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  • 特許-塗装ローラの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-17
(45)【発行日】2024-04-25
(54)【発明の名称】塗装ローラの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 59/02 20060101AFI20240418BHJP
   B05C 17/02 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
B29C59/02 Z
B05C17/02
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020077261
(22)【出願日】2020-04-24
(65)【公開番号】P2021172004
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2023-04-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000206934
【氏名又は名称】株式会社マルテー大塚
(74)【代理人】
【識別番号】110002446
【氏名又は名称】弁理士法人アイリンク国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】安田 智明
【審査官】今井 拓也
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-144397(JP,A)
【文献】特開2007-076358(JP,A)
【文献】米国特許第05980802(US,A)
【文献】特開昭51-137758(JP,A)
【文献】特開昭48-023869(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 59/02
B05C 17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に熱可塑性樹脂製のパイル層を備えたローラ本体と、
貫通孔と非貫通部位とによって上記ローラ本体のパイル層に形成される転写模様の凹凸に対応した凹凸が形成された加熱部材と
を設け、
上記加熱部材を上記ローラ本体の外周面に押し付けながら、上記加熱部材と上記パイル層とを相対移動させて、上記パイル層における加熱部材の押し当て部分を熱溶融させ、この押し当て部分を上記パイル層の凹部とするとともに、上記貫通孔に対応する部分を上記パイル層の凸部とし、上記パイル層に凹凸を有する転写模様を形成する
塗装ローラの製造方法。
【請求項2】
上記加熱部材は、平板状である請求項1に記載の塗装ローラの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、塗装面に模様を転写させる塗装用ローラと、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、塗装ローラの表面に形成された凹凸の模様を塗装面に転写させる塗装ローラが知られていた。
また、このような模様を転写する塗装ローラとしては、例えば特許文献1に示すものが知られている。
特許文献1に示された塗装ローラは、上記模様に対応した貫通孔を複数形成した筒部材と、この筒部材に圧入されるローラ本体とからなる。ローラ本体は、外周の全面にパイル層を備え、その外径を上記筒部材の直径よりも大きくしている。
【0003】
このようなローラ本体を上記筒部材に圧入すると、上記貫通孔に対応する部分のパイル層が貫通孔から突出し、その突出部分が刷毛部となる。
この刷毛部に塗料を付着させて、上記ローラを塗装面上で転がすと、上記貫通孔の形状に対応した模様が塗装面に転写される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5905632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の塗装ローラでは、上記貫通孔から刷毛部を突出させるために、筒部材の内径に対して外径が大きいローラ本体を筒部材に圧入しなければならない。このようにローラ本体に対して筒部材を装着したり取り外したりする作業には力が必要で、その作業性が悪いという問題があった。
【0006】
また、上記のような塗装ローラは、筒部材の直径が決まれば、そこに圧入可能なローラ本体の外径はある程度決まってしまう。つまり、筒部材の貫通孔から突出するパイル層の突出高さに自由度がなく、特に毛の長い、高さの高い刷毛部はできなかった。
もし、刷毛部の高さが低ければ、凹凸がある塗装面の凹みに毛先が届かず、凹み部分で模様が途切れてしまうことがあった。つまり、表面に凹凸がある塗装面には、鮮明な模様を転写させることができないという問題があった。
【0007】
この発明の目的は、塗装面の表面性にかかわらず、鮮明な模様を転写させることができる塗装ローラの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、外周面に熱可塑性樹脂製のパイル層を備えたローラ本体と、貫通孔と非貫通部位とによって上記ローラ本体のパイル層に形成される転写模様の凹凸に対応した凹凸が形成された加熱部材とを設け、上記加熱部材を上記ローラ本体の外周面に押し付けながら、上記加熱部材と上記パイル層とを相対移動させて、上記パイル層における加熱部材の押し当て部分を熱溶融させ、この押し当て部分を上記パイル層の凹部とするとともに、上記貫通孔に対応する部分を上記パイル層の凸部とし、上記パイル層に凹凸を有する転写模様を形成する。
なお、熱可塑性とは、加熱してやわらかくなった状態で外力を加えた後に冷却すると、外力によって得られた変形が、再加熱されるまで維持される性質のことである。したがって、このような性質を有するパイル層に熱を作用させることで形成された転写模様の凹凸形状はそのまま維持される。
また、上記加熱部材は、ローラ本体と相対移動可能であればどのような形態でも構わない。例えば、加熱部材には平板状やローラ状のものが含まれる。
【0010】
第2の発明は、上記加熱部材が平板状であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
第1の発明の塗装ローラの製造方法によって製造された塗装ローラ筒部材の着脱の手間がないので、作業性良く、ローラ本体に形成された凹凸の転写模様に対応した模様を塗装面に転写させることができる。
しかも、熱可塑性樹脂製のパイル層を熱溶融させて形成された凹部の表面は、溶融固化した樹脂で囲まれているので、この凹部に対応したパイル層の部分には表面から塗料が染み込み難く、凹部では塗料の含浸量が少なくなる。そのため、塗装時に凹部の塗料が染み出して塗装面に付着することがなくなる。したがって、この発明で製造された塗装ローラを用いれば、塗装面に、上記パイル層における転写模様の凸部のみに対応した鮮明な模様を転写させることができる。
【0012】
また、この発明の塗装ローラの製造方法では、筒部材を用いる従来の塗装ローラと違って、パイル層に形成された転写模様の凹凸の段差の大きさにバリエーションを持たせることができる。したがって、凹凸の段差の大きさを適切に選択することができ、塗装面の表面性にかかわりなく、塗装面に鮮明な模様を転写できる。例えば、凹みがある塗装面に対して、転写模様の凹凸の段差が比較的大きいローラ本体を選択すれば、塗装面に転写模様の凹部を接触させずに、転写模様の凸部の先端を塗装面の凹み内に届かせることができるため、塗装面の凹み部分でも模様を途切れさせることなく、全体に鮮明な模様を転写させることができる。
【0013】
また、パイル層に加熱部材を押し付けて相対移動させるだけで凹部を形成できるので、凹凸の転写模様を簡単に形成できる。また、加熱部材の押し付け位置や、押し付け強さなどによって、凹凸からなる転写模様や、凹凸の段差の大きさのバリエーションを作ることができる。
【0014】
また、加熱部材とローラ本体のパイル層とを相対移動させることで、加熱部材の凹凸に応じた転写模様を、パイル層に生産性良く形成することができる。
特に第の発明では、平板状の加熱部材の表面でローラ本体を転がすことで簡単に転写模様を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態の塗装ローラの外観斜視図である。
図2図1のII-II 線断面図である。
図3】実施形態の加熱部材の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1~3を用いてこの発明の一実施形態を示す。
この実施形態の塗装ローラ1は、図1,2に示すように、ハンドル2に連結した棒状の支持金具3に、回転可能にローラ本体4を取り付けたものである。
上記ローラ本体4は、このローラ本体4の回転軸となり、上記支持金具3を取り付けるための略円筒状の芯材5と、その外周面を覆う熱可塑性樹脂の繊維で構成されたパイル層6とからなる。
上記パイル層6は、芯材5の表面からの高さをHaとする凹部6aと、高さをHbとする凸部6bとが形成されて、表面に凹凸形状を有している。このパイル層6の凸部6bは、塗装面に転写される模様に対応させた様々な形状で、上記凹凸部6a,6bは、後で説明する方法によって形成されている。
【0017】
上記塗装ローラ1の製造手順は、次のとおりである。
まず、外周面にほぼ均一高さのパイル層6を備えたローラ本体4と、この発明における平板状の加熱部材である加熱板9とを用意する(図3参照)。
なお、転写模様が形成される前の上記パイル層6は、全体に図2に示す凸部6b部分の高さHbに相当する均一高さ、例えば5[mm]~15[mm]を備えている。
また、図3では省略しているが、上記ローラ本体4には、図1の塗装ローラ1と同様に、支持金具3やハンドル2が取り付けられている。
【0018】
一方、上記加熱板9は、所定の厚みを有する鉄板に複数の貫通孔10が形成された部材で、図示しない熱源で加熱される。
上記貫通孔10は、ローラ本体4のパイル層6に形成される上記凸部6bに対応する形状を有し、上記貫通孔10と貫通していない他の部分(以下、非貫通部位という)11とによって、加熱板9の表面にパイル層6の転写模様に対応した凹凸を、加熱板9上に構成している。つまり、加熱板9において、上記貫通孔10がパイル層6の凸部6bに対応した凹部で、貫通孔10以外の非貫通部位11がパイル層6の凹部6aに対応した凸部である。
【0019】
そして、パイル層6に上記転写模様を形成する際には、上記のような加熱板9を、パイル層6を形成する熱可塑性樹脂の溶融温度以上に加熱してから、作業者や機械によって上記加熱板9上で上記ローラ本体4を転がして矢印x方向へ移動させる。
ローラ本体4が加熱板9上を転がると、加熱板9において上記貫通孔10以外の非貫通部位11がパイル層6に接触してその接触部分を溶融させ凹部6aを形成する。この凹部6aの高さHaは、上記高さHbより小さくなるが、上記パイル層6の加熱板9への押し付け力によってその高さは変わる。押し付け力を強くすれば、凹部6aの高さHaをほぼ0[mm]にすることもできる。
【0020】
ローラ本体4が加熱板9上を1回転すると、パイル層6の表面には加熱板9の非貫通部位11に接触した部分に図1,2に示す凹部6aが形成されるとともに、この凹部6a以外の部分、すなわち上記貫通孔10に対応した部分に複数の凸部6bが形成される。
したがって、この実施形態では、均一高さのパイル層6を備えたローラ本体4を加熱板9上で1回転させるだけで、パイル層6の表面に凹部6aと凸部6bとからなる転写模様を簡単に形成でき、図1に示す塗装ローラ1が完成する。
【0021】
上記のようにして製造された塗装ローラ1は、パイル層6の凹部6aが熱可塑性樹脂を熱溶融して形成されているので、この凹部6a及び凸部6bからなる転写模様の形状は形成時のまま維持される。したがって、この塗装ローラ1では、従来の塗装ローラのように、塗装時に筒部材にローラ本体を圧入する作業が必要なく、塗装の作業性が良い。
そして、塗装作業者は、塗装時に、上記塗装ローラ1のパイル層6全体に塗料を含ませてから、図2に示すようにローラ本体4を塗装面7に軽く接触させて転がしながら矢印y方向へ移動させれば、塗装面7にパイル層6の凸部6bのみを接触させて、この凸部6bに対応した模様8を塗装面7に転写させることができる。
【0022】
また、上記凹部6aの表面は溶融して固まった樹脂で囲まれているため、この凹部6aの部分は表面から塗料が染み込み難くなる。したがって、塗装時にローラ本体4に多少大きな押圧力が作用したとしても、凹部6aの塗料が染み出して塗装面7に付着してしまうようなことがない。そのため、この実施形態の塗装ローラを用いれば、塗装面7には、上記転写模様の凸部6bのみに対応した鮮明な模様を転写することができる。
【0023】
さらに、筒部材を用いないこの実施形態では、ローラ本体4の外径やパイル層6の厚みなどを筒部材の内径にかかわりなく自由に設定できる。
例えば、転写模様を形成する前のローラ本体4におけるパイル層6の厚みを厚くして凸部6bの高さHbを高くしながら加熱板9への押し付け力を大きくした場合には、凹部6aの高さHaが小さくなり、凸部6bとの段差が大きくなる。
上記凹凸の段差を大きくすれば、凹部6aが塗装面に接触しない状態を保ちながら、凸部6bの先端が塗装面の凹み内にも届くようにすることもできる。凸部6bの先端が塗装面の凹みに届けば、表面に凹凸がある塗装面7に対しても、凸部6bに対応した模様を途切れることなく転写することができる。
【0024】
一方、加熱板9へのパイル層6の押し付け力を小さくした場合には、凹部6aと凸部6bとの段差が小さくなる。
このように、上記凹部6aと凸部6bとの段差の大小も簡単にコントロールできる。
要するに、上記塗装ローラ1では、筒部材を装着する必要がないので、ローラ本体4に形成される転写模様が筒部材に限定されず、転写模様に様々なバリエーションを持たせることが容易である。
また、全体的にパイル層6の高さを大きくしたり小さくしたりして、パイル部の剛性をコントロールしたり、塗料の含み量をコントロールすることもできる。
【0025】
なお、上記実施形態では、貫通孔10を形成して、加熱板9の表面に、パイル層6の転写模様に対応した凹凸を構成しているが、貫通孔10を、底面を有する凹部に替えた場合には、パイル層6の凸部6bに対応する部分に熱が作用しないように、加熱板9側の凹部の深さを十分に深くするとともに、ローラ本体4を転がす際には、パイル層6の凸部6bに対応する部分が熱溶融しないように注意しなければならない。
これに対し、上記貫通孔10を用いた場合には、パイル層6において凸部6bとなる部分に加熱板9が接触することがないので、ローラ本体4を加熱板9上で転がす際に特別な注意が必要なく、製造時の作業性が良くなる。
【0026】
また、加熱部材としては上記実施形態のような平板状の部材に限らない。例えば、表面に上記転写模様に対応した凹凸を備えたローラ状の加熱部材を用いてもよい。ローラ状の加熱部材にローラ本体4を接触させて、加熱部材とパイル層6とを相対回転させれば、パイル層6の表面に転写模様を形成することができる。
【0027】
上記のように、加熱部材の表面にパイル層6の転写模様に対応する凹凸を備えていれば、加熱部材とローラ本体4のパイル層6とを相対移動させることによって、パイル層6に転写模様を容易に、しかも再現性良く形成することができる。
【0028】
また、上記パイル層6を構成する樹脂は、熱可塑性樹脂ならば特に限定されない。ただし、アクリルなどの焦げやすいものよりも、ポリエステルのように焦げにくい樹脂の方が加熱部材の温度管理をラフにできるという点で有利である。
【産業上の利用可能性】
【0029】
塗装面に鮮明な模様を転写させるための塗装ローラとして有用である。
【符号の説明】
【0030】
1 塗装ローラ
4 ローラ本体
6 パイル層
6a 凹部
6b 凸部
7 塗装面
8 模様
9 加熱板
10 (加熱部材の凹部)貫通孔
11 (加熱部材の凸部)非貫通部位
図1
図2
図3