(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-16
(45)【発行日】2024-04-24
(54)【発明の名称】車両ブレーキシステムを制御する方法
(51)【国際特許分類】
B60T 8/17 20060101AFI20240417BHJP
B60T 8/176 20060101ALI20240417BHJP
B60T 8/1761 20060101ALI20240417BHJP
B60L 7/12 20060101ALI20240417BHJP
B60L 7/24 20060101ALI20240417BHJP
B60L 7/22 20060101ALI20240417BHJP
【FI】
B60T8/17 C
B60T8/176 A
B60T8/1761
B60L7/12 Q
B60L7/24 D
B60L7/22 Z
(21)【出願番号】P 2022542398
(86)(22)【出願日】2020-01-15
(86)【国際出願番号】 EP2020050848
(87)【国際公開番号】W WO2021144008
(87)【国際公開日】2021-07-22
【審査請求日】2022-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】512272672
【氏名又は名称】ボルボトラックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【氏名又は名称】関谷 充司
(74)【代理人】
【識別番号】100169018
【氏名又は名称】網屋 美湖
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(72)【発明者】
【氏名】レイン,レオ
(72)【発明者】
【氏名】オスボゴード,マティアス
(72)【発明者】
【氏名】ヘンダーソン,レオン
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0361856(US,A1)
【文献】特開平06-153312(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12-8/1769
B60L 7/12
B60L 7/24
B60L 7/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘビーデューティ車両(100)の車両ブレーキシステム(300)を制御する方法において、前記
車両ブレーキシステム
(300)は、サービスブレーキシステム(310、340)及び電気機械ブレーキシステム(350、360)を備える、方法であって、
前記
ヘビーデューティ車両(100)のホイール(301)を制動するための全ブレーキトルク要求(510)を決定する(S1)こと、
前記電気機械
ブレーキシステム(350、360)のブレーキトルク能力(520、CAP EMi)を取得する(S2)こと、
前記全ブレーキトルク要求(510)が前記電気機械
ブレーキシステム(350、360)の前記ブレーキトルク能力(520
、CAP EMi)を超えるか否かを判定する(S3)こと、及び、
前記全ブレーキトルク要求(510)が前記電気機械
ブレーキシステム(350、360)の前記ブレーキトルク能力(520
、CAP EMi)を超えるが、
所定の閾値レベル(570)より小さい場合、前記サービスブレーキシステム
(310、340)によってベースラインブレーキトルク(550)を加える(S4)ことであって、前記ベースラインブレーキトルクは、全ブレーキトルク要求(510)と前記電気機械
ブレーキシステム(350、360)のブレーキトルク能力(520
、CAP EMi)との間の差を補償するように構成される、加える(S4)こと
を含み、方法は、
前記全ブレーキトルク要求(510)が前記所定の閾値レベル(570)を超える場合、前記サービスブレーキシステム(310、340)によってのみ前記
ヘビーデューティ車両を制動し、前記サービスブレーキシステム(310、340)によってホイールスリップを制御し(S42)、一方、
前記全ブレーキトルク要求(510)が前記所定の閾値レベル(570)より小さい場合、前記電気機械ブレーキシステム(350、360)によってホイールスリップを制御する(S5)こと
をさらに含む、方法。
【請求項2】
前記ベースラインブレーキトルク(550)は、付加マージントルク値と共に、前記全ブレーキトルク要求(510)と前記電気機械
ブレーキシステム(350、360)の前記ブレーキトルク能力(520
、CAP EMi)との間の差として決定される(S31)、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記付加マージントルク値は、前記電気機械
ブレーキシステム(350、360)の前記ブレーキトルク能力(520
、CAP EMi)の0.1倍と0.3倍の間、そして好ましくは、前記電気機械
ブレーキシステム(350、360)の前記ブレーキトルク能力(520
、CAP EMi)の0.2倍である(S32)、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記全ブレーキトルク要求(510)が前記電気機械
ブレーキシステム(350、360)の前記ブレーキトルク能力(520
、CAP EMi)より小さい場合、ゼロに等しいベースラインブレーキトルク(550)を加える(S41)ことを含む、請求項1
又は2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記所定の閾値レベル(570)は、-0.5gより小さい車両加速度に対応する(S43)、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
推定される表面摩擦係数μに応じて、前記全ブレーキトルク要求(510)を決定する(S11)ことを含む、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
電池状態及び/又は前記電気機械
ブレーキシステム(350、360)に関連する抵抗器サイズ値に応じて、前記電気機械
ブレーキシステム(350、360)の前記ブレーキトルク能力(520
、CAP EMi)を決定する(S21)ことを含む、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記電気機械
ブレーキシステム(350、360)のホイールスリップ限界(λEMi)より大きい、前記サービスブレーキ
システム(310、340)のホイールスリップ限界(λSBi)を構成する(S6)ことを含む、請求項1から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記電気機械
ブレーキシステム(350、360)の前記ブレーキトルク能力(520
、CAP EMi)は、前記電気機械
ブレーキシステム(350、360)から入手可能な一時的ピークトルクに応じて少なくとも部分的に決定される、請求項1から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
時間依存性は、前記電気機械
ブレーキシステム(350、360)の前記ブレーキトルク能力(520
、CAP EMi)に関連し、前記全ブレーキトルク要求は或る継続時間を含む、請求項1から9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
コンピュータプログラム(920)であって、当該コンピュータプログラムがコンピュータ上で又は制御ユニット(110)の処理回路部(910)上で実行されると、請求項1から10のいずれか1項に記載のステップを実施するプログラムコード手段を含む、コンピュータプログラム(920)。
【請求項12】
コンピュータプログラム(920)を保持するコンピュータ可読媒体(910)であって、前記コンピュータプログラム
(920)は、前記
コンピュータプログラム
(920)がコンピュータ上で又は制御ユニット(110)の処理回路部(910)上で実行されると、請求項1から10のいずれか1項に記載のステップを実施するプログラムコード手段を含む、コンピュータ可読媒体(910)。
【請求項13】
ヘビーデューティ車両(100)の車両ブレーキシステム(300)を制御する制御ユニット(110)において、前記
車両ブレーキシステム
(300)は、サービスブレーキシステム(310、340)及び電気機械ブレーキシステム(350、360)を備える、制御ユニット(110)であって、処理回路部(810)及びインターフェース(820)を備え、前記処理回路部(810)は、前記
ヘビーデューティ車両(100)のホイール(301)を制動するための全ブレーキトルク要求(510)を決定し、前記インターフェース(820)を介して、前記電気機械
ブレーキシステム(350、360)のブレーキトルク能力(520、CAP EMi)を取得し、前記全ブレーキトルク要求(510)が前記電気機械
ブレーキシステム(350、360)の前記ブレーキトルク能力(520
、CAP EMi)を超えるか否かを判定するように構成され、前記全ブレーキトルク要求(510)が前記電気機械
ブレーキシステム(350、360)の前記ブレーキトルク能力(520
、CAP EMi)を超えるが、所定の閾値レベル(570)より小さい場合、制御ユニット(110)は、前記サービスブレーキシステム
(310、340)によってベースラインブレーキトルク(550)を加えるように構成され、前記ベースラインブレーキトルクは、全ブレーキトルク要求(510)と前記電気機械
ブレーキシステム(350、360)のブレーキトルク能力(520
、CAP EMi)との間の差を補償するように構成され、前記制御ユニット(110)は、前記全ブレーキトルク要求(510)が前記所定の閾値レベル(570)より大きい場合、前記サービスブレーキシステム(310、340)によってのみ前記
ヘビーデューティ車両を制動し、前記サービスブレーキシステム(310、340)によってのみホイールスリップを制御するように構成され、一方、前記制御ユニットは、前記全ブレーキトルク要求(510)が前記所定の閾値レベル(570)より小さい場合、前記電気機械ブレーキシステム(350、360)によってホイールスリップを制御するように構成される、制御ユニット(110)。
【請求項14】
前記全ブレーキトルク要求(510)が前記電気機械
ブレーキシステム(350、360)の前記ブレーキトルク能力(520
、CAP EMi)より小さい場合、ゼロに等しいベースラインブレーキトルク(550)を加えるように構成される、請求項13に記載の前記制御ユニット(110)。
【請求項15】
請求項13又は14に記載の制御ユニット(110)を備える
ヘビーデューティ車両(100)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、大型車両を減速させるシステムに関し、特に、1つ又は複数の電気機械とサービスブレーキシステムとの間でのブレーキブレンディング(breake blending)を制御する方法に関する。本発明は、トラック及び建設機械等のヘビーデューティ車両において適用されることができるが、この特定のタイプの車両に限定されない。
【背景技術】
【0002】
ほとんどのヘビーデューティ車両は、運転中に車両を減速する、すなわち制動するために配置されるサービスブレーキを備える。ヘビーデューティ車両に関するサービスブレーキは、通常、ディスクブレーキ又はドラムブレーキ等の摩擦ブレーキである。
【0003】
電動車両は、車両に電力供給するために配置された1つ又は複数の電気機械を備える。これらの電気機械は、しばしば、減速力を発生することも可能である。そのような制動は、エネルギーが制動から発生されてもよく、そのエネルギーが電池等の電気貯蔵デバイスに貯蔵されることができるという意味で回生的であってもよい。サービスブレーキ及び電気機械等の2つ以上のタイプのブレーキによる制動の組み合わせは、ブレーキブレンディングとして知られている。異なるタイプの制動システムを効率的かつ頑健な方法で組み合わせることは、制御の観点から難しい。US 2013/0218435 A1は、サービスブレーキ及び回生ブレーキの効率的なブレーキブレンディングのための方法及びデバイスを開示する。US 2013/0218435 A1において提案されるアプローチは、軽度から中程度の制動力のために回生ブレーキシステムを使用し、より中程度の制動のためにサービスブレーキシステムに依存することである。US 2018/0361856 A1は、ブレーキブレンディングを使用する方法及びデバイスを開示する。
【0004】
しかしながら、ブレーキブレンディング(breake blending)のためのより洗練された方法についての必要性が存在する。
【発明の概要】
【0005】
ブレーキブレンディング(breake blending)のための改良された方法及び制御システムを提供することが本開示の目的である。この目的は、ヘビーデューティ車両の車両ブレーキシステムを制御する方法によって少なくとも部分的に達成される。ブレーキシステムは、サービスブレーキシステム及び電気機械ブレーキシステムを備える。方法は、車両のホイールを制動するための全ブレーキトルク要求を決定すること、電気機械のブレーキトルク能力を取得すること、全ブレーキトルク要求が電気機械のブレーキトルク能力を超えるか否かを判定すること、及び、全ブレーキトルク要求が電気機械のブレーキトルク能力を超えるが、閾値レベルより小さい場合、サービスブレーキシステムによってベースラインブレーキトルクを加えることを含む。ベースラインブレーキトルクは、全ブレーキトルク要求と電気機械のブレーキトルク能力との間の差を補償するように構成される。方法は、全ブレーキトルク要求が閾値レベルより小さい場合、電気機械ブレーキシステムによってホイールスリップを制御することも含む。
【0006】
こうして、スリップ制御は、大部分の制動運転中に主に電気機械によって効率的に扱われる。電気機械のブレーキトルク能力はモニターされ、サービスブレーキシステムによるトルク制御式(所定のトルクレベルの)制動は、ブレーキトルク要求が満たされることができることを保証するために使用される。これは、ブレーキトルク要求が閾値レベルより大きくない限り、サービスブレーキスリップコントローラがアクティブでない間、電気機械がホイールスリップを制御することを意味する。これは、制御を簡略化し、例えば、回生減速システムによる効率的な運転を可能にする。その理由は、サービスブレーキスリップ制御システムが、例えば、協調(coordination)及びジョイントホイールスリップ制御に関して考慮される必要がないからである。急制動は、サービスブレーキシステムによってのみ扱われ、そのことは、電気機械制動が高いブレーキトルク要求に応答して停止するため、安全な車両運転及び減少した制御応答時間を保証する。
【0007】
幾つかの態様によれば、電気機械は、制限された時間の間、より高いトルク、ピークトルクを提供することができる。そのため、幾つかの態様によれば、電気機械のブレーキトルク能力に関連する時間依存性が存在し、全ブレーキトルク要求は或る継続時間を含む。制限された時間の間に、高いトルクを発生する電気機械の能力は、本明細書において提案される技法によって効率的な方法で利用されることができる。
【0008】
複数の態様によれば、ベースラインブレーキトルクは、付加マージントルク値と共に、全ブレーキトルク要求と電気機械のブレーキトルク能力との間の差として決定される。付加マージントルク値は、運転に安全性マージンを付加し、したがって、ブレーキトルク要求が、高い確率で満たされることができることを保証する。付加マージントルク値、すなわち、相対マージン値は、電気機械のブレーキトルク能力の0.1倍と0.3倍の間、そして好ましくは、電気機械のブレーキトルク能力の0.2倍であるように選択されてもよい。このマージン値は、システムにおける他の量に対して決定される、又は、絶対尺度であることができる。
【0009】
幾つかの態様によれば、方法は、全ブレーキトルク要求が電気機械のブレーキトルク能力より小さい場合、ゼロに等しいベースラインブレーキトルクを加えることを含む。これは、ブレーキトルク要求を扱うのに十分な制動能力を電気機械が有する限り、電気機械が全ての制動を扱うことを意味する。
【0010】
幾つかの他の態様によれば、上記で述べたように、方法は、全ブレーキトルク要求が閾値レベルより大きい場合、サービスブレーキシステムによってのみ車両を制動し、サービスブレーキシステムによってのみホイールスリップを制御することを含む。サービスブレーキシステムは、電気機械と比較して安全な方法で、より大きい制動トルクを発生するように構成されてもよい。そのため、急制動を発生するためにのみサービスブレーキシステムを使用することは、全体制動システムにさらなる安全性を付加する。閾値レベルは、例えば、0.5gより大きいマグニチュード(magnitude)を有する車両加速度に対応してもよい。
【0011】
複数の態様によれば、方法は、推定される表面摩擦係数μに応じて、全ブレーキトルク要求を決定することも含む。これは、例えば、より妥当なブレーキトルク要求がシステム内に送出されることを意味する。
【0012】
幾つかの態様によれば、方法は、電池状態に応じて及び/又は回生制動からの余分のエネルギーを吸収するために配置される抵抗器に応じて、電気機械のブレーキトルク能力を決定することを含む。
【0013】
幾つかの態様によれば、方法は、電気機械のホイールスリップ限界より大きい、サービスブレーキのホイールスリップ限界を構成することを含む。こうして、サービスブレーキは、推進中の、電気機械に対する安全性バックアップとして働く。例えば、電気機械が、構成されるホイールスリップをより低いレベルに制限することができず、ホイールスリップが、電気機械に対して課されるホイールスリップ限界より大きく増加する場合、サービスブレーキシステムのより高いホイールスリップ限界も破られるため、サービスブレーキシステムは、最終的に、ホイールスリップ制御をトリガーすることになる。
【0014】
上記で論じた利点に関連する、制御ユニット、コンピュータプログラム、コンピュータ可読媒体、コンピュータプログラム製品、ブレーキシステム、推進システム、及び車両も本明細書において開示される。
【0015】
一般に、特許請求の範囲で使用される全ての用語は、本明細書で別段に明示的に規定されない限り、技術分野においてそれらの通常の意味に従って解釈される。「1つの/1つの/その要素(a/an/the element)、装置、コンポーネント、手段、ステップ等」に対する全ての参照は、別段に明示的に述べられない限り、要素、装置、コンポーネント、手段、ステップ等の少なくとも1つの実例を参照するものとして非限定的に解釈される。本明細書で開示される任意の方法のステップは、明示的に述べられない限り、開示される厳密な順序で実施される必要はない。本発明のさらなる特徴及び本発明に関する利点は、添付特許請求の範囲及び以下の説明を調査すると明らかになる。本発明の異なる特徴が組み合わされて、本発明の範囲から逸脱することなく、以下で説明する実施形態以外の実施形態を作ることができることを当業者は認識する。
【0016】
添付図面を参照して、例として挙げる本発明の実施形態のより詳細な説明が以下に続く。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1A】幾つかの例のヘビーデューティ車両の1つを概略的に示す図である。
【
図1B】幾つかの例のヘビーデューティ車両の1つを概略的に示す図である。
【
図2】例の車両ブレーキ/推進システムを示す図である。
【
図3】例の車両ブレーキ/推進システムの詳細を示す図である。
【
図6】トルク能力対エンジン速度を示すグラフである。
【
図9】例のコンピュータプログラム製品を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、ここで、本発明の特定の態様が示される添付図面を参照して以降でより完全に説明される。しかしながら、本発明は、多くの異なる形態で具現化されてもよく、本明細書で述べる実施形態及び態様に限定されるものと解釈されるべきでない;むしろ、これらの実施形態は、この開示が、徹底的であり完全であるように、また、本発明の範囲を当業者に完全に伝えるように例によって提供される。同様の数字は、説明全体を通して同様の要素を指す。
【0019】
本発明が、本明細書で説明され、図面において示される実施形態に限定されないことが理解される;むしろ、多くの変更及び修正が、添付特許請求項の範囲内で行われてもよいことを当業者は認識するであろう。
【0020】
図1A及び1Bは、本明細書で開示される技法が利点を伴って適用されることができる貨物輸送用の例の車両100を示す。
図1Aは、ホイール120、140、及び160上で支持されたトラックを示し、それらのホイールの少なくとも一部は被駆動ホイールである。
【0021】
図1Bは、トラクタユニット101がトレーラユニット102をけん引するセミトレーラ車両を示す。トレーラユニット102の前部は、5番目のホイール接続103によって支持され、一方、トレーラユニット102の後部は、トレーラホイールのセット180上に支持される。
【0022】
車両上の各ホイール又は少なくとも多数のホイールは、それぞれのホイールサービスブレーキ130、150、160に連結されている(トレーラユニットホイールブレーキは
図1A~1Cに示されない)。このホイールサービスブレーキは、例えば、空気圧作動式ディスクブレーキ又はドラムブレーキであってもよい。ホイールブレーキは、ブレーキコントローラによって制御される。本明細書で、用語、ブレーキコントローラ、ブレーキ変調器、及びホイールエンドモジュールは、交換可能に使用されるであろう。それらは、全て、車両100等の車両の少なくとも1つのホイールに対する、加えられた制動力を制御するデバイスとして解釈される。ホイールブレーキコントローラのそれぞれは、制御ユニット110に通信可能に結合され、制御ユニットが、ブレーキコントローラと通信し、それにより、車両制動を制御することを可能にする。この制御ユニットは、車両にわたって分配された多数のサブユニットをおそらくは備えてもよい、又は、この制御ユニットは単一物理ユニットであることができる。制御ユニット110は、例えば、車両の安定性を維持し、ホイールスリップを許容可能なレベルに保つために、ホイール間でブレーキ力を割り当てること等、車両運動管理機能を実施してもよい。ホイールブレーキ力は、電気機械使用の最適化のために分配及び/又は制御されることもできる。
【0023】
車両100上のホイールの一部は電気機械によって駆動される。
図2は、例の駆動配置構成を示し、2つのアクスルは、電気機械EM
1~EM
4によって駆動されるホイールを備える。電気機械EM
1~EM
4のそれぞれは、知られている方法で加速力並びに減速(制動)力を共に発生してもよい。例えば、電気機械は、車両減速中に電力を生成する回生ブレーキとして構成されてもよい。被駆動ホイールは、知られている方法でホイール速度を低減するように構成される、摩擦ブレーキ等のサービスブレーキSB
1~SB
4も備える。
【0024】
電気機械システムは、セットアップに抵抗器を付加することによってエンデュランスブレーキシステム(endurance brake)として設計されることができる。これは、エネルギー源、すなわち電池が最大充電状態(SOC:state of charge)に達すると、モーターからの制動電力が、代わりに、抵抗器を通して流れることができ、抵抗において、熱がモーターの制動から発生する。こうして、ブレーキ力は、電気機械電力源がフル充電にあるときでも、電気機械によって発生されることができる。その理由は、抵抗器が回生制動からの余分のエネルギーを吸収することができるからである。
【0025】
図2は、対応するサービスブレーキのセットに、通常、連結されている任意選択のトレーラホイールのセット180も示す。セミトレーラ及び同様なもの等の被けん引ユニットは、各ホイール又はホイールのサブセット上に電気機械210及びサービスブレーキ(
図2には示さず)を備える同様のレイアウトを装備してもよい。
【0026】
制御ユニット110は、幾つかの態様によれば、車両運動管理を実施するように構成される。この管理は、電気機械の間でけん引力を、そして同様に制動力を分配することを含む。
【0027】
図3は、ホイール140、160の一方等のホイール301用のブレーキ制御システム300を示す。ブレーキ制御システム300は、サービスブレーキアクチュエータ340(ここではディスクブレーキによって例示される)によるホイール制動を制御するように配置されたサービスブレーキホイールエンドモジュール(WEM SB
i)310及び同様に、ホイール301に動力を供給し、同様に、ホイール回転速度を低減するために制動力を加えるために配置された電気機械EM
i360を備える。電気機械ホイールエンドモジュール(WEM EM
i)350は、電気機械360を制御するために配置される。2つのWEMが、単一物理ユニット302に含まれてもよい、又は、別個の物理ユニットとして構成されてもよいことが認識される。
【0028】
車両制御ユニット110(ここでは、車両運動管理(VMM:Vehicle Motion Management)システムとして示す)は、2つのホイールエンドモジュール310、350による運転を制御するために配置される。制御は、送信されるトルク要求TSBi320及びTEMi370並びに課されるホイールスリップ限界λSBi及びλEMiに基づく。
【0029】
前後方向ホイールスリップλは、SAE J670(SAE Vehicle Dynamics Standards Committee January 24,2008)によれば、
【数1】
として規定されてもよく、ここで、Rは有効ホイール半径(メートル単位)であり、ωはホイールの角速度であり、ν
xはホイールの前後方向速度(ホイールの座標系において)である。そのため、λは、-1と1との間で境界付けられ、道路表面に対してホイールがどれだけスリップするかを定量化する。ホイールスリップは、本質的に、ホイールと車両との間で測定される速度差である。そのため、本明細書で開示する技法は、任意のタイプのホイールスリップ規定を用いる使用のために適合されることができる。
【0030】
車両制御ユニット110は、(ホイールの参照フレームにおける)νxに関する情報を維持し、一方、ホイール速度センサ又は同様なものはωを決定するために使用されることができる。WEMの場合、電気機械自身内の回転速度センサは、ωを決定するために使用されることもでき、その場合、ギア比及び同様なものは、考慮される必要がある場合もある。
【0031】
特に、以下において、ホイールスリップに関する限界が論じられるとき、制限されるのは、ホイールスリップのマグニチュード又は絶対値である、すなわち、ホイールスリップ限界の増加は、より大きい正の許容可能なホイールスリップ又はより小さい負の許容可能なホイールスリップを指してもよい。本開示は、制動を主に考慮する、すなわち、ホイールスリップは、制動中、νx>Rωであるため、ここでは、通常、負である。
【0032】
最新のサービスブレーキシステム及び同様に一部のより最近の電気機械は、きめ細かいスリップ制御が可能である。例えば、一部の最新のブレーキコントローラは、ホイールスリップλを、或る公称値の例えば+/-0.002以内に維持することができる。
【0033】
車両制御ユニット110、すなわちVMMシステムは、例えば、要求されたブレーキトルク及びホイールスリップマグニチュード限界を含むブレーキ要求を送信し、ホイールエンドモジュールの現在の能力に関連する能力データCAP SBi330及びCAP EMi380を戻りとして受信する。能力データは、例えば、測定された現在のホイールスリップ、測定されたピークホイールスリップ(一定の期間にわたる)、例えばブレーキトルクに関する現在の制動能力、及び或る場合には同様に推定された道路摩擦係数を含んでもよい。
【0034】
制動に関する能力は、長期間にわたって送出されることができるトルクである連続能力、及び、制限された期間にわたって送出されることができる能力であるピーク能力に関連してもよい。これは、
図6に関連して以下でより詳細に論じられるであろう。能力データCAP SB
i330及びCAP EM
i380は、連続及びピークトルク能力並びに同様にピークトルクがどれだけ長く送出されることができるかを示す継続時間値を含んでもよい。この期間は、送出されるトルクの関数としてさらに減少してもよく、例えば、電気機械360が、減速のために使用され、それにより、電気機械360が加熱する場合、ピークトルクがその間送出されることができる継続時間は減少する可能性がある。電気機械が、一定時間の間、高い負荷を受けなかった場合、電気機械が、上昇した温度で運転しているときと比較して、より長い継続時間の間、ピークトルクを送出することができる可能性がある。そのため、異なるレベルのトルクに関連する期間は、車両100の制御性を増すという利点を伴って使用されることができる。
【0035】
WEMは、ホイールスリップマグニチュードを、設定されたホイールスリップマグニチュード限界未満に維持しながら、要求されたブレーキトルクに従って制動を制御する。これは、例えば、ホイールの参照フレーム内の車両速度に対して、制御ユニット110から供給されるデータによって可能にされる。ホイールスリップマグニチュードが、設定されたスリップ限界を超える場合、ブレーキシステムにおいて発生するホイールトルクを低減することを含んでもよいスリップ制御方策は、設定されたホイールスリップマグニチュード限界以下のスリップ値までホイールが回復するように始動される。能力メッセージCAP SBi330又はCAP EMi380は、運転条件の変化に応答して連続して更新されてもよい。例えば、ホイールについての全能力は、現在の道路摩擦によって常に制限される。これは、達成可能な前後方向力が、知られている方法で道路摩擦及びタイヤ法線力によって制限されるからである。
【0036】
スリップ制御機能は、VMM110内に、又は、一方又は両方のWEM310、350内に、又は、VMMとWEMの組み合わせ体内に組み込まれることができる。幾つかの態様によれば、電気機械に連結するVMM内のスリップ制御ループは1つのスリップ限界を使用し、対応するWEMはより大きいスリップ限界を使用する。こうして、WEMは、VMMが過剰のホイールロックを防止することに失敗する場合、安全性ネットとして働く。
【0037】
本明細書で、スリップ制御ループは、ホイールスリップを何らかの方法で調節するために配置されたスリップ制御システムを意味するものと幅広く解釈される。スリップ制御ループは、必ずしもフィードバックを含まない。通常、ブレーキトルクは、現在の道路摩擦条件に基づいて要求される。例えば、要求される全ブレーキトルクは、運転シナリオに基づいて決定される好ましいブレーキトルクの最小値、及び、現在の道路摩擦条件を考慮して達成可能な最大トルクとして決定されてもよい。
【0038】
図4は、ホイールスリップの関数としての達成可能なタイヤ力を示すグラフである。取得可能な前後方向タイヤ力Fxは、小さいホイールスリップについてほぼ線形に増加する部分410と、それに続く、より大きいホイールスリップについてより非線形の挙動を有する部分420を示す。取得可能な横方向タイヤ力Fyは、比較的小さい前後方向ホイールスリップにおいてさえも急速に減少する。適用されたブレーキコマンドに応答する取得可能な前後方向力が、予測するのがより容易であり、かつ、十分な横方向タイヤ力が、必要に応じて発生されることができる線形領域410内で車両運転を維持することが望ましい。この領域における運転を保証するために、例えば、0.1のオーダーのホイールスリップ限界λ
LIMが、WEMに課されることができる。
【0039】
EM360についてスリップ制御システムを実装するための少なくとも3つの可能性が存在し、それらのオプションは、組み合わされるか又は別々に使用されることができる。
【0040】
第1のオプションにおいて、
図3を参照すると、スリップコントローラシステムは、VMM110内に実装される、又は、少なくとも部分的に含まれる。トルク要求T
EMiは、その後、現在のホイールスリップに応じて、WEM EM
i350に送信される。
【0041】
第2のオプションにおいて、EM360用の主ホイールスリップコントローラは、WEM EMi350内に含まれ、VMMは、(VMMがサービスブレーキ310/340のためにするように)トルク要求及びスリップ限界を送信する。WEM EMi350は、その後、現在のホイールスリップに応じて、トルク要求を、加えられるトルクに修正し、能力メッセージCAP EMiを更新する。
【0042】
第3のオプションにおいて、VMM110は、EMスリップ制御ループの一部を行い、スリップ限界が破られると、ホイール速度要求をWEM EMi350に送信する。こうして、WEM EMi350は、電気機械回転速度に対して高速制御を行うことができるが、実際のスリップ計算は、VMM110によって主に実施される。
【0043】
一般に、本明細書で論じるブレーキブレンディング(breake blending)に関連する技法は、電気機械及びサービスブレーキを備えるトレーラユニットにも適用されることができる。
【0044】
本明細書で開示する技法によれば、VMM110は、任意選択で、スリップ制御を実施するのが、電気機械及びサービスブレーキの中からのどのブレーキアクチュエータかを決定する。電気機械及びサービスブレーキの他のブレーキアクチュエータは、その後、スリップ制御を実施するアクチュエータと比較してより高いスリップ限界を伴って構成されるスリップ制御バックアップとして機能する。
【0045】
サービスブレーキシステム並びに1つ又は複数の電気機械を共に使用するブレーキブレンディング(breake blending)等の2つ以上のアクチュエータを備える
図3に示す制動システムのような制動システムの制御は、少なくとも部分的に、同じホイールを制御しようと試みる2つの異なるアクチュエータがここで存在するため、複雑である。スリップ制御は、そのようなシステムにおいて悪い影響を及ぼす場合がある。その理由は、ホイールスリップが起こると、両方のシステムが、おそらくは異なる制御時定数を用いてスリップを制限しようと試みる場合があるからである。これは、ブレーキトルクの大き過ぎる低減又はさらに振動挙動をもたらす場合がある。
【0046】
2つ以上のブレーキアクチュエータ及びスリップ制御を実施することができる2つ以上のユニットを有するシステムにおいてホイールスリップ制御を簡略化するために、VMM110による全要求トルクが、急制動に対応する閾トルク値を超えない限り、サービスブレーキシステムによるベースライントルクを加え、ホイールスリップを電気機械に制御させることが本明細書で提案される。この閾値は、例えば、-0.5g等のオーダーであってもよく、「g」は、重力(地球内の質量の分布による)と遠心力(地球の回転による)の結合効果によって物体に与えられる正味の前後方向加速度である。ベースライントルクレベルは、経時的にゆっくり変化するか又はさらに一定の期間にわたって一定であるように構成されてもよい。
【0047】
図5Aは、本明細書で開示される技法による例の運転のグラフ500を示す。グラフは、トルク(ニュートンメートル単位)対時間(秒単位)を示す。VMM110は、車両のホイール301を制動するための全ブレーキトルク要求510を決定する。この要求された制動トルクを送出することが制動システムの全体的な目的である。各ホイールについて単一アクチュエータを備える通常のサービスブレーキシステム等の、単一ブレーキアクチュエータを備えるシステムは、加えられるトルクを、要求されたトルク値に近くなるように制御することになる。
図5Aにおける要求された全ブレーキトルク510は、電気機械のブレーキトルク能力520より小さい。このシナリオにおいて、電気機械は、要求されたトルクを自分自身で提供することができるため、サービスブレーキシステムからのサポートなしで、ホイールを制動するために使用される。電気機械によって加えられるトルクは、
図5Aにおいて実線530で示される。電気機械は、ホイールスリップ制御のための唯一の手段でもあり、そのことが、加えられるトルク530が
図5Aにおいて経時的に変動する理由である。
【0048】
図5Aは、閾値トルクレベル570も示す。これは、
図5Cに関連して以下でより詳細に論じられるであろう。
【0049】
図5Bは、全ブレーキトルク要求510が電気機械360のブレーキトルク能力520を超えるが、閾値レベル570より小さい別のシナリオ501を示す。この場合、ベースラインブレーキトルク550は、サービスブレーキを使用して加えられる。このベースラインブレーキトルクは、全ブレーキトルク要求510と電気機械360のブレーキトルク能力520との差を補償するように構成される。スリップ制御は、やはり電気機械を使用してのみ提供され、そのことは、やはり、電気機械によって加えられるトルク530が経時的に変動する理由である。そのため、有利には、スリップ制御は、単一アクチュエータによって実施され、そのことが制御を簡略化する。同時に、電気機械は、要求されたブレーキトルクが電気機械の能力をしのぐシナリオにおいてもスリップ制御のための唯一の手段として使用される。ベースラインブレーキトルクレベルは、ここでは、或る期間の間、一定であるように示される。しかしながら、ベースラインブレーキトルクは、線形増加又は線形減少する値として構成されてもよい。通常、しかしながら、ベースラインレベルの変化率は、電気機械制御の制御帯域幅より小さい。
【0050】
図5Cは、要求された全ブレーキトルク510が閾値570を超えるシナリオ502を示す。この場合、本明細書で開示する方法の一部によれば、サービスブレーキは、要求された全トルクを提供するために使用され、スリップ制御のためにも使用され、そのことは、サービスブレーキによって加えられるトルク540が
図5Cにおいて経時的に変動する理由である。電気機械によるスリップ制御は、その後、サービスブレーキシステムによって実施されるスリップ制御に干渉しないように無効にされる。
【0051】
上記で述べた制御に対する時間依存性が存在する場合がある。その理由は、電気機械が、制限された時間の間、高いピークトルクを送出することができ、その期間後に、より低い連続運転トルクが提供されることができるだけであるからである。この期間は、開示される技法の利点を伴って使用されることができる。その理由は、サービスブレーキシステムが、スムーズな方法でベースライントルクにて導入される、すなわち、ベースライントルクまで徐々に増加されることを、その期間が可能にするからである。ベースライントルクが導入されると、電気機械は、ピークトルクレベルから引き下がることができる。
【0052】
図6は、推進(正のトルク)及び制動(負のトルク)操作のエンジン速度に応じた電気機械の例のトルク能力600を示すグラフである。これらのタイプの能力は、例えば、
図3に関連して論じる能力メッセージの一部として車両制御システムに伝達されることができる。同様の曲線は、もちろん、反転(負のエンジン速度)のために描かれることができる。電気機械及び冷却システム等の周囲車両システムの種々の設計パラメータ、過負荷抵抗器の設計、及び一般にコンポーネント頑健性に応じて、ほとんどの電気機械は、長い期間にわたって維持されることができる連続トルク能力、及び、例えば、エンジン温度が臨界レベルに達する前の制限された期間の間、発生されることができるだけであるトルクレベルであるピークトルク能力に関連することができる。
【0053】
これは、短いが集中的な推進及び制動状況について、VMM100は、知られている過負荷レベルまで電気機械に一時的に過負荷をかけ、制限された期間の間、負荷をこのレベルに維持するオプションを有することを意味する。これは、次に、トランスミッションシステムの設計が、簡略化される、又はさらに、単一固定ギアトランスミッションまで縮小することができ、そのことが利点であることを意味する。ピークトルクが提供されることができるこの期間は、制御された方法でサービスブレーキベースライントルクの導入も簡略化する。
【0054】
図7は、上記で論じた方法を要約するフローチャートである。ヘビーデューティ車両100の車両ブレーキシステム300を制御する方法が示される。ブレーキシステムは、
図3に例示するように、サービスブレーキシステム310、340及び電気機械ブレーキシステム350、360を備える。
【0055】
方法は、車両100のホイール301を制動するための全ブレーキトルク要求510を決定する(S1)ことを含む。この決定は、例えば、より上位層制御機能からの要求に応答して作用する、VMM内の力割り当てモジュールによって実施されることができる。ブレーキトルク要求は、任意選択で、その間、制動が所望される継続時間に関連することもでき、そのことは、制御ユニット110が、制動運転の継続時間の間、ピークトルクが使用されることができるか否か、又は、長期間のトルクが必要とされるか否かを判定することを可能にする。
【0056】
方法は、電気機械360のブレーキトルク能力520、CAP EMiを取得する(S2)ことも含む。このブレーキトルク能力は、例えば、電池状態に、及び、回生制動からの余分のエネルギーを吸収するために配置された過負荷抵抗器が電気機械システムに付加されたか否かに、そして、付加された場合、その仕様がどのようなものであるかに依存してもよい。同様に、上記で述べたように、ブレーキトルク能力は、制限された期間の間、送出されることができるだけであるピークトルク能力、及び、より長い期間の間、発生されることができる連続トルク能力を含んでもよい。
【0057】
冷却及び同様なものを含む電気機械システムは、回生制動からの余分のエネルギーを吸収する抵抗器の付加によって、長いダウンヒル運転のために十分な連続トルク630の送出を扱う構成にされてもよい。電気機械は、制限された期間の間、急制動のために十分なピークトルクを扱う構成にされてもよい。これらの能力、すなわち、関連する時間窓と共にピーク及び連続トルク能力は、能力メッセージ380によって制御ユニットに伝達されることができる。
【0058】
図6は、例の正の最大トルク能力610、及び、ピーク能力より小さいが、一方で、より長い期間の間、維持されることができる例の正の連続トルク能力620を示す。適度に低い、例えば、数千rpmより低いエンジン速度の場合、機械は、より長い期間にわたってトルク値602を提供することができるが、10~30秒等の制限された期間の間、著しく高いトルク601を送出してもよい。両方のトルク値610、620は、或る最大エンジン速度605までエンジン速度と共に降下する傾向がある。電気機械は、約10000rpm等の最大エンジン速度605に関連してもよい。
【0059】
同様の状況は負のトルクについて見られ、機械は、負のピークトルク値604と比較して小さいマグニチュード603を有する負の連続トルク630を、長期の間、送出する能力を有する。しかしながら、制動のために発生されることができるピークトルク640は、長期の間、維持するのが可能でない。2つの負のトルクのマグニチュードは、エンジン速度と共に減少する傾向もある。
【0060】
その結果、制限された期間の間、電気機械に過負荷をかけることが可能である。制御ユニット110は、車両制御中にこの情報を使用することができる。特に、VMM110は、全ブレーキトルク要求及び関連する全ブレーキトルク要求継続時間を、電気機械のピークトルク能力及びピークトルクに関連する継続時間と比較し、電気機械の能力及びブレーキ要求に関連する継続時間に基づいてブレーキトルク要求が満たされることができるか否かを判定することができる。これは、制御されかつタイムリーな方法で、サービスブレーキによるベースライントルクの導入を可能にする。
【0061】
同様の「ピーク(peak)」及び「連続(continuous)」ブレーキトルク能力は、関連する期間と共に、もちろん、サービスブレーキからVMM110に伝達されることもできる。
【0062】
能力は、現在の摩擦等の道路の状況及び同様にタイヤの状態を反映してもよい。システムは、ここで、送出されるべきものがどのトルクか、及び同様に、電気機械によって提供されることができるものがどれだけのトルクかを知る。
【0063】
方法は、全ブレーキトルク要求510が電気機械360のブレーキトルク能力520を超えるか否かを判定するS3ことをさらに含む。全ブレーキトルク要求510が電気機械360のブレーキトルク能力520を超えるが、閾値レベル570より小さい場合、方法は、サービスブレーキシステムによってベースラインブレーキトルク550を加える(S4)。このベースラインブレーキトルクは、全ブレーキトルク要求510と電気機械360のブレーキトルク能力520との間の差を補償するように構成され、そのことは、電気機械とサービスブレーキの組み合わせ体が、要求された全ブレーキトルクレベルに達するために、サービスブレーキトルクが、所与のトルク制御レベルとして付加されることを意味する。ベースラインブレーキトルクレベルは、或る期間にわたって一定であってもよい、或いは、線形増加又は線形減少してもよい。ベースラインブレーキトルクレベルの変化率は、好ましくは、電気機械減速配置構成の制御帯域幅に応じて決定される。全ブレーキトルク要求510が電気機械360のブレーキトルク能力520を超えるか否かを判定する(S3)ことは、要求されたブレーキトルク継続時間が、電気機械のピークトルク能力に関連する継続時間を超えるか否かを判定することを含んでもよい。
【0064】
特に、方法は、全ブレーキトルク要求が閾値レベルより小さい場合、電気機械ブレーキシステム350、360によってホイールスリップを制御するS5ことを含む。これは、1つのスリップ制御システムのみが同時にアクティブであるため、スリップ制御を簡略化する。そのため、ジョイントスリップ制御システムは、提案される技法によって必要でない。
【0065】
EM360についてスリップ制御ループを実装するための少なくとも3つの可能性が存在し、それらのオプションは、組み合わされるか又は別々に使用されることができる。オプション1において、
図3を参照すると、スリップコントローラは、VMM110内に実装される、又は、少なくとも部分的に含まれる。トルク要求は、その後、WEM EM
i350(例えば、
図3の350参照)に送信される。オプション2において、EM360用の主ホイールスリップコントローラは、WEM EM
i350内に含まれ、VMMは、(VMMがサービスブレーキ310/340のためにするように)トルク要求及びスリップ限界を送信する。オプション3において、VMMは、EMスリップ制御ループ「の一部(part of the)」を行い、スリップ限界に達すると、ホイール速度要求をWEM EM
i350に送信する。こうして、WEM EM
i350は、電気機械回転速度に対して高速制御を行うことができるが、実際のスリップ計算は、VMM110によって主に実施される。
【0066】
幾つかの態様によれば、方法は、全ブレーキトルク要求510が閾値レベル570より大きい場合、サービスブレーキシステム310、340によってのみ車両を制動し、サービスブレーキシステム310、340によってホイールスリップを制御するS42ことを含む。この閾値レベルは、例えば、-0.5gより小さい前後方向車両加速度に対応してもよいS43。そのため、VMM110による、要求された全ブレーキトルクが閾値レベルより小さい限り、その後、ホイールスリップ制御は電気機械によって実施される。この制御は、サービスシステムによるトルク制御式ベースライン制動と組み合わせて、おそらくは実施される。ホイールスリップ制御が、電気機械によってのみ、又は、電気機械によって主に実施されることができることが認識される。例えば、全ブレーキトルク要求が、サービスブレーキによってトルク制御式ベースライン制動が適用されるようなものである場合、異なるホイールスリップ限界が、電気機械及び所与のホイールについてのサービスブレーキに対して課されることができる。電気機械に課されるホイールスリップ限界は、例えば、0.1であってもよく、一方、サービスブレーキシステムに課されるホイールスリップ限界は、例えば、0.3であることができる。これらは、通常、各ホイールデバイス又はアクチュエータについて設定されたスリップ限界値である。それらは、車両ホイールが経験しているタイヤ/道路条件に応じて、及び、上位層からの全体加速度要求に対して構成されることになる。
【0067】
これは、電気機械が最初にホイールスリップに反応することになるため、ホイールスリップが電気機械によって主に扱われることを意味する。しかし、深刻なホイールスリップの場合、サービスブレーキは、加えるベースラインブレーキトルクを低減することによって、ホイールスリップを制御することに従事することにもなる。別の例によれば、サービスブレーキによるホイールスリップ制御は、トルク制御式ベースライン制動が適用されると停止され、その場合、ホイールスリップ制御は、電気機械によってのみ扱われる。
【0068】
そのため、幾つかの態様によれば、ベースライン制動が適用されると、ホイールスリップ制御が電気機械によって主に扱われる場合、サービスブレーキシステムのホイールスリップ限界λSBiは、電気機械のホイールスリップ限界λEMiより大きくなるように構成される。換言すれば、方法は、電気機械のホイールスリップ限界λEMiより大きい、サービスブレーキのホイールスリップ限界λSBiを構成するS6ことを含んでもよい。
【0069】
異なるホイールスリップ制御方策が、異なるホイールについて又は異なるアクスル上のホイールについて適用されることができることも認識される。そのため、ホイールスリップは、1つのアクスル上のホイールに関して電気機械によってのみ扱われることができ、一方、サービスブレーキシステムによるスリップ制御の何らかの対策は、何らかの他のアクスル上のホイールについて適用されることができる。
【0070】
全ブレーキトルク要求が比較的小さく、それにより、全ブレーキトルク要求が、サービスブレーキからのサポートなしで電気機械によってのみ扱われることができるとき、サービスブレーキによって加えられるベースラインブレーキトルクはゼロに等しい。換言すれば、幾つかの態様によれば、方法は、全ブレーキトルク要求510が電気機械360のブレーキトルク能力520より小さい場合、ゼロに等しいベースラインブレーキトルク550を加えるS41ことを含む。
【0071】
ベースラインブレーキトルク550は、任意選択で、付加マージントルク値と共に、全ブレーキトルク要求510と電気機械360のブレーキトルク能力520との間の差として決定されるS31。幾つかの態様によれば、付加マージントルク値は、電気機械360のブレーキトルク能力520の0.1倍と0.3倍の間、そして好ましくは、電気機械360のブレーキトルク能力520の0.2倍である。これは、電気機械が、ピークトルク能力で運転しなければならないのではなく、或る範囲であって、その範囲内で、電気機械が、最大トルク能力を超えることなくスリップ制御を実施するために、加えられるトルクを変動させてもよい、或る範囲が許容されることになることを効果的に意味する。幾つかの態様によれば、方法は、推定される表面摩擦係数μに応じて、全ブレーキトルク要求510を決定するS11ことを含む。
【0072】
上記で論じたように、幾つかの態様によれば、電気機械360のブレーキトルク能力520は、電気機械から入手可能な一時的ピークトルク640に応じて少なくとも部分的に決定される。
【0073】
幾つかの他の態様によれば、方法は、電池状態に応じて、電気機械360のブレーキトルク能力520を決定するS21ことを含む。
【0074】
図8は、本明細書の議論の実施形態による制御ユニット110のコンポーネントを、多数の機能ユニットによって概略的に示す。この制御ユニット110は、例えば、VMMユニットの形態で車両100に含まれてもよい。例えば、記憶媒体830の形態でコンピュータプログラム製品に記憶されたソフトウェア命令を実行することが可能な、適切な中央処理ユニットCPU、マイクロプロセッサ、マイクロコントローラ、デジタル信号プロセッサDSP等のうちの1つ又は複数の任意の組み合わせを使用して、処理回路部810が設けられる。処理回路部810は、少なくとも1つの特定用途向け集積回路ASIC又はフィールドプログラマブルゲートアレイFPGAとしてさらに設けられてもよい。
【0075】
特に、処理回路部810は、
図10に関連して論じた方法等の操作又はステップのセットを制御ユニット110に実施させるように構成される。例えば、記憶媒体830は操作のセットを記憶してもよく、処理回路部810は、操作のセットを制御ユニット110に実施させるために、記憶媒体830から操作のセットを取り出すように構成されてもよい。操作のセットは、実行可能な命令のセットとして提供されてもよい。そのため、処理回路部810は、それにより、本明細書で開示する方法を実行するために配置される。
【0076】
記憶媒体830は永続的ストレージを備えてもよく、永続的ストレージは、例えば、磁気メモリ、光メモリ、固体メモリ、又はさらに、遠隔搭載式メモリのうちの任意のたった1つ又は組み合わせであることができる。
【0077】
制御ユニット110は、上記で論じたWEM等の少なくとも1つの外部デバイスと通信するためのインターフェース820をさらに備えてもよい。したがって、インターフェース820は、アナログ及びデジタルコンポーネント並びに有線又は無線通信用の適切な数のポートを備える、1つ又は複数の送信機及び受信機を備えてもよい。
【0078】
処理回路部810は、例えば、データ及び制御信号をインターフェース820及び記憶媒体830に送信することによって、インターフェース820からデータ及びレポートを受信することによって、そして、記憶媒体830からデータ及び命令を取り出すことによって、制御ユニット110の全体動作を制御する。制御ノードの他のコンポーネント並びに関連する機能は、本明細書で提示する概念を曖昧にしないために省略される。
【0079】
図8は、ヘビーデューティ車両100の車両ブレーキシステム300を制御する制御ユニット110を示す。ブレーキシステムは、サービスブレーキシステム310、340及び電気機械ブレーキシステム350、360を備える。制御ユニット110は処理回路部810及びインターフェース820を備える。処理回路部810は、車両100のホイール301を制動するための全ブレーキトルク要求510を決定し、インターフェース820を介して電気機械360のブレーキトルク能力520、CAP EM
iを取得し、全ブレーキトルク要求510が電気機械360のブレーキトルク能力520を超えるか否かを判定するように構成される。全ブレーキトルク要求510が電気機械360のブレーキトルク能力520を超えるが、閾値レベル570より小さい場合、制御ユニット110は、サービスブレーキシステムによってベースラインブレーキトルク550を加えるように構成される。このベースラインブレーキトルクは、全ブレーキトルク要求510と電気機械360のブレーキトルク能力520との間の差を補償するように構成される。制御ユニット110は、電気機械ブレーキシステム350、360によってホイールスリップを制御するようにも構成される。
【0080】
幾つかの態様によれば、制御ユニット110は、全ブレーキトルク要求510が電気機械360のブレーキトルク能力520より小さい場合、ゼロに等しいベースラインブレーキトルク550を加えるように構成される。
【0081】
幾つかの態様によれば、制御ユニット110は、全ブレーキトルク要求510が閾値レベル570より大きい場合、サービスブレーキシステム310、340によってのみ車両を制動し、サービスブレーキシステム310、340によってのみホイールスリップを制御するように構成される。
【0082】
要約すると、制御ユニット110は、本明細書で開示する技法、及び特に、
図5A~5Cに関連して上記で論じた技法を実施するために配置される。
【0083】
図9は、コンピュータプログラムを保持するコンピュータ可読媒体910を示し、コンピュータプログラムは、前記プログラム製品がコンピュータ上で実行されると、
図7に示す方法及び本明細書で論じる技法を実施するプログラムコード手段920を含む。コンピュータ可読媒体及びコード手段は、コンピュータプログラム製品900を共に形成してもよい。