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特許7474702エキソソームから単離されたDNAにおけるエピジェネティック変化の同定法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-17
(45)【発行日】2024-04-25
(54)【発明の名称】エキソソームから単離されたDNAにおけるエピジェネティック変化の同定法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6886 20180101AFI20240418BHJP
   C12Q 1/6883 20180101ALI20240418BHJP
【FI】
C12Q1/6886 Z
C12Q1/6883 Z
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2020551828
(86)(22)【出願日】2019-03-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-10
(86)【国際出願番号】 US2019024584
(87)【国際公開番号】W WO2019191429
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2022-03-24
(31)【優先権主張番号】62/649,042
(32)【優先日】2018-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500039463
【氏名又は名称】ボード オブ リージェンツ,ザ ユニバーシティ オブ テキサス システム
【氏名又は名称原語表記】BOARD OF REGENTS,THE UNIVERSITY OF TEXAS SYSTEM
【住所又は居所原語表記】210 West 7th Street Austin,Texas 78701 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】カルリ ラグー
【審査官】田中 晴絵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/043724(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/153732(WO,A2)
【文献】国際公開第2017/087560(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/139192(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0292866(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0301045(US,A1)
【文献】Yamamoto H et al.,BARHL2 Methylation Using Gastric Wash DNA or Gastric Juice Exosomal DNA is a Useful Marker For Early Detection of Gastric Cancer in an H. pylori-Independent Manner,Clinical and Translational Gastroenterology,2016年,7,e184,1-11
【文献】Bock C et al.,Genome-wide mapping of DNA methylation: a quantitative technology comparison,Nature Biotechnol,2010年,28(10),1106-1114
【文献】Lu H et al.,Elevated glypican-1 expression is associated with an unfavorable prognosis in pancreatic ductal adenocarcinoma,Cancer Medicine,2017年,6(6),1181-1191
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/68- 1/6897
C12N 15/00-15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)患者から得た体液試料のエキソソーム画分を単離する工程;および
(b)該エキソソーム画分に存在する、少なくとも1つのDNA分子のメチル化状態もしくはヒドロキシメチル化状態を決定する工程であって、該メチル化状態が疾患状態のメチル化状態である場合に、該患者が疾患を有すると検出されることを補助する、該工程
を含む、患者における疾患検出を補助する方法であって、
前記メチル化状態もしくはヒドロキシメチル化状態が、グローバルメチル化フィンガープリントもしくはグローバルヒドロキシメチル化フィンガープリントであり、かつ
前記決定する工程が、RRBS(reduced representation bisulfite sequencing)を行うことを含む、
前記方法。
【請求項2】
前記メチル化状態もしくはヒドロキシメチル化状態が、単一のゲノム遺伝子座におけるメチル化状態もしくはヒドロキシメチル化状態である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記メチル化状態もしくはヒドロキシメチル化状態が、少なくとも2種類、少なくとも3種類、少なくとも4種類、少なくとも5種類、少なくとも6種類、少なくとも7種類、少なくとも8種類、少なくとも9種類、少なくとも10種類、少なくとも11種類、少なくとも12種類、少なくとも13種類、少なくとも14種類、少なくとも15種類、少なくとも20種類、少なくとも25種類、少なくとも30種類、少なくとも35種類、少なくとも40種類、少なくとも45種類、もしくは少なくとも50種類のゲノム遺伝子座におけるメチル化状態もしくはヒドロキシメチル化状態である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記メチル化状態もしくはヒドロキシメチル化状態が高度メチル化である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記メチル化状態もしくはヒドロキシメチル化状態が低メチル化である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記決定する工程が、前記メチル化状態を、前記疾患に関連することが分かっているメチル化状態と比較することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記患者が寛解期にあり、かつ前記方法が再発検出を補助する方法である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記体液試料が、血液、リンパ液、唾液、痰、尿、脳脊髄液、骨髄吸引液、眼滲出物/涙、または血清である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記疾患が、がん、遺伝子インプリンティング障害、神経障害、自己免疫疾患、または代謝障害である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記疾患ががんであり、前記方法が、前記エキソソーム画分からグリピカン1含有エキソソームを単離する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記がんが、乳がん、肺がん、頭頸部がん、前立腺がん、食道がん、気管がん、脳がん、肝臓がん、膀胱がん、胃がん、膵臓がん、卵巣がん、子宮がん、子宮頸がん、精巣がん、結腸がん、直腸がん、または皮膚がんである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記疾患の検出を報告する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
報告する工程が、書面のまたは電子的な報告書を作成することを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記患者、医師、病院、または保険会社に前記報告書を提供する工程をさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記患者がヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
二度目の前記方法を行う工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記二度目が、前記方法の最初の実施の少なくとも1日後、少なくとも1週間後、または少なくとも1か月後である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記膵臓がんが膵管腺がんである、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の参照
本願は、全内容が参照により本明細書に組み入れられる、2018年3月28日に出願された米国特許仮出願第62/649,042号の優先権恩典を主張する。
【0002】
1.分野
本発明は全体として医学および腫瘍学の分野に関する。さらに詳細には、本発明は、エキソソームDNA中のメチル化マークの検出に関する。なおさらに詳細には、本発明は、バイオマーカー分析および疾患処置におけるエキソソームDNA中のメチル化マークの検出に関する。
【背景技術】
【0003】
2.関連技術の説明
エピゲノミクス、すなわち、細胞の遺伝物質上の完全な一組のエピジェネティック修飾の研究によって、エピジェネティック修飾(例えば、DNAメチル化)が哺乳動物の発生および疾患において役割を果たしている可能性があることが明らかになった。例えば、DNAメチル化は、転写活性、クロマチン構造、およびクロマチン安定性の調節により胚発生、ゲノムインプリンティング、およびX染色体不活性化に結び付けられている(Robertson, 2005)。遺伝子プロモーター領域におけるDNAメチル化増大(高度メチル化)は転写サイレンシングと関連付けることができるのに対して、プロモーター領域におけるメチル化減少(低メチル化)は遺伝子活性の増大と関連付けることができる。異常なメチル化パターンは腫瘍形成および進行を含む様々なヒト病態と関連付けることができる(Feinberg and Fogelstein, 1983; Esteller, 2007; Jones and Paylin, 2007)。従って、ヒトゲノム全体にわたるDNAメチル化状態の分析は関心対象となり得る。
【発明の概要】
【0004】
概要
従って、本発明は、ヒト血清試料から単離されたエキソソーム中に見出されるゲノムDNAのエピジェネティック変化を分析および検出する方法を提供する。一態様では、患者において疾患を診断するための方法が提供され、該方法は、(a)患者から体液試料を得る工程;(b)体液試料のエキソソーム画分を単離する工程;および(c)エキソソーム画分に存在する、少なくとも1つのDNA分子のメチル化状態もしくはヒドロキシメチル化状態、またはヒストンの修飾を判定する工程であって、メチル化状態が疾患状態のメチル化状態もしくはヒドロキシメチル化状態に対応する場合に患者が疾患を有すると診断される、工程を含む。
【0005】
一部の局面では、メチル化状態もしくはヒドロキシメチル化状態は、単一のゲノム遺伝子座におけるメチル化状態もしくはヒドロキシメチル化状態である。一部の局面では、メチル化状態もしくはヒドロキシメチル化状態は、少なくとも2種類、少なくとも3種類、少なくとも4種類、少なくとも5種類、少なくとも6種類、少なくとも7種類、少なくとも8種類、少なくとも9種類、少なくとも10種類、少なくとも11種類、少なくとも12種類、少なくとも13種類、少なくとも14種類、少なくとも15種類、少なくとも20種類、少なくとも25種類、少なくとも30種類、少なくとも35種類、少なくとも40種類、少なくとも45種類、もしくは少なくとも50種類のゲノム遺伝子座におけるメチル化状態もしくはヒドロキシメチル化状態である。一部の局面では、メチル化状態もしくはヒドロキシメチル化状態は、グローバルメチル化フィンガープリントもしくはグローバルヒドロキシメチル化フィンガープリントである。一部の局面では、メチル化状態もしくはヒドロキシメチル化状態は高度メチル化である。一部の局面では、メチル化状態もしくはヒドロキシメチル化状態は低メチル化である。
【0006】
一部の局面では、判定する工程は、RRBS(reduced representation bisulfite sequencing)を行うことを含む。一部の局面では、判定する工程は、メチル化状態を、疾患に関連することが分かっているメチル化状態と比較することを含む。
【0007】
一部の局面では、患者は寛解期にあり、前記方法は、再発を検出する方法である。一部の局面では、体液試料は、血液、リンパ液、唾液、痰、尿、脳脊髄液、骨髄吸引液、眼滲出物/涙、または血清である。
【0008】
一部の局面では、疾患は、エピジェネティック変化に関連することおよび/またはエピジェネティック変化によって引き起こされることが分かっている疾患である。一部の局面では、疾患は、がん、遺伝子インプリンティング障害、神経障害、自己免疫疾患、または代謝障害である。ある特定の局面では、疾患はがんであり、前記方法は、エキソソーム画分からグリピカン1含有エキソソームを単離する工程をさらに含む。ある特定の局面では、がんは、乳がん、肺がん、頭頸部がん、前立腺がん、食道がん、気管がん、脳がん、肝臓がん、膀胱がん、胃がん、膵臓がん、卵巣がん、子宮がん、子宮頸がん、精巣がん、結腸がん、直腸がん、または皮膚がんである。一部の局面では、遺伝子インプリンティング障害は、アンジェルマン症候群、プラダー・ウィリー症候群、またはベックウィズ・ウィーデマン症候群である。一部の局面では、神経障害は、アルツハイマー病、自閉症、脆弱X症候群、ハンチントン病、パーキンソン病、統合失調症、ATR-X症候群、ICF症候群、BWS、レット症候群、αサラセミア、ルビンシュタイン・テイビ症候群、またはコフィン・ローリー症候群である。一部の局面では、自己免疫疾患は全身性エリテマトーデスまたは慢性関節リウマチである。一部の局面では、代謝障害は2型糖尿病である。
【0009】
一部の局面では、前記方法は、治療用物質を患者に投与する工程をさらに含む。ある特定の局面では、疾患はがんであり、治療用物質は抗がん療法である。一部の局面では、患者はヒトである。一部の局面では、前記方法は、二度目の前記方法を行う工程をさらに含む。ある特定の局面では、二度目は、前記方法の最初の実施の少なくとも1日後、少なくとも1週間後、または少なくとも1か月後である。
【0010】
一部の局面では、前記方法は、患者の診断を報告する工程をさらに含む。ある特定の局面では、報告する工程は、書面のまたは電子的な報告書を作成することを含む。ある特定の局面では、患者、医師、病院、または保険会社に報告書を提供することをさらに含む。
【0011】
本明細書で使用する「本質的に含まない」とは指定された成分の観点からいうと、指定された成分がどれも、意図を持って組成物中に製剤化されていないこと、および/または単に汚染物質として、もしくは微量に存在することを意味するために本明細書において用いられる。従って、組成物の意図されない汚染に起因する、指定された成分の総量は、0.01%よりかなり少ない。指定された成分の量を標準的な分析方法を用いて検出できない組成物が最も好ましい。
【0012】
本明細書で使用する「1つの(a)」または「1つの(an)」とは1つまたは複数を意味することがある。本明細書中の特許請求の範囲において使用する場合、「含む(comprising)」という単語と共に用いられる場合には、「1つの(a)」または「1つの(an)」という単語は1つまたは複数を意味することがある。
【0013】
特許請求の範囲における「または」という用語の使用は、選択肢だけを指すか、または選択肢が互いに相容れないことを指すと明示されていない限り「および/または」を意味するために用いられるが、この開示は、選択肢だけと「および/または」を指す定義を裏付ける。本明細書で使用する「別の」とは少なくとも第2の、またはそれより多くを意味することがある。
【0014】
本願全体を通して「約」という用語は、ある値が、この値を求めるために用いられている装置、方法の誤差の固有の変動、または試験対象間に存在するばらつきを含むことを示すために用いられる。
【0015】
[本発明1001]
(a)患者から体液試料を得る工程;
(b)該体液試料のエキソソーム画分を単離する工程;および
(c)該エキソソーム画分に存在する、少なくとも1つのDNA分子のメチル化状態もしくはヒドロキシメチル化状態、またはヒストンの修飾を判定する工程であって、該メチル化状態が疾患状態のメチル化状態に対応する場合に該患者が疾患を有すると診断される、該工程
を含む、患者において疾患を診断する方法。
[本発明1002]
前記メチル化状態もしくはヒドロキシメチル化状態が、単一のゲノム遺伝子座におけるメチル化状態もしくはヒドロキシメチル化状態である、本発明1001の方法。
[本発明1003]
前記メチル化状態もしくはヒドロキシメチル化状態が、少なくとも2種類、少なくとも3種類、少なくとも4種類、少なくとも5種類、少なくとも6種類、少なくとも7種類、少なくとも8種類、少なくとも9種類、少なくとも10種類、少なくとも11種類、少なくとも12種類、少なくとも13種類、少なくとも14種類、少なくとも15種類、少なくとも20種類、少なくとも25種類、少なくとも30種類、少なくとも35種類、少なくとも40種類、少なくとも45種類、もしくは少なくとも50種類のゲノム遺伝子座におけるメチル化状態もしくはヒドロキシメチル化状態である、本発明1002の方法。
[本発明1004]
前記メチル化状態もしくはヒドロキシメチル化状態が、グローバルメチル化フィンガープリントもしくはグローバルヒドロキシメチル化フィンガープリントである、本発明1001の方法。
[本発明1005]
前記メチル化状態もしくはヒドロキシメチル化状態が高度メチル化である、本発明1001の方法。
[本発明1006]
前記メチル化状態もしくはヒドロキシメチル化状態が低メチル化である、本発明1001の方法。
[本発明1007]
前記ヒストン修飾がメチル化、アセチル化、またはリン酸化である、本発明1001の方法。
[本発明1008]
前記判定する工程が、RRBS(reduced representation bisulfite sequencing)を行うことを含む、本発明1001の方法。
[本発明1009]
前記判定する工程が、前記メチル化状態を、前記疾患に関連することが分かっているメチル化状態と比較することを含む、本発明1001の方法。
[本発明1010]
前記患者が寛解期にあり、かつ前記方法が再発を検出する方法である、本発明1001の方法。
[本発明1011]
前記体液試料が、血液、リンパ液、唾液、痰、尿、脳脊髄液、骨髄吸引液、眼滲出物/涙、または血清である、本発明1001の方法。
[本発明1012]
前記疾患が、がん、遺伝子インプリンティング障害、神経障害、自己免疫疾患、または代謝障害である、本発明1001の方法。
[本発明1013]
前記疾患ががんであり、前記方法が、前記エキソソーム画分からグリピカン1含有エキソソームを単離する工程をさらに含む、本発明1001の方法。
[本発明1014]
前記がんが、乳がん、肺がん、頭頸部がん、前立腺がん、食道がん、気管がん、脳がん、肝臓がん、膀胱がん、胃がん、膵臓がん、卵巣がん、子宮がん、子宮頸がん、精巣がん、結腸がん、直腸がん、または皮膚がんである、本発明1013の方法。
[本発明1015]
治療的有効量の治療用物質を前記患者に投与する工程をさらに含む、本発明1001の方法。
[本発明1016]
前記疾患ががんであり、前記治療用物質が抗がん療法である、本発明1015の方法。
[本発明1017]
前記患者の診断を報告する工程をさらに含む、本発明1001の方法。
[本発明1018]
報告する工程が、書面のまたは電子的な報告書を作成することを含む、本発明1017の方法。
[本発明1019]
前記患者、医師、病院、または保険会社に前記報告書を提供する工程をさらに含む、本発明1018の方法。
[本発明1020]
前記患者がヒトである、本発明1001の方法。
[本発明1021]
二度目の前記方法を行う工程をさらに含む、本発明1001の方法。
[本発明1022]
前記二度目が、前記方法の最初の実施の少なくとも1日後、少なくとも1週間後、または少なくとも1か月後である、本発明1021の方法。
本発明の他の目的、特徴、および利点は、以下の詳細な説明から明らかになる。しかしながら、詳細な説明および具体的な実施例は本発明の、好ましい態様を示しているが、この詳細な説明から本発明の精神および範囲の中で様々な修正および変更が当業者に明らかになるので例示にすぎないことが理解されるはずである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
以下の図面は本明細書の一部をなし、本発明のある特定の局面をさらに証明するために含まれる。本発明は、これらの図面の1つまたは複数を、本明細書において示された特定の態様の詳細な説明と組み合わせて参照することによってさらに深く理解され得る。
図1】RRBS分析パイプライン。
図2】異なる細胞タイプから細胞DNAおよびエキソソームDNAを単離し、試料に対してバイサルファイト変換を行い、RRBSを行ってDNAに存在するメチル化パターンを決定するための計画。
図3A】エキソソームDNA中のDNAメチル化の検出。図3Aは、RRBS (reduced representation bisulfite sequencing)のために細胞DNAおよびエキソソームDNAを調製するために使用したプロトコールを表した模式図を示す。
図3B】エキソソームDNA中のDNAメチル化の検出。図3Bは、結果として生じたデータの分析を示す。パネルpanc1_Cは、両細胞DNAのCpGメチル化%のヒストグラム(頻度対1塩基当たりのメチル化%)を示す。パネルpanc1_Eは、両エキソソームDNAのCpGメチル化%のヒストグラム(頻度対1塩基当たりのメチル化%)を示す。試料相関を求め、図示した散布図(左下パネル)と相関係数(0.94、ぺルソン(Person) 相関検定)で表した。
図4】Samtools Flagstatを用いて図示したアラインメント率。
図5】FastQCを用いて図示したリード塩基クオリティ(reads base quality)。
図6】FastQCを用いて図示した配列重複レベル(sequence duplication level)。
図7-1】試料間でのPanc1対HPDE相関の分析。
図7-2】試料間でのPanc1対HPDE相関の分析。
図7-3】試料間でのPanc1対HPDE相関の分析。
図7-4】試料間でのPanc1対HPDE相関の分析。
図8】CpGメチル化によってクラスター化された試料。
図9】主成分分析。
図10-1】距離法を用いてクラスター化された試料。
図10-2】距離法を用いてクラスター化された試料。
図11A】全染色体上のメチル化マークの検出。それぞれのバーは、図11Hに示したように染色体を表す。それぞれのグラフは試料を表す。Y軸はCpG_numを示す。図11AはBXPC3である。
図11B】全染色体上のメチル化マークの検出。それぞれのバーは、図11Hに示したように染色体を表す。それぞれのグラフは試料を表す。Y軸はCpG_numを示す。図11BはCapan1である。
図11C】全染色体上のメチル化マークの検出。それぞれのバーは、図11Hに示したように染色体を表す。それぞれのグラフは試料を表す。Y軸はCpG_numを示す。図11CはHPDEである。
図11D】全染色体上のメチル化マークの検出。それぞれのバーは、図11Hに示したように染色体を表す。それぞれのグラフは試料を表す。Y軸はCpG_numを示す。図11DはHPNEである。
図11E】全染色体上のメチル化マークの検出。それぞれのバーは、図11Hに示したように染色体を表す。それぞれのグラフは試料を表す。Y軸はCpG_numを示す。図11EはMiaPaCa2である。
図11F】全染色体上のメチル化マークの検出。それぞれのバーは、図11Hに示したように染色体を表す。それぞれのグラフは試料を表す。Y軸はCpG_numを示す。図11FはPanc1である。
図11G】全染色体上のメチル化マークの検出。それぞれのバーは、図11Hに示したように染色体を表す。それぞれのグラフは試料を表す。Y軸はCpG_numを示す。図11GはPSN1である。
図11H-1】全染色体上のメチル化マークの検出。それぞれのバーは、本図に示したように染色体を表す。それぞれのグラフは試料を表す。Y軸はCpG_numを示す。図11HはT3M4である。
図11H-2】全染色体上のメチル化マークの検出。それぞれのバーは、本図に示したように染色体を表す。それぞれのグラフは試料を表す。Y軸はCpG_numを示す。図11HはT3M4である。
図11H-3】全染色体上のメチル化マークの検出。それぞれのバーは、本図に示したように染色体を表す。それぞれのグラフは試料を表す。Y軸はCpG_numを示す。図11HはT3M4である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
詳細な説明
エキソソームDNAは、DNAバイサルファイトシークエンシングによって同定され、エキソソームを脱落する細胞中に見出される細胞DNAメチル化マークを保存している。従って、液体生検材料(血液、尿、唾液、痰)からのエキソソームDNAの特異なメチル化の検出は、早期疾患検出、鑑別診断、ならびに疾患モニタリングおよび予後予測での新規の精度を提供する。
【0018】
I.エキソソーム
本明細書で使用する「マイクロベシクル」および「エキソソーム」という用語は、直径(または粒子がスフェロイドでない場合は最大の寸法)が約10nm~約5000nm、より典型的には30nm~1000nm、最も典型的には約50nm~750nmであり、エキソソームの膜の少なくとも一部が細胞から直接得られている膜状粒子を指す。最も一般的には、エキソソームのサイズ(平均直径)はドナー細胞のサイズの5%までである。従って、特に意図されるエキソソームには、細胞から脱落したエキソソームが含まれる。
【0019】
エキソソームは、例えば、体液などの任意の適切な試料タイプの中に検出されてもよく、任意の適切な試料タイプから単離されてもよい。本明細書で使用する「単離された」という用語は、天然環境から分離することを指し、少なくとも部分的な精製を含むことが意図され、大幅な精製を含む場合がある。本明細書で使用する「試料」という用語は、本発明によって提供される方法に適した任意の試料を指す。前記試料は、検出または単離に適したエキソソームを含む任意の試料でよい。試料の供給源には、血液、骨髄、胸膜液、腹水、脳脊髄液、尿、唾液、羊水、悪性腹水、気管支肺胞洗浄液、関節液、母乳、汗、涙、滑液、および気管支洗浄液が含まれる。一局面では、前記試料は、例えば、全血またはその任意の画分もしくは成分を含む、血液試料である。本発明と使用するのに適した血液試料は、血球またはその成分を含む公知の任意の供給源、例えば、静脈、動脈、末梢、組織、帯(cord)などから抽出することができる。例えば、試料は、周知の、かつ日常的な臨床方法(例えば、全血を採取および処理するための手法)を用いて入手および処理することができる。一局面では、例示的な試料は、がんがある対象から採取された末梢血でもよい。
【0020】
エキソソームはまた、組織試料、例えば、手術試料、生検試料、組織、糞便、および培養細胞からも単離されてよい。組織供給源からエキソソームを単離する場合に、単一細胞懸濁液を入手し、その後に細胞を溶解してエキソソームを放出するために組織をホモジナイズすることが必要な場合がある。組織試料からエキソソームを単離する場合に、エキソソームを破壊しないホモジナイゼーションおよび溶解の手法を選択することが重要である。本明細書において意図されるエキソソームは、好ましくは、生理学的に許容される溶液、例えば、緩衝食塩水、増殖培地、様々な水性媒体などに溶解した体液から単離される。
【0021】
エキソソームは、新鮮に収集された試料から単離されてもよく、凍結または冷蔵されて保管されていた試料から単離されてもよい。一部の態様では、エキソソームは細胞培養培地から単離されてもよい。必要ではないが、試料から破片を除去するために、流体試料が、体積排除(volume-excluding)ポリマーを用いた沈殿前に清澄化されれば、さらに高純度のエキソソームが得られる場合がある。清澄化方法には、遠心分離、超遠心、濾過、または限外濾過が含まれる。最も典型的には、エキソソームは、当技術分野において周知の非常に多くの方法によって単離することができる。好ましい方法の1つは、体液または細胞培養上清からの分画遠心である。エキソソーム単離の例示的な方法は、(Losche et al., 2004; Mesri and Altieri, 1998; Morel et al., 2004)に記載されている。または、エキソソームはまた、(Combes et al., 1997)に記載のようにフローサイトメトリーでも単離されることがある。
【0022】
エキソソームを単離するための一般に受け入れられているプロトコールの1つには、比較的低い密度のエキソソームを浮かべるためにスクロース密度勾配またはスクロースクッションと組み合わされることが多い超遠心が含まれる。連続分画遠心によるエキソソームの単離は、他のマイクロベシクルまたは巨大分子複合体とサイズ分布が重複する可能性があるために複雑になる。さらに、遠心分離は、サイズに基づいて小胞を分離する不十分な手段を提供することがある。しかしながら、連続遠心分離がスクロース勾配超遠心と組み合わされるとエキソソームを高度に濃縮することができる。
【0023】
超遠心経路に代わるものを用いるサイズに基づいたエキソソームの単離が別の選択肢である。超遠心よりも時間がかからず、特別な装置を必要としない、限外濾過法を用いた首尾良いエキソソーム精製が報告されている。同様に、流体を動かす陽圧を用いて、あるマイクロフィルターで細胞、血小板、および細胞破片を除去し、第2のマイクロフィルターに30nmよりも大きな小胞を捕獲する市販のキット(EXOMIR(商標), Bioo Scientific)を利用することができる。しかしながら、このプロセスの場合、エキソソームは回収されず、そのRNA内容物は、第2のマイクロフィルターに捕らえた材料から直接抽出され、次いで、PCR分析に使用することができる。HPLCベースのプロトコールを用いた場合、これらのプロセスは専用の装置を必要とし、スケールアップすることが難しいが、潜在的には高純度のエキソソームを得ることができるだろう。重大な問題は、血液と細胞培養培地が両方とも、エキソソームと同じサイズ範囲の多数のナノ粒子(一部は非小胞)を含有することである。例えば、エキソソームではなく細胞外タンパク質複合体の中に、いくらかのmiRNAが含まれることがある。しかしながら、プロテアーゼ(例えば、プロテイナーゼK)を用いた処理を行って、「エキソソーム外(extraexosomal)」タンパク質による、あらゆる汚染を排除することができる。
【0024】
別の態様では、がん細胞由来エキソソームが、試料のエキソソームを濃縮するためによく用いられる技法、例えば、免疫特異的相互作用が関与する技法(例えば、免疫磁気的捕獲)によって捕獲される場合がある。免疫磁気的捕獲は免疫磁気的細胞分離とも知られ、典型的には、ある特定の細胞タイプの表面に見出されるタンパク質に対して作られた抗体を小さな常磁性ビーズに付着することを伴う。抗体でコーティングしたビーズを血液などの試料と混合すると、ビーズは特定の細胞に付着し、取り囲む。次いで、試料を強力な磁場に配置すると、ビーズが片側でペレット化する。血液を除去した後に、捕獲した細胞はビーズと一緒に保持される。この一般的方法の多くのバリエーションが当技術分野において周知であり、エキソソームを単離するための使用に適している。一例では、エキソソームは磁気ビーズ(例えば、アルデヒド/硫酸塩ビーズ)に付着さられることがあり、次いで、ビーズに付着されたエキソソームの表面上のエピトープを認識させるために、混合物に抗体が添加される。がん細胞由来エキソソーム上に見出されることが分かっている例示的なタンパク質には、ATP-binding cassette sub-family A member 6(ABCA6)、テトラスパニン-4(TSPAN4)、SLIT and NTRK-like protein 4(SLITRK4)、putative protocadherin β-18(PCDHB18)、骨髄性細胞表面抗原CD33(CD33)、およびグリピカン-1(GPC1)(全体が参照により本明細書に組み入れられる米国特許第9,921,223号)が含まれる。がん細胞由来エキソソームは、例えば、これらのタンパク質のうちの1つまたは複数に対する抗体またはアプタマーを用いて単離され得る。
【0025】
本明細書で使用する分析は、エキソソームの直接的または間接的な視覚化を可能にする任意の方法を含み、インビボでもエクスビボでもよい。例えば、分析には、固体支持体に結合したエキソソームの顕微鏡または細胞数測定によるエクスビボ検出および視覚化、フローサイトメトリー、蛍光画像化などが含まれ得るが、これに限定されない。例示的な局面では、がん細胞由来エキソソームは、ATP-binding cassette sub-family A member 6(ABCA6)、テトラスパニン-4(TSPAN4)、SLIT and NTRK-like protein 4(SLITRK4)、putative protocadherin β-18(PCDHB18)、骨髄性細胞表面抗原CD33(CD33)、グリピカン-1(GPC1)、ヒストンH2A 2型-A(HIST1H2AA)、ヒストンH2A 1-A型(HIST1H1AA)、ヒストンH3.3(H3F3A)、ヒストンH3.1(HIST1H3A)、ジンクフィンガータンパク質37ホモログ(ZFP37)、ラミニンサブユニットβ-1(LAMB1)、Tubulointerstitial nephritis antigen-like(TINAGL1)、ペルオキシレデオキシン(Peroxiredeoxin)-4(PRDX4)、コラーゲン α-2(IV)鎖(COL4A2)、推定タンパク質C3P1(C3P1)、ヘミセンチン(Hemicentin)-1 (HMCN1)、Putative rhophilin-2-like protein(RHPN2P1)、Ankyrin repeat domain-containing protein 62(ANKRD62)、Tripartite motif-containing protein 42(TRIM42)、Junction plakoglobin(JUP)、チューブリンβ-2B鎖(TUBB2B)、エンドリボヌクレアーゼダイサー(DICER1)、E3ユビキチン-タンパク質リガーゼTRIM71(TRIM71)、Katanin p60 ATPase-containing subunit A-like 2(KATNAL2)、タンパク質S100-A6(S100A6)、5’-nucleotidase domain-containing protein 3(NT5DC3)、バリン-tRNAリガーゼ(VARS)、カズリン(Kazrin)(KAZN)、ELAV-like protein 4(ELAVL4)、リングフィンガータンパク質166(RNF166)、FERM and PDZ domain-containing protein 1(FRMPD1)、78 kDa glucose-regulated protein(HSPA5)、Trafficking protein particle complex subunit 6A(TRAPPC6A)、スクアレンモノオキシゲナーゼ(SQLE)、Tumor susceptibility gene 101 protein(TSG101)、Vacuolar protein sorting 28 homolog(VPS28)、Prostaglandin F2 receptor negative regulator(PTGFRN)、Isobutyryl-CoA dehydrogenase, mitochondrial(ACAD8)、26S protease regulatory subunit 6B(PSMC4)、伸長因子1-γ(EEF1G)、タイチン(TTN)、チロシン-タンパク質ホスファターゼ13型(PTPN13)、トリオースリン酸イソメラーゼ(TPI1)、もしくはカルボキシペプチダーゼE(CPE)のうちの1つもしくは複数に対して作られた抗体を用いて検出され、その後に、固体支持体に結合され、かつ/または顕微鏡もしくは細胞数測定による検出を用いて視覚化される。
【0026】
細胞において発現する全てのタンパク質が、その細胞が分泌したエキソソームに見出されるとは限らないことに留意しなければならない。例えば、カルネキシン、GM130、およびLAMP-2は全て、MCF-7細胞において発現しているタンパク質であるが、MCF-7細胞が分泌したエキソソームには見出されない(Baietti et al., 2012)。別の例として、ある研究から、190/190人の膵管腺がん患者に、健常対照より高いレベルのGPC1+エキソソームがあることが見出された(Melo et al., 2015。その全体が参照により本明細書に組み入れられる)。注目すべきことに、平均して健常対照の2.3%にしかGPC1+エキソソームがなかった。
【0027】
A.細胞培養物からエキソソームを収集するための例示的なプロトコール
翌日に細胞が約70%コンフルエントになるように、1日目に、10%FBSを含有する培地が入っているT225フラスコに、十分な数の細胞(例えば、約500万個の細胞)を播種する。2日目に、細胞上の培地を吸引し、細胞をPBSで2回洗浄し、次いで、25~30mLの基本培地(すなわち、PenStrepもFBSも無い)を細胞に添加する。細胞を24~48時間インキュベートする。48時間のインキュベーションが好ましいが、細胞株の中には無血清培地に対して感受性が高いものもあり、そのため、インキュベーション時間を24時間に短縮しなければならない。FBSは、NanoSight結果を強くゆがめるエキソソームを含有することに留意のこと。
【0028】
3/4日目に、培地を収集し、死細胞と大きな破片をペレット化するために800×gで室温において5分間遠心分離する。上清を新しいコニカルチューブに移し、他の大きな破片と大きな小胞を除去するために2000×gで10分間、培地を再遠心分離する。培地を0.2μmフィルターに通し、次いで、35mL/チューブを用いて超遠心チューブ(例えば、25×89mm Beckman Ultra-Clear)にアリコートする。1チューブあたりの培地の体積は35mL未満であれば、35mLになるようにチューブの残りをPBSで満たす。SW 32 Tiローター(k-factor 266.7, RCF max 133,907)を用いて、培地を28,000rpmで4℃において2~4時間超遠心する。およそ1インチの液体が残るまで、上清を注意深く吸引する。チューブを傾け、残りの培地を、ゆっくりと吸引ピペットに入れる。所望であれば、エキソソームペレットをPBSで再懸濁し、エキソソーム集団をさらに精製するために28,000rpmの超遠心を1~2時間繰り返すことができる。
【0029】
最後に、エキソソームペレットを210μLのPBSに再懸濁する。各試料について複数の超遠心チューブがあれば、同じ210μL PBSを用いて、それぞれのエキソソームペレットを連続して再懸濁する。各試料について、10μLを採取し、ナノ粒子追跡分析に使用するために990μLのH2Oに添加する。残りの200μLエキソソーム含有懸濁液を下流プロセスに使用するか、または-80℃ですぐに保管する。
【0030】
B.血清試料からエキソソームを抽出するための例示的なプロトコール
最初に、血清(または体液)試料を氷上で解凍する。次いで、250μLの無細胞血清試料を11mLのPBSで希釈する。0.2μm孔フィルターで濾過する。希釈した試料を150,000×gで4℃において一晩超遠心する。翌日、上清を注意深く捨て、11mL PBSでエキソソームペレットを洗浄する。150,000×gで4℃において2時間、2回目の超遠心を行う。最後に、上清を注意深く捨て、分析のために100μL PBSにエキソソームペレットを再懸濁する。
【0031】
II.DNAメチル化
本明細書で使用する「CpGアイランド」という用語は、CG組成%の計算値が50%を超える任意のDNA領域を指す。
【0032】
本明細書で使用する「メチル化バイオマーカー」、「疾患特異的メチル化制限部位パターン」、または「メチル化フィンガープリント」という用語は、任意のシトシン塩基の5’位置がメチル化されている任意のヌクレオチド配列、好ましくはCpGリッチを指す。これらの領域は、プロモーター、調節エレメント、エンハンサー、および遺伝子コード配列を含むが、これに限定されない、あらゆるヌクレオチド配列に見出され得る。あらゆるメチル化フィンガープリントの変化がゲノム不安定性の指標となる可能性があり、疾患の診断に有用になる可能性がある。理論に拘束されるものではないが、メチル化フィンガープリントが変化すると、DNAに結合するDNA結合タンパク質の接近のしやすさが変化する場合がある。
【0033】
本明細書で使用する「低メチル化」という用語は、5’メチル基を含有しない、CGまたはCNGジヌクレオチドまたはトリヌクレオチド部位における任意のシトシンの存在を指す。
【0034】
本明細書で使用する「高度メチル化」という用語は、5’メチル基を含有する、CGまたはCNGジヌクレオチドまたはトリヌクレオチド部位における任意のシトシンの存在を指す。
【0035】
本明細書で使用する「グローバルメチル化」という用語は、全てのCGジヌクレオチド、特異的メチル化感受性酵素/非感受性酵素に対する全ての制限酵素切断部位、または統計学的に設計されたプライマーセットを用いる全てのプライミング事象に関連するゲノムワイドなメチル化事象を指す。
【0036】
エピジェネティクスは、遺伝子発現に影響を及ぼすが、DNA配列の変化を伴わない安定したかつ潜在的に遺伝性の形の細胞情報として定義することができる(すなわち、非変異原性である)。この細胞情報は、ヒストンおよび核酸に加えられる共有結合修飾の形をとる。ヒストンタンパク質の中では、この細胞情報の一形態は、リン酸化、アセチル化、メチル化、ポリ-ADPリボシル化、およびユビキチン化(ubiquination)を含むが、これに限定されない翻訳後修飾によって例示される場合がある。核酸の中では、この細胞情報の一形態は、5’メチル化シトシンを含む核酸によって例示される場合がある。
【0037】
少なくとも3つの相互に関係のあるタイプのエピジェネティック遺伝:(i)核酸メチル化;(ii)ゲノムインプリンティング;および(iii)ヒストンタンパク質修飾がある。核酸メチル化はCpGジヌクレオチドで生じ、遺伝子発現の調節ならびにゲノム中の反復エレメントのサイレンシングにおいて役割を果たす。ゲノムインプリンティングは、生殖系列では通常リプログラミングされ得る、インプリンティングされた遺伝子の中のまたはその近くの可変メチル化領域によって媒介される片親特異的(parent-of-origin-specifc)的なアレルサイレンシングを含む。ヒストン修飾はメチル化、アセチル化、およびリン酸化を含むが、これに限定されず、転写調節に関与し、多くのヒストン修飾が細胞分裂中に安定して維持される。ヒストン修飾を媒介する酵素は、核酸メチル化を調節するもの(すなわち、例えば、CpGアイランド)と同じゲノム複合体の中に結合していることが多い。
【0038】
核酸レベルでのエピジェネティック調節は共有結合修飾(すなわち、例えば、5’シトシンメチル化)によって媒介されると報告されている。例えば、メチル基が、CpGジヌクレオチドの対象的な基の一部であるシトシン炭素-5位置に付加されることがある。多くの5-メチルシトシンがレトロトランスポゾン、内因性レトロウイルス、および反復配列において見出されており、これらのエレメントの動員を阻止し、染色体再編成の発生を減らすための宿主防御機構として進化してきた可能性がある。
【0039】
非メチル化CpGジヌクレオチドが、一般的にCpGアイランドと呼ばれる短いCpGリッチ配列の中で見出されることがある。CpGアイランド(CpGiIsland)は遺伝子のプロモーター領域中に、またはその周囲でクラスター化することが観察されている。タンパク質をコードする遺伝子の40%超に、プロモーターの近くに見出される少なくとも1つのCpGアイランドがある。
【0040】
CpGアイランドのメチル化は近くの遺伝子の発現能力を弱めることがある。さらに、高度メチル化が発生する場合に遺伝子のスイッチが完全にオフになる可能性がある。結果として、エピジェネティック調節は遺伝子のメチル化状態を段階的に変えることで環境影響に応答できる可能性がある。次いで、このような環境影響を取り除くと、遺伝子のメチル化状態が逆転し、細胞中のその遺伝子の発現プロファイルが適切に調節されると予想されるだろう。従って、エピジェネティック調節は性質という観点では融通が利き、環境変動に動的に応答できる可能性がある。核酸遺伝子型は、このような制御システムの能力があると考えられていない。
【0041】
エピジェネティック調節は遺伝子型発現に影響を及ぼす可能性があるので、この能力は、リスクのある遺伝子ハプロタイプまたは保護(protective)遺伝子ハプロタイプを活性化する可能性がある。結果として、遺伝子型発現のエピジェネティック修飾は、複合的な疾患(すなわち、例えば、がん)に罹患した患者において観察される広範囲の表現型を説明するのに役立つ可能性がある。
【0042】
核酸不安定性と疾患との結び付きを裏付けるデータはますます強くなってきている。例えば、エピジェネティック核酸調節は加齢およびがんに関連する生理学的事象および病理学的事象において役割を果たす。
【0043】
ゲノム安定性を維持するために、2つの主な核酸メチル化変化:低メチル化および高度メチル化が観察されている。一部の疾患では、これらのメチル化状態の一方または他方が遺伝子座に応じて優勢になる場合がある。新形成では、例えば、全ゲノム低メチル化とプロモーター関連CpGアイランドの高度メチル化との組み合わせが存在する。低メチル化状態は、いくつかの腫瘍抑制性遺伝子の活性をサイレンシングすると考えられている。結果として、低メチル化と高度メチル化は両方とも、がんおよび/または腫瘍の発生、発現、および維持を担うエピジェネティック調節不全である。
【0044】
5’-メチルシトシンのゲノムワイドな(グローバルな)消失は、ヒト新形成において記述される最も早い時期の分子異常の1つである。グローバル脱メチルは、主にプロモーターの外側にある、CpGが少ない領域において、ならびに反復エレメントおよび挟動原体のバルクDNAにおいて起こることが示されている。低メチル化は機構的な意味を有し、成長促進遺伝子(すなわち、例えば、HRAS)の活性化および過剰発現によって新形成において役割を果たしている可能性がある。また、低メチル化は、新形成につながる染色体不安定性の誘導にも役割を果たすことが示されている。動原体周囲のサテライト領域は、偏った染色体転座を引き起こす低メチル化を受けやすく、これは卵巣がんおよび乳がんにおいて観察されている。L1レトロトランスポゾンの低メチル化は染色体不安定性結腸直腸がん細胞株と相関関係にあることが示されている。
【0045】
発現される遺伝子の60パーセントには、普通よりもCpGジヌクレオチドに富む0.5~3.0Kb核酸領域に位置する5’領域および上流プロモーターがある。これらのCpG部位クラスターはCpGアイランドとして知られており、一般的にDNAメチル化を含まない。遺伝子プロモーターの新規核酸メチル化はヒト新形成における首尾一貫した異常であった。プロモーターメチル化は、腫瘍抑制遺伝子(すなわち、例えば、RB1、P16、BRCA1、およびVHL)、DNA修復遺伝子(すなわち、例えば、hMLH1およびMGMT)、血管形成阻害剤(すなわち、例えば、THBS1)、ならびに成長調節因子(すなわち、例えば、ERおよびPGR)の不活性化と結び付けられている。
【0046】
例えば、がんを検出するための高度メチル化バイオマーカーには、急性リンパ芽球性白血病の場合は、DLC-1、PCDHGA12A、CDH1、HOXD10、RPIB9、CD44、COX2、SOX2、KLF4、SLC26A、RECK、HOXA9、HOXD11、HOXA6、ADAM12、およびHOXC4;慢性リンパ性白血病の場合は、DLC-1、PCDHGA12A、HOXD10、CD44、COX2、HOXA9、HOXA4、HOXD11、およびHOXA6;濾胞性リンパ腫の場合は、DLC-1、PCDHGA12A、CDH1、HOXD10、RPIB9、COX2、KLF4、HOXA9、HOXA6、HOXC4、およびSLC26A4;マントル細胞リンパ腫の場合は、DLC-1、PCDHGA12A、HOXD10、HOXA9、HOXD11、およびHOXA6;バーケットリンパ腫の場合は、DLC-1、PCDHGA12A、CDH1、HOXD10、RPIB9、CD44、COX2、KLF4、HOXA9、HOXD11、HOXA6、HOXC4、およびSLC26A4;びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の場合は、DLC-1、PCDHGA12A、CDH1、HOXD10、RPIB9、COX2、KLF4、HOXA6、およびSLC26A4;多発性骨髄腫の場合は、DLC-1、PCDHGA12A、CDH1、COX2、KLF4、HOXA9、HOXD11、HOXA6、HOXC4、HOXD10、およびSLC26A;急性骨髄性白血病の場合は、PCDHGA12A、CDH1、HOXD10、CD44、CXCR1、KLF4、SLC26A、CDH13、HOXA9、HOXD11、HOXA6、HOXC4、ADAM12、およびSLC26A4;骨髄異形成症候群の場合は、PCDHGA12A、SOCS-1、およびHIN1;乳がんの場合は、DLC-1、PCDHGA12A、HOXD10、RPIB9、COX2、RECK、HOXA11、HOXA7、HOXA9、HOXD9、HOXD11、PCDHB15、PCDHA6、PCDHA13、PTPN6、HIC1、CDH13、GSTP1、ADAM12、p16、GABRBA、およびAPC;肺がんの場合は、PCDHGA12A、HOXD10、HOXA7、HOXA6、HOXA9、PCDHB15、PCDHA6、PCDHA13、PTPN6、GSTP1、およびHIC1;結腸がんの場合は、DLC-1、PCDHGA12A、HOXD10、RPIB9、CD44、COX2、SOX2、CXCR1、SLC26A、RECK、HOXA7、HOXA6、HOXA9、PCDHB15、PCDHA6、PCDHA13、PTPN6、ADAM12、p16、およびHIC1;卵巣がんの場合は、PCDHGA12A、HOXD10、SLC26A、CDH13、およびRECK;前立腺がんの場合は、PCDHGA12A、HOXD10、COX2、HOXA7、HOXA6、HOXA9、HOXD11、HOXD9、PCDHB15、PCDHA6、PTPN6、HIC1、APC、CDH13、CDH5、HOXA11、GSTP1、p16、GABRBA、およびHOXA7;ならびにメラノーマの場合は、PCDHGA12A、HOXD10、KLF4、およびCOX2が含まれ得る。
【0047】
メチル化変化の既知の遺伝子座に関連する、さらなる疾患および障害には、遺伝子インプリンティング障害、例えば、プラダー・ウィリー症候群(ヒト15番染色体の15q11-q13領域、低分子核内リボヌクレオタンパク質ポリペプチドN(small nuclear ribonuclearprotein polypeptide N)(SNRPN))、アンジェルマン症候群(ヒト15番染色体の15q11-q13領域、低分子核内リボヌクレオタンパク質ポリペプチドN(SNRPN))、ベックウィズ・ウィーデマン症候群(染色体領域11p15.5、DMR2でのメチル化の消失)、およびシルバー・ラッセル症候群(染色体領域11p15.5、DMR2でのメチル化の消失);および神経発達障害、例えば、自閉症スペクトラム症(Austism spectrum disorder)(プロリンリッチ膜貫通タンパク質1(PRRT1))が含まれる。
【0048】
さらに、ある特定の疾患または障害を有することが分かっている患者から単離されたエキソソーム中のメチル化マークを調べることによって、これらの、および他の疾患または障害のメチル化シグネチャーを同定することができる。
【0049】
メチル化、アセチル化、およびリン酸化によるヒストン修飾は、遺伝子をサイレンシングすることでゲノム安定性維持において役割を果たすことが示されている。しかしながら、ヒストン修飾による不適切な遺伝子のサイレンシングには副作用がある場合がある。例えば、ヒストンH3のリジン9(Lys9)のメチル化は、いくつかのがん細胞においてCDKN2A腫瘍抑制遺伝子をサイレンシングすることが示されている。
【0050】
クロマチンおよび核酸の修飾を担う機構は正常細胞および悪性細胞において遺伝子をサイレンシングするように協力して働く。ヒストンと核酸メチル化機構との間には、この多タンパク質複合体を環境発がん物質の有望な標的にするクロストークがあることを示す証拠がある(Feinberg A P. 2004. Seminars in Cancer Biology 14:427-432)。
【0051】
グローバルメチル化バイオマーカーおよびメチル化バイオマーカーを検出するための方法は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる米国特許出願公開第US2007/0292866号に示される方法を含む。特定のゲノム遺伝子座におけるDNAメチル化を測定するための方法は、例えば、メチル化DNAの免疫沈降、メチル化断片のメチル結合タンパク質濃縮、メチル化非感受性制限酵素を用いた消化、およびバイサルファイト変換と、それに続くサンガー配列決定を含む(Laird, Nat Review Genet 11: 191-203, 2010において概説されている)。バイサルファイト処理によって、メチル化されていないシトシン残基をウラシルに変換することができる(この読み取りはポリメラーゼを用いた増幅後、チミンになる)。ウラシルへのバイサルファイト処理による変換からメチルシトシンを保護することができる。バイサルファイト処理後に、この配列と、改変されていない参照配列を比較することによって所定のシトシン残基のメチル化状態を推測することができる。
【0052】
ハイスループット配列決定技術を用いて全ゲノムのメチル化状態、すなわち、メチロームを1塩基分解能でプロファイリングするための技法が開発されている。ゲノムDNAのバイサルファイト変換と次世代配列決定(NGS)の組み合わせ、すなわちBS-seqが1つの戦略である。ゲノムワイドメチル化配列決定と依然として関連付けられる高コストのために、関心対象の領域を濃縮するためのゲノムパーティショニング(genome partitioning)を可能にするBS-seq技術のバリエーションを使用することができる。このようなバリエーションの1つがリデュースドレプリゼンテーションRRBS (reduced representation BS-seq)である。これは、メチル化非感受性制限エンドヌクレアーゼを用いて、認識部位の一部としてCpGジヌクレオチドを有するDNA試料を消化し、それに続いて、選択された断片のバイサルファイトシークエンシングを伴う(Meissner et al., Nucleic Acids Res. 33(18):5868-5877, 2005)。RRBSは、全ゲノムバイサルファイトシークエンシングよりもカバレッジ(coverage)が小さいが、研究者が、多くの特徴にわたって約1/50の配列リードで量的DNAメチル化情報を得ることを可能にし、その結果、配列決定の費用が大幅に削減される。RRBS法が初めに記述されたので(その全体が参照により本明細書に組み入れられる、Meissner, et al.(2005) Nucleic Acids Res 33(18):5868)、多くの向上と改善があった(例えば、Boyle, et al.(2012) Genome Biol 13:R92を参照されたい)。1つのアプローチは、CCGGを認識するメチル化非感受性制限酵素MspIを利用する。バイサルファイト変換中の部分断片化、PCR、およびクラスター作成効率の結果として、これらの断片のサブセット、典型的には長さが300bp以下のサブセットしか配列決定できない。しかしながら、これらの小さな断片は、高頻度のMspI部位を有し、従って、高頻度の潜在的なCpGメチル化部位を有するゲノムDNAに由来する。その全体が参照により本明細書に組み入れられる、米国特許出願公開第US2015/0284769号を参照されたい。
【0053】
III.疾患の診断、予後予測、および処置
本発明の方法を用いたエキソソームの検出、単離、および特徴決定は、疾患の診断および予後の評価、ならびに疾患再発につながる可能性がある処置失敗を早期検出するための治療有効性モニタリングにおいて有用である。さらに、本発明に従うエキソソーム分析を用いると、療法の経過を終えた、症状が出る前の患者における早期再発を検出することが可能になる。これは、疾患細胞に由来するエキソソームの存在が、疾患進行、療法に対する不十分な応答、疾患の再発、および/またはある期間にわたる生存率の低下と関連付けられることおよび/または相関付けられることがあるので可能である。従って、エキソソームの列挙および特徴決定によって、初回リスクと、療法に対する応答に基づいて、その後のリスクを予測するベースライン特徴について患者を層別化するための方法が提供される。
【0054】
例えば、前記で開示された方法に従って単離されたがん細胞由来エキソソームが、対象におけるがんを診断または予後予測するために分析され得る。従って、本発明の方法は、例えば、がん細胞由来エキソソームのメチル化状態と非がん細胞に由来するエキソソームのメチル化状態を比較することによってがん患者およびがんのリスクがある患者を評価するために用いられ得る。本明細書に記載の診断または予後予測の任意の方法において、診断または予後予測を行うために、がんの1つもしくは複数の指標、例えば、がん特異的なメチル化マークもしくはシグネチャー、または他の任意の障害の1つもしくは複数の指標の存在または非存在が用いられ得る。
【0055】
一局面では、体液(例えば、血液、尿、唾液など)試料が患者から採取され、疾患細胞に由来するエキソソームが本明細書に記載のように検出および/または単離される。例えば、エキソソームは、ATP-binding cassette sub-family A member 6 (ABCA6)、テトラスパニン-4(TSPAN4)、SLIT and NTRK-like protein 4 (SLITRK4)、putative protocadherin beta-18(PCDHB18)、骨髄細胞表面抗原CD33(CD33)、および/またはグリピカン-1(GPC1)に結合する1種類または複数種類の抗体またはアプタマーを用いて標識される場合があり、抗体は、共有結合された蛍光標識を有有する場合がある。次いで、試料中のがん細胞由来エキソソームの数を決定しかつ該エキソソームを特徴決定する分析が行われる場合があり、この測定から、初期血液試料に存在するがん細胞由来エキソソームの数が求められる場合がある。がん細胞由来エキソソームとして同定されたエキソソームは、がん細胞由来エキソソームの中に選択的または特異的に見出されることが分かっている第2の(またはそれ以上の)マーカー、例えば、ヒストンH2A 2-A型(HIST1H2AA)、ヒストンH2A 1-A型(HIST1H1AA)、ヒストンH3.3(H3F3A)、ヒストンH3.1(HIST1H3A)、Zinc finger protein 37 homolog(ZFP37)、ラミニンサブユニットβ-1(LAMB1)、Tubulointerstitial nephritis antigen-like(TINAGL1)、ペルオキシレドキシン-4(PRDX4)、コラーゲンα-2(IV)鎖(COL4A2)、推定タンパク質C3P1(C3P1)、ヘミセンチン(Hemicentin)-1(HMCN1)、Putative rhophilin-2-like protein(RHPN2P1)、アンキリン反復ドメイン含有タンパク質62(ANKRD62)、トリパータイトモチーフ含有タンパク質42(TRIM42)、Junction plakoglobin(JUP)、チューブリンβ-2B鎖(TUBB2B)、エンドリボヌクレアーゼダイサー(DICER1)、E3ユビキチン-タンパク質リガーゼTRIM71(TRIM71)、Katanin p60 ATPase-containing subunit A-like 2(KATNAL2)、タンパク質S100-A6(S100A6)、5’-ヌクレオチダーゼドメイン含有タンパク質3(NT5DC3)、バリン-tRNAリガーゼ(VARS)、カズリン(Kazrin)(KAZN)、ELAV様タンパク質4(ELAVL4)、RINGフィンガータンパク質166(RNF166)、FERM and PDZ domain-containing protein 1(FRMPD1)、78 kDa glucose-regulated protein(HSPA5)、Trafficking protein particle complex subunit 6A(TRAPPC6A)、スクアレンモノオキシゲナーゼ(SQLE)、Tumor susceptibility gene 101 protein(TSG101)、Vacuolar protein sorting 28 homolog(VPS28)、Prostaglandin F2 receptor negative regulator(PTGFRN)、Isobutyryl-CoA dehydrogenase, mitochondrial(ACAD8)、26Sプロテアーゼ調節サブユニット6B(PSMC4)、伸長因子1-γ(EEF1G)、タイチン(TTN)、Tyrosine-protein phosphatase type 13(PTPN13)、トリオースリン酸イソメラーゼ(TPI1)、またはカルボキシペプチダーゼE(CPE)の検出によってがん細胞由来エキソソームとして確認される場合がある。がん細胞由来エキソソームの数は、エキソソームを視覚的に定量および特徴決定する細胞数測定または顕微鏡を用いた技法によって求められる場合がある。がん細胞由来エキソソームは、当技術分野において公知の他の方法(例えば、ELISA)によって検出および定量される場合がある。
【0056】
様々な局面では、対象の進行および病態を評価するために、対象のがん細胞由来エキソソームの数の分析とメチル化シグネチャー特徴決定が特定の時間経過にわたって様々な間隔で行われる場合がある。例えば、分析は、時間の関数としてがん細胞由来エキソソームのレベルおよび特徴決定を追跡するために1日、2日間、3日間、1週間、2週間、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、または1年間などの一定の間隔をあけて定期的に行われる場合がある。生存しているがん患者の場合、これは、がん細胞由来エキソソームの増大、減少、または変化の消失に基づいて疾患進行の有用な指標を提供し、適切な治療選択肢を選ぶ際に医療従事者を支援する。がん細胞由来エキソソームが経時的にどのように増加しても、2倍、5倍、10倍、またはそれより多く増加すれば患者の予後は悪くなり、患者が療法を変えなければならないことを早期に示すものとなる。同様に、どのように増加しても、2倍、5倍、10倍、またはそれより多く増加すれば、予後および療法に対する応答をさらに評価するために、患者は画像化など、さらなる検査を受けなければならないことが分かる。がん細胞由来エキソソームが経時的にどのように減少しても、1/2、1/5、1/10、またはそれより少なくなれば、疾患安定化と療法に対する患者の応答が示され、療法を変えないことを示すものとなる。がんのリスクがある人の場合、検出されるがん細胞由来エキソソーム数の急増は患者が腫瘍を発症したという早期警告となり、従って、早期診断が下され得る。一態様では、がん細胞由来エキソソームの検出はがん病期分類と共に増大する。
【0057】
本明細書において提供される任意の方法において、追加の臨床評価を提供する目的でがん細胞由来エキソソームを特徴決定するために追加分析も行われてもよい。例えば、画像解析および大量の個数測定に加えて、がん細胞由来エキソソームの由来元であった腫瘍のタイプ、転移状態、および悪性の程度などの情報を得るために特定のがんマーカーに特異的なプライマーを用いた多重化などPCR法が用いられてもよい。さらに、患者のがんの特徴決定に関する追加情報を評価する手段としてDNA分析もしくはRNA分析、プロテオーム分析、またはメタボローム分析が行われ得る。
【0058】
例えば、エピジェネティック分析から、特定の治療計画(regime)に対する対象の応答性の判断を下すのに、またはがんの処置における候補剤の効果を判定するために十分なデータが得られる場合がある。従って、本発明は、本明細書に記載のように対象のがん細胞由来エキソソームを検出/単離し、前記がん細胞由来エキソソームを分析することによって、特定の治療計画に対する対象の応答性を判定する方法またはがんの処置における候補剤の効果を判定する方法を提供する。例えば、薬物処置が患者に実施されたら、本発明の方法を用いて薬物処置の有効性を判定することが可能である。例えば、薬物処置前に患者から採取した試料、ならびに薬物処置と同時に、または薬物処置の後に患者から採取した1つまたは複数の試料が本発明の方法を用いて処理されてもよい。それぞれの処理された試料の分析結果を比較することによって、薬物処置の有効性または剤に対する患者の応答性を判定することができる。このように、失敗した化合物を早期に同定することができる、または期待が持てそうな化合物を早期に検証することができる。
【0059】
本発明のある特定の局面は、エキソソームから単離されたゲノムDNA中に見出されるメチル化マークの存在に基づいて疾患または障害を予防または処置するために使用することができる。本発明のある特定の局面は、治療用物質または診断用物質を発現するかまたは含むエキソソームを用いて患者を処置することを提供する。本明細書で使用する「治療用物質」は、がんまたは他の状態の処置において有用な原子、分子、または化合物である。治療用物質の例には、薬物、化学療法剤、治療抗体および抗体断片、毒素、放射性同位体、酵素、ヌクレアーゼ、ホルモン、免疫調節剤、アンチセンスオリゴヌクレオチド、キレート剤、ホウ素化合物、光活性剤、および色素が含まれるが、これに限定されない。本明細書で使用する「診断用物質」は、疾患を診断、検出、または視覚化するのに有用な原子、分子、または化合物である。本明細書に記載の態様によれば、診断用物質には、放射性物質(例えば、放射性同位体、放射性核種、放射標識、または放射性トレーサ)、色素、造影剤、蛍光化合物または蛍光分子、生物発光化合物または生物発光分子、酵素、および増強剤(enhancing agent)(例えば、常磁性イオン)が含まれ得るが、これに限定されない。
【0060】
一部の局面では、治療用組換えタンパク質は、患者の細胞において失われている活性を有するタンパク質、所望の酵素活性を有するタンパク質、所望の阻害活性を有するタンパク質などでもよい。例えば、前記タンパク質は、転写因子、酵素、タンパク質毒素、抗体、モノクローナル抗体などでもよい。モノクローナル抗体は細胞内抗原に特異的または選択的に結合し得る。モノクローナル抗体は細胞内抗原の機能を阻害し得、かつ/またはタンパク質間相互作用を破壊し得る。本発明の他の局面は、患者試料中のがん細胞由来エキソソームのDNAに見出されるある特定のメチル化マークの存在に基づいて疾患を診断することを提供する。
【0061】
本明細書で使用する「対象」とは、本方法が行われる任意の個体または患者を指す。一般的に対象はヒトであるが、当業者に理解されるように、対象は動物でもよい。従って、哺乳動物、例えば、げっ歯類(マウス、ラット、ハムスター、およびモルモットを含む)、ネコ、イヌ、ウサギ、家畜(ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、ブタなどを含む)、および霊長類(サル、チンパンジー、オランウータン、およびゴリラを含む)を含む他の動物が対象の定義の範囲内に含まれる。
【0062】
「処置」および「処置する」とは、対象への治療用物質の投与もしくは適用、または疾患もしくは健康に関連する状態の治療的利益を得ることを目的とした対象への手技もしくはモダリティの遂行を指す。例えば、処置は、化学療法、免疫療法、または放射線療法の実施、外科手術の遂行、またはその任意の組み合わせを含んでもよい。
【0063】
本明細書で使用する「治療的利益」または「治療に有効な」という用語は、この状態の医学的処置に関して対象の健康を増進する、または向上させる、どんなものも指す。この用語には、疾患の徴候または症状の頻度または重篤度の低下が含まれるが、これに限定されない。例えば、がんの処置は、例えば、腫瘍の侵襲性の低下、がんの増殖速度の低下、または転移の阻止を含んでもよい。がんの処置はまた、がんを有する対象の生存期間の延長も指すことがある。
【0064】
本発明はまた、非がん疾患を診断するために、特に、DNAメチル化の変化に関連することが分かっている任意の疾患を診断するため用いられ得ることも認識されている。DNAメチル化の変化に関連したヒト疾患の総説については、その全体が参照により本明細書に組み入れられる、Jin and Liu, Genes & Diseases, 5:1-8, 2018を参照されたい。例えば、本発明は、自己免疫疾患(例えば、慢性関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、多発性硬化症)、代謝障害(高血糖症(hyperglycemis)、高脂血症、心血管疾患、糖尿病)、神経疾患(例えば、自閉症スペクトラム症、レット症候群、パーキンソン病、統合失調症)、または精神障害を診断するために用いられ得る。
【0065】
患者の有効な応答または処置に対する患者の「応答性」とは、疾患もしくは障害のリスクがある、または疾患もしくは障害に罹患している患者に与えられる臨床的利益または治療的利益を指す。このような利益は、細胞応答または生物学的応答、完全応答、部分応答、安定病態(進行も再発も無い)、または後で再発する応答を含んでもよい。例えば、有効な応答は、がんと診断された患者における腫瘍サイズの縮小または無増悪生存期間でもよい。
【0066】
治療アウトカムは予測およびモニタリングすることができ、かつ/またはこのような処置から利益を得る患者は、本明細書に記載の方法によって特定もしくは選択することができる。
【0067】
新生物状態の処置に関して、新生物状態のステージに応じて、新生物状態の処置は、以下の療法:新生物組織を除去するための外科手術、放射線療法、および化学療法の1つまたは組み合わせを伴う。他の治療レジメンが、抗がん剤、例えば、治療用組成物および化学療法剤の投与と組み合わされてもよい。例えば、このような抗がん剤で処置しようとする患者はまた放射線療法も受けてよく、かつ/または外科手術も受けてもよい。
【0068】
疾患を処置する場合、治療用組成物の適切な投与量は、前記で定義されたような処置しようとする疾患のタイプ、疾患の重篤度および経過、患者の病歴および剤に対する応答、ならびに主治医の判断に左右される。前記剤は、1回で、または一連の処置にわたって患者に適切に投与される。
【0069】
治療的および予防的な方法および組成物は、所望の効果を実現するのに有効な組み合わせた量で提供することができる。組織、腫瘍、または細胞が、作用物質の1つまたは複数を含む1種類または複数種類の組成物または薬理学的製剤と接触してもよく、組織、腫瘍、および/または細胞を2つ以上の別個の組成物または製剤と接触させることで接触してもよい。また、このような併用療法が化学療法、放射線療法、外科的療法、または免疫療法と共に使用できることも意図される。
【0070】
一部の局面において、疾患はがんである。本明細書で使用する「がん」という用語は、固形腫瘍、転移がん、または非転移がんを説明するために用いられることがある。ある特定の態様では、がんは、膀胱、血液、骨、骨髄、脳、乳房、結腸、食道、十二指腸、小腸、大腸、結腸、直腸、肛門、歯肉、頭部、腎臓、肝臓、肺、鼻咽頭、頸部、卵巣、膵臓、前立腺、皮膚、胃、精巣、舌、または子宮において生じることがある。
【0071】
がんは、具体的には、以下の組織学的タイプのがん:新生物、悪性;がん腫;がん腫、未分化;巨細胞および紡錘体細胞のがん腫;小細胞がん;乳頭状がん;扁平上皮がん;リンパ上皮がん;基底細胞がん;石灰化上皮腫(pilomatrix carcinoma);移行上皮がん;乳頭状移行上皮がん;腺がん;ガストリノーマ、悪性;胆管がん;肝細胞がん;混合型肝細胞がんおよび胆管がん;小柱腺がん(trabecular adenocarcinoma);腺様嚢胞がん;腺腫性ポリープ内腺がん;腺がん、家族性大腸ポリポーシス;固形がん;カルチノイド腫瘍、悪性;細気管支肺胞(branchiolo-alveolar)腺がん;乳頭状腺がん;色素嫌性がん;好酸性がん(acidophil carcinoma);好酸性腺がん(oxyphilic adenocarcinoma);塩基好性がん;明細胞腺がん;顆粒細胞がん;濾胞腺がん;乳頭状腺がんおよび濾胞腺がん;非被包性硬化性がん(nonencapsulating sclerosing carcinoma);副腎皮質がん;類内膜がん(endometroid carcinoma);皮膚付属器がん;アポクリン腺がん;皮脂腺がん;耳道腺がん(ceruminous adenocarcinoma);粘表皮がん;嚢胞腺がん;乳頭状嚢胞腺がん;乳頭状漿液嚢胞腺がん;粘液性嚢胞腺がん;粘液性腺がん;印環細胞がん;浸潤性導管がん;髄様がん;小葉がん;炎症性がん;パジェット病、乳房;腺房細胞がん;腺扁平上皮がん;扁平上皮化生を伴う腺がん;胸腺腫、悪性;卵巣間質腫、悪性;莢膜細胞腫、悪性;顆粒膜細胞腫、悪性;アンドロブラストーマ、悪性;セルトリ細胞腫;ライディッヒ細胞腫、悪性;脂質細胞腫瘍(lipid cell tumor)、悪性;パラガングリオーマ、悪性;乳房外パラガングリオーマ(extra-mammary paraganglioma)、悪性;クロム親和細胞腫;血管球血管肉腫;悪性黒色腫;無色素性黒色腫;表在拡大型黒色腫;巨大色素性母斑中の悪性黒色腫(malignant melanoma in giant pigmented nevus);類上皮細胞黒色腫;青色母斑、悪性;肉腫;線維肉腫;線維性組織球腫、悪性;粘液肉腫;脂肪肉腫;平滑筋肉腫;横紋筋肉腫;胎児性横紋筋肉腫;胞巣型横紋筋肉腫;間質性肉腫;混合腫瘍、悪性;ミューラー混合腫瘍;腎芽腫;肝芽腫;がん肉腫;間葉腫、悪性;ブレンナー腫瘍、悪性;葉状腫瘍、悪性;滑膜肉腫;中皮腫、悪性;未分化胚細胞腫;胚性がん腫;テラトーマ、悪性;卵巣甲状腺腫、悪性;絨毛がん;中腎腫、悪性;血管肉腫;血管内皮腫、悪性;カポジ肉腫;血管周囲細胞腫、悪性;リンパ管肉腫;骨肉腫;傍骨骨肉腫;軟骨肉腫;軟骨芽細胞腫、悪性;間葉性軟骨肉腫;骨巨細胞腫;ユーイング肉腫;歯原性腫瘍、悪性;エナメル芽細胞歯牙肉腫;エナメル上皮腫、悪性;エナメル上皮線維肉腫;松果体腫、悪性;脊索腫;神経膠腫、悪性;上衣腫;星状細胞腫;原形質性星状細胞腫;線維性星状細胞腫;星状芽細胞腫;グリア芽細胞腫;乏突起神経膠腫;乏突起神経膠芽細胞腫;未分化神経外胚葉性;小脳肉腫;神経節芽細胞腫;神経芽細胞腫;網膜芽細胞腫;嗅神経腫瘍;髄膜腫、悪性;神経線維肉腫;神経鞘腫、悪性;顆粒細胞腫瘍、悪性;悪性リンパ腫;ホジキン病(hodgkin's disease);ホジキン病(hodgkin's);側肉芽腫;悪性リンパ腫、小リンパ球性;悪性リンパ腫、びまん性大細胞性;悪性リンパ腫、濾胞性;菌状息肉腫;明記された他の非ホジキンリンパ腫;悪性組織球症;多発性骨髄腫;マスト細胞肉腫;免疫増殖性小腸疾患;白血病;リンパ性白血病;プラズマ細胞白血病;赤白血病;リンパ肉腫細胞性白血病;骨髄性白血病;好塩基球性白血病;好酸球性白血病;単球性白血病;マスト細胞白血病;巨核芽球性白血病;骨髄肉腫;および毛様細胞性白血病でもよいが、これらに限定されない。
【0072】
これらの局面において、療法は、化学療法、放射線療法、免疫療法、および外科手術を含む。多種多様な化学療法剤は、本発明の態様に従って使用することができる。「化学療法」という用語は、がんを処置するための薬物の使用を指す。「化学療法剤」は、がんの処置において投与される化合物または組成物を意味するために用いられる。これらの剤または薬物は、細胞内での活性の様式、例えば、細胞周期に影響を及ぼすかどうか、またはどの段階で細胞周期に影響を及ぼすのかによって分類される。または、剤は、DNAを直接架橋する能力、DNAにインターカレートする能力、または核酸合成に影響を及ぼすことで染色体異常および有糸分裂異常を誘導する能力に基づいて特徴付けられることがある。
【0073】
化学療法剤の例には、DNA損傷チェックポイント阻害剤、例えば、CHK阻害剤(AZD7762、プレキサセルチブ、GDC-0575、CCT245737)、ATR阻害剤(AZD6738、BAY1895344、M4344、ベルゾセルチブ)、Wee1阻害剤(AZD1775)、DNA-PK阻害剤(M9831、ネディセルチブ(Nedisertib)、CC-115);アルキル化剤、例えば、チオテパおよびシクロスホスファミド(cyclosphosphamide);アルキルスルホナート、例えば、ブスルファン、インプロスルファン、およびピポスルファン;アジリジン、例えば、ベンゾドーパ(benzodopa)、カルボコン、メツレドーパ(meturedopa)、およびウレドーパ(uredopa);アルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホラミド、トリエチレンチオホスホラミド、およびトリメチローロメラミン(trimethylolomelamime)を含む、エチレンイミンおよびメチルアメラミン(methylamelamine);アセトゲニン(特に、ブラタシンおよびブラタシノン(bullatacinone));カンプトテシン(合成類似体トポテカンを含む);テモゾロミド;ブリオスタチン;カリスタチン(callystatin);CC-1065(そのアドゼレシン、カルゼレシン(carzelesin)、およびビセレシン合成類似体を含む);クリプトフィシン(特に、クリプトフィシン1およびクリプトフィシン8);ドラスタチン;デュオカルマイシン(合成類似体KW-2189およびCB1-TM1を含む);エリュテロビン;パンクラチスタチン(pancratistatin);サルコジクチン(sarcodictyin);スポンギスタチン(spongistatin);ナイトロジェンマスタード、例えば、クロランブシル、クロルナファジン、クロロホスファミド(cholophosphamide)、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、塩酸メクロレタミンオキシド、メルファラン、ノベムビシン(novembichin)、フェネステリン(phenesterine)、プレドニムスチン、トロホスファミド、およびウラシルマスタード;ニトロスレア(nitrosurea)、例えば、カルムスチン、クロロゾトシン、ホテムスチン、ロムスチン、ニムスチン、およびラニムスチン;抗生物質、例えば、エンジイン抗生物質(例えば、カリチアマイシン、特に、カリチアマイシンγlIおよびカリチアマイシンωI1);ディネミシン(dynemicin)Aを含むディネミシン;ビスホスホネート、例えば、クロドロネート;エスペラミシン;ならびにネオカルジノスタチンクロモフォアおよび関連する色素タンパク質エンジイン抗生物質(antiobiotic)クロモフォア、アクラシノマイシン、アクチノマイシン、アウスララニシン(authrarnycin)、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン、カラビシン(carabicin)、カミノマイシン、カルジノフィリン、クロモマイシニス(chromomycinis)、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン、6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン、ドキソルビシン(モルホリノ-ドキソルビシン、シアノモルホリノ-ドキソルビシン、2-ピロリノ-ドキソルビシン、およびデオキシドキソルビシンを含む)、エピルビシン、エソルビシン、イダルビシン、マルセロマイシン、マイトマイシン、例えば、マイトマイシンC、ミコフェノール酸、ノガラマイシン、オリボマイシン、ペプロマイシン、ポトフィロマイシン(potfiromycin)、ピューロマイシン、クエラマイシン(quelamycin)、ロドルビシン(rodorubicin)、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン、ユベニメックス、ジノスタチン、またはゾルビシン;代謝拮抗物質、例えば、メトトレキセートおよび5-フルオロウラシル(5-FU);葉酸類似体、例えば、デノプテリン、プテロプテリン、トリメトレキセート;プリン類似体、例えば、フルダラビン、6-メルカプトプリン、チアミプリン(thiamiprine)、チオグアニン;ピリミジン類似体、例えば、アンシタビン、アザシチジン、6-アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン、フロクスウリジン;アンドロゲン、例えば、カルステロン、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタン、およびテストラクトン;抗副腎剤、例えば、ミトタンおよびトリロスタン;葉酸補充剤、例えば、フォリン酸;アセグラトン;アルドホスファミドグリコシド;アミノレブリン酸;エニルウラシル;アムサクリン;ベストラブシル;ビサントレン;エダトラキサート(edatraxate);デフォファミン(defofamine);デメコルチン;ジアジクオン;エルフォルミチン(elformithine);酢酸エリプチニウム;エポシロン;エトグルシド;硝酸ガリウム;ヒドロキシウレア;レンチナン;ロニダイニン;マイタンシノイド、例えば、マイタンシンおよびアンサミトシン(ansamitocin);ミトグアゾン;ミトキサントロン;モピダンモール(mopidanmol);ニトラエリン(nitraerine);ペントスタチン;フェナメット;ピラルビシン;ロソキサントロン(losoxantrone);ポドフィリニック酸;2-エチルヒドラジド;プロカルバジン;PSK多糖複合体;ラゾキサン;リゾキシン(rhizoxin);シゾフィラン(sizofiran);スピロゲルマニウム;テヌアゾン酸;トリアジクオン;2,2',2''-トリクロロトリエチルアミン;トリコテセン(特に、T-2毒素、ベラクリン(verracurin)A、ロリジン(roridin)A、およびアングイジン(anguidine));ウレタン;ビンデシン;ダカルバジン;マンノムスチン;ミトブロニトール;ミトラクトール;ピポブロマン;ガシトシン(gacytosine);アラビノシド(「Ara-C」);シクロホスファミド;タキソイド、例えば、パクリタキセルおよびドセタキセル、ゲムシタビン;6-チオグアニン;メルカプトプリン;白金配位錯体、例えば、シスプラチン、オキサリプラチン、およびカルボプラチン;ビンブラスチン;白金;エトポシド(VP-16);イホスファミド;ミトキサントロン;ビンクリスチン;ビノレルビン;ノバントロン;テニポシド;エダトレキサート;ダウノマイシン;アミノプテリン;ゼローダ;イバンドロネート;イリノテカン(例えば、CPT-11);トポイソメラーゼ阻害剤RFS2000;ジフルオロメチルオルニチン(DMFO);レチノイド、例えば、レチノイン酸;カペシタビン;シスプラチン、カルボプラチン、プロカルバジン、プリコマイシン(plicomycin)、ゲムシタビエン(gemcitabien)、ナベルビン、ファルネシル-タンパク質トランスフェラーゼ阻害剤、トランス白金(transplatinum)、ならびに前記のいずれかの薬学的に許容される塩、酸、または誘導体が含まれる。
【0074】
DNA損傷を引き起こし、かつ広範に用いられてきた他の要因には、γ線、X線、および/または腫瘍細胞への放射性同位体の特異的送達として一般に知られているものが含まれる。マイクロ波、陽子線照射(米国特許第5,760,395号および同第4,870,287号)、ならびにUV照射などの他の形態のDNA損傷因子も意図される。これらの要因が全て、DNA、DNA前駆体、DNAの複製および修復、ならびに染色体の集合および維持に対する広範な損傷に影響を及ぼす可能性が高い。X線の線量範囲は、長期の場合(3~4週間)は50~200レントゲンの1日線量から、2000~6000レントゲンの単回線量まで及ぶ。放射性同位体の線量範囲は多種多様であり、同位体の半減期、放出される放射線の強度およびタイプ、ならびに新生細胞による取り込みによって決まる。
【0075】
当業者は、態様の方法と組み合わせて、または本発明の方法と一緒に、さらなる免疫療法が用いられ得ることを理解する。がん治療の状況では、免疫療法は、一般的に、がん細胞を標的にするおよび破壊するために免疫エフェクター細胞および免疫エフェクター分子の使用に頼る。リツキシマブ(RITUXAN(登録商標))は、このような例の1つである。免疫エフェクターは、例えば、腫瘍細胞表面上の何らかのマーカーに特異的な抗体でもよい。この抗体だけが療法のエフェクターとして働いてもよく、他の細胞を動員して細胞死滅に実際に影響を及ぼしてもよい。この抗体はまた、薬物または毒素(化学療法剤、放射性核種、リシンA鎖、コレラ毒素、百日咳毒素など)に結合体化されてもよく、標的指向性物質として働いてもよい。または、エフェクターは、腫瘍細胞標的と直接的または間接的に相互作用する表面分子を有するリンパ球でもよい。様々なエフェクター細胞には細胞傷害性T細胞およびNK細胞が含まれる。
【0076】
抗体薬物複合体はがん治療剤の開発への画期的なアプローチとして現れた。がんは世界で第1位の死因である。抗体薬物複合体(ADC)は、細胞を死滅する薬物と共有結合したモノクローナル抗体(MAb)を含む。このアプローチは、抗原標的に対する高い特異性のMAbと極めて強力な細胞傷害性薬物を組み合わせており、その結果、ペイロード(薬物)を、高レベルの抗原がある腫瘍細胞に送達する「武装(armed)」MAbが得られる(Carter et al., 2008; Teicher 2014; Leal et al., 2014)。薬物を標的送達することで正常組織における薬物の曝露も最小限になり、その結果、毒性が低下し、治療指数が改善する。FDAが2種類のADC薬物、2011年にADCETRIS(登録商標)(ブレンツキシマブベドチン)、2013年にKADCYLA(登録商標)(トラスツズマブエムタンシンまたはT-DM1)を認可したことで、このアプローチの妥当性が認められた。現在、がん治療に向けた様々な臨床試験段階にある30種類を超えるADC薬物候補がある(Leal et al., 2014)。抗体工学およびリンカー-ペイロード最適化はますます成熟してきており、新たなADCの発見と開発は、このアプローチに適した新たな標的の同定と検証(Teicher 2009)と標的MAbの作製にますます依存している。ADC標的の2つの判断基準は、腫瘍細胞におけるアップレギュレートされた/高いレベルの発現と活発な内部移行である。
【0077】
免疫療法の一局面では、腫瘍細胞は、標的指向化の対象となる、すなわち、他の細胞の大多数に存在しない、何らかのマーカーを有さなければならない。多くの腫瘍マーカーが存在し、これらはどれも、本発明の態様の状況における標的指向化に適している可能性がある。一般的な腫瘍マーカーには、CD20、がん胎児抗原、チロシナーゼ(p97)、gp68、TAG-72、HMFG、シアリルルイス抗原、MucA、MucB、PLAP、ラミニン受容体、erbB、およびp155が含まれる。免疫療法の別の局面は、抗がん作用を免疫刺激作用と組み合わせることである。サイトカイン、例えば、IL-2、IL-4、IL-12、GM-CSF、γ-IFN、ケモカイン、例えば、MIP-1、MCP-1、IL-8、および増殖因子、例えば、FLT3リガンドを含む免疫刺激分子も存在する。
【0078】
現在研究中のまたは使用されている免疫療法の例は、免疫アジュバント、例えば、マイコバクテリウム・ボビス(Mycobacterium bovis)、熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)、ジニトロクロロベンゼン、および芳香族化合物(米国特許第5,801,005号および同第5,739,169号; Hui and Hashimoto, 1998; Christodoulides et al., 1998); サイトカイン療法、例えば、インターフェロンα、β、およびγ、IL-1、GM-CSF、ならびにTNF(Bukowski et al., 1998; Davidson et al., 1998; Hellstrand et al., 1998);遺伝子療法、例えば、TNF、IL-1、IL-2、およびp53(Qin et al., 1998; Austin-Ward and Villaseca, 1998; 米国特許第5,830,880号および同第5,846,945号);ならびにモノクローナル抗体、例えば、抗CD20、抗ガングリオシドGM2、および抗p185(Hollander, 2012; Hanibuchi et al., 1998; 米国特許第5,824,311号)である。1種類または複数種類の抗がん療法が本明細書に記載の抗体療法と共に用いられ得ることが意図される。
【0079】
一部の態様では、免疫療法は免疫チェックポイント阻害剤の場合がある。免疫チェックポイントは、シグナルを強くするか(例えば、補助刺激分子)またはシグナルを弱くする、免疫系における分子である。免疫チェックポイント阻害によって標的にされ得る阻害性チェックポイント分子には、アデノシンA2A受容体(A2AR)、B7-H3(CD276とも知られる)、B and T lymphocyte attenuator(BTLA)、細胞傷害性Tリンパ球抗原4(CTLA-4。CD152とも知られる)、インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)、キラー細胞免疫グロブリン(KIR)、lymphocyte activation gene-3(LAG3)、programmed death 1 (PD-1)、programmed death ligand 1 (PD-L1)、T-cell immunoglobulin domain and mucin domain 3(TIM-3)、およびV-domain Ig suppressor of T cell activation(VISTA)が含まれる。特に、免疫チェックポイント阻害剤はPD-1 axisおよび/またはCTLA-4を標的にする。
【0080】
免疫チェックポイント阻害剤は、薬物、例えば、低分子、組換え型のリガンドもしくは受容体の場合があるか、または特に、抗体、例えば、ヒト抗体(例えば、国際特許公報WO2015016718; Pardoll, 2012;両方とも参照により本明細書に組み入れられる)である。既知の免疫チェックポイントタンパク質阻害剤またはその類似体が用いられることがあり、特に、キメラ化型、ヒト化型、またはヒト型の抗体が用いられることがある。当業者が知っているように、本開示において言及された、ある特定の抗体について別の名前および/または同等の名前が用いられることがある。このような別の名前および/または同等の名前は本発明の文脈において交換可能である。例えば、ランブロリズマブはMK-3475およびペンブロリズマブという別の名前および/または同等の名前でも知られていることが分かっている。
【0081】
一部の態様では、PD-1結合アンタゴニストは、PD-1とそのリガンド結合パートナーの結合を阻害する分子である。特定の局面では、PD-1リガンド結合パートナーはPDL1および/またはPDL2である。別の態様では、PDL1結合アンタゴニストは、PDL1とそのリガンド結合パートナーの結合を阻害する分子である。特定の局面では、PDL1結合パートナーはPD-1および/またはB7-1である。別の態様では、PDL2結合アンタゴニストは、PDL2とそのリガンド結合パートナーの結合を阻害する分子である。特定の局面では、PDL2結合パートナーはPD-1である。前記アンタゴニストは抗体、その抗原結合断片、イムノアドヘシン、融合タンパク質、またはオリゴペプチドでもよい。例示的な抗体は米国特許第8,735,553号、同第8,354,509号、および同第8,008,449号に記載されており、全てが参照により本明細書に組み入れられる。本明細書において提供される方法において使用するための他のPD-1 axisアンタゴニストは、米国特許出願第20140294898号、同第2014022021号、および同第20110008369号に記載のように当技術分野において公知であり、これらは全て参照により本明細書に組み入れられる。
【0082】
一部の態様では、PD-1結合アンタゴニストは抗PD-1抗体(例えば、ヒト抗体、ヒト化抗体、またはキメラ抗体)である。一部の態様では、抗PD-1抗体は、ニボルマブ、ペンブロリズマブ、およびCT-011からなる群より選択される。一部の態様では、PD-1結合アンタゴニストは、イムノアドヘシン(例えば、定常領域(例えば、免疫グロブリン配列のFc領域)と融合したPDL1またはPDL2の細胞外部分またはPD-1結合部分を含むイムノアドヘシン)である。一部の態様では、PD-1結合アンタゴニストは、PDR-001(スパルタリズマブ)、AMP-224、またはAMP-514である。ニボルマブはMDX-1106-04、MDX-1106、ONO-4538、BMS-936558、およびOPDIVO(登録商標)とも知られ、WO2006/121168に記載の抗PD-1抗体である。ペンブロリズマブはMK-3475、Merck3475、ランブロリズマブ、KEYTRUDA(登録商標)、およびSCH-900475とも知られ、WO2009/114335に記載の抗PD-1抗体である。CT-011はhBATまたはhBAT-1とも知られ、WO2009/101611に記載の抗PD-1抗体である。AMP-224はB7-DCIgとも知られ、WO2010/027827およびWO2011/066342に記載のPDL2-Fc融合可溶性受容体である。一部の態様では、PD-1軸阻害剤は、抗PD-L1抗体、例えば、アテゾリズマブ、アベルマブ、デュルバルマブ、BMS-936559、またはCK-301である。
【0083】
本明細書において提供される方法において標的にされることができる別の免疫チェックポイントは、CD152とも知られる細胞傷害性Tリンパ球タンパク質4(CTLA-4)である。ヒトCTLA-4の完全cDNA配列はGenbankアクセッション番号L15006を有する。CTLA-4はT細胞表面に見出され、抗原提示細胞の表面上のCD80またはCD86に結合すると「オフ」スイッチとして働く。CTLA4は、ヘルパーT細胞表面に発現し、阻害シグナルをT細胞に伝達する免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーである。CTLA4はT細胞補助刺激タンパク質であるCD28に類似し、両分子とも、抗原提示細胞上の、B7-1とも呼ばれるCD80と、B7-2とも呼ばれるCD86に結合する。CTLA4は阻害シグナルをT細胞に伝達するのに対して、CD28は刺激シグナルを伝達する。細胞内CTLA4は調節性T細胞の中にも見出され、その機能にとって重要である可能性がある。T細胞受容体およびCD28を介してT細胞が活性化されると、B7分子に対する抑制性受容体であるCTLA-4の発現が増加する。
【0084】
一部の態様では、免疫チェックポイント阻害剤は、抗CTLA-4抗体(例えば、ヒト抗体、ヒト化抗体、またはキメラ抗体)、その抗原結合断片、イムノアドヘシン、融合タンパク質、またはオリゴペプチドである。
【0085】
本方法における使用に適した抗ヒト-CTLA-4抗体(またはそれに由来するVHドメインおよび/もしくはVLドメイン)は、当技術分野において周知の方法を用いて作製することができる。または、当技術分野において認められている抗CTLA-4抗体を使用することができる。例えば、米国特許第8,119,129号、WO01/14424、WO98/42752;WO00/37504(CP675,206、トレメリムマブ;以前はチシリムマブ(ticilimumab)とも知られる)、米国特許第6,207,156号; Hurwitz et al., 1998; Camacho et al., 2004; Mokyr et al., 1998に開示される抗CTLA-4抗体は、本明細書において開示される方法において使用することができる。前述した刊行物のそれぞれの開示は参照により本明細書に組み入れられる。CTLA-4との結合では、これらの当技術分野において認められている任意の抗体と競合する抗体も使用することができる。例えば、ヒト化CTLA-4抗体は、国際特許出願番号WO2001014424、同WO2000037504、および米国特許第8,017,114号に記載され、全てが参照により本明細書に組み入れられる。
【0086】
例示的な抗CTLA-4抗体は、イピリムマブ(10D1、MDX-010、MDX-101、およびYervoy(登録商標)とも知られる)またはその抗原結合断片および変種である(例えば、WO01/14424を参照されたい)。他の態様では、前記抗体はイピリムマブの重鎖および軽鎖CDRまたはVRを含む。従って、一態様では、前記抗体は、イピリムマブのVH領域のCDR1、CDR2、およびCDR3ドメインと、イピリムマブのVL領域のCDR1、CDR2およびCDR3ドメインを含む。別の態様では、前記抗体は、前述した抗体と同じ、CTLA-4上のエピトープとの結合において競合し、かつ/または前述した抗体と同じ、CTLA-4上のエピトープに結合する。別の態様では、前記抗体は、上述した抗体と少なくとも約90%の可変領域アミノ酸配列同一性(例えば、イピリムマブと少なくとも約90%、少なくとも約95%、または少なくとも約99%の可変領域同一性)を有する。
【0087】
CTLA-4を調節するための他の分子には、CTLA-4リガンドおよび受容体、例えば、全てが参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第US5844905号、同第US 5885796号、ならびに国際特許出願番号WO1995001994および同WO1998042752に記載のCTLA-4リガンドおよび受容体、ならびにイムノアドヘシン、例えば、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第US8329867号に記載のイムノアドヘシンが含まれる。
【0088】
がんを有する人の約60%は、予防手術、診断、または進行度診断のための手術、根治的手術、および姑息的手術を含む何らかの種類の外科手術を受ける。根治的手術は、がん組織の全てまたは一部が物理的に除去、切除、および/または破壊される切除を含み、本発明の態様の処置、化学療法、放射線療法、ホルモン療法、遺伝子療法、免疫療法、および/または代替療法などの他の療法と共に用いられてもよい。腫瘍切除とは、腫瘍の少なくとも一部の物理的除去を指す。腫瘍切除に加えて、外科手術による処置は、レーザー手術、凍結手術、電気手術、および顕微鏡的に管理される手術(microscopically-controlled surgery)(モース術)を含む。
【0089】
がんの細胞、組織、または腫瘍の一部または全てを切除すると体内に空洞が形成されることがある。処置は、その領域にさらなる抗がん療法を灌流、直接注射、または局所塗布することによって行われてもよい。このような処置は、例えば、1日、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、もしくは7日間ごとに、または1週間、2週間、3週間、4週間、および5週間ごとに、または1ヶ月間、2ヶ月間、3ヶ月間、4ヶ月間、5ヶ月間、6ヶ月間、7ヶ月間、8ヶ月間、9ヶ月間、10ヶ月間、11ヶ月間、または12ヶ月間ごとに繰り返されてもよい。これらの処置もまた様々な投与量の処置であり得る。
【0090】
処置の治療有効性を改善するために、本発明の態様のある特定の局面と組み合わせて他の作用物質が用いられ得ることが意図される。これらのさらなる作用物質には、細胞表面受容体およびギャップ結合のアップレギュレーションに影響を及ぼす作用物質、細胞分裂停止物質および分化物質、細胞接着阻害剤、アポトーシス誘導物質に対する過剰増殖性細胞の感受性を高める作用物質、または他の生物学的作用物質が含まれる。ギャップ結合数を増やすことで細胞間シグナル伝達を増大させると、付近の過剰増殖性細胞集団に対する抗過剰増殖作用が増大する。他の態様では、処置の抗過剰増殖有効性を改善するために、細胞分裂停止物質または分化物質は本発明の態様のある特定の局面と組み合わせて使用することができる。細胞接着阻害剤は本発明の態様の有効性を改善することが意図される。細胞接着阻害剤の例は局所接着キナーゼ(FAK)阻害剤およびロバスタチンである。処置有効性を改善するために、アポトーシスに対する過剰増殖性細胞の感受性を高める他の作用物質、例えば、抗体c225を本発明の態様のある特定の局面と併用できることがさらに意図される。
【0091】
一部の局面では、疾患は、アンジェルマン症候群、プラダー・ウィリー症候群、またはベックウィズ・ウィーデマン症候群などの遺伝子インプリンティング障害である。これらの局面では、療法には、抗痙攣薬(例えば、バルプロ酸ナトリウム(Epilim)、クロナゼパム(Rivotril)、ラモトリギン(Lamictal)およびレベチラセタム(Keppra))、インドテカン(indotecan)、理学療法、コミュニケーション療法、行動療法、ピラセタム(Nootropil)、カルバマゼピン(Tegretol)、ケトン食療法、迷走神経刺激(VNS)、ヒト成長ホルモン補充療法、性ホルモン補充療法、および外科手術が含まれる。
【0092】
一部の局面では、疾患は、アルツハイマー病、自閉症、脆弱X症候群、ハンチントン病、パーキンソン病、統合失調症、ATR-X症候群、ICF症候群、BWS、レット症候群、αサラセミア、ルビンシュタイン・テイビ症候群、またはコフィン・ローリー症候群などの神経障害である。これらの局面では、療法には、コリンエステラーゼ阻害剤(例えば、ドネペジル(Aricept)、リバスチグミン(Exelon)、ガランタミン(Razadyne))、メマンチン、レボドパ、カルビドパ、および抗精神薬(例えば、アリピプラゾール(Abilify)、アセナピン(Saphris)、ブレクスピプラゾール(Rexulti)、カリプラジン(Vraylar)、クロザピン(Clozaril)、イロペリドン(Fanapt)、ルラシドン(Latuda)、オランザピン(Zyprexa)、パリペリドン(Invega)、ピマバンセリン(Nuplazid)、クエチアピン(Seroquel)、リスペリドン(Risperdal)、ジプラシドン(Geodon))が含まれる。
【0093】
一部の局面では、疾患は、全身性エリテマトーデスまたは慢性関節リウマチなどの自己免疫疾患である。これらの局面では、療法には、非ステロイド性抗炎症薬(例えば、イブプロフェン、ナプロキセン)、抗マラリア薬(例えば、ヒドロキシクロロキン)、コルチコステロイドおよび免疫抑制薬(例えば、アザチオプリン、シクロホスファミド、シクロスポリン)、ベリムマブ、抗リウマチ薬(例えば、メトトレキセート、レフルノミド、スルファサラジン)、ベタセプト(batacept)(Orencia)、アダリムマブ(Humira)、アナキンラ(Kineret)、バリシチニブ(Olumiant)、セルトリズマブ(Cimzia)、エタネルセプト(Enbrel)、ゴリムマブ(Simponi)、インフリキシマブ(Remicade)、リツキシマブ(リツキサン)、サリルマブ(Kevzara)、トシリズマブ(Actemra)、およびトファシチニブ(Xeljanz)が含まれる。
【0094】
一部の局面では、疾患は2型糖尿病などの代謝障害である。これらの局面では、療法には、メトホルミン、スルホニル尿素(例えば、グリブリド、グリピジド、グリメピリド)、メグリチニド(例えば、レパグリニド、ナテグリニド)、チアゾリジンジオン(例えば、ロシグリタゾン、ピオグリタゾン)、DPP-4阻害剤(例えば、シタグリプチン、サキサグリプチン、リナグリプチン)、およびGLP-1受容体アゴニスト(例えば、エキセナチド、リラグルチド、セマグルチド)、SGLT2阻害剤(カナグリフロジン、ダパグリフロジン、エンパグリフロジン)、およびインシュリンが含まれる。
【0095】
IV.キットおよび診断剤
本発明の様々な局面では、エキソソームを体液または組織培養培地から精製するための必要な成分を含むキットが想定される。さらに他の局面では、エキソソームを単離し、かつ単離したエキソソーム内の1つまたは複数の疾患細胞由来エキソソーム特異的メチル化マークの存在を判定するための必要な成分を備えるキットが想定される。
【0096】
キットは、このような任意の成分を含む1つまたは複数の密封したバイアルを含んでもよい。一部の態様では、キットはまた、キットの成分と反応しない容器である適切な容器手段、例えば、エッペンドルフチューブ、アッセイプレート、注射器、瓶、またはチューブも備えてよい。容器は、プラスチックまたはガラスなどの滅菌可能な材料から作製されてもよい。キットは、本明細書において説明される方法の手順工程を概説する指示書をさらに備えてもよく、本明細書に記載のものと実質的に同じ手順に従うか、または当業者に公知である。コンピュータを用いて実行された場合に、試料からエキソソームを精製しかつ/またはエキソソーム中の1つまたは複数の疾患細胞由来メチル化マークを同定する現実または仮想の手法を表示する、機械可読指示書を備える、コンピュータ可読媒体中に、指示書の情報は存在してもよい。
【実施例
【0097】
V.実施例
以下の実施例は、本発明の好ましい態様を証明するために含まれる。以下の実施例に開示される技法は、本発明者が発見した技法が本発明の実施において十分に機能することを示すこと、かつ、従って、本発明を実施するための好ましい態様を構成すると考えられ得ることが、当業者に理解されるはずである。しかしながら、本開示を考慮すれば、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、開示された特定の態様において多くの変更を加えることができ、それでもなお、類似または同様の結果を得ることができると当業者に理解されるはずである。
【0098】
実施例1 - エキソソームDNA中のDNAメチル化の検出
DNAメチル化を研究するために最も広範に用いられている技法はバイサルファイトシークエンシングである。バイサルファイトシークエンシングでは、メチル化されていないシトシンをウラシルに変換するために重亜硫酸ナトリウム処理を利用し、次いで、ウラシルはPCR増幅中にチミジンに変換される。メチル化されているシトシンはバイサルファイト処理後でもそのままである。従って、参照のために元のゲノムと比較すると、どこに配列が「T」ではなく「C」を含むか観察することでメチル化部位を決定することができる(Meissner et al., 2005)。
【0099】
ゲノムワイドなシトシンメチル化分析にはバイサルファイト法を使用することができるが、CpGアイランドはゲノムの約2%にしか存在しない。このため、全ゲノムバイサルファイトシークエンシングは極めて非効率的である。従って、よくあるCpG濃縮戦略は、CpGリッチ領域を標的にし、CpGアイランドの少なくとも70%を捕らえ、少量のインプットDNAしか必要としないRRBSである。これは、エキソソームDNAなどの断片化された試料または低濃度試料に極めて有用である。バイサルファイト変換後に、ゲノムのCpGリッチ領域を標的にし、DNAの部位特異的断片を生じるプライマーライブラリーを使用する。分析中に、参照配列を用いて、これらの断片、すなわち「リード(read)」が特定のDNA領域にマッピングされる。次いで、マッピングされたリードの全てに対してCからTへの変換の数が計数され、それによって、各部位でのメチル化のβ値が得られる。次いで、試料を条件間で、例えば、エキソソームDNAと細胞DNAの間で部位特異的に比較することができる(図1)。
【0100】
これらの実験のために、計画は、異なる細胞タイプから細胞DNAおよびエキソソームDNAを単離し、試料に対してバイサルファイト変換を行い、RRBSを行ってDNAに存在するメチル化パターンを決定することであった(図2)。第1の実験は、起源の細胞のメチル特性(methyl landscape)をエキソソームDNAが忠実に再現しているかどうか、これを配列決定によって検出できるかどうか判定することを目的とした。初回予備実験のために、DNAを非腫瘍形成性HPDE細胞およびPDAC panc1細胞から単離した。次いで、DNAを同じ細胞のエキソソームから単離した。次いで、DNAをバイサルファイト変換に供した。これにより、メチル化されていないシトシンはウラシルに変換に変換され、ウラシルはPCR増幅中にチミンになり、配列決定によって検出される。メチル化されているシトシンは変化しない。バイサルファイトの制約-メチル化されていないシトシンを脱アミノするのに必要な高温と低pH-によってDNAが分解されることがある。これは、既に断片化されているエキソソームDNAを用いる際の難題である。従って、この方法を用いると、クオリティの低いインプットDNAからの結果の最大化の助けとなり得るリード配列決定が低減する。
【0101】
ある実験では、細胞DNAをPanc-1細胞から抽出し、細胞からの培養上清を採取し、エキソソーム濃縮のために処理した(NanoSight(商標)分析)。この後、エキソソームDNAを抽出した(図3A)。試料(C、細胞;およびE、エキソソーム)をRRBS(reduced representation bisulfite sequencing))のために処理した。これにより1ヌクレオチド分解能レベルでのゲノムワイドなDNAメチル化プロファイルの分析が可能になった(図3A)。細胞DNAおよびエキソソームDNAのCpGメチル化%(頻度対1塩基当たりのメチル化%)のヒストグラム(それぞれ、パネルpanc1_Cおよびpanc1_E)は同様のメチル化パターンを示している(図3B)。試料の相関関係が確認され、図示した散布図および相関係数で表された(0.94、ピアソン相関検定、図3B)。結果は非常に高い相関を示しており、2つの試料間でDNAメチル化フィンガープリントパターンが強力に一致する(図3B)。詳細な比較分析から、エキソソーム対細胞でN=27の特異な低メチル化遺伝子、エキソソーム対細胞でN=3519の特異な高度メチル化遺伝子が明らかになった。従って、エキソソームDNAは高度メチル化DNAが若干豊富にある。これは、おそらく、脱メチル酵素からエキソソームDNAが保護されているためである。
【0102】
次に、8つの異なる膵臓細胞株(腫瘍形成細胞株:Panc1、BXPC3、Capan1、T3M4、MiaPaCa2、およびPSN1;非腫瘍形成性細胞株:HPNEおよびHPDE)ならびにこれらのエキソソームを3回繰り返して試験した。第1に、全ての試料に対して品質管理分析を行った。アラインメント率は高く、CpGリッチ領域の部位特異的分析のために優れたカバレッジが得られた(図4)。第2に、リードクオリティは高いと判定された。このことは、配列決定の誤りが少なく、リードを正確に分析できたことを意味している(図5)。さらに、リード配列決定の低減によって予想された高い重複レベルがあった。なぜなら、特定の部位を増幅するためにプライマーライブラリーを使用したからである(図6)。全ての断片が全く同じゲノム位置に何度もきちんと一列に並んでいると予想されるので(例えば、ゲノム中のMspI制限認識部位の数が限られているので)、RRBSライブラリーがこんなに大きく重複レベルを特徴付けたと予想される。
【0103】
図7の特異的分析はHPDEとPanc1試料の比較を示している。概説したように、メチル化プロファイルには各細胞タイプの中で非常に高い相関率があり、そのため、細胞DNAとエキソソームDNAを用いて、これらの細胞株から異なるメチル化パターンを区別することができる。同じ細胞株からの細胞DNAとエキソソームDNAには、高度に相関したメチル化パターンがある。このことは、エキソソームDNAが、起源の細胞において見られるメチル化パターンを維持しているという仮説を裏付けている。
【0104】
図8は、相関関係を視覚化する別の手法を示す。これにより試料は細胞タイプによって分離することが示される。それぞれのバイサルファイト変換バッチはわずかに異なる場合がある。従って、初回試験からのPanc1試料(Panc1_C3およびPanc1_E3)は他のPanc1レプリケートと少し異なるが、依然として、この細胞株と一緒にクラスター化する。
【0105】
バッチ分離のさらなる例は図9に示した主成分分析であり、集団間の遺伝的距離および関連性を視覚化するために使用した。HPDE試料は全て非常に密接にクラスター化する。
【0106】
図10に示したプロットから、試験した8つ全ての株に由来する各細胞株からの試料はクラスター化することが証明される。このことから、試料は、DNAが細胞に由来するかエキソソームに由来するかに関係なく細胞タイプによって分離することが分かる。この場合でも、それぞれのバイサルファイト変換バッチはわずかに異なる場合があり、そのため、予備試験からのPanc1試料は他のPanc1レプリケートと少し異なるが、依然として、この細胞株と一緒にクラスター化することが分かる。各試料について、メチル化パターンから、全ての染色体にわたってカバレッジが証明される(図11A~H)。
【0107】
本明細書において開示および請求された方法は全て、本開示を考慮すれば過度の実験なく作製および実施することができる。本発明の組成物および方法が好ましい態様に関して説明されたが、本発明の概念、精神、および範囲から逸脱することなく、本明細書に記載の方法および本明細書に記載の方法の工程または工程の順序に変更を加えることができることは当業者に明らかである。さらに具体的には、本明細書に記載の作用物質の代わりに、化学的および生理学的に関連している、ある特定の作用物質を使用することができ、それと同時に、同一の結果または類似の結果が得られることは明らかである。当業者に明らかな、このような類似する代用および変更は全て、添付の特許請求の範囲により定義される本発明の精神、範囲、および概念の範囲内であると考えられる。
【0108】
参照文献
以下の参照文献は、例示的な手法の詳細または本明細書に記載のものを補足する他の詳細を示す程度まで参照により本明細書に特に組み入れられる。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7-1】
図7-2】
図7-3】
図7-4】
図8
図9
図10-1】
図10-2】
図11A
図11B
図11C
図11D
図11E
図11F
図11G
図11H-1】
図11H-2】
図11H-3】