IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人科学技術振興機構の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-17
(45)【発行日】2024-04-25
(54)【発明の名称】光活性化可能なTet発現制御システム
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/63 20060101AFI20240418BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20240418BHJP
   C12N 15/29 20060101ALI20240418BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20240418BHJP
   C07K 14/415 20060101ALN20240418BHJP
【FI】
C12N15/63 100Z
C12N15/62 Z ZNA
C12N15/29
C12N15/31
C07K14/415
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2020539642
(86)(22)【出願日】2019-08-30
(86)【国際出願番号】 JP2019034217
(87)【国際公開番号】W WO2020045651
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2022-05-17
(31)【優先権主張番号】P 2018163617
(32)【優先日】2018-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503360115
【氏名又は名称】国立研究開発法人科学技術振興機構
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】今吉 格
(72)【発明者】
【氏名】山田 真弓
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 裕輔
(72)【発明者】
【氏名】長崎 真治
【審査官】山本 匡子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/041219(WO,A1)
【文献】今吉格 他,脳発達と再編の仕組みを研究するための最新技術・モデル 4.遺伝子発現の光制御技術と神経幹細胞研究への応用,実験医学,2018年08月01日,Vol.36 No.12,p.2127-2132,全文
【文献】KONERMANN S et al.,Optical control of mammalian endogenous transcription and epigenetic states,Nature,2013年08月22日,500(7463),p.472-476,全文,doi: 10.1038/nature12466. Epub 2013 Aug 23.
【文献】REDCHUK TA et al.,Near-infrared optogenetic pair for protein regulation and spectral multiplexing,Nature chemical biology,2017年06月,Vol. 13, No. 6,p. 633-639,ABSTRACT, Fig1-5, METHODS
【文献】MULLER K. et al.,An optogenetic upgrade for the Tet-OFF system,Biotechnology and Bioengineering,2015年07月,Vol.112 No.7,Page.1483-1487,ABSTRACT, Fig.1-3, Supporting Information,doi:10.1002/bit.25562
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-90
C07K
C12Q
MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/CAPLUS/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
TetO配列を含むテトラサイクリン応答因子と、前記テトラサイクリン応答因子の下流に位置し、かつ前記テトラサイクリン応答因子に制御されるプロモーターと、前記プロモーターの下流に位置し、かつ前記プロモーターに発現を制御される標的遺伝子と、を備える標的遺伝子発現カセットと、
Tetリプレッサータンパク質又はリバースTetリプレッサータンパク質と、第1のタンパク質とを含む第1の融合タンパク質をコードする遺伝子を備える第1融合タンパク質発現カセットと、
転写活性化因子p65の転写活性化ドメインと、第2のタンパク質とを含む第2の融合タンパク質をコードする遺伝子を備える第2融合タンパク質発現カセットと、
を備え、
前記第1のタンパク質と前記第2のタンパク質が、特定の波長が照射された状態でのみ互いに結合してヘテロ二量体を形成する、光活性化可能なテトラサイクリン遺伝子発現制御システム。
【請求項2】
前記Tetリプレッサータンパク質又はリバースTetリプレッサータンパク質が、大腸菌の野生型Tetリプレッサータンパク質の194番目のイソロイシンに相当するアミノ酸残基がトレオニン残基である、請求項1に記載の光活性化可能なテトラサイクリン遺伝子発現制御システム。
【請求項3】
前記第1の融合タンパク質において、Tetリプレッサータンパク質又はリバースTetリプレッサータンパク質と、前記第1のタンパク質とが、SPKKKで表されるアミノ酸配列からなるペプチドリンカーにより連結されている、請求項1又は2に記載の光活性化可能なテトラサイクリン遺伝子発現制御システム。
【請求項4】
前記第1のタンパク質がCIB1又はその変異体であり、前記第2のタンパク質がCry2又はその変異体である、又は、
前記第1のタンパク質がCry2又はその変異体であり、前記第2のタンパク質がCIB1又はその変異体である、請求項1~3のいずれか一項に記載の光活性化可能なテトラサイクリン遺伝子発現制御システム。
【請求項5】
前記第1のタンパク質がCIB1又はその変異体であり、前記第2のタンパク質がCry2又はその変異体である、請求項4に記載の光活性化可能なテトラサイクリン遺伝子発現制御システム。
【請求項6】
前記第1の融合タンパク質が、Tetリプレッサータンパク質又はリバースTetリプレッサータンパク質のC末端側にCIB1又はその変異体が連結されている、請求項5に記載の光活性化可能なテトラサイクリン遺伝子発現制御システム。
【請求項7】
前記第1の融合タンパク質に含まれるCIB1又はその変異体が、シロイヌナズナの野生型CIB1の1~170番目のアミノ酸からなる領域に相当する部分タンパク質からなるCIB1のC末端欠損体、又は前記CIB1のC末端欠損体中の核局在シグナルが欠損した変異体である、請求項5又は6に記載の光活性化可能なテトラサイクリン遺伝子発現制御システム。
【請求項8】
前記第1の融合タンパク質に含まれるCIB1又はその変異体が、シロイヌナズナの野生型CIB1の1~170番目のアミノ酸からなる領域に相当する部分タンパク質からなるCIB1のC末端欠損体の核局在シグナルが欠損した変異体であり、
前記第2の融合タンパク質が、N末端又はC末端に核局在シグナルを含む、請求項7に記載の光活性化可能なテトラサイクリン遺伝子発現制御システム。
【請求項9】
前記第2の融合タンパク質に含まれるCry2又はその変異体が、N末端フォトポリアーゼ相同性領域を含むC末端欠損体、又は前記C末端欠損体のうち、シロイヌナズナの野生型Cry2の348番目のロイシンに相当するアミノ酸残基がフェニルアラニンに置換された変異体である、請求項5~8のいずれか一項に記載の光活性化可能なテトラサイクリン遺伝子発現制御システム。
【請求項10】
前記第1のタンパク質がBphp1又はその変異体であり、前記第2のタンパク質がQ-PAS1又はその変異体である、又は、
前記第1のタンパク質がQ-PAS1又はその変異体であり、前記第2のタンパク質がBphp1又はその変異体である、請求項1~3のいずれか一項に記載の光活性化可能なテトラサイクリン遺伝子発現制御システム。
【請求項11】
前記第1のタンパク質がBphp1又はその変異体であり、前記第2のタンパク質がQ-PAS1又はその変異体である、請求項10に記載の光活性化可能なテトラサイクリン遺伝子発現制御システム。
【請求項12】
前記第2の融合タンパク質が、N末端に核局在シグナルを含み、かつ転写活性化因子p65の転写活性化ドメインのC末端側にQ-PAS1又はその変異体が連結されている、請求項11に記載の光活性化可能なテトラサイクリン遺伝子発現制御システム。
【請求項13】
前記第1の融合タンパク質が、Tetリプレッサータンパク質又はリバースTetリプレッサータンパク質のN末端側に、Bphp1又はその変異体が連結されており、
前記第2の融合タンパク質が、転写活性化因子p65の転写活性化ドメインのC末端側にQ-PAS1又はその変異体が連結されている、請求項11又は12に記載の光活性化可能なテトラサイクリン遺伝子発現制御システム。
【請求項14】
前記標的遺伝子発現カセットと、
前記第1の融合タンパク質と前記第2の融合タンパク質がT2A自己消化ペプチドで連結されたタンパク質の発現カセット、又は、前記第1の融合タンパク質と前記第2の融合タンパク質をバイシストロニック発現させる発現カセットと、
を備える、請求項1~13のいずれか一項に記載の光活性化可能なテトラサイクリン遺伝子発現制御システム。
【請求項15】
前記標的遺伝子が、ユビキチン修飾されたタンパク質をコードする遺伝子である、請求項1~14のいずれか一項に記載の光活性化可能なテトラサイクリン遺伝子発現制御システム。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか一項に記載の光活性化可能なテトラサイクリン遺伝子発現制御システムを含む細胞。
【請求項17】
請求項16に記載の細胞(ただし、ヒト生体内の細胞を除く)に対して、青色光又は近赤外光の照射の有無、及びテトラサイクリン系化合物処理の有無を調整することにより、前記細胞における前記標的遺伝子の発現を制御する、標的遺伝子の発現制御方法。
【請求項18】
TetO配列を含むテトラサイクリン応答因子と、前記テトラサイクリン応答因子の下流に位置し、かつ前記テトラサイクリン応答因子に制御されるプロモーターと、前記プロモーターの下流に位置し、標的遺伝子を組み込むためのマルチクローニングサイトとを含む標的遺伝子発現用ベクターと、
Tetリプレッサータンパク質又はリバースTetリプレッサータンパク質と、CIB1又はその変異体とが連結された第1の融合タンパク質をコードする遺伝子を備える第1融合タンパク質発現カセットを含む第1の発現ベクターと、
転写活性化因子p65の転写活性化ドメインと、Cry2又はその変異体とが連結された第2の融合タンパク質をコードする遺伝子を備える第2融合タンパク質発現カセットを含む第2の発現ベクターと、
を含む、光活性化可能なテトラサイクリン遺伝子発現制御システム用キット。
【請求項19】
TetO配列を含むテトラサイクリン応答因子と、前記テトラサイクリン応答因子の下流に位置し、かつ前記テトラサイクリン応答因子に制御されるプロモーターと、前記プロモーターの下流に位置し、標的遺伝子を組み込むためのマルチクローニングサイトとを含む標的遺伝子発現用ベクターと、
Tetリプレッサータンパク質又はリバースTetリプレッサータンパク質と、Bphp1又はその変異体とが連結された第1の融合タンパク質をコードする遺伝子を備える第1融合タンパク質発現カセットを含む第1の発現ベクターと、
転写活性化因子p65の転写活性化ドメインと、Q-PAS1又はその変異体とが連結された第2の融合タンパク質をコードする遺伝子を備える第2融合タンパク質発現カセットを含む第2の発現ベクターと、
を含む、光活性化可能なテトラサイクリン遺伝子発現制御システム用キット。
【請求項20】
前記第1の発現ベクターと前記第2の発現ベクターに代えて、
前記第1の融合タンパク質と前記第2の融合タンパク質がT2A自己消化ペプチドで連結されたタンパク質の発現カセット、又は、前記第1の融合タンパク質と前記第2の融合タンパク質をバイシストロニック発現させる発現カセットを含む発現ベクターを含む、請求項18又は19に記載の光活性化可能なテトラサイクリン遺伝子発現制御システム用キット。
【請求項21】
前記Tetリプレッサータンパク質又はリバースTetリプレッサータンパク質が、大腸菌の野生型Tetリプレッサータンパク質の194番目のイソロイシンに相当するアミノ酸残基がトレオニン残基である、請求項18~20のいずれか一項に記載の光活性化可能なテトラサイクリン遺伝子発現制御システム用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的遺伝子の発現を、光照射とテトラサイクリン(Tet)系化合物の両方で遺伝子発現の制御が可能なテトラサイクリン遺伝子発現制御システムに関する。
本願は、2018年8月31日に、日本に出願された特願2018-163617号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
Tet-OFF/ONシステムは、Tetオペレーター(TetO)配列を含むTet応答因子(TRE)とTetリプレッサー(TetR)との相互作用を利用しており、Tetやより安定なTetアナログであるドキシサイクリン(Dox)で処理することによって、標的細胞内において外因性遺伝子の発現を調節する(例えば、非特許文献1参照。)。Tet-OFFシステムは、Doxの非存在下で、TetRと転写活性化ドメインの融合タンパク質がTREに結合し、下流の遺伝子発現を制御する最小プロモーターを活性化する。Tet-ONシステムは、Doxの存在下で、リバースTetR(rTetR)と転写活性化ドメインの融合タンパク質がTREに結合し、下流の遺伝子発現を制御する最小プロモーターを活性化する。Tet-OFF/ONシステムは、哺乳動物細胞において最も一般的に使用される化学的に制御されたシステムであるが、発現制御を小分子であるDoxによって行うため、標的遺伝子の発現を、限られた時間枠や、限定された空間内の細胞においてのみ行うことは困難であった。例えば、個体発生や組織の恒常性維持における幹細胞の維持・増殖・細胞分化の際には、幹細胞又は前駆細胞における動的な遺伝子発現が重要な役割を担うことが知られている。また、これらの現象は、概日リズム又は超日リズムを刻む時計遺伝子の機能と密接な相関があることが知られている。しかしながら、Tet-OFF/ONシステムは、これらの研究への適応に要求される時間分解能・空間分解能のよい操作を行うことが不可能なため、上記のような目的遺伝子の迅速な活性化又は非活性化を必要とする研究・実験には適さない。
【0003】
従来の化学的に制御された遺伝子発現システムの技術的限界を克服し、時間的・空間的制御が可能な遺伝子発現システムとして、光照射によって遺伝子発現の制御(ON/OFF)が可能な、すなわち光活性化可能な(photoactivatable、PA)発現システムが開発された。遺伝子の発現制御を光で行うことにより、光照射する領域や照射強度を調整するだけで、特定の空間内の細胞のみに、限られた時間枠において、標的遺伝子の発現を誘導することが簡便に行うことができる。例えば、光活性化転写因子がGAVPOであるPA-Gal4/UASシステム(Light-ONシステム)を用いて、塩基性ヘリックスループ・ヘリックス(bHLH)転写の動的な遺伝子発現変化の機能的重要性を分析したことが報告されている(非特許文献2及び非特許文献3)。GAVPOは活性化及び非活性化の反応速度が迅速なため、光照射パターンを変化させることにより、神経幹細胞においてAscl1の遺伝子発現を様々な動態(例えば、持続的に又は振動性に)で人工的に誘導することができた。
【0004】
光依存的に相互作用するタンパク質モジュールとして、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)由来の青色光応答性ヘテロ二量体形成モジュールが挙げられる。当該モジュールは、Cry2(Cryptochrome 2)光受容体及びその特異的結合タンパク質であるCIB1(cryptochrome-interacting basic helix-loop-helix 1)からなる(例えば、非特許文献4~8)。シロイヌナズナCry2は、概日リズム調節を介して植物の発育及び成長を調節するフォトリアーゼ様光受容体である。Cry2は、N末端フォトポリアーゼ相同性領域(PHR)及びCryptochrome C末端伸長(CCE又はCCT)の2つのドメインを有する。PHRは、発色団フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)に非共有結合する発色団結合ドメインである。Cry2は、青色光特異的にbHLH転写因子CIB1に結合することができる。Cry2及びCIB1必須ドメインのトランケート型は、青色光依存性ヘテロ二量体形成モジュールとして作用する。また、Cry2のいくつかの点変異は、より速い又は遅い光サイクルを誘導することが示されている(非特許文献9、非特許文献10、非特許文献11)。
【0005】
また、近赤外光応答性ヘテロ二量体形成モジュールとして、光合成細菌ロドシュードモナス・パルストリス(Rhodopseudomonaspalustris)由来のフィトクロームであるBphP1及びその特異的結合タンパク質であるPpsR2からなるタンパク質モジュールが挙げられる(例えば、非特許文献27)。BphP1及びPpsR2に対して740~780nmの近赤外光を照射すると、両者は結合してヘテロ二量体を形成する。このヘテロ二量体は、哺乳類をはじめとする真核生物の内在性発色団であるBiliverdin(BV)を使用して近赤外光を吸収することにより形成される。また、PpsR2は多数のドメインを持つ比較的大きなタンパク質である。そこで、BphP1/PpsR2システムを改良して、N末端側とC末端側を欠損させ、Q-linkerとその下流のPAS1ドメインのみからなるPpsR2欠損変異体(Q-PAS1)を用いたBphP1/Q-PAS1システムが開発された(例えば、非特許文献28~29)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Das et al.,Current gene therapy,2016,vol.16,p.156-167.
【文献】Imayoshi et al.,Science,2013,vol.342,p.1203-1208.
【文献】Imayoshi and Kageyama,Neuron,2014,vol.82,p.9-23.
【文献】Duan et al.,Nature Communications,2017,vol.8,Article number: 547.
【文献】Jeong et al.,Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America,2010,vol.107(30),p.13538-13543.
【文献】Keller et al.,The Plant Journal,2011,vol.67(2),p.195-207.
【文献】Wu and Yang,Molecular plant,2010,vol.3(3), p.539-548.
【文献】Yu et al.,The Arabidopsis Book,2010,vol.8,Article number: e0135.
【文献】Kennedy et al.,Nature Methods,2010,vol.7(12),p.973-975.
【文献】Liu et al.,Nature,2012,vol.484,p.381-385.
【文献】Taslimi et al.,Nature chemical biology,2016,vol.12,p.425-430.
【文献】Szulc et al.,Nature Methods,2006,vol.3(2),p.109-116.
【文献】Wang et al.,Nature Methods,2012,vol.9(3),p.266-269.
【文献】Hallett et al.,ACS Synthetic Biology,2016,vol.5,p.53-64.
【文献】Mizushima and Nagata,Nucleic Acids Research,1990,vol.18(17),p.5322.
【文献】Masamizu et al.,Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America,2006,vol.103(5),p.1313-1318.
【文献】Miyoshi,’Chapter 28 Gene Delivery to Hematopoietic Stem Cells Using Lentiviral Vectors’, Methods in Molecular Biology,2004,vol.246(“Gene Delivery to Mammalian Cells Volume 2: Viral Gene Transfer Techniques”),p.429-438.
【文献】Kawashima et al,Nature Methods,2013,vol.10(9),p.889-895.
【文献】Pedelacq et al.,Nature Biotechnology,2006,vol.24(1),p.79-88.
【文献】Nonaka et al.,Neuron,2014,vol.84,p.92-106.
【文献】Okuno et al.,Cell,2012,vol.149,p.886-898.
【文献】Isomura et al.,Genes & Development,2017,vol.31,p.524-535.
【文献】Hand et al.,Neuron,2005,vol.48,p.45-62.
【文献】Peters et al.,Nature,2014,vol.510,p.263-267.
【文献】Pathak et al.,ACS Synthetic Biology,2014,vol.3,p.832-838.
【文献】Sano and Yokoi, Journal of Neuroscience, 2007, vol.27(26), p.6948-6955.
【文献】Kaberniuk et al.,NATURE METHODS, 2016, vol.13, p.591-597.
【文献】Redchuk, et al., Nature Chemical Biology, 2017, vol.13, p.633-639.
【文献】Redchuk, et al., Nature Protocols, 2018, vol.13(5), p.1121-1136.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
遺伝子発現を時間的及び空間的に正確に制御可能なように、光活性化が可能なTet-OFF/ONシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究した結果、Tet-OFF/ONシステムに、Cry2/CIB1からなる光活性化可能な結合スイッチ(以下、「Cry2/CIB1-PA結合スイッチ」と称することがある。)又はBphP1/Q-PAS1からなる光活性化可能な結合スイッチ(以下、「BphP1/Q-PAS1-PA結合スイッチ」と称することがある。)を組み込むことにより、光照射とTet系化合物の両方によって標的遺伝子の発現を制御可能なシステム(以下、「PA-Tet-OFF/ONシステム」ということがある。)が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明に係るPA-Tet-OFF/ONシステム等は、下記[1]~[27]である。
[1] TetO配列を含むテトラサイクリン応答因子と、前記テトラサイクリン応答因子の下流に位置し、かつ前記テトラサイクリン応答因子に制御されるプロモーターと、前記プロモーターの下流に位置し、かつ前記プロモーターに発現を制御される標的遺伝子と、を備える標的遺伝子発現カセットと、
Tetリプレッサータンパク質又はリバースTetリプレッサータンパク質と、第1のタンパク質とを含む第1の融合タンパク質をコードする遺伝子を備える第1融合タンパク質発現カセットと、
転写活性化因子p65の転写活性化ドメインと、第2のタンパク質とを含む第2の融合タンパク質をコードする遺伝子を備える第2融合タンパク質発現カセットと、
を備え、
前記第1のタンパク質と前記第2のタンパク質が、特定の波長が照射された状態でのみ互いに結合してヘテロ二量体を形成する、光活性化可能なテトラサイクリン遺伝子発現制御システム。
[2] 前記TetR又はrTetRが、大腸菌の野生型TetRの194番目のイソロイシンに相当するアミノ酸残基がトレオニン残基である、前記[1]のPA-Tet-OFF/ONシステム。
[3] 前記Tetリプレッサータンパク質又はリバースTetリプレッサータンパク質が、大腸菌の野生型Tetリプレッサータンパク質の194番目のイソロイシンに相当するアミノ酸残基がトレオニン残基である、前記[1]又は[2]の光活性化可能なテトラサイクリン遺伝子発現制御システム。
[4] 前記第1のタンパク質がCIB1又はその変異体であり、前記第2のタンパク質がCry2又はその変異体である、又は、
前記第1のタンパク質がCry2又はその変異体であり、前記第2のタンパク質がCIB1又はその変異体である、前記[1]~[3]のいずれかの光活性化可能なテトラサイクリン遺伝子発現制御システム。
[5] 前記第1のタンパク質がCIB1又はその変異体であり、前記第2のタンパク質がCry2又はその変異体である、前記[4]のPA-Tet-OFF/ONシステム。
[6] 前記第1の融合タンパク質が、Tetリプレッサータンパク質又はリバースTetリプレッサータンパク質のC末端側にCIB1又はその変異体が連結されている、前記[5]のPA-Tet-OFF/ONシステム。
[7] 前記第1の融合タンパク質に含まれるCIB1又はその変異体が、シロイヌナズナの野生型CIB1の1~170番目のアミノ酸からなる領域に相当する部分タンパク質からなるCIB1のC末端欠損体、又は前記CIB1のC末端欠損体中の核局在シグナルが欠損した変異体である、前記[5]又は[6]のPA-Tet-OFF/ONシステム。
[8] 前記第1の融合タンパク質に含まれるCIB1又はその変異体が、シロイヌナズナの野生型CIB1の1~170番目のアミノ酸からなる領域に相当する部分タンパク質からなるCIB1のC末端欠損体の核局在シグナルが欠損した変異体であり、
前記第2の融合タンパク質が、N末端又はC末端に核局在シグナルを含む、前記[7]の光活性化可能なテトラサイクリン遺伝子発現制御システム。
[9] 前記第2の融合タンパク質に含まれるCry2又はその変異体が、N末端フォトポリアーゼ相同性領域を含むC末端欠損体、又は前記C末端欠損体のうち、シロイヌナズナの野生型Cry2の348番目のロイシンに相当するアミノ酸残基がフェニルアラニンに置換された変異体である、前記[5]~[8]のいずれかのPA-Tet-OFF/ONシステム。
[10] 前記第1のタンパク質がBphp1又はその変異体であり、前記第2のタンパク質がQ-PAS1又はその変異体である、又は、
前記第1のタンパク質がQ-PAS1又はその変異体であり、前記第2のタンパク質がBphp1又はその変異体である、前記[1]~[3]のいずれかの光活性化可能なテトラサイクリン遺伝子発現制御システム。
[11] 前記第1のタンパク質がBphp1又はその変異体であり、前記第2のタンパク質がQ-PAS1又はその変異体である、前記[10]の光活性化可能なテトラサイクリン遺伝子発現制御システム。
[12] 前記第2の融合タンパク質が、N末端に核局在シグナルを含み、かつ転写活性化因子p65の転写活性化ドメインのC末端側にQ-PAS1又はその変異体が連結されている、前記[11]の光活性化可能なテトラサイクリン遺伝子発現制御システム。
[13] 前記第1の融合タンパク質が、Tetリプレッサータンパク質又はリバースTetリプレッサータンパク質のN末端側に、Bphp1又はその変異体が連結されており、
前記第2の融合タンパク質が、転写活性化因子p65の転写活性化ドメインのC末端側にQ-PAS1又はその変異体が連結されている、前記[11]又は[12]の光活性化可能なテトラサイクリン遺伝子発現制御システム。
[14] 前記標的遺伝子発現カセットと、
前記第1の融合タンパク質と前記第2の融合タンパク質がT2A自己消化ペプチドで連結されたタンパク質の発現カセット、又は、前記第1の融合タンパク質と前記第2の融合タンパク質をバイシストロニック発現させる発現カセットと、
を備える、前記[1]~[13]のいずれかのPA-Tet-OFF/ONシステム。
[15] 前記標的遺伝子が、ユビキチン修飾されたタンパク質をコードする遺伝子である、前記[1]~[14]のいずれかのPA-Tet-OFF/ONシステム。
[16] 前記[1]~[15]のいずれかのPA-Tet-OFF/ONシステムを含む細胞。
[17] 前記[16]の細胞に対して、青色光又は近赤外光の照射の有無、及びTet系化合物処理の有無を調整することにより、前記細胞における前記標的遺伝子の発現を制御する、標的遺伝子の発現制御方法。
[18] TetO配列を含むTREと、前記TREの下流に位置し、かつ前記TREに制御される最小プロモーターと、前記最小プロモーターの下流に位置し、標的遺伝子を組み込むためのマルチクローニングサイトとを含む標的遺伝子発現用ベクターと、
TetR又はrTetRと、CIB1又はその変異体とが連結された第1の融合タンパク質をコードする遺伝子を備える第1融合タンパク質発現カセットを含む第1の発現ベクターと、
転写活性化因子p65の転写活性化ドメインと、Cry2又はその変異体とが連結された第2の融合タンパク質をコードする遺伝子を備える第2融合タンパク質発現カセットを含む第2の発現ベクターと、
を含む、PA-Tet-OFF/ONシステム用キット。
[19] TetO配列を含むテトラサイクリン応答因子と、前記テトラサイクリン応答因子の下流に位置し、かつ前記テトラサイクリン応答因子に制御されるプロモーターと、前記プロモーターの下流に位置し、標的遺伝子を組み込むためのマルチクローニングサイトとを含む標的遺伝子発現用ベクターと、
Tetリプレッサータンパク質又はリバースTetリプレッサータンパク質と、Bphp1又はその変異体とが連結された第1の融合タンパク質をコードする遺伝子を備える第1融合タンパク質発現カセットを含む第1の発現ベクターと、
転写活性化因子p65の転写活性化ドメインと、Q-PAS1又はその変異体とが連結された第2の融合タンパク質をコードする遺伝子を備える第2融合タンパク質発現カセットを含む第2の発現ベクターと、
を含む、光活性化可能なテトラサイクリン遺伝子発現制御システム用キット。
[20] 前記第1の発現ベクターと前記第2の発現ベクターに代えて、
前記第1の融合タンパク質と前記第2の融合タンパク質がT2A自己消化ペプチドで連結されたタンパク質の発現カセット、又は、前記第1の融合タンパク質及び前記第2の融合タンパク質をバイシストロニック発現させる発現カセットを含む発現ベクターを含む、前記[18]又は[19]のPA-Tet-OFF/ONシステム用キット。
[21] 前記TetR又はrTetRが、大腸菌の野生型TetRの194番目のイソロイシンに相当するアミノ酸残基がトレオニン残基である、前記[18]~[20]のPA-Tet-OFF/ONシステム用キット。
[22] TetR又はrTetRと、CIB1又はその変異体とが連結された融合タンパク質を発現させるための発現カセットを含む、発現ベクター。
[23] 転写活性化因子p65の転写活性化ドメインと、Cry2又はその変異体とが連結された融合タンパク質を発現させるための発現カセットを含む、発現ベクター。
[24] Tetリプレッサータンパク質又はリバースTetリプレッサータンパク質と、Bphp1又はその変異体とが連結された融合タンパク質を発現させるための発現カセットを含む、発現ベクター。
[25] 転写活性化因子p65の転写活性化ドメインと、Q-PAS1又はその変異体とが連結された融合タンパク質を発現させるための発現カセットを含む、発現ベクター。
[26] Tetリプレッサータンパク質若しくはリバースTetリプレッサータンパク質とCIB1若しくはその変異体とが連結された融合タンパク質と、転写活性化因子p65の転写活性化ドメインとCry2若しくはその変異体とが連結された融合タンパク質とが、T2A自己消化ペプチドで連結されたタンパク質の発現カセット、又は、
Tetリプレッサータンパク質若しくはリバースTetリプレッサータンパク質とCIB1若しくはその変異体とが連結された融合タンパク質と、転写活性化因子p65の転写活性化ドメインとCry2若しくはその変異体とが連結された融合タンパク質とを、バイシストロニック発現させる発現カセット
を含む、発現ベクター。
[27] Tetリプレッサータンパク質若しくはリバースTetリプレッサータンパク質とBphp1若しくはその変異体とが連結された融合タンパク質と、転写活性化因子p65の転写活性化ドメインとQ-PAS1若しくはその変異体とが連結された融合タンパク質とが、T2A自己消化ペプチドで連結されたタンパク質の発現カセット、又は、
Tetリプレッサータンパク質若しくはリバースTetリプレッサータンパク質とBphp1若しくはその変異体とが連結された融合タンパク質と、転写活性化因子p65の転写活性化ドメインとQ-PAS1若しくはその変異体とが連結された融合タンパク質とを、バイシストロニック発現させる発現カセット
を含む、発現ベクター。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るPA-Tet-OFF/ONシステムは、従来のTet-OFF/ONシステムとCry2/CIB1-PA結合スイッチ又はBphP1/Q-PAS1-PA結合スイッチが組み込あわされており、標的遺伝子の発現を、従来のTet系化合物処理のみならず、青色光又は近赤外光の照射処理によっても制御できる。このため、当該システムは、遺伝子発現を時間的及び空間的に正確に制御することができ、空間的な発現制御や迅速な活性制御が要求される各種生物実験のツールとして有用である。
また、本発明に係るPA-Tet-OFF/ONシステム用キットや発現ベクターを用いることにより、より簡便に、前記システムを実施して標的遺伝子の発現を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1において使用したPA-Tet-OFF候補コンストラクトを模式的に示した図である。
図2】(A)は、実施例1においてPA-Tet-OFFコンストラクトであることが確認されたT86コンストラクトを含む発現カセットの模式図を示し、(B)は、実施例1で使用したpTREtight-Ub-ELucレポーターのUb-Eluc発現カセットの模式図を示し、(C)は、TetR(I194T、1-206)-CIB1(-NLS)融合コンストラクトとCry2 PHR(L348F)-p65AD-NLS×2融合コンストラクトを、T2A自己切断ペプチドで連結したタンパク質[TetR(I194T、1-206)-CIB1(-NLS)-T2A-Cry2 PHR(L348F)-p65AD-NLS×2融合コンストラクト]の発現カセットの模式図を示す。
図3】実施例2において、T86コンストラクトを用いて、TetRとCIB1誘導体のリンカー配列のPA-Tet制御発現効率に対する影響を調べた結果を示した図である。
図4】実施例2において、T86コンストラクトを用いて、TetRのI194のアミノ酸置換のPA-Tet制御発現効率に対する影響を調べた結果を示した図である。
図5】実施例3において、T86コンストラクト中のTetR(I194T、1-206)に変異を導入して得たTet非依存性コンストラクト及びPA-Tet-ONコンストラクトについて、暗条件下及び青色光照射時にDox投与又は非投与の条件下でルシフェラーゼアッセイを行って定量された発光シグナル強度の測定結果を示した図である。
図6】実施例3において、T86コンストラクトに変異を導入して得たPA-Tet-OFF-T2Aコンストラクト及びPA-Tet-ON-T2Aコンストラクト、並びに従来のTet-OFF/ONシステムのコンストラクト(tTA-Adコンストラクト及びTet-ON 3Gコンストラクト)について、暗条件下及び青色光照射時にDox投与又は非投与の条件下でルシフェラーゼアッセイを行って定量された発光シグナル強度の測定結果を示した図である。
図7】実施例3において、トランジェントにトランスフェクトされたHEK293T細胞における、PA-Tet-OFFシステム(A)及びPA-Tet-ONシステム(B)のDox濃度依存性転写活性を調べた図である。
図8】実施例4において、PA-Tet-OFF/ONシステムの安定発現株の作製に使用したPA-Tet-OFFコンストラクト/PA-Tet-ONコンストラクトの発現カセット(A)及びTRE3G-Ub-NLS-luc2-Hes1 3’UTRレンチウイルスベクター中のUb-NLS-luc2発現カセット(B)の模式図を示す。
図9】実施例4において、レンチウイルスベクターで安定的に形質導入されたEph4細胞におけるPA-Tet-OFFシステムの青色光強度依存性転写活性を調べた図である。
図10】実施例4において、レンチウイルスベクターで安定的に形質導入されたEph4細胞におけるPA-Tet-ONシステムの、青色光強度依存性及びDox濃度依存性を調べた図である。(A)は青色光強度ごとにまとめて示した図であり、(B)はDox濃度ごとにまとめて示した図であり、(C)は、Y軸方向に青色光強度、X軸方向にDox濃度、Z軸方向に転写活性(発光シグナル強度)をとったマトリクスである。
図11】実施例4において、PA-Tet-ONシステム安定株に対して、6日間、1日1回青色光を照射し、かつ1、3、5日目にのみ、Dox(1,000ng/mL)を培地に添加した実験における、青色光の露光のタイミング(矢頭)とDoxの培地添加のタイミング(上段)、及びPA-Tet-ONシステム安定株の転写活性(発光シグナル強度)の測定結果(下段)を示した図である。
図12】実施例5において、PA-Tet-OFF安定株(Ub-NLS-luc2レポーター)(A)及びPA-Tet-OFF安定株(luc2レポーター)(B)に、青色光パルスを照射し、発光シグナル強度をリアルタイムでモニターした結果を示した図である。
図13】実施例5において、各PA-Tet-OFF/ONシステム安定株について、PA-Tet-OFF/ONシステムにおけるPA-Tet制御遺伝子発現のスイッチオン反応速度の半減期(A)及びスイッチオフ反応速度の半減期(B)の結果を示した図である。
図14】実施例5において、PA-Tet-OFF安定株(Ub-NLS-luc2レポーター)に対して、3時間間隔(A)、6時間間隔(B)、12時間間隔(C)、及び24時間間隔(D)で青色光パルスに繰り返し暴露し、発光シグナル強度をリアルタイムでモニターした結果を示した図である。
図15】実施例6において、PA-Tet-OFF安定株(Ub-NLS-luc2レポーター)に照射したパターン化した青色光の、照射領域と照射タイミングを示した図である。
図16】実施例6において、青色光パルスを照射した10個の標的細胞のmCherry蛍光画像及び生物発光画像(A)と、標的細胞と未照射細胞の発光シグナル強度をモニターした結果を示した図(B)である。
図17】実施例7において、PA-Tet-OFFシステムを導入し、青色光を6時間間隔で周期的に照射した発生中のマウス脳の切片の発光シグナル画像を示した図である。
図18】実施例7において、PA-Tet-OFFシステムを導入し、青色光を6時間間隔で周期的に照射した発生中のマウス脳の切片の発光シグナル強度をリアルタイムでモニターした結果を示した図である。
図19】実施例7において、PA-Tet-OFF/ONシステムの導入に使用したPA-Tet-OFF/ONシステムの導入に使用した2種のコンストラクト、CAG-FLAG-TetR(又はrTetR)-CIBN(-NLS)-T2A-mCherryNLSコンストラクト(図中、「Virus 1」)及びCAG-NLS-attached Cry2 PHR(L348F)-p65 ADN末融合コンストラクト(図中、「Virus 2」)、並びに、2種のレポーター、TRE3G-Ub-NLS-luc2-Hes1 3’UTRレポーター(図中、「Virus 3」)及びTetO-GFPトランスジェニックレポーターマウス系統において発現しているレポーター(図中、「Tg mouse」)の概略図である。
図20】実施例7において、PA-Tet-OFFシステムのコンストラクトが導入された形質転換ニューロンの、青色光パルス照射開始(0時間目)から21時間目までのルシフェラーゼ発現による発光シグナル画像である。
図21】実施例7において、PA-Tet-OFFシステムのコンストラクトが導入された形質転換ニューロンの、ルシフェラーゼ発現による発光シグナル強度を経時的に測定した結果を示した図である。
図22】実施例7において、PA-Tet-ONシステムのコンストラクトが導入された形質転換ニューロンの、ルシフェラーゼ発現による発光シグナル強度を経時的に測定した結果を示した図である。
図23】実施例7において、TRE-GFPトランスジェニックマウスの海馬にPA-Tet-OFFシステムを導入したマウス成体脳の海馬ニューロンに対して、青色光を照射する態様を模式的に示した図である。
図24】実施例7において、図23に示した方法で青色光を照射し、青色光の露光開始から12時間後の脳のうち、青色光を照射しなかった領域の蛍光画像(左列:Dark)と、青色光を照射した領域の蛍光画像(右列:Light)である。
図25】実施例7において、PA-Tet-OFFシステムを導入した後に青色光パルス照射処理を行った仔マウスの脳ニューロンの、ルシフェラーゼ発現による発光シグナル強度を測定した結果を示した図である。
図26】実施例7において、PA-Tet-ONシステムを導入した後に青色光パルス照射処理を行った仔マウスの脳ニューロンの、ルシフェラーゼ発現による発光シグナル強度を測定した結果を示した図である。
図27】実施例7において、Dox処理から1時間後、1日後、2日後、3日後、4日後、及び5日後に青色光パルス照射処理を行ったPA-Tet-OFFシステム導入脳ニューロンの、ルシフェラーゼ発現による発光シグナル強度を測定した結果を示した図である。
図28】実施例8において、PA-Tet-OFF安定株(Ub-NLS-luc2レポーター)が移植された成体マウス背部皮膚の皮下組織の、暗条件(「Dark」)又は青色光照射後(「Light」)のルシフェラーゼ発現による発光シグナル強度を測定した結果を示した図である。
図29】実施例8において、PA-Tet-OFF安定株(Ub-NLS-luc2レポーター)が移植された成体マウス背部皮膚の皮下組織の、Dox非存在下(「Light」)又はDox存在下(「Light+Dox」)における青色光照射後のルシフェラーゼ発現による発光シグナル強度を測定した結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係るPA-Tet-OFF/ONシステムは、従来のTet-OFF/ONシステムのうち、TetR(PA-Tet-ONシステムの場合には、rTetR)と転写活性化ドメインの融合タンパク質に代えて、TetRと転写活性化ドメインとをそれぞれ別の分子とし、両分子の複合体化を、光応答性結合スイッチを利用して制御する。ここで、光応答性結合スイッチは、特定の波長の光が照射された状態でのみ互いに結合してヘテロ二量体を形成する2種類のタンパク質からなるモジュールである。本願明細書においては、ヘテロ二量体を形成する一方のタンパク質を第1のタンパク質、他方のタンパク質を第2のタンパク質という。本発明においては、TetRを第1のタンパク質及び第2のタンパク質のいずれか一方と融合タンパク質としたものを第1の融合タンパク質、転写活性化ドメインを残る他方と融合タンパク質としたものを第2の融合タンパク質とする。第1の融合タンパク質と第2の融合タンパク質に、第1のタンパク質と第2のタンパク質をヘテロ二量体化させる特定の波長の光を照射すると、このヘテロ二量体化を介して第1の融合タンパク質と第2の融合タンパク質が複合体を形成する結果、TetRと転写活性化ドメインが複合体を形成し、Tet系化合物非存在下でTREの下流の標的遺伝子が発現する。当該特定の波長の光を照射していない環境下では、第1のタンパク質と第2のタンパク質のヘテロ二量体は形成されず、標的遺伝子の発現も誘導されない。このように、本発明に係るPA-Tet-OFF/ONシステムは、TetRと転写活性化ドメインの複合体化を光照射によって制御することにより、光照射とTet系化合物の両方によって標的遺伝子の発現を制御できる。
【0013】
例えば、本発明に係るPA-Tet-OFF/ONシステムは、Cry2/CIB1-PA結合スイッチを利用して制御する。すなわち、第1のタンパク質と第2のタンパク質のいずれか一方をCry2又はその変異体とし、他方をCIB1又はその変異体とする。Cry2/CIB1-PA結合スイッチは、シロイヌナズナ由来の青色光応答性ヘテロ二量体形成モジュールであり、青色光を照射すると、Cry2の二量体とCIB1の二量体からなる複合体を形成する。本発明においては、TetRをCry2及びCIB1のいずれか一方と融合タンパク質とし、転写活性化ドメインをCry2及びCIB1のうちの残る他方と融合タンパク質とする。このため、例えば、PA-Tet-OFFシステムは、青色光非照射条件下では、TetRと転写活性化ドメインは複合体を形成せず、Tet系化合物非存在下でもTREの下流の標的遺伝子は発現しないが、青色光を照射すると、Cry2/CIB1がヘテロ二量体を形成する結果、TetRと転写活性化ドメインが複合体を形成し、Tet系化合物非存在下でTREの下流の標的遺伝子が発現する。ただし、Tet系化合物存在下では、TetRと転写活性化ドメインの複合体はTREに結合できず、標的遺伝子は発現しない。
【0014】
例えば、本発明に係るPA-Tet-OFF/ONシステムは、BphP1/Q-PAS1-PA結合スイッチを利用して制御する。すなわち、第1のタンパク質と第2のタンパク質のいずれか一方をBphP1又はその変異体とし、他方をQ-PAS1又はその変異体とする。BphP1/Q-PAS1-PA結合スイッチは、ロドシュードモナス・パルストリス由来の近赤外光応答性ヘテロ二量体形成モジュールであり、近赤外光を照射すると、BphP1とQ-PAS1からなるヘテロ二量体を形成する。本発明においては、TetRをBphP1及びQ-PAS1のいずれか一方と融合タンパク質とし、転写活性化ドメインをBphP1及びQ-PAS1のうちの残る他方と融合タンパク質とする。このため、例えば、PA-Tet-OFFシステムは、近赤外光非照射条件下では、TetRと転写活性化ドメインは複合体を形成せず、Tet系化合物非存在下でもTREの下流の標的遺伝子は発現しないが、近赤外光を照射すると、BphP1/Q-PAS1がヘテロ二量体を形成する結果、TetRと転写活性化ドメインが複合体を形成し、Tet系化合物非存在下でTREの下流の標的遺伝子が発現する。ただし、Tet系化合物存在下では、TetRと転写活性化ドメインの複合体はTREに結合できず、標的遺伝子は発現しない。
【0015】
具体的には、本発明に係るPA-Tet-OFF/ONシステムは、TetO配列を含むTREと、前記TREの下流に位置し、かつ前記TREに制御される最小プロモーターと、前記最小プロモーターの下流に位置し、かつ前記最小プロモーターに発現を制御される標的遺伝子と、を備える標的遺伝子発現カセットと、TetR又はrTetRを含む第1の融合タンパク質をコードする遺伝子を備える第1融合タンパク質発現カセットと、転写活性化因子p65の転写活性化ドメイン(ヒトp65の286~550残基に相当する領域。以下、「p65AD」と示す。)を含む第2の融合タンパク質をコードする遺伝子を備える第2融合タンパク質発現カセットと、を備える。本発明においては、転写活性化ドメインとしてp65ADを用いることにより、VP16の転写活性化ドメインを用いた場合より標的遺伝子の誘導発現量が高い。
【0016】
第1の融合タンパク質は、TetR又はrTetRと第1のタンパク質を含む、すなわち、TetR又はrTetRと第1のタンパク質とが直接又は間接的に連結されている。第1の融合タンパク質中、TetR又はrTetRと第1のタンパク質は、どちらがN末端側であってもよい。第2の融合タンパク質は、p65ADと第2のタンパク質を含む、すなわち、p65ADと第2のタンパク質とが直接又は間接的に連結されている。第2の融合タンパク質中、p65ADと第2のタンパク質は、どちらがN末端側であってもよい。
【0017】
本発明に係るPA-Tet-OFF/ONシステムが、Cry2/CIB1-PA結合スイッチを利用する場合には、TetR又はrTetRを含む第1の融合タンパク質がCIB1又はその変異体を含む場合には、p65ADを含む第2の融合タンパク質がCry2又はその変異体を含む。TetR又はrTetRを含む第1の融合タンパク質がCry2又はその変異体を含む場合には、p65ADを含む第2の融合タンパク質がCIB1又はその変異体を含む。
【0018】
本発明に係るPA-Tet-OFF/ONシステムが、BphP1/Q-PAS1-PA結合スイッチを利用する場合には、TetR又はrTetRを含む第1の融合タンパク質がBphP1又はその変異体を含む場合には、p65ADを含む第2の融合タンパク質がQ-PAS1又はその変異体を含む。TetR又はrTetRを含む第1の融合タンパク質がQ-PAS1又はその変異体を含む場合には、p65ADを含む第2の融合タンパク質がBphP1又はその変異体を含む。
【0019】
本発明及び本願明細書において、Tet系化合物とは、Tetと同様に、TetRとp65ADの複合体に結合することによって当該複合体がTetO配列に結合することを阻害し、また、rTetRとp65ADの複合体に結合することによって当該複合体をTetO配列に結合させる機能を備える化合物であり、Tetとその類縁体が含まれる。Tet類縁体としては、Dox、アンヒドロテトラサイクリン、シアノテトラサイクリン等が挙げられる。
【0020】
本発明において用いられるTetRは、Tetと結合しない状態でTREと結合し、Tetと結合した状態でTREと結合しないタンパク質である。TetRとしては特に限定されるものではなく、例えば、従来のTet-OFF/ONシステムで使用可能なTetRの中から適宜選択して用いることができる。具体的には、Tet耐性微生物が有するTet耐性オペロンのTetR又はその改変体が挙げられ、大腸菌のTetR又はその改変体が従来のTet-OFF/ONシステムでの使用実績が高く好ましい。
【0021】
本発明において用いられるTetRとしては、自然界に存在するいずれかのTet耐性微生物の野生型TetRであってもよいが、大腸菌の野生型TetR(tetracycline repressor protein class B from transposon Tn10)の194番目のイソロイシンに相当するアミノ酸残基がトレオニン残基である変異型TetR(以下、「TetR(I194T)」ということがある。)であることが好ましい。TetR(I194T)は、従来のTet-OFF/ONシステムではTet系化合物により誘導される発現効率は野生型TetRと同程度にすぎないが、本発明に係るPA-Tet-OFF/ONシステムでは、野生型TetRよりもPA-Tet制御発現効率が優れている変異型である。従来のTet-OFF/ONシステムで使用されているTetRに対して、大腸菌の野生型TetRの194番目のイソロイシンに相当するアミノ酸残基をトレオニン残基に置換することにより、本発明に係るPA-Tet-OFF/ONシステムに好適なTetRが得られる。
【0022】
本発明において用いられるrTetRは、Tetと結合した状態でTREと結合し、Tetと結合しない状態でTREと結合しないタンパク質である。rTetRは、TetRに、リバース表現型となる変異を導入することにより得られる。リバース表現型となる変異としては、例えば、rtTA(E71K、D95N、L101S、G102D)、S2(E19G、A56P、D148E、H179R)、M2(S12G、E19G、A56P 、D148E、H179R)、V10(E19G、A56P、F67S、F86Y、D148E、R171K、H179R)、V16(V9I、E19G、A56P、F67S、F86Y、D148E、R171K、H179R)(非特許文献1)等が挙げられる。なお、これらの変異は、大腸菌の野生型TetRのアミノ酸配列に基づく。本発明において用いられるrTetRとしては、標的遺伝子のPA-Tet制御発現効率をより高められることから、M2、V10、又はV16の変異が導入されていることが好ましく、V10変異が導入されていることがより好ましい。
【0023】
I194T変異によるPA-Tet制御発現効率の改善効果は、TetRのみならずrTetRでも奏される。このため、本発明において用いられるrTetRとしては、TetRに、I194Tとリバース表現型となる変異とが導入されたものが好ましく、I194TとM2、V10、又はV16の変異とが導入されたものがより好ましく、I194TとV10変異とが導入されたものがさらに好ましい。
【0024】
本発明及び本願明細書において、標的遺伝子とは、PA-Tet-OFF/ONシステムによって発現を制御する目的の遺伝子である。標的遺伝子は、自然界に存在するいずれかの生物又はウイルスが備える天然の遺伝子であってもよく、これを人工的に改変した遺伝子であってもよく、人工的に設計し合成した遺伝子であってもよい。天然の遺伝子を人工的に改変する方法としては、特に限定されるものではなく、天然の遺伝子がコードするタンパク質の1又は複数個のアミノ酸を置換、付加、又は欠失させたタンパク質をコードする遺伝子へと改変する方法や、2以上のタンパク質を直接又は適当なリンカーを介して連結させた融合タンパク質をコードする遺伝子へと改変する方法等が挙げられる。これらは、遺伝子組換技術を用いて常法により行うことができる。
【0025】
本発明及び本願明細書において、標的遺伝子としては、発現の有無の識別が容易であるため、蛍光タンパク質や、ルシフェラーゼ、β-ガラクトシダーゼ等の酵素マーカーを直接、又はT2A自己消化ペプチドを介して連結させたタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。また、当該標的遺伝子は、蛍光タンパク質や酵素マーカーをコードする遺伝子とIRES(Internal Ribosomal Entry Site)等のバイシストロニック発現エレメントで連結されていてもよい。その他、発現させる目的のタンパク質をユビキチン修飾したタンパク質をコードする遺伝子を標的遺伝子とすることにより、当該タンパク質の細胞内における長期蓄積を抑制することができ、標的遺伝子の発現の時間的制御をより厳密に行うこともできる。
【0026】
本発明及び本願明細書において、発現カセットとは、タンパク質を発現するために必要なDNAであり、少なくとも、当該タンパク質をコードする遺伝子と、当該遺伝子の発現を制御するプロモーターとを含む。本発明において用いられる各種の発現カセットが備えるプロモーターとしては、PA-Tet-OFF/ONシステムを導入して標的遺伝子を発現させる発現系(宿主発現系)の系内で機能するプロモーターであればよく、宿主発現系が由来する細胞が本来有するプロモーターであってもよく、当該細胞以外の生物種の細胞に由来するプロモーターであってもよく、人工的に合成されたプロモーターであってもよい。本発明において用いられる各種の発現カセットが備えるプロモーターとしては、例えば、hCMVプロモーター、SV40プロモーター、CAGプロモーター、EF1αプロモーター等の、各種発現ベクターで使用されているプロモーターが挙げられる。
【0027】
発現カセットには、さらに、発現させる目的の遺伝子の下流にターミネーターが含まれていてもよく、5’-非翻訳領域(UTR)、3’-UTRのいずれか1つ以上が含まれていてもよい。さらに、宿主発現系が真核細胞の発現系の場合、当該遺伝子の下流にポリアデニル化配列を含んでいてもよい。発現カセットに含まれるターミネーター、5’-UTR及び3’-UTR等は、細胞等を用いたタンパク質発現の分野で一般的に使用されているものの中から適宜選択して用いることができる。
【0028】
本発明において用いられる標的遺伝子発現カセットは、TREと、TREの下流に位置する最小プロモーターと、当該最小プロモーターによって転写開始部位が決定される評定遺伝子と、を備える。最小プロモーターとは、転写の開始部位を決定するが、単独では転写を開始することができない部分的プロモーターを意味する。標的遺伝子発現カセット中の最小プロモーターは、TREにTetRと転写活性化ドメインの複合体又はrTetRと転写活性化ドメインの複合体が結合していない状態では標的遺伝子を発現させることができず、TetRと転写活性化ドメインの複合体又はrTetRと転写活性化ドメインの複合体が結合したTREによって活性化されてはじめて標的遺伝子の転写を開始させることができる。標的遺伝子発現カセットが備える最小プロモーターとしては、特に限定されるものではなく、例えば、hCMVプロモーター、SV40プロモーター等のタンパク質発現において汎用されているプロモーターの部分プロモーターを用いることができる。
【0029】
本発明において用いられる標的遺伝子発現カセットは、当該最小プロモーターの上流に位置し、その転写活性を制御するTREと、を備える。TREとしては、1個以上のTetO配列を含むものであれば、特に限定されるものではなく、TetO配列のみからなるものであってもよく、それ以外の領域を含んでいてもよい。TREが複数のTetO配列を備える場合、TetO配列は直接タンデムに連結されていてもよく、適当なDNAリンカーを介して連結されていてもよい。また、TRE中の複数のTetO配列は、全て同一のTetO配列であってもよく、互いに異なる種類のTetO配列であってもよい。例えば、標的遺伝子発現カセット中のTREとしては、従来のTet-OFF/ONシステムで使用可能なTREの中から適宜選択して用いることができる。
【0030】
TetO配列としては、Cry2/CIB1のヘテロ二量体若しくはBphP1/Q-PAS1のヘテロ二量体を介して形成されたTetRとp65ADの複合体がTet系化合物非存在下で結合可能なDNA配列、又はCry2/CIB1のヘテロ二量体若しくはBphP1/Q-PAS1のヘテロ二量体を介して形成されたrTetRとp65ADの複合体がTet系化合物存在下で結合可能なDNA配列であればよい。TetRとp65ADの複合体又はrTetRとp65ADの複合体がTetO配列を介してTREに結合すると、TREの下流にある最小プロモーターが活性化され、標的遺伝子が発現する。本発明において用いられる標的遺伝子発現カセットに含まれるTetO配列は、特に限定されるものではなく、公知のTetO配列の中から適宜選択して用いることができる。TetO配列としては、Tet耐性微生物が有するTet耐性オペロンのTetO配列又はその改変体が挙げられ、大腸菌のTetO配列又はその改変体が従来のTet-OFF/ONシステムでの使用実績が高く好ましい。
【0031】
本発明において用いられる第1融合タンパク質発現カセットは、TetR又はrTetRと第1のタンパク質とを含む第1融合タンパク質を発現させるための発現カセットである。また、第2融合タンパク質発現カセットは、p65ADと第2のタンパク質とを含む第2融合タンパク質を発現させるための発現カセットである。
【0032】
本発明に係るPA-Tet-OFF/ONシステムが、Cry2/CIB1-PA結合スイッチを利用する場合には、第1のタンパク質と第2のタンパク質のいずれか一方をCry2又はその変異体とし、他方をCIB1又はその変異体とする。本発明において用いられる第1融合タンパク質発現カセットは、TetR又はrTetRと、CIB1若しくはその変異体又はCry2若しくはその変異体と、を含む第1融合タンパク質を発現させるための発現カセットである。また、第2融合タンパク質発現カセットは、p65ADと、CIB1若しくはその変異体又はCry2若しくはその変異体と、を含む第2融合タンパク質を発現させるための発現カセットである。第1融合タンパク質が、TetR又はrTetRと、CIB1又はその変異体とを含む融合タンパク質である場合、第2融合タンパク質は、p65ADと、Cry2又はその変異体とを含む融合タンパク質である。逆に、第1融合タンパク質が、TetR又はrTetRと、Cry2又はその変異体とを含む融合タンパク質である場合、第2融合タンパク質は、p65ADと、CIB1又はその変異体とを含む融合タンパク質である。
【0033】
本発明において用いられるCIB1としては、シロイヌナズナの野生型CIB1(AtCIB1:全長335アミノ酸)又はそのホモログタンパク質が挙げられる。本発明において用いられるCIB1の変異体としては、これらのCIB1のC末端欠損体や、核局在シグナル(NLS)の欠損体が挙げられる。NLSは、AtCIB1の93~107番目の領域であり、NLS欠損体としては、NLS中の1以上のアミノ酸を置換した変異体であってもよく、NLS自体を削除した変異体であってもよい。CIB1のC末端欠損体としては、AtCIB1の1~170番目のアミノ酸からなる領域に相当するN末部分タンパク質からなるC末端欠損体、AtCIB1の1~81番目のアミノ酸からなる領域に相当するN末部分タンパク質からなるC末端欠損体が挙げられる。本発明において用いられるCIB1又はその変異体としては、CIB1の全長タンパク質、CIB1のNLS欠損体、AtCIB1の1~170番目のアミノ酸からなる領域に相当するN末部分タンパク質からなるC末端欠損体、AtCIB1の1~170番目のアミノ酸からなる領域に相当するN末部分タンパク質からなり、NLSを欠損させたC末端欠損体、AtCIB1の1~81番目のアミノ酸からなる領域に相当するN末部分タンパク質からなるC末端欠損体が挙げられる。PA-Tet制御発現効率がより高いことから、本発明において用いられるCIB1又はその変異体としては、AtCIB1の1~170番目のアミノ酸からなる領域に相当するN末部分タンパク質からなるCIB1のC末端欠損体、又は当該C末端欠損体中のNLSが欠損した変異体であることが好ましい。
【0034】
本発明において用いられるCry2としては、シロイヌナズナの野生型Cry2(AtCry2:全長612アミノ酸)又はそのホモログタンパク質が挙げられる。本発明において用いられるCry2の変異体としては、これらのCry2のN末端PHRを含むC末端欠損体や、当該C末端欠損体のうち、AtCry2の348番目のロイシンに相当するアミノ酸残基がフェニルアラニンに置換された変異体である、が挙げられる。Cry2のN末端PHRを含むC末端欠損体としては、AtCry2の1~535番目のアミノ酸からなる領域に相当するN末部分タンパク質からなるCry2のC末端欠損体、AtCry2の1~496番目のアミノ酸からなる領域に相当するN末部分タンパク質からなるCry2のC末端欠損体等が挙げられる。PA-Tet制御発現効率がより高いことから、本発明において用いられるCry2又はその変異体としては、AtCry2の1~535番目のアミノ酸からなる領域に相当するN末部分タンパク質からなるCry2のC末端欠損体、AtCry2の1~496番目のアミノ酸からなる領域に相当するN末部分タンパク質からなるCry2のC末端欠損体、又は、AtCry2の1~535番目のアミノ酸からなる領域に相当するN末部分タンパク質に、AtCry2の348番目のロイシンに相当するアミノ酸残基をフェニルアラニンに置換する点変異が導入されたCry2のC末端欠損体が好ましい。
【0035】
本発明において用いられる第1の融合タンパク質は、TetR又はrTetRと、CIB1若しくはその変異体、又はCry2若しくはその変異体とが、直接又は1個以上のアミノ酸からなるペプチドリンカーによって連結されたタンパク質である。第1の融合タンパク質において、CIB1等は、TetR又はrTetRのC末端側に連結されていてもよく、N末端側に連結されていてもよい。ペプチドリンカーの長さは特に限定されるものではなく、例えば、1~25アミノ酸とすることができる。
【0036】
本発明において用いられる第2の融合タンパク質は、p65ADと、CIB1若しくはその変異体、又はCry2若しくはその変異体とが、直接又は1個以上のアミノ酸からなるペプチドリンカーによって連結されたタンパク質である。第2の融合タンパク質において、CIB1等は、p65ADのC末端側に連結されていてもよく、N末端側に連結されていてもよい。
【0037】
PA-Tet制御発現効率がより高いことから、本発明において用いられる第1の融合タンパク質としては、TetR又はrTetRのC末端側にCIB1又はその変異体が、直接又は1個以上のアミノ酸からなるペプチドリンカーによって連結されたタンパク質であることが好ましく、TetR又はrTetRのC末端側に、AtCIB1の1~170番目のアミノ酸からなる領域に相当するN末部分タンパク質からなるCIB1のC末端欠損体、又は当該C末端欠損体中のNLSが欠損した変異体が直接又は1個以上のアミノ酸からなるペプチドリンカーによって連結されたタンパク質であることがより好ましく、TetR又はrTetRのC末端側に、AtCIB1の1~170番目のアミノ酸からなる領域に相当するN末部分タンパク質からなるCIB1のC末端欠損体、又は当該C末端欠損体中のNLSが欠損した変異体が、SPKKK(配列番号13)で表されるアミノ酸配列からなるペプチドリンカーにより連結されたタンパク質であることがさらに好ましい。
【0038】
PA-Tet制御発現効率がより高いことから、本発明において用いられる第2の融合タンパク質としては、p65ADのN末端側又はC末端側に、Cry2又はその変異体が、直接又は1個以上のアミノ酸からなるペプチドリンカーによって連結されたタンパク質であることが好ましく、p65ADのN末端側又はC末端側に、Cry2のN末端PHRを含むC末端欠損体又は当該C末端欠損体にAtCry2の348番目のロイシンに相当するアミノ酸残基をフェニルアラニンに置換する点変異が導入された変異体が、直接又は1個以上のアミノ酸からなるペプチドリンカーによって連結されたタンパク質であることがより好ましく、p65ADのN末端側又はC末端側に、AtCry2の1~535番目のアミノ酸からなる領域に相当するN末部分タンパク質からなるCry2のC末端欠損体、AtCry2の1~496番目のアミノ酸からなる領域に相当するN末部分タンパク質からなるCry2のC末端欠損体、又は、AtCry2の1~535番目のアミノ酸からなる領域に相当するN末部分タンパク質に、AtCry2の348番目のロイシンに相当するアミノ酸残基をフェニルアラニンに置換する点変異が導入されたCry2のC末端欠損体が、直接又は1個以上のアミノ酸からなるペプチドリンカーによって連結されたタンパク質であることがさらに好ましく、p65ADのC末端側に、AtCry2の1~535番目のアミノ酸からなる領域に相当するN末部分タンパク質からなるCry2のC末端欠損体、又はAtCry2の1~496番目のアミノ酸からなる領域に相当するN末部分タンパク質からなるCry2のC末端欠損体が、直接又は1個以上のアミノ酸からなるペプチドリンカーによって連結されたタンパク質であることがよりさらに好ましく、p65ADのN末端側に、AtCry2の1~535番目のアミノ酸からなる領域に相当するN末部分タンパク質に、AtCry2の348番目のロイシンに相当するアミノ酸残基をフェニルアラニンに置換する点変異が導入されたCry2のC末端欠損体が、直接又は1個以上のアミノ酸からなるペプチドリンカーによって連結されたタンパク質であることも好ましい。
【0039】
本発明に係るPA-Tet-OFF/ONシステムが、BphP1/Q-PAS1-PA結合スイッチを利用する場合には、第1のタンパク質と第2のタンパク質のいずれか一方をBphP1又はその変異体とし、他方をQ-PAS1又はその変異体とする。本発明において用いられる第1融合タンパク質発現カセットは、TetR又はrTetRと、BphP1若しくはその変異体又はQ-PAS1若しくはその変異体と、を含む第1融合タンパク質を発現させるための発現カセットである。また、第2融合タンパク質発現カセットは、p65ADと、BphP1若しくはその変異体又はQ-PAS1若しくはその変異体と、を含む第2融合タンパク質を発現させるための発現カセットである。第1融合タンパク質が、TetR又はrTetRと、BphP1又はその変異体とを含む融合タンパク質である場合、第2融合タンパク質は、p65ADと、Q-PAS1又はその変異体とを含む融合タンパク質である。逆に、第1融合タンパク質が、TetR又はrTetRと、Q-PAS1又はその変異体とを含む融合タンパク質である場合、第2融合タンパク質は、p65ADと、BphP1又はその変異体とを含む融合タンパク質である。
【0040】
本発明において用いられるBphP1としては、ロドシュードモナス・パルストリスの野生型BphP1(RpBphP1:配列番号21、非特許文献27)又はそのホモログタンパク質が挙げられる。本発明において用いられるBphP1の変異体としては、これらのBphP1のQ-PAS1とのヘテロ二量体形成に影響しない領域の欠損体や当該領域に変異を導入した変異体が挙げられる。導入される変異としては、例えば、1又は複数のアミノ酸を置換、挿入、欠損させる変異が挙げられる。
【0041】
本発明において用いられるQ-PAS1としては、ロドシュードモナス・パルストリスの野生型PpsR2(RpPpsR2:非特許文献26)のQ-linkerとPAS1からなる領域、具体的には、101~251番目のアミノ酸残基からなる部分タンパク質RpQ-PAS1(配列番号22、非特許文献28及び29)、又はRpPpsR2のホモログタンパク質の、Q-linkerとPAS1からなる領域に相当する部分タンパク質が挙げられる。
【0042】
本発明において用いられる第1の融合タンパク質は、TetR又はrTetRと、BphP1若しくはその変異体、又はQ-PAS1若しくはその変異体とが、直接又は1個以上のアミノ酸からなるペプチドリンカーによって連結されたタンパク質である。第1の融合タンパク質において、BphP1等は、TetR又はrTetRのC末端側に連結されていてもよく、N末端側に連結されていてもよい。ペプチドリンカーの長さは特に限定されるものではなく、例えば、1~25アミノ酸とすることができる。
【0043】
本発明において用いられる第2の融合タンパク質は、p65ADと、BphP1若しくはその変異体、又はQ-PAS1若しくはその変異体とが、直接又は1個以上のアミノ酸からなるペプチドリンカーによって連結されたタンパク質である。第2の融合タンパク質において、BphP1等は、p65ADのC末端側に連結されていてもよく、N末端側に連結されていてもよい。
【0044】
PA-Tet制御発現効率がより高いことから、本発明において用いられる第1の融合タンパク質としては、TetR又はrTetRのN末端側又はC末端側にBphP1又はその変異体が、直接又は1個以上のアミノ酸からなるペプチドリンカーによって連結されたタンパク質であることが好ましく、TetR又はrTetRのN末端側に、BphP1が直接又は1個以上のアミノ酸からなるペプチドリンカーによって連結されたタンパク質であることがより好ましく、TetR又はrTetRのN末端側に、RpBphP1が、SPKKK、HMEF(配列番号23)、TSTR(配列番号24)、SPKKKHMEF(配列番号25)で表されるアミノ酸配列からなるペプチドリンカーにより連結されたタンパク質であることがさらに好ましい。
【0045】
PA-Tet制御発現効率がより高いことから、本発明において用いられる第2の融合タンパク質としては、p65ADのN末端側又はC末端側に、Q-PAS1又はその変異体が、直接又は1個以上のアミノ酸からなるペプチドリンカーによって連結されたタンパク質であることが好ましく、p65ADのN末端側に、Q-PAS1が、直接又は1個以上のアミノ酸からなるペプチドリンカーによって連結されたタンパク質であることがより好ましく、p65ADのN末端側に、RpQ-PAS1が、直接又は1個以上のアミノ酸からなるペプチドリンカーによって連結されたタンパク質であることがさらに好ましく、p65ADのN末端側に、RpQ-PAS1が、HMEF又はTSTRで表されるアミノ酸配列からなるペプチドリンカーによって連結されたタンパク質であることがよりさらに好ましい。
【0046】
本発明で用いられる第1の融合タンパク質及び第2の融合タンパク質は、本発明の効果を損なわない限り、その他のペプチド及びタンパク質が付加されていてもよい。例えば、第1の融合タンパク質が、TetR又はrTetRのC末端側に、AtCIB1の1~170番目のアミノ酸からなる領域に相当するN末部分タンパク質中のNLSを欠損させた変異体が直接又は1個以上のアミノ酸からなるペプチドリンカーによって連結されたタンパク質である場合、第2の融合タンパク質としては、N末端又はC末端に1個以上のNLSが付加されたタンパク質であることが好ましい。また、第2の融合タンパク質が、p65ADとQ-PAS1が直接又は1個以上のアミノ酸からなるペプチドリンカーによって連結されたタンパク質である場合、第2の融合タンパク質としては、N末端又はC末端に1個以上のNLSが付加されたタンパク質であることが好ましく、N末端に1個以上のNLSが付加されたタンパク質であることがより好ましい。
【0047】
本発明に係るPA-Tet-OFF/ONシステムは、第1融合タンパク質発現カセットと第2融合タンパク質発現カセットに代えて、第1の融合タンパク質と第2の融合タンパク質がT2A自己消化ペプチドで連結されたタンパク質の発現カセットを備えていてもよい。第1の融合タンパク質の下流にT2A自己消化ペプチドを介して第2の融合タンパク質が連結されていてもよく、第2の融合タンパク質の下流にT2A自己消化ペプチドを介して第1の融合タンパク質が連結されていてもよい。また、T2A自己消化ペプチドで連結される第1の融合タンパク質と第2の融合タンパク質としては、いずれも前記の通りのものを用いることができる。
【0048】
本発明に係るPA-Tet-OFF/ONシステムは、第1融合タンパク質発現カセットと第2融合タンパク質発現カセットに代えて、第1の融合タンパク質と第2の融合タンパク質をバイシストロニック発現させる発現カセットを備えていてもよい。第1の融合タンパク質と第2の融合タンパク質をバイシストロニック発現させる発現カセットは、第1の融合タンパク質をコードする領域と前記第2の融合タンパク質をコードする領域とを、IRES等のバイシストロニック発現エレメントで連結する等の常法により製造できる。第1の融合タンパク質をコードする領域の下流にバイシストロニック発現エレメントを介して第2の融合タンパク質をコードする領域が連結されていてもよく、第2の融合タンパク質をコードする領域の下流にバイシストロニック発現エレメントを介して第1の融合タンパク質をコードする領域が連結されていてもよい。バイシストロニック発現させる第1の融合タンパク質と第2の融合タンパク質としては、いずれも前記の通りのものを用いることができる。
【0049】
本発明に係るPA-Tet-OFF/ONシステムを導入した発現系に対して、青色光又は近赤外光の照射の有無、及びTet系化合物処理の有無を調整することにより、当該発現系における標的遺伝子の発現を制御することができる。第1の融合タンパク質がTetRを含むPA-Tet-OFFシステムを導入した発現系の場合には、Tet系化合物非存在下で青色光又は近赤外光を照射することにより、標的遺伝子を発現させることができ、照射する青色光又は近赤外光の照射強度を高めることにより、標的遺伝子の発現効率を向上させることができる。第1の融合タンパク質がrTetRを含むPA-Tet-ONシステムを導入した発現系の場合には、Tet系化合物を添加し、かつ青色光又は近赤外光を照射することにより、標的遺伝子を発現させることができ、照射する青色光又は近赤外光の照射強度を高めたり、Tet系化合物の濃度を高めたりすることにより、標的遺伝子の発現効率を向上させることができる。
【0050】
本発明に係るPA-Tet-OFF/ONシステムを導入する発現系としては、細胞であってもよく、セルフリー系であってもよい。また、細胞の場合、培養細胞であってもよく、動物の生体内の細胞であってもよく、動物から採取された組織中の細胞であってもよい。本発明に係るPA-Tet-OFF/ONシステムは、動物細胞又は動物細胞に由来するセルフリー発現系での発現に好適であり、哺乳動物細胞又は哺乳動物細胞に由来するセルフリー発現系での発現に特に好適である。
【0051】
本発明に係るPA-Tet-OFF/ONシステムは、青色光又は近赤外光を照射した領域でのみ標的遺伝子の発現が誘導される。このため、例えば、青色光等を照射する領域や照射タイミングを適宜調整することにより、限定された空間内においてのみ、所望のタイミングで標的遺伝子の発現を誘導することができる。
【0052】
本発明に係るPA-Tet-OFF/ONシステムが、BphP1/Q-PAS1-PA結合スイッチを利用する場合、BphP1とQ-PAS1のヘテロ二量体は、BVを使用して形成される。この際用いられるBVは、真核生物の内在性BVを用いることができるが、外部からBVを導入することも好ましい。十分なBVが存在することにより、近赤外光に対してより高感度にヘテロ二量体を形成でき、標的遺伝子を発現させることができる。標的遺伝子を発現させる対象の細胞内へのBVの導入は、BV自体をマイクロインジェクション等で直接導入してもよく、細胞内においてBVの生合成を促進する機能を持つタンパク質をコードする遺伝子を導入してもよい。
【0053】
本発明に係るPA-Tet-OFF/ONシステムを発現系へ導入する方法は、特に限定されるものではない。例えば、各発現カセットを、適切なベクターに組み込み、これらのベクターを発現系に常法により導入させることにより、本発明に係るPA-Tet-OFF/ONシステムを発現系へ導入できる。例えば、前記標的遺伝子発現カセットを組み込んだ発現ベクターと、前記第1融合タンパク質発現カセットを含む発現ベクターと、前記第2融合タンパク質発現カセットを含む発現ベクターと、を発現系へ導入する。また、前記標的遺伝子発現カセットを組み込んだ発現ベクターと、前記第1の融合タンパク質と前記第2の融合タンパク質がT2A自己消化ペプチドで連結されたタンパク質をコードする遺伝子の発現カセットを含む発現ベクターと、を発現系へ導入してもよく、前記標的遺伝子発現カセットを組み込んだ発現ベクターと、前記第1の融合タンパク質及び前記第2の融合タンパク質をバイシストロニック発現させる発現カセットを含む発現ベクターと、を発現系へ導入してもよい。
【0054】
発現系がセルフリー発現系の場合、各発現カセットをそのまま発現系に添加することができる。発現系が動物細胞の場合、動物細胞の種類に応じて、適切なベクターを選択し、遺伝子組換技術によって各発現カセットを組み込んだベクターを、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、電気穿孔法(electroporation)法等の一般的に使用されている方法で目的の細胞に導入することができる。当該ベクターとしては、プラスミドベクター、レトロウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター等の公知のベクターを利用することができる。
【0055】
本発明に係るPA-Tet-OFF/ONシステムを構成する各発現カセットの全部又は一部は、動物細胞の染色体内に組み込まれていてもよい。各発現カセットの染色体への組み込みは、相同組み換え法等の通常のノックイン技術で行うことができる。
【0056】
前記第1融合タンパク質発現カセットを含む発現ベクターと前記第2融合タンパク質発現カセットを含む発現ベクターに、TREと、当該TREの下流に位置し、かつ当該TREに制御される最小プロモーターと、当該最小プロモーターの下流に位置し、標的遺伝子を組み込むためのマルチクローニングサイトとを含む標的遺伝子発現用ベクターを組み合わせたキットは、標的遺伝子を発現させるPA-Tet-OFF/ONシステムを構築するためのキットとして有用である。標的遺伝子発現用ベクターとしては、従来のTet-OFF/ONシステムで使用されていたTRE搭載ベクターと同様のものをそのまま用いることもできる。
【0057】
本発明に係るPA-Tet-OFF/ONシステムが、Cry2/CIB1-PA結合スイッチを利用する場合には、PA-Tet制御発現効率がより高いことから、PA-Tet-OFF/ONシステム用キットに含まれる前記第1融合タンパク質発現カセットを含む発現ベクターとしては、TetR又はrTetRと、CIB1又はその変異体とが連結された第1の融合タンパク質をコードする遺伝子を備える第1融合タンパク質発現カセットを含む発現ベクターが好ましく、前記第2融合タンパク質発現カセットを含む発現ベクターとしては、p65ADと、Cry2又はその変異体とが連結された第2の融合タンパク質をコードする遺伝子を備える第2融合タンパク質発現カセットを含む発現ベクターが好ましい。また、前記第1融合タンパク質発現カセットを含む発現ベクター及び前記第2融合タンパク質発現カセットを含む発現ベクターに代えて、TetR又はrTetRとCIB1又はその変異体とが連結された融合タンパク質と、p65ADとCry2又はその変異体とが連結された融合タンパク質とが、T2A自己消化ペプチドで連結されたタンパク質の発現カセットを含む発現ベクターを含むキットも好ましい。前記第1融合タンパク質発現カセットを含む発現ベクター及び前記第2融合タンパク質発現カセットを含む発現ベクターに代えて、TetR又はrTetRとCIB1又はその変異体とが連結された融合タンパク質と、p65ADとCry2又はその変異体とが連結された融合タンパク質とをバイシストロニック発現させる発現カセットを含む発現ベクターを含むキットも好ましい。
【0058】
本発明に係るPA-Tet-OFF/ONシステムが、BphP1/Q-PAS1-PA結合スイッチを利用する場合には、PA-Tet制御発現効率がより高いことから、PA-Tet-OFF/ONシステム用キットに含まれる前記第1融合タンパク質発現カセットを含む発現ベクターとしては、TetR又はrTetRと、BphP1又はその変異体とが連結された第1の融合タンパク質をコードする遺伝子を備える第1融合タンパク質発現カセットを含む発現ベクターが好ましく、前記第2融合タンパク質発現カセットを含む発現ベクターとしては、p65ADと、Q-PAS1又はその変異体とが連結された第2の融合タンパク質をコードする遺伝子を備える第2融合タンパク質発現カセットを含む発現ベクターが好ましい。また、前記第1融合タンパク質発現カセットを含む発現ベクター及び前記第2融合タンパク質発現カセットを含む発現ベクターに代えて、TetR又はrTetRとBphP1又はその変異体とが連結された融合タンパク質と、p65ADとQ-PAS1又はその変異体とが連結された融合タンパク質とが、T2A自己消化ペプチドで連結されたタンパク質の発現カセットを含む発現ベクターを含むキットも好ましい。前記第1融合タンパク質発現カセットを含む発現ベクター及び前記第2融合タンパク質発現カセットを含む発現ベクターに代えて、TetR又はrTetRとBphP1又はその変異体とが連結された融合タンパク質と、p65ADとQ-PAS1又はその変異体とが連結された融合タンパク質とをバイシストロニック発現させる発現カセットを含む発現ベクターを含むキットも好ましい。
【実施例
【0059】
次に、実施例等により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0060】
<コンストラクト>
以降の実験において用いたコンストラクトは、以下の通りに作製した。
PA-Tet-OFF候補コンストラクトの機能的スクリーニングのために、TetR(配列番号1)のDNA結合、二量体化、及びTet結合ドメイン(TetRの1~206残基。以下、「TetR(1-206)」と示す。)、及びp65AD(配列番号2)を、それぞれpLVPT-tTR-KRAB(プラスミド#11642、Addgene社製)(非特許文献12)及びpEF-hGAVPO(非特許文献2及び13)を用いて増幅した。Cry2(配列番号3)の変異体(Cry2 PHR、Cry2 PHR(L348F)、Cry2 535、及びCry2535(L348F))とCIB1(配列番号4)及びその変異体(核局在配列[NLS]なしのCIB1、CIBN、NLSなしのCIBN、及びCIB81)とをコードする哺乳類コドンに最適化された配列からなる核酸は、FASMAC社によって合成された(非特許文献10、11、及び14)。フレキシブルリンカーの配列を検証するために、S2A点突然変異を有するtTA-Ad(pTet-OFF Advanced、Clontech/TAKARA社製)由来の配列を使用した。tTA-Ad(S2A、1~206残基)によってコードされたアミノ酸配列は、TetR(1~206残基)のアミノ酸配列と同一であった。これらの配列を用いて、TetR(1~206残基)又はp65ADを、Cry2変異体又はCIB1変異体に融合させ、さらなる点変異、NLS、T2A、又はFLAG(登録商標)タグの配列を、コンベンショナルオーバーラップポリメラーゼ連鎖反応(PCR)伸長、制限酵素消化、及びライゲーション法により、導入又は付加した。これらのコンストラクトを、ヒト伸長因子1aプロモーター配列及びポリアデニル化配列を含む発現ベクタープラスミド(pEF-BOS)及びその変異体(非特許文献15)にクローニングした。全ての調製されたコンストラクトは、DNA配列決定により確認した。
【0061】
PA-Tet-ON候補コンストラクトを生成するために、以下のリバース表現型(変異型)突然変異を有するTetR配列を合成した:rtTA(E71K、D95N、L101S、G102D)、S2(E19G、A56P、D148E、H179R)、M2(S12G、E19G、A56P 、D148E、H179R)、V10(E19G、A56P、F67S、F86Y、D148E、R171K、H179R)、V16(V9I、E19G、A56P、F67S、F86Y、D148E、R171K、H179R)(非特許文献1)。次に、これらの配列を、PA-Tet-OFFプラスミドのTetR配列と置換した。PA-Tet-OFF/ON活性のためのレポータープラスミドは、Pyrearinus termitilluminansエメラルドルシフェラーゼ(Eluc)(TOYOBO社製)を用いて作製した。Elucを迅速に分解させて細胞内におけるレポーターの長期蓄積を防ぐために、ElucのN末端に、1コピーの変異型ユビキチン(G76V)に融合させた(非特許文献16)。Ub-Elucコード配列をTREtightプラスミド(Clontech/TAKARA社製)に挿入した(pTREtight-Ub-ELucレポーター)。
【0062】
レンチウイルスベクターのためのプラスミド構築において、PA-Tetコンストラクトのコード配列を、CSII-EF-MCSプラスミド、CSII-EF-MCS-IRES2-Bsdプラスミド、CSII-EF-MCS-IRES2-mCherryNLSプラスミド、又はCSII-CAG-MCSプラスミドのマルチクローニングサイトに挿入した(非特許文献2及び17)。Bsdはブラストサイジン耐性遺伝子である。 CSII-EF-MCSは、伸長因子(EF)プロモーターを除去するためにAgeIで消化し、LTR(long terminal repeat)を介した転写の影響をさけるために、TRE3G配列(Clontech/TAKARA社製)及びマウスHes1遺伝子の3’-非翻訳領域(UTR)を逆向きにクローニングした。Ub-NLS-luc2(ユビキチン化し、NLSを付加した、不安定化ホタルルシフェラーゼ)又はluc2をコードする配列を、TRE3G配列の直後に挿入した。以下、Ub-NLS-luc2をコードする配列を挿入したものをTRE3G-Ub-NLS-luc2-Hes1 3’UTRレンチウイルスベクターといい、luc2をコードする配列を挿入したものをTRE3G-luc2-Hes1 3’UTRレンチウイルスベクターという。
【0063】
アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターのプラスミドコンストラクトにおいて、FLAG-TetR(I194T、1~206残基)-CIBN(NLSなし)-T2A-mCherryNLSコンストラクト又はNLS付加Cry2 PHR(L348F)-p65 ADのN末融合コンストラクトを、pAAV-CAG-ArchT-GFP(plasmid #29777、Addgene社製)のマルチクローニングサイトに、BamHI及びEcoRI消化によってArchT-GFP配列を除去して挿入した。TREによって制御されたGFPレポータープラスミドは、ITR(inverted terminal repeats)に隣接した発現カセットを作成するために、pFBAAVベクター(非特許文献18)に、TRE3Gs配列と、不安定化シグナルを含むsfGFP(非特許文献19)のcDNAと、ポリAシグナル配列とを挿入することにより構築した(pFBAAV-TRE3G-GFP-pest-SV40pA)。
【0064】
また、RpBphP1(非特許文献27)及びQ-PAS1(非特許文献28及び29)をコードする哺乳類コドンに最適化された配列からなる核酸は、FASMAC社によって合成された。これらの核酸を用いて、TetR(1~206残基)及びp65AD又はこれらの各種改変体と融合させたコンストラクトを、pEF-BOS及びその変異体にクローニングした。全ての調製されたコンストラクトは、DNA配列決定により確認した。その他のウイルスベクターも前記と同様にして作製した。
【0065】
<細胞培養>
以降の実験において、特段の記載がない限り、細胞培養は以下の通りに行った。
HEK293T細胞及びEph4細胞(ATCC[American Type Culture Collection])は、10%ウシ胎児血清(FBS)(Hyclone、Thermo社製)及び100units/mLのペニシリン及び100mg/mLのストレプトマイシン(いずれも、ナカライテスク社製)を補充したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(ナカライテスク社製又はGIBCO社製)中で、37℃及び5%CO環境下で培養した。HEK293T細胞及びEph4細胞は、それぞれ、0.05%及び0.25%のトリプシン/EDTA(ナカライテスク社製又はGIBCO社製)を用いて継代した。
【0066】
<レンチウイルスのパッケージング>
以降の実験において、特段の記載がない限り、レンチウイルスのパッケージングは以下の通りに行った。
レンチウイルス粒子は、非特許文献2及び非特許文献17等に記載された方法を使用して、パッケージングプラスミドをリン酸カルシウムコトランスフェクション又はリポフェクションを介して導入したHEK293T細胞によって産生された。上清の回収はトランスフェクションの24時間後から開始し、36時間まで行い、6,000gで16時間遠心分離して濃縮した。 得られたウイルスペレットを、最初の容量の1/100から1/500でリン酸緩衝生理食塩水(PBS)又は生理食塩水に再懸濁し、ウイルスアリコートを凍結させた。ウイルス力価は約10~10IU(infectious units)/mLであった。 培養細胞を、MOI(multiplicity of infection)が10~20の精製レンチウイルス粒子に感染させた。形質導入された細胞は、Bsdを共発現するレンチウイルスベクターについてはブラストサイジンS(2μg/mL、Invitrogen社製)により、mCherryを共発現するレンチウイルスベクターについては蛍光活性化細胞選別によって選択した。
【0067】
<光源>
以降の実験において、特段の記載がない限り、光源は以下のものを使用した。
COインキュベーター内で培養細胞を青色光照射するために、LED光源(LEDB-SBOXH、OptoCode社製)を使用した。 顕微鏡下での青色光照明(パターン化された光のアプリケーションを除く。)では、470nmのLAMを備えたpE-2 LED励起システム(CoolLED)によって青色光が生成された。脳の神経細胞に青色光(465nm)を当てるためには、ペンライト(Handy Blue Pro Plus、RelyOn社製)又はPlexBright(Plexon社製)によって青色光を送達した。
【0068】
<パターン化された光のアプリケーション>
青色発光ダイオード(X-Cite(登録商標)120LED、Excelitas Technologies社製)に備えられたモザイク3パターンイルミネータ(Andor Instruments、Belfast社製)を顕微鏡に取り付け、対物レンズを通しての光の供給に使用した。
【0069】
<ルシフェラーゼアッセイ>
以降の実験において、特段の記載がない限り、溶解した細胞のルシフェラーゼ活性は、ルシフェラーゼアッセイシステム(Promega社製)を用い、この製造業者のプロトコールに従ってアッセイした。
【0070】
<ルシフェラーゼ活性の生細胞モニタリング>
以降の実験において、特段の記載がない限り、ルシフェラーゼ活性の生細胞モニタリングは、以下の通りに行った。
集団レベルでの発光シグナルは、高感度光電子増倍管(PMT)及びLED青色光源(LEDB-SBOXH、OptoCode社製)を備えた生細胞モニタリングシステム(CL24B-LIC/B、Churitsu Electric 社製)によって記録した。細胞は、1mM ルシフェリン含有培地を含む黒色24ウェルプレート上に播種し、光子計数測定を行った。
【0071】
<PA-Tet制御遺伝子発現の活性化及び不活性化の反応速度の推定>
PA-Tet-OFFシステム及びPA-Tet-ONシステムにおけるPA-Tet制御遺伝子発現のスイッチオン/オフの反応速度の半減期は、以下の3つのステップを用いて決定した。
第1に、光刺激とは独立した活動の線形傾向を除去するために、各波形を割り出した。デトレンド処理では、波形の中央絶対偏差よりも少ないデータ点で線形回帰を行い、回帰によって予測された値を波形の全ての点から差し引いた。第2に、光刺激によって誘導されたイベントエポックは、波形の各値を確率的閾値と比較することによって推定された。確率的閾値では、波形ベクトルの長さが同じ乱数をガウス分布から生成した。確率的閾値は、全ての分析において同じ方法によって生成された。波形の各値は、対応する時点での閾値と比較された。このプロセスを100回反復し、閾値を超える確率が50%を超える時点を事象(すなわちPA-Tet制御遺伝子発現)として処理した。最後に、τonとτoffの値は、イベントエポックの開始からピークまでの期間、及びイベントエポックのピークから終了までの期間として推定された。PA-Tet制御遺伝子発現のスイッチオン/オフ反応速度の半減期は、τon及びτoff値を用いて計算した。
【0072】
<ルシフェラーゼイメージング>
以降の実験において、特段の記載がない限り、ルシフェラーゼイメージングは、以下の通りに行った。
細胞を50~60%コンフルエントで35mmガラスベースディッシュ上に播種し、37℃及び5%COでインキュベートした。次いで、1mM ルシフェリンを培地に添加した。 バイオルミネセンス画像を、20倍又は40倍のディッピング対物レンズを備えた直立顕微鏡(IX83、Olympus社製)によって取得した。冷却したCCDカメラ(iKon-M DU934P-BV、Andor社製)を用いてデジタル画像を取得した。フィルタ及びカメラコントロールは、ソフトウェア(MetaMorph(登録商標)、Universal Imaging社製)を用いて自動的に調節された。迷光は、電気システムをオフにすることによって除去された。イメージングシステムは、暗室で使用した。
【0073】
<画像解析と定量>
以降の実験において、特段の記載がない限り、画像解析と定量は、以下の通りに行った。
画像解析は、ImageJソフトウェアとカスタムプラグイン(非特許文献2及び22)を使用して行った。この調査で使用されているImageJプラグインのカスタムコードは、要望に応じて入手できる。生物発光イメージングシーケンスファイルを解析するために、スタックファイルに「スパイクノイズフィルタ」を適用して宇宙線に起因するノイズ信号を除去した。CCD読み出しノイズも「時間的バックグラウンド低減フィルタ」によって除去された。この正規化手順では、各時間フレームの撮像領域の外で測定されたバックグラウンド値を信号強度から差し引いた。「サーカディアン遺伝子発現」(CGE)(http://bigwww.epfl.ch/sage/soft/circadian/)は、個々の細胞を追跡して生物発光シグナルを定量した。核局在mCherryを共発現させ、動く細胞を検出して追跡するために使用した。核内の平均シグナル強度を測定し、Prism(登録商標)5.0ソフトウェア(GraphPad Software社製)で解析した。
【0074】
<免疫蛍光染色>
以降の実験において、特段の記載がない限り、免疫蛍光染色は、以下の通りに行った。
細胞又は組織をPBSで洗浄し、室温で20分間、4% パラホルムアルデヒド/PBSで固定した。固定した細胞をPBSで洗浄し、室温で20分間、5%正常ロバ血清(NDS)及び0.1% Triton X-100/PBSでブロック及び透過処理し、1% NDSを含むPBSで希釈した一次抗体と4℃で一晩インキュベートした。次いで、PBSで洗浄し、Alexa 405、Alexa 488、又はAlexa 594(Invitrogen社製)に結合した通常の二次抗体と室温で1時間インキュベートした。染色された細胞又は組織を、LSM510又はLSM780共焦点顕微鏡(Zeiss社製)で撮影した。一次抗体は以下のものを使用した:マウスモノクローナル抗MAP2抗体(M4403、Sigma社製)、ウサギポリクローナル抗GFP抗体(A11122、ThermoFisher社製)、及びマウスモノクローナル抗NeuN抗体(MAB377、Millipore社製)。
【0075】
<PA-Tet-OFF/ONの特性評価>
以降の実験において、特段の記載がない限り、PA-Tet-OFF/ONの特性評価は以下の通りに行った。
【0076】
(1)PA-Tet-OFF候補コンストラクトの機能スクリーニング
PA-Tet-OFF候補コンストラクトの機能スクリーニングのために、HEK293T細胞を5~9×10細胞/ウェルで24ウェルプレートに播種し、37℃、5%COで24時間培養した。次に、当該細胞を、製造者のプロトコールに従ってLipofectamine(登録商標)LTX(Invitrogen社製)又はポリエチレンイミン(Polysciences社製)でトランスフェクトした。Cry2/CIB変異体と融合したpEF-TetR(1-206)、Cry2/CIB変異体と融合したpEF-p65AD、及びpTREtight-Ub-ELucレポーターの3つのプラスミドを、25:25:8(質量比)でコトランスフェクトした。DNAの総量は0.58μg/ウェルとした。トランスフェクションから48時間後、細胞を青色光(7.2W/m;1分ごとに2秒間パルス)に3時間曝露した。その後、当該細胞を溶解し、それらのルシフェラーゼ活性をプレートリーダー(ARVO X3、Perkin Elmer社製)で測定した。対照細胞は、プラスミドトランスフェクション後に暗所に保持した。T2A配列を有するコンストラクトの分析のために、発現ベクター、pBS(pBluescriptプラスミド)、及びレポーターを25:25:8(質量比)で混合し、コトランスフェクトした。pBSを用いて、トランスフェクトされたDNAの総量を調整した。
【0077】
(2)光照射強度と誘導された遺伝子発現レベルとの関係の分析
光照射強度と誘導された遺伝子発現レベルとの関係を分析するために、PA-Tet-OFF及びTRE3G-Ub-NLS-luc2-Hes1 3’UTRレンチウイルスベクター(図8(B))で形質導入したEph4細胞安定クローンを、5~9×10細胞/ウェルで24ウェルプレートに播種し、24時間培養し、候補コンストラクトスクリーニングと同一の方法でアッセイした。青色光(7.2W/m;1分ごとに2秒間パルス)を、細胞に3時間、0、1.7、3.5、5.5、及び7.0W/mの放射照度で照射した。
【0078】
(3)Dox濃度と誘導された遺伝子発現レベルとの関係の分析
Dox濃度と誘導された遺伝子発現レベルとの関係を分析するために、HEK293T細胞を、5~9×10細胞/ウェルで24ウェルプレートに播種し、トランスフェクトし、候補コンストラクトスクリーニングと同様にアッセイした。Doxを、PA-Tet-OFFコンストラクトについては0、1、7.5、15、20、50、及び100ng/mLの濃度で、PA-Tet-ON構築物については0、10、15、20、30、35、40、50、75,100、及び250ng/mLの濃度で、細胞にアプライした。青色光(7.2W/m;1分ごとに2秒間パルス)は、細胞に3時間照射した。
【0079】
(4)光強度及びDox濃度による二重対照の分析
光強度及びDox濃度による二重対照を調べるために、PA-Tet-ON及びTRE3G-Ub-NLS-luc2-Hes1 3’UTRレンチウイルスベクターで形質導入した安定細胞クローンを、1×10細胞/ウェルで24ウェルプレートに播種し、24時間培養した。Doxを、0、50、75、87.5、92.5、100、250、及び500ng/mLの濃度で、細胞にアプライした。 青色光(7.2W/m;1分ごとに2秒間パルス)は、細胞に3時間、0、1.8、3.6、5.9、及び7.1W/mの放射照度で照射した。
【0080】
(5)PA-Tet-OFF/ONの時間的特性の評価
PA-Tet-OFF/ONの時間的特性を調べるために、トランスフェクトしたHEK293T細胞又はレンチウイルス形質導入Eph4細胞を使用した。細胞を、1×10細胞/ウェルで黒色24ウェルプレート上に播種し、1~2分間青色光(7.2W/m)に曝露した。集団レベルでの発光シグナルを、生細胞モニタリングシステム(CL24B-LIC/B、Churitsu Electric社製)によって記録した。
【0081】
(6)遺伝子発現を空間的に制御するPA-Tet-OFF/ONシステムの能力の測定
標的細胞における遺伝子発現を空間的に制御するPA-Tet-OFF/ONシステムの能力を調べるために、レンチウイルスで形質導入されたEph4細胞を、50~60%コンフルエントで35mmガラスベースのディッシュ(Cat #3910-035、IWAKI社製)に播種し、光照射前に、顕微鏡のチャンバーステージで37℃及び5%COでインキュベートした。パターン化された光は、MOSAIC 3デバイスによって生成され、細胞にアプライされた。光(10msパルス)を細胞に50回加え、発光シグナルの時間的変化を得た。青色光源パワーを100%に設定し、40×対物レンズ(UApo 40×Oil Iris3/340、オリンパス社製)(NAを0.55に変更)を通して200画素×200画素領域を対象としたところ、測定された光エネルギーは1.3W/mであった。
【0082】
<統計解析>
以降の実験において、特段の記載がない限り、統計解析は、Prism(登録商標)5.0又は6.0ソフトウェア(GraphPad社製)を用いて行った。0.05未満のP値を有意とみなした。
【0083】
<ニューロン初代培養>
以降の実験において、特段の記載がない限り、ニューロン初代培養は以下の通りに行った。
海馬ニューロンは、非特許文献20又は非特許文献21に記載されている方法をわずかに改変して、1日齢の(P1)仔マウスの海馬のCA1/CA3/歯状回から得た。完結には、解離した細胞を、マトリゲル(Invitrogen社製)でコートしたカバースリップ(Assistant、Karl Hecht社製)上に播種し、1mMのGlutaMAX(商標)-Iと25μg/mLのインスリンと2%のGS21神経栄養サプリメント(GlobalStem社製)と5%のFBS(Hyclone、Thermo社製)とを補充した最小必須培地で培養した。グリア増殖は、播種後24~48時間の培地に4μMのシトシンアラビノシド(Sigma社製)を添加することによって抑制した。
【0084】
<組換えAAV産生>
以降の実験において、特段の記載がない限り、組換えAAV産生は以下の通りに行った。
血清型DJ/8 AAVは、ITR含有AAVベクターをパッケージングベクターpAAV-DJ/8及びpHelper(Cell Biolabs社製)と共にトランスフェクトしたHEK293T細胞において産生された。組換えAAV粒子を、トランスフェクトした細胞から抽出キット(AAVpro抽出溶液、TaKaRa Bio社製)を用いて集めた。回収されたAAV粒子は、超遠心分離を伴う不連続イオジキサノール勾配(OptiPrep、Alere Technologies AS社製)を用いてさらに精製され、限外濾過によってPBS中で濃縮された。精製されたAAVのウイルス力価をqPCRによって測定し、ミリリットル当たり2~10×1012ゲノムコピー(gc/mL)に調節した。
【0085】
<マウスの研究>
以降の動物実験はいずれも、京都大学アニマルケア委員会により承認され、全ての関連規制基準に適合していた。
【0086】
(1)発生中のマウス脳の神経幹/前駆細胞におけるPA-Tet-OFF/ONシステムの検証
発生中のマウス脳の神経幹/前駆細胞におけるPA-Tet-OFF/ONシステムの検証のために、pEF-mCherryNLS、pEF-PA-Tet-OFF、及びCSII-TRE3G-NLS-Ub-luc2-Hes1 3’UTRプラスミドを1:2:2(質量比)で混合し、子宮外電気穿孔法(非特許文献2及び23)によってE14.5背側終脳前駆細胞にコトランスフェクションした。終脳の脳室にプラスミドDNA(2.5μg/μL)をマイクロインジェクションし、新皮質の脳室表面における神経幹/前駆細胞へプラスミドをトランスフェクションするために、子宮外電気穿孔法(6パルス、50mV、方形波ジェネレーター(CUY21、BEX社製)、5mmパドル電極)を行った。脳を直ちに解剖し、非特許文献2及び非特許文献23に記載の方法で、3%低融点アガロースに包埋し、ビブラトーム(VT1000、Leica社製)を用いて250μmの器官型切片に切断し、12mmウェルカルチャーインサート(Millicell、PICM01250、Merck社製)に移し、切片培養培地中で培養した。切片は、周期的青色光照射下、37℃、5% COでインキュベートした。
【0087】
(2)成体脳のニューロンにおけるPA-Tet-OFF/ONシステムの検証
成体脳のニューロンにおけるPA-Tet-OFF/ONシステムの検証のために、非特許文献18及び非特許文献24に記載されているように、先鋭なガラスのマイクロピペットを用いて、マウスに定位ウイルス注射を行った。マウス(10~14週齢)は、440mg/kgの抱水クロラール(東京化成工業社製)を腹腔内注射して麻酔した。乾燥防止のためにペトロラタムを両眼にアプライし、頭皮を脱毛クリームで処理した。次いで、マウスを小動物定位固定装置(David Kopf Instruments社製)に固定した。頭皮を正中線で切断し、外科用ナイフを用いて骨膜を除去した。頭蓋骨をドリルで薄くし、27ゲージの針を用いて小さな開頭術を行った。ウイルスは、シリンジポンプ装置(World Precision Instruments社製)を用いてポンプ輸送されたハミルトンシリンジ(Hamilton Company)に連結された引っ張られたガラスマイクロピペットを通して注入された。定位注射は、定位注射を、適切な座標で次の組織に投与した:海馬の歯状回(A/P:ブレグマから-1.94mm、M/L:ブレグマから±1.3mm、D/V:軟膜表面から-1.82mm)。2つのAAVベクター(CAG-FLAG-TetR(I194T,1-206)-CIBN(-NLS)-T2A-mCherryNLSコンストラクトを含むAAV2-DJ/8ベクター及びCAG-NLS-attached Cry2 PHR(L348F)-p65 ADN末融合コンストラクトを含むAAV2-DJ/8ベクター)は、1:1の比率(タイター比)でコトランスフェクションした。ウイルス溶液を0.5~1.5μLの容量で0.1μL/分の速度で注入し、注射後、ピペットを除去する前にさらに10分間定位置に保持した。マイクロピペットの除去後、皮膚切開部を縫合し、抗生物質クリームで処置し、鎮痛剤を皮下注射して手術後の痛みを和らげた。インジェクション後の動物は、青色光暴露前に通常2週間飼育した。皮質ニューロンへのAAV形質導入のために、カスタムヘッドプレートを接着し、頭蓋骨に固定した。視覚野の領域に亘って、頭蓋切開(約3.5mm)を行った。3つのAAVベクター(CAG-FLAG-TetR(I194T,1-206)-CIBN(-NLS)-T2A-mCherryNLSコンストラクトを含むAAV2-DJ/8ベクター、CAG-NLS-attached Cry2 PHR(L348F)-p65 ADN末融合コンストラクトを含むAAV2-DJ/8ベクター、及びTRE3G-luc2- Hes1 3’ UTRコンストラクトを含むAAV2-DJ/8ベクター)は、1:1:1の比率(タイター比)でコトランスフェクションした。
【0088】
(3)AAV形質導入後の光刺激
AAV形質導入の14日後に、光刺激を開始した。
皮質光照射の場合には、カスタムヘッドプレート及び慢性頭窓を移植し、マウスを青色ペンライト下で固定した。背側皮質を青色光(100W/m;30分ごとに3分間のパルス)で6時間照射した。
【0089】
成体マウスの海馬への光照射の場合には、覚醒して自由に動くマウスを、ファイバパッチケーブル及び回転ジョイントを介して光学インプラントに接続された青色LED(PlexBright、Plexon社製)を用いて、85.6W/mの強度、1.6%のデューティサイクル(0.016Hzで1秒間パルス)で、12時間処理した。青色光照射後、マウスを直ちに屠殺し、灌流した。切開した脳を免疫組織化学に供した。
【0090】
マウス仔の脳への光照射の場合には、麻酔したマウスを、青色LED(PlexBright、Plexon社製)を用いて光ファイバーを介して刺激した。 青色光(40W/m;15秒ごとに1秒間のパルス;3時間持続)を照射後、マウスを直ちに屠殺し、青色光を照射した右脳を直ちに抽出し、溶解させ、それらのルシフェラーゼ活性を測定した。
【0091】
(4)Dox処理
マウスへのDox処理は、長期のDox投与の場合には、5質量%ショ糖溶液中に1mg/mLのDoxを含む飲料水をマウスに与えた。Doxパルス処置の場合には、1回の腹腔内注射によりマウスに0.1mg/g体重のDoxを与えた。
【0092】
(5)皮下組織における分析
まず、レンチウイルスベクターを用いたPA-Tet-OFF形質導入Eph4細胞の安定細胞クローンを、成体マウスの背皮の皮下組織に移植した。移植は、当該安定細胞クローンの2~5×10個の細胞を、皮下組織に注射することにより行った。Eph4細胞注射の24時間後に、さらに200mg/g体重のルシフェリンを腹腔内、皮下、及び筋肉内に注射したマウスを、CCDカメラ(iXon3、ANDOR社製)で画像化した。麻酔した後に、マウスの背部皮膚の移植領域に青色光(200W/m;1分間)を照射して、マウス体内のルシフェリン基質の変動によって生じるルシフェラーゼシグナルを測定した。Dox処理を行う場合には、Dox(0.1mg/g体重)を、青色光照射の1時間前に腹腔内注射した。ルシフェラーゼシグナルの変化を補正するために、pEF-luc2発現ベクターでトランスフェクションしたEph4細胞を、独立してマウスに移植した。これらの対照マウスを、PA-Tet-OFF導入Eph4細胞で移植したマウスと共に画像化した。対照マウスの発光データを、移植されたPA-Tet-OFF導入Eph4細胞における光誘導転写の補正に使用した。青色光照射後30~60分間の発光シグナルの平均値を棒グラフでプロットした。
【0093】
[実施例1]
Tet-OFFシステムに、Cry2/CIB1-PA結合スイッチを組み込むことにより、光照射とTet系化合物により標的遺伝子の発現を誘導するPA-Tet-OFFシステムの構築を試みた。構築には、不死化ヒト胚性腎臓細胞株HEK293T細胞を用い、哺乳動物細胞において最適なPA-Tet遺伝子発現系を調べた。具体的には、Tetオペレーターと、Tetオペレーターの下流に位置し、かつ当該Tetオペレーターに制御されるプロモーターと、当該プロモーターの下流に位置し、かつ当該プロモーターに発現を制御されるUb-Eluc遺伝子とを備える発現カセットを含むレポータープラスミド(pTREtight-Ub-ELucレポーター)と、TetRにCry2及びCIB1のいずれか一方を融合させた融合タンパク質の発現カセットを含むプラスミドと、p65ADタンパク質にCry2及びCIB1の残る他方を融合させた融合タンパク質の発現カセットを含むプラスミドと、をHEK293T細胞に導入し、得られた形質転換細胞に対して、Tet系化合物非存在下で青色光を照射し、Ub-ELucの相対発現レベルを調べた。
【0094】
図1に、使用したPA-Tet-OFF候補コンストラクトを模式的に示した図である。図中、「PHR」はフォトリアーゼ相同領域を示し、「NLS」は核局在シグナルを示す。また、TetRとしては、TetR(1-206)のうち、194番目のイソロイシン残基がトレオニン残基に置換された点変異体(「TetR(I194T、1-206)」と示す。)を用いた。
【0095】
図1(A)は、Cry2及びその変異体のアミノ酸配列を、図1(B)は、CIB1及びその変異体のアミノ酸配列を、それぞれ模式的に示した図である。図1(B)中、「(without NLS)」はNLS欠損体を意味し、CIB1のNLS配列(93番目~107番目のアミノ酸領域)のうち、93番目のリジン、94番目のアルギニン、106番目のリジン及び107番目のリジンがいずれもアラニンに置換された変異体を示す。なお、使用したCry2及びその変異体、並びにCIB1及びその変異体の全ては、哺乳動物細胞における効率的な発現のためにコドンを最適化した。
【0096】
図1(C)~(F)は、各試験で使用したTetRを含む融合タンパク質とp65ADタンパク質を含む融合タンパク質の組み合わせを模式的に示した図である。図1(C)は、TetR(I194T、1-206)-Cry2変異体融合コンストラクトと、p65AD-CIB1変異体融合コンストラクトの組み合わせを示す。図1(D)は、TetR(I194T、1-206)-Cry2変異体融合コンストラクトと、CIB1変異体-p65ADN末端融合コンストラクトの組み合わせを示す。図1(E)は、TetR(I194T、1-206)-CIB1変異体融合コンストラクトと、p65AD-Cry2変異体融合コンストラクトの組み合わせを示す。図1(F)は、TetR(I194T、1-206)-CIB1変異体融合コンストラクトと、Cry2変異体-p65ADN末端融合コンストラクトの組み合わせを示す。
【0097】
それぞれの候補コンストラクトの光依存性転写活性をアッセイした。なお、青色光照射は、細胞溶解の3時間前にのみ、パルス青色光(例えば、1分ごとに2秒間のパルス)を細胞に曝露した。全ての実験は独立した3回の試行(3バッチ)を行い、同等の結果を得た。結果を表1~4に示す。表1は図1(C)に示す候補コンストラクトの結果を、表2は図1(D)に示す候補コンストラクトの結果を、表3は図1(E)に示す候補コンストラクトの結果を、表4は図1(F)に示す候補コンストラクトの結果を、それぞれ示す。表1~4中、「Element #1」欄の「linker」は、TetR(I194T、1-206)とそのC末端側に融合させるCry2変異体又はCIB1変異体とを連結するリンカーのアミノ酸配列を示す。また、「An initial construct screening result」欄は最初の1バッチの結果を示し、当該欄中、「Dark」及び「Light」は、それぞれ、暗条件下及び青色光照射時にルシフェラーゼアッセイを行い、画像解析により定量された発光シグナル強度(Ub-ELucの相対発現レベル)の相対値(Negative Controlの暗条件下での発光シグナル強度を1とする)を示し、「Light/ Dark」は両者の比を示す。「Three independent data sets to confirm reproducibility」欄中、「Average of the Light/Dark ratio」は独立した3バッチの、「Light/ Dark」比率の平均値を示し、「S.D. of the Light/Dark ratio」はその標準偏差を示す。
【0098】
【表1】
【0099】
【表2】
【0100】
【表3】
【0101】
【表4】
【0102】
表1~4に示す通り、TetR(I194T、1-206)をCry2及びその変異体のN末端側に連結させたコンストラクト(図1(C)及び(D))を用いた場合よりも、TetR(I194T、1-206)をCIB1及びその変異体のN末端側に連結させたコンストラクト(図1(E)及び(F))を用いた場合のほうが、暗条件下のUb-Eluc発現量に対する光照射時のUb-Eluc発現量の比(表中、「Average of the Light/Dark ratio」の欄の値。以下、「Light/Dark比率」ということがある。)が大きく、青色光照射によるUb-Elucの発現誘導がより効率的になされることがわかった。特に、TetR(I194T、1-206)-CIB1変異体融合コンストラクトとp65AD-Cry2変異体融合コンストラクトの組み合わせ(図1(E))は、TetR(I194T、1-206)-CIB1変異体融合コンストラクトとCry2変異体-p65ADN末端融合コンストラクトの組み合わせ(図1(F))よりも、Light/Dark比率がより大きく、PA-Tet制御発現効率が高い傾向にあった。なかでも、CIB1変異体としてCIBN(CIB1の1~170残基の部分コンストラクト)又はCIBN(-NLS)(CIBNのNLSに変異を入れて核局在シグナルを除いたコンストラクト)を用い、Cry2変異体としてCry2 PHR(Cry2の1~496残基の部分コンストラクト)又はCry2 535(Cry2の1~535残基の部分コンストラクト)を用いたコンストラクト(コンストラクトIDがT53、T55、T57、T59、T61、T63のコンストラクト)が、PA-Tet制御発現効率が他の候補コンストラクトよりも顕著に高かった。また、T59コンストラクトとT63コンストラクトとの比較、及び、T60コンストラクトとT64コンストラクトとの比較から、CIB1変異体としてCIBN(-NLS)を用いた場合には、p65ADのN末端側に核移行シグナルを2つタンデムに連結させる(表中、「NLS×2」)ことにより、さらにPA-Tet制御発現効率が改善されることもわかった。
【0103】
[実施例2]
実施例1においてPA-Tet-OFFコンストラクトであることが確認されたT86コンストラクト(Element#1:配列番号5、Element#2:配列番号6)を用いて、TetRとCIB1誘導体のリンカー配列のPA-Tet制御発現効率に対する影響と、TetRのI194のアミノ酸置換のPA-Tet制御発現効率に対する影響と、を調べた。対照として、表4に記載の「Negative control」のコンストラクト(Element#1:配列番号7、Element#2:配列番号8)を用いた。また、T86コンストラクトのうち、TetR(I194T、1-206)を野生型のTetR(1-206)としたコンストラクトについても同様に試験し、リンカー配列の影響を調べた。
【0104】
図2(A)に、実施例1で使用したT86コンストラクトを含む発現カセットの模式図を示し、図2(B)に、実施例1で使用したpTREtight-Ub-ELucレポーターのUb-Eluc発現カセットの模式図を示す。また、図2(C)に、TetR(I194T、1-206)-CIB1(-NLS)融合コンストラクトとCry2 PHR(L348F)-p65AD-NLS×2融合コンストラクトを、T2A自己切断ペプチドで連結したタンパク質[TetR(I194T、1-206)-CIB1(-NLS)-T2A-Cry2 PHR(L348F)-p65AD-NLS×2融合コンストラクト](配列番号9)の発現カセットの模式図を示す。T86コンストラクトは、実施例1のようにTetR(I194T、1-206)-CIB1(-NLS)融合コンストラクトの発現カセット(配列番号10)を含むプラスミドと、Cry2 PHR(L348F)-p65AD-NLS×2融合コンストラクトの発現カセット(配列番号11)を含むプラスミドを細胞内へ共発現させた場合よりも、TetR(I194T、1-206)-CIB1(-NLS)-T2A-Cry2 PHR(L348F)-p65AD-NLS×2融合コンストラクトの発現カセット(配列番号12)を含むプラスミドを細胞内へ発現させた場合のほうが、PA-Tet制御発現効率が高かった。このため、リンカー配列の効果の検証とTetRのI194のアミノ酸置換の効果の検証には、TetR(I194T、1-206)-CIB1(-NLS)-T2A-Cry2 PHR(L348F)-p65AD-NLS×2融合コンストラクトを適宜改変したものを使用した。
【0105】
図3に示すタンパク質又はその変異体をコードする遺伝子の発現カセットを含むプラスミドを、pTREtight-Ub-ELucレポーターと共にHEK293T細胞に導入し、得られた形質転換細胞に対して、Tet系化合物非存在下で青色光を照射し、Ub-ELucの光依存性転写活性を調べた。
【0106】
TetRとCIB1誘導体のリンカー配列の効果の検証において、リンカー配列としては、2アミノ酸からなるGP、5アミノ酸からなるSPKKK(配列番号13)、24アミノ酸からなるTGNSADGGGGSGGSGGSGGGSTQG(配列番号14)、16アミノ酸からなるLEASPSNPGASNGSGT(配列番号15)、10アミノ酸からなるGYPSHWRPLE(配列番号16)、及び10アミノ酸からなるLEASTGGSGT(配列番号17)を用いた。各コンストラクトについて、暗条件下(図中、「Dark」)と青色光照射時(図中、「Light」)にルシフェラーゼアッセイを行い、画像解析により定量された発光シグナル強度を測定した。測定結果を図4に示す。図中のデータは、平均値±標準偏差(n=3)を表す。また、全ての実験は3回繰り返し、同等の結果を得た。
【0107】
図3に示すように、TetR(1-206)を用いたコンストラクトよりも、TetR(I194T、1-206)を用いたコンストラクトのほうが、青色光照射時に発現誘導されたUb-ELucの量が多く、PA-Tet制御発現効率が高いことがわかった。また、TetR(I194T、1-206)とCIB1(-NLS)とを連結するリンカー配列の種類によって、PA-Tet制御発現効率が影響を受けることがわかった。特に、リンカー配列がSPKKKの場合に、青色光照射時にUb-ELucの発現が充分に高く、かつ暗条件下でUb-ELucの発現がほとんど観察されず、PA-Tet制御発現効率が特に優れていた。
【0108】
TetRのI194のアミノ酸置換の効果の検証においては、TetRのI194を図4に示すアミノ酸に置換した変異体を用いた。各コンストラクトについて、同様にしてルシフェラーゼアッセイを行い、画像解析により定量された発光シグナル強度を測定した。測定結果を図4に示す。図中のデータは、平均値±標準偏差(n=3)を表す。また、全ての実験は3回繰り返し、同等の結果を得た。この結果、トレオニンに置換したTetR(I194T、1-206)が、顕著にPA-Tet制御発現効率が優れていることがわかった。
【0109】
[実施例3]
実施例1においてPA-Tet-OFFコンストラクトであることが確認されたT86コンストラクトを用いて、Tet系化合物非依存性のPA発現制御システム(PA-Tet非依存性システム)と、PA-Tet-ONシステムの構築を試みた。Tet系化合物としてDoxを用いた。
【0110】
PA-Tet非依存性システムのコンストラクトは、図2(C)に示すT86コンストラクト中のTetR(I194T、1-206)に、H100Y(100番目のヒスチジン残基をチロシンに置換する点変異、以下同様。)を導入することにより構築した。また、PA-Tet-ONシステムのコンストラクトは、図2(C)に示すT86コンストラクト中のTetR(I194T、1-206)に、TetRについて公知の以下の5種の逆表現型突然変異(Reverse Tet mutation)を導入することにより構築した:rtTA(E71K、D95N、L101S、G102D)、S2(E19G、A56P、D148E、H179R)、M2(S12G、E19G、A56P、D148E、H179R)、V10(E19G、A56P、F67S、F86Y、D148E、R171K、H179R)、V16(V9I、E19G、A56P、F67S、F86Y、D148E、R171K、H179R)。比較対象として、図2(A)に示すT86コンストラクトも用いた。
【0111】
各コンストラクトについて、その発現カセットを含むプラスミドを、pTREtight-Ub-ELucレポーターと共にHEK293T細胞に導入し、得られた形質転換細胞に対して、Dox非存在下又はDox存在下で青色光を照射し、Ub-ELucの光依存性転写活性を調べた。全ての実験は独立した3回の試行(3バッチ)を行い、同等の結果を得た。暗条件下及び青色光照射時にルシフェラーゼアッセイを行い、画像解析により定量された発光シグナル強度(Ub-ELucの相対発現レベル)の測定値(A.U.)を図5に示す。また、表5中、「An initial construct screening result」欄は最初の1バッチの結果を示し、当該欄中、「Dark」及び「Light」は、それぞれ、暗条件下及び青色光照射時の発光シグナル強度(Ub-ELucの発現レベル)の相対値(実施例1のNegative Controlの暗条件下での発光シグナル強度を1とする)を示し、「Light/ Dark」はLight/Dark比率を示す。「Three independent data sets to confirm reproducibility」欄には、独立した3バッチのLight/Dark比率の平均値及びその標準偏差を示す。
【0112】
【表5】
【0113】
実施例2と同様に、Dox非存在下においては、図2(A)に示すT86コンストラクト(図5中、「PA-Tet-OFF(T86)」)を用いた場合よりも、図2(C)に示すT86コンストラクト(図5中、「PA-Tet-OFF-T2A」)を用いた場合のほうが、青色光照射による発現誘導効率が顕著に高かった。これらのコンストラクトの青色光依存性転写活性は、Doxの存在下で消滅した。TetR(I194T、H100Y、1-206)を用いたコンストラクト(PA-Tet-H100Y)では、Doxの存在下と非存在下の両方でUb-Elucの発現が確認され、青色光照射によってのみ発現が誘導されており、Doxの影響を受けないことが確認された。一方で、TetR(I194T、1-206)に逆表現型突然変異を導入した変異体は、いずれもDox非存在下では青色光の照射の有無にかかわらずUb-Elucの発現は確認されなかったが、Dox存在下では、M2変異体、V10変異体及びV16変異体で青色光照射によりUb-Elucの発現が誘導された。特に、V10変異体が、青色光照射時にUb-ELucの発現が充分に高く、かつ暗条件下でUb-ELucの発現がほとんど観察されず、PA-Tet制御発現効率が特に優れていた。
【0114】
次いで、PA-Tet-OFF/ONシステムと、従来のTet-OFF/ONシステムを比較した。PA-Tet-OFF/ONシステムとしては、PA-Tet-OFF-T2Aコンストラクト及びPA-Tet-ON-T2Aコンストラクトを用いた。従来のTet-OFF/ONシステムとしては、市販の「tTA-Ad」コンストラクト及び「Tet-ON 3G」コンストラクト(いずれも、Clontech/TAKARA社製)を用いた。各コンストラクトについて、その発現カセットを含むプラスミドを、pTREtight-Ub-ELucレポーターと共にHEK293T細胞に導入し、得られた形質転換細胞に対して、Dox非存在下又はDox存在下で青色光を照射し、Ub-ELucの光依存性転写活性を調べた。なお、青色光照射は、青色光パルス(30秒ごとに1秒間のパルス)を36時間、細胞に曝露した。
【0115】
全ての実験は独立した3回の試行(3バッチ)を行い、同等の結果を得た。暗条件下及び青色光照射時にルシフェラーゼアッセイを行い、画像解析により定量された発光シグナル強度(Ub-ELucの相対発現レベル)の測定値(A.U.)を図6に示す。また、表6中、「An initial construct screening result」欄及び「Three independent data sets to confirm reproducibility」欄は、表5と同様である。この結果、青色光照射時間が長くなると、PA-Tet-OFF/ONシステムによる誘導されたルシフェラーゼレポーター活性は、従来のTetのみで制御されたシステムと遜色ない程度にまで劇的に増加した。
【0116】
【表6】
【0117】
また、PA-Tet-OFF-T2Aコンストラクトを用いたPA-Tet-OFFシステム及びPA-Tet-H100Yコンストラクトを用いたPA-Tet非依存性システムに対して、PA-Tet制御発現効率に対するDoxの濃度の影響を調べた。結果を図7(A)に示す。また、PA-Tet-OFF-T2AコンストラクトにV10変異を導入したコンストラクト(PA-Tet-ON-T2Aコンストラクト)を用いたPA-Tet-ONシステムに対して、PA-Tet制御発現効率に対するDoxの濃度の影響を調べた。結果を図7(B)に示す。データは、1回の実験からの平均値±標準偏差(n=3)を表す。図7(A)及び(B)中、「*」は、p<0.05(両側スチューデントt検定)を意味する。
【0118】
Doxは、PA-Tet-OFFシステムにおいて、濃度依存的にPA-Tet制御遺伝子発現を弱めた(図7(A))。逆に、PA-Tet制御遺伝子発現は、Dox濃度が0~250ng/mLにおいては、PA-Tet-ONシステムにおけるDox濃度と相関して増加した(図7(B))。特に、Dox濃度が非常に低い(PA-Tet-OFFシステムでは1ng/mL、PA-Tet-ONシステムでは10ng/mL)条件でも、両方のシステムでDoxによる効果が観察された。一方で、PA-Tet非依存性システムでは、Dox濃度依存性は確認できなかった。なお、PA-Tet-ONシステムにおいては、250ng/mLより高いDox濃度では、誘導されたルシフェラーゼ活性はわずかに減少しており、Dox濃度に至適濃度が存在することが示唆された。最大遺伝子発現のDox濃度は、細胞種及び遺伝子送達方法に依存する。
【0119】
[実施例4]
レンチウイルスベクターを用いてPA-Tet-OFFシステム及びPA-Tet-ONシステムをEph4細胞に導入し、これらのシステムの安定発現株を作製し、そのDox濃度依存性及び青色光強度依存性を調べた。
【0120】
PA-Tet-OFF/ONシステムの安定発現株の作製に使用したPA-Tet-OFFコンストラクト/PA-Tet-ONコンストラクトの発現カセットの模式図を図8(A)に、TRE3G-Ub-NLS-luc2-Hes1 3’UTRレンチウイルスベクター中のUb-NLS-luc2発現カセットの模式図を図8(B)に、それぞれ示す。Eph4細胞にこれらを形質導入して、PA-Tet-OFFシステム安定株及びPA-Tet-ONシステム安定株を作製した。
【0121】
PA-Tet-OFFシステム安定株の転写活性の青色光強度依存性を調べた結果を図9に示し、PA-Tet-ONシステム安定株の転写活性の青色光強度依存性及びDox濃度依存性を調べた結果を図10に示す。放射エネルギーは0~7.1W/mの範囲で変化させた。Dox濃度は、0~500ng/mLの範囲で変化させた。両図のデータは、1回の実験からの平均値±標準偏差(n=3)を表す。いずれの安定株も光強度依存的に転写活性が高くなっており、光強度依存的に発現が誘導されることが確認された。また、PA-Tet-ONシステム安定株では、Dox濃度依存的に発現が誘導されることが確認された。図10の結果、特に図10(C)に示すように、PA-Tet-ONシステムを用いた場合には、青色光強度とTet系化合物濃度を適宜調整することによって、標的遺伝子の転写活性を所望のレベルに調整できる。すなわち、PA-Tet-OFF/ONシステムでは、遺伝子発現を光強度とTet系化合物濃度の両方で制御することができ、遺伝子発現レベルを厳密に制御することが必要な各種生物学的実験に特に有用である。
【0122】
次いで、PA-Tet-ONシステム安定株に対して、6日間、1日1回青色光(パルス光)を照射し、かつ1、3、5日目にのみ、Dox(1,000ng/mL)を培地に添加した。青色光の露光のタイミング(矢頭)とDoxの培地添加のタイミングを図11の上段に、PA-Tet-ONシステム安定株の転写活性(発光シグナル強度)を下段に、それぞれ示す。
【0123】
ほとんどのPA-Tet制御遺伝子発現システムは、少量の光で活性化され、室内照明への短時間の暴露は、転写活性を活性化するのに十分である(非特許文献2、13、及び25)。したがって、PA-Tet制御遺伝子発現システムを有する細胞は、絶対的な暗闇又は特殊な赤色若しくは遠赤色の照明器具の下で一貫して維持されなければならない。さらに、細胞は光照射実験の開始前に、暗条件下で準備されなければならず、数時間又は数日かかることがある。これに対して、PA-Tet-OFF/ONシステムの光依存活性は、Tet系化合物への曝露又は洗浄除去によって条件的に誘導され得る。例えば、PA-Tet-ONシステム安定株では、光依存性遺伝子発現はDoxの非存在下では持続しなかった(図11)。逆に、青色光照射の直前にDoxを導入することにより、1週間の実験の期間中、光依存性遺伝子発現が誘導できた(図11)。このようにPA-Tet-OFF/ONシステムにおけるTet系化合物による制御は、特に長期間の実験において、望ましくない遺伝子誘導を排除することができる。
【0124】
[実施例5]
Cry2は光照射によって急速に活性化され、約5.5分の半減期でCIB1から自発的に解離する(非特許文献9、非特許文献11)。Cry2/CIB1系の迅速な活性化及び不活性化の動態は、周期的な振動又は段階的に増加した遺伝子発現パターンのような、PA-Tet-OFF/ONシステムにおける下流の標的遺伝子発現の動的変化を可能にし得る。そこで、PA-Tet-OFF/ONシステム安定株に対して短いパルス光(1又は2分間)を照射し、TRE配列の制御下にあるルシフェラーゼ発現レベルをリアルタイムでモニターすることによって、PA-Tet-OFF/ONシステムの時間的特性を検証した。
【0125】
PA-Tet-OFFシステム安定株としては、実施例4で作製したPA-Tet-OFFシステム安定株(レポーターコンストラクトとしてTRE3G-Ub-NLS-luc2-Hes1 3’UTRレンチウイルスベクターを使用。以下、「PA-Tet-OFF安定株(Ub-NLS-luc2レポーター)」ということがある。)と、図8(A)に記載のPA-Tet-OFFコンストラクトとTRE3G-luc2-Hes1 3’UTRレンチウイルスベクターをEph4細胞に形質導入して得たPA-Tet-OFFシステム安定株(以下、「PA-Tet-OFF安定株(luc2レポーター)」ということがある。)の2種類を用いた。同様に、PA-Tet-ONシステム安定株としては、実施例4で作製したPA-Tet-ONシステム安定株(レポーターコンストラクトとしてTRE3G-Ub-NLS-luc2-Hes1 3’UTRレンチウイルスベクターを使用。以下、「PA-Tet-ON安定株(Ub-NLS-luc2レポーター)」ということがある。)と、図8(A)に記載のPA-Tet-ONコンストラクトとTRE3G-luc2-Hes1 3’UTRレンチウイルスベクターをEph4細胞に形質導入して得たPA-Tet-ONシステム安定株(以下、「PA-Tet-ON安定株(luc2レポーター)」ということがある。)の2種類を用いた。
【0126】
各PA-Tet-OFF/ONシステム安定株に、青色光を短いパルス光(1又は2分間)で照射し、発光シグナル強度をリアルタイムでモニターした。PA-Tet-OFF安定株(Ub-NLS-luc2レポーター)の結果を図12(A)に、PA-Tet-OFF安定株(luc2レポーター)の結果を図12(B)に、それぞれ示す。図中、垂直点線がパルス光を照射した時点を示す。青色光照射から発光シグナル強度がピークに達するまでをオンフェーズ、ピークに達してから発光シグナル強度が青色光照射前のレベルにまで戻った時点までをオフフェーズとした。図12(A)に示すように、PA-Tet-OFF安定株(Ub-NLS-luc2レポーター)では、青色光パルスにより誘導されたルシフェラーゼ活性は、青色光パルスから約1.1時間後に観察され、その後3時間以内にはバックグラウンドレベルにまで戻った。また、青色光照射前は、ほとんど発光シグナルは観察されなかった。これに対して、PA-Tet-OFF安定株(luc2レポーター)では、青色光照射前から発光シグナルが観察されており、オンフェーズとオフフェーズは共にPA-Tet-OFF安定株(Ub-NLS-luc2レポーター)よりも長かった(図12(B))。
【0127】
また、各PA-Tet-OFF/ONシステム安定株について、発光シグナル強度のモニター結果からキモグラフ分析を用いて、PA-Tet-OFF/ONシステムにおけるPA-Tet制御遺伝子発現のスイッチオン/オフ反応速度の半減期を決定した。スイッチオン反応速度の半減期の結果を図13(A)に、スイッチオフ反応速度の半減期の結果を図13(B)に、それぞれ示す。データは平均値±標準偏差(n=3)を表す。図中、「*」は、p<0.05(両側スチューデントt検定)を意味する。
【0128】
PA-Tet-OFF安定株(Ub-NLS-luc2レポーター)に対して、3時間間隔(図14(A))、6時間間隔(図14(B))、12時間間隔(図14(C))、及び24時間間隔(図14(D))で青色光パルスに繰り返し暴露し、発光シグナル強度をリアルタイムでモニターした。図中、青色光パルスの照射時点を、垂直点線で示す。実験を少なくとも3回繰り返し、同様の結果を得た。この結果、青色光パルスを周期的に暴露することにより、青色光パルスの周期と同じ周期の強い振動性の発現が誘導された。3時間という非常に短い間隔での周期的青色光パルスによっても、Ub-NLS-luc2レポーターの蓄積は観察されなかった。これは、3’UTR配列を有する不安定化したルシフェラーゼレポーターは半減期が短いためであり、短い半減期のレポーターがこの迅速な超日リズム生成のために不可欠であった。逆に、正常で安定なルシフェラーゼレポーターは、概日リズムにわたる典型的な時計遺伝子の発現を模倣した、より長い期間にわたる周期的な遺伝子発現実験に適している可能性がある。実際に、図13に示すように、正常で安定なルシフェラーゼを用いたレポーターコンストラクトを使用したPA-Tet-OFF/ON安定株(luc2レポーター)では、PA-Tet制御遺伝子発現のスイッチオン/オフ反応速度の半減期が延長されていた。
【0129】
[実施例6]
光制御システムのもう一つの大きな利点は、標的細胞において遺伝子発現を空間的に限定する能力である。そこで、PA-Tet-OFF安定株(Ub-NLS-luc2レポーター)を用いて、この遺伝子発現を空間的に限定する能力について調べた。標的細胞におけるこのような空間的に限定された遺伝子発現を調べるために、光の空間パターンを生成するためのデジタルミラーデバイス(DMD)を備えた生物発光イメージング顕微鏡を用いた。
【0130】
PA-Tet-OFF安定株(Ub-NLS-luc2レポーター)の集団に、DMD付き生物発光イメージング顕微鏡に設置し、DMDにより生成されたパターン化された光を照射した。具体的には、異なる円形細胞集団を異なる時間に順次活性化した。図15(A)に、PA-Tet-OFF安定株(Ub-NLS-luc2レポーター)に照射したパターン化した青色光について、照射領域と照射タイミングを示す。図15(A)中、各細胞画像の「t」は実験開始からの時間(時分)を示し、白抜きの円で囲われた領域が、その時点における青色光の照射領域を示す。この光パターンは、3つの関心領域(ROI-1~ROI-3)について、照射タイミングをずらして照射する。すなわち、ROI-1に対しては、実験開始から0分後(#1)、7時間35分後(#4)、9時間50分後(#7)、及び12時間10分後(#8)に照射した。ROI-2に対しては、照射開始から2時間30分後(#2)、8時間20分後(#5)、及び12時間10分後(#8)に、ROI-3に対しては、照射開始から5時間後(#3)、9時間5分後(#6)、及び12時間10分後(#8)に、それぞれ照射した。
【0131】
図15(B)に、照射開始から13時間20分後の各関心領域のmCherry蛍光シグナル(上段)と発光シグナル(下段)の画像を示す。また、図15(C)に、各関心領域の発光シグナル強度のモニタリングした結果を示す。青色光パルスの照射時点を、垂直点線で示す。図15(B)に示すように、青色光パルスが照射されたROI-1~ROI-3に含まれる細胞のみでルシフェラーゼのPA-Tet制御発現が観察されていた。また、図15(C)に示すように、青色光パルスが照射されたタイミングで、ルシフェラーゼのPA-Tet制御発現が観察されていた。
【0132】
次いで、青色光パルスを、10個の標的細胞(図16(A)中、「1」~「10」で示す細胞)のみに同時に照射し、それらの光誘発レポーター発現をモニターした。図16(A)中、「t」はパルス照射からの時間(時分)を示し、左図はパルス照射から0分後、中図は1時間5分後、右図が4時間後の画像である。青色光パルス照射から1時間5分後には、青色光を照射した10個の標的細胞でのみ、ルシフェラーゼのPA-Tet制御発現が観察され、隣接する未照射細胞ではルシフェラーゼの発現は誘導されなかった。また、4時間後には全ての標的細胞でルシフェラーゼのPA-Tet制御発現は終了していた。
【0133】
照射された標的細胞のうち、標的細胞9を除く9個の細胞について、発光シグナル強度を定量、平均化した。標的細胞9は、時間経過イメージング実験中に細胞分裂が生じたため、発光シグナル強度の平均化処理から除いた。同様に、標的細胞に隣接する未照射細胞から9個をランダムに選択し、発光シグナル強度を定量し、平均化した。結果を図16(B)に示す。データは、1回の実験からの平均値±標準偏差を表す。図中、実線が平均値であり、点線で囲われた領域が、平均値±標準偏差の範囲である。実験を少なくとも3回繰り返し、同様の結果を得た。これらの結果から、PA-Tet-OFF/ONシステムでは、光照射領域を厳密に制御することにより、限定された空間内の細胞に対してのみ、標的遺伝子の発現を誘導させられることが確認された。
【0134】
[実施例7]
発生中のマウス脳及び成体マウス脳において、PA-Tet-OFF/ONシステムを検証した。
【0135】
(1)発生中のマウス脳の神経幹/前駆細胞におけるPA-Tet-OFFシステムの検証
子宮外電気穿孔法により、発生中のマウス脳の神経幹/前駆細胞に対して、PA-Tet-OFFシステムを導入した。電気穿孔された脳は、直ちに胚から抽出され、切片として組織培養薄膜に乗せられた。この切片に、青色光を6時間間隔で周期的に照射し、レポーター活性をモニターした。図17に、この切片のルシフェラーゼ発現による発光シグナル画像を示す(MZ:辺縁帯、CP:皮質プレート、VZ:脳室、SVZ:脳室下帯)。図18に、この切片の発光シグナル強度をリアルタイムでモニターした結果を示す。図中、青色光パルスの照射時点を、垂直点線で示す。青色光照射から1時間20分後、すなわち、青色光照射開始から1時間20分後、7時間20分後、及び13時間20分後には、VZ及びSVZの神経幹/前駆細胞において青色PA-Tet制御ルシフェラーゼ発現が観察された(図17)。VZ及びSVZは、神経幹/前駆細胞が分裂してニューロンを産生する領域である。全ての実験は独立した2回の試行を行い、同等の結果を得た。
【0136】
(2)マウス仔の海馬由来の初代培養ニューロンにおけるPA-Tet-OFFシステムの検証
AAVベクターを用いて、分化したニューロンにPA-Tet-OFFシステムを導入した。
【0137】
PA-Tet-OFF/ONシステムの導入に使用した2種のコンストラクト、CAG-FLAG-TetR(又は rTetR)-CIBN(-NLS)-T2A-mCherryNLSコンストラクト(図中、「Virus 1」)(配列番号18)及びCAG-NLS-attached Cry2 PHR(L348F)-p65 ADN末融合コンストラクト(図中、「Virus 2」)(配列番号19)、並びに、TRE3G-Ub-NLS-luc2-Hes1 3’UTRレポーター(図中、「Virus 3」)(配列番号20)及びTetO-GFPトランスジェニックレポーターマウス系統において発現しているTetO-GFPレポーター(図中、「Tg mouse」)(非特許文献26)の概略図を図19に示す。なお、図19の「Virus 1」コンストラクト中の「TetR(又は rTetR)」は、PA-Tet-OFFシステムの場合にはTetR(I194T,1-206)であり、PA-Tet-ONシステムの場合にはrTetR(I194T,1-206)である。
【0138】
まず、マウス海馬に由来する初代培養3日目のニューロンに、Virus 1のコンストラクトを発現するAAVベクター及びVirus 2のコンストラクトを発現するAAVベクターを形質導入し、得られたAAV形質転換ニューロンを、MAP2(Microtubule Associated Protein 2)に対する抗体で蛍光免疫染色した。大部分のMAP2陽性ニューロンでは、形質導入マーカーであるmCherryの蛍光が観察され、導入したAAVベクターによって形質導入されたことが確認できた。
【0139】
次いで、マウス海馬に由来する初代培養3日目のニューロンに、Virus 1のコンストラクトを発現するAAVベクター及びVirus 2のコンストラクトを発現するAAVベクターを形質導入し、初代培養7日目に、Virus 3のレポーターレンチウイルスを形質導入した。その後、初代培養20日目のニューロンに対して、青色光パルスを3時間ごとに周期的に照射し、ルシフェラーゼ発現により発する蛍光シグナルを調べることでレポーター活性をモニターした。PA-Tet-ONシステムのコンストラクトが導入された形質転換ニューロンに対しては、Dox(500ng/mL)を添加した状態で青色光パルスを3時間ごとに周期的に照射した。
【0140】
図20に、PA-Tet-OFFシステムのコンストラクトが導入された形質転換ニューロンの、青色光パルス照射開始(0時間目)から21時間目までのルシフェラーゼ発現による発光シグナル画像を示す。また、図21に、PA-Tet-OFFシステムのコンストラクトが導入された形質転換ニューロンの、ルシフェラーゼ発現による発光シグナル強度を経時的に測定した結果を示す。図22に、PA-Tet-ONシステムのコンストラクトが導入された形質転換ニューロンの、ルシフェラーゼ発現によるDox存在下での発光シグナル強度を経時的に測定した結果を示す。図21及び22中、青色光パルスの照射タイミングは矢頭で示す。全ての実験は独立した2回の試行を行い、同等の結果を得た。この結果、初代培養細胞でも、PA-Tet-OFF/ONシステムを形質導入することで、外来遺伝子の発現を光照射とDoxによって制御できることが確認された。
【0141】
(3)成体脳のニューロンにおけるPA-Tet-OFFシステムの検証
AAVベクターを用いて、分化したニューロンにPA-Tet-OFFシステムを導入した。
【0142】
TRE-GFPトランスジェニックマウス(非特許文献26)の海馬に、Virus 1のコンストラクトを発現するAAVベクター及びVirus 2のコンストラクトを発現するAAVベクターを共に形質導入した結果を図23及び24に示す。図23は、AAV形質導入後の海馬ニューロンに対して、青色光を照射する態様を模式的に示した図である。図24は、青色光の露光開始から12時間後の脳のうち、青色光を照射しなかった領域の蛍光画像(左列、「Dark」)と、青色光を照射した領域の蛍光画像(右列、「Light」)である(スケールバー:100μm)。GFPレポーター発現は、海馬(CA1)及び歯状回(Dentral gyrus:DG)領域のニューロンにおいて青色光依存的に増加した。青色光を照射した海馬では、海馬ニューロンの42.8±2.3%及び歯状回の顆粒細胞の36.7±6.0%が、GFP発現を示した。対照的に、暗条件では、海馬ニューロンの4.7±1.4%及び歯状回ニューロンの4.4±1.6%のみが、GFP発現を示した。
【0143】
次いで、脳のニューロンにおけるPA-Tet-OFFシステムの転写活性におけるDox依存性抑制を分析した。出生後1日以内にAAV形質導入を行ったマウスに対して、12~15日齢時に青色光パルス照射処理を行った。光照射処理は、カスタムメードのステージ上に載せて固定したマウスの脳内のmCherry発現領域に、光度40W/m、デューティサイクル7.1%(0.071Hzで1秒間パルス)で3時間青色光パルスを照射して行った。光照射処理後の脳細胞のルシフェラーゼ発現による発光シグナル強度を測定した。また、光照射処理の1時間前にDox処理(0.1mg/g体重)を行ったマウスについても同様に発光シグナル強度を測定した。測定結果を図25に示す。光照射処理したマウス脳ニューロン(図中、「Light」)では、ルシフェラーゼ発現が活性化し、発光シグナル強度が増大したが、光照射の1時間前にDox処理した脳ニューロン(図中、「Light+Dox」)では、光照射なしの脳ニューロン(図中、「Dark」)と同程度にまで、すなわち、バックグラウンドレベルまで大きく減衰した。
【0144】
PA-Tet-ONシステムのコンストラクトを用いて同様にして、脳のニューロンにおけるPA-Tet-ONシステムの転写活性におけるDox依存性抑制を分析した。測定結果を図26に示す。Dox処理(0.1mg/g体重)を行った1時間後に光照射処理を行ったマウス脳ニューロン(図中、「Light+Dox」)では、ルシフェラーゼ発現が活性化し、発光シグナル強度が増大した。一方で、Dox処理を行わずに光照射処理した脳ニューロン(図中、「Light」)では、Dox処理を行った1時間後に光照射処理を行わなかったマウス脳ニューロン(図中、「Dark+Dox」)と同様にルシフェラーゼ発現の活性化は観察されなかった。すなわち、青色光依存性転写は、Doxの存在下でのみ観察された。
【0145】
さらに、PA-Tet-OFFシステムを導入した細胞における、Dox除去後の光誘導性転写活性の回復を分析した。具体的には、出生後1日以内にAAV形質導入を行ったマウスに対して、12~15日齢時に、Dox処理(0.1mg/g体重)を行い、Dox処理から1時間後、1日後、2日後、3日後、4日後、及び5日後に青色光パルス照射処理を行った。光照射処理後の脳細胞のルシフェラーゼ発現による発光シグナル強度を測定した。Dox処理、青色光パルス照射処理、及びルシフェラーゼ発現による発光シグナル強度の測定は、前記と同様にして行った。測定結果を図27に示す。光誘起ルシフェラーゼ発現の抑制は、Dox単発投与から4日間持続し、5日目にはDox未処理細胞と同程度にまでルシフェラーゼレポーター活性は回復していた。これらの結果から、PA-Tet-OFF/ONシステムは、in vivoにおいても、光とTetの両方での遺伝子発現制御が可能であることが示された。
【0146】
[実施例8]
マウスの皮下組織におけるPA-Tet-OFF/ONシステムを検証した。
まず、実施例4において得られた、PA-Tet-OFF安定株(Ub-NLS-luc2レポーター)(PA-Tet-OFFシステムがレンチウイルスベクターで安定的に形質導入されたEph4細胞)を、成体マウス背部皮膚の皮下組織に移植した。細胞移植から24時間後にDox処理を行い、その1時間後に、麻酔したマウスの背部皮膚の移植領域に青色光照射処理(200W/m;1分間)を行った。青色光照射後のマウスをCCDカメラで撮像し、ルシフェラーゼシグナルの動的変化を画像化した。
【0147】
Dox処理を行わなかった皮下組織の暗条件下(図中、「Dark」)又は青色光照射後30~60分間(図中、「Light」)の発光シグナルの平均値を図28に示す。また、Dox処理を行わなかった皮下組織(図中、「Light」)とDox処理を行なった皮下組織(図中、「Light+Dox」)の、青色光照射後の発光シグナルの平均値を図29に示す。この結果、Dox非存在下では、暗条件の皮下組織ではルシフェラーゼシグナルは増加せず、青色光照射した皮下組織ではルシフェラーゼシグナルの増加が確認された(図28)。また、青色光照射によるルシフェラーゼシグナルの活性化は、Dox処理によって完全に消失した(図29)。これらの結果から、PA-Tet-OFF/ONシステムは、皮下組織をはじめとする脳以外の組織でも機能することが確認された。
【0148】
[実施例9]
Tet-OFFシステムに、Bphp1/Q-PAS1-PA結合スイッチを組み込むことにより、光照射とTet系化合物により標的遺伝子の発現を誘導するPA-Tet-OFFシステムの構築を試みた。構築には、HEK293T細胞を用い、哺乳動物細胞において最適なPA-Tet遺伝子発現系を調べた。
【0149】
具体的には、レポータープラスミド(pTREtight-Ub-ELucレポーター)と、TetRにBphp1及びQ-PAS1のいずれか一方を融合させた融合タンパク質の発現カセットを含むプラスミドと、p65ADタンパク質にBphp1及びQ-PAS1の残る他方を融合させた融合タンパク質の発現カセットを含むプラスミドとを、ポリL-リジンでコートした24ウェルプレートに播種したHEK293T細胞に導入し、得られた形質転換細胞に対して、Tet系化合物非存在下で近赤外光を照射し、Ub-ELucの相対発現レベルを調べた。プラスミドのトランスフェクションからルシフェラーゼの測定は、トランスフェクションから6時間後に25μMのBVを含有する培地に交換したこと、近赤外光(750nm、4.0mWcm)を180秒おきに30秒間の照射を42時間行ったこと、光源は750nm LED(SMBB750D-1100、USHIO社製)を用いたこと以外は、前記の「PA-Tet-OFF候補コンストラクトの機能スクリーニング」と同様にして行った。全ての実験は独立した3回の試行(3バッチ)を行い、同等の結果を得た。
【0150】
【表7】
【0151】
結果を表7に示す。表7中、「Element #1」欄の「I194T」は、TetR(I194T、1-206)を示す。また、「An initial construct screening result」欄中、「Dark」、「Light」、及び「Light/ Dark」と、「Three independent data sets to confirm reproducibility」欄中、「Average of the Light/Dark ratio」、「Light/ Dark」、及び「S.D. of the Light/Dark ratio」は表1等と同じである。表7に示す通り、コンストラクトIDがQT4、QT7及びQT8が、Light/ Dark比率が10以上であり、PA-Tet制御発現効率が他の候補コンストラクトよりも顕著に高かった。この結果、TetRのN末端側又はC末端側にBphP1が連結された融合タンパク質と、p65ADのC末端側にQ-PAS1が連結された融合タンパク質の組み合わせが、PA-Tet制御発現効率に優れること、特に、p65ADのN末端側に核移行シグナルを2つタンデムに連結させることによりさらにPA-Tet制御発現効率が改善されることがわかった。
【0152】
なお、p65の転写活性化ドメインに代えて、Tetシステムで汎用されているVP16又はVP64の転写活性化ドメインに変更し、同様のコンストラクトを作成してLight/ Dark比率を調べたところ、いずれもp65を用いたコンストラクトよりもPA-Tet制御発現効率は低かった。PA-Tetシステムにおいては、TetR又はrTetRとp65の転写活性化ドメインとの組み合わせが最もPA-Tet制御発現効率に優れることがわかった。
【0153】
コンストラクトIDがQT4(Element#1:配列番号26、Element#2:配列番号27)、QT7(Element#1:配列番号28、Element#2:配列番号29)、及びQT8(Element#1:配列番号28、Element#2:配列番号27)について、トランスフェクションから6時間後の培地交換を、25μM BV含有培地又はBV不含培地で実施し、PA-Tet制御発現効率を調べた。結果を表8に示す。表中、「HEK293T(-)BV」がBV不含培地で培地交換した細胞の結果であり、「HEK293T(+)BV」がBV含有培地で培地交換した細胞の結果である。BV含有培地で培養して、外因性BVを導入した細胞のほうが、PA-Tet制御発現効率が改善されることがわかった。
【0154】
【表8】
【0155】
次いで、QT4、QT7及びQT8コンストラクトについて、Dox濃度と遺伝子発現誘導の関係を調べた。具体的には、24ウェルプレートにHEK293T細胞を6×10個/ウェルとなるように播種し、トランスフェクションから6時間経過後に、25μMのBVと表9に記載の濃度のDoxを含有する培地に交換したこと、近赤外光(750nm、4.0mWcm)を180秒おきに30秒間の照射を42時間行ったこと、光源は750nm LED(SMBB750D-1100、USHIO社製)を用いたこと以外は、前記の「PA-Tet-OFF候補コンストラクトの機能スクリーニング」と同様にして行った。全ての実験は独立した3回の試行(3バッチ)を行い、同等の結果を得た。
【0156】
【表9】
【0157】
結果を表9に示す。3つのコンストラクト全てにおいて、近赤外光照射後であっても、Dox濃度依存的にLight/ Dark比率が低下していた。これらの結果から、この3つのコンストラクトが、Dox非存在下で近赤外光照射によって遺伝子発現が誘導されるPA-Tet-OFFシステムとして有用であることが示された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
【配列表】
0007474512000001.app