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特許74747064-フェニル酪酸を含有する老視の治療または予防剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-17
(45)【発行日】2024-04-25
(54)【発明の名称】4-フェニル酪酸を含有する老視の治療または予防剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/192 20060101AFI20240418BHJP
   A61P 27/10 20060101ALI20240418BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20240418BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20240418BHJP
   A61K 47/14 20170101ALI20240418BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20240418BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20240418BHJP
   A61K 31/216 20060101ALN20240418BHJP
【FI】
A61K31/192
A61P27/10
A61P27/02
A61K9/06
A61K47/14
A61K47/02
A61K47/38
A61K31/216
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020561453
(86)(22)【出願日】2019-12-17
(86)【国際出願番号】 JP2019049354
(87)【国際公開番号】W WO2020129965
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-12-14
(31)【優先権主張番号】P 2018236724
(32)【優先日】2018-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000177634
【氏名又は名称】参天製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100126778
【弁理士】
【氏名又は名称】品川 永敏
(74)【代理人】
【識別番号】100162684
【弁理士】
【氏名又は名称】呉 英燦
(74)【代理人】
【識別番号】100162695
【弁理士】
【氏名又は名称】釜平 双美
(74)【代理人】
【識別番号】100156155
【弁理士】
【氏名又は名称】水原 正弘
(72)【発明者】
【氏名】加藤 雅智
(72)【発明者】
【氏名】小田 知子
(72)【発明者】
【氏名】野▲崎▼ 健介
【審査官】深草 亜子
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-515575(JP,A)
【文献】特表2013-527222(JP,A)
【文献】国際公開第2018/030389(WO,A1)
【文献】特表2005-506096(JP,A)
【文献】国際公開第2018/164113(WO,A1)
【文献】特表2013-525451(JP,A)
【文献】あたらしい眼科,Vol.31,2014年,pp.1443-1448
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CA/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
4-フェニル酪酸またはその医薬的に許容される塩のみを有効成分として含有する、老視の治療または予防剤。
【請求項2】
4-フェニル酪酸またはその医薬的に許容される塩のみを有効成分として含有する、水晶体の弾性の低下を伴う眼疾患の治療または予防剤。
【請求項3】
該眼疾患が眼の調節力の低下を伴う眼疾患である、請求項2に記載の治療または予防剤。
【請求項4】
4-フェニル酪酸またはその医薬的に許容される塩のみを有効成分として含有する、眼の調節力の低下を伴う眼疾患の治療または予防剤。
【請求項5】
該眼疾患が老視である、請求項2~4のいずれか一項に記載の治療または予防剤。
【請求項6】
眼投与される、請求項1~5のいずれか一項に記載の治療または予防剤。
【請求項7】
点眼剤または眼軟膏である、請求項1~6のいずれか一項に記載の治療または予防剤。
【請求項8】
4-フェニル酪酸またはその医薬的に許容される塩の含有量が0.00001~10%(w/v)である、請求項1~7のいずれか一項に記載の治療または予防剤。
【請求項9】
4-フェニル酪酸またはそのナトリウム塩のみ有効成分として含有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の治療または予防剤。
【請求項10】
水、ならびにピルビン酸エチル、リン酸水素ナトリウム一水和物、リン酸水素二ナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、NaCl、およびその混合から選択される添加物をさらに含有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の治療または予防剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4-フェニル酪酸若しくはそのエステル又はそれらの医薬的に許容される塩を有効成分として含有する老視の治療または予防剤に関する。
【背景技術】
【0002】
老視は、40歳頃から始まる目の老化現象の一つで、俗に老眼とも呼ばれ、非特許文献1によれば、加齢に伴って調節幅が減退する病態(Age-Related Loss of Accommodation)である疾患と定義される。近くのものや遠くのものを見てピントが合うためには、目に入ってきた光が水晶体を通るときに適切に屈折されることが必要であり、そのため、水晶体の近くに位置する毛様体筋の収縮など目には水晶体の厚さを調節する機能が備わっている。遠近調節反応に関与する眼球組織は、水晶体、チン小帯、水晶体嚢、および毛様体筋を含む。しかし、老化によって毛様体筋の機能が低下したり、水晶体の弾性(或いは、粘弾性)が低下、つまり、水晶体が硬化したりすると、水晶体の厚さを調節することが困難になり、ものを見た時にピントがうまく合わなくなる。この状態が老視である。
【0003】
老視への対処にはこれまで老眼鏡が用いられてきたが、最近では、老視治療剤の研究開発の報告もある。例えば、特許文献1には、リポ酸コリンエステル(別名、EV06、UNR844)等のリポ酸誘導体が老視の治療に有用であることが開示され、リポ酸コリンエステルを含有する点眼剤は米国で臨床開発が進められている。そのほか、AGN-199201とAGN-190584を配合する点眼剤、PRX-100を含有する点眼剤、およびPresbiDrops(CSF-1)を含有する点眼剤でも、老視治療剤としての臨床開発が進められている。しかしながら、老視患者の状態は多様であり、それに応じて治療剤を適宜選択できるよう、眼疾患治療剤の種類の増加は依然として強く望まれている。
【0004】
4-フェニル酪酸は体内でフェニル酢酸に代謝されてグルタミンと結合して尿中に排泄されるが、このサイクルはアンモニア排泄経路の代替経路といわれており、4-フェニル酪酸のナトリウム塩は尿素サイクル異常症の治療薬に用いられている(非特許文献2)。しかしながら、4-フェニル酪酸と老視治療の関係について報告する文献はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2010/147957号パンフレット
【非特許文献】
【0006】
【文献】あたらしい眼科、Vol.28、No.7、985-988、2011
【文献】ブフェニール(登録商標)錠 500mg ブフェニール(登録商標)顆粒 94% 添付文書
【0007】
本明細書において引用する先行技術文献の開示は全て、参照することにより、本明細書に組み込まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
老視の新たな治療または予防手段を見出すことは非常に興味深い課題である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、4-フェニル酪酸が、意外にも水晶体の弾性を顕著に向上させることを見出し、本開示の発明に至った。具体的に本開示は以下の発明の態様を提供する。
【0010】
〔1〕 4-フェニル酪酸もしくはそのエステルまたはそれらの医薬的に許容される塩を有効成分として含有する、老視の治療または予防剤。
【0011】
〔2〕 4-フェニル酪酸もしくはそのエステルまたはそれらの医薬的に許容される塩を有効成分として含有する、水晶体の弾性の低下を伴う眼疾患の治療または予防剤。
【0012】
〔3〕 該眼疾患が眼の調節力の低下を伴う眼疾患である、〔2〕に記載の治療または予防剤。
【0013】
〔4〕 4-フェニル酪酸もしくはそのエステルまたはそれらの医薬的に許容される塩を有効成分として含有する、眼の調節力の低下を伴う眼疾患の治療または予防剤。
【0014】
〔5〕 該眼疾患が老視である、〔2〕~〔4〕のいずれか一項に記載の治療または予防剤。
【0015】
〔6〕 眼投与される、〔1〕~〔5〕のいずれか一項に記載の治療または予防剤。
【0016】
〔7〕 点眼剤または眼軟膏である、〔1〕~〔6〕のいずれか一項に記載の治療または予防剤。
【0017】
〔8〕 4-フェニル酪酸もしくはそのエステルまたはそれらの医薬的に許容される塩の含有量が0.00001~10%(w/v)である、〔1〕~〔7〕のいずれか一項に記載の治療または予防剤。
【0018】
〔9〕 4-フェニル酪酸またはそのナトリウム塩を含有する、〔1〕~〔8〕のいずれか一項に記載の治療または予防剤。
【0019】
〔10〕 水、ならびにピルビン酸エチル、リン酸水素ナトリウム一水和物、リン酸水素二ナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、NaCl、およびその混合から選択される添加物をさらに含有する、〔1〕~〔9〕のいずれか一項に記載の治療または予防剤。
【0020】
〔11〕 老視、水晶体の弾性の低下を伴う眼疾患、または眼の調節力の低下を伴う眼疾患の治療または予防剤の製造における、4-フェニル酪酸もしくはそのエステルまたはそれらの医薬的に許容される塩の使用。
【0021】
〔12〕 老視、水晶体の弾性の低下を伴う眼疾患、または眼の調節力の低下を伴う眼疾患の治療または予防における使用のための、4-フェニル酪酸もしくはそのエステルまたはそれらの医薬的に許容される塩。
【0022】
〔13〕 老視、水晶体の弾性の低下を伴う眼疾患、または眼の調節力の低下を伴う眼疾患を治療または予防するための方法であって、その治療または予防を必要とする対象に有効量の4-フェニル酪酸もしくはそのエステルまたはそれらの医薬的に許容される塩を投与することを含む方法。
【0023】
前記〔1〕から〔13〕の各構成は、任意に2以上を選択して組み合わせることができる。
【0024】
また、本開示は以下の発明の態様も提供する。
【0025】
〔14〕 フェニル酢酸もしくはそのエステルまたはそれらの医薬的に許容される塩を有効成分として含有する、老視の治療または予防剤。
【0026】
〔15〕 フェニル酢酸もしくはそのエステルまたはそれらの医薬的に許容される塩を有効成分として含有する、水晶体の弾性の低下を伴う眼疾患の治療または予防剤。
【0027】
〔16〕 該眼疾患が眼の調節力の低下を伴う眼疾患である、〔15〕に記載の治療または予防剤。
【0028】
〔17〕 フェニル酢酸もしくはそのエステルまたはそれらの医薬的に許容される塩を有効成分として含有する、眼の調節力の低下を伴う眼疾患の治療または予防剤。
【0029】
〔18〕 該眼疾患が老視である、〔15〕~〔17〕のいずれか一項に記載の治療または予防剤。
【0030】
〔19〕 眼投与される、〔14〕~〔18〕のいずれか一項に記載の治療または予防剤。
【0031】
〔20〕 点眼剤または眼軟膏である、〔14〕~〔19〕のいずれか一項に記載の治療または予防剤。
【0032】
〔21〕 フェニル酢酸もしくはそのエステルまたはそれらの医薬的に許容される塩の含有量が0.00001~10%(w/v)である、〔14〕~〔20〕のいずれか一項に記載の治療または予防剤。
【0033】
〔22〕 フェニル酢酸を含有する、〔14〕~〔21〕のいずれか一項に記載の治療または予防剤。
【0034】
〔23〕 水、ならびにピルビン酸エチル、リン酸水素ナトリウム一水和物、リン酸水素二ナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、NaCl、およびその混合から選択される添加物をさらに含有する、〔14〕~〔22〕のいずれか一項に記載の治療または予防剤。
【0035】
〔24〕 老視、水晶体の弾性の低下を伴う眼疾患、または眼の調節力の低下を伴う眼疾患の治療または予防剤の製造における、フェニル酢酸もしくはそのエステルまたはそれらの医薬的に許容される塩の使用。
【0036】
〔25〕 老視、水晶体の弾性の低下を伴う眼疾患、または眼の調節力の低下を伴う眼疾患の治療または予防における使用のための、フェニル酢酸もしくはそのエステルまたはそれらの医薬的に許容される塩。
【0037】
〔26〕 老視、水晶体の弾性の低下を伴う眼疾患、または眼の調節力の低下を伴う眼疾患を治療または予防するための方法であって、その治療または予防を必要とする対象に有効量のフェニル酢酸もしくはそのエステルまたはそれらの医薬的に許容される塩を投与することを含む方法。
【0038】
前記〔12〕から〔26〕の各構成は、任意に2以上を選択して組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0039】
本開示の治療または予防剤は、水晶体の厚さ調節に重要な水晶体の弾性を向上することができ、よって老視等の眼疾患の治療または予防に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0041】
本開示は、4-フェニル酪酸もしくはそのエステルまたはそれらの医薬的に許容される塩を有効成分として含有する、老視の治療または予防剤(以下、「本発明の薬剤」と称することがある)を提供する。本発明の薬剤は水晶体の弾性を向上するために使用されうる。さらに本発明の薬剤は眼の調節力を向上するために使用されうる。
【0042】
4-フェニル酪酸は下記式(1):
【化1】

で表される化合物(CAS登録番号:1821-12-1)であり、4PBAと略されることもある。
【0043】
本発明の薬剤に含有されうる4-フェニル酪酸のエステルは、例えば、4-フェニル酪酸のカルボキシル基が炭素数1~6(好ましくは炭素数1~4、より好ましくは炭素数1~3)の1価アルコールと脱水縮合することで形成されるエステルが挙げられる。具体的なエステルの例としては、メチルエステル、エチルエステル、n-プロピルエステル、イソプロピルエステル、n-ブチルエステル、イソブチルエステル、sec-ブチルエステル、tert-ブチルエステル、n-ペンチルエステルまたはn-ヘキシルエステルが挙げられる。好ましいエステルの例として、メチルエステル、エチルエステル、n-プロピルエステル、イソプロピルエステルが挙げられる。
【0044】
本発明の薬剤に含有されうる4-フェニル酪酸の塩および4-フェニル酪酸のエステルの塩は、医薬的に許容される塩であれば特に制限されない。例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩等の無機酸塩;酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、安息香酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩等の有機酸塩;ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等の金属塩;アンモニウム塩等の無機塩;およびトリエチルアミン塩、グアニジン塩等の有機アミン塩等が挙げられ、好ましくは、ナトリウム塩、カリウム塩が挙げられる。
【0045】
本発明の薬剤において、4-フェニル酪酸もしくはそのエステルまたはそれらの医薬的に許容される塩は、水和物または溶媒和物の形態をとってもよい。
【0046】
本発明の薬剤における4-フェニル酪酸もしくはそのエステルまたはそれらの医薬的に許容される塩の含有量は、特に制限されず、投与形態等によって、広範囲から選択されうる。
【0047】
例えば、本発明の薬剤における4-フェニル酪酸もしくはそのエステルまたはそれらの医薬的に許容される塩の含有量は0.00001~10%(w/v)であり、好ましくは0.0001~5%(w/v)であり、より好ましくは0.001~3%(w/v)であり、さらにより好ましくは0.01~2%(w/v)、特に好ましくは0.15~1.5%(w/v)である。当該含有量の下限値の例として0.00001%(w/v)、好ましい例として0.0001%(w/v)、より好ましい例として0.001%(w/v)、さらにより好ましい例として0.01%(w/v)、特に好ましい例として0.1%(w/v)、さらに特に好ましい例として0.15%(w/v)が挙げられる。当該含有量の上限値の例として10%(w/v)、好ましい例として5%(w/v)、より好ましい例として3%(w/v)、特に好ましい例として2%(w/v)、さらに特に好ましい例として1.5%(w/v)が挙げられる。当該含有量の好ましい範囲は、上記の下限値の例および上限値の例の組み合わせにより示されうる。
【0048】
さらに例えば、本発明の薬剤における4-フェニル酪酸もしくはそのエステルまたはそれらの医薬的に許容される塩の含有量は0.00001~10%(w/w)であり、好ましくは0.0001~5%(w/w)であり、より好ましくは0.001~3%(w/w)であり、さらにより好ましくは0.01~2%(w/w)、特に好ましくは0.15~1.5%(w/w)である。当該含有量の下限値の例として0.00001%(w/w)、好ましい例として0.0001%(w/w)、より好ましい例として0.001%(w/w)、さらにより好ましい例として0.01%(w/w)、特に好ましい例として0.1%(w/w)、さらに特に好ましい例として0.15%(w/w)が挙げられる。当該含有量の上限値の例として10%(w/w)、好ましい例として5%(w/w)、より好ましい例として3%(w/w)、特に好ましい例として2%(w/w)、さらに特に好ましい例として1.5%(w/w)が挙げられる。当該含有量の好ましい範囲は、上記の下限値の例および上限値の例の組み合わせにより示されうる。
【0049】
1つの実施形態において、本発明の薬剤における4-フェニル酪酸もしくはそのエステルまたはそれらの医薬的に許容される塩の含有量は、0.1~10%(w/w)(例えば0.2~5%(w/w)、0.3~5%(w/w)、0.5~4%(w/w)、0.8~3%(w/w))でありうる。
【0050】
本開示において「%(w/v)」は、薬剤100mL中に含まれる有効成分(4-フェニル酪酸もしくはそのエステルまたはそれらの医薬的に許容される塩)や添加物(界面活性剤等)の質量(g)を意味する。例えば、4-フェニル酪酸0.01%(w/v)とは、薬剤100mL中に含まれる4-フェニル酪酸が0.01gであることを意味する。
【0051】
本開示において「%(w/w)」は、薬剤100g中に含まれる有効成分(4-フェニル酪酸もしくはそのエステルまたはそれらの医薬的に許容される塩)や添加物(界面活性剤等)の質量(g)を意味する。例えば、4-フェニル酪酸0.01%(w/w)とは、薬剤100g中に含まれる4-フェニル酪酸が0.01gであることを意味する。
【0052】
4-フェニル酪酸またはそのエステルが、塩または水和物もしくは溶媒和物(塩の水和物または溶媒和物を含む)の形態である場合、薬剤における4-フェニル酪酸もしくはそのエステルまたはそれらの医薬的に許容される塩の含有量は、薬剤中に配合された当該塩または水和物もしくは溶媒和物(塩の水和物または溶媒和物を含む)の質量であっても、4-フェニル酪酸またはそのエステルのフリー体として換算された質量であってもよいが、4-フェニル酪酸またはそのエステルのフリー体として換算された質量であることが好ましい。
【0053】
なお、4-フェニル酪酸は、生体内でβ酸化により速やかにフェニル酢酸に代謝されることが知られている。本発明の薬剤において、4-フェニル酪酸もしくはそのエステルまたはそれらの医薬的に許容される塩の代わりに、フェニル酢酸もしくはそのエステルまたはそれらの医薬的に許容される塩を用いてもよい。フェニル酢酸のエステルの例としては、上述の4-フェニル酪酸のエステルで挙げられたエステルが挙げられ、フェニル酢酸の医薬的に許容される塩およびフェニル酢酸のエステルの塩の例としては、4-フェニル酪酸の医薬的に許容される塩および4-フェニル酪酸のエステルの塩で挙げられた塩が挙げられる。フェニル酢酸もしくはそのエステルまたはそれらの医薬的に許容される塩は、水和物または溶媒和物の形態をとってもよい。また、本発明の薬剤におけるフェニル酢酸もしくはそのエステルまたはそれらの医薬的に許容される塩の含有量は、特に制限されず、投与形態等によって、広範囲から選択されえ、好ましい含有量は上述の4-フェニル酪酸もしくはそのエステルまたはそれらの医薬的に許容される塩の含有量に従う。
【0054】
本開示において「老視」とは、医師または専門家に用いられる一般的な基準に基づいて老視と判断される症状/疾患を意味する。例えば老視の診断基準として、「両眼検査で近見視力の低下を自覚症状として有しかつ両眼生活視力(日常生活と同じ条件で測定した両眼遠見視力)で40cm視力が0.4未満である」(臨床的老視)および/または「自覚症状の有無に関係なく片眼完全矯正下(片眼の矯正視力(少数視力)が1.0以上)で調節力が2.5ジオプター未満である」(医学的老視)が挙げられる。ただし、アコモドメーター等を有さない場合には簡便法として40cm視力が0.4未満を用いてもよい。
【0055】
本開示において「水晶体の弾性の低下を伴う眼疾患」とは、眼科分野において水晶体の弾性の低下を伴うと考えられている眼疾患を意味し、例えば老視(例えば加齢による老視)、および薬剤等により誘発された水晶体硬化が挙げられる。
【0056】
本開示において「眼の調節力」とは、遠見時および/または近見時に自動的にピントを合わす眼の機能を意味する。「眼の調節力の低下を伴う眼疾患」とは眼科分野において眼の調節力の低下を伴うと考えられている眼疾患を意味し、例えば老視(例えば加齢による老視)、薬剤等により誘発された水晶体硬化、および長時間の近方視により誘発された調節力低下が挙げられる。
【0057】
本発明の薬剤の効果は、例えば「眼の調節力」の向上として評価されうる。
眼の調節力はジオプター(D)として測定され、次の式(1)により求めることができる。
ジオプター(D)=1/近点距離(m) (式1)
【0058】
一般に、眼の調節力は10歳では10ジオプター以上あるが、その後徐々に低下して、約45歳で約3ジオプターに低下し、約60歳でほとんど失われる。約3ジオプターにまで低下すると日常生活において近距離(約30cm)に焦点を合わせにくくなるため、老視の自覚症状が現れる。
【0059】
本発明の薬剤の効果は、例えば「視力」の向上として評価されうる。
視力は、近見視力(裸眼、遠見矯正下、矯正)として測定され、少数視力、分数視力、logMARより求めることができる。
【0060】
一般に、近見視力は約40cmを規定しており、0.4未満にまで低下すると近くのものを見る際に困難をきたし、老視の自覚症状が現れる。本発明の薬剤は近見視力(例えば遠見矯正下近見視力)を改善するために使用されうる。
【0061】
本発明の薬剤は、処置後、1年以内、好ましくは6ケ月以内、より好ましくは1ケ月以内、さらに好ましくは1週間以内、最も好ましくは1日以内に効果を発揮しうる。また、一度効果を発揮したら、1日後、好ましくは1週間後、より好ましくは1ヵ月後、さらに好ましくは6ヵ月後、特に好ましくは1年後、最も好ましくは3年後まで持続して効果を発揮しうる。
【0062】
本発明の薬剤は、例えば、眼の調節力を少なくとも約0.5ジオプター(好ましくは少なくとも約1ジオプター、より好ましくは少なくとも約1.5ジオプター、さらに好ましくは少なくとも約2ジオプター、さらにより好ましくは少なくとも約3ジオプター、またさらに好ましくは少なくとも約4ジオプター、特に好ましくは少なくとも約5ジオプター、さらに特に好ましくは少なくとも約10ジオプター)増加させるように投与されることができる。
【0063】
本発明の薬剤は、例えば、遠見矯正下近見視力(distance-corrected near visual acuities (DCNVA))を少なくとも0.5 logMAR程度(好ましくは少なくとも1.0 logMAR程度、より好ましくは少なくとも1.5 logMAR程度、さらに好ましくは2.0 logMAR程度、もっと好ましくは3.0 logMAR程度、殊更好ましくは4.0 logMAR程度、特に好ましくは5.0 logMAR程度、さらに特に好ましくは6.0 logMAR程度)改善させるように投与されることができる。遠見矯正下近見視力は、一般に遠見視力を≦0.0 logMAR(少数視力1.0以上)に矯正して測定した近見視力のことをいう。
【0064】
本発明の薬剤は、例えば、眼の調節力が、少なくとも約0.5ジオプター(好ましくは少なくとも約1ジオプター、より好ましくは少なくとも約1.5ジオプター、さらに好ましくは少なくとも約2ジオプター、もっと好ましくは少なくとも約3ジオプター、殊更好ましくは少なくとも約4ジオプター、特に好ましくは少なくとも約5ジオプター、さらに特に好ましくは少なくとも約10ジオプター)にまで回復するように投与されることができる。
【0065】
本発明の薬剤は、例えば、遠見矯正下近見視力(distance-corrected near visual acuities (DCNVA))を少なくとも0.5 logMAR程度(好ましくは少なくとも1.0 logMAR程度、より好ましくは少なくとも1.5 logMAR程度、さらに好ましくは2.0 logMAR程度、もっと好ましくは3.0 logMAR程度、殊更好ましくは4.0 logMAR程度、特に好ましくは5.0 logMAR程度、さらに特に好ましくは6.0 logMAR程度)にまで回復させるように投与されることができる。
【0066】
本開示において老視の治療または予防には、水晶体の弾性を向上させること、水晶体の厚さの調節機能を改善すること、および/または目の調節力を改善することが含まれる。
【0067】
上述のとおり、一般に老視の自覚症状が現れるのは約45歳であるものの、加齢による眼の調節力の低下は十代から進行している。本発明の薬剤は老視の自覚症状が現れてから使用されてもよく、老視の自覚症状が現れる前に老視の進行を防止するおよび/または遅らせるために使用されてもよい。
【0068】
本発明の薬剤の投与対象は、ウシおよびブタ等の家畜、ウサギ、サル、イヌ、ネコ、およびヒトを含む哺乳類であり、好ましくはヒトである。
【0069】
本開示において「治療」および「予防」には、疾患を治療することおよび疾患を予防することに加え、疾患の症状を緩和する、疾患の進行を遅らせる、疾患の症状を抑制する、および疾患の症状の改善を誘発することを含み得る。
【0070】
本発明の薬剤の投与経路は、経口であっても非経口(例えば眼、鼻、皮膚、粘膜、注射等)であってよい。本発明の薬剤は、有効成分を例えば1以上の医薬的に許容される添加物と混合して、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、トローチ剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤等の経口剤、或いは点眼剤、眼軟膏、注射剤、坐剤、経鼻剤等の非経口剤の形態に、当該技術分野における通常の方法で調製されうる。本発明の薬剤の好ましい製剤形として点眼剤および眼軟膏が挙げられる。
【0071】
本発明の薬剤に含まれうる医薬的に許容される添加物は、特に限定されず、投与経路、製剤形等に従って適宜選択されうる。当該医薬的に許容される添加物の例としては、例えば、界面活性剤、緩衝剤、等張化剤、安定化剤、防腐剤、抗酸化剤、粘稠化剤、溶解補助剤、懸濁化剤、基剤、溶剤、pH調整剤、賦形剤、崩壊剤、結合剤、流動化剤、滑沢剤、保存剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤等が挙げられる。
【0072】
本発明の薬剤が点眼剤の場合には、使用されうる添加物の例として、界面活性剤、緩衝剤、等張化剤、安定化剤、防腐剤、抗酸化剤、粘稠化剤、溶剤、pH調整剤等が挙げられる。
【0073】
界面活性剤の例として、カチオン性界面活性化剤、アニオン性界面活性化剤、非イオン性界面活性化剤等が挙げられる。
【0074】
本発明の薬剤に界面活性化剤を配合する場合の界面活性化剤の含有量は、界面活性化剤の種類などにより適宜調整することができるが、例えば、0.01~1%(w/v)が好ましい。
【0075】
緩衝剤の例として、リン酸又はその塩等が挙げられ、これらの水和物又は溶媒和物であってもよい。
【0076】
リン酸又はその塩としては、リン酸、リン酸三ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素ナトリウム(リン酸水素二ナトリウム)等が挙げられ、これらの水和物であってもよい。
【0077】
本発明の薬剤に緩衝剤を配合する場合の緩衝剤の含有量は、緩衝剤の種類などにより適宜調整することができるが、例えば、0.001~10%(w/v)が好ましく、0.01~5%(w/v)がより好ましい。緩衝剤を2種以上一緒に用いてもよい。
【0078】
等張化剤の例として、イオン性等張化剤や非イオン性等張化剤等が挙げられる。イオン性等張化剤としては、塩化ナトリウム等が挙げられる。
【0079】
本発明の薬剤に等張化剤を配合する場合の等張化剤の含有量は、等張化剤の種類などにより適宜調整することができるが、例えば、0.001~10%(w/v)が好ましく、0.01%~5%(w/v)がより好ましい。
【0080】
粘稠化剤の例として、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等が挙げられる。
【0081】
本発明の薬剤に粘稠化剤を配合する場合の粘稠化剤の含有量は、粘稠化剤の種類などにより適宜調整することができるが、例えば、0.001~5%(w/v)が好ましく、0.01%~3%(w/v)がより好ましい。
【0082】
本発明の薬剤が水性製剤(例えば点眼剤)である場合には、そのpHは、4~8が好ましく、5~7がより好ましい。
【0083】
溶剤の例として、例えば、水、生理食塩水等が挙げられる。
【0084】
本発明の薬剤が水性製剤(例えば点眼剤)である場合の例として、4-フェニル酪酸もしくはそのエステルまたはそれらの医薬的に許容される塩、水、ならびにピルビン酸エチル、リン酸水素ナトリウム一水和物(NaHPOO)、リン酸水素二ナトリウム(NaHPO)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、NaCl、およびその混合から選択される添加物を含有する水性製剤が挙げられる。前記「その混合」とは当該列記された特定の添加物の任意の組み合わせを意味する。
【0085】
本願において「有効量」は、疾患の症状における患者利益を提供するために必要な有効成分の量である。
【0086】
本発明の薬剤の用法・用量は、所望の薬効を奏するのに十分な用法・用量であれば特に制限はなく、疾患の症状、患者の年齢や体重、薬剤の剤形等に応じて適宜選択できる。
例えば、点眼剤の場合、1回量1~5滴、好ましくは1~3滴、より好ましくは1~2滴、特に好ましくは1滴を、1日1~4回、好ましくは1日1~3回、より好ましくは1日1~2回、特に好ましくは1日1回を、毎日~1週間毎に点眼投与することができる。ここで、1滴は、通常、約0.01~約0.1mLであり、好ましくは、約0.015~約0.07mLであり、より好ましくは、約0.02~約0.05mLであり、特に好ましくは約0.03mLである。
【0087】
本発明の薬剤の投与期間は医師または専門家により決定されうるが、1つの実施形態において、本発明の薬剤は点眼剤および眼軟膏等の眼投与剤であって、少なくとも2日間、少なくとも3日間、少なくとも7日間、少なくとも10日間、少なくとも14日間継続して使用されうる。1つの実施形態において、本発明の薬剤は、1日に少なくとも1回(例えば、少なくとも2回、少なくとも3回)投与されうる。
【0088】
1つの実施形態において、本発明の薬剤は、眼投与されたとき、老視、水晶体の弾性の低下を伴う眼疾患、または眼の調節力の低下を伴う眼疾患に対する効果を有しつつ、さらに、低眼刺激性でありうる。
【実施例
【0089】
以下に薬理試験の結果を示すが、これらは本発明をより良く理解するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0090】
[薬理試験1]
リポ酸コリンエステル(EV06)による水晶体の弾性に対する作用を確認した。InvestOphthalmol Vis Sci、57、2851-2863、2016に記載の方法を参考に、評価試験を行った。EV06は、下記式(2):
【化2】

で表される化合物である。
【0091】
(被験試料の調製)
1)基剤の調製
0.1%(w/v) ピルビン酸エチル、0.269%(w/v) リン酸水素ナトリウム一水和物(NaHPOO)、0.433%(w/v) リン酸水素二ナトリウム(NaHPO)、0.2%(w/v)ヒドロキシプロピルメチルセルロース、0.5%(w/v) NaClを含有する基剤を調製した。
【0092】
2)EV06試料の調製
EV06に基剤を加えてソニケートし、5%(w/v)の懸濁液を調製した。調製した5%(w/v)懸濁液を基剤で希釈して1.5%(w/v)溶液を調製した。さらに、調製した1.5%(w/v)溶液を基剤で希釈して0.5%(w/v)溶液を調製した。それぞれ1日分を用事調製した。
【0093】
(試験方法)
1)8ヵ月齢のC57BL/6Jマウスに各被験試料を1日3回(9:00、13:00、17:00を目安)、15~17日間、2.5 μL/eyeずつピペットマンを用いて右眼に点眼した。
2)最終点眼後に、マウスに二酸化炭素を吸引させ安楽殺し、眼球を摘出して、Hank‘s balanced salt solution(HBSS)でリンスした。
3)視神経近くの強膜をカミソリで切り、水晶体を切開部から摘出し、摘出した水晶体はHBSSに浸した。
4)水晶体をスライドガラスの上にのせ、オールインワン蛍光顕微鏡BZ-9000(キーエンス)を用いて水晶体の画像を取り込んだ(画像a)。
5)次に、水晶体の上に1枚のカバーガラス(Corning(登録商標) 22x22mm Square)を載せ、重さにより水晶体の厚さが変動した画像を同様に取り込んだ(画像b)。
6)画像bの水晶体直径から画像aの水晶体直径を引き、水晶体直径の変化量を下記計算式1より算出した。ついで、基剤群と比較した各試料群の水晶体弾性向上量を下記計算式2より算出した。なお、平均値は、基剤群は6例、各EV06試料群は12例の平均である。
【0094】
(計算式1)
水晶体直径の変化量=各被験試料の画像bの水晶体直径-各被験試料の画像aの水晶体直径
【0095】
(計算式2)
各試料群の水晶体弾性向上量=各EV06試料群の水晶体直径の変化量の平均値-基剤群の水晶体直径の変化量の平均値
【0096】
(結果)
結果を表1に示す。
【表1】
【0097】
表1から明らかなように、EV06試料群は、0.5%、1.5%、5%のいずれにおいても、基剤群と比べて水晶体直径を増加させ、EV06が弾性向上作用を示すことを確認した。
【0098】
[薬理試験2]
4-フェニル酪酸ナトリウムによる水晶体の弾性に対する作用を検討した。
【0099】
(被験試料の調製)
1)基剤の調製
0.1%(w/v) ピルビン酸エチル、0.269%(w/v) リン酸水素ナトリウム一水和物(NaHPOO)、0.433%(w/v) リン酸水素二ナトリウム(NaHPO)、0.2%(w/v) ヒドロキシプロピルメチルセルロース、0.5%(w/v) NaClを含有する基剤を調製した。
【0100】
2)4-フェニル酪酸ナトリウム試料の調製
4-フェニル酪酸ナトリウムに基剤を加えてソニケートし、1.5%(w/v)の溶液を調製した。調製した1.5%(w/v)溶液を基剤で希釈して0.5%(w/v)溶液を調製した。さらに、調製した0.5%(w/v)溶液を基剤で希釈して0.15%(w/v)溶液を調製した。それぞれ1日分を用事調製した。
【0101】
3)EV06試料の調製
EV06に基剤を加えてソニケートし、1.5%(w/v)溶液を調製した(1日分を用事調製した)。
【0102】
(試験方法)
1)8ヵ月齢のC57BL/6Jマウスに各被験試料を1日3回(9:00、13:00、17:00を目安)、12~15日間、2.5 μL/eyeずつピペットマンを用いて右眼に点眼した。
2)最終点眼後に、マウスに二酸化炭素を吸引させ安楽殺し、眼球を摘出して、Hank‘s balanced salt solution(HBSS)でリンスした。
3)視神経近くの強膜をカミソリで切り、水晶体を切開部から摘出し、摘出した水晶体はHBSSに浸した。
4)水晶体をスライドガラスの上にのせ、オールインワン蛍光顕微鏡BZ-9000(キーエンス)を用いて水晶体の画像を取り込んだ(画像a)。
5)次に、水晶体の上に1枚のカバーガラス(Corning(登録商標) 22x22mm Square)を載せ、重さにより水晶体の厚さが変動した画像を同様に取り込んだ(画像b)。
6)画像bの水晶体直径から画像aの水晶体直径を引き、水晶体直径の変化量を下記計算式1より算出した。ついで、基剤群と比較した各試料群の水晶体弾性向上量を下記計算式2より算出した。なお、平均値は基剤群は4例、各4-フェニル酪酸ナトリウム試料群及びEV06試料群は9-10例の平均である。
【0103】
(計算式1)
水晶体直径の変化量=各被験試料の画像bの水晶体直径-各被験試料の画像aの水晶体直径
【0104】
(計算式2)
各試料群の水晶体弾性向上量=各被験試料群の水晶体直径の変化量の平均値-基剤群の水晶体直径の変化量の平均値
【0105】
(結果)
結果を表2に示す。
【表2】

【0106】
表2から明らかなように、4-フェニル酪酸ナトリウム試料群は、0.15%、0.5%、1.5%のいずれにおいても強力な水晶体弾性改善作用を示し、1.5%では同濃度のEV06よりも強力な水晶体弾性向上作用を示した。
【0107】
[薬理試験3]
4-フェニル酪酸ナトリウムの1日1回、2週間点眼による水晶体の弾性に対する作用を検討した。
【0108】
(被験試料の調製)
1)基剤の調製
0.1%(w/v) ピルビン酸エチル、0.269%(w/v) リン酸水素ナトリウム・一水和物(NaHPOO)、0.433%(w/v) リン酸水素二ナトリウム(NaHPO)、0.2%(w/v) ヒドロキシプロピルメチルセルロース、0.5%(w/v) NaClを含有する基剤を調製した。
【0109】
2)4-フェニル酪酸ナトリウム試料の調製
4-フェニル酪酸ナトリウムに基剤を加えて、3.0%(w/v)の溶液を調製した。調製した3.0%(w/v)溶液を基剤で希釈して1.0%(w/v)溶液を調製した。さらに、調製した1.0%(w/v)溶液を基剤で希釈して0.3%(w/v)溶液を調製した。それぞれ1日分を用事調製した。
【0110】
3)EV06試料の調製
EV06に基剤を加えてソニケートし、1.5%(w/v)溶液を調製した(1日分を用事調製した)。
【0111】
(試験方法)
1)8ヵ月齢のC57BL/6Jマウスに各被験試料を1日1回(QD)あるいは3回(TID)(1回は9:00を目安、3回は9:00、13:00、17:00を目安)、14日間、2.5 μL/eyeずつピペットマンを用いて右眼に点眼した。
2)最終点眼後に、マウスに二酸化炭素を吸引させ安楽殺し、眼球を摘出して、Hank‘s balanced salt solution(HBSS)でリンスした。
3)視神経近くの強膜をカミソリで切り、水晶体を切開部から摘出し、摘出した水晶体はHBSSに浸した。
4)水晶体をスライドガラスの上にのせ、オールインワン蛍光顕微鏡BZ-9000(キーエンス)を用いて水晶体の画像を取り込んだ(画像a)。
5)次に、水晶体の上に1枚のカバーガラス(Corning(登録商標) 22x22mm Square)を載せ、重さにより水晶体の厚さが変動した画像を同様に取り込んだ(画像b)。
6)画像bの水晶体直径から画像aの水晶体直径を引き、水晶体直径の変化量を下記計算式1より算出した。ついで、基剤群と比較した各試料群の水晶体弾性向上量を下記計算式2より算出した。なお、平均値は、基剤群は5例、各4-フェニル酪酸ナトリウム試料群及びEV06試料群は9-10例の平均である。
【0112】
(計算式1)
水晶体直径の変化量=各被験試料の画像bの水晶体直径-各被験試料の画像aの水晶体直径
【0113】
(計算式2)
各試料群の水晶体弾性向上量=各被験試料群の水晶体直径の変化量の平均値-基剤群の水晶体直径の変化量の平均値
【0114】
(結果)
結果を表3に示す。
【表3】

【0115】
表3から明らかなように、4-フェニル酪酸ナトリウム試料群は、1日1回点眼でも0.3%、1.0%、3.0%のいずれにおいても強力な水晶体弾性改善作用を示し、0.3%濃度で1.5% EV06と同程度で、1.0%、3.0%はいずれの濃度においても1.5% EV06より強力な水晶体弾性向上作用を示した。
【0116】
[眼刺激性試験]
(試料調製)
0.1%(w/v) ピルビン酸エチル、0.269%(w/v) リン酸二水素ナトリウム・一水和物(NaHPO・HO)、0.433%(w/v) リン酸水素二ナトリウム(NaHPO)、0.2%(w/v) ヒドロキシプロピルメチルセルロース、0.5%(w/v) NaClを含有する基剤(水溶液)を調製した。
【0117】
(試験方法)
4-フェニル酪酸ナトリウム点眼液の点眼群
上記薬理試験と同様の方法により調製した0.3%(w/v)、1%(w/v)および3%(w/v)4-フェニル酪酸ナトリウム点眼液、並びに、基剤をピペットで日本白色種ウサギの左眼に6時間間隔で2回、2週間反復点眼(50μL/眼/回)し、最終点眼後1時間の前眼部刺激症状観察(McDonald-Shadduck法)および水晶体の観察を実施した。なお、対側眼は無処置とした。
前眼部刺激症状観察は、以下の基準によりスコア化した。
+1:軽度、+2:中等度、+3:重度
【0118】
(試験結果)
試験結果を表4に示す。2週間の反復点眼後、4-フェニル酪酸ナトリウム点眼液点眼眼では前眼部刺激症状観察および水晶体観察において、なんら異常所見は認められなかった。眼局所の病理組織学的検査においても異常所見は認められなかった。
【表4】
【0119】
(考察)
4-フェニル酪酸ナトリウム点眼液の安全性は、高いことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明の薬剤は老視等の眼疾患の治療または予防に有用である。