(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-16
(45)【発行日】2024-04-24
(54)【発明の名称】点ごとの重ね合わせ手順に基づくスケーリング方法及びそのシステム
(51)【国際特許分類】
G06F 30/23 20200101AFI20240417BHJP
B33Y 50/00 20150101ALI20240417BHJP
G06F 113/10 20200101ALN20240417BHJP
【FI】
G06F30/23
B33Y50/00
G06F113:10
(21)【出願番号】P 2023502902
(86)(22)【出願日】2021-07-12
(86)【国際出願番号】 EP2021025255
(87)【国際公開番号】W WO2022012776
(87)【国際公開日】2022-01-20
【審査請求日】2023-01-16
(31)【優先権主張番号】102020000017164
(32)【優先日】2020-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】517029381
【氏名又は名称】ヌオーヴォ・ピニォーネ・テクノロジー・ソチエタ・レスポンサビリタ・リミタータ
【氏名又は名称原語表記】Nuovo Pignone Tecnologie S.R.L.
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】パッラディーノ、マルコ
(72)【発明者】
【氏名】トッツィ、ピエルルイジ
(72)【発明者】
【氏名】モーダ、マッティア
(72)【発明者】
【氏名】モネッリ、ベルナルド、ディスマ
(72)【発明者】
【氏名】ベルティーニ、レオナルド
(72)【発明者】
【氏名】ベナッシ、マッテオ
【審査官】合田 幸裕
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-215957(JP,A)
【文献】国際公開第2015/184495(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/032687(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/056405(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第108062432(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/23
B33Y 50/00
G06F 113/10
IEEE Xplore
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
材料を溶融又は焼結するように意図された移動熱源を使用する製造プロセスをシミュレートするためのコンピュータ実装方法(100)であって、前記
移動熱源が所定の経路に従って駆動され、前記
コンピュータ実装方法(100)が、
前記製造プロセスを行うための複数のプロセスパラメータ
(141)を読み取るステッ
プと、
前記製造プロセスをシミュレートするために材料特性
(143)を読み取るステッ
プと、
メソスケールモデル(111)を通して、
所与の材
料に対して使用されるプロセスパラメータ(141)の各セットについて、プロセス誘起熱履歴並びに残留応力及び歪み場を表す物理量を計算する
メソスケールシミュレーション(110)を実行するステップと、
複数の要素を含む、前記製造プロセスに関与する全ての部品のマクロスケール有限要素(FE)メッシュ
(144)を定義するステッ
プと、
定義された経路(142)に基づいて、メソスケール
シミュレーション結果を
前記マクロスケールFEメッシュ(144)にスケーリングするステップ(120)であって、
前記定義された経路(142)に基づいて、前記
マクロスケールFEメッシュ
(144)の各要素の1つ以上のサンプル点における前記物理量の値を計算するステップ(123)と、
前記マクロスケールFEメッシュ(144)の各要素内で計算された前記物理量の前記値を平均化するステップ(124)と、も含む、スケーリングするステップ(120)と、
マクロスケールシミュレーション(130)を実行して、前記製造プロセス全体にわたる変位及び全ての導出された量を決定するステップと、を含む、
コンピュータ実装方法(100)。
【請求項2】
前記メソスケールモデル(111)は、前記
移動熱源のサイズに相当する長さスケールで前記物理量を決定する、請求項1に記載の
コンピュータ実装方法(100)。
【請求項3】
前記物理量が、前記
移動熱源の移動方向に垂直な平面(201)上でサンプリング又は計算される、請求項1
又は2に記載の
コンピュータ実装方法(100)。
【請求項4】
前記
マクロスケールFEメッシュ(144)の
各要素の
1つ以上のサンプル点における前記物理量
の値を計算す
るステップ(123)の前に、前記スケーリング
するステップ(120)は、
前記マクロスケールFEメッシュ(144)の各要素について1つ以上のサンプル点(121)を定義するステップと、
各サンプル点において、前記物理量の前記値
を0に初期化するステップ(122)と、を更に含む、請求項1
から3のいずれか一項に記載の
コンピュータ実装方法(100)。
【請求項5】
前記サンプル点は、ランダムに又は規則的にのいずれかで分散される、請求項1
から4のいずれか一項に記載の
コンピュータ実装方法(100)。
【請求項6】
前記
移動熱源は
、電磁ビーム又は電子ビームであり、前記材料は、積層される粉末である、請求項1
から5のいずれか一項に記載の
コンピュータ実装方法(100)。
【請求項7】
前記プロセスパラメータ(141)が
、レーザ又は電子、走査速度、ビーム直径、層厚さ、予熱温度、及び構築チャンバ雰囲気
から選択される1つ以上
のパラメータを含む、請求項1
から6のいずれか一項に記載の
コンピュータ実装方法(100)。
【請求項8】
前記物理量は、単一の走査線(202)の前記メソスケールシミュレーション(110)から取得される、請求項
1から7のいずれか一項に記載の
コンピュータ実装方法(100)。
【請求項9】
前記物理量は、1つ以上の補間関数(112)を定義するために使用される、請求項
8に記載の
コンピュータ実装方法(100)。
【請求項10】
前記補間関数は、前記走査線(202)に対する位置に基づいて、弾性歪み、塑性歪み、及び最大温度を計算する、請求項
9に記載の
コンピュータ実装方法(100)。
【請求項11】
前記補間関数(112)を記憶手段(302)に記憶するステップを含む、請求項
9又は10に記載の
コンピュータ実装方法(100)。
【請求項12】
材料を溶融又は焼結するように意図された移動熱源を使用する製造プロセスをシミュレートするためのシステム(300)であって、前記
移動熱源が所定の経路に従って駆動され、前記システム(300)が、
請求項
9から11のいずれか一項に記載の
コンピュータ実装方法のステップを遂行するコンピュータプログラムを実行するように動作可能な少なくとも1つのプロセッサ(301’)を備える処理ユニット又はコンピュータ(301)と、
前記補間関数(112)を記憶するように構成されたデータベース(302)と、
前記マクロスケールシミュレーション(130)の結果を表示、印刷、又は記憶するための少なくとも1つのデバイス(303、304、305)と、を備える、システム(300)。
【請求項13】
命令を含むコンピュータプログラムであって、前記命令は、前記
コンピュータプログラムがコンピュータ(301)によって実行されると、前記コンピュータ(301)に請求項1
から11のいずれか一項に記載の
コンピュータ実装方法のステップを遂行させる、コンピュータプログラム。
【請求項14】
コンピュータによって実行されると、前記コンピュータに請求項1
から11のいずれか一項に記載の
コンピュータ実装方法のステップを遂行させる命令を
記録したコンピュータ可読記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、移動熱源を使用する任意の製造プロセス、例えば、溶接及び粉末床溶融結合(Powder Bed Fusion、PBF)に適用可能な点ごとの重ね合わせに基づくシミュレーション方法に関する。より具体的には、本開示は、以下でより良く説明するように、メソスケールモデルとマクロスケールモデルとをリンクするスケーリング手順に関する。
【背景技術】
【0002】
3D印刷の分野では、いくつかの技術が利用可能である。例えば、PBFは、集束エネルギーを使用して粉末層を溶融又は焼結する全てのプロセスを含む。
【0003】
これらのプロセスに関連する主な製造上の問題は、多孔性、亀裂、層間剥離、残留応力、及び歪みである。特に、残留応力は、機械的強度を低下させることがある一方で、歪みは、許容誤差外の構成要素又は部品とリコータとの間の衝突をもたらすことがある。
【0004】
したがって、起こり得る故障を予測して試行錯誤手順の影響を最小限に抑えるために、信頼できる高速シミュレーション方法が利用可能であれば、この分野では有用であり歓迎されるであろう。
【0005】
一般に、メソスケール及びマクロスケールのモデルは、残留応力の影響を調査するのに最も適しており、一方、マイクロスケール及び粒子スケールのモデルは、主に微細構造、気孔率、及び表面粗さに焦点を当てている。
【0006】
より具体的には、メソスケールモデルは、局所的な熱履歴、並びに限られた体積に対する走査プロセスによって生成される残留応力及び歪み場を評価するのに適している。そのようなモデルは、プロセスパラメータを最適化し、付加製造中に材料の微細構造がどのように変化し得るかを予測するために、熱力学的シミュレーション及び実験手順と組み合わせて使用することができる。微細構造は、印刷された構成要素の静的及び疲労強度に影響を与えるので、これは特に重要である。
【0007】
一方、マクロスケールモデルは、部品の歪みを予測し、応力を評価し、製造プロセス全体にわたって起こり得る故障の位置を特定するために使用することができる熱構造的又は純粋に構造的な有限要素(Finite Element、FE)解析からなる。
【0008】
メソスケールモデルの不十分なスケーラビリティにより、現在、主に計算コストのために、それらの使用は小さな走査体積に制限されている。PBFプロセスの走査長は、典型的にはビーム直径の109倍を超えるため、このような制限を克服するためには、スケーリング手順が望ましい。
【0009】
したがって、製造プロセスによって引き起こされる残留応力及び部品歪みを予測することを目的としたFEモデルの初期条件を計算するための効率的な物理学ベースの方法が、当分野において歓迎されるであろう。
【発明の概要】
【0010】
一態様では、本明細書に開示される主題は、材料を溶融又は焼結するように意図された移動熱源を使用する製造プロセスをシミュレートするためのコンピュータ実装方法である。この方法は、所与の材料に対して使用されるプロセスパラメータのセットについて、プロセス誘起熱履歴並びに残留応力及び歪み場を表す物理量を計算するためのメソスケールモデルの実装を含む。また、この方法は、複数の要素を含む、製造プロセスに関与する全ての部品のマクロスケールFEモデルを定義する。次に、本方法は、メソスケールモデルとマクロスケールモデルとをリンクするスケーリング手順を実施する。より具体的には、そのようなスケーリング手順として、点ごとの歪み重ね合わせ(Pointwise Strain Superposition、PSS)法が開示される。本方法は、1つ以上のメソスケール熱構造シミュレーションから得られた結果に基づいて、マクロスケール構造モデルの不適合歪み(すなわち、マクロスケールモデルに適用される初期弾性歪みの加法的逆数)及び初期状態を計算し、したがって、プロセス誘起残留応力及び部品歪みを評価するために必要とされる全体的な計算コストを低減する。このようにして、例えば、PBF付加製造プロセスによって誘起される残留応力及び部品歪みの両方の効率的な予測が達成される。更に、製造される可能性のある部品の製造可能性及び機械的強度の評価も達成される。
【0011】
本明細書では、コンピュータ実装シミュレーション方法を遂行するように動作可能なプロセッサを有する処理ユニット又はコンピュータを備える、製造プロセスをシミュレーションするためのシステムも開示される。システムは、データベースと、達成された結果を表示、印刷、又は記憶するためのデバイスとを備えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
本発明の開示の実施形態とそれに付随する利点の多くについての完全な理解は、添付図面に関連して考えながら以下の発明を実施するための形態を参照することによって、より容易に得られるであろう。
【
図1】新しいスケーリング手順を組み込むコンピュータ実装シミュレーション方法のフローチャートを示す。
【
図2】
図1のシミュレーション方法の詳細なフローチャートを示す。
【
図3】第1の実施形態によるメソスケールモデルの概略図を示す。
【
図4】単一走査線のメソスケールシミュレーションから得られた残留フォンミーゼス等価応力場の3D断面を示す。
【
図5】単一走査線のメソスケールシミュレーションから得られた残留応力場の横方向成分の断面図を示す。
【
図6】単一走査線のメソスケールシミュレーションから得られた残留応力場の長手方向成分の断面を示す。
【
図7】マクロスケールシミュレーション手順を示す。
【
図8A】シミュレーション方法を検証するために使用されたカンチレバー形状の試料と、構築プロセス後に支持体上で行われたワイヤカットとを示す。
【
図9】切断後の試料のシミュレートされた上面プロファイルと測定された上面プロファイルとの比較を示す。
【
図10】
図1~
図2のコンピュータ実装シミュレーションを行うように構成されたシステムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
所定の経路に沿って移動する熱源を使用する任意の製造プロセス、例えば、溶接プロセス又は付加製造プロセスをシミュレートするための方法が考案されている。この方法は、製造又は溶接されるワークピースのソリッドモデルを処理する。加熱プロセスに対する材料の機械的及び熱的応答は、好適なメソスケールモデルによってシミュレートされる。次いで、そのようなモデルの結果は、全プロセスを通して生成される残留応力及び歪みを予測するために、製造(又は溶接)されるワークピース全体の構造的挙動をシミュレートするようにスケーリングされる。
【0014】
概して、本明細書に開示されるシミュレーション方法は、3つの主なステップ、メソスケールシミュレーションと、スケーリング手順と、マクロスケールシミュレーションと、を含む。メソスケールシミュレーションは、単一の走査線であっても、限られた体積上で走査プロセスを再現し、プロセス誘起残留応力-歪み場を表す物理量を評価する。次いで、スケーリング手順は、所与の走査経路に従って、メソスケール結果をマクロスケールFEメッシュに移行する。最後に、マクロスケールシミュレーションは、製造プロセス全体を再現して、ワークピース全体の残留応力及び歪みを評価する。このようにして、非常に限られた計算コストでプロセス全体をシミュレートすることが可能である。
【0015】
以下の説明及び以下に提示される実施形態では、PBFプロセスが考慮されるが、本明細書で説明される方法がこの特定の使用に限定されないことは明らかである。
【0016】
シミュレーション方法は、
図1及び
図2に示されており、全体は参照番号100で示されている。
【0017】
図1を参照すると、シミュレーション方法100の上述の3つの主要なステップが、それを実行するために必要な入力データとともに示されている。走査戦略140と称されるプロセス関連入力データは、以下でより良く定義されるように、プロセスパラメータ141及び走査経路142を含む。材料特性143と称される材料関連入力データは、シミュレーション方法100によって必要とされる全ての熱物理特性及び機械特性を含む。最後に、FEメッシュ144と称される離散化関連入力データは、製造プロセスがシミュレートされなければならないワークピースのソリッドモデルを離散化することによって得られる要素及び節点位置のリストを含む。
【0018】
依然として
図1及び
図2を参照すると、シミュレーション方法100のメソスケールシミュレーションステップ110は、所与の材料143に対して使用されるプロセスパラメータ141の各セットについて、プロセス誘起熱履歴並びに残留応力及び歪み場を計算するサブステップを含む。また、メソスケールシミュレーション110は、ステップ112で結果を記憶するステップを含む。
【0019】
より具体的には、メソスケールシミュレーションステップ110は、走査戦略140の一部として、ステップ141で以前に検索され読み取られたプロセスパラメータを入力として受け取る。これらのパラメータは、シミュレートされる製造プロセス又は溶接プロセスの制御変数、例えば、ビーム出力、走査速度、ビーム直径、層厚さ、及び予熱温度である。
【0020】
メソスケールシミュレーションステップ110の結果(すなわち、残留弾性歪み、塑性歪み、及び最大温度場)がサンプリングされ、1つ以上の補間関数を定義するために使用される。特に、いくつかの実施形態では、結果は、走査方向に垂直な平面上でサンプリングされ、ステップ112において、ハードウェアベース(メモリ、ハードディスク、若しくは任意の他の記憶手段)及び/又はソフトウェアベースであり得る好適な記憶手段によって、二次元補間関数として記憶される。
【0021】
スケーリングステップ120は、4つのサブステップを含む。第1のサブステップ121は、マクロスケールFEメッシュ144の各要素のサンプル点の定義である。第2のサブステップ122は、各サンプル点における選択された物理量の初期化である。
【0022】
次に、サブステップ123において、各サンプル点における物理量(この実施形態では、不適合歪み及び初期等価塑性歪み)の値が計算される。この計算は、定義された経路142に従って実行され、この経路は、前述したように、走査戦略の一部であり、事前に設定される。次に、平均化サブステップ124において、物理量の値がFEメッシュ144の要素に移行される。
【0023】
このようにして、メソスケールシミュレーション110の結果は、マクロスケールFEメッシュ144の各要素にスケーリングされ、したがって、マクロスケールモデル132の初期状態131を提供する。
【0024】
マクロスケールシミュレーション130は、初期状態131を読み取り、マクロスケールモデル132を通して製造プロセス全体を通して生成された残留応力及び歪みを評価する。
【0025】
最終的に、主要な開示を構成するスケーリングステップ120は、異なる長さ及び時間スケールの2つの有限要素モデルをリンクする。それは、特に、メソスケール熱構造モデルから得られた結果に基づいてマクロスケール構造モデルの不適合歪み及び初期状態を計算し、したがって、前述のように、プロセス誘起残留応力及び部品歪みを評価するために必要とされる全体的な計算コストを低減する。
【0026】
言い換えれば、スケーリングステップ120は、より細かいがより遅いシミュレーションモデル、すなわち上述のメソスケールモデル111の結果を使用して、より粗いがより速いシミュレーションモデル、すなわちマクロスケールモデル132の入力を定義する。
【0027】
シミュレーション方法100は、シミュレーション方法100を実装するソフトウェアを実行するように適切にプログラムされたコンピュータ又は任意の他の処理機器と同様に、処理手段又は処理機器によって実行されることが意図される。そのような機器の例を
図10に示し、以下でより詳細に説明する。
【0028】
以下では、PBFプロセスに適用されるシミュレーション方法100の実施形態を詳細に説明する。より具体的には、スケーリングステップ120の動作をより良く開示するために、ステップ111のメソスケールモデル及びステップ132のマクロスケールモデルの例を説明する。
【0029】
1.メソスケールモデル
本実施形態のステップ111のメソスケールモデルは、単一走査線(
図3の点Aから点Bまで)によって生成される温度、応力、及び歪み場を評価する。これは、一方向結合FE熱構造シミュレーションからなる。
【0030】
メソスケールモデル111のドメイン200は、
図3に示されるように、基板203及び1つの粉末層204を含む。参照を容易にするために、デカルト座標系x、y、及びzが提供される。特に、z軸は、構築方向、すなわち、粉末層が加えられる方向と整列され、x軸は、サンプリング面201に垂直であり、ひいては、y-z面に平行である走査方向と整列される。2つの点Aと点Bとの間の単一走査線202は、x軸に平行である。メソスケールモデルのドメイン200には、基板203及び粉末層204も示されている。
【0031】
ドメイン200は、走査方向及び構築方向を含む平面を中心に対称である。
【0032】
本実施形態では、メソスケールモデル111の熱及び構造FE方程式は、以下の通りである。
【0033】
【数1】
ここで
[C
T]は、熱比熱行列であり、
{T}及び
【0034】
【数2】
は、節点温度ベクトル及びその時間導関数であり、
[K
T]は、熱伝導率行列であり、
{F
q}は、熱体積力ベクトル(移動する体積熱源の積分から生じる)であり、
{F
g}は、熱勾配力ベクトル(蒸発、放射、対流、及び一定温度の境界条件を受ける全ての表面を通して伝導される熱の影響を包含する)であり、
[K
u]は、構造剛性行列であり、
{u}は、節点変位ベクトルであり、
{F
u}は、構造節点荷重ベクトル(iperstatic境界条件から生じる)であり、
[K
uT]は、熱弾性剛性マトリックスであり、
T
refは、熱歪を計算するために採用される基準温度である。
【0035】
他の実施形態では、他の数値解などの他の近似プロセス又は方法を使用することができ、特定の場合には、利用可能なときはいつでも解析解さえ使用することができる。
【0036】
体積熱源は、溶融材料の領域である溶融プールの内部で生じるビーム-物質相互作用及び移流現象をモデル化する。熱源は、走査線202の始点(点A)から終点(点B)まで、ステップ141で検索されたプロセスパラメータの考慮されたセットによって定義される速度で移動し、シミュレートされた溶融ゾーンと測定された溶融ゾーンとの間の差を最小化するように較正される。
【0037】
他の実施形態では、ビーム-物質相互作用は、状況並びに境界条件に応じて異なるようにモデル化することができる。
【0038】
コンピュータ実装シミュレーションモデル内では、相転移を受ける要素の、熱シミュレーションについては熱伝導率を変更し、構造シミュレーションについては剛性を変更することによって、溶融及び凝固がシミュレートされる。
【0039】
節点温度、すなわちFEメッシュ144の各節点における温度は、ステップ141において検索され読み取られたプロセスパラメータのセットに従って予熱温度で初期化される。
【0040】
熱シミュレーション中(
図3参照)、表面z=0は、蒸発、放射、及び対流を受ける。表面y=0は、断熱(対称性のため)であり、他の全ての境界面は予熱温度に維持される。
【0041】
構造シミュレーション中(常に
図3参照)、表面z=0は無応力、表面y=0は対称制約u
y=0を受け、式中、u
yはy方向の変位であるが、他の全ての境界面は半無限仮説に従って完全に制約され、すなわち、変位は走査領域から遠い距離で無視できる。
【0042】
端点に近いドメイン領域を除いて、熱構造問題は準定常である。したがって、考慮されるドメイン200は、時間が無限大になるにつれて静止状態に近づくので、残留応力(
図4、
図5、及び
図6参照)及び歪み場は、走査方向xに沿って不変である。
【0043】
単一の走査線によって生成される残留応力場は、典型的には、表面上に引張静水圧成分を示す。それに応じて、応力は、自己平衡を確実にするために、表面下領域において圧縮性になる。
【0044】
図4は、第1の実施形態によるニッケル基合金Inconel(登録商標)718上のx軸に沿った単一走査線のメソスケールシミュレーションから得られた残留フォンミーゼス等価応力場の3D断面を示す。フォンミーゼス等価応力は、以下のように定義される。
【0045】
【数3】
ここでσ
1、σ
2及びσ
3は主応力である。
【0046】
また、
図5は、第1の実施形態によるInconel(登録商標)718上のx軸に沿った単一走査線のメソスケールシミュレーションから得られた残留応力場の横方向成分の断面を示す(値はMPa-メガパスカル)。
【0047】
図6は、第1の実施形態による、Inconel(登録商標)718上のx軸に沿った単一走査線のメソスケールシミュレーションから得られた残留応力場の長手方向成分の断面を示す(値はMPa-メガパスカル)。
【0048】
2スケーリング手順
スケーリング手順120は、メソスケール結果に基づいてマクロスケールシミュレーション130の不適合な歪み及び初期状態131を定義することによって、メソスケール111及びマクロスケール132モデルをリンクする。
【0049】
不適合歪みは、マクロスケールモデル132に適用される初期弾性歪みの加法的逆元である。
【0050】
単一の走査線202のメソスケールシミュレーション110(
図3を再び参照)は、所与の材料143を処理するために使用されるパラメータ141(例えば、電力、速度、ビーム直径、層厚さ)のあらゆる組み合わせで実行される。
【0051】
残留弾性歪み
【0052】
【0053】
【数5】
及び最大温度T
maxフィールドは、
図3のデカルト座標系ではx軸である走査方向に垂直な平面201上でサンプリングされる。これらの結果は物理量であり、3つの補間関数の形、
【0054】
【数6】
及びT
max(p)でデータベース112に記憶され、ここでpは、サンプリング面201上の位置である。このような補間関数は、対応する材料-パラメータの組み合わせを通じて再び呼び出すことができる。
【0055】
スケーリング手順120は、ステップ144において、
図2を参照して定義されたマクロスケールFEメッシュの要素内にサンプル点121を定義することによって開始する。
【0056】
走査線のリストは、ステップ142において走査経路から抽出され、各線は、プロセスパラメータ141(
図2参照)の対応するセットに関連付けられる。これらのデータは、3つの配列に記憶される(ここでn
lは、走査線の総数である)。
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
この実施形態では、PSS手順123は、ステップ121において生成された各サンプル点について、不適合歪み
【0061】
【0062】
【数11】
を計算する。他の実施形態では、異なる物理量が考慮されてもよい。
【0063】
初期化ステップ122及び重ね合わせアルゴリズム123の両方の実施形態が、擬似コードで以下に報告される。
【0064】
【0065】
【数12】
は両方とも、ステップ121で生成された各サンプル点について、0に初期化され(1行目、2行目)、考慮されている走査線上のサンプル点の投影がその始点と終点との間及びその下にある場合(9行目)、更新される。
【0066】
その場合、サンプル点は走査方向に垂直な平面上に投影される(10行目)。次いで、考慮される走査線によって生成された弾性歪み
【0067】
【0068】
【数14】
及び最大温度T
maxが、対応する補間関数112を通して検索される。
【0069】
【0070】
【数16】
の符号を変えることによって得られ、ここで、最大トレース(18行目)は、最後の緩和(14~17行目)後に評価され、グローバル基準フレーム(19行目)で表される。
【0071】
初期等価塑性歪みは、最後の緩和(14~17行目)後に計算された最大値
【0072】
【0073】
【0074】
上記メッシュの各要素内のサンプル点で計算された値を平均化することによって(ステップ124)、マクロスケールメッシュ144の要素に非適合性及び初期等価塑性歪みが移行される。
【0075】
【数19】
ここでn
eは、要素ドメインΩ
eに属するステップ121で生成されたサンプル点の数である。
【0076】
3.マクロスケールモデル
構造FEシミュレーションからなるマクロスケールシミュレーション130は、全構築プロセスを通じて変位場及び全ての導出量を推定する。
【0077】
部品体積は、構築方向に垂直な平面でスライスされる。
【0078】
図7を参照すると、製造された部品に属する全ての要素は、最初に非アクティブ化され、すなわち、それらの剛性は、その元の値に対して無視できるようにされる。次に、スライスは、それらの要素の元の剛性を回復することによって順次アクティブ化される。
【0079】
アクティブ化された要素は、初期弾性歪み
【0080】
【数20】
及びスケーリングステップ120においてPSS手順123によって定義される初期等価塑性歪み
【0081】
【0082】
解くべき構造FE方程式は、以下の形式である。
[Ku]{u}={Fu}-[KuT]{T-Tref}
ここで
[Ku]は、構造剛性行列であり、
{u}は節点変位ベクトルであり、
{Fu}は、構造節点荷重ベクトル(iperstatic境界条件から生じる)であり、
[KuT]は、熱弾性剛性マトリックスであり、
{T}は、節点温度ベクトルであり、
Trefは、熱歪を計算するために採用される基準温度である。
【0083】
ベースプレートは、構築プロセス中の剛体運動を防止するために、少なくとも等方的に拘束される。
【0084】
アクティブ要素に属さない全ての節点は、アクティブ化まで各スライスの上面をその公称形状及びサイズに維持するように完全に制約される(
図7参照)。
【0085】
4.シミュレーション方法の検証
シミュレーション方法100は、
図8A及び
図8Bに表されるカンチレバー形状の試料に対して試験された。試料は、選択的レーザ溶融Inconel(登録商標)718で製造された。3Dスキャンで上部プロファイルを測定する前に、支持体をワイヤカットした。
【0086】
ワイヤカットは、構築プロセス中に生成されたx-z応力勾配に起因して、カンチレバーを屈曲させる(
図8B)。
【0087】
シミュレートされた上部プロファイルと測定された上部プロファイルとの比較が
図9に示されている。全体として、シミュレーションは、0.2mmの最大絶対誤差で上方変位を過大評価する。この精度は、異なる試料間の測定データの変動に匹敵する。
【0088】
支持体除去後のカンチレバーの歪みは、主に、構築プロセス中に蓄積された曲げ応力の解放によって駆動されるので、シミュレーション方法は、試料の上部フランジ全体にわたる応力場を正確に再現するように見える。
【0089】
5.結論
方法100は、溶接、直接エネルギー堆積、レーザ金属堆積、熱溶解積層法(Fused Deposition Modeling)、PBF、及び他の付加製造プロセスなどの、移動熱源を使用する任意の製造プロセスをシミュレートするために適用することができる。
【0090】
PSS手順123は、同様の構造スケーリング戦略と同等であるか、又はそれよりも効率的である。実際、それは単一の走査線202のメソスケールモデルステップ111を必要とするが、他の方法は1つ以上の層204をシミュレートする。更に、PSS手順123は、結果として、フルスケールの熱分析を実行する全てのシミュレーション戦略よりも速くなった。これは、計算リソースを節約し、処理速度も増加させる。
【0091】
ここで
図10を参照すると、方法100を遂行するためのシステム300が示されている。システム300は、方法100を実行するように構成されたプロセッサ301’を備えたコンピュータ又は処理ユニット301を含み、例えば、移動する熱源によって生成又は溶接プロセスをシミュレートし、熱源は製造経路に従って駆動される。コンピュータ301は、シミュレーション方法を行うコンピュータプログラムを実行するように動作可能である。
【0092】
シミュレーション方法100を実装するソフトウェアは、異なるコンピュータシステムによって実行することができる。例えば、Intel(登録商標)又はAMD(登録商標)プロセッサを有する一般的なラップトップ(HP(登録商標)、ThinkPad(登録商標)、Apple(登録商標)など)を使用することができ、これは、単なる例として、1GB RAMなどの好適なRAMメモリパッケージを備える。
【0093】
また、サーバが使用されてもよく、サーバは、現場に設置されてもよいし、又はクラウドベースであってもよい。更に、処理手段が必要とされるという事実のために、処理が開始される場所に対して遠隔であっても、コンピュータネットワークを使用することができる。更に、シミュレーション方法100を実行するために、原則として、好適にプログラムされたタブレット又はスマートフォンなどのハンドヘルドデバイスを使用することができる。理論的には、量子コンピュータ又は任意の他の処理手段であっても、シミュレーション方法100を処理するためにプログラムすることができる。
【0094】
シミュレーション方法を実装するために使用されるソフトウェア言語に関しては、C++、Fortranなどのコンパイルされた言語が好ましいはずであるが、Python、Javaなどのインタープリタ型言語であっても、特定の場合に応じて好適であり得る。
【0095】
システム300は、補間関数112を記憶するように構成されたデータベース302も備える。データベース302は、ハードウェアベース(メモリ、ハードディスク又は任意の他の記憶手段)及び/又はソフトウェアベースであってもよく、コンピュータプロセッサと結合される。補間関数は、対応する材料-パラメータの組み合わせを介してデータベース302から呼び出すことができる。
【0096】
システム300はまた、ディスプレイ303、プリンタ304、及び計算の結果を記憶する追加の記憶手段305のためのデバイスを備え、全てがコンピュータ301に接続され、それによって制御される。そのようなデバイスは、シミュレーションの結果を示すように構成される。
【0097】
この解決策の利点は、妥当な計算コストでかなりの走査体積の物理学ベースのシミュレーションを可能にすることである。
【0098】
更に、本明細書で開示される解決策の利点は、メソスケールレベルで調査されるスキャン経路依存構成の数が最小化されるという事実である。
【0099】
また、本開示によるシミュレーション方法の利点は、製品開発のために現在使用されている試行錯誤手順の数を減らすことを可能にするという事実である。
【0100】
本発明の態様は、様々な特定の実施形態に関して説明されてきたが、当業者には、特許請求の範囲の趣旨及び範囲を逸脱することなく多くの修正、変更、及び省略が可能であることが、当業者には明らかであろう。加えて、本明細書で別段の指定がない限り、いずれのプロセス又は方法ステップの順序又は配列も、代替的な実施形態に従って変更又は再配列され得る。
【0101】
本開示の実施形態に対して詳細な参照がなされており、これらの1つ以上の例は、図面に例示されている。各例は、本開示を限定するものではなく、本開示の説明として提供するものである。実際には、本開示の範囲又は趣旨から逸脱しない限り、本開示に様々な修正及び変形を加えることができるということが、当業者には明らかであろう。本明細書全体を通して「ある実施形態」又は「一実施形態」又は「いくつかの実施形態」への言及は、一実施形態に関して説明される特定の特徴、構造、又は特性が、開示される主題の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書全体を通して様々な個所における「ある実施形態では」又は「一実施形態では」又は「いくつかの実施形態では」という句が現れると、それは、必ずしも同じ実施形態を指しているものではない。また、特定の特徴、構造、又は特性は、1つ以上の実施形態において、任意の好適な様式において組み合わされ得る。
【0102】
様々な実施形態の要素を提示する際、冠詞「ある(a)」、「ある(an)」、「その(the)」、及び「当該(said)」は、要素のうちの1つ以上があることを意味することを意図している。「備える(comprising)」、「含む(including)」、及び「有する(having)」という用語は、非排他的であることが意図され、列記された要素以外の追加の要素が存在し得ることを意味するものである。