(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-17
(45)【発行日】2024-04-25
(54)【発明の名称】係止具セット治具および発泡成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 44/34 20060101AFI20240418BHJP
B29C 33/12 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
B29C44/34
B29C33/12
(21)【出願番号】P 2021110460
(22)【出願日】2021-07-02
【審査請求日】2023-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000219705
【氏名又は名称】東海興業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浜口 英作
(72)【発明者】
【氏名】守谷 芳則
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/183619(WO,A1)
【文献】特開2019-072938(JP,A)
【文献】特開2020-116895(JP,A)
【文献】特開2022-148996(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 44/34
B29C 33/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡成形品を成形する成形型に係止具をセットするための係止具セット治具であって、
概ね水平方向(XY方向)に展開すると共に、垂直方向(Z方向)で見て上面側及び下面側を有してなる基板と、
前記基板の上面側に配設され、前記基板に対して垂直方向に移動可能な可動板と、
前記基板の下面側に配設され、それぞれが係止具を保持可能な複数の保持部と、
各保持部から係止具を解放するべく、前記複数の保持部にそれぞれ対応して設けられた複数の押圧部と、
を備え、
前記複数の押圧部の各々は、基端部が前記可動板に固定連結されると共に、先端部が前記基板を貫通して前記保持部に達しており、
前記保持部に係止具が保持された状態で、前記基板に対し前記可動板を接近させて前記複数の押圧部を可動板と共に垂直移動させることで、各押圧部の先端部で各保持部の係止具を直接又は間接的に押圧して各保持部から係止具を解放可能である、
ことを特徴とする係止具セット治具。
【請求項2】
前記保持部には、係止具を一対の弾性保持片間に挟持可能な弾性保持手段が設けられている、ことを特徴とする請求項1に記載の係止具セット治具。
【請求項3】
前記基板と前記可動板との間には、両板を接近可能な状態で離間させておくための付勢手段が設けられている、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の係止具セット治具。
【請求項4】
前記可動板及び前記基板が、透明又は半透明な素材で形成されている、ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の係止具セット治具。
【請求項5】
前記可動板には、使用人が当該可動板に外力を付与するための取っ手が設けられ、当該取っ手は、環状又は多角形状に延設された棒材として形成されている、ことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の係止具セット治具。
【請求項6】
請求項1に記載の係止具セット治具を用いて、係止具を具備した発泡成形品を製造する方法であって、当該方法は、
係止具が係合可能な被係止部を所定位置に有してなる成形型を用意する工程と、
前記係止具セット治具の各保持部に係止具を保持させる工程と、
係止具を保持した前記係止具セット治具を成形型に配置する工程と、
前記係止具セット治具の可動板を基板に接近させることで各保持部の係止具を押圧部で押圧し、各保持部から解放された係止具を前記成形型の被係止部に係止させる工程と、
前記被係止部への係止具の係止完了後、前記成形型から前記係止具セット治具を取り除く工程と、
前記係止具セット治具を取り除いた後に前記成形型に発泡性原料を注入し、係止具を一体的に具備してなる発泡成形品を成形する工程と、
を有することを特徴とする発泡成形品の製造方法。
【請求項7】
前記係止具セット治具を構成する基板の下面側には、前記保持部よりも更に突出した位置決め用のガイド部が設けられており、
係止具を保持した前記係止具セット治具を成形型に配置する工程では、前記成形型の一部に前記係止具セット治具のガイド部を係合させて、成形型に対する係止具セット治具の位置決めを行う、ことを特徴とする請求項6に記載の発泡成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保持した係止具を発泡成形品の成形型にセットするための係止具セット治具と、当該係止具セット治具を用いて、一つ以上の係止具を具備した発泡成形品を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば車両用シートや居室用ソファー等のパッドとして用いられる発泡樹脂成形品(例えばポリウレタンフォーム製品)には、表皮材等を後付け又は外付けするための係止具としてのクリップを発泡樹脂成形時に予め埋設するものが知られている。特許文献1(WO2017/183619号再公表公報)には、そのような表皮材係止用クリップ(5)を発泡樹脂成形品用の成形型(4)にセットするための部品仮保持部材(3)及び部品取付治具が開示されている。
【0003】
特許文献1の部品取付治具は、治具基体21の一方の面に部品仮保持部材3を複数取り付けてなるものである(段落0025,
図1)。部品仮保持部材3の各々には、スプリング付勢されたボールプランジャ16が都合4個(相対向する2個×2組)設けられ、これら4個のボールプランジャでクリップ5を仮保持している(段落0033~0034,
図3~
図7)。そして使用時には、同文献1の段落0035に説明されているように、部品取付治具の治具基体21を成形型4に押し付けてクリップ5の係止部6を、成形型のリブ状突起部7の凹部8に係止し、その後に、治具基体21を成形型4から離間させることで、各部品仮保持部材3を成形型4から離反させる。すると、クリップの係止部6が凹部8に係止したままクリップ5が各部品仮保持部材3(の仮保持部2)から抜去され、クリップ5だけが成形型4に残存して複数クリップの成形型への取付けが完了する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の部品取付治具に代表される従来の係止具セット治具には、一回のセット操作で、当該治具が保持している係止具(クリップ)の全てを成形型に対し正確にセットできるとは限らないという不安定さがあった。特許文献1について具体的に欠点を指摘すると、部品取付治具が備えているそれぞれの部品仮保持部材3や成形型4に形状のばらつきがあったり、押し込む力に局所的な偏りがあったりすると、一部の部品仮保持部材3からクリップ5がうまく外れず、仮保持部2に残ったままとなることがある。また、全ての部品仮保持部材3からクリップ5がうまく外れたとしても、全てのクリップ5が成形型4の所定位置に正しい姿勢でセットされなかったりすることがある。
【0006】
本発明の目的は、一度の操作で複数の係止具を成形型の所定位置に安定的にセットすることができる係止具セット治具を提供することにある。また、この係止具セット治具を用いて、係止具を具備した発泡成形品を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、発泡成形品を成形する成形型に係止具をセットするための係止具セット治具であって、
概ね水平方向(XY方向)に展開すると共に、垂直方向(Z方向)で見て上面側及び下面側を有してなる基板と、
前記基板の上面側に配設され、前記基板に対して垂直方向に移動可能な可動板と、
前記基板の下面側に配設され、それぞれが係止具を保持可能な複数の保持部と、
各保持部から係止具を解放するべく、前記複数の保持部にそれぞれ対応して設けられた複数の押圧部と、
を備え、
前記複数の押圧部の各々は、基端部が前記可動板に固定連結されると共に、先端部が前記基板を貫通して前記保持部に達しており、
前記保持部に係止具が保持された状態で、前記基板に対し前記可動板を接近させて前記複数の押圧部を可動板と共に垂直移動させることで、各押圧部の先端部で各保持部の係止具を直接又は間接的に押圧して各保持部から係止具を解放可能である、ことを特徴とする係止具セット治具である。
【0008】
本発明によれば、次のような効果を奏する。即ち、係止具セット治具を成形型に対向配置した状態で、当該セット治具の基板に対して可動板を接近させることで、この操作(接近動作)に同期して全ての押圧部が一斉に垂直移動する。この垂直移動に伴い、係止具セット治具が具備する全ての保持部において、各保持部に保持された係止具が各押圧部の先端部によって直接又は間接的に押圧され、各保持部から係止具が一斉に解放される。このため、一部の保持部に係止具が取り残されるといったことがなく、係止具セット治具が保持する複数の係止具を一度の操作(接近動作)で成形型の所定位置に対し安定的にセットすることができる。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1に記載の係止具セット治具において、前記保持部には、係止具を一対の弾性保持片間に挟持可能な弾性保持手段が設けられていることを特徴とする。
【0010】
請求項2の発明によれば、請求項1の発明の効果に加えて更に次のような効果を奏する。即ち、各保持部に設けられた弾性保持手段の一対の弾性保持片間に係止具を挟持することで、係止具を保持部に保持できるのみならず、係止具が押圧部によって押圧された際に、保持部(つまり一対の弾性保持片間)から係止具を容易に解放することができる。
【0011】
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載の係止具セット治具において、前記基板と前記可動板との間には、両板を接近可能な状態で離間させておくための付勢手段が設けられていることを特徴とする。
【0012】
請求項3の発明によれば、請求項1又は2の発明の効果に加えて更に次のような効果を奏する。即ち、基板と可動板との間に設けられた付勢手段は、可動板に外力が作用しない限り、両板を離間させて可動板を所定の初期位置に待機させる働きをする。その一方で、可動板に外力を付与して基板に接近させその後に外力を解除した場合には、付勢手段は、接近時に蓄積された反発力(又は復元力)に基づいて可動板を前記初期位置に復帰させ、当該セット治具を次のセット操作に備えてスタンバイさせることができる。
【0013】
請求項4の発明は、請求項1~3のいずれか一項に記載の係止具セット治具において、前記可動板及び前記基板が、透明又は半透明な素材で形成されていることを特徴とする。
【0014】
請求項4の発明によれば、請求項1~3の発明の効果に加えて更に次のような効果を奏する。即ち、可動板及び基板が透明又は半透明な素材で形成されることで、当該セット治具の使用者は、両板を通して成形型の被係止部(係止具を係止させる部位)を目視(透かし見)することができ、成形型に対する当該セット治具の位置決めを正確に行うことが可能になる。
【0015】
請求項5の発明は、請求項1~4のいずれか一項に記載の係止具セット治具において、前記可動板には、使用人が当該可動板に外力を付与するための取っ手が設けられ、当該取っ手は、環状又は多角形状に延設された棒材として形成されていることを特徴とする。
【0016】
請求項5の発明によれば、請求項1~4の発明の効果に加えて更に次のような効果を奏する。即ち、可動板に設けられた取っ手は、環状又は多角形状に延設された棒材として形成されているので、使用人は、その延設された棒材の最適な位置を選択して可動板に外力を付与することができる。それゆえ係止具セット作業の作業効率が向上する。
【0017】
請求項6の発明は、請求項1に記載の係止具セット治具を用いて、係止具を具備した発泡成形品を製造する方法であって、当該方法は、
係止具が係合可能な被係止部を所定位置に有してなる成形型を用意する工程と、
前記係止具セット治具の各保持部に係止具を保持させる工程と、
係止具を保持した前記係止具セット治具を成形型に配置する工程と、
前記係止具セット治具の可動板を基板に接近させることで各保持部の係止具を押圧部で押圧し、各保持部から解放された係止具を前記成形型の被係止部に係止させる工程と、
前記被係止部への係止具の係止完了後、前記成形型から前記係止具セット治具を取り除く工程と、
前記係止具セット治具を取り除いた後に前記成形型に発泡性原料を注入し、係止具を一体的に具備してなる発泡成形品を成形する工程と、
を有することを特徴とする発泡成形品の製造方法である。
【0018】
請求項6の発明によれば、係止具を一体的に具備してなる発泡成形品を効率的に製造することができる。特に、請求項1に記載の係止具セット治具を用い、可動板を基板に接近させ各保持部の係止具を押圧部で同時に押圧することで、各保持部からの係止具の解放と、それに続く成形型の被係止部への係止具の係止を一度の操作で完了することができる。それ故、一度の操作で複数の係止具を成形型の被係止部に対し安定的且つ効率的にセットすることができる。
【0019】
請求項7の発明は、請求項6に記載の発泡成形品の製造方法において、
前記係止具セット治具を構成する基板の下面側には、前記保持部よりも更に突出した位置決め用のガイド部が設けられており、
係止具を保持した前記係止具セット治具を成形型に配置する工程では、前記成形型の一部に前記係止具セット治具のガイド部を係合させて、成形型に対する係止具セット治具の位置決めを行うことを特徴とする。
【0020】
請求項7の発明によれば、請求項6の発明の効果に加えて次のような効果を奏する。即ち、位置決め用のガイド部を介して、成形型に対し係止具セット治具を位置決めすることができる。その結果、成形型を支持基台として係止具セット治具の基板を固定でき、基板に対し可動板を接近させる操作(ひいては押圧部による係止具の押圧操作)を安定して行うことができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の係止具セット治具および発泡成形品の製造方法によれば、一度の操作で複数の係止具を成形型の所定位置に安定的にセットすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】発泡成形品の成形型(下型)を上から見た平面図。
【
図2】
図1に示す成形型のフランジ部の一部拡大斜視図。
【
図3】
図1に示す成形型(クリップ装着後の下型)の平面図。
【
図4】係止具としてのクリップを示し、(A)は上面側の斜視図、(B)は下面側の斜視図、(C)はクリップ装着時の概略断面図。
【
図5】係止具セット治具を上面側から見た全体斜視図。
【
図6】係止具セット治具を下面側から見た全体斜視図。
【
図7】係止具セット治具の可動板のための可動ガイド機構の概略断面図。
【
図8】係止具セット治具が具備する位置決め用ガイド部を示す斜視図。
【
図9】クリップの保持部及びその近傍を示し、(A)は斜視図、(B)はクリップ保持時の斜視図。
【
図11】係止具セット治具を成形型に接近させた状態を示し、(A)は側面図、(B)はP矢印方向からのP矢視図。
【
図12】係止具セット治具を成形型に押し付けた状態を示し、(A)は側面図、(B)はQ矢印方向からのQ矢視図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
なお、本明細書において説明の便宜上、「水平方向」及び「垂直方向」との語を用いるが、これらの方向は、添付の図面に即して発明の理解を容易にするための便宜的な表現に過ぎず、絶対的な意味での方向(即ち地面を基準とした方向)を指すものではない。つまり物理空間を規定する三次元直交座標系(X,Y,Zの三軸からなる)を想定した上で、X軸及びY軸によって規定されるXY平面が延びる任意の方向を指して「水平方向」と呼び、Z軸に沿った方向を指して「垂直方向」と呼ぶものである。従って、「水平方向」とは、垂直方向(Z方向)に直交する任意の方向を意味し、「垂直方向」とは、水平方向(XY方向)に直交する方向を意味する。水平方向(XY方向)及び垂直方向(Z方向)の語は、相手方方向との直交関係によって相互依存的に規定される相対的な方向関係を意味するものである。
【0024】
[発泡成形品の成形型とクリップ]
図1~3は、発泡成形品の成形用金型の一構成要素である下型10(以下、単に「成形型」という)を示す。この成形型10は例えば、車両用シートのウレタンフォーム製クッションパッドの製造を意図したものである。この成形型10には、クッションパッドに溝を形成するための突条部11(以下「フランジ」と呼ぶ)が突設されている。また、そのフランジ11の複数箇所には被係止部12が予め固定されている。この被係止部12は、係止具としてのクリップ15を係止させるための部位又は部材である。被係止部12の両側面にはクリップ15の一部を係合させるための係合凹部13が設けられている(
図2,
図4(C)参照)。被係止部12は、成形型10とは異なる金属からなる(例えば成形型がアルミ、被係止部がステンレス鋼)。なお、
図1はクリップ装着前の成形型10を示し、
図3はそれぞれの被係止部12にクリップ15を装着した後の成形型10を示す。
【0025】
図4は、係止具としてのクリップ15の一典型例を示す。
図4(A)及び(B)に示すように、クリップ15は、合成樹脂製の板状小片として構成されている。クリップ15は概ね板状の基部16を備え、その上面側は概ね平らに形成されている。クリップ15はまた、基部16の下面側に突設された合計4つの係止脚17を備えている。これら4つの係止脚17にあっては、2つの係止脚17が相対向して一対をなしており、基部16の下面側には、かかる一対の係止脚17が二組存在している。各組の相対向する係止脚17は互いに接近離間する方向に弾性変位可能であり、両係止脚17の間に対象物(本例では被係止部12の一部)を挟着可能となっている。
図4(C)に示すように、クリップ15を成形型の被係止部12に装着するとき、各組の対向する係止脚17の先端部が、それぞれ対応する被係止部12の係合凹部13に係合することで、被係止部12に対するクリップ15の装着が完了する。
【0026】
[係止具セット治具]
図5及び
図6は、係止具セット治具20の一実施形態を示す。本実施形態の係止具セット治具20は、二つの板材(基板21及び可動板31)を有している。基板21及び可動板31は、いずれも概ね水平方向(XY方向)に展開すると共に、互いに平行な関係を保ちながら垂直方向(Z方向)に沿って上下に並設されている。それゆえ、基板21及び可動板31にはそれぞれ、垂直方向(Z方向)で見て上面側と下面側とがある。
図5では、基板21の上方(つまり上面側)に可動板31が配設されている。なお、可動板31の中央領域には幾つかの大きな開口部32が形成され(
図5参照)、それらの開口部32に対応して基板21の中央領域にも同様の大きな開口部22が形成されている(
図6参照)。このため、係止具セット治具20を軽量化できる。
【0027】
基板21や可動板31の構成材料は、樹脂(例えばポリカーボネート)でも金属(例えばステンレス鋼)でもよい。構成材料として樹脂を選択した場合には一般に係止具セット治具全体を軽量化することができ、ひいては使用者の労働負担を軽減することができる。他方、構成材料として金属を選択することで、樹脂の場合よりも耐久性を向上させることができる。なお、可動板31及び基板21を透明又は半透明な樹脂で構成することは好ましく、その場合には、使用者は、両板21,31を通して成形型のフランジ11や被係止部12を透かし見みることができ、成形型10に対する係止具セット治具の位置決めを容易に行うことができる。
【0028】
係止具セット治具20には、複数の可動ガイド機構33(本例では当該治具の四隅に一つずつで合計4つ)が設けられている。可動ガイド機構33は、可動板31を基板21に対して垂直方向に移動可能に保持又は作動連結するための機構であり、その概要は
図7に示される。
図7からわかるように、可動ガイド機構33は、垂直方向に延びる案内棒34を備えている。案内棒34の上端付近には鍔部35が形成され、この鍔部35を介して案内棒34が可動板31に固定されている。案内棒34の下端部は、基板21に貫通形成された挿通穴23に挿通されている。案内棒34の周囲にはコイルバネ36が巻回され、コイルバネ36は基板21と可動板31との間に介在している。全ての可動ガイド機構のコイルバネ36は協働して、可動板31を基板21から所定距離だけ離れた上方位置(これを「初期位置」と呼ぶ、
図5,11参照)に浮かせて支持する。よって、可動ガイド機構33のコイルバネ36は、可動板31を基板21から接近可能な状態で離間させておくための付勢手段を構成する。
【0029】
図5に示すように、可動板31の上面側には、使用者が可動板31に外力を付与するための取っ手37が設けられている。取っ手37は、例えば角棒材を略四角形の枠形状に形成したものであり、閉じた四角形状を有することから、使用者は状況に応じて取っ手37上の最適位置を選択して掴み、可動板31を基板21に向けて押すことができる。なお、取っ手37の形状は、四角形の枠形状に限定されるものではなく、環状又はその他の多角形状であってもよい。
【0030】
図6に示すように、基板21の下面側には、複数の保持部40(本例では12個)が設置されている。保持部40は、係止具としてのクリップ15を一時的に保持するための部位であるが、可動板31の操作に呼応して、保持したクリップ15を解放又は離脱させるための内部機構を備えている。保持部40の詳細については後ほど説明する。
【0031】
基板21の下面側には、保持部40の他に、複数の位置決め用ガイド部24(本例では4つ)が設けられている。基板21の下面側において、位置決め用ガイド部24は保持部40よりも更に下方に突出している(
図6参照)。
図8に拡大して示すように、位置決め用ガイド部24は、略直方体のブロック状をなしており、その先端部24aは、成形型10のフランジ11と係合可能な凹形状の係合部24aとして形成されている。位置決め用ガイド部24は、係止具セット治具の基板21を成形型10に対して位置決めするための補助部又は補助装置として機能する(
図11,12参照)。
【0032】
更に
図5,6から見て取れるように、基板21の上面側且つ周辺部には、複数の支持部25が垂直に突設されると共に、これら支持部25の各々には水平方向に延びる位置決めシャフト26が設けられている。即ち
図5には、紙面手前に位置する二つの支持部25から、Y方向に沿い外に向かって延びる2本の位置決めシャフト26と、
図5で見て左右に位置する二つの支持部25から、X方向に沿い外に向かって延びる2本の位置決めシャフト26とが描かれている。これら合計4本の位置決めシャフト26は、係止具セット治具20にクリップ15を保持させる際に、当該係止具セット治具を所定の作業位置に設置し保持するためのサポート台座又はサポート装置(図示せず)に設けられた4つの受承溝に対応させて係止具セット治具20側に設けられた部位(対応構造)である。位置決めシャフト26は例えば鉄製の棒材で構成される。なお、基板21の上記支持部25及び位置決めシャフト26との機械的干渉を避けるために、可動板31の周辺部は部分的に切欠き形成されている。
【0033】
図9,10は、基板21の下面側に配置される保持部40の詳細を示す。特に
図10に示すように、保持部40は、箱型ホルダ41と、押し込み棒42と、二つのコ字型弾性部材43と、取付けベース部材44と、略十字型をした押し込み板45と、弾性体46とを有している。箱型ホルダ41は、
図10で見て下面側(
図9で見て上面側)が開口した有底箱型の部材または囲い材であり、箱型ホルダ41の内部には上記の各部材(42~46)が収容可能となっている。箱型ホルダ41は樹脂(例えばABS樹脂)で構成されている。また、各箱型ホルダ41は、基板21の下面に対して4本のボルト51で固定される。なお、本実施形態においては、押し込み棒42及び押し込み板45によって、各保持部40からクリップ15を解放するべく各保持部40に対応して設けられた押圧部が構成される。
【0034】
図10に示すように、押し込み棒42は、垂直方向に延びる棒状の部材であり、その上端部は単一のボルト52によって可動板31の下面に固定連結され、可動板31と共に一体的に上下動可能となっている。押し込み棒42は基板21および箱型ホルダ41の底壁部(
図10では上壁部となる)を貫通しており、押し込み棒42の下端部は箱型ホルダ41の内部に進入配置される。
【0035】
取付けベース部材44は、二つのコ字型弾性部材43を互いに所定間隔を隔てた状態で箱型ホルダ41内に取付けるための位置決め兼設置用の部材である。コ字型弾性部材43の各々は略「コ」の字型をした金属製の板バネ材であり、各コ字型弾性部材の二つの先端部43aは、それぞれ屈曲形成されて互いに向き合った弾性保持片43aを構成している。各コ字型弾性部材43において相対向する一対の弾性保持片43aは、両者を結ぶ線に沿った方向に弾性変位可能である。なお、コ字型弾性部材43は、クリップ15を一対の弾性保持片43a間に挟持可能な弾性保持手段を構成する。
【0036】
保持部40の組立て及び基板21への取付けに際しては、二つのコ字型弾性部材43を両端に装着してなる取付けベース部材44を箱型ホルダ41内に挿入すると共に、当該取付けベース部材44を箱型ホルダ41の底壁部に接触させる。この接触状態で、基板21及び箱型ホルダ41の底壁部を貫通する前記4本のボルト51の各先端を、取付けベース部材44の4つのボルト穴54にそれぞれ螺着する。すると、箱型ホルダ41及び取付けベース部材44が基板21に対して固定連結されると共に、箱型ホルダ41の底壁部と取付けベース部材44との間に挟まれる形で二つのコ字型弾性部材43が箱型ホルダ41内に固定的に設置される。なお、取付けベース部材44の中心には通し穴44aが形成されており、この通し穴44a内に押し込み棒42の下端部が進入配置される。
【0037】
取付けベース部材44の通し穴44a内に配置された押し込み棒42の下端部に対しては、締結ボルト55によって押し込み板45が締結(固定連結)される。よって、押し込み板45は、押し込み棒42及び可動板31と共に一体的に上下動可能である。なお、箱型ホルダ41の相対向する二つの側壁部には、それぞれガイド縦溝41a(
図10では一つのみ図示)が切り欠き形成されており、これら一対のガイド縦溝41aに対し、十字型をした押し込み板45の両端部45aがそれぞれ係入される。ガイド縦溝41aは、可動板31の上下動に呼応した押し込み板45の垂直方向の動きをガイドする。
【0038】
図10に示すように、押し込み板45の下面側には、図示しない接着手段(例えば両面粘着テープ)によって弾性体46が固着されている。弾性体60は、弾性素材からなる扁平直方体状の部材であり、クリップ15を載置するためのベッドとして機能する。使用可能な弾性素材としては、スポンジゴムや発泡ポリウレタンがあげられる。
【0039】
図9(A)は、組立て及び基板21への取付けが完了した状態の保持部40を示す。この完成状態では、箱型ホルダ41の開口面側(
図9(A)では上面側)には、弾性体46の四つの辺に沿った箱型ホルダ41の四側壁によって囲まれた、クリップ15を保持するための領域(クリップ保持領域)が確保される。このクリップ保持領域では、二つのコ字型弾性部材43に由来する合計4つの弾性保持片43aが弾性体46の露出面(
図9(A)では上面)よりも外に向けて突出しており、弾性体46の四隅付近には、相対向する一対の弾性保持片43aが二組存在している。そして
図9(B)に示すように、保持部40のクリップ保持領域にクリップ15を配置するとき、各組の一対の弾性保持片43a間にクリップ15の板状基部16が挟まれると共に、屈曲形成された各弾性保持片43aと弾性体46の露出面との間にクリップ15が弾性挟着され、その結果、クリップ15が弾性体46に接触した状態で当該保持部40に一時的に保持(仮保持)される。
【0040】
[係止具セット治具20を用いた発泡成形品の製造]
本発明の係止具セット治具20は、クリップ15を具備した発泡成形品の製造に使用される。発泡成形品の製造方法(製造手順)の一例を以下に説明する。なお、事前の準備として、
図1,2に示すような、クリップ15を係合可能な被係止部12をフランジ11の複数箇所に有してなる成形型10を用意する。
【0041】
先ず、係止具セット治具20の各保持部40に係止具としてのクリップ15を保持させる。この保持させる操作又は工程は、使用者(作業者)による手作業で行うこともできるが、手作業ではなく、プログラム制御された作業ロボットによる自動作業によることが好ましい。自動作業又は手作業のいずれによるにせよ、係止具セット治具20は一旦、図示しないサポート台座又はサポート装置に載置される。具体的には、サポート台座又はサポート装置に設けられた4つの受承溝に対し係止具セット治具20の4本の位置決めシャフト26を対応させることで、当該係止具セット治具20を所定の作業位置に設置する。これにより、クリップ取付け作業時における係止具セット治具20の位置が一義的に定まると共に、係止具セット治具20の姿勢が安定する。
【0042】
そして、例えば作業ロボットにより、各保持部40にクリップ15を順次装着する。クリップ15が保持部40のクリップ保持領域に供給されると、クリップの基部16によって相対向する一対の弾性突出片43aがそれぞれの弾性に抗して互いに遠ざかる方向に押し広げられる。続いて、クリップの基部16が弾性体46の露出面に当接すると、前記一対の弾性突出片43aの押し広げが解除されて、クリップ15の基部16が各弾性突出片43aの屈曲形成部と弾性体46との間に挟着され、クリップ15の保持部40への仮保持が完了する(
図9(B)参照)。なお、クリップ15を保持部40内に押し込む際に、クリップ毎に押し込み力がばらついていたり、あるいは、クリップ15の基部16が弾性体46の露出面に対して傾いていたり(即ち非平行であったり)しても、弾性体46が、押し込み力のばらつきやクリップの姿勢の傾きといった好ましくない事態を吸収又は是正して、各クリップ15が適正な状態で各保持部40に保持されることを促進する。
【0043】
次に、クリップ15を保持した係止具セット治具20を成形型10に配置する。具体的には、取っ手37を掴んで係止具セット治具20を前記サポート台座又はサポート装置から取り外すと共に、係止具セット治具20を成形型10の上方に移動させる。そして、係止具セット治具20に設けられた4つの位置決め用ガイド部24を、それらに対応する成形型10のフランジ11にそれぞれ係合させる。すると、係止具セット治具20が成形型10に対して位置決めされると共に、
図11(A),(B)に示すように、各保持部40に保持されたクリップ15が当該クリップの装着対象たる被係止部12と非接触状態で対向するように、係止具セット治具20が成形型10に対して対向配置される。
【0044】
続いて、
図12(A)及び(B)に示すように、係止具セット治具の可動板31を基板21に接近させることで、各保持部40のクリップ15を成形型の被係止部12に係止させる。具体的には、取っ手37を掴んだ使用者は、取っ手37を介して可動板31に押し下げ力を付与し、コイルバネ36の弾性に抗して可動板31を基板21に接近させる。可動板31の下動に伴い、押し込み棒42を介して可動板31と一体連結された押し込み板45も下動する。この下動に伴って押し込み板45は、弾性体46を介してクリップ15の背面(
図11,12では上面)を間接的に押圧し、その結果、4つの弾性保持片43aの弾性保持力に抗して、クリップ15が保持部40から強制的に押し出されて解放又は離脱される。保持部40から解放されたクリップ15は、その後も押し込み板45の押圧力により、夫々の係止脚17の先端が被係止部12に接触し、相対向する係止脚17間の距離を押し広げられながら成形型の被係止部12に押し付けられ、最終的には
図12(A)及び
図4(C)に示すように、クリップ15の各係止脚17の先端が被係止部12の係合凹部13内に係入し、クリップ15が被係止部12に対し係止される。
【0045】
その後、可動板31に対する押し下げ力を解除すると、押し下げ時に蓄力されたコイルバネ36の復元力に基づいて可動板31は初期位置(
図11参照)に復帰又は再配置される。可動板31の初期位置への復帰に伴い、押し込み棒42及び押し込み板45も後退上動して元の位置(初期位置)に戻される。なお、可動板31が初期位置に復帰した時点で、成形型10に移行した個々のクリップ15と、係止具セット治具20との間の連結関係(又は接続関係)が既に途絶えていることは言うまでもない。このように、可動板31の強制的な押し下げ及びその後の押し下げ力の解除を経て、係止具セット治具20の各保持部40に保持されていたクリップ15の全てが、成形型10の被係止部12に対して一度にセットされる。
【0046】
成形型の被係止部12に対するクリップ15のセットが完了したら、係止具セット治具20は成形型10から取り除かれる。具体的には、成形型のフランジ11と位置決め用ガイド部24との係合を解除して、係止具セット治具20が成形型10から前記サポート台座又はサポート装置に移される。
【0047】
成形型10から係止具セット治具20を取り除いた後に、常法に従い成形型10に発泡性原料(例えばポリウレタン)を注入し発泡させることにより、係止具としてのクリップ15を一体的に具備してなる発泡成形品を成形することができる。
【0048】
以上のように本実施形態によれば、係止具セット治具20を用い、可動板31を基板21に接近させ各保持部40のクリップ15を押圧部(42,45)で同時に押圧することで、各保持部40からのクリップ15の解放と、それに続く成形型10の被係止部12へのクリップ15の係止を一度の操作で完了することができる。それ故、一度の操作で複数のクリップ15を成形型10の被係止部12に対し安定的且つ効率的にセットすることができる。従って、複数のクリップ15を一体的に具備してなる発泡成形品を効率的に製造することができる。
【0049】
[変更例]本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、次のように変更して実施することもできる。
例えば、保持部40に弾性体46を設けることは必須ではなく、弾性体46を省略し、押し込み板45でクリップ15の背面を直接的に押圧可能としてもよい。
【0050】
クリップ15の数や位置が異なる様々なパターンの発泡成形品を成形するときは、その発泡成形品でのクリップ配置パターンに合わせて、係止具セット治具20に取付ける保持部40の数や位置を適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0051】
10 成形型
11 成形型の突条部(フランジ)
12 成形型の被係止部
15 クリップ(係止具)
20 係止具セット治具
21 基板
24 位置決め用ガイド部
31 可動板
33 可動ガイド機構
36 コイルバネ(付勢手段)
37 取っ手
40 保持部
42 押し込み棒(押圧部の基端部を構成する)
43 コ字型弾性部材(弾性保持手段)
43a 先端部(弾性保持片)
45 押し込み板(押圧部の先端部を構成する)