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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-17
(45)【発行日】2024-04-25
(54)【発明の名称】フィルタリング装置
(51)【国際特許分類】
   H04R 3/00 20060101AFI20240418BHJP
   G10L 21/0208 20130101ALI20240418BHJP
【FI】
H04R3/00 320
G10L21/0208 100B
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020055666
(22)【出願日】2020-03-26
(65)【公開番号】P2021158481
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】池田 健悟
【審査官】菊池 智紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-328320(JP,A)
【文献】特開平10-149187(JP,A)
【文献】特開平11-308329(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 3/00-3/14
G10L 21/02-21/0364
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環境音を含めた収録対象音声の音声信号を周波数分解する周波数分解部と、
周波数分解された前記音声信号からf1<f2となるような閾値周波数f1、f2を演算する閾値周波数演算部と、
前記閾値周波数f1、f2に基づいて、周波数分解された前記音声信号から前記環境音の音声信号を抽出する抽出部と、
収録対象音声を含まない環境音のみの音声信号を取得するサンプリング部と、
前記サンプリング部が予め取得しておいた環境音の音声信号と前記抽出部が抽出した音声信号とに基づいて、平均的な環境音の音声信号を演算する時間平均部と、
前記時間平均部が演算した音声信号と予め設定しておいた音声レベルの閾値とに基づいて、fch<fclとなるようなカットオフ周波数fch、fclを演算するカットオフ周波数演算部と、
周波数分解された前記音声信号を、前記カットオフ周波数fch、fclに基づいてフィルタリングするフィルタ部と、
を備え
前記閾値周波数演算部は、
周波数分解された前記音声信号において、音声レベルの最大値V max と、この時の周波数f max とを検出する第1の検出部と、
前記V max の半分の音声レベルV half を演算する第1の演算部と、
周波数分解された前記音声信号において、前記V half に対応する周波数f half を検出する第2の検出部と、
前記f half のうち、前記f max よりも低い周波数の1つを前記閾値周波数f 1 とし、前記f max よりも高い周波数の1つを前記閾値周波数f 2 とする第2の演算部と、
を備え、
前記カットオフ周波数演算部は、平均的な環境音の波形と音声レベルの閾値V THR との交点に対して、f ch ≦f 1 かつf 2 ≦f cl を満たすようなカットオフ周波数f ch 、f cl を演算するフィルタリング装置。
【請求項2】
前記カットオフ周波数演算部は、
前記カットオフ周波数fch、fclがfch≦f1かつf2≦fclを満たすか判定し、
満たさない場合には、fch≦f1かつf2≦fclを満たすようなカットオフ周波数fch、fclを再度演算し、
前記フィルタ部は、
前記fch≦f1かつf2≦fclを満たすようなカットオフ周波数fch、fclに基づいてフィルタリングを行う、
請求項1に記載のフィルタリング装置。
【請求項3】
前記第2の演算部は、
前記fhalfのうち、前記fmaxよりも低くかつ前記fmaxに最も近いものを前記閾値周波数f1とし、前記fmaxよりも高くかつ前記fmaxに最も近いものを前記閾値周波数f2とする、
請求項1または2に記載のフィルタリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境音の周波数が変化しても適切にフィルタリングを行うことのできるフィルタリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スタジオなどで収録した音声には、収録対象となる演者の声などの音声だけでなく、それ以外の環境音も含まれている。このような環境音は、収録対象となる音声に対してノイズとなるおそれがある。そこで、従来技術として、この収録した音声から環境音をフィルタリングする技術が知られている。
【0003】
環境音をフィルタリングする場合、カットオフ周波数を設定する必要がある。このカットオフ周波数を閾値として、この閾値よりも低周波または高周波の音声をフィルタリングすることができる。すなわち、予め想定される環境音に基づいてカットオフ周波数を設定することにより、環境音をフィルタリングすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-141679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、環境音は時間経過に伴い変化する。一方で、カットオフ周波数は一度設定すると手動で再度設定しない限り変化しないので、変化した環境音についてはフィルタリングできないおそれがあった。
【0006】
本発明は、上記課題を解決すべく環境音が変化しても適切にフィルタリングを行うことのできるフィルタリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のフィルタリング装置は、次のような構成を備える。
(1)環境音を含めた収録対象音声の音声信号を周波数分解する周波数分解部。
(2)周波数分解された前記音声信号からf1<f2となるような閾値周波数f1、f2を演算する閾値周波数演算部。
(3)前記閾値周波数f1、f2に基づいて、周波数分解された前記音声信号から前記環境音の音声信号を抽出する抽出部。
(4)収録対象音声を含まない環境音のみの音声信号を取得するサンプリング部。
前記サンプリング部が予め取得しておいた環境音の音声信号と前記抽出部が抽出した音声信号とに基づいて、平均的な環境音の音声信号を演算する時間平均部。
)前記時間平均部が演算した音声信号と予め設定しておいた音声レベルの閾値とに基づいて、fch<fclとなるようなカットオフ周波数fch、fclを演算するカットオフ周波数演算部。
)周波数分解された前記音声信号を、前記カットオフ周波数fch、fclに基づいてフィルタリングするフィルタ部。
(8)前記閾値周波数演算部は、周波数分解された前記音声信号において、音声レベルの最大値V max と、この時の周波数f max とを検出する第1の検出部と、前記V max の半分の音声レベルV half を演算する第1の演算部と、周波数分解された前記音声信号において、前記V half に対応する周波数f half を検出する第2の検出部と、前記f half のうち、前記f max よりも低い周波数の1つを前記閾値周波数f 1 とし、前記f max よりも高い周波数の1つを前記閾値周波数f 2 とする第2の演算部と、を備える。
(9)前記カットオフ周波数演算部は、平均的な環境音の波形と音声レベルの閾値V THR との交点に対して、f ch ≦f 1 かつf 2 ≦f cl を満たすようなカットオフ周波数f ch 、f cl を演算する。

【0008】
本発明のフィルタリング装置は、更に次のような構成を備えてもよい。
(1)前記カットオフ周波数演算部は、前記カットオフ周波数fch、fclがfch≦f1かつf2≦fclを満たすか判定し、満たさない場合には、fch≦f1かつf2≦fclを満たすようなカットオフ周波数fch、fclを再度演算し、前記フィルタ部は、前記fch≦f1かつf2≦fclを満たすようなカットオフ周波数fch、fclに基づいてフィルタリングを行う
(2)前記第2の演算部は、前記fhalfのうち、前記fmaxよりも低くかつ前記fmaxに最も近いものを前記閾値周波数f1とし、前記fmaxよりも高くかつ前記fmaxに最も近いも
のを前記閾値周波数f2とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のフィルタリング装置は、環境音が変化しても適切にフィルタリングを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係るフィルタリング装置の機能ブロック図。
図2】実施形態に係る音声信号の周波数分解を示す図。
図3】実施形態に係る周波数分解した音声信号とカットオフ周波数の関係を示す図。
図4】実施形態に係る周波数分解した音声信号とカットオフ周波数の関係を示す図。
図5】実施形態に係るフィルタリング装置の作用を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[実施形態]
[構成]
図1に示すように、本実施形態のフィルタリング装置1は、マイクロフォン2及び音声調整卓3に接続されている。マイクロフォン2は、環境音や収録対象である音声(以下、収録対象音声ともいう。)を集音する。環境音は、収録対象音声に対してノイズとなるような収録対象音声以外の音声である。また、本実施形態における環境音の音声レベルの最大値は、収録対象音声の音声レベルの最大値よりも低いものとする。音声調整卓3は、マイクロフォン2が集音した音声の音声レベルを表示する表示部31と、フィルタリング対象となる環境音の音声レベルの閾値VTHRを設定する操作部32と、を備える。
【0012】
フィルタリング装置1は、受信部11と、周波数分解部12と、閾値周波数演算部14と、抽出部15と、サンプリング部16と、時間平均部17と、カットオフ周波数演算部18と、フィルタ部19と、を備える。閾値周波数演算部14は、第1及び第2の検出部131、132と、第1及び第2の演算部141、142と、を備える。
【0013】
受信部11は、マイクロフォン2に接続され、マイクロフォン2が集音した音声を音声信号として取得する。また、受信部11は、音声調整卓3に接続され、マイクロフォン2が集音した音声を表示部31へと出力する。表示部31は、例えば液晶や有機EL等により構成され、マイクロフォン2が集音した音声の音声レベルを数値やグラフで表示する。
【0014】
周波数分解部12は、受信部11の後段に設けられ、受信部11が受信した音声信号を周波数分解する(図2参照)。周波数分解には、例えば下記式に基づく離散フーリエ変換や高速フーリエ変換を用いることができる。下記式において、tは時間であり、fは周波数である。周波数分解部12は、この周波数分解した音声信号を、閾値周波数演算部14の第1の検出部131、抽出部15、サンプリング部16、フィルタ部19にそれぞれ出力する。
【数1】
【0015】
第1の検出部131は、周波数分解部12の後段に設けられ、周波数分解部12が周波数分解した音声信号において、音声レベルの最大値Vmax及びこの時の周波数fmaxを検出する。第1の検出部131は、Vmaxを第1の演算部141へ出力し、fmaxを第2の演算部142へと出力する。第1の演算部141は、第1の検出部131の後段に設けられ、音声レベルの最大値Vmaxの半分の音声レベルであるVhalfを演算する。第2の検出部132は、第1の演算部141の後段に設けられ、周波数分解部12が周波数分解した音声信号において、音声レベルがVhalfとなる時の周波数fhalfを検出する。fhalfの数は周波数分解後の波形によって変わるが、少なくとも2つ以上存在する。第2の演算部142は、第1の検出部131及び第2の検出部132の後段に設けられる。第2の演算部142は、fmaxよりも低周波側の周波数fhalfの1つを閾値周波数f1とし、fmaxよりも高周波側の周波数fhalfの1つを閾値周波数f2とする。すなわち、f1、f2はf1<f2を満たす。また、この選択には種々の方法が用いられるが、本実施形態では、周波数fhalfのうち、fmaxより低い周波数であってfmaxに最も近いものを閾値周波数f1、fmaxより高い周波数であってfmaxに最も近いものを閾値周波数f2とする。第2の演算部142は、この閾値周波数f1、f2を、抽出部15及びカットオフ周波数演算部18にそれぞれ出力する。
【0016】
抽出部15は、周波数分解部12及び第2の演算部142の後段に設けられ、周波数分解部12が周波数分解した音声信号から、環境音の音声信号を分離して抽出する。より詳細には、周波数分解部12が周波数分解した音声信号から、第2の演算部142が演算した閾値周波数f1、f2に基づいて、閾値周波数f1未満及び閾値周波数f2超の音声信号を抽出する。すなわち、抽出部15は、周波数分解部12が周波数分解した音声信号から、収録対象音声の成分を大幅に除去し、環境音の成分を多く残した音声信号を抽出する。
【0017】
サンプリング部16は、周波数分解部12の後段に設けられ、周波数分解部12が周波数分解した音声信号を取得する。この取得は、収録前に予め行われる。すなわち、サンプリング部16が取得する音声信号は、収録対象音声を含まない環境音のみの音声信号である。また、サンプリング部16は、周波数分解部12が周波数分解した音声信号を所定の時間ごとに所定の回数取得する。
【0018】
時間平均部17は、抽出部15及びサンプリング部16の後段に設けられ、抽出部15が抽出した音声信号とサンプリング部16が取得した複数の音声信号の時間平均を演算する。いわば、時間平均部17は、演者の音声と共に収録される環境音の変化を考慮した上で、平均的な環境音を演算している。なお、抽出部15が抽出した音声信号は、閾値周波数f1未満及び閾値周波数f2超の部分のみなので、時間平均の演算ではこのことを考慮する必要がある。換言すれば、閾値周波数f1未満及び閾値周波数f2超の部分においては抽出部15が抽出した音声信号とサンプリング部16が取得した複数の音声信号との時間平均を取るが、閾値周波数f1以上及び閾値周波数f2以下の部分においてはサンプリング部16が取得した複数の音声信号のみで時間平均を取る。
【0019】
カットオフ周波数演算部18は、第2の演算部142及び時間平均部17の後段に設けられ、かつ音声調整卓3に接続されている。カットオフ周波数演算部18は、以下に述べるように、カットオフ周波数fch、fclそのものを演算する演算部と、演算されたカットオフ周波数fch、fclの適否を判定する判定部とを有する。
【0020】
カットオフ周波数演算部18は、まず、時間平均部17が演算した平均的な環境音と、音声調整卓3の操作部32から入力された閾値VTHRとに基づいて、フィルタリングを行う周波数を定めるカットオフ周波数fch、fclを演算する。閾値VTHRは、音声調整卓3の操作部32により予め設定される音声レベルの閾値である。閾値VTHRの設定は、例えばマイクロフォン2が環境音のみを収音している間に表示部31に表示される音声レベルの情報を参考にしながら行われても良い。カットオフ周波数fchは、ハイパスフィルターとして機能するための周波数であり、カットオフ周波数fclは、ローパスフィルターとして機能するための周波数である。すなわち、2つのカットオフ周波数fch、fclは、fch<fclを満たす。カットオフ周波数fch、fclの求め方には種々の方法を適用できるが、例えば、平均的な環境音の波形と音声レベルの閾値VTHRとの交点に対して、所定のプログラムに従って優先順位を定め、この優先順位が高い交点をカットオフ周波数fch、fclとするといった方法を適用することができる。この優先順位は、例えば、平均的な環境音の波形と音声レベルの閾値VTHRとの交点のうち、予め定めておいた周波数を境とした時の低周波側と高周波側とでそれぞれ、この予め定めておいた周波数に近い順に定められても良い。この予め定めておいた周波数は、例えば、収録対象音声を予め計測しておき、この収録対象音声の音声レベルが最大値を取るような周波数である。
【0021】
カットオフ周波数演算部18は、次に、先に演算したカットオフ周波数fch、fclと、第2の演算部142が演算した閾値周波数f1、f2とをそれぞれ比較する。例えば、図3に示すように、fch≦f1かつf2≦fclを満たすとき、カットオフ周波数演算部18は、カットオフ周波数fch、fclをフィルタ部19に出力する。一方、図4に示すように、fcl<f2よりfch≦f1かつf2≦fclを満たさないとき、このままフィルタリングを行うと周波数fmaxに対応する音声レベルの最大値Vmaxが、すなわち収録対象音声がカットされてしまう。そこで、カットオフ周波数演算部18は、fch≦f1かつf2≦fclを満たすように、上述の所定のプログラムに従ってカットオフ周波数fch、fclを再度演算する。このようにして、カットオフ周波数演算部18は、fch≦f1かつf2≦fclを満たすようなカットオフ周波数fch、fclを演算する。
【0022】
フィルタ部19は、カットオフ周波数演算部18の後段に設けられる。フィルタ部19は、周波数分解部12が周波数分解した音声信号に対して、カットオフ周波数演算部18が演算したカットオフ周波数fch、fclに基づいてフィルタリングを行い、収録対象音声を録音する録音装置などの外部機器へと出力する。
【0023】
[作用]
本実施形態におけるフィルタリング装置1の作用について、図5のフローチャートを参照しつつ説明する。
【0024】
前提として、予めマイクロフォン2に環境音のみを一定時間集音させておく。音声調整卓3の操作部32において、好適には表示部31に表示されるこの環境音の音声レベルの変化を参考にしながら、予め音声レベルの閾値VTHRが設定される(ステップS01)。集音した環境音は、受信部11及び周波数分解部12を介してサンプリング部16へと出力される。周波数分解部12は、所定の時間ごとにこの環境音を周波数分解し、サンプリング部16へと出力する。換言すると、サンプリング部16は、所定の時間ごとに、周波数分解された環境音を取得する。サンプリング部16は、このようにして環境音の音声信号を所定の回数取得し、時間平均部17へと出力する(ステップS02)。
【0025】
ステップS02の後、マイクロフォン2に収録対象音声を集音させる。この時、収録対象音声だけでなく、環境音も集音される。受信部11は、この収録対象音声及び環境音の音声信号を周波数分解部12へと出力する。周波数分解部12は、この音声信号を周波数分解し、第1の検出部131、抽出部15、フィルタ部19へとそれぞれ出力する(ステップS03)。
【0026】
第1の検出部131は、周波数分解部12が周波数分解した音声信号において、音声レベルの最大値Vmax及びこの時の周波数fmaxを検出する(ステップS04)。第1の検出部131は、Vmaxを第1の演算部141へ出力し、fmaxを第2の演算部142へと出力する。第1の演算部141は、最大値Vmaxの半分の音声レベルとなるようなVhalfを演算し、第2の検出部132へ出力する。第2の検出部132は、周波数分解部12が周波数分解した音声信号において、Vhalfをとるような周波数fhalfを検出し、第2の演算部142へと出力する(ステップS05)。第2の演算部142は、Vhalfに対応する周波数fhalfのうち、fmaxより低い周波数であってfmaxに最も近いものを閾値周波数f1、fmaxより高い周波数であってfmaxに最も近いものを閾値周波数f2とする(ステップS06)。第2の演算部142は、閾値周波数f1、f2を抽出部15及びカットオフ周波数演算部18へと出力する。
【0027】
抽出部15は、周波数分解部12が周波数分解した音声信号から、第2の演算部142が演算した閾値周波数f1、f2に基づいて、閾値周波数f1未満及び閾値周波数f2超の音声信号を抽出し、時間平均部17へと出力する(ステップS07)。次に、時間平均部17は、上記ステップS02においてサンプリング部16が取得した環境音の音声信号と、抽出部15が抽出した音声信号との時間平均を取り、平均的な環境音を演算する(ステップS08)。
【0028】
カットオフ周波数演算部18は、まず、ステップS07において時間平均部17が演算した平均的な環境音と、操作部32において予め設定されている音声レベルの閾値VTHRとに基づいて、フィルタリングを行う周波数を定めるカットオフ周波数fch、fclを演算する(ステップS09)。
【0029】
カットオフ周波数演算部18は、次に、先に演算したカットオフ周波数fch、fclと、第2の演算部142が演算した閾値周波数f1、f2とをそれぞれ比較する。例えば、図3に示すように、fch≦f1かつf2≦fclを満たすとき、カットオフ周波数演算部18は、カットオフ周波数fch、fclをフィルタ部19に出力する(ステップS10のYES)。一方、図4に示すように、fcl<f2よりfch≦f1かつf2≦fclを満たさないとき、このままフィルタリングを行うと周波数fmaxに対応する音声レベルの最大値Vmaxが、すなわち収録対象音声がカットされてしまう。そこで、カットオフ周波数演算部18は、fch≦f1かつf2≦fclを満たすように、上述の所定のプログラムに従ってカットオフ周波数fch、fclを再度演算する(ステップS10のNO、ステップS09)。このようにして、カットオフ周波数演算部18は、fch≦f1かつf2≦fclを満たすようなカットオフ周波数fch、fclを演算する。フィルタ部19は、周波数分解部12から入力された音声信号に対して、このカットオフ周波数fch、fclに基づいてフィルタリングを行う(ステップS11)。
【0030】
[効果]
(1)本実施形態のフィルタリング装置1は、環境音を含めた収録対象音声の音声信号を周波数分解する周波数分解部12と、この周波数分解された音声信号から閾値周波数f1、f2を演算する閾値周波数演算部14と、閾値周波数f1、f2に基づいて、周波数分解された音声信号から環境音の音声信号を抽出する抽出部15と、予め取得しておいた環境音の音声信号と抽出部15が抽出した音声信号とに基づいて、平均的な環境音の音声信号を演算する時間平均部17と、時間平均部17が演算した音声信号と予め設定しておいた音声レベルの閾値VTHRとに基づいて、fch<fclとなるようなカットオフ周波数fch、fclを演算するカットオフ周波数演算部18と、周波数分解された音声信号を、カットオフ周波数fch、fclに基づいてフィルタリングするフィルタ部19と、を備える。これにより、時間経過に伴い環境音が変化しても、収録対象音声と共に収録されたこの変化した環境音を反映させた上でフィルタリングを行うことが出来る。換言すれば、変化した環境音を追従してフィルタリングすることが出来る。
【0031】
(2)本実施形態のカットオフ周波数演算部18は、閾値周波数f1、f2と比較することによって適宜カットオフ周波数fch、fclを再度演算する。これにより、カットオフ周波数fch、fclによって収録対象音声までフィルタリングされてしまうおそれを低減することができる。
【0032】
(3)本実施形態の閾値周波数演算部14は、第1及び第2の検出部131、132と、第1及び第2の演算部141、142とを備え、閾値周波数f1、f2は、音声レベルの最大値Vmaxの半分の音声レベルであるVhalfに対応する周波数fhalfである。これにより、多くの場合環境音に比べて音声レベルの高い収録対象音声を誤ってフィルタリングしてしまうおそれを更に低減することができる。
【0033】
(4)本実施形態の閾値周波数f1、f2は、それぞれ低周波側または高周波側でfmaxに最も近い周波数fhalfである。これにより、例えば環境音の音声レベルが収録対象音声よりも低周波側または高周波側でVhalfまで達したとしても、これらのVhalfに対応する周波数fhalfを閾値周波数f1、f2とすることがないので、環境音を適切にフィルタリングすることができる。
【0034】
[他の実施形態]
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。具体的には、次のような他の実施形態も包含する。
【0035】
(1)上記実施形態においては、閾値VTHRの設定は、例えば表示部31に表示される音声レベルの情報を参考にしながら行われても良いものとした。さらに、閾値VTHRを再度設定することも出来る。すなわち、上記ステップS01において閾値VTHRを設定した後、サンプリング部16が環境音のみの音声信号を所定の回数取得する前に表示部31に表示される音声レベルが大きくなった場合には、操作部32からの操作により、一度設定した閾値VTHR及びこれまでサンプリング部16が取得した環境音のみの音声信号を破棄しても良い。この場合、ステップS01をやり直すことになる。すなわち、新たに受信部11を介して表示部31に表示される音声レベルの情報を参考にしながら閾値VTHRを再度設定することになる。もちろん、サンプリング部16は、環境音のみの音声信号の取得を再度行う。
【0036】
(2)上記実施形態においては、音声レベルの閾値VTHRを音声調整卓3の操作部32で手動により設定したが、フィルタリング装置1が自動設定してもよい。フィルタリング装置1においてこの機能を担う構成を音声レベル閾値設定部とすると、音声レベル閾値設定部は、例えば時間平均部17が演算した平均的な環境音の音声レベルから閾値VTHRを自動設定することができる。
【0037】
(3)上記実施形態では、閾値周波数f1、f2を音声レベルの最大値Vmaxの半分の音声レベルVhalfに対応する周波数fhalfとしたが、これに限らず例えば音声レベルの最大値Vmaxの3分の1の音声レベルに対応する周波数としてもよい。これにより、抽出部15における環境音の抽出の精度を高めることが出来る。
【0038】
(4)上記実施形態では、閾値周波数f1、f2は、それぞれ低周波側または高周波側においてfmaxから最も近いものとしたが、これに限らず例えば2番目に近いものでもよい。
【符号の説明】
【0039】
1…フィルタリング装置
11…受信部
12…周波数分解部
14…閾値周波数演算部
131…第1の検出部
132…第2の検出部
141…第1の演算部
142…第2の演算部
15…抽出部
16…サンプリング部
17…時間平均部
18…カットオフ周波数演算部
19…フィルタ部
2…マイクロフォン
3…音声調整卓
31…表示部
32…操作部
1、f2…閾値周波数
ch、fcl…カットオフ周波数
図1
図2
図3
図4
図5