IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 京都ケミカル株式会社の特許一覧

特許7474394二酸化塩素の発生方法、二酸化塩素発生キットおよび二酸化塩素発生具
<>
  • 特許-二酸化塩素の発生方法、二酸化塩素発生キットおよび二酸化塩素発生具 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-17
(45)【発行日】2024-04-25
(54)【発明の名称】二酸化塩素の発生方法、二酸化塩素発生キットおよび二酸化塩素発生具
(51)【国際特許分類】
   C01B 11/02 20060101AFI20240418BHJP
   A61L 9/01 20060101ALI20240418BHJP
   A61L 9/14 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
C01B11/02 F
A61L9/01 F
A61L9/14
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020079304
(22)【出願日】2020-04-28
(65)【公開番号】P2021172571
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2023-04-21
(73)【特許権者】
【識別番号】519106378
【氏名又は名称】京都ケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】今井 堯一
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-321666(JP,A)
【文献】国際公開第2014/064782(WO,A1)
【文献】特開2013-177282(JP,A)
【文献】特開2018-024556(JP,A)
【文献】特許第6385577(JP,B2)
【文献】特開2021-107309(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 11/02
A61L 9/00 - 9/22
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜塩素酸塩と造粒剤を含む固形物(A)、および吸水性樹脂と20℃における水への溶解度が2g/100mL(20℃)よりも小さい難水溶性有機酸と造粒剤を含む固形物(B)を同一の容器内に併存させた中に、水を注いで全体をゲル化させて二酸化塩素を発生させることを特徴とする二酸化塩素の発生方法。
【請求項2】
前記亜塩素酸塩と造粒剤を含む固形物(A)の水中への崩壊速度が、前記吸水性樹脂と20℃における水への溶解度が2g/100mL(20℃)よりも小さい難水溶性有機酸と造粒剤を含む固形物(B)の水への崩壊速度より速いことを特徴とする請求項1記載の二酸化塩素の発生方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の二酸化塩素の発生方法に用いる二酸化塩素発生キットであって、亜塩素酸塩と造粒剤を含む固形物(A)、吸水性樹脂と20℃における水への溶解度が2g/100mL(20℃)よりも小さい難水溶性有機酸と造粒剤を含む固形物(B)、水およびこれらを収容する容器とからなることを特徴とする二酸化塩素発生キット。
【請求項4】
前記造粒剤が無機鉱物の粉体および/もしくは有機系バインダーであることを特徴とする請求項記載の二酸化塩素発生キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化塩素の発生方法、二酸化塩素発生キットに関する。より詳細には、二種類の固形物と水を用いる二酸化塩素の発生方法、二酸化塩素発生キットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二酸化塩素は塩素に代わる抗菌剤として注目されている。従来、二酸化塩素を発生させる方法として多くの方法が提案されている。たとえば、安定化二酸化塩素と吸水性樹脂とからなるゲル状組成物(特許文献1)や、溶存二酸化塩素ガス、亜塩素酸塩およびpH調整剤を含む純粋二酸化塩素液剤に高吸水性樹脂を含有させたゲル状組成物(特許文献2)がある。
これとは別に、本発明者らは先に一液型の二酸化塩素発生組成物を提案した(特許文献3)。これは容器に入ったゲル状組成物であり、蓋を開けるだけで二酸化塩素が徐々に発生し、この蓋を開けたときに塩素臭が殆どなく、一般使用者にとり簡単で使いやすく、安心して使用して頂いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭61-181532号公報
【文献】特開平11-278808号公報
【文献】特許第6385577号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような一液型の二酸化塩素発生組成物においては、二酸化塩素の反応性が大きく微量でも二酸化塩素が発生すると容器を腐食させる性質があるので、密閉状態では反応を完全に抑制しなければならない。しかし、反応を完全に抑制することは非常に難しく、時には蓋が腐食するという問題があった。逆に反応を抑制しすぎると蓋を開けたときに二酸化塩素の発生が遅すぎるという問題がある。
本発明の目的は、保存安定性がよく、簡単な方法で二酸化塩素が従来品よりも多く発生することができ、且つ使用直後に塩素臭の発生が少ない二酸化塩素の発生方法、二酸化塩素発生キットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明者は、鋭意検討した結果、亜塩素酸塩と酸性物質をそれぞれ固形物として保存しておき、使用時に水を用いて接触させれば上記目的を達成できることを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明は、亜塩素酸塩と造粒剤を含む固形物(A)、および吸水性樹脂と20℃における水への溶解度が2g/100mL(20℃)よりも小さい難水溶性有機酸と造粒剤を含む固形物(B)を同一の容器内に併存させた中に、水を注いで全体をゲル化させて二酸化塩素を発生させることを特徴とする二酸化塩素の発生方法である。
【0006】
また本発明は、上記亜塩素酸塩と造粒剤を含む固形物(A)の水中への崩壊速度が、前記吸水性樹脂と20℃における水への溶解度が2g/100mL(20℃)よりも小さい難水溶性有機酸と造粒剤を含む固形物(B)の水への崩壊速度より早いことを特徴とする。
【0007】
さらに本発明は、上記二酸化塩素の発生方法に用いる二酸化塩素発生キットであって、亜塩素酸塩と造粒剤を含む固形物(A)、吸水性樹脂と20℃における水への溶解度が2g/100mL(20℃)よりも小さい難水溶性有機酸と造粒剤を含む固形物(B)、水およびこれらを収容する容器とからなることを特徴とする二酸化塩素発生キットである。
【0009】
また本発明は、上記造粒剤が無機鉱物の粉体および/もしくは有機系バインダーであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、保存安定性がよく、簡単な方法で二酸化塩素が従来品よりも多く発生することができ、且つ使用直後に塩素臭の発生が少ない二酸化塩素の発生方法、二酸化塩素発生キットおよび二酸化塩素発生具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の二酸化塩素を発生させる方法を説明する概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態につき、詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、以下の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【0014】
本発明は、二酸化塩素の発生方法、二酸化塩素発生キットおよび二酸化塩素発生具である。亜塩素酸塩と造粒剤を含む固形物(A)および吸水性樹脂と難水溶性有機酸と造粒剤を含む固形物(B)を同一の容器内に併存させておき、その中に水を注ぐと全体がゲル化して二酸化塩素を徐々に発生させることができる。本発明において固形物とは塊状物であり、種々の形状に成型された錠剤が好ましい。
【0015】
本発明における固形物は錠剤として使用され、形状、大きさには限定がなく、ボール状、矩形状、円錐状、台形状などが挙げられ、用途に合わせて決められるのが好ましい。ここで錠剤とはタブレットまたはブリケットをいう。タブレットまたはブリケットは粉末または顆粒を固めたものであり、固め方によってタブレットとブリケットとは区別される。本発明においてはタブレットが好ましい。
【0016】
(亜塩素酸塩と造粒剤を含む固形物(A))
固形物(A)は亜塩素酸塩と造粒剤を必須に含む。
亜塩素酸塩としては、亜塩素酸塩としては、酸と反応して二酸化塩素を生成するものであれば特に制限はないが、たとえば、亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸カリウム、亜塩素酸リチウムなどの亜塩素酸アルカリ金属塩、または亜塩素酸カルシウム、亜塩素酸マグネシウム、亜塩素酸バリウムなどの亜塩素酸アルカリ土類金属塩などが挙げられる。これらの中で、亜塩素酸ナトリウムが入手しやすく使用上も問題がなく好ましい。
【0017】
亜塩素酸塩は水に溶解してアルカリ性を示し、pHが8.5以上であれば化学的にも安定であり、密封容器内に保存することにより、0.5年~1年程度の保存が可能である。しかし、亜塩素酸塩水溶液が酸性になると二酸化塩素を発生する。そのため固形物中でも水溶液にしたときにpHが8.5以上を示すアルカリ性でなければならない。また、二酸化塩素をアルカリ性水溶液に溶存させて安定化した水溶液である安定化二酸化塩素水溶液は、水溶液中で亜塩素酸塩と平衡関係にあり、本発明の亜塩素酸塩を含む。安定化二酸化塩素水溶液も本発明における亜塩素酸塩として用いることができる。
【0018】
亜塩素酸塩の量は、固形物(A)の重量に対して、好ましくは2重量%以上、30重量%以下である。より好ましくは4重量%以上、20重量%以下である。2重量%以上であると二酸化塩素を安定的に十分に発生することができる。30重量%以下であると二酸化塩素の発生量を制御することができる。
【0019】
本発明における造粒剤は、亜塩素酸塩を造粒する役目を有する。
造粒剤としては、無機鉱物の粉体および/もしくは有機バインダーが挙げられる。造粒剤は、固形物の水への崩壊性を制御できるとともに、固形物を空気中に放置したときの固形物の安定性を維持することができる。
【0020】
無機鉱物としては、たとえば、ベントナイト、カオリン鉱物(カオリナイト、ディッカイト、ナクライト、ハロサイト等)、蛇紋石(クリソタイル、リザータイト、アンチコライト、アメサイト等)、モンモリロナイト鉱物(ナトリウムモンモリロナイト、カルシウムモンモリロナイト、マグネシウムモンモリロナイト等)、スメクタイト(サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、ハイデライト等)、パイロフィライト、タルク、蝋石、雲母(白雲母、フェンジャイト、セリサイト、イライト等)、シリカ(クリストバライト、クォーツ等)、複鎖型粘土鉱物(パリゴルスカイト、セピオライト等)、石膏等の硫酸塩鉱物、ドロマイト、ケイ酸カルシウム、炭酸カルシウム、ギプサム、ゼオライト、沸石、凝灰石、バーミキュライト、ラポナイト、軽石、珪藻土、シラスバルーンなどが挙げられる。また、アルミナバルーン、ガラスバルーン、シリカバルーン、シラスバルーン、フライアッシュバルーン(FAバルーン)、ムライトバルーンなどの中空構造粒子の無機材料も好ましく使用できる。
これらの中で、固形物の水への崩壊性を制御しやすく、二酸化塩素を発生して多く保持できる観点から、セピオライト、ゼオライト、シリカ、ベントナイト、珪藻土、中空構造粒子などが好ましい。
【0021】
無機鉱物の量としては、固形物(A)全量に対して、5重量%以上60重量%以下が好ましく、さらに好ましくは10重量%以上50重量%以下の割合である。無機鉱物の形状は粉体が好ましい。粉体であると、混合したときに固形物としやすく、固形物としたときの水への崩壊性を制御することができるし、固形物を空気中に放置したときの固形物の安定性を維持することができる。
【0022】
無機鉱物の粉体の平均粒径(体積粒径)は、通常1~100μm、好ましくは5~50μmである。かかる平均粒径は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(HORIBA LA-300、堀場製作所社製)により測定することができる。
【0023】
有機バインダーとしてはポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、デキストラン、プルラン、キサンタンガム、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)、ポリアクリル酸ソーダ(SPA)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ポリエチレンオキシド(PEO)などが挙げられる。これらの中でポリビニルアルコールが好ましい。
【0024】
有機バインダーの量としては、固形物(A)全量に対して、0.2重量%以上、20重量%以下が好ましく、さらに好ましくは0.5重量%以上15重量%以下の割合である。有機バインダーの形状は粉体が好ましい。粉体であると、混合したときに固形物としやすく、固形物としたときの水への崩壊性を制御することができるし、固形物を空気中に放置したときの固形物の安定性を維持することができる。
【0025】
また、無機鉱物の粉体と有機系バインダーを数種類組み合わせることで固形物の水への崩壊性の調整を行うことが容易となる。圧縮成形時に同じ圧力がかかったとしても無機鉱物の粉体と有機バインダーとの組み合わせにより、固形物における隙間や嵩密度が変化するので水が固形物の中へ入る速度が異なり崩壊性が異なる。最適の組み合わせを検討する必要がある。
【0026】
また、固形物中の亜塩素酸塩の安定性を向上するためにアルカリ性物質を添加してもよい。アルカリ性物質としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化アンモニウム、セスキ炭酸ソーダ、炭酸水素ナトリウムなどが挙げられる。
【0027】
固形物(A)は、各成分を混合して成形する。固形物の成型の方法としては、特に限定はないが、たとえば、金型法、圧縮成形法などの1個ずつ成形する方法や、この方法で最初に大型の固形物を作製しておいて、それをカットして所望の形状に作成してもよい、好ましいのは圧縮成形法である。
【0028】
すなわち、好ましくは固形物(A)は、上記材料を混合して加熱してまたは加熱しないで、分散させた造粒物を打錠成型等により圧縮成形して得られる。
【0029】
圧縮成形する際の圧力は、得られる固形物(A)に好適な機械的強度を付与するために、5kgf/cm2 以上とすることが好ましく、また水への崩壊性を良好とするために、100kgf/cm2 以下、好ましくは80kgf/cm2 以下とすることが好ましい。かかる圧力を調整することにより水への崩壊性を所定の範囲に調整することができる。
【0030】
上記タブレット法では基本的に臼と杵とに組み合わせた圧縮装置から構成される打錠機が使用される。圧縮装置を介して、臼の中で上杵と下杵との間に圧力を加えると、臼と杵とで形成される形状のタブレットが形成される。このような打錠機としては、一般に知られた一錠ずつ打錠する単発式の打錠機を用いることもできるし、複数の金型を回転する円盤に沿って備えた生産効率の高いロータリー式打錠機を用いることもできる。
【0031】
上記材料の他に、さらに通常使用される成分、たとえば、賦形剤、滑沢剤、結合剤、顔料などを配合してもよい。
【0032】
前記したように、タブレットの形は特に制限されず、たとえば、円柱形状、楕円柱形状、円盤状、ドーナツ状、球状、台形状、円錐状などが挙げられる。円柱形状、台形状の錠剤の場合は、直径が通常10ないし100mm、好ましくは30ないし70mmであり、高さまたは厚さが、通常5ないし100mm、好ましくは10ないし50mmである。
【0033】
このようにして製造された固形物(A)は、水に浸漬すると早く崩壊して水散する。水への崩壊時間は、固形物(A)10gを水に浸漬したとき、約50%が崩壊する時間は30秒以上60秒以下である。この範囲であると取り扱いやすい。
崩壊速度の制御方法は、圧縮時の圧力の調整、無機鉱物と有機バインダーの種類、量は比率などを変えることにより崩壊速度が制御できる。
【0034】
(吸水性樹脂と難水溶性有機酸と造粒剤を含む固形物(B))
吸水性樹脂としては、天然系でも合成系でも特に限定はなく、吸水膨潤して全体をゲル化するものであればよい。たとえば、ポリアクリル酸部分中和物架橋体、デンプン-アクリル酸グラフト重合体の中和物、デンプン-アクリロニトリルグラフト重合体の加水分解物、酢酸ビニル-アクリル酸エステル共重合体のケン化物、イソブチレン-無水マレイン酸共重合架橋体、アクリロニトリル共重合体若しくはアクリルアミド共重合体の加水分解物またはこれらの架橋体、アクリル酸塩-アクリルアミド共重合架橋体、ポリビニルアルコール架橋体、変性ポリエチレンオキサイド架橋体、アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸塩共重合架橋体、(メタ)アクリロイルアルカンスルホン酸塩共重合架橋体、架橋カルボキシメチルセルロース塩、カチオン性モノマーの架橋重合体などが挙げられる。これらのうち、ポリアクリル酸部分中和物架橋体、およびデンプン-アクリル酸グラフト重合体の中和物が、吸水特性、安全性や経済性などが特に良好であるため好ましい。
【0035】
上記の吸水性樹脂は、単独で用いてもよく、また、二種類以上を適宜混合して用いてもよい。上記吸水性樹脂は粒子状であり、所定形状に造粒されていてもよく、また、不定形破砕状、球状、鱗片状、繊維状、棒状、塊状、粉末状など、形状には限定はないが、固形物(B)が水に崩壊したときに水をゲル化しやすいので粉末状であることがより好ましい。
【0036】
粒子の平均粒子径について特に限定はないが、好ましくは30~850μmであり、より好ましくは60~400μmである。
吸水倍率は20~1,000g/gが好ましく、80~600g/gがより好ましい。
【0037】
吸水性樹脂の量は、固形物(B)の重量に対して15重量%以上、50重量%以下である。好ましくは25重量%以上40重量%以下である。
【0038】
本発明に用いられる難水溶性有機酸としては、カルボン酸、スルホン酸、イソシアヌル酸などの有機酸があげられる。好ましくは有機カルボン酸である。
本発明においては難水溶性とは、好ましくは2g/100mL(20℃)よりも水への溶解度が低いことである。
【0039】
難水溶性有機カルボン酸としては、たとえば、アジピン酸(1.4g(15℃))、グルタミン酸(0.84g(25℃))、フタル酸(0.72g(26℃))、フマル酸(0.63g(25℃))、セバシン酸(0.1g(20℃))などの二塩基酸;カプリル酸(0.068g(25℃))、ラウリン酸(0.0005g(25℃))、ミリスチン酸(0.1g以下(18℃))、ステアリン酸(0.0003g(20℃))、パルミチン酸(0.0005g(25℃))、ベヘン酸(0.015g(25℃))などの炭素数8以上の中級~高級脂肪酸などが挙げられる。カッコ内は100mLの水への溶解度を示す。
【0040】
難水溶性有機酸は水へ溶けにくいので溶解した少量の有機酸が徐々に二酸化塩素を発生させ、長期間二酸化塩素発生量を安定にする。また、水に溶解しにくくても無機鉱物に付着したり、吸水性樹脂へ付着したりして酸としての効果を奏することができる。
これらの難水溶性有機酸を選定し、または数種類組み合わせることにより二酸化塩素の発生量を制御しやすい。最も好ましいのは二塩基酸または中級~高級脂肪酸およびこれらの組み合わせである。
【0041】
難水溶性有機酸の内、特に好ましいのは融点が30℃以上の有機酸の粉末または粒状物である。上記の難水溶性有機カルボン酸の内、カプリル酸を除く有機カルボン酸が挙げられる。融点が30℃以上の有機酸の粉末または粒状物であると、吸水性樹脂や造粒剤が粉末または粒状であると均一に混合することができる。
【0042】
難水溶性有機酸の含有量は、種類によって異なるが、固形物(B)の重量に対して好ましくは0.1重量%以上、15重量%以下である。より好ましくは0.5重量%以上、10重量%以下である。難水溶性有機酸の含有量が、0.1重量%以上であるとゲルにした時二酸化塩素が十分発生し、15重量%以下であるとゲルにした時の塩素の臭気が少ない。
【0043】
造粒剤については、固形物(A)で使用する無機鉱物の粉末および有機バインダーが使用できるが、その種類、量、比率は固形物(A)の場合と同じでよいが、目的とする水への崩壊速度、ゲル化速度などによって変化する。
【0044】
固形物(B)の製造法は、固形物(A)の製造法と同じ方法が適用できる。水への崩壊速度が固形物(A)の場合と異なるので、圧縮時の圧力の調整、無機鉱物と有機バインダーの種類、量は比率などを変えることにより固形物(B)とは異なった崩壊速度およびゲル化速度に制御することができる。固形物(B)が水に崩壊するとすぐにゲル化が始まる。
水を入れて静置するだけでよい。最初振ってもよいが、しばらくすると動かなくなる。
【0045】
水への崩壊時間(ゲル化時間)は、たとえば、固形物(B)10gを水に浸漬したとき、約50%がゲル化する時間は2分以上10分以下である。また、二酸化塩素は固形物(A)と固形物(B)に水を入れた瞬間から発生するが、検知管で検知可能な量の二酸化塩素の発生量はおよそ30分後から得られる。
【0046】
本発明は、亜塩素酸塩と造粒剤を含む固形物(A)、および吸水性樹脂と難水溶性有機酸と造粒剤を含む固形物(B)を同一の容器内に併存させた中に、水を注いで全体をゲル化させて二酸化塩素を発生させる方法である。
【0047】
固形物(A)と固形物(B)の比率は、好ましくは重量比で10:90ないし90:10であり、好ましくは30:70ないし70:30である。
水の量は、固形物(A)と固形物(B)の合計100重量部に対して好ましくは200重量部以上1200重量部以下である。200重量部以上1200重量部以下であるとゲル化して二酸化塩素を発生することができる。
【0048】
亜塩素酸塩はpHが6.5以下で二酸化塩素を発生し、pHが低いほど二酸化塩素発生量は大きい。固形物(B)中の難水溶性有機酸がこの役目を果たす。その場合難水溶性有機酸が水に溶けにくいほど二酸化塩素を徐々に発生する。また、固形物(B)中の吸水性樹脂で全体をゲル化するので、材料の衝突が緩やかになり二酸化塩素の発生もゆるやかになる。これらが相俟って長期間二酸化塩素を発生させることができる。
【0049】
この場合、亜塩素酸塩と造粒剤を含む固形物(A)の水中への崩壊速度が、吸水性樹脂と難水溶性有機酸と造粒剤を含む固形物(B)の水への崩壊速度より速いことが好ましい。固形物(A)の水中への崩壊速度が速いと水がゲル化するまでに固形物(A)の亜塩素酸塩が水に溶解して拡散するので水全体に亜塩素酸が均一に存在できるようになる。その後固形物(B)中の難水溶性有機酸が水中に溶解分散していくので二酸化塩素を発生できるようになる。そのときにゲル化が少しずつ進むので難水溶性有機酸も水中にまんべんなく溶解分散することができる。
【0050】
したがって、亜塩素酸塩と造粒剤を含む固形物(A)、吸水性樹脂と難水溶性有機酸と造粒剤を含む固形物(B)、水およびこれらを収容する容器とのセットは二酸化塩素発生キットとなる。
亜塩素酸塩と造粒剤を含む固形物(A)、および吸水性樹脂と難水溶性有機酸と造粒剤を含む固形物(B)を容器に入れて蓋を閉めて長時間放置しておいても固形物(A)、(B)は別個の固体であるので反応することがなく長期間安定である。蓋を開けて水を注いで全体をゲル化させることができる。それによって初めて二酸化塩素を発生させることができる。また、水は容器の中に入れなければよく、必要量をパックに入れて容器とセットにしてもよく、使用時に必要量準備してもよい。
【0051】
また、上記の二酸化塩素発生キットを用いて作製され、亜塩素酸塩と造粒剤を含む固形物(A)および吸水性樹脂と難水溶性有機酸と造粒剤を含む固形物(B)が水によりゲルされたものは二酸化塩素発生具となる。
上記のように、ゲル中には、固形物(A)中の亜塩素酸塩と固形物(B)中の難水溶性有機酸が存在することになるので二酸化塩素が発生する。
【0052】
図1は、本発明の二酸化塩素を発生させる方法を説明する概念図である。図1(a)において、容器1の中に固形物(A)2と固形物(B)3が重ねられて収納されている。蓋は取り除かれて、上から容器1に水4が投入されようとしている。この容器1と固形物(A)2と固形物(B)3と水とのセットが本発明の二酸化塩素発生キット5である。図1(a)において水が投入されると5分以上経過すると、図1(b)のように固形物(A)2と固形物(B)3が水に崩壊してゲル化して容器1の中はゲル化物6となる。これが本発明の二酸化塩素発生具7である。この状態になると二酸化塩素が徐々に発生してくる。
【0053】
本発明の二酸化塩素発生キットを用いて二酸化塩素発生具を作製して、二酸化塩素を発生させる方法は、一液型でなくても簡単な方法で二酸化塩素が発生することができ、且つ使用直後に塩素臭の発生が少ない。長期間安定して二酸化塩素を発生させることができる。また、水を入れるまでは容器の中に固形物(A)と固形物(B)を共存させても長期間保存安定性が良好である。
【0054】
以下実施例にて説明するがこれに限定されない。
(製造例1)(固形物(A)の製造)
「シルブライト25」(日本カーリット社製、安定化二酸化塩素、25万ppm)39.2重量部、「CMC-1390」(ダイセル社製、カルボキシメチルセルロース)の5重量%水溶液9.8重量部、「スーパークレイ」(ホージュン社製、ベントナイト)19.6重量部、「マールライトM-60H 」(丸中白土社製、シラスバルーン)29.4重量部、5%水酸化ナトリウム水溶液 2重量部をステンレスビーカーに投入し、スパイラル羽根で攪拌混合した後(このときのpHは11.5~12)、約10重量部を円筒形金型に移しプレス圧50kgf/cmで 30秒間圧縮して、固形物(A)約8重量部(形状は円柱形)を得た。
【0055】
(製造例2)(固形物(B)の製造)
「サンウエットST-500D」(三洋化成工業社製、架橋ポリアクリル酸塩型吸水性樹脂)25重量部、「PEG4000S」( 三洋化成工業社製、ポリエチレングリコール 数平均分子量4000)16.7重量部、「スーパークレイ」(ホージュン社製、ベントナイト)16.7重量部、「マールライト M-60H」(丸中白土社製、シラスバルーン)16.7重量部、ステアリン酸(試薬)8.2重量部、水16.7重量部をステンレスビーカーに投入し、スパイラル羽根で攪拌混合した後(このときのpHは6~7)、約12重量部を円筒形金型に移しプレス圧50kgf/cmで30秒間圧縮して、固形物(B)11.8重量部(形状は円柱形)を得た。
【0056】
(実施例1)
固形物(A)8重量部と固形物(B)11.8重量部を140mL広口瓶に入れ蓋を閉めて3ヶ月間放置した。3ヶ月後蓋を開けたが何の変化もみられなかった。この中に水120重量部を投入した。固形物(A)が先に崩壊し始めて、少し間をおいてから固形物(B)が崩壊し始めた。固形物(B)が崩壊すると徐々にゲル化が起こり始め段々とゲル化が進み5分後には完全にゲル化した。状態は濁ったままであった。このようにして本発明の二酸化塩素発生具を得た。
この中から徐々に二酸化塩素が発生しているようであったが塩素臭は感知しなかった。二酸化塩素の発生量は表1のように推移した。
【0057】
また、比較例として特許第6385577号の方法で作製した二層からなるゲル状二酸化塩素発生具を参考例1として作製した。組成は、亜塩素酸ナトリウム水溶液(12500ppm) 85.0重量部、サンウエットST-500D 5重量部、バンゲルAV(セピオライト、楠本化成社製) 5重量部、ベンゲルHV(ベントナイト、ホージュン社製)2重量部、リン酸二水素アンモニウム水溶液(0.5%) 43.0重量部、合計137.9重量部とした。
本発明の二酸化塩素発生具および比較の二酸化塩素発生具について、二酸化塩素発生量、タバコの消臭、容器の蓋を開封したときの塩素発生量および塩素臭を評価した。その結果を表1に示した。
【0058】
【表1】
【0059】
(評価方法)
1.二酸化塩素発生量の測定法
二酸化塩素発生具を10Lの気体補修用バッグに入れておき、30分後にバッグを上下に振って中の気体を均一にした後、検知管でバッグの中の二酸化塩素放出濃度(ppm)を測定した。検知管としては、二酸化塩素測定検知管No.116(光明化学工業社製)を用いた。以下同様である。
【0060】
2.タバコの消臭性
二酸化塩素発生具を作製して1日後に、タバコの煙を15秒間封入した15Lポリ容器にこの二酸化塩素発生具を入れ、密閉してタバコ臭がなくなるまでの時間を測定した。
【0061】
3.塩素臭および塩素発生量
二酸化塩素発生具を作成して5分後に、4Lポリ容器に入れてポリ容器の蓋をした。10分静置後、容器内の塩素臭を鼻で嗅いで塩素臭の程度を5人で判定した。発生塩素量は北川式検知管で測定した。
塩素臭:小 塩素臭がないか、あるが気にならない程度
中 塩素臭がややある、塩素臭が気になる程度
大 塩素臭が大
【0062】
表1から、実施例1は塩素臭がほとんどなく、二酸化塩素の効果であるタバコの消臭性が良好であった。また、比較例1と比較して二酸化塩素発生量が多く消臭性も改良されていることが確認できた。すなわち、本発明の二酸化塩素発生具は、特許第6385577号の方法で作製した二層からなるゲル状二酸化塩素発生具と比較して、保存安定性が向上しているにも関わらず二酸化塩素発生量が多く、消臭具としても使用できることが確認できた。
【符号の説明】
【0063】
1 容器1
2 固形物(A)
3 固形物(B)
4 水
5 二酸化塩素発生キット
6 ゲル化物
7 二酸化塩素発生具
図1