(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-17
(45)【発行日】2024-04-25
(54)【発明の名称】クリーンルームの空調システム
(51)【国際特許分類】
F24F 7/06 20060101AFI20240418BHJP
B65G 49/00 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
F24F7/06 C
B65G49/00 A
(21)【出願番号】P 2020058455
(22)【出願日】2020-03-27
【審査請求日】2022-11-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000001834
【氏名又は名称】三機工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000512
【氏名又は名称】弁理士法人山田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】樋口 康博
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 賢知
【審査官】杉山 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-273945(JP,A)
【文献】特開平08-261531(JP,A)
【文献】特開2019-090547(JP,A)
【文献】特開2001-091005(JP,A)
【文献】特開2016-211844(JP,A)
【文献】特開昭58-129125(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 7/06
B65G 49/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象空間に機器を配置するクリーンルームの空調システムであって、
対象空間のうち、他の領域に比べて高い清浄度の要求される領域を高度清浄域に設定すると共に、該高度清浄域以外の領域を非高度清浄域に設定し、
対象空間の上方に吊られて設置され対象空間に浄化した空気を供給する送風ユニットは、前記高度清浄域の上方空間を挟んで対向するように配置されると共に、前記高度清浄域の上方空間に対し横向きに空気を送り出すように設置され、
前記非高度清浄域における機器より上方の位置で前記送風ユニットの背面側に、風路としての給気チャンバが画成され、
前記送風ユニット及び前記給気チャンバは、上方空間を挟んで対向する両側で対称の構成になり、
前記送風ユニットのファンの吐出側静圧により横向きに送り出された空気は該上方空間にて下方へ曲げられ前記高度清浄域に向かい、前記高度清浄域に供給された空気は前記高度清浄域を下降してから前記非高度清浄域に至り、該非高度清浄域に入り込んだ空気は前記機器の発熱の上昇流が加わり、温度成層を形成しながら前記非高度清浄域内を上昇して前記送風ユニットに戻るよう構成され、
前記空気の循環にかかる搬送力は、前記給気チャンバから高度清浄域間では送風ユニットの静圧により賄われ、非高度清浄域内では温度成層による空気層の上昇により賄われるように構成されていること
を特徴とするクリーンルームの空調システム。
【請求項2】
対象空間に機器を配置するクリーンルームの空調システムであって、
対象空間のうち、他の領域に比べて高い清浄度の要求される領域を高度清浄域に設定すると共に、該高度清浄域以外の領域を非高度清浄域に設定し、
対象空間の上方に吊られて設置され対象空間に浄化した空気を供給する送風ユニットは、前記高度清浄域の上方空間を挟んで対向するように配置されると共に、前記高度清浄域の上方空間に対し横向きに空気を送り出すように設置され、
前記非高度清浄域における機器より上方の位置で前記送風ユニットの背面側に、風路としての給気ダクトが設置され、
前記送風ユニット及び前記給気ダクトは、上方空間を挟んで対向する両側で対称の構成になり、
前記送風ユニットのファンの吐出側静圧により横向きに送り出された空気は該上方空間にて下方へ曲げられ前記高度清浄域に向かい、前記高度清浄域に供給された空気は前記高度清浄域を下降してから前記非高度清浄域に至り、該非高度清浄域に入り込んだ空気は前記機器の発熱の上昇流が加わり、温度成層を形成しながら前記非高度清浄域内を上昇して前記送風ユニットに戻るよう構成され、
前記空気の循環にかかる搬送力は、前記給気ダクトから高度清浄域間では送風ユニットの静圧により賄われ、非高度清浄域内では温度成層による空気層の上昇により賄われるように構成されていること
を特徴とするクリーンルームの空調システム。
【請求項3】
前記高度清浄域と前記非高度清浄域との間における床より上方の位置に、下向き方向に沿って延びる垂壁を設け、前記送風ユニットは、吹出し面を前記垂壁に開設した開口に位置させて設置すること
を特徴とする請求項1または請求項2に記載のクリーンルームの空調システム。
【請求項4】
前記垂壁の下向き方向は、鉛直を含む鉛直に対し45度以内の傾斜であること
を特徴とする請求項3に記載のクリーンルームの空調システム。
【請求項5】
前記垂壁を下向き方向に沿って延ばす位置は、前記高度清浄域と前記非高度清浄域との境界位置、または前記非高度清浄域側へセットバックした位置に設けること
を特徴とする請求項3または請求項4に記載のクリーンルームの空調システム。
【請求項6】
前記高度清浄域の上方空間を挟んで対向するように前記送風ユニットが配置され、
前記送風ユニットから送り出される空気が互いに衝突し上方空間にて下方へ曲げ合い、前記高度清浄域においてダウンフローを形成するよう構成されていること
を特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載のクリーンルームの空調システム。
【請求項7】
前記送風ユニットに前記高度清浄域の上方空間を挟んで対向するように誘導板が設置され、
前記送風ユニットから送り出される空気が前記誘導板に衝突し上方空間にて下方へ曲げられ、前記高度清浄域においてダウンフローを形成するよう構成されていること
を特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載のクリーンルームの空調システム。
【請求項8】
前記送風ユニットは、前記給気チャンバ内の空気を前記高度清浄域の上方空間へ供給するよう、前記給気チャンバの前記高度清浄域に面する側壁に設置され、
前記給気チャンバは、送風ユニットの吸込み口から前記非高度清浄域で形成された温度成層上部の温かい空気の流れを遠ざけて対象空間内の空気の縦循環を大きく円滑にする空間であり、
前記非高度清浄域内の空気は、前記給気チャンバに冷却されて貯留され、前記送風ユニットから前記高度清浄域に供給されること
を特徴とする
請求項1に記載のクリーンルームの空調システム。
【請求項9】
前記給気ダクト入口に冷却ユニットを設け、前記非高度清浄域内の空気は、冷却されて
前記給気ダクトを通り、前記送風ユニットから前記高度清浄域に供給されること
を特徴とする
請求項2に記載のクリーンルームの空調システム。
【請求項10】
前記高度清浄域の交差部に面する前記送風ユニットは、平面視において前記交差部の中央部に向けて空気を送り出すように配置されること
を特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載のクリーンルームの空調システム。
【請求項11】
前記対象空間には、被加工物を搬送する搬送装置を構成する搬送レールが設置されており、
前記高度清浄域として、前記搬送レールの周辺の領域が設定されることを特徴とする請求項1~10のいずれか1項に記載のクリーンルームの空調システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリーンルームの空調システムに関する。
【背景技術】
【0002】
図12~
図14は従来の工業用のクリーンルームにおける空調システムの一例を示している。対象空間Sには、床スラブの上方にパンチングパネルやグレーチング等により上げ床1aが形成され、該上げ床1aには、各種の生産装置等である機器2が載置されている。対象空間S内における上げ床1aより上方の位置には、被加工物4を搬送するための搬送装置5が装備されている。対象空間Sは、例えば半導体の生産設備の作業室等であり、被加工物4は、例えば半導体集積回路を形成する母材のウエハや、フラットパネルディスプレイの基板といった基板状の物品、あるいはそれら複数の基板状の物品を含めた収納容器等である。
【0003】
搬送装置5は、搬送レール6と、該搬送レール6に沿って移動可能な搬送車7とを備えており、搬送車7は、被加工物4を積み込んで移動しつつ、機器2との間で被加工物4の受け渡しを行うようになっている。上方のスラブ面からは、天井面として吊り天井3aが吊下設置されており、搬送レール6は、吊り天井3aの構成材、あるいは上方のスラブ面から吊られるようにして、吊り天井3aに沿って取り付けられる。上下方向では、
図14のように機器2前面のロード/アンロード部にある被加工物4を、図示はしていないが上下方向に移動可能な搬送車などで受け渡しを行ったりする。
【0004】
吊り天井3aには、さらに対象空間Sに空気Aを送り出すための送風ユニット8が設置されている。送風ユニット8は、ファン・フィルタ・ユニット(FFU)等と称され、ファンとHEPAフィルタやULPAフィルタである高性能フィルタを備えた装置であり、吊り天井3aの上方の空気Aを前記ファンの駆動により引き込んでフィルタに吹き付け、該フィルタを通って浄化された空気Aを下方の対象空間Sへ下向きに送り出すようになっている。上げ床1aと床スラブとの間の空間(床下空間)と、上階の床スラブと吊り天井3aの間の空間(天井裏空間)の間には、これらを連通するようにレタンシャフト10が設けられており、送風ユニット8により対象空間Sに送り込まれた空気Aは、上げ床1aの開孔9から床下空間に抜け、送風ユニット8のファンの吸込み口が面する天井裏空間は対象空間Sよりも負圧となりその圧力差により床下空間からレタンシャフト10を通って天井裏空間へ送られ、再度送風ユニット8から対象空間Sに供給される。通風抵抗のロス分があるので対象空間Sに対する負圧度合いは、床下空間、レタンシャフト、天井裏空間の順に大きくなり、床下空間も小さく負圧なので上げ床1aの開孔9から対象空間S内空気を吸い込むのである。
【0005】
図13に示す如く、吊り天井3aには送風ユニット8が疎らに配置されている。また、床下空間からレタンシャフト10を通って天井裏空間に至る経路のいずれかの位置(ここでは、レタンシャフト10の入口)には冷却ユニット11が設置されており、レタンシャフト10から天井裏へ向かう空気Aを冷却するようになっている。冷却ユニット11は、例えば内部に冷水等である冷媒Wが流通するドライコイルであり、外部の冷熱源(図示せず)から冷媒往き配管12を通して低温の冷媒Wを引き込み、ドライコイルの周囲を流通する空気Aとの間で間接的に熱交換させてから、温度の上昇した冷媒Wを冷媒還り配管13を通して前記冷熱源へ戻すようになっている。
【0006】
こうして、対象空間Sから床下空間、さらにレタンシャフト10から天井裏空間へと空気Aが循環し、その過程において、対象空間Sへ送られる空気Aは送風ユニット8にて浄化され、機器2の排熱を含んだ空気Aは冷却ユニット11にて冷却されるようになっている。尚、このような空気Aの循環は、送風ユニット8におけるファンの動作によって駆動される(ただし、必要に応じて別途ファン等を設け、空気Aの駆動を補助してもよい)。
【0007】
この種のクリーンルームの空調システムに関連する先行技術文献としては、例えば、下記の特許文献1等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述の如き空調システムにおいては、例えば対象空間S全体における排熱量を基準として空気Aの吹出温度が決定される。
図12~
図14に示す空調システムを念頭に、各所における空気Aの温度分布の一例を説明すると、生産装置(ここでは、機器2)における製品工程等によって決まる室内空気条件は、例えば乾球温度23℃、相対湿度45%である。この場合、対象空間Sへ送られる空気Aの温度は、機器2の発熱密度の高いエリアでは送風ユニット8の近傍において15℃(つまり、吹出温度は15℃)であり、ここから床下空間へ抜けるまでの間に、機器2の排熱を受け取って23℃程度まで上昇する。そして、冷却ユニット11において15℃まで冷却され、再度送風ユニット8へ送られる。
【0010】
空気Aの温度に関するこうした設定は、機器2の周辺における温度を適温に保つことは勿論、冷却ユニット11において空気A中の水分が凝縮しないことをも考慮されたものである。1気圧の条件下で、作業空間(ここでは、機器2やその周辺)における乾球温度が23℃、相対湿度が45%の場合を想定すると、空気Aの露点温度は約10.5℃である。冷却ユニット11での吹出温度は15℃であるが、この温度では相対湿度75%程度であり、冷却ユニット11のコイル部分において凝縮は発生せず、ドライコイルが実現できる。
【0011】
ここで、冷媒往き配管12における冷媒Wの温度(入口水温)は10℃程度であるが、冷媒Wをこのような低温に季節を問わず保とうとすれば、前記冷熱源において、凝縮器にて排熱を熱交換する外気が夏場の33℃程度の場合でも蒸発器における冷媒Wの温度まで冷やすことが可能な冷凍サイクルを実現する圧縮機の仕事が必要となり、相応のエネルギー消費が要求されることになる。また、一般に中間期や冬期においては冷媒Wの冷却にフリークーリング(冷凍機等によらず、外気の冷熱を利用する形式の冷却)が行われることがあるが、入口水温を10℃に設定した場合、フリークーリングには外気温10℃を大きく下回る条件が必要になるため、日本の気候において、フリークーリングを実行できる期間は短い。このように、上述の如き空調システムでは、温度管理の省エネルギー化に限界があった。
【0012】
また、上述の如き空調システムは、対象空間S内の全体を均一に清浄に保つよう設計されており、大量の空気Aを浄化する必要がある。このため、送風ユニット8に関して相当の設置台数や、フィルタの交換頻度が必要である。また、冷却ユニット11にも大きな熱交換面積が要求されるなど、コストの増大を招いていた。
【0013】
また、発熱量の多い機器2を設置する場合などに対応することを考えた場合、送風ユニット8を設置するために天井セル等を吊り天井3a全体に敷設することになり、吊り天井3aの構築に多大なコストが生じてしまう。
【0014】
しかも、近年では、被加工物4の製品集積度の向上により、クリーンルーム内における機器2の発熱量は増加する傾向にある。発熱量が大きければ、その分だけ機器2の排熱に由来する上昇気流は大きくなり、これを抑えるには、送風ユニット8にある程度の風量が要求される。その結果、やはりある程度の台数の送風ユニット8の設置が必要となる。
【0015】
さらに、上述の従来例では、送風ユニット8から対象空間Sに供給した空気Aの全量を上げ床1aの開孔9を通して床下空間へ導き、冷却ユニット11で冷却したうえで天井裏空間へ戻すようにしている。このため、床下空間と天井裏空間を連通するレタンシャフト10が必要であり、このレタンシャフト10の分だけ利用可能な平面積及び立面積が狭められ、空間の利用効率が低下していた。
【0016】
また、従来例においては、大空間として設定された対象空間S全体を必要最小限の循環風量で浄化するため、パンチングパネル等により構成した上げ床1aの開孔9から床下空間に空気Aを引き込んで下向きの気流を形成している。なるべく少ない風量で空気Aを確実に循環させるためであるが、このことが床下空間の用途に制限を生じさせることにもなっていた。
【0017】
本発明は、斯かる実情に鑑み、対象空間内において要求される温度と清浄度を満足しつつ、コストの増大を抑え、省エネルギーと共に対象空間の有効利用を図り得るクリーンルームの空調システムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、対象空間に機器を配置するクリーンルームの空調システムであって、
対象空間のうち、他の領域に比べて高い清浄度の要求される領域を高度清浄域に設定すると共に、該高度清浄域以外の領域を非高度清浄域に設定し、
対象空間の上方に吊られて設置され対象空間に浄化した空気を供給する送風ユニットは、前記高度清浄域の上方空間を挟んで対向するように配置されると共に、前記高度清浄域の上方空間に対し横向きに空気を送り出すように設置され、
前記非高度清浄域における機器より上方の位置で前記送風ユニットの背面側に、風路としての給気チャンバが画成され、
前記送風ユニット及び前記給気チャンバは、上方空間を挟んで対向する両側で対称の構成になり、
前記送風ユニットのファンの吐出側静圧により横向きに送り出された空気は該上方空間にて下方へ曲げられ前記高度清浄域に向かい、前記高度清浄域に供給された空気は前記高度清浄域を下降してから前記非高度清浄域に至り、該非高度清浄域に入り込んだ空気は前記機器の発熱の上昇流が加わり、温度成層を形成しながら前記非高度清浄域内を上昇して前記送風ユニットに戻るよう構成され、
前記空気の循環にかかる搬送力は、前記給気チャンバから高度清浄域間では送風ユニットの静圧により賄われ、非高度清浄域内では温度成層による空気層の上昇により賄われるように構成されていること
を特徴とするクリーンルームの空調システムにかかるものである。
【0019】
本発明は、対象空間に機器を配置するクリーンルームの空調システムであって、
対象空間のうち、他の領域に比べて高い清浄度の要求される領域を高度清浄域に設定すると共に、該高度清浄域以外の領域を非高度清浄域に設定し、
対象空間の上方に吊られて設置され対象空間に浄化した空気を供給する送風ユニットは、前記高度清浄域の上方空間を挟んで対向するように配置されると共に、前記高度清浄域の上方空間に対し横向きに空気を送り出すように設置され、
前記非高度清浄域における機器より上方の位置で前記送風ユニットの背面側に、風路としての給気ダクトが設置され、
前記送風ユニット及び前記給気ダクトは、上方空間を挟んで対向する両側で対称の構成になり、
前記送風ユニットのファンの吐出側静圧により横向きに送り出された空気は該上方空間にて下方へ曲げられ前記高度清浄域に向かい、前記高度清浄域に供給された空気は前記高度清浄域を下降してから前記非高度清浄域に至り、該非高度清浄域に入り込んだ空気は前記機器の発熱の上昇流が加わり、温度成層を形成しながら前記非高度清浄域内を上昇して前記送風ユニットに戻るよう構成され、
前記空気の循環にかかる搬送力は、前記給気ダクトから高度清浄域間では送風ユニットの静圧により賄われ、非高度清浄域内では温度成層による空気層の上昇により賄われるように構成されていること
を特徴とするクリーンルームの空調システムにかかるものである。
【0020】
本発明のクリーンルームの空調システムにおいては、前記高度清浄域と前記非高度清浄域との間における床より上方の位置に、下向き方向に沿って延びる垂壁を設け、前記送風ユニットは、吹出し面を前記垂壁に開設した開口に位置させて設置することができる。当該垂壁の下向き方向は、鉛直であってもよいし、鉛直に対し45度以内の傾斜であってもよい。垂壁を下向き方向に沿って延ばす位置は、前記高度清浄域と前記非高度清浄域との境界位置であっても、前記非高度清浄域側へセットバックした位置でもよい。
本発明のクリーンルームの空調システムにおいては、前記高度清浄域の上方空間を挟んで対向するように前記送風ユニットを配置し、前記送風ユニットから送り出される空気が互いに衝突し上方空間にて下方へ曲げ合い、前記高度清浄域においてダウンフローを形成するよう構成することができる。
【0021】
本発明のクリーンルームの空調システムにおいては、前記送風ユニットに前記高度清浄域の上方空間を挟んで対向するように誘導板を設置し、前記送風ユニットから送り出される空気が前記誘導板に衝突し上方空間にて下方へ曲げられ、前記高度清浄域においてダウンフローを形成するよう構成してもよい。
【0022】
本発明のクリーンルームの空調システムにおいては、前記送風ユニットは、前記給気チャンバ内の空気を前記高度清浄域の上方空間へ供給するよう、前記給気チャンバの前記高度清浄域に面する側壁に設置され、前記給気チャンバは、送風ユニットの吸込み口から前記非高度清浄域で形成された温度成層上部の温かい空気の流れを遠ざけて対象空間内の空気の縦循環を大きく円滑にする空間であり、前記非高度清浄域内の空気は、前記給気チャンバに冷却されて貯留し、前記送風ユニットから前記高度清浄域に供給するようにしてもよい。
【0023】
本発明のクリーンルームの空調システムにおいては、前記給気ダクト入口に冷却ユニットを設け、前記非高度清浄域内の空気は、冷却されて前記給気ダクトを通り、前記送風ユニットから前記高度清浄域に供給されるようにしてもよい。
【0024】
本発明のクリーンルームの空調システムにおいては、前記高度清浄域の交差部に面する前記送風ユニットを、平面視において前記交差部の中央部に向けて空気を送り出すように配置してもよい。
【0025】
本発明のクリーンルームの空調システムにおいて、前記対象空間には、被加工物を搬送する搬送装置を構成する搬送レールが設置されており、前記高度清浄域として、前記搬送レールの周辺の領域が設定されていてもよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明のクリーンルームの空調システムによれば、対象空間内において要求される温度と清浄度を満足しつつ、コストの増大を抑え、省エネルギーと共に対象空間の有効利用を図り得るという優れた効果を奏し得る。さらに、対象空間内における高度清浄域の上方空間に横向きに空気を送り出し上方空間にて下方へ曲げられ前記高度清浄域に向かうので、高度清浄域の高さ方向が有効に利用できるという優れた効果を奏し得る。さらには、送風ユニットのファンによる空気搬送力だけに頼らず、対象空間内の生産機器発熱による空気成層によって温空気の上昇力も利用するので省エネルギーを図り得るという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の実施によるクリーンルームの空調システムの形態の一例を示す概略立面図である。
【
図2】本実施例のクリーンルームの空調システムの形態を示す概略平面図である。
【
図3】本実施例のクリーンルームの空調システムの形態を示す概略側断面図であり、
図1のIII-III矢視相当図である。
【
図4】本実施例のクリーンルームの空調システムの形態を示す斜視図である。
【
図5】本発明の別の実施例によるクリーンルームの空調システムの形態を示す概略側断面図である。
【
図6】本発明を適用したクリーンルームにおける側断面に沿った空気の流れの一例を示す図である。
【
図7】本発明を適用したクリーンルームにおける側断面に沿った空気の流れの一例を示す図であり、
図6とは別の断面を示している。
【
図8】高度清浄域の交差部における送風ユニットの配置の参考例を示す概略平面図である。
【
図9】高度清浄域の交差部における送風ユニットの配置の一例を示す概略平面図である。
【
図10】誘導板としての邪魔板の設置例を示す概略側断面図である。
【
図11】誘導板としての壁の設置例を示す概略側断面図である。
【
図12】従来のクリーンルームにおけるクリーンルームの空調システムの一例を示す概略立面図である。
【
図13】従来のクリーンルームにおけるクリーンルームの空調システムの一例を示す概略平面図である。
【
図14】従来のクリーンルームにおけるクリーンルームの空調システムの一例を示す概略側断面図であり、
図12のXIV-XIV矢視相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0029】
図1~
図4は本発明の実施によるクリーンルームの空調システムの形態の一例を示しており、図中、
図12~
図14と同一の符号を付した部分は同一物を表している。尚、
図1~
図4に示した構成は、例えば空調システムを備えた対象空間Sにおける一部分であり、同様の構成が平面視で縦横に複数連続していても良い。また、説明の便宜上、一部の図では各構成要素の一部または全部について図示を省略している。例えば、
図1、
図2では被加工物4や搬送車7の図示を省略しており、
図4ではこれらに加えて搬送レール6をも省略している。また、後に説明する
図6、
図7においても、被加工物4や搬送レール6、搬送車7の図示を省略している。この他にも、幾つかの構成要素について、図が煩雑になることを避けるため、各図で適宜図示を省略している。
【0030】
対象空間Sの床1には機器2が載置されており、床1より上方の高さには、被加工物4を搬送するための搬送装置5が設置されている。搬送装置5は、搬送レール6と、該搬送レール6に沿って移動可能な搬送車7とを備えており、搬送車7は、被加工物4を積み込んで搬送レール6に沿って移動しつつ、機器2との間で被加工物4の受け渡しを行うようになっている。
【0031】
以上の構成については
図12~
図14に示す上記従来例と概ね共通しているが、本実施例の場合、送風ユニット8の配置に特徴を有しており、これに伴い床1や天井3、レタンシャフト10に関する構成も従来例と異なっている。
【0032】
まず、本実施例では、送風ユニット8を上記従来例(
図13参照)の如く対象空間Sの上方全体に満遍なく配置するのではなく、対象空間Sを高度清浄域S1と非高度清浄域S2とに分け、高度清浄域S1に設定した領域に、送風ユニット8から吹き出す空気Aを集中して供給するようにしている。ここで、「高度清浄域」とは、対象空間のうち、他の領域と比較して高い清浄度が要求される領域を指し、「非高度清浄域」とは、対象空間のうち、高度清浄域以外の領域を指す。
【0033】
例えば、対象空間Sとして工業用クリーンルームを想定する場合、対象空間S内において最も清浄度を確保すべき領域は、基板等の物品やその収納容器である被加工物4が露出する可能性のある場所である。本実施例の場合、被加工物4が搬送車7によって搬送され、搬送車7と機器2との間で被加工物4の受け渡しが行われる場所、すなわち搬送レール6の周辺の領域がそれに該当する。被加工物4自体に塵埃等の異物が到達しない限り、被加工物4が存在しない場所にはさほどの清浄度は要求されない。また、機器2の内部は対象空間Sから構造的に隔離されて清浄度が保たれるので、送風ユニット8による清浄な空気Aの供給が最も必要とされる領域は、平面視で搬送レール6の周辺にあたる領域ということになる。そこで、搬送レール6の周辺の領域を高度清浄域S1に設定し、清浄度を特に高く保つようにしている。高度清浄域S1の設定清浄度は、例えばクラス5~6であり(尚、その場合、実態としては設定清浄度よりも清浄な空間となる)、非高度清浄域S2についてはクラス6程度で良い。尚、これは一例であって、各領域の清浄度については本発明を実施するにあたり適宜設定することができ、各領域の設定清浄度はここに例示したより高く設定しても、低く設定しても十分成立し得る。
【0034】
ここで、非高度清浄域S2の平面積は、高度清浄域S1の平面積と同じか、それより大きく設定することが好ましい。後述する空気Aの循環のためである。
【0035】
床1については、従来例の上げ床1aとは異なり、空気Aが通過する開孔9は必須ではなく、本実施例では全面閉鎖の床面として構成されている。また、ここでは床1を上げ床として構成した例を図示しているが、上げ床も必須の構成ではない。天井3についても、従来例の吊り天井3aとは異なり、吊下構造は必須ではなく、本実施例の場合、上方のスラブ面を天井3とする直天井構造としている(あるいは、スラブ面に近い高さに天井3を別途設けてもよい)。また、レタンシャフト10に関しては省略されている。そして、全体的な空気Aの流れも従来例とは大きく相違している。
【0036】
高度清浄域S1およびその周辺における機器2や搬送レール6、送風ユニット8の配置について、さらに具体的に説明する。
【0037】
本実施例の場合、搬送レール6は上階の床スラブ面である天井3から吊り下げる形で設置されており、搬送レール6の下方の床1には、平面視で該搬送レール6の両脇にあたる位置に機器2が配置されている。
【0038】
機器2にとっては、搬送車7との間で被加工物4の受け渡しを行うロード・アンロード部がある前面部2aで特に清浄度が要求される。このため、
図2、
図3に示す如く、機器2は前面部2aのみが搬送レール6下方の高度清浄域S1へわずかに突出し、前面部2a以外は非高度清浄域S2内に位置するように配置される。尚、機器2の排熱は、前面部2a以外(背面部2bなど)から排出される。
【0039】
また、
図2~
図4に示す如く、平面視で搬送レール6を両側から挟む位置に、高度清浄域S1の上方空間に前面を向ける形で送風ユニット8が配置されている。すなわち、搬送レール6の周辺に設定された高度清浄域S1の上方空間を挟んで、送風ユニット8が対向する形である。
【0040】
送風ユニット8の背面側には、非高度清浄域S2で形成された温度成層上部の温かい空気Aの流通する風路としての給気チャンバ14が画成されている。給気チャンバ14は送風ユニット8の吸込み口から非高度清浄域S2で形成された温度成層上部の温かい空気Aの流れを遠ざけて対象空間S内の空気Aの縦循環を大きく円滑にする空間であり、本実施例の場合、給気チャンバ14の全体が非高度清浄域S2における床1より上方、機器2の上方に画成されている。給気チャンバ14の側壁15のうち、一部(前面15aとする)は後述する垂壁16の上部を兼ねて高度清浄域S1に面しており、ここに送風ユニット8のHEPAフィルタ吹出し面が設けられている。
【0041】
側壁15のうち、他の面(側面15bおよび背面15cとする)は非高度清浄域S2に面しており、その一部(ここに示した例の場合、側面15b)には冷却ユニット11が設けられている。冷却ユニット11は、例えば上述の従来例(
図12~
図14参照)における冷却ユニット11と同様の装置(ドライコイル)であり、内部に冷水等の冷媒Wが流通する冷却コイルを備え、外部の冷熱源(図示せず)から冷媒往き配管12を通して低温の冷媒Wを引き込み、周囲の空気Aとの間で間接的に熱交換させてから冷媒還り配管13を通して前記冷熱源へ戻すようになっている(
図1参照)。給気チャンバ14の上面は天井3の面を利用して形成され、側壁15および底面は天井3から吊り下げるようにして設置されている。
【0042】
また、高度清浄域S1と非高度清浄域S2との間には垂壁16が設置されている。本実施例の場合、給気チャンバ14の前面15aが高度清浄域S1と非高度清浄域S2の境界の一部を形成しており、垂壁16の一部は、この給気チャンバ14の前面15aから下方に向かって鉛直方向に沿って延びるように設けられている。また、本実施例の場合、垂壁16は給気チャンバ14の側壁15が設けられていない部分にも伸び、高度清浄域S1と非高度清浄域S2の境界の一部を形成している。なお垂壁16の設置位置は高度清浄域S1と非高度清浄域S2の境界であっても、その境界から非高度清浄域S2側へセットバックした位置であってもよい。
【0043】
垂壁16の下端は、床1より上方に位置しており、垂壁16は、高度清浄域S1と非高度清浄域S2との間を、両空間の下方が連通するように不完全に隔てている。尚、垂壁16のなす面は必ずしもここに示すように給気チャンバ14の側壁15のなす面等と一致していなくとも良く、高度清浄域S1と非高度清浄域S2の間に配置されていればよい。例えば、平面視で給気チャンバ14の前面15aよりも搬送レール6から離れた位置に設置されていてもよい。
【0044】
天井3から垂壁16の下端までの寸法は、以下のように設定すべきである。まず、垂壁16の下端の位置は、床1における機器2の移設の妨げとならないよう、床1よりは上方とする。また、垂壁16が機器2に接すると、やはり機器2の移設の妨げとなるため、垂壁16の下端は機器2の上端よりは上方に位置していることが好ましい。一方、後述する空気Aの循環の観点から、床1と垂壁16の下端とは一定の距離を保ちながらある程度近接させ、垂壁16の下方を流れる空気Aの流速をある程度小さく保つのが良い。空気Aの循環と機器2の移設自由度の両立のためには、垂壁16は下端が機器2の上端より10cm前後高い位置に来る程度の寸法とするのが最も好適である。本実施例では、垂壁16の下端は機器2の上端から垂直方向に距離を保って同じ高さで連続しており、機器2同士の間を遮る物はない。垂壁16は、パネルのような硬質の素材で構成しても良いし、また、ビニールシートのような軟質の素材であっても良い。尚、垂壁16や後述する誘導板18,19に関し、「下向き方向に沿って延びる」とは必ずしも正確な鉛直面を有することを指すものではなく、垂壁16の下向き方向は、鉛直を含む鉛直に対して45度以内の傾きを有していても良い。鉛直方向に沿った向きとは、鉛直方向を成分として含む向きといった程度の意味である。
【0045】
給気チャンバ14内をその入り口の冷却ユニット11のコイル通風抵抗に抗して導入され流れる空気Aは、送風ユニット8のファンの吸込み側静圧を搬送力として送風ユニット8内まで搬送され、ファンの吐出側静圧により高性能フィルタを通ったのち一定の風速で高度清浄域S1に供給される。続いて高度清浄域S1の上方空間を挟んで対向するように設置された送風ユニット8により、対向して吹出される空気Aと空気Aが互いに衝突し上方空間にて下方へ曲げ合い下向きのダウンフローとなって高度清浄域S1を吹き降りる。そのあと、高度清浄域S1の下方で垂壁16の下方や機器2同士の間を通って非高度清浄域S2にゆっくりと流れ込んだ空気Aは、非高度清浄域S2内にある機器2の発熱により暖められた機器周囲空気の上昇に伴い、非高度清浄域S2の高さ方向に温度成層が形成され、非高度清浄域S2全体のゆっくりした温度成層間の入れ替わりにより機器2の発熱を空気温度に変換して上昇して流れ、該非高度清浄域S2の上部において冷却ユニット11で冷却されつつ給気チャンバ14へ戻る。こうした空気Aの循環にかかる搬送力は、給気チャンバ14の入り口から高度清浄域S1間では送風ユニット8の静圧により賄われ、非高度清浄域S2内では温度成層によるゆっくりした空気層の上昇により賄われ、冷却ユニット11における空気Aの通過や、給気チャンバ14における空気Aの流通等に関し、特に別途送風のための機構を配置する必要はない(ただし、本発明を実施するにあたり、送風ユニット8だけで搬送力が不足するような場合には、冷却ユニット11や給気チャンバ14等に送風のための機構を適宜設置し、搬送力を補っても良い)。
【0046】
尚、風路あるいは給気チャンバ14の構成や冷却ユニット11の配置については、ここに示した例に限定されない。非高度清浄域S2の上方に滞留した空気を冷却し、送風ユニット8を通じて適宜に高度清浄域S1に供給し得る限りにおいて、風路や冷却ユニットは種々の形式を採用し得る。例えば、クリーンルーム内の配置等によっては、給気チャンバ14の側面15bではなく、背面15cに冷却ユニット11を設置してもよい(図示は省略する)。あるいは、
図5に別の実施例として示す如く、給気チャンバ14の代わりに、冷却ユニット11と送風ユニット8を繋ぐように、風路としての給気ダクト17を非高度清浄域S2における床1より上方の位置に設けてもよい。
【0047】
上記した本実施例における空気Aの循環について、さらに詳しく説明する。高度清浄域S1の上方空間に面しては、送風ユニット8が向かい合わせに設置されており、該送風ユニット8から横向きに吹き出される清浄な空気Aは、上方空間にて互いにぶつかり合ってダウンフローを形成し、高度清浄域S1内を下降する(
図3参照)。空気Aは、搬送レール6の周辺から、さらに被加工物4の受け渡しが行われる機器2の前面部2aを下向きに流れていく。塵埃を除去しながら垂壁16の下端や機器2の端面を迂回し、非高度清浄域S2にゆっくりと流れ込んだ空気Aは、非高度清浄域S2内にある機器2の発熱により暖められた機器周囲空気の上昇に伴い、非高度清浄域S2の高さ方向に温度成層が形成され、非高度清浄域S2全体のゆっくりした温度成層間の入れ替わりにより機器2の発熱を空気温度に変換して上昇して押し出される。非高度清浄域S2では、空気Aは床1より上方に位置する給気チャンバ14の入口(冷却ユニット11の設けられた部分)に向かうアップフローとなる。
【0048】
送風ユニット8における吹出温度は、例えば20℃とする。すなわち、冷却ユニット11で冷却されたうえで送風ユニット8のフィルタから吹き出される空気Aの温度が20℃である。給気チャンバ14から送風ユニット8を通って20℃で供給される空気Aは、高度清浄域S1へ送り込まれ、被加工物4が搬送される搬送レール6や、被加工物4の受け渡しが行われる機器2の前面部2aへ吹き付けられる(
図1~
図4参照)。高度清浄域S1を搬送車7により搬送される被加工物4は、送風ユニット8で浄化されて間のない清浄な空気Aを吹き付けられ、清浄に保たれる。
【0049】
次に、空気Aは、機器2同士の間や、機器2と垂壁16との間、垂壁16と床1との間をすり抜けて非高度清浄域S2へ移る。非高度清浄域S2では被加工物4の受け渡しや搬送が行われないため、仮に高度清浄域S1から非高度清浄域S2へ至る途中で空気Aの清浄度が低下したとしても、その状態の空気Aが被加工物4に直接接触する虞はない。
【0050】
機器2は前面部2aが高度清浄域S1へわずかに突出する配置となっており、空気Aは、高度清浄域S1から非高度清浄域S2へ移動するまでの間に機器2の前面部2aから排熱を受け取る。この過程で前面部2aから空気Aが受け取る排熱は、機器2全体の発熱の例えば3割程度である。
【0051】
空気Aは、非高度清浄域S2に入り込むと、機器2の前面部2a以外の部分(背面部2b等)から排熱を受け取って昇温する。非高度清浄域S2において、温度成層を形成するもとの高温の空気Aは非高度清浄域S2を天井3の近傍まで上昇し、熱溜まりを形成する。熱溜まりにおける空気Aの温度は30℃程度である。すなわち、機器2全体の排熱を受け取った結果、空気Aは吹出温度の20℃から10℃程度、昇温する計算である。前述のように、高度清浄域S1において空気Aが機器2から受け取る排熱は機器2全体の発熱の3割程度なので、非高度清浄域S2へ移行する直前における空気Aの温度は約23℃である。これは、基板等である被加工物4にとって適正な温度である。冷却ユニット11では、この機器2の前面部2aにおける適正温度23℃を保つため、非高度清浄域S2へ移行する直前の空気Aの温度を制御点として計測し、冷媒Wによる熱交換量を制御する。尚、制御点の温度を計測するために、高度清浄域S1の下部における非高度清浄域S2との境界付近には温度センサが設置されるが、ここでは図示を省略している。
【0052】
昇温した空気Aが非高度清浄域S2を上昇する際、給気チャンバ14の側壁15や、垂壁16が非高度清浄域S2を囲んで鉛直の逆向き槽のような役割を果たし、アップフローに機器2の発熱による上昇流が加わった空気Aは、この逆向き槽状の空間で温度成層を形成しながらゆっくりと上方へ運搬される。ここで、非高度清浄域S2の平面積が高度清浄域S1の平面積と同等以上に設定されていると、全体としてゆっくりした空気Aの流れが形成されやすく、安定した温度成層が形成されやすい。
【0053】
この温度成層の下方における空気Aの温度は、機器2からの排熱を受け取りつつも周辺の冷えた空気Aと混合するため、25℃前後である。温度成層の上方においては、上述の如く30℃程度である。
【0054】
また、垂壁16は、高度清浄域S1と非高度清浄域S2との間を隔てることで、送風ユニット8から高度清浄域S1に供給されて間もない清浄且つ比較的低温の空気Aに、非高度清浄域S2内の空気Aが混合することを抑える機能をも担っている。送風ユニット8から下方へ向かう空気Aの流れと、機器2の近傍から上方へ向かう空気Aの流れを垂壁16により分割することで、非高度清浄域S2内の空気Aの状態(温度や清浄度)が、高度清浄域S1内の空気Aの状態に大きく影響することを防いでいるのである。
【0055】
尤も、高度清浄域S1に面する位置にある程度の数の送風ユニット8を配置し、空気Aの送風量を確保すれば、仮に垂壁16を設置しないとしても、高度清浄域S1においてはある程度強いダウンフローが形成されるので、一定の清浄度を保つことは可能である。ただし、高度清浄域S1における清浄度をより確実に保持するためには、やはり垂壁16を設置することが好ましい。また、垂壁16は、高度清浄域S1と非高度清浄域S2との空気Aの温度差を確保するという点においても有用である。後述するように、空気Aの循環の観点から、両領域間における空気Aの温度差はある程度高く保たれている方が有利である。
【0056】
非高度清浄域S2の上方に設けられた給気チャンバ14の側面15bには、冷却ユニット11が設けられており、非高度清浄域S2の上方で熱溜まりを形成する30℃程度の空気Aは、冷却ユニット11にて冷却されつつ給気チャンバ14に吸い込まれる。冷却ユニット11に供給される冷媒Wの温度は、冷媒往き配管12で15℃であり、空気Aは冷媒Wと熱交換して20℃の吹出温度あるいはそれ以下まで冷却される。冷媒Wは、空気Aとの熱交換の結果、温度が上昇し、冷媒還り配管13では20℃程度となる。こうして、空気Aは20℃程度の温度で給気チャンバ14へ戻され、送風ユニット8から高度清浄域S1へ再度供給される。尚、空気Aは送風ユニット8においてファンの発熱を受け取ることになるが、その熱量は微々たるものであり、送風ユニット8における吹出温度はほぼ20℃(冷却ユニット11における吹出温度)のままである。
【0057】
以上の如き空気Aの循環は、主に送風ユニット8におけるファンの動作により駆動されるが、このほかに、空気Aの比重差も機能する。すなわち、高度清浄域S1には20℃程度の空気Aが供給される一方、非高度清浄域S2には25℃前後~30℃程度の相対的に高温で比重の小さい空気Aが位置することになり、こうした比重の差が手伝って、高度清浄域S1から垂壁16の下方を回り込んだ空気Aが、非高度清浄域S2において垂壁16や給気チャンバ14の側壁15に囲まれた空間内を上昇することになるのである。
【0058】
このように、本実施例の空調システムでは、
図12~
図14に示す上記従来例とは各所における空気Aの温度や冷媒Wの温度が異なっており、空調システム全体の平均温度を上記従来例と比較して底上げしつつ、機器2周囲の温度は非高度清浄域S2においては25℃前後とし、高度清浄域S1に面する前面部2aでは23℃程度の適温を保つような制御が可能となっている。こうした温度設定は、対象空間S全体における排熱量を基準として設定温度を決め、対象空間S全体の温度を一律に管理するのではなく、対象空間S内に空気Aの温度が相対的に高い領域と低い領域を設定し、特に冷却を要する領域(本実施例の場合は、機器2の周辺、特に前面部2a付近)をその他の領域(本実施例の場合は、非高度清浄域S2の上方)よりも上流側とすることで実現されている。
【0059】
こうすることにより、図示しない冷熱源では冷媒往き配管12における冷媒Wの設定温度を上記従来例と比較して高くすることができるため(従来例では入口温度が10℃、出口温度が15℃。本実施例では入口温度が15℃、出口温度が20℃)、凝縮器にて排熱を熱交換する外気が高温の場合でも、蒸発器における冷媒Wの温度が例えば比較して5℃高くてよいので、冷凍サイクルを実現する圧縮機の仕事が小さくなり、冷熱源における冷媒Wの冷却効率が向上し、冷却に必要なエネルギーが小さくなる。また、冷熱源においてフリークーリングの可能な期間も拡大される(すなわち、従来例では外気が10℃を大幅に下回る条件でのみ熱交換が可能であったのが、本実施例では10℃以上13℃未満の条件下でも可能になる)ため、併せて大幅な省エネルギー効果を見込める。
【0060】
空気Aの循環を駆動するエネルギーに関しても、本実施例では空気Aの比重差により駆動される割合が大きくなっており、ここでも省エネルギー効果を得ることができる。すなわち、上記従来例では空気Aの吹出温度は約15℃、機器2の排熱を受け取った後の温度は23℃前後であり、温度差は8℃程度であったが、本実施例では、空気Aの吹出温度は約20℃、非高度清浄域S2の上方で熱溜まりを形成する空気Aの温度は30℃程度であり、温度差は10℃程度である。空気Aの比重差は温度差に比例するため、本実施例の場合、上述の如き空気Aの比重差による駆動力が大きくなる分、送風ユニット8において、空気Aの循環に必要なファンの駆動エネルギーが小さく済む。
【0061】
ここで、風路である給気チャンバ14の入口(本実施例において冷却ユニット11を設置した部分)が天井3の直下に設置されていると、非高度清浄域S2の上方で熱溜まりを形成する30℃程度の温度の高い空気Aを給気チャンバ14の入口から定常的に吸い込み、冷却することになる。冷熱を運搬する空気Aの温度差が、上記従来例では8℃だったところ、本実施例では10℃の大温度差となるので、同じ熱量を運搬するのに必要な風量は8/10となり、送風量を2割も減らすことができる。また、比重差による駆動力を得る上でもより有利である。
【0062】
また、全体的に空気Aの温度が高くなっていることは、空気Aの除湿を防止する上でも好都合である。上に説明したように、1気圧の条件下で23℃における相対湿度が45%の空気Aを想定した場合、露点温度は10℃程度であるが、本実施例の空調システムでは、最も温度が低い冷却ユニット11における冷媒Wの入口温度が15℃であるので、冷却ユニット11を構成するコイルチューブの表面温度が空気Aの露点温度を下回ることはなく、前記コイルチューブの表面で空気A中の水蒸気が凝縮して空気Aが除湿されるような事態はほぼ生じない。
【0063】
また、上述の如き温度管理に関するエネルギー面での利点と同時に、本実施例の空調システムは、清浄度の管理においても品質及びコストの面で利点を有している。すなわち、本実施例では、上述の如く対象空間Sのうち高度清浄域S1に送風ユニット8からの空気Aを集中して供給することで、大きい空間内の空気Aを一律に清浄化する場合と比較して必要な送風ユニット8の設置台数を減らすことも可能である。こうして、空気の清浄化にかかるコストを節減しながら、高度清浄域S1では高い清浄度を実現しているのである。
【0064】
この際、空気清浄の対象空間Sとして、仕切りのない大空間を設定できることも本実施例における利点の一つである。送風ユニット8の集中配置により、床1上に仕切りがなくとも局所的に清浄度の高い高度清浄域S1を設定することができ、大空間である対象空間Sを利用する上で高い清浄度と自由度を両立できるのである。ここで、高度清浄域S1と非高度清浄域S2との境界の床1や機器2よりも上の位置に垂壁16を設置すれば、高度清浄域S1においては清浄度に関して一層高い信頼性を保ちつつ、床1上における機器2のレイアウト変更等には柔軟に対応することができる。
【0065】
ここで、クリーンルームにおける被加工物の加工においては、各工程間での時間調整等のために、一時的に被加工物を対象空間内の一部にストックする必要が生じる場合がある。この被加工物のストック場所に関し、間仕切り式の古い型のクリーンルームでは、例えば垂直棚式のストッカーを対象空間の床上に備えるようにしていたが、本実施例の如き搬送装置5を採用したクリーンルームの場合、搬送レール6にストック用の待避線を設け、ストッカーの機能を搬送装置5に代替させることが可能である。こうすることで、床上に間仕切りを備えることによる機器配置自由度の低下や、高価な床上搬送のイニシャルコストを削減することに成功している。
【0066】
尤も、搬送装置5にも移設に関する不自由さがあることは否めない。つまり、搬送レール6は天井3から吊られて強固に固定されており、これを清浄度に影響しないよう配置を変更したり、移設する工事には手間やコストが嵩む。このため、結局、被加工物4の搬送ルートはある程度固定化されるし、また、機器2の配置も搬送レール6の配置によって影響される。したがって、本実施例においても、対象空間Sにおける高度清浄域S1の位置はある程度固定されることになる。しかしながら、本実施例では、ある程度固定された高度清浄域S1に対し、送風量に応じた台数の送風ユニット8を発熱も考慮しながら自在に設置できるという点で、上記従来例と比較して有利である。また、非高度清浄域S2の中では、機器2の配置転換は自由にできる。
【0067】
さらに、本実施例では、上記従来例の如きレタンシャフト10(
図12参照)を不要とし、対象空間Sをより有効に利用することができるようになっている。すなわち、上記従来例においては、対象空間Sに供給した空気Aを床下空間から天井裏空間へ戻すためのレタンシャフト10が必要であり、このレタンシャフト10の分だけ無駄な空間が生じて対象空間Sの利用効率が低下していた。一方、本実施例の場合、対象空間Sのうち高度清浄域S1に送られた空気Aは、同じ対象空間S内の別の領域である非高度清浄域S2内を上昇して給気チャンバ14へ戻る。いわば、給気チャンバ14の各側壁15や垂壁16、及びそれらに囲まれた非高度清浄域S2がレタンシャフト10の代わりをする形であるが、給気チャンバ14の側壁15や垂壁16は上述の如く床1より上にあり、垂壁16の寸法は機器2の移動を妨げないように設定されている。よって、これらが対象空間Sの利用に関して自由度を下げることはない。こうして、本実施例においては、維持に多くのコストを要する清浄な空間の利用効率を高めている。
【0068】
また、実施例の空調システムでは、高度清浄域S1でのダウンフローの後、境界域の垂壁16などをくぐって非高度清浄域S2におけるアップフローへ転換する流れにより、床下空間を経ることなく空気Aが循環される。上記従来例においては、古い型のクリーンルームと比べれば少ない風量で、空気Aを確実に循環させるために、上げ床1aの開孔9から床下空間に空気Aを引き込んで下向きの気流を形成していた。これに対し、本実施例では空気Aの循環に床下空間を利用する必要がない。よって、床下空間を別の用途、例えば機器2の補機を設置する専用のエリアや、何らかの作業用の空間等として利用することができる。あるいは、
図1~
図3では床1を上げ床として図示しているが、クリーンルームの用途等によっては上げ床を設けず、スラブ床の床面、あるいは上げ床とせずにスラブ床の床面に沿って設けた床面をそのまま床1として利用することも可能である。また、上記従来例では開孔9からの吸込み気流の調整に手間がかかっていたが、こうした操作も不要となる。
【0069】
また、本実施例においては、送風ユニット8の配置により、対象空間Sをいっそう有効に利用できるようにしている。
図12~
図14に示した従来例では、清浄な空気Aのダウンフローを形成するため、送風ユニット8から下向きに空気Aを送り出すようにしていたが、このようにした場合、送風ユニット8の上側にある程度の空間(メンテナンス等のために人が立ち入れる程度の空間)を要するため、スラブ面より下方に吊り天井3aを設置し、ここに送風ユニット8を配置する必要があった。このため、吊り天井3aから上にあたる空間は高度清浄域として利用できず、クリーンルームの利用効率を阻害していた。また、送風ユニット8の重量を支持するためには、吊り天井3aやその支持具に相応の強度が必要であり、工事費が嵩む要因ともなっていた。
【0070】
一方、本実施例の場合、送風ユニット8を向かい合わせに配置し、高度清浄域S1の上方空間に対し横向きに空気Aを送り出し、空気A同士を衝突させてダウンフローを形成するようにしている。このようにすると、送風ユニット8を設置するにあたり、上記従来例のように吊り天井3aを設ける必要がなく、上方のスラブ面に沿った天井3の直下のわずかな気流方向転換場所である上方空間の下空間全てをも高度清浄域S1として有効に利用することができる。例えば
図3に示すように、搬送装置5を上下に複数段(ここに示す例では、2段)にわたって設置することも可能であるし、あるいはまた、天井が低く吊り天井の設置が難しい部屋であっても、高度清浄域を設定した効率的なクリーンルームとして利用することができる。また、送風ユニット8の重量を支持し得るような高い強度の吊り天井を設置する必要がないので、工事費も節減することができる。尚、本実施例の場合、従来例の吊り天井3aと類似する構造として給気チャンバ14の底面を備えているが、給気チャンバ14には送風ユニット8のような重量物を設置する必要がないので、従来例に示すような吊り天井3aと比較すれば必要な強度は低く、工事費は安く済ませることができる。また、給気チャンバ14の代わりに、
図5に示すように風路として給気ダクト17を備えた場合には、工事費をいっそう節減することが可能である。
【0071】
送風ユニット8から送り出される空気Aの詳細な流れの一例を
図6、
図7に示す。
図6、
図7は、それぞれある鉛直断面における各部の空気Aの流れをシミュレーションした結果を矢印にて示しており、
図6は機器2同士の隙間にあたる断面を、
図7は機器2の位置する断面をそれぞれ示している。尚、ここに示した例における装置の配置は、
図1~
図5に示した例とは若干異なっており、冷却ユニット11は給気チャンバ14の側面ではなく、背面側に備えられている。
【0072】
空気Aは、対向する送風ユニット8からそれぞれ高度清浄域S1の上方空間に送り出されるが、空気Aの送り出される空間(高度清浄域S1の上部)のうち、空気Aの流れにとって前方には、対向する送風ユニット8から送り出される空気Aの流れがあり、側方には、隣接する送風ユニット8から送り出される空気Aの流れがある(
図1~
図4参照)。また、上方には天井3が位置している。したがって、空気Aの流れは、互いに対向する送風ユニット8同士の中間の位置で衝突した後、下方へ向きを変えてダウンフローを形成する。結果として、
図6、
図7に示す如く、上に説明したような空気Aの循環(給気チャンバ14から送風ユニット8を通って高度清浄域S1に横向きに供給され、高度清浄域S1内を下方へ向かい、垂壁16の下側や機器2の隙間を通って非高度清浄域S2に抜け、上昇して給気チャンバ14へ戻る)が成立する。
【0073】
尚、送風ユニット8から空気Aを送り出す向きは、水平方向と正確に一致している必要はない。空気Aの向きに関し、ここでいう「横向き」とは、空気Aの動きのベクトルが水平方向の成分を含んでいるという程度の意味であり、結果的にダウンフローを形成することができれば、送風ユニット8の設置される姿勢や空気Aの送り出される向きは適宜変更し得る。例えば、送風ユニット8は斜め下を向くように配置し、向かい合う送風ユニット8からそれぞれ斜め下に送り出された空気Aが各送風ユニット8の斜め下で互いに衝突し、ダウンフローを形成するようにしてもよい。
【0074】
ここで、
図2に示す如く、ある向きに沿って伸びる高度清浄域S1の両側に送風ユニット8が並んでいるような場所では、上述の如き空気Aの流れが問題なく形成されると考えられるが、クリーンルーム内の構成によっては、単純にこのような形で送風ユニット8を配置するとダウンフローがうまく形成されない事態も想定できる。例えば
図8に参考例として示すように、平面視において高度清浄域S1が交差する領域(交差部Cとする)が存在する場合、高度清浄域S1の伸びる方向に沿って送風ユニット8を配置すると、交差部Cにおいて向かい合う送風ユニット8がないため、ここには十分なダウンフローが形成されない虞がある。こういった場合は、
図9に示すように、交差部C近傍に位置する送風ユニット8の一部を交差部Cに面するように配置し、そこから交差部Cの中央部に空気Aを送り出すようにする。このようにすれば、交差部Cにおいても、対向する送風ユニット8から送り出される空気A同士を衝突させ、効率よくダウンフローを形成することができる。
【0075】
また、上では向かい合わせに配置した送風ユニット8から送り出される空気A同士を衝突させる場合を説明したが、このように空気A同士を直接衝突させなくとも、流れを誘導してダウンフローを形成することは可能である。例えば
図10に示すように、送風ユニット8の吹出口と対向するように、空気Aを誘導するための誘導板として鉛直方向に沿った面をなす邪魔板18を設け、空気Aを邪魔板18に衝突させて下方へ誘導してもよい。あるいは、
図11に示すように、送風ユニット8を壁19と対向するように設置し、空気Aを壁19に衝突させて下方へ誘導することもできる(この場合は、壁19が誘導板として機能することになる)。尚、
図8、
図9のように交差部Cに面するように送風ユニット8を配置する場合、例えば交差部C内に
図10に示すような邪魔板18を設けるようにしてもよい(図示は省略する)。
【0076】
尚、本実施例では特に清浄度を高く保つべき対象として半導体ウエハや基板等である被加工物4を想定し、該被加工物4の搬送や受け渡しが行われる搬送レール6に沿った領域を高度清浄域S1と設定しているが、高度清浄域S1の形状や構成はこれに限定されない。本明細書中では上述の如く、「対象空間Sのうち、他の領域と比較して高い清浄度が要求される領域」を高度清浄域S1と定義しているが、対象空間Sの用途等によっては、本実施例の如き搬送レール6の周辺以外にも種々の「他の領域と比較して高い清浄度が要求される領域」を高度清浄域S1として設定し得る。また、高度清浄域S1の配置は当然、対象空間S自体の形状によっても異なってくる。高度清浄域の配置や構成等は、こうした様々な場合に応じて設定されるものであって、
図1~
図4や
図9等に示した例とは異なる構成の種々の高度清浄域が想定され得ることは勿論である。
【0077】
以上のように、本実施例のクリーンルームの空調システムは、対象空間Sのうち、他の領域に比べて高い清浄度の要求される領域を高度清浄域S1に設定すると共に、該高度清浄域S1以外の領域を非高度清浄域S2に設定し、対象空間Sの上方に吊られて設置され対象空間Sに浄化した空気Aを供給する送風ユニット8は、高度清浄域S1の上方空間に対し横向きに空気Aを送り出すように設置され、横向きに送り出された空気Aは該上方空間にて下方へ曲げられ前記高度清浄域S1に向かい、前記高度清浄域S1に供給された空気Aは前記高度清浄域S1を下降してから非高度清浄域S2に至り、該非高度清浄域S2内を上昇して前記送風ユニット8に戻るよう構成されている。このようにすれば、空気Aの清浄化に係るコストを節減すると共に、高度清浄域S1では高い清浄度を実現することができる。また、空間を有効に利用しつつ、高度清浄域S1に対し空気Aをダウンフローにて供給することができる。
【0078】
また、上記実施例においては、高度清浄域S1と非高度清浄域S2との間における床1より上方の位置に、下向き方向に沿って延びる垂壁16が設け、前記送風ユニット8は、吹出し面を前記垂壁16に開設した開口に位置させて設置している。このようにすれば、高度清浄域S1を送風ユニット8から下方へ向かう空気Aの流れと、非高度清浄域S2を上方へ向かう空気Aの流れを垂壁16で分割することにより、非高度清浄域S2内の空気Aの状態が、高度清浄域S1内の空気Aの状態に大きく影響することを防ぐことができる。
【0079】
また、上記実施例においては、前記垂壁16の下向き方向は、鉛直を含む鉛直に対し45度以内の傾斜である。
【0080】
また、上記実施例においては、前記垂壁16を下向き方向に沿って延ばす位置は、前記高度清浄域S1と前記非高度清浄域S2との境界位置、または前記非高度清浄域S2側へセットバックした位置に設けている。
【0081】
また、上記実施例においては、高度清浄域S1の上方空間を挟んで対向するように送風ユニット8が配置され、送風ユニット8から送り出される空気Aが互いに衝突し上方空間にて下方へ曲げ合い、前記高度清浄域S1においてダウンフローを形成するよう構成している。
【0082】
また、一部の例においては、送風ユニット8に前記高度清浄域S1の上方空間を挟んで対向するように誘導板18,19が設置され、送風ユニット8から送り出される空気Aが誘導板18,19に衝突し上方空間にて下方へ曲げられ、前記高度清浄域S1においてダウンフローを形成するよう構成している。
【0083】
また、上記実施例においては、非高度清浄域S2における機器2より上方の位置に、風路としての給気チャンバ14が画成され、前記送風ユニット8は、前記給気チャンバ14内の空気Aを高度清浄域S1の上方空間へ供給するよう、前記給気チャンバ14の高度清浄域S1に面する側壁15に設置され、前記給気チャンバ14は、送風ユニット8の吸込み口から前記非高度清浄域S2で形成された温度成層上部の温かい空気の流れを遠ざけて対象空間内の空気の縦循環を大きく円滑にする空間であり、前記非高度清浄域S2内の空気Aは、前記給気チャンバ14に冷却されて貯留され、前記送風ユニット8から前記高度清浄域S1に供給されるようにしている。
【0084】
また、一部の例においては、前記非高度清浄域S2における機器2より上方の位置に、該非高度清浄域S2内を上昇して前記送風ユニット8に戻る空気Aが通る風路となる給気ダクト17を設置し、前記給気ダクト17入口に冷却ユニット11を設け、前記非高度清浄域S2内の空気Aは、冷却されて前記給気ダクト17を通り、前記送風ユニット8から前記高度清浄域S1に供給されるようにしている。
【0085】
また、一部の例においては、高度清浄域S1の交差部Cに面する送風ユニット8を、平面視において交差部Cの中央部に向けて空気Aを送り出すように配置している。このようにすれば、交差部Cにおいても、効率よくダウンフローを形成することができる。
【0086】
また、上記実施例において、対象空間Sには、被加工物4を搬送する搬送装置5を構成する搬送レール6が設置されており、高度清浄域S1として、搬送レール6の周辺の領域が設定されている。
【0087】
したがって、上記各実施例によれば、対象空間内において要求される温度と清浄度を満足しつつ、コストの増大を抑え、省エネルギーと共に対象空間の有効利用を図り得る。
【0088】
尚、本発明のクリーンルームの空調システムは、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0089】
1 床
2 機器
4 被加工物
5 搬送装置
6 搬送レール
8 送風ユニット
11 冷却ユニット
14 風路(給気チャンバ)
16 垂壁
17 風路(給気ダクト)
18 誘導板(邪魔板)
19 誘導板(壁)
A 空気
C 交差部
S 対象空間
S1 高度清浄域
S2 非高度清浄域