(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-17
(45)【発行日】2024-04-25
(54)【発明の名称】化学蓄熱システム、及び蓄熱方法
(51)【国際特許分類】
F28D 20/00 20060101AFI20240418BHJP
F25B 17/08 20060101ALI20240418BHJP
F28F 27/00 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
F28D20/00 G
F25B17/08 Z
F28F27/00 511F
(21)【出願番号】P 2020145202
(22)【出願日】2020-08-31
【審査請求日】2023-07-19
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、知の拠点あいち重点研究プロジェクトIII期、「熱/電気バッテリーで構築するエネルギーマネジメント技術」に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000003942
【氏名又は名称】日新電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】可貴 裕和
(72)【発明者】
【氏名】出口 洋成
(72)【発明者】
【氏名】岩苔 翼
(72)【発明者】
【氏名】小林 敬幸
【審査官】古川 峻弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-220165(JP,A)
【文献】特開2012-163264(JP,A)
【文献】特開2014-199166(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0299278(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 20/00-20/02
F28F 27/00
F25B 17/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を反応媒体とする化学蓄熱材を有し、排熱源からの排熱を蓄熱する蓄熱器と、
水蒸気を吸収する吸収材を有し、前記化学蓄熱材から発生した水蒸気を回収する回収器と、
前記蓄熱器から前記回収器に水蒸気を送る回収用流路と、を備える化学蓄熱システムであって、
冷却媒体を用いて水蒸気を凝縮させる復水器と、
前記蓄熱器から前記復水器に水蒸気を送る復水用流路と、
前記回収用流路の開閉と前記復水用流路との開閉を制御する開閉制御部と、を備え、
前記開閉制御部は、前記化学蓄熱材の蓄熱動作中に、前記回収用流路を閉鎖するとともに前記復水用流路を開放して前記復水器を作動させる復水器作動ステップから、前記復水用流路を閉鎖するとともに前記回収用流路を開放して前記回収器を作動させる回収器作動ステップに切り替える制御を行うように構成される、化学蓄熱システム。
【請求項2】
前記蓄熱器内において前記化学蓄熱材の水蒸気圧を計測する蓄熱器内圧力計測部を備え、
前記開閉制御部は、前記蓄熱器内圧力計測部による水蒸気圧の計測結果に基づいて、前記復水器作動ステップから前記回収器作動ステップに切り替えるように構成される、請求項1に記載の化学蓄熱システム。
【請求項3】
前記開閉制御部は、
前記吸収材が潮解し得る最も低い水蒸気圧である第1の水蒸気圧と、
前記蓄熱器内圧力計測部による水蒸気圧の計測結果を含む装置情報から推定される前記回収器内の水蒸気圧である第2の水蒸気圧とを対比し、
前記第1の水蒸気圧よりも前記第2の水蒸気圧が低いと判定された場合、前記復水器作動ステップから前記回収器作動ステップに切り替えるように構成される、請求項2に記載の化学蓄熱システム。
【請求項4】
前記回収器及び前記復水器は、冷却媒体が導入される熱交換器を有し、蓄熱動作時に、前記回収器の前記熱交換器、前記復水器の前記熱交換器の順に直列的に前記冷却媒体を導入するように構成される、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の化学蓄熱システム。
【請求項5】
排熱源からの排熱を利用して前記回収器内の吸収材を再生する再生動作時に、前記吸収材から発生する水蒸気を前記回収器から前記復水器に送る再生用流路をさらに備える、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の化学蓄熱システム。
【請求項6】
前記蓄熱動作中に、前記排熱と前記化学蓄熱材との熱交換を開始する制御を行う熱交換開始制御部をさらに備える、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の化学蓄熱システム。
【請求項7】
前記化学蓄熱材の温度を計測する温度計測部を備え、前記熱交換開始制御部は、前記温度計測部による温度の計測結果に基づいて、前記排熱と前記化学蓄熱材との熱交換を開始させる、請求項6に記載の化学蓄熱システム。
【請求項8】
前記蓄熱器は、前記排熱を熱輸送する流路となる流路管を備え、
前記化学蓄熱システムは、前記流路管内の水蒸気圧を計測する流路管内圧力計測部を備え、
前記熱交換開始制御部は、
前記流路管内圧力計測部による水蒸気圧の計測結果に基づいて、前記排熱と前記化学蓄熱材との熱交換を開始させる、
請求項6に記載の化学蓄熱システム。
【請求項9】
前記吸収材は、アルカリ土類金属のハロゲン化物を含む、請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の化学蓄熱システム。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の化学蓄熱システムを用いる蓄熱方法であって、
前記開閉制御部は、前記蓄熱動作中に、前記復水器作動ステップから前記回収器作動ステップに切り替える、蓄熱方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学蓄熱システム、及び蓄熱方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1,2に開示されるように、水蒸気を吸収材で吸収させることで回収する回収器を備え、化学蓄熱システムの蓄熱動作の際に、化学蓄熱材の脱水反応で発生する水蒸気を回収することで、蓄熱動作を促進する化学蓄熱システムが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-220165号公報
【文献】特開2014-153029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような化学蓄熱システムの回収器に用いられる吸収材の中でも、水蒸気の吸収能力が比較的高い吸収材は、自発的に水溶液となる潮解性を有する場合がある。このような吸収材を回収器に用いて、化学蓄熱材の温度が比較的高い状態から蓄熱動作を開始すると、回収器内の水蒸気圧が吸収材を潮解させる水蒸気圧を超えるおそれがあった。吸収材の表面が潮解すると、吸収材の表面が水溶液で覆われるため、水蒸気が吸収材の内部に拡散し難くなる。すなわち、吸収材における水蒸気の吸収速度が低下することで、蓄熱動作を好適に促進することが困難となるおそれがあった。
【0005】
本発明の目的は、吸収材の潮解を要因とした水蒸気の吸収速度の低下を抑えることで、化学蓄熱材の蓄熱動作を好適に進行させることのできる化学蓄熱システム、及び蓄熱方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する化学蓄熱システムは、水を反応媒体とする化学蓄熱材を有し、排熱源からの排熱を蓄熱する蓄熱器と、水蒸気を吸収する吸収材を有し、前記化学蓄熱材から発生した水蒸気を回収する回収器と、前記蓄熱器から前記回収器に水蒸気を送る回収用流路と、を備える化学蓄熱システムであって、冷却媒体を用いて水蒸気を凝縮させる復水器と、前記蓄熱器から前記復水器に水蒸気を送る復水用流路と、前記回収用流路の開閉と前記復水用流路との開閉を制御する開閉制御部と、を備え、前記開閉制御部は、前記化学蓄熱材の蓄熱動作中に、前記回収用流路を閉鎖するとともに前記復水用流路を開放して前記復水器を作動させる復水器作動ステップから、前記復水用流路を閉鎖するとともに前記回収用流路を開放して前記回収器を作動させる回収器作動ステップに切り替える制御を行うように構成される。
【0007】
この構成によれば、上述した復水器作動ステップにより、蓄熱動作の開始時の化学蓄熱材から発生する比較的高い圧力の水蒸気を回収器に流入させずに復水器に導入することで、回収器の吸収材の潮解を防ぐことができる。また、化学蓄熱システムは、復水器作動ステップから回収器作動ステップに切り替えることができる。これにより、蓄熱動作が進行し、化学蓄熱材から発生する水蒸気の圧力が低下してから、回収器作動ステップを行うことができる。すなわち、回収器の吸収材の潮解を抑えることができる。このため、吸収材の潮解を要因とした水蒸気の吸収速度の低下を抑えることで、化学蓄熱材の蓄熱動作を好適に進行させることができる。
【0008】
上記化学蓄熱システムは、前記蓄熱器内において前記化学蓄熱材の水蒸気圧を計測する蓄熱器内圧力計測部を備え、前記開閉制御部は、前記蓄熱器内圧力計測部による水蒸気圧の計測結果に基づいて、前記復水器作動ステップから前記回収器作動ステップに切り替えるように構成されることが好ましい。この構成によれば、回収器の吸収材の潮解を抑えるための上記切り替えの精度を高めることができる。
【0009】
上記化学蓄熱システムにおいて、前記開閉制御部は、前記吸収材が潮解し得る最も低い水蒸気圧である第1の水蒸気圧と、前記蓄熱器内圧力計測部による水蒸気圧の計測結果を含む装置情報から推定される前記回収器内の水蒸気圧である第2の水蒸気圧とを対比し、前記第1の水蒸気圧よりも前記第2の水蒸気圧が低いと判定された場合、前記復水器作動ステップから前記回収器作動ステップに切り替えるように構成されることが好ましい。この構成によれば、回収器の吸収材の潮解を抑えるための上記切り替えの精度をより高めることができる。
【0010】
上記化学蓄熱システムにおいて、前記回収器及び前記復水器は、冷却媒体が導入される熱交換器を有し、蓄熱動作時に、前記回収器の前記熱交換器、前記復水器の前記熱交換器の順に直列的に前記冷却媒体を導入するように構成されることが好ましい。
【0011】
この構成によれば、蓄熱動作中に、復水器作動ステップから回収器作動ステップに切り替える際に、回収器の熱交換器及び復水器の熱交換器に導入する冷却媒体の流路を変更することなく、回収器を作動させることができる。また、復水器作動ステップ中に回収器を冷却することができる。
【0012】
上記化学蓄熱システムにおいて、排熱源からの排熱を利用して前記回収器内の吸収材を再生する再生動作時に、前記吸収材から発生する水蒸気を前記回収器から前記復水器に送る再生用流路をさらに備えることが好ましい。この構成によれば、蓄熱動作で用いる復水器を吸収材の再生動作にも用いることができる。これにより、化学蓄熱システムを小型化することができる。
【0013】
上記化学蓄熱システムは、前記蓄熱動作中に、前記排熱と前記化学蓄熱材との熱交換を開始する制御を行う熱交換開始制御部をさらに備えることが好ましい。
この構成によれば、例えば、化学蓄熱材の温度が排熱による加熱を必要とする温度まで低下した後に、排熱と化学蓄熱材との熱交換を開始することができる。これにより、排熱による化学蓄熱材の不要な冷却を抑えることができるため、蓄熱動作をより効率的に行うことが可能となる。
【0014】
上記化学蓄熱システムは、前記化学蓄熱材の温度を計測する温度計測部を備え、前記熱交換開始制御部は、前記温度計測部による温度の計測結果に基づいて、前記排熱と前記化学蓄熱材との熱交換を開始させることが好ましい。
【0015】
この構成によれば、温度計測部による温度の計測結果から、排熱による化学蓄熱材の加熱が必要なタイミングを決定することができるため、化学蓄熱材の不要な冷却を抑えるための制御の精度を高めることができる。
【0016】
上記化学蓄熱システムにおいて、前記蓄熱器は、前記排熱を熱輸送する流路となる流路管を備え、前記化学蓄熱システムは、前記流路管内の水蒸気圧を計測する流路管内圧力計測部を備え、前記熱交換開始制御部は、前記流路管内圧力計測部による水蒸気圧の計測結果に基づいて、前記排熱と前記化学蓄熱材との熱交換を開始させることが好ましい。
【0017】
この構成によれば、流路管内の水蒸気圧を測定することで、化学蓄熱材の全体で平均化された温度を推定することができる。これにより、より好適なタイミングで排熱と化学蓄熱材との熱交換を開始させることができる。
【0018】
上記化学蓄熱システムにおいて、前記吸収材は、アルカリ土類金属のハロゲン化物を含むことが好ましい。この構成によれば、例えば、120℃以下の排熱等、比較的低温の排熱を利用して、蓄熱動作を行うことが可能となる。
【0019】
蓄熱方法は、上記化学蓄熱システムを用いる蓄熱方法であって、前記開閉制御部は、前記蓄熱動作中に、前記復水器作動ステップから前記回収器作動ステップに切り替える。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、化学蓄熱材の脱水反応を好適に進行させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】第1実施形態における化学蓄熱システムを示す概略図である。
【
図2】化学蓄熱システムの蓄熱動作を説明する概略図である。
【
図3】化学蓄熱システムの蓄熱動作を説明する概略図である。
【
図4】化学蓄熱システムの蓄熱動作を説明する概略図である。
【
図5】化学蓄熱システムの放熱動作及び再生動作を説明する概略図である。
【
図6】第2実施形態における化学蓄熱システムを示す概略図である。
【
図7】化学蓄熱システムの蓄熱動作を説明する概略図である。
【
図8】化学蓄熱システムの蓄熱動作を説明する概略図である。
【
図9】時間と蓄熱器内の水蒸気圧との関係を示すグラフである。
【
図10】時間と回収器内の水蒸気圧との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(第1実施形態)
以下、化学蓄熱システム、及び蓄熱方法の第1実施形態について図面を参照して説明する。
【0023】
図1に示すように、化学蓄熱システム11は、水を反応媒体とする化学蓄熱材HMを有し、排熱源HSからの排熱を蓄熱する蓄熱器12と、水蒸気を吸収する吸収材LMを有し、化学蓄熱材HMから発生した水蒸気を回収する回収器13とを備えている。
【0024】
化学蓄熱システム11は、冷却源CSからの冷却媒体を用いて水蒸気を凝縮させる復水器14を備えている。また、化学蓄熱システム11は、排熱源HSからの排熱により蒸気を発生する蒸発器15を備えている。
【0025】
蓄熱器12は、化学蓄熱材HMが収容される容器12aと、容器12a内に配置される熱交換器12bとを備えている。水を反応媒体とする化学蓄熱材HMは、化学蓄熱システム11の蓄熱動作時に脱水反応し、化学蓄熱システム11の放熱動作時に水和反応する材料である。蓄熱器12の容器12aは、化学蓄熱材HMの水和反応に用いられる蒸気が導入されるように構成されている。また、蓄熱器12の容器12aは、化学蓄熱材HMの脱水反応で生じる蒸気が排出されるように構成されている。
【0026】
化学蓄熱材HMとしては、周知の固体材料を用いることができる。化学蓄熱材HMは、化学蓄熱物質のみから構成してもよいし、粒子状の化学蓄熱物質を水蒸気透過性樹脂等の水蒸気透過性のバインダーで結合した材料であってもよい。化学蓄熱物質としては、例えば、アルカリ土類金属のハロゲン化物、硫酸カルシウム等が挙げられる。化学蓄熱材HMは、一種を用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。化学蓄熱材HMは、200℃以上の耐熱性を有していることが好ましい。
【0027】
蓄熱器12の熱交換器12bには、冷却源CSから冷却媒体が導入されるように構成されている。また、蓄熱器12の熱交換器12bには、排熱源HSから加熱媒体が導入されるように構成されている。
【0028】
蓄熱器12の熱交換器12bとしては、例えば、フィンチューブ型の熱交換器、フィンレス熱交換器等が挙げられる。なお、以下で説明する熱交換器についても、同様の熱交換器を用いることができる。
【0029】
回収器13は、吸収材LMと、吸収材LMが収容される容器13aと、容器13a内に配置される熱交換器13bとを有している。回収器13の熱交換器13bには、冷却源CSから冷却媒体が導入されるように構成されている。また、回収器13の熱交換器13bには、排熱源HSから加熱媒体が導入されるように構成されている。
【0030】
吸収材LMは、化学蓄熱材HMを脱水反応させる温度を下げるために用いられる。吸収材LMは、水蒸気の吸収能力が比較的高く、潮解性を有している。吸収材LMを用いることで、より低い温度の排熱であっても、化学蓄熱材HMの脱水反応を進行させて蓄熱することが可能となる。また、吸収材LMは、排熱源HSの加熱媒体の温度において、脱水反応可能な物質が用いられる。これにより、排熱源HSを利用して吸収材LMを再生することができる。
【0031】
冷却源CSの温度における吸収材LMの平衡蒸気圧VP2Cは、排熱源HSの温度における化学蓄熱材HMの平衡蒸気圧VP1Hよりも低いことで、化学蓄熱材HMの蓄熱反応を好適に促進することができる。一方、排熱源HSの温度における吸収材LMの平衡蒸気圧VP2Hは、同じく排熱源HSの温度における化学蓄熱材HMの平衡蒸気圧VP1Hよりも高いことが好ましい。このような吸収材LMは、化学蓄熱材HMよりも脱水し易いため、排熱源HSを用いて吸収材LMを再生することで、次の蓄熱動作に効率的に使用することができる。また、排熱源HSの温度における吸収材LMの平衡蒸気圧VP2Hは、冷却源CSの温度における水の平衡蒸気圧VP3Cよりも高いことが好ましい。これにより、排熱源HSにより吸収材LMを加熱して発生した水蒸気を冷却源CSによる冷却で凝縮させることで、吸収材LMの再生を効率的に行うことができる。
【0032】
吸収材LMとしては、例えば、アルカリ土類金属のハロゲン化物が挙げられる。吸収材LMは、一種を用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。吸収材LMは、200℃以上の耐熱性を有していることが好ましい。
【0033】
復水器14は、容器14aと、容器14a内に収容される熱交換器14bとを備えている。復水器14の熱交換器14bには、冷却源CSから冷却媒体が導入されるように構成されている。
【0034】
蒸発器15は、容器15aと、容器15a内に収容される熱交換器15bとを備えている。熱交換器15bには、排熱源HSから加熱媒体が導入されるように構成されている。蒸発器15には、ポンプ21により復水器14の容器14a内の水W1が送液可能に構成されている。また、蒸発器15の容器15a内の水W1は、ポンプ22により蓄熱器12の熱交換器12bに送液可能に構成されている。
【0035】
次に、化学蓄熱システム11の主な流路構成について説明する。
化学蓄熱システム11は、蓄熱動作時に使用される流路として、蓄熱器12から回収器13に水蒸気を送る回収用流路L1と、蓄熱器12から復水器14に水蒸気を送る復水用流路L2とを備えている。化学蓄熱システム11は、排熱源HSからの排熱を利用して回収器13内の吸収材LMを再生する再生動作時に使用される流路として、吸収材LMから発生する水蒸気を回収器13から復水器14に送る再生用流路L3を備えている。
【0036】
化学蓄熱システム11は、放熱動作時に使用される流路として、蒸発器15内で発生させた水蒸気を蓄熱器12に送る反応媒体用流路L4と、蒸発器15内で加熱された温水をポンプ22によって蓄熱器12の熱交換器12bに送る放熱媒体用流路L5とを備えている。
図1では省略するが、化学蓄熱システム11は、冷却源CSの冷却媒体を回収器13の熱交換器13b及び復水器14の熱交換器14bに送る流路を備えている。本実施形態では、冷却源CSの冷却媒体を回収器13の熱交換器13b、復水器14の熱交換器14bの順に直列的に冷却媒体を導入する流路を備えている。
【0037】
次に、化学蓄熱システム11の制御に関する構成について説明する。
化学蓄熱システム11は、蓄熱器12内において化学蓄熱材HMの水蒸気圧を計測する蓄熱器内圧力計測部M1を備えている。すなわち、蓄熱器内圧力計測部M1は、化学蓄熱材HMの脱水反応により発生する水蒸気の圧力を計測する。化学蓄熱システム11は、化学蓄熱材HMの温度を計測する温度計測部M2を備えている。
【0038】
化学蓄熱システム11は、制御部31を備えている。制御部31は、回収用流路L1の開閉と復水用流路L2の開閉とを制御する開閉制御部32を備えている。また、制御部31は、蓄熱動作中に、排熱源HSの排熱と化学蓄熱材HMとの熱交換を開始する制御を行う熱交換開始制御部33をさらに備えている。制御部31は、図示を省略したプロセッサ、メモリ、ソフトウェア等により構成することができる。
【0039】
次に、化学蓄熱システム11の動作の一例について説明する。
図2~
図4には、蓄熱動作中の化学蓄熱システム11を示している。化学蓄熱システム11の蓄熱動作時には、化学蓄熱材HMの脱水反応が行われる。蓄熱動作開始時の化学蓄熱材HMの温度は、排熱源HSから供給可能な加熱媒体の温度よりも高い。本実施形態の蓄熱動作は、後述する化学蓄熱材HMの放熱動作が完了した直後から開始される。
【0040】
化学蓄熱システム11の開閉制御部32は、化学蓄熱材HMの蓄熱動作時に、復水器作動ステップから、回収器作動ステップに切り替える制御を行うように構成されている。開閉制御部32は、化学蓄熱システム11の流路を形成する配管に設けられる開閉弁の開閉を制御するように構成されている。
【0041】
図2に示すように、化学蓄熱システム11の蓄熱動作は、復水器作動ステップから開始される。復水器作動ステップでは、回収用流路L1を閉鎖するとともに復水用流路L2を開放して復水器14を作動させる。復水器作動ステップにおいて、復水器14の熱交換器14bには冷却源CSから冷却媒体が導入される。なお、冷却源CSの冷却媒体は、回収器13の熱交換器13b、復水器14の熱交換器14bの順に直列的に導入されているが、冷却源CSの冷却媒体を回収器13の熱交換器13bを通過させずに、復水器14の熱交換器14bのみに導入するように構成してもよい。
【0042】
復水器作動ステップでは、蓄熱器12の化学蓄熱材HMから発生する水蒸気W2が復水用流路L2を通じて復水器14に送られる。復水器14では、水蒸気W2を凝縮することができるため、蓄熱器12の化学蓄熱材HMの脱水反応を進行させることができる。
【0043】
化学蓄熱物質の一種である塩化カルシウムの蓄熱動作時の脱水反応は、例えば、下記式(1a)で表される。
CaCl2・2H2O→CaCl2・H2O+H2O・・・(1a)
化学蓄熱システム11は、上述した復水器作動ステップにより、蓄熱動作の開始時の化学蓄熱材HMから発生する比較的高い圧力の水蒸気W2を回収器13に流入させずに復水器14に導入することで、回収器13の吸収材LMの潮解を防ぐことができる。
【0044】
化学蓄熱システム11を用いた蓄熱方法において、化学蓄熱システム11の開閉制御部32は、
図2に示される復水器作動ステップから
図3及び
図4に示される回収器作動ステップへ切り替える。回収器作動ステップでは、復水用流路L2を閉鎖するとともに回収用流路L1を開放して回収器13を作動させる。回収器作動ステップにおいて、回収器13の熱交換器13bには冷却源CSから冷却媒体が導入されている。
【0045】
回収器作動ステップでは、蓄熱器12の化学蓄熱材HMから発生する水蒸気W2が回収用流路L1を通じて回収器13に送られる。このとき、回収器13の吸収材LMが水蒸気W2を吸収することで、蓄熱器12の化学蓄熱材HMの脱水反応を進行させることができる。
【0046】
吸収材LMの一種である臭化ストロンチウムは、下記式(2a)で表される水和反応により水蒸気W2を吸収する。
SrBr2・H2O+5H2O→SrBr2・6H2O・・・(2a)
上述したように化学蓄熱システム11は、復水器作動ステップから回収器作動ステップに切り替えることができる。これにより、蓄熱動作が進行し、化学蓄熱材HMから発生する水蒸気W2の圧力が低下してから、回収器作動ステップを行うことができる。すなわち、回収器13の吸収材LMの潮解を抑えることができる。このため、吸収材LMの潮解を要因とした水蒸気W2の吸収速度の低下を抑えることで、化学蓄熱材HMの脱水反応を好適に進行させることができる。
【0047】
本実施形態の化学蓄熱システム11の開閉制御部32は、蓄熱器内圧力計測部M1による水蒸気圧の計測結果に基づいて、復水器作動ステップから回収器作動ステップに切り替えるように構成されている。
【0048】
開閉制御部32は、吸収材LMが潮解し得る最も低い水蒸気圧である第1の水蒸気圧P1と、蓄熱器内圧力計測部M1の計測結果を含む装置情報から推定される回収器13内の水蒸気圧である第2の水蒸気圧P2とを対比する。開閉制御部32は、第1の水蒸気圧P1よりも第2の水蒸気圧P2が低いと判定された場合、復水器作動ステップから回収器作動ステップに切り替える。一方、開閉制御部32は、第1の水蒸気圧P1と第2の水蒸気圧P2とが同じか、又は第1の水蒸気圧P1よりも第2の水蒸気圧P2が高いと判定された場合、復水器作動ステップを継続し、蓄熱器内圧力計測部M1の計測結果に基づく第2の水蒸気圧P2の算出、第1の水蒸気圧P1と第2の水蒸気圧P2との対比、及び判定を繰り返す。
【0049】
第1の水蒸気圧P1は、吸収材LMの種類及び吸収材LMの温度に依存する。このため、使用する吸収材LMについて、温度と、第1の水蒸気圧P1(潮解圧力)との関係を予め取得し、吸収材LMの使用温度から第1の水蒸気圧P1を求めればよい。なお、吸収材LMは、冷却源CSから回収器13の熱交換器13bに導入される冷却媒体で冷却されるため、吸収材LMの使用温度は、冷却源CSの冷却媒体の温度とほぼ同一となっている。例えば、吸収材LMが臭化ストロンチウムであり、冷却媒体の温度が30℃の場合では、第1の水蒸気圧P1は、2.8kPaである。すなわち、臭化ストロンチウムを吸収材LMとして用いるとともに、吸収材LMを30℃の冷却媒体で冷却する場合、回収器13の容器13a内の水蒸気圧を2.8kPa以上にすると吸収材LMが潮解する。このような吸収材LMの潮解を抑えるには、蓄熱器12と回収器13とを接続したときに推定される回収器13内の水蒸気圧、すなわち第2の水蒸気圧P2が2.8kPa未満となるまで、復水器作動ステップを継続すればよい。
【0050】
第2の水蒸気圧P2は、蓄熱器内圧力計測部M1の計測結果である蓄熱器12内の水蒸気圧P12等から、例えば、下記式(3a)により求めることができる。
P2=(P12×V12)/(V12+V13)・・・(3a)
P12:蓄熱器12内の水蒸気圧
V12:蓄熱器12の容積
V13:回収器13の容積
なお、蓄熱器12の容積は、蓄熱器12における容器12aの容積から化学蓄熱材HM及び熱交換器12bが占める体積を除外した空間容積である。回収器13の容積についても、回収器13における容器13aの容積から吸収材LM及び熱交換器13bが占める体積を除外した空間容積である。
【0051】
また、第2の水蒸気圧P2は、図示を省略するが、回収器13内の水蒸気圧P13を計測する回収器内圧力計測部を回収器13にさらに設けることにより、下記式(3b)により求めることもできる。
【0052】
P2=(P12×V12+P13×V13)/(V12+V13)・・・(3b)
P13:回収器13内の水蒸気圧
なお、開閉制御部32による復水器作動ステップから回収器作動ステップへの切り替えは、蓄熱器内圧力計測部M1や回収器内圧力計測部による水蒸気圧の計測結果を用いずに、所定の閾値により行うこともできる。開閉制御部32による上記切り替えは、例えば、装置の容積や冷却媒体の温度等を含む装置情報や化学蓄熱システム11を試運転した結果に基づいて予め決定した時間を閾値として行うこともできる。
【0053】
化学蓄熱システム11の蓄熱動作中には、蓄熱器12の化学蓄熱材HMの温度が低下する。このとき、化学蓄熱システム11の熱交換開始制御部33は、蓄熱動作中に、排熱と化学蓄熱材HMとの熱交換を開始する制御を行う。熱交換開始制御部33は、温度計測部M2による温度の計測結果に基づいて、排熱と化学蓄熱材HMとの熱交換を開始する。詳述すると、熱交換開始制御部33は、排熱源HSから蓄熱器12に導入可能な加熱媒体の温度である第1の温度T1と、温度計測部M2による化学蓄熱材HMの温度の計測結果である第2の温度T2とを対比する。熱交換開始制御部33は、第1の温度T1よりも第2の温度T2が低いと判定された場合、
図4に示すように、排熱と化学蓄熱材HMとの熱交換を開始させる。すなわち、排熱源HSの加熱媒体を蓄熱器12の熱交換器12bに導入する。一方、熱交換開始制御部33は、第1の温度T1が第2の温度T2と同じか、又は第1の温度T1よりも第2の温度T2が高いと判定された場合、第1の温度T1と第2の温度T2との対比を繰り返す。
【0054】
例えば、化学蓄熱材HMとして塩化カルシウムを用いた上記式(1a)の脱水反応の場合、回収器13の吸収材LMにより蓄熱器12内の水蒸気圧を2kPa程度まで低下させることにより、比較的低温である80℃の排熱を利用して蓄熱させることができる。
【0055】
図5には、放熱動作中の化学蓄熱システム11を簡略化して示している。化学蓄熱システム11の放熱動作時には、化学蓄熱材HMの水和反応が行われる。この放熱動作では、排熱源HSから蒸発器15に加熱媒体を導入することで、水蒸気W2を発生させる。発生させた水蒸気W2は、蒸発器15から反応媒体用流路L4を通じて蓄熱器12に送られる。また、蒸発器15内で加熱された温水は、放熱媒体用流路L5を通じて蓄熱器12の熱交換器12bに送られる。蓄熱器12の熱交換器12bに送られた温水は、化学蓄熱材HMにより加熱された後、加熱対象41に送られる。加熱対象41は、特に限定されないが、例えば、蒸気発生装置等が挙げられる。
【0056】
化学蓄熱物質の一種である塩化カルシウムの放熱動作時の水和反応は、例えば、下記式(1b)で表される。
CaCl2・H2O+H2O→CaCl2・2H2O・・・(1b)
塩化カルシウムは、例えば、水蒸気圧が95kPaの条件の場合、170℃の熱を放熱する。
【0057】
図5に示すように、放熱動作中の化学蓄熱システム11では、回収器13の吸収材LMの再生動作も行っている。化学蓄熱システム11の再生動作時には、吸収材LMの脱水反応が行われる。この再生動作では、排熱源HSから回収器13の熱交換器13bに加熱媒体を導入することで、吸収材LMを加熱する。
【0058】
吸収材LMの一種である臭化ストロンチウムは、下記式(2b)で表される脱水反応により再生する。
SrBr2・6H2O→SrBr2・H2O+5H2O・・・(2b)
以上のように化学蓄熱システム11は、吸収材LMの再生動作を行った後に、再び蓄熱動作を行うことができる。また、このような化学蓄熱システム11は、排熱源HSを用いて蓄熱した後、排熱源HSよりも高い温度の放熱を行うケミカルヒートポンプとして用いることができる。
【0059】
本実施形態の作用及び効果について説明する。
(1)化学蓄熱システム11の開閉制御部32は、化学蓄熱材HMの蓄熱動作時に、復水器作動ステップから、回収器作動ステップに切り替える制御を行うように構成されている。復水器作動ステップは、回収用流路L1を閉鎖するとともに復水用流路L2を開放して復水器14を作動させる。回収器作動ステップは、復水用流路L2を閉鎖するとともに回収用流路L1を開放して回収器13を作動させる。
【0060】
この構成によれば、上述した復水器作動ステップにより、蓄熱動作の開始時における回収器13の吸収材LMの潮解を防ぐことができる。また、化学蓄熱システム11は、復水器作動ステップから回収器作動ステップに切り替えることができる。このとき、蓄熱動作が進行し、化学蓄熱材HMから発生する水蒸気W2の圧力が低下してから、回収器作動ステップを行うことができる。すなわち、回収器13の吸収材LMの潮解を抑えることができる。このため、吸収材LMの潮解を要因とした水蒸気W2の吸収速度の低下を抑えることで、化学蓄熱材HMの蓄熱動作を好適に進行させることができる。
【0061】
(2)化学蓄熱システム11は、蓄熱器12内において化学蓄熱材HMの水蒸気圧を計測する蓄熱器内圧力計測部M1を備えている。開閉制御部32は、蓄熱器内圧力計測部M1による水蒸気圧の計測結果に基づいて、復水器作動ステップから回収器作動ステップに切り替えるように構成されている。この場合、回収器13の吸収材LMの潮解を抑えるための上記切り替えの精度を高めることができる。
【0062】
(3)開閉制御部32は、吸収材LMが潮解し得る最も低い水蒸気圧である第1の水蒸気圧と、蓄熱器内圧力計測部M1による水蒸気圧の計測結果を含む装置情報から推定される回収器13内の水蒸気圧である第2の水蒸気圧とを対比するように構成してもよい。この開閉制御部32は、第1の水蒸気圧よりも前記第2の水蒸気圧が低いと判定された場合、復水器作動ステップから回収器作動ステップに切り替えるように構成される。これにより、回収器13の吸収材LMの潮解を抑えるための上記切り替えの精度をより高めることができる。
【0063】
(4)回収器13及び復水器14は、冷却源CSの冷却媒体が導入される熱交換器13b,14bを有している。化学蓄熱システム11は、蓄熱動作時に、回収器13の熱交換器13b、復水器14の熱交換器14bの順に冷却媒体を直列的に導入するように構成されている。この場合、蓄熱動作中に、復水器作動ステップから回収器作動ステップに切り替える際に、回収器13の熱交換器13b及び復水器14の熱交換器14bに導入する冷却媒体の流路を変更することなく、回収器13を作動させることができる。また、復水器作動ステップ中に回収器を冷却することができる。これにより、回収器13を冷却する時間を短縮することができる。
【0064】
(5)化学蓄熱システム11は、排熱源HSからの排熱を利用して回収器13内の吸収材LMを再生する再生動作時に、吸収材LMから発生する水蒸気W2を回収器13から復水器14に送る再生用流路L3をさらに備えている。この場合、蓄熱動作で用いる復水器14を吸収材LMの再生動作にも用いることができる。これにより、化学蓄熱システム11を小型化することができる。
【0065】
(6)化学蓄熱システム11は、蓄熱動作中に、排熱と化学蓄熱材HMとの熱交換を開始する制御を行う熱交換開始制御部33をさらに備えている。この場合、例えば、化学蓄熱材HMの温度が排熱による加熱を必要とする温度まで低下した後に、排熱と化学蓄熱材HMとの熱交換を開始することができる。これにより、排熱による化学蓄熱材HMの不要な冷却を抑えることができるため、蓄熱動作をより効率的に行うことが可能となる。
【0066】
(7)化学蓄熱システム11は、化学蓄熱材HMの温度を計測する温度計測部M2を備えている。熱交換開始制御部33は、温度計測部M2による温度の計測結果に基づいて、排熱と化学蓄熱材HMとの熱交換を開始させている。この場合、温度計測部M2による温度の計測結果から、排熱による化学蓄熱材HMの加熱が必要なタイミングを決定することができるため、化学蓄熱材HMの不要な冷却を抑えるための制御の精度を高めることができる。
【0067】
(第2実施形態)
化学蓄熱システム11、及び蓄熱方法の第2実施形態について第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0068】
図6~
図8に示すように、第2実施形態の化学蓄熱システム11の蓄熱器12は、複数の熱交換器12bを有している。すなわち、蓄熱器12は、例えば、複数のフィンチューブ型等の熱交換器12bの熱媒体流路を連結した熱交換部を有している。蓄熱器12の熱交換器12bは、排熱を熱輸送する流路となる流路管を備えている。第2実施形態の化学蓄熱システム11は、流路管内の水蒸気圧を計測する流路管内圧力計測部M3を備えている。
【0069】
図7に示すように、第2実施形態の化学蓄熱システム11の蓄熱動作は、第1実施形態と同様に復水器作動ステップから開始される。また、
図8に示すように、復水器作動ステップから回収器作動ステップへ切り替えられることで、回収器13が作動される。
【0070】
第2実施形態の化学蓄熱システム11の熱交換開始制御部33は、流路管内圧力計測部M3による水蒸気圧の計測結果に基づいて、排熱と化学蓄熱材HMとの熱交換を開始させる。ここで、蓄熱器12の熱交換器12bにおける流路管内は、大気雰囲気と隔離されている。化学蓄熱システム11の放熱動作が完了した後、蓄熱器12の熱交換器12bにおける流路管内は、水と水蒸気W2が混合した気液混合状態となっている。このような蓄熱器12の熱交換器12bにおける流路管内の水蒸気圧は、化学蓄熱材HMの全体の温度に依存する飽和水蒸気圧となり、熱交換器12bの全体で略一定の値を示す。このため、流路管内の水蒸気圧を測定することで、化学蓄熱材HMの全体で平均化された温度を推定することができる。
【0071】
一方、上記第1実施形態の温度計測部M2では、化学蓄熱材HMの部分的な温度が計測される。このため、化学蓄熱材HMの大部分の温度が、温度計測部M2で計測された温度と異なる場合がある。このため、排熱による化学蓄熱材HMの不要な冷却を抑えるための制御の精度が十分に得られないおそれがある。この点、第2実施形態では、上述したように化学蓄熱材HM全体で平均化された温度を推定することができるため、より好適なタイミングで排熱と化学蓄熱材HMとの熱交換を開始させることができる。
【0072】
ここで、上記第1実施形態では、排熱源HSの加熱媒体を蓄熱器12の熱交換器12bに導入することで、排熱と化学蓄熱材HMとの熱交換を行っているが、第2実施形態のように蒸発器15を用いて排熱と化学蓄熱材HMとの熱交換を行うこともできる。詳述すると、排熱源HSの加熱媒体を蒸発器15の熱交換器に導入して得られた水蒸気W2を蓄熱器12の熱交換器12bに導入することで、排熱と化学蓄熱材HMとの熱交換を行うこともできる。
【0073】
第2実施形態によれば、上記第1実施形態の(1)~(6)欄に記載した効果に加えて、以下の効果を得ることができる。
(7)化学蓄熱システム11の熱交換開始制御部33は、流路管内圧力計測部M3による水蒸気圧の計測結果に基づいて、排熱と化学蓄熱材HMとの熱交換を開始させている。この場合、上述したように、より好適なタイミングで排熱と化学蓄熱材HMとの熱交換を開始させることができる。例えば、化学蓄熱材HMの排熱による不要な冷却をさらに抑えたり、排熱による化学蓄熱材HMの加熱開始が遅延することをさらに抑えたりすることができる。これにより、排熱をより有効に利用することができる。
【0074】
(変更例)
上記実施形態を次のように変更してもよい。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0075】
・上記実施形態の化学蓄熱システム11では、復水器作動ステップ中において、排熱と化学蓄熱材HMとの熱交換を開始しているが、排熱と化学蓄熱材HMとの熱交換は、回収器作動ステップの開始と同時に開始してもよいし、回収器作動ステップ中に開始してもよい。すなわち、排熱を用いた化学蓄熱材HMの加熱は、化学蓄熱材HMと排熱との温度に応じて開始すればよい。
【0076】
・化学蓄熱システム11は、蓄熱動作時に蓄熱器12と接続される復水器14に加えて、吸収材LMの再生動作時に回収器13と接続される復水器を備えていてもよい。
次に、試験例について説明する。以下の試験例では、部材の符号を省略する。
【0077】
(試験例1)
試験例1では、化学蓄熱システムの蓄熱器の容器内の水蒸気圧が6kPaとなるまで、復水器作動ステップを行った後、回収器作動ステップを開始する蓄熱動作を行った。この回収器作動ステップ中の蓄熱器内の水蒸気圧と回収器内の水蒸気圧を計測した。
【0078】
試験条件の詳細は以下のとおりである。
吸収材:臭化ストロンチウム
蓄熱器の容積:5L
回収器の容積:5L
冷却源の冷却媒体の温度:30℃
吸収材の臭化ストロンチウムは、冷却源の冷却媒体により約30℃に冷却されており、この温度において、臭化ストロンチウムが潮解し得る最も低い水蒸気圧は、3kPaである。
【0079】
(試験例2)
試験例2では、復水器作動ステップを行わずに、回収器作動ステップから蓄熱動作を開始した以外は、試験例1と同様に蓄熱動作を行った。試験例2において、回収器作動ステップを開始した時点の蓄熱器内の水蒸気圧は、11kPaであった。試験例2においても、試験例1と同様に回収器作動ステップ中の蓄熱器の内の水蒸気圧と回収器内の水蒸気圧を計測した。
【0080】
(試験結果)
図9には、試験例1,2における時間と、蓄熱器内の水蒸気圧との関係を示している。
図10は、試験例1,2における時間と、回収器内の水蒸気圧との関係を示している。
図9及び
図10では、試験例1,2のいずれも、時間0秒の時点から回収器作動ステップを開始している。
【0081】
試験例2のように、蓄熱動作を回収器作動ステップから開始した場合、
図9に示すように、蓄熱器内の水蒸気圧は、600秒経過した後であっても、2kPaを超えている。この蓄熱器内の水蒸気圧では、例えば、化学蓄熱材として塩化カルシウムを用いて、塩化カルシウムの温度を80℃程度とした場合、蓄熱動作が進行しない。
【0082】
図10に示すように、試験例2における回収器内の水蒸気圧は、吸収材が潮解し得る最も低い水蒸気圧である3kPaを超えている。この試験例2では、吸収材が潮解することで、水蒸気の吸収速度が極端に低下したことが分かる。
【0083】
これに対して、試験例1では、
図9に示すように、蓄熱器内の水蒸気圧が30秒程度で2kPa未満となり、例えば、化学蓄熱材として塩化カルシウムを用いて、塩化カルシウムの温度を80℃程度とした場合であっても、蓄熱動作を進行させることができる。
【0084】
図10に示すように、試験例1における回収器内の水蒸気圧は、吸収材が潮解し得る最も低い水蒸気圧である3kPa未満であることから、吸収材の潮解が発生せずに、水蒸気の吸収速度の低下が抑えられていることが分かる。
【符号の説明】
【0085】
11…化学蓄熱システム
12…蓄熱器
12a,13a,14a…容器
12b,13b,14b…熱交換器
13…回収器
14…復水器
31…制御部
32…開閉制御部
33…熱交換開始制御部
CS…冷却源
HM…化学蓄熱材
HS…排熱源
LM…吸収材
L1…回収用流路
L2…復水用流路
L3…再生用流路
M1…蓄熱器内圧力計測部
M2…温度計測部
M3…流路管内圧力計測部
W1…水
W2…水蒸気