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  • 特許-流量制御装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-17
(45)【発行日】2024-04-25
(54)【発明の名称】流量制御装置
(51)【国際特許分類】
   G05D 7/06 20060101AFI20240418BHJP
【FI】
G05D7/06 Z
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2023185163
(22)【出願日】2023-10-30
【審査請求日】2023-10-30
(31)【優先権主張番号】P 2023120946
(32)【優先日】2023-07-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591264429
【氏名又は名称】コフロック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】田中 雄大
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 稜太
【審査官】西井 香織
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-079827(JP,A)
【文献】国際公開第2008/041390(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路内を流れる流体の流量を測定し、その流量測定値を示す流量測定信号を出力する流量センサ部と、
前記流量センサ部の上流側または下流側に設けた流量制御バルブ部と、
前記流量測定信号の示す流量測定値と目標値である流量設定値とをパラメータとして含む算出式から前記流量制御バルブ部の開度制御信号を算出して出力する制御部とを備えた流量制御装置において、
前記流量設定値と流量測定値との差である偏差が一定以内である期間を定常期間とし、それ以外の期間を変化期間とした場合、
前記流量センサ部が受ける外的要因によって、前記定常期間中に前記流量センサ部が出力する流量測定信号が上昇方向又は下降方向に一定以上変化したとき、
流量制御バルブ部の現在の開度制御信号の変化後の新たな開度制御信号は、流量制御バルブ部の現在の開度制御信号に対して、ゼロを除く適宜定められる係数に流量設定値と流量測定値との差である偏差を乗算した結果得られるものを、流量設定値と流量測定値との差である偏差を時間に関して微分したものの絶対値にゼロを除く適宜定められる係数を乗算した結果得られるものにゼロを除く実数を加算することによって得られるもので除算したものを加算することによって得られることを特徴とする流量制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスや液体等の流体の流量を制御する流量制御装置に関し、特に、供給圧力の変動などの外的要因に対しても安定した流量制御を行う機能を備えた流量制御装置に関するものである。近年のガスパネルでは同種ガスを複数ラインへ分岐するデザインが採用されている。このため、ガス流量制御を行う流量制御装置間のクロストーク現象やレギュレータ特性により供給圧力が瞬時に変動する現象が生じる。本発明は、この瞬時の供給圧変動などの外的要因に対しても安定した流量制御を行う機能を備えた流量制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、半導体の製造に用いられる各種ガス等を半導体製造装置に供給する場合、それらの供給流路に流量制御装置をそれぞれ設け、これによってそれぞれのガス流量を調節するようにしている。そして従前は、各流量制御装置にそれぞれ圧力レギュレータを直列に付帯させ、各流量制御装置の流路内圧力に極端な変動が生じないようにして、流量制御を容易にしている。
【0003】
前記流量制御装置における流量制御方式としては、PID制御が基本であるが、例えば、特許文献1に示すように、過渡的な応答状態と安定状態とでPID係数を切り替えてフィードバック制御を行うようにしたものが知られている。
【0004】
具体的に特許文献1に示すものは、比例演算における偏差に乗算するゲイン値として、流量設定値を所定の関数に代入して得られる値を用いており、例えば安定状態において用いられる前記所定の関数は、代入される流量設定値が小さくなれば小さな値が算出されるものである。つまり、特許文献1に示す従来のマスフローコントローラは、安定状態での比例係数、積分係数及び微分係数を流量設定値のみに比例させて変更するだけである。
【0005】
また、特許文献2には、「圧力センサにて発生した圧力測定信号を取得すること、流量センサにて発生した流量センサ信号を取得すること、前記圧力測定信号を用いて推定寄生流量信号を生成すること、前記流量センサ信号を加速して、前記推定寄生流量信号と同等な帯域幅を有する加速された流量センサ信号を生成すること、並びに、前記加速された流量センサ信号及び前記推定寄生流量信号を用いて、マスフローコントローラを制御するために、補正流量信号を生成することを有する、マスフローコントローラにおける流体の寄生流量を補正する方法。」が記載されている。この特許文献2に記載された方法は、単に寄生流量を補正するだけであって、瞬時の供給圧変動などに対して安定した流量制御を行う機能を備えていない。
【0006】
また、特許文献3には、「圧力センサにより生成された前記流体の圧力測定値を受け付け、前記流体の圧力変化率が閾条件を満たしていることに応答して、流量の測定値と流量の設定値との間の差異に基づいて前記マスフローコントローラの弁を制御するフィードバック制御ループを休止させ、前記フィードバック制御ループが休止したときの圧力測定値と、前記マスフローコントローラにおける流量、圧力及び弁位置の間の応答特性を表す特性データとに基づいて、前記弁の弁位置を計算し、ある期間の経過後、又は前記閾条件が再度満たされた後、流量の測定値が飽和していない場合に、前記フィードバック制御ループを再動作させ、前記フィードバック制御ループが最初に再動作したときに、流量の測定値と流量の設定値との差異を決定し、前記フィードバック制御ループが再度休止したときの前記弁位置の計算の正確さを向上させるために、前記差異に基づいて前記特性データの調整を行うことを特徴とする、マスフローコントローラを用いて流体の質量流量を制御する方法。」が記載されている。この特許文献3に記載された方法は、マルチモード制御アルゴリズムを使用して流体の流量を制御する方法であるが、システムが煩雑である。
【0007】
また、特許文献4には、「流路内を流れる流体の流量を測定し、その測定値を示す流量測定信号を出力する流量センサ部と、その流量センサ部の上流側又は下流側に設けた流量制御バルブと、前記流量制御バルブへの制御値を算出する算出部と、を備えたものであって、マスフローコントローラの上流側における前記流体の圧力の測定値である一次側圧力測定値が所定量以上変化した期間である変化期間と、それ以外の期間である安定期間と、において、前記算出部は、前記安定期間では、前記流量測定信号の示す流量測定値と目標値である流量設定値との偏差に所定の演算処理を施して安定時制御値を算出し、前記変化期間では、前記一次側圧力測定値と前記一次側圧力測定値の変化量とに所定の演算処理を施して変化時制御値を算出する、マスフローコントローラ。」が記載されている。この特許文献4に記載されたマスフローコントローラは、安定期間と変化期間とで制御を切り替えて、一次側の圧力が急激に変動した場合は、一次側圧力測定値と一次側圧力測定値の変化量とに基づいて制御を行うので、クロストークが生じるようなシステムには採用できるが、瞬時の供給圧変動などに対して安定した流量制御を行う機能を備えているとは言えない。
【0008】
また、特許文献5には、「流路内を流れる流体の流量を測定し、その測定値を示す流量測定信号を出力する流量センサ部と、当該流量センサ部の上流側又は下流側に設けた流量制御バルブと、前記流量測定信号の示す流量測定値と目標値である流量設定値との偏差にPID演算を施して流量制御バルブへのフィードバック制御値を算出する算出部と、前記フィードバック制御値に基づいて開度制御信号を生成し、流量制御バルブに出力する開度制御信号出力部と、を備え、前記算出部が、安定状態におけるPID演算に用いる比例係数、積分係数及び微分係数を、一次側圧力又は流量設定値の少なくとも1つと、前記一次側圧力の時間変化量と、に基づいて変更することを特徴とするマスフローコントローラ。」が記載されている。この特許文献5に記載されたマスフローコントローラは、フィードバック制御値を算出する算出部を、安定状態におけるPID演算に用いる比例係数、積分係数及び微分係数を、一次側圧力又は流量設定値の少なくとも1つと、前記一次側圧力の時間変化量と、に基づいて変更することを特徴としている。その段落0030から0035には、制御値算出部72は、一次側圧力の時間変化量が正の場合(一次側圧力上昇時)、PID係数を以下のように変更している。
P′=P×Fu(set)
I′=I×Fu(set)
D′=D×Fu(set)
前記Fu(set)は流量設定値に固有の関数である設定係数関数であるが、演算処理の簡略化を図るために、0-50%の比例定数と50-100%の比例定数とが異なる折れ線形状の折れ線関数が採用されている。次に、制御値算出部72は、P′I′D′係数を一次側圧力に基づいて以下のように変更している。
P″=P′×Gu(set)
I″=I′×Gu(set)
D″=D′×Gu(set)
前記Gu(set)は一次側圧力に固有の関数である圧力係数関数であるが、演算処理の簡略化を図るために、入力される一次側圧力に比例した比例関数が採用されている。
このように、特許文献5に記載された発明を具体的に実施するためには、流量設定値及び一次側圧力に基づいて、P、I、DをP″、I″、D″に変更し、当該P″、I″、D″を用いて偏差にPID演算を施してフィードバック制御値を算出する必要があり、前記折れ線関数や比例関数が用いられる結果、精度を向上することが困難である。
【0009】
また、特許文献6には、「流路内を流れる流体の流量を測定し、その測定値を示す流量測定信号を出力する流量センサ部と、その流量センサ部の上流側または下流側に設けた流量制御バルブと、前記流量測定信号の示す流量測定値と目標値である流量設定値とをパラメータとして少なくとも含んだ所定の算出式から流量制御バルブの開度制御信号を算出し出力する制御部と、前記流量センサ部の上流側又は下流側における前記流体の圧力を検知し、その圧力値を示す圧力検知信号を出力する圧力センサ部と、を備え、前記制御部が、前記流量設定値を所定量以上変化させた時点からの所定期間である変化期間と、それ以外の期間である安定期間とにおいて、前記算出式を互いに異ならせるとともに、少なくとも前記安定期間において、前記算出式のパラメータとして、前記圧力値がさらに含まれるようにしているマスフローコントローラ。」が記載されている。その段落0009には、「そこで本発明は、流量設定値の変化に対する追随速度を犠牲にすることなく、クロストークなどにより圧力変動が生じても流量変動を抑制できるマスフローコントローラを提供することをその主たる課題としたものである。」と記載されている。しかし、変化期間と安定期間とにおいて、流量制御バルブの開度制御信号を算出する算出式をどのように互いに異ならせれば、前記課題を解決することができるのか理解できない。
【0010】
さらに、特許文献7には、「流路内を流れる流体の流量を測定し、その測定値を示す流量測定信号を出力する流量センサ部と、当該流量センサ部の上流側又は下流側に設けた流量制御バルブと、前記流量測定信号の示す流量測定値と目標値である流量設定値との偏差にPID演算を施して流量制御バルブへのフィードバック制御値を算出する算出部と、前記フィードバック制御値に基づいて開度制御信号を生成し、流量制御バルブに出力する開度制御信号出力部と、を備え、前記算出部が、安定状態におけるPID演算に用いる比例係数、積分係数及び微分係数を、一次側圧力、当該一次側圧力の時間変化量、又は前記流量設定値の少なくとも2つに基づいて変更させるように構成されており、前記算出部が、一次側圧力の時間変化量の正負によって、流量設定値に固有の関数、又は、一次側圧力に固有の関数を異ならせることにより比例係数、積分係数及び微分係数を変更するものであることを特徴とするマスフローコントローラ。」が記載されている。この特許文献7に記載されたマスフローコントローラは、フィードバック制御値を算出する算出部を、安定状態におけるPID演算に用いる比例係数、積分係数及び微分係数を、一次側圧力、当該一次側圧力の時間変化量、又は前記流量設定値の少なくとも2つに基づいて変更させるように構成されており、前記算出部が、一次側圧力の時間変化量の正負によって、流量設定値に固有の関数、又は、一次側圧力に固有の関数を異ならせることにより比例係数、積分係数及び微分係数を変更するものであることを特徴としている。そして、特許文献7に記載された発明を具体的に実施するためには、特許文献5と同様に、流量設定値及び一次側圧力に基づいて、P、I、DをP″、I″、D″に変更し、当該P″、I″、D″を用いて偏差にPID演算を施してフィードバック制御値を算出する必要があり、前記折れ線関数や比例関数が用いられる結果、精度を向上することが困難である。
【0011】
そして、特許文献8には、「入口側と出口側とを有する流体流路に結合されるフローセンサを含むフローコントローラにおける方法であって、フローセンサは流路を通る感知された流体流れを示すセンサ出力信号を提供するよう適合され、方法は、流路内の流体の圧力を測定することを含み、圧力は流路における圧力過渡に対応し、方法はさらに、測定された圧力に対応する圧力信号を提供することと、圧力過渡によるフローセンサの応答をエミュレートする偽の流れ信号を形成することと、偽の流れ信号に基づきセンサ出力信号を調節することとを含み、偽の流れ信号を形成することは、圧力信号がセンサ出力信号に対し適時に実質的に整列されるように、圧力信号を遅延させることを含む、方法。」が記載されている。この特許文献8に記載された方法によれば、フローコントローラの制御精度を多少向上することはできても、瞬時の供給圧変動などに対して安定した流量制御を行う機能を備えていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2007-34550号公報
【文献】特表2022-546662号公報
【文献】特許第6112119号明細書
【文献】特許第5091821号明細書
【文献】特許第5090559号明細書
【文献】特許第4658200号明細書
【文献】特許第4763031号明細書
【文献】特許第4528617号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、従来技術の有するこのような問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、瞬時の供給圧変動などの外的要因に対しても安定した流量制御を行う機能を有する流量制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討をおこなった結果、本発明の流量制御装置は、次のような手段を採用する。
すなわち、流路内を流れる流体の流量を測定し、その流量測定値を示す流量測定信号を出力する流量センサ部と、
前記流量センサ部の上流側または下流側に設けた流量制御バルブ部と、
前記流量測定信号の示す流量測定値と目標値である流量設定値とをパラメータとして含む算出式から前記流量制御バルブ部の開度制御信号を算出して出力する制御部とを備えた流量制御装置において、
前記流量設定値と流量測定値との差である偏差が一定以内である期間を定常期間とし、それ以外の期間を変化期間とした場合、
前記流量センサ部が受ける外的要因によって、前記定常期間中に前記流量センサ部が出力する流量測定信号が上昇方向又は下降方向に一定以上変化したとき、
流量制御バルブ部の現在の開度制御信号の変化後の新たな開度制御信号は、流量制御バルブ部の現在の開度制御信号に対して、ゼロを除く適宜定められる係数に流量設定値と流量測定値との差である偏差を乗算した結果得られるものを、流量設定値と流量測定値との差である偏差を微分したものの絶対値にゼロを除く適宜定められる係数を乗算した結果得られるものにゼロを除く実数を加算することによって得られるもので除算したものを加算することによって得られることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
定常状態(測定流量が一定に保たれている状態)ではフィードバック制御機能が働くため、圧力変化に遅れて流量制御バルブ部が開方向または閉方向に動くと考えられる。しかし、実際には、圧力変化があると、直ちに流量制御バルブ部が開方向または閉方向に動き、しかも、必要以上に大きく動くことが判明した。流量制御バルブ部が開方向または閉方向に必要以上に動くと、流量設定値と流量測定値との差である偏差が大きくなる。この偏差が小さくなるように、偏差を1より大きな定数で除すれば、偏差は小さくなるが、この方法では、もともと偏差が小さくて補正する必要がないにも関わらず、偏差がさらに小さくなってしまう。
そこで、偏差が大きい場合のみ偏差を小さくするという方法が好ましい。この考え方に従うものが本発明の流量制御装置である。ゼロを除く適宜定められる係数とは、流量設定値をパラメータとし、流量制御バルブ部の開度制御信号ならびに流量測定値に対する外的要因の影響を抑制する効果が最適化されるように適宜定められる係数であり、流量設定値と流量測定値との差である偏差と、時間と、ゼロを除く適宜定められる係数と、ゼロを除く実数とを用いて、流量制御バルブ部の現在の開度制御信号の変化後の新たな開度制御信号は、流量制御バルブ部の現在の開度制御信号に対して、ゼロを除く適宜定められる係数に流量設定値と流量測定値との差である偏差を乗算した結果得られるものを、流量設定値と流量測定値との差である偏差を微分したものの絶対値にゼロを除く適宜定められる係数を乗算した結果得られるものにゼロを除く実数を加算することによって得られるもので除算したものを加算することにより、流量制御バルブ部の開度制御信号が過大になることなく、瞬時の供給圧変動などの外的要因に対しても安定した流量制御を行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は本発明の流量制御装置の一実施形態である全体模式図である。
図2図2は、前記実施形態における制御部の機能を示すブロック図である。
図3図3は、本発明の流量制御装置の効果を確認する実験設備の概略図である。
図4図4は、本発明の流量制御装置における流量制御バルブの制御方法と、他の制御方法における効果を比較する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の具体的な実施形態について説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲を逸脱しない範囲において様々な変形や修正が可能である。
【0018】
図1の全体模式図に示すように、本実施形態の流量制御装置1は、内部流路2と、その内部流路2内を流れる流体Fの流量を測定する流量センサ部3と、その流量センサ部3の下流側に設けた流量制御バルブ部4と、制御部5とを備えており、例えば、半導体製造プロセスにおけるガス供給システムに用いられる。
【0019】
内部流路2は、上流側の入口ポートP1と下流側の出口ポートP2を有し、入口ポートP1には流体供給源が接続され、出口ポートP2には図示しない配管を経て半導体製造のためのチャンバが接続される。流量センサ部3は、例えば、一対の感熱センサを備え、所定の時間間隔、例えば、数ミリ秒毎に流体Fの瞬時流量がこの感熱センサによって電気信号として検出され、内部電気回路によってその電気信号が増幅されて、検出流量に応じた値を有する流量測定信号として出力される。流量制御バルブ部4は、例えば、その弁開度を、外部からの電気信号である開度制御信号を与えることによって、その開度制御信号の値に応じた弁開度に調整して流体Fの流量を制御するものである。制御部5は、CPUやメモリ、A/D変換器等を有するデジタル電気回路で構成されている。前記メモリに所定のプログラムを格納し、そのプログラムに従ってCPUや周辺メモリを動作させることによって、その制御部5は、図2に示すように、信号受信部6、算出部7,開度制御信号出力部8及び流量出力部9の機能を少なくとも備えている。
【0020】
信号受信部6は、流量センサ部3から送信されてくる流量測定信号、及び別に設置されたコンピュータ等の制御機器から入力される流量設定信号等を受信し、それらの値を、メモリ内の所定の領域に格納する。
【0021】
算出部7は、前記流量測定信号の示す流量測定値を取得するとともに、その流量測定値と目標値、すなわち前記流量設定信号が示す流量設定値との差である偏差を算出する偏差算出部71と、その偏差にPID演算を施して流量制御バルブ部4へのフィードバック制御値を算出する制御値算出部72と、流量センサ部3から送信されてくる流量測定信号に基づいて流量出力を計算する流量出力計算部73とを備えている。また、制御値算出部72は、流量センサ部3から送信されてくる流量測定信号と、流量設定値と流量測定値との差である偏差とに基づいて、流量制御バルブ部4の開度を制御する制御値を算出する。
【0022】
開度制御信号出力部8は、前記フィードバック制御値に基づく値を有する開度制御信号を生成し、その開度制御信号を流量制御バルブ部4に出力する。
【0023】
流量出力部9は、前記流量出力値に所定の演算を施して、流量出力信号を、外部での利用が可能なように出力する。
【0024】
次に、図3に示すような本発明の流量制御装置の効果を確認する実験設備により、本発明の流量制御装置における流量制御バルブ部の制御方法と、他の制御方法における効果を比較した実験結果について説明する。
【0025】
図3において、10はレギュレータ、11は圧力計、12は本発明の流量制御装置、13は流量測定装置、14はマスフローコントローラ、15はニードルバルブである。図3に示す実験設備において、流体F(Nガス)を矢示で示す方向に流したとき、流量制御装置12の制御部5において、PID係数(比例係数P、積分係数I、微分係数D)を用いて流量設定値と流量測定値との差である偏差にPID演算を施してフィードバック制御値を算出し、変化期間と定常期間のすべてにおいて、フィードバック制御値に基づいて開度制御信号を生成し、その開度制御信号によって流量制御装置12の流量制御バルブ部4の開度を制御し、レギュレータ10を調整することにより、マスフローコントローラ14の流量を大きく変化させた結果、図4の実線16に示すように、圧力計11で検知された圧力(流量制御装置12の流量センサ部3が受ける外的要因)検知信号が上昇方向に過大に変化した場合の流量測定装置13の流量測定信号の変化を図4の実線17で示す。図4の縦軸は信号レベルを示し、図4の横軸は時間経過を示す。圧力検知信号16の平坦部Fの圧力は10psiであり、突出部Pの圧力は13psiである。
【0026】
本願発明において、定常期間とは、流量設定値を単位時間で所定量以上変化させた時点からの所定期間である変化期間(例えば2秒程度)以外の期間における状態であり、流量設定値はほとんど変化しない。また、所定量とは、フルスケールに対する%値で0~10%程度をいい、好ましくは0.3~5%である。さらに、所定期間とは、数秒程度を意味し、具体的には0~10秒程度をいい、好ましくは0.3~5秒である。
【0027】
図4の流量測定信号17の下向きの最大振れ幅S1は63.2%であり、流量測定信号17の上向きの最大振れ幅S2は149.6%であった。ここで、振れ幅100%は流量設定値と流量測定値が一致する場合をいう。
【0028】
また、図3に示す実験設備において、流体F(Nガス)を矢示で示す方向に流したとき、変化期間においては、流量制御装置12の制御部5において、PID係数を用いて流量設定値と流量測定値との差である偏差にPID演算を施してフィードバック制御値を算出し、フィードバック制御値に基づいて開度制御信号を生成し、その開度制御信号によって流量制御装置12の流量制御バルブ部4の開度を制御し、定常期間においては、流量制御装置12の制御値算出部72が、以下の式(1)により算出される値MV’によって流量制御装置12の流量制御バルブ部4の開度を制御し、レギュレータ10を調整することにより、マスフローコントローラ14の流量を大きく変化させた結果、図4の実線16に示すように、圧力計11で検知された圧力(流量制御装置12の流量センサ部3が受ける外的要因)検知信号が上昇方向に過大に変化した場合の流量測定装置13の流量測定信号の変化を図4の実線18で示す。図4の流量測定信号18の上向きの最大振れ幅S3とS6は111.2%であり、流量測定信号18の下向きの最大振れ幅S4とS5は88.8%であった。ここで、振れ幅100%は流量設定値と流量測定値が一致する場合をいう。
MV’=MV+k×ε/(η|dε/dt|+c) (1)
MV’は流量制御バルブ部の現在の開度制御信号の変化後の新たな開度制御信号、MVは流量制御バルブ部の現在の開度制御信号、εは流量設定値と流量測定値との差である偏差、tは時間、k、ηはゼロを除く適宜定められる係数、cはゼロを除く実数である。ゼロを除く適宜定められる係数k、ηは、流量設定値をパラメータとし、流量制御バルブ部の開度制御信号ならびに流量測定値に対する外的要因の影響を抑制する効果が最適化されるように適宜定められる係数である。
(1)式において、仮に、ε≠0且つdε/dt=0である場合、以下の式(2)のようになる。
MV’=MV+k×ε/c (2)
(1)式において、仮に、ε=0(dε/dtは任意の値)である場合、以下の式(3)のようになる
MV’=MV (3)
(1)、(2)、(3)式を見れば明らかなように、本発明によれば、瞬時の供給圧変動などの外的要因に対しても安定した流量制御を行うことができる。
【0029】
(1)式は、流量制御バルブ部の開度制御信号の変化量を△MVとすれば、以下の式(4)のように表すこともできる。
△MV=k×ε/(η|dε/dt|+c) (4)
【0030】
図4の実線17と実線18に明瞭に示すように、本発明の流量制御装置で流量制御バルブ部の開度を制御することにより、流量測定信号の上向きと下向きの最大振れ幅は大きく低下しており、瞬時の供給圧変動に対しても安定した流量制御を行うことができる。上記においては、圧力計11で検知された圧力(流量制御装置12の流量センサ部3が受ける外的要因)検知信号が上昇方向に過大に変化した場合について説明したが、圧力計11で検知された圧力検知信号が下降方向に過大に変化した場合においても、図4の実線16と実線17と実線18の変化する方向が上下を逆にするだけで、本発明の流量制御装置で流量制御バルブ部の開度を制御することにより、瞬時の供給圧変動に対しても安定した流量制御を行うことができる。
【0031】
したがって、本発明の流量制御装置によれば、定常期間と変化期間とで制御を切り替えているので、流量設定値が変化する変化期間では、その変化後の流量設定値に実流量を非常に速く追随させることができ、流量設定値がほとんど変化しない定常期間では、流量制御装置の上流側の圧力の変動などの外乱(外的要因)が生じても、それに対する過敏反応を抑えて実流量の安定化を図ることができる。なお、流量センサ部3が受ける外的要因とは、供給圧力の変動や背圧変動などをいう。
【符号の説明】
【0032】
1 流量制御装置
2 内部流路
3 流量センサ部
4 流量制御バルブ部
5 制御部
6 信号受信部
7 算出部
8 開度制御信号出力部
9 流量出力部
10 レギュレータ
11 圧力計
12 流量制御装置
13 流量測定装置
14 マスフローコントローラ
15 ニードルバルブ
71 偏差算出部
72 制御値算出部
73 流量出力計算部

【要約】      (修正有)
【課題】瞬時の供給圧変動に対しても安定した流量制御を行う機能を有する流量制御装置を提供する。
【解決手段】流量設定値と流量測定値との差である偏差が一定以内である期間を定常期間とし、それ以外の期間を変化期間とした場合、流量センサ部3が受ける外的要因によって、前記定常期間中に流量センサ部3が出力する流量測定信号が上昇方向又は下降方向に一定以上変化したとき、流量制御バルブ部4の現在の開度制御信号の変化後の新たな開度制御信号は、流量制御バルブ部4の現在の開度制御信号に対して、ゼロを除く適宜定められる係数に流量設定値と流量測定値との差である偏差を乗算した結果得られるものを、流量設定値と流量測定値との差である偏差を微分したものの絶対値にゼロを除く適宜定められる係数を乗算した結果得られるものにゼロを除く実数を加算することによって得られるもので除算したものを加算することによって得られる。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4