(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-17
(45)【発行日】2024-04-25
(54)【発明の名称】脱脂炉および脱脂方法
(51)【国際特許分類】
F27D 7/02 20060101AFI20240418BHJP
F27D 21/00 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
F27D7/02 A
F27D21/00 A
(21)【出願番号】P 2020163777
(22)【出願日】2020-09-29
【審査請求日】2022-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100129702
【氏名又は名称】上村 喜永
(74)【代理人】
【識別番号】100094248
【氏名又は名称】楠本 高義
(72)【発明者】
【氏名】田中 優
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 尚規
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-201606(JP,A)
【文献】特開2012-197475(JP,A)
【文献】特開2004-218005(JP,A)
【文献】特開昭60-131869(JP,A)
【文献】特開2017-036483(JP,A)
【文献】特開2007-001843(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27D 7/00 -99/00
B22F 1/00 - 8/00
C04B 35/622-35/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被脱脂物を収容する炉本体と、
前記炉本体に供給する不活性ガスのガス源と、
前記不活性ガスを加熱する加熱装置と、
前記炉本体内のガスを検出するガスモニターであって、前記被脱脂物から発生したガスを検出するガスモニターと、
前記ガスモニターによって検出された前記被脱脂物から発生したガスに基づいて、前記ガス源及び前記加熱装置を制御して、脱脂を制御する制御装置と、
を含
み、
前記制御装置は、前記ガスモニターで前記被脱脂物から発生したガスが検出されなくなれば前記不活性ガスの供給を停止するように前記ガス源を制御する脱脂炉。
【請求項2】
被脱脂物を収容する炉本体と、
飽和蒸気を生成する飽和蒸気生成装置または液体の液体源と、
前記炉本体に供給する過熱蒸気を飽和蒸気または液体から生成する過熱器と、
前記炉本体内のガスを検出するガスモニターであって、前記被脱脂物から発生したガスを検出するガスモニターと、
前記ガスモニターによって検出された前記被脱脂物から発生したガスに基づいて、前記過熱器を制御して、脱脂を制御する制御装置と、
を含
み、
前記制御装置は、前記ガスモニターで前記被脱脂物から発生したガスが検出されなくなれば前記過熱蒸気の供給を停止するように前記飽和蒸気生成装置、液体源または過熱器を制御する脱脂炉。
【請求項3】
被脱脂物を収容する炉本体と、
前記炉本体に供給する不活性ガスのガス源と、
前記不活性ガスを加熱する加熱装置と、
飽和蒸気を生成する飽和蒸気生成装置または液体の液体源と、
前記炉本体に供給する過熱蒸気を飽和蒸気または液体から生成する過熱器と、
前記炉本体内のガスを検出するガスモニターであって、前記被脱脂物から発生したガスを検出するガスモニターと、
前記ガスモニターによって検出された前記被脱脂物から発生したガスに基づいて、前記ガス源、加熱装置および過熱器を制御して、脱脂を制御する制御装置と、
を含
み、
前記制御装置は、前記ガスモニターで前記被脱脂物から発生したガスが検出されなくなれば、前記不活性ガスの供給を停止するように前記ガス源を制御するか、前記過熱蒸気の供給を停止するように前記飽和蒸気生成装置、液体源または過熱器を制御するか、もしくは両方を制御する脱脂炉。
【請求項4】
前記ガスモニターで検出されるガスが複数種類あり、前記制御装置がガスごとに炉本体の内部空間の雰囲気温度が異なるようにガス源と加熱装置、飽和蒸気生成装置または液体源と過熱器またはその両方を制御する
請求項3に記載の脱脂炉。
【請求項5】
前記ガスモニターがフーリエ変換赤外分光度計を含む請求項1から4のいずれかの脱脂炉。
【請求項6】
前記炉本体から排気されたガスを検知するガスモニターと、
前記炉本体から排気されたガスを計測する温度計と、
を備えた請求項1から5のいずれかの脱脂炉。
【請求項7】
炉本体に被脱脂物を収納する工程と、
不活性ガスを昇温させる工程と、
前記昇温された不活性ガスで被脱脂物を脱脂する工程と、
前記炉本体内のガスを検出する工程であって、前記被脱脂物から発生したガスをガスモニターで検出する工程と、
前記ガスモニターによって、前記被脱脂物から発生したガスが検出されなくなれば前記不活性ガスの供給を停止する工程と、
を含む脱脂方法。
【請求項8】
炉本体に被脱脂物を収納する工程と、
飽和蒸気または液体から過熱蒸気を生成する工程と、
前記過熱蒸気で被脱脂物を脱脂する工程と、
前記炉本体内のガスを検出する工程であって、前記被脱脂物から発生したガスをガスモニターで検出する工程と、
前記ガスモニターによって、前記被脱脂物から発生したガスが検出されなくなれば前記過熱蒸気の供給を停止する工程と、
を含む脱脂方法。
【請求項9】
炉本体に被脱脂物を収納する工程と、
不活性ガスを昇温させる工程と、
飽和蒸気または液体から過熱蒸気を生成する工程と、
前記昇温された不活性ガス、過熱蒸気またはその両方で被脱脂物を脱脂する工程と、
前記炉本体内のガスを検出する工程であって、前記被脱脂物から発生したガスをガスモニターで検出する工程と、
前記ガスモニターによって前記被脱脂物から発生したガスが検出されなくなれば、前記不活性ガスの供給を停止するか、前記過熱蒸気の供給を停止するか、またはその両方の供給を停止する工程と、
を含む脱脂方法。
【請求項10】
前記ガスモニターで検出されたガスに応じて前記
炉本体に不活性ガス、過熱蒸気またはその両方の供給を制御する工程を含む
請求項9に記載の脱脂方法。
【請求項11】
前記ガスモニターで検出されるガスが複数種類あり、検出されるガスごとに炉本体の内部空間の雰囲気温度が異なるように不活性ガスの温度、過熱蒸気の温度、またはその両方を制御する
請求項10に記載の脱脂
方法。
【請求項12】
前記ガスモニターがフーリエ変換赤外分光度計を含む請求項
7から11のいずれかの脱脂方法。
【請求項13】
前記炉本体から排気されたガスをガスモニターで検知する工程と、
前記炉本体から排気されたガスの温度を温度計で測定する工程と、
を備えた請求項
7から12のいずれかの脱脂方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱脂炉および脱脂方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セラミックスからなる被脱脂物が脱脂炉で脱脂されている。たとえば、下記の特許文献1の脱脂炉は、被脱脂物を収納する炉本体、被脱脂物を加熱する加熱手段を備える。脱脂によって生じたガスは加熱され、分解されて二酸化炭素などのガスに変換される。特許文献1はその分解等されたガスの一部を再び炉本体に導いている。酸素ガス濃度が低濃度に維持され、被脱脂物のクラックが防止されることが特許文献1に説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
適切な脱脂条件を求めるために、種々の条件で脱脂する必要がある。被脱脂物の材料および形状などが異なると脱脂条件が異なるため、新たに脱脂条件を求める必要がある。適切な脱脂条件を求めるために多大な労力が必要になる。脱脂条件を求めたとしても、脱脂を失敗しないために、求めた条件よりも長時間脱脂する場合がある。脱脂に時間がかかり、作業効率が悪くなる。適切な時間で脱脂することが好ましい。なお、特許文献1は脱脂条件を求めることについては説明されていない。
【0005】
そこで本発明の目的は、適切な時間で脱脂できる脱脂炉および脱脂方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決すべく、本発明に係る脱脂炉は、以下に述べるような構成を有する。
【0007】
本発明の脱脂炉は、被脱脂物を収容する炉本体と、前記炉本体に供給する不活性ガスのガス源と、前記不活性ガスを加熱する加熱装置と、前記被脱脂物から発生したガスを検出するガスモニターとを含む。飽和蒸気を生成する飽和蒸気生成装置、液体の液体源またはその両方と、前記炉本体に供給する過熱蒸気を飽和蒸気または液体から生成する過熱器を含んでもよい。
【0008】
本発明の脱脂方法は、炉本体に被脱脂物を収納する工程と、不活性ガスを昇温させる工程と、前記昇温された不活性ガスで被脱脂物を脱脂する工程と、前記被脱脂物から発生したガスをガスモニターで検出する工程とを含む。飽和蒸気または液体から過熱蒸気を生成する工程と、前記過熱蒸気で被脱脂物を脱脂する工程を含んでもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、本願はガスモニターで脱脂されたときに発生したガスを検出することで、脱脂が開始したか、また完了したか否かを判断することができる。脱脂条件を求める必要はなく、誰でも同じように脱脂できる。脱脂された製品の品質を一定に保つことができる。ガスが検出されなくなったときまたは検出量が低下したのちに、設定された(または規定の)温度まで再度昇温することを繰り返し、最終的にガスが検出されなくなったときに脱脂を終了することで、不必要に長時間の脱脂を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】FTIRで検出されたガスを示すグラフである。
【
図3】複数のガスを検知しながら脱脂するときの炉本体の雰囲気温度を示すグラフである。
【
図4】過熱器を備えた脱脂炉の構成を示す図である。
【
図5】ガス源と過熱器を備えた脱脂炉の構成を示す図である。
【
図6】通信装置を備えた脱脂炉の構成を示す図である。
【
図7】排気通路にガスモニターおよび温度計を配置した脱脂炉の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の脱脂炉および脱脂方法について図面を参照して説明する。複数の実施形態を説明するが、異なる実施形態であっても同じ手段には同一の符号を付して説明を省略する場合がある。
【0012】
[実施形態1]
図1に示す本願の脱脂炉10は、被脱脂物12が収容される炉本体14、不活性ガスのガス源16、被脱脂物12から発生したガスを検出するガスモニター18を備える。
【0013】
[被脱脂物]
被脱脂物12はセラミックス成形体を含む。セラミックスは窒化物系セラミックス(窒化アルミニウム、窒化ケイ素など)、アルミナ、ジルコニウムなどを含む。被脱脂物12にバインダーが含まれる。バインダーは被脱脂物12を成形するときにセラミックスに混合されるものである。被脱脂物12が昇温されることで、バインダーが分解されてガスとして放出される。バインダーはポリブチルメタクリレート、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、酢酸ビニル、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。
【0014】
[炉本体]
炉本体14はSUS310SまたはSUS316Lなどの耐熱性材料で構成されている。炉本体14は容器状になっており、その内部空間20に被脱脂物12が収容される。炉本体14の内部空間20に被脱脂物12を配置するための棚22を備えてもよい。炉本体14は供給口24および排気口26が形成されている。不活性ガスが供給口24から炉本体14の内部空間20に供給される。被脱脂物12が脱脂された際に発生したガスは排気口26から排気される。
【0015】
[ガス源]
ガス源16は不活性ガスの貯蔵、生成またはその両方をおこなう装置である。不活性ガスは、窒素、アルゴン、ヘリウムなどである。昇温された不活性ガスが炉本体14に供給される。炉本体14とガス源16が配管28で接続されている。
【0016】
ガスを昇温させる加熱装置30が配管28の途中に配置されている。または、ガス源16と加熱装置30が一体になっていてもよい。加熱装置30は電気ヒーター、ガスバーナーまたは重油バーナーなどである。昇温された不活性ガスの温度は500℃以上、好ましくは600~1200℃である。高温の不活性ガスによって被脱脂物12が昇温され、脱脂される。配管28の炉本体14と加熱装置30の間の部分は耐熱材料で構成されることが好ましい。なお、加熱装置30は炉本体14の内部空間20に設けられて、内部空間20でガスを昇温させてもよい。
【0017】
[ガスモニター]
被脱脂物12から発生したガスを検出するガスモニター18を備える。上記したバインダーが昇温されてガスになり、そのガスがガスモニター18で検出される。ガスが検出できるのであれば、ガスモニター18が設置される場所は限定されない。たとえば、炉本体14の排気口26付近のガスを検出できるようにガスモニター18を設置する。ガスモニター18はFTIR(フーリエ変換赤外分光度計)、GC(ガスクロマトグラフ)、FID(水素炎イオン化検出器)、TOC計(全有機炭素計)などである。ガスモニター18がガスの有無を検出することで、脱脂の進行状況を求めることができる。ガスが検出されると脱脂されており、その後にガスが検出されなくなれば脱脂が終了している。
【0018】
1つの脱脂炉10に備えられるガスモニター18は1つに限定されず、複数のガスモニター18が備えられてもよい。
【0019】
[温度計]
炉本体14の内部空間20の雰囲気温度を計測するための温度計32を備える。温度計32は熱電対温度計を利用する。
【0020】
[制御装置]
ガスモニター18で検出されたガスに応じてガス源16および加熱装置30を制御する制御装置34を備える。ガスモニター18で検出された値が制御装置34に入力される。さらに、制御装置34には温度計32で計測された温度が入力される。制御装置34は、ガスが検出されると、そのガスが検出されなくなるまで炉本体14に不活性ガスが供給され、かつ、炉本体14の雰囲気温度が所定温度に保たれるように、ガス源16および加熱装置30を制御する。制御装置34は、CPU(Central Processing Unit)またはPLC(Programmable Logic Controller)などの演算装置を含む。
【0021】
[排気ガス燃焼炉]
排気ガス燃焼炉36が炉本体14の排気口26に接続されている。排気ガス燃焼炉36は断熱体38を筒状にして形成した排気通路40および加熱装置(図示省略)を備える。その加熱装置は、電気ヒーター、ガスバーナーまたは重油バーナーなどである。排気ガス燃焼炉36は脱脂によって被脱脂物12から放出されたガスを加熱し、分解されて二酸化炭素などのガスに変換して排気する。
【0022】
[その他]
本願は炉本体14の内部空間20に不活性ガスを吸引するためのファン、脱脂によって発生したガスを炉本体14の内部空間20から排気するためのファンが備えられてもよい。
【0023】
[脱脂方法]
次に脱脂炉10を用いた脱脂方法について説明する。(1)被脱脂物12を炉本体14の内部空間20に収容する。たとえば被脱脂物12はセラミックスおよびバインダーからなる成形品である。
【0024】
(2)ガス源16から炉本体14の内部空間20に不活性ガスを供給する。たとえば、不活性ガスは窒素である。不活性ガスは加熱装置30によって昇温され、炉本体14の雰囲気温度が上昇され、炉本体14に収容されている被脱脂物12が昇温される。たとえば、炉本体14の内部空間20の雰囲気温度が500℃以上、好ましくは600~1200℃まで昇温される。
【0025】
(3)炉本体14の内部空間20の雰囲気温度が上がることで、被脱脂物12が脱脂される。脱脂の際に被脱脂物12はバインダーをガスとして放出する。そのガスをガスモニター18が検出する。たとえば
図2は、ガスモニター18がフーリエ変換赤外分光度計(FTIR)であり、ガスの中にメタクリル酸エチルが含まれる場合の検出結果である。ガスに含まれる官能基によって波数が決まっているため、設定した波数の強度によってガスが発生しているかどうかを検出していることがわかる。脱脂が終了するとガスが検出されなくなる。本願は、ガスモニター18でガスが検出される間、不活性ガスを炉本体14の内部空間20に供給する。供給する不活性ガスの温度を一定にして被脱脂物12を脱脂する。その後、ガスが検出されなくなれば、停止する。
【0026】
被脱脂物12を脱脂した際に生じたガスは、排気口26から排気ガス燃焼炉36に供給される。排気ガス燃焼炉36の排気通路40の中で、ガスが昇温され、分解されて二酸化炭素などになって排気させる。
【0027】
(4)ガス源16および加熱装置30を停止させ、炉本体14への不活性ガスの供給を停止する。炉本体14の内部空間20の雰囲気温度が低下し、被脱脂物12の温度が下がる。被脱脂物12の温度が下がれば、炉本体14から被脱脂物12を取り出す。その後、被脱脂物12は任意の焼結炉に入れられて焼結されてもよい。
【0028】
以上のように、本願はガスモニター18で脱脂されたときに発生したガスを検出することで、脱脂が完了したか否かを判断することができる。脱脂条件を求める必要はない。ガスが検出されなくなったときに脱脂を終了することで、最適な時間で脱脂を終了することができる。
【0029】
[実施形態2]
被脱脂物12から放出されるガスは1種類に限定されない。被脱脂物12に含まれるバインダーによっては複数のガスが発生する場合がある。ガスモニター18は複数のガスを検出してもよい。
【0030】
たとえば、ガスモニター18が3種類のガスA、B、Cを検出するとする。1つ目のガスAを検出したときの炉本体14の雰囲気温度がTA、2つ目のガスBを検出したときの炉本体14の雰囲気温度がTB、3つ目のガスCを検出したときの炉本体14の雰囲気温度がTCであるとする。その雰囲気温度はTA<TB<TCであるとする。
図3に示すように、1つ目のガスAを検出した状態で雰囲気温度をTAに維持して脱脂する。1つ目のガスAが検出されなくなれば(または検出量が減少すれば)、雰囲気温度を上げる。雰囲気温度がTBになると2つ目のガスBが検出される。雰囲気温度をTBに維持して脱脂する。2つ目のガスBが検出されなくなれば(または検出量が減少すれば)、炉本体14の雰囲気温度を上げる。雰囲気温度がTCになると3つ目のガスCが検出される。雰囲気温度をTCに維持して脱脂する。3つ目のガスCが検出されなくなれば(または検出量が減少すれば)、不活性ガスの供給を停止して、脱脂を終了する。
【0031】
以上のように、ガスが検出されるたびに炉本体14の雰囲気温度を保ち、ガスが検出されなくなれば炉本体14の雰囲気温度を上昇させる。制御装置34はガスモニター18でガスが検出されるたびにガス源16と加熱装置30を制御し、温度計32で計測される温度が一定になるようにする。ガスが検出されなくなれば(または検出量が減少すれば)、ガス源16と加熱装置30を制御し、温度計32で計測される温度が徐々に高くなるようにする。脱脂した際に被脱脂物12から放出されるガスが順番に放出されていく。被脱脂物12が不完全脱脂になることを防止でき、すべてのバインダーを脱脂させることができる。
【0032】
[実施形態3]
不活性ガスの代わりに過熱蒸気を利用して脱脂してもよい。
図4の脱脂炉42に示すように、飽和蒸気を生成する飽和蒸気生成装置44、過熱蒸気を生成する過熱器46(superheater)を備える。炉本体14と飽和蒸気生成装置44が配管28で接続され、配管28の途中に過熱器46が備えられる。
【0033】
飽和蒸気生成装置44は過熱器46に飽和蒸気を供給する。飽和蒸気生成装置44は純水などの液体を沸騰させて飽和蒸気を生成するボイラーを含む。
【0034】
過熱器46は飽和蒸気から過熱蒸気を生成するための装置である。過熱器46として接触過熱器、放射過熱器、つり下げ過熱器、板形過熱器、横置き過熱器などが挙げられる。過熱器46は長管を備え、その中を飽和蒸気が流れる。長管の中を流れる飽和蒸気が加熱され、過熱蒸気となる。生成された過熱蒸気が炉本体14に供給される。この時の過熱蒸気は常圧で100℃の飽和蒸気をさらに高温にした無色透明の水(H2O)からなる気体である。過熱蒸気の温度は500℃以上、好ましくは600~1200℃である。配管28の炉本体14と過熱器46の間の部分は耐熱材料で構成されることが好ましい。過熱蒸気は熱容量が大きく、熱伝導率が高いため、被脱脂物12を短時間で昇温させて脱脂することができる。
【0035】
飽和蒸気生成装置44で飽和蒸気が生成され、飽和蒸気は過熱器46に供給される。過熱器46は飽和蒸気から過熱蒸気を生成し、炉本体14に供給する。炉本体14の雰囲気温度が上昇し、被脱脂物12が脱脂される。
【0036】
飽和蒸気生成装置44と過熱器46は制御装置34によって制御される。上記実施形態と同様に制御装置34にはガスモニター18で検出された値と温度計32の値が入力されている。制御装置34はガスモニター18でガスが検出されると、炉本体14の雰囲気温度が保たれるように飽和蒸気生成装置44と過熱器46を制御する。炉本体14の内部空間20は脱脂時の温度が維持され、被脱脂物12が脱脂される。ガスモニター18でガスが検出されなくなれば、制御装置34が飽和蒸気生成装置44と過熱器46を停止させて脱脂を終了する。
【0037】
実施形態2においても、不活性ガスの代わりに過熱蒸気を利用してもよい。不活性ガスよりも昇温速度が速く、脱脂にかかる時間を短時間にすることができる。一のガスが検出されると炉本体14の雰囲気温度が保たれるように、制御装置34が飽和蒸気生成装置44と過熱器46を制御し、一のガスが検出されなくなれば他のガスが検出されるまで過熱蒸気の温度を上げて炉本体14の雰囲気温度を上昇させる。
【0038】
過熱蒸気を生成するために過熱器46に飽和蒸気が供給されたが、過熱器46に純水などの液体が供給されてもよい。飽和蒸気生成装置44の代わりに液体を過熱器46に供給するための液体源を備えてもよい。液体源は液体を生成する装置、液体を溜めるタンクまたはその両方を備える。過熱器46は液体から過熱蒸気を生成する。
【0039】
[実施形態4]
図5に示す脱脂炉48のように、ガス源16、加熱装置30、飽和蒸気生成装置44および過熱器46を備えてもよい。不活性ガス、過熱蒸気またはその両方で被脱脂物12を昇温させて脱脂する。
【0040】
[実施形態5]
脱脂炉10、42、48の操作者がガスモニター18でガスの検出状況を確認し、手動でガス源16と過熱器46、飽和蒸気生成装置44と過熱器46、またはそれらすべてを操作してもよい。操作者はガスモニター18で検出された値を確認することで脱脂状況を判断できる。
【0041】
[実施形態6]
図6の脱脂炉50のように、制御装置34に通信装置52が接続されてもよい。通信装置52は有線または無線によってネットワーク54に接続するための装置である。ネットワーク54はLAN(Local Area Network)、LTE(Long Term Evolution)などの携帯電話の通信設備を用いたネットワーク、またはそれら両方を含んだものであってもよい。サーバー56がネットワーク54に接続されている。ガスモニター18で検出された値、温度計32で計測された値、またはその両方がネットワーク54を介してサーバー56に送信される。サーバー56は受信した値を記憶装置に記憶する。他のコンピュータがネットワーク54を介してサーバー56にアクセスし、記憶された値を確認してもよい。遠隔で脱脂状況を確認することができる。
【0042】
[実施形態7]
図7の脱脂炉60のように、排気通路40にガスモニター62を付け、ガスの加熱分解を確認できるようにしてもよい。炉本体14の内部空間20から排気されたガスが完全に二酸化炭素などのガスに変換されたか否かを確認できる。ガスモニター62は炉本体14の内部空間20でガスを検出するのに使用したガスモニター18と同じものを使用してもよい。
【0043】
また、排気通路40に温度計64を配置して、排気されるガスの温度を計測してもよい。制御装置34にガスモニター62と温度計64の阿多が入力される。制御装置34が排気通路40に備えられた加熱装置(図示省略)による温度を制御し、確実にガスを加熱分解できるようにする。
【0044】
必要に応じて排気通路40に空気の供給口を設け、空気の供給量を調節できるようにしても良い。空気の導入量によってガスの燃焼を制御する。
【0045】
(第1項)一態様に係る脱脂炉は、被脱脂物を収容する炉本体と、前記炉本体に供給する不活性ガスのガス源と、前記不活性ガスを加熱する加熱装置と、前記被脱脂物から発生したガスを検出するガスモニターとを含む。
【0046】
第1項に記載の脱脂炉によれば、ガスモニターで検出されたガスによって脱脂の進行状況を確認することができる。脱脂の終了がわかり、適切な時間に脱脂を終了することができる。
【0047】
(第2項)一態様に係る脱脂炉は、被脱脂物を収容する炉本体と、飽和蒸気を生成する飽和蒸気生成装置または液体の液体源と、前記炉本体に供給する過熱蒸気を飽和蒸気または液体から生成する過熱器と、前記被脱脂物から発生したガスを検出するガスモニターとを含む。
【0048】
第2項に記載の脱脂炉によれば、飽和蒸気によって脱脂時間を短縮することができる。その際に、ガスモニターで脱脂された際のガスを検出することで、最適な時間に脱脂を終了することができる。
【0049】
(第3項)一態様に係る脱脂炉は、被脱脂物を収容する炉本体と、前記炉本体に供給する不活性ガスのガス源と、前記不活性ガスを加熱する加熱装置と、飽和蒸気を生成する飽和蒸気生成装置または液体の液体源と、前記炉本体に供給する過熱蒸気を飽和蒸気または液体から生成する過熱器と、前記被脱脂物から発生したガスを検出するガスモニターとを含む。
【0050】
第3項に記載の脱脂炉によれば、不活性ガスまたは飽和蒸気のいずれで脱脂をおこなったとしても、ガスモニターでガスを検出することで、最適な時間に脱脂を終了させることができる。
【0051】
(第4項)前記ガスモニターで検出されたガスに応じてガス源と加熱装置、飽和蒸気生成装置または液体源と過熱器またはその両方を制御する制御装置を含む。
【0052】
第4項に記載の脱脂炉によれば、制御装置がガス源などを制御することで、自動的に脱脂することができる。その際、ガスモニターで検出された値を利用することで、最適な時間で脱脂することができる。
【0053】
(第5項)前記ガスモニターで検出されるガスが複数種類あり、前記制御装置がガスごとに炉本体の内部空間の雰囲気温度が異なるようにガス源と加熱装置、飽和蒸気生成装置または液体源と過熱器またはその両方を制御する。
【0054】
第5項に記載の脱脂炉によれば、ガスごとに所定の温度で脱脂することで、不完全脱脂を防止できる。
【0055】
(第6項)前記ガスモニターがフーリエ変換赤外分光度計を含む。
【0056】
第6項に記載の脱脂炉によれば、ガスモニターとしてフーリエ変換赤外分光度計を使用することで、脱脂された時のガスを検出することができる。
【0057】
(第7項)前記炉本体から排気されたガスを検知するガスモニターと、前記炉本体から排気されたガスを計測する温度計とを備える。
【0058】
第7項に記載の脱脂炉によれば、排気されたガスを検知したり、温度測定したりすることで、排気されるガスの加熱温度および供給する空気を制御でき、確実に分解できるように制御することができる。
【0059】
(第8項)一態様に係る脱脂方法は、炉本体に被脱脂物を収納する工程と、不活性ガスを昇温させる工程と、前記昇温された不活性ガスで被脱脂物を脱脂する工程と、前記被脱脂物から発生したガスをガスモニターで検出する工程とを含む。
【0060】
第8項に記載の脱脂方法によれば、ガスモニターで脱脂時に発生したガスを検出することで、脱脂条件を求める必要がない。ガスを検出することで脱脂終了時を確認することができる。
【0061】
(第9項)一態様に係る脱脂方法は、炉本体に被脱脂物を収納する工程と、飽和蒸気または液体から過熱蒸気を生成する工程と、前記過熱蒸気で被脱脂物を脱脂する工程と、前記被脱脂物から発生したガスをガスモニターで検出する工程とを含む。
【0062】
第9項に記載の脱脂方法によれば、過熱蒸気によって短時間で炉本体の内部空間を昇温させることができ、短時間で脱脂することができる。ガスモニターでガスを検出することで、脱脂終了を確認することができる。不必要に長時間の脱脂になることを防止できる。
【0063】
(第10項)一態様に係る脱脂方法は、炉本体に被脱脂物を収納する工程と、不活性ガスを昇温させる工程と、飽和蒸気または液体から過熱蒸気を生成する工程と、前記昇温された不活性ガス、過熱蒸気またはその両方で被脱脂物を脱脂する工程と、前記被脱脂物から発生したガスをガスモニターで検出する工程とを含む。
【0064】
第10項に記載の脱脂方法によれば、不活性ガスまたは過熱蒸気のいずれを使用して脱脂しても、ガスを検出することで最適な時間で脱脂することができる。脱脂のための条件を求める必要はない。
【0065】
(第11項)前記ガスモニターで検出されたガスに応じて前記炉本体に不活性ガス、過熱蒸気またはその両方の供給を制御する工程を含む。
【0066】
第11項に記載の脱脂方法によれば、検出されたガスに応じて炉本体に供給する不活性ガス等を制御することで、脱脂を制御することができる。
【0067】
(第12項)前記ガスモニターで検出されるガスが複数種類あり、検出されるガスごとに炉本体の内部空間の雰囲気温度が異なるように不活性ガスの温度、過熱蒸気の温度、またはその両方を制御する。
【0068】
第12項に記載の脱脂方法によれば、検出されたガスごとに脱脂が完了するように不活性ガス等を制御することで、不完全な脱脂にならないようにできる。
【0069】
(第13項)前記ガスモニターがフーリエ変換赤外分光度計を含む。
【0070】
第13項に記載の脱脂方法によれば、フーリエ変換赤外分光度計によってガスを検出することができる。
【0071】
(第14項)前記炉本体から排気されたガスをガスモニターで検知する工程と、前記炉本体から排気されたガスの温度を温度計で測定する工程とを備える。
【0072】
第14項に記載の脱脂方法によれば、炉本体から排気されたガスを検知したり温度測定したりすることで、排気されたガスの加熱温度および空気の供給量を調整することができ、確実にガスを分解できるように制御できる。
【0073】
その他、本発明は、その主旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づき種々の改良、修正、変更を加えた態様で実施できるものである。説明した各実施形態は独立したものではなく、当業者の知識に基づき適宜組み合わせて実施できるものである。
【符号の説明】
【0074】
10、42、48、50、60:脱脂炉
12:被脱脂物
14:炉本体
16:ガス源
18、62:ガスモニター
20:炉本体の内部空間
22:棚
24:供給口
26:排気口
28:配管
30:加熱装置
32、64:温度計
34:制御装置
36:排気ガス燃焼炉
38:断熱体
40:排気通路
44:飽和蒸気生成装置
46:過熱器
52:通信装置
54:ネットワーク
56:サーバー