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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-17
(45)【発行日】2024-04-25
(54)【発明の名称】手指装具
(51)【国際特許分類】
   A63B 23/16 20060101AFI20240418BHJP
   A61F 5/01 20060101ALI20240418BHJP
   A61H 39/00 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
A63B23/16
A61F5/01 N
A61H39/00 Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020144025
(22)【出願日】2020-08-28
(65)【公開番号】P2022039151
(43)【公開日】2022-03-10
【審査請求日】2023-06-30
(73)【特許権者】
【識別番号】517250790
【氏名又は名称】株式会社からだクリエイト
(74)【代理人】
【識別番号】100152700
【弁理士】
【氏名又は名称】泉谷 透
(72)【発明者】
【氏名】森村 良和
【審査官】宮本 昭彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-023178(JP,A)
【文献】特開2017-071499(JP,A)
【文献】特開平10-216267(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0316877(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0128225(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 1/00 - 26/00
A61F 5/01
A61H 39/00 - 39/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面視略三角形の板体の両面において前記板体の中央から各頂点に向けて緩やかに厚みを増すように構成することで、2本の手指の第2関節で板体の中央を挟んだ際に、第2関節を伸長状態、屈曲状態のいずれの場合も前記板体の両面が指の側面に密着する形で保持可能としたことを特徴とする手指装具。
【請求項2】
前記板体は、シリコン樹脂を一体成形してなることを特徴とする、請求項1に記載した手指装具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は手指に装着して、具体的には、手指の第2指と第3指、または、第4指と第5指のPIP関節(第2関節)の間に挟んで保持することで身体に体性反射を惹起し、体軸の安定、筋出力の向上、関節可動域の拡大等を促進するための手指装着具に関する。
【背景技術】
【0002】
筋肉の収縮には、短縮性収縮(コンセントリック)、伸張性収縮(エキセントリック)、等尺性収縮(アイソメトリック)の3種類がある。たとえば腕立て伏せの場合、主動筋である大胸筋と上腕三頭筋は、腕を伸ばして身体を持ち上げる際には収縮(短縮性収縮)し、腕を曲げて身体を下す際には進長(伸張性収縮)し、姿勢を保持する際には長さが変わらないまま(等尺性収縮)力を発揮する。
【0003】
人体は日常生活において、特段に負荷が掛かっていないときも身体各部の筋肉に無意識に力を入れて等尺性収縮が生じている場合が多い。また、等尺性収縮が筋肉量増大に有効とされていることから、筋力トレーニングでもアイソメトリック運動が推奨されている。しかし、「力を入れる」と「力を出す」とは似て非なる状態であり、筋出力が効果的に発揮されるのは短縮性収縮、伸張性収縮の場合である。筋肉が無意識に等尺性収縮した状態では、複数の筋肉の運動連鎖の円滑性が阻害され、筋出力も却って低下する。
【0004】
無意識に力を入れて筋肉に等尺性収縮の癖がついている現代人は、動作時や外力を受けた場合に体軸が安定せず、動作もスムーズさを欠くことが多い。たとえば、長時間パソコンに向かったり、手に持ったスマートフォンを頻繁に覗き込むことが多い生活では、背中を丸めた姿勢で腕や頭部の重量を支えるため、上半身や頸部の筋肉の多くに等尺性収縮を強いることが常態化している。そのため、猫背や骨盤後傾、ストレートネックといった不健全な姿勢になり易いだけでなく、運動時の筋出力のパフォーマンスも低下してしまう。
【0005】
さらに、高齢者の飲食時に問題となっている誤嚥(嚥下障害)は、猫背の姿勢に起因する喉頭挙上筋群の機能不全による舌圧の低下が主たる原因であるが、これも上半身の筋肉の等尺性収縮の常態化により、脊柱起立筋群が十分に筋出力を発揮できていないことによるものといえる。
【0006】
こうした筋肉の無意識下での等尺性収縮の癖の弊害を改善するためには、日常生活下の様々な動作の際に、筋肉に積極的に短縮性収縮、伸張性収縮を生じさせ、円滑な運動連鎖を促すことが望ましい。本願発明者は、大掛かりな電気的刺激や機械的装具を用いることなく、身体の動作を妨げない簡便な手段でこれを実現するべく検討した結果、人体に備わる体性反射による無意識の筋収縮が利用可能であることに想到した。
【0007】
指先で物をつまむ際に手指の関節を屈曲させる筋肉が深指屈筋である(図1参照)。深指屈筋は尺骨上端に起始し、手指の第2~5指骨末節骨底の掌側で停止しており、その収縮により、手指の第2~5指のDIP関節(第1関節)、PIP関節(第2関節)及び手首を屈曲させるように働く。深指屈筋は前腕の尺骨外側に沿い、手首で第2~5指に分岐するが、第2・3指の支配神経が正中神経であるのに対し、第4・5指の支配神経は尺骨神経である。
【0008】
第2~5指のDIP関節、PIP関節付近の皮膚に刺激を受けた際には、体性反射が惹起されて、無意識に深指屈筋が収縮する。人体には多種の反射が備わっているが、その機能からは、自律神経系を介して内臓筋を収縮させたり腺の分泌を促進したりする内臓反射(自律神経反射)と、骨格筋を収縮させる体性反射とに大別される。木槌で膝蓋腱を叩くと下腿が跳ね上がる膝蓋腱反射は代表的な体性反射の一つであるが、前述の無意識下の筋肉の作動は、人体に備わる体性反射の作用によるものである。
【0009】
また、体性反射による無意識下の筋肉の作動は隣接する筋肉をやはり無意識に協調的に作動させる運動連鎖を惹起することが知られている。体性反射による深指屈筋の収縮を起点とする運動連鎖は、前述の手指における支配神経の違いにより違いが生じる。具体的には、図2の表並びに図3に示すように、正中神経に支配される第2・3指での体性反射は、上腕の上腕二頭筋、肩の三角筋、胸部の大胸筋といった屈筋群を協調的に収縮させる。一方、尺骨神経に支配される第4・5指での体性反射は、上腕の上腕三頭筋から背中側の大円筋・小円筋、広背筋、そして脊柱起立筋群といった伸筋群を協調的に収縮させる。
【0010】
つまり、手の特定の指に軽度の刺激を与えて体性反射を惹起させることにより、無意識のうちに上腕から肩、頸、胸、背中などの所望の筋肉群が協調的に収縮する運動連鎖を生じさせて、姿勢の改善や体軸の安定化だけでなく随意の動作の円滑化も図られ、等尺性収縮の癖に起因する様々な弊害の改善や運動時の筋出力の向上が期待できるのである。
【0011】
任意の手指に刺激を与えて治療効果を期待する手指装具として、たとえば特許文献1には「手当治療用リング」のような先行技術が開示されている。この先行技術は、チタン、銀、金といった金属材料を成形した平面略C字状の二連のリングを第3指と第4指に装着するもので、金属材質の作用によって経穴まわりの体液をイオン化させて弱アルカリ性とするとともに、中指と薬指の運動を制限することにより経穴反応を促進し、なんらかの治療効果を得ようとするものである。
【文献】登録実用新案第3037568号公報
【0012】
しかし、かかる先行技術は、金属による体液のイオン化という化学的作用や手指の運動制限という機械的作用による治療効果を期待するものであり、筋肉での体性反射による運動連鎖の惹起という作用を想定したものではない。また、他にかかる作用を意図した先行技術は存在しないといえる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本願発明は、手指の間に挟んで保持し、必要に応じてその状態で日常生活動作を行うことで、姿勢の改善、体軸の安定化、動作の円滑化など、筋肉の等尺性収縮の癖に起因する様々な弊害の改善や運動時の筋出力の向上を図れる、簡易かつ低コストな手指装具を提供することを課題とするものである。
【0014】
上記の課題を解決するために、本願発明の請求項1に記載した発明は、平面視略三角形の板体の両面において前記板体の中央から各頂点に向けて緩やかに厚みを増すように構成することで、2本の手指の第2関節で板体の中央を挟んだ際に、第2関節を伸長状態、屈曲状態のいずれの場合も前記板体の両面が指の側面に密着する形で保持可能としたことを特徴とする手指装具である。
【0015】
また、請求項2に記載した発明は、請求項1に記載の手指装具であって、前記板体をシリコン樹脂を一体成形して構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本願発明にかかる手指装具は、シリコン樹脂等の一体成形により簡易かつ低コストで製造可能である。単に手の特定の指の間に挟んで保持するだけで、無意識のうちに上腕から肩、頸、胸、背中などの所望の筋肉群が協調的に収縮する運動連鎖を生じさせ、姿勢の改善、体軸の安定化、動作の円滑化、運動時の筋出力の向上等の効果を奏する。
【0017】
また、指に挟んだ状態のまま多くの日常生活動作を支障なく行えるため、脱着の面倒や装着の抵抗感もなく、気軽に日常的な装用が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図を用いて説明する。図4は本発明の実施形態に係る手指装具1の斜視図、図5は平面図、図6は平面図の「A」方向から見た側面図、図7は平面図の「B」方向から見た側面図である。また、図8及び図9は、手指の第2指と第3指、あるいは第4指と第5指の第2関節を屈曲させて手指装具1を挟んだ状態を示し、図10及び図11は、同様に第2関節を伸展させて手指装具1を挟んだ状態を示す。
【0019】
手指装具1は、全体として平面視略三角形の回転対称をなす板体であり、その両面において中央部10から各頂点の方向に向けて緩やかに厚みを増す湾曲面をなす。実施形態では最も厚みの大きな三角形の各頂点は面取りされて断面11a、11b、11cに成形している。そのため、隣接する断面同士の間の側面も表裏対称の湾曲面12a、12b、12cをなす。前記面取りは、手指装具1を装着した状態の手で物を握ったり指を握り締めたりした際に物や掌に頂点部分が抵触するのを防ぐために設けたものであり、必須の構成ではない。また、手指装具1の全体としての大きさ、中央部10や各頂点の面取りされた断面11a、11b、11cにおける厚み、中央部10から前記各断面までの湾曲の度合いは、使用者の手の大きさや手指の太さ等に応じて任意に設計可能である。
【0020】
手指装具1は全体を略三角形としているため、図9図11に示されるように、2本の手指の第2関節を屈曲させた状態・伸展させた状態のいずれの状態で中央部10を挟んだ場合も、両指の側面は手指装具1の湾曲面12a、12b、12cのうちのいずれか2つに沿って手指装具1の両面に密着する形となる。たとえば、第2関節を屈曲させて挟む場合、指は湾曲面12cと12bを挟む形となり、第2関節を伸展させて挟む場合、指は湾曲面12cと12aを挟む形となる。
【0021】
実施形態に係る手指装具1は、手の第2指と第3指の間、第4指と第5指の間のいずれかの第2関節で挟んで使用する。また、挟み方は、指を屈曲させるか、伸展させるかのいずれかで挟む。挟む指と挟む際の指の屈曲・伸展の組み合わせに応じて、体性反射により収縮する筋肉群とその運動連鎖、及び効果は異なる。
【0022】
まず、第2指と第3指を屈曲させて手指装具1を挟んだ場合は、両指の第2関節への刺激による体性反射により、正中神経支配の第2指・第3指に停止する深指屈筋が収縮し、上腕の上腕二頭筋、肩の三角筋、胸部の大胸筋が協調的に収縮する運動連鎖を生じる。腕や肩を動かさない場合はこれらの運動連鎖は等尺性収縮となるが、手指装具1を挟んだ状態で物を引き寄せたり抱え上げたりする運動をすると、上記の筋肉群が協調して短縮性収縮する一方、腕や肩の伸筋群には余計な力が入らず、動作がスムーズに行える。
【0023】
次に、第2指と第3指を伸展させて手指装具1を挟んだ場合は、同様に体性反射による深指屈筋の収縮が惹起されるが、上腕二頭筋や三角筋はほとんど収縮せず、背中から頸部にかけての僧帽筋上部及び広背筋といった背中側のアウターマッスルを収縮させる運動連鎖を生じる。その結果、頸椎を後方に移動させて顎を引くように作用するため、手や腕を使った動作を行っている際にも体軸が安定する。
【0024】
一方、第4指と第5指を屈曲させて手指装具1を挟んだ場合は、尺骨神経支配の第4・5指に停止する深指屈筋が収縮し、上腕の上腕三頭筋から僧帽筋・広背筋といったアウターマッスルを収縮させる運動連鎖を生じる。その結果、特に負荷が掛かっていない場合には顎を引くように作用するだけでなく、肩甲骨を引き寄せて胸郭を開かせる効果を奏する。また、手指装具1を挟んだ状態で床面上の荷物を腕を伸ばしたまま引き上げるような動作を行う場合には、上記の筋肉群が協調して伸張性収縮する一方、腕や肩の屈筋群には余計な力が入らず、動作がスムーズに行える。
【0025】
最後に、第4指と第5指を伸展させて手指装具1を挟んだ場合は、同様に体性反射による深指屈筋の収縮が惹起されるが、上腕三頭筋はほとんど収縮せず、背中側のインナーマッスルである脊柱起立筋群が運動連鎖により収縮する。これにより、背筋が伸びて体軸が安定し、歩行や全身運動を行う際の平衡性が向上する効果を奏する。
【0026】
特に、前述の誤嚥(嚥下障害)の改善には、コップや箸の使用の邪魔にならないように手指装具1を左手の第4指と第5指の第2関節で挟むことが効果的である。指を屈曲させて挟めば顎を引かせる効果を生じて咽頭挙上筋群を活性化して舌圧を向上させ、誤嚥を抑制することができる。さらに、日頃から指を伸展させて挟めば脊柱起立筋群を活性化させる訓練となるので、さらに誤嚥防止の効果を高めることができる。
【0027】
さらに、実施形態に係る手指装具1を、第2指・第3指の間と第4指と第5指の間にそれぞれ挟むことで、運動能力の向上に向けた訓練効果も期待できる。前述のとおり、たとえば腕立て伏せの動作は腕、肩、胸、背中の屈筋群と伸筋群それぞれの短縮性収縮と伸展性収縮の連携によって行われ、筋力トレーニングのように単に「力を入れる」だけ等尺性収縮が求められる局面は実際には少ない。実施形態に係る手指装具1はその装着位置により屈筋群と伸筋群の両方の出力向上(力を出す)効果を奏するため、運動トレーニングの際に運動の性質や使用する筋肉群に応じて2つの手指装具1を適切に同時使用することで、必要な筋肉の協調的な筋出力を図り運動のパフォーマンスを向上させることが期待できるのである。
【0028】
以上、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明したが、本発明は、必ずしも上述した構成にのみ限定されるものではなく、本発明の目的を達成し、効果を有する範囲内において、適宜変更実施することが可能なものであり、本発明の技術的思想の範囲内に属する限り、それらは本発明の技術的範囲に属する。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明に係る手指装具は、ごく簡易な構造で低コストで製造可能であり、使用者の手の大きさや指の太さ等に応じて適宜のサイズのものを容易に提供可能である。日常生活において常時装着して身体の姿勢の矯正に活用するほか、運動トレーニングの際に適切に使用してトレーニング効果の向上を図れる。さらに、高齢者等の飲食時の誤嚥防止のための訓練用具としても有効である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】深指屈筋の図解
図2】深指屈筋の体性反射により運動連鎖を生じる筋肉の一覧表
図3】深指屈筋の体性反射による運動連鎖を生じる筋肉の図解
図4】実施形態に係る手指装具の斜視図
図5】実施形態に係る手指装具の平面図
図6】実施形態に係る手指装具のA方向からみた側面図
図7】実施形態に係る手指装具のB方向からみた側面図
図8】実施形態に係る手指装具の装着状態を示す側面図(手指屈曲時)
図9】実施形態に係る手指装具の装着状態を示す平面図(手指屈曲時)
図10】実施形態に係る手指装具の装着状態を示す側面図(手指伸展時)
図11】実施形態に係る手指装具の装着状態を示す側面図(手指伸展時)
【符号の説明】
【0031】
1 手指装具
10 中央部
11a、11b、11c 断面
12a、12b、12c 湾曲面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11