(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-17
(45)【発行日】2024-04-25
(54)【発明の名称】熱成形体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
D04C 1/12 20060101AFI20240418BHJP
D01F 8/14 20060101ALI20240418BHJP
D04C 1/02 20060101ALI20240418BHJP
D04B 1/16 20060101ALI20240418BHJP
D04B 21/16 20060101ALI20240418BHJP
D03D 15/283 20210101ALI20240418BHJP
D03D 15/292 20210101ALI20240418BHJP
D06C 7/00 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
D04C1/12
D01F8/14 B
D04C1/02
D04B1/16
D04B21/16
D03D15/283
D03D15/292
D06C7/00 A
(21)【出願番号】P 2019157501
(22)【出願日】2019-08-30
【審査請求日】2022-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】弁理士法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田代 こゆ
(72)【発明者】
【氏名】室谷 浩紀
(72)【発明者】
【氏名】池田 弘平
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/092835(WO,A1)
【文献】特開平11-124732(JP,A)
【文献】特開平07-119011(JP,A)
【文献】特開2007-092204(JP,A)
【文献】特開2001-271270(JP,A)
【文献】特開2019-163582(JP,A)
【文献】特開2021-036081(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F8/00-8/18、
D01F1/00-6/96、9/00-9/04、
D03D1/00-27/18、
D04C1/00-7/00、D04G1/00-5/00
D06C7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱成形体であって、横断面において芯鞘構造を呈する複合構造の長繊維である熱接着性繊維が複数本集束した熱接着マルチフィラメント糸にて、編織物、網地、ロープ、撚糸および紐よりなる群から選ばれた繊維製品が構成され、この繊維製品における前記熱接着性繊維の鞘成分の溶融再固化によって、前記鞘成分の溶融の際には溶融しなかった複数の芯成分どうしが互いに熱接着されたものであり、
前記熱接着
性繊維は、芯成分がエチレングリコールとテレフタル酸とを含む共重合体により形成され、鞘成分がテレフタル酸とエチレングリコールと1,4-ブタンジオールとジエチレングリコールとを含む共重合体より形成され、鞘成分の融点が芯成分の融点よりも50℃~120℃低く、芯成分と鞘成分との少なくともいずれかにリン化合物を含有し、複合繊維におけるリン原子の含有率が500~7000ppmであることを特徴とする熱成形体。
【請求項2】
芯成分と鞘成分の質量比が1:4~4:1であることを特徴とする請求項1記載の熱成形体。
【請求項3】
鞘成分がさらにε-カプロラクトンを含有することを特徴とする請求項1または2記載の熱成形体。
【請求項4】
横断面において芯鞘構造を呈する複合
長繊維によって構成され、芯成分がエチレングリコールとテレフタル酸とを含む共重合体により形成され、鞘成分がテレフタル酸とエチレングリコールと1,4-ブタンジオールとジエチレングリコールとを含む共重合体より形成され、鞘成分の融点が芯成分の融点よりも50℃~120℃低く、芯成分と鞘成分との少なくともいずれかにリン化合物を含有し、複合繊維におけるリン原子の含有率が500~7000ppmである熱接着性繊維を準備し、複数本の前記熱接着性繊維を集束して熱接着マルチフィラメント糸とし、この熱接着マルチフィラメント糸にて、編織物、網地、ロープ、撚糸および紐よりなる群から選ばれた繊維製品を製造し、
この繊維製品を鞘成分の融点以上かつ芯成分の融点以下の温度条件で熱処理することによって、鞘成分を熱溶融させるとともに芯成分は熱溶融させず、かつその後に冷却固化させて芯成分同士を熱接着させることを特徴とする熱成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱成形体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
土木・建築工事用のメッシュシートとして、芯鞘型複合繊維によって構成されるメッシュシート、すなわち、芯成分がポリエチレンテレフタレートであり、鞘成分がポリエチレンテレフタレートよりも融点の低いポリエステル共重合体である複合繊維を用いてなるメッシュシートが知られている(たとえば、特許文献1参照)。特許文献1のメッシュシートは、かかる芯鞘型複合繊維よるなるマルチフィラメント糸を経糸および緯糸に用いて粗目の織物を製織し、熱処理により経糸および緯糸の交点を熱接着させたものである。経糸および緯糸の交点を熱接着させるのは、メッシュシートの目ずれを防止するためである。さらに、このようなメッシュシートに難燃性能を付与する場合には、織物を熱処理する前に難燃剤液中に浸漬することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述のようにメッシュシートを構成したのちに後加工で難燃性能を付与する場合は、製造工程が複雑になるとともに、経済的にも不利となる。また、製品が摩耗した場合には、それに伴って難燃剤が剥がれる可能性がある。
【0005】
そこで本発明は、熱接着性繊維を用いた繊維製品を熱処理することによって得られる熱成形体であって、繊維製品に後加工を施すことなく、十分な難燃性能を有する熱成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するため本発明の熱成形体は、
横断面において芯鞘構造を呈する複合構造の長繊維である熱接着性繊維が複数本集束した熱接着マルチフィラメント糸にて、編織物、網地、ロープ、撚糸および紐よりなる群から選ばれた繊維製品が構成され、この繊維製品における前記熱接着性繊維の鞘成分の溶融再固化によって、前記鞘成分の溶融の際には溶融しなかった複数の芯成分どうしが互いに熱接着されたものであり、
前記熱接着性繊維は、芯成分がエチレングリコールとテレフタル酸とを含む共重合体により形成され、鞘成分がテレフタル酸とエチレングリコールと1,4-ブタンジオールとジエチレングリコールとを含む共重合体より形成され、鞘成分の融点が芯成分の融点よりも50℃~120℃低く、芯成分と鞘成分との少なくともいずれかにリン化合物を含有し、複合繊維におけるリン原子の含有率が500~7000ppmであることを特徴とする。
【0007】
本発明の熱成形体においては、上記芯成分と鞘成分の質量比が1:4~4:1であることが好適である。また鞘成分がさらにε-カプロラクトンを含有することが好適である。
【0008】
本発明の熱成形体の製造方法は、
横断面において芯鞘構造を呈する複合長繊維によって構成され、芯成分がエチレングリコールとテレフタル酸とを含む共重合体により形成され、鞘成分がテレフタル酸とエチレングリコールと1,4-ブタンジオールとジエチレングリコールとを含む共重合体より形成され、鞘成分の融点が芯成分の融点よりも50℃~120℃低く、芯成分と鞘成分との少なくともいずれかにリン化合物を含有し、複合繊維におけるリン原子の含有率が500~7000ppmである熱接着性繊維を準備し、複数本の前記熱接着性繊維を集束して熱接着マルチフィラメント糸とし、この熱接着マルチフィラメント糸にて、編織物、網地、ロープ、撚糸および紐よりなる群から選ばれた繊維製品を製造し、
この繊維製品を鞘成分の融点以上かつ芯成分の融点以下の温度条件で熱処理することによって、鞘成分を熱溶融させるとともに芯成分は熱溶融させず、かつその後に冷却固化させて芯成分同士を熱接着させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、熱成形体を構成する複合構造の熱接着性繊維の芯成分と鞘成分との少なくともいずれかにリン化合物を含有し、複合繊維におけるリン原子の含有率が500~7000ppmであるため、繊維製品に浸漬処理などの後加工を施すことなく難燃性能を有する熱成形体を得ることができる。しかも、本発明の熱成形体によると、理由は明らかではないが、熱成形工程を経ないものに比べて、より良好な難燃性能を有するものとすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の熱接着性繊維は、芯成分と鞘成分とを有する。芯成分を構成する共重合体は、エチレングリコールをジオール成分とし、テレフタル酸をジカルボン酸成分として得られるポリエチレンテレフタレートである。なお、ジカルボン酸成分として、ごく少量のイソフタル酸等の他のジカルボン酸成分が混合されていてもよい。芯成分の融点は概ね260℃程度である。
【0011】
鞘成分を構成する共重合体は、エチレングリコールと1,4-ブタンジオールとジエチレングリコールとをジオール成分とし、テレフタル酸をジカルボン酸成分として得られる共重合ポリエステルである。ジエチレングリコールが共重合成分として所定量存在すると、熱成形体の耐候性を向上させることができるうえに、融点の調整性や融着した鞘成分の耐摩耗性を向上させることができる。1,4-ブタンジオールを共重合成分とすることで、ポリマーの結晶化速度およびじん性を上げるという技術的効果が得られる。
【0012】
各共重合成分の割合は、共重合単位のモル比として、酸成分であるテレフタル酸は95.0~80.0モル%、ジオール成分であるエチレングリコールは8.0~79.5モル%、1,4-ブタンジオールは20.0~90.0モル、ジエチレングリコールは0.5~2.0モルであることが好ましい。この共重合モル比を上記範囲とすることにより、芯成分であるポリエチレンテレフタレートとの融点差を約50~80℃低く設定することができる。すなわち、鞘成分を構成する共重合体の融点を約180~210℃に設定できる。
【0013】
鞘成分を構成する共重合体は、さらにε-カプロラクトンを含有することができる。ε-カプロラクトンを共重合成分とすることで、共重合体の結晶性を維持しながら、融点の調整性や融着した鞘成分の耐摩耗性を向上させることができる。この観点から、ε-カプロラクトンの成分比率は、共重合単位のモル比として、5.0~20.0モル%であることが好ましい。ε-カプロラクトンを共重合することにより、鞘成分の融点は、芯成分の融点よりも約60℃~120℃低く設定することができ、概ね140℃~200℃となる。
【0014】
芯成分と鞘成分の融点差が50℃未満であると、鞘成分が溶融する温度に加熱した場合、芯成分が熱による影響を受けて劣化するおそれがある。これにより、加熱処理により得られた熱成形体の物性が低下するおそれがある。また、芯成分と鞘成分の融点差が120℃を超えると、芯成分と鞘成分との融点差が大きくなりすぎて、熱接着性繊維を公知の複合溶融紡糸法で得られにくくなる。
【0015】
芯成分と鞘成分の質量割合は、芯成分:鞘成分=1:4~4:1であることが好ましい。芯成分の質量割合が低すぎると、加熱処理後に得られた熱成形体の形態保持性(強度や剛性)が低下する傾向となりやすい。熱接着性成分である鞘成分が溶融して融着しても芯成分は当初の繊維形態を維持しているが、かかる芯成分の質量割合が低いと、熱成形体の強度や剛性が低下する。また、熱接着性成分である鞘成分の質量割合が低すぎると、加熱処理後に得られた熱成形体の表面に毛羽立ちが生じやすくなる。芯成分と鞘成分は、同心に配置されていてもよいし、偏心して配置されていてもよい。しかしながら、偏心に配置されていると、加熱処理時に収縮が生じやすくなるため、同心に配置されている方がより好ましい。
【0016】
熱成形体を構成する熱接着性繊維は、同熱成形体に難燃性を付与するために、芯成分となるポリエチレンテレフタレートと、鞘成分となる共重合ポリエステルとの少なくともいずれかに、難燃成分としてリン化合物を含有している。リン化合物は、複合構造の熱接着性繊維の全体の質量に対して、リン原子が500~7000ppm含有されている。中でも1500~4000ppm含有されていることが好ましい。リン原子の含有率が500ppmよりも低いと難燃性が不十分となり、一方、7000ppmよりも高くなり過ぎると、繊維の機械的特性が損なわれ、製糸性も劣り、含有率が高いにも関わらず効果的に難燃性が発揮しにくくなりコスト面でも不利となる。さらには、少なくとも芯成分にリン化合物を含有させると、その理由は明らかではないが、より効果的に難燃性を発揮するため、より好ましい。
【0017】
リン化合物は、常法によって、芯成分および/または鞘成分のポリマーに含有させることができる。すなわち、リン化合物を共重合する場合において、芯成分および/または鞘成分のポリマーを製造する際に、エステル化またはエステル交換反応時と、重縮合反応の初期までとにおける任意の段階で、リン化合物を添加すればよい。リン化合物は、芯成分および/または鞘成分のポリマーに必ずしも共重合されていなくてもよく、その場合は、ポリエステルを製造する際または製造後の任意の段階で、リン化合物を添加すればよい。また、リン化合物を共重合したポリマーにさらに任意の段階でリン化合物を添加してもよい。もしくは、ポリエステルにリン化合物を溶融添加したマスターバッチを用いてもよい。
【0018】
熱接着性繊維の繊度は、1~20デシテックスであることが好ましい。熱接着性繊維は長繊維であり、複数本の長繊維を集束して熱接着マルチフィラメント糸とする。
【0019】
熱接着性繊維は、芯成分となるポリエチレンテレフタレートと、鞘成分となる共重合ポリエステルとの少なくともいずれかに難燃成分としてリン化合物を含有させたものを、複合紡糸孔を持つ紡糸装置に供給して、複合溶融紡糸するという、公知の方法で得ることができる。
【0020】
さらに、熱接着性繊維すなわち上述の熱接着マルチフィラメント糸を用いて、製織、製編、製網または編組して、織物、編物、網地、ロープ、撚糸または紐等の繊維製品とする。詳細には、たとえば、熱接着マルチフィラメント糸を経糸および緯糸として製織し織物を得てもよいし、熱接着マルチフィラメント糸を経編機や緯編機に掛けて編物を得てもよい。また、熱接着マルチフィラメント糸を組網機に掛けて、結節網地や無結節網地を得てもよい。さらに、熱接着マルチフィラメント糸を複数本組んで紐を得てもよい。繊維製品を得る際、熱接着マルチフィラメント糸1本を用いてもよいし、複数本の熱接着マルチフィラメント糸を引き揃え、所望により撚りを施した糸条を用いてもよい。なお、繊維製品を得る際に、本発明の効果を阻害しない範囲で、熱接着性繊維以外の他の繊維を併用してもよい。例えば、ポリエチレンテレフタレートからなるマルチフィラメント糸を併用して、得られる熱成形体の機械的強度を向上させることが挙げられる。併用する方法としては、熱接着マルチフィラメント糸と他の繊維であるポリエチレンテレフタレートからなるマルチフィラメント糸とを引き揃えた糸や混撚した糸を用いて繊維製品を得る方法や、繊維製品を製造する際に部分的に他の繊維であるポリエチレンテレフタレートからなるマルチフィラメント糸を配して繊維製品を得る方法が挙げられる。
【0021】
次に得られた繊維製品を加熱し、熱成形体を得る。加熱温度は、熱接着性成分である鞘成分の融点以上かつ芯成分の融点未満とする。芯成分が融点約260℃のポリエチレンテレフタレートであるため、熱処理温度の上限は210℃が好適である。また、加熱処理時または加熱処理後に、所望の形状となるように加圧してもよい。この加熱により、鞘成分の共重合ポリエステルが溶融するとともに、芯成分は当初の繊維形態を維持した状態で、複合繊維相互間が融着して、熱成形体が得られる。たとえば、繊維製品として粗目の編織物または網地を採用し、この編織物または網地を加熱して共重合ポリエステルを溶融させると、編織物または網地の交点で強固に融着した熱成形体が得られる。なお、編織物または網地の交点とは、たとえば、織物の場合は経糸および緯糸の交差点であり、編物や網地の場合は結節点のことである。また、交点以外の部位(たとえば網地であれば網脚)における鞘成分である共重合ポリエステルも溶融させ、全体を融着させて、高剛性の熱成形体を得てもよい。
【0022】
このような高剛性の熱成形体としては、たとえば、メッシュシート、安全ネット、防音シート、建築工事用垂直ネット、剥落防止ネット、養生ネット等の土木・建築資材や、天井材、トランクマット、吸音材、シート用資材、タフテッド基布、トノカバー、ドアトリム、ツールボックス、ハーネス等の自動車用資材や、ロープ、縫い糸などが挙げられる。
【0023】
熱接着性繊維には、必要に応じて、芯成分のポリエチレンテレフタレートおよび/または鞘成分の共重合ポリエステルに、熱安定剤、結晶核剤、艶消剤、顔料、耐光剤、耐候剤、滑剤、酸化防止剤、抗菌剤、香料、可塑剤、染料、界面活性剤、表面改質剤、各種無機または有機電解質などの添加剤が含有されていてもよい。
【実施例】
【0024】
以下の実施例、比較例における性能の評価は、次の方法によって行った。
【0025】
(a)強伸度
JIS L-1013 8.5 引張強さ及び伸び率の記載に準じて、定速伸長形引張試験機(島津製作所社製オートグラフAG-I)を用い、つかみ間隔25cm、引張速度30cm/分の条件で測定した。
【0026】
(b)難燃性
JIS L-1091D法(接炎試験)に従って測定した。なお、接炎回数の数値が大きいほど難燃性が高いことを示す。
【0027】
(実施例1)
芯成分として、ポリエチレンテレフタレート(融点260℃)と、ポリエチレンテレフタレートにリン化合物((2,5-ジヒドロキシフェニル)ジフェニルホスフィンオキシドのエチレンオキシド付加物)が共重合した共重合ポリエステル(リン原子4200ppmを含有)とを用い、両者の質量比が1.04:1となるようにドライブレンドしたもの(リン原子2060ppmを含有)を用いた。
【0028】
鞘成分は、共重合単位のモル比が、テレフタル酸86.8モル%、ε-カプロラクトン13.2モル%、エチレングリコール50.0モル%、1,4-ブタンジオール49.2モル%、ジエチレングリコール0.8モル%である、融点160℃の共重合ポリエステルを用いた。
【0029】
そして、芯鞘質量比を芯:鞘=2.7:1として複合紡糸することにより、芯鞘複合繊維の全体としてリン原子を1500ppm含む熱接着性繊維からなるマルチフィラメント糸(1100デシテックス、96フィラメント)を得た。
【0030】
このマルチフィラメント糸を1g/10cmとなるように製紐し、すなわち内層に8本組紐を入れ、外層を8本引揃×8本組紐とした組紐とし、60℃で30分湯洗いし、風乾した。その後に170℃で2分間熱処理して、少なくとも表面が溶融固化してなる棒状の熱成形体を得た。これを実施例1の熱成形体とした。
【0031】
(実施例2)
芯成分として、ポリエチレンテレフタレートに実施例1で用いたのと同じリン化合物が共重合した共重合ポリエステル(リン原子4200ppmを含有)を用いた。
【0032】
鞘成分として、実施例1のものと同じである融点160℃の共重合ポリエステルを用いた。
【0033】
そして、芯鞘質量比を芯:鞘=2.7:1として複合紡糸することにより、リン原子を3060ppm含む熱接着性繊維からなるマルチフィラメント糸(1100デシテックス、96フィラメント)を得た。
【0034】
このマルチフィラメント糸を1g/10cmとなるように製紐し、すなわち内層に8本組紐を入れ、外層を8本引揃×8本組紐とした組紐とし、60℃で30分湯洗いし、風乾し、170℃で2分間熱処理して、少なくとも表面が溶融固化してなる棒状の熱成形体を得た。これを実施例2の熱成形体とした。
【0035】
(実施例3)
芯成分として、ポリエチレンテレフタレートに実施例1で用いたのと同じリン化合物が共重合した共重合ポリエステル(リン原子4200ppmを含有)と、ポリエチレンテレフタレート中にリン化合物(ジエチルホスフィン酸アルミニウム塩)を練り込んだマスターバッチ(リン原子4万ppmを含有)との質量比が、リン化合物含有ポリエステル:リン化合物練り込みポリエチレンテレフタレート=22.3:1となるようにドライブレンドしたもの(リン原子5760ppmを含有)を用いた。
【0036】
鞘成分として、実施例1のものと同じである融点160℃の共重合ポリエステルを用いた。
【0037】
そして、芯鞘質量比を芯:鞘=2.7:1として複合紡糸することにより、リン原子を4200ppm含む熱接着性繊維からなるマルチフィラメント糸(1100デシテックス、96フィラメント)を得た。
【0038】
このマルチフィラメント糸を1g/10cmとなるように製紐し、すなわち内層に8本組紐を入れ、外層を8本引揃×8本組紐とした組紐とし、60℃で30分湯洗いし、風乾し、170℃で2分間熱処理して、少なくとも表面が溶融固化してなる棒状の熱成形体を得た。これを実施例3の熱成形体とした。
【0039】
(実施例4)
芯成分として、ポリエチレンテレフタレート(融点260℃)を用いた。
【0040】
鞘成分は、実施例1で用いたのと同じ融点160℃の共重合ポリエステルと、この共重合ポリエステル中にリン化合物(ジエチルホスフィン酸アルミニウム塩)を練り込んだマスターバッチ(リン原子4万ppmを含有)との質量比が、共重合ポリエステル:マスターバッチ=6.2:1となるようにドライブレンドしたもの(リン原子5560ppmを含有)を用いた。
【0041】
そして、芯鞘質量比を芯:鞘=2.7:1として複合紡糸することにより、リン原子を1500ppm含む熱接着性繊維からなるマルチフィラメント糸(1100デシテックス、96フィラメント)を得た。
【0042】
このマルチフィラメント糸を1g/10cmとなるように製紐し、すなわち内層に8本組紐を入れ、外層を8本引揃×8本組紐とした組紐とし、60℃で30分湯洗いし、風乾し、170℃で2分間熱処理して、少なくとも表面が溶融固化してなる棒状の熱成形体を得た。これを実施例4の熱成形体とした。
【0043】
(実施例5)
芯成分として、ポリエチレンテレフタレートを用いた。
【0044】
鞘成分は、実施例1で用いたのと同じ融点160℃の共重合ポリエステルと、この共重合ポリエステル中に実施例4で用いたのと同じリン化合物を練り込んだマスターバッチ(リン原子4万ppmを含有)との質量比が、共重合ポリエステル:マスターバッチ=1.57:1となるようにドライブレンドしたもの(リン原子15560ppmを含有)を用いた。
【0045】
そして、芯鞘質量比を芯:鞘=2.7:1として複合紡糸することにより、リン原子を4200ppm含む熱接着性繊維からなるマルチフィラメント糸(1100デシテックス、96フィラメント)を得た。
【0046】
このマルチフィラメント糸を1g/10cmとなるように製紐し、すなわち内層に8本組紐を入れ、外層を8本引揃×8本組紐とした組紐とし、60℃で30分湯洗いし、風乾し、170℃で2分間熱処理して、少なくとも表面が溶融固化してなる棒状の熱成形体を得た。これを実施例5の熱成形体とした。
【0047】
(実施例6)
芯成分として、ポリエチレンテレフタレート(融点260℃)に実施例1で用いたのと同じリン化合物が共重合した共重合ポリエステル(リン原子4200ppmを含有)を用いた。
【0048】
鞘成分は、実施例1で用いたのと同じ融点160℃の共重合ポリエステルと、この共重合ポリエステル中に実施例4で用いたのと同じリン化合物を練り込んだマスターバッチ(リン原子4万ppmを含有)との質量比が、共重合ポリエステル:マスターバッチ=8.5:1となるようにドライブレンドしたもの(リン原子4210ppmを含有)を用いた。
【0049】
そして、芯鞘質量比を芯:鞘=2.7:1として複合紡糸することにより、リン原子を4200ppm含む熱接着性繊維からなるマルチフィラメント糸(1100デシテックス、96フィラメント)を得た。
【0050】
このマルチフィラメント糸を1g/10cmとなるように製紐し、すなわち内層に8本組紐を入れ、外層を8本引揃×8本組紐とした組紐とし、60℃で30分湯洗いし、風乾し、170℃で2分間熱処理して、少なくとも表面が溶融固化してなる棒状の熱成形体を得た。これを実施例6の熱成形体とした。
【0051】
(比較例1)
芯成分としてポリエチレンテレフタレート(融点260℃)を用いた。鞘成分は、実施例1で用いたのと同じ融点160℃の共重合ポリエステルを用いた。芯成分、鞘成分ともリン化合物は含有させなかった。
【0052】
そして、芯鞘質量比を芯:鞘=3:1として複合紡糸することにより、熱接着性繊維からなるマルチフィラメント糸(1100デシテックス、96フィラメント)を得た。
【0053】
このマルチフィラメント糸を1g/10cmとなるように製紐し、すなわち内層に8本組紐を入れ、外層に8本引揃×8本組紐とした組紐とし、60℃で30分湯洗いし、風乾した。熱処理はしなかった。これを比較例1の成形体とした。
【0054】
(比較例2)
比較例1の組紐を170℃で2分熱処理した。これを比較例2の熱成形体とした。
【0055】
(比較例3)
実施例4において、風乾後の組紐を熱処理しないものとした。これを比較例3の成形体とした。
【0056】
(比較例4)
実施例5において、風乾後の組紐を熱処理しないものとした。これを比較例4の成形体とした。
【0057】
実施例1~6、比較例1~4の成形体を構成する熱接着性繊維のリン原子含有量と、同熱接着性繊維からなるマルチフィラメント糸の原糸物性と、成形体の難燃性との評価結果を表1に示す。
【0058】
【0059】
表1から明らかなように、本発明の構成要件を満たす実施例1~6の複合構造の熱接着性繊維を使用した熱成形体は、難燃性能に優れたものであった。実施例1と実施例4、および実施例3と実施例5は、繊維中のリン原子含有量が同じであるが、芯成分にリン化合物を含有した実施例1と実施例3の方が、鞘成分にリン化合物を含有した実施例4と実施例5に比べて、難燃性能がより優れる結果となった。
【0060】
一方、比較例1は難燃性に劣るものではないが、比較例1を熱処理して得られた比較例2は難燃性に劣るものとなった。
【0061】
反対に、実施例4と比較例3、および実施例5と比較例4は、繊維中のリン原子含有量が同じであり、またいずれも鞘成分にリン化合物を含有したものであったが、熱処理して得られた実施例4、実施例5の方が、熱処理しなかった比較例3、比較例4に比べて、難燃性能に優れるものであった。