(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-17
(45)【発行日】2024-04-25
(54)【発明の名称】ホルダユニットおよびピン
(51)【国際特許分類】
B28D 5/00 20060101AFI20240418BHJP
B28D 1/24 20060101ALI20240418BHJP
C03B 33/027 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
B28D5/00 Z
B28D1/24
C03B33/027
(21)【出願番号】P 2020057727
(22)【出願日】2020-03-27
【審査請求日】2023-02-16
(31)【優先権主張番号】P 2019100896
(32)【優先日】2019-05-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390000608
【氏名又は名称】三星ダイヤモンド工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】北市 充
(72)【発明者】
【氏名】浅井 義之
(72)【発明者】
【氏名】飯田 純平
【審査官】永井 友子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-296832(JP,A)
【文献】特開2003-171133(JP,A)
【文献】特開2010-005974(JP,A)
【文献】特開2003-137575(JP,A)
【文献】特開2002-050592(JP,A)
【文献】特開2014-144888(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28D 5/00
B28D 1/24
C03B 33/027
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクライビングホイールと、
前記スクライビングホイールの挿入孔に挿入され、前記スクライビングホイールを回転可能に支持するピンと、
前記ピンを保持するホルダと、からなるホルダユニットであって、
前記スクライビングホイールは、前記挿入孔の内周面に設けられた被規制部と、前記ピンに設けられた規制部とが2点で接触することにより支持されて
おり、
前記規制部は前記ピンの外周に形成される凹部である、ホルダユニット。
【請求項2】
前記被規制部は凸曲面である
請求項1に記載のホルダユニット。
【請求項3】
前記凹部の幅は前記スクライビングホイールの厚さよりも小さい、
請求項2に記載のホルダユニット。
【請求項4】
前記凸曲面はスクライビングホイールの厚さ方向の全体にわたって設けられている、
請求項2に記載のホルダユニット。
【請求項5】
スクライビングホイールの挿入孔に挿入され、前記スクライビングホイールを回転可能に支持するピンであって、
前記スクライビングホイールの挿入孔と2点で接触する規制部を備え
、
前記規制部は前記ピンの外周に形成される凹部である、
ピン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はホルダユニットおよびピンに関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス基板等の脆性材料基板に対するスクライブラインの形成にスクライブ装置が用いられる。スクライブ装置にはホルダユニット、および、これを走査する走査装置が設けられる。ホルダユニットはホルダ本体、ピン、および、スクライビングホイールにより構成される。ホルダ本体は走査装置に取り付けられる。ピンはホルダ本体に支持される。スクライビングホイールはピンに支持される。特許文献1では、ホルダユニットの一例であるスクライブユニット(20)を開示している。スクライブユニット(20)はスクライビングホイール(60)、スクライビングホイール(60)を回転可能に支持するピン(32)、および、ピン(32)を支持する支持枠体(33)により構成される。スクライビングユニット(20)が脆性材料基板に対して所定の走査方向に走査されることにより脆性材料基板にスクライブラインが形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のスクライブ装置では、例えばホルダユニットが直線方向に走査された場合に非直線状のスクライブラインが脆性材料基板に形成されることがある。一例では非直線状のスクライブラインは、スクライビングホイールの走査方向に沿う直線部分と、走査方向とは異なる方向に進行した非直線部分とを含む。非直線部分がスクライブラインの1箇所または数箇所に部分的に形成される場合、スクライブラインのおおよそ全体において直線部分と非直線部分とが交互に形成される場合などがあり、非直線状のスクライブラインの形状は多様である。ブレイクされた脆性材料基板の品質を高める点から、走査方向に沿うスクライブラインが形成されることが好ましい。これは直線状のスクライブラインを形成する場合だけでなく、直線とは異なる形状のスクライブラインを形成する場合も同様である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)本発明に関するホルダユニットは、スクライビングホイールと、前記スクライビングホイールの挿入孔に挿入され、前記スクライビングホイールを回転可能に支持するピンと、前記ピンを保持するホルダと、からなるホルダユニットであって、前記スクライビングホイールは、前記挿入孔の内周面に設けられた被規制部と、前記ピンに設けられた規制部とが2点で接触することにより支持されており、前記規制部は前記ピンの外周に形成される凹部であることを特徴とする。
スクライビングホイールの走査時にピンの軸方向に作用する反力がスクライビングホイールに生じた場合、この反力がピンの規制部により受けられる。このため、ピンの軸方向におけるピンに対するスクライビングホイールの移動が抑えられる。これにより、ホルダユニットの走査方向に沿うスクライブラインを容易に形成できる。また、ピンの規制部とスクライビングホイールの被規制部が2点で接触することにより、スクライビングホイールの位置及び姿勢がホルダ内で安定しやすい。
【0006】
(2)好ましい例では(1)に記載のホルダユニットにおいて、前記被規制部は凸曲面である。
このため、規制部の構成が簡素である。
【0007】
(3)好ましい例では(2)に記載のホルダユニットにおいて、前記凹部の幅は前記スクライビングホイールの厚さよりも小さい。
このため、被規制部と規制部とが確実に2点で接触する。
【0008】
(4)好ましい例では(2)に記載のホルダユニットにおいて、前記凸曲面はスクライビングホイールの厚さ方向の全体にわたって設けられている。
凹部と凸部とが線接触するため、スクライブ時の摩擦抵抗が小さくなる。
【0009】
(5)本発明に関するピンは、スクライビングホイールの挿入孔に挿入され、前記スクライビングホイールを回転可能に支持するピンであって、
前記スクライビングホイールの挿入孔と2点で接触する規制部を備え、前記規制部は前記ピンの外周に形成される凹部である。
上記ピンによれば、(1)に記載の効果と同様の効果が得られる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に関するホルダユニットおよびピンによれば、ホルダユニットの走査方向に沿うスクライブラインを容易に形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図3】実施形態のホルダユニットを用いてスクライブを行った場合のスクライブラインの振れを示す図。
【
図4】従来のホルダユニットを用いてスクライブを行った場合のスクライブラインの振れを示す図。
【
図5】実施形態のホルダユニットの規制部の変形例を示す拡大側面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(実施形態)
図1に示されるスクライブ装置1は、例えばガラス基板またはセラミックス基板等の脆性材料で形成された基板(以下「脆性材料基板GB」)を分断するために脆性材料基板GBの表面にスクライブラインを形成するために用いられる。脆性材料基板GBの一例はガラス基板である。ガラス基板の一例は無アルカリガラスである。無アルカリガラスはフラットパネルディスプレイ等に用いられる。
【0013】
スクライブ装置1を構成する主な要素は移動装置10、テーブル装置20、保持機構30、および、ホルダユニット40である。移動装置10は脆性材料基板GBを走査方向に走査させる。移動装置10は、テーブル装置20が搭載される移動台11を備える。移動台11は一対のレール12上に載せられている。回転直進変換装置13は移動台11をレール12に沿って移動させる。回転直進変換装置13の一例は、送りねじ装置であり、駆動源となるモータ13Aと、モータ13Aの出力軸に接続された送りねじ部13Bとを備える。
【0014】
テーブル装置20は回転中心軸Jを中心に回転可能なテーブル21、および、テーブル21を回転させるためのモータ22を備える。脆性材料基板GBはテーブル21上に載置され、真空吸引手段(図示略)によってテーブル21に吸着されることによりテーブル21に保持される。モータ22はテーブル21内に収容されている。モータ22は、テーブル21を回転させることにより、テーブル21の回転方向における脆性材料基板GBの位置を決める。
【0015】
保持機構30はホルダユニット40を保持する。保持機構30はテーブル21を上方から跨ぐように設置されたブリッジ31、および、ブリッジ31を支持する一対の支柱32を備える。ブリッジ31には、ガイド31Aが設けられている。ガイド31Aには、連結部33を介してスクライブヘッド34が移動可能に取り付けられている。連結部33およびスクライブヘッド34はガイド31Aに沿って移動する。連結部33とスクライブヘッド34は昇降機構(図示略)を介して連結されている。昇降機構が駆動することにより、スクライブヘッド34は連結部33に対して上下方向に移動する。スクライブヘッド34には、ホルダジョイント35を介してホルダユニット40が着脱可能に取り付けられている。
【0016】
図2に示されるホルダユニット40を構成する主な要素はホルダ50、スクライビングホイール60、および、スクライビングホイール60のピン70(以下「ピン70」)である。スクライビングホイール60は消耗品であるため、定期的に交換される。一例では、スクライビングホイール60のみ、または、ホルダユニット40を交換することにより、スクライビングホイール60の交換が行われる。
【0017】
ホルダ50を構成する材料の一例は磁性体金属である。ホルダ50は略円柱形状または角柱形状である。ホルダ50はスクライビングホイール60の一部を収容するための溝部51、および、溝部51に連通するようにホルダ50を貫通する支持孔52を備える。溝部51は、スクライブヘッド34(
図1参照)にホルダ50が取り付けられた状態において、脆性材料基板GBに向けて開口する。
【0018】
ピン70はスクライビングホイール60を支持する。ピン70は支持孔52に挿入される。ピン70の一方の端部70Aは先細りの形状である。支持孔52とピン70との関係は任意に選択できる。第1例では、ピン70は支持孔52に対して回転できないように、支持孔52に固定される。固定方法は圧入または接着である。第1例の場合、支持孔52の最大の内径とピン70の最大の外径とは実質的に等しいことが好ましい。第2例ではピン70は支持孔52に対して回転できるように、支持孔52に挿入される。第2例の場合、支持孔52の最大の内径はピン70の最大の外径よりも若干大きい。以下では、ピン70の中心軸の延びる方向をピン軸方向と称する。
【0019】
スクライビングホイール60及びピン70を構成する材料の一例は焼結ダイヤモンド、超硬合金、単結晶ダイヤモンド、および、多結晶ダイヤモンドである。別の例では、スクライビングホイール60に硬質材料がコーティングされる場合がある。硬質材料は例えばダイヤモンドである。
【0020】
スクライビングホイール60は主に、本体部61および刃先部62に区分される。本体部61は、円板状であり、スクライビングホイール60において刃先部62よりも径方向の内側の部分である。刃先部62は、断面V字状であり、スクライビングホイール60の外周部の全周にわたり形成されている。断面V字状とは、スクライビングホイール60の厚さ方向(以下「厚さ方向DT」)に沿う平面でスクライビングホイール60を切った断面において、スクライビングホイール60の外周縁に向けて先細りの形状である。以下の説明では、スクライビングホイール60の径方向に平行な平面に直交する断面を直交断面と称する。好ましい例では、スクライビングホイール60の外径の一例はφ1mm~φ7mmの範囲に含まれる。一例では、スクライビングホイール60の外径はφ2.5mmである。好ましい例では、スクライビングホイール60の厚さは、0.38mm~1.1mmの範囲に含まれる。スクライビングホイール60の厚さの一例は、0.64mmである。なお、溝部51の厚さ方向DTにおける長さ、すなわち溝部51の内面のうち厚さ方向DTに対面する2つの面51A、51Bの厚さ方向DTの間の距離の一例は0.66mmである。
【0021】
本体部61の中心部には、本体部61を厚さ方向DTに貫通する挿入孔63が形成されている。挿入孔63には、ピン70が挿入されている。本体部61は、挿入孔63の一端が形成される第1側面61A、および、挿入孔63の他端が形成される第2側面61Bを備える。第1側面61Aのうち溝部51に収容されている部分は所定の隙間SAを介して溝部51の面51Aと対向している。第2側面61Bのうち溝部51に収容されている部分は所定の隙間SBを介して溝部51の面51Bと対向している。厚さ方向DTにおける隙間SAの大きさと隙間SBの大きさの関係は後述する規制部80の位置、および、大きさに応じて任意に選択できる。
図2に示される第1例では、厚さ方向DTにおける隙間SAの大きさと隙間SBの大きさとは等しい。第2例では、厚さ方向DTにおける隙間SAの大きさと隙間SBの大きさとは異なる。
【0022】
厚さ方向DTにおける隙間SA、SBの大きさは任意に設定できる。好ましい例では、厚さ方向DTにおける隙間SA、SBの大きさは厚さ方向DTにおけるホルダ50の溝部51内でのスクライビングホイール60の傾きの抑制のしやすさ、および、隙間SA、SBへの異物の詰まりにくさとの関係に基づいて決められる。異物の一例はスクライブラインを形成することにより発生する脆性材料基板GBのカレット等である。厚さ方向DTにおける隙間SA、SBの大きさの最大値の一例はそれぞれ10μmである。隙間SA、SBの大きさが10μm以下である場合、厚さ方向DTにおけるホルダ50の溝部51内でのスクライビングホイール60の傾きを抑制しやすくなる。厚さ方向DTにおける隙間SA、SBの大きさの最小値の一例はそれぞれ2μmである。隙間SA、SBの大きさが2μm以上である場合、隙間SA、SBに異物が詰まりにくい。さらには、スクライビングホイール60とホルダ50とが干渉しにくい。厚さ方向DTにおける隙間SA、SBの合計の大きさの取り得る範囲の一例は4μm~20μmである。
【0023】
脆性材料基板GBにスクライブラインを形成する工程では、スクライビングホイール60が脆性材料基板GBの表面に押し付けられた状態でホルダユニット40が所定の走査方向に走査される。走査方法としてはホルダユニット40を脆性材料基板GBに対して移動させる方法、脆性材料基板GBをホルダユニット40に対して移動させる方法、および、これらを組み合わせた方法が挙げられる。脆性材料基板GBのスクライブ時、スクライビングホイール60には走査方向とは反対方向に作用する成分を含む第1反力だけでなく、ピン軸方向の成分を含む第2反力が作用する。これは主に脆性材料基板GBの表面の性状の不均一さにより生じる。表面の性状の不均一さは例えば、表面に不均一に分布する多数の微小な凹凸、および、表面のたわみなどにより生じる。第2反力はピン軸方向の一方である第1ピン軸方向に作用する反力、および、ピン軸方向の他方である第2ピン軸方向に作用する反力を含む。脆性材料基板GBの表面の凹凸の形状は部位毎に異なるため、スクライビングホイール60に作用する第2反力の方向および強さがスクライビングホイール60の進行にともない変化する。スクライビングホイール60はピン70に対して固定されていないため、第2反力がスクライビングホイール60に作用することにともない、スクライビングホイール60がピン70に対してピン軸方向に変位する。以下の説明では、ピン70に対するピン軸方向へのスクライビングホイール60の移動を「ホイール軸方向変位」と称する。
【0024】
ホイール軸方向変位の方向および変位量は主に第1ピン軸方向に作用する第2反力の強さと第2ピン軸方向に作用する第2反力の強さとの関係に依存する。ホイール軸方向変位が生じることにより非直線状のスクライブラインが形成される。この変位を抑えることにより非直線状のスクライブラインが形成されにくくなる。ホルダユニット40はホイール軸方向変位を抑える変位抑制構造を備えている。変位抑制構造はピン70に設けられる規制部80、および、スクライビングホイール60に設けられる被規制部90を含む。
【0025】
規制部80の構成は任意に選択できる。
図2に示される例では、規制部80はピン70の外周に形成される凹部81を含む。このため、規制部80の構成が簡素である。凹部81は被規制部90と2点で接触できるように、例えばピン70の外周部に研磨加工、放電加工、レーザ加工などを施すことにより形成される部分であり、ピン70の製造時に形成される微小な凹凸は含まれない。凹部81はピン70の外周を1周する。ピン70の軸方向における凹部81の位置は任意に選択できる。一例では、凹部81はピン70の軸方向における中央に設けられる。凹部81はピン70の外周面71に対してピン70の中心軸側に窪む形状である。
【0026】
ピン70の直径は0.35mm~1.5mmの範囲に含まれる。凹部81の深さXAは1μm~100μmの範囲に含まれる。凹部81の深さXAは15μm~60μmの範囲に含まれることが好ましい。凹部81の深さXAは例えば、直交断面上においてピン70の外周面71を通過する直線LAと凹部81の底部81Aとの距離で示される。
【0027】
ピン軸方向における凹部81の幅XBは、直交断面上において外周面71を通過する直線LA上における凹部81の一方の縁81Bと他方の縁81Cとの距離で示される。凹部81の幅XBはスクライビングホイール60の厚さより小さく、50μm以上であることが好ましい。
【0028】
被規制部90は凹部81と2点で接触する凸部91を含む。このため、被規制部90の構成が簡素である。凸部91の面91Aは厚さ方向DTにおいて第1側面61Aと第2側面61Bとの間に形成され、所定の曲率半径RBにより規定される曲面である。このため、凸部91に応力集中が生じにくい。凹部81の幅と凸部91の曲率半径RBとの関係は任意に選択できる。第1例の場合、凹部81の縁81B、81Cと凸部91の面91Aとが2点で線接触するため、スクライビングホイール60がピン70に安定して支持されるとともにスクライブ時の摩擦抵抗が小さくなる。凸部91の高さHAは0.1μm~20μmの範囲に含まれる。凸部91の高さHAは0.5μm~15μmの範囲に含まれることが好ましい。凸部91の高さHAは本体部61の側面61A、61Bと面91Aとの境界を通過する直線LBと凸部91の頂点91Bとの距離で示される。スクライビングホイール60の挿入孔63の凸部91における最小の内径はピン70の最大の外径よりも若干大きい。
【0029】
ホルダユニット40の作用および効果について説明する。スクライビングホイール60が脆性材料基板GBに押し付けられ、走査されていない状態では、直交断面上においてスクライビングホイール60の被規制部90の頂点91Bがピン70の規制部80に接触する。実際には被規制部90の一定の範囲が規制部80と線接触する。被規制部90は規制部80から押付方向に作用する反力を受ける。スクライビングホイール60の走査にともないスクライビングホイール60に第2反力が作用した場合、被規制部90をピン軸方向に移動させようとする第2反力がピン70の規制部80により受けられる。このため、スクライビングホイール60のホイール軸方向変位が妨げられ、スクライビングホイール60が走査方向に沿って進行し、脆性材料基板GBに直線状のスクライブラインが形成される。このため、ホルダユニット40の走査方向に沿うスクライブラインを容易に形成できる。
【0030】
(実験)
本実施形態のホルダユニットを用いてスクライブを行い、スクライビングホイールの軸方向への変位量についての検証を行った。スクライビングホイールとして、外径2.5mm、内径0.82mm、厚さ0.64mmのスクライビングホイールに、13μmの高さの曲面形状を有する凸部を形成したものを用いた。また、ピンとして、外径0.80mm、長さ5.99mmのピンに、幅285μm、底部の深さ50μmの凹部を形成したピンを用いた。
【0031】
このホルダユニットを用いて、ガラス基板に80mmの長さのスクライブラインを形成した。そして、スクライブ開始直後における影響を除くために、スクライブ始点より5mm離れた位置から、20mmの長さのスクライブラインについて、横方向(スクライブ方向に垂直な方向)へのスクライブラインの振れ量を、0.2mm間隔で測定した。このスクライブラインの振れ量は、主としてホルダ内におけるホイール軸方向変位に起因するものと考えられている。この測定結果を
図3に示す。また、比較例として、凸部が設けられていない点を除き、実施形態と同じ形状の従来のスクライビングホイールと、凹部が設けられていない点を除き、実施形態と同じ形状の従来のピンを用いたホルダユニットを用い、同様にスクライブラインの振れ量を測定した。比較例の測定結果を
図4に示す。
【0032】
実施形態のホルダユニットにおいては、スクライブラインが周期的に左右に蛇行していることが確認されるものの、スクライブラインの振れ量は最大でも2μm程度となった。実施形態のホルダユニットにおいては、スクライビングホイールが安定して規制部と被規制部の間の2点で支持されるため、ホイール軸方向変位が抑制されることで、スクライブラインの振れ量を抑制することができるといえる。したがって、本実施形態のホルダユニットは、ホルダユニットの走査方向に沿うスクライブラインを容易に形成できる。
【0033】
これに対して、比較例のホルダユニットにおいては、スクライブラインが不規則に蛇行するとともに、最大の振れ量は14μm程度となった。比較例のホルダユニットにおいては、スクライブ時にスクライビングホイールとピンとの接触位置が安定せず、スクライビングホイールの軸方向変位が生じたり、スクライビングホイールがホルダ内で傾いたりすることにより、スクライブラインに大きく不規則な振れが生じていると考えられる。
【0034】
さらに、凹部81の幅を408μmとし、その他の構成は上記実施形態と同じにしたホルダユニットを用いた場合においても、上記実施形態と同様の傾向が見られた。
【0035】
(変形例)
上記実施形態は本発明に関するホルダユニット、ならびに、そのスクライビングホイールおよびピンが取り得る形態の例示であり、その形態を制限することを意図していない。本発明に関するホルダユニット、ならびに、そのスクライビングホイールおよびピンは実施形態に例示された形態とは異なる形態を取り得る。その一例は、実施形態の構成の一部を置換、変更、もしくは、省略した形態、または、実施形態に新たな構成を付加した形態である。以下に実施形態の変形例の一例を示す。
【0036】
ピン70に設けられた規制部80の構成は任意に変更可能である。
図5は変形例の規制部を備えるピンの構成を示している。
図5(a)は第1変形例のピン170の、規制部180を含む部分の拡大側面図である。ピン規制部180では、凹部181は側面視において所定の曲率半径を有する曲面を有する溝であり、ピン170の外周を一周するように設けられている。ここで、凹部181の曲率半径は凸部91の曲率半径RBよりも小さいことが好ましい。
【0037】
図5(b)は第2変形例のピン270の規制部280を含む部分の拡大側面図である。規制部280では、凹部281は側面視において所定の深さを有する矩形状の溝であり、ピン270の外周を一周するように設けられている。また、
図5(c)は第3変形例のピン370の規制部380を含む部分の拡大側面図である。規制部380では、凹部381は側面視において、最深部へ向かう傾斜面を備えるV字形状の溝であり、ピン370の外周を一周するように設けられている。
【0038】
規制部の形状は、スクライビングホイールの被規制部の頂点と接触しない所定の深さを備えるものであれば、これらの変形例に限られない。例えば、実施形態の凹部の深さと同等の高さを有する2つの凸部を、所定の間隔でピン70の外周を一周するように設けてもよい。
【0039】
スクライビングホイール60の被規制部90の構成は任意に変更可能である。一例では、ホルダユニット40の被規制部90はスクライビングホイール60の挿入孔63の内面に形成された微小な凹凸を含むものとしてもよい。この場合、被規制部90は、挿入孔63に設けられた所定の高さの凸部であって、その表面における最大高さRzが0.5μm~2.0μmとされることが好ましい。これにより、被規制部の凸部の高さが比較的小さい場合でも、規制部の縁81Bと他方の縁81Cの2点と接触する際に、より確実にホイール軸方向変位を抑制することができる。また、被規制部90の形状も上記実施形態に開示された構成に限定されるものではなく、例えば一部に平坦部を有する形状としてもよい。
【符号の説明】
【0040】
1 :スクライブ装置
40:ホルダユニット
60:スクライビングホイール
70:ピン
80:規制部
81:凹部
90:被規制部
91:凸部