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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-17
(45)【発行日】2024-04-25
(54)【発明の名称】平行グリッパ式把持装置
(51)【国際特許分類】
   B25J 15/08 20060101AFI20240418BHJP
【FI】
B25J15/08 C
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020141810
(22)【出願日】2020-08-25
(65)【公開番号】P2022037589
(43)【公開日】2022-03-09
【審査請求日】2023-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100100011
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 省三
(72)【発明者】
【氏名】服部 太樹
(72)【発明者】
【氏名】小俣 透
【審査官】尾形 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-28920(JP,A)
【文献】特開2012-236258(JP,A)
【文献】特開2000-246580(JP,A)
【文献】米国特許第4707013(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00-21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主フレームと、
前記主フレームに対称的に移動可能な互いに対向した第1、第2の指部と
を具備する平行グリッパ式把持装置であって、
前記各第1、第2の指部は、
グリッパ及び該グリッパを前記主フレームに対して摺動可能に支持するための指用フレームを具備し、
前記グリッパは、
第1の把持面幅を有する第1の把持面を固定した第1の指ラックと、
前記第1の把持面に平行に隣接し、前記第1の把持面幅と異なる第2の把持面幅を有する第2の把持面を固定した第2の指ラックと、
前記指用フレームに固定され、前記第1、第2の指ラックの間に該第1、第2の指ラックの歯に噛み合うように設けられ、モータによって能動的に回転する能動ピニオン及び前記第1、第2の指ラックの少なくとも一方の走行によって受動的に回転する受動ピニオンと
を具備し、
前記能動ピニオン及び前記受動ピニオンの協働により前記第1の指ラックの移動方向と前記第2の指ラックの移動方向とを互いに逆方向とした平行グリッパ式把持装置。
【請求項2】
さらに、前記指用フレームの前記受動ピニオン側に固定され、前記第1、第2の指ラックを停止させるための第1、第2のストッパを具備する請求項1に記載の平行グリッパ式把持装置。
【請求項3】
前記第1、第2の指ラックは磁性体によって構成され、
前記各第1、第2のストッパは永久磁石を有する請求項2に記載の平行グリッパ式把持装置。
【請求項4】
前記第1、第2の指ラックの長さをa、bとし、
前記能動ピニオンと前記受動ピニオンとの距離をLとし、
前記第1、第2のストッパの位置を同一とし、前記受動ピニオンと前記第1、第2のストッパとの距離をLとした場合、
≦a≦L+L、L≦a
≦b≦L+L ≦b
a+b≧2L+L
を満足する請求項2に記載の平行グリッパ式把持装置。
【請求項5】
さらに、前記主フレームの前方及び後方に設けられた前方補助板及び後方補助板を具備し、
前記前方補助板、後方補助板の高さは前記第1、第2の把持面の交差高さ以上かつ前記第1、第2の把持面の最高高さ以下である請求項1に記載の平行グリッパ式把持装置。
【請求項6】
前記第1、第2の把持面の把持面幅の大きい一方に把持対象物の台座を挿入するための穴を設けた請求項1に記載の平行グリッパ式把持装置。
【請求項7】
前記主フレームは送りねじを具備し、
前記指用フレームは前記送りねじに嵌め込まれる送りねじナットを具備する請求項1に記載の平行グリッパ式把持装置。
【請求項8】
前記送りねじは前記能動ピニオンと前記受動ピニオンとの間に位置する請求項7に記載の平行グリッパ式把持装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は種々の把持対象物の把持が可能な平行グリッパ式把持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
第1の従来の平行グリッパ式把持装置は平行な第1、第2のグリッパ(指部)を有し、第1、第2のグリッパを開閉することにより把持対象物を把持する。この場合、第1、第2のグリッパの各長さは共に固定長である(参照:特許文献1)。これにより、小型軽量かつ高把持力の平行グリッパ式把持装置を実現する。
【0003】
しかしながら、上述の第1の従来の平行グリッパ式把持装置は、汎用性が低い。たとえば、大きな平行な第1、第2のグリッパを有する平行グリッパ式把持装置は大きな把持対象物を把持するのに適するが、平行グリッパ式把持装置は狭い空間に収容された小さな把持対象物を把持できない。他方、小さな平行な第1、第2のグリッパを有する平行グリッパ式把持装置は狭い空間に収容された小さな把持対象物を把持するのに適するが、大きな把持対象物の把持には適さない。
【0004】
第2の従来の平行グリッパ式把持装置は、主台座と、主台座上に対称的に移動可能に設けられた第1、第2の台座と、各第1、第2の台座上に設けられ、互いに対向する把持面を有する第1、第2のグリッパとを具備し、第1のグリッパは、第1の台座上に設けられ、伸縮可能に設けられ、大きな把持面幅たとえば32mmを有する第1の大指部と、第1の大指部に隣接して伸縮可能に設けられ、小さな把持面幅たとえば18mmを有する第1の小指部とを備え、第2のグリッパは、第2の台座上に設けられ、伸縮可能に設けられ、大きな把持面幅たとえば32mmを有する第2の大指部と、第2の大指部に隣接して伸縮可能に設けられ、小さな把持面幅たとえば18mmを有する第2の小指部とを備えている(参照:特許文献2の図1図7)。この場合、第1、第2の大指部が縮小状態にあっては、第1、第2の大指部及び第1、第2の小指部の同時伸縮モードとなり、第1、第2の大指部と第1、第2の小指部とが同時に上下に同一方向に移動する。このとき、把持面幅は32mm+18mm=50mmと大きくなる(参照:特許文献2の図3の(A)、(B)、(C))。他方、第1、第2の大指部が所定伸長状態に到達すると、第1、第2の小指部単独伸縮モードとなり、第1、第2の小指部のみが上下に移動する。このとき、把持面幅は18mmと小さくなる(参照:特許文献2の図3の(C)、(D))。
【0005】
上述の第2の従来の平行グリッパ式把持装置によれば、第1、第2のグリッパの把持面幅を調整でき、従って、先端部の把持面幅が大きいたとえば50mmのときに大きい把持対象物を把持でき、先端部の把持面幅が小さいたとえば18mmのときに小さい把持対象物を把持できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-159411号公報
【文献】特開2020-28920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述の第2の従来の平行グリッパ式把持装置における小指部単独伸縮モードにあっては、平行グリッパ式把持装置の全高は、第1、第2の大指部と第1、第2の小指部との同時上昇量、第1、第2の大指部の高さ、及び第1、第2の小指部の高さのほぼ和となり(参照:特許文献2の図3の(D)、(G))、結果として、指部が過度に長くなり、従って、支点に生じるモーメントが増大し、小指部単独伸縮状態における第1、第2の台座から最遠方の小指部の把持力が低下し、しかも、小指部の把持の場合、狭い空間に到達できないという課題がある。また、大きな把持力が要求される大指部の把持の場合、大指部の先端までの距離は小指部の先端までの距離より小さいが、この場合でも、支点に生じるモーメントが増大し、把持力が制限されるという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の課題を解決するために、本発明に係る平行グリッパ式把持装置は、主フレームと、主フレームに対称的に移動可能な互いに対向した第1、第2の指部とを具備する平行グリッパ式把持装置であって、各第1、第2の指部は、グリッパ及びグリッパを主フレームに対して摺動可能に支持するための指用フレームを具備し、グリッパは、第1の把持面幅を有する第1の把持面を固定した第1の指ラックと、第1の把持面に平行に隣接し、第1の把持面幅と異なる第2の把持面幅を有する第2の把持面を固定した第2の指ラックと、指用フレームに固定され、第1、第2の指ラックの間に第1、第2の指ラックの歯に噛み合うように設けられ、モータによって能動的に回転する能動ピニオン及び第1、第2の指ラックの少なくとも一方の走行によって受動的に回転する受動ピニオンとを具備し、能動ピニオン及び受動ピニオンの協働により第1の指ラックの移動方向と第2の指ラックの移動方向とを互いに逆方向としたものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、能動ピニオン及び受動ピニオンの協働によって第1、第2の指ラックの移動方向が互い逆方向となるので、第1、第2の指ラックを含む第1、第2の指部の最大高さはほぼ第1、第2の指ラックの長さの和に相当し、結果として、第1、第2の指部の短くなり、従って、支点に生じるモーメントが減少し、第1、第2の指部の最遠方の把持面の把持力が増大する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に係る平行グリッパ式把持装置の第1の実施の形態を示し、(A)は斜視図、(B)は概略断面図である。
図2図1の主フレーム1の詳細を示す斜視図である。
図3図1の左指用フレームの詳細を示す斜視図である。
図4図1の左グリッパ及び左指用フレームの詳細を示し、(A)-1は把持面付きの把持面側斜視図、(A)-2は把持面を取外した把持面側斜視図、(B)は把持面付きの非把持面側斜視図である。
図5図4の指部の組立を説明するための斜視図であって、(A)は小指部の組立を示し、(B)は大指部の組立を示す。
図6図4の平行グリッパ式把持装置のラック・ピニオン機構の動作を説明するための図である。
図7図4の小指ラックの長さ、大指ラックの長さ、能動ピニオンと受動ピニオンとの距離、及び受動ピニオンの高さを説明するための図である。
図8図1の平行グリッパ式把持装置のピッキング能力評価を説明するための図である。
図9図1の平行グリッパ式把持装置のロバスト能力評価を説明するための図である。
図10】本発明に係る平行グリッパ式把持装置の第2の実施の形態を示し、(A)は正面図、(B)は左側面図である。
図11図10の平行グリッパ式把持装置のロバスト能力評価の例を説明するための図である。
図12図10の平行グリッパ式把持装置のロバスト能力評価の他の例を説明するための図である。
図13図1の平行グリッパ式把持装置のマニピュレーション能力評価を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は本発明に係る平行グリッパ式把持装置の実施の形態を示し、(A)は斜視図、(B)は概略断面図である。
【0012】
図1において、口の字状の主フレーム1には、左グリッパ2-L及びその支持部材としての左指用フレーム3-Lよりなる左指部LFと、右グリッパ2-R及びその支持部材としての右指用フレーム3-Rよりなる右指部RFとが対向して左右対称に移動するように嵌込まれている。図1の(A)の平行グリッパ式把持装置はたとえば縦80.5mm×横205mm×小指大指交差時高さ144mmのサイズで、重さたとえば1.5kgである。
【0013】
図1の(B)に示すように、主フレーム1のベアリングホルダ11L、11Rに送りねじ12を通し、この送りねじ12には左グリッパ2-L及び右グリッパ2-Rが左指用フレーム3-L及び右指用フレーム3-Rの送りねじナット31によって予め嵌込まれている。このとき、送りねじ12は左右ねじであり、その中央にてねじ加工方向が逆となっている。従って、送りねじナット31は送りねじ12の回転を左グリッパ2-L及び右グリッパ2-Rの開閉動作に変換できる。この場合、送りねじ12は左グリッパ2-L及び右グリッパ2-Rの把持面に近づけて配置できるので、支点のモーメントが小さくなり、左グリッパ2-Lと右グリッパ2-Rとの把持力の大きくできる。また、送りねじ12の一端にはカップリング13を介して開閉用モータ(たとえばステッピングモータ)14が接続されている。従って、開閉用モータ14によって送りねじ12を回転駆動させると、左グリッパ2-L及び右グリッパ2-Rは左指用フレーム3-L及び右指用フレーム3-Rによって左右対称に移動する。この結果、たとえば送りねじ12が1回転すると、左グリッパ2-Lと右グリッパ2-Rとの間隔は4mm変動する。この場合、たとえば左グリッパ2-L及び右グリッパ2-Rの開閉ストロークを60mmとすれば、送りねじナット31の送りねじ12上の移動距離はたとえば59.8mmである。また、各指用モータ27は左グリッパ2-L及び右グリッパ2-Rを駆動するものである。開閉用モータ14及び2つの指用モータ27は左グリッパ2-L及び右グリッパ2-Rの長さ/位置を検出するスライド式エンコーダ(図示せず)の出力に基づいてたとえばマイクロコンピュータを含む制御ユニット4によって制御される。
【0014】
図2図1の主フレーム1の詳細を示す斜視図、図3図1の左指用フレーム3-Lの詳細を示す斜視図である。尚、図1の右指用フレーム3-Rは図3に示す左指用フレーム3-Lと対称な同一構成を有する。
【0015】
図3の左指用フレーム3-Lの1対のガイドブロック接合部32は図2に示す1対のガイドブロック15Lに固定され、詳細図示しない右指用フレーム3-Rの1対のガイドブロック接合部は図2に示す1対のガイドブロック15Rに固定される。この結果、ガイドブロック15L、15Rが1対のガイドレール16を摺動することにより左グリッパ2-L及び右グリッパ2-Rは左指用フレーム3-L及び右指用フレーム3-Rによって左右対称に移動することができる。また、図1の(B)のカップリング13は図2の主フレーム1のベアリングホルダ11Rの外側に設けられた樹脂製の開閉用モータカバー17内に収容される。
【0016】
図4図1の左グリッパ2-L及び左指用フレーム3-Lの詳細を示し、(A)-1は把持面付きの把持面側斜視図、(A)-2は把持面を取外した把持面側斜視図、(B)は把持面付きの非把持面側斜視図である。尚、右グリッパ2-Rも左グリッパ2-Lと対称的な同一構造を有する。また、図5図4の指部の組立を説明するための斜視図であって、(A)は小指部(21、22)の組立を示し、(B)は大指部(23、24)の組立を示す。
【0017】
図4において、左グリッパ2-Lは、小指部としてたとえば把持面幅W=6mm、厚さT=1.5mm、伸縮ストロークSt=47mmの小指把持面21(図6の(I)参照)を固定する小指ラック22を有し、小指ラック22は図5の(A)に示すごとく左指用フレーム3-Lのガイドレール33a上を摺動するガイドブロック33bに固定される。この場合、小指把持面21のサイズは小指ラック22のサイズとはほぼ同一である。また、左グリッパ2-Lは、大指部としてたとえば把持面幅W=40mm、厚さT=3.5mm、伸縮ストロークSt=50mmの大指把持面23(図6の(G)参照)を固定する大指ラック24を有し、大指ラック24は図5の(B)に示すごとく左指用フレーム3-Lのガイドブロック34a上を摺動するガイドレール34bに固定される。この場合、大指把持面23の上部の幅は大指ラック24の上部の幅より大きいが、大指把持面23の中央部及び下部の幅は大指ラック24の中央部及び下部の幅とほぼ同一にして小さくし、送りねじ12を通すようにしている。また、大指把持面23には後述の台座用の穴23a(図12参照)が形成されている。小指把持面21と大指把持面23とは互いに隣接し右指部RFに対面しており、また、小指ラック22と大指ラック24とは平行である。尚、小指把持面21及び大指把持面23の表面の少なくとも把持対象物が接触する部分には厚さ1mm程度の摩擦増大用ゴムシートが貼り付けられている。また、伸縮ストロークとは該当把持面の小指/大指交差時高さから最高到達高さまでの距離を指す。
【0018】
モジュールが同一である小指ラック22及び大指ラック24の間には、能動ピニオン25及び受動ピニオン26が設けられ、小指ラック22及び大指ラック24は能動ピニオン25及び受動ピニオン26の両方に噛み合うように上下平行に配置されている。この場合、能動ピニオン25は、図中、上に位置し、図3の左指用フレーム3-Lの穴35に回転可能に固定され、指用モータ(たとえばRCサーボモータ)27によって能動的に回転する。左指用モータ27と能動ピニオン25との間は、プーリ28a、28b、ベルト29によって接続される。他方、受動ピニオン26は、図中、下に位置し、図3の左指用フレーム3-Lの穴36に回転自由に固定され、小指ラック22及び大指ラック24の少なくとも一方の走行を受けて受動的に回転する。能動ピニオン25と受動ピニオン26との間を送りねじ12が通過している。
【0019】
左指用フレーム3-Lの下部に設けられたストッパ37及び38は小指ラック22及び大指ラック24の下死点位置(又は上死点位置)を規定する。小指ラック22及び大指ラック24が磁性体で構成されている場合、ストッパ37、38は永久磁石で構成される。特に、平行グリッパ式把持装置が上下逆状態のときに、永久磁石によって構成されたストッパ37、38は、ストッパ37、38によって上部に保持された小指ラック22又は大指ラック24が重力で誤って落下して能動ピニオン25と噛み合わないように作用する。
【0020】
このように、左グリッパ2-L及び右グリッパ2-Rの把持面幅の変更は小指ラック22と大指ラック24とを1つの指用モータ27によって駆動することにより実現できる。尚、指用モータ27は左指用フレーム3-Lの指用モータカバー39内に収容される。
【0021】
図6図4の平行グリッパ式把持装置のラック・ピニオン機構の動作を説明するための図である。図6においては、説明簡略化のために、ラックとピニオンとの噛み合いはラックの先端がピニオンの中心の高さに到達したときに開始するものとする。
【0022】
始めに、図6の(A)を参照すると、小指ラック22は受動ピニオン26のみと噛み合って停止しており、大指ラック24は最高到達位置で能動ピニオン25と噛み合っている。この場合の大指ラック24の最高到達位置は図示しないスライド式エンコーダによって確認できる。尚、この状態での左グリッパ2-Lの状態は図6の(G)に示され、左グリッパ2-Lの把持面幅は大指把持面23の把持面幅40mmである。この状態で能動ピニオン25を時計回りに回転させると、大指ラック24のみが能動ピニオン25の回転によって下降する。
【0023】
次に、図6の(B)を参照すると、矢印で示すごとく、大指ラック24の下端が受動ピニオン26との噛み合い始める。この結果、受動ピニオン26も時計回りに回転して小指ラック22が上昇し始める。
【0024】
次に、図6の(C)を参照すると、矢印で示すごとく、小指ラック22の上端が能動ピニオン25との噛み合い始める。この結果、能動ピニオン25及び受動ピニオン26の時計回りの回転によって小指ラック22の上昇及び大指ラック24の下降が持続する。尚、この状態での左グリッパ2-Lの状態は図6の(H)に示され、左グリッパ2-Lの把持面幅は小指把持面21及び大指把持面23によって52.5mmとなる。
【0025】
次に、図6の(D)を参照すると、矢印で示すごとく、大指ラック24の上端と能動ピニオン25との噛み合いが離脱し始める。この結果、能動ピニオン25及び受動ピニオン26の時計回りの回転によって小指ラック22の上昇は持続し、大指ラック24の下降も受動ピニオン26の時計回りの回転によって持続する。
【0026】
次に、図6の(E)を参照すると、矢印で示すごとく、小指ラック22の下端と受動ピニオン26との噛み合いが離脱し始める。この結果、能動ピニオン25のみの時計回りの回転によって小指ラック22の上昇は持続し、大指ラック24の下降も受動ピニオン26によって持続するが、大指ラック24の下降はストッパ位置で停止する。
【0027】
最後に、図6の(F)を参照すると、小指ラック22は、能動ピニオン25の時計回りの回転のみによって上昇し、小指ラック22は最高到達位置で停止する。この場合の小指ラック22の最高到達位置は図示しないスライド式エンコーダによって確認できる。この状態での左グリッパ2-Lの状態は図6の(I)に示され、左グリッパ2-Lの把持面幅は小指把持面21の6mmである。
【0028】
図6によれば、能動ピニオン25を時計回りに回転させることにより受動ピニオン26を協働させ、小指ラック22はストッパ位置より上昇すると共に、大指ラック24は下降してストッパ位置に向う。逆に、能動ピニオン25を反時計回りに回転させることにより受動ピニオン26の協働により、大指ラック24はストッパ位置より上昇すると共に、小指ラック22は下降してストッパ位置に向う。つまり、小指ラック22の移動方向と大指ラック24の移動方向とが逆方向となるので、指部の最大高さは小さくなる。
【0029】
図7図4の小指ラック22の長さ、大指ラック24の長さ、能動ピニオン25と受動ピニオン26との距離及び受動ピニオン26の高さを説明するための図である。
【0030】
図7の(A)に示すように,小指ラック22の長さをa、大指ラック24の長さをbとする。この場合、ラック22、24の切り替え動作を実現するために、各ラック22、24の長さa、bに関して次の条件(i)、(ii)、(iii)が必要である。
(i) ストッパ位置で停止中、受動ピニオン26とのみ噛み合える長さである。
(ii) 走行中、能動ピニオン25と受動ピニオン26の両方と噛み合える長さである。
(iii) 一方のラックがピニオン25、26と噛み合った際、もう一方のラック22、24も噛み合っている。
簡略化のために、ラックとピニオンの噛み合いは各ピニオン高さで成立すると近似的に考えると、条件(i)、(ii)を満たすためには、各ラック長さa、b、能動ピニオン25/受動ピニオン26間距離L、受動ピニオン26の高さLの間で、式(1)、(2)を成立させる必要がある。
≦a≦L+L 、L≦a (1)
≦b≦L+L 、L≦b (2)
【0031】
条件(iii)を満たすために、図7の(C)に示す小指ラック22と大指ラック24との交差するラック交差高さhを考える。hが能動ピニオン25の高さL+L以上であれば、条件(iii)は満たされる。図7の(B)に示すように、大指ラック24の下端が受動ピニオン26の高さaまで降りてきた瞬間に小指ラック22が動き始めるために、小指ラック22の上端と大指ラック24の上端のラック交差高さhは式(3)で与えられる。
h=(a+b+L)/2 (3)
この場合、図7の(C)から、式(4)が与えられる。
h≧L+L (4)
従って、式(3)、(4)から
(a+b+L)/2≧L+L
∴ a+b≧2L+L (5)
以上より、各ラック長さa、b、ピニオン間距離L、受動ピニオン26の高さLは、式(1)、(2)、(5)を満たされれば、ラック・ピニオン機構による指の伸縮動作およびサイズの切り替え動作を実現できる。また、図7の(A)、(D)に示すごとく、指部の最大高さHは、小指ラック22の長さaと大指ラック24の長さbとの和a+bに依存し、正確には、図示しないが、把持面21及び把持面23も考慮した高さである。従って、指部の高さは、第2の従来形に比較して、著しく小さくなり、この結果、支点に生じるモーメントが減少し、最遠方の把持面21及び把持面23の把持力が増大する。
【0032】
図8図1の平行グリッパ式把持装置のピッキング能力評価を説明するための図である。尚、ピッキング能力とはサイズ及び配置スペースに応じて特定の1つの把持対象物を把持、運搬、配置する能力のことである。
【0033】
図8の(A)-1、(A)-2、(A)-3は、ばら積みねじを把持対象物とする。すなわち、ばら積み容器81にばら積みされたねじM2.5、長さ12mmのねじの28×28mmの小型容器82の中に移し替える場合を示す。始めに、図8の(A)-1に示すごとく、把持面幅6mmの小指をばら積みねじの中に差込み、小指間を狭めることにより1つのねじを把持した。この場合、細い小指では反力に耐え切れずに折れてしまう事態を考え、指用モータ27の制御系のゲインを零にして小指を差込んだ場合の小指の破損を回避した。この結果、図8の(A)-2に示すごとく、小指を差込んで閉じることにより1つのねじを取出して運搬した。最後に、図8の(A)-3に示すごとく、小型容器82に小指を干渉させることなく、ねじを小型容器82内に配置した。
【0034】
図8の(B)-1、(B)-2、(B)-3は、長さ100mmのタイミングベルトを把持対象物とする。始めに、図8の(B)-1に示すごとく、把持面幅6mmの小指をタイミングベルトの内側に入れ、小指間を広げることによりタイミングベルトを把持した。この場合も、指用モータ27の制御系のゲインを零にして小指の破損を回避した。次に、図8の(B)-2に示すごとく、タイミングベルトを運搬した。最後に、図8の(B)-3に示すごとく、タイミングベルトを所定位置に配置した。
【0035】
図8の(C)-1、(C)-2、(C)-3は、8kgのダンベルを把持対象物とする。始めに、図8の(C)-1に示すごとく、把持面幅40mmの大指を閉じることでダンベルを把持した。次いで、図8の(C)-2に示すごとく、ダンベルを運搬した。最後に、図8の(C)-3に示すごとく、ダンベルを所定位置に配置した。
【0036】
このように、把持面幅の異なる小指、大指を切替えることによりピッキング能力を発揮できた。
【0037】
図9図1の平行グリッパ式把持装置のロバスト能力評価を説明するための図である。尚、ロバスト能力とは把持対象物に外力が加わっても安定した把持、運搬、配置を継続する能力のことである。
【0038】
図9図1の平行グリッパ式把持装置で230gのスパナ9を把持する場合を示す。通常、スパナは、持ち手が薄く、側面が丸まっている上に平行でないので、把持が難しい対象物と言える。すなわち、始めに、図9の(A)に示すごとく、把持幅40mmの大指を閉じることでスパナ9を把持した。次いで、図9の(B)に示すごとく、スパナ9を吊上げた。このとき、大指の把持面が図中奥側に偏ってしまい、スパナの重心が接点より手前側にあるために、図9の(C)に示すごとく、吊上げ中又は運搬途中でスパナ9がスパナヘッド側が垂れ下がってしまった。つまり、図1の平行グリッパ式把持装置はそのままではスパナ9をロバストに把持できないことが分った。
【0039】
図10は本発明に係る平行グリッパ式把持装置の第2の実施の形態を示し、(A)は正面図、(B)は左側面図である。
【0040】
図10においては、図1の平行グリッパ式把持装置の構成に対して補助板5、6を主フレーム1の前方側、後方側に付加してある。補助板5、6の対象物押付面5a、6aの高さは把持面(図4の21、23参照)の交差高さ以上とする。これにより、大指で対象物把持物を把持して引込む際に対象把持物の伸長してくる小指との衝突を防止する。また、補助板5、6の高さは把持面の最大高さ(図示せず)以下である。尚、補助板5、6は主フレーム1と一体で構成してもよい。
【0041】
図11図10の平行グリッパ式把持装置で230gのスパナ9を把持する場合を示す。始めに、図11の(A)に示すごとく、把持面幅40mmの大指を閉じることでスパナ9を把持した。次いで、図11の(B)に示すごとく、スパナ9を補助板5、6の対象物押付面5a、6aに接触するまで吊り上げた。尚、このとき、スパナ9は伸長してくる小指に接触することはない。従って、スパナ9は2つの大指及び補助板5、6の対象物押付面5a、6aによって3つの方向から拘束され、いわゆる3面把持状態となる。最後に、図11の(C)に示すごとく、スパナ9を運搬した。この場合、スパナ9のヘッドに550gの重りをぶら下げたが、その状態でもスパナ9は落下しなかった。このように、スパナ9に対する3面把持による外力によってロバスト把持能力が向上した。
【0042】
図12図10の平行グリッパ式把持装置で230gのスパナ9を把持する場合を示す。この場合、スパナ9を受ける台座10を準備し、予め大指(把持面23)に設けられた台座10受けの穴23aを利用する。
【0043】
始めに、図12の(A)に示すごとく、台座10を載置し、その上にスパナ9を載置した。次いで、図12の(B)に示すごとく、把持面幅40mmの大指で台座10を把持した。この状態で大指を狭めて台座10を大指の穴23aに差込む。次いで、図12の(C)に示すごとく、スパナ9を補助板5、6の対象物押付面5a、6aに接触するまで吊り上げた。尚、このとき、スパナ9は伸長して小指に接触することはない。従って、スパナ9は2つの大指、補助板5、6の対象物押付面5a、6a及び台座10によって4方向から拘束され、いわゆる4面把持状態となる。最後に、図12の(D)に示すごとく、スパナ9を運搬した。この場合、スパナ9のヘッド2200gの重りをぶらさげたが、その状態でもスパナ9は落下しなかった。このように、スパナ9に対する4面把持による外力によってロバスト把持能力がさらに向上した。
【0044】
図13図1の平行グリッパ式装置のマニピュレーション能力評価を説明するための図である。尚マニピュレーション能力とは把持対象物を把持したままその姿勢を任意に操作できる能力のことである。
【0045】
始めに、図13の(A)に示すごとく、台座10を載置し、その上に230gのレンチ11を載置した。次いで、図13の(B)に示すごとく、左大指を伸長させかつ右大指を縮小させた状態でレンチ11を把持した。次いで、図13の(C)に示すごとく、レンチ11を吊り上げた。最後に、図13の(D)に示すごとく、左大指を縮小させかつ右大指を伸長させることによりレンチ11をその軸方向に回転させた。このように、左大指、右大指の伸縮機能によってマニピュレーション能力を発揮できた。尚、レンチ11はそのヘッド側が重いので、ロバスト能力が低下することもあるが、その場合、上述の3面把持又は4面把持を採用すればよい。
【0046】
尚、上述の実施の形態においては、小指ラック22の長さa及び大指ラック24の長さbはa<bであるが、a=b又はa>bであってもよい。
【0047】
尚、本発明は上述の実施の形態の自明の範囲でいかなる変更にも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は産業用マニピュレータ等に利用できる。
【符号の説明】
【0049】
1:主フレーム
11L、11R:ベアリングホルダ
12:送りねじ
13: カップリング
14:開閉用モータ
15L、15R:ガイドブロック
16:ガイドレール
17:開閉用モータカバー
2-L:左グリッパ
2-R:右グリッパ
21:小指把持面
22:小指ラック
23:大指把持面
23a:台座用穴
24:大指ラック
25:能動ピニオン
26:受動ピニオン
27:指用モータ
28a、28b:プーリ
29:ベルト
3-L:左指用フレーム
3-R:右指用フレーム
31:送りねじナット
32:ガイドブロック接合部
33a:ガイドレール
33b:ガイドブロック
34a:ガイドブロック
34b:ガイドレール
35、36:穴
37、38:ストッパ
39:指用モータカバー
4:制御ユニット
5、6:補助板
5a、6a:対象物押付面
9:スパナ
10:台座
11:レンチ
LF:左指部
RF:右指部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13