(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-17
(45)【発行日】2024-04-25
(54)【発明の名称】パルスアーク溶接の欠陥検知装置および欠陥検知方法
(51)【国際特許分類】
B23K 9/095 20060101AFI20240418BHJP
B23K 31/00 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
B23K9/095 515Z
B23K31/00 N
(21)【出願番号】P 2020009566
(22)【出願日】2020-01-24
【審査請求日】2022-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】弁理士法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 要輔
(72)【発明者】
【氏名】日置 幸男
(72)【発明者】
【氏名】中谷 光良
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-226010(JP,A)
【文献】特開2018-144069(JP,A)
【文献】米国特許第05521354(US,A)
【文献】特開2015-075387(JP,A)
【文献】特開平04-200977(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/095
B23K 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルスアーク溶接の溶接電流を検出する溶接電流検出部と、
前記溶接電流検出部で検出された所定時間の溶接電流をフーリエ変換することにより、パワースペクトルを得るフーリエ変換部と、
前記フーリエ変換部で得られたパワースペクトルにおいて振幅が最大となる周波数を基本周波数とし、この基本周波数
から溶接欠陥指標値を算出する指標値算出部と、
前記指標値算出部で算出された溶接欠陥指標値がしきい値以上であれば警告する警告部とを備え
、
前記指標値算出部により算出される前記溶接欠陥指標値が、前記基本周波数を含む所定範囲の周波数の振幅の和を前記基本周波数の振幅で除した値、または、前記基本周波数を含む所定範囲の各周波数の振幅を前記基本周波数の振幅で除した値の和であることを特徴とするパルスアーク溶接の欠陥検知装置。
【請求項2】
前記周波数の所定範囲が、基本周波数を中心にした周波数であることを特徴とする請求項1に記載のパルスアーク溶接の欠陥検知装置。
【請求項3】
前記周波数の所定範囲が、基本周波数の0.5倍以上1.5倍以下の周波数であることを特徴とする請求項1または2に記載のパルスアーク溶接の欠陥検知装置。
【請求項4】
警告部で複数回連続して警告されるとパルスアーク溶接に溶接欠陥が発生したと判断する欠陥判断部を備えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のパルスアーク溶接の欠陥検知装置。
【請求項5】
警告部のしきい値が、指標値算出部で算出された所定時間ごとの溶接欠陥指標値の時間平均に、所定値を加えたものであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のパルスアーク溶接の欠陥検知装置。
【請求項6】
パルスアーク溶接の溶接電流を検出する溶接電流検出工程と、
前記溶接電流検出工程で検出された所定時間の溶接電流をフーリエ変換することにより、パワースペクトルを得るフーリエ変換工程と、
前記フーリエ変換工程で得られたパワースペクトルにおいて振幅が最大となる周波数を基本周波数とし、この基本周波数
から溶接欠陥指標値を算出する指標値算出工程と、
前記指標値算出工程で算出された溶接欠陥指標値がしきい値以上であれば警告する警告工程とを備え
、
前記指標値算出工程により算出される前記溶接欠陥指標値が、前記基本周波数を含む所定範囲の周波数の振幅の和を前記基本周波数の振幅で除した値、または、前記基本周波数を含む所定範囲の各周波数の振幅を前記基本周波数の振幅で除した値の和であることを特徴とするパルスアーク溶接の欠陥検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルスアーク溶接の欠陥検知装置および欠陥検知方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パルスアーク溶接は、パルス状の溶接電流の波形を変化させることにより、溶接の挙動を積極的に制御することが可能なので、開発されて以降、急速に普及してきた。パルスアーク溶接でも、他の溶接と同様に、溶接欠陥を溶接の施工中または施工直後に検知することが望まれている。
【0003】
現在では、溶接欠陥などの異常状態がないかを評価する方法として、予め正常状態および異常状態における各溶接電流の周波数解析によりそれぞれのパワースペクトルを得て、当該パワースペクトルをニューラルネットワークに学習させた上で、学習済みのモデルを使用する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記特許文献1に記載の方法でのパワースペクトルは、ニューラルネットワークに学習させるのには適しているものの、溶接欠陥を直接検知するのには適していない。特許文献1の段落[0026]に記載されているように、ニューラルネットワークに学習させるためには、細かな変動まで再現されていないパワースペクトルが好ましいが、このようなパワースペクトルは、溶接欠陥を直接検知するには粗過ぎるからである。このため、前記特許文献1に記載の方法でのパワースペクトルを用いても、高精度に溶接欠陥を直接検知することができない。
【0006】
そこで、本発明は、高精度に溶接欠陥を検知し得るパルスアーク溶接の欠陥検知装置および欠陥検知方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、第1の発明に係るパルスアーク溶接の欠陥検知装置は、パルスアーク溶接の溶接電流を検出する溶接電流検出部と、
前記溶接電流検出部で検出された所定時間の溶接電流をフーリエ変換することにより、パワースペクトルを得るフーリエ変換部と、
前記フーリエ変換部で得られたパワースペクトルにおいて振幅が最大となる周波数を基本周波数とし、この基本周波数から溶接欠陥指標値を算出する指標値算出部と、
前記指標値算出部で算出された溶接欠陥指標値がしきい値以上であれば警告する警告部とを備え、
前記指標値算出部により算出される前記溶接欠陥指標値が、前記基本周波数を含む所定範囲の周波数の振幅の和を前記基本周波数の振幅で除した値、または、前記基本周波数を含む所定範囲の各周波数の振幅を前記基本周波数の振幅で除した値の和である。
【0008】
また、第2の発明に係るパルスアーク溶接の欠陥検知装置は、第1の発明に係るパルスアーク溶接の欠陥検知装置において、前記周周波数の所定範囲が、基本周波数を中心にした周波数である。
【0009】
さらに、第3の発明に係るパルスアーク溶接の欠陥検知装置は、第1または第2の発明に係るパルスアーク溶接の欠陥検知装置において、前記周周波数の所定範囲が、基本周波数の0.5倍以上1.5倍以下の周波数である。
【0010】
加えて、第4の発明に係るパルスアーク溶接の欠陥検知装置は、第1乃至第3のいずれかの発明に係るパルスアーク溶接の欠陥検知装置において、警告部で複数回連続して警告されるとパルスアーク溶接に溶接欠陥が発生したと判断する欠陥判断部を備えるものである。
【0011】
また、第5の発明に係るパルスアーク溶接の欠陥検知装置は、第1乃至第4のいずれかの発明に係るパルスアーク溶接の欠陥検知装置において、警告部のしきい値が、指標値算出部で算出された所定時間ごとの溶接欠陥指標値の時間平均に、所定値を加えたものである。
【0012】
また、第6の発明に係るパルスアーク溶接の欠陥検知方法は、パルスアーク溶接の溶接電流を検出する溶接電流検出工程と、
前記溶接電流検出工程で検出された所定時間の溶接電流をフーリエ変換することにより、パワースペクトルを得るフーリエ変換工程と、
前記フーリエ変換工程で得られたパワースペクトルにおいて振幅が最大となる周波数を基本周波数とし、この基本周波数から溶接欠陥指標値を算出する指標値算出工程と、
前記指標値算出工程で算出された溶接欠陥指標値がしきい値以上であれば警告する警告工程とを備え、
前記指標値算出工程により算出される前記溶接欠陥指標値が、前記基本周波数を含む所定範囲の周波数の振幅の和を前記基本周波数の振幅で除した値、または、前記基本周波数を含む所定範囲の各周波数の振幅を前記基本周波数の振幅で除した値の和である方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るパルスアーク溶接の欠陥検知装置および欠陥検知方法によると、高精度に溶接欠陥を検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施の形態に係るパルスアーク溶接の欠陥検知装置を具備するパルスアーク溶接設備の概略構成図である。
【
図2】同欠陥検知装置の溶接電流検出部で検出される溶接電流の時間における変動を示すグラフである。
【
図3】パルスアーク溶接が安定している場合のフーリエ変換部で得られるパワースペクトルを示すグラフである。
【
図4】パルスアーク溶接が不安定である場合のフーリエ変換部で得られるパワースペクトルを示すグラフである。
【
図5】本発明の実施の形態に係るパルスアーク溶接の欠陥検知方法を示すフローチャートである。
【
図6】本発明の実施例に係るパルスアーク溶接の欠陥検知装置の概略構成図である。
【
図7】同欠陥検知装置での実測値(溶接欠陥指標値、時間平均および短絡の発生)を示すグラフである。
【
図8】
図7よりも多く抽出した実測値(溶接欠陥指標値、時間平均、短絡の発生)を示し、しきい値を固定値としたグラフである。
【
図9】
図8と同一の実測値(溶接欠陥指標値、時間平均、短絡の発生)を示し、しきい値を時間平均にオフセット値を加えた値としたグラフである。
【
図10】同欠陥検知装置を使用する方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態に係るパルスアーク溶接の欠陥検知装置について図面に基づき説明する。
【0016】
まず、前記パルスアーク溶接の欠陥検知装置(以下、単に欠陥検知装置と称する)を具備するパルスアーク溶接設備、すなわち、パルスアーク溶接を施工するとともに当該パルスアーク溶接の欠陥を欠陥検知装置で検知する設備について説明する。
【0017】
図1に示すように、前記パルスアーク溶接設備1は、母材Bに溶接ワイヤWの先端部からアークAを発生させることによりパルスアーク溶接を施工する溶接トーチ2と、この溶接トーチ2に溶接ワイヤWを送給する送給装置3と、前記溶接ワイヤWを引出可能に巻き付けたワイヤリール4と具備する。また、前記パルスアーク溶接設備1は、前記アークAの周囲に溶接トーチ2からシールドガスGを供給させるシールドガス供給装置5と、このシールドガス供給装置5から溶接トーチ2にシールドガスGを送るガスホース6とを具備する。さらに、前記パルスアーク溶接設備1は、前記溶接トーチ2および母材Bにパルス状の電力を供給する溶接電源7と、この溶接電源7と溶接トーチ2および母材Bとをそれぞれ電気的に接続する溶接ケーブル8とを具備する。加えて、前記パルスアーク溶接設備1は、前記溶接電源7と母材Bとを電気的に接続する溶接ケーブル8に設けられた欠陥検知装置9を具備する。
【0018】
以下、前記欠陥検知装置9の構成について詳細に説明する。
【0019】
図1に示すように、前記欠陥検知装置9は、溶接電流検出部10、フーリエ変換部20、指標値算出部30および警告部40を有する。
【0020】
前記溶接電流検出部10は、前記溶接電源7と母材Bとを電気的に接続する溶接ケーブル8に設けられて、パルスアーク溶接の溶接電流を検出する。検出された溶接電流の時間における変動を
図2に示す。
図2に示すグラフでは、横軸が時間であり、縦軸が電流である。このグラフから明らかなように、パルスアーク溶接の溶接電流は、高い電流のピーク電流Ipと、低い電流のベース電流Ibとが周期的に現れる。
【0021】
前記フーリエ変換部20は、前記溶接電流検出部10で検出された所定時間の溶接電流をフーリエ変換することで、
図3または
図4に示すようなパワースペクトルを得る。前記所定時間は、前記溶接電流の周期が複数回以上含まれる時間であればよく、例えば1秒間である。前記パルスアーク溶接が安定していれば、前記溶接電流検出部10で検出される溶接電流の周波数は、殆どが基本周波数になるので、
図3に示すように、得られたパワースペクトルでは基本周波数fo(振幅が最大)が支配的となる。一方で、前記パルスアーク溶接が不安定であれば、前記溶接電流検出部10で検出される溶接電流の周波数は、基本周波数foに加えて他の周波数も混じるので、
図4に示すように、得られたパワースペクトルでは基本周波数fo(振幅が最大)以外の成分も顕著に現れる。すなわち、前記パルスアーク溶接が不安定であれば、所定範囲において基本周波数foの周辺の周波数がノイズとなるので、得られるパワースペクトルが乱れることになる。
【0022】
前記指標値算出部30は、前記フーリエ変換部20で得られたパワースペクトルにおいて振幅が最大となる周波数を基本周波数foとする。
図3および
図4に示す例では、それぞれ最も大きい振幅h1,h2が見られた周波数foを基本周波数foとする。そして、前記指標値算出部30は、この基本周波数foを含む所定範囲の周波数で各振幅の部分和を算出する。この算出のための式は、前記部分和をPfoと表示し、周波数fの振幅をp(f)と表示し、前記所定範囲をa~bと表示した場合、次の式(1)で表される。
【数1】
【0023】
さらに、前記指標値算出部30は、前記式(1)で算出された部分和を、基本周波数foの振幅h1,h2で除する(つまり規格化する)ことにより、溶接欠陥指標値を算出する。この規格化により、前記溶接欠陥指標値は、基本周波数の振幅に対する他の周波数群(但し所定範囲の周波数)の各振幅の足し込みとなるので、溶接欠陥の指標として適切な値になる。なお、前記規格化には、前述したような部分和を算出してから基本周波数foの振幅h1,h2で除する場合も、部分和を算出する前に所定範囲における各周波数の振幅を基本周波数foの振幅h1,h2で除する場合も含まれる。
【0024】
ここで、前記式(1)において、前記所定範囲a~bは、前記基本周波数foを含む(a≦fo≦b)のであれば特に限定されないが、基本周波数foを中心にしていることが好ましく、言い換えれば、上限(b)と下限(a)の中間に基本周波数foが位置する[fo=(a+b)/2]ことが好ましい。さらに、前記所定範囲a~bは、基本周波数foの0.5倍以上1.5倍以下(a=0.5fo,b=1.5fo)であることが好ましい。なぜなら、このような所定範囲であることにより、算出される溶接欠陥指標値がパワースペクトルの乱れを適切に反映するからである。
【0025】
なお、前記指標値算出部30は、溶接欠陥指標値を算出するのに、必ずしも前記式(1)で部分和を算出する必要はない。例えば、前記指標値算出部30は、前記部分和の代わりに、前記所定範囲の周波数のうち溶接欠陥の指標として大きな影響を与えない周波数を除去し、除去されなかった周波数の振幅のみの和を採用してもよい。ここで、除去される周波数は、例えば、振幅基準値を別途設定し、この振幅基準値以下となる周波数である。
【0026】
前記警告部40は、前記指標値算出部30で算出された溶接欠陥指標値がしきい値以上であれば警告する。前記しきい値は、予め設定された固定値でもよく、前記パルスアーク溶接の施工中に適宜設定される値でもよく、前記パルスアーク溶接の状態に基づいて算出される値でもよい。
【0027】
以下、前記パルスアーク溶接およびその欠陥検知方法について説明する。このパルスアーク溶接の欠陥検知方法は、以下に説明する方法であれば、前記欠陥検知装置9を使用する方法に限られない。
【0028】
まず、
図1に示すように、前記ワイヤリール4から溶接ワイヤWが送給装置3を介して溶接トーチ2に送給されながら、前記溶接電源7からパルス状の電力が溶接トーチ2および母材Bに供給されるとともに、前記シールドガス供給装置5からシールドガスGがガスホース6を介して溶接トーチ2に供給される。これにより、前記溶接ワイヤWの先端部からアークAが母材Bに向けて発生し、このアークAがシールドガスGで保護される。すなわち、前記母材Bにパルスアーク溶接が施工される。この溶接電流の欠陥が、以下に説明するパルスアーク溶接の欠陥検知方法により検知される。
【0029】
前記パルスアーク溶接の欠陥検知方法は、パルスアーク溶接の溶接電流を検出する溶接電流検出工程と、前記溶接電流検出工程で検出された所定時間の溶接電流をフーリエ変換することにより、パワースペクトルを得るフーリエ変換工程とを備える。また、前記パルスアーク溶接の欠陥検知方法は、前記フーリエ変換工程で得られたパワースペクトルにおいて振幅が最大となる周波数を基本周波数とし、この基本周波数を含む所定範囲の周波数の振幅の和を前記基本周波数の振幅で規格化したものである溶接欠陥指標値を算出する指標値算出工程を備える。さらに、前記パルスアーク溶接の欠陥検知方法は、前記指標値算出工程で算出された溶接欠陥指標値がしきい値以上であれば警告する警告工程を備える。なお、前記指標値算出工程は、前記フーリエ変換工程で得られたパワースペクトルにおいて振幅が最大となる周波数を基本周波数とし、この基本周波数を含む所定範囲の周波数で各振幅の部分和を算出し、当該部分和を基本周波数の振幅で除することにより溶接欠陥指標値を算出する工程でもよい。
【0030】
前記パルスアーク溶接の欠陥検知方法の各工程を
図5に示すフローチャートに基づいて説明する。
【0031】
まず、前記溶接電流検出部10などにより、前記溶接電流検出工程として、パルスアーク溶接の溶接電流が検出される(S10)。次に、前記フーリエ変換部20などにより、前記フーリエ変換工程として、前記溶接電流検出工程で検出された所定時間の溶接電流をフーリエ変換することで、パワースペクトルが得られる(S20)。その後、前記指標値算出部30などにより、前記指標値算出工程として、前記フーリエ変換工程で得られたパワースペクトルにおいて振幅が最大となる周波数が基本周波数とされ(S31)、この基本周波数を含む所定範囲の周波数で振幅の和が算出され(S32)、当該和を基本周波数の振幅で除することで溶接欠陥指標値が算出される(S33)。そして、前記警告部40などにより、前記警告工程として、前記指標値算出工程で算出された溶接欠陥指標値がしきい値以上であれば(S41)、警告する(S42)。
【0032】
このように、前記パルスアーク溶接の欠陥検知装置9および欠陥検知方法によると、パルスアーク溶接の溶接電流をフーリエ変換したパワースペクトルの乱れに基づいて溶接欠陥を検知するので、高精度に溶接欠陥を検知することができる。
【実施例】
【0033】
以下、前記実施の形態をより具体的に示した実施例に係る欠陥検知装置9について、
図6に基づき説明する。本実施例では、前記実施の形態とは異なる構成に着目して説明するとともに、前記実施の形態と同一の構成については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0034】
図6では、説明を簡単にするために、本実施例に係るパルスアーク溶接設備1が具備する構成として、本実施例に係る欠陥検知装置9、溶接電源7、溶接トーチ2、当該溶接トーチ2および母材Bと溶接電源7とをそれぞれ電気的に接続する溶接ケーブル8のみを示し、これら以外の構成を省略する。
図6に示すように、本実施例に係る欠陥検知装置9は、前記実施の形態で説明した溶接電流検出部10、フーリエ変換部20、指標値算出部30および警告部40の他に、第1メモリ71、第2メモリ72、時間平均算出部73、しきい値設定部74、欠陥判断部50および表示部60を備える。以下、これらの構成について順に説明する。
【0035】
前記溶接電流検出部10は、溶接電流を電圧値に変換するシャント抵抗器またはクランプメータなどの電流センサ11と、この電流センサ11で変換された電圧値を増幅する前置増幅器12とを有する。また、前記溶接電流検出部10は、前記前置増幅器12で増幅された電圧値の高域を遮断する低域通過フィルタ13と、この低域通過フィルタ13を通過した値をAD変換するAD変換器14とを有する。さらに、前記溶接電流検出部10は、前記AD変換器14でAD変換された値であるAD変換値を第1メモリ71に格納するとともに、このAD変換値が実際の溶接電流であると判別すればフーリエ変換部20を作動させるコントローラ15を有する。
【0036】
前記フーリエ変換部20は、前記コントローラ15により作動されると、所定時間の溶接電流をフーリエ変換することで、パワースペクトルを得る。このパワースペクトルを得るためのフーリエ変換は、処理時間を短縮するためにも、高速フーリエ変換であることが好ましい。
【0037】
前記指標値算出部30は、基本周波数選定ユニット31、部分和算出ユニット32および規格化ユニット33を有する。前記基本周波数選定ユニット31は、振幅が最大となる周波数を選定し、この周波数を基本周波数とする。前記部分和算出ユニット32は、前記式(1)により、前記所定範囲の周波数で各振幅の部分和を算出する。前記規格化ユニット33は、前記部分和算出ユニット32で算出された部分和を基本周波数の振幅で除することで溶接欠陥指標値を算出する。前記規格化ユニット33で算出された溶接欠陥指標値は、所定時間ごとに第2メモリ72に格納されるとともに、警告部40に送信される。なお、第1メモリ71および第2メモリ72は、それぞれ異なる種類の値を格納するので異なる構成として説明したが、同一のメモリでもよい。
【0038】
前記時間平均算出部73は、前記第2メモリ72に格納された所定時間ごとの溶接欠陥指標値から、それらの時間平均を算出する。この時間平均を算出するのに使用される溶接欠陥指標値は、対象とする所定時間を含む連続した前後の4点(合計5点)、または、対象とする所定時間を含む連続した前の4~6点(合計5~7点)であることが好ましい。これにより、処理時間を短縮すること、および、高精度で溶接欠陥を検知することが両立するからである。
【0039】
前記しきい値設定部74は、前記溶接欠陥指標値と比較するしきい値を設定する。設定されるしきい値は、外部から入力されたそのままの値(固定値)でもよいが、高精度に溶接欠陥を検知するためにも、前記時間平均算出部73で算出された時間平均に外部から入力された所定値(オフセット値)を加えた値とすることが好ましい。なお、所定値(オフセット値)は、過去の、前記第2メモリ72に格納された所定時間ごとの溶接欠陥指標値と、溶接欠陥が発生したと判断された位置とに基づいて設定されてもよい。具体的には、過去に溶接欠陥が発生したと判断された位置において、過去の溶接欠陥指標値が、過去の溶接欠陥指標値の時間平均に所定値(オフセット値)を加えた値以上になるように、当該所定値(オフセット値)が外部から作業者により設定される。
【0040】
前記警告部40は、前記規格化ユニット33から溶接欠陥指標値が入力されるとともに、前記しきい値設定部74から設定されたしきい値が入力されて、溶接欠陥指標値がしきい値以上であれば警告する。勿論、前記警告部40は、溶接欠陥指標値がしきい値を超えれば警告するものでもよい。
【0041】
前記欠陥判断部50は、前記警告部40で複数回連続して警告されると、溶接欠陥が発生したと判断する。この複数回は、2回以上であれば特に制限されないが、溶接欠陥の検知漏れを少なくするためにも、2回または3回であることが好ましい。
【0042】
前記表示部60は、前記溶接電流検出部10で溶接電流が検出されなくなった(パルスアーク溶接が中断された)際に、前記欠陥判断部50で判断された溶接欠陥についての情報を、溶接結果として表示する。この溶接結果は、単に溶接欠陥の有無でもよいが、溶接ビードにおける溶接欠陥の位置まで表示させることが好ましい。この表示の形式としては、例えば、溶接ビードにおける溶接欠陥の位置をパーセント(溶接ビードの始点を0パーセントとし、終点を100パーセントとする)で表示する。この表示の形式における溶接欠陥の位置は、パルスアーク溶接の開始および終了の時間と、当該パルスアーク溶接の速度と、前記欠陥判断部50で溶接欠陥と判断された時間とに基づいて算出される。
【0043】
ここで、前記欠陥検知装置9での実測値のグラフを
図7~
図9に示す。
図7~
図9では、いずれも、所定時間ごとの溶接欠陥指標値を実線で示し、その対象とする所定時間を含む連続した前後の4点の時間平均を破線で示し、溶接欠陥の原因となる短絡の発生量を棒グラフで示す。
【0044】
図7に示すように、溶接欠陥指標値および時間平均は、短絡の発生があった時に、高くなる傾向が見られた。短絡の発生は、ブローホールを誘発するので、溶接欠陥の原因となる。すなわち、溶接欠陥指標値および時間平均は、溶接欠陥の指標とするのに適した値であると言える。また、
図8および
図9は、
図7よりも多くの実測値を抽出したグラフであり、仮想線で示すしきい値のみが異なる。当該しきい値は、
図8では固定値としたのに対し、
図9では時間平均に所定値(オフセット値)を加えた値とした。
図8および
図9に示すように、溶接欠陥指標値がしきい値以上になった時と、短絡の発生があった時とがよく対応している。このため、溶接欠陥指標値がしきい値以上であれば警告することにより、高精度に溶接欠陥を検知することができると言える。特に、
図9に示すしきい値を使用することにより、溶接欠陥指標値がしきい値以上になった時と、短絡の発生があった時とが極めてよく対応しているので、一層高精度に溶接欠陥を検知することができると言える。
【0045】
以下、本実施例に係る欠陥検知装置9を使用する方法について、
図10に示すフローチャートに基づいて説明する。
【0046】
まず、前記溶接電流検出部10により溶接電流が検出されると(S10)、第1メモリ71に格納された溶接電流を所定時間の分においてフーリエ変換することで、パワースペクトルが得られる(S20)。その後、前記基本周波数選定ユニット31により、パワースペクトルにおいて振幅が最大となる周波数が基本周波数とされる(S31)。次いで、前記部分和算出ユニット32により、前記基本周波数を含む所定範囲の周波数で各振幅の部分和が算出される(S32)。さらに、前記規格化ユニット33により、前記部分和を基本周波数の振幅で除することで溶接欠陥指標値が算出される(S33)。そして、前記警告部40により、前記溶接欠陥指標値がしきい値以上であれば(S41)、警告する(S42)。この警告が複数回連続であれば(S51)、前記欠陥判断部50により、溶接欠陥が発生したと判断される(S52)。
【0047】
溶接欠陥指標値がしきい値未満の場合(S41)、警告が複数回連続しなかった場合(S51)、または、溶接欠陥が発生したと判断された場合(S52)は、再び、前記溶接電流検出部10により溶接電流が検出されるか否かのフロー(S10)に戻る。そして、前記溶接電流検出部10により溶接電流が検出されなくなった際に、つまり、パルスアーク溶接が中断された際に、前記表示部60により、溶接結果が表示される(S60)。
【0048】
このように、本実施例に係るパルスアーク溶接の欠陥検知装置9によると、前記実施の形態に係る欠陥検知装置9の効果を奏するとともに、前記欠陥判断部50で溶接欠陥が判断されることにより、一層高精度に溶接欠陥を検知することができる。
【0049】
ところで、前記実施の形態および実施例では、前記パワースペクトルの乱れを知る溶接欠陥指標値として、前記部分和を規格化した値を使用したが、前記パワースペクトルの分散または尖度などの統計手法を使用してもよい。
【0050】
また、前記実施の形態および実施例では、全ての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は、上述した説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。前記実施の形態で説明した構成のうち「課題を解決するための手段」での第1または第6の発明として記載した構成以外については、任意の構成であり、適宜削除および変更することが可能である。
【符号の説明】
【0051】
1 パルスアーク溶接設備
2 溶接トーチ
3 送給装置
4 ワイヤリール
5 シールドガス供給装置
6 ガスホース
7 溶接電源
8 溶接ケーブル
9 欠陥検知装置
10 溶接電流検出部
20 フーリエ変換部
30 指標値算出部
40 警告部