(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-17
(45)【発行日】2024-04-25
(54)【発明の名称】生分解性積層体及び成形体
(51)【国際特許分類】
B32B 27/36 20060101AFI20240418BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20240418BHJP
B32B 27/22 20060101ALI20240418BHJP
B32B 27/26 20060101ALI20240418BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20240418BHJP
C08K 3/26 20060101ALI20240418BHJP
C08L 67/00 20060101ALI20240418BHJP
C08L 101/16 20060101ALN20240418BHJP
【FI】
B32B27/36
B32B27/20 A
B32B27/22
B32B27/26
C08K3/013
C08K3/26
C08L67/00 ZBP
C08L101/16
(21)【出願番号】P 2023135547
(22)【出願日】2023-08-23
【審査請求日】2024-01-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】311018921
【氏名又は名称】株式会社TBM
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀江 実季
(72)【発明者】
【氏名】笹川 剛紀
(72)【発明者】
【氏名】高松 頼信
(72)【発明者】
【氏名】水野 英二
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-5330(JP,A)
【文献】特開2007-216541(JP,A)
【文献】特表2017-505831(JP,A)
【文献】特許第6916571(JP,B1)
【文献】特許第7240775(JP,B1)
【文献】特許第7094590(JP,B1)
【文献】特開2016-208849(JP,A)
【文献】国際公開第2022/107660(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 27/36
B32B 27/20
B32B 27/22
B32B 27/26
C08K 3/013
C08K 3/26
C08L 67/00
C08L 101/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の層と、第2の層とを有する生分解性積層体であって、
前記第1の層と前記第2の層のそれぞれは、生分解性樹脂と無機物質粉末とを、質量比70:30~10:90の割合で含み、
前記第1の層は、0.1質量%以上5.0質量%以下の、グリセリン酢酸脂肪酸エステル及びアセチルクエン酸トリブチルからなる群より選ばれる1以上の第1の添加剤をさらに含み、
前記第2の層は、0.1質量%以上5.0質量%以下の、イソシアネート化合物、エポキシ化合物、及びカルボジイミド化合物からなる群より選ばれる1以上の第2の添加剤をさらに含む、
生分解性積層体。
【請求項2】
前記第1の層と前記第2の層のそれぞれは、前記生分解性樹脂と前記無機物質粉末とを、質量比70:30~30:70の割合で含む、
請求項1に記載の生分解性積層体。
【請求項3】
前記生分解性樹脂は、ポリ乳酸、ポリヒドロキシブチレート、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリリンゴ酸、ポリグリコール酸、ポリジオキサノン、ポリ(2-オキセタノン)、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)及びポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)からなる群より選ばれる1種以上の生分解性樹脂を含む、
請求項1に記載の生分解性積層体。
【請求項4】
前記生分解性樹脂は、融点が170℃以下の生分解性樹脂を含む、
請求項1に記載の生分解性積層体。
【請求項5】
前記無機物質粉末は、重質炭酸カルシウム粉末を含む、
請求項1に記載の生分解性積層体。
【請求項6】
前記重質炭酸カルシウム粉末の平均粒子径は、0.7μm以上6.0μm以下である、
請求項5に記載の生分解性積層体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の生分解性積層体を含む、
成形体。
【請求項8】
前記成形体は、一方の面が土と接して用いられる農業用マルチフィルムであり、
土と接する面側に、前記第1の層が配置される、
請求項7に記載の成形体。
【請求項9】
前記成形体は、育苗ポット、袋又はボトルであり、
前記成形体の内側に、前記第2の層が配置されており、
前記成形体の外側に、前記第1の層が配置されている、
請求項7に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性積層体及び成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、包装用資材、農業用資材、土木・建築用資材等の素材として、汎用樹脂が用いられている。近年では、環境負荷が少ない素材として、生分解性樹脂の利用が検討されている。
【0003】
生分解性樹脂を含む成形体は、使用時にはその形状を保持しつつ、使用後には速やかに生分解されることが望ましい。例えば農業用マルチフィルムや育苗ポット等の場合、少なくとも農作物がある程度育つまでは形状及び強度を保持し、その後は速やかに分解することが好ましい。従って、生分解性樹脂を含む成形体の分解速度を、用途に応じて調整できることが望まれている。
【0004】
これに対し、上記成形体に使用される生分解性樹脂を含む積層シートとして、層ごとに異なる分解速度を有する生分解性樹脂を用いたり、各層に分解速度を調整する添加剤を添加したりすることで、層ごとの分解速度を調整した積層シートが種々提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1では、生分解性樹脂からなる積層シートであって、加水分解抑制剤等の第1の添加剤を含む第1の層と、加水分解促進剤等の第2の添加剤を含む第2の層とを有する積層シートが開示されている。特許文献2には、分解速度の遅い生分解性樹脂を含む層を有する積層シートが開示されている。特許文献3には、内層と、その両面に配置された外層とを有する3層構造を有し、各層での脂肪族ポリエステルとポリ-3-ヒドロキシ酪酸の混合比の違いにより生分解速度を変えた積層シートが開示されている。
【0006】
また、特許文献4では、内側に分解速度の遅い生分解性樹脂の層と、外側に分解速度の速い生分解性樹脂の層とを有する育苗ポットも開示されている。特許文献5では、生分解性樹脂からなる層と、その両面に配置された、生分解性樹脂にセルロース粉末等の生分解促進剤が配合された組成物からなる層とを有する育苗ポットが開示されている。
【0007】
また、近年では、樹脂の使用量を低減し、環境負荷をさらに少なくした環境配慮素材として、生分解性樹脂に無機物質粉末を多量(30質量%以上)に添加した材料の使用が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2012-205552号公報
【文献】特開2002-219779号公報
【文献】特開2000-129105号公報
【文献】特開平9-98671号公報
【文献】特開2006-217442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、生分解性樹脂に無機物質粉末を多量に添加した材料を用いた成形体は、無機物質粉末を含まない成形体と比べて、分解速度の調整が困難となることがあった。
【0010】
例えば、上記のような成形体は、生分解性樹脂と多量の無機物質粉末とを溶融混練し、コンパウンドする工程を経て得られる。この溶融混練時に多量の無機物質粉末が存在することで、混練物の粘度が上昇しやすく、大きなトルクや熱が発生しやすい。このようなトルクや熱による影響を受けることで、生分解性樹脂の加水分解速度が、想定したものとは異なることがあった。
【0011】
そのような成形体を、例えば育苗ポットとして使用する場合、分解速度を適切に調整できないと、当該積層体が想定より速く分解してしまい、育苗ポットとしての機能を果たせない場合がある。これとは逆に、分解速度が遅すぎると、育苗ポットを土壌に設置した後も上記材料の分解が進まずに、苗の成長に支障を来す虞があった。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、無機物質粉末を多量に含んでいても、所望の分解速度に調整することができる生分解性積層体及び成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
[1] 第1の層と、第2の層とを有する生分解性積層体であって、前記第1の層と前記第2の層のそれぞれは、生分解性樹脂と無機物質粉末とを、質量比70:30~10:90の割合で含み、前記第1の層は、0.1質量%以上5.0質量%以下の、グリセリン酢酸脂肪酸エステル及びアセチルクエン酸トリブチルからなる群より選ばれる1以上の第1の添加剤をさらに含み、前記第2の層は、0.1質量%以上5.0質量%以下の、イソシアネート化合物、エポキシ化合物、及びカルボジイミド化合物からなる群より選ばれる1以上の第2の添加剤をさらに含む、生分解性積層体。
[2] 前記第1の層と前記第2の層のそれぞれは、前記生分解性樹脂と前記無機物質粉末とを、質量比70:30~30:70の割合で含む、[1]に記載の生分解性積層体。
[3] 前記生分解性樹脂は、ポリ乳酸、ポリヒドロキシブチレート、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリリンゴ酸、ポリグリコール酸、ポリジオキサノン、ポリ(2-オキセタノン)、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)及びポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)からなる群より選ばれる1種以上の生分解性樹脂を含む、[1]または[2]に記載の生分解性積層体。
[4] 前記生分解性樹脂は、融点が170℃以下の生分解性樹脂を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の生分解性積層体。
[5] 前記無機物質粉末は、重質炭酸カルシウム粉末を含む、[1]~[4]のいずれかに記載の生分解性積層体。
[6] 前記重質炭酸カルシウム粉末の平均粒子径は、0.7μm以上6.0μm以下である、[5]に記載の生分解性積層体。
[7] [1]~[6]のいずれかに記載の生分解性積層体を含む、成形体。
[8] 前記成形体は、一方の面が土と接して用いられる農業用マルチフィルムであり、土と接する面側に、前記第1の層が配置される、[7]に記載の成形体。
[9] 前記成形体は、育苗ポット、袋又はボトルであり、前記成形体の内側に、前記第2の層が配置されており、前記成形体の外側に、前記第1の層が配置されている、[7]に記載の成形体。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、無機物質粉末を多量に含んでいても、所望の分解速度に調整することができる生分解性積層体及び成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
積層体の分解速度の調整方法としては、ベースとなる生分解性樹脂の種類が異なる複数の層を組み合わせる方法が一般的である(特許文献2及び3参照)。しかしながら、生分解性樹脂の組み合わせによっては、伸び等の物性が大きく異なるため、積層体として機能しない場合がある。そのため、ベースとなる生分解性樹脂の種類が同じであっても、所望の分解速度に調整できることが望まれる。
【0016】
本発明者らは鋭意検討した結果、第1の添加剤としてグリセリン酢酸脂肪酸エステル及びアセチルクエン酸トリブチルからなる群より選ばれる1以上を所定量含む第1の層と、第2の添加剤としてイソシアネート化合物、エポキシ化合物及びカルボジイミド化合物からなる群より選ばれる1以上を含む第2の層と、を積層することで、多量の無機物質粉末を含む樹脂組成物の積層体であっても、所望の分解速度に調整できることを見出した。
【0017】
このメカニズムは明らかではないが、以下のように推測される。第1の添加剤であるグリセリン酢酸脂肪酸エステル及びアセチルクエン酸トリブチルは、コンパウンド時に分解しやすく、遊離カルボン酸を発生しやすい。生成した遊離カルボン酸は、生分解性樹脂の加水分解を促進しうる。即ち、第1の添加剤は、加水分解を促進する成分として機能しうる。
【0018】
一方、第2の添加剤であるイソシアネート化合物、エポキシ化合物及びカルボジイミド化合物が有するイソシアネート基やエポキシ基、カルボジイミド基は、カルボキシル基との反応性が高い。そのため、これらの成分は、コンパウンド時に生分解性樹脂の加水分解により生成する遊離カルボン酸と反応しやすく、生分解性樹脂の加水分解の更なる進行を抑制することができる。即ち、第2の添加剤は、加水分解を抑制する成分として機能しうる。
【0019】
このように、第1の添加剤を含む分解速度が速い層と、第2の添加剤を含む分解速度が遅い層とを任意に積層することで、積層体全体の分解速度を、用途に応じて適切に調整することができる。
【0020】
以下、本発明の一実施形態に係る生分解性積層体とそれを含む成形体について、具体的に説明する。
【0021】
1.生分解性積層体
本発明の一実施の形態に係る生分解性積層体は、第1の層と、第2の層とを含む。
【0022】
1-1.第1の層
第1の層は、生分解性樹脂と、無機物質粉末と、第1の添加剤としてグリセリン酢酸脂肪酸エステル及びアセチルクエン酸トリブチルからなる群より選ばれる1以上と、を含む。そのような第1の層は、第2の層よりも遅い分解速度を有する。
【0023】
1-1-1.生分解性樹脂
生分解性樹脂としては、任意の生分解性樹脂を使用することができる。生分解性樹脂の例には、
ポリ乳酸(PLA)、ポリヒドロキシブチレート、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(PHBH)、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリエチレンサクシネート(PBA)、ポリリンゴ酸、ポリグリコール酸(PGA)、ポリジオキサノン、ポリ(2-オキセタノン)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)等の脂肪族ポリエステル樹脂;
ポリブチレンテレフタレート/サクシネート(PETS)、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)、ポリテトラメチレンアジペート/テレフタレート等の脂肪族芳香族共重合ポリエステル樹脂;
デンプン、セルロース、キチン、キトサン、グルテン、ゼラチン、ゼイン、大豆タンパク、コラーゲン、ケラチン等の天然高分子と上記脂肪族ポリエステル樹脂又は脂肪族芳香族コポリエステル樹脂との混合物等が含まれる。
【0024】
これらの中でも、良好な生分解性や成形性を示す観点から、生分解性樹脂は、脂肪族ポリエステル樹脂又は脂肪族芳香族共重合ポリエステル樹脂を含むことが好ましく、ポリ乳酸、ポリヒドロキシブチレート、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリリンゴ酸、ポリグリコール酸、ポリジオキサノン、ポリ(2-オキセタノン)、ポリブチレンサクシネートアジペート、及びポリブチレンアジペートテレフタレートからなる群から選択される1以上を含むことがより好ましい。なお、ポリ乳酸には、乳酸の単独重合体と、乳酸と他の共重合モノマーとの共重合体の両方が含まれる。
【0025】
また、積層体の成形性や柔軟性をより高める観点では、融点が170℃以下、好ましくは60℃以上140℃以下の生分解性樹脂を含むことが好ましい。そのような生分解性樹脂は、特にコンパウンド時にダメージを受けやすい。そのような生分解性樹脂を含む生分解性積層体において、上記した第1の層と第2の層とによる分解速度の調整がより有効となる。
【0026】
生分解性樹脂の融点は、以下の方法で測定することができる。
示差走査熱量分析器を用いて、樹脂の試料を、窒素気流下、20℃から190℃まで10℃/分の速度で昇温して上記試料を融解させて結晶融解曲線を得る。得られた結晶融解曲線において、最も高温側の融点ピークのトップ温度を融点Tmとして求めることができる。
【0027】
第1の層に含まれる生分解性樹脂は、1種であってもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
【0028】
第1の層における生分解性樹脂の含有量は、生分解性樹脂と無機物質粉末の含有比率が後述する範囲を満たせば特に制限されない。生分解性樹脂の含有量の下限は、第1の層に対して10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましい。生分解性樹脂の上記含有量が10質量%以上であると、成形性をより高めることができる。一方、生分解性樹脂の含有量の上限は、70質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましい。生分解性樹脂の上記含有量が70質量%以下であると、無機物質粉末の含有割合がより多くなるため、製造コストをより低減できるだけでなく、機械的強度をより高めることができる。
【0029】
1-1-2.無機物質粉末
無機物質粉末としては、任意の無機物質粉末を使用することができる。無機物質粉末の例には、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、チタン、鉄、亜鉛等の金属の炭酸塩、硫酸塩、珪酸塩、リン酸塩、又はホウ酸塩;上記金属の酸化物;上記塩又は酸化物の水和物等が含まれる。
【0030】
具体的には、無機物質粉末としては、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、シリカ、アルミナ、クレー、タルク、カオリン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、リン酸マグネシウム、硫酸バリウム、珪砂、カーボンブラック、ゼオライト、モリブデン、珪藻土、セリサイト、シラス、亜硫酸カルシウム、硫酸ナトリウム、チタン酸カリウム、ベントナイト、黒鉛等が挙げられる。第1の層に含まれる無機物質粉末は、1種であってもよいし、2種以上の組み合わせてもよい。
【0031】
これらの中でも、炭酸カルシウム粉末が好ましい。炭酸カルシウム粉末は、得られる成形体の機械的強度をより高めることができるだけでなく、製造コストをより低減したりすることができる。
【0032】
炭酸カルシウム粉末は、重質炭酸カルシウム粉末であってもよいし、軽質炭酸カルシウム粉末であってもよい。重質炭酸カルシウムとは、炭酸カルシウム(CaCO3)を主成分とする天然原料(石灰石等)を機械的に粉砕して得られる炭酸カルシウムである。軽質炭酸カルシウムとは、合成法(化学的沈殿反応等)により調製された炭酸カルシウムである。生分解性樹脂に対する相溶性をより高める観点では、無機物質粉末は、重質炭酸カルシウム粉末を含むことが好ましい。
【0033】
無機物質粉末は、表面処理剤で処理されていてもよい。表面処理剤としては、無機物質粉末の分散性等を高める観点から、スルホン酸を含む表面処理剤、スルホン酸塩を含む表面処理剤、又はリン酸エステルを含む表面処理剤が好ましい。
【0034】
無機物質粉末の形状は、特に限定されず、粒子状、フレーク状、顆粒状、繊維状のいずれであってもよい。粒子状には、球形や不定形が含まれる。
【0035】
無機物質粉末における、JIS M-8511に準じた空気透過法に基づく平均粒子径は、0.7μm以上6.0μm以下であることが好ましく、1.0μm以上5.0μm以下であることがより好ましい。無機物質粉末の平均粒子径が0.7μm以上であると、生分解性樹脂に対する分散性をより高めることができる。無機物質粉末の平均粒子径が6.0μm以下であると、積層体の表面の凹凸による外観の低下を抑制することができる。
【0036】
無機物質粉末の平均粒子径は、JIS M-8511に準じた空気透過法による比表面積の測定結果から計算により求めることができる。測定機器としては、例えば、島津製作所社製の比表面積測定装置SS-100型を用いることができる。
【0037】
第1の層における無機物質粉末の含有量の下限は、特に制限されないが、第1の層に対して30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましい。無機物質粉末の上記含有量が30質量%以上であると、生分解性積層体の機械的強度をより高めたり、製造コストをより低減したりすることができる。また、混練時のトルクもより大きくなるため、第1の層の生分解速度もより早くなりやすい。無機物質粉末の上記含有量の上限は、90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましい。無機物質粉末の上記含有量が90質量%以下であると、生分解性樹脂の含有割合を所定量以上となるため、成形性がより損なわれにくい。
【0038】
第1の層に含まれる生分解性樹脂と無機物質粉末との質量比(生分解性樹脂:無機物質粉末)は、70:30~10:90であり、好ましくは70:30~30:70であり、より好ましくは60:40~40:60である。無機物質粉末の質量比が多いほど、生分解性積層体の機械的強度はより高くなりやすい。また、生分解性樹脂の分解速度もより早くなりやすい。無機物質粉末の質量比が少ないほど、成形性はより高くなりやすい。
【0039】
1-1-3.第1の添加剤
第1の添加剤は、グリセリン酢酸脂肪酸エステル及びアセチルクエン酸トリブチルからなる群より選ばれる1以上である。これらの成分は、可塑剤として良好に機能し、成形性や柔軟性を高めるだけでなく、上記の通り、加水分解促進剤として良好に機能しうる。
【0040】
第1の層における第1の添加剤の合計含有量は、第1の層に対して0.1質量%以上5.0質量%以下である。第1の添加剤の上記合計含有量が0.1質量%以上であると、生分解性樹脂の加水分解を促進し、分解速度を高めることができる。第1の添加剤の上記合計含有量が5.0質量%以下であると、添加剤のブリードアウトを有効に防止できる。同様の観点から、第1の添加剤の上記合計含有量は、0.1質量%以上4.0質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以上3.0質量%以下であることがより好ましい。
【0041】
1-1-4.他の成分
第1の層は、必要に応じて上記以外の他の成分をさらに含んでもよい。他の成分の例には、上記以外の他の樹脂、他の可塑剤、滑剤、色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、カップリング剤、流動性改良材、難燃剤、発泡剤、帯電防止剤等が含まれる。これらは、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、酸化防止剤が好ましい。
【0042】
酸化防止剤の例には、ヒンダードフェノール系、ヒンダードアミン系、ホスファイト系の酸化防止剤が含まれる。
【0043】
他の成分の合計量は、本発明の効果が損なわれない範囲であればよく、第1の層に対して2.0質量%以下、好ましくは0.1質量%以上1.5質量%以下とすることができる。他の成分の合計量が上記範囲内であると、ブリードアウト等をより少なくすることができる。
【0044】
1-1-5.物性
第1の層の厚みは、用途にもよるが、例えば10μm以上2000μm以下であることが好ましく、50μm以上500μm以下であることがより好ましい。第1の層の厚みが10μm以上であると、生分解性積層体の分解速度をより早めることができ、使用後の生分解性をより早めることができる。第1の層の厚みが2000μm以下であると、生分解性積層体の分解速度が過剰に早くなりにくく、使用時の機械的強度がより損なわれにくい。
【0045】
1-2.第2の層
第2の層は、生分解性樹脂と、無機物質粉末と、第2の添加剤としてイソシアネート化合物、エポキシ化合物及びカルボジイミド化合物からなる群より選ばれる1以上と、を含む。そのような第2の層は、第1の層よりも早い分解速度を有する。
【0046】
第2の層に含まれる生分解性樹脂及び無機物質粉末としては、第1の層に含まれる生分解性樹脂及び無機物質粉末として挙げたものとそれぞれ同様のものを使用できる。また、第2の層における生分解性樹脂及び無機物質粉末の含有量やそれらの質量比の範囲は、第1の層における生分解性樹脂及び無機物質粉末の含有量やそれらの質量比の範囲とそれぞれ同様とすることができる。
【0047】
第2の層に含まれる生分解性樹脂及び無機物質粉末は、第1の層に含まれる生分解性樹脂及び無機物質粉末と、それぞれ同じであってもよいし、異なってもよい。例えば、製造効率や層間密着性をより高める観点では、第2の層に含まれる生分解性樹脂及び無機物質粉末は、第1の層に含まれる生分解性樹脂及び無機物質粉末と、それぞれ同じであることが好ましい。
【0048】
また、第2の層に含まれる無機物質粉末の含有量は、第1の層に含まれる無機物質粉末の含有量と、それぞれ同じであってもよいし、異なってもよい。例えば、無機物質粉末の含有量が多いほど、加水分解速度は速くなりやすい。従って、第1の層の無機物質粉末の含有量を、第2の層の無機物質粉末の含有量よりも多くしてもよい。
【0049】
1-2-1.第2の添加剤
第2の添加剤は、イソシアネート化合物、エポキシ化合物、及びカルボジイミド化合物からなる群より選ばれる1以上である。これらの成分は、加水分解抑制剤として機能しうる。具体的には、生分解性樹脂が加水分解すると、遊離カルボン酸を生成する。上記成分のイソシアネート基、エポキシ基又はカルボジイミド基等は、遊離カルボン酸と速やかに反応しうるため、生分解性樹脂の加水分解を抑制しうる。
【0050】
(イソシアネート化合物)
イソシアネート化合物は、1分子中にイソシアネート基を有する化合物である。イソシアネート化合物は、炭素原子数2~20、好ましくは炭素原子数3~12のアルキレンジイソシアネート又はシクロアルキレンジイソシアネートであることが好ましい。
【0051】
アルキレンジイソシアネートの例には、1,2-エチレンジイソシアネート;1,2-テトラメチレンジイソシアネート、1,3-テトラメチレンジイソシアネート、1,4-テトラメチレンジイソシアネート等のテトラメチレンジイソシアネート;1,2-ヘキサメチレンジイソシアネート、1,3-ヘキサメチレンジイソシアネート、1,4-ヘキサメチレンジイソシアネート、1,5-ヘキサメチレンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、2,5-ヘキサメチレンジイソシアネート等のヘキサメチレンジイソシアネート;2-メチル-1,5-ペンタンジイソシアネート、3-メチル-1,5-ペンタンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等が含まれる。
【0052】
シクロアルキレンジイソシアネートの例には、イソホロンジイソシアネート;1,2-シクロヘキシルジイソシアネート、1,3-シクロヘキシルジイソシアネート、1,4-シクロヘキシルジイソシアネート等のシクロヘキシルジイソシアネート;4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等が含まれる。
【0053】
中でも、遊離カルボン酸との反応性がより高い観点では、炭素原子数3~12のアルキレンジイソシアネートが好ましく、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネートがより好ましい。
【0054】
(エポキシ化合物)
エポキシ化合物は、1分子中にエポキシ基を有する化合物である。そのようなエポキシ化合物としては、エポキシ化オイル、エポキシ基を有する単量体に由来する構造単位を含むエポキシ基含有重合体、多価アルコール類(例えばグリセロール、ソルビトール、ペンタエリスリトール、ポリエチレングリコール等)とエピクロルヒドリン等のハロゲン含有エポキシド類との反応生成物等が挙げられる。中でも、1分子中にエポキシ基を多く含み、加水分解をより抑制しやすくする観点では、エポキシ基含有重合体が好ましい。
【0055】
エポキシ基含有重合体としては、(メタ)アクリレートに由来する構造単位と、グリシジル(メタ)アクリレートに由来する構造単位とを含む共重合体が挙げられる。なお、本明細書において、(メタ)アクリレートとは、アクリレート、メタクリレート、又はこれらの両方を表す。
【0056】
(メタ)アクリレートの例には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレートが含まれる。グリシジル(メタ)アクリレートの例には、グリシジルメチル(メタ)アクリレート、グリシジルエチル(メタ)アクリレート等が含まれる。
【0057】
当該共重合体は、他の共重合モノマーに由来する構造単位をさらに含んでよい。他の共重合体モノマーの例には、上記以外のエチレン性不飽和カルボン酸(例えば(メタ)アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸);スチレン類(例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン)等が含まれる。
【0058】
グリシジル(メタ)アクリレートに由来する構造単位の含有量は、共重合体を構成する全構造単位に対して20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることがさらに好ましい。グリシジル(メタ)アクリレートに由来する構造単位の含有量が多いほど、より多くの遊離カルボン酸を捕捉することができるため、加水分解速度をより遅くすることができる。
【0059】
エポキシ当量は、例えば150g/当量以上3000g/当量以下、好ましくは200g/当量以上500g/当量以下とすることができる。エポキシ当量が上限以下であると、1分子中のエポキシ基の数が多いため、加水分解速度をより遅くすることができる。
【0060】
エポキシ基含有重合体の重量平均分子量は、例えば2000以上25000以下、好ましくは3000以上8000以下とすることができる。エポキシ基含有重合体の重量平均分子量が下限以上であると、耐熱性をより高めることができ、上限以下であると、成形性をより高めることができる。重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィによりポリスチレン換算にて測定することができる。
【0061】
エポキシ基含有重合体の具体例には、スチレンと(メタ)アクリル酸エステルとグリシジル(メタ)アクリレートの共重合体が含まれる。市販品としては、例えばJoncryl ADR 4368等のJoncryl ADRシリーズ(BASF社製)を使用できる。
【0062】
(カルボジイミド化合物)
カルボジイミド化合物は、1分子中にカルボジイミド基(-N=C=N-)を有する化合物である。カルボジイミド化合物は、1分子中に1つのカルボジイミド基を有するモノカルボジイミド化合物であってもよいし、1分子中に2つ以上のカルボジイミド基を有するポリカルボジイミド化合物であってもよい。
【0063】
モノカルボジイミド化合物の例には、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ビス-2,6-ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジイソブチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド等が含まれる。
【0064】
ポリカルボジイミド化合物の例には、p-フェニレン-ビス-o-トリイルカルボジイミド、p-フェニレン-ビス-p-クロルフェニルカルボジイミド、エチレン-ビス-ジフェニルカルボジイミド等の芳香族ジカルボジイミド化合物、ポリ(4,4’-ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド)等の脂肪族ポリカルボジイミド化合物、ポリ(N,N’-ジ-2,6-ジイソプロピルフェニルカルボジイミド)、ポリ(1,3,5-トリイソプロピルフェニレン-2,4-カルボジイミド)等の芳香族ポリカルボジイミド化合物が挙げられる。
【0065】
カルボジイミド化合物としては、市販品を用いてもよい。市販品の例には、東京化成社製B2756、日清紡ケミカル社製カルボジライトLA-1、ラインケミー社製Stabaxol P、Stabaxol P400、Stabaxol I等が含まれる。
【0066】
これらの中でも、耐熱性をより高める観点では、芳香族カルボジイミド化合物が好ましく、さらに加水分解抑制効果を高める観点では、芳香族ポリカルボジイミド化合物がより好ましい。
【0067】
ポリカルボジイミド化合物の数平均分子量は、特に制限されないが、例えば1000以上30000以下、好ましくは2000以上20000以下、さらに好ましくは3000以上15000以下とすることができる。数平均分子量が1000以上であると、耐熱性がより高いため、例えばコンパウンド時においてそれ自体が分解しにくいだけでなく、生分解性樹脂のダメージをより少なくすることができる。数平均分子量が30000以下であると、樹脂への分散性がより損なわれにくい。数平均分子量も、上記と同様の方法で測定することができる。
【0068】
(共通事項)
第2の層は、第2の添加剤である上記成分のうち1種類のみを含んでもよいし、2種類以上を含んでもよい。中でも、加水分解抑制効果が高い観点では、第2の層は、カルボジイミド化合物を含むことが好ましい。
【0069】
第2の層における第2の添加剤の合計含有量は、第2の層に対して0.1質量%以上5.0質量%以下である。第2の添加剤の上記合計含有量が0.1質量%以上であると、第2の層における生分解性樹脂の加水分解を抑制し、分解速度を遅くすることができる。第2の添加剤の上記合計含有量が5.0質量%以下であると、分解速度が遅くなりすぎるのを抑制できるだけでなく、成形加工性の低下を有効に防止できる。同様の観点から、第2の添加剤の上記合計含有量は、0.1質量%以上4.0質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以上0.5質量%以下であることがより好ましい。
【0070】
第2の層は、第1の層と同様に、上記した他の成分をさらに含んでもよい。例えば、第2の層は、成形性をより高める観点から、滑剤をさらに含んでもよい。
【0071】
滑剤の例には、ステアリルアルコール、セチルアルコール等の高級脂肪族アルコール;ラウリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸等の高級脂肪酸;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ヒドロキシステアリン酸カルシウム等の高級脂肪酸の金属塩等が含まれる。
【0072】
滑剤の含有量は、第2の層に対して、例えば2.0質量%以下、好ましくは0.1質量%以上1.0質量%以下とすることができる。滑剤の含有量を上記範囲内とすることで、樹脂組成物中の各成分同士の摩擦をより低減し、成形性をより高めることができる。
【0073】
1-2-2.物性
第2の層の厚みは、特に制限されないが、例えば1μm以上500μm以下であることが好ましく、5μm以上100μm以下であることがより好ましい。第2の層の厚みが1μm以上であると、生分解性積層体の分解速度をより遅くすることができ、使用時の機械的強度をより高めることができる。第2の層の厚みが500μm以下であると、生分解性積層体の分解速度が過剰に小さくなりにくく、使用後の生分解性がより損なわれにくい。
【0074】
第1の層と第2の層の厚みの比(第1の層:第2の層)は、用途に適した範囲に設定されればよい。上記生分解性積層体が、例えば育苗ポットや農業用マルチフィルム等に使用される場合、第1の層と第2の層の厚みの比は、99:1~70:30であることが好ましく、95:5~80:20であることがより好ましい。第2の層の厚みの比率が大きくなると、生分解性積層体の分解速度はより遅くなり、使用時の機械的強度をより維持することができる。第2の層の厚みの比率が小さくなると、生分解性積層体の分解速度がより早くなりやすく、使用後の生分解性をより高めることができる。
【0075】
第1の層及び第2の層の数は、特に限定されず、それぞれ1層だけであってもよいし、2層以上であってもよい。
【0076】
1-3.他の層
上記生分解性積層体は、必要に応じて他の層をさらに含んでいてもよい。他の層の例には、他の樹脂層や紙基材が含まれる。
【0077】
1-4.生分解性積層体の物性
上記生分解性積層体の総厚みは、特に制限されないが、例えば100μm以上2500μm以下であることが好ましく、500μm以上1000μm以下であることがより好ましい。上記生分解性積層体の総厚みが100μm以上であると、当該生分解性積層体の機械的強度をより高めることができる。上記生分解性積層体の総厚みが2500μm以下であると、成形性や生分解性がより損なわれにくい。
【0078】
生分解性積層体の形状は特に限定されず、シート状、袋状、容器状、チューブ状のいずれであってもよい。
【0079】
1-5.生分解性積層体の製造方法
上記生分解性積層体は、公知の方法で製造することができる。
【0080】
例えば、シート状の生分解性積層体の場合、第1の層に対応する単層シートと第2の層に対応する単層シートとをドライラミネート(熱圧着)する方法や、第1の層に対応する樹脂組成物と第2の層に対応する樹脂組成物とを共押出する方法によって、生分解性積層体を得ることができる。
【0081】
また、三次元形状を有する生分解性積層体の場合、シート状の生分解性積層体を真空成形やプレス成形することによって、生分解性積層体を得ることもできる。あるいは、多層共押出成形、多層ブロー成形、多層射出成形(例えば2色成形)等によって、生分解性積層体を得ることもできる。
【0082】
2.成形体及び用途
本実施の形態に係る成形体は、上記生分解性積層体を少なくとも一部に含む。
【0083】
上記成形体は、包装用資材、農業用資材、土木・建築用資材等の種々の用途に用いることができる。中でも、上記成形体は、使用後の回収又は再利用が困難な資材、例えば農業用マルチフィルム、育苗ポット、袋(例えばレジ袋、ごみ袋、重袋等)、ボトル(例えば飲料用ボトル)等に好ましく用いることができる。
【0084】
農業用マルチフィルムは、土壌の水分量や温度を一定に保ち、農作物の育成を促したり、日光から遮断することによって雑草の生育を防いだりするために、土壌表面の一部を覆うフィルムであり、一方の面が土と接して用いられる。上記成形体が農業用マルチフィルムに使用される場合、土と接する面側に第1の層が配置されることが好ましい。それにより、使用後に土壌の水分により第1の層を速やかに分解させることができる。
【0085】
また、上記成形体が、育苗ポット、袋又はボトルに使用される場合、成形体の内側に第2の層が配置され、成形体の外側に第1の層が配置されることが好ましい。それにより、水分を多く含む内容物を安定に保持することができる。
【0086】
例えば、育苗ポットにおいて、内層を第2の層とし、外層を第1の層とすることで、種子から生育する期間は内層も外層もほとんど分解せず、剛性を維持できる。一方、生育後にポットごと土壌に植えた際に、外層は短期間で分解して内層のみとなった後、剛性が大幅に下がることで容易に砕ける。微細に砕けた内層は徐々に分解していくため、廃棄が容易となる。
【0087】
また、重袋は、腐葉土等の水分が多い内容物の梱包部材として使用される。上記の通り、重袋の内層を第2の層とし、外層を第1の層とすることで、使用時には内容物を安定に保持しつつ、使用後には速やかに生分解させることができる。なお、袋にシール性を付与しやすくする観点から、内層の無機物質粉末の含有量を、外層の無機物質粉末の含有量よりも少なくしてもよい。
【0088】
上記生分解性積層体は、上記以外の用途、例えば食品容器にも使用することができる。その場合、上記成形体は、内層、中間層及び外層を有することが好ましい。そして、内層と外層に第2の層が配置され、中間層に第1の層が配置されることが好ましい。内層と外層の厚みは、中間層の厚みよりも薄いことが好ましい。
【0089】
それにより、上記成形体は、使用後に外部環境下で紫外線や風雨に晒されると、破砕が進むことにより断面が多く露出し、中間層が速やかに分解される。内層と外層は、中間層と比較して充分に薄くすることで、砕けて比表面積が増えることにより分解される。なお、食品容器の用途では、内層と外層における無機物質粉末の含有量は、中間層における無機物質粉末の含有量よりも少ないか、又は含まれないことが好ましい。
【実施例】
【0090】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0091】
1.材料の準備
1-1.生分解性樹脂
・PBAT:ポリブチレンアジペートテレフタレート(MFR4.0g/10分:190℃・2.16kg、融点115~125℃)
【0092】
<融点の測定方法>
融点は、示差走査熱量分析器を用いて窒素気流下、20℃から190℃まで10℃/分の速度で昇温して上記試料を融解させて得られた結晶融解曲線において、最も高温側の融点ピークのトップ温度として求めた。
【0093】
1-2.無機物質粉末
・重質炭酸カルシウム粉末(竹原化学工業社製、WS-2200、平均粒子径1.3μm)
【0094】
<無機物質粉末の平均粒子径>
島津製作所社製の比表面積測定装置「SS-100型」を用いて、JIS M-8511に準じた空気透過法による比表面積の測定結果から計算により求めた。
【0095】
1-3.第1の添加剤(加水分解促進剤)
・添加剤1-1:グリセリン酢酸脂肪酸エステル
・添加剤1-2:アセチルクエン酸トリブチル
【0096】
1-4.第2の添加剤(加水分解抑制剤)
・添加剤2-1:Joncryl ADR 4468(BASF社製、ポリエポキシド化合物)
・添加剤2-2:ヘキサメチレンジイソシアネート(脂肪族ジイソシアネート化合物)
・添加剤2-3:Stabaxol P(ラインケミー社製、ポリ(N,N’-ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)カルボジイミド)、数平均分子量3000~4000)(カルボジイミド化合物)
【0097】
1-5.他の添加剤
・滑剤-1:SL-800(理研ビタミン社製、高級アルコール脂肪酸エステル)
・滑剤-2:金属石鹸
・酸化防止剤-1:AO-20(株式会社ADEKA製、ヒンダードフェノール系酸化防止剤)
・酸化防止剤-2:2112(株式会社ADEKA製、ホスファイト系酸化防止剤)
【0098】
2.樹脂組成物の調製
2-1.第1の層用の樹脂組成物A-1~A-4の調製
表1に示す割合で、各材料を、同方向回転二軸混錬押出機「HK-25D」(φ25mm、L/D=41、(株)パーカーコーポレーション製)に投入し、シリンダー温度180℃でストランド押出後、冷却、カットすることでペレットを作製した。
【0099】
2-2.第2の層用の樹脂組成物B-1~B-8の調製
表2に示す割合で、各材料を、同方向回転二軸混錬押出機「HK-25D」(φ25mm、L/D=41、(株)パーカーコーポレーション製)に投入し、シリンダー温度180℃でストランド押出後、冷却、カットすることでペレットを作製した。
【0100】
2-3.樹脂組成物C-1及びC-2の調製
表1及び表2に示すように、第1の添加剤及び第2の添加剤のいずれも配合しなかった以外は樹脂組成物A-1及びB-1と同様にしてペレットを作製した。
【0101】
2-4.加水分解速度の評価
1)上記作製したペレット状の樹脂組成物をインフレーション成形により成形し、厚み20μmの試験片を得た。得られた試験片の伸び率をJIS K7161-1:2014(ISO 527-1:2012)により測定した。
2)この試験片を、恒温槽で70℃・90%RHの環境下で2週間保管した。
3)保管前後の伸び率から、下記式に基づいて伸びの維持率を算出した。
伸びの維持率(%)=[1-{(保管前の伸び率-保管後の伸び率)/保管前の伸び率}]×100
【0102】
そして、以下の基準で評価した。結果を表1及び表2に示す。
5:伸び率の維持率が80%以上でほとんど加水分解していない(加水分解速度は非常に遅い)
4:伸び率の維持率が60%以上80%未満であり、加水分解速度は遅い
3:伸び率の維持率が40%以上60%未満であり、加水分解速度は普通
2:伸び率の維持率が20%以上40%未満であり、加水分解速度は速い
1:伸び率の維持率が20%未満であり、加水分解速度が非常に速い
【0103】
【0104】
【0105】
表1に示すように、第1の添加剤を含む樹脂組成物A-1~A-4は、第1の添加剤を含まない樹脂組成物C-1よりも加水分解速度が大きくなることがわかる。一方、表2に示すように、第2の添加剤を含む樹脂組成物B-1~B-8は、第2の添加剤を含まない樹脂組成物C-2よりも加水分解速度が遅くなることがわかる。
【0106】
特に、第2の添加剤として、添加剤2-3(カルボジイミド化合物)を用いることで、添加剤2-1(脂肪族ジイソシアネート化合物)や添加剤2-2(ポリエポキシド化合物)よりもより加水分解速度を抑制する効果が高いことがわかる(表2の樹脂組成物B-1、B-3及びB-7の対比)。
【0107】
また、第1の層では、無機物質粉末の量を多くすると、第1の添加剤の量が少なくても加水分解速度がより早くなることがわかる(表1の樹脂組成物A-2とA-4の対比)。また、第2の層では、無機物質粉末の量を少なくすると、第2の添加剤の量が少なくて加水分解速度がより遅くなることがわかる(表2の樹脂組成物B-5とB-8の対比)。
【0108】
3.育苗ポットの作製及び評価
[試験1~14]
(育苗ポットの作製)
第1の層用の樹脂組成物と、第2の層用の樹脂組成物とを、表3に示す組み合わせ及び厚みとなるように2層式のTダイ押出機により押出し、総厚み500μmの積層シートとした。得られた積層シートを、真空成形機を用いて、外層及び内層が表3に示す層となるように成形して、育苗ポットを得た。
【0109】
[試験15]
第1の層用の樹脂組成物A-1のみで単層シートを作製した以外は試験1と同様にして、育苗ポットを得た。
【0110】
[試験16]
第2の層用の樹脂組成物B-7のみで単層シートを作製した以外は試験1と同様にして、育苗ポットを得た。
【0111】
[試験17]
第2の層用の樹脂組成物に代えて、樹脂組成物C-2を用いた以外は試験1と同様にして、育苗ポットを得た。
【0112】
(評価)
得られた育苗ポットを用いて、以下の評価をした。
【0113】
(1)育苗時の育苗ポットの安定性
得られた育苗ポットにその容量の約80%の培養土を入れ、トマトの種を植えて温室内に維持し、3ヶ月経過後の育苗ポットの状況を観察した。そして、以下の基準で評価した。
AA:破壊がほとんどなく、苗を安定に保持できる
A:破壊がなく、苗を安定に保持できる
B:一部、破壊が認められるが、苗の保持性には支障ない
C:破壊又は層間剥離が発生し、苗を安定に保持できない
【0114】
(2)移植後の生分解性評価
上記(1)の評価後の育苗ポットをそのまま畑に移植して、3ヶ月後の状況を観察した。そして、以下の基準で評価した。
AA:育苗ポットが原形をとどめない程度に分解しており、苗も十分に育ち、育苗ポットの外側の土まで根を張っている
A:育苗ポットの一部は分解せずに残っているが、苗の育成には支障ない
B:育苗ポットの半分程度が分解せずに残っているが、苗の育成に支障ない
C:育苗ポットがほとんど分解せずに残っており、苗の根も、育苗ポットの外側の土まで張れておらず、育っていない
【0115】
試験1~17の評価結果を表3に示す。
【0116】
【0117】
表3に示すように、第1の添加剤を所定量含む第1の層と、第2の添加剤を所定量含む第2の層とを有する積層シートを含む試験1~14の育苗ポットは、育苗時の安定性が良好であり、移植後の生分解性も良好であった。
【0118】
特に、第1の層を外層、第2の層を内層にするほうが、第2の層を外層、第1の層を内層にするよりも、育苗時の安定性と移植後の生分解性のバランスがより良いことがわかる(試験7と13の対比)。
【0119】
また、第2の添加剤として、カルボジイミド化合物を用いることで、イソシアネート化合物やエポキシ化合物を用いるよりも、分解速度の低減効果が高く、育苗時の安定性がより高いことがわかる(試験1、3及び7の対比、試験9~11の対比)。
【0120】
また、第2の層の厚みの比率を適度に薄くするほうが、生分解性を維持しつつ、ポットの安定性を適度に高められることがわかる(試験7と12の対比)。
【0121】
これに対し、第1の層を有さない試験16の育苗ポットは、移植後の生分解性が低いことがわかる。また、第2の層を有さない試験15及び17の育苗ポットは、苗育成時の安定性が低いことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明によれば、無機物質粉末を多量に含んでいても、所望の分解速度に調整することができる生分解性積層体を提供することができる。このような積層体を含む成形体は、使用後の回収又は再利用が不可能又は困難な資材、例えば育苗ポットや農業用マルチフィルムとして好適に用いることができる。
【要約】
【課題】無機物質粉末を多量に含んでいても、所望の分解速度に調整することができる生分解性積層体を提供する。
【解決手段】生分解性積層体は、第1の層と、第2の層とを有する。第1の層と前記第2の層のそれぞれは、生分解性樹脂と無機物質粉末とを、質量比70:30~10:90の割合で含む。第1の層は、0.1質量%以上5.0質量%以下の、グリセリン酢酸脂肪酸エステル及びアセチルクエン酸トリブチルからなる群より選ばれる1以上の第1の添加剤をさらに含む。第2の層は、0.1質量%以上5.0質量%以下の、イソシアネート化合物、エポキシ化合物、及びカルボジイミド化合物からなる群より選ばれる1以上の第2の添加剤をさらに含む。
【選択図】なし