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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-17
(45)【発行日】2024-04-25
(54)【発明の名称】口腔用ブラシ及び口腔用ブラシ加工方法
(51)【国際特許分類】
   A46B 9/04 20060101AFI20240418BHJP
【FI】
A46B9/04
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020157979
(22)【出願日】2020-09-19
(65)【公開番号】P2022051585
(43)【公開日】2022-04-01
【審査請求日】2023-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】592111894
【氏名又は名称】ヤマトエスロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100167092
【弁理士】
【氏名又は名称】鷹津 俊一
(72)【発明者】
【氏名】西川 昌志
【審査官】高橋 祐介
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-101734(JP,A)
【文献】実公昭11-000300(JP,Y1)
【文献】実公昭06-006915(JP,Y1)
【文献】実公第006455(大正12年)(JP,Y1T)
【文献】実公昭50-026209(JP,Y1)
【文献】欧州特許出願公開第01088495(EP,A1)
【文献】特開2009-125084(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A46B 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二つ折れにした刷毛の毛束の折り返し部を、合成樹脂製のヘッド部に凹設した植毛穴の開口から挿入し、前記折り返し部の内側に偏平状の平線をわたし、前記偏平状の厚さ方向から見た前記平線の両端部を前記植毛穴の孔内に圧着させた口腔用ブラシにおいて、
前記平線は、合成樹脂を材質とし且つ前記両端部のうち少なくとも一端部前記孔内において、前記開口の側に突起するとともにその隅が鋭角を成す
ことを特徴とする口腔用ブラシ。
【請求項2】
前記厚さ方向から見て、前記平線が前記植毛穴の奥に向かう凹みを有し、前記開口の側の突起が前記凹みの一端又は両端に隣接して形成される
ことを特徴とする請求項1に記載の口腔用ブラシ。
【請求項3】
前記平線は、前記開口の側の前記両端部間に2以上の辺を有する形状に形成され、これら2以上の辺のうち第1の辺と該第1の辺と隣り合う第2の辺とが内部において成す角が180°より大きい
ことを特徴とする請求項1または2に記載の口腔用ブラシ。
【請求項4】
前記ヘッド部は前記孔内にその中心線を挟んで対向する一対の案内溝が設けられ、
前記両端部はそれぞれ前記各案内溝に案内される
ことを特徴とする請求項1ないしの何れかに記載の口腔用ブラシ。
【請求項5】
前記平線は、JISK7202-2で規定するロックウェル硬さがHRR80以上である
ことを特徴とする請求項1ないし4の何れかに記載の口腔用ブラシ。
【請求項6】
ヘッド部に植毛穴を凹設されたブラシ本体、刷毛の毛束、偏平状の平線、および、棹状且つ先端が平板状の植毛針を準備する準備工程と、二つ折れされた前記毛束に挟み込まれる前記平線を、前記植毛穴に、その中心線方向に前記植毛針によって打ち込むことによって前記毛束を前記ブラシ本体に植設する植毛工程とを含むことにより請求項1の口腔用ブラシを加工する方法において、
前記準備工程において、前記平線を準備し、かつ、前記植毛針として棹状且つ先端が平板状であるとともに前記先端の幅が前記植毛穴の直径方向における前記平線の長さよりも小さい植毛針を準備し、
前記植毛工程において、前記平線は、前記打ち込み時に前記先端から加えられる圧力によって、前記隅が変形して鋭角を成すまで前記植毛針によって打ち込まれる
ことを特徴とする口腔用ブラシ加工方法。
【請求項7】
前記準備工程において、前記ブラシ本体としてヘッド部に植毛穴を凹設され且つ前記植毛穴の孔内に前記中心線を挟んで対向する一対の案内溝が設けられたブラシ本体を準備し、
前記植毛工程において、前記平線は、前記両端部がそれぞれ前記各案内溝に案内された状態において打ち込まれる
ことを特徴とする請求項6に記載の口腔用ブラシ加工方法。
【請求項8】
前記植毛工程において、前記平線は、前記圧力によって前記厚さ方向に膨出するまで前記植毛針によって打ち込まれる
ことを特徴とする請求項7に記載の口腔用ブラシ加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は歯ブラシ、舌ブラシ等の口腔用ブラシ及び口腔用ブラシ加工方法に関し、詳細には刷毛の毛束の折り返し部に平線を挟む口腔用ブラシ及び口腔用ブラシ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、二つ折れにした刷毛の毛束の折り返し部をヘッド部に凹設した植毛穴の開口から挿入し、前記折り返し部の内側に平線をわたし、前記平線の両端部を前記植毛穴の孔内に圧着させた歯ブラシがある(特許文献1、特許文献2)。
【0003】
こうした従来の歯ブラシをはじめとする口腔用ブラシは、ヘッド部に植毛穴を凹設されたブラシ本体、刷毛の毛束、平線、および、棹状且つ先端が平板状の植毛針を準備する準備工程と、二つ折れされた前記毛束に挟み込まれる前記平線を前記植毛針によって前記植毛穴に打ち込むことによって前記毛束を前記ブラシ本体に植設する植毛工程とを含む口腔用ブラシ加工方法によって製造されている。また、これら従来の口腔用ブラシは、多くの場合、ヘッド部を含む本体の材質が合成樹脂であり、平線の材質が金属である。
【0004】
このような平線を用いて毛束を固定する方法は歴史が長く、そのための自動機が開発されているせいもあり、多くの製造業者が採択している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-4852号公報
【文献】特開2016-63912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように金属の平線を合成樹脂のヘッド部の植毛穴に打ち込んで口腔用ブラシを製造する場合、口腔用ブラシを繰り返し使用した後でも刷毛の抜脱が生じないように細心の注意を払わなければならない。例えば、刷毛の抜脱を防止するためには、毛束と毛束を押さえている平線とが抜け出さないようにする。そのために、毛束と平線とを植毛穴からできるだけ深い位置に打ち込まなければならず、ヘッド部の割れなどを生じさせず且つ穴を深くするためには、例えば、ヘッド部の材質としてより強度の高い種類の合成樹脂を採用しなければならないなどの工夫を必要とする(特許文献1)。
【0007】
また、毛束が抜け出そうとするのに対して、毛束を押さえている平線がその毛束から受ける抵抗をできるだけ低減するため平線を薄くする、植毛穴に対する平線の掛かり代を大きくするなどの工夫を必要とする(特許文献2)。
【0008】
本発明は、このように最適の設計条件を見出すための試行錯誤が必要であるといった問題に鑑み、刷毛の抜脱を低減するための対策を容易に講ずることができる口腔用ブラシ及び口腔用ブラシ加工方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明は二つ折れにした刷毛の毛束の折り返し部をヘッド部に凹設した植毛穴の開口から挿入し、前記折り返し部の内側に偏平状の平線をわたし、前記平線の両端部を前記植毛穴の孔内に圧着させた口腔用ブラシにおいて、前記両端部のうち少なくとも一端部は、前記開口の側の隅が鋭角を成すことを特徴とする口腔用ブラシを提供するものである。ここで、口腔用ブラシとは、歯ブラシ、舌ブラシ等、歯、舌などの口腔内を清掃するためのブラシをいう。また、二つ折れにした刷毛の毛束の折り返し部を、合成樹脂製のヘッド部に凹設した植毛穴の開口から挿入し、前記折り返し部の内側に偏平状の平線をわたし、前記偏平状の厚さ方向から見た前記平線の両端部を前記植毛穴の孔内に圧着させた口腔用ブラシにおいて、前記平線は、合成樹脂を材質とし且つ前記両端部のうち少なくとも一端部が、前記孔内において、前記開口の側に突起するとともにその隅が鋭角を成してもよい。さらに、前記厚さ方向から見て、前記平線が前記植毛穴の奥に向かう凹みを有し、前記開口の側の突起が前記凹みの一端又は両端に隣接して形成されてもよい。
【0010】
すなわち、平線が一般に長方形であるのに対して、本発明の口腔用ブラシの平線は、植毛穴の孔内に圧着している箇所である両端部のうち少なくとも一端部の隅が鋭角を成すような歪な形状に構成されている。口腔用ブラシのヘッド部が一般に合成樹脂によって形成されており、合成樹脂の表面は、平線の鋭角部分によって微小に変形して引っ掛かり易い。そのため、前記平線の一端部又は両端部は前記孔内において機械的に引っ掛かることができる。
【0011】
このように、前記植毛穴の開口の側の隅が鋭角を成すため、前記平線は、前記開口側に向いて移動させようとする外力に抗って現状の位置に留まろうとすることができる。そのため、前記平線は、毛束の折り返し部によって前記開口側に向いて引っ張られるときでも、移動して抜け出てしまうことが少ない。
【0012】
また、前記折り返し部の内側に配置される前記平線が現状の位置に留まるために、刷毛が緩んで抜脱することも少ない。
【0013】
その結果、本発明の口腔用ブラシは、このような構成を採ることにより、刷毛の抜脱を低減するための対策を容易に講ずることができる。
【0014】
(2)また、前記平線は、前記開口の側の前記両端部間に2以上の辺を有する形状に形成され、これら2以上の辺のうち第1の辺と該第1の辺と隣り合う第2の辺とが内部において成す角が180°より大きくてもよい。
【0015】
すなわち、これらの第1の辺と第2の辺とが内部において成す角が180°よりも大きいため、例えば、平線が開口の側の両端部間に2辺を有する形状や同じく3辺を有する形状に形成されるときに、植毛穴の孔内に接する少なくとも1辺は、前記の鋭角を成す隅を構成することができる。これにより、前記平線は、数本の辺によって囲まれるシンプルな形状でありながら、前記両端部のうち少なくとも一端部において鋭角な隅を得ることができる。なお、前記のような内部において成す角を、以下において「内角」と記載することがある。
【0016】
そのため、簡素な製作工程によって本発明の平線を形作ることができ、且つ刷毛の抜脱を低減するための対策を容易に講ずることができる。
【0017】
(3)また、前記平線は合成樹脂を材質としてもよい。
【0018】
すなわち、平線の材質が一般に真鍮、銅等の金属であるのに対して、本発明の口腔用ブラシの平線は合成樹脂を材質とするため、合成樹脂は加工し易く、前記一端部又は前記両端部の隅を鋭角にしたような歪な形状に形成することが容易である。
【0019】
その結果、本発明の口腔用ブラシは、上で述べたような刷毛の脱抜を低減するための対策を比較的容易に講ずることができる。
【0020】
(4)また、前記ヘッド部は前記孔内にその中心線を挟んで対向する一対の案内溝が設けられ、前記両端部はそれぞれ前記各案内溝に案内されてもよい。
【0021】
すなわち、前記平線の両端部は各案内溝に案内され前記案内溝の内壁面と当接する。これにより、前記平線が毛束によって引っ張られる際に、前記平線と前記案内溝との間で接触する面積が広く、これらの間で生じる摩擦力が大きい。しかも、前記鋭角な隅は前記内壁面を微小に変形させて前記案内溝に引っ掛かる。これらのため、前記平線はより強力に現状の位置に留まることができ、刷毛が抜脱する可能性がより小さい。
【0022】
また、前記両端部が前記案内溝に案内され、前記平線が確実に前記孔内の所定の位置において打ち込まれる。そのため、合成樹脂製の前記平線が植毛穴の径方向に湾曲するなどの予定外の変形を起こすための、前記植毛穴にしっかり固定できない等の組立て上の不良は少ない。さらに、前記予定外の変形によって生じた隙間から前記刷毛が抜けてしまう等の原因による抜脱が生じる可能性も低い。
【0023】
このように、本発明の口腔用ブラシは組立て上の不良が少なく、且つ刷毛の抜脱を防止する対策を容易に講ずることができる。
【0024】
(5)また、前記平線は、JISK7202-2で規定するロックウェル硬さがHRR80以上であってもよい。
【0025】
発明者は、前記平線の材質としてJISK7202-2で規定するHRR80以上のロックウェル硬さの合成樹脂を選択するとき、前記平線の硬さにより、前記平線の鋭角の隅が前記ヘッド部の表面に容易に引っ掛かることができることを見出した。そのため、前記平線は、前記毛束の折り返し部によって開口側に向いて引っ張られるような外力に抗って、より確実に現状の位置に留まることができる。
【0026】
また発明者は、前記平線がHRR80以上のロックウェル硬さを有することにより、前記平線は打込み時に前記植毛穴の入口又は孔内において形状が崩れることが少なく、所定の位置に確実に配置されることを見出した。
【0027】
これらにより、刷毛が緩んで抜脱することがより少なく、本発明の口腔用ブラシは、刷毛の抜脱を低減するための対策を容易に講ずることができる。
【0028】
(6)本発明はヘッド部に植毛穴を凹設されたブラシ本体、刷毛の毛束、偏平状の平線、および、棹状且つ先端が平板状の植毛針を準備する準備工程と、二つ折れされた前記毛束に挟み込まれる前記平線を、前記植毛穴に、その中心線方向に前記植毛針によって打ち込むことによって前記毛束を前記ブラシ本体に植設する植毛工程とを含む口腔用ブラシ加工方法において、前記準備工程において、前記平線として合成樹脂を材質とする平線を準備し、かつ、前記植毛針として棹状且つ先端が平板状であるとともに前記先端の幅が前記植毛穴の直径方向における前記平線の長さよりも小さい植毛針を準備し、前記植毛工程において、前記平線は、前記打ち込み時に前記先端から加えられる圧力によって、両端部のうち少なくとも一端部の前記植毛穴の開口の側の隅が変形して鋭角を成すまで前記植毛針によって打ち込まれることを特徴とする口腔用ブラシ加工方法を提供するものである。また、ヘッド部に植毛穴を凹設されたブラシ本体、刷毛の毛束、偏平状の平線、および、棹状且つ先端が平板状の植毛針を準備する準備工程と、二つ折れされた前記毛束に挟み込まれる前記平線を、前記植毛穴に、その中心線方向に前記植毛針によって打ち込むことによって前記毛束を前記ブラシ本体に植設する植毛工程とを含むことにより先述の口腔用ブラシを加工する方法において、前記準備工程において、前記平線を準備し、かつ、前記植毛針として棹状且つ先端が平板状であるとともに前記先端の幅が前記植毛穴の直径方向における前記平線の長さよりも小さい植毛針を準備し、前記植毛工程において、前記平線は、前記打ち込み時に前記先端から加えられる圧力によって、前記隅が変形して鋭角を成すまで前記植毛針によって打ち込まれてもよい。
【0029】
すなわち、準備工程で準備する植毛針の先端の幅が平線の長さより小さいため、前記植毛針が前記平線を打ち込むとき、前記先端は前記平線の全長に万遍なく圧力を加えることができず、前記先端が狭いぶん、前記平線の一端部又は両端部に圧力が直接加わらない。そのため、植毛工程で合成樹脂の前記平線は前記圧力が加わる部分と、前記圧力が直接加わらない部分とを生じ、前記圧力が加わる部分だけが凹むことにより、直接加わらない部分である前記一端部の開口の側の隅が鋭角を成すような歪な形状に変形する。また、前記両端部に前記圧力が直接加わらないときは、前記圧力が加わる部分である前記全長の中央寄りの部分だけが凹むことにより、前記両端部の開口の側の隅が鋭角を成すように変形する。
【0030】
こうして、前記植毛穴の開口の側の隅が鋭角を成すため、打ち込み後の前記平線は前記孔内に容易に引っ掛かり、毛束の折り返し部によって前記開口側に向いて引っ張られるときでも、移動して抜け出てしまうことが少ない。そのため、前記平線が打ち込み後の位置に留まることにより、刷毛は緩んで抜脱することが少ない。
【0031】
このような工程を採ることにより、本発明の口腔用ブラシ加工方法は、刷毛の抜脱を低減するための対策を容易に講ずることができる。
【0032】
(7)また、前記準備工程において、前記ブラシ本体としてヘッド部に植毛穴を凹設され且つ前記植毛穴の孔内に前記中心線を挟んで対向する一対の案内溝が設けられたブラシ本体を準備し、前記植毛工程において、前記平線は、前記両端部がそれぞれ前記各案内溝に案内された状態において打ち込まれてもよい。
【0033】
すなわち、前記両端部が前記案内溝に案内されるため、合成樹脂製の前記平線の打ち込み時に湾曲するなどの予定外の変形を起こすような、前記植毛穴にしっかり固定されない等の植毛工程における不良が低減される。
【0034】
また、前記予定外の変形によって生じた隙間から刷毛が抜けてしまうという原因による抜脱が生じる可能性も低い。さらに、前記平線の両端部が案内溝に案内された状態で打ち込まれるため、前記鋭角な隅は前記案内溝の内壁面と当接する。これにより、前記平線と前記案内溝との間で接触する面積が広く、前記平線が毛束によって引っ張られる際にこれらの間で生じる摩擦力が大きい。そのため、前記平線はより強力に現状の位置に留まることができる。
【0035】
このような工程を採ることにより、本発明の口腔用ブラシ加工方法は不良が生じにくく、且つ刷毛の抜脱を低減するための対策を容易に講ずることができる。
【0036】
(8)また、前記植毛工程において、前記平線は、前記圧力によって厚さ方向に膨出して一部又は全部の厚さが増大するまで前記植毛針によって打ち込まれてもよい。
【0037】
すなわち、平線が植毛針からの圧力によって植毛穴の中心線方向に打ち込まれるのに対して、前記平線は、両端部が前記植毛穴の孔内から受ける摩擦力に阻まれて前記中心線方向にわずかに潰れる。そのために、前記平線は、いずれ前記中心線と直交する方向である厚さ方向において膨出する。
【0038】
そこで、植毛工程において前記厚さ方向において膨出するまで前記平線を打ち込むことにより、前記平線は、前記両端部が厚くなり前記案内溝の内壁面と密着する。そのため、前記平線と前記案内溝との間で生じる摩擦力が増大し、前記平線はさらに強力に現状の位置に留まることができる。
【0039】
このような工程を採ることにより、本発明の口腔用ブラシ加工方法は刷毛の抜脱を低減するための対策を容易に講ずることができる。
【発明の効果】
【0040】
このように本発明では、刷毛の抜脱を低減する対策を容易に講ずることができる口腔用ブラシ及び口腔用ブラシ加工方法を提供する。また、合成樹脂製の平線を採用するときでも、予定外の変形が原因の不良を低減することのできる口腔用ブラシ及び口腔用ブラシ加工方法を提供する。
【0041】
さらに、合成樹脂製の平線を採用するときは、多くの場合、刷毛及びヘッド部やハンドル部などの口腔用ブラシ本体の材質もが合成樹脂のため、これら口腔用ブラシ全体を合成樹脂によって製造することが可能である。そのため、使用後の口腔用ブラシや工場スクラップとなった口腔用ブラシのようなリサイクル品を溶融する場合に、合成樹脂製の平線は、金属製の平線のように口腔用ブラシ本体から取り外して除去する必要がなく、口腔用ブラシ本体と一緒にそのまま溶融することができる。よって、本発明では、リサイクルが容易な口腔用ブラシと、その口腔用ブラシを製造することのできる口腔用ブラシ加工方法を提供する。
【0042】
それに加え、合成樹脂製の平線を採用するときは、口腔用ブラシを電子レンジによって加熱して消毒する場合に、金属製の平線のように火花が発生することがなく、火災などの心配が少ない。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】(a)(b)本発明の第1の実施形態に係る歯ブラシの図である。
図2】(a)(b)本発明の第1の実施形態に係る舌ブラシの図である。
図3】(a)本発明の第1の実施形態に係る植毛穴の正面図である。(b)同じく植毛穴の平面図である。
図4】(a)植毛穴の正面断面図である。(b)~(d)平線の正面図である。
図5】平線の正面図である。
図6】(a)植毛穴の平面図である。(b)植毛穴の正面断面図である。
図7】本発明の第1の実施形態及び第2の実施形態に係る口腔用ブラシ加工方法のフロー図である。
図8】本発明の第1の実施形態に係る打込前平線の正面図である。
図9】(a)本発明の第1の実施形態に係る植毛針の一部正面図である。(b)同じく植毛針の一部右側面図である。(c)同じく植毛針の一部底面図である。
図10】(a)(b)(c)本発明の第1の実施形態に係る平線が打ち込まれる状態の正面断面図である。
図11】(a)本発明の第2の実施形態に係る植毛穴の平面図である。(b)同じく植毛穴の正面断面図である。
図12】(a)~(c)平線の正面図である。
図13】本発明の第2の実施形態に係る平線が打ち込まれる状態の正面断面図である。
図14】本発明の実施例に係る植毛穴の配置図である。
図15】本発明の実施例に係る表1である。
図16】本発明の実施例に係る表2である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態を、図1図10を用いて説明する。図1及び図2において1が口腔用ブラシであって、この口腔用ブラシ1は、ブラシ本体2,3と刷毛4とを備える。ここで、口腔用ブラシ1とは、歯を清掃するための歯ブラシ、舌を清掃するための舌ブラシなどの、口腔内の部位を清掃するためのブラシをいう。図1(a)(b)は口腔用ブラシ1の一例である歯ブラシ1aの全体を示し、また、図2(a)(b)は口腔用ブラシ1の別の一例である舌ブラシ1bの全体を示す。
【0045】
ブラシ本体2,3は、長手方向の先端側を占めるヘッド部2と基端側を占めるハンドル部3とから構成される。使用者はハンドル部3を手指によって保持しつつ、ヘッド部2を口腔内に挿入して、ヘッド部2に植設された刷毛4を用いて歯、舌などの口腔内の部位を清掃する。
【0046】
ヘッド部2は、略平面状の植毛面2aを有し、この植毛面2aと直交する方向の中心線を有する複数の植毛穴5が凹設される。各植毛穴5の開口からは、二つ折れにした刷毛4の毛束4aが折り返し部4bを先頭に挿入される。各毛束4aは、例えば26~27本の刷毛4を束ねて構成され、二つ折れされることにより、2倍の52~54本の刷毛4が一度に各植毛穴5に挿入された状態で植設される。
【0047】
[平線の形状]
各植毛穴5には、刷毛4の折り返し部4bの内側に1枚ずつの偏平状の平線6が渡される。図3(a)(b)は、平線6が植毛穴5の内部に渡された状態を示す。また、図4(a)は、図3(b)の断面指示線により見る向きを指定した、ヘッド部2の一部及び平線6のA-A断面図を表わす。各図において矢印U方向が平線6の上方を示し、矢印D方向が平線6の下方を示す。矢印L方向が平線6の左方を示し、矢印R方向が平線6の右方を示す。また、矢印F方向が平線6の前方を示し、矢印B方向が平線6の後方を示す。他の図も同様に各方向を示す。すなわち、各植毛穴5は直毛面2aから下向きに凹設され、開口が上方を向く。
【0048】
平線6は、図3(b)の平面図が示すように前後方向に薄い板状であり、かつ、図3(a)の正面図が示すように左右方向に長い略直方体状に形成されている。そして、平線6は左右の両端部6a,6bが植毛穴5の孔内に圧着されてヘッド部2に支持されている。
【0049】
ここで、複数の植毛穴5の一部又は全部に打ち込まれる平線6は、左側端部6aの上部の隅が鋭角を成して、平線6の一部分が、左側の一辺縁が略垂直である左側突起部7を形成する。この略垂直の辺を左側垂直辺6cと称する。以下において説明する平線は、左側突起部7を有する平線6又は下述する右側突起部7´を有する平線6´を指す。
【0050】
図4(a)の断面図は、平線6が植毛穴5に打ち込まれた状態を示す。平線6は、平線6の下側に位置する刷毛4を下向きに押さえ込むように打ち込まれる。そして、平線6が植毛穴5の孔内に圧着され現状の位置に留まることによって、刷毛4は植毛穴5から抜けることがない。
【0051】
図4(b)は左側突起部7を含む平線6の正面図を示す。正面から見るように、平線6の上部は、両端部6a,6b間において左から順に右下がり傾斜辺6eと、左右方向辺6fとを有する形状に形成される。右下がり傾斜辺6eは左側突起部7の一辺を構成し、左側垂直辺6cとの間において鋭角θ1を成す。
【0052】
また、図4(b)の正面図に示された平線6が表わす図形において、右下がり傾斜辺6eと左右方向辺6fとは内部において180°以上の内角θ2を成す。
【0053】
こうした平線6の形状により、ヘッド部2が一般に合成樹脂によって形成されており、合成樹脂の表面は、平線6の左側突起部7によって微小に変形して引っ掛かり易い。そのため、平線6の左側端部6aは植毛穴5の孔内において機械的に引っ掛かることができる。
【0054】
このように、上部の隅が鋭角を成すため、平線6は、上向きに移動させようとする外力に抗って現状の位置に留まろうとすることができる。そのため、平線6は、毛束4aの折り返し部4bによって上向きに引っ張られるときでも、移動して抜け出てしまうことが少ない。また、折り返し部4bの内側に配置される平線6が現状の位置に留まるために、刷毛4が緩んで抜脱することも少ない。その結果、本発明の口腔用ブラシ1は、このような構成を採ることにより、刷毛4の抜脱を低減するための対策を容易に講ずることができる。
【0055】
また、平線6の正面図が表わす図形において、右下がり傾斜辺6eと、右下がり傾斜辺6eと隣り合う左右方向辺6fとの内角θ2が180°よりも大きいため、左側垂直辺6cと右下がり傾斜辺6eとは鋭角θ1を成す隅を構成することができる。これにより、平線6は、数本の辺によって囲まれるシンプルな形状でありながら、左側突起部7において鋭角な隅を得ることができる。
【0056】
なお、平線6´は左右が入れ替わった形状であってもよい。すなわち、図4(b)に代わり、平線6´が図5の正面図によって表わされる場合に、平線6´は右側突起部7´を有する。このとき、平線6´の上部は、両端部6a,6b間において左から順に左右方向辺6fと右上がり傾斜辺6gとを有する形状に形成される。右上がり傾斜辺6gは右側突起部7´の一辺を構成し、右側垂直辺6dとの間において鋭角θ3を成す。また、左右方向辺6fと、左右方向辺6fと隣り合う右上がり傾斜辺6gとは180°以上の内角θ4を成す。
【0057】
このように、左右が入れ替わった形状においても上部の隅が鋭角を成すことにより、平線6´は、上向きに移動させようとする外力に抗って現状の位置に留まろうとすることができる。そのため、本発明の口腔用ブラシ1は、刷毛4の抜脱を低減するための対策を容易に講ずることができる。
【0058】
[案内溝]
ヘッド部2には、各植毛穴5の孔内に、この植毛穴5の中心線を挟んで対向する一対の案内溝8a,8bが設けられている。刷毛4を表わしていない状態の平面図である図6(a)及び図6(a)の断面指示線により見る向きを指定したB-B断面図である図6(b)が示すように、平面視において植毛穴5の横断面が円形に形成され、植毛穴5の孔内から左向きの左側案内溝8aと、同じく右向きの右側案内溝8bとが凹設される。
【0059】
そして、平線6が植毛穴5に下向きに打ち込まれる際、平線6の左側端部6a及び右側端部6bはそれぞれ左側案内溝8a及び右側案内溝8bに案内される。図6(b)の想像線が表わすように、平線6は、各案内溝8a,8bの最深部まで押し下げられて刷毛4を下向きに抑えている。
【0060】
このとき、各両端部6a,6bはそれぞれの案内溝8a,8b内において植毛穴5の孔内に圧着されている。また、平線6の左側突起部7は、左側案内溝8a内の右向きに面した底面である左側案内溝底面8cを微小に変形させて引っ掛かる。
【0061】
このように、平線6の両端部6a,6bが各案内溝8a,8bに案内されそれぞれ各案内溝8a,8bの内壁面と当接することにより、平線6が毛束4aによって引っ張られる際に、平線6と案内溝との間で接触する面積が広く、これらの間で生じる摩擦力が大きい。そして、左側突起部7は左側案内溝底面8cを微小に変形させて左側案内溝8aに引っ掛かる。これらのため、平線6はより強力に現状の位置に留まることができ、刷毛4が抜脱する可能性がより小さい。
【0062】
また、各両端部6a,6bがそれぞれ各案内溝8a,8bに案内され、平線6が確実に植毛穴5の孔内の所定の位置において打ち込まれる。そのため、下述のような合成樹脂製の平線6が植毛穴の径方向に湾曲するなどの予定外の変形を起こすための、植毛穴5にしっかり固定できない等の組立て上の不良は少ない。さらに、前記予定外の変形によって生じた隙間から刷毛4が抜けてしまう等の原因による抜脱が生じる可能性も低い。このように、本発明の口腔用ブラシ1は組立て上の不良が少なく、且つ刷毛4の抜脱を防止する対策を容易に講ずることができる。
【0063】
なお、左右が入れ替わった形状においても、右側突起部7´は右側案内溝底面8dを微小に変形させて右側案内溝8bに引っ掛かり、平線6´はより強力に現状の位置に留まることができる。そのため、刷毛4を抜脱する可能性が小さい。
【0064】
[平線の材質及び硬度]
平線6はポリアセタール(POM)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の合成樹脂を材質とする。合成樹脂は加工がし易いため、平線6の左側突起部7などの形状に形成することが容易である。
【0065】
また、平線6の材質としてJISK7202-2で規定するロックウェル硬さがHRR80以上である合成樹脂を選択する。このロックウェル硬さは数値の前に硬さスケール文字を付けて表わす。すなわち、HRR80はR硬さスケールで80のロックウェル硬さ(HR)を示す。
【0066】
例えば、上市されているポリアセタールの一例においては、ロックウェル硬さがHRM94である。上市されているポリエチレンテレフタレートの一例においては、ロックウェル硬さがHRM94である。また、上市されているポリプロピレンの一例においては、ロックウェル硬さがHRR80である。これらの例において平線6の材質である各合成樹脂のロックウェル硬さはHRR80以上である。
【0067】
発明者は、平線6の材質としてこうしたHRR80以上のロックウェル硬さの合成樹脂を選択するとき、平線6の硬さにより、左側突起部7又は右側突起部7´がヘッド部2の表面に容易に引っ掛かることができることを見出した。そのため、平線6は、毛束4aの折り返し部によって開口側に向いて引っ張られるような外力に抗って、より確実に現状の位置に留まることができる。
【0068】
また、平線6がHRR80以上のロックウェル硬さを有することにより、平線6は打込み時に植毛穴5の入口又は孔内において形状が崩れることが少なく、所定の位置に確実に配置されることを見出した。これらにより、刷毛4が緩んで抜脱することがより少なく、本発明の口腔用ブラシ1は、刷毛4の抜脱を低減するための対策を容易に講ずることができる。
【0069】
[口腔用ブラシ加工方法]
図7のフロー図において、S100は本発明の第1の実施形態における口腔用ブラシ加工方法を例示する。口腔用ブラシ加工方法S100は、順に準備工程S110及び植毛工程S120を含む。
【0070】
準備工程S110において、口腔用ブラシ1の加工者は、図1及び図2に示すブラシ本体2,3と、刷毛4の毛束4aと,平線6と、植毛針9とを準備する。
【0071】
準備工程S110において準備されるブラシ本体2,3には、ヘッド部2に複数の植毛穴5が凹設され、それぞれの植毛穴5の孔内に図6(a)(b)が示す一対の案内溝8a,8bが設けられる。左側の左側案内溝8aと右側の右側案内溝8bとは植毛穴5の中心線を挟んで対向する。このとき、加工者は、例えばヘッド部2に予め円柱形の空間を有する植毛穴5の下穴を開けることができる型を用いて射出成形によって成形し、その上で、切削工具を用いて各案内溝8a,8bを刻んでもよい。また、各案内溝8a,8bを設けることのできる雄型を用いて、植毛穴5と各案内溝8a,8bとが形作られたブラシ本体2,3を一度に成形してもよい。
【0072】
また、準備工程S110において準備される平線である打込前平線10は、合成樹脂を材質とし、かつ、最初から図4(b)又は図5が示すような歪な形状に形成されるのではなく、図8の正面図が示すような直方体状である。
【0073】
さらに、準備工程S110において準備される植毛針9は、図9(a)の正面図、図9(b)の右側面図及び図9(c)の底面図が示すように、上下方向に細長い棹状に形成されるとともに、下方の針先端9aが略長方形の底面を有し、かつ、前後方向に薄い平板状に形成されている。この針先端9aの左右方向の幅は、図3(b)の平面図における想像線が示すように、平線6の左右方向の長さよりも小さい。
【0074】
また、植毛針9は、後側に膨出する膨出部9bを有する。膨出部9bを有することにより植毛針9は強度が増し、平線6を植毛穴5の下方へ打ち込むときでも折れ曲がることがない。
【0075】
次に、植毛工程S120においては、打込前平線10の左側端部6aの下端及び右側端部6bの下端がそれぞれ左側案内溝8aの上端及び右側案内溝8bの上端と組み合わさるように、打込前平線10を植毛穴5にセットする。そして、植毛針9を針先端9aが打込前平線10(平線6)の上側端に当接するように位置決めして打ち込みを開始する。このとき、針先端9aは平線6の右寄りに当接するように配置される。
【0076】
図10(a)(b)(c)は、植毛工程S120において、植毛針9が順に平線6を下向きに打ち込む状態を示す。各図は、図3(b)の断面指示線により見る向きを指定したヘッド部2の一部、平線6及び植毛針9の一部のA-A断面図を示す。本来図10の断面図でも毛束4aが実線で表わされるべきだが、図を分かり易くするため毛束4aは想像線だけによって示す。
【0077】
植毛工程S120において、平線6は、左右の両端部6a,6bがそれぞれ左側案内溝8a及び右側案内溝8bに案内された状態で打ち込まれる。また、平線6は、図10(c)が示すように下端が各案内溝8a,8bの最下部に到達するまで打ち込まれる。
【0078】
平線6は、植毛針9によって押し下げられることにより、図10(a)の状態から図10(b)の状態を経て図10(c)の状態に至るまで打ち込まれる。この間に、針先端9aが平線6の右寄りの部分を押し下げて圧力を加えることにより、左側端部6aよりも右側の部分が下向きに凹み、平線6は、次第に左側端部6aの上部の隅が鋭角を成す。その結果、平線6の一部が左側突起部7を形成し、図10(c)の状態においては、図4(b)に示すように左側突起部7の左側垂直辺6cと右下がり傾斜辺6eとが鋭角θ1を成すに至る。
【0079】
こうして、植毛工程S120において、平線6は打込み時に針先端9aから加えられる圧力によって、左側端部6aの上部の隅が変形して鋭角θ1を成すまで植毛針9によって打ち込まれる。
【0080】
そして、植毛穴5の開口の側の隅が鋭角を成すため、打ち込み後の平線6は植毛穴5の孔内に容易に引っ掛かり、毛束4aの折り返し部4bによって開口側に向いて引っ張られるときでも、移動して抜け出てしまうことが少ない。そのため、平線6が打ち込み後の位置に留まることにより、刷毛4は緩んで抜脱することが少ない。このような工程を採ることにより、口腔用ブラシ加工方法S100は、刷毛4の抜脱を低減するための対策を容易に講ずることができる。
【0081】
また、左右が入れ替わった場合でも、針先端9aが打込前平線10(平線6´)の左寄りに当接するように配置されるとともに平線6´の左寄りの部分を押し下げて圧力を加えることにより、右側端部6bの左側の部分が右側端部6bよりも先に下向きに進み、平線6は、次第に右側端部6bの上部の隅が鋭角を成す。これにより、平線6´の一部が右側突起部7´を形成し、図5に示すように右側突起部7´の右上がり傾斜辺6gと右側垂直辺6dとが鋭角θ3を成すに至る。そして、右側突起部7´の隅が鋭角を成すため、打ち込み後の平線6´は植毛穴5の孔内に容易に引っ掛かり、毛束4aの折り返し部4bによって開口側に向いて引っ張られるときでも、移動して抜け出てしまうことが少ない。
【0082】
[平線の厚さ方向の膨出]
植毛工程S120の図10(c)の状態においては、平線6(平線6´)が、植毛針9の圧力によって前後方向に膨出して一部又は全部の厚さが増大する。平線6が植毛針9からの圧力によって植毛穴5の中心線方向に打ち込まれるのに対して、平線6は、両端部6a,6bが植毛穴5の孔内から受ける摩擦力に阻まれて中心線方向にわずかに潰れるためである。そのために、平線6は、いずれ中心線と直交する方向である前後方向において膨出する。
【0083】
そこで、植毛工程S120において前後方向に膨出するまで平線6を打ち込むことにより、平線6は、両端部6a,6bが厚くなり各案内溝8a,8bの内壁面と密着する。そのため、平線6と各案内溝8a,8bとの間で生じる摩擦力が増大し、平線6はさらに強力に現状の位置に留まることができる。
【0084】
このような工程を採ることにより、口腔用ブラシ加工方法S100は刷毛4の抜脱を低減するための対策を容易に講ずることができる。
【0085】
[第2の実施形態]
本発明の第2の実施形態を、図11図13を用いて説明する。図において11が口腔用ブラシであって、この口腔用ブラシ11は、ブラシ本体12,13と刷毛14とを備える。ここで、口腔用ブラシ11とは、歯を清掃するための歯ブラシ、舌を清掃するための舌ブラシなどの、口腔内の部位を清掃するためのブラシをいう。
【0086】
ブラシ本体12,13は、長手方向の先端側を占めるヘッド部12と基端側を占めるハンドル部13とから構成される。ヘッド部12は、略平面状の植毛面12aを有し、この植毛面12aと直交する方向の中心線を有する複数の植毛穴15が凹設される。各植毛穴15の開口からは、二つ折れにした刷毛14の毛束14aが折り返し部14bを先頭に挿入される。
【0087】
[平線の形状]
各植毛穴15には、刷毛14の折り返し部14bの内側に1枚ずつの偏平状の平線16が渡される。図11(a)は、平線16が植毛穴15の内部に渡された状態を示す平面図である。図11(b)は、図11(a)の断面指示線により見る向きを指定した、ヘッド部12の一部及び平線16のC-C断面図を表わす。
【0088】
平線16は左右の両端部16a,16bが植毛穴15の孔内に圧着されてヘッド12に支持されている。ここで、複数の植毛穴15の一部又は全部に打ち込まれる平線16は左側端部16aの上部の隅と、右側端部16bの上部の隅とがそれぞれ鋭角を成す。これにより、平線16の一部分は、左側の一辺縁が略垂直である左側突起部17aを形成し、右側の一辺縁が略垂直である右側突起部17bを形成する。これらの略垂直の辺を左側垂直辺16c及び右側垂直辺16dと称する。以下においてはこのような左側突起部17a及び右側突起部17bを共に有する平線16を説明する。
【0089】
図11(b)の断面図は、平線16が植毛穴15に打ち込まれた状態を示す。平線16は、平線16の下側に位置する刷毛14を下向きに押さえ込むように打ち込まれる。そして、平線16が植毛穴15の孔内に圧着され現状の位置に留まることによって、刷毛14は植毛穴15から抜けることがない。
【0090】
図12(a)は左右の突起部17a,17bを含む平線16の正面図を示す。正面から見るように、平線16の上部は、両端部16a,16b間において左から順に右下がり傾斜辺16eと、左右方向辺16fと、右上がり傾斜辺16gとを有する形状に形成される。右下がり傾斜辺16eは左側突起部17aの一辺を構成し、左側垂直辺16cとの間において鋭角θ1を成す。また、右上がり傾斜辺16gは右側突起部17bの一辺を構成し、右側垂直辺16dとの間において鋭角θ3を成す。
【0091】
さらに、図12(a)の正面図に示された平線16が表わす図形において、右下がり傾斜辺16eと左右方向辺16fとは内部において180°以上の内角θ2を成す。また、左右方向辺16fと右上がり傾斜辺16gとは内部において180°以上の内角θ4を成す。
【0092】
こうした平線16の形状により、ヘッド部12が一般に合成樹脂によって形成されており、合成樹脂の表面は、平線16の左側突起部17a及び右側突起部17bによって微小に変形して引っ掛かり易い。そのため、平線16の左側突起部17a及び右側突起部17bは植毛穴15の孔内において機械的に引っ掛かることができる。
【0093】
また、平線16の正面図が表わす図形において、右下がり傾斜辺16eと左右方向辺16fとの内角θ2及び左右方向辺16fと、左右方向16fと隣り合う右上がり傾斜辺16gとの内角θ4が180°よりも大きいため、左側垂直辺16cと右下がり傾斜辺16eとは鋭角θ1を成す隅を構成することができ、また、右上がり傾斜辺16gと、右上がり傾斜辺16gと隣り合う右側垂直辺16dとは鋭角θ3を成す隅を構成することができる。これらにより、平線16は、数本の辺によって囲まれるシンプルな形状でありながら、左側突起部17a及び右側突起部17bにおいて鋭角な隅を得ることができる。
【0094】
[案内溝]
ヘッド部12には、各植毛穴15の孔内に、この植毛穴15の中心線を挟んで対向する一対の案内溝18a,18bが設けられている。
【0095】
平線16の各両端部16a,16bはそれぞれ案内溝18a、18b内において植毛穴15の孔内に圧着されている。また、平線16の左側突起部17a及び右側突起部17bは、それぞれ左側案内溝18a内の右向きに面した底面である左側案内溝底面18c及びその反対側の右側案内溝底面18dを微小に変形させて引っ掛かる。そのため、平線16はより強力に現状の位置に留まることができ、刷毛14が抜脱する可能性がより小さい。
【0096】
[口腔用ブラシ加工方法]
図7のフロー図において、S200は本発明の第2の実施形態における口腔用ブラシ加工方法を例示する。口腔用ブラシ加工方法S200は、順に準備工程S210及び植毛工程S220を含む。
【0097】
準備工程S210において、口腔用ブラシ11の加工者は、ブラシ本体12,13と、刷毛14の毛束14aと,平線16と、植毛針19とを準備する。準備工程S210において準備される植毛針19は、上下方向に細長い棹状に形成されるとともに、下方の針先端19aが略長方形の底面を有し、かつ、前後方向に薄い平板状に形成されている。この針先端19aの左右方向の幅は、図11(a)の平面図における想像線が示すように、平線16の左右方向の長さよりも小さい。
【0098】
植毛工程S220において、針先端19aは平線16の中央寄りに当接するように配置される。図13は、植毛針19が平線16を下向きに打ち込む途中の状態を示す。図13は、図11(a)の断面指示線により見る向きを指定したヘッド部12の一部、平線16及び植毛針19の一部のC-C断面図を示す。本来図13の断面図でも毛束14aが実線により表わされるべきだが、図を分かり易くするため毛束14aは想像線だけによって示す。
【0099】
平線16は、植毛針19によって押し下げられることにより、図11(b)の状態に至るまで打ち込まれる。この間に、図13が示すように針先端19aが平線16の中央寄りの部分を押し下げて圧力を加えることにより、中央寄りの部分が下向きに凹み、平線16は、次第に左側端部16aの上部の隅及び右側端部16bの上部の隅が鋭角を成す。その結果、平線16の一部が左側突起部17a及び右側突起部17bを形成し、図11(b)の状態においては、図12(a)に示すように左側突起部17aの左側垂直辺16cと右下がり傾斜辺16eとが鋭角θ1を成し、また、右側突起部17bの右上がり傾斜辺16gと右側垂直辺16dとが鋭角θ3を成すに至る。
【0100】
こうして、植毛工程S220において、平線16は打込み時に針先端19aから加えられる圧力によって、左側端部16a及び右側端部16bのそれぞれの上部の隅が変形して鋭角θ1及び鋭角θ3を成すまで植毛針19によって打ち込まれる。
【0101】
そして、植毛穴15の開口の側の両方の隅が鋭角を成すため、打ち込み後の平線16は植毛穴15の孔内に容易に引っ掛かり、毛束14aの折り返し部14bによって開口側に向いて引っ張られるときでも、移動して抜け出てしまうことが少ない。そのため、平線16が打ち込み後の位置に留まることにより、刷毛14は緩んで抜脱することが少ない。このような工程を採ることにより、口腔用ブラシ加工方法S200は、刷毛14の抜脱を低減するための対策を容易に講ずることができる。
【0102】
その他の構成は、第1の実施形態と共通する。また、この実施形態は一部の植毛穴15に打ち込まれた平線が第1の実施形態で説明した左側突起部7又は右側突起部7´の何れかを有し、他の一部の植毛穴15に打ち込まれた平線(16)が本実施形態で説明した左側突起部17a及び右側突起部17bの両方を有する実施形態を含む。
【0103】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0104】
例えば、植毛穴5,15の下穴の空間は円柱形状に限らず、直毛穴5,15の内壁に毛束4a,14aの外周面が密着する形状であれば、例えば楕円柱形状、多角柱形状等でもよい。
【0105】
また、平線6,16又は打込前平線10は、直方体形状に限らず、毛束4a,14aを下向きに十分押さえ込むことができれば、例えば曲面を含む形状、傾斜した辺縁を含む形状などであってもよい。
【0106】
一対の案内溝8a,8b,18a,18bは、各図で示すように左右対称に形成されるだけでなく、平線6,16の打込みに支障をきたさなければ、例えば左側案内溝8a,18aの左右方向の長さと、右側案内溝8b,18bの左右方向の長さとが異なってもよい。また、各案内溝8a,8b,18a,18bの空間は、各図で示すような直方体状に形成されるだけでなく、例えば、一部又は全部の内壁が傾斜してもよい。
【0107】
左右方向辺6f,16fは右上がり又は右下がりに傾斜してもよい。例えば、図4(b)の平面図に示した平線6であれば、左右方向辺6fが図4(c)のように右上がりに傾斜してもよく、また、図4(d)のように右下がりに傾斜してもよい。さらに、図12(a)の平面図に示した平線16であれば、左右方向辺16fが図12(b)のように右上がりに傾斜してもよく、また、図12(c)のように右下がりに傾斜してもよい。
【0108】
平線6,16の正面視の図形における各辺は、全てが直線によって構成されなくともよく、平線6,16の成形が困難でなければ、例えば一部が曲線によって構成されてもよい。
【0109】
平線6,16の材質は、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンだけでなく、植毛穴5,15に打ち込むことができるだけの強度を有していればこれら以外の樹脂でもよい。例えば、植物由来の樹脂であってもよく、平線6,16の材質として植物由来の樹脂を採用し、かつ、ブラシ本体2,3,12,13の材質としても同様に植物由来の樹脂を採用するときは、使用後の口腔用ブラシや工場スクラップとなった口腔用ブラシを平線6,16と一緒に土中で分解させることができる。
【実施例
【0110】
以下に、本発明を実施例で説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0111】
発明者は、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂製のブラシ本体のヘッド部及びポリプロピレン(PP)樹脂製のブラシ本体のヘッド部に、平線を用いて毛束状の刷毛を植設した上で毛止め強度の試験を行った。それぞれのブラシ本体には、ヘッド部の植毛面に図14に示す配置の植毛穴を凹設した。図14は図の左向きが口腔用ブラシの先端の向きであり、図の右向きが同じ口腔用ブラシの基端の向きである。図14に表わした1から13までの符号は、下述する試験結果における穴位置を示す。
【0112】
毛止め強度の試験方法は、日本工業規格JISS3016-1995「歯ブラシ」が規定する方法に従った。すなわち、各植毛穴に植設された刷毛を20mm/minの速度で引っ張り、最大引張力を測定した。測定機器は、日本計測システム株式会社製サーボスタンドJSV-H1000フォースゲージHF-50型を用いた。
【0113】
図15に示した表1は、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂製のブラシ本体に、刷毛を、ポリアセタール(POM)、ポリエチレンテレフタレート(PET)又はポリプロピレン(PP)のそれぞれの合成樹脂製の平線を用いて植設したときの測定結果を示す。また、図16に示した表2は、ポリプロピレン(PP)製樹脂のブラシ本体に、刷毛を、ポリアセタール(POM)、ポリエチレンテレフタレート(PET)又はポリプロピレン(PP)のそれぞれの合成樹脂製の平線を用いて植設したときの測定結果を示す。各値は、それぞれの穴位置に植設された刷毛の毛止め強度と、それらの平均値、最小値及び最大値を表わす。また、参考値として、真鍮製の平線を用いて植設したときの測定結果を示す。
【0114】
各平線は、図8に示す打込前平線の幅wが2.0mmであり、同じく高さhが1.5mmであり、また、厚さが0.3mmのものを用いた。ブラシ本体は、図6に示す植毛穴の直径Rが1.6mmであり、また、左側案内溝底面から右側案内溝底面までの距離Wが2.2mmのものを用いた。刷毛はデュポン製7mil(WT101)を用いた。各毛束は束ねられた26~27本の刷毛により構成した。その結果、二つ折れされることにより2倍の52~54本の刷毛を各植毛穴に挿入した。
【0115】
表1及び表2が示すように、各ポリアセタール(POM)樹脂製平線のロックウェル硬さはHRM94であり、各ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂製平線のロックウェル硬さはHRM94であり、また、各ポリプロピレン(PP)樹脂製平線のロックウェル硬さはHRR80である。そして、表1及び表2における全ての毛止め強度の測定結果は、前掲のJISS3016-1995において規定されている最小強度である8Nよりも大きい。
【0116】
また、各穴位置における毛止め強度の平均値は、表1が示すようにポリアセタール(POM)樹脂製平線、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂製平線、ポリプロピレン(PP)樹脂製平線の順に27.1N、28.3N、22.1Nであり、それぞれ上記最小強度である8Nの3.39倍、3.54倍、2.76倍である。同じく、表2が示すようにポリアセタール(POM)樹脂製平線、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂製平線、ポリプロピレン(PP)樹脂製平線の順に20.9N、20.1N、14.8Nであり、それぞれ上記最小強度である8Nの2.61倍、2.51倍、1.85倍である。
【0117】
以上から、口腔用ブラシが望ましい毛止め強度を得るためには、平線が、上記のようなHRR80以上のロックウェル硬さを有することが好ましい。
【0118】
なお、表1及び表2の何れもが示すように、各ポリアセタール(POM)樹脂製平線又は各ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂製平線を用いて植設したときの各穴位置における毛止め強度の平均値は、各ポリプロピレン(PP)樹脂製平線を用いたときの同じく平均値よりも大きい。このように、口腔用ブラシがより高い毛止め強度を得るためには、平線がより高いロックウェル硬さを有することが好ましい。
【0119】
また、表1と表2とを対比することから分かるように、ポリプロピレン(PP)製樹脂のブラシ本体に植設する場合に比べて、ポリプロピレンよりもロックウェル硬さが高いポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂製のブラシ本体に植設する場合のほうが、何れの材質の平線を用いるときにおいても各穴位置における毛止め強度の平均値は高い。このように、口腔用ブラシがより高い毛止め強度を得るためには、より高いロックウェル硬さを有するブラシ本体に植設することが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明は、使用者の口腔内を清掃するための、歯ブラシ、舌ブラシ等の口腔用ブラシ及び口腔用ブラシ加工方法に利用できる。
【符号の説明】
【0121】
1,11 口腔用ブラシ
1a 歯ブラシ
1b 舌ブラシ
2,3,12,13 ブラシ本体
2,12 ヘッド部
2a,12a 植毛面
3,13 ハンドル部
4,14 刷毛
4a,14a 毛束
4b,14b 折り返し部
5,15 植毛穴
6,6´,16,16´ 平線
6a,16a 左側端部
6b,16b 右側端部
6c,16c 左側垂直辺
6d,16d 右側垂直辺
6e,16e 右下がり傾斜辺
6f,16f 左右方向辺
6g,16g 右上がり傾斜辺
7,17a 左側突起部
7´,17b 右側突起部
8a,18a 左側案内溝
8b,18b 右側案内溝
8c,18c 左側案内溝底面
8d,18d 右側案内溝底面
9,19 植毛針
9a,19a 針先端
10 打込前平線
S100,S200 口腔用ブラシ加工方法
S110,S210 準備工程
S120,S220 植毛工程

図1
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