(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-16
(45)【発行日】2024-04-24
(54)【発明の名称】熱収縮チューブ付き複合強化棒及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 70/68 20060101AFI20240417BHJP
D06M 15/55 20060101ALI20240417BHJP
B29C 70/20 20060101ALI20240417BHJP
B29K 101/12 20060101ALN20240417BHJP
B29K 105/08 20060101ALN20240417BHJP
【FI】
B29C70/68
D06M15/55
B29C70/20
B29K101:12
B29K105:08
(21)【出願番号】P 2022135317
(22)【出願日】2022-08-26
(62)【分割の表示】P 2018203843の分割
【原出願日】2018-10-30
【審査請求日】2022-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】大藪 淳
(72)【発明者】
【氏名】田辺 尚幸
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-330587(JP,A)
【文献】特開平04-361022(JP,A)
【文献】特開平11-070596(JP,A)
【文献】特開2014-195918(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/68
D06M 15/55
B29C 70/20
B29K 101/12
B29K 105/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱収縮チューブと、繊維糸を束ねた芯材が熱可塑性樹脂又は現場重合型熱可塑エポキシ樹脂のマトリックス樹脂に埋設されている複合強化
棒と、を具備し、前記熱収縮チューブが前記複合強化
棒に遊嵌されていることを特徴とする熱収縮チューブ付き複合強化
棒。
【請求項2】
熱収縮チューブと、繊維糸を束ねた芯材が熱可塑性樹脂又は現場重合型熱可塑エポキシ樹脂のマトリックス樹脂に埋設されている複合強化
棒と、を具備し、前記複合強化
棒は前記熱収縮チューブ内に配置され、前記複合強化
棒は前記熱収縮チューブに密着していることを特徴とする熱収縮チューブ付き複合強化
棒。
【請求項3】
前記芯材が筒状である請求項1又は2に記載の熱収縮チューブ付き複合強化
棒。
【請求項4】
前記繊維糸が組み紐又は撚り紐である請求項1又は2に記載の熱収縮チューブ付き複合強化
棒。
【請求項5】
繊維糸を束ねた筒状の芯材
が現場重合型熱可塑エポキシ樹脂のマトリックス樹脂に埋設されている複合強化
棒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は曲げ加工等の二次成形用に好適な熱収縮チューブ付き複合強化棒及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、炭素繊維は軽量,耐食性等に優れることから、クリールに巻かれた炭素繊維を引き出して熱硬化性樹脂を含浸させた後、加熱した金型を通過させて、熱硬化性樹脂を硬化,成形した引抜成形品が提供されている。さらに、マトリックス樹脂に熱可塑性樹脂を用いた成形品にして、一旦成形した製品を購入者が曲げ加工品として活用できる発明品も提案されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかるに、特許文献1は、請求項1の「複合材料強化棒構造において、…前記棒は、扁平な横断面形状を有する、複合材料強化棒構造。」とし、請求項2に記載の「…前記棒は、らせん状のねじりを有する、構造」の発明にとどまる。段落0007で、「…都合良く曲げることができる性能は、横断面の形状及び縦横比と棒に与えられたねじりとによって補助されている。」とするが、その曲げには限界がある。 特許文献1をはじめとする従来の棒状体は、二次加工により曲げ加工しようとすると支障をきたすケースがある。炭素繊維糸には直径数ミクロンのフィラメントが用いられており、曲げ加工を行おうとすると、不具合を招く。前記棒状体中の炭素繊維は極度に伸び難い特性から、曲げ外側の炭素繊維長で曲げ半径が決まる。その内側に在る炭素繊維糸は、特許文献1のごとくねじっていても、曲げに伴う余剰長さ分が変形して棒状体7の形状を保てなくなる。 例えば、
図6のように紙面垂直方向に走る支柱6に、所定温度にした棒状体7の曲げ加工部位74を当てて、その両側に下方向の外力を加えて曲げようとすると、
図7のように変形してしまう場合がある。
図7(イ)で、支柱6に近い最下側繊維糸814は、曲げに伴う糸長の余剰分がシワになって、支柱6から遠のく最上側繊維糸811の方へ近づく。さらには、曲げ加工部位74では、マトリックス樹脂9の下面側が上面側に近づいて扁平化し、芯材8はその上部の繊維糸81から下部の繊維糸81が剥離し、シワが発生する。
図7(ロ)のごとく、曲げ半径を決める最上繊維糸811が中心ライン上に位置して、両外側に中心軸寄り繊維糸812、下側寄り繊維糸813、最下側繊維糸814と、最上繊維糸よりも下方の各炭素繊維糸が水平横方向に広がって、バラけてしまう外観不良を招く。棒状体を曲げた時の外周と内周との間に距離差が生じ、曲げ加工を行う軟化状態にあるマトリックス樹脂9中で、炭素繊維が剥離し、さらに行き場のなくなった炭素繊維があばれて変形を引き起こす。シワが発生し大きく変形してしまうと、外観品質の問題にとどまらず、構造体としての剛性を保つことができず、二次加工の恩恵を受けることができなくなる。
【0005】
本発明は、上記問題を解決するもので、必要剛性を保って品質良好な曲げ加工品を作ることができる熱収縮チューブ付き複合強化棒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成すべく、第1の発明の要旨は、強化繊維の各構成繊維糸を糸長方向に揃えて棒状に束ねた芯材が、熱可塑性樹脂又は現場重合型熱可塑エポキシ樹脂のマトリックス樹脂に埋設されて一体化している複合強化棒と、該複合強化棒よりも短尺の筒状体で、且つその筒内径が前記複合強化棒の棒径よりも大にして、加熱により長さ方向よりも径方向に大きく収縮する熱収縮チューブと、を具備し、該熱収縮チューブが、前記複合強化棒に遊嵌されて、該複合強化棒の曲げ加工部位に配設されるようにしたことを特徴とする熱収縮チューブ付き複合強化棒にある。第2の発明たる熱収縮チューブ付き複合強化棒は、第1の発明で、複合強化棒に遊嵌されてその曲げ加工部位に配置された前記熱収縮チューブが、加熱により前記マトリックス樹脂の軟化点よりも低い温度で収縮して前記複合強化棒に密着保持されていることを特徴とする。第3の発明たる熱収縮チューブ付き複合強化棒は、第1又は2の発明で、芯材が炭素繊維のトウで形成されたことを特徴とする。第4の発明たる熱収縮チューブ付き複合強化棒は、第1~3の発明で、マトリックス樹脂が現場重合型熱可塑エポキシ樹脂からなることを特徴とする。
第5の発明の要旨は、棒方向に強化繊維の各構成繊維糸を糸長方向に揃えて棒状に束ねた芯材を、熱可塑性樹脂又は現場重合型熱可塑エポキシ樹脂の溶融マトリックス樹脂に含浸させた後、硬化一体化させた複合強化棒を作製し、続いて、該複合強化棒を、その棒径よりも筒内径が大の筒状体にして且つ該複合強化棒よりも短尺の熱収縮チューブに挿通して、加熱により長さ方向よりも径方向に大きく収縮する該熱収縮チューブを前記複合強化棒の曲げ加工部位に配設するようにしたことを特徴とする熱収縮チューブ付き複合強化棒の製造方法にある。第6の発明たる熱収縮チューブ付き複合強化棒の製造方法は、第5の発明で、複合強化棒を熱収縮チューブに挿通して、前記複合強化棒の曲げ加工部位に該熱収縮チューブを配設し、その後、熱を加えて、前記マトリックス樹脂の軟化点よりも低い温度で該熱収縮チューブを収縮させ、前記複合強化棒に密着保持させるようにしたことを特徴とする。第7の発明たる熱収縮チューブ付き複合強化棒の製造方法は、第5又は6の発明で、芯材を炭素繊維のトウで形成し、且つ前記マトリックス樹脂を現場重合型熱可塑エポキシ樹脂としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の熱収縮チューブ付き複合強化棒及びその製造方法は、曲げ加工時に芯材の構成繊維糸がバラけようとしても、曲げ加工部位の周面を熱収縮チューブが覆って密着しているので、熱収縮チューブで各構成繊維糸がバラけるのを効果的に押しとどめることができ、外観品質だけでなく必要剛性も維持できるなど優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の熱収縮チューブ付き複合強化棒及びその製造方法の一形態で、(イ)が熱収縮チューブが複合強化棒に遊嵌されている斜視図、(ロ)が(イ)のI-I線断面図である。
【
図2】(イ)が
図1の熱収縮チューブが収縮し複合強化棒に密着している斜視図、(ロ)が(イ)のII-II線断面図である。
【
図3】支柱を支点にして、
図2の熱収縮チューブ付き複合強化棒を曲げようとする説明断面図である。
【
図4】
図3の状態から熱収縮チューブ付き複合強化棒を曲げ終えた説明図である。
【
図6】
図3に対応させて、複合強化棒だけを曲げようとする説明断面図である。
【
図7】(イ)が
図4に対応させて、複合強化棒だけを用いた説明断面図、(ロ)が(イ)の説明平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る熱収縮チューブ付き複合強化棒及びその製造方法について詳述する。
図1~
図6は本発明の熱収縮チューブ付き複合強化棒及びその製造方法の一形態で、
図1は複合強化棒に熱収縮チューブが遊嵌した斜視図、
図2は
図1の熱収縮チューブが収縮し複合強化棒に密着した斜視図、
図3は
図2の熱収縮チューブ付き複合強化棒を曲げようとする断面図、
図4は熱収縮チューブ付き複合強化棒を曲げ終えた説明図、
図5は複合強化棒の製造工程図、
図6,
図7は
図3,
図4に対応させた複合強化棒だけの説明図を示す。各図は発明要部を強調図示し、また本発明と直接関係しない部分を簡略化又は省略する。
【0010】
(1)熱収縮チューブ付き複合強化棒
熱収縮チューブ付き複合強化棒は、複合強化棒1と熱収縮チューブ5とを具備する(
図1,
図2)。
複合強化棒1は、強化繊維の各構成繊維糸21を糸長方向に揃えて棒状に束ねた芯材2が、熱可塑性樹脂又は現場重合型熱可塑エポキシ樹脂のマトリックス樹脂3に埋設されて一体化している棒状体である。棒状になるよう、強化繊維の各構成繊維糸21が糸長方向に揃えて束ねられた芯材2を、熱可塑性樹脂又は現場重合型熱可塑エポキシ樹脂の液状マトリックス樹脂3Aに含浸、硬化させて、芯材2とマトリックス樹脂3とが一体化している。強化繊維とは、複合強化棒1の機械的強度を高めるためのマトリックス樹脂強化用の繊維をいう。例えば無機繊維としてガラス繊維,炭素繊維等があり、有機繊維としてはアラミド繊維等がある。
【0011】
前記芯材2は、構成する各フィラメント間にマトリックス樹脂3が浸透し、双方が
図1(ロ)のように一体化している。芯材2を判り易く説明するため、
図1(イ)は左端に便宜的に芯材2の部分のみを露出させている。ここでは、強化繊維として炭素繊維を用い、その各構成繊維糸21たる長繊維(フィラメント)糸を糸長方向に揃えて棒状に束ねた芯材2とする。
図1では、芯材2をつくるフィラメント糸21の本数を極端に減らして図示するが、実際は例えば3000本(3kと呼ぶ)とか12,000本(12k)といった極めて多数の炭素繊維のフィラメント糸21(直径21Dが数μm)で長繊維束にして撚りのないトウ2Aで形成される。尚、
図1で、複合強化棒1の左端から突き出したトウ2Aのみの部分は、出荷前にカッターCT等で適宜、切断除去される。
【0012】
図1,
図2の芯材2は、炭素繊維フィラメント糸21で長繊維束にして撚りのない一本のトウ2Aで形成しているが、後述する表1に掲載した「紐集合体」の欄で、左端側に在るストレートの「模式図」にあるように、複数本のトウ2Aをストレート状態で束ねた芯材2とすることができる。また左側から二列目のように組み紐の「模式図」にある筒状の芯材2としてもよく、左から三列目のように「模式図」にある撚り紐のごとく撚り合わせた芯材2とすることもできる。さらに、図示を省略するが、短繊維(ステーブル)として製造し、紡績工程を経て、強化繊維の構成繊維糸21としてもよい。
【0013】
マトリックス樹脂3は、強化繊維が組み込まれる母材で、熱可塑性樹脂又は現場重合型熱可塑エポキシ樹脂からなる。熱可塑性樹脂は、成形後に、再度熱をかけることで、軟化させて二次成形できる長所を有する。熱可塑性樹脂にはPP(ポリプロピレン)、PA(ナイロン)、PC(ポリカーボネート)等がある。熱可塑性樹脂ではないが、現場重合型熱可塑エポキシ樹脂も本発明のマトリックス樹脂3とする。現場重合型熱可塑エポキシ樹脂は、重合前状態であれば、常温で液状にして粘度を低い状態で維持できる。加熱すれば架橋反応で硬化し、強固な成形品が得られる。そして、一旦硬化した後も、再加熱すると「熱可塑性樹脂」と同様の形相を示し、軟化,二次成形が可能になっている。
【0014】
このマトリックス樹脂3に前記芯材2を埋設一体化しているプラスチック複合棒状材が複合強化棒1になる。本実施形態は、強化繊維として炭素繊維を用いた熱可塑性プラスチック複合棒状材になっ
ている。炭素繊維の直径21Dが数μのフィラメントを数千~数万本を束ねたトウ2Aで形成された芯材2を、クリールから引き出し、マトリックス樹脂3として例えば現場重合型熱可塑エポキシ樹脂の溶融母材3Aに含浸後、硬化させて、
図1のような棒状品に成形した複合強化棒1である。該棒状品を必要長さにカットし、複合強化棒1としている。
【0015】
熱収縮チューブ5は、プラスチックの形状記憶特性を応用したもので、加熱することによって長さの変化が少なく、径が大きく収縮するチューブである。複合強化棒1よりも短尺の筒状体で、且つその筒内径51dが前記複合強化棒1の棒径1Dよりも大にして、加熱により長さ方向よりも径方向に大きく収縮する熱収縮チューブ5とする。熱収縮チューブ5の材質は、ポリオレフィン,塩化ビニル,エチレンプロピレン,シリコーンゴム,フッ素系ポリマー,熱可塑性エラストマー等である。
【0016】
熱収縮チューブ5は一般に電線の絶縁保護等として利用される。しかるに、本発明では、複合強化棒1を曲げる際にその曲げ加工部位14における強化繊維の剥離を押しとどめて、複合強化棒1の必要剛性を保って品質良好な曲げ加工を円滑になす役目を担う熱収縮チューブ5となっている。 詳しくは、可撓性を有する熱収縮チューブ5は、そのチューブ内径51dを複合強化棒1の棒径1Dよりも若干大きめにして、該熱収縮チューブ5が複合強化棒1の曲げ加工部位14に遊嵌される。加温下又は加温した後の曲げ加工時に、曲げ加工部位14に係る複合強化棒1の周面1aを熱収縮チューブ5が包み込んだまま撓み且つ加温に伴う熱収縮により曲げ加工部位14に当接し、曲げ加工で発生する繊維剥離を抑制する。より好ましくは、加熱により前記マトリックス樹脂3の軟化点よりも低い温度で径方向に収縮する熱収縮チューブ5とする。加温により、マトリックス樹脂3の軟化点に達する前に複合強化棒1に係る曲げ加工部位14の周面14aに、熱収縮チューブ5が
図2のごとく収縮,密着して、収縮力を伴って強化繊維の繊維剥離を効果的に抑制できるからである。 本実施形態は、複合強化棒1のマトリックス樹脂3として、再加熱してその二次成形開始可能温度が90~150℃ほどの現場重合型熱可塑エポキシ樹脂を用いる一方、熱収縮チューブ5に、株式会社オーム電機の「収縮チューブ 6.0K」、型番DZ-TR60/Kを用いる。熱収縮チューブ5の材質がポリオレフィンで、その収縮開始温度は、上記マトリックス樹脂3の二次成形開始温度よりも低い70℃になっている。
【0017】
熱収縮チューブ付き複合強化棒は、熱収縮チューブ5が、別体の複合強化棒1に遊嵌されて、該複合強化棒1の曲げ加工部位14に配設されるようにした
図1ごとくの組合せセット品とする。販売用の本発明品は、複合強化棒1に熱収縮チューブ5が横並びに添えられ、セットにして包装された製品であってもよい。 また、複合強化棒1に遊嵌され、その曲げ加工部位14にかぶさって配置された熱収縮チューブ5が、加熱により収縮して複合強化棒1に密着保持されている
図2ごとくの、複合強化棒1に熱収縮チューブ5が一体の熱収縮チューブ付き複合強化棒とすることもできる。曲げ加工部位14の部分を加熱して、速やかに曲げ加工作業ができ、作業性を向上させ、使い勝手に優れた所望の熱収縮チューブ付き複合強化棒となる。 符号3aは複合強化棒1の樹脂マトリックス表面、符号5aは熱収縮チューブ5の外面、符号51Dは熱収縮チューブ5の当初外径、符号55Dは熱収縮チューブ5の熱収縮後の外径を示す。
【0018】
(2)熱収縮チューブ付き複合強化棒の製造方法とその一使用方法
熱収縮チューブ付き複合強化棒の製造方法は、例えば以下のようにして造られる。まず、(1)熱収縮チューブ付き複合強化棒で述べた前記複合強化棒1を、
図5のようにして造る。クリールCRから強化繊維の各構成繊維糸21を糸長方向に揃えて棒状に束ねられた芯材2を引き出す。この芯材2に、熱可塑性樹脂又は現場重合型熱可塑エポキシ樹脂の液状マトリックス樹脂3Aを含浸させた後、棒状に硬化一体化させた複合強化棒1を作製する。
芯材2に係る各構成繊維糸21の繊維内部にマトリックス樹脂3を含浸させるべく、該マトリックス樹脂3を溶融温度以上に加熱し、溶融マトリックス樹脂(溶融母材)3Aの状態に保たれた槽4中に、芯材2を通過させる。そうして、芯材2に係る各構成繊維糸21の内部及び芯材2の表層部にマトリックス樹脂3が含浸、着層した後、該マトリックス樹脂3付き芯材2を金型T、後硬化炉Hに通して、強固な成形品の複合強化棒1とする。
【0019】
具体的には、二液配合タイプの現場重合型熱可塑エポキシ樹脂(ナガセケムテックス株式会社製)を用いて、主剤を100℃付近まで加熱する。その後、主剤との配合比を100:2にした硬化促進剤を添加し、撹拌混合した液状状態下の現場重合型熱可塑エポキシ樹脂を、直径が7μmほどの炭素繊維フィラメント糸を多数束ねて長繊維束(トウ2A)にした芯材2に含浸させる。続いて、この芯材2に現場重合型熱可塑エポキシ樹脂を含浸させたものを金型Tに通し、目的の棒状形状に加工する。しかる後、後硬化炉Hの約140℃に加熱した温度で架橋反応によって硬化させ、直径約5mmφの強固な棒状品を引き出し、棒状品を連続成形する。ここでの複合強化棒1は、上述したごとく炭素繊維を一方向に配列したトウ2Aからなる芯材22に、現場重合型熱可塑エポキシ樹脂を含浸させて、棒状に連続成形し硬化したもので、その後、裁断機CTで所定長さにカットする。
図5中、符号Rはローラを示す。
【0020】
次いで、前記複合強化棒1を前記熱収縮チューブ5に挿通する。熱収縮チューブ5は、複合強化棒1よりも短尺にして、その筒内径51dが該複合強化棒1の棒径1Dよりも大の筒状体とする(
図1のロ)。熱収縮チューブ5を複合強化棒1よりも短い長さ5Lとするのは、曲げ加工部位14にあてがえれば足りるからである。 続いて、複合強化棒1に挿通させた熱収縮チューブ5をずらしたり位置調整したりして、曲げ加工部位14の棒周面14aに熱収縮チューブ5を被せる(
図1のイ)。この段階では、熱収縮チューブ5は複合強化棒1に遊嵌状態にあり、曲げ加工部位14に配設された該熱収縮チューブ5の位置を微調整できる。
【0021】
斯かる状態でも熱収縮チューブ付き複合強化棒となるが、さらに必要に応じて、その後、複合強化棒1をまっすぐに保ったまま加熱処理して、熱収縮チューブ5を曲げ加工部位14に密着させる。複合強化棒1に遊嵌され、配設調整を終えた熱収縮チューブ5に熱を加え、熱収縮チューブ内面5bが曲げ加工部位14の周面14aに密着するよう該熱収縮チューブ5を収縮させる。熱収縮チューブ5を収縮させて複合強化棒1に嵌った状態で密着保持させ、
図2のような所望の熱収縮チューブ付き複合強化棒が造られる。熱収縮チューブ5が一体の複合強化棒1が造られる。他の構成は、(1)熱収縮チューブ付き複合強化棒と同様で、その説明を省く。(1)熱収縮チューブ付き複合強化棒と同一符号は同一又は相当部分を示す。
【0022】
(3)熱収縮チューブ付き複合強化棒の一加工例
次に、こうして得た熱収縮チューブ付き複合強化棒に曲げ加工を施す一加工方法を作用とともに説明する。
熱収縮チューブ5は前述した株式会社オーム電機の「収縮チューブ 6.0K」、型番DZ-TR60/Kを用い、チューブ内径が6mmφのものである。複合強化棒1は炭素繊維フィラメント糸のトウ2Aにして長繊維束の芯材2が、現場重合型熱可塑エポキシ樹脂の溶融樹脂槽4を通過して、長繊維束のフィラメント糸21間に溶融状態にある現場重合型熱可塑エポキシ樹脂が含浸し、硬化一体化している複合強化棒1とする(
図5)。この複合強化棒1の棒径は約5mmφである。
ここでは、上記熱収縮チューブ5が上記複合強化棒1に僅かの隙間εを確保して遊嵌され、該複合強化棒1の曲げ加工部位14に熱収縮チューブ5を被せた
図1ごとくの熱収縮チューブ付き複合強化棒を用いる。
【0023】
まず熱収縮チューブ付き複合強化棒を炉内で加温する。加温により70℃付近に達すると、熱収縮チューブ5の収縮開始温度70℃になり、炉内で熱収縮チューブ5が収縮し
図2のように曲げ加工部位14の複合強化棒周面1aに密着する。さらに炉内で150℃程度まで加温する。複合強化棒1を構成する現場重合型熱可塑エポキシ樹脂が軟化し、二次成形が可能な状態となる。
【0024】
その後、炉の外へ熱収縮チューブ付き複合強化棒1を取り出し、温度が90℃以下にまで冷めないうちに曲げ加工を行う。
図3のごとく紙面垂直方向に起立する支柱6へ曲げ加工部位14を当て、曲げ加工部位14の両外方に伸びた複合強化棒1の部分を手に持って、矢印方向に曲げる。曲げ作業に伴い、軟化状態にある現場重合型熱可塑エポキシ樹脂中で、従来は
図7(ロ)のように曲げ外力を受けてバラけ、剥離していた芯材2の各構成繊維糸21(フィラメント糸)が、熱収縮し且つ曲げ加工部位14に密着した熱収縮チューブ5の規制を受けて押しとどめられる。熱収縮チューブ5のない従来品7であると、
図7のごとく曲げ加工部位74で芯材8の構成繊維糸81がバラけて剥離状態になるのを、本発明では、熱収縮チューブ5が曲げ加工部位14の周面14aに密着して取り巻き、剥離状態になるのを阻止する。軟化状態にある現場重合型熱可塑エポキシ樹脂の扁平化も、熱収縮チューブが押しとどめる。
図4のごとく複合強化棒1の断面形状をほぼ保形しながら曲げ加工部位14が綺麗な形で曲がる。 さらにいえば、
図3で複合強化棒1を矢印方向に曲げる際、ねじりながら曲げるとより好ましくなる。曲げ加工部位14における支柱6に近い構成繊維糸21と支柱6から離れた構成繊維糸21との距離を少なくできるからである。 かくして、芯材2の構成繊維糸21を剥離させることなく、曲げ等の二次成形加工が円滑に進み、外観品質や必要強度を確保した曲げ加工が完了する。曲げ加工後は、熱収縮チューブ5は付けたままでもよいが、刃具等で簡単に切れるので、曲げ加工部位14から該熱収縮チューブ5を取り外して外観向上を図ることもできる。
【0025】
また、表1に、従来の複合強化棒単独の場合と熱収縮チューブ付き複合強化棒との対比試験結果を示す。熱収縮チューブ5の厚みは1.5mmとして、曲げ加工部位14(ここでは「曲げ部」という。)で最小となった厚みや、曲げ部の外観について調べた。
【0026】
【0027】
表1は、左半分の三つの欄が複合強化棒単独(従来品7)の場合を示す。模式図にあるようなストレート、組み紐、さらに撚り紐の各紐集合体をそれぞれ炭素繊維で形成して、該紐集合体が現場重合型熱可塑エポキシ樹脂のマトリックス樹脂3に埋設一体化されている複合強化棒である。右半分の三つの欄は、左半分の各複合強化棒1にそれぞれ熱収縮チューブ5を遊嵌し、加温して各複合強化棒に熱収縮チューブ5を被着一体化させた熱収縮チューブ付き複合強化棒の場合を示す。曲げ加工を終えた後の総合判定で、ストレート、組み紐、さらに撚り紐の各紐集合体について、いずれも本発明の熱収縮チューブ付き複合強化棒の方に、曲げ加工部位14の外観品質に良好な結果を得た。
【0028】
(4)効果
このように構成した熱収縮チューブ付き複合強化棒及びその製造方法によれば、マトリックス樹脂3に熱可塑性樹脂又は現場重合型熱可塑エポキシ樹脂を用いるので、棒状に成形された複合強化棒であっても、再度熱をかけて軟化させることができる。この軟化状態下で、曲げ加工等の二次成形が行えるので、幅広い分野で使用可能な汎用性の高い複合強化棒1になる。そして、棒状の複合強化棒1であると、一定断面の成形品にして成形容易で、且つ剛性が最も高い棒状方向に炭素繊維等の強化繊維の各構成繊維糸21を簡単に配設できるので、安価でしかも強固な複合強化棒1の成形品を得ることができる。
【0029】
また、複合強化棒1よりも短尺の筒状体で、且つその筒内径51dが複合強化棒1の棒径1Dよりも大の熱収縮チューブ5が複合強化棒1に遊嵌され、曲げ加工部位14に配設されると、複合強化棒1を加温して曲げ
加工を行う時に、構成繊維糸21が
図7(ロ)のようにバラけてしまうのを該熱収縮チューブ5で押しとどめることができる。曲げ加工部位14での複合強化棒1の曲げ作業時には、マトリックス樹脂3が軟化状態にあり、曲げ度合が進むにつれ、強化繊維の例えば炭素繊維の構成繊維糸21は曲げ力を受けてバラけて剥離し易くなるが、複合強化棒1に係る曲げ加工部位14の周面14aに熱収縮チューブ5が当接してこれを抑制する。 加えて、複合強化棒1の曲げ加工部位14に遊嵌配置された熱収縮チューブ5が、加熱によりマトリックス樹脂3の軟化点よりも低い温度で収縮すると、曲げ加工時には、複合強化棒1の曲げ加工周面14aに熱収縮チューブ5が収縮力を伴って密着するので、前記炭素繊維が曲げ力を受けてバラけて剥離するのを、より効果的に抑え込むことができる。熱収縮チューブ5を曲げ加工部位14に密着保持させることで、複合強化棒だけを用いていた従来法と比較して、表1からも明らかに曲げ加工部位14での外観品質を良好に保ち、さらに曲げ加工部位14での強度不足も解消している。
【0030】
さらにいえば、芯材2が炭素繊維のトウ2Aで形成されると、構造が単純になり複合強化棒1を低コスト生産できる。マトリックス樹脂3が現場重合型熱可塑エポキシ樹脂からなると、これを再加熱すれば、熱可塑性樹脂と同様に軟化し二次成形が可能になるだけでなく、重合前状態が常温で液状にして低粘度で維持できることから、使い勝手,生産性,品質向上等に優れ、曲げ加工がし易い複合強化棒1を提供できる。 かくのごとく、本熱収縮チューブ付き複合強化棒及びその製造方法は、上述した種々の優れた効果を発揮し、極めて有益である。
【0031】
尚、本発明においては前記実施形態に示すものに限られず、目的,用途に応じて本発明の範囲で種々変更できる。複合強化棒1,芯材2,樹脂マトリックス3,熱収縮チューブ5等の形状,大きさ,個数,材質等は用途に合わせて適宜選択できる。例えば、曲げ加工部位への熱収縮チューブの安定固定を図るべく、実施形態の熱収縮チューブ5の内面に接着剤が付与された熱収縮チューブとすることもできる。
【符号の説明】
【0032】
1 複合強化棒
1D 棒径
2 芯材
2A トウ
21 構成繊維糸(フィラメント糸)
3 樹脂マトリックス
5 熱収縮チューブ
51d 熱収縮チューブの当初の内径(当初の筒内径)