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特許7474301ガス流中の亜酸化窒素の触媒的分解のための装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-16
(45)【発行日】2024-04-24
(54)【発明の名称】ガス流中の亜酸化窒素の触媒的分解のための装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/86 20060101AFI20240417BHJP
   B01D 53/04 20060101ALI20240417BHJP
   A61M 16/18 20060101ALI20240417BHJP
【FI】
B01D53/86 222
B01D53/86 ZAB
B01D53/04 110
B01D53/04 220
A61M16/18 Z
【請求項の数】 5
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022183199
(22)【出願日】2022-11-16
(62)【分割の表示】P 2020508070の分割
【原出願日】2018-04-19
(65)【公開番号】P2023014133
(43)【公開日】2023-01-26
【審査請求日】2022-11-22
(31)【優先権主張番号】1750475-4
(32)【優先日】2017-04-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】519377842
【氏名又は名称】メッドクレア アクティエボラーグ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(72)【発明者】
【氏名】イシュトバーン サボー
(72)【発明者】
【氏名】イェルケル スンドリン
(72)【発明者】
【氏名】トーマス ニーバリ
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/128694(WO,A1)
【文献】特開2010-005584(JP,A)
【文献】特開2000-093740(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第04308940(DE,A1)
【文献】特開2002-172171(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0082382(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/02-53/12
53/73
53/86-53/90
53/94
53/96
A61M 16/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者からの呼気に由来するガス流中の亜酸化窒素の触媒的分解のための装置(1)であって、
a)前記呼気用のガス入口(3)を備えた入口設備(2)、
b)排出ガス用のガス出口(12)を備えた出口設備(11)、及び
これらの装置の間の、c)亜酸化窒素のN及びOへの分解を促進する触媒材料を含むスルーフロー分解室(9)、
を含み、
前記分解室(9)に供給される亜酸化窒素の濃度の前記患者の呼吸によって引き起こされる変動を平準化するために少なくとも1つの亜酸化窒素吸着/脱着手段(4)が前記入口設備(2)に設けられていること、
前記少なくとも1つの亜酸化窒素吸着/脱着手段(4)が、亜酸化窒素を吸着/脱着することができる材料が充填された少なくとも1つの容器(4)を備えていること
前記材料が活性炭又はゼオライトであること、
前記装置(1)が、さらに、
スルーフロー分解室(9)内のガス流の温度及び流れを制御及び監視するための制御ユニット(13)と、
前記ガス入口(3)から前記スルーフロー分解室(9)の前まで、ガス流の流れ方向で見た場合に、
ファン(5)、
流量計(6)、
熱交換器(7)、及び
電気ヒーター(8)、
とを備えていること、並びに
前記熱交換器(7)が、排出ガスから前記呼気に熱を伝達するように構成されていること、
を特徴とする、装置。
【請求項2】
前記材料が活性炭である場合に、前記活性炭は、約500~2000m/gの表面積を有する瀝青炭に基づくタイプ又はココナッツのタイプのものであることを特徴とする、請求項1に記載の装置(1)。
【請求項3】
前記少なくとも1つの亜酸化窒素吸着/脱着手段(4)は、必要に応じて、亜酸化窒素の脱着速度を高めるために加熱されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記電気ヒータ(8)が、前記装置の始動段階中に流入ガスのみを加熱するように構成されていることを特徴とする、請求項に記載の装置(1)。
【請求項5】
前記装置(1)は移動可能であり、少なくとも1人の患者に直接接続されるように適合されていることを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載の装置(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提部に記載の患者からの呼気に由来するガス流中の亜酸化窒素の触媒的分解のための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
亜酸化窒素(NO)と酸素(O)の混合物は、ペイン緩和のために医療で広く使用されている。
【0003】
ヘルスケア施設内で、手術中、歯科治療、出産時の産科ケアなどで、亜酸化窒素が、患者に対するその麻酔効果及び鎮痛効果のために使用されている。典型的な患者は、主成分が亜酸化窒素であるガス混合物(吸入空気)、典型的には、濃度が10%以上、例えば20%以上、及び/又は、80%以下、例えば70%以下(v/v)の亜酸化窒素と酸素とのガス混合物(吸入空気)を吸入させられる。
【0004】
亜酸化窒素を摂取している患者により吐き出された空気の組成は、典型的には水分含有量(水)と二酸化炭素が増加することを除いて、吸入された空気の組成と基本的に同じである。亜酸化窒素を吸入している患者からの呼気は、典型的には、複数の部屋/患者に共通の排ガス処理システムで処理される。この種のシステムでは、吐き出された空気は、典型的には、周囲の空気で希釈され(例えば2~50倍)、吐き出された空気は最終的にヘルスケア施設で、例えば亜酸化窒素を除去するための装置において処理され、及び/又は、環境に渡される。
【0005】
廃ガス処理システムが使用されない場合、吐き出された残留亜酸化窒素は、通常、患者が治療を受けている部屋/周囲に放出される(これは、例えば医師、歯科医、看護師などの人員も亜酸化窒素に暴露されることを意味する)か、又は排気システムを介して環境に直接放出される。しかし、長期間にわたる亜酸化窒素暴露は、長年にわたる頻繁な暴露の場合に、非常に低い濃度であっても、そのような人員に有害でありうる。労働衛生限度は15~25ppmに設定されている。
【0006】
さらに、亜酸化窒素は大気汚染物質であり、「温室効果ガス」として二酸化炭素よりも少なくとも300倍高い効果があると考えられている。
【0007】
亜酸化窒素は、約600℃以上の温度に加熱されると、2:1のモル比で窒素と酸素に自発的に分解し、亜酸化窒素以外の窒素酸化物、例えばNO(xは1又は2)などの望ましくない副生成物を大量に発生する。この反応は非常に発熱的であり、約1~2%を超える亜酸化窒素濃度では、問題が生じるおそれがある。また、反応速度は温度上昇とともに増加する。これは、いったん反応が開始されたら、高濃度の亜酸化窒素を含む廃ガス中の亜酸化窒素の除去/分解のためにこの反応が使用される場合に、厳密な温度制御が必要になることを意味する。環境へのNOの排出は厳しく規制されているため、NOの量を制御するために特定の予防措置が必要である。
【0008】
亜酸化窒素の分解を促進する触媒を使用することによって、より低い亜酸化窒素濃度(1~2%未満)及び600℃を大幅に下回る温度で、許容可能な分解を達成できることが知られている。
【0009】
触媒を適切に選択することによって、NOなどの望ましくない副生成物の許容可能なレベルを容易に達成できる。扱われる亜酸化窒素が高濃度である場合、これはヘルスケア施設でのその破壊に関わる問題を伴う。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
亜酸化窒素の投与を伴う治療中、患者は亜酸化窒素を含む空気を定期的に吸入し、吸入の頻度は所望のペイン緩和に依存する。したがって、呼気は、亜酸化窒素濃度がゼロの不規則な期間で中断される非常に高濃度の亜酸化窒素を含む。これは、特に移動可能な亜酸化窒素触媒的分解ユニットを使用する場合に、1人の患者からの呼気中の亜酸化窒素を(患者の近くで)分解する場合に事前の対策が必要であることを意味する。高濃度の期間中、触媒的分解ユニットは、a)温度の制御されない加速による過熱及び爆発と、b)望ましくないレベルの有害な副生成物、例えばNOなどの形成のリスクが高まる。亜酸化窒素の高い濃度とゼロ濃度の間の不規則な切り替えは、反応の結果(生成物/副生成物)、反応速度、濃度、温度などの制御されない切り替えを意味するため、状況をさらに複雑にする。
【0011】
亜酸化窒素を含む呼気に由来する亜酸化窒素の分解のための移動可能な装置であって、
a)発熱条件、及び/又は
b)患者の近く、すなわち、亜酸化窒素の分解のための装置に患者が直接接続された状態、
で分解が行われる、移動可能な装置に対する需要がある。
【0012】
装置に対する重要な要求は、装置から排出された処理ガスが、患者及び/又は他の人がいる及び/又は装置が置かれている部屋に送り込まれるための許容可能な組成及び温度を有していなければならないことである。
【0013】
したがって、装置は、亜酸化窒素の十分に高い還元レベルと、十分に低いレベルのNOなどの窒素酸化物の形成とを提供できなければならない。
【0014】
他の要求としては、放出されるガスの流速、量、温度などが、患者及び/又は人員及び/又は装置が存在する部屋の換気にとって許容可能であることが挙げられる。さらに他の要求は、亜酸化窒素のより高い濃度で起こる発熱性の自己持続的な分解反応(self-sustaining decomposition reaction)の効果的な制御に関する。
【0015】
さらなる要求は、反応器は亜酸化窒素を適切に分解することができる特定の最低温度を有していなければならないため、亜酸化窒素が分解反応に供給されないとき、すなわち、患者が亜酸化窒素を含む空気を吐き出さないときの亜酸化窒素の分解のための装置の待機段階の間に、分解反応器を加熱することに関する。
【0016】
欧州特許第2165756号(B1)は、ガス流中の亜酸化窒素の分解方法に関する。前記文献では、亜酸化窒素の分解のための装置の待機段階中、すなわち、患者がペイン緩和を受けているが亜酸化窒素を含む空気を吐き出していない期間中、分解反応器の特定の最低温度を維持することに関する問題が記載されている。この問題は、前記文献によれば、分解反応器の必要な分解温度を維持するために、待機段階中に、亜酸化窒素を実質的に含まない加熱ガスを亜酸化窒素分解反応器に通過させることにより解決される。
【0017】
亜酸化窒素の触媒的分解に関するさらなる問題は、高濃度の亜酸化窒素が分解反応器に供給される場合、分解反応器の温度が高すぎることがあり、それによって、分解反応器の触媒を破壊することがあることである。実際には、これは、亜酸化窒素の濃度が15000~20000ppmの濃度を超えると、重要な意味を持つ。特に、これは、50000~200000ppmを超える亜酸化窒素の非常に高い濃度で当てはまる。これらの濃度では、触媒において局所的なホットスポット(局所的な高温上昇)が生じることがあり、これは破壊的でありうる。
【0018】
この問題の1つの解決策が、欧州特許第2165756号(B1)にも開示されている。前記文献による亜酸化窒素の触媒的分解のための装置は、亜酸化窒素分解反応器の上流に、流入ガスを、希釈ガス、好ましくは周囲空気と混合するための混合手段を備えていてもよく、希釈ガスの量は、反応器に供給される亜酸化窒素の濃度を低下させるように0%~100%で制御可能である。
【0019】
前記文献は、患者によって吐き出された亜酸化窒素含有ガスを、例えば、硬質の又は柔軟なガス室内、液圧室又は圧力タンク内で緩衝し、それによって、例えば患者の呼吸によって引き起こされる、流量のピーク又は変動を低減し、分解装置でさらに処理された亜酸化窒素含有ガスの流量を平滑化する可能性も開示している。
【課題を解決するための手段】
【0020】
したがって、本発明の1つの目的は、ヘルスケアで使用される亜酸化窒素、すなわち、亜酸化窒素を含む酸素を吸入することによりペイン緩和を受ける1人又は2人以上の患者からの呼気に由来する亜酸化窒素のN及びOへの触媒的分解を実施するための装置であって、一方では、待機段階中に亜酸化窒素を実質的に含まない加熱ガスを必要な反応温度に加熱するために当該加熱ガスを亜酸化窒素分解反応器に通過させる必要性を回避するように、他方では、分解反応器の過熱/ホットスポット及び破壊を回避するために分解反応器に送られる亜酸化窒素の濃度を低減するように、流入ガスを、希釈ガスと混合するか、もしくは、例えば緩衝器(buffering)などの任意の他の手段により混合する必要性を回避するように、呼気の亜酸化窒素部分のみが貯蔵され、分解反応器に送られる亜酸化窒素の濃度が平準化される装置を提供することである。
【0021】
本発明のさらなる目的は、移動可能であり、したがって亜酸化窒素を含む酸素を吸入することによりペイン緩和を受ける患者の近くで使用される、亜酸化窒素の触媒的分解を実施するための装置を提供することである。
【0022】
ここで、本発明を、添付の図面を参照して非限定的な例により説明する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、本発明に従う亜酸化窒素吸着/脱着手段を備えた入口設備(inlet arrangement)を有する、吐き出された亜酸化窒素の触媒的分解のための装置の概略図である。
図2図2は、本発明に従う亜酸化窒素吸着/脱着手段の試験のために構成された図1に示した装置の概略図である。
図3図3は、亜酸化窒素吸着/脱着手段ありの場合(黒線)と亜酸化窒素吸着/脱着手段なしの場合(点線)の分解反応器内の温度を示す図である。
図4図4は、吐き出された亜酸化窒素の分解のための装置の入口設備に亜酸化窒素が送られない待機段階で亜酸化窒素濃度85000ppmの場合に触媒反応器の入口で測定された亜酸化窒素の変動を示す図であり、黒線は、入口設備に本発明に従う亜酸化窒素吸着/脱着手段が備えられている場合の濃度を示し、点線は、本発明に従う吸着/脱着手段なしの亜酸化窒素の濃度を示す一酸化二窒素の吸着/脱着手段なしの場合の濃度を示す。
図5図5は、約16分まで亜酸化窒素の流量が7g/分(約85000ppmの質量流量に対応)で一定に保たれたとき、本発明に従う吸着/脱着手段が飽和するのにかかった時間と、この流れがゼロになった後、吸着/脱着手段がフラッシュされるのにかかった時間を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、患者によって吐き出されたガス混合物に含まれる亜酸化窒素の触媒的分解のための装置1の概略図を示し、この装置1は、好ましくは、ペイン緩和を受ける少なくとも1人の患者の近くで使用される移動可能なユニットの形態である。
【0025】
前記装置1は、処理されるガス混合物の流れ方向で見た場合に、酸素含有ガスと亜酸化窒素との混合物である流入ガス用のガス入口3、亜酸化窒素の選択的な吸着/脱着のための少なくとも1つの吸着/脱着手段4、ファン5、流量計6、熱交換器7、及びヒーター8を備える入口設備2を備える。装置1は、さらに、少なくとも1つの温度センサー10を備えた亜酸化窒素分解反応器9、少なくともガス出口12を備える出口設備(outlet arrangement)11、及び亜酸化窒素分解反応器の温度及びガス流を制御及び監視し、場合によっては吸着/脱着手段4を加熱するための制御ユニット13を備える。制御ユニット13は、適切な方法で装置1に接続される(図示せず)。
【0026】
亜酸化窒素を分解するための装置1は、亜酸化窒素分解反応器9に供給された亜酸化窒素の濃度を測定するための、好ましくはIRタイプの少なくとも1つのガス分析器(図示せず)を備えていてもよい。
【0027】
亜酸化窒素の選択的吸着/脱着のための吸着/脱着手段4は、好ましくは、ガス入口手段及びガス出口手段(図示せず)を有する少なくとも1つの容器4の形態にあり、好ましくは亜酸化窒素のみを吸着/脱着することができる適切な材料で満たされている。一実施形態において、容器4に、約500~2000m/gの表面積を有する、好ましくは瀝青炭に基づくタイプ又はココナッツのタイプの活性炭が充填される。容器4に、ゼオライトなどの亜酸化窒素の吸着/脱着に適した他の材料又は材料の混合物が充填されてもよい。
【0028】
亜酸化窒素は、活性炭に関し、活性炭/ゼオライトの表面に物理的に吸着される(ただし化学的には吸着されない)という特性を有し、この特性は、可逆的である、すなわち、亜酸化窒素を含む混合ガスの濃度が低下すると活性炭は亜酸化窒素を容易に放出する。これは、実際には、濃度が維持され、活性炭の微細孔が利用可能である限り、すなわち亜酸化窒素で満たされていない限り、最初に亜酸化窒素が活性炭上に吸着されることを意味する。活性炭の微細孔が満たされると、このプロセスは停止する。さらに、亜酸化窒素の濃度が低下すると、活性炭は環境中に亜酸化窒素を放出し、ガス中の亜酸化窒素に関して濃度が徐々に低下する。最終的に、カーボンは吸着した亜酸化窒素をすべて放出する。
【0029】
これは、細孔が空になったために、活性炭/ゼオライトが新しい亜酸化窒素を吸収するのに利用できることを意味する。
【0030】
さらに、実際の放出手順、すなわち、亜酸化窒素が活性炭の微細孔から放出され、再び気相に出る速度は、拡散定数と活性炭の温度に依存することに注意されたい。
【0031】
亜酸化窒素の脱着速度を高めるために、必要に応じて容器4又は少なくとも活性炭を加熱してもよい。
【0032】
したがって、流入ガスの亜酸化窒素の吸着/脱着は、吸着/脱着手段4の後に処理される前記ガス中の亜酸化窒素の濃度が分解反応器9において自己持続的な分解反応を提供するように行われるべきである。したがって、呼気の亜酸化窒素部分のみが貯蔵されるため、分解反応器9に送られる亜酸化窒素の濃度は平準化される。これは、流入ガスが亜酸化窒素リッチである期間中、亜酸化窒素が吸着/脱着手段4に貯蔵され、流入ガスが亜酸化窒素リーンである場合、亜酸化窒素は吸着/脱着手段4から放出されることを意味する。吸着/脱着手段4のこの貯蔵/放出機能によって、分解反応器9に供給される亜酸化窒素の濃度を低減/平準化して、触媒の過熱/ホットスポット及びその破壊を回避することが可能である。同様に、亜酸化窒素は、流入ガス中に亜酸化窒素が存在しないか又は低濃度でしか存在しない場合、かなりの時間で放出/脱着されるため、装置の待機段階では、亜酸化窒素を実質的に含まない加熱ガスを必要な反応温度に加熱するために当該加熱ガスを亜酸化窒素分解反応器に通過させる必要はない。
【実施例
【0033】
以下、図2を参照して、吸着/脱着手段4の機能及び能力を決定するための試験装置1について説明する。試験において、容器4の形態の吸着/脱着手段4にココナッツタイプの活性炭を充填した。
【0034】
装置
図2から明らかなように、図1を参照して上述したものと本質的に同じタイプの試験装置1を使用した。試験装置1には、さらに、亜酸化窒素濃度を測定するための0~100000ppmの測定範囲を有するIRタイプのガス分析器14と、当該試験装置に供給される亜酸化窒素の量を決定するための亜酸化窒素用のマスフローコントローラー15とを設けた。亜酸化窒素の質量流量は、0.5~100g/minであることができる。
【0035】
吸着/脱着手段4は、約1200~1500m/gの表面積を有するココナッツタイプの活性炭を含んでいた。活性炭容器は、約3リットルの活性炭を保持することが可能であった。
【0036】
流量計6は、試験装置1におけるガス流量を制御するために設けた。
【0037】
温度センサー10は、触媒床に設けられ、熱電対タイプのものであった。
【0038】
触媒は、亜酸化窒素をNとOに分解するための触媒であった。触媒は、アルミニウム担体上の約0.1~2%のパラジウムからなっていた。
【0039】
触媒床は、最大2リットルの触媒材料を収容することが可能であった。
【0040】
ファン5は速度制御式のものであり、ガス流量は2~6m/hの間で変化させることができた。
【0041】
ペイン緩和を受けている患者からの呼気をシミュレートするためにガス容器16からの純粋な亜酸化窒素を酸素と混合して、吸着/脱着手段4(ラインII)の前又は吸着/脱着手段4の後(ラインI)のいずれかで、試験装置1の入口設備2に供給した。
【0042】
実験データ
空気ガス流量:2.6Nm/h
Oの供給量:7g/min
反応器温度:400~450℃
ガス濃度NO:85000ppm
実行時間:10~30分間
【0043】
以下の実験では、亜酸化窒素の吸着/脱着手段4を活性炭手段と呼ぶ。
【0044】
実験は、典型的なペイン緩和処置中の患者からの呼気の取り込みに関連した実際の状態をシミュレートするように設計された。これらの場合、患者のペイン緩和をシミュレートするために亜酸化窒素を使用した。例えば、かかる処置では、患者は、通常、50%の亜酸化窒素と50%の酸素からなる混合ガスを吸入する。この処置に関する通常の亜酸化窒素の消費量は、このガス混合物の約10~15リットル/minである。これは、毎分約10~15グラムの純粋な亜酸化窒素に相当する。技術的な理由により、最高限度は7グラム/分に設定した。
【0045】
患者の通常の治療は約15~30分間である。
【0046】
治療中、患者は、通常、呼吸マスクを通じて亜酸化窒素ガス混合物を約2~5分間摂取する。亜酸化窒素ガス混合物を摂取後、患者は室内空気を約1~2分間呼吸し、その後、マスクを通じて再び亜酸化窒素ガス混合物を吸入する。このプロセス全体は、処置自体の程度に応じて約15~30分間かかる。
【0047】
このマスクで、患者は呼吸をする。吸入時に、患者は亜酸化窒素ガス混合物を摂取し、呼気時に、患者は亜酸化窒素ガス混合物を吐き出す。この呼気は、マスクに接続されたホースに吸い上げられ、そしてさらに、ファンによって、例えば亜酸化窒素ガスが破壊される移動式亜酸化窒素破壊ユニットに輸送される。
【0048】
これらの条件の間、試験装置1の入口設備における亜酸化窒素の濃度は、技術条件に応じて約50000~150000ppmであることがわかった。
【0049】
本明細書で開示される実験は、反応器の温度を安定させ、触媒におけるホットスポットのリスクを最低限に抑えるために行った。これは、活性炭の特性を利用して亜酸化窒素を吸着することにより、すなわち、ガス流中の亜酸化窒素の濃度が低下したときの後の放出のために亜酸化窒素を吸収することにより達成される。
【0050】
実施した試験から、活性炭は約2重量%の亜酸化窒素を吸収することができる、つまり、1キロの活性炭が約20グラムの亜酸化窒素を吸着することができると結論付けられる。
【0051】
結果
以下は、さまざまな実験の結果である。実験1は、活性炭手段の後への亜酸化窒素ガスの注入に関するものである。これは、亜酸化窒素ガスが活性炭手段を通過しないことを意味する。実験2は、活性炭手段の前への亜酸化窒素ガスの注入に関するものである。後者の場合、亜酸化窒素ガスは、触媒に供給される前に活性炭手段によって最初に吸収される。すなわち、活性炭手段は吸着/脱着手段4として機能する。
【0052】
実験1及び2は、触媒の温度が時間とともに上昇することを示している。この高レベルの亜酸化窒素は検出可能である熱も生じるため、これは自然なことである。これらの実験では、亜酸化窒素が反応器に導入された後、追加の熱供給が加えられていないことに注意されたい。
【0053】
図2では、「手段なし(Without means)」と名付けられた実験1は点線で示されており、「手段あり(With means)」と名付けられた実験2は実線で示されており、実験2では、亜酸化窒素含有ガスが活性炭手段を介して供給された。
【0054】
実験1及び2は、亜酸化窒素を、活性炭が触媒中のガスの濃度を抑え、それにより触媒における反応器温度を抑えるのに十分に長い時間亜酸化窒素を保持することを示している。実験1と実験2との間の差は、これらの条件下で12分間後に約60℃であった。
【0055】
図3に開示されている実験は、ペイン緩和のための通常の処理手順についてシミュレートしたケースにおいて、亜酸化窒素の濃度を低減及び平準化する活性炭の能力を確認するために行った。実験は、流入する亜酸化窒素が、触媒に入る前に、最初に活性炭手段に通すことにより行った。亜酸化窒素を約3分間供給し、その後、約2分間停止した。触媒を通る空気流は、常に約2.6Nm/hで一定に保った。必要な反応温度への分解反応器の初期加熱後、ヒーターへの電力供給を停止した。試験全体は約25分間続いた。
【0056】
この実験は、活性炭を使用しない手段を使用すると、触媒に供給される亜酸化窒素の濃度が3分間85000ppmであり、その後にゼロに低下することを示している。その後、約2分間の中断の後、レベルは増加して85000ppmに戻る。
【0057】
活性炭手段が使用された場合、亜酸化窒素の濃度は触媒反応器/装置において徐々に上昇する。
【0058】
亜酸化窒素は、上記と同じ方法で、つまり3分間のオンと2分間のオフの範囲で交互に供給されることに注意されたい。
【0059】
活性炭手段が使用された場合、亜酸化窒素のレベルは全プロセス時間中十分なレベルに保たれ、触媒反応器に供給されるガスは亜酸化窒素を含まれない。後者は、触媒反応器の温度を維持することができ、実質的に亜酸化窒素の加熱空気の形で追加のエネルギー供給を反応器に供給する必要がないことも意味する。活性炭によって、発熱反応を維持するために処理プロセス全体を通して十分に高いレベルの亜酸化窒素を維持することが確保される。
【0060】
結論
活性炭手段の利点は、亜酸化窒素の濃度が、システム内で徐々に上昇し、活性炭手段なしの場合よりも大幅に低いことである。これは、反応器内の温度上昇の低減をもたらす。
【0061】
全体として、これにより、触媒床におけるホットスポットの可能性が排除される。
【0062】
これにより、過熱による機能不全が大幅に減少した。
【0063】
別の利点は、亜酸化窒素のレベルが活性炭手段なしの場合と比べて平滑化されるため、プロセスがエネルギーに関して自己持続的であることである。
【0064】
図5は、亜酸化窒素の流量を約16分まで7g/minで一定に保った実験を示しています。これは、約85000ppmの濃度に相当する。この後、亜酸化窒素の流量はゼロである。点線で示されている。
【0065】
プロセス全体を通して、電気ヒーターはオフであった。すなわち、熱は加えられなかった。
【0066】
同図は、亜酸化窒素の濃度がゼロのときに活性炭が飽和するのにかかる時間と、活性炭がフラッシュされるのにかかる時間を示している。連続な黒色の線で示されている。
【0067】
図示されているように、活性炭手段が飽和し、活性炭手段への流入ガスが亜酸化窒素を含まなくなった後に、亜酸化窒素の濃度が約5000ppmに低下するまでに約18~19分間かかる。
【0068】
技術的な理由のために、測定の分解能は約3000~2000ppmであった。そのため、曲線は平滑ではなくより階段状に現れる。実際には、活性炭手段からの亜酸化窒素の濃度は、「より平らな部分」が減少する、すなわちより曲線状になる。
本発明に関連する発明の実施態様の一部を以下に示す。
[態様1]
患者からの呼気に由来するガス流中の亜酸化窒素の触媒的分解のための装置(1)であって、
a)前記呼気用のガス入口(3)を備えた入口設備(2)、
b)排出ガス用のガス出口(12)を備えた出口設備(11)、及び
これらの装置の間の、c)亜酸化窒素のN 及びO への分解を促進する触媒材料を含むスルーフロー分解室(9)、
を含み、
前記分解室(9)に供給される亜酸化窒素の濃度の変動を平準化するために少なくとも1つの亜酸化窒素吸着/脱着手段(4)が前記入口設備(2)に設けられていることを特徴とする、装置。
[態様2]
前記少なくとも1つの亜酸化窒素吸着/脱着手段(4)が、亜酸化窒素を吸着/脱着することができる材料が充填された少なくとも1つの容器(4)を備えることを特徴とする態様1に記載の装置。
[態様3]
前記材料が活性炭又はゼオライトであることを特徴とする、態様2に記載の装置(1)。
[態様4]
前記材料が活性炭である場合に、前記活性炭は、約500~2000m /gの表面積を有する瀝青炭に基づくタイプ又はココナッツのタイプのものであることを特徴とする、態様3に記載の装置(1)。
[態様5]
前記少なくとも1つの亜酸化窒素吸着/脱着手段(4)は、必要に応じて、亜酸化窒素の脱着速度を高めるために加熱されることを特徴とする、態様1~4のいずれか一つに記載の装置。
[態様6]
前記装置(1)が、さらに、
スルーフロー分解室(9)内のガス流の温度及び流れを制御及び監視するための制御ユニット(13)と、
ガス入口(3)から前記スルーフロー分解室(9)の前まで、ガス流の流れ方向で見た場合に、
ファン(5)、
流量計(6)、
熱交換器(7)、及び
電気ヒーター(8)、
とを備えることを特徴とする、態様1~5のいずれか一つに記載の装置(1)。
[態様7]
前記熱交換器(7)が、排出ガスから呼気に熱を伝達するように構成されていることを特徴とする、態様6に記載の装置(1)。
[態様8]
前記電気ヒータ(8)が、前記装置の始動段階中に流入ガスのみを加熱するように構成されていることを特徴とする、態様6に記載の装置(1)。
[態様9]
前記装置(1)は移動可能であり、少なくとも1人の患者に直接接続されるように適合されていることを特徴とする、態様1~8のいずれか一つに記載の装置(1)。
図1
図2
図3
図4
図5