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特許7474519光活性な、無機アニオンでキャップされた無機ナノ結晶
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-17
(45)【発行日】2024-04-25
(54)【発明の名称】光活性な、無機アニオンでキャップされた無機ナノ結晶
(51)【国際特許分類】
   C01B 19/04 20060101AFI20240418BHJP
   G03F 7/004 20060101ALI20240418BHJP
   C01B 25/08 20060101ALI20240418BHJP
   C01F 17/235 20200101ALI20240418BHJP
   C01G 25/02 20060101ALI20240418BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20240418BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20240418BHJP
   C07D 285/125 20060101ALN20240418BHJP
   C07D 257/04 20060101ALN20240418BHJP
【FI】
C01B19/04 C
G03F7/004
G03F7/004 531
C01B19/04 H
C01B25/08 A
C01F17/235
C01G25/02
B82Y30/00
B82Y40/00
C07D285/125
C07D257/04 H
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021521027
(86)(22)【出願日】2019-10-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-07
(86)【国際出願番号】 US2019055784
(87)【国際公開番号】W WO2020123021
(87)【国際公開日】2020-06-18
【審査請求日】2022-10-07
(31)【優先権主張番号】62/746,710
(32)【優先日】2018-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/853,448
(32)【優先日】2019-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/897,748
(32)【優先日】2019-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】399019892
【氏名又は名称】ザ・ユニバーシティ・オブ・シカゴ
【氏名又は名称原語表記】THE UNIVERSITY OF CHICAGO
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(72)【発明者】
【氏名】ドミトリ ブイ.タラピン
(72)【発明者】
【氏名】ユアンユアン ワン
(72)【発明者】
【氏名】チア-アン パン
(72)【発明者】
【氏名】ハオチー ウー
【審査官】吉森 晃
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-172741(JP,A)
【文献】特開2015-157807(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0059264(US,A1)
【文献】特表2018-502327(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 19/04
G03F 7/004
C01B 25/08
C01F 17/235
C01G 25/02
B82Y 30/00
B82Y 40/00
C07D 285/125
C07D 257/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
各結晶が表面を有する無機結晶と、
前記無機結晶の前記表面に結合したアルキルカルバメートアニオンと、
前記無機結晶と会合した感光性カチオン又は感光性非イオン性分子、
を含む、リガンドでキャップされた無機結晶。
【請求項2】
前記感光性カチオン又は感光性非イオン性分子が光酸発生剤である、請求項1に記載のリガンドでキャップされた無機結晶。
【請求項3】
基材上の請求項1に記載のリガンドでキャップされた無機結晶を含む固体膜。
【請求項4】
請求項に記載の膜をパターニングする方法であって、前記方法は、
前記膜の第1の部分に放射線を照射する一方で、前記膜の第2の部分に前記放射線が照射されないようにする工程、ここで、前記放射線と前記感光性カチオン又は感光性非イオン性分子との間の相互作用が前記膜の化学修飾をもたらす;及び
前記膜の第2の部分を溶解するが、前記膜の第1の部分を溶解しない溶媒に前記膜を接触させる工程;
を含む、請求項に記載の膜をパターニングする方法。
【請求項5】
各結晶が表面を有する無機結晶と、
前記無機結晶の前記表面に結合したアニオンと、
前記無機結晶と会合した2-フェニル-2-(-5-((トシルオキシ)イミノ)チオフェン-2-イリデン)アセトニトリル分子、
を含む、リガンドでキャップされた無機結晶。
【請求項6】
前記アニオンが金属ハロゲン化物又は金属カルコゲナイドアニオンを含む、請求項5に記載のリガンドでキャップされた無機結晶。
【請求項7】
基材上の請求項5に記載のリガンドでキャップされた無機結晶を含む固体膜。
【請求項8】
請求項7に記載の膜をパターニングする方法であって、前記方法は、
前記膜の第1の部分に放射線を照射する一方で、前記膜の第2の部分に前記放射線が照射されないようにする工程、ここで、前記放射線と前記2-フェニル-2-(-5-((トシルオキシ)イミノ)チオフェン-2-イリデン)アセトニトリル分子との間の相互作用が前記膜の化学修飾をもたらす;及び
前記膜の第2の部分を溶解するが、前記膜の第1の部分を溶解しない溶媒に前記膜を接触させる工程;
を含む、請求項7に記載の膜をパターニングする方法。
【請求項9】
各結晶が表面を有する無機結晶と、
前記無機結晶の前記表面に結合したアニオンと、
前記無機結晶と会合した1,2-ナフトキノンジアジド-4-スルホニルクロリド分子、
を含む、リガンドでキャップされた無機結晶。
【請求項10】
前記アニオンが、金属ハロゲン化物又は金属カルコゲナイドアニオンを含む、請求項9に記載のリガンドでキャップされた無機結晶。
【請求項11】
基材上の請求項9に記載のリガンドでキャップされた無機結晶を含む固体膜。
【請求項12】
請求項11に記載の膜をパターニングする方法であって、前記方法は、
前記膜の第1の部分に放射線を照射する一方で、前記膜の第2の部分に前記放射線が照射されないようにする工程、ここで、前記放射線と前記1,2-ナフトキノンジアジド-4-スルホニルクロリド分子との間の相互作用が前記膜の化学修飾をもたらす;及び
前記膜の第2の部分を溶解するが、前記膜の第1の部分を溶解しない溶媒に前記膜を接触させる工程;
を含む、請求項11に記載の膜をパターニングする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2018年10月17日に出願された米国特許仮出願第62/746,710号、2019年5月28日に出願された米国特許仮出願第62/853,448号、及び2019年9月9日に出願された米国特許仮出願第62/897,748号の優先権を主張するものであり、それらの全内容を参照により本開示に援用する。
【0002】
(政府権利への言及)
本発明は、国防総省が授与したFA9550-15-1-0099及び米国科学財団が授与したCHE-1611331に基づく政府支援によってなされたものである。政府は本発明について一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
溶液処理されたコロイド状のナノ結晶(NC)及び量子ドット(QD)は、電子デバイス及び光電子デバイスを構築するための汎用性のあるプラットフォームを提供する。これらの材料は、発光ダイオード(LED)、電界効果トランジスタ(FET)、近赤外及び中間赤外光検出器、太陽電池などの非エピタキシャル堆積及び定温プロセッシングを可能にする。個々のデバイスから電子回路、センサーアレイ及び高精細度QD LEDディスプレイのレベルへの移行は、材料に適合したパターニング方法の開発を必要とする。解像度、スループット及び欠陥許容度に応じて、フォトリソグラフィー及びインプリントリソグラフィー、マイクロコンタクトプリンティング及びインクジェットプリンティング、並びにレーザー又は電子ビーム(e-ビーム)ライティングなどの様々なパターニング及び堆積技術を考慮することができる。これらの中で、フォトリソグラフィーは、高解像度とパターン化素子当たりの非常に低いコストとの組み合わせにより、エレクトロニクス産業に好まれる方法として発展した。後者は、リソグラフィープロセスのパラレルな性質からもたらされ、インクジェットプリンティング及びe-ビームライティングのようなシリアル技術とは対照的に数十億個の回路素子を同時に規定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0004】
本発明の例示的実施態様を、以下、添付の図面を参照しつつ説明する。添付の図面において、同じ番号は同じ要素を示す。
【0005】
図1A図1Aは感光性リガンドを有するナノ粒子の光パターニングを示す。図1Aは、イオン対表面リガンドを有するナノ結晶の概略図である。
図1B図1Bは感光性リガンドを有するナノ粒子の光パターニングを示す。図1Bは、感光性リガンドをデザインするための2つの補完的アプローチを示し、イオン対リガンドのカチオン(PAG)又はアニオン(TTT)のいずれかは、紫外(UV)線への露光下で反応することができる。
図1C図1Cは感光性リガンドを有するナノ粒子の光パターニングを示す。図1Cは、様々な部類の二官能性リガンドの一般構造を示す。
【0006】
図2図2は従来のリソグラフィー、DOLFIN及びDELFINの概略的な比較を示す。
【0007】
図3A図3Aは実施例1で使用した特定の無機キャッピングリガンドの化学構造を示す。
図3B図3Bは実施例1で使用した特定の無機キャッピングリガンドの化学変換を示す。
図3C図3Cはジチオカルバミン酸アンモニウム(ADC)、5-メルカプト-1-メチルテトラゾール(MTT)及びエチルキサントゲン酸カリウム(PEX)の分解経路案を示す。
図3D図3Dは1,3,4-チアジアゾール-2,5-ジチオール(TDD)のパターニングメカニズム案を示す。
【0008】
図4A-4C】図4A-4DはMeOH中の純粋なリガンドの吸収スペクトルを示す。図4Aは、ADC及びブチルジチオカルバメート(DTC)の吸収スペクトルを示す。図4Bは、MTT及びTDDの吸収スペクトルを示す。図4Cは、PEX及び1,1-ジチオシュウ酸(DTO)アンモニウムの吸収スペクトルを示す。
図4D図4DはMeOH中の純粋なリガンドの吸収スペクトルを示す。図4Dは、N-ヒドロキシナフタルイミドトリフラート(HNT)及び1,2-ナフトキノンジアジド-4-スルホニルクロリド(DNQ)の吸収スペクトルを示す。
【0009】
図5A図5Aは254nm露光によりパターン化されたNCの例であり、MeOH中の純粋な感光性アニオン及びジメチルホルムアミド(DMF)中の感光性アニオンでキャッピングする前及びキャッピングした後のウルツ鉱(Wz)-CdSe NCの吸収スペクトルを示す(図5A、MTT)。
図5B図5Bは254nm露光によりパターン化されたNCの例であり、CdSe-MTT NCを用いたパターン化USAF解像度テストグリッドの走査電子顕微鏡(SEM)画像を示す。
図5C図5Cは254nm露光によりパターン化されたNCの例であり、MeOH中の純粋な感光性アニオン及びジメチルホルムアミド(DMF)中の感光性アニオンでキャッピングする前及びキャッピングした後のウルツ鉱(Wz)-CdSe NCの吸収スペクトルを示す(図5C、PEX)。
図5D図5Dは254nm露光によりパターン化されたNCの例であり、CdSe-PEX NCを用いたパターン化USAF解像度テストグリッドの走査電子顕微鏡(SEM)画像を示す。
図5E図5Eは254nm露光によりパターン化されたNCの例である。、MeOH中の純粋な感光性アニオン及びジメチルホルムアミド(DMF)中の感光性アニオンでキャッピングする前及びキャッピングした後のウルツ鉱(Wz)-CdSe NCの吸収スペクトルを示す(図5E、DTO)。
図5F図5Fは254nm露光によりパターン化されたNCの例であり、CdSe-DTO NC(図5E)を用いたパターン化USAF解像度テストグリッドの走査電子顕微鏡(SEM)画像を示す。
図5G図5Gは、254nm露光によりパターン化されたNCの例であり、CeO NCの官能性無機材料直接光リソグラフィー(Direct Optical Lithography of Functional Inorganic Nanomaterials(DOLFIN))インクでパターン化されたUSAF解像度テストグリッドのSEM画像を示す。
図5H図5Hは254nm露光によりパターン化されたNCの例であり、5μm幅の縞の2つの逐次パターン化されたCeO NC層の光学顕微鏡画像を示す。
図5I図5Iは254nm露光によりパターン化されたNCの例であり、DMF中の感光性アニオンでキャッピングする前とキャッピングした後のNCを示す(図5I、DTC)。
図5J図5Jは254nm露光によりパターン化されたNCの例であり、CdSe-DTC NCを用いたパターン化USAF解像度テストグリッドのSEM画像を示す(図5J)。
【0010】
図6A図6Aは365nmフォトンによるDOLFINパターニングを示す。図6Aは、MeOH中の結合した感光性アニオンであるアンモニウムヒドラジンカルボジチオエートを有するNCと、DMF中のHCDでキャップされたWz-CdSe NCの吸収スペクトルを示す。
図6B-6D】図6B-6Dは365nmフォトンによるDOLFINパターニングを示す。図6B-6Dは、365nmUV線によりパターン化された様々なNC膜の光学顕微鏡画像を示す:(図6B)CdSe/ZnS-HCD NC、(図6C)InP-ZnS-HCD NC、及び(図6D)CeO-DTO NC。
図6E図6Eは365nmフォトンによるDOLFINパターニングを示す。図6Eは、365nmUV線によりパターン化されたNC膜の光学顕微鏡画像を示す:(図6E)HNTを有するZrO NC。
【0011】
図7A-7B】図7A-7Bは405nmフォトンによるDOLFINパターニングを示す。図7Aは光分解前及び後のDMF中のDNQリガンドの吸収スペクトルを示し、図7BはDNQ及びCdSe-Sn-DNQ NCインクとの混合前及び後のWz-CdSe-Sn NCの吸収スペクトルを示す。
図7C-7D】図7CはCeO NCインクから得られた等間隔縞パターンの光学電子顕微鏡画像を示し、図7CはDNQの助けにより405nm光によりCeO NCインク(図7C)から得られた等間隔縞パターンの光学電子顕微鏡画像を示し、図7DはDNQの助けにより405nm光によりCdSe NCインクから得られた等間隔縞パターンの光学電子顕微鏡画像を示す。
【0012】
図8A-8D】図8A-8Dは電子ビームによるナノ材料の直接パターニングを示す。図8Aは線幅50nmで電子ビームリソグラフィー(EBL)によってパターニングされた「裸」のCeOのSEM画像を示し、図8Bは線幅30nmで電子ビームリソグラフィー(EBL)によってパターニングされた「裸」のCeOのSEM画像を示し、図8Cは線幅100nmで電子ビームリソグラフィー(EBL)によってパターニングされたCdSe-Sn NCのSEM画像を示し、図8Dは線幅100nmでパターニングされたCdSe/ZnS-Sn-PAGのSEM画像を示す。挿入図は、e-ビームによりパターニングされた幅100nmの縞からのCdSe/ZnS NCからのフォトルミネッセンスを示しており、スケールバーは10μmである。
【0013】
図9図9は回折格子のスキームを示す。
【0014】
図10A図10Aは非イオン性光酸発生剤(PAG)DOLFINの模式図を示す。
図10B図10Bは2つの異なるイオン濃度の溶液中の1.3nmのCeO NCについて算出された相互作用エネルギー(DLVO)曲線を示し、低濃度(0.001M)は照射前のNCインクの状態を表し、高濃度(1M)は照射後のNCインクの状態を表す。
【0015】
図11A図11Aは光分解プロセスの反応の可能なメカニズムを示す。
図11B図11Bは白色LED露光前後におけるMeOH中のPTAの紫外-可視(UV-Vis)吸光度を示す。
図11C図11Cは白色LED露光前後におけるP-0(上)及びPTAのH-NMRを示す(下、挿入図は2.2~2.4ppmの間のピークの詳細を示し、PTAの光量子効率を示唆している)。
【0016】
図12A図12Aは、ローダミンB塩基(RB)がプロトンと結合して、その酸性形態を形成することを示す。
図12B-12D】図12Bはアセトニトリル中に種々の量のサリチル酸と併存するRBのUV-Vis吸収スペクトルを示し、図12Cは450nmフォトン露光の前後におけるアセトニトリル中のPTA及びRBのUV-Vis吸収スペクトルを示し、図12Dは450nmフォトン露光の前後におけるアセトニトリル中のRBのUV-Vis吸収スペクトル(対照実験)を示す。
【0017】
図13図13は青色LEDと白色LEDを用いたCdSe NCの光リソグラフィ(露光時間は30秒間)を示す。
【0018】
図14図14は非イオン性PAGであるPTAの二段階合成を描いたものである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
リガンドでキャップされた無機粒子、リガンドでキャップされた無機粒子で構成された膜、及び上記膜のパターニングの方法が提供される。上記膜を組み込んだ電子デバイス、フォトニックデバイス及びオプトエレクトロニクスデバイスも提供される。
【0020】
リガンドは、二官能性リガンド(図1B、下段)と、表面結合性無機アニオン(リガンド)及び感光性カチオン又は感光性非イオン性分子を含む二成分リガンド系(図1B、上段)の2つの部類に分類することができる。二官能性リガンドは、感光性基を含む小さな分子のアニオン性の粒子表面結合性リガンド(small molecule, anionic particle-surface binding ligands)である。当該小さな分子は、それらが会合している無機粒子にコロイド安定性を与えるとともに、光励起により化学変換を起こすという2つの機能を果たす。アニオン性の二官能性リガンドは、カチオン性の対イオンと結合し、溶液中の無機粒子の周りに広がった雲(diffuse cloud)を形成する。二成分リガンド系では、光励起により化学変換を起こすのはカチオン又は非イオン分子である。本開示では、広がった雲として粒子に会合しているイオンも粒子を「キャッピングしている」と見なす。
【0021】
会合した対イオンを有するアニオン性二官能リガンド、及び表面結合性アニオンと感光性カチオンとを含む二成分リガンド系は、イオン対Catとして構成され、ここでXは、無機粒子表面の電子不足(例えば、ルイス酸性)表面部位、例えば金属部位などに結合する電子に富む求核性基である。両方の実施形態において、図1Aに示すように、Xアニオンの負電荷は、カチオンCatの正電荷と釣り合っている。極性溶媒中では、カチオンは粒子表面から解離し、コロイド安定化の原因であるイオン雲を形成するが、非極性環境で、又は膜中で、イオン対はしっかりと結合したままでいる。リガンドでキャップされた無機粒子の溶液からキャストされた膜では、拡散カチオンは電荷中性を保つためにアニオンと再会合する。
【0022】
本開示において、化学基(chemical group)、イオン又は分子に適切な波長の光を照射することが、その基、イオン又は分子の化学変換を誘導する場合、その化学基、イオン又は分子は感光性である。両方の部類のリガンドについても、光励起によって起こる化学変換は、溶液中のそれらの会合した無機粒子の溶解度の変化をもたらす。この溶解度の変化は、リガンドでキャップされた粒子の分散体が、当該分散体から形成された膜のリソグラフィーパターニングのためのフォトレジストとして機能することを可能にする。
【0023】
無機粒子
リガンドが結合することができる粒子としてはナノ結晶が挙げられる。ここで、ナノ結晶は、少なくとも1ナノスケールの寸法、典型的には1000nm以下、又は例えば500nm以下の寸法を有する結晶性粒子である。いくつかのナノ結晶は、1000nmを超える寸法を有しない。しかし、より大きい粒子を使用することもできる。ナノ結晶は、様々な規則的及び不規則的形状を有することができ、ナノ結晶としては、実質的に丸いナノ結晶、及び細長いナノ結晶、例えばナノロッド又はナノワイヤなどが挙げられる。ナノ結晶などの粒子は、導電性材料、半導体材料、誘電体材料、磁性材料、触媒材料、及び/又は光アップコンバーティング材料から構成されることができる。好適な粒子としては、金属粒子、金属合金粒子、金属カルコゲナイド粒子、メタロイド粒子、第IV族半導体粒子、第II-VI族半導体粒子、第III-V族半導体粒子、金属酸化物粒子、及びメタロイド酸化物粒子が挙げられる。好適なナノ結晶としては、外側シェル材料により取り囲まれた内側コア材料を有するコア-シェルナノ結晶が挙げられる。無機ナノ結晶は、例えば、コロイド合成、気相合成、又はボールミリングを用いて製造することができる。
【0024】
感光性リガンドが結合することができる第II-VI族ナノ結晶の例としては、CdSeナノ結晶、CdTeナノ結晶、ZnSナノ結晶、ZnSeナノ結晶、HgSeナノ結晶、HgTeナノ結晶、HgSナノ結晶、HgCd1-xTeナノ結晶、HgCd1-xSナノ結晶、HgCd1-xSeナノ結晶、CdZn1-xTeナノ結晶、CdZn1-xSeナノ結晶、CdZn1-xSナノ結晶、CdSナノ結晶及びZnTeナノ結晶が挙げられ、ここで0<x<1である。これらの材料の比較的大きい粒子も使用することができる。
【0025】
感光性リガンドが結合することができる第III-V族ナノ結晶の例としては、InPナノ結晶、InAsナノ結晶、InSbナノ結晶、GaAsナノ結晶、GaPナノ結晶、GaNナノ結晶、GaSbナノ結晶、InNナノ結晶、InSbナノ結晶、AlPナノ結晶、AlNナノ結晶及びAlAsナノ結晶が挙げられる。これらの材料の比較的大きい粒子も使用することができる。
【0026】
感光性リガンドが結合することができる第IV族ナノ結晶の例としては、Siナノ結晶、Geナノ結晶、SiGeナノ結晶及びSiCナノ結晶が挙げられる。これらの材料の比較的大きい粒子も使用することができる。
【0027】
感光性リガンドが結合することができる金属酸化物ナノ結晶の例としては、Feナノ結晶、Alナノ結晶、ZrOナノ結晶、CeOナノ結晶、ZnOナノ結晶、FeOナノ結晶、Feナノ結晶、HfOナノ結晶及びインジウムガリウム亜鉛酸化物(IGZO)ナノ結晶が挙げられる。これらの材料の比較的大きい粒子も使用することができる。
【0028】
感光性リガンドが結合することができる金属ナノ結晶(金属カルコゲナイドナノ結晶を包含する)の例としては、Auナノ結晶、Agナノ結晶、Feナノ結晶、Ptナノ結晶、FePtナノ結晶、Biナノ結晶、Biナノ結晶、BiSeナノ結晶、BiTeナノ結晶、Coナノ結晶、CoPtナノ結晶、CoPtナノ結晶、Cuナノ結晶、CuSナノ結晶、CuSeナノ結晶、CuInSeナノ結晶、CuIn(1-x)Ga(S,Se)ナノ結晶(ここで、0<x<1)、CuZnSn(S,Se)ナノ結晶、GaSeナノ結晶、Niナノ結晶、PbSナノ結晶、PbSeナノ結晶、PbTeナノ結晶、Pdナノ結晶、Ruナノ結晶、Rhナノ結晶及びSnナノ結晶が挙げられる。これらの材料の比較的大きい粒子も使用することができる。
【0029】
感光性リガンドが結合することができるコアシェル(core/shell)ナノ結晶の例としては、CdSe/CdS、CdSe/ZnS、CdSe/CdZnS、InP/ZnS及びZnSe/ZnSが挙げられる。
【0030】
二官能性リガンド
アニオン性二官能性リガンドのいくつかの実施形態の構造は図1Cに示されている。図1cにおいて、描かれている構造上のA-、B-、R1及びR2基は、図に示されているように、列挙された原子又はアルキル基から独立に選択される。アルキル基は、例えば、炭素原子を1~6個含む小さなアルキル基、例えばメチル基、エチル基、ブチル基、プロピル基、ペンチル基などであることができる。感光性基を含む二官能性リガンドの具体例としては、ヒドラジンカルボジチオラートアニオン及びシュウ酸鉄、例えば(Fe(C2-が挙げられる。後者のアニオンに適切な波長の放射線を照射した場合、Fe(III)がFe(II)に変化し、その後、アニオンと無機粒子表面との間の結合能が変化し、さらにリガンドでキャップされた粒子の有機溶媒への溶解性が変化する。
【0031】
他の感光性アニオンとしては、ジチオカルボキシレート及びジチオカルバメートアニオン、例えばN-アルキルジチオカルバメートアニオン及びN,N-ジアルキルジチオカルバメートアニオンが挙げられる。ジチオカルバメートの具体例としては、N-メチルジチオカルバメート、N,N-ジメチルジチオカルバメート、N-エチルジチオカルバメート、N,N-ジエチルジチオカルバメート、DTC、N,N-ジブチルジチオカルバメート、及びADCが挙げられる。
【0032】
他の感光性二官能性リガンドアニオンとしては、光分解挙動を示すアゾール類が挙げられる。アゾール類は、少なくとも1つの窒素原子及び他の非炭素原子(例えば、窒素、硫黄又は酸素)を含む5員複素環式化合物のうちの1つの部類である。好適なアゾール類としては、トリアゾール及びテトラゾールが挙げられる。二官能性リガンドアゾールの例としては、脱プロトン化されたMTT、TDD及び1,2,3,4-チアトリアゾール-5-チオレート(SCN 、「TTT」)が挙げられる。アゾール類は、紫外線などの放射線に暴露されると、光分解作用を示す。例えば、UV暴露により、テトラゾール類はニトリルイミン類、カルボジイミド類及びシアナミド類などの生成物を形成することができる。
【0033】
さらに他の二官能性リガンドとしては、キサンテートリガンド及びチオオキサレートリガンドが挙げられ、これらのリガンドは、遷移金属カチオンと強く結合して電荷中性の錯体を形成することができ、紫外線への暴露により光化学的に活性化する。DTOは、コンパクトな4原子の光化学活性イオンであり、5員(side-on)又は4員(end-on)のキレート環を形成できる構造を有する。PEXはキサンテートリガンドの一例である。さらに、二官能性リガンドとして使用するために、硫黄原子の数を調整することによって、モノチオオキサレート、1,2-ジチオオキサレート、トリチオオキサレート、テトラチオオキサレートなどのチオオキサレートリガンドを生成させることも可能である。
【0034】
本開示に記載の組成物及び固体膜は、本開示に記載の二官能性リガンドのいずれか1つ、又は二官能性リガンドの2つ以上の組み合わせを含むことができる。しかし、組成物及び固体膜の様々な実施形態は、ここに開示された二官能性リガンドのいずれかを選択的に除外し、一方で他の二官能性リガンドのうちの1種以上を含んでもよい。例えば、組成物及び膜の様々な実施形態では、二官能性リガンドは、1,1-ジチオオキサレート、エチルキサンテート、メルカプト-1-メチルテトラゾール、又は1,2,3,4-チアトリアゾール-5-チオレートでない。
【0035】
二官能性リガンドと会合できる電荷を釣り合わせるカチオン(charge-balancing cations)としては、アルカリ金属イオン、例えばNa又はKなど、遷移金属カチオン、アンモニウムカチオン(NH )、ヒドラジニウムカチオン(N )、ジアゼニウムカチオン(N )、式NR (式中、Rは水素原子、アルキル基、アリール基、又はそれらの組み合わせを表す。)により表すことができるアルキルアンモニウムカチオン(第4級アンモニウムカチオンを包含する)が挙げられる。
【0036】
二成分リガンド系
二成分系リガンド系の使用は、二官能性リガンドでは容易に得られない様々な結果を可能にするため、有利であることができる。例えば、二成分リガンド系は、非感光性の表面結合性無機アニオン性リガンドでキャップされた無機粒子を365nm又は405nm光でパターン化することを可能にする。
【0037】
表面結合性無機アニオン(「安定化するリガンド(Stabilizing Ligands)」)
コロイド安定性を提供する表面結合性アニオンリガンドとしては、従来の有機(例えば、脂肪カルボン酸及びアルキルアミン)又は無機(S2-、CdCl 、Sn 4-など)のリガンドが挙げられ、これらは無機粒子にコロイド安定性を付与し、膜をパターン化するために使用される光に対して感光性ではない。一般的に、これらの安定化するリガンドは、粒子の表面に強く結合する一方で、対応する感光性カチオン又は分子が粒子の周囲に広がった雲を形成してゼロのゼータ電位をもたらす強結合性リガンド(tight-binding ligands)と、極性媒体中で正電荷を帯びた粒子の表面に弱く静電的に配位する弱結合性リガンドの2つのタイプに分類することができる。強結合性アニオンは典型的な金属含有アニオンであるのに対し、弱結合性アニオンはより一般的には金属フリーのアニオンである。
【0038】
弱結合性アニオンは、粒子の表面に当初結合していた元々の有機リガンド(native organic ligands)を除去するストリッピング剤として作用することによって、正電荷を帯びた粒子表面を生じることができる。このストリッピングは、弱結合性アニオンの塩を含むストリッピング剤の溶液を使用して、有機リガンドとアニオンとの交換を促進する温度で実施することができる。粒子の表面に当初結合していた有機リガンドは、粒子合成により存在する元々のリガンドであってもよい。かかるリガンドとしては、親油性リガンド、例えばオレエート及びオレイルアミン(OAM)リガンドが挙げられるが、これらに限定されない。かかる塩の例としては、テトラフルオロホウ酸塩(例えばNOBF、EtOBF)、金属トリフラート塩(例えばZn(OTf)、Cd(OTf))、金属硝酸塩(例えばZn(NO、In(NO)、硫酸塩、リン酸塩が挙げられる。
【0039】
金属含有アニオンとしては、金属アニオン、金属ハロゲン化物アニオン、金属カルコゲナイドアニオン、及び/又は金属酸化物アニオンが挙げられる。例えば、アニオンの様々な実施形態は、以下の式を有する:
MX m-
ここで、Mは金属原子を表し、Xはハロゲン原子を表し、nはハロゲン原子の化学量論(例えば、n=3又はn=4)を表し、mはアニオン電荷の度合い(例えば、m=1又はm=2)を表す(例としては、CdCl 、CdCl 2-、PbBr 、InCl、ZnCl 2-が挙げられる);
MCh m-
ここで、Mは金属原子を表し、Chはカルコゲン原子を表し、nはカルコゲン原子の化学量論(例えばn=2、3、4、5又は6)を表し、mはアニオン電荷の度合い(例えば、m=2、3又は4)を表す(例としては、CdTe 2-、Sn 4-、AsS 3-、SnS 4-が挙げられる);及び
MO y-
ここで、Mは金属原子を表し、zは酸素原子の化学量論(例えば、z=4)を表し、yは酸素原子の化学量論(z=4)を表し、yはアニオン電荷の度合い(y=2)を表す(例としては、MoO 2-が挙げられる)。
他の例としては、金属リン酸化物(例えば、P1862 6-及びPMo1240 3-)が挙げられる。
【0040】
金属フリーのアニオンとしては、カルコゲナイドアニオン、ハライドアニオン、酸素アニオン(O2-)、スルフィドアニオン(S2-)、アジドアニオン(N )が挙げられる。金属フリーのアニオンとしては、スルフィドアニオン(SO 2-)、硫酸イオン(SO 2-)、リン酸アニオン(PO 3-)、硝酸アニオン(NO )、テトラフルオロホウ酸アニオン(BF )、トリフラート(OTf)、及びシアナート(OCN)アニオンなどの、非金属である硫黄、リン、窒素及び炭素の酸化物も挙げられる。例えば、ハライドアニオンの様々な実施形態は、式X m-を有し、ここで、Xはハロゲン原子を表し、nはハロゲン原子の数(例えば、n=1)を表し、mはアニオン性電荷の度合い(例えば、m=1)を表す(例としては、Clが挙げられる)。他の金属フリーのアニオンとしては、カルバミン酸塩(例えば、RHNCOO、RはH又はアルキル基)、例えばカルバミン酸アンモニウム塩などが挙げられる。かかる塩は、一般的な反応を用いて、二酸化炭素の存在下で、第一級アミンをそれらの対応するカルバミン酸塩に変換することによって形成することができる。
【化1】
ここで、Rは、アルキル基、例えば、それぞれカルバミン酸プロピル、カルバミン酸ペンチル、カルバミン酸ヘキシル、又はカルバミン酸オクチルが得られるようにプロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル又はオクチル基である。
【0041】
光化学的に活性なカチオン及び分子
二成分リガンド系の光化学的に活性な成分は、最初に溶液に加えたときに粒子表面との相互作用が最小限になるように設計される。本発明の特定の理論に拘束されることを意図しないが、本発明者らは、これらの成分が2つの方法で粒子の溶解度を変えることができることを提案する。1つ目の方法では、感光性成分は、粒子から形成された膜において、粒子間の物理的スペーサーとしての役割を果たすことができる。成分の分子サイズが十分に大きければ、これにより粒子が互いに近づき合い過ぎて不可逆的なファンデルワールスポテンシャル井戸に落ちることを防ぐことができる。2つ目の方法では、感光性成分が露光によって分解し、粒子の周りの局所的な環境(局所的なpH及び/又はイオン強度など)を変化させることである。これらの変化は、粒子の溶解速度に影響を及ぼし、膜にパターンを形成することを可能にする。
【0042】
二成分リガンド系の光化学的に活性なカチオン及び分子としては、PAG塩のカチオン及び非イオン性PAGが挙げられる。PAGは、適切な波長の光が照射されたときに分解して酸プロトンを放出する光開始剤である。好適なPAGカチオンは、スルホニウムに基づくカチオン及びヨードニウムに基づくカチオン、例えばアリールスルホニウムカチオン及びアリールヨードニウムカチオンが挙げられる。これらの化合物の利点は、それらの良好な熱安定性及び極性溶媒中での高い溶解性であり、これらは無機粒子膜における高いPAG添加量を可能にする。これらのカチオンの様々な実施形態としては、例えば、ジアリールヨードニウム基、トリアリールスルホニウム基、又はジアリールアルキルスルホニウム基が挙げられる。イミドに基づくPAGも使用することができる。PAGカチオンの例としては、ジフェニルスルホニウム基、ジフェニルヨードニウム基、メチルフェニルスルホニウム基、又はトリフェニルスルホニウム基を有するものが挙げられる。PAGの具体例としては、ビス(4-tert-ブチルフェニル)ヨードニウム、boc-メトキシフェニルジフェニルスルホニウム、(tert-ブトキシカルボニルメトキシナフチル)-ジフェニルスルホニウム、(4-tert-ブチルフェニル)ジフェニルスルホニウム、ジフェニルヨードニウム、(4-フルオロフェニル)ジフェニルスルホニウム、(4-ヨードフェニル)ジフェニルスルホニウム、(4-メトキシフェニル)ジフェニルスルホニウム、(4-メチルフェニル)ジフェニルスルホニウム、(4-メチルチオフェニル)メチルフェニルスルホニウム、(4-フェノキシフェニル)ジフェニルスルホニウム、(4-フェニルチオフェニル)ジフェニルスルホニウム、トリフェニルスルホニウム、及びトリス(4-tert-ブチルフェニル)スルホニウムが挙げられる。光化学的に活性なカチオンを含むPAG塩としては、深紫外線(DUV)照射によりトリフル酸を放出するアリールスルホニウムトリフラート(AST)及びアリルヨードニウムトリフラート(AIT)イオン塩が挙げられる。また、340~450nmにわたる幅広い吸収帯を有するDNQはイオン性PAGの別の例である。PAG塩のカチオンの共役π系を調整することで、この部類の光活性カチオンの吸収帯を約360nmまで広げることができる。
【0043】
二成分リガンド系のいくつかの実施形態では、リガンドは構造MXを有するアニオンであり、ここで、Mは金属原子、例えば元素の周期表の第12族又は第13族の金属原子を表し、Xはハロゲン原子を表し、感光性成分は式Aを有するカチオンであり、ここで、AはPAGカチオンを表す。リガンドにおいて、MXは、例えば、CdCl、ZnCl又はInClであることができる。かかるリガンドは、アニーリング時の焼結促進剤として使用することができる。
【0044】
感光性成分として非イオン性PAGを使用する二成分リガンド系の実施形態では、非イオン性PAGは、イオン対の一部としてナノ粒子の表面に結合していない。代わりに、非イオン性PAGは、ナノ粒子を含む溶液に含まれる。非イオン性PAGは、官能基、例えばカルボン酸エステル、クロロメチルトリアジン、イミノスルホネート、N-ヒドロキシイミドスルホネートなどを含む中性有機分子である。利用可能な非イオン性PAGの化学構造の多様性により、本発明の方法により達成可能な感光性を幅広い波長範囲で調整することができる。本発明の特定の理論に拘束されるつもりはないが、本発明者らは、非イオン性PAGを含むリガンド系のパターニングメカニズムは、局所的なイオン濃度の変化に帰属できることを提案した。この局所的なイオン濃度は、粒子の周りの静電二重層を圧縮して、粒子間の反発を低減し、その結果、遅い溶解速度をもたらす。特に、非イオン性PAGリガンドは、極性有機溶媒中でより大きな粒子(例えば、1μm以上の大きさの粒子)を安定化させることができる。
【0045】
非イオン性PAGの例としては、N-ヒドロキシ-5-ノルボルネン-2,3-ジカルボキシイミドペルフルオロ-1-ブタンスルホネート、HNT、2-(4-メトキシスチリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン、4-N,N-ジメチルアミノフェニルp-トルエンスルホネート、メチルトリフルオロメタンスルホネート、フェニルトリフルオロメタンスルホネート、2-ナフチルトリフルオロメタンスルホネート、4-ニトロフェニルトリフルオロメタンスルホネート、及び3-ジアゾ-3,4-ジヒドロ-4-オキソナフタレン-1-スルホニルクロリドが挙げられる。いくつかの実施態様において、N-ヒドロキシナフタルイミドトリフラート以外の非イオン性PAGが使用される。これらの実施形態における粒子は、アニオン性リガンドでキャップされたナノ粒子の実施形態に関して上述したのと同じ種類の金属粒子、金属合金粒子、金属カルコゲナイド粒子、メタロイド粒子、第IV族半導体粒子、第II-VI族半導体粒子、第III-V族半導体粒子、金属酸化物粒子及びメタロイド酸化物粒子であってもよく、これらの粒子はコアシェルナノ粒子を包含する。
【0046】
二成分リガンド系の感光性成分は光塩基発生剤(PBG)であることができる。リガンドでキャップされた粒子におけるPBGの作用メカニズムは、照射時にPBG分子から酸の代わりに塩基が放出されること以外は、PAGの作用メカニズムに類似する。かかる塩基は、リガンドでキャップされた粒子の化学修飾を引き起こす。例示として、表面に結合したPBG含有リガンドを有するCdSe粒子を含む組成物は、PBGカチオン及び本開示に記載したタイプの表面結合アニオン(例えば、金属ハロゲン化物、金属カルコゲナイド、金属酸化物、カルコゲナイド、ハロゲン化物、又はO2-、もしくはそれらの2以上の組合せ)を含むリガンドを、有機リガンドでキャップされたCdSeナノ結晶と混合することにより調製することができる。ここで、有機リガンドは、PBG含有リガンドと交換される。PBGカチオンとしては、例えば、Co(III)-アミン及びアルキルアミン塩、O-アシルオキシム類、ベンジルオキシカルボニル誘導体、並びに/又はホルムアミド類が挙げられる。照射時に、PBGから放出されたアミンは粒子の表面を親水性から疎水性へと変化させる。
【0047】
光パターン化膜
リガンドでキャップされた無機粒子を含有する光パターン化可能な膜は、基材をリガンドでキャップされた無機粒子の分散体によりコーティングし、このコーティングを乾燥させることにより形成することができる。このようにして得られた膜をパターン化することで、様々なデバイスに使用できるパターン化された無機膜を提供することができる。コーティングは、例えば、キャスティング、スピニング、吹き付け、印刷、及び/又はスロットダイコーティング技術を用いて形成することができる。これらの方法では、無機粒子を含む膜の第1の部分に、イオン対の感光性アニオンもしくはカチオン又は感光性非イオンPAGに化学変化を誘発する波長を含む放射線を照射し、一方、膜の第2の部分を当該放射線から保護する。その結果、膜の露光部分は化学修飾を受ける。次に、膜の第1の部分又は膜の第2の部分のいずれかが選択的に除去される。1μm又はより良好な解像度、さらには20nm又はより良好な解像度を含む高解像度のパターンを、5nm~200nmの範囲内の厚さの膜を包含する薄膜に形成することができる。入射放射線の波長は、使用される個々の二官能性リガンド、感光性カチオン又は感光性非イオン性分子に依存する。本発明の方法の様々な実施形態では、電磁スペクトルのDUV及び極端紫外(EUV)を包含する紫外領域、可視領域、及び/又は赤外(IR)領域の波長を有する放射線を使用することができる。例えば、365nm及び/又は254nmの波長を有するUV光や、405nmの波長を有する可視光を用いることができる。入射光は電子ビームであってもよい。パターニング後、溶媒や除去された粒子はリサイクルすることができる。
【0048】
本方法のいくつかの実施態様において、膜の放射線照射された部分は、有機溶媒中に不溶性となるか、あるいは、少なくとも膜の保護された部分よりも有機溶媒への溶解性が低くなる。他の実施態様において、膜の放射線照射された部分は、有機溶媒中に溶解性となるか、あるいは、少なくとも膜の保護された部分よりも有機溶媒への溶解性が高くなる。これらの実施態様において、膜を、膜のより溶解性の高い部分を溶解する有機溶媒と接触させることによって、膜のより溶解性の高い部分を選択的に除去することができるが、その他の部分はできない。いくつかの実施態様において、溶媒は、極性有機溶媒、例えばDMF、N-メチルホルムアミド(NMF)又はジメチルスルホキシド(DMSO)などである。
【0049】
膜が膜中の感光性成分としてPAGを含む場合、放射線は、PAGにより吸収されてPAGを分解し、酸を生成するように選択される。その酸は、次に、膜と反応し、膜の放射線照射された部分を有機溶媒中に不溶性にするが、膜の非露光部分はその溶媒中に可溶性のままである。次に、膜の可溶性部分を溶媒に接触させることによって、膜の可溶性部分を選択的に除去することができる。あるいは、放射線は、有機溶媒中に可溶である感光性アニオン、カチオン又は分子を、その有機溶媒中に不溶性であるアニオン、カチオン又は分子に変換することができる。例えば、SCNアニオンは、ある種の極性有機溶媒に可溶性であるが、紫外線への暴露によって、その極性有機溶媒中に不溶性であるSCNアニオンに変換される。
【0050】
リガンドでキャップされた粒子、例えばリガンドでキャップされたナノ結晶などで構成された膜をパターニングする別の方法は、親油性有機リガンド、例えばオレエートリガンド又はオレイルアミンリガンドなどでキャップされた無機粒子を含む膜で始まる。この膜は、PAGカチオン及びアニオンを含む溶液に曝される。次に、膜の一部が放射線照射され、それによってPAGから生じた光生成プロトンは親油性リガンドを攻撃し、親油性リガンドはその溶液に由来するアニオンに置き換えられる。しかし、これらのアニオンは、粒子表面と弱い結合のみを形成し、結果として、膜の放射線照射された部分は、有機溶媒により選択的に洗い落すことができる。
【0051】
無機粒子で構成された膜をゾル-ゲルでパターニングする別の方法は、無機の分子前駆体を含有する膜で始まる。本開示において、無機の分子前駆体は、反応して無機粒子を形成する化合物の分子を指す。この膜は、PAGカチオン及びアニオンを含む溶液に曝される。この膜の一部は放射線照射され、それによりPAGから生じた光生成プロトンは、加水分解プロセスを促進し、前駆体分子の重合を引き起こす。しかし、無機の分子前駆体は、非照射部分においてそれらの当初の状態を維持し、結果的に、本開示に記載のように、有機溶媒により選択的に洗い落すことができる。無機粒子は、例えばAl、ZrO、ZnO、NbO、SiO、及び/又はInGaZnOナノ結晶などの金属酸化物ナノ結晶であることができ、これらの各々についての分子前駆体は、それぞれ、例えば、アルミニウム-トリ-sec-ブトキシド(Al(OC);ジルコニウムアセチルアセトネート(Zr(acac));酢酸亜鉛(Zn(OAc));テトラエトキシシラン(TOES);又は、硝酸インジウム(In(NO)、硝酸ガリウム(Ga(NO)及び酢酸亜鉛(Zn(OAc))の混合物であることができる。
【0052】
パターン化された膜中の粒子はそれらの光学特性及び電子特性を保持し、回折格子及び電子回路などの様々な電子コンポーネント及びオプティカルコンポーネントにおいて使用することができる。パターン化された膜は、トランジスタ、発光ダイオード、光電池、熱電装置、キャパシタ及び光検出器を包含する様々な装置において、導電性材料、半導体材料、磁性材料、誘電体材料、触媒材料、及び/又は光アップコンバーティング材料として組み込むことができる。これらの装置は、一般的に、例えば、膜との電気通信における陽極及び陰極を包含する、かかる装置に共通のさらなる部品を含む。
【0053】
本発明の方法に従った直接光パターニングを、ここでは官能性無機ナノ材料の直接光リソグラフィー(Direct Optical Lithography of Functional Inorganic Nanomaterials)(DOLFIN)と呼び、本発明の方法に従った直接電子ビームパターニングを、ここでは官能性無機ナノ材料の直接電子ビームリソグラフィー(Direct Electron-Beam Lithography of Functional Inorganic Nanomaterials)(DELFIN)と呼ぶことにする。従来のリソグラフィー、DOLFIN及びDELFINの図式的な比較が図2に示されている。従来法では、フォトレジスト204を基材202上に塗布し、マスク206を介してフォトレジスト204に放射線(矢印)を照射する。次に、露光部分208を除去すると、フォトレジストにパターンが残る。次に、パターン化されたフォトレジスト上にナノ結晶210の膜を堆積させ、続いて残りのフォトレジストの選択的除去を行う。DOLFINでは、基材202上にナノ結晶膜203が直接堆積され、マスク206を介して放射線(矢印)を照射することで、ナノ結晶膜の露光部分208を有機溶媒に不溶性する。次に、ナノ結晶膜203の未露光部分209を有機溶媒中での洗浄により選択的に除去し、基材202上にパターン化されたナノ結晶膜212を残す。DELFINでは、基材202上にナノ結晶203を直接堆積させ、ナノ結晶203を電子ビーム(矢印)に暴露することで、ビームに暴露された部分208を有機溶媒に不溶性にする。次に、ナノ結晶膜203の未露光部分209を、有機溶媒中での洗浄により選択的に除去し、基材202上にパターン化されたナノ結晶膜212を残す。
【実施例
【0054】
実施例1
本実施例は、表面リガンドを化学的に設計することにより、NCインクを様々な要求を満たすように調整できることを示す。この実施例は、さらに、アクセス性、安定性、及び様々な溶媒及び光学波長との適合性について最適化された新しいリガンド系を例示し、官能性無機ナノ材料の直接光リソグラフィー(DOLFIN)及び官能性無機ナノ材料の直接電子ビームリソグラフィ(DELFIN)が、現実世界の付加製造(real-world additive manufacturing)のための汎用的な技術プラットフォームであることを実証する。
【0055】
ADC、DTC、MTT又はPEXでキャップされたNCは、DUVリソグラフィのために調合できることが示されている。HCD、DTO、TDD又はHNTのリガンドを含むNCインクは、DUV及び365nm(i線)光の両方でのパターニングを可能にし、一方、添加剤としてのDNQは、を使用すると、365nm(i線)光及び405nm可視(h線)光パターニング用のNCインクを調製するために使用される。これらの具体的なリガンドの化学構造が図3A及び3B並びに表1に示されている。ADC、MTT及びPEXについて提案される分解メカニズムが図3Cに示されている。TDDについて提案されるパターニングメカニズムが図3Dに示されている。選択された分子は、小さな、典型的には揮発性のフラグメントにきれいに分解する(図3Bにおけるスキーム1~7)。この化学変化の経路は、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)、エレクトロスプレーイオン化質量分析法(ESI-MS)及び核磁気共鳴法(NMR)を用いて系統的に調べた。図3A及び3Bは、特定の例示的なキャッピングリガンドを提示しているが、図1Cは、本開示に記載のDOLFIN及びDELFIN NC膜パターニング方法においてキャッピングリガンドとして使用することができるこれら及び他のタイプのリガンドのより一般的な構造を示す。
【0056】
各リガンド系の独自性を調べた。本実施例のリガンドを有するNCインクは、いくつかの特徴を示す。DTOリガンドを有するNCインクは、ガス状の反応生成物に光分解し、露光工程後に副生成物としての化学残留物のないクリーンな光分解経路を示す。PEXタイプのインクは非常に高い感度を有し、約30mJ/cmの低露光線量でのNCパターニングを可能にする。DTCリガンドでキャップされたNCは、例えばアセトンなどの、環境に優しく、工業的に許容されている溶媒に高い溶解性を示す。ADC及び/又はTDDリガンドでキャップされた、CdSe/CdS、CdSe/ZnS、InP/ZnSなどのコアシェルNCは、高いフォトルミネッセント(PL)効率を維持する。また、HNTの化学的性質を使用して、パターン化酸化物NCについて、700nm未満のフィーチャーの実現が実証された。また、DELFINの使用が従来のEBLに比べて少ない処理工程で100nm未満のフィーチャーを達成することも実証された。最後に、新規なリガンドは、無機NCをパターン化するだけでなく、NC固体の高い光学特性及び電気伝導性をサポートすることが示された。
【表1】
【0057】
露光後に有機残留物を残さない感光性表面リガンド
合成したままのNCの表面にある有機リガンドを無機分子種と交換することによって、リガンドでキャップされたNCが得られた。NCの表面にある破壊された結合は、所望の溶媒中でNCのコロイド安定性を提供するように設計された表面リガンドの電子リッチな基に対して化学反応性を示す。直接光パターニングの場合、NCの機能的特性を損なわずにNCを官能化するために、感光性リガンドを適用する必要がある。
【0058】
本実施例で使用したリガンドは、無機物でキャップされたNCの膜をパターニングするのに有用な2つの特徴を有する:(1)無機アニオンは、NC上の絶縁性の長鎖の元々の有機リガンドを、小さな荷電無機アニオンに置き換えることができ、極性溶媒中での静電的安定化を提供すること、及び(2)リガンドは、照射後にNC膜の溶解度を変化させる感光性化合物を含むことである。
【0059】
2つのタイプのインクを調製した。第1のタイプのインクは、二官能性リガンドを利用した単一リガンド系である。このシステムの優れた点は、1つの単一のリガンドが2つの機能を同時に果たすことができる、すなわちリガンドがNCを安定化するとともにそれ自体が感光性であるという表面化学の単純さである。第2のタイプのインクは、上記の機能を別々に実行するために、二成分リガンド系を用い、第1成分は、NCコロイドを安定化させる安定化アニオン(系のリガンド部分)であり、第2成分は、放射線照射によって溶液中のNCの溶解度を変化させる感光性部分であった(図3B、スキーム8~11)。第1のタイプのインクと比較して、第2のタイプのインクの最大の利点はその融通性である。2つの成分の組み合わせを変えることで、波長、溶媒などの点で特殊なニーズを満足するように様々なインクを調製することができる。
【0060】
二官能リガンドに基づくインクの場合に、ADC、MTT、PEX、DTC、TDD及びDTOの6種類のリガンドを使用した(図3A)。DMF、NMF及びDMSOなどの極性溶媒中では、これらのリガンドは正イオンと負イオンに解離する。アニオン(ADCではNHCS 、MTTではCSN 、PEXではC、DTCではC11、TDDではC、DTOではC 2-)は、NC表面の低配位金属原子に結合した求核性基として機能し、一方、小さいカチオン(例えば、NH 、Na、K、N など)は、対イオンとして機能し、NCの周りに広がった雲を形成した。この状態は、コロイド溶液の負のゼータ電位測定によって裏付けられた。膜の堆積及び乾燥中に、電荷の中性を保つために、カチオンは対応するアニオンと再結合した。照射によって、これらのリガンドは、コロイド安定化をもはや提供することができない小さな分子に分解するため、極性溶媒へのNCの溶解度が低下する。
【0061】
ジチオカルバメートADC及びDTCは、置換基による影響を受けたスペクトル位置で顕著なUV吸収帯を示す。図4Aは、MeOH中での純粋なADC及びDTCリガンドの吸収スペクトルの比較を示す。これらのリガンドの最も赤色側の吸収ピークでのモル消光係数は、ADCではε(292nm)=1.3×10-1cm-1、DTCではε(287nm)=7.9×10-1cm-1である。ADCリガンド及びDTCリガンドの吸収は、DUVの波長とかなりよく一致している。置換基に応じて、ジチオカルバメート誘導体は、様々な光化学的分解経路をとりうる。照射によって、これらのリガンドはX型(SCN)及びL型(BuNH)リガンドとして機能しうる小さな分子に分解して、NC表面のダングリングボンド及びトラップ状態を不活性化することができる(図3B、スキーム1及び2)。
【0062】
DOLFIN膜パターニングのためのアゾール二官能性リガンドの例として、アゾール類のMTT及びTDDを使用した。それらの光誘起分解経路が、図3Bのスキーム3及び6に示されている。MTTに光を照射するとCHN=C=NHに分解し、極性溶媒中でのコロイド安定性をもはや提供しなくなった。対照的に、TDDは、チオン-チオールからジチオール形への光誘起互変異性化を起こし、ジチオール形は隣接するNCを橋架けすることで、極性溶媒への溶解性の低下をもたらした。MTTの吸収はDUVの波長とよく一致しているが、TDDはDUV及びi線光子の両方を吸収する(図4B)。その結果、MTTでキャップされたNCはDUV光子でパターニングすることができ、一方、TDDでキャップされたNCはDUV及びi線DOLFINの両方に使用することができる。
【0063】
PEX及びDTOを、それぞれキサンテート及びチオオキサレート二官能性リガンドの例として使用した。DMF又はNMF中でPEXを使用してEtOCS リガンドでキャップされたCdSe NCを調製したところ、溶液は数週間にわたって優れたコロイド安定性を維持した。DTOの場合は、化学的に軟らかいジチオカルボキシレート部位(RCSS)又は硬いカルボキシレート(RCOO)がNC表面の有機リガンドを置き換えた。単一相リガンド交換手順によって、NCの安定なコロイドがDMF及びNMF中で得られた。このアプローチの一般性は、CdSe、CdTe、CeO及びZrOを包含する広範なコロイドNCに対して確立された。
【0064】
ジチオカルバメートリガンド及びアゾールリガンドと同様に、キサンテートリガンド及びチオオキサレートリガンドは両方とも紫外線に対して感応性であった(図3B、スキーム4及び7)。また、図4C中のそれらの吸収スペクトルに示されているように、302nmでの吸収係数が1.8×10-1cm-1のPEXはDUV光に感応し、DTO(ε(346nm)=1.5×10-1cm-1、HO中)はDUV光とi線光子の両方を吸収する。
【0065】
二成分リガンド系の場合に、BF でキャップされた「裸」のNCの膜がパターン化された。ここで、「裸」のNCとは、有機の元々のリガンドが取り除かれたNCを指す。BF イオンはNC表面の周りに広がった雲を形成し、静電メカニズムによって様々なタイプのNCにコロイド安定性を提供す、極性溶媒中では正電荷を帯びた「裸」のNC表面を残すことが、正のゼータ電位により確認された。また、PAGのファミリーがこの系に適合することも示された。例えばHNTやDNQのような非イオン性及びイオン性のPAGを、タイトバインディングアニオン溶液及びBFで安定化されたNCの溶液の両方に、NCの約2.5~20質量%(質量%)の典型的な濃度で添加した。堆積及び照射の後、これらのPAGは酸性部分を形成し、NCの溶解性を変化させた。
【0066】
カチオン性のPAGを提供するために、AST及びAITイオン塩を使用した。これらの塩は、DUV照射によりトリフル酸を放出した(図3B、スキーム8及び9)。嵩高いPAGカチオンがスペーサーとしての役割を果たすことは、より小さなカチオンのトリフル酸塩と比較すると明らかである。ASTを含むCeO NC膜は、真空乾燥後(UV暴露なし)にDMFに容易に再溶解したが、同じNCの膜にトリフル酸ナトリウム塩やトリフラート銀塩を加えたものは再溶解しなかった。また、PAGを含む膜のX線小角散乱測定では、PAGを含まない膜に比べてNCの間隔が比較的大きく広がっていた(約1nm)。その後、PAGに紫外線を照射すると、Ph-S結合が開裂して、プロトンが生成し、生成したプロトンが表面リガンド又はNC表面と相互作用して、粒子はDMFに不溶性になった。
【0067】
使用した別のイオン性PAGは、340~450nmにわたる幅広い吸収帯を有するDNQであった。DNQを無水DMFに溶解させると、DNQは周囲の水蒸気により加水分解し、対応するスルホン酸を形成する。さらに、放射線照射(365nm又は405nmの光)によって、さらに、DNQ分子は、Nを放出してカルボン酸部分を生成した(図3B、スキーム11;図4D;及び図7A)。これらの2つの結合部位(スルホネート及びカルボキシレート)は、隣接するNCに結合することができ、それによって現像時のNC溶解速度を低下させることができる。4-スルホニル基を5-又は6-位に移動させると、波長感度が最高500nmまでさらに赤方偏移することは興味深いことである。
【0068】
HNTは365nmの光に対して感応性であり、N-O結合を開裂することによってトリフル酸を放出した(図3B、スキーム10;及び図4D)。単にHNTを「裸」のCeO NCと混合することによって、得られたインクをDOLFINプロセスで直接実践することができる。このパターニングメカニズムは、局所的なイオン濃度の変化に起因しており、このイオン濃度は、NCの周りの静電二重層を圧縮し、NC間の反発を減少させ、その結果、溶解速度が遅くなる。
【0069】
非イオン性PAGを使用するDOLFINプロセス中の提案される段階的な変化が図10A及び10Bに示されており、数値的に計算されたDLVO相互作用エネルギーを用いた。CeO NCとHNTの溶液中では、静電二重層の反発が支配的であり、これは粒子の凝集を妨げる(図10A、(ステップ1))。膜形成ステップでは、溶媒が蒸発することで粒子が互いに接近し、表面間の分離がPAGのサイズに等しいランダム充填構造に落ち着く(図10A、ステップ1→2a)。紫外線照射によって、膜中の局所イオン濃度が著しく増加し、この増加は、NC間の静電反発を減少させ、粒子間相互作用エネルギーの障壁の除去をもたらす(図10A、ステップ2a→2b)。これにより、NCは互いにより一層接近することが可能になり、深いポテンシャル井戸に落ち込み、現像時に不溶性になる(図10A、ステップ2b→3b)。一方、紫外線に暴露されなかったNC膜の領域は、現像ステップ中に二重層反発が再び起こり、NC同士が容易に分離して、現像溶媒に溶解する(図10A、ステップ2a→3a)。
【0070】
NCのパターニングに使用されるリガンドは、UV-青色領域(200nm~450nm)の異なる領域にわたって異なる吸収スペクトルを示した(図4A~4D)。光学的特性によれば、これらのリガンドは、DUV光のみに感応するもの(MTT、PEX、ADC、DTC及びトリフル酸スルホニウム)と、DUV及びi線(365nm)光子の両方に感応するもの(TDD、DTO及びHNT)と、i線及びh線の両方に感応するもの(DNQ)の3つのグループに分けられた。ほとんどのリガンドはCdSe NCと適合性であり、典型的には、図4Cに示すように、他の半導体NC(例えば、CdTe、CdSe/ZnS、InP/ZnS)、酸化物NC(CeO及びZrO)、並びに/又は金属NC(例えば、FePt及びAu)と適合性であった。すべてのNCインクを、UV-Vis測定、透過型電子顕微鏡(TEM)測定、粉末X線回折(PXRD)測定及びFT-IR測定によって特性評価した。表1は、調査したNCとリガンドの組み合わせと、堆積及び現像溶媒、露光波長及び線量などの基本的なパターニング条件をまとめたものである。
【0071】
DUV光(254nm)によるパターニング
254nmの露光によるパターニングの場合だけに機能するリガンドは、MTT、PEX、ADC、DTC及びトリフル酸スルホニウムである。MTT、PEX、ADC及びDTCリガンドは、NCの吸収特性に影響を与えることなく、半導体表面に直接結合する(図5A、5C、5E及び5I)。図5B、5D、5F及び5J中のSEM画像は、様々なリガンドでキャップされたCdSe NCから得られたパターンである。出発NCは同じであるにもかかわらず、各パターンの質がわずかに異なることは注目に値する。これは、インクの解像度及び感度が、感光性表面リガンドによって決まることを示している。図5Bに示されているように、100mJ・cm-2の露光線量で、MTTでキャップされたNCを使用した場合、達成された最小フィーチャーは1μmであったのに対し、PEX-CdSe NCを含む最も高感度インクでは、31.5mJ・cm-2の露光線量で254nmの露光を行った後、コロイド安定性が明らかに失われたことが確認された。これらのリガンドはそれぞれ、望ましい用途に応じて有用な特定の特徴も有する。DTCリガンドの場合、アセトン(通常使用されるDMFの代わりに)を溶媒としても現像剤としても使用することができる。
アセトンは工業的に広く使用されている溶媒であるため、この特徴はプロセスのスケールアップに特に重要である。ADCに基づくNCインクの利点は、CdSe/CdSコアシェルNCを処理するためにリガンドを導入した場合に顕著に現れた。このように、ADCにより安定化されたCdSe/CdSコアシェルNCは、DMF及び他の極性溶媒中でも明るい発光を維持した。
【0072】
前述の単一リガンド系の他に、2リガンド系もNCインクの設計に適用することができる。例えば、トリフル酸スルホニウムリガンドを、「裸」の酸化物(例えば、CeO)のNCインクに使用した。ネイティブリガンドストリッピング処理(native ligand stripping treatment)により得られる裸のNCはいくつかの利点を示した。この方法によると、リガンド交換中に導入される不純物がなく、様々なNCを極性媒体中で安定化させることができる。さらに、二次的なリガンド交換プロセスを通じてさまざまなキャッピングリガンドにより裸のNCをさらに官能化することができる。裸のNCのコロイド安定性は、正電荷を帯びた表面金属中心に静電的に会合したBF イオンによって提供された。DMF分子は、コロイド安定化に必要な共リガンド(co-ligands)として作用した。露光されたPAGは強力なトリフル酸を生成し、トリフル酸はDMFをプロトン化することができ、その結果、配位を弱め、NCを極性溶媒に不溶化する。パターンの質(quality)を、解像度、感度及びラインエッジラフネス(LER)により評価した。解像できる最小のフィーチャーを推定するために、1951年の米国空軍のターゲットを導入した。図5GのSEM画像は、CeOインクから得られた高コントラストフィーチャーが100mJ・cm-2の線量で700nmの解像度を有していたことを示す。LERをSEM画像によって決定したところ、パターン化された領域のエッジは、50nm程度の粗さでシャープかつクリーンであった。パターンの質を確認するためのもう1つのパラメータである良好な忠実度(fidelity)が、図5Hに、5μm幅のCeO NC縞を連続的に互いに重ね合わせてパターニングすることにより実証された。
【0073】
i線(365nm)フォトンによるパターニング。
低エネルギー光子(例えば365nm及び405nm)を使用するフォトリソグラフィは、一般的に、エネルギー消費及び意図しない試料の損傷が少ないのと同時に、パターン化層中へのより深部への光侵入を可能にする。さらに、この波長領域は研究用フォトリソグラフィ装置で一般的に使用されているため、365nm光によりパターニング可能な新規なNCインクが非常に望ましい。これらの利点は、アッベ(Abbe)回折限界による最終的な解像度を犠牲にするが、LED画素、光格子、光導電体アレイ及び他の用途のパターン化NC層にとっては、制限的な要因ではない。すべての研究されたリガンドの中で、TDD、DTO及びHNTは、これらの線に沿った適切な候補である。
【0074】
溶液中では、これらのリガンドはNCの吸収特性を変化させず(図6A)、一方で365nm光により1μm間隔のフィーチャーのパターニングを可能にする(図6B~6E)。しかしながら、リガンドに応じて線量が異なり、DTOでは225mJ/cm、TDDでは80~100mJ/cm、HNTでは500~600mJ/cmである。また、同じリガンドを254nmのパターニングにも使用することができる。例えば、図5Fに示すように、100mJ/cmの線量で同等の解像度を有するDTOでキャップされたCdSe NCのパターンが得られた。
【0075】
さらに重要なことに、DTOリガンドはクリーンな光分解化学を有しており、紫外線に暴露されるとQDの助けを借りてCS、CO及びNHガスに分解する。これは、フォトリソグラフィー工程後の膜に化学的な副生成物が残らないことを意味する。DTOリガンドの第2の利点はキャッピング剤としての汎用性である。例えば、DTOリガンドは、CeO及びZrO NCのような酸化物NCを安定化させるために使用することができる。この能力は、DTOリガンドの2つのタイプの官能基、すなわちジチオ部位(S末端)及びジオキサレート部位(O末端)に起因する。両方の部位がNCと結合するための橋架けとして機能するため、DTOリガンドは半導体NCだけでなく、酸化物NCの官能化のために導入することができる。DTOでキャップされたNCのインクが365nm紫外線に暴露されると、溶解性の変化が観察された。例えば、225mJ/cmの露光線量でCeO-DTO NCのインクから最小のフィーチャーが首尾よく得られた(図6D)。
【0076】
TDDは、i線リソグラフィー用のDOLFINインクを調製するために適用できる別のリガンドである。ADCと同様に、TDDに基づくNCインクの利点は、コアシェルNCをパターン化するためにこのリガンドを導入した場合に顕著になった。TDDにより安定化されたコアシェルCdSe/ZnS NCは明るい発光を維持し、極性溶媒中で60%を超えるフォトルミネッセンス量子収率(PLQY)を示した。80~100mJ/cmの線量で、高発光のInP-ZnS及びCdSe-ZnS NCをパターン化した(図6B及び6E)。
【0077】
BFでキャップされたCeO NCを使用してi線DOLFINインクも形成した。この場合、典型的なi線感応性PAGとしてHNTを導入した。パターン化フィーチャーは、DUVリソグラフィーと同等の効率的に解像されたサブミクロンラインを示した。しかしながら、インク中のPAGの濃度が同じ(2.5質量%)であると、365nmの条件でパターニングするために必要な線量は、254nmの場合よりも大きい500~600mJ/cmであった。これは、365nmにおけるHNTの吸収係数が254nmにおける吸収計数と比べて4分の1であり、全体的な酸放出効率が小さいため、NCインクのパターン形成能力を阻害し、感度を低下させているためである。
【0078】
h線(405nm)光子によるパターニング
254nm及び365nm光による無機NCのパターニングを実証した。しかしながら、NCの直接h線リソグラフィーはまだ報告されていない。その主な理由は、適切な感光性分子がないためであり、ほとんどの無機アニオン及びPAGsは通常、405nmで吸収しない。DNQは、365nm及び405nmパターニングに適した光増感剤である。照射によって、DNQは分解してインデンカルボン酸になり、塩基水溶液中へのフォトレジストの溶解度を増加させる。
【0079】
ここでは、NCをDNQにより官能化して、可視405nm光を使用してパターン化可能な感光性インクを形成できることを示した。まず、購入したままの化合物DNQを無水DMFに溶解させ、DNQ-DMFCl塩を形成した(式1)。このDNQ-DMFCl化合物は、340~450nmの間に幅広い吸光特性を持ち、405nm光による照射すると平坦になった(図7A)。この化合物は静電的な安定化を直接行うことができないため、まずDMF中でBF (CeO NC)又はSn 4-(CdSe NC)を用いてNCを安定化させた。その後、DNQ-DMFCl塩をNC溶液に少量(NCの20質量%未満)添加し、感光性NCインクを形成した。DNQの添加前と添加後のCdSe-Sn NCの吸収スペクトルから、NCの特性が保たれることがわかった(図7B)。
【0080】
CeO-BF-DNQ NCとCdSe-Sn-DNQ NCの両方を用いて、405nm光でポジトーンパターン(すなわち現像時に非照射部が溶解)を形成した(それぞれ図7C図7D)。酸化物NC膜を現像するためにDMFを使用したのに対し、半導体膜を現像するために0.05Mテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)水溶液を使用した。これらのシステムは、いずれも1.5μmのライン-スペース(LS)フィーチャー(1.5μmのラインと1.5μmのスペーシング)が得られ、これはマスク上の最小のフィーチャーであった。典型的な線量は約400mJ/cmであったが、より少ない線量(<50mJ/cm)も可能である。
【0081】
DELFIN
EBLは、直接描画パターニングのために集束電子ビームを使用する、超小型電子機器の製造を可能にする技術である。EBLは、その非常に短い波長(0.2~0.5Å)のためにサブナノメートルスケールまでビームを集束できることから、従来のフォトリソグラフィーと比較してはるかに優れた解像度を可能にする。そのため、フォトリソグラフィーの解像度の限界に及ぼす回折効果は大幅に軽減され、より小さなパターンが得られる。ここでは、これらの基本的な問題に対処し、NCの光電子特性を犠牲にせずに一段階で100nm未満のフィーチャーを得るために使用することができるDELFINを実証した。
【0082】
DELFINプロセスは電子ビーム感応性NCインクが必要とする。PAGは電子ビーム露光に感応性であるため、本開示ではPAGタイプのポジトーンDOLFINインクを直接使用することができる。露光するとPAGは分解し、電子ビーム誘起ラジカル反応により強酸を形成する(式2)。かかる酸は、その後、リガンド又はNC表面と結合し、NCのコロイド安定性を失わせる。DMF又はNMFのような極性溶媒に浸すと、非露光部分は容易に再溶解し、露光部分は基材上に残り、ポジパターンを形成した。残留PAG分子もこの溶媒現像工程で除去された。
【0083】
図8A及び8Bは、同じ開口サイズ(Icurrent=17.6pA)であるが、150から200μC/cmまでのさまざまな線量で得られた、十分に解像された50nm及び30nm幅の、パターン崩れのないパターン化されたCeO NCのSEM画像である。また、300nm及び100nmを含むより大きなサイズのパターンは、それぞれ80μC/cm及び100μC/cmの線量で得ることができた。より小さいサイズのフィーチャーをパターン化するには、より高い線量が必要であるが、これは高線量であれば露光中のブラー(blur)を有効に回避できるためと考えられる。DLSにより決定された2nmのナノ粒子のサイズ及び共焦点光学表面メトロロジー顕微鏡により測定された50nmの膜厚を考慮すると、DELFINにより取得可能な究極の解像度は、幅が約15ナノ粒子、高さが約25ナノ粒子のスタックで構成された。LERは、単一ナノ粒子2個分の大きさに相当する約5nmであった。図8A及び図8Bの拡大SEM画像から観察されるきれいな背景とシャープなパターンエッジは、無機インクの高解像度能力だけでなく、その顕著な感度も示している。
【0084】
酸化物NCの他に、半導体もDELFINプロセスによってパターン化することができた。図8Cに示されているように、Sn 4-リガンドでキャップされたCdSe NCとPh PAGのインクから、80~100μC/cmの線量でSi/SiOウェハ上に線幅100nmのフィーチャーが得られた。SEM画像から評価した最終的な解像度限界は70nmであることが判った。CdSe NCのサイズは約5nm、膜の厚さは約40nmであったため、DELFINにより取得できるCdSe NCの解像度のフィーチャーは、幅が約12個のナノ粒子、高さが約8個のナノ粒子のスタックで構成されていた。さらに重要なことに、同じ電子ビーム条件で、CdSe-ZnSコア-シェルNCの100nmのパターンを達成することができた(図8D)。これは、DELFINプロセスとDOLFINインクを併用することで、QDナノデバイスの製造に応用できる可能性を示している。
【0085】
パターン化層の光学的及び電子的特性
新しいタイプのNCインクの実用性を評価するために、代表的なパターン化された金属膜及び誘電体膜の特性を評価した。金属NC、例えばAu NC及びAg NCなどは、電子回路のインターコネクトを形成するための構成要素となりうるものである。PEXリガンドを用いてパターニングしたAu NC層を150℃で20分間アニールすると、非常に高い導電性を示すことがわかった。厚さ60nmの金薄膜の300Kでの導電率は2.3×10Scm-1であった。
【0086】
高屈折率酸化物の溶液処理されたNC膜をパターン化して機能的な光学素子を作製することができる。この点を実証するために、裸のCeO NCの膜をPAG添加剤(p-CHS-C)(C)(CH)SOTf)でパターニングし、その膜に紫外線に暴露射した。その後、膜をDMF現像液に浸し、350℃で30分間アニールして残留PAGを除去した。屈折率(n)は632.8nmでエリプソメトリーにより測定したところ、1.70という数値が得られた。対照として、感光剤を添加していない裸のCeO NCの膜の屈折率を測定したところ、屈折率は非常によく似ていた。
【0087】
感光性の高屈折率層が得られたことから、DOLFINパターン化NC膜の光学コーティングへの可能性を回折格子の作製によって実証した。格子は分光法に広く用いられているだけでなく、最近では光バイオセンサーや構造発色にも用いられている。具体的には、高屈折率材料と低屈折率材料の交互領域からなり、格子周期d、材料幅w、厚さt、及び材料屈折率nによりパラメーター表記される2値位相透過格子を作製した(図9)。波長λの光が回折格子に入射すると、材料のパターン化された領域とパターン化されていない領域の間で、
【数1】
の大きさで相対的な位相シフトが生じる。ここで、λは真空中の光子の波長である。この周期的な位相シフトにより、遠方では回折パターンが形成され、明るい回折次数は回折格子の方程式d・sinθ=mλ(dは周期間隔、θは回折角、m=0、±1、±2など)により与えられる(図9)。非ゼロ回折次数の明るさは、Δφの増加に伴って増加するため、回折効率の指標となりうるものである。
【0088】
2値回折格子のプロトタイプを1つ又は2つのDOLFINステップで作製した。有機リガンドでキャップされたCeO NCを、まず、上述のようにPAGを含む裸のNCのインクに変換し、次に、周期25μmの、幅10μm、厚さ約150nmのCeO NCの縞をガラス基板上に、単一酸化物層としてパターン化して1次元(1D)格子を形成するか、あるいは、2つの連続なほぼ垂直な周期的酸化物層としてパターン化して2次元(2D)格子を形成した。これらの格子は、ランダム散乱効果による目に見える曇り(hazing)がなく、良好な光学的透明性を有する。赤色、緑色又は青色cwレーザーを照射すると、多くの高次回折極大がはっきりと形成された。これらの無機回折格子は全て、優れた熱安定性(最高600℃まで試験)と高い光損傷閾値を有していた。
【0089】
実験セクション
光化学的に活性なインクの調製
すべての調製プロセスは、周囲条件で、又はPro Lighting Group, Inc.から購入したクリーンルーム照明に通常使用されるイエローフィルターを備えたグローブボックス(敏感な材料の場合)内で実施した。NC表面を処理するために、無水溶媒及び単相リガンド交換法を典型的には使用した。典型的な単相リガンド交換法では、NC分散体中の溶媒は、アセトンなどのリガンドの溶媒と同じであるか、トルエン/DMF又はトルエン/NMFなどのリガンドに使用される溶媒と均一な混合物を形成していた。そのため、NC及びリガンド溶液は混合された場合に混和性であり、表面リガンド交換が一相で達成された。
【0090】
感光性リガンドを有するNC
ADC及びTDDリガンドでキャップされたNC
両方のリガンドを用いて、明るい発光を有するQDインクを調製した。例えば、100μLのコアシェルCdSe/ZnS NC(40mg/mL)を1mLのトルエンに希釈してコロイド溶液を形成し、そこに100μLのADC(0.5M)又はTDD DMF溶液(0.25M)を添加した。数分間ボルテックスすると、表面修飾によってNCの溶解性が劇的に変化したことが示すフロキュレーションが観察された。リガンド交換CdSe/ZnS NCを遠心分離によって懸濁液から析出させ、DMF及びトルエンを用いた2回の溶解析出操作により精製した。精製後、30~40mg/mLの濃度のコロイド溶液として100μLのDMF中にNCを再溶解させ、グローブボックス内の暗所で保管したところ、数週間にわたって安定であった。
【0091】
DTCリガンドでキャップされたNC
CdSe NC(4.5nm、ウルツ鉱相)を一例として使用し、100μLの合成したままのNC(40mg/mL)を、1.5mLのアセトンを加えることによりトルエンからまず析出させ、次に、0.5mLのアセトン中に再分散させ、濁った懸濁液を形成した。アセトン中の新鮮なDTC溶液(0.2M)200μLを加え、1分間ボルテックスした後、濁ったNC懸濁液は赤いコロイド溶液に変化した。次に、2mLのMeOHを加えることによりNCを析出させ、MeOHによりすすいで、遊離DTCリガンドを除去した。精製後、CdSe-DTC NCは、30~40mg/mLの濃度のコロイド溶液として100uLのDMF中に再溶解させた。
【0092】
DTO、MTT及びPEXリガンドでキャップされたNC
表面処理プロセスは、DTO、MTT又はPEXリガンドを含む感光性インクの調製の場合に同様であった。概して、感光性リガンドをNMF又はDMFに溶解させると、0.2Mの濃度で安定な溶液を形成した。別のバイアルで、100μLの合成したままのNC(40mg/mL)をトルエン1mLで希釈した。200μLのリガンド溶液を導入してボルテックスした後、コロイド状NC溶液が濁った。処理したNCをトルエン及びMeOHにより洗浄し、最後に100μLのDMF中に再溶解させて、濃度30~40mg/mLの溶液を形成した。
【0093】
二成分感光性NCインク
PAGリガンドを有する裸のNC
出発材料を調製するために、Murrayら(A Generalized Ligand-Exchange Strategy Enabling Sequential Surface Functionalization of Colloidal Nanocrystals. J. Am. Chem. Soc. 2011, 133, 998-1006.)のアプローチに従ってNCをNOBFでにより処理してリガンドフリーの裸のNCを得た。
【0094】
例えば、有機リガンドでキャップされたCeO NCをトルエンで希釈して、濃度80mg/mLの安定な溶液を形成した。リガンドストリッピング剤として使用したNOBFをまずDMF中に溶解させ(20mg/mL)、次に、質量比2:1(NC:NOBF)の量でCeO NC溶液に導入した。遠心分離により析出物を単離し、トルエンにより少なくとも3回洗浄した。得られたCeO NCを、トルエン及びDMFを使用して、数回の沈殿-再分散サイクルで精製した。精製したNCを、DMF中に約40mg/mLの濃度で溶解させた。次に、これらのCeO NCコロイドをDMF及びMeOHの共溶媒系(v/v:10:1)で種々の量の感光性分子(DOLFINでは2.5質量%、DELFINでは15質量%)と混合することによって、感光性インクを調製した。異なるインクに対して、かかる分子は、(p-CHS-C)(COTf(DUV及びDELFIN用)、N-ヒドロキシナフタルイミドトリフラート(HNT、i線パターニング及びDELFIN用)、及びジアゾナフトキノン(h線パターニング用)であることができる。
【0095】
無機材料の直接パターニング
実験はイエローライト下で行い、粒子状の汚染物を取り除くためにスピンコーティング前に0.2μmフィルターに光活性無機インクを通過させた。この作業では、サブミクロン解像度でパターンを得るためにDOLFINを使用し、100nm未満の解像度でフィーチャを得るためにDELFINを使用した。
【0096】
一般的なDOFLIN操作では、前述の感光性コロイド溶液は、DMF中、約30mg/mLの濃度で調製し、様々な基材(Si/SiO、Si、石英、ガラス)上にスピンコート(スプレッディング:400rpm、10秒間;スピン:2000rpm、60秒間)した。次に、NC層に、マスクアライナーシステムで又はバインダークリップを用いて一緒に固定されたクロムマスクを介して、254nmのDUVランプ、365nmのi線光又は可視405nmのh線光のいずれかを照射した。露光線量及び現像剤溶媒を、リガンドに応じて変えた。代表的なパラメータを表1に示す。CdSe-DTCインクを例にとると、DMF及びアセトンは両方ともNCインクを形成することができる。アセトンからDMF溶液と同じ厚さのNC層を得るためには、アセトンの揮発性が高いため、アセトン中のNC濃度は10~15mg/mLに下げるべきである。DUVリソグラフィーには150~180mJ/cmの線量が必要であり、365nmのi線パターニングには150mJ/cmの線量が必要であった。この場合、現像剤の溶媒として、ニートDMFとアセトンの両方を使用できた。
【0097】
さらなる実験の詳細
化学物質
酸化カドミウム(CdO、99.5%、Aldrich)、オレイン酸(OA、90%、Aldrich)、セレン粉末(Se、100メッシュ、金属基準99.99%、Aldrich)、トリオクチルホスフィンオキシド(TOPO、90%、Aldrich)、1-オクタデセン(ODE、90%、Aldrich)、オレイルアミン(OLAm、70%、Aldrich)、テルルショット(Te、99.999%、Aldrich)、トリブチルホスフィン(TBP、異性体を含めて97%、Aldrich)、塩化金(III)水和物(HAuCl4-xO、微量金属基準で99.999%、Aldrich)、1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン(テトラリン、>97%、Aldrich)、ボランtert-ブチルアミン錯体(TBAB、97%、Aldrich)、二硫化炭素(CS、ACS試薬、≧99.9%)、アンモニア溶液(NH、メタノール中2.0M、Aldrich)、n-プロピルアミン(>99%、Aldrich)、n-ブチルアミン(99.5%、Aldrich)、ヒドラジン(N、無水、98%、Aldrich)、トリフルオロ酢酸(ReagentPlus(登録商標)、99%、Aldrich)、硫化アンモニウム溶液((NHS、HO中40~48質量%、Aldrich)、硫化カリウム(KS、無水、最低95%、Strem Chem)、エチルキサントゲン酸カリウム(PEX、96%、Aldrich)、5-メルカプト-1-メチルテトラゾール(MTT、98%、Aldrich)、1,3,4-チアジアゾール-2,5-ジチオール(TDD、Aldrich)、酸化セリウム(トルエン中のCeO NP)、酸化アルミニウムナノ粒子(Al NP、イソプロパノール中20質量%、Aldrich)、コア-シェルナノ結晶(トルエン中のCdSe/ZnS及びInP/ZnS NC、Nanosys, Inc.)、(4-メチルチオフェニル)メチルフェニルスルホニウムトリフラート((p-CHS-C)(CH)(C)SOTf、Aldrich)、(4-メチルチオフェニル)ジフェニルスルホニウムトリフラート((p-CHS-C)(COTf、Aldrich)、(4-メチルチオフェニル)ジフェニルスルホニウムトリフラート((p-CHS-C)(COTf、Aldrich)、N-ヒドロキシナフタルイミドトリフラート(HNT、>99%、アルドリッチ)、1,2-ナフトキノンジアジド-4-スルホニルクロリド(DNQ、97%、Aldrich)、ニトロチオフェン(85%、テクニカルグレード、Aldrich)、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド五水和物(>97%、Aldrich)、シアン化ベンジル(98%、Aldrich)、塩酸(ACS試薬、37%、Aldrich)、硫酸マグネシウム(無水、ReagentPlus(登録商標)、≧99.5%、Aldrich)、ジエチルエーテル(分析用、エタノール安定化EMPARTA(登録商標)ACS、Aldrich)、石油エーテル(ACS試薬、Aldrich)、酢酸エチル(無水、99.8%、Aldrich)、トリメチルアミン(無水、≧99%、Aldrich)、テトラヒドロフラン(無水、≧99.9%、インヒビターフリー、Aldrich)、p-トルエンスルホニルクロリド(試薬グレード、≧98%、Aldrich)、硫化カリウム(KS、95%、Strem)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF、99.8%、無水、Aldrich)、ジメチルスルホキシド(DMSO、99.8%、無水、Aldrich)、及びプロピレンカーボネート(PC、99.7%、無水、Aldrich)は受け取ったままのものを使用した。N-メチルホルムアミド(NMF、99%、Aesar)は、グローブボックス内で使用する前にモレキュラーシーブで乾燥させた。
【0098】
ナノ結晶の合成
公表された文献からの改良調製法にしたがって、有機リガンドにより不動態化されたCdSe、CdTe、CeO、ZrO、FePt及びAuのNCを合成した。(Wang, Y., et al., Science 2017, 357, 385; Panthani, M. G., et al., Nano Lett 2014, 14, 670.; Zhang, H., et al., J. Am. Chem. Soc. 2016, 138, 7464; Yu, T.; Joo, J.; Park, Y.; Hyeon, T. Angew. Chem. Int. Ed. 2005, 44, 7411; Joo, J., et al., Journal of the American Chemical Society 2003, 125, 6553; Lee, J., et al., Journal of the American Chemical Society 2010, 132, 6382; 及びPeng, S., et al., Nano Res 2008, 1, 229参照。)
【0099】
CdSe/CdS、CdSe/ZnS及びInP/ZnSコア-シェルQDは,確立された調製法を用いて合成するか、あるいは、Nanosys Inc.から入手した。(Dabbousi, B. O. et al.,Journal of Physical Chemistry B 1997, 101, 9463;Peng, X.ら,J. Am. Chem. Soc., 119, 7019; Talapin, D. V., et al., J. Phys. Chem. B 2004, 108, 18826;及びXie, R., et al., J. Am. Chem. Soc. 2007, 129, 15432参照。)
【0100】
ADCは、Redemann, C. E. et al., Organic Syntheses Collective, Wiley: 1947; Vol. 3からの改良された方法を使用して合成した。100μLのCSを1.5mLのNH(MeOH中2.0M)に徐々に注入し、0℃で2時間撹拌した。次に、無色溶液を室温にし、暗所で一晩撹拌した。この間に、混合物は無色から濁った懸濁液になった。次に、遠心分離によりADC固体を得て、アセトンにより精製した。最終生成物を3mLのMeOH中に再溶解させ、さらに使用するために冷蔵庫内の暗所で保存した。
【0101】
ブチルジチオカルバメート(Bu DTC)は、メタノール又はエタノール溶液中で第一級アミンと二硫化炭素とを混合することによって得た(Dubois, F., et al., Journal of the American Chemical Society 2007, 129, 482.)。典型的な反応では、CS(1mL、17mmol)及びブチルアミン(1mL、10mmol)をそれぞれ3mLと1mLのエタノールに希釈した。この反応は発熱的であるため、一定の低温を提供するためにアセトンとドライアイスとにより作り出される冷却システムを必要とした。強く撹拌しながらブチルアミン溶液をCSに徐々に加える(1mL/分)ことによって、無色溶液が得られた。反応管を低温に15分間保ち、次に、周囲条件にし、その後、30分間撹拌した。淡緑色溶液をフィルターに通し、真空下で一晩乾燥させ、未反応の前駆体及び予期せぬ副生成物を回収した。次に、白色粉末を集め、冷蔵庫内の暗所で保存した。Bu-DTCは、メタノール、アセトン又はクロロホルム中でも調製できる。EtOHの代わりにMeOHを使うと、CSがMeOHに混和性でないため、最初から二相溶液が得られる。ブチルアミンなどの第1級アミンとの反応によって、CS相は徐々に消失し、均質な淡緑色溶液としてMeOH中でBu-DTCが形成された。この反応を適切に管理しなかった場合、例えばこの反応を室温下で行ったり、過度に急速に混合したりすると、激しい反応が起こり、副生成物であるポリスルフィドが生成したことを示す黄色溶液が観察された。ポリスルフィド化合物は、高温下でのDTCの分解に起因すると考えられ、除去するのが困難であった。反応溶媒を除いて同じ一般条件下で、ジチオカルバメートの他の第1級アミン誘導体を合成した。n-プロピルアミンとn-ペンチルアミンを使用して、それぞれ白色のどろどろした固体のジチオカルバミン酸プロピル(Pr-DTC)とジチオカルバミン酸ペンチル(Pen-DTC)を形成した。簡略化のため、本稿で使用したDTCはBu-DTCを指す。
【0102】
HCDの合成は既報(Bellerby, J. M. J. Hazard. Mater 1983, 7, 187参照)のものを変更した。100μLのCSを希釈したN溶液(2mLのDMF中に200μLのN)に徐々に注入して淡黄色懸濁液を形成した。暗所で3時間撹拌後、懸濁液は安定な黄緑色溶液になった。この溶液にトルエン20mLを加えてHCDを析出させ、上部の透明な上澄み液を捨てた後に黄色液滴として収集した。精製したHCDを、最終的に黄緑色溶液としてMeOHとアセトン共溶媒(v/v:1:5)に再溶解させた。
【0103】
1,1-ジチオシュウ酸アンモニウム((NHDTO)は、Bernt, C. M., et al., Journal of the American Chemical Society 2014, 136, 2192に記載されている変法に従って合成した。トリクロロ酢酸(180mg、1.06mmol)と(NHS溶液(300μL、HO中40~48質量%)を1.5mLのNMF中でゆっくりと混合することによって、暗所で1時間撹拌した後に黄色溶液が得られた。次に、アセトニトリルを加えることにより精製後、(NHDTOを収集し、淡黄色固体として乾燥させた。DTCリガンドと同様に、(NHDTOは、例えばNMF及びMeOHなどの一般的な極性溶媒に非常によく溶解し、DUV光にも感応性であったため、感光性NCインクの形成に直接使用することができた。簡略化のため、使用したDTOは(NHDTOを指す。(NHDTO以外にも、ジチオオキサレート化合物の他の誘導体も同様にして得ることができる。例えば、トリクロロ酢酸及びKSを出発原料として使用することによって、1,1-ジチオシュウ酸カリウムを調製できた。
【0104】
MTT、PEX及びTDDはSigma-Aldrich社から購入し、さらに精製することなく直接使用した。
【0105】
光化学的に活性なNCインクの特性評価
DOLFINインク中のNCの完全性(integrity)は、吸収スペクトル及びTEM画像により実証した。例えば、PEXでキャップされたCdSe NCの吸収スペクトルは、オレイン酸でキャップされたものと類似しており、このことは、NCがそれらの電子構造及びサイズを維持していることを示す。さらに、結合したPEXリガンドに帰属される311nmに現れた新たなフィーチャーが、対応するNCの吸収スペクトルの上に加わった。このわずかな赤方偏移は、リガンドとNCの間の電気的カップリングの証拠である。CdSe NCをコロイド安定なインクに安定化させるために、PEXの他に、ADC、DTC、DTO、MTT及びTDDリガンドも使用した。これらのリガンドは、従来の溶媒中でNCに対して優れたコロイド安定性を提供し、ADC、DTC、DTO、MTT、TDDの吸収フィーチャーは、それぞれ291nm、288nm、340nm、245nm、333nm付近にあった。このことは、DUV光(254nm)がこれらリガンドの全ての分解を引き起こし、365nmの光子がTDDとDTOの分解を導くことがわかった。同様の吸収挙動は、他のNCでも観察された。TEM画像により確認した場合に、嵩高い有機リガンドを短い感光性リガンド構造に置き換えたことによる短い粒子間距離を除いて、NCはそれらのサイズ及び形態を維持していた。
【0106】
NCの静電的安定化は、ζ電位測定によって裏付けられた。ζ電位測定では、負の値(DMF中のADCでキャップされたCdSe QD、DTCでキャップされたCdSe QD、DTOでキャップされたCdSe QD、MTTでキャップされたCdSe QD、PEXでキャップされたCdSe QD及びTDDでキャップされたCdSe QDに対応する-24.0mV、-19.6mV、-50.3mV、-38.5mV、-36.6mV及び-29.7mV)は、NC表面への感光性リガンドの結合が、各NCの周りに電気的二重層を生じたことを示した。ζ電位の測定値のわずかな違いは、おそらくNCに対するリガンドの結合力が異なるためである。BF 安定化NCの場合、NCの組成に関わらず正のζ電位が観測されたが、これは、正電荷を帯びた表面金属中心に対するBF 自体の弱い結合親和性に起因する。
【0107】
さらに、処理されたCdSe NCのX線回折(XRD)パターンは、有機リガンドでキャップされたNCのパターンと同じであった。CdSe以外の他の相からのピークは観察されず、このことは、リガンド交換後に新たな相が生じず、結晶サイズが変化しなかったことを示す。リガンド交換の完全性は、合成されたままのNC又は処理されたNCをKBr基材上に堆積させることにより、FTIR分光法で確認した。元の炭化水素リガンドの特徴的C-H伸縮及びC-H変角に由来する2800~3000cm-1及び1300~1500cm-1の吸収バンドは、リガンド交換反応後に大幅に抑制された。
【0108】
無機材料の直接パターニング
DOLFINシステムの機器及びマスク
光学的パターニングは、EVG半自動両面マスクアライナーシステムを用いてクリーンルーム内で、又はバインダークリップを用いて周囲実験室条件で行った。365nmのi線リソグラフィーの場合には、マスクアライナーの内部UV光を光源として使用し、一方、DUVパターニングの場合には、Jelight Company, Inc.から入手した低圧水銀蒸気グリッドランプ(254nm、6.3mW/cm)を外部光源として使用した。405nmのh線リソグラフィーの場合には、ThorLabs, Inc.から入手した外部光源を使用した。石英基材及びクロムコーティングを備えたマスクは、Front Range Photo Mask Co.から購入した。NCインクのパターニングに使用した露光線量を、市販の有機フォトレジストに必要とされる露光線量と比較した。
【0109】
EBLシステムの機器
電子線描画は、JC Nabity Nanometer Pattern Generation System (NPGS 9.0)を備えたFEI Nova NanoSEM 230高分解能電界放出SEMで行った。NCインクをパターニングするのに使用した露光線量を、PMMA、ZEP及びHSQなどの市販の電子レジストの露光線量と比較した。(Gangnaik, A. S.; Georgiev, Y. M.; Holmes, J. D. Chemistry of Materials 2017, 29, 1898.)
【0110】
構造的及び光学的特性評価
300kV FEI Tecnai F30顕微鏡を使用してTEM画像を得た。高分解能電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)分析は、5kVでCarl Zeiss Merlin顕微鏡により行った。40kV、40mAで動作するCu Kα X線源を備えたBruker D8回折計を使用して広角PXRDパターンを収集した。Cary 5000紫外-可視-近赤外(UV-Vis-NIR)分光光度計を使用して紫外-可視吸収スペクトルを測定した。Nicolet Nexus-670 FTIR分光計を使用して透過モードでFTIRスペクトルを得た。KBr結晶基材(International Crystal Laboratories)上にNC分散体をドロップキャストして濃縮させ、次いで、100℃(DMF及びNMF溶液の場合)で乾燥させることによって、試料を作製した。赤外(IR)吸光度は、基材の単位面積あたりに堆積されたNCの質量で規格化した。N下、加熱速度5℃/分及び冷却速度5℃/分で、30~600℃の温度範囲で、TA Instruments SDT Q600サーマルアナライザーフローを使用することによって、熱質量分析(TGA)測定を行った。Agilent 700シリーズ分光器を使用して誘導結合プラズマ発光分光法(ICP-OES)分析を行った。プラスチック容器内の王水(HNO、≧69.0%、TraceSELECT、微量分析用;HCl、≧37%、TraceSELECT、微量分析用、発煙;Sigma Aldrich)により試料を消化し、その後、脱イオン水で希釈した。Zetasizer Nano-ZS(Malvern Instruments、英国)を使用してDLS及びζ電位のデータを収集した。ディップセルPd電極を備えた石英キュベットにコロイド溶液を入れ、その電極を介して溶液に電場を印加した。Bruker Dektak XT-Sプロフィロメーターを使用してクリーンルーム内でプロフィロメトリー測定を行った。イエローフィルターを備えたグローブボックス内でSi/SiO上にNC溶液をスピンコートすることにより膜を作製した。Si/SiO又はSi基材上のパターン化された酸化物層の厚さ及び反射率をマッピングするためにGaertner Waferskan自動エリプソメーターを使用することによって、エリプソメトリー測定を行った。
【0111】
コロイド状NC間の相互作用ポテンシャルの数値的評価(DLVO)
希薄電解質溶液中の2つの球状粒子間の静電二重層相互作用は,ポアソン-ボルツマン方程式:
【数2】
を解くことによって得られる。ここで、ψは空間に依存する電位であり、κ-1はデバイ長である。この微分方程式には解析的な解がないため、電位の閉じた形式の表現を生成させるために、ある種の簡略化された近似が典型的には使用される。これには、デリャーギン(Derjaguin)近似(DA)、線形ポアソン-ボルツマン近似(LPB)、及び線形重ね合わせ近似(SLA)などがある。これらの近似法の各々は、例えば低い表面電位、小さなデバイ長、大きな粒子半径などの特定の範囲のパラメータに対してのみ有効である。DMF中の裸のCeO NCの場合、デバイ長、粒子径、粒子の分離はすべて、同じ長さスケール(数ナノメートル)に収まっているが、表面電位は比較的高い(>50mV)。このシナリオでは、静電相互作用ポテンシャルを正確に評価するために、数値的なアプローチが必要である。
【0112】
計算スクリプト(DLVO numerical full.m)は、先行文献に基づくが、MATLAB偏微分ツールボックスの一部である「pdenonlin」関数を利用するように書かれたものである(Carnie, S. L. et al., Journal of Colloid and Interface Science 1994, 165 (1), 116-128;Hoskin, N. et al., Philosophical Transactions of the Royal Society of London. Series A, Mathematical and Physical Sciences 1956, 248 (951), 449-466、及びHoskin, N. et al., Philosophical Transactions of the Royal Society of London. Series A, Mathematical and Physical Sciences 1956, 248 (951), 433-448参照)。簡単に説明すると、まず、さまざまな表面分離について、「pdenonlin」関数を使用して2つの定ポテンシャル球の周りの静電ポテンシャルを評価した。中央面をベースとして半球にわたって応力テンソルを積分することにより粒子間の力を算出した。各表面分離における静電相互作用エネルギーは、十分に離れた(力がゼロに近い)分離からその点まで力を積分することによって決定した。最後に、この静電エネルギーをファンデルワールス引力エネルギーと組み合わせて、全相互作用エネルギー(DLVO)曲線を得た。
【0113】
ここで説明したシナリオに関連するパラメータを入力した。これらは測定値又は文献値に基づく:CeOのNC半径はSAXSにより測定し、表面電位(100mV)はゼータ電位測定(約50mV)に基づいて近似し、ハマカー(Hamaker)定数は文献に見られるものである(Faure, B. et al., Science and Technology of Advanced Materials 2013, 14 (2), 023001.参照)。計算結果を、0.001Mの塩濃度と高い1Mの塩濃度の両方の場合の近似解と比較した。次に、2つの球体の間のファンデルワールス相互作用エネルギー、静電相互作用エネルギー及び全(DLVO)相互作用エネルギーを、両方の場合についてプロットした。最後に、0.001Mと1Mの塩濃度の両方の場合の全相互作用エネルギーに8の係数を掛け、まとめてプロットした。8の係数は、ランダム球体充填固体における最近隣の及び接触しそうな(約10~20%の距離)の隣りの数に基づいて選択した。
【0114】
一成分系における感光性リガンドの分解経路。
ADC
ADCとその光分解生成物の両方を分析するためにFTIR分光法を使用した。合成したままのADCのFTIRスペクトルは、アンモニウムイオンNH (N-H変角:1400cm-1、N-H伸縮:3140cm-1、ブロード)及びジチオカルバミン酸アニオンHNCS (N-H第1級アミン変角:1590cm-1、N-H伸縮:3402cm-1;C-N伸縮:1322cm-1)の特徴的なピークと一致した。照射によって、このアニオンに由来するN-Hピーク及びC-Nピークが消失し、同時に2046cm-1に特徴的なチオシアナート伸縮が現れた。この過程はESI-MS測定でも確認され、DUV照射後、ADC溶液中のジチオカルバミン酸アニオン(m/z=92)がチオシアン酸アニオン(m/z=58)に置き換わっていることがわかった。
【0115】
Bu-DTC
ESI-MS測定から、Bu-DTCアニオン(BuNHCS )及びブチルアンモニウムアニオン(Bu-NH )の両方が存在することがわかり、組成がブチルアンモニウムブチルジチオカルバメートであることが確認された。DUV照射によって、Bu-DTCアニオンのピークは消失したが、ブチルアンモニウムイオンは残った。これは、ブチルアミンと二硫化炭素へのBu-DTCの分解と整合する。
【0116】
MTT
MTTリガンドの分解を、ESI-MSと13C及び1H NMRとにより調べた。ESI-MSの結果は、照射前にMTT化合物のm/z=115の負イオンが存在していたことを示した。しかし、照射後に、ポジティブESI-MSに多くの新しいピークが現れた(m/z=145、173、195、205、237)。NMR測定のさらなる検討から、元のMTTリガンドに由来する5員環がDUV照射直後に消失したことが確認された。したがって、光分解メカニズムは、Nが失われて環状中間体が形成され、続いてSが放出されて最終生成物が形成されると推定された。
【0117】
PEX
PEXでキャップされたNCを、はるかに低いDUV線量でパターニングできることから、その他のリガンドと比較して異なるパターニングメカニズムが示された。1H NMR、ESI-MS及びFTIRによる分析では、分解生成物が明らかにならなかったが、これは分解生成物の高い揮発性が原因であると考えられる。そのため、元素分析を含む調査をさらに進めた。
【0118】
NC-PEX表面をまねるために、塩化カドミウム(CdCl)をHO中でPEXとともに析出させることによって、エチルキサントゲン酸カドミウムCd(CHCHOCS又はCd(EX)を合成した。Cd(EX)をDMF(50mg/mL)に再溶解し、DUV光を照射したところ、形成された析出物のCd:S比は1:1.2(ICP-OESによる)であり、CdSの形成が示唆された(対照として、Cd(EX)のCd:S比は1:3.7であった)。したがって、パターニングメカニズムは、ガス状生成物の放出を伴う、NC表面上でのCd-PEXのCdSへの分解と推定された。
【0119】
TDD
FTIR、ESI-MS及びNMR分析に基づいて、TDDによる光パターニングメカニズムは、より小さな生成物への光分解を伴わなかった。代わりに、DUV又は365nm光によって誘発されるチオール-チオンからチオール-チオールの光互変異性化メカニズムが提案された。このTDDのジチオール形態への変換により、TDDが2つのNCと結合することが可能になり、溶解性の低下をもたらすという仮説が立てられる。
【0120】
TDDをメタノールに溶解させた場合に、ネガモード(m/z=149)でESI-MSを使用して、アニオンがはっきりと観測された。13C NMRは、176ppmに1つだけのピーク(互変異性体間の急速な変換による)の存在を示し、既報の測定値(Wiley:172ppm、DMSO-d)に近かった。固体TDDのFTIRピークは、以下の関連する測定値に割り当てることができた:N-H(約3000cm-1:伸縮、倍音、フェルミ共鳴、1414cm-1:変形)、S-H(2480cm-1:伸縮;940cm-1:変形)、チアジアゾール環の伸縮(1241cm-1、1123cm-1、1083cm-1、1051cm-1、716cm-1)。また、TDDのUVスペクトルは、約350nmにピークを示し、これはTDDのチオン体に起因するものであった。
【0121】
DUV又は365nm光を照射すると、350nmの吸収ピークが著しく減少し、ESI-MSからTDDアニオンが観測されなくなった。これはTDD分子の分解又は重合によると説明できる(TDDの重合は、分子をチオール形で固定するため、350nmの吸収がなくなる)。しかし、FTIRと13C NMRの両方から、後の化学変換経路が確認された。FTIRスペクトルは、DUV照射後、N-H結合及びS-H結合からの吸収はなくなったが、チアジアゾール環からの吸収はほとんど変化しないか、あるいは、わずかにシフトしただけであった。さらに、これらのピークは、TDDを150℃(融点よりわずかに低い)でアニールした場合のピークと一致し、525cm-1のS-S伸縮吸収をよりはっきりと示した。アニールしたTDDのスペクトルに比べて照射したTDDのスペクトルのブロード化は、熱誘起プロセスに対する光誘起プロセスにおけるより高いディスオーダーとして理論的に説明できる。また、13C NMRは、ChemDrawによる光誘起互変異性化の予測と一致する、炭素環共鳴の149ppmへのシフトを示した。つまり、TDDは紫外線照射下で光誘起互変異性化を起こす。ジチオールの形成により、互いに重合したり、NCを架橋することができる。
【0122】
式1.DMF中でのDNQの反応(Hall, H. K. J. Journal of the American Chemical Society 1956, 78, 2717.)
【化2】
【0123】
式2.PAGのEB誘起ラジカル反応。
【化3】
【0124】
実施例2
本実施例は、電荷バランスの取れたCdSeナノ結晶とPAGを含む光パターニング可能な膜の製造方法を示す。
【0125】
リガンドの調製
本実施例では、電荷をバランスするリガンド(charge-balancing ligands)として、カルバミン酸塩アニオンを使用した。カルバミン酸塩は、第1級アミンとドライアイスを0℃で混合して得た。カルバミン酸プロピルを例にとると、氷浴下で過剰なドライアイスにプロピルアミンを徐々に加え、数分で白色スラリー状固体を生じさせた。最終生成物を室温で真空により精製し、その間に過剰なドライアイスがCOガスを形成して除去された。次に、白色粉末を収集し、冷蔵庫内の暗所に保存した。出発物質として第1級アミン前駆体を使用したこと以外は同じ一般条件下で他の第1級アミン誘導体カルバミン酸塩を合成した。n-ブチルアミン及びn-ヘキシルアミンを使用して、それぞれ白色のブチルカルバミン酸塩(Bu-DCO)及びヘキシルカルバミン酸塩(Hex-DCO)を形成した。簡単にするために、以下では「DCO」をPr-DCOを指すために使用する。
【0126】
NCインクの調製
2段階リガンド交換プロセスによりDCOに基づくNCインクを調製した。オキソリガンドは、MCC、カルコゲナイド及びハライドなどの他の無機アニオンよりも求核性が低い。そのため、相転移法で有機リガンドをオキソリガンドに直接置き換えることは困難である。したがって、DCO-NCインクの調製は、初期のNCからの有機リガンドの除去と、「裸」のNC表面へのDCOリガンドの再付着という2つの工程を必要とした。
【0127】
出発材料を準備するために、Dongらのアプローチ(Dong, A., et al., J. Am. Chem. Soc. 2011, 133, 998.)に従って、CdSe NCをNOBFで処理してリガンドフリーの裸のNCを得た。例えば、有機リガンドでキャップされたCdSe NCをトルエンで希釈して、濃度35mg/mLの安定な溶液を形成した。希釈にはクロロベンゼンも使用できた。ストリッピングリガンドとして使用したNOBFを、まずDMFに溶解させ(20mg/mL)、次にCdSe NC溶液に質量比2:1(NC:NOBF)で導入した。遠心分離により析出物を分離し、トルエンで少なくとも3回洗浄した。得られたCdSe NCを、トルエンとDMFを用いて、数回の析出-再分散サイクルで精製した。精製したNCを濃度約35mg/mLでDMFに溶解させた。NOBF以外の使用することのできるストリッピング剤の例としては、他のテトラフルオロホウ酸塩(例えばEtOBF)、トリフル酸金属塩(例えばZn(OTf)、Cd(OTf))、硝酸金属塩(例えばZn(NO、In(NO)、硫酸塩、及びリン酸塩が挙げられる。
【0128】
リガンドフリーの裸のNCに、DCOリガンド溶液を濃度20mg/mL、質量比2:1(NC:DCO)で加えることによって、DCOでキャップされたNCを調製した。遠心分離により析出物を単離し、析出物をDMFにより1回洗浄した。精製したNCを、約35mg/mLの濃度でトルエンに溶解させた。次に、かかるDCOでキャップされたCdSe NCと一定数の感光性分子(DOLFINの場合は2.5質量%)を、トルエンとMeOHの共溶媒系(v/v:10:1)中で混合することにより感光性インクを調製した。使用したPAGは、DOLFINを使用してパターン化膜を作製するために使用した非イオン性PAG 2-(4-メトキシスチリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン;DUV照射を使用してパターン化できるp-CHS-C)(COTf;i線及びDELFINを使用してパターン化可能なN-ヒドロキシナフタルイミドトリフラート;及び可視h線でパターン化可能なジアゾナフトキノンなどがある。また、トルエン以外の使用することのできる溶媒としては、O-キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどが挙げられる。
【0129】
カルバメートに基づくNCインクの光パターニング
カルバメートリガンドは紫外光領域に吸収特徴を持たないため、PAGを加えて光パターニング可能なインクとした。2-(4-メトキシスチリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジンPAGは、365nm光を照射すると、HClを放出し、これがカルバメートを除去するためのストリッピングリガンドとして機能する。NCはパターニング後も明るいPLを維持していた。これはNC表面とPAGからのClアニオンとの間の結合に起因すると考えられる。
【0130】
実施例3
本実施例は、青色光(450nm)に感応する非イオン性PAGを含む光パターニング可能な膜の製造方法を例示する。
【0131】
450nm光子に感応するPAGの合成
2-フェニル-2-(-5((トシルオキシ)イミノ)チオフェン-2-イリデン)アセトニトリル(PTA)を過去の研究に基づいて合成した(Suwinaski, J. et al., Journal of Heterocyclic Chemistry 2003, 40 (3), 523-528、及びXie Xiao-Yan, P. Y.-L. et al., Imaging Science and Photochemistry 2013, 31 (4), 305-315参照)。最初の工程で、5-(ヒドロキシイミノ)チオフェン-2-イリデン)-2-フェニルアセトニトリルを調製し、前駆体として使用した。ニトロチオフェン(645mmol、5mmol)とテトラメチルヒドロキシド(3g)を室温でメタノール(20mL)に溶解させ、続いてフェニルアセトニトリル(1.15mL、10mmol)を加えた。3時間後、得られた混合物を、次に、pHが5になるまで濃塩酸により酸性にした。混合物を50mLの冷水で希釈し、クロロホルムで3回抽出した。ひとまとめにした抽出液を硫酸マグネシウム(VI)と混合して残留水を除去し、さらに、わずかに減圧下、50℃で蒸発させ、過剰な溶媒を除去した。どろどろした残渣に無水ジエチルエーテル(60mL)を加え、得られた溶液をろ過し、わずかに減圧下で35℃で蒸発させた。粉砕した生成物をジクロロメタン及びシリカゲルと混合し、次に、シリカゲルを固定相、石油エーテルと酢酸エチルの混合溶媒を移動相(体積4:1)とした薄層クロマトグラフィー(TLC)を用いて精製した。その結果、褐色生成物が収率42%で得られた。
【0132】
第2の工程において、合成したままの5-(ヒドロキシイミノ)チオフェン-2-イリデン)-2-フェニルアセトニトリル(140mg、0.5mmol)とトリエチルアミン(250μL)をテトラヒドロフラン(1.5mL)に溶解させた。氷浴中で、テトラヒドロフラン(500μL)に溶解したp-トルエンスルホニルクロリド(95mg、0.5mmol)を上記溶液に滴下添加した。3時間後、溶液を過剰な水の中に注ぎ入れ、析出した黒色粒子を収集し、THF又はトルエンに再溶解させ、水で3回洗浄した。生成物である2-フェニル-2-(-5-((トシルオキシ)イミノ)チオフェン-2-イリデン)アセトニトリル(図14)を真空乾燥した。収率は34%であった。
【0133】
PTAの光化学的研究
PAG PTAの光分解プロセスについて提案されるメカニズムを図11Aに示す。PTAのUV-Vis吸収及びH-NMR研究の結果は、それぞれ、図11B及び11Cに提供されている。
【0134】
非プロトン化形態及びプロトン化形態のRBの構造を図12Aに示す。酸感応性指示薬としてのRBのUV-Vis吸収研究を、図12B~12Dに示す。
【0135】
二成分型感光性NCインク
AsS 3-リガンドで交換されたオレエートリガンドでキャップされたCdSe
CdSe NC(4.5nm、ウルツ鉱相)を例にして、まず、100μLの合成したままのNC(30mg/mL)を1mLのトルエンに希釈した。NMF(0.5M)中の新鮮なKAsS溶液100μLを加え、1分間ボルテックスした後、赤いコロイド溶液が濁ったNC懸濁液になった。この固体を遠心分離で回収し、NMFに再溶解した。処理したNCを、NMFとトルエンを用いて数回の沈殿-再分散サイクルを繰り返して精製した。精製したCdSe-AsS 3- NCを、15~20mg/mLの濃度で150μLのNMFとDMFの共溶媒系(v/v:1:2)に再溶解させた。
【0136】
二成分リガンド系でキャップされたNC:AsS 3-(安定化リガンド)と感光性非イオン性PAG PTA
AsS 3-でキャップされたCdSe NCコロイドを、DMF中で異なる量のPTA(4~16質量%)と混合することによって、感光性インクを調製した。典型的には、50μLのCdSe-AsS 3- NCを10μLのPTA(20mg/mL)と混合して、安定な黄褐色溶液を形成した。
【0137】
膜の直接パターニング
パターニング実験はイエローライト下で行い、感光性無機インクはスピンコートの前に遠心分離して未溶解粒子を除去した。一般的なDOFLINの手順では、感光性コロイド溶液をDMF中で約20mg/mLの濃度で調製し、SiO基材上にスピンコート(スプレッド:1000rpm、10秒、スピン:2000rpm、60秒)した。次に、マスクアライナーシステムで一緒に固定されたクロムマスクを通して、又はバインダークリップを使用して、青色LED(450nm)又は白色LEDの光を照射した。500mJ/cmの線量を青色及び白色LEDリソグラフィーに使用した。この場合の現像溶媒としてニートNMFを使用した(場合によっては、現像前に露光された基材をTMAHで洗浄することが望ましい)。達成された解像度は5μmと小さかった(図13)。
【0138】
本明細書では、「例示的」という言葉は、例、事例、又は説明として役立つことを意味する。本明細書で「例示的」と記載されている任意の態様又は設計は、必ずしも他の態様又は設計よりも好ましい又は有利であると解釈されるべきではない。さらに、本開示の目的のために、特に断らない限り、「a」又は「an」は「1つ以上」を意味する。
【0139】
本発明の例示的な実施形態の上述の説明は、例示及び説明の目的で提示されたものである。それは、網羅的であること、又は開示された正確な形態に本発明を限定することを意図するものではなく、修正及び変形は、上記の教示に照らして可能であり、又は本発明の実践から獲得することができる。一実施形態は、本発明の原理を説明するために、また、当業者が、企図される特定の使用に適した様々な実施形態で、様々な修正を加えて本発明を利用することができるように、本発明の実用的な応用として選択し、説明した。本発明の範囲は、本明細書に添付した特許請求の範囲及びその均等物によって定義されることが意図されている。
本発明に関連する発明の実施態様の一部を以下に示す。
[態様1]
各結晶が表面を有する無機結晶と、
前記無機結晶の前記表面に結合したアルキルカルバメートアニオンと、
前記無機結晶と会合した感光性カチオン又は感光性非イオン性分子、
を含む、リガンドでキャップされた無機結晶。
[態様2]
前記感光性カチオン又は感光性非イオン性分子が光酸発生剤である、態様1に記載のリガンドでキャップされた無機結晶。
[態様3]
基材上の態様1に記載のリガンドでキャップされた無機結晶を含む固体膜。
[態様4]
態様1に記載の膜をパターニングする方法であって、前記方法は、
前記膜の第1の部分に放射線を照射する一方で、前記膜の第2の部分に前記放射線が照射されないようにする工程、ここで、前記放射線と前記感光性カチオン又は感光性非イオン性分子との間の相互作用が前記膜の化学修飾をもたらす;及び
前記膜の第2の部分を溶解するが、前記膜の第1の部分を溶解しない溶媒に前記膜を接触させる工程;
を含む、態様1に記載の膜をパターニングする方法。
[態様5]
各結晶が表面を有する無機結晶と、
前記無機結晶の前記表面に結合したアニオンと、
前記無機結晶と会合した2-フェニル-2-(-5-((トシルオキシ)イミノ)チオフェン-2-イリデン)アセトニトリル分子、
を含む、リガンドでキャップされた無機結晶。
[態様6]
前記アニオンが金属ハロゲン化物又は金属カルコゲナイドアニオンを含む、態様5に記載のリガンドでキャップされた無機結晶。
[態様7]
基材上の態様5に記載のリガンドでキャップされた無機結晶を含む固体膜。
[態様8]
態様7に記載の膜をパターニングする方法であって、前記方法は、
前記膜の第1の部分に放射線を照射する一方で、前記膜の第2の部分に前記放射線が照射されないようにする工程、ここで、前記放射線と前記2-フェニル-2-(-5-((トシルオキシ)イミノ)チオフェン-2-イリデン)アセトニトリル分子との間の相互作用が前記膜の化学修飾をもたらす;及び
前記膜の第2の部分を溶解するが、前記膜の第1の部分を溶解しない溶媒に前記膜を接触させる工程;
を含む、態様7に記載の膜をパターニングする方法。
[態様9]
各結晶が表面を有する無機結晶と、
前記無機結晶の前記表面に結合したアニオンと、
前記無機結晶と会合した1,2-ナフトキノンジアジド-4-スルホニルクロリド分子、
を含む、リガンドでキャップされた無機結晶。
[態様10]
前記アニオンが、金属ハロゲン化物又は金属カルコゲナイドアニオンを含む、態様9に記載のリガンドでキャップされた無機結晶。
[態様11]
基材上の態様9に記載のリガンドでキャップされた無機結晶を含む固体膜。
[態様12]
態様11に記載の膜をパターニングする方法であって、前記方法は、
前記膜の第1の部分に放射線を照射する一方で、前記膜の第2の部分に前記放射線が照射されないようにする工程、ここで、前記放射線と前記1,2-ナフトキノンジアジド-4-スルホニルクロリド分子との間の相互作用が前記膜の化学修飾をもたらす;及び
前記膜の第2の部分を溶解するが、前記膜の第1の部分を溶解しない溶媒に前記膜を接触させる工程;
を含む、態様11に記載の膜をパターニングする方法。
[態様13]
各結晶が表面を有する無機結晶と、
前記無機結晶の前記表面に結合した感光性アニオン、
を含み、前記感光性アニオンが、構造:
【化1】
を有し、ここで、R 及びR は、H原子、S原子及びアルキル基から独立に選択される、リガンドでキャップされた無機結晶。
[態様14]
基材上の態様13に記載のリガンドでキャップされた無機結晶を含む固体膜。
[態様15]
態様14に記載の膜をパターニングする方法であって、前記方法は、
前記膜の第1の部分に放射線を照射する一方で、前記膜の第2の部分に前記放射線が照射されないようにする工程、ここで、前記放射線と前記感光性アニオンとの間の相互作用が前記膜の化学修飾をもたらす;及び
前記膜の第2の部分を溶解するが、前記膜の第1の部分を溶解しない溶媒に前記膜を接触させる工程;
を含む、態様14に記載の膜をパターニングする方法。
[態様16]
各結晶が表面を有する無機結晶と、
前記無機結晶の前記表面に結合した感光性アニオン、
を含み、前記感光性アニオンが、構造:
【化2】
を有し、ここで、R 、R 、R 及びR は、O原子、S原子から独立に選択され、ただし、前記感光性アニオンは1,1-ジチオオキサレートでないことを条件とする、リガンドでキャップされた無機結晶。
[態様17]
基材上の態様16に記載のリガンドでキャップされた無機結晶を含む固体膜。
[態様18]
態様17に記載の膜をパターニングする方法であって、前記方法は、
前記膜の第1の部分に放射線を照射する一方で、前記膜の第2の部分に前記放射線が照射されないようにする工程、ここで、前記放射線と前記感光性アニオンとの間の相互作用が前記膜の化学修飾をもたらす;及び
前記膜の第2の部分を溶解するが、前記膜の第1の部分を溶解しない溶媒に前記膜を接触させる工程;
を含む、態様17に記載の膜をパターニングする方法。
[態様19]
各結晶が表面を有する無機結晶と、
前記無機結晶の前記表面に結合した感光性アニオン、
を含み、前記感光性アニオンが、構造:
【化3】
を有し、ここで、R はH原子及びアルキル基から独立に選択され、Aは、C原子、N原子、O原子又はS原子であり、ただし、前記感光性アニオンはエチルキサンテートでないことを条件とする、リガンドでキャップされた無機結晶。
[態様20]
基材上の態様19に記載のリガンドでキャップされた無機結晶を含む固体膜。
[態様21]
態様20に記載の膜をパターニングする方法であって、前記方法は、
前記膜の第1の部分に放射線を照射する一方で、前記膜の第2の部分に前記放射線が照射されないようにする工程、ここで、前記放射線と前記感光性アニオンとの間の相互作用が前記膜の化学修飾をもたらす;及び
前記膜の第2の部分を溶解するが、前記膜の第1の部分を溶解しない溶媒に前記膜を接触させる工程;
を含む、態様20に記載の膜をパターニングする方法。
[態様22]
各結晶が表面を有する無機結晶と、
前記無機結晶の前記表面に結合した感光性アニオン、
を含み、前記感光性アニオンが、構造:
【化4】
を有し、ここで、R はH原子、S原子及びアルキル基から独立に選択され、R はH原子、S原子及びアルキル基から独立に選択され、AはC原子、N原子、C原子又はS原子であり、BはC原子、N原子、C原子又はS原子であり、ただし、前記感光性アニオンはメルカプト-1-メチルテトラゾール又は1,2,3,4-チアトリアゾール-5-チオレートでないことを条件とする、リガンドでキャップされた無機結晶。
[態様23]
各結晶が表面を有する無機結晶と、
前記無機結晶の前記表面に結合した感光性アニオン、
を含み、前記感光性アニオンが、構造:
【化5】
を有し、ここで、R 及びR は、H原子、SH基、NH 基及びアルキル基から独立に選択される、リガンドでキャップされた無機結晶。
[態様24]
前記感光性アニオンが1,3,4-チアジアゾール-2,5-ジチオールである、態様23に記載のリガンドでキャップされた無機結晶。
[態様25]
基材上の態様23に記載のリガンドでキャップされた無機結晶を含む固体膜。
[態様26]
態様25に記載の膜をパターニングする方法であって、前記方法は、
前記膜の第1の部分に放射線を照射する一方で、前記膜の第2の部分に前記放射線が照射されないようにする工程、ここで、前記放射線と前記感光性アニオンとの間の相互作用が前記膜の化学修飾をもたらす;及び
前記膜の第2の部分を溶解するが、前記膜の第1の部分を溶解しない溶媒に前記膜を接触させる工程;
を含む、態様25に記載の膜をパターニングする方法。
図1A
図1B
図1C
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A-4C】
図4D
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図5G
図5H
図5I
図5J
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図7A-7B】
図7C
図7D
図8A
図8B
図8C
図8D
図9
図10A
図10B
図11A
図11B
図11C
図12A
図12B-12D】
図13
図14