した概念もある。しかし、当業者であれば理解するように、添付の請求項に記載される発明の範囲から逸脱しない限りにおいて、種々の改変及び変更を加えてもよい。従って、本明細書及び図面は、限定的な意味ではなく、例示的な意味に解すべきであり、斯かる改変は何れも本発明の範囲に含まれることが意図される。
【配列表】