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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-17
(45)【発行日】2024-04-25
(54)【発明の名称】マスク
(51)【国際特許分類】
   A41D 13/11 20060101AFI20240418BHJP
   A62B 18/02 20060101ALI20240418BHJP
   D04B 1/16 20060101ALI20240418BHJP
   D04B 1/18 20060101ALI20240418BHJP
   D04B 1/00 20060101ALI20240418BHJP
   D06M 11/46 20060101ALI20240418BHJP
   D06M 11/83 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
A41D13/11 Z
A62B18/02 C
D04B1/16
D04B1/18
D04B1/00 A
D04B1/00 B
D06M11/46
D06M11/83
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020184193
(22)【出願日】2020-11-04
(65)【公開番号】P2022007889
(43)【公開日】2022-01-13
【審査請求日】2023-05-25
(31)【優先権主張番号】P 2020106375
(32)【優先日】2020-06-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020169068
(32)【優先日】2020-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000184687
【氏名又は名称】小松マテーレ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【弁理士】
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】米澤 和洋
(72)【発明者】
【氏名】園部 政和
【審査官】▲高▼辻 将人
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-155882(JP,A)
【文献】特開2012-026073(JP,A)
【文献】特開2007-126764(JP,A)
【文献】国際公開第2017/073675(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D13/11
A62B18/02
D04B 1/00- 1/28
D04B21/00-21/20
D06M10/00-11/84
D06M16/00
D06M19/00-23/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
口および鼻を覆うマスク本体と前記マスク本体の左右に設けられた一対の耳かけ部とを少なくとも有するマスクであって、
前記マスクは、前記口側の面を構成する第1の生地と外気側の面を構成する第2の生地との少なくとも一部が接合された無縫製のよこ編地からなり、
前記第1の生地は、メッシュ状のメッシュ構造または二次元状に複数の細孔が開けられた細孔アレイ構造を有し、
前記メッシュ構造または細孔アレイ構造は、少なくとも前記マスク本体の前記口を覆う部分に設けられている、
マスク
【請求項2】
前記メッシュ構造または細孔アレイ構造は、二次元状に区画された複数のブロックに分離されている、
請求項に記載のマスク。
【請求項3】
前記第1の生地および/または前記第2の生地を構成する糸として、先染め糸および/または原着糸が含まれている
請求項1または2に記載のマスク。
【請求項4】
前記よこ編地は、ポリウレタン弾性繊維を含む、
請求項1~のいずれか1項に記載のマスク。
【請求項5】
前記第2の生地は、ポリエステル繊維によって構成されている、
請求項1~のいずれか1項に記載のマスク。
【請求項6】
前記第1の生地は、接触冷感作用を有する繊維によって構成されている、または接触冷感加工されている、
請求項1~のいずれか1項に記載のマスク。
【請求項7】
前記マスクの繊維表面に有害物質不活化剤が付着している、
請求項1~のいずれか1項に記載のマスク。
【請求項8】
前記有害物質不活化剤は、少なくとも銀と、光触媒とを含む、
請求項に記載のマスク。
【請求項9】
前記第1の生地と前記第2の生地のと間に、シート材が配置されている、
請求項1~のいずれか1項に記載のマスク。
【請求項10】
前記第1の生地と前記第2の生地との間に、前記シート材を挟持できるポケットが形成されている
請求項に記載のマスク。
【請求項11】
前記シート材は、多孔質のシート材である、
請求項または10に記載のマスク。
【請求項12】
前記シート材は、繊維布帛からなり、
前記シート材の繊維表面に有害物質不活化剤が付着している、
請求項11のいずれか1項に記載のマスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスクに関し、特に、口および鼻を覆う衛生マスクに関する。
【背景技術】
【0002】
衛生マスク(以下、「マスク」と略記する)は、冷気や乾燥から鼻やのどを守ったり、口や鼻から分泌される分泌物を撒き散らすのを防いだり、空気中の花粉や病原体などの浮遊物が体内に取り込まれるのを防いだりする。
【0003】
現在、マスクは、長方形の不織布タイプが一般的である。不織布タイプのマスクでは、マスク本体の前面長手方向に沿って複数のプリーツが設けられており、マスク本体の中央部分を摘まんで上下方向に引っ張ることで閉じた状態のプリーツを上下に徐々に拡げることができる。これにより、マスク本体が口および鼻だけではなく顎部分までも覆うようにしてマスクを装着することができる。
【0004】
しかしながら、不織布タイプのマスクは、マスク装着者の個々人で異なる顔の輪郭に十分に追従することができず、マスク本体と顔面との間に隙間が生じるため、マスクの上下および左右から呼気が漏出し、気密性を十分確保することができないという欠点を有する。マスクの上下および左右から呼気が漏出すると、マスク正面方向、つまりマスクを通過する呼気の量が減ることとなり、マスク本来のろ過機能を十分に発現できなくなる。
【0005】
そこで、マスク本体と顔面とを密着させることができるマスクが提案されている。例えば、特許文献1には、マスク本体に柔軟部分を設けることで、マスク本体と顔面とを密着させることができる使い捨て式防じんマスクが開示されている。特許文献1に開示されたマスクでは、マスク本体における保形フィルタの下部周縁全周に伸縮可能な折り曲げ部を設けることで、顔面への密着性と装着感とを向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-100975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されたマスクでは、保形フィルタの折り曲げ部として、所定の硬さを有する合成樹脂繊維からなる不織布を用いている。このため、保形フィルタは、マスク装着者の個々人で異なる顔のサイズに対応することができなかったり、顔面の複雑な起伏に密着する柔軟さを有していなかったりするので、マスクの装着感には課題が残る。つまり、特許文献1に開示されたマスクでは、十分な装着感を得ることができない。
【0008】
しかも、特許文献1に開示されたマスクは、締紐の締結張力により顔面に密着させるため、耳が痛むという欠点も有する。さらに、その構造上、マスク本体が大仰な見た目となり意匠性が悪く、日常生活で使うには不向きである。
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するものであり、装着感に優れるとともに耳への負担が軽減され、さらに高い意匠性を有するとともにマスク本体の上下および左右から呼気が漏出することを抑制できるマスクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。
【0011】
(1)本発明に係るマスクは、口および鼻を覆うマスク本体と前記マスク本体の左右に設けられた一対の耳かけ部とを少なくとも有するマスクであって、前記マスクは、前記マスク本体における前記口側の面を構成する第1の生地と外気側の面を構成する第2の生地との少なくとも一部が接合された無縫製のよこ編地からなる。
【0012】
(2)本発明に係るマスクにおいて、前記第1の生地は、メッシュ状のメッシュ構造または二次元状に複数の細孔が開けられた細孔アレイ構造を有し、前記メッシュ構造または細孔アレイ構造は、少なくとも前記マスク本体の前記口を覆う部分に設けられているとよい。
【0013】
(3)本発明に係るマスクにおいて、前記メッシュ構造または細孔アレイ構造は、二次元状に区画された複数のブロックに分離されているとよい。
【0014】
(4)本発明に係るマスクにおいて、前記第1の生地および/または前記第2の生地を構成する糸として、先染め糸および/または原着糸が含まれているとよい。
【0015】
(5)本発明に係るマスクにおいて、前記よこ編地は、ポリウレタン弾性繊維を含むとよい。
【0016】
(6)本発明に係るマスクにおいて、前記第2の生地は、ポリエステル繊維によって構成されているとよい。
【0017】
(7)本発明に係るマスクにおいて、前記第1の生地は、接触冷感作用を有する繊維によって構成されている、または接触冷感加工されているとよい。
【0018】
(8)本発明に係るマスクにおいて、前記マスクの繊維表面に有害物質不活化剤が付着しているとよい。
【0019】
(9)本発明に係るマスクにおいて、前記有害物質不活化剤は、少なくとも銀と、光触媒とを含むとよい。
【0020】
(10)本発明に係るマスクにおいて、前記第1の生地と前記第2の生地との間に、シート材が配置されているとよい。
【0021】
(11)本発明に係るマスクにおいて、前記第1の生地と前記第2の生地との間に、前記シート材を挟持できるポケットが形成されているとよい。
【0022】
(12)本発明に係るマスクにおいて、前記シート材は、多孔質のシート材であるとよい。
【0023】
(13)本発明に係るマスクにおいて、前記シート材は、繊維布帛からなり、前記シート材の繊維表面に有害物質不活化剤が付着しているとよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係るマスクによれば、装着感に優れるとともに耳への負担が軽減され、さらに高い意匠性を有するとともにマスク本体の上下および左右から呼気が漏出することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施の形態に係るマスクを人が装着したときの使用状態を示す斜視図である。
図2】実施の形態に係るマスクを人が装着したときの使用状態を示す部分断面図である。
図3】実施の形態に係るマスクを第2の生地側から見たときの図である。
図4】実施の形態に係るマスクを第1の生地側から見たときの図である。
図5】実施の形態に係るマスクのポケットにシート材を挿入するときの様子を示す図である。
図6】シート材を挿入したマスクを人が装着したときの使用状態を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、いずれも本発明の好ましい一具体例を示すものである。したがって、以下の実施の形態における構成要素のうち独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。また、本発明は、以下の態様のみに限定されるものではなく、本発明の精神と実施の範囲において多くの変形が可能である。
【0027】
<マスク>
まず、実施の形態に係るマスク1の構成について、図1図5を用いて説明する。図1は、実施の形態に係るマスク1を人が装着したときの使用状態を示す斜視図である。図2は、同マスク1を人が装着したときの使用状態を示す部分断面図である。図3は、同マスク1を第2の生地1b側から見たときの図である。図4は、同マスク1を第1の生地1a側から見たときの図である。図5は、同マスク1のポケット30にシート材2を挿入するときの様子を示す図である。
【0028】
図1図4に示すように、本実施の形態に係るマスク1は、マスク1を装着するマスク装着者(ユーザ)の口および鼻を覆うマスク本体10と、マスク本体10の左右に設けられた一対の耳かけ部20とを少なくとも有する。
【0029】
図1に示すように、マスク本体10は、マスク装着者の口および鼻だけではなく、顎および頬も覆っている。
【0030】
マスク1は、2層構造であり、マスク本体10におけるマスク装着者の口側の面を構成する第1の生地1aと、外気側の面を構成する第2の生地1bとを有する。本実施の形態において、第1の生地1aは、マスク装着者の口に接する面を構成しており、第2の生地1bは、外気に露出する面を構成している。第1の生地1aは、マスク装着者の顔面側(内側)の表生地であり、第2の生地1bは、マスク装着者の顔面側とは反対側(外側)の裏生地である。また、第1の生地1aは、マスク1におけるマスク装着者の肌に触れる部分であり、マスク1の外部からは視認されない。一方、第2の生地1bは、マスク1におけるマスク装着者の肌に触れない部分であって、マスク1の外部から視認することができる。
【0031】
なお、本実施の形態では、図1に示すように、第1の生地1aは、マスク装着者の口に接しているが、これに限らない。つまり、第1の生地1aは、マスク装着者の口に接していなくてもよい。例えば、マスク本体10とマスク装着者の口との間に隙間(空間)が存在するような場合は、第1の生地1aとマスク装着者の口とは接していなくてもよい。このように、第1の生地1aは、少なくとも一部がマスク装着者の顔面の一部に触れているが、マスク装着者の顔面に触れていない部分を有していてもよい。
【0032】
マスク1は、第1の生地1aと第2の生地1bとの少なくとも一部が接合された無縫製のよこ編地からなる。つまり、マスク1は、よこ編地である第1の生地1aとよこ編地である第2の生地1bとが無縫製で接合されることで一体のよこ編地として構成されている。例えば、よこ編地である第1の生地1aとよこ編地である第2の生地1bとの両生地を編み糸で部分的に編んでいくことで無縫製のマスク1を作製することができる。この場合、第1の生地1aと第2の生地1bとは、マスク1の外形をなす表側と裏側の境界部分(外縁)が接合されているだけではなく、第1の生地1aと第2の生地1bとの間の領域にも破線状に部分的に接合されている。なお、本実施の形態におけるマスク1は、第1の生地1aと第2の生地1bとが無縫製で接合されるものであって、接着剤や別の縫い糸などの別部材で第1の生地1aと第2の生地1bとを接合するものではない。
【0033】
よこ編地を構成する繊維の素材は、特に限定されるものではないが、例えば、ポリエステル、ナイロン、アクリル、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリアセタール、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン、または、アセテートやキュプラ、ビスコースなどのレーヨンなどがあり、さらに、これらの他に、ポリ乳酸、芳香族ポリアミド、ポリイミドまたはポリフェニレンサルファイドなどの化学繊維、綿、麻、絹または羊毛などの天然繊維などがある。また、よこ編地を構成する繊維として、これらの素材の混繊、混紡、または交編品を用いてもよしい、あるいは、芯鞘構造を有する繊維を用いることもできる。
【0034】
特に、第1の生地1aおよび第2の生地1bを構成するよこ編地は、ポリウレタン弾性繊維を含むとよい。よこ編地を構成する生地の素材がポリウレタン弾性繊維を含むことで、マスク1の肌への密着性が向上するとともに、マスク1の装着感も向上する。マスク1におけるポリウレタン弾性繊維の混率は、30%以下が好ましく、20%以下がより好ましい。つまり、第1の生地1aおよび第2の生地1bの各々におけるポリウレタン弾性繊維の混率は、30%以下が好ましく、20%以下がより好ましい。
【0035】
また、第1の生地1aおよび第2の生地1bのうち少なくとも外気側の面を構成する方の第2の生地1bは、ポリエステル繊維によって構成されているとよい。第2の生地1bをポリエステル繊維によって構成することで、第2の生地1bが綿によって構成されている場合と比べて、洗濯による寸法変化を小さく抑えることができ、マスク1を何回も繰り返して使用することができる。なお、第2の生地1bだけではなく、第1の生地1aについてもポリエステル繊維によって構成されていてもよい。
【0036】
また、第1の生地1aおよび第2の生地1bのうち少なくとも一方は、ナイロン繊維によって構成されているとよい。第1の生地1aおよび/または第2の生地1bがナイロン繊維によって構成されていることで、ポリエステル繊維によって構成されている場合と比べて、吸放湿性に優れ、マスク着用時の蒸れ感を抑え、快適性がより向上するマスク1を実現することができる。さらに、第1の生地1aおよび/または第2の生地1bがナイロン繊維によって構成されていることで、吸放湿性に優れる天然繊維やレーヨンなどのセルロース系繊維によって構成されている場合と比べて、洗濯による寸法変化を小さく抑えることができ、形状も安定し、何回も繰り返して使用することができるマスク1を実現できる。
【0037】
また、第1の生地1aおよび第2の生地1bのうち少なくとも肌に触れる方の第1の生地1aは、接触冷感作用を有する繊維によって構成されているとよい。これにより、第1の生地1aが肌に触れているとときにマスク装着者はひんやりと感じるので、マスク装着時の快適性を向上させることができる。
【0038】
接触冷感作用を有する繊維の素材としては、アセテートやキュプラ、ビスコースなどのレーヨン、ポリアセタール、ナイロン、芯にポリエステル、鞘にEVOHを用いた芯鞘構造の繊維、超高分子量ポリエチレン繊維などが挙げられる。また、第1の生地1aは、接触冷感加工されたものであってもよい。なお、第1の生地1aだけではなく、第2の生地1bについても、接触冷感作用を有する繊維によって構成されていてもよいし、接触冷感加工されていてもよい。
【0039】
第1の生地1aおよび第2の生地1bのよこ編地を構成する繊維は、長繊維および短繊維のいずれであってもよい。また、この繊維を用いた糸は、生糸、撚糸、および加工糸のいずれであってもよい。加工糸についても、特に限定されるものではなく、仮撚加工糸(ウーリー加工糸、DTY、改良仮撚加工糸など)、押込加工糸、賦型加工糸、擦過加工糸、タスラン加工糸、糸長差引きそろえ加工糸、複合加工糸、毛羽加工糸、交絡集束糸、交絡混繊糸などを用いることができる。
【0040】
また、よこ編地を構成する繊維の断面形状は、特に限定されるものではなく、丸型、三角、星形、扁平、C型、中空、井形、ドックボーンなどが挙げられる。
【0041】
一対の耳かけ部20の各々は、マスク装着者の耳が入る大きさの穴を有する。一対の耳かけ部20の一方は、マスク装着者の左耳にかけられる第1の耳かけ部21であり、一対の耳かけ部20の他方は、マスク装着者の右耳にかけられる第2の耳かけ部22である。本実施の形態において、マスク本体10と一対の耳かけ部20とは一体に構成されている。つまり、マスク本体10と一対の耳かけ部20とは、第1の生地1aと第2の生地1bとの2つの生地によって一体に構成されている。
【0042】
具体的には、第1の生地1aおよび第2の生地1bの各々は、マスク本体10に対応する部分と一対の耳かけ部20に対応する部分とを有する。したがって、マスク1は、マスク本体10と一対の耳かけ部20とを第1の生地1aおよび第2の生地1bによって一体に編んだ無縫製のよこ編地からなる。これにより、編み目が開くことによるよこ編地の伸縮性を最大限に発揮させることができるので、マスク装着者の顔のサイズに左右されることなく優れた装着感が得られるとともに、締結張力緩和による耳への負担を軽減することができる。また、無縫製のよこ編地からなるマスク1は、編み方の設計自由度が高く、また、縫目や別部材により接合部が存在しないことから、高い意匠性を有するマスクを得ることができ、かつごわつき感や異物感を低減できる利点も有する。
【0043】
また、第1の生地1aと第2の生地1bとは、合わせ面の全ての領域で接合されているのではなく、第1の生地1aと第2の生地1bとの合わせ面には部分的に接合されていない領域が存在する。本実施の形態では、第1の生地1aと第2の生地1bとの合わせ面の大部分が接合されていないが、部分的に接合されている。
【0044】
図5に示すように、マスク1における第1の生地1aと第2の生地1bとの間には、シート材2を挟持できるポケット30が形成されている。ポケット30に対応する領域では、第1の生地1aと第2の生地1bとの合わせ面が接合されていない。また、第1の生地1aと第2の生地1bとの端縁のうちポケット30に対応する領域の鼻側の端縁についても、図5に示すように、ポケット30にシート材2を挿入するために接合されていない。具体的には、第1の生地1aと第2の生地1bとは、鼻側の端縁に開口部が存在するようにして、ポケット30を囲むように合わせ面が破線状に接合されている。本実施の形態において、ポケット30は、マスク本体10に形成されている。このように、開口部を有するポケット30がマスク本体10に形成されていることで、ポケット30にシート材2を挿入したり、ポケット30からシート材2を取り出したりすることができる。つまり、シート材2を容易に交換することができる。
【0045】
なお、本実施の形態では、マスク本体10の上部(具体的には鼻側の端縁)にポケット30の開口部が設けられているが、これに限らない。例えば、ポケット30の開口部はマスク本体10のサイドに設けられていてもよいし、マスク本体10の中央部等に切れ込みを形成することでポケット30の開口部を設けてもよいし、マスク本体10の下部(例えば顎の端縁)にポケット30の開口部が設けられていてもよい。
【0046】
また、本実施の形態において、シート材2は、ポケット30の開口部からポケット30内に挿入されることで、ポケット30に配置されていたが、これに限らない。例えば、シート材2は、開口部を有さないポケット30に挟持されることで、第1の生地1aと第2の生地1bとの間に配置されていてもよい。この場合、シート材2は、第1の生地1aと第2の生地1bとを接合する際に予め第1の生地1aと第2の生地1bとの間に挿入される。なお、マスク本体10にポケット30を形成することなく、第1の生地1aと第2の生地1bとの間にシート材2が配置されていてもよい。
【0047】
以上説明したように、本実施の形態に係るマスク1によれば、よこ編地の伸縮性によりマスク本体10と顔面との間の隙間をなくすことができるので、マスク1の正面方向に呼気の流路を集中させることができる。これにより、マスク本来のろ過機能を十分に発揮させることができる。しかも、呼吸や発話などの顔の動きに合わせてマスク1の正面のよこ編地の編み目が開くので、呼気量の大小によってマスクの通気度が変化する。これにより、呼吸や発話などの際の息苦しさが緩和されるという効果も奏する。さらに、図6に示すように、マスク1のポケット30内にシート材2を配置してマスク1を装着した場合には、マスク1の正面方向に呼気が集中するため、シート材2を通過する呼気量が増大し、ろ過機能をさらに高めることができる。なお、シート材2の詳細については、後述する。
【0048】
また、本実施の形態に係るマスク1において、第1の生地1aは、メッシュ状のメッシュ構造または二次元状に複数の細孔が開けられた細孔アレイ構造を有しているとよい。このメッシュ構造または細孔アレイ構造は、少なくともマスク本体10におけるマスク装着者の口を覆う部分に設けられているとよい。本実施の形態では、図4に示すように、マスク本体10の第1の生地1aは、複数の細孔40が開けられた細孔アレイ構造を有する。また、細孔細アレイ構造は、マスク本体10のポケット30に対応する部分に設けられている。なお、細孔40は、行列状の周期的な配列パターンで設けられているが、これに限らない。
【0049】
このように、第1の生地1aがメッシュ構造または細孔アレイ構造を有することで、口側の面を構成する第1の生地1aは、マスク1の正面方向からの通気度が向上し、呼気の流路がマスク1の上下および左右ではなくマスク1の正面からに集中しやすくなる。特に、有害物質不活化剤などの機能性付与剤が付着していたり気化熱による冷却効果が得られる水などの揮発剤を含んでいたりするシート材2をポケット30に挿入してマスク1を装着した場合には、マスク装着者の顔面とシート材2との間の通気性が良くなり、これらの機能がさらに発揮されやすい。
【0050】
なお、本実施の形態では、ポケット30にシート材2を配置するために第1の生地1a(顔面側の生地)のみにメッシュ構造または細孔アレイ構造を形成したが、これに限らない。例えば、さらに呼吸をしやすくするために、第1の生地1aだけではなく第2の生地1b(外側の生地)にもメッシュ構造または細孔アレイ構造を形成してもよい。また、メッシュ構造または細孔アレイ構造は、第2の生地1bのみに形成されていてもよい。
【0051】
第1の生地1aおよび第2の生地1bの双方にメッシュ構造または細孔アレイ構造を形成する場合、第1の生地1aと第2の生地1bとで、形成するメッシュまたは細孔の孔の配置の密度や孔の大きさなどを変えることで、第1の生地1aと第2の生地1bとの通気性を異ならせてもよい。この場合、ろ過性能と呼吸のしやすさとのバランスの観点から、第1の生地1aの通気性が第2の生地1bの通気性より大きくなるように、形成するメッシュまたは細孔の孔の配置の密度や孔の大きさなどを調整することが好ましい。
【0052】
また、JIS L1096:2010 A法 フラジール形法 にて測定したときのマスク1の通気量は、50cm/cm・s以上、150cm/cm・s以下であることが好ましい。マスク1の通気量が50cm/cm・s以上であれば、マスク1の正面方向に呼気の流路を集中させやすくなり、かつ呼吸や発話などの際の息苦しさを緩和する効果が高くなる。また、マスク1の通気量が150cm/cm・s以下であれば、マスク本来のろ過機能を十分に発揮させることができる。より好ましいマスク1の通気量は、70cm/cm・s以上、120cm/cm・s以下である。なお、後述するシート材2をマスク1内で挟持させて使用する場合においても、マスク全体の通気量が50cm/cm・s以上、150cm/cm・s以下であることが好ましい。
【0053】
さらに、本実施の形態に係るマスク1において、上記のメッシュ構造または細孔アレイ構造は、二次元状に区画された複数のブロックに分離されているとよい。図4に示すように、本実施の形態では、細孔アレイ構造における複数の細孔40は、左右方向に4つのブロックに区画されて配列されている。具体的には、複数の細孔40は、マスク本体10の中心を境界にして、左側に位置する2つのブロックと右側に位置する2つのブロックとに区分されている。各ブロックは例えば全体が長方形であり、その長方形の各ブロックには、行列状の配列パターンで細孔40が設けられている。なお、隣り合う2つのブロックの間には、細孔40が設けられていない一定の幅の領域が存在している。
【0054】
このように、第1の生地1aにおけるメッシュ構造または細孔アレイ構造が複数のブロックに区画されていることで、第1の生地1aと第2の生地1bとの伸縮性や弾性の差を小さくすることができる。これにより、第1の生地1aと第2の生地1bとの間での伸びや収縮の差を小さくすることができるので、マスク着用時の着用感および意匠上において、一体感のあるマスク1を得ることができる。特に、本実施の形態のように、第1の生地1aと第2の生地1bとの合わせ面が接合されていないポケット30の部分にこの構成を採用することで、着用感および意匠上において、より一体感のあるマスク1を得ることができる。
【0055】
また、本実施の形態に係るマスク1において、第1の生地1aの素材は、上述の通り、接触冷感作用を有する繊維によって構成されている、または接触冷感加工されているとよい。
【0056】
この構成により、呼気によるマスク内の温度上昇が抑制されるので、マスク装着時の快適性に優れている。なお、接触冷感加工の具体例としては、キシリトールやエリスリトールなどの糖アルコール、メントールやカルボンなどのテルペノイドといった涼感剤を第1の生地1aを構成する繊維の表面に付着させたり、親水性の高いモノマーを第1の生地1aを構成する繊維にグラフト重合させて吸放湿性を付与したりすることが挙げられる。
【0057】
また、本実施の形態に係るマスク1では、所期の目的を逸脱しない限りにおいて、酸化チタンなどの艶消し剤、酸化防止剤、安定剤、着色防止剤、難燃剤、帯電防止剤、耐熱剤、抗菌防臭剤、制菌剤、抗ウイルス剤、SR剤、無機粒子、染色助剤、保湿剤、吸湿剤、撥水剤、香料などの各種機能性剤が、マスク1を構成する繊維に内添、または、その繊維表面に付着されていてもよい。前記機能性剤は、単独で用いてもよいし複数組み合わせて用いてもよいし、さらに、付着量向上や付着した機能性剤の脱離を防ぐためのバインダーと組み合わせてもよい。
【0058】
特に、マスク1で捕集した有害物質の有害性を低減させるために、マスク1の繊維表面には、有害物質不活化剤が付着しているとよい。有害物質不活化剤としては、例えば、消臭剤、抗菌剤、抗ウイルス剤、または抗アレル物質などが挙げられる。具体的には、有害物質不活化剤は、硫酸アルミニウムや酸化亜鉛などの両性物質、銀や銅などの貴金属およびそれらをゼオライトや活性炭などに担持した粒子、ジンクピリチオン、タンニン酸、酸化チタンや酸化タングステンなどの光触媒などである。なかでも、マスク1の繊維表面には、有害物質不活化剤として、消臭剤、抗菌剤、抗ウイルス剤として機能する銀と、光触媒とが付着しているとよい。銀は、口臭の主な原因物質である硫化水素やメチルメルカプタンなどの揮発性硫黄化合物と結びつきやすく、口臭の消臭能力が高い。また、銀および光触媒は、真菌、細菌、ウイルスなどの微生物に対して抗微生物能を有することが知られているが、銀および光触媒を併用して用いることで、それぞれ単独で用いた場合または他の抗微生物剤を用いた場合と比較して、ヒトコロナウイルス229Eなどのプラス鎖RNAウイルスに対して特異的に高い抗ウイルス性が発現されるため、幅広い抗微生物スペクトルを有するマスクを得ることができる。なお、銀を安定的に繊維表面に付着させるために、銀は、多孔質体に担持した形態で用いることが好ましい。また、多孔質体は、臭気成分を物理吸着し、消臭剤としての効果も発揮する。
【0059】
次に、本実施の形態に係るマスク1の製造方法について説明する。なお、本実施の形態に係るマスク1の製造方法は、以下に説明する製造方法に限定されるものではない。つまり、本実施の形態に係るマスク1は、以下に説明する製造方法で得られるものに限定されない。
【0060】
本実施の形態におけるマスク1は、前後に少なくとも一対のニードルベッドを有するよこ編機を用いて製造される。このよこ編機に、マスク1を構成する繊維を供給し、上記の構造を有するマスク1が得られるように、ポケット30を有するマスク本体10とマスク本体10の左右に設けられた一対の耳かけ部20とを連続する糸で一体的に編成する。
【0061】
この編成は、例えば、株式会社島精機製作所が開発したホールガーメント(登録商標)と呼ばれる製法によって行うことができる。ホールガーメント(登録商標)とは、通常の編物からなる繊維製品であれば、個別に編成した複数のパーツを接着剤や縫製で一体化させるところを、複数のパーツを無縫製で一体的かつ立体的に編成する技術である。
【0062】
具体的には、編成は、例えば片方の耳かけ部20(例えば第1の耳かけ部21)から編み始め、続いてマスク本体10、最後にもう片方の耳かけ部20(例えば第2の耳かけ部22)を編むことにより行うことができる。マスク本体10のポケット30は、例えば、口側の面を前側のニードルベッドの針を使用し、外気側の面を後ろ側のニードルベッドの針を使用して編み進め、必要に応じてメッシュ構造または細孔アレイ構造を形成し、第1の生地1aと第2の生地1bとの接合部においては前後のニードルベッド間で目移しを行うことで編成することができる。
【0063】
なお、前後のニードルベッドに供給する糸は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。つまり、第1の生地1aの素材と第2の生地1bの素材とは、同一であってもよいし、異なっていてもよい。前後のニードルベッドに供給する糸の種類を異ならせることにより、第1の生地1aの素材と第2の生地1bの素材とを変えることができる。この場合、少なくとも第2の生地1bの素材にポリエステル繊維を用いることで、洗濯による寸法変化を小さく抑えることができ、何回も繰り返して使用できるマスク1を得ることができる。また、第1の生地1aの素材として、上記のように接触冷感作用を有する繊維を用いることで、呼気によるマスク内の温度上昇を抑制することができ、マスク装着時の快適性を向上させることができる。
【0064】
また、他の実施の形態として、マスク1の一部に融着糸を用いてもよい。例えば、マスク1の中央部の位置において、マスク着用者の鼻から顎に対応する部分にかけて数列に融着糸を用いてマスクを編成し、編成されたマスクを熱処理などすることにより、融着糸を融着させる。これにより、マスク1の中央部における鼻から顎に対応する部分にかけて線状に硬くすることができる。このようにすることにより、マスク1の中央部における鼻から顎に対応する部分にかけてマスク1の形状が変化することを抑制することができ、マスク着用者の口とマスク1との間に隙間(空間)が保たれる。これにより、マスクを着用しているときに、会話中や運動中などで呼吸が荒くなるような状況においても、呼吸が行いやすくなり、また、熱がこもった感じをより抑制することができる。
【0065】
なお、融着糸が用いられる箇所は、マスク1の中央部におけるマスク着用者の鼻から顎に対応する部分に限らない。融着糸は、マスクにおいて硬くして形状を維持したい箇所に用いればよく、マスク1の中央部におけるマスク着用者の鼻から顎に対応する部分以外の箇所に用いられていてもよい。
【0066】
融着糸の種類は、特に限定されるものではないが、融着糸としては、熱融着性ポリエステル糸、熱融着性ナイロン糸、または、熱融着性ポリエチレン糸などを挙げることができる。
【0067】
また、本実施の形態における融着糸は、熱により融着する熱融着糸である。熱融着糸の融着方法としては、熱融着糸の特性やマスク1の製造に用いた他の繊維の特性に合わせて任意の方法を用いることができるが、例えば、熱融着糸の溶融温度に応じて、熱風オーブンやホットニップ機、アイロンなどを用いて、乾熱または蒸気と組み合わせて、70~200℃で0.1秒から5分程度熱処理を行えばよい。また、50℃~140℃の熱水中に浸漬し、1秒~5時間程度の熱処理にて熱融着糸を融着させてもよい。また、条件が合えば、マスク1に有害物質不活化剤や機能性剤等を付着させるための熱処理と同時に熱融着糸を融着させてもよい。なお、融着糸として、熱以外に融着するものを用いてもよい。
【0068】
このようにして得られたマスク1は、必要に応じて、柄の印刷加工、制電加工、SR加工、抗菌防臭加工、制菌加工、抗ウイルス加工、消臭加工、防炎加工、吸湿加工、撥水加工、香気加工、接触冷感加工、染色などの着色を行ってもよい。具体的には、水に機能性剤や着色剤、およびバインダーなどの助剤を溶解または分散させた処理液を作製し、浸漬、噴霧、塗付などで、得られたマスク1にその処理液を付与し、脱水および乾燥を行ってマスク1を構成する繊維の表面に機能性剤を付着させればよい。バインダーを併用する場合には、さらに、熱処理や活性エネルギー線照射による架橋促進または湿熱処理によるグラフト重合などを行ってもよい。また、前記の各種加工を複数行う場合には、処理液中に機能性剤を複数添加して一括で加工してもよいし、処理液を別々に準備して段階的に加工してもよい。特に、上述した接触冷感加工を行うことで、マスク装着時にマスク1が肌に触れるとひんやりと感じ、マスク装着時の快適性を向上させることができる。
【0069】
また、有害物質不活化剤を付着させる処理を行うことで、マスク1で捕集した有害物質の有害性を低減させることができる。
【0070】
また、第1の生地1aおよび/または第2の生地1bを構成する糸として、マスク1に編成する前から予め着色されている糸である先染め糸、及び/又は原着糸が、マスク1に含まれているとよい。着色されているマスク1を製造する際に、先染め糸及び/又は原着糸を用いて編むことにより、マスク1の生産性を向上させることができる。
【0071】
例えば、マスク1を編成した後に染色(後染め)を行うと、染料等を含む水の中で高温に晒されたり長時間の染色処理がなされたりするため、マスク1に、縮みや伸びやシワ、しぼなどが生じ、これらを修正する処理が必要となるおそれがある。これに対して、先染め糸及び/又は原着糸を用いたマスク1では、マスク1を編成した後に、水の中での処理が必要とならず、また、必要に応じて精練処理を行う場合はあるものの、染色処理に比べて条件が緩やかなため、マスク1に、縮みや伸びやシワ、しぼなどが生じる可能性が低く、仮に生じた場合でも、これらを修正する処理が容易である。
【0072】
糸の先染めや原着に対して用いられる染料は、マスク1を構成する糸の種類に応じて、分散染料、酸性染料、反応染料、直接染料、媒染染料、スレン染料、カチオン染料、顔料等、適切な染料を用いればよい。また、着色方法としては、フィックス処理など後処理も含めて公知の方法を用いることができる。
【0073】
また、一方で、後染めにてマスク1に着色を行なうと、小ロットにて対応することが可能であるので、糸を含めた在庫の発生を抑制することができたり、任意の色に着色できるので、より市場の要望に応えたりすることができる。また、後染めにてマスク1に着色を行うと、第1の生地1aおよび第2の生地1bを収縮させることができるので、マスク1の通気量を低下させることができる。また、マスク1に形成されたしわやしぼにより、マスク1にナチュラルな感じを付与することができる。また、後染めについては、マスク1を構成する糸の種類に応じて、分散染料、酸性染料、反応染料、直接染料、媒染染料、スレン染料、カチオン染料、顔料等、適切な染料を用いればよく、また、着色方法は、フィックス処理も含めて公知の方法を用いることができる。また、後染めにてマスク1を着色する場合、機能性剤や有害物質不活性剤を繊維表面に付着させる付着処理は、その付着方法に応じて、着色処理(染色処理)の前又は後、あるいは、着色処理(染色処理)と同時に、任意のタイミングで行えばよい。なお、有害性物質不活性剤として銀や光触媒を用いる場合には、着色処理(染色処理)後に銀等を繊維表面に付着させることが好ましい。これは、染色処理前に銀等を繊維表面に付着させると、その後の染色処理で銀等が繊維表面から脱落するおそれがあるからである。
【0074】
<シート材>
本実施の形態におけるマスク1は、単独で用いることもできるが、有害物質の捕集や有害性低減能力を高めるため、第1の生地1aと第2の生地1bとの間に、シート材2が配置されているとよい。この場合、第1の生地1aと第2の生地1bの間にシート材2が配置されていれば、シート材2の配置形態は、特に限定されるものではないが、好ましくは、図5および図6に示されるように、マスク1に設けられたポケット30内にシート材2を配置するとよい。この場合、シート材2は、マスク1のポケット30内で第1の生地1aと第2の生地1bとに挟持させて用いることが好ましい。このようにシート材2を用いることで、洗濯や交換、薬剤の噴霧などにより、マスク1の交換頻度を下げたり、清潔さを保ったり、着用で低下した機能を再生させたりできる利点も有する。
【0075】
シート材2は、呼吸のしやすさの観点や、呼気の流路をマスク1の正面に集中させてシート材2を通過する呼気の量を増やす観点からは、シート材2は、多孔質のシート材であることが好ましい。多孔質のシート材としては、例えば、織物や編物、不織布などの繊維布帛、活性炭やゼオライトなど多孔質粒子を封入した繊維製の袋、連結孔を有するゴムやスポンジ、または、金属繊維メッシュなどが挙げられる。
【0076】
特に、シート材2は、繊維布帛からなる多孔質のシート材であって、シート材の繊維表面に有害物質不活化剤が付着したものであることが好ましい。シート材2として繊維布帛を用いることで、マスク全体の柔軟性をそれほど損わずに、有害物質不活化剤を容易に付着させることができ、洗濯などの取り扱いが容易になる。
【0077】
シート材2に付着させる有害物質不活化剤としては、例えば、消臭剤、抗菌剤、抗ウイルス剤または抗アレル物質などが挙げられる。具体的には、有害物質不活化剤は、硫酸アルミニウムや酸化亜鉛などの両性物質、銀や銅などの貴金属およびそれらをゼオライトや活性炭などに担持した粒子、または、ジンクピリチオンやタンニン酸、酸化チタンや酸化タングステンなどの光触媒などである。なお、有害物質不活化剤は、単独で用いてもよいし、複数組み合わせて用いてもよいし、付着量の向上や付着した有害物質不活化剤の脱離を防ぐためのバインダーと組み合わせてもよい。
【0078】
また、シート材2に付着させる有害物質不活化剤としては、マスク1に付着させる有害物質不活化剤と同様のものを用いることができる。また、有害物質不活化剤とバインダーとを組み合わせることでも同様の効果を得ることができる。
【0079】
繊維布帛からなるシート材2に有害物質不活化剤を付着させる方法としては、マスク1に機能性加工を行う手順と同様の方法で行うことができる。さらに、マスク1に対する機能性加工を、シート材2に有害物質不活化剤を付着させる加工と同時に行ってもよいし別途行ってもよい。また、気化熱による冷却効果が得られる水などの揮発剤をシート材2に含ませてもよい。
【実施例
【0080】
以下、本実施の形態に係るマスク1について、実施例および比較例を挙げて詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。なお、本発明の目的を逸脱しない範囲で変更を施すことは、全て本発明の技術的範囲に含まれる。なお、以下の実施例および比較例における「%」は、「質量%」、を意味する。
【0081】
また、以下の実施例および比較例におけるA~Cの各評価項目における各種物性などの測定および評価は、次の方法によって行った。
【0082】
[A 通気性]
JIS L1096:2010 A法 フラジール形法 に準じて通気量を測定した。
【0083】
[B 消臭性]
社団法人繊維評価技術協議会のSEKマーク繊維製品認証基準(JEC301)に規定の消臭性試験法(検知管法)に準じて、口臭の原因の代表物質であるメチルメルカプタン減少率を測定した。なお、有害物質不活化剤として光触媒を用いたマスクについては、白色蛍光灯(ネオルミスーパー FL20SW、三菱電機株式会社製)を用い、400lxの環境下で測定を行った。
【0084】
[C 抗菌性]
JIS L1902:2015に規定の菌液吸収法にて準じて、黄色ブドウ球菌(ATCC6538P)に対する抗菌活性値を測定した。具体的には、黄色ブドウ球菌を菌濃度2.2×10CFU/mLで接種し、18時間培養後、混釈平板培養法にて定量測定を行って得られた値、および標準布で同様の試験を行って得られた値を基に抗菌活性値を計算した。なお、有害物質不活化剤として光触媒を用いたマスクについては、白色蛍光灯(ネオルミスーパー FL20SW、三菱電機株式会社製)を用い、400lxの環境下で測定を行った。
【0085】
(実施例1)
株式会社島精機製作所製のホールガーメント(登録商標)よこ編機であるMACH2XS123に対し、同社製3DデザインシステムSDS-ONE APEX3で作製したマスク1の編成パターンを読み込ませた。
【0086】
続いて、次の2種類の糸を準備した。
【0087】
・PE/PU糸:混率;ポリエステル86%/ポリウレタン弾性糸14%、
糸の太さ;110dtex
・Cu糸:混率;キュプラ100%、
糸の太さ;110dtex
【0088】
次に、前記よこ編み機の後側のニードルベッドに前記PE/PU糸を供給し、前記編成パターンに従い、第1の耳かけ部21(左耳の耳かけ部)から編み始め、人の耳が入る大きさの穴を有する第1の耳かけ部21を編み、引き続いて、糸を切らずマスク本体10の外気側の面、最後に、第1の耳かけ部21と同様にして第2の耳かけ部22(右耳の耳かけ部)の順に編んだ。また、前記マスク本体10を編み始めたタイミングで、前記Cu糸を供給された前側のニードルベッドで、マスク本体10の口側の面を編んだ。一部のみ前後のニードルベッド間で目移しを行って接合部を設け、口側の面を構成する第1の生地1aと、外気側の面を構成する第2の生地1bとを、マスク本体10の上部の開口部からシート材2を挿入できるポケット30を形成するようにして、マスク本体10の左右および下部に沿って接合した。また、第1の生地1aには、直径1mmの細孔40がまとまって複数配列された領域を1つのブロックとして、横12個×縦18個の孔が長方形領域に配列されたAブロックと、横6個×縦18個の孔が長方形領域に配列されたBブロックとを、左右対称となるように設けた。具体的には、マスク本体10のマスク中央を中心として左側から右側に向かって、Aブロック、Bブロック、Bブロック、Aブロックという順序のブロックパターンで複数の細孔40を第1の生地1aに設けた。なお、各ブロック間の距離は5mmとした。得られたマスク1の各種評価結果を表1に示す。
【0089】
このようにして得られた実施例1のマスク1は、よこ編地からなるので伸縮性を有している。このため、優れた装着感を有しており、また、耳への負担も軽減される。また、無縫製であるために第1の生地1aと第2の生地1bとの間に継ぎ目がないので、高い意匠性を有する。なおかつ、マスク本体10の上下および左右から呼気が漏出することを抑制できていた。さらに、口元に熱気がこもることがなく、快適性にも優れていた。
【0090】
(実施例2)
次に、実施例2のマスク1について説明する。
【0091】
実施例2では、前側のニードルベッドに供給する糸を、後側のニードルベッドに供給する糸と同様に前記PE/PU糸を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてマスク1を編成した。
【0092】
次に、このマスク1を、キシリトール1%水溶液中に浸漬させ、脱水、乾燥し、繊維表面にキシリトールを付着させた。得られたマスク1の各種評価結果を表1に示す。
【0093】
このようにして得られた実施例2のマスク1は、よこ編地からなるので伸縮性を有している。このため、優れた装着感を有しており、また、耳への負担も軽減される。また、無縫製であるために第1の生地1aと第2の生地1bとの間に継ぎ目がないので、高い意匠性を有する。なおかつ、マスク本体10の上下および左右から呼気が漏出することを抑制できていた。さらに、口元に熱気がこもることがなく、快適性にも優れていた。
【0094】
(実施例3)
次に、実施例3のマスク1について説明する。
【0095】
実施例3では、まず、メッシュ状であるダブルラッセル編地を準備した。そして、このダブルラッセル編地を、銀ゼオライト0.33%、およびポリウレタン系バインダー0.05%の水分散液中に浸漬させ、脱水、乾燥し、繊維表面に銀が担持されたゼオライト粒子を付着させ、繊維表面に有害物質不活化剤を付着させた多孔質のシート材2を得た。
【0096】
このシート材2を実施例2で得られたマスク1のポケット30に挿入してシート材2をマスク1内で挟持させた。得られたシート材2およびシート材2を挟持したマスク1の各種評価結果を表1に示す。
【0097】
このようにして得られた実施例3のマスク1は、実施例2のマスク1の効果に加えて、シート材2と有害物質不活化剤の効果とで高い有害物質捕集および有害性低減能力を有する。しかも、シート材2を挟持する前と同等の装着感が維持され、息苦しさも感じなかった。
【0098】
(実施例4)
実施例4では、実施例1で得られたマスク1を、可視光応答型酸化チタン系光触媒0.5%、銀ゼオライト0.4%、およびシリコーン系バインダー0.05%の水分散液中に浸漬させ、脱水、乾燥し、繊維表面に光触媒と、銀が担持されたゼオライト粒子を付着させた。得られたマスク1の各種評価結果を表1に示す。
【0099】
また、このようにして得られた実施例4のマスク1は、実施例1のマスク1の効果に加えて、高い有害性低減能力を有する。
【0100】
(比較例)
次に、比較例のマスクについて説明する。
【0101】
比較例では、前記PE/PU糸を用い、両面2段スムース丸編みを編成し、長方形に切り出してマスク本体とし、このマスク本体の四隅に、2本のゴムバンドを左右の耳かけとなるよう接着することでマスクを得た。
【0102】
このようにして得られたマスクは、ゴムの締結力により耳が痛く、見栄えの悪いものであり、かつマスクの上下および左右から呼気の漏出が顕著であった。
【0103】
【表1】
【0104】
(実施例5)
実施例5では、実施例4で用いたポリエステル繊維を分散染料を用いて染色処理し、ベージュ色に着色した先染め糸を用いた。また、キュプラは、直接染料を用いて染色処理し、ベージュ色に著色した先染め糸を用いた。
【0105】
そして、上記の先染め糸を用いた以外は実施例4と同様にしてマスク1を得た。実施例5で得られたマスク1は、優れた装着感、耳への負担軽減、高い意匠性、呼吸の漏れの抑制、口元の熱気がこもることの抑制、優れた通気性、優れた消臭性、優れた抗菌性等について、実施例4と変わらない効果が得られた。
【0106】
(実施例6)
実施例6では、マスク1を作成したあとにマスク1を着色した。具体的には、実施例6では、実施例1で得られたマスク1を、分散染料を用いて染色処理し、ベージュ色に着色した。染色処理においては、ドラム型高圧染色機を用いて分散染料を含む水にマスク1を浸漬し、125℃で30分間染色し、その後、水洗し、温風で乾燥した。染色処理後のマスク1は、染色処理前のマスク1に比べて、少しのシワやしぼ感を有するものであった。
【0107】
このマスク1に対してアイロンを用いてシワやしぼの修正処理を行った場合、修正に必要な時間は、マスク1枚につき、約1分間であった。修正したマスク1は、優れた装着感、耳への負担軽減、高い意匠性、呼吸の漏れの抑制、口元の熱気がこもることの抑制、優れた通気性等について、実施例1と変らない効果が得られた。
【0108】
また、修正しないマスク1は、実施例1に比べて通気性が低下しているものの、マスク1の生地に形成されたシワやしぼにより、ナチュラルな感じを有するマスクであった。
【0109】
(実施例7)
上記実施例1では、PE/PU糸とCu糸との2種類の糸を用いてマスク1を作製したが、実施例7では、PE/PU糸及びCu糸に代えて、Ny/PU糸(ポリウレタン弾性糸の周りをナイロン糸でカバリングしたもの。172dtex)を用いてマスク1を作製した。つまり、実施例7では、第1の生地1aおよび第2の生地1bのいずれについてもNy/PU糸を用いて編み上げた。実施例7では、さらに、ポリウレタン弾性糸の周りを熱融着性糸(ポリウレタン弾性糸の周りを熱融着性ナイロン糸でカバリングした熱融着糸。277dtex)を用いて、第2の生地1bのマスク中央部におけるマスク着用者の鼻から顎にかけての部位において、左右3列ずつ(計6列)を当該熱融着糸を用いて編み、マスク1を編成した。編成したマスク1を熱風オーブンを用いて120℃で30秒間熱処理し、当該熱融着糸を融着させた。これ以外は、実施例1と同様にしてマスク1を得た。
【0110】
このようにして得られた実施例7のマスク1は、実施例1と同様の効果が得られることに加え、ナイロンを含む糸を用いたことにより蒸れ感が抑制され、また、熱融着糸が融着した部分は他の部分よりも硬くなっているため、マスク本体10におけるマスク中央部におけるマスク着用者の鼻から顎にかけての部位に外側に膨らんだ形状を維持することができた。これにより、マスク1とマスク着用者の口元との間の隙間(空間)を維持することができるので、より呼吸や会話が容易となった。
【0111】
(実施例8)
実施例8では、実施例7において、マスク1を編成した後、熱風オーブンを用いた120℃での熱処理を行わずに、酸性染料を用いて染色処理し、グレー色に着色した。染色処理においては、ドラム型染色機を用いて酸性染料を含む水にマスクを浸漬して90℃で30分間染色し、その後、フィックス処理および水洗し、温風で乾燥した。染色処理(熱処理)後のマスク1は、染色処理(熱処理)前のマスク1に比べて、シワ、しぼ、収縮が見られた。また、熱融着糸は、実施例7と同様に融着してマスク本体10の中央部を硬化させた。その後、アイロンを用いて、マスク1のシワやしぼ、収縮を修正および熱融着糸の融着状態の仕上げの処理を行った。修正に必要な時間は、マスク1枚につき、約2分間であった。また、修正したマスク1は、実施例7と同等の効果を有していた。
【符号の説明】
【0112】
1 マスク
2 シート材
1a 第1の生地
1b 第2の生地
10 マスク本体
20 耳かけ部
21 第1の耳かけ部
22 第2の耳かけ部
30 ポケット
40 細孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6