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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-16
(45)【発行日】2024-04-24
(54)【発明の名称】成形品、溶着方法及び成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 65/16 20060101AFI20240417BHJP
   C08L 77/00 20060101ALI20240417BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20240417BHJP
   C08K 5/5313 20060101ALI20240417BHJP
   C08L 77/06 20060101ALI20240417BHJP
   C08G 69/00 20060101ALI20240417BHJP
   C08G 69/26 20060101ALI20240417BHJP
【FI】
B29C65/16
C08L77/00
C08K3/013
C08K5/5313
C08L77/06
C08G69/00
C08G69/26
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2023555141
(86)(22)【出願日】2023-01-23
(86)【国際出願番号】 JP2023001843
(87)【国際公開番号】W WO2023203819
(87)【国際公開日】2023-10-26
【審査請求日】2023-09-08
(31)【優先権主張番号】P 2022070984
(32)【優先日】2022-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【弁理士】
【氏名又は名称】宮本 龍
(72)【発明者】
【氏名】樋渡 堅太
【審査官】関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/160117(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0278617(US,A1)
【文献】国際公開第2021/241382(WO,A1)
【文献】特開2020-163864(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 65/00-65/82
C08L 77/00
C08K 3/013
C08K 5/5313
C08G 69/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透過樹脂部材と吸収樹脂部材とをレーザー溶着した成形品であって、
レーザー溶着により前記透過樹脂部材と前記吸収樹脂部材とが接合した接合部分を備え、
前記透過樹脂部材又は前記吸収樹脂部材の法線を含み、且つレーザー光線の走査方向と直交する断面において、前記接合部分には溶融プールが観察され、
前記溶融プールの面積は0.210mm以上1.00mm以下であり、
前記透過樹脂部材及び前記吸収樹脂部材は、それぞれ樹脂組成物から成形され、
前記樹脂組成物は熱可塑性樹脂を含有し、
前記熱可塑性樹脂は、少なくともポリアミド系樹脂(A1)を含み、
前記樹脂組成物はガラス転移点温度が85℃以上であり、かつ、結晶化ピーク温度が220℃以下である、成形品。
【請求項2】
前記樹脂組成物はフィラー(B)を含有する、請求項1に記載の成形品。
【請求項3】
前記透過樹脂部材の、光線波長940nmに対する光線透過率が30%以上である、請求項1又は2に記載の成形品。
【請求項4】
前記樹脂組成物は、100質量部の前記熱可塑性樹脂に対し、フィラー(B)を0質量部以上150質量部以下含む、請求項1又は2に記載の成形品。
【請求項5】
前記フィラー(B)は、ガラス繊維、炭酸カルシウム、タルク、マイカ、ワラストナイト、ミルドファイバーのうち1種または2種以上である、請求項2に記載の成形品。
【請求項6】
前記ポリアミド系樹脂(A1)は、骨格中に芳香族環を含有する半芳香族ポリアミド(A1-2)、又は半芳香族ポリアミド(A1-2)と脂肪族ポリアミド(A1-1)とのアロイである、請求項1又は2に記載の成形品。
【請求項7】
前記半芳香族ポリアミド(A1-2)を構成するジカルボン酸成分100モル%中の、イソフタル酸成分の含有割合が10モル%以上である、請求項に記載の成形品。
【請求項8】
前記樹脂組成物が難燃剤(C)を含有する、請求項1又は2に記載の成形品。
【請求項9】
前記難燃剤(C)は、ホスフィン酸塩及びジホスフィン酸塩のいずれか一方又は両方である、請求項に記載の成形品。
【請求項10】
前記ホスフィン酸塩が、下記一般式(I)で表される化合物であり、
前記ジホスフィン酸塩が、下記一般式(II)で表される化合物である、請求項に記載の成形品。
【化1】
(一般式(I)中、R11及びR12はそれぞれ独立に、炭素数1以上6以下のアルキル基又は炭素数6以上10以下のアリール基である。Mn11+はn11価の金属イオンである。Mは元素周期表の第2族若しくは第15族に属する元素、遷移元素、亜鉛又はアルミニウムである。n11は2又は3である。n11が2又は3である場合、複数存在するR11及びR12はそれぞれ同一であってもよく、異なっていてもよい。
一般式(II)中、R21及びR22はそれぞれ独立に、炭素数1以上6以下のアルキル基又は炭素数6以上10以下のアリール基である。Y21は、炭素数1以上10以下のアルキレン基又は炭素数6以上10以下のアリーレン基である。M’m21+はm21価の金属イオンである。M’は元素周期表の第2族若しくは第15族に属する元素、遷移元素、亜鉛又はアルミニウムである。n21は1以上3以下の整数である。n21が2又は3である場合、複数存在するR21、R22及びY21はそれぞれ同一であってもよく、異なっていてもよい。m21は2又は3である。xは1又は2である。xが2の場合、複数存在するM’は同一であってもよく、異なっていてもよい。n21、x及びm21は、2×n21=m21×xの関係式を満たす整数である。)
【請求項11】
レーザー溶着で接合された密閉構造を有する、請求項1又は2に記載の成形品。
【請求項12】
リチウム二次電池のバッテリーケース用、センサーケース用、カメラケース用、画像または動画撮影部品筐体用、マグネットスイッチ筐体用、ブレーカー筐体用、コネクター用、二次電池筐体用、電流センサーケース用、カメラモジュール筐体用、カメラモジュール用、又はレンズバレル(鏡筒)用である、請求項1又は2に記載の成形品。
【請求項13】
透過樹脂部材と吸収樹脂部材とをレーザー溶着する溶着方法であって、
前記透過樹脂部材と前記吸収樹脂部材は、樹脂組成物から成形され、
前記樹脂組成物は熱可塑性樹脂を含有し、
前記熱可塑性樹脂は、少なくともポリアミド系樹脂(A1)を含み、
前記樹脂組成物はガラス転移点温度が85℃以上であり、かつ、結晶化ピーク温度が220℃以下であり、
前記透過樹脂部材と前記吸収樹脂部材とをレーザー溶着することにより、
前記透過樹脂部材又は前記吸収樹脂部材の法線を含み、且つレーザー光線の走査方向と直交する断面において、前記レーザー溶着された接合部位に観察される溶融プールの面積が0.210mm以上1.00mm以下となる成形品が得られる、溶着方法。
【請求項14】
請求項13に記載の溶着方法を用いた、成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形品、溶着方法及び成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
代表的なエンジニアリングプラスチックであるポリアミド樹脂は、加工が容易であり、さらに、機械物性、電気特性、耐熱性、その他の物理的・化学的特性に優れている。このため、車両部品、電気・電子機器部品、その他の精密機器部品等に幅広く使用されている。
【0003】
最近では形状の複雑な部品もポリアミド樹脂で製造されるようになって来ており、例えば、リチウム二次電池のバッテリーケースを密閉構造にするため、各種接合技術、例えば、接着剤、振動溶着、超音波溶着、熱板溶着、射出溶着、レーザー溶着技術などが使用されている。
【0004】
しかしながら、接着剤による溶着は、硬化するまでの時間的ロスに加え、周囲の汚染などの環境負荷の問題がある。
超音波溶着、熱板溶着などは、振動、熱による製品へのダメージや、摩耗粉やバリの発生により後処理が必要になるなどの問題が指摘されている。
また、射出溶着は、特殊な金型や成形機が必要である場合が多く、さらに、材料の流動性が低いと使用できないなどの問題がある。
【0005】
一方、レーザー溶着は、レーザー光に対して透過性(非吸収性、弱吸収性とも言う)を有する樹脂部材(以下、「透過樹脂部材」ということがある)と、レーザー光に対して吸収性を有する樹脂部材(以下、「吸収樹脂部材」ということがある)とを接触し溶着して、両樹脂部材を接合させる方法である。
【0006】
具体的には、透過樹脂部材側からレーザー光を接合面に照射して、接合面を形成する吸収樹脂部材をレーザー光のエネルギーで溶融させ接合する方法である。レーザー溶着は、摩耗粉やバリの発生が無く、筐体内の基盤など精密部品や製品へのダメージも少なく、さらに、ポリアミド樹脂自体、レーザー透過率が比較的高い材料であることから、ポリアミド樹脂製品のレーザー溶着技術による加工が、最近注目されている。
【0007】
上記透過樹脂部材は、通常、光透過性樹脂組成物を成形して得られる。このような光透過性樹脂組成物として、特許文献1の実施例において、ポリアミド66、ポリアミド6I、ガラス繊維、難燃剤からなる樹脂組成物でのレーザー溶着強度が開示されている。特許文献2では、ポリアミド66、ガラス繊維、難燃剤からなる樹脂組成物でのレーザー溶着強度が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2020-193333号公報
【文献】特開2019-25673号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年、レーザー溶着加工は増加しており、製品の信頼性、安全性確保の観点から高い接合強度が求められる傾向にある。特許文献1及び2で開示された実施例の接合強度は実用面において十分ではなく、より高い接合強度が必要である。接合強度は接合強さだけではなく、その破壊モードも重要である。破壊モードは、接合面で剥離する界面剥離ではなく、接着させている樹脂組成物が折れる、または接合部を含むように接合部周辺の樹脂ごと引きちぎられる母材破壊が好ましい。この理由は、母材破壊は接合部が十分な接合強度を保持しており、接合工程に不良がないことを意味しており、接合部の信頼性が高いことを意味する。

また、レーザー溶着加工により製造される成形品には、接合強度に加えて意匠性も求められるため、接合部の外観特性も求められている。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、接合強度と接合部の信頼性と接合箇所の外観特性に優れた成形品、成形品の製造方法及びレーザー溶着方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記目的を達成するべく鋭意検討を重ねた結果、レーザー溶着部分の溶融接合部分を特定範囲の面積にすることで上記課題を解決しうることを見出した。
本発明は以下の態様を包含する。
[1]透過樹脂部材と吸収樹脂部材とをレーザー溶着した成形品であって、レーザー溶着により前記透過樹脂部材と前記吸収樹脂部材とが接合した接合部分を備え、前記透過樹脂部材又は前記吸収樹脂部材の法線を含み、且つレーザー光線の走査方向と直交する断面において、前記接合部分には溶融プールが観察され、前記溶融プールの面積は0.210mm以上1.00mm以下であり、前記透過樹脂部材及び前記吸収樹脂部材は、それぞれ樹脂組成物から成形され、前記樹脂組成物は熱可塑性樹脂を含有し、前記熱可塑性樹脂は、少なくともポリアミド系樹脂(A1)を含み、前記樹脂組成物はガラス転移点温度が85℃以上であり、かつ、結晶化ピーク温度が220℃以下である、成形品。
[2]前記樹脂組成物はフィラー(B)を含有する、[1]に記載の成形品。
[3]前記透過樹脂部材の、光線波長940nmに対する光線透過率が30%以上である、[1]又は[2]に記載の成形品。
[4]前記樹脂組成物は、100質量部の前記熱可塑性樹脂に対し、フィラー(B)を0質量部以上150質量部以下含む、[1]~[3]のいずれか1つに記載の成形品。
[5]前記フィラー(B)は、ガラス繊維、炭酸カルシウム、タルク、マイカ、ワラストナイト、ミルドファイバーのうち1種または2種以上である、[2]~[4]のいずれか1つに記載の成形品。
[6]前記ポリアミド系樹脂(A1)は、骨格中に芳香族環を含有する半芳香族ポリアミド(A1-2)、又は半芳香族ポリアミド(A1-2)と脂肪族ポリアミド(A1-1)とのアロイである、[1]~[5]のいずれか1つに記載の成形品。
[7]前記半芳香族ポリアミド(A1-2)を構成するジカルボン酸成分100モル%中の、イソフタル酸成分の含有割合が10モル%以上である、[6]に記載の成形品。
[8]前記樹脂組成物が難燃剤(C)を含有する、[1]~[7]のいずれか1つに記載の成形品。
[9]前記難燃剤(C)は、ホスフィン酸塩及びジホスフィン酸塩のいずれか一方又は両方である、[8]に記載の成形品。
[10]前記ホスフィン酸塩が、下記一般式(I)で表される化合物であり、前記ジホスフィン酸塩が、下記一般式(II)で表される化合物である、[9]に記載の成形品。
【0011】
【化1】
(一般式(I)中、R11及びR12はそれぞれ独立に、炭素数1以上6以下のアルキル基又は炭素数6以上10以下のアリール基である。Mn11+はn11価の金属イオンである。Mは元素周期表の第2族若しくは第15族に属する元素、遷移元素、亜鉛又はアルミニウムである。n11は2又は3である。n11が2又は3である場合、複数存在するR11及びR12はそれぞれ同一であってもよく、異なっていてもよい。
一般式(II)中、R21及びR22はそれぞれ独立に、炭素数1以上6以下のアルキル基又は炭素数6以上10以下のアリール基である。Y21は、炭素数1以上10以下のアルキレン基又は炭素数6以上10以下のアリーレン基である。M’m21+はm21価の金属イオンである。M’は元素周期表の第2族若しくは第15族に属する元素、遷移元素、亜鉛又はアルミニウムである。n21は1以上3以下の整数である。n21が2又は3である場合、複数存在するR21、R22及びY21はそれぞれ同一であってもよく、異なっていてもよい。m21は2又は3である。xは1又は2である。xが2の場合、複数存在するM’は同一であってもよく、異なっていてもよい。n21、x及びm21は、2×n21=m21×xの関係式を満たす整数である。)
11]レーザー溶着で接合された密閉構造を有する、[1]~[10]のいずれか1つに記載の成形品。
12]リチウム二次電池のバッテリーケース用、センサーケース用、カメラケース用、画像または動画撮影部品筐体用、マグネットスイッチ筐体用、ブレーカー筐体用、コネクター用、二次電池筐体用、電流センサーケース用、カメラモジュール筐体用、カメラモジュール用、又はレンズバレル(鏡筒)用である、[1]~[11]のいずれか1つに記載の成形品。
13]透過樹脂部材と吸収樹脂部材とをレーザー溶着する溶着方法であって、前記透過樹脂部材と前記吸収樹脂部材は、樹脂組成物から成形され、前記樹脂組成物は熱可塑性樹脂を含有し、前記熱可塑性樹脂は、少なくともポリアミド系樹脂(A1)を含み、前記樹脂組成物はガラス転移点温度が85℃以上であり、かつ、結晶化ピーク温度が220℃以下であり、前記透過樹脂部材と前記吸収樹脂部材とをレーザー溶着することにより、前記透過樹脂部材又は前記吸収樹脂部材の法線を含み、且つレーザー光線の走査方向と直交する断面において、前記レーザー溶着された接合部位に観察される溶融プールの面積が0.210mm以上1.00mm以下となる成形品が得られる、溶着方法。
14][13]に記載の溶着方法を用いた、成形品の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、接合強度と接合部の信頼性と接合箇所の外観特性に優れた成形品、成形品の製造方法及びレーザー溶着方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態の成形品の一例の断面写真図である。
図2】本実施形態の成形品の一例の断面写真図である。
図3】レーザー溶着を説明するための模式図である。
図4】接合強度の測定方法を説明するための模式図である。
図5】成形品の断面の取得方法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という)について詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0015】
なお、本明細書において、「ポリアミド」とは主鎖中にアミド(-NHCO-)基を有する重合体を意味する。
【0016】
<成形品>
本実施形態は、透過樹脂部材と吸収樹脂部材とをレーザー溶着した成形品である。
本実施形態の成形品は、レーザー溶着による接合部分を有する。
本明細書における、「接合部分」とは、透過樹脂部材と吸収樹脂部材とを、レーザー溶着によって接合させた際に、吸収樹脂部材が溶融し、透過樹脂部材が前記溶融箇所の熱を受け取って溶融し、これらの溶融領域が接触した状態で固化することで、透過樹脂部材と吸収樹脂部材とが接合した箇所を指す。
【0017】
前記「接合部分」は成形品中に一か所、または複数箇所あってよい。接合部分を有することにより、例えば、部品同士を接合して複合化する、または密閉構造を形成する、などの効果が期待される。
【0018】
レーザ照射経路は特に限定されないが、例えば、部品を接合する場合は、始点と終点が離れた、開いた経路にすることができ、密閉構造を有する成形品を作製する場合は、終点が経路上の任意の点(始点を含む)と重なる、閉じた経路にすることができる。前記開いた経路の形状は特に限定されず、直線、曲線またはこれらの組み合わせでも良い。前記閉じた経路の形状は特に限定されず、密閉構造を有する成形品の形状によって適宜調整することができる。
【0019】
本実施形態の成形品は、少なくとも透過樹脂部材と吸収樹脂部材とが接合されていればよく、接合する透過樹脂部材と吸収樹脂部材とは、それぞれ2点以上であってもよい。
【0020】
透過樹脂部材とは、レーザー光が透過する部材である。
吸収樹脂部材とは、レーザー光を吸収し、発熱して溶融する部材である。
【0021】
本実施形態の成形品は、透過樹脂部材又は吸収樹脂部材の法線を含み、レーザー光線の走査方向と直交する断面において、接合部分には溶融プールが観察される。
図5に示すように、透過樹脂部材1又は吸収樹脂部材2の法線Nを定義する。法線Nは、接平面に垂直な線である。透過樹脂部材1又は吸収樹脂部材2が曲面である場合には、曲面の接線に垂直な線を法線Nとする。
本明細書においてレーザー光線の光軸とは、レーザー光の進行方向と一致する軸を意味する。
レーザー照射口自体が移動するフラッドヘッドタイプでは、レーザー照射口の移動方向をレーザー光線の走査方向とする。
固定された照射口に設置されたミラーの角度でレーザーを操作するガルバノタイプでは、ミラーに反射したレーザー光線の進行方向をレーザー光線の走査方向とする。
図5中、La1とLa2はレーザー光線の光軸であり、Laはレーザー光線の走査方向である。
本実施形態の成形品は、透過樹脂部材又は吸収樹脂部材の法線Nを含み、レーザー光線の走査方向Laと直交する断面Sにおいて溶融プールが観察される。
溶融プールとは、吸収樹脂部材が溶融し、隣接する透過樹脂部材も溶融し、それらが再固化した領域を意味する。
【0022】
本実施形態の成形品の断面の一例を図1に示す。図1は、透過樹脂部材又は吸収樹脂部材の法線を含み、レーザー光線の走査方向と直交する断面に露出する、本実施形態の成形品の接合部分を含む断面の光学顕微鏡写真である。観察倍率は溶融プール全体が視野に収まる倍率を適宜選択する。一例として、図1の倍率は50倍である。
【0023】
図1に示す成形品の断面には、透過樹脂部材1と吸収樹脂部材2の間に、溶融プール3が観察される。
【0024】
同様に、本実施形態の成形品の断面の一例を図2に示す。溶融プールの幅は、最長径の長さxであり、溶融プールの高さはxに対して垂直な最大径yである。
【0025】
溶融プールの面積は0.21mm以上1.00mm以下であり、0.22mm以上0.85mm以下が好ましく、0.23mm以上0.65mm以下がより好ましい。
溶融プール面積が上記下限値以上であると、接合強度が向上し、上記上限値以下であると、成形品の表面に加工痕がなく外観が良好な成形品を得ることができる。
【0026】
[溶融プールの面積の測定方法]
成形品の溶融プールの面積は、以下の方法により成形品の断面を得た後、以下の方法により溶融プールの面積を算出する。
【0027】
・断面の取得方法
まず、成形品を切断して接合部分を含む断面を露出させる。このとき、透過樹脂部材又は吸収樹脂部材の法線を含み、レーザー光線の走査方向と直交する方向で成形品を切断する。露出した断面を、光学顕微鏡で観察し、光学顕微鏡画像を得る。光学顕微鏡は、例えばキーエンス株式会社製VHX6000が使用できる。このときの倍率は、50倍とする。
【0028】
・溶融プールの面積の算出方法
上述の方法により得られた成形品の断面の光学顕微鏡画像について、前記装置の指定領域の面積を算出する機能により測定することができる。溶融プールの面積を測定するための領域指定は、図2で示す最大直径の長さxの両端、xに対して垂直な最大径yの両端を通過するよう溶融プールの外周部を指定する。領域指定の例を図2に破線で示す。
【0029】
溶融プールを鮮明に観察するために、レーザー溶着部分をバンドソーやのこぎりなどで切断してから観察する前に、研磨作業を行ってもよい。
【0030】
研磨作業の方法は特に限定されないが、回転研磨装置を使用することで観察領域を均一に研磨することができるので、研磨方法として好適である。
【0031】
また溶融プールをより鮮明に観察するために観察部分に対してエッチング処理を行ってもよい。
【0032】
エッチング方法は特に限定されないが、対象物を侵す化学エッチングが好適である。
【0033】
例えばポリアミドであれば、無機酸類、特に塩酸、硫酸、ギ酸がエッチング剤として好適である。
【0034】
本実施形態の成形品は、上記構成を有することで、レーザー溶着による接合強度と良好な外観を有することができる。
【0035】
本実施形態の成形品において、透過樹脂部材の光線波長940nmに対する光線透過率を30%以上にすることで、吸収樹脂部材に十分なエネルギーが伝わり、効率良い加工をすることができる。
【0036】
前記透過樹脂部材の厚みは、光線波長940nmに対する光線透過率が30%以上あれば特に限定されないが、厚みが0.3mm以上5mm以下が好ましく、0.5mm以上4mm以下より好ましく、0.7mm以上3mm以下がさらに好ましく、0.9mm以上2mm以下が最も好ましい。
透過樹脂部材の厚みが上記下限値より小さい場合、接合部に負荷が発生した場合、部材自体の破損が発生し、上記下限値以上且つ上限値以下であると光線透過率が高まり、効率よく吸収樹脂部材へエネルギーを伝えることができる。
【0037】
[光線透過率の測定方法]
透過樹脂部材の光線透過率は、以下の方法により成形品を得た後、以下の方法により光線透過率を測定する。
【0038】
・透過樹脂部材の取得
透過樹脂部材の取得方法としては射出成形、押出成形、熱プレスなど種々の加工手法により作成することができる。中でも射出成形は成形品内部の組成バラツキが小さく、再現性ある試験片(透過樹脂部材)の作成に適している。
【0039】
・光線透過率の測定方法
上述の方法により得られた透過樹脂部材を分光光度計を用いて光線透過率を測定することができる。分光光度計は例えば、日本分光(株)製(V670)に積分球「ILN-725」を組み合わせて測定することができる。樹脂を透過した光は散乱するため、積分球を用いて散乱光を捕集する測定をすることが好ましい。
【0040】
本実施形態の成形品は、レーザー溶着で接合された密閉構造を有することが好ましい。
より具体的には、本実施形態の成形品はリチウムイオン二次電池の筐体、電流センサー、カメラモジュール筐体、カメラモジュール、レンズバレル(鏡筒)、が好ましい。
【0041】
次いで、本実施形態の成形品を構成する樹脂組成物について以下に説明する。
【0042】
≪樹脂組成物≫
透過樹脂部材及び吸収樹脂部材は、それぞれ樹脂組成物から成形される。樹脂組成物は、熱可塑性樹脂を含有する。
【0043】
[熱可塑性樹脂]
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂(ポリフェニレンエーテルを他の樹脂とブレンド又はグラフト重合させて変性させた変性ポリフェニレンエーテルも含む)、ポリアリレート系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリケトン系樹脂、ポリフェニレンエーテルケトン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂(例えばα-オレフィン(共)重合体)、各種アイオノマー等が挙げられる。
【0044】
熱可塑性樹脂は、100℃以上350℃以下の範囲内に融点を有する結晶性樹脂、50℃以上250℃以下の範囲内にガラス転移温度を有する非晶性樹脂、又は、これらの組み合わせであることが好ましい。
ここでいう結晶性樹脂の融点とは、示差走査熱量分析装置(DSC)を用いて、23℃から10℃/分の昇温速度で昇温していった際に、現れる吸熱ピークのピークトップ温度をいう。吸熱ピークが2つ以上現れる場合は、最も高温側の吸熱ピークのピークトップ温度を指す。この時の吸熱ピークのエンタルピーは、10J/g以上であることが望ましく、20J/g以上であることが望ましい。また測定に際しては、サンプルを一度融点+20℃以上の温度条件まで加温し、樹脂を溶融させたのち、10℃/分の降温速度で23℃まで冷却したサンプルを用いることが望ましい。
【0045】
また、ここでいう非晶性樹脂のガラス転移温度Tgとは、動的粘弾性測定装置を用いて、23℃から2℃/分の昇温速度で昇温しながら、印加周波数8Hzで測定した際に、貯蔵弾性率が大きく低下し、損失弾性率が最大となるピークのピークトップの温度をいう。損失弾性率のピークが2つ以上現れる場合は、最も高温側のピークのピークトップ温度を指す。この際の測定頻度は、測定精度を高めるため、少なくとも20秒に1回以上の測定とする。また、測定用サンプルの調製方法については特に制限はないが、成形歪の影響をなくす観点から、熱プレス成型品の切り出し片を用いることが望ましく、また、熱伝導の観点から、切り出し片の大きさ(幅及び厚み)はできるだけ小さい方が望ましい。
【0046】
熱可塑性樹脂はホモポリマーであってもよく、コポリマーであってもよい。
【0047】
熱可塑性樹脂は、上述した樹脂を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、熱可塑性樹脂としては、上述した樹脂が、不飽和カルボン酸、その酸無水物及びその誘導体から選ばれる少なくとも1種の化合物により変性されたものも用いることもできる。
【0048】
熱可塑性樹脂としては、耐熱性、成形性、意匠性及び機械特性の観点から、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、及びポリフェニレンスルフィド系樹脂からなる群より選択される1種以上の樹脂が好ましい。
【0049】
また、本実施形態において、熱可塑性樹脂は少なくともポリアミド系樹脂(A1)を含有する。これにより、レーザー溶着による接合強度を向上させ、接合箇所の外観が良好にすることができる。なお、ポリアミド系樹脂(A1)は、単独で使用してもよく、他の熱可塑性樹脂と併用してもよい。
【0050】
(ポリアミド系樹脂(A1))
ポリアミド系樹脂(A1)は、骨格中に芳香族環を有する半芳香族ポリアミド(A1-2)、又は、脂肪族ポリアミド(A1-1)と半芳香族ポリアミド(A1-2)のアロイであることが好ましい。これにより、レーザー溶着時の接合強度を向上させ、接合箇所の外観を良好にすることができる。なお、熱可塑性樹脂は、ポリアミド系樹脂(A1)がアロイである場合に、さらに他の熱可塑性樹脂を併用した3種類以上のアロイであってもよい。
【0051】
ポリアミド系樹脂(A1)が上述したアロイである場合に、ポリアミド系樹脂(A1)中の脂肪族ポリアミド(A1-1)及び半芳香族ポリアミド(A1-2)それぞれの含有量は特に限定されない。
中でも、脂肪族ポリアミド(A1-1)及び半芳香族ポリアミド(A1-2)合計100.0質量部に対して、半芳香族ポリアミド(A1-2)の含有量は、5.0質量部以上100.0質量部以下であることが好ましく、5.0質量部以上95.0質量部以下であることがより好ましく、10.0質量部以上80.0質量部以下であることがさらに好ましく、15.0質量部以上70.0質量部以下であることがさらにより好ましい。
【0052】
また、脂肪族ポリアミド(A1-1)及び半芳香族ポリアミド(A1-2)合計100.0質量部に対して、脂肪族ポリアミド(A1-1)の含有量は、0.0質量部以上95.0質量部以下であることが好ましく、5.0質量部以上95.0質量部以下であることがより好ましく、7.0質量部以上80.0質量部以下であることがさらに好ましく、9.0質量部以上70.0質量部以下であることがさらにより好ましい。
【0053】
脂肪族ポリアミド(A1-1)及び半芳香族ポリアミド(A1-2)合計100質量部に対して、脂肪族ポリアミド(A1-1)及び半芳香族ポリアミド(A1-2)それぞれの含有量が上記数値範囲内であることで、レーザー溶着時の接合強度を向上させ、接合箇所の外観を良好にすることができる。
【0054】
(1)脂肪族ポリアミド(A1-1)
脂肪族ポリアミド(A1-1)の構成単位は、以下の(1)及び(2)のうち少なくともいずれかの条件を満たすことが好ましい。
(1)脂肪族ジカルボン酸単位(A1-1a)と脂肪族ジアミン単位(A1-1b)とを含有すること。
(2)ラクタム単位及びアミノカルボン酸単位からなる群より選択される少なくとも1種の構成単位(A1-1c)を含有すること。
【0055】
脂肪族ポリアミド(A1-1)の構成単位としては、上記(1)及び(2)のうち少なくともいずれかの条件を満たす1種又は2種以上のポリアミドを含有することができる。中でも、脂肪族ポリアミド(A1-1)の構成単位は、上記(1)を満たすことが好ましい。
【0056】
(1-1)脂肪族ジカルボン酸単位(A1-1a)
脂肪族ジカルボン酸単位(A1-1a)を構成する脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、炭素数3以上20以下の直鎖状又は分岐鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸等が挙げられる。
【0057】
炭素数3以上20以下の直鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、ヘキサデカン二酸、オクタデカン二酸、エイコサン二酸、ジグリコール酸等が挙げられる。
【0058】
炭素数3以上20以下の分岐鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ジメチルマロン酸、2,2-ジメチルコハク酸、2,3-ジメチルグルタル酸、2,2-ジエチルコハク酸、2,3-ジエチルグルタル酸、2,2-ジメチルグルタル酸、2-メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸等が挙げられる。
【0059】
これら脂肪族ジカルボン酸単位(A1-1a)を構成する脂肪族ジカルボン酸は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
中でも、樹脂組成物の耐熱性、流動性、靭性、低吸水性、及び、剛性等がより優れる傾向にあるので、脂肪族ジカルボン酸単位(A1-1a)を構成する脂肪族ジカルボン酸としては、炭素数6以上の直鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸が好ましい。
【0061】
好ましい炭素数6以上の直鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸として具体的には、例えば、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、ヘキサデカン二酸、オクタデカン二酸、エイコサン二酸等が挙げられる。
中でも、炭素数6以上の直鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸としては、樹脂組成物の耐熱性等の観点で、アジピン酸、セバシン酸又はドデカン二酸が好ましい。
【0062】
また、脂肪族ポリアミド(A1-1)は、本実施形態の成形品が奏する効果を損なわない範囲で、必要に応じて、3価以上の多価カルボン酸に由来する単位をさらに含んでもよい。3価以上の多価カルボン酸としては、例えば、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸等が挙げられる。これら3価以上の多価カルボン酸は、1種のみを単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0063】
(1-2)脂肪族ジアミン単位(A1-1b)
脂肪族ジアミン単位(A1-1b)を構成する脂肪族ジアミンとしては、例えば、炭素数2以上20以下の直鎖状飽和脂肪族ジアミン、又は、炭素数3以上20以下の分岐鎖状飽和脂肪族ジアミン等が挙げられる。
【0064】
炭素数2以上20以下の直鎖状飽和脂肪族ジアミンとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、トリデカメチレンジアミン等が挙げられる。
【0065】
炭素数3以上20以下の分岐鎖状飽和脂肪族ジアミンとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、2-メチルペンタメチレンジアミン(2-メチル-1,5-ジアミノペンタンともいう)、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミン(2-メチルオクタメチレンジアミンともいう)、2,4-ジメチルオクタメチレンジアミン等が挙げられる。
【0066】
これら脂肪族ジアミン単位(A1-1b)を構成する脂肪族ジアミンは、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0067】
中でも、脂肪族ジアミン単位(A1-1b)を構成する脂肪族ジアミンの炭素数は、6以上12以下が好ましく、6以上10以下がより好ましい。脂肪族ジアミン単位(A1-1b)を構成する脂肪族ジアミンの炭素数が上記下限値以上であることにより、成形品の耐熱性がより優れる。一方、当該炭素数が上記上限値以下であることにより、成形品の結晶性及び離形性がより優れる。
【0068】
好ましい炭素数6以上12以下の直鎖状又は分岐鎖状飽和脂肪族ジアミンとして具体的には、例えば、ヘキサメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミン等が挙げられる。
【0069】
中でも、炭素数6以上12以下の直鎖状又は分岐鎖状飽和脂肪族ジアミンとしては、ヘキサメチレンジアミン、又は、2-メチルペンタメチレンジアミンが好ましい。このような脂肪族ジアミン単位(A1-1b)を含むことにより、成形品の耐熱性及び剛性等がより優れる。
【0070】
また、脂肪族ポリアミド(A1-1)は、本実施形態の成形品が奏する効果を損なわない範囲で、必要に応じて、3価以上の多価脂肪族アミンに由来する単位を更に含んでもよい。3価以上の多価脂肪族アミンとしては、例えば、ビスヘキサメチレントリアミン等が挙げられる。
【0071】
(1-3)ラクタム単位及びアミノカルボン酸単位からなる群より選択される少なくとも1種の構成単位(A1-1c)
脂肪族ポリアミド(A1-1)は、ラクタム単位及びアミノカルボン酸単位からなる群より選択される少なくとも1種の構成単位(A1-1c)を含有することができる。このような単位を含むことにより、靭性に優れるポリアミドが得られる傾向にある。
なお、ここでいう、「ラクタム単位」、及び、「アミノカルボン酸単位」とは、重(縮)合したラクタム及びアミノカルボン酸のことをいう。
【0072】
ラクタム単位を構成するラクタムとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、ブチロラクタム、ピバロラクタム、ε-カプロラクタム、カプリロラクタム、エナントラクタム、ウンデカノラクタム、ラウロラクタム(ドデカノラクタム)等が挙げられる。
中でも、ラクタム単位を構成するラクタムとしては、ε-カプロラクタム、又は、ラウロラクタムが好ましく、ε-カプロラクタムがより好ましい。このようなラクタムを含むことにより、成形品の靭性がより優れる傾向にある。
【0073】
アミノカルボン酸単位を構成するアミノカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ラクタムが開環した化合物であるω-アミノカルボン酸やα,ω-アミノ酸等が挙げられる。
【0074】
アミノカルボン酸単位を構成するアミノカルボン酸としては、ω位がアミノ基で置換された炭素数4以上14以下の直鎖状又は分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸が好ましい。このようなアミノカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、6-アミノカプロン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸等が挙げられる。また、アミノカルボン酸としては、パラアミノメチル安息香酸等も挙げられる。
【0075】
これら構成単位(A1-1c)を構成するラクタム及びアミノカルボン酸は、それぞれ1種のみを単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0076】
脂肪族ポリアミド(A1-1)の分子量の指標としては、重量平均分子量を利用できる。脂肪族ポリアミドの重量平均分子量は10000以上50000以下が好ましく、17000以上45000以下がより好ましく、20000以上45000以下がさらに好ましく、25000以上45000以下がよりさらに好ましく、30000以上45000以下が特に好ましく、35000以上40000以下が最も好ましい。
【0077】
重量平均分子量が上記数値範囲内であることにより、レーザー溶着時の接合強度を向上させ、接合箇所の外観を良好にすることができる。
脂肪族ポリアミド(A1-1)の重量平均分子量の測定は、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)を用いて測定することができる。
【0078】
(2)半芳香族ポリアミド(A1-2)
半芳香族ポリアミド(A1-2)は、骨格中に芳香族環を有するポリアミドであって、ジアミン単位とジカルボン酸単位とを含有するポリアミドである。
【0079】
半芳香族ポリアミド(A1-2)は、半芳香族ポリアミド(A1-2)の全構成単位に対して、10モル%以上95モル%以下の芳香族構成単位を含むことが好ましく、20モル%以上90モル%以下の芳香族構成単位を含むことがより好ましく、30モル%以上85モル%以下の芳香族構成単位を含むことがさらに好ましい。ここでいう、「芳香族構成単位」とは、芳香族ジアミン単位及び芳香族ジカルボン酸単位を意味する。
【0080】
また、半芳香族ポリアミド(A1-2)は、半芳香族ポリアミド(A1-2)の全ジカルボン酸単位100モル%に対して、10モル%以上の芳香族ジカルボン酸単位を含有することが好ましく、30モル%以上の芳香族ジカルボン酸単位を含有することがより好ましく、50モル%以上の芳香族ジカルボン酸単位を含有することがさらに好ましく、70モル%以上の芳香族ジカルボン酸単位を含有することが特に好ましい。
【0081】
芳香族ジカルボン酸単位の含有量が上記下限値以上であることで、レーザー溶着時の接合強度を向上させ、接合箇所の外観を良好にすることができる。
【0082】
半芳香族ポリアミド(A1-2)中の芳香族ジカルボン酸単位は特に限定されないが、テレフタル酸単位、又はイソフタル酸単位が好ましく、イソフタル酸単位がより好ましい。
【0083】
なお、半芳香族ポリアミド(A1-2)を構成する所定の単量体単位の割合は、核磁気共鳴分光法(H-NMR)等により測定することができる。
【0084】
具体的には、例えば、半芳香族ポリアミド(A1-2)を約5質量%の濃度になる割合で重ヘキサフルオロイソプロパノールに加熱して溶解し、日本電子製核磁気共鳴分析装置JNM ECA-500を用いてH-NMRの分析を行い積分比を計算することによって、半芳香族ポリアミド(A1-2)を構成する芳香族ジカルボン酸からなる単位、芳香族ジカルボン酸以外のジカルボン酸からなる単位、芳香族ジアミンからなる単位、芳香族ジアミン以外のアミンからなる単位それぞれを算出できる。
【0085】
(2-1)ジカルボン酸単位(A1-2a)
ジカルボン酸単位(A1-2a)としては、特に限定されず、例えば、芳香族ジカルボン酸単位、脂肪族ジカルボン酸単位、脂環族ジカルボン酸単位等が挙げられる。
【0086】
(2-2-1)芳香族ジカルボン酸単位
イソフタル酸単位以外の芳香族ジカルボン酸単位を構成する芳香族ジカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、フェニル基、ナフチル基等の芳香族基を有するジカルボン酸が挙げられる。芳香族ジカルボン酸の芳香族基は、無置換でもよく、置換基を有していてもよい。
【0087】
この置換基としては、特に限定されないが、例えば、炭素数1以上4以下のアルキル基、炭素数6以上10以下のアリール基、炭素数7以上10以下のアリールアルキル基、炭素数7以上10以下のアルキルアリール基、ハロゲン基、炭素数1以上6以下のシリル基、スルホン酸基及びその塩(ナトリウム塩等)等が挙げられる。
炭素数1以上4以下のアルキル基としては、以下に限定されるものではないが、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基等が挙げられる。
【0088】
炭素数6以上10以下のアリール基としては、以下に限定されるものではないが、例えば、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0089】
炭素数7以上10以下のアリールアルキル基としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ベンジル基等が挙げられる。
【0090】
炭素数7以上10以下のアルキルアリール基としては、以下に限定されるものではないが、例えば、トリル基、キシリル基等が挙げられる。
【0091】
ハロゲン基としては、以下に限定されるものではないが、例えば、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基等が挙げられる。
【0092】
炭素数1以上6以下のシリル基としては、以下に限定されるものではないが、例えば、トリメチルシリル基、tert-ブチルジメチルシリル基等が挙げられる。
【0093】
中でも、イソフタル酸単位以外の芳香族ジカルボン酸単位を構成する芳香族ジカルボン酸としては、無置換又は所定の置換基で置換された炭素数8以上20以下の芳香族ジカルボン酸が好ましい。
【0094】
無置換又は所定の置換基で置換された炭素数8以上20以下の芳香族ジカルボン酸として具体的には、以下に限定されるものではないが、例えば、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、2-クロロテレフタル酸、2-メチルテレフタル酸、5-メチルイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸等が挙げられる。
【0095】
芳香族ジカルボン酸単位を構成する芳香族ジカルボン酸は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0096】
(2-1-2)脂肪族ジカルボン酸単位
脂肪族ジカルボン酸単位を構成する脂肪族ジカルボン酸としては、炭素数3以上20以下の直鎖状又は分岐鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸等が挙げられる。
【0097】
炭素数3以上20以下の直鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、ヘキサデカン二酸、オクタデカン二酸、エイコサン二酸、ジグリコール酸等が挙げられる。
【0098】
炭素数3以上20以下の分岐鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ジメチルマロン酸、2,2-ジメチルコハク酸、2,3-ジメチルグルタル酸、2,2-ジエチルコハク酸、2,3-ジエチルグルタル酸、2,2-ジメチルグルタル酸、2-メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸等が挙げられる。
【0099】
(2-1-3)脂環族ジカルボン酸単位
脂環族ジカルボン酸単位(以下、「脂環式ジカルボン酸単位」と称する場合がある)を構成する脂環族ジカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、脂環構造の炭素数が3以上10以下の脂環族ジカルボン酸等が挙げられる。中でも、脂環族ジカルボン酸としては、脂環構造の炭素数が5以上10以下の脂環族ジカルボン酸が好ましい。
【0100】
このような脂環族ジカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロペンタンジカルボン酸等が挙げられる。中でも、脂環族ジカルボン酸としては、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸が好ましい。
【0101】
なお、脂環族ジカルボン酸単位を構成する脂環族ジカルボン酸は、1種のみを単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0102】
脂環族ジカルボン酸の脂環族基は、無置換でもよく、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、炭素数1以上4以下のアルキル基等が挙げられる。炭素数1以上4以下のアルキル基としては、上記「芳香族ジカルボン酸単位」において例示されたものと同様のものが挙げられる。
【0103】
イソフタル酸単位以外のジカルボン酸単位としては、芳香族ジカルボン酸単位を含むことが好ましく、炭素数6以上の芳香族ジカルボン酸を含むことがより好ましい。
このようなジカルボン酸を用いることにより、機械的性質により優れる樹脂組成物が得られる傾向にある。また、レーザー溶着時の接合強度を向上させ、接合箇所の外観を良好にすることができる。
【0104】
半芳香族ポリアミド(A1-2)において、ジカルボン酸単位(A1-2a)を構成するジカルボン酸としては、上記ジカルボン酸として記載の化合物に限定されるものではなく、上記ジカルボン酸と等価な化合物であってもよい。
ここでいう、「ジカルボン酸と等価な化合物」とは、上記ジカルボン酸に由来するジカルボン酸構造と同様のジカルボン酸構造となり得る化合物を意味する。このような化合物としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ジカルボン酸の無水物、ジカルボン酸のハロゲン化物等が挙げられる。
【0105】
また、半芳香族ポリアミド(A1-2)は、本実施形態の成形品が奏する効果を損なわない範囲で、必要に応じて、3価以上の多価カルボン酸に由来する単位をさらに含んでもよい。
3価以上の多価カルボン酸としては、例えば、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸等が挙げられる。これら3価以上の多価カルボン酸は、1種のみを単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0106】
(2-2)ジアミン単位(A1-2b)
半芳香族ポリアミド(A1-2)を構成するジアミン単位(A1-2b)は、特に限定されず、例えば、芳香族ジアミン単位、脂肪族ジアミン単位、脂環族ジアミン単位等が挙げられる。中でも、半芳香族ポリアミド(A1-2)を構成するジアミン単位(A1-2b)としては、炭素数4以上10以下のジアミン単位を含むことが好ましく、炭素数6以上10以下のジアミン単位を含むことがより好ましい。
【0107】
(2-2-1)脂肪族ジアミン単位
脂肪族ジアミン単位を構成する脂肪族ジアミンとしては、例えば、炭素数4以上20以下の直鎖状飽和脂肪族ジアミン等が挙げられる。
炭素数4以上20以下の直鎖状飽和脂肪族ジアミンとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、トリデカメチレンジアミン等が挙げられる。
【0108】
(2-2-2)脂環族ジアミン単位
脂環族ジアミン単位を構成する脂環族ジアミン(以下、「脂環式ジアミン」とも称する場合がある)としては、以下に限定されるものではないが、例えば、1,4-シクロヘキサンジアミン、1,3-シクロヘキサンジアミン、1,3-シクロペンタンジアミン等が挙げられる。
【0109】
(2-2-3)芳香族ジアミン単位
芳香族ジアミン単位を構成する芳香族ジアミンとしては、芳香族基を含有するジアミンであれば以下に限定されるものではない。芳香族ジアミンとして具体的には、例えば、メタキシリレンジアミン等が挙げられる。
【0110】
なお、これら各ジアミン単位を構成するジアミンは、1種のみを単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
中でも、ジアミン単位(A1-2b)としては、脂肪族ジアミン単位が好ましく、炭素数4以上10以下の直鎖状飽和脂肪族ジアミン単位がより好ましく、炭素数6以上10以下の直鎖状飽和脂肪族ジアミン単位がさらに好ましく、ヘキサメチレンジアミン単位が特に好ましい。
このようなジアミンを用いることにより、機械的性質により優れる樹脂組成物が得られる傾向にある。また、レーザー溶着時の接合強度を向上させ、接合箇所の外観を良好にすることができる。
【0111】
半芳香族ポリアミド(A1-2)の分子量の指標としては、重量平均分子量を利用できる。半芳香族ポリアミドの重量平均分子量は10000以上50000以下が好ましく、15000以上45000以下がより好ましく、15000以上40000以下がさらに好ましく、17000以上35000以下がよりさらに好ましく、17000以上30000以下が特に好ましく、18000以上28000以下が最も好ましい。
重量平均分子量が上記数値範囲内であることにより、レーザー溶着時の接合強度を向上させ、接合箇所の外観を良好にすることができる。 半芳香族ポリアミド(A1-2)の重量平均分子量の測定は、例えば、GPCを用いて測定することができる。
【0112】
(3)末端封止剤
ポリアミド系樹脂(A1)の末端は、公知の末端封止剤により末端封止されていてもよい。
このような末端封止剤は、上記ジカルボン酸と上記ジアミンとから、又は、上記ラクタム及び上記アミノカルボン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種から、ポリアミドを製造する際に、分子量調節剤としても添加することができる。
【0113】
末端封止剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、モノカルボン酸、モノアミン、酸無水物(無水フタル酸等)、モノイソシアネート、モノエステル類、モノアルコール類等が挙げられる。末端封止剤は、1種のみを単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
中でも、末端封止剤としては、モノカルボン酸、又は、モノアミンが好ましい。ポリアミドの末端が末端封止剤で封鎖されていることにより、成形品の熱安定性がより優れる傾向にある。
【0114】
末端封止剤として使用できるモノカルボン酸としては、ポリアミドの末端に存在し得るアミノ基との反応性を有するものであればよい。モノカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸等が挙げられる。
【0115】
脂肪族モノカルボン酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチル酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、イソブチル酸等が挙げられる。
【0116】
脂環族モノカルボン酸としては、例えば、シクロヘキサンカルボン酸等が挙げられる。
芳香族モノカルボン酸としては、例えば、安息香酸、トルイル酸、α-ナフタレンカルボン酸、β-ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸、フェニル酢酸等が挙げられる。
【0117】
これらモノカルボン酸は、1種のみを単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
特に、半芳香族ポリアミド(A1-2)の末端は、流動性及び機械的強度の観点から、酢酸によって封止されていることが好ましい。
【0118】
末端封止剤として使用できるモノアミンとしては、ポリアミドの末端に存在し得るカルボキシ基との反応性を有するものであればよい。モノアミンとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、脂肪族モノアミン、脂環族モノアミン、芳香族モノアミン等が挙げられる。
【0119】
脂肪族モノアミンとしては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン等が挙げられる。
【0120】
脂環族モノアミンとしては、例えば、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン等が挙げられる。
芳香族モノアミンとしては、例えば、アニリン、トルイジン、ジフェニルアミン、ナフチルアミン等が挙げられる。
これらモノアミンは、1種のみを単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0121】
末端封止剤により末端封止されたポリアミドを含有する樹脂組成物は、耐熱性、流動性、靭性、低吸水性、及び、剛性により優れる傾向にある。
【0122】
(4)好ましいポリアミド系樹脂(A1)
好ましいポリアミド系樹脂(A1)としては、特に限定されないが、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12等のラクタム類の重縮合反応により得られるポリアミド;ポリアミド6,6、ポリアミド6,10、ポリアミド6,11、ポリアミド6,12、ポリアミド6,6/6,I、ポリアミド6,T、ポリアミド6,I、ポリアミド6,I/6,T、ポリアミド9,T、ポリアミド10,T、ポリアミド2M5,T、ポリアミドMXD,6、ポリアミド6,C、ポリアミド2M5,C等のジアミン類とジカルボン酸類との共重合体として得られるポリアミドが挙げられる。
【0123】
これらの中でも、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6,6、ポリアミド6,10、ポリアミド6,11、及びポリアミド6,12からなる群より選ばれる1種以上の脂肪族ポリアミド、又は、ポリアミド6,6/6,I、ポリアミド6,T、ポリアミド6,I、ポリアミド6,I/6,T、ポリアミド9,T、及びポリアミドMXD,6からなる群より選ばれる1種以上の半芳香族ポリアミドがより好ましい。
【0124】
(ポリアミド系樹脂(A1)の製造方法)
ポリアミド系樹脂(A1)(脂肪族ポリアミド(A1-1)及び半芳香族ポリアミド(a1-2))を製造する際に、ジカルボン酸の添加量とジアミンの添加量とは、同モル量付近であることが好ましい。重合反応中のジアミンの反応系外への逃散分もモル比においては考慮して、ジカルボン酸全体のモル量1に対して、ジアミン全体のモル量は、0.9以上1.2以下が好ましく、0.95以上1.1以下がより好ましく、0.98以上1.05以下がさらに好ましい。
【0125】
ポリアミドの製造方法としては、以下に限定されるものではないが、例えば、以下の(1)又は(2)の重合工程を含む。
(1)ジカルボン酸単位を構成するジカルボン酸と、ジアミン単位を構成するジアミンとの組み合わせを重合して重合体を得る工程。
(2)ラクタム単位を構成するラクタム、及び、アミノカルボン酸単位を構成するアミノカルボン酸からなる群より選ばれる1種以上を重合して重合体を得る工程。
【0126】
また、ポリアミドの製造方法としては、前記重合工程の後に、ポリアミドの重合度を上昇させる上昇工程を、更に含むことが好ましい。また、必要に応じて、前記重合工程及び前記上昇工程の後に、得られた重合体の末端を末端封止剤により封止する封止工程を含んでいてもよい。
【0127】
ポリアミドの具体的な製造方法としては、例えば、以下の1)~4)に例示する種々の方法が挙げられる。
1)ジカルボン酸-ジアミン塩、ジカルボン酸とジアミンとの混合物、ラクタム、及び、アミノカルボン酸からなる群より選ばれる1種以上の水溶液又は水懸濁液を加熱し、溶融状態を維持したまま重合させる方法(以下、「熱溶融重合法」と称する場合がある)。
2)熱溶融重合法で得られたポリアミドを融点以下の温度で固体状態を維持したまま重合度を上昇させる方法(以下、「熱溶融重合・固相重合法」と称する場合がある)。
3)ジカルボン酸-ジアミン塩、ジカルボン酸とジアミンとの混合物、ラクタム、及び、アミノカルボン酸からなる群より選ばれる1種以上を、固体状態を維持したまま重合させる方法(以下、「固相重合法」と称する場合がある)。
4)ジカルボン酸と等価なジカルボン酸ハライド成分と、ジアミン成分とを用いて重合させる方法(以下、「溶液法」と称する場合がある)。
【0128】
中でも、ポリアミドの具体的な製造方法としては、熱溶融重合法を含む製造方法が好ましい。また、熱溶融重合法によりポリアミドを製造する際には、重合が終了するまで、溶融状態を保持することが好ましい。溶融状態を保持するためには、ポリアミド組成物に適した重合条件で製造することが必要となる。重合条件としては、例えば、以下に示す条件等が挙げられる。まず、熱溶融重合法における重合圧力を14kg/cm以上25kg/cm以下(ゲージ圧)に制御し、加熱を続ける。次いで、槽内の圧力が大気圧(ゲージ圧は0kg/cm)になるまで30分間以上かけながら降圧する。
【0129】
ポリアミドの製造方法において、重合形態としては、特に限定されず、バッチ式でもよく、連続式でもよい。
ポリアミドの製造に用いる重合装置としては、特に限定されるものではなく、公知の装置を用いることができる。重合装置として具体的には、例えば、オートクレーブ型反応器、タンブラー型反応器、押出機型反応器(ニーダー等)等が挙げられる。
【0130】
以下、ポリアミドの製造方法として、バッチ式の熱溶融重合法によりポリアミドを製造する方法を具体的に示すが、ポリアミドの製造方法は、これに限定されない。
【0131】
まず、ポリアミドの原料成分(ジカルボン酸とジアミンとの組み合わせ、並びに、必要に応じて、ラクタム及びアミノカルボン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種)を、約40質量%以上60質量%以下含有する水溶液を調製する。次いで、当該水溶液を110℃以上180℃以下の温度、及び。約0.035MPa以上0.6MPa以下(ゲージ圧)の圧力で操作される濃縮槽で、約65質量%以上90質量%以下に濃縮して濃縮溶液を得る。
【0132】
次いで、得られた濃縮溶液をオートクレーブに移し、オートクレーブにおける圧力が約1.2MPa以上2.2MPa以下(ゲージ圧)になるまで加熱を続ける。
【0133】
次いで、オートクレーブにおいて、水及びガス成分のうち少なくともいずれかを抜きながら圧力を約1.2MPa以上2.2MPa以下(ゲージ圧)に保つ。次いで、温度が約220℃以上260℃以下に達した時点で、大気圧まで降圧する(ゲージ圧は、0MPa)。オートクレーブ内の圧力を大気圧に降圧後、必要に応じて減圧することにより、副生する水を効果的に除くことができる。
【0134】
次いで、オートクレーブを窒素等の不活性ガスで加圧し、オートクレーブからポリアミド溶融物をストランドとして押し出す。押し出されたストランドを、冷却、カッティングすることにより、ポリアミドのペレットを得る。
【0135】
[フィラー(B)]
樹脂組成物は、上記熱可塑性樹脂に加えて、フィラー(B)を更に含有することが好ましい。フィラー(B)を含有することにより、靭性及び剛性等の機械物性により優れる樹脂組成物とすることができる。
【0136】
フィラー(B)としては、特に限定されるものではなく、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、ケイ酸カルシウム繊維、チタン酸カリウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、ガラスフレーク、炭酸カルシウム、タルク、カオリン、マイカ、ハイドロタルサイト、炭酸亜鉛、リン酸一水素カルシウム、ウォラストナイト、ゼオライト、ベーマイト、酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、アルミノケイ酸ナトリウム、ケイ酸マグネシウム、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、ファーネスブラック、カーボンナノチューブ、グラファイト、黄銅、銅、銀、アルミニウム、ニッケル、鉄、フッ化カルシウム、モンモリロナイト、膨潤性フッ素雲母、アパタイト、ミルドファイバー等が挙げられる。
【0137】
これら、フィラー(B)は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
中でも、フィラー(B)としては、剛性及び強度等の観点で、ガラス繊維、炭素繊維、ガラスフレーク、タルク、カオリン、マイカ、リン酸一水素カルシウム、ウォラストナイト、カーボンナノチューブ、グラファイト、フッ化カルシウム、モンモリロナイト、膨潤性フッ素雲母、又は、アパタイトが好ましい。
【0138】
また、フィラー(B)としては、ガラス繊維、炭酸カルシウム、タルク、マイカ、ウォラストナイト、及びミルドファイバーからなる群より選ばれる1種以上であることがより好ましく、ガラス繊維又は炭素繊維がさらに好ましく、ガラス繊維が特に好ましい。
【0139】
フィラー(B)がガラス繊維又は炭素繊維である場合、数平均繊維径(d1)が3μm以上30μm以下であることが好ましい。また、重量平均繊維長(L)が100μm以上5mm以下であることが好ましい。さらに、重量平均繊維長(L)に対する数平均繊維径(D1)のアスペクト比((L)/(d1))が10以上100以下であるものが好ましい。上記構成のガラス繊維又は炭素繊維を用いることで、より高い特性を発現することができる。
【0140】
また、フィラー(B)がガラス繊維である場合、数平均繊維径(d1)が3μm以上30μm以下であることがより好ましい。重量平均繊維長(L)が103μm以上5mm以下であることがより好ましい。さらに、アスペクト比((L)/(d1))が3以上100以下であるものがより好ましい。
【0141】
フィラー(B)の数平均繊維径及び重量平均繊維長は、以下の方法を用いて測定することができる。
まず、成形品を、ギ酸等の、熱可塑性樹脂(A)が可溶な溶媒で溶解する。次いで、得られた不溶成分の中から、例えば100本以上のフィラー(B)を任意に選択する。
【0142】
次いで、フィラー(B)を光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡等で観察し、測定した繊維径の合計を、測定したフィラー(B)の数で割ることで、数平均繊維径を求めることができる。或いは、測定した繊維長の合計を、測定したフィラー(B)の合計重量で割ることで、重量平均繊維長を求めることができる。
【0143】
樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、0.0質量部以上150.0質量部以下のフィラー(B)を含有することが好ましく、10.0質量部以上140.0質量部以下のフィラー(B)を含有することがより好ましく、20.0質量部以上135.0質量部以下のフィラー(B)を含有することがさらに好ましく、25.0質量部以上130.0質量部以下のフィラー(B)を含有することが特に好ましく、30.0質量部以上100質量部以下のフィラー(B)を含有することが最も好ましい。
【0144】
フィラー(B)の含有量が上記下限値以上であることにより、成形品の強度及び剛性等の機械物性がより向上する傾向にある。一方、フィラー(B)の含有量が上記上限値以下であることにより、表面外観により優れ、且つ、レーザー溶着強度により優れる成形品を得ることができる傾向にある。
特に、フィラー(B)がガラス繊維であり、且つ、フィラー(B)の含有量が、熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、上記範囲であることにより、成形品の強度及び剛性等の機械物性がさらに向上する傾向にある。
【0145】
[難燃剤(C)]
樹脂組成物は、上記熱可塑性樹脂に加えて、難燃剤(C)を更に含有することが好ましい。
【0146】
難燃剤(C)としては、特に限定されるものではなく、例えば、塩素系難燃剤や臭素系難燃剤等のハロゲン元素を含むハロゲン系難燃剤、ハロゲン元素を含有しないリン系難燃剤等が挙げられる。
これら難燃剤(C)を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また難燃助剤と併用することで難燃性をさらに向上させることができる。
【0147】
ハロゲン系難燃剤としては、押出や成形等の溶融加工時の腐食性ガスの発生量を抑制するという観点や、さらには難燃性の発現、靭性及び剛性等の機械物性の観点で、臭素化ポリフェニレンエーテル(ポリ(ジ)ブロモフェニレンエーテル等を含む)、又は臭素化ポリスチレン(ポリジブロモスチレン、ポリトリブロモスチレン、架橋臭素化ポリスチレン等を含む)が好ましく、臭素化ポリスチレンがより好ましい。
【0148】
臭素化ポリスチレン中の臭素含有量は、臭素化ポリスチレンの総質量に対して、5質量%以上75質量%以下が好ましい。臭素含有量が上記下限値以上であることにより、より少ない臭素化ポリスチレンの配合量で難燃化に必要な臭素量を満足させることができ、ポリアミド共重合体の有する性質を損なうことなく、耐熱性、流動性、靭性、低吸水性、及び剛性に優れ、かつ難燃性により優れる成形品を得ることができる。また、臭素含有量が上記上限値以下であることにより、押出や成形等の溶融加工時において熱分解をより起こし難く、ガス発生等をより抑制することができ、耐熱変色性により優れる成形品を得ることができる。
【0149】
リン系難燃剤としては、ハロゲン元素を含有せずリン元素を含む難燃剤であれば、特に限定されるものではない。リン系難燃剤としては、例えば、リン酸エステル系難燃剤、ポリリン酸メラミン系難燃剤、フォスファゼン系難燃剤、ホスフィン酸系難燃剤、赤リン系難燃剤等が挙げられる。
【0150】
中でも、難燃剤(C)としては、リン酸エステル系難燃剤、ポリリン酸メラミン系難燃剤、フォスファゼン系難燃剤又はホスフィン酸系難燃剤であることが好ましく、ホスフィン酸系難燃剤であることが特に好ましい。
ホスフィン酸系難燃剤として具体的には、例えば、ホスフィン酸塩、ジホスフィン酸塩等が挙げられる。
ホスフィン酸塩としては、例えば、下記一般式(I)で表される化合物以下、「ホスフィン酸塩(I)」と略記する場合がある)等が挙げられる。
ジホスフィン酸塩としては、例えば、下記一般式(II)で表されるジホスフィン酸塩(以下、「ジホスフィン酸塩(II)」と略記する場合がある)等が挙げられる。
【0151】
【化2】
【0152】
(一般式(1)中、R11及びR12はそれぞれ独立に、炭素数1以上6以下のアルキル基又は炭素数6以上10以下のアリール基である。Mn11+はn11価の金属イオンである。Mは元素周期表の第2族若しくは第15族に属する元素、遷移元素、亜鉛又はアルミニウムである。n11は2又は3である。n11が2又は3である場合、複数存在するR11及びR12はそれぞれ同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0153】
一般式(2)中、R21及びR22はそれぞれ独立に、炭素数1以上6以下のアルキル基又は炭素数6以上10以下のアリール基である。Y21は、炭素数1以上10以下のアルキレン基又は炭素数6以上10以下のアリーレン基である。M’m21+はm21価の金属イオンである。M’は元素周期表の第2族若しくは第15族に属する元素、遷移元素、亜鉛又はアルミニウムである。n21は1以上3以下の整数である。n21が2又は3である場合、複数存在するR21、R22及びY21はそれぞれ同一であってもよく、異なっていてもよい。m21は2又は3である。xは1又は2である。xが2の場合、複数存在するM’は同一であってもよく、異なっていてもよい。n21、x及びm21は、2×n21=m21×xの関係式を満たす整数である。)
【0154】
(R11、R12、R21及びR22
11、R12、R21及びR22はそれぞれ独立に、炭素数1以上6以下のアルキル基、炭素数6以上10以下のアリール基である。n11が2又は3である場合、複数存在するR11及びR12はそれぞれ同一であってもよく、異なっていてもよいが、製造が容易であることから、同一であることが好ましい。また、n21が2又は3である場合、複数存在するR21及びR22はそれぞれ同一であってもよく、異なっていてもよいが、製造が容易であることから、同一であることが好ましい。
【0155】
アルキル基としては、鎖状であってもよく、環状であってもよいが、鎖状であることが好ましい。鎖状アルキル基としては、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。直鎖状アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基等が挙げられる。分岐鎖状アルキル基としては、例えば、1-メチルエチル基、1-メチルプロピル基、2-メチルプロピル基、1,1-ジメチルエチル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、1,1-ジメチルプロピル基、1,2-ジメチルプロピル基、2,2-ジメチルプロピル基、1-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、3-メチル基ペンチル基、4-メチルペンチル基、1,1-ジメチルブチル基、1,2-ジメチルブチル基、1,3-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、3,3-ジメチルブチル基、1-エチルブチル基、2-エチルブチル基、1,1,2-トリメチルプロピル基等が挙げられる。
【0156】
アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0157】
アルキル基及びアリール基は、置換基を有してもよい。アルキル基における置換基としては、例えば、炭素数6以上10以下のアリール基等が挙げられる。アリール基における置換基としては、炭素数1以上6以下のアルキル基等が挙げられる。
【0158】
置換基を有するアルキル基として具体的には、例えば、ベンジル基等が挙げられる。
置換基を有するアリール基として具体的には、例えば、トリル基、キシリル基等が挙げられる。
中でも、R11、R12、R21及びR22としては、炭素数1以上6以下のアルキル基が好ましく、メチル基又はエチル基がより好ましい。
【0159】
(Y21
21は、炭素数1以上10以下のアルキレン基又は炭素数6以上10以下のアリーレン基である。n21が2又は3である場合、複数存在するY21はそれぞれ同一であってもよく、異なっていてもよいが、製造が容易であることから、同一であることが好ましい。
【0160】
アルキレン基としては、鎖状であってもよく、環状であってもよいが、鎖状であることが好ましい。鎖状アルキレン基としては、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。直鎖状アルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基等が挙げられる。分岐鎖状アルキレン基としては、例えば、1-メチルエチレン基、1-メチルプロピレン基等が挙げられる。
【0161】
アリーレン基としては、例えば、フェニレン基、ナフチレン基等が挙げられる。
アルキレン基及びアリーレン基は、置換基を有してもよい。アルキレン基における置換基としては、例えば、炭素数6以上10以下のアリール基等が挙げられる。アリーレン基における置換基としては、炭素数1以上6以下のアルキル基等が挙げられる。
【0162】
置換基を有するアルキレン基として具体的には、例えば、フェニルメチレン基、フェニルエチレン基、フェニルトリメチレン基、フェニルテトラメチレン基等が挙げられる。
置換基を有するアリーレン基として具体的には、例えば、メチルフェニレン基、エチルフェニレン基、tert-ブチルフェニレン基、メチルナフチレン基、エチルナフチレン基、tert-ブチルナフチレン基等が挙げられる。
中でも、Y21としては、炭素数1以上10以下のアルキレン基が好ましく、メチレン基又はエチレン基がより好ましい。
【0163】
(M及びM’)
M及びM’はそれぞれ独立に、元素周期表の第2族若しくは第15族に属する元素のイオン、遷移元素のイオン、亜鉛イオン又はアルミニウムイオンである。元素周期表の第2族に属する元素のイオンとしては、例えば、カルシウムイオン、マグネシウムイオン等が挙げられる。元素周期表の第15族に属する元素のイオンとしては、例えば、ビスマスイオン等が挙げられる。
【0164】
また、xが2の場合、複数存在するM’は同一であってもよく、異なっていてもよいが、製造が容易であることから、同一であることが好ましい。
中でも、M及びM’としては、カルシウム、亜鉛又はアルミニウムが好ましく、カルシウム又はアルミニウムがより好ましい。
【0165】
(x)
xはM’の個数を表し、1又は2である。xは、M’の種類及びジホスフィン酸の数に応じて、適宜選択することができる。
【0166】
(n11及びn21)
n11はホスフィン酸の個数及びMの価数を表し、2又は3である。n11は、Mの種類及び価数に応じて、適宜選択することができる。
n21はジホスフィン酸の個数を表し、1以上3以下の整数である。n21は、M’の種類及び数に応じて、適宜選択することができる。
【0167】
(m21)
m21はM’の価数を表し、2又は3である。
n21、x及びm21は、2×n21=m21×xの関係式を満たす整数である。
【0168】
好ましいホスフィン酸塩(1)として具体的には、例えば、ジメチルホスフィン酸カルシウム、ジメチルホスフィン酸マグネシウム、ジメチルホスフィン酸アルミニウム、ジメチルホスフィン酸亜鉛、エチルメチルホスフィン酸カルシウム、エチルメチルホスフィン酸マグネシウム、エチルメチルホスフィン酸アルミニウム、エチルメチルホスフィン酸亜鉛、ジエチルホスフィン酸カルシウム、ジエチルホスフィン酸マグネシウム、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸亜鉛、メチル-n-プロピルホスフィン酸カルシウム、メチル-n-プロピルホスフィン酸マグネシウム、メチル-n-プロピルホスフィン酸アルミニウム、メチル-n-プロピルホスフィン酸亜鉛、メタンジ(メチルホスフィン酸)カルシウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)マグネシウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)アルミニウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)亜鉛、ベンゼン-1,4-(ジメチルホスフィン酸)カルシウム、ベンゼン-1,4-(ジメチルホスフィン酸)マグネシウム、ベンゼン-1,4-(ジメチルホスフィン酸)アルミニウム、ベンゼン-1,4-(ジメチルホスフィン酸)亜鉛、メチルフェニルホスフィン酸カルシウム、メチルフェニルホスフィン酸マグネシウム、メチルフェニルホスフィン酸アルミニウム、メチルフェニルホスフィン酸亜鉛、ジフェニルホスフィン酸カルシウム、ジフェニルホスフィン酸マグネシウム、ジフェニルホスフィン酸アルミニウム、ジフェニルホスフィン酸亜鉛等が挙げられる。中でも、ホスフィン酸塩(I)としては、難燃性が優れることから、ジメチルホスフィン酸カルシウム又はジメチルホスフィン酸アルミニウムが特に好ましい。
【0169】
好ましいジホスフィン酸塩(II)として具体的には、例えば、メタンジ(メチルホスフィン酸)カルシウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)マグネシウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)アルミニウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)亜鉛、ベンゼン-1,4-ジ(メチルホスフィン酸)カルシウム、ベンゼン-1,4-ジ(メチルホスフィン酸)マグネシウム、ベンゼン-1,4-ジ(メチルホスフィン酸)アルミニウム、ベンゼン-1,4-ジ(メチルホスフィン酸)亜鉛等が挙げられる。
【0170】
難燃剤(C)の含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、5.0質量部以上90.0質量部以下が好ましく、10.0質量部以上80.0質量部以下がより好ましく、15.0質量部以上70.0質量部以下がさらに好ましく、20.0質量部以上60.0質量部以下が特に好ましい。
【0171】
リン系難燃剤の含有量を上記下限値以上とすることにより、難燃性により優れる樹脂組成物を得ることができる。一方、リン系難燃剤量を上記上限値以下とすることにより、樹脂組成物の有する性質を損なうことなく、難燃性により優れる樹脂組成物を得ることができる。
【0172】
[着色剤(D)]
樹脂組成物は、上記熱可塑性樹脂に加えて、(D)着色剤を更に含有することができる。
【0173】
着色剤(D)としては、一般に用いられている着色剤を配合することができ、それにより樹脂組成物を黒色から淡色まで任意の色調に着色することができる。
【0174】
着色剤(D)を使用する場合、2種類の役割がある。1つ目の役割はレーザーを吸収させ、発熱により樹脂を溶融させることである。このレーザーを吸収させるための着色剤(D1)はレーザーを吸収させる側の樹脂、すなわち吸収樹脂部材を形成する樹脂組成物に添加するものである。
【0175】
もう1つ役割はレーザーを透過させることで、所望の着色とレーザーを吸収させる側の樹脂まで光線を通過させることである。このレーザーを透過させる着色剤(D2)はレーザーを透過させる側の樹脂、すなわち透過樹脂部材を形成する樹脂組成物に添加するものである。
【0176】
レーザー溶着においてレーザーを吸収させるための着色剤(D1)は、レーザーを吸収する着色剤であれば無機材料、有機材料のどちらでも使用可能である。そのような着色剤の一例としてカーボンブラック(アセチレンブラック、ランプブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラック、ガスブラック、オイルブラック等)、グラファイト、チタンブラック、黒色酸化鉄等が挙げられる。これらのうち、分散性、発色性、コスト等の面から、カーボンブラック(D1-1)が好ましい。これら着色剤は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0177】
非黒色顔料としては、後述の種々の無機顔料や有機顔料が挙げられる。これらの非黒色顔料は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0178】
無機顔料としては、例えば、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛等の白色顔料、カドミイエロー、黄鉛、チタンイエロー、ジンククロメート、黄土、黄色酸化鉄等の黄色顔料、赤口顔料、アンバー、赤色酸化鉄、カドミウムレッドなどの赤色顔料、紺青、群青、コバルトブルー等の青色顔料、クロムグリーンなどの緑色顔料等が挙げられる。
【0179】
また、有機顔料としては、アゾ系、アゾメチン系、メチン系、インダスロン系、アントラキノン系、ピランスロン系、フラバンスロン系、ベンゼンスロン系、フタロシアニン系、キノフタロン系、ペリレン系、ペリノン系、ジオキサジン系、チオインジゴ系、イソインドリノン系、イソインドリン系、ピルールピロール系、キナクリドン系等が挙げられる。
【0180】
レーザー溶着においてレーザーを透過させる有機物であれば、着色剤(D2)として使用可能である。そのような着色剤の例としてオリヱント化学工業:eBIND ACW-9871(以下単にACWと記載する)が挙げられる。
【0181】
着色剤(D1)の含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して0.001質量部以上5.00質量部以下であることが好ましく、0.005質量部以上2.5質量部以下であることがより好ましく、0.01質量部以上1.00質量部以下であることがさらに好ましい。着色剤(D1)の含有量が上記下限値以上であることで、レーザーによる加熱効率をより向上し、樹脂を熱劣化させる影響の抑え、短時間での溶融が可能となる。一方、着色剤(D1)の含有量が上記上限値以下であることで、加熱により樹脂の炭化をより効果的に防ぐことができる。
【0182】
着色剤(D2)の含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して0.001質量部以上5.00質量部以下であることが好ましく、0.005質量部以上2.5質量部以下であることがより好ましく、0.01質量部以上1.00質量部以下であることがさらに好ましい。着色剤(D2)の含有量が上記下限値以上であることで、着色による所望の色を発色することが可能となる。一方、着色剤(D2)の含有量が上記上限値以下であることで、レーザーの透過阻害を抑制し、効率よく吸収側の材料へエネルギーを伝達することで、透過側樹脂の熱劣化を効果的に防ぐことができる。
【0183】
[その他添加剤(E)]
樹脂組成物には、上記熱可塑性樹脂に加えて、本実施形態の成形品が奏する効果を損なわない範囲で、樹脂組成物に慣用的に用いられるその他添加剤(E)を含有させることもできる。その他添加剤(E)としては、例えば、成形性改良剤、劣化抑制剤、造核剤、熱安定剤等が挙げられる。
【0184】
樹脂組成物中のその他添加剤(E)の含有量は、その種類や組成物の用途等によって様々であるため、本実施形態の成形品が奏する効果を損なわない範囲であれば特に制限されることはない。
【0185】
(成形性改良剤)
成形性改良剤としては、特に限定されないが、例えば、高級脂肪酸、高級脂肪酸金属塩、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド等が挙げられる。なお、成形性改良剤は、「潤滑材」としても用いられる。
【0186】
(1)高級脂肪酸
高級脂肪酸としては、例えば、炭素数8以上40以下の直鎖状又は分岐鎖状の、飽和又は不飽和脂肪族モノカルボン酸等が挙げられる。
炭素数8以上40以下の直鎖状飽和脂肪族モノカルボン酸としては、例えば、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸等が挙げられる。
炭素数8以上40以下の分岐鎖状飽和脂肪族モノカルボン酸としては、例えば、イソパルミチン酸、イソステアリン酸等が挙げられる。
炭素数8以上40以下の直鎖状不飽和脂肪族モノカルボン酸としては、例えば、オレイン酸、エルカ酸等が挙げられる。
炭素数8以上40以下の分岐鎖状不飽和脂肪族モノカルボン酸としては、例えば、イソオレイン酸等が挙げられる。
中でも、高級脂肪酸としては、ステアリン酸又はモンタン酸が好ましい。
【0187】
(2)高級脂肪酸金属塩
高級脂肪酸金属塩とは、高級脂肪酸の金属塩である。
金属塩の金属元素としては、例えば、元素周期表の第1族元素、第2族元素及び第3族元素、亜鉛、アルミニウム等が挙げられる。
元素周期表の第1族元素としては、例えば、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。
元素周期表の第2族元素としては、例えば、カルシウム、マグネシウム等が挙げられる。
元素周期表の第3族元素としては、例えば、スカンジウム、イットリウム等が挙げられる。
中でも、元素周期表の第1及び2族元素、又は、アルミニウムが好ましく、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、又は、アルミニウムがより好ましい。
【0188】
高級脂肪酸金属塩として具体的には、例えば、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、モンタン酸カルシウム、モンタン酸ナトリウム、パルミチン酸カルシウム等が挙げられる。
中でも、高級脂肪酸金属塩としては、モンタン酸の金属塩又はステアリン酸の金属塩が好ましい。
【0189】
(3)高級脂肪酸エステル
高級脂肪酸エステルとは、高級脂肪酸とアルコールとのエステル化物である。
高級脂肪酸エステルとしては、炭素数8以上40以下の脂肪族カルボン酸と炭素数8以上40以下の脂肪族アルコールとのエステルが好ましい。
炭素数8以上40以下の脂肪族アルコールとしては、例えば、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、ラウリルアルコール等が挙げられる。
高級脂肪酸エステルとして具体的には、例えば、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル等が挙げられる。
【0190】
(4)高級脂肪酸アミド
高級脂肪酸アミドとは、高級脂肪酸のアミド化合物である。
高級脂肪酸アミドとしては、例えば、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、エチレンビスステアリルアミド、エチレンビスオレイルアミド、N-ステアリルステアリン酸アミド、N-ステアリルエルカ酸アミド等が挙げられる。
これらの高級脂肪酸、高級脂肪酸金属塩、高級脂肪酸エステル及び高級脂肪酸アミドは、それぞれ1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合せて用いてもよい。
【0191】
(劣化抑制剤)
劣化抑制剤は、熱劣化、熱時の変色防止、及び、耐熱エージング性の向上を目的として用いられる。
劣化抑制剤としては、特に限定されないが、例えば、銅化合物、フェノール系安定剤、ホスファイト系安定剤、ヒンダードアミン系安定剤、トリアジン系安定剤、ベンゾトリアゾール系安定剤、ベンゾフェノン系安定剤、シアノアクリレート系安定剤、サリシレート系安定剤、イオウ系安定剤等が挙げられる。
銅化合物としては、例えば、酢酸銅、ヨウ化銅等が挙げられる。
フェノール系安定剤としては、例えば、ヒンダードフェノール化合物等が挙げられる。
これらの劣化抑制剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合せて用いてもよい。
【0192】
(造核剤)
造核剤とは、添加により以下の(1)~(3)のうち少なくともいずれか1つの効果が得られる物質のことを意味する。
(1)樹脂組成物の結晶化ピーク温度を上昇させる効果。
(2)結晶化ピークの補外開始温度と補外終了温度との差を小さくする効果。
(3)得られる成形品の球晶を微細化又はサイズの均一化させる効果。
【0193】
造核剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、タルク、窒化ホウ素、マイカ、カオリン、窒化珪素、カーボンブラック、チタン酸カリウム、二硫化モリブデン等が挙げられる。
造核剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
中でも、造核剤としては、造核剤効果の観点で、タルク又は窒化ホウ素が好ましい。
【0194】
また、造核剤の効果が高いため、造核剤の数平均粒径は0.01μm以上10μm以下が好ましい。
造核剤の数平均粒径は、以下の方法を用いて測定することができる。まず、成形品をギ酸等の樹脂組成物が可溶な溶媒で溶解する。次いで、得られた不溶成分の中から、例えば、100個以上の造核剤を任意に選択する。次いで、光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡等で観察して、粒径を測定することにより求めることができる。
【0195】
樹脂組成物中の造核剤の含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.001質量部以上1質量部以下が好ましく、0.001質量部以上0.5質量部以下がより好ましく、0.001質量部以上0.09質量部以下がさらに好ましい。
造核剤の含有量が上記下限値以上であることにより、成形品の耐熱性がより向上する傾向にある、一方、造核剤の含有量が上記上限値以下であることにより、靭性により優れる成形品が得られる。
【0196】
(熱安定剤)
熱安定剤としては、以下に制限されないが、例えば、フェノール系熱安定剤、リン系熱安定剤、アミン系熱安定剤、元素周期表の第3族、第4族及び第11~14族の元素の金属塩等が挙げられる。
【0197】
(1)フェノール系熱安定剤
フェノール系熱安定剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ヒンダードフェノール化合物等が挙げられる。ヒンダードフェノール化合物は、ポリアミド等の樹脂や繊維に優れた耐熱性及び耐光性を付与する性質を有する。
【0198】
ヒンダードフェノール化合物としては、以下に限定されるものではないが、例えば、N,N'-へキサン-1,6-ジイルビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオンアミド)、ペンタエリスリチル-テトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N'-ヘキサメチレンビス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロシンナマミド)、トリエチレングリコール-ビス[3-(3-tert-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、3,9-ビス{2-[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピニロキシ]-1,1-ジメチルエチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホネート-ジエチルエステル、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、1,3,5-トリス(4-tert-ブチル-3-ヒドロキシ-2,6-ジメチルベンジル)イソシアヌル酸等が挙げられる。
これらは、ヒンダードフェノール化合物は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0199】
フェノール系熱安定剤を用いる場合、樹脂組成物中のフェノール系熱安定剤の含有量は、樹脂組成物の総質量に対して、0.01質量%以上1質量%以下が好ましく、0.05質量%以上1質量%以下がより好ましい。
フェノール系熱安定剤の含有量が上記の範囲内であることで、成形品の耐熱エージング性をより一層向上させ、さらにガス発生量をより低減させることができる。
【0200】
(2)リン系熱安定剤
リン系熱安定剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ペンタエリスリトール型ホスファイト化合物、トリオクチルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリデシルホスファイト、オクチルジフェニルホスファイト、トリスイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、フェニルジ(トリデシル)ホスファイト、ジフェニルイソオクチルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、ジフェニル(トリデシル)ホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチル-5-メチルフェニル)ホスファイト、トリス(ブトキシエチル)ホスファイト、4,4'-ブチリデン-ビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェニル-テトラ-トリデシル)ジホスファイト、テトラ(C12~C15混合アルキル)-4,4'-イソプロピリデンジフェニルジホスファイト、4,4'-イソプロピリデンビス(2-tert-ブチルフェニル)-ジ(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ビフェニル)ホスファイト、テトラ(トリデシル)-1,1,3-トリス(2-メチル-5-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)ブタンジホスファイト、テトラ(トリデシル)-4,4'-ブチリデンビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェニル)ジホスファイト、テトラ(C1~C15混合アルキル)-4,4'-イソプロピリデンジフェニルジホスファイト、トリス(モノ、ジ混合ノニルフェニル)ホスファイト、4,4'-イソプロピリデンビス(2-tert-ブチルフェニル)-ジ(ノニルフェニル)ホスファイト、9,10-ジ-ヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナンスレン-10-オキサイド、トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)ホスファイト、水素化-4,4'-イソプロピリデンジフェニルポリホスファイト、ビス(オクチルフェニル)-ビス(4,4'-ブチリデンビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェニル))-1,6-ヘキサノールジホスファイト、ヘキサトリデシル-1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)ジホスファイト、トリス(4、4'-イソプロピリデンビス(2-tert-ブチルフェニル))ホスファイト、トリス(1,3-ステアロイルオキシイソプロピル)ホスファイト、2、2-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、2,2-メチレンビス(3-メチル-4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)2-エチルヘキシルホスファイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチル-5-メチルフェニル)-4,4'-ビフェニレンジホスファイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,4'-ビフェニレンジホスファイト等が挙げられる。
これらリン系熱安定剤は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0201】
ペンタエリスリトール型ホスファイト化合物としては、以下に限定されるものではないが、例えば、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル-フェニル-ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル-メチル-ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル-2-エチルヘキシル-ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル-イソデシル-ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル-ラウリル-ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル-イソトリデシル-ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル-ステアリル・ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル・シクロヘキシル-ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル-ベンジル-ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル・エチルセロソルブ-ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル-ブチルカルビトール-ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル-オクチルフェニル-ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル-ノニルフェニル・ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル-2,6-ジ-tert-ブチルフェニル-ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル-2,4-ジ-tert-ブチルフェニル-ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル-2,4-ジ-tert-オクチルフェニル-ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル-2-シクロヘキシルフェニル-ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-アミル-4-メチルフェニル-フェニル・ペンタエリストリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-アミル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-オクチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。
これらペンタエリスリトール型ホスファイト化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0202】
リン系熱安定剤を用いる場合、樹脂組成物中のリン系熱安定剤の含有量は、樹脂組成物の総質量に対して、0.01質量%以上1質量%以下が好ましく、0.05質量%以上1質量%以下がより好ましい。
リン系熱安定剤の含有量が上記範囲内であることで、成形品の耐熱エージング性をより一層向上させ、さらにガス発生量をより低減させることができる。
【0203】
(3)アミン系熱安定剤
アミン系熱安定剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、4-アセトキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-ステアロイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-アクリロイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-(フェニルアセトキシ)-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-ベンゾイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-メトキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-ステアリルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-シクロヘキシルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-ベンジルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-フェノキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-(エチルカルバモイルオキシ)-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-(シクロヘキシルカルバモイルオキシ)-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-(フェニルカルバモイルオキシ)-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-カーボネート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-オキサレート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-マロネート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-セバケート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-アジペート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-テレフタレート、1,2-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルオキシ)-エタン、α,α'-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルオキシ)-p-キシレン、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルトリレン-2,4-ジカルバメート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-ヘキサメチレン-1,6-ジカルバメート、トリス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-ベンゼン-1,3,5-トリカルボキシレート、トリス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-ベンゼン-1,3,4-トリカルボキシレート、1-[2-{3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ}ブチル]-4-[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸と1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジノールとβ,β,β',β'-テトラメチル-3,9-[2,4,8,10-テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン]ジエタノールとの縮合物等が挙げられる。
これらアミン系熱安定剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0204】
アミン系熱安定剤を用いる場合、樹脂組成物中のアミン系熱安定剤の含有量は、樹脂組成物の総質量に対して、0.01質量%以上1質量%以下が好ましく、0.05質量%以上1質量%以下がより好ましい。
アミン系熱安定剤の含有量が上記範囲内であることで、成形品の耐熱エージング性をより一層向上させることができ、さらにガス発生量をより低減させることができる。
【0205】
(4)元素周期表の第3族、第4族及び第11~14族の元素の金属塩
元素周期表の第3族、第4族及び第11~14族の元素の金属塩としては、これらの族に属する金属の塩であれば何ら制限されることはない。
【0206】
中でも、成形品の耐熱エージング性を一層向上させる観点から、銅塩が好ましい。かかる銅塩としては、以下に制限されないが、例えば、酢酸銅、プロピオン酸銅、安息香酸銅、アジピン酸銅、テレフタル酸銅、イソフタル酸銅、サリチル酸銅、ニコチン酸銅、ステアリン酸銅、キレート剤に銅の配位した銅錯塩が挙げられる。
【0207】
キレート剤としては、例えば、エチレンジアミン、エチレンジアミン四酢酸等が挙げられる。
これら銅塩は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
中でも、銅塩としては、酢酸銅が好ましい。酢酸銅を用いた場合、耐熱エージング性により優れ、且つ、押出時のスクリューやシリンダー部の金属腐食(以下、単に「金属腐食」とも称する場合がある)をより効果的に抑制できる樹脂組成物が得られる。
【0208】
熱安定剤として銅塩を用いる場合、樹脂組成物中の銅塩の含有量は、熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、0.01質量部以上0.60質量部以下が好ましく、0.02質量部以上0.40質量部以下がより好ましい。
銅塩の含有量が上記範囲内であることで、成形品の耐熱エージング性をより一層向上させるとともに、銅の析出や金属腐食をより効果的に抑制することができる。
【0209】
また、上記の銅塩に由来する銅元素の含有濃度は、成形品の耐熱エージング性を向上させる観点から、熱可塑性樹脂(A)10質量部(100万質量部)に対して、10質量部以上2000質量部以下が好ましく、30質量部以上1500質量部以下がより好ましく、50質量部以上500質量部以下がさらに好ましい。
【0210】
上記で説明してきた熱安定剤の成分は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0211】
[樹脂組成物の製造方法]
樹脂組成物の製造方法としては、熱可塑性樹脂と、ポリアミド(A1)、必要に応じて、フィラー(B)、難燃剤(C)、着色剤(D)及びその他添加剤(E)の各成分と、を混合する方法であれば、特に限定されるものではない。なお、以降、ポリアミド(A1)、フィラー(B)、難燃剤(C)、着色剤(D)及びその他添加剤(E)を、それぞれ成分(A1)、成分(B)、成分(C)、成分(D)及び成分(E)ともいう。
【0212】
上記成分(A)、及び、必要に応じて、成分(B)~成分(E)と、の混合方法としては、例えば、以下の(1)~(3)の方法等が挙げられる。
(1)上記成分(A)、及び、必要に応じて、成分(B)~成分(E)を、ヘンシェルミキサー等を用いて混合し溶融混練機に供給し混練する方法。
(2)単軸又は2軸押出機で、上記熱可塑性樹脂、成分(A1)、及び、必要に応じて、成分(C)~成分(E)を、予めヘンシェルミキサー等を用いて混合した混合物を調製し、当該混合物を溶融混練機に供給し混練した後に、任意に、サイドフィダーから成分(B)を配合する方法。
(3)上記(1)と(2)の方法を併用し、成分(B)を初期段階で他原料と合わせて供給するとともに、再度フィーダーからも供給する方法。
【0213】
樹脂組成物を構成する成分を溶融混練機に供給する方法は、すべての構成成分を同一の供給口に一度に供給してもよく、構成成分をそれぞれ異なる供給口から供給してもよい。
【0214】
ポリアミド(A1)が脂肪族ポリアミド(A1-1)を含有する場合、溶融混練の温度は、脂肪族ポリアミド(A1-1)の融点より1℃以上100℃以下程度高い温度が好ましく、脂肪族ポリアミド(A1-1)の融点より10℃以上50℃以下程度高い温度がより好ましい。
混練機での剪断速度は100sec-1以上程度が好ましい。また、混練時の平均滞留時間は0.5分間以上5分間以下程度が好ましい。
溶融混練を行う装置としては、公知の装置であればよく、例えば、単軸又は2軸押出機、バンバリーミキサー、溶融混練機(ミキシングロール等)等が好ましく用いられる。
樹脂組成物を製造する際の各成分の配合量は、上述した樹脂組成物における各成分の含有量と同様である。
【0215】
[樹脂組成物の物性]
樹脂組成物のガラス転移温度Tgは、75℃以上であることが好ましく、75℃以上220℃以下がより好ましく、80℃以上210℃以下がさらに好ましく、85℃以上200℃以下が特に好ましく、90℃以上150℃以下が最も好ましい。
樹脂組成物のガラス転移温度Tgが上記数値範囲内であることで、成形品の光沢度及びレーザーマーキングによる印字の鮮明性により優れる。
【0216】
樹脂組成物のガラス転移温度Tgは、例えば、動的粘弾性測定装置によって測定することができる。
動的粘弾性測定装置による測定として具体的には、例えば、23℃から2℃/分の昇温速度で昇温しながら、印加周波数8Hzで測定した際に、貯蔵弾性率が大きく低下し、損失弾性率が最大となるピークのピークトップの温度をガラス転移温度Tgとする。損失弾性率のピークが2つ以上現れる場合は、最も高温側のピークのピークトップ温度をガラス転移温度Tgとする。この際の測定頻度は、測定精度を高めるため、少なくとも20秒に1回以上の測定とする。
【0217】
また、測定用サンプルの調製方法については特に制限はないが、成形歪の影響をなくす観点から、熱プレス成型品の切り出し片を用いることが望ましく、また、熱伝導の観点から、切り出し片の大きさ(幅及び厚み)はできるだけ小さい方が望ましい
【0218】
樹脂組成物の結晶化温度は、240℃以下が好ましく、120℃以上235℃以下がより好ましく、130℃以上230℃以下がさらに好ましく、140℃以上225℃以下が特に好ましい。
樹脂組成物の結晶化温度が上記数値範囲内であることで、成形品のレーザー溶着による接合強度を向上させ、接合箇所の外観が良好にすることができる。
【0219】
樹脂組成物の結晶化温度は、例えば、DSCによって測定することができる。
DSCによる測定として具体的には、例えば、23℃から10℃/分の昇温速度で昇温していった際に、現れる吸熱ピークのピークトップ温度を結晶化温度とする。吸熱ピークが2つ以上現れる場合は、最も高温側の吸熱ピークのピークトップ温度を結晶化温度とする。
【0220】
この時の吸熱ピークのエンタルピーは、10J/g以上であることが望ましく、20J/g以上であることがより望ましい。また測定に際しては、サンプルを一度融点+20℃以上の温度条件まで加温し、樹脂を溶融させたのち、10℃/分の降温速度で23℃まで冷却したサンプルを用いることが望ましい。
【0221】
<溶着方法及び成形品の製造方法>
上述した成形品は、例えば、以下に示す方法で製造することができる。
すなわち、本実施形態のレーザー溶着された成形品の製造方法は(以下、単に「本実施形態の製造方法」と略記する場合がある)、熱可塑性樹脂を含有する樹脂組成物を成形してなる成形品に、レーザー溶着する溶着方法(以下、「溶着方法」又は「レーザー溶着方法」という)を含む。
【0222】
溶着方法において、得られる成形品のレーザー溶着された部位に対して、透過樹脂部材又は吸収樹脂部材の法線を含み、レーザー光線の走査方向と直交する断面で切断し、溶融プール面積が0.210mm以上、1.00mm以下となるようレーザー溶着を行う。
【0223】
本実施形態の製造方法は、上記構成を有することで、レーザー溶着による接合強度を向上させ、接合箇所の外観が良好な成形品を得ることができる。
すなわち、本実施形態の製造方法は、成形品に接合強度が高く、接合箇所の外観が良好なレーザー溶着加工するための、レーザー溶着方法ということもできる。
【0224】
[レーザー溶着方法]
レーザー溶着方法で使用するレーザーとしては、例えば、炭酸ガスレーザー、Nd-YAGレーザー、YAGレーザー、ルビーレーザー、半導体レーザー、アルゴンレーザー、エキシマレーザー等が挙げられる。これらの中では、溶着加工の観点からNd-YAGレーザー、YAGレーザー、又は半導体レーザーが好ましい。
【0225】
使用するレーザーの波長は、通常、193nm以上1100nm以下であり、220nm以上250nm以下、520nm以上550nm以下、又は850nm以上1100nm以下の3波長帯が好ましく、520nm以上550nm以下、又は850nm以上1050nm以下の2波長帯がより好ましく、900nm以上1000nm以下の波長帯であることがさらに好ましい。
これらの波長帯で加工することにより、レーザーが着色剤や樹脂に効率よく吸収され、透過側の樹脂への熱的な負荷を抑制し、接合箇所の外観が良好になる。
【0226】
レーザー溶着の走査速度は、タクトタイム短縮の観点から、通常0.1mm/秒以上3000mm/秒以下であり、1mm/秒以上2000mm/秒以下が好ましく、5mm/秒以上1000mm/秒以下がより好ましく、10mm/秒以上500mm/秒以下がさらに好ましい。
【0227】
走査速度が上記下限値以上であることで、レーザー吸収量が過剰となることを防ぎ、加熱によってレーザー溶着箇所の外観劣化を抑制することができる。一方、走査速度が上記上限値以下であることで、レーザーのエネルギーを十分量に吸収して均一に溶融することで接合強度の向上と安定を図ることができる。
【0228】
レーザー溶着の加工出力は、通常1.0W以上1000.0W以下であり、5.0W以上800.0W以下が好ましく、10.0W以上500.0W以下がより好ましい。
加工出力が上記下限値以上であることで、十分にレーザーからエネルギー吸収して均一に溶融することで接合強度の向上と安定を図ることができる。一方、走査速度が上記上限値以下であることで、レーザー吸収量が多くなりすぎることを防ぎ、加熱によってレーザー溶着箇所の外観劣化を抑制することができる。
【0229】
レーザー溶着の周波数は、通常1kHz以上1000kHz以下、または連続波であり、5kHz以上750kHz以下、または連続波が好ましく、10kHz以上500kHz以下、または連続波がより好ましい。
周波数が上記下限値以上であることで、隙間なく溶着されることにより接合強度の向上と気密性を高めることが可能となる。一方、周波数が上記上限値以下であることで、レーザーのピークパワーが低くなりすぎることを防ぎ、溶着箇所の強度低下を抑制することができる。また連続波であれば、隙間なく溶着することが可能となるのでこちらも好ましい形態である。
【0230】
レーザー溶着のレーザースポット径は、通常直径0.1mm以上10mm以下であり、0.5mm以上6mm以下が好ましく、1mm以上4mm以下がより好ましい。
【0231】
スポット径が上記下限値以上であることで、エネルギーが過剰になることを防いで溶着部が焼けて外観が劣化することを抑制可能となる。一方、スポット径が上記上限値以下であることで、エネルギーが分散して溶融に必要な十分なエネルギーを与えられずに溶着できないということを防ぎ、溶着箇所の強度低下を抑制することができる。
【0232】
レーザー溶着のピッチ間隔は通常0.1μm以上500μm以下であり、1μm以上250μm以下が好ましく、5μm以上250μm以下がより好ましい。
ピッチ間隔が上記下限値以上であることで、レーザー吸収量が多くなりすぎることを防ぎ、加熱によってレーザー溶着箇所の外観劣化を抑制することができる。一方、走査速度が上記上限値以下であることで、十分にレーザーからエネルギー吸収して均一に溶融することで接合強度の向上と安定を図ることができる。
【0233】
[成形工程]
本実施形態の製造方法は、溶着方法によるレーザー溶着工程の前に、成形工程を更に含んでいてもよい。
成形工程では、上述した樹脂組成物を成形して、レーザー溶着による接合部を有さない中間成形品を得る。
中間成形品を得る方法としては、特に限定されず、公知の成形方法を用いることができる。
【0234】
公知の成形方法としては、例えば、押出成形、射出成形、真空成形、ブロー成形、射出圧縮成形、加飾成形、他材質成形、ガスアシスト射出成形、発砲射出成形、低圧成形、超薄肉射出成形(超高速射出成形)、金型内複合成形(インサート成形、アウトサート成形)等が挙げられる。
【0235】
<成形品の用途>
本実施形態の成形品は、レーザー溶着による接合強度の高さと、接合部分の外観良好性であることから、様々な用途に用いることができる。
【0236】
本実施形態の成形品の用途としては、例えば、自動車分野、電気及び電子分野、機械及び工業分野、空気や液体などの流体物の輸送部品、事務機器分野、航空及び宇宙分野において、好適に用いることができる。
【0237】
本実施形態の成形品は、特に電気電子部品として、リチウム二次電池のバッテリー筐体、電流測定部品、マグネットスイッチ筐体、ブレーカー筐体、各種スイッチ部品、カメラモジュール筐体、カメラモジュール、レンズバレル(鏡筒)、コネクター用成形品等の電気電子分野の用途に好適に用いることができ、リチウム二次電池のバッテリー筐体、マグネットスイッチ筐体、ブレーカー筐体、カメラモジュール筐体、カメラモジュール、レンズバレル(鏡筒)、又はコネクター用成形品により好適に用いることができる。
【実施例
【0238】
以下、具体的な実施例及び比較例を挙げて本発明について詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0239】
実施例及び比較例の成形品に用いた樹脂組成物の各構成成分について説明する。
【0240】
<構成成分>
[脂肪族ポリアミド(A1-1)]
A1-1-1:ポリアミド66
【0241】
[半芳香族ポリアミド(A1-2)]
A1-2-1:ポリアミド6I
A1-2-2:ポリアミド66/6I(共重合体)
【0242】
[フィラー(B)]
B-1:ガラス繊維(GF)(日本電気硝子製、商品名「ECS03T275H」、平均繊維径10μmφ、カット長3mm)
【0243】
[難燃剤(C)]
C-1:ホスフィン酸系難燃剤 ジエチルホスフィン酸アルミニウム(Clariant社製、商品名:「Exolit OP1230」)
【0244】
[着色剤(D)]
D1:カーボンブラック(一次粒径27nm)
【0245】
<ポリアミドの製造>
脂肪族ポリアミドA1-1-1、半芳香族ポリアミドA1-2-1、及び半芳香族ポリアミドA1-2-2の各製造方法について以下に詳細を説明する。なお、下記製造方法によって、得られた脂肪族ポリアミドA1-1-1、半芳香族ポリアミドA1-2-1、及び、半芳香族ポリアミドA1-2-2は、窒素気流中で乾燥し、水分率を約0.2質量%に調整してから、後述の実施例及び比較例の成形品に用いた樹脂組成物の原料として用いた。
【0246】
[合成例1]
(脂肪族ポリアミドA1-1-1(ポリアミド66)の合成)
「熱溶融重合法」によりポリアミドの重合反応を以下のとおり実施した。
まず、アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩:1500gを蒸留水:1500gに溶解させて、原料モノマーの等モル50質量%均一水溶液を作製した。この水溶液を、内容積5.4Lのオートクレーブに仕込み、窒素置換した。次いで、110℃以上150℃以下程度の温度下で撹拌しながら、溶液濃度70質量%まで水蒸気を徐々に抜いて濃縮した。次いで、内部温度を220℃に昇温した。このとき、オートクレーブは1.8MPaまで昇圧した。そのまま1時間、内部温度が245℃になるまで、水蒸気を徐々に抜いて圧力を1.8MPaに保ちながら1時間反応させた。次いで、1時間かけて圧力を降圧した。次いで、オートクレーブ内を真空装置で650torr(86.66kPa)の減圧下に10分維持した。このとき、重合の最終内部温度は265℃であった。次いで、窒素で加圧し下部紡口(ノズル)からストランド状にし、水冷、カッティングを行いペレット状で排出した。次いで、ペレットを100℃、窒素雰囲気下で12時間乾燥し、脂肪族ポリアミドA1-1-1(ポリアミド66)を得た。
【0247】
[合成例2]
(半芳香族ポリアミドA1-2-1(ポリアミド6I)の合成)
「熱溶融重合法」によりポリアミドの重合反応を以下のとおり実施した。
まず、イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩:1500g、並びに、全等モル塩成分に対して1.5モル%過剰のアジピン酸、及び、0.5モル%の酢酸を蒸留水:1500gに溶解させ、原料モノマーの等モル50質量%均一水溶液を作製した。次いで、110℃以上150℃以下程度の温度下で撹拌しながら、溶液濃度70質量%まで水蒸気を徐々に抜いて濃縮した。次いで、内部温度を220℃に昇温した。このとき、オートクレーブは1.8MPaまで昇圧した。そのまま1時間、内部温度が245℃になるまで、水蒸気を徐々に抜いて圧力を1.8MPaに保ちながら1時間反応させた。次いで、30分かけて圧力を降圧した。次いで、オートクレーブ内を真空装置で650torr(86.66kPa)の減圧下に10分維持した。このとき、重合の最終内部温度は265℃であった。次いで、窒素で加圧し下部紡口(ノズル)からストランド状にし、水冷、カッティングを行いペレット状で排出した。次いで、ペレットを100℃、窒素雰囲気下で12時間乾燥し、半芳香族ポリアミドA1-2-1(ポリアミド6I)を得た。
【0248】
[合成例3]
(半芳香族ポリアミドA1-2-2(ポリアミド66/6I(共重合体))の合成)
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンの等モル塩:2.00kgとイソフタル酸とヘキサメチレンジアミンの等モル塩:0.50kg及び純水:2.5kgを5Lのオートクレーブの中に仕込みよく撹拌した。充分窒素置換した後、撹拌しながら温度を室温から220℃まで約1時間かけて昇温した。この際、オートクレーブ内の水蒸気による自然圧で内圧は18kg/cmGになるが、18kg/cmG以上の圧力にならないように水を反応系外に除去しながらさらに加熱を続けた。さらに2時間後内温が260℃に到達したら加熱を止め、オートクレーブの排出バルブを閉止し、約8時間かけて室温まで冷却した。冷却後オートクレーブを開け、約2kgのポリマーを取り出し粉砕した。得られた粉砕ポリマーを10Lのエバポレーターに入れ、窒素気流下200℃で10時間固相重合した。次いで、窒素で加圧し下部紡口(ノズル)からストランド状にし、水冷、カッティングを行いペレット状で排出した。次いで、ペレットを100℃、窒素雰囲気下で12時間乾燥し、半芳香族ポリアミドA1-2-2(ポリアミド66/6I)を得た。
【0249】
<樹脂組成物の製造>
[製造例1]
東芝機械社製、TEM35mm 2軸押出機(設定温度:280℃、スクリュー回転数300rpm)を用いて、押出機最上流部に設けられたトップフィード口より、脂肪族ポリアミドA1-1-1と、半芳香族ポリアミドA1-2-1を予めブレンドしたものと、を供給した。次いで、ダイヘッドより押し出された溶融混練物をストランド状で冷却し、ペレタイズして、樹脂組成物のペレットを得た。配合量は表1に示すとおりとした。
【0250】
[製造例2~7]
成分(A)~(C)の配合量を表1に示すとおりとし、且つ、押出機下流側(トップフィード口より供給された樹脂が充分溶融している状態)のサイドフィード口よりフィラーB-1を供給した以外は、製造例1に示す方法と同じ方法を用いて、各樹脂組成物を製造した。
【0251】
【表1】
【0252】
<物性及び評価>
まず、製造例1~7で得られた各樹脂組成物のペレットを、窒素気流中で乾燥し、樹脂組成物中の水分量を500ppm以下にした。次いで、水分量を調整した各樹脂組成物のペレットについて下記の方法を用いて、各種物性の測定を実施した。また、後述する成形品について、各種物性の測定及び各種評価を実施した。
【0253】
[物性1]
(ガラス転移温度Tg)
製造例1~7で得られた各樹脂組成物のペレットについて、日精工業(株)製PS40E射出成形機を用い、冷却時間15秒、スクリュー回転数100rpm、シリンダー温度290℃、金型温度を80℃、充填時間1.5秒±0.1秒の範囲となるよう、射出圧力及び射出速度を適宜調整し、JIS-K7139に準じた成形品を成形した。この成形品を、動的粘弾性評価装置(GABO社製、EPLEXOR500N)を用いて、以下の条件で測定した。
【0254】
(測定条件)
測定モード:引張
測定周波数:8Hz
昇温速度:3℃/分
温度範囲:-100℃以上250℃以下
【0255】
貯蔵弾性率E1に対する損失弾性率E2の比(E2/E1)をtanδとし、tanδが極大点となる温度をガラス転移温度Tgとした。
【0256】
[物性2]
(結晶化ピーク温度)
結晶化ピーク温度を、JIS-K7121に準じて、PERKINELMER社製Diamond-DSCを用いて以下のとおり測定した。該測定は、窒素雰囲気下で行った。
まず、樹脂組成物約10mgを昇温速度20℃/minで50℃から350℃まで昇温した。続いて、350℃で3分間保った後、冷却速度20℃/minで350℃から50℃まで冷却した。50℃で3分間保った後、再度昇温速度20℃/minで50℃から350℃まで昇温した。さらに、350℃で3分間保った後、冷却速度20℃/minで350℃から50℃まで冷却した。このときに現れる結晶化ピーク温度を測定した。
【0257】
物性1(ガラス転移温度Tg)、物性2(結晶化ピーク温度)の測定結果を表2に示す。
【表2】
【0258】
(レーザー溶着用試験片1作成)
製造例1~7で得られた各樹脂組成物のペレットについて、射出成形機[IS150E:東芝機械株式会社製]を用いて、冷却時間15秒、スクリュー回転数100rpm、シリンダー温度290℃、金型温度を80℃に設定し、充填時間が0.4±0.1秒の範囲となるよう、射出圧力及び射出速度を適宜調整し、レーザー溶着用試験片1(6cm×2.5cm、厚さ2mm)を作製した。
【0259】
(レーザー溶着用試験片2作成)
製造例1で得られた樹脂組成物のペレットにレーザー溶着用着色マスターバッチ(オリヱント化学工業:eBIND ACW-9871、以下単にACWと記載する)を60倍の希釈倍率でドライブレンドし、射出成形機[IS150E:東芝機械株式会社製]を用いて、冷却時間15秒、スクリュー回転数100rpm、シリンダー温度290℃、金型温度を80℃に設定し、充填時間が0.4±0.1秒の範囲となるよう、射出圧力及び射出速度を適宜調整し、レーザー溶着用試験片2(60mm、25mm、厚さ2mm)を作製した。
【0260】
(レーザー溶着用試験片3作成)
製造例1~7で得られた各樹脂組成物のペレットについて、着色剤D1を樹脂組成物100質量部に対し、1500ppmドライブレンドし、射出成形機[IS150E:東芝機械株式会社製]を用いて、冷却時間15秒、スクリュー回転数100rpm、シリンダー温度290℃、金型温度を80℃に設定し、充填時間が0.4±0.1秒の範囲となるよう、射出圧力及び射出速度を適宜調整し、レーザー溶着用試験片3(60mm、25mm、厚さ2mm)を作製した。
【0261】
(レーザー溶着用試験片4作成)
製造例1~7で得られた各樹脂組成物のペレットについて、射出成形機[IS150E:東芝機械株式会社製]を用いて、冷却時間15秒、スクリュー回転数100rpm、シリンダー温度290℃、金型温度を30℃に設定し、充填時間が0.4±0.1秒の範囲となるよう、射出圧力及び射出速度を適宜調整し、レーザー溶着用試験片4(6cm×2.5cm、厚さ2mm)を作製した。
【0262】
(レーザー溶着加工と接合強度測定)
レーザー溶着加工について、図3を参照して説明する。レーザー溶着用試験片1~4を表3~5で示す組み合わせで、透過樹脂部材1と吸収樹脂部材2の各部材を、長編方向にL3が20mmとなるよう重ね合わせて固定した。なお、図3中のL1は25mm、L2は60mmである。さらに透過樹脂部材1の上面からガラス板(縦と横が15cmの正方形、厚み10mm、)で押さえつけて、各樹脂部材の位置の固定とレーザー照射時に発熱した樹脂の冷却効率を高めるようにした。この状態で図3の3aから3bへとレーザーをL1と平行に照射させ、直線型のレーザー照射を1度行い、試験片を作成した。また、同時にエアーを吹き付けて冷却も行いながら試験片を作成した。図3の3aと3bはL3の中央10mm部分に位置する端部を示している。また、レーザー波長と周波数は下記であった。
レーザー波長:940nm
レーザー周波数:連続波(CW波)
【0263】
表3~5における吸収側とは透過側を通過した光が入射する側である。レーザーの出力と走査速度は表3~5にそれぞれ記載した。レーザーのスポット径は直径2.4mmであった。
【0264】
上記手法により作製したレーザー溶着試験片について、溶着箇所の目視確認を行い、外観を判定した。判定基準は以下の3区分で分類評価した。
〇:外観良好であり、レーザー溶着箇所が目立たない。
△:レーザー溶着箇所は周辺部と異なる光沢をもち、溶着箇所であることがわかる。
×:レーザー溶着箇所は焼けている。
【0265】
上記手法によりレーザー溶着した試験片をインストロン社製万能材料試験機で、30kNのロードセルを用いて、吸収側と透過側の両端部をチャックで挟み、チャック間距離55mm、引張試験速度5.0mm/minの試験条件で引張試験を行い、最大点荷重を測定した。引張試験は各サンプルについて5点ずつ実施した。
引張試験は、図4に矢印に示す方向に、透過樹脂部材1と吸収樹脂部材2をそれぞれ引っ張った。板材3及び板材4は、透過樹脂部材1及び吸収樹脂部材2を測定装置に取り付けるために設置したスペーサーである。板材3及び板材4は、それぞれ、透過樹脂部材1及び吸収樹脂部材2と同じ厚みを有する。
【0266】
また引張試験後の破壊モードも確認した。接合箇所を起点に母材が折れた場合、または透過側の母材か吸収側の母材の一部がもう一方に溶着した状態で破壊した場合を母材破壊として数えた。
母材破壊をしている状態はレーザー溶着による接合が十分に行われていることを意味する。一方、母材破壊をせずに界面で剥離した場合、吸収樹脂部材が溶融していない、もしくは吸収樹脂部材の熱を透過樹脂部材が十分に吸熱しておらず接合が不安定な状態であることを意味する。
このため、母材破壊の割合が多いものほど接合状態が安定しており、レーザー溶着において望ましい。
【0267】
(溶融プールの観察)
・断面の取得方法
上記手法によりレーザー溶着した試験片について、接合部分を含む短辺の中央を縦断するよう切断することで、レーザー光の走査方向に対して垂直な方向での断面を作成し、溶融プールを露出させた。
即ち、透過樹脂部材又は吸収樹脂部材の法線を含み、レーザー光線の走査方向と直交する方向に成形品を切断した。
【0268】
溶融プールの観察に関係ない不要な部分を切り落とし、溶融プールを含む観察片をリファインテック株式会社製エポマウントで包埋した。硬化条件は、40℃環境に12時間静置した。
【0269】
包埋薬品の硬化後、回転研磨装置(ムサシノ電子(株)製MA-600e)により、観察面を研磨した。研磨時の砥粒の粗さは20μm、13μm、9μm、2μm、0.5μmの順番で進めた。
【0270】
次にエッチング作業を行った。製造例1、3~6の樹脂組成物を使用した試験片は15mol/Lのギ酸溶液に30秒浸漬してから観察を行った。製造例2の樹脂組成物を使用した試験片は15mol/Lのギ酸溶液に300秒浸漬してから観察を行った。製造例7の樹脂組成物を使用した試験片は15mol/Lの塩化カルシウム溶液(溶媒:エタノール)に30秒浸漬してから観察を行った。
【0271】
溶融プールの観察は、キーエンス(株)製VHX6000により光学顕微鏡観察を行った。観察倍率は溶融プール全体が視野に収まる倍率である、50倍とした。
【0272】
・溶融プールの面積の算出方法
上述の方法により得られた成形品の断面の光学顕微鏡画像について、前記装置の指定領域面積を計測する機能により、溶融プール面積を測定した。溶融プールの面積を測定するための領域指定は、図2で示す最大直径の長さxの両端、xに対して垂直な最大径yの両端を通過するよう溶融プールの外周部を指定した。
【0273】
(光沢度測定)
レーザー溶着用試験片3の中央部について、光沢計(HORIBA製IG320)を用いてJIS-K7150に準じて60度グロス(%)を測定した。該測定値が大きいほど、光沢度が優れており、60%以上であるものを光沢度が良好であると判定した。
【0274】
(光線透過率測定)
透過樹脂部材として作成したレーザー溶着用試験片1、2又は4を、日本分光(株)製(V670)に積分球「ILN-725」を組み合わせて装置を用いて、波長940nmにおける光線透過率を測定した。透過率が大きいほど光線透過に優れており、30%以上のものを良好であると評価した。
【0275】
上記で説明したレーザー溶着用試験片の作成方法に従って、各樹脂組成物で試験片を作成して、レーザー溶着加工と評価を行った。各実施例と各比較例で使用した試験片の樹脂組成物と試験片の種類の組み合わせ、及び評価結果を表3~5にまとめた。
【0276】

【表3】
【0277】
【表4】
【0278】
【表5】
【0279】
表3~表5から、溶融プール面積が0.21mm以上1.00mm以下である実施例1~12では、溶着強度と溶着部の外観が良好であった。
一方で溶融プール面積が0.21mm以下である比較例1、2、7~10では接合強度が低く、溶融プール面積が1.00mm以上である比較例3、4、5ではレーザー溶着部の外観が悪い結果であった。またTgが80℃の製造例7の樹脂組成物を使用した比較例11~13は、接合強度、レーザー溶着部の外観及び光沢度のうち、少なくとも2つの評価が悪い結果であった。
【0280】
以上のことから、溶融プール面積が特定の数値範囲内である成形品では、レーザー溶着による接合強度と溶着部分の外観に優れることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0281】
本実施形態の成形品及び製造方法によれば、レーザー溶着加工により接合強度と接合部の信頼性と接合箇所の外観特性に優れた成形品が得られる。本実施形態の成形品は、例えば、自動車分野、電気及び電子分野、機械及び工業分野、事務機器分野、航空及び宇宙分野において、好適に用いることができる。
図1
図2
図3
図4
図5